(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る超音波照射器は、超音波振動子及び音響伝搬体を有する。超音波振動子は超音波を生成する電気機械変換器である。音響伝搬体は、本体及び軸体を備える。本体は、前方へ膨らんだ前面及び超音波振動子が接合される平坦な後面を有する。軸体は、前面の中央部から前方へ伸長している。前面は、超音波振動子からの超音波を反射する凹型の一次反射面として機能する。本体は、後面に連なる井戸を有する。井戸の底面は、一次反射面からの一次反射波を反射する凹型の二次反射面として機能する。二次反射面からの二次反射波が軸体を伝搬して軸体の先端面から前方へ照射される。
【0013】
上記構成によれば、音響伝搬体により、超音波振動子で生じた超音波を効率的に集束した上で、対象物に照射することが可能となる。音響伝搬体には井戸が形成されており、井戸の底面が二次反射面として機能する。つまり、音響伝搬体の後面から前方へシフトした位置に二次反射面が設けられている。これにより、後面に対して後方に膨らんだ部分を形成する必要がなく、後面を平坦化することができる。すなわち、後面に対して、様々な超音波振動子を接合することが可能となる。換言すれば、安価な一般的な超音波振動子を使用することが可能となる。
【0014】
より詳しくは、前面の内で、中央部(及び平面波が到達しない周縁部)を除く部分が一次反射面として機能する。後面の内で、井戸(及び超音波振動子が接合されていない周縁部)を除く部分が超音波振動を受ける部分である。
【0015】
一次反射面は大きな反射面であり、二次反射面は小さな反射面である。実施形態において、超音波振動子からの超音波は平面波であり、一次反射波は、集束性を有する波であり、二次反射波は平面波である。もっとも、2つの反射面の内の一方又は双方の形態を操作することにより、二次反射波を、集束性を有する波又は拡散性を有する波にすることも可能である。
【0016】
実施形態において、音響伝搬体は中心軸を有する。井戸及び軸体は、中心軸に沿って形成されている(それらの中心軸が相互に一致する)。井戸は第1直径を有し、軸体は第2直径を有する。第2直径は、第1直径以上である。第2直径を第1直径と同一にしてもよい。実施形態において、第1直径は中心軸に沿って一定であり、第2直径も中心軸に沿って一定である。但し、第2直径を中心軸に沿って変化させる態様も考えられる。軸体の一部又は全部を湾曲させてもよい。
【0017】
実施形態において、井戸の底面それ全体が二次反射面を構成する。つまり、第1直径は二次反射面の直径でもある。この構成によれば、超音波振動子からの超音波を伝搬する上での損失を少なくできる。
【0018】
第1直径よりも第2直径が大きい場合、超音波振動子からの超音波の内で、その一部が一次反射面で反射されることなく、軸体へ直接的に伝搬する。その場合、その一部については、集束性を期待できないが、軸体の先端面を大きくできるので、先端面から出た超音波の拡散を抑制できる。すなわち、対象物のより深い位置まで超音波が到達し易くなる。
【0019】
第1直径と第2直径が同じ場合、超音波振動子からの超音波のほぼ全部が一次反射面で反射し、これにより集束性をもった一次反射波が生じ、その一次反射波のほぼ全部が二次反射面で反射する。よって、軸体の先端面から出る超音波の強度(エネルギー密度)を増大できる。
【0020】
第1直径よりも第2直径が小さい場合、後述するように、二次反射波の一部が再び一次反射面で反射し、更にその反射波が二次反射面で反射する、という多重反射が生じる。これにより、超音波伝搬上の損失が大きくなる。よって、第2直径を第2直径以上とすることが望まれる。
【0021】
実施形態において、超音波振動子の中央部が井戸の内部に臨んでいる。超音波振動子の中央部と底面の間の空隙が音響ギャップとして機能する。一般に、超音波振動子の音響インピーダンスと空気層の音響インピーダンスとの顕著な差から、超音波振動子から井戸の内部へ超音波はほとんど進入しない。よって、井戸の直径を必要最小限にすることが望まれる。空隙に対して充填剤を充填してもよいが、それは二次反射面の機能が損なわれないことが前提となる。同様に、一次反射面の外側(外界側)に外装を設けてもよいが、それは一次反射面の機能が損なわれないことが前提となる。
