【実施例】
【0040】
実施例1(現在市販されている食塩低減味噌製品群と本願減塩味噌との比較検討)
本願減塩味噌は、以下の手法により製出した。
(1)本願減塩豆味噌の製造
原料大豆103kgを重量が1.5〜1.6倍になるまで浸漬し、水切り後、蒸し釜に入れ、0.7〜1.0kg/cm
2で90分間蒸し、蒸し大豆を得た。次いで冷却後、みそ玉を作り、これに種麹を常法に従い適量まぶし、これを25〜35°Cの品温で約48時間かけて豆麹を製造し、これを圧潰した。このように用意した豆麹155kgを、塩化カリウム20.3kgと種水16.2kgと共に仕込み容器内に仕込んだ。これに上蓋と重石を載せて25〜35°Cの範囲で発酵・熟成し、水分約42%、カリウム濃度約10.5%のKCl豆みそを製造した。
これとは別に、原料大豆103kgを重量が1.5〜1.6倍になるまで浸漬し、水切り後、蒸し釜に入れ、0.7〜1.0kg/cm
2で90分間蒸し、蒸し大豆を得た。次いで冷却後、アルギニンをオルニチンに変換する乳酸菌としてTetragenococcus halophilus DA−353(イチビキ社)を蒸し大豆に対して10
5cell/gとなるように添加して、味噌玉を作成した。これに種麹を常法に従い適量まぶし、これを25〜35°Cの品温で約48時間かけて豆麹を製造し、これを圧潰した。このように用意した豆麹155kgを、塩化カリウム19.37kgと種水23.28kgと共に仕込み容器内に仕込んだ。これに上蓋と重石を載せて25°C〜35°Cの範囲で発酵・熟成し、水分約42%、カリウム濃度約9.7%のKClオルニチン豆みそを製造した。
得られたKCl豆味噌200.7質量部およびKClオルニチン豆味噌373.4質量部に対し、グルタミン酸ナトリウム49.0質量部、砂糖39.0質量部、IN0.2質量部、水268.2質量部、食塩64.9質量部、アルコール26.0質量部を混合して最終的な本願減塩豆味噌を製造した。得られた本願減塩豆味噌20gを採って160mlの熱湯を加えて喫食時の状態とし、上述した手法によって、乳酸濃度、カリウム濃度を定量分析した。pHは、ガラス電極法を使用した卓上型pHメーター(東亜DKK株式会社、HM-25R)により測定した。結果を表1に示す。
【0041】
(2)本願減塩米味噌の製造
原料大豆27.2kgを一晩水に浸漬し、水切り後、蒸し釜に入れ、0.5〜1.0kg/cm
2で15〜50分間蒸して、蒸し大豆を得た。この蒸し大豆を網目寸法4〜5mm程度で摺り潰した状態の蒸し豆を用意した。原料米20.0kgを一晩水に浸漬し、水切り後、30〜60分蒸し、蒸し米を得た。次いで冷却後、これに種麹を常法に従い適量まぶし、これを25〜40°Cの品温で約44時間かけて米麹を得た。このように用意した蒸し大豆56.0kgと米糀22.0kgを、塩化カリウム11.15kgと種水5.5kgと共に仕込み容器内に仕込んだ。これに上蓋を載せて25〜35°Cの範囲で発酵・熟成し、水分約44%、カリウム濃度約11.7%のKCl米味噌を製造した。
これとは別に、原料大豆27.2kgを一晩水に浸漬し、水切り後、蒸し釜に入れ、0.5〜1.0kg/cm
2で15〜50分間蒸して、蒸し大豆を得た。この蒸し大豆を網目寸法4〜5mm程度で摺り潰した状態の蒸し豆を用意した。原料米20.0kgを一晩水に浸漬し、水切り後、30〜60分蒸し、蒸し米を得た。次いで冷却後、これに種麹を常法に従い適量まぶし、これを25〜40°Cの品温で約44時間かけて米麹を得た。なお、製麹工程中に乳酸菌としてTetragenococcus halophilus DA−353(イチビキ社)を蒸し米に対して10
5cell/gとなるように添加した。このように用意した蒸し大豆56.0kgと米糀16.0kgを、塩化カリウム7.4kgと種水1.0kgと共に仕込み容器内に仕込んだ。これに上蓋を載せて25〜35°Cの範囲で発酵・熟成し、水分約44%、カリウム濃度約10.3%のKClオルニチン米味噌を製造した。
