【文献】
MAKSHINA et al.,Review of old chemistry and new catalytic advances in the on-purpose synthesis of butadiene,Chem. Soc. Rev.,2014年,vol.43,pp.7917-7953
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「水素をエタノール化装置に返送する」とは、エタノール化装置の前段において、CO
2+H
2⇔CO+H
2Oで表される平衡反応によって返送された水素が消費されない部分に返送する態様も含むものとする。例えば、ガス調製装置とエタノール化装置に接続された配管における、混合ガスの温度が、前記平衡反応が一酸化炭素寄りである温度(例えば1000〜1200℃)よりも低い温度(例えば200〜800℃)になっている部分に水素を返送する態様も含まれる。
「水素をエタノール化工程に返送する」とは、エタノール化工程の前段における、混合ガスの温度が、前記平衡反応が一酸化炭素寄りである温度よりも低くなっている段階(例えば混合ガスの温度が200〜800℃の段階)に水素を返送する態様も含むものとする。
「原料」とは、加熱することで水素と一酸化炭素を含む混合ガスが得られる有機物であり、バイオマス、有機性廃棄物等の原料固形物と、天然ガス、廃ガス等の原料ガスの両方を含む。
「エタノール化工程に供給する水素と一酸化炭素のH
2/CO比」とは、ガス調製工程からエタノール工程に送られる混合ガスと、返送工程によってエタノール化工程に返送される水素を合わせた状態における水素と一酸化炭素の比率を意味する。「エタノール化工程に供給する水素と一酸化炭素のH
2/CO
2比」についても同様である。
「CO転化率」とは、混合ガス中の一酸化炭素のモル数のうち、反応で消費された一酸化炭素のモル数が占める百分率を意味する。
「選択率」とは、混合ガス中の消費された一酸化炭素のモル数のうち、特定の化合物へ変換された一酸化炭素のモル数が占める百分率を意味する。
【0014】
[第1実施形態]
(ブタジエン製造システム)
本発明のブタジエン製造システムは、原料を加熱して水素と一酸化炭素とを含む混合ガスを調製し、該混合ガスからエタノールを得た後、該エタノールからブタジエンを製造するためのシステムである。以下、本発明のブタジエン製造システムの一例を示して説明する。
【0015】
本実施形態のブタジエン製造システム1は、
図1に示すように、ガス調製装置10と、ガス調製装置10の後段に設けられたエタノール化装置12と、エタノール化装置12の後段に設けられた精製装置14と、精製装置14の後段に設けられたブタジエン化装置16と、ブタジエン化装置16からエタノール化装置12に水素を返送する返送手段18とを備えている。ガス調製装置10は、ガス化炉20と、ガス化炉20の後段に設けられた改質炉22とを備えている。ブタジエン化装置16は、反応管24と、反応管24の後段に設けられた気液分離器26とを備えている。
【0016】
ガス化炉20と改質炉22とは配管41で接続されている。改質炉22とエタノール化装置12とは配管42で接続されている。エタノール化装置12と精製装置14とは配管43で接続されている。精製装置14には排出管44が接続されている。精製装置14とブタジエン化装置16の反応管24とは配管45で接続されている。反応管24と気液分離器26とは配管46で接続されている。気液分離器26には、配管47が接続されている。
この例では、エタノール化装置12とブタジエン化装置16の気液分離器26とが、返送手段18が備える配管で接続されている。
【0017】
ガス調製装置10は、原料を加熱して、任意の比率で水素と一酸化炭素を含む混合ガスを調製する装置であって、ガス化炉20と改質炉22とを備える。
ガス化炉20は、バイオマス、有機性廃棄物(廃プラスチック、廃紙、廃衣料等。)、石炭等の原料固形物を熱分解させて、水素と一酸化炭素を含む混合ガスを発生させる炉である。ガス化炉20としては、例えば、バイオマスや有機性廃棄物を酸素の存在下で一部を燃焼することにより熱分解して、混合ガスを生成できるものを採用できる。ガス化炉としては、流動床式ガス化方式のガス化炉が好ましい。流動床式ガス化方式のガス化炉は、原料の形態の影響が少なく、補助燃料の使用量が少ない点で好ましい。
【0018】
改質炉22は、混合ガス中の炭化水素を水と反応させることにより水素と一酸化炭素に改質する炉である。改質炉22においては、ガス化炉20で発生した混合ガス中の一酸化炭素濃度が高められ、水素と一酸化炭素の比率が所望の比率に調整される。例えば、改質炉22において水素と一酸化炭素のH
2/CO比を1/2〜4/1とする。
改質炉22としては、例えば、水蒸気の存在下においてガス化炉20における熱分解のための温度よりも高い温度で混合ガスを加熱できる筒状体からなるものを採用できる。
【0019】
配管41は、混合ガスに対して不活性な材料からなるものが好ましく、例えば、ステンレス製の配管等が挙げられる。
【0020】
ガス調製装置10では、ガス化炉20において原料固形物が熱分解されることで水素と一酸化炭素を含む混合ガスが発生し、該混合ガス中の炭化水素が改質炉22において水と反応することにより、一酸化炭素濃度がより高い混合ガスへと改質される。
【0021】
配管42は、配管41と同様に、混合ガスに対して不活性な材料からなるものが好ましく、例えば、ステンレス製の配管等が挙げられる。
【0022】
配管42には、ガス精製機が設けられることが好ましい。ガス精製機が設けられることで、混合ガス中のタール分、硫黄分、窒素分、塩素分、水分等の不純物が除去される。
ガス精製機としては、例えば、湿式法、乾式法等、当該技術分野で知られる各方式のガス精製機が採用される。湿式法としては、水酸化ナトリウム法、アンモニア吸収法、石灰・石膏法、水酸化マグネシウム法等が挙げられる。乾式法としては、圧力スイング吸着(PSA)法等の吸着法、電子ビーム法等が挙げられる。
【0023】