【0022】
実施形態において、一次反射面及び二次反射面はいずれもパラボラ面である。一次反射面の焦点と二次反射面の焦点が原点で一致している。音響伝搬体は、中心軸と、中心軸に直交し且つ原点を含む基準面と、を有する。二次反射面の周縁が基準面に接し又は近接している。上記構成によれば、超音波振動子からの超音波が平面波であることを前提として、二次反射波を平面波にすることができる。
【0023】
実験によれば、設計通りに、軸体の先端面から十分なパワーを有する超音波が照射されることが確認できている。音響伝搬体が単一の部材で構成される場合、組立時における2つの反射面の位置決め誤差が生じないという利点を得られる。また、超音波伝搬上の損失を非常に小さくできるという利点を得られる。
【0024】
実施形態において、二次反射面の周縁が基準面に接している。本体は、基準面から一次反射面までの膨らみ部分と、基準面から後面までの円盤状のオフセット部分と、を含む。オフセット部分は、井戸に相当する厚みを有する部分である。すなわち、オフセット部分は、井戸を形成するために、後面を後方へシフトさせたために生じた部分である。超音波伝搬上の損失を幾分でも小さくするためには、音響ギャップを確実に形成できる限りにおいて、オフセット部分を薄く形成するのが望ましい。
【0025】
実施形態において、後面の直径に対する超音波振動子の直径の比率が0.7から0.95の範囲内にある。後面の直径(実施形態において、後面の直径は一次反射面の直径である)と超音波振動子の直径とを一致させた場合、一次反射面の周縁部で反射した一次反射波は、音響伝搬媒体の中心軸に対して直交する方向又はそれに近い方向に出る。そのような一次反射波が二次反射波に向かうことになるが、一次反射波の内の少なからずの部分が二次反射面に到達せずあるいは二次反射面のエッジで散乱してしまう。一方、超音波振動子の直径をできるだけ大きくした方が超音波の強度を高められる。それらを考慮した場合、上記比率を0.7から0.9の範囲内にすることが望まれる。後面の周縁部にまで超音波振動子を及ばないように構成することにより、その周縁部に対してケース前端部を連結することが容易となる。超音波振動子の直径は実際に超音波振動を生じる部分の直径である。
【0026】
実施形態に係る超音波照射器は、後面の周縁部に連結されたケースを含む。ケースの外側側面がグリップ部分として機能する。ケースからケーブルが引き出されている。実施形態に係る超音波照射器は、手で保持される可搬型の超音波照射器である。
【0027】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る超音波照射装置が示されている。超音波照射装置は、動物に投与された薬剤の組織内の浸潤を促進し、あるいは、その薬剤の作用を活性化させるために使用される。図示された超音波照射装置が他の用途に利用されてもよい。例えば、非生物に対して超音波が照射されてもよい。人間の診断又は治療において超音波照射装置が利用されてもよい。
【0028】
図1においては、Z方向とそれに直交するX方向が定義されている。Z方向及びX方向に直交するY方向についてはその図示が省略されている。
図1において、Z方向は垂直方向であり、X方向は第1水平方向である。Y方向は第2水平方向である。
【0029】
図1において、超音波照射装置10は、超音波照射器12及び信号発生器14を有する。信号発生器14は、送信駆動信号を生成する電子回路である。超音波照射器12において生成される超音波は、例えば、連続波又はバースト波である。超音波の送信周波数(中心周波数)は、例えば1MHzである。その送信周波数を500kHzとしてもよいし、2MHzとしてもよい。本願明細書にあげる数値はいずれも例示である。超音波照射の用途に応じて送信周波数が定められる。超音波照射器12からケーブル16が引き出されており、そのケーブル16が信号発生器14に接続されている。