配管42には、混合ガスの温度を降下させる冷却機が設けられてもよい。冷却機を設けることで、エタノール化装置12に供給する混合ガスの温度を充分に降下させることが容易になる。また、冷却機で混合ガスを急冷することにより平衡移動を抑制し、一酸化炭素を高濃度で維持するようにしてもよい。
【0024】
エタノール化装置12は、第1の触媒が充填されて反応床12aが形成されたものである。
エタノール化装置12は、混合ガスやエタノールに対して不活性な材料からなるものが好ましい。また、エタノール化装置12は、100〜500℃程度の加熱、又は10MPa程度迄の加圧に耐え得る形状のものが好ましい。エタノール化装置12としては、例えば、ステンレス製の略円筒形の部材が挙げられる。
【0025】
反応床12aは、固定床、移動床、流動床等のいずれでもよい。
エタノール化装置12には、混合ガスはガスの状態のままで供給される。
【0026】
第1の触媒は、水素と一酸化炭素からエタノールを合成するための触媒であり、公知の触媒を採用でき、金属触媒が好ましい。金属触媒に用いる触媒金属としては、水素化活性金属、又は水素化活性金属と後述する助活性金属との集合物が挙げられる。
金属触媒を用いて水素と一酸化炭素との混合ガスからエタノールを合成する場合は、通常、下式(1)〜(5)の反応により、エタノールに加えてアセトアルデヒドや酢酸を含む一次生成物が得られる。
2H
2+2CO→CH
3COOH ・・・(1)
3H
2+2CO→CH
3CHO+H
2O ・・・(2)
2H
2+CH
3COOH→C
2H
5OH+H
2O ・・・(3)
H
2+CH
3CHO→C
2H
5OH ・・・(4)
4H
2+2CO→C
2H
5OH+H
2O ・・・(5)
【0027】
水素化活性金属としては、従来、混合ガスからエタノールを合成できる金属として知られているものであればよく、例えば、リチウム、ナトリウム等のアルカリ金属;マンガン、レニウム等、周期表の第7族に属する元素;ルテニウム等、周期表の第8族に属する元素;コバルト、ロジウム等、周期表の第9族に属する元素;ニッケル、パラジウム等、周期表の第10族に属する元素等が挙げられる。
これらの水素化活性金属は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。水素化活性金属としては、CO転化率のさらなる向上、エタノールの選択率が向上する点から、ロジウム、マンガン及びリチウムを組み合わせたものや、ルテニウム、レニウム及びナトリウムを組み合わせたもの等、ロジウム又はルテニウムとアルカリ金属とその他の水素化活性金属とを組み合わせたものが好ましい。
【0028】
助活性金属としては、例えば、チタン、マグネシウム、バナジウム等が挙げられる。水素化活性金属に加えて助活性金属が担持されていることで、CO転化率やエタノール及びアセトアルデヒドの選択率をより高めることができる。
【0029】
金属触媒としては、下式(m1)で表される組成のロジウム系触媒が好ましい。
aRh・bMn・cMe
1・dMe
2 ・・・(m1)
式(m1)中、Me
1はアルカリ金属であり、Me
2は助活性金属であり、a、b、c及びdはモル分率であり、a+b+c+d=1である。
【0030】
式(m1)中のaは、CO転化率を高めやすい点から、0.053〜0.98が好ましく、0.24〜0.8がより好ましく、0.32〜0.67がさらに好ましい。
bは、CO転化率を高めやすい点から、0.0006〜0.67が好ましく、0.033〜0.57がより好ましく、0.089〜0.44がさらに好ましい。
cは、CO転化率を高めやすい点から、0.00056〜0.51が好ましく、0.026〜0.42がより好ましく、0.075〜0.33がさらに好ましい。
dは、0(すなわち、助活性金属を含有しない)でもよく、0超(すなわち、助活性金属を含有する)でもよい。助活性金属を含有する場合、dは、CO転化率を高めやすい点から、0.0026〜0.94が好ましく、0.02〜0.48がより好ましく、0.039〜0.25がさらに好ましい。
【0031】
金属触媒としては、ロジウム系触媒と、ロジウム系触媒以外の他の金属触媒を併用してもよい。他の金属触媒としては、銅単独又は銅と銅以外の遷移金属とが担体に担持された触媒(以下、銅系触媒ということがある)が挙げられる。銅系触媒としては、下記(m2)式で表されるものが好ましい。
eCu・fMe
3 ・・・(m2)
ただし、式(m2)中、Me
3は、銅以外の遷移金属であり、e及びfはモル分率であり、e+f=1である。
【0032】
式(m2)中、Me
3としては、亜鉛、クロムが好ましい。Me
3は、1種であってもよく、2種以上が組み合わされていてもよい。
eは、エタノールの収率が高くなる点から、0.5〜0.9が好ましく、0.5〜0.7がより好ましい。
fは、エタノールの収率が高くなる点から、0.1〜0.5が好ましく、0.3〜0.5がより好ましい。
【0033】
金属触媒として、ロジウム系触媒と銅系触媒とを併用する場合、ロジウム系触媒は銅を含まず、銅系触媒はロジウムを含まないことが好ましい。
【0034】
金属触媒としては、多孔質担体に触媒金属が担持された、いわゆる担持触媒が好ましい。担持触媒であれば、生成物中のエタノールとアセトアルデヒドとの比率を制御しやすい。
多孔質担体の材質は、特に限定されず、例えば、シリカ、ジルコニア、チタニア、マグネシア等が挙げられる。なかでも、比表面積や細孔直径が異なる種々の製品が市場で調達できることから、シリカが好ましい。
【0035】
多孔質担体の大きさは、特に限定されず、例えば、シリカの多孔質担体であれば、粒子径0.5〜5000μmのものが好ましい。多孔質担体の粒子径は、篩分けにより調節される。加えて、多孔質担体は、粒子径分布ができるだけ狭いものが好ましい。
【0036】
多孔質担体における細孔容積の合計(全細孔容積)は、特に限定されず、0.01〜1.0mL/gが好ましく、0.1〜0.8mL/gがより好ましい。全細孔容積が上記下限値以上であれば、多孔質担体の比表面積が充分に大きく、金属触媒の担持量が充分となって、CO転化率が低下することを抑制しやすい。全細孔容積が上記上限値以下であれば、混合ガスの拡散速度が速くなりすぎず、触媒と混合ガスとの接触時間が充分となるため、エタノールの選択率が低くなることを抑制しやすい。
全細孔容積は、水滴定法により測定される値である。水滴定法とは、多孔質担体の表面に水分子を吸着させ、分子の凝縮から細孔分布を測定する方法である。
【0037】
多孔質担体の平均細孔直径は、特に限定されず、0.1〜8nmが好ましく、3〜6nmがより好ましい。平均細孔直径が上記下限値以上であれば、金属触媒の担持量が充分となって、CO転化率が低下することを抑制しやすい。平均細孔直径が上記上限値以下であれば、混合ガスの拡散速度が速くなりすぎず、触媒と混合ガスとの接触時間が充分となるため、エタノールの選択率が低くなることを抑制しやすい。
平均細孔直径は、以下の手法で測定される値である。平均細孔直径が0.1nm以上10nm未満の場合、平均細孔直径は、全細孔容積とBET比表面積とから算出される。平均細孔直径が10nm以上の場合、平均細孔直径は、水銀圧入法ポロシメーターにより測定される。
ここで、全細孔容積は、水滴定法により測定される値であり、BET比表面積は、窒素を吸着ガスとし、その吸着量とその時の圧力から算出される値である。
水銀圧入法は、水銀を加圧して多孔質担体の細孔に圧入させ、その圧力と圧入された水銀量から平均細孔直径を算出するものである。
【0038】
多孔質担体の比表面積は、特に限定されず、1〜1000m
2/gが好ましく、10〜800m
2/gがより好ましい。比表面積が上記下限値以上であれば、触媒金属の担持量が充分となって、CO転化率がより高まる。比表面積が上記上限値以下であれば、混合ガスの拡散速度がより適切になって、エタノールの選択率がより高まる。
比表面積は、窒素を吸着ガスとし、BET式ガス吸着法により測定されるBET比表面積である。
【0039】
多孔質担体における全細孔容積と比表面積との積は、1〜1000mL・m
2/g
2が好ましく、100〜500mL・m
2/g
2がより好ましい。上記下限値以上であれば、触媒金属の担持量が充分となって、CO転化率がより高まる。上記上限値以下であれば、混合ガスの拡散速度がより適切になって、エタノールの選択率がより高まる。
【0040】
金属触媒における水素化活性金属や助活性金属の担持状態は、特に限定されず、例えば、粉体状の金属が多孔質担体に担持された状態でもよく、金属元素の形態で多孔質担体に担持された状態でもよい。なかでも、金属元素の形態で多孔質担体に担持された状態が好ましい。金属元素の形態で多孔質担体に担持された状態であれば、混合ガスとの接触面積が大きくなり、CO転化率やエタノールの選択率をより高められる。
【0041】
多孔質担体への触媒金属の担持量は、触媒金属の種類や組成、多孔質担体の材質等を勘案して決定され、多孔質担体100質量部に対して0.05〜30質量部が好ましく、1〜10質量部がより好ましい。担持量が上記下限値以上であれば、金属の担持量が充分となり、CO転化率やエタノールの選択率の向上を図りやすい。担持量が上記上限値以下であれば、助活性金属が多くなりすぎず、水素化活性金属を均一かつ高分散状態にしやすく、CO転化率やエタノールの選択率を高めやすい。
【0042】
担持触媒は、従来公知の担持触媒の製造方法に準じて製造できる。例えば、含浸法、イオン交換法等が挙げられ、含浸法が好ましい。含浸法を用いて得た金属触媒は、金属がより均一に分散され、混合ガスとの接触効率がより高められるため、CO転化率やエタノールの選択率をより高められる。
【0043】
本実施形態において、配管43は圧力制御部28を備える。圧力制御部28は、エタノール化装置12内の圧力を任意の圧力にできるものであればよく、例えば、公知の圧力弁等が挙げられる。
【0044】
精製装置14は、一次生成物からエタノール及びアセトアルデヒド以外の物質(例えば、酢酸、酢酸エチル、未反応の混合ガス等。)を除去するものである。
精製装置14としては、例えば、分離膜を備えた装置が挙げられる。分離膜としては、例えば、国際公開第2014/080670号に記載された酸性ガス含有ガス処理用分離膜、国際公開第2013/125661号に記載された多孔質支持体−ゼオライト膜複合体等が挙げられる。
【0045】
精製装置14で除去された物質は、排出管44を通じて排出される。排出管44は、精製装置14で除去された物質に対して不活性な材料からなるものが好ましく、例えば、ステンレス製の配管等が挙げられる。
【0046】
配管45は、エタノール及びアセトアルデヒドに対して不活性な材料からなるものが好ましく、例えば、ステンレス製の配管等が挙げられる。
【0047】
ブタジエン化装置16は、エタノールを第2の触媒に接触させてブタジエンを得る装置である。ブタジエン化装置16は、エタノールを第2の触媒に接触させてブタジエンを得る反応管24と、反応管24で得たブタジエンを含む二次生成物からブタジエンを分離する気液分離器26とを備える。ブタジエン化装置16は、マスフロー等、ガスの流量を調整するガス流量制御部等の周知の機器をさらに備えていてもよい。
【0048】
反応管24においては、第2の触媒が充填されて反応床24aが形成されている。反応管24は、エタノールに対して不活性な材料からなるものが好ましい。また、反応管24は、100〜500℃程度の加熱、又は10MPa程度迄の加圧に耐え得る形状のものが好ましい。反応管24としては、例えば、ステンレス製の略円筒形の部材が挙げられる。
反応床24aは、固定床、移動床、流動床等のいずれでもよい。
【0049】
第2の触媒は、エタノールからブタジエンを合成できるものであればよい。第2の触媒としては、例えば、周期表の第4〜13族の金属の酸化物と酸化マグネシウムとを含有するものが挙げられる。第2の触媒としては、周期表の第4〜13族の金属と酸化マグネシウムとがマグネシア及びシリカから選ばれる1種以上で接合されたものが好ましい。
好ましい第2の触媒としては、タンタル酸化物がマグネシア及びシリカで接合されたもの(Ta
2O
5/MgO/SiO