【0030】
超音波照射器12は、ユーザーの手により保持される可搬型のデバイスである。超音波照射器12は、グリップ部18及び音響伝搬体20により構成される。グリップ部18はケース24により構成される。ケース24は、円筒形を有する中空の部材である。ケース24は樹脂等により構成される。ケース24の外側側面がグリップとして機能する。ケース24の前端部分が音響伝搬体20に連結されている。その連結に当たっては接着剤等を利用し得る。
【0031】
音響伝搬体20は、単一の部材で構成され、その部材は例えばアルミニウムである。ジェラルミン等で音響伝搬体20を構成してもよい。音響伝搬体20は平坦な後面34を有し、その後面34に超音波振動子26の前面が接合されている。超音波振動子26は例えばPZTからなる単振動子である。超音波振動子26の前面及び後面には一対の電極が設けられているが、その図示は省略されている。一対の電極間に電圧が印加される。超音波振動子26の後面に、後方へ出た超音波を吸収するバッキング層を設けてもよい。
【0032】
音響伝搬体20は、超音波振動子26の音響インピーダンスと生体44の音響インピーダンスの間の音響インピーダンスを有する材料で構成される。上記アルミニウムの音響インピーダンスは、約16×10
6kgs
−1m
−2である。超音波振動子がPZTで構成される場合、PZTの音響インピーダンスは、約30×10
6kgs
−1m
−2である。生体の音響インピーダンスは、約1.6×10
6kgs
−1m
−2である。
【0033】
音響伝搬体20は、本体30及び軸体32により構成される。本体30は、前方(Z方向)に膨らんだ前面37を有している。前面37の中央部から前方へ軸体32が伸長している。音響的に見て、前面37における中央部以外の部分が、凹型反射面として機能し、具体的には、パラボラ面としての一次反射面38を構成している。
【0034】
本体30は後面34を有しており、それは平面である。本体30には、後面34に連なる井戸36が形成されている。井戸36は、湾曲した底面を有する。音響的に見て、底面は、凹型反射面として機能し、具体的には、パラボラ面としての二次反射面40を構成している。
【0035】
超音波振動子26から平面波が前方へ放射され、その平面波が一次反射面38で反射して、集束性をもった一次反射波が生じる。一次反射波は、二次反射面40で反射し、二次反射波としての平面波が生じる。その平面波が本体30から軸体32へ進行する。
【0036】
軸体32は、円柱状の形態を有する。軸体32の先端面42は生体44の表面に当接される。その状態で、先端面42から生体44の内部へ超音波48が照射される。なお、軸体32を先細の形状としてもよく、その一部又は全部を湾曲させてもよい。
【0037】
図2には、音響伝搬体20の後面34が示されている。後面34は円形である。後面34に対して、中央開口部を有しない円盤状の超音波振動子26が貼付される。後面34の中央部に井戸36が形成されている。その井戸36の底面が二次反射面40として機能する。例えば、切削により、井戸36を容易に作成し得る。後面34の周縁部にはケースの先端部が連結される。
【0038】
実施形態に係る音響伝搬体によれば、超音波振動子からの平面波を集束して強度が増大された平面波を生成し、それを組織に照射することが可能である。また、音響伝搬体の後面が平坦面を構成しているので(後方へ膨らみ出た部分が存在していないので)、超音波振動子に中央開口を形成する必要がなく、後面に対して一般的な超音波振動子を取り付けることができる。これによりコストダウンを図れる。
【0039】
図3には、音響伝搬体の断面が示されている。ここでは、原点Oを基準として、x軸及びy軸が定義されている。y軸は音響伝搬体の中心軸に一致している。井戸36の中心軸及び軸体32の中心軸も、y軸に一致している。
【0040】