2(質量比=2/83/15)、国際公開第2013/125389号参照)等が挙げられる。
【0050】
第2の触媒は、公知の方法により製造される。
第2の触媒の製造方法としては、例えば、シリカ及びマグネシアから選ばれる1種以上が分散されたゾルに、触媒金属のゾルを分散して触媒ゾルを得て、該触媒ゾルを焼成する方法が挙げられる。
【0051】
配管46及び配管47は、ブタジエンに対して不活性な材質からなるものが好ましく、例えば、ステンレス製の配管等が挙げられる。
本実施形態においては、配管46は圧力制御部30を備える。圧力制御部30は、反応管24内の圧力を任意の圧力にできるものであればよく、例えば、公知の圧力弁等が挙げられる。
【0052】
気液分離器26は、ブタジエン、水素等に不活性な材質の公知の気液分離器を採用できる。
気液分離器26では、副生した水素が気体の状態で、ブタジエンが液化することで、ブタジエンが気液分離される。分離精製されたブタジエンは配管47を通じて貯留槽等(不図示)に回収される。
【0053】
返送手段18は、ブタジエン化装置16において副生した水素をエタノール化装置12に返送する手段である。返送手段18は、ブタジエン化装置16における気液分離器26とエタノール化装置12とを接続する配管を備える。
返送手段18の配管は、水素に対して不活性な材質が好ましく、例えば、ステンレス製の配管等が挙げられる。
返送手段18の配管には、必要に応じて、バルブ、ポンプ、分離膜等が設けられていてもよい。
【0054】
エタノール化装置12における返送手段18の配管が接続される位置は、返送した水素が反応床12aで充分に消費される範囲であれば特に限定されない。例えば、返送手段18の配管は、エタノール化装置12におけるガス供給口寄り(改質炉22寄り)に接続されていてもよく、中央部に接続されていてもよく、排出口寄り(精製装置14寄り)に接続されていてもよい。
【0055】
ブタジエン製造システム1においては、ガス調製装置10のガス化炉20で原料固形物が熱分解され、水素と一酸化炭素を含む混合ガスが発生する。該混合ガスは配管41を通じて改質炉22に送られ、該混合ガス中の炭化水素を改質炉22において水と反応させることにより、一酸化炭素濃度がより高い混合ガスへと改質される。
改質された混合ガスは、改質炉22から配管42を通じてエタノール化装置12に送られ、第1の触媒と接触して反応し、エタノール及びアセトアルデヒドを含むガス状の一次生成物となる。一次生成物は配管43を通じて精製装置14に送られて精製される。精製された一次生成物は、配管45を通じてブタジエン化装置16の反応管24に送られる。
反応管24に送られたガス状の一次生成物中のエタノールは、第2の触媒と接触して反応し、ブタジエン及び水素を含むガス状の二次生成物となる。該二次生成物は配管46を通じて気液分離器26に送られ、液状のブタジエンとガス状の水素を含む副生物とに気液分離される。ブタジエンは配管47を通じて回収される。
副生した水素は返送手段18によりエタノール化装置12へと返送される。
【0056】
(ブタジエンの製造方法)
以下、本発明のブタジエンの製造方法の一例として、前記したブタジエン製造システム1を用いる製造方法について説明する。本実施形態のブタジエンの製造方法は、下記のガス調製工程、エタノール化工程、ブタジエン化工程及び返送工程を有する。
ガス調製工程:原料を加熱して水素と一酸化炭素を含む混合ガスを調製する工程。
エタノール化工程:前記混合ガスを第1の触媒に接触させてエタノールを得る工程。
ブタジエン化工程:前記エタノールを第2の触媒に接触させてブタジエンを得る工程。
返送工程:前記ブタジエン化工程において副生した水素を前記ガス調製工程に返送する工程。
【0057】
<ガス調製工程>
本実施形態のガス調製工程は、原料固形物を熱分解させて水素と一酸化炭素を含む混合ガスを発生させるガス化操作と、混合ガス中の炭化水素を水と反応させることにより水素と一酸化炭素に改質する改質操作とを含む。
ガス化操作では、ガス調製装置10におけるガス化炉20において、粉砕したバイオマス、有機性廃棄物(廃プラスチック、廃紙、廃衣料等。)、石炭等の原料固形物を酸素の存在下で一部を燃焼することにより熱分解させてガス化し、水素と一酸化炭素とを含む混合ガスを発生させる。
【0058】
ガス化操作における原料固形物の熱分解のための温度としては、水素と一酸化炭素とを含む混合ガスを発生する温度であればよく、200〜1000℃が好ましく、500〜800℃がより好ましい。熱分解のための温度が下限値を下回ると、原料固形物が殆どガス化されず目的を果たさない。熱分解のための温度が上限値を上回ると、昇温するために燃焼させる原料固形分の割合が増えて、混合ガス中の水素と一酸化炭素の割合が減る。
【0059】
改質操作では、改質炉22において、ガス化炉20から配管41を通じて供給された混合ガス中の炭化水素を水と反応させることにより水素と一酸化炭素に改質し、一酸化炭素濃度を高め、水素と一酸化炭素が所望の比率になっている混合ガスへと改質する。
【0060】
改質操作における混合ガスの加熱温度は、ガス化操作における熱分解のための温度よりも高い温度であり、800〜2000℃が好ましく、1000〜1500℃がより好ましい。加熱温度が下限値を下回ると、反応が充分に進まず、一酸化炭素濃度が高まらない。加熱温度が上限値を上回ると、改質炉の材質に高耐熱性が必要となり、環境負荷が増大する。
【0061】
ガス調製工程で調製した混合ガス中の水素と一酸化炭素との合計の割合は、50体積%以上が好ましく、80体積%以上がより好ましく、90体積%以上がさらに好ましい。水素と一酸化炭素との合計の割合が多いほど、エタノールの収率を高めることが容易になる。ガス調製工程で調製した混合ガス中の水素と一酸化炭素との合計の割合の上限値は100体積%である。
なお、混合ガスは、水素及び一酸化炭素の他に、メタン、エタン、エチレン、窒素、二酸化炭素、水等を含んでいてもよい。
【0062】
<エタノール化工程>
ガス調製装置10における改質炉22から、配管42を通じて混合ガスをエタノール化装置12に供給する。エタノール化装置12に供給された混合ガスは第1の触媒と接触し、エタノール及びアセトアルデヒドを含む一次生成物が得られる。