本体30は、上述したように、一次反射面38及び二次反射面40を有する。それらはいずれもパラボラ面であり、一次反射面38の焦点は原点Oに一致し、二次反射面の焦点も原点Oに一致している。
図3においては、y軸に直交し且つ原点Oを含む面として基準面50が定義されている。基準面50は2つのパラボラ面の直径を定義する面である。
【0041】
本体30において、基準面50よりも前側の部分が膨らみ部分31Aであり、基準面50よりも後側の部分がオフセット部分31Bである。一次反射面38は基準面50よりも前側に膨らんでおり、一次反射面38の周縁は基準面50に接している。二次反射面40は基準面50よりも後側に膨らんでおり、二次反射面40の周縁は基準面50に接している。基準面50からオフセット距離αだけ後退した位置に後面34が設けられている。
【0042】
一次反射面38及び二次反射面40がパラボラ面である場合、超音波振動子から放射された平面波は次のように伝搬する。すなわち、超音波振動子から放射された平面波は、一次反射面38で反射し、一次反射波となる。一次反射波は原点Oで集束する。原点Oを通過した一次反射波は、若干拡散した上で、二次反射面40で反射し、これにより平面波が生じる。この平面波の強度は、超音波振動子から放射された平面波の強度よりも大きい。
【0043】
図3において、後面34の直径(本体30の直径でもある)がaで示され、井戸36の直径(二次反射面40の直径でもある)がbで示され、軸体32の直径がcで示されている。超音波振動子26の直径がdで示されている。軸体32の全長がLで示されている。
【0044】
図4において、井戸の全長がオフセット距離αに相当する。基準面50から二次反射面40の頂点までの距離がα1で示され、頂点から後面34までの距離がα2で示されている。二次反射面40と超音波振動子26の前面(つまり後面34)との間には空隙が存在し、それは音響ギャップとして機能する。換言すれば、超音波振動子26の中央部は井戸36の内部に臨んでおり、超音波振動子26の中央部から井戸の内部への超音波の進入はほぼ無視できる。
【0045】
図4においては、発生点A、基準面50上の通過点B、一次反射点R1、原点O、二次反射点R2、基準面50上の通過点C、及び、照射点Dが示されている。
図3及び
図4において、発生点Aから通過点Bまでの経路の長さがl0で示されている。通過点Bから一次反射点R1を経て原点Oに至る経路の長さがl1で示されている。原点Oから二次反射点R2を経て、通過点Cに至る経路の長さがl2で示されている。通過点Cから照射点Dまでの経路の長さがl3で示されている。
【0046】
以下、
図3及び
図4に基づき、超音波振動子の前面から軸体の先端面までの音響伝搬経路(全経路)の経路長(全経路長)について検討する。全経路長は、超音波の波長λの自然数倍に対してλ/4を加えた長さとされる。また、一次反射面38の直径aの逆数と二次反射面の直径bの逆数の和が超音波の波長λの自然数倍とされる。そのような条件を満たすように各パラメータが設定される。以下、具体的に説明する。
【0047】
パラボラ面である一次反射面38は、xy座標系において、以下の(1)式により定義される。同じくパラボラ面である二次反射面40は、xy座標系において、以下の(2)式により定義される。
【数1】
【数2】
【0048】
一次反射面38及び二次反射面40は、いずれも、xy座標系上の放物線をy軸回りに回転させることにより得られる三次元形状を有する。
【0049】
全経路長Lrは以下の(3)式により表せる。
【数3】
【0050】
一方、放物線の性質から以下の(4)式及び(5)式が導ける。
【数4】
【数5】
【0051】
また、放物線の性質から、実施形態に係る音響伝搬体については、以下の(6)式及び(7)式が成立する。
【数6】
【数7】
【0052】