本実施形態においては、第1の触媒として金属触媒を用いる場合、一次生成物はガス状である。
【0063】
ガス調製工程から供給される混合ガスと返送工程により返送される水素の合計体積に対する、水素と一酸化炭素との合計の割合は、50体積%以上が好ましく、80体積%以上がより好ましく、90体積%以上がさらに好ましい。水素と一酸化炭素との合計の割合が多いほど、エタノールの収率を高めることが容易になる。前記の水素と一酸化炭素との合計の割合の上限値は100体積%である。
【0064】
エタノール化工程に供給する水素と一酸化炭素のH
2/CO比は、1/2〜4/1が好ましく、1/1〜3/1がより好ましく、1.5/1〜2.5/1がさらに好ましい。H
2/CO比が上記範囲内であれば、エタノールの合成効率を高めることが容易になる。
【0065】
混合ガスと第1の触媒とを接触させる際の温度(反応温度)、すなわち反応床12aの温度は、150〜450℃が好ましく、200〜400℃がより好ましく、250〜350℃がさらに好ましい。反応温度が上記下限値以上であれば、触媒反応の速度が十分に高まり、エタノールをより効率的に製造できる。反応温度が上記上限値以下であれば、エタノールの選択率を高められる。
【0066】
混合ガスと第1の触媒とを接触させる際の圧力(反応圧力)、すなわちエタノール化装置12A内の圧力は、0.5〜10MPaが好ましく、1〜7.5MPaがより好ましく、2〜5MPaがさらに好ましい。反応圧力が上記下限値以上であれば、触媒反応の速度が十分に高まり、エタノールをより効率的に製造できる。反応圧力が上記上限値以下であれば、エタノールの選択率を高められる。
【0067】
反応床12aにおけるガスの空間速度(単位時間当たりのガスの供給量を触媒量(体積換算)で除した値)は、標準状態換算で、10〜100000L/L−触媒/hrが好ましく、1000〜50000L/L−触媒/hrがより好ましく、3000〜20000L/L−触媒/hrがさらに好ましい。空間速度は、反応圧力、反応温度、及び原料である混合ガスの組成を勘案して、適宜調整される。
【0068】
本実施形態の一次生成物がアセトアルデヒドを含む場合、エタノール/アセトアルデヒドで表されるモル比(以下、EtOH/AcH比ということがある。)は、1/5〜5/1が好ましい。EtOH/AcH比が上記範囲内であれば、ブタジエンの収率をより高められる。
一次生成物におけるEtOH/AcH比は、第1の触媒である金属触媒の組成、金属触媒の担体の平均細孔直径、反応温度、反応圧力等の組み合わせにより、容易に調節される。例えば、反応温度を高めるとエタノールの選択率が高まり、EtOH/AcH比は大きくなる。
【0069】
エタノール化装置12で得られたエタノールを含む一次生成物を、配管43を通じて、精製装置14に送って精製してエタノール及びアセトアルデヒド以外の物質を除去する。次いで、精製した一次生成物を、配管45を通じてブタジエン化装置16に供給する。
【0070】
<ブタジエン化工程>
エタノールを含む一次生成物を、ブタジエン化装置16の反応管24に供給し、反応床24aの第2の触媒と接触させる。これにより、下式(6)の反応によりブタジエン及び水素を含む二次生成物が得られる。得られる二次生成物はガス状である。
2C
2H
5OH→C
4H
6+H
2+2H
2O ・・・(6)
また、第2の触媒を用いることで、エタノールとアセトアルデヒドからブタジエンを合成することもできる。
【0071】
一次生成物と第2の触媒とを接触させる際の温度(反応温度)、すなわち反応床24aの温度は、300〜500℃が好ましく、350〜450℃がより好ましい。反応温度が上記下限値以上であれば、触媒反応の速度が十分に高まり、ブタジエンをより効率的に製造できる。反応温度が上記上限値以下であれば、第2の触媒の劣化を抑制しやすい。
【0072】
一次生成物と第2の触媒とを接触させる際の圧力(反応圧力)、すなわち反応管24内の圧力は、例えば、常圧〜1MPaとされる。
【0073】
ブタジエン化工程に供給する一次生成物中のエタノールの割合は、70質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。エタノールの割合が上記下限値以上であれば、ブタジエンの合成効率をより高められる。
【0074】
反応床24aにおける一次生成物の空間速度は、標準状態換算で、100〜50000L/L−触媒/hrが好ましく、200〜10000L/L−触媒/hrがより好ましく、300〜5000L/L−触媒/hrがさらに好ましい。空間速度は、反応圧力、反応温度、及び一次生成物の組成を勘案して、適宜調整される。
【0075】
次いで、反応管24から配管46を通じて第二生成物を気液分離器26へと送り、温度を降下させ、液状のブタジエンと、副生したガス状の水素とに分離する。ブタジエンは配管47を通じて貯留槽等(不図示)に回収する。
【0076】
<返送工程>
ブタジエン化工程で副生した水素をエタノール化工程に返送する。具体的には、気液分離器26でブタジエンと気液分離した水素を、返送手段18によりエタノール化装置12に返送する。返送する水素は、必要に応じて、分離膜等で水素以外の副生物から分離する。
エタノール化工程に水素が返送されることで、一酸化炭素と水素の比率を第1の触媒によるエタノール化反応に適した比率にすることが容易になるため、エタノールの合成効率が高まる。その結果、最終的なブタジエンの収率が高くなる。
【0077】
水素の返送量は、ガス調整工程からの混合ガスと合わさった後の水素と一酸化炭素のH
2/CO比が、1/2〜4/1となる量が好ましく、1/1〜3/1となる量がより好ましい。水素の返送量が上記下限値以上であれば、ブタジエンを高収率で製造することが容易になる。水素の返送量が上記上限値以下であれば、H
2/CO比の調整が容易になる。
【0078】
例えば金属触媒を用いて水素と一酸化炭素からエタノールを得る場合、H
2/CO比が2/1のときに最も反応効率が高い。しかし、有機性廃棄物等の原料を燃焼させ、改質して得られる混合ガス中のH
2/CO比は通常は1/1前後であるため、エタノール化工程で水素量が不足しやすい。酸化鉄(Fe
3O
4)や白金等の触媒を用いてシフト反応(CO+H
2O→CO
2+H
2)を行うなどのステップを追加することで、H
2/CO比を高めることも可能であるが、この場合はエタノール生産量が相対的に低くなる課題があり、また、このようなステップを追加すると製造工程が煩雑になる。
【0079】
これに対して、本実施形態のブタジエンの製造方法においては、ブタジエン化工程で副生した水素を返送することで、新たに水素を供給しなくてもエタノール化工程における水素の割合を容易に高めることができる。そのため、H
2/CO比を、第1の触媒を用いたエタノール化反応に適した比率に調整しやすいことで、効率的にエタノールが得られ、それに伴って最終的なブタジエンの収率が高くなる。
【0080】
第1実施形態のブタジエン製造システムが備えるガス調製装置は、原料を加熱して水素と一酸化炭素とを含む混合ガスを調製できるものであればよい。例えば、ガス化炉を備えずに改質炉のみを備え、改質炉において、天然ガスや、工場等からの廃ガス等の原料ガスを改質し、水素と一酸化炭素とを含む混合ガスを調製するガス調製装置であってもよい。ガス化炉と改質炉の両方の機能を備えるガス化改質炉からなるガス調製装置であってもよい。
【0081】
第1実施形態のブタジエン製造システムが備える返送手段は、ブタジエン化装置から得られる水素、又は水素を含む副生物を貯留槽等に貯留し、車両による輸送等の種々の輸送手段によってエタノール化装置に返送する手段であってもよい。ただし、エネルギーロスが少ない点から、返送手段は配管を用いて返送する手段であることが好ましい。
【0082】
第1実施形態のブタジエンの製造方法は、前記したブタジエン製造システム1を用いる方法には限定されない。
第1実施形態のブタジエンの製造方法は、ガス調製工程がガス化操作を含まず、改質操作のみを含む方法であってもよい。ガス調製工程においてガス化操作と改質操作が同時に行われる方法であってもよい。
【0083】
[第2実施形態]
以下、本発明のブタジエン製造システム及びブタジエンの製造方法の第2実施形態について説明する。本実施形態のブタジエン製造システム及びブタジエンの製造方法は、原料を加熱して水素と二酸化炭素とを含む混合ガスを調製し、第3の触媒を用いて該混合ガスからエタノールを得た後、該エタノールからブタジエンを製造するものである。
【0084】
(ブタジエン製造システム)
図2は、本実施形態のブタジエン製造システム2を示した模式図である。
図2における
図1と同じ部分には同符号を付して説明を省略する。
ブタジエン製造システム2は、ガス調製装置10Aと、ガス調製装置10Aの後段に設けられたエタノール化装置12Aと、エタノール化装置12Aの後段に設けられた精製装置14Aと、精製装置14Aの後段に設けられたブタジエン化装置16と、ブタジエン化装置16からエタノール化装置12Aに水素を返送する返送手段18とを備えている。ガス調製装置10Aは、ガス化炉20Aと、ガス化炉20Aの後段に設けられた改質炉22Aとを備えている。
【0085】
ガス化炉20Aと改質炉22Aとは配管41で接続されている。改質炉22Aとエタノール化装置12Aとは配管42で接続されている。エタノール化装置12Aと精製装置14Aとは配管43で接続されている。精製装置14Aには排出管44が接続されている。精製装置14Aとブタジエン化装置16の反応管24とは配管45で接続されている。
【0086】
ガス調製装置10Aは、原料を加熱して、任意の比率で水素と二酸化炭素を含む混合ガスを調製する装置であって、ガス化炉20Aと改質炉22Aとを備える。
ガス化炉20Aは、バイオマス、有機性廃棄物(廃プラスチック、廃紙、廃衣料等。)、石炭等の原料固形物を熱分解させて、水素と二酸化炭素を含む混合ガスを発生させる炉である。ガス化炉20Aとしては、例えば、第1実施形態のガス化炉20で挙げたものと同様のものが挙げられる。ガス化炉20Aで得られる混合ガスには、一酸化炭素も含まれる。
【0087】
改質炉22Aは、ガス化炉20Aで得られた混合ガスを二酸化炭素濃度及び水素濃度がより高いガスへと改質する炉である。改質炉22Aとしては、例えば、酸化鉄(Fe
3O
4)や白金等の触媒を用いてシフト反応(CO+H
2O→CO
2+H
2)を行う炉等が挙げられる。
【0088】
本実施形態では、配管42に、エアレーション等によって水等の液体に混合ガスを飽和させるガス分散装置を設け、混合ガスで飽和した液体をエタノール化装置12Aに供給するようにしてもよい。
【0089】
エタノール化装置12Aは、ガス調製装置10Aから送られてくる混合ガスを第3の触媒に接触させてエタノールを得る装置である。本実施形態における第3の触媒としては、水素と二酸化炭素からエタノールを合成するための触媒を採用でき、二酸化炭素を基質としてエタノール発酵を行う微生物(CO
2資化性菌)が好ましい。
エタノール化装置12Aにおいて混合ガスを第3の触媒に接触させることで、エタノールを含む一次生成物が得られる。
【0090】
エタノール化装置12Aとしては、微生物によるエタノール発酵を利用してエタノールを製造できるものであればよく、例えば、公知のバイオリアクターを採用できる。バイオリアクターとしては、例えば、連続撹拌槽リアクター、固定化細胞リアクター、細流床リアクター、バブルカラム、ガスリフト発酵槽、膜リアクター(中空繊維膜バイオリアクター等。)、静的ミキサー等が挙げられる。
エタノール化装置12Aの材質としては、混合ガスやエタノールに対して不活性な材質が好ましい。
【0091】
CO
2資化性菌としては、二酸化炭素を基質としてエタノール発酵する能力を有する公知の微生物を採用できる。CO
2資化性菌としては、例えば、ムーレラ属等が使用できる。
第3の触媒は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0092】