超音波振動子から出た超音波は、上記全経路を伝搬し、軸体の先端面に到達する。到達した超音波の一部が生体へ照射され、残りの一部は上記全経路を逆方向に伝搬する。上記全経路を順方向に進行する波の位相と上記全経路を逆方向に進行する波の位相を合わせる必要がある。2つの位相がずれていると、順方向に伝搬する波の強度が弱められてしまうからである。2つの位相を合わせるためには、全経路長Lrが以下の条件を満たす必要がある。
【数8】
ただし、nは0又は自然数である。
【0053】
すなわち、以下を満たすように音響伝搬体を設計する必要がある。
【数9】
【0054】
上記(9)式が満たされるように、l0(つまりα)、a,b,Lを定めることになる。例えば、aは36mmであり、bは例えば6mmである。図示の例ではbはcに一致している。dは例えば28mmである。l0は例えば5mmである。
【0055】
なお、aよりもdが小さいため、後面34においては、超音波振動子26が接合されている接合部分とその周囲の環状の露出部分(周縁部分)とが生じる。本体30において露出部分に相当する部分の一部又は全部を切り取ることも可能である。その場合、一次反射面38の水平方向のサイズが小さくなり、一次反射面38の周縁が基準面50から離れ、その周縁は基準面50の近傍に位置する。一方、aよりもdが小さい分だけ、二次反射面40の直径つまり井戸36の直径を小さくしてもよい。その場合、二次反射面40の周縁が基準面50から離れ、その周縁は基準面50の近傍に位置する。図示の構成例では、井戸36の直径bは中心軸(y軸)に沿って一定である。軸体32の直径cも中心軸に沿って一定である。
【0056】
上記のb及びcの関係に着目すると、b=c、b<c及びb>cの3つの態様が考えられ、それらに対応して、第1タイプに係る音響伝搬体、第2タイプに係る音響伝搬体、及び、第3タイプに係る音響伝搬体を想起できる。なお、軸体32が先細形態を有する場合、軸体32における本体30側端部の直径を上記直径cとみなせばよい。
【0057】
図5には、第1タイプに係る音響伝搬体20が示されている。音響伝搬体20は、b=cの条件を満たしており、それは
図1〜4に示した音響伝搬体に他ならない。本体30内において、超音波振動子26から出た平面波のほぼ全部が一次反射面38で反射し、これにより生じた一次反射波のほぼ全部が二次反射面40で反射し、これにより平面波が生じる。その平面波が軸体32を伝搬する(符号52を詐参照)。
【0058】
図6には、第2タイプに係る音響伝搬体20Aが示されている。音響伝搬体20Aは、b<cの条件を満たしている。超音波振動子26から出た平面波の内で一部は、符号52で示されているように、本体30A内において、一次反射面38A及び二次反射面40Aで順次反射し、それにより生じた平面波が軸体32Aを伝搬する。超音波振動子26から出た平面波の内で残りの一部は、符号54で示されているように、反射することなく、直接的に軸体32A内を伝搬する。第2タイプに係る音響伝搬体20Aを採用した場合、第1タイプに係る音響伝搬体に比べて、超音波の集束性は低下するものの、軸体32Aの先端面のサイズを大きくできる。これにより、生体内での超音波の拡散を抑制して、生体内のより深い部分まで、集束された超音波を照射し得る。
【0059】
図7には、第3タイプに係る音響伝搬体20Bが示されている。音響伝搬体20Bは、b>cの条件を満たしている。超音波振動子26から出た平面波の内で一部は、符号56で示されているように、本体30B内において、一次反射面38B及び二次反射面40Bで反射し、それにより生じた平面波が軸体32Bを伝搬する。超音波振動子26から出た平面波の内で残りの一部は、本体30B内において、一次反射面38B及び二次反射面40Bで反射した上で、一次反射面38B及び二次反射面40Bで再び反射し、それにより生じた反射波が、軸体32Bに進入する。第3タイプに係る音響伝搬体20Bにおいては、多重反射による超音波伝搬上の損失が大きいという点を指摘できる。
【0060】
上記の第2タイプに係る音響伝搬体の設計に際しては、第1タイプに係る音響伝搬体に求められる条件に加えて、以下の(10)に示す条件を満たす必要がある。以下のLdは、