本実施形態では、配管43に、エタノール化装置12A内の圧力を制御する圧力制御部が設けられていてもよい。該圧力制御部によって、エタノール化装置12A内の圧力を大気圧よりも高くすることで、混合ガス及び返送された水素が反応液中に溶解しやすくなり、エタノールの収率がより高くなる。
【0093】
精製装置14Aは、一次生成物等からエタノール以外の物質(例えば、副生物、水、培地、未反応の混合ガス、触媒等。)を除去するものである。精製装置14Aとしては、例えば、蒸留装置、気液分離器、固液分離器及びそれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0094】
精製装置14Aで除去された物質は、排出管44を通じて排出される。排出管44は、精製装置14Aで除去された物質に対して不活性な材料からなるものが好ましく、例えば、ステンレス製の配管等が挙げられる。
【0095】
配管45には、液状のエタノールを加熱してガス化する加熱装置32が設けられている。これにより、エタノールはガス化された状態でブタジエン化装置16に供給される。
加熱装置32は、エタノールを加熱してガス化できるものであればよく、公知の加熱装置を採用できる。加熱装置32の材質は、エタノールに対して不活性な材質が好ましい。
【0096】
本実施形態の返送手段18は、返送した水素をエタノール化装置12Aにおける反応液中に供給するものであってもよく、エタノール化装置12Aにおける気相に供給するものであってもよい。返送手段18の配管に、返送した水素をエアレーション等によって水等の液体に飽和させるガス分散装置を設け、水素で飽和した液体をエタノール化装置12Aに供給するようにしてもよい。
【0097】
ブタジエン製造システム2においては、ガス調製装置10Aのガス化炉20Aで原料固形物が熱分解され、水素と二酸化炭素を含む混合ガスが発生する。該混合ガスは配管41を通じて改質炉22Aに送られ、二酸化炭素濃度及び水素濃度がより高い混合ガスへと改質される。
該混合ガスは、改質炉22Aから配管42を通じてエタノール化装置12Aに送られ、第3の触媒と接触して反応し、エタノールを含む液状の一次生成物となる。一次生成物は配管43を通じて精製装置14Aに送られて精製される。精製された一次生成物は、配管45を通じ、加熱装置32でガス化された状態でブタジエン化装置16の反応管24に送られる。
反応管24に送られたガス状の一次生成物中のエタノールは、第2の触媒と接触して反応し、ブタジエン及び水素を含むガス状の二次生成物となる。該二次生成物は配管46を通じて気液分離器26に送られ、液状のブタジエンとガス状の水素とに気液分離される。ブタジエンは配管47を通じて回収される。
副生した水素は返送手段18によりエタノール化装置12Aへと返送される。
【0098】
(ブタジエンの製造方法)
以下、前記したブタジエン製造システム2を用いたブタジエンの製造方法について説明する。本実施形態のブタジエンの製造方法は、下記のガス調製工程、エタノール化工程、ブタジエン化工程及び返送工程を有する。
ガス調製工程:原料を加熱して水素と二酸化炭素を含む混合ガスを調製する工程。
エタノール化工程:前記混合ガスを第3の触媒に接触させてエタノールを得る工程。
ブタジエン化工程:前記エタノールを第2の触媒に接触させてブタジエンを得る工程。
返送工程:前記ブタジエン化工程において副生した水素を前記ガス調製工程に返送する工程。
【0099】
<ガス調製工程>
本実施形態のガス調製工程は、原料固形物を熱分解させて水素と二酸化炭素を含む混合ガスを発生させるガス化操作と、混合ガスを二酸化炭素濃度及び水素濃度がより高いガスに改質する改質操作とを含む。
【0100】
ガス化操作では、ガス調製装置10Aにおけるガス化炉20Aにおいて、原料固形物を酸素の存在下で一部を燃焼することにより熱分解させてガス化し、水素と二酸化炭素とを含む混合ガスを発生させる。
改質操作では、改質炉22Aにおいて、ガス化炉20Aから配管41を通じて供給された混合ガスに対してシフト反応を行って、二酸化炭素濃度及び水素濃度のより高い混合ガスへと改質する。
【0101】
本実施形態のガス調製工程で調製した混合ガスにおけるH
2/CO
2比は、1/2〜5/1が好ましく、1/1〜4/1がより好ましく、1.5/1〜3/1がさらに好ましい。H
2/CO
2比が上記範囲内であれば、エタノールの収率を高めることが容易になる。
【0102】
<エタノール化工程>
ガス調製装置10Aにおける改質炉22Aから、配管42を通じて、温度を降下させた状態の混合ガスをエタノール化装置12Aに供給する。エタノール化装置12Aにおいては、水、培地等を含む反応液中に第3の触媒であるCO
2資化性菌が存在しており、微生物によりエタノール発酵が可能な環境に調整されている。エタノール化装置12Aに供給された混合ガスはCO
2資化性菌と接触し、エタノール発酵によりエタノールを含む一次生成物が得られる。
本実施形態においては、一次生成物は液体(エタノール、水等。)とガス(未反応の混合ガス等。)の混合物である。
【0103】
ガス調製工程から供給される混合ガスと返送工程により返送される水素の合計体積に対する、水素と二酸化炭素との合計の割合は、50体積%以上が好ましく、80体積%以上がより好ましく、90体積%以上がさらに好ましい。水素と二酸化炭素との合計の割合が多いほど、エタノールの収率を高めることが容易になる。前記の水素と二酸化炭素との合計の割合の上限値は100体積%である。
【0104】
エタノール化工程に供給する水素と二酸化炭素のH
2/CO
2比は、1/2〜5/1が好ましく、1/1〜4/1がより好ましく、1.5/1〜3/1がさらに好ましい。H
2/CO
2比が上記範囲内であれば、エタノールの収率を高めることが容易になる。
【0105】
エタノール化装置12Aに供給する混合ガスの温度は、30〜70℃まで降下させることが好ましく、50〜60℃まで降下させることがより好ましい。供給する混合ガスの温度が上記範囲内であれば、熱によって微生物量が減少することを抑制しやすい。
【0106】
エタノール化装置12Aへの混合ガスの供給量は、水素及び二酸化炭素が水等の液体に飽和する量が好ましい。混合ガスの供給量が上記範囲内であれば、エタノールをより効率的に製造できる。
【0107】
エタノール化装置12A内の反応温度は、50〜65℃が好ましく、55〜60℃がより好ましい。反応温度が上記範囲内であれば、エタノールをより効率的に製造できる。
【0108】
エタノール化装置12A内の圧力(反応圧力)は、0〜1MPaが好ましく、0.2〜0.8MPaがより好ましく、0.4〜0.6MPaがさらに好ましい。反応圧力が上記下限値以上であれば、混合ガス中の水素及び二酸化炭素が反応液中に溶解しやすく、エタノールをより効率的に製造できる。反応圧力が上記上限値を上回ると、高耐圧性が必要となり、環境負荷が増大する。
【0109】
エタノール化装置12Aで得られたエタノールを含む一次生成物を、配管43を通じて、精製装置14Aに送り、蒸留、気液分離等を行って精製してエタノール以外の物質を除去する。次いで、精製した一次生成物を、配管45を通じて、加熱装置32により加熱してガス化した状態でブタジエン化装置16に供給する。
【0110】
<ブタジエン化工程>
本実施形態のブタジエン化工程は、ブタジエン製造システム1の場合と同様に行える。
【0111】
<返送工程>
ブタジエン化工程で副生した水素をエタノール化工程に返送する。具体的には、気液分離器26でブタジエンと気液分離した水素を、返送手段18によりエタノール化装置12Aに返送する。返送する水素は、必要に応じて、分離膜等で水素以外の副生物から分離する。
返送手段18により返送した水素は、エタノール化装置12Aにおける反応液中に供給してもよく、気相に供給してもよい。
【0112】
水素の返送量は、ガス調整工程からの混合ガスと合わさった後の水素と二酸化炭素のH
2/CO
2比が、1/2〜5/1となる量が好ましく、1/1〜4/1となる量がより好ましい。水素の返送量が上記下限値以上であれば、ブタジエンを高収率で製造することが容易になる。水素の返送量が上記上限値以下であれば、H
2/CO
2比の調整が容易になる。
【0113】
本実施形態においても、二酸化炭素よりも水素の比率が高い場合にエタノールの合成効率が高くなる。
本実施形態のブタジエンの製造方法においては、第1実施形態と同様に、ブタジエン化工程で副生した水素を返送することでエタノール化工程における水素の比率を容易に高めることができる。そのため、水素を返送しない場合に比べてエタノールを効率的に得ることができ、その結果、高収率でブタジエンを得ることができる。
【0114】
なお、第2実施形態のブタジエン製造システムは、前記したブタジエン製造システム2には限定されない。
例えば、第2実施形態のブタジエン製造システムは、ブタジエン化装置における気液分離器からエタノール化装置の前段の配管に水素を返送するものであってもよい。
【0115】
第2実施形態のブタジエン製造システムが備えるガス調製装置は、原料を加熱して水素と二酸化炭素とを含む混合ガスを調製できるものであればよい。例えば、改質炉を備えずにガス化炉のみを備えるものであってもよい。また、ガス化炉を備えずに改質炉のみを備え、改質炉において、天然ガスや、工場等からの廃ガス等の原料ガスを加熱して改質し、水素と二酸化炭素とを含む混合ガスを調製するガス調製装置であってもよい。ガス化炉と改質炉の両方の機能を備えるガス化改質炉からなるガス調製装置であってもよい。
【0116】
第2実施形態のブタジエン製造システムが備える返送手段は、ブタジエン化装置から得られる水素、又は水素を含む副生物を貯留槽等に貯留し、車両による輸送等の種々の輸送手段によってエタノール化装置に返送する手段であってもよい。ただし、エネルギーロスが少ない点から、返送手段は配管を用いて返送する手段であることが好ましい。
【0117】
第2実施形態のブタジエンの製造方法は、前記したブタジエン製造システム2を用いる方法には限定されない。
本発明のブタジエンの製造方法は、ガス調製工程が改質操作を含まず、ガス化操作のみを含む方法であってもよく、ガス調製工程がガス化操作を含まず、改質操作のみを含む方法であってもよい。ガス調製工程においてガス化操作と改質操作が同時に行われる方法であってもよい。
【0118】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
[成分分析]
各例において得られた二次生成物中のブタジエン、水素及びエチレンの量は、ガスクロマトグラフィーにより測定した。
【0119】
[実施例1]
図1に例示したブタジエン製造システム1を用いてブタジエンの製造を行った。
具体的には、産業廃棄物を模した模擬廃棄物(可燃分76%、灰分9%、水分15%、熱量4,000kcal/kg)400g/hrをガス化炉20でガス化し、改質炉22で水蒸気改質反応により、混合ガスを得た。該混合ガスにブタジエン化装置16から返送した水素3g/hrをさらに混合し、650NL/hrの混合ガスをエタノール化装置12に供給した。
エタノール化装置12においては、ロジウム系触媒を用いた反応により、158g/hrのエタノールを得た。エタノール化装置12における反応温度は280℃、反応圧力は2MPaとした。
エタノール化装置12で得たエタノールを含む一次生成物を、精製装置14である蒸留器により精製し、ブタジエン化装置16に送り、ブタジエンを含む二次生成物を得た。第2の触媒としては、タンタル系触媒を用いた。反応管24における反応温度は420℃、反応圧力は0.1MPa、混合ガスの供給量は158g/hrとした。
最終的に、ブタジエン化装置16からは、ブタジエン93g/hr、水素3g/hrを得た。ブタジエンの収率は88%であった。
【0120】
[比較例1]
ブタジエン化装置16で副生した水素をエタノール化装置12に返送しなかった以外は、実施例1と同様にしてブタジエンを製造した。改質炉22では615NL/hrの混合ガスが得られた。エタノール化装置12では145g/hrのエタノールが得られた。
最終的に、ブタジエン化装置16からは、ブタジエン85g/hr、水素3g/hrを得た。ブタジエンの収率は82%であった。