図6において符号54で示したように、超音波振動子からの平面波が直接的に軸体に進入する場合における全経路長を示している。
【数10】
但し、mは正の整数であり、Ld<Lrであるので、m<nである。
【0061】
Ldは次の(11)式で表せる。
【数11】
【0062】
つまり、以下の(12)式を導ける。
【数12】
【0063】
上記(6)式より、以下の(13)式を導ける。
【数13】
【0064】
第2タイプにおいては、(8)式と(10)式を同時に満たす必要がある。(8)式については上記(9)式が既に導かれている。そこで、(9)式から(13)式を引いてl0及びLを消去し、式を整理すると、以下の(15)式が導ける。
【数14】
【0065】
但し、kは以下の(15)式で定義される。
【数15】
【0066】
以上のように、第2タイプに係る音響伝搬体の設計に際しては、(9)式及び(14)式を同時に満たすように、l0、a,b,Lを決めることになる。
【0067】
なお、実際上有効となる音響伝搬体は、第1タイプに係る超音波伝搬体及び第2タイプに係る超音波伝搬体であると考えられる。例えば、超音波振動子のサイズに対して生体に接触する部分のサイズが比較的に小さい場合には第1タイプを選択し、超音波振動子のサイズに対して生体に接触する部分のサイズが比較的に大きい場合には第2タイプを選択してもよい。
【0068】
図8には、第1変形例が示されている。音響伝搬体20Cにおいて、一次反射面38Cはパラボラ面である。二次反射面40Cは、パラボラ面に対して超音波集束作用をもったカーブ(凹面形態)を加えた形態を有する。その結果、符号60で示されているように、集束性を有する二次反射波が生成されている。第1変形例において、軸体の形態を先細としてもよい。
【0069】
図9には、第2変形例が示されている。音響伝搬体20Dにおいて、二次反射面40Dはパラボラ面である。一次反射面38Dは、パラボラ面に対して拡散作用をもったカーブ(凸面形態)を加えた形態を有する。符号62はパラボラ面を示している。符号64で示すように、超音波振動子から出た平面波は一次反射面38Dで反射して、集束性を有する一次反射波が生じる。その一次反射波は、一点には集束しないまま、二次反射面40Dに到達する。その結果、二次反射面40Dでの反射により、符号66で示されているように、集束性を有する二次反射波が生じている(符号66を参照)。なお、軸体の先端面を凹面にすることも考えられる。第2変形例においても、一次反射波の中心軸は原点Oを通過する。
【0070】
図10には、第3変形例が示されている。軸体32の先端面には整合層68が設けられている。整合層68の音響インピーダンスは、音響伝搬体の音響インピーダンスと生体の音響インピーダンスの間の音響インピーダンスとされる。整合層68の厚みtは、超音波の波長λの1/4とするのが望ましい。
【0071】
図3等に示したaとdの関係について検討する。aに対してdを小さくし過ぎると、音響的な強度を高められない。aに対してdを同一にし又は近接させると、超音波振動子の端部から出た超音波の伝搬経路に着目すると、各反射面に対する入射方向が反射面の近付き、反射効率が低下する。つまり、反射時の損失が増大する。二次反射面のエッジにおける超音波の散乱等の問題も生じ易くなる。それらを総合すると、d/aを0.7から0.95の範囲内に設定することが望まれる。
【0072】
上記実施形態に係る音響伝搬体を利用して超音波を受信することも可能である。すなわち、対象物からの超音波(例えば反射波)を、音響伝搬体を介して、超音波振動子で受信することも可能である。その場合、超音波照射器に代わる機器として、超音波受信器、又は、超音波送受信器が構成される。
【解決手段】超音波照射装置10において、音響伝搬体20は、本体30及び軸体32により構成される。本体の前面37が一次反射面38として機能する。本体30には、井戸36が形成されている。井戸36の底面40は、二次反射面として機能する。後面34は平坦面であり、後面34に対して超音波振動子26が接合されている。