得られたKCl米味噌142.9質量部およびKClオルニチン米味噌435.9質量部に対して、常法によって得られた豆味噌14.0質量部、常法によって得られたNaCl米味噌24.7質量部、上記KClオルニチン米味噌と同じ乳酸菌を使用して常法により得られたNaClオルニチン米味噌74.0質量部、グルタミン酸ナトリウム78.0質量部、砂糖13.0質量部、IN1.7質量部、水165.0質量部、食塩43.1質量部、アルコール19.6質量部を混合して最終的な本願減塩米味噌を製造した。喫食時のpH、乳酸濃度、カリウム濃度の結果を表1に示す。
【0042】
(3)市販品の調査
比較対照として、現在市販されている各メーカーの食塩低減味噌製品群(即席味噌)について、各包装等で指示された標準的な方法に従って味噌および添付の具材を合わせて熱湯で溶いて食する状態として、pH、カリウム濃度、乳酸濃度を測定した結果を表1に示す。pHが低いもの、喫食時のカリウム濃度または乳酸濃度が有意に高いものについては適宜喫食して味を評価した。なお、減塩率は、各社包装の表記であり、メーカーごとに標準品が異なると考えられることからあくまで参考値である。
【0043】
【表1】
【0044】
表1から、市場にある減塩みそ汁においては、塩味強化のための塩化カリウムの利用や酸味の原因となる乳酸量を増大する試みはほとんどないことがわかった。このことは、塩化カリウムを使用して不快味を呈さず、風味の優れた減塩味噌類を提供することの困難性を示唆する。一方で、本願減塩豆味噌及び本願減塩米味噌は、塩化カリウムの添加による塩味の増強とともに生じる苦味やえぐ味が乳酸発酵によって低減され、味のしっかりした減塩味噌汁が得られることがわかった。なお、喫食時0.06%程度のカリウムは、味噌由来、即ち大豆中に自然に含まれるカリウムによるものと考えられる。
【0045】
実施例2(塩化カリウムで仕込むことによる効果)
(1)本願減塩豆味噌(KClオルニチン豆味噌)の製造
原料大豆103kgを重量が1.5〜1.6倍になるまで浸漬し、水切り後、蒸し釜に入れ、0.7〜1.0kg/cm
2で90分間蒸し、蒸し大豆を得た。次いで冷却後、乳酸菌としてTetragenococcus halophilus DA−353(イチビキ社)を蒸し大豆に対して10
5cell/gとなるように添加して、味噌玉を作成した。これに種麹を常法に従い適量まぶし、これを25〜35°Cの品温で約48時間かけて豆麹を製造し、これを圧潰した。このように用意した豆麹155kgを、塩化カリウム17.5kgと種水23.28kgと共に仕込み容器内に仕込んだ。これに上蓋と重石を載せて25〜35°Cの範囲で発酵・熟成を開始し、1週間後、2週間後までの経過に伴うオルニチン含量をポストカラム誘導体化法によるHPLC(移動相:株式会社島津製作所、アミノ酸移動相NA型、カラム:Shim-Pack AMINO-Na)で測定した値である。にかけてモニタリングするとともに、最終的に得られたKClオルニチン豆味噌中の乳酸濃度をイオン排除モードのHPLC(移動相:4mM過塩素酸、カラム:shodex RSpak KC-LG+KC-811)で測定した。結果を表2及び表4に示す。
(2)本願減塩豆味噌(KCl/NaClオルニチン豆味噌)の製造
KClの仕込み量を17.5kg(8.7%)から4.5%にし、代わりにNaCl4.2%としたほかは、(1)と同様にしてKCl/NaClオルニチン豆味噌を得、(1)と同様にモニタリング測定した。
(3)通常豆味噌(NaClオルニチン豆味噌)の製造
NaClの仕込み量を17.5kg(濃度を8.7%)としたほかは、(1)と同様にしてNaClオルニチン豆味噌を得、(1)と同様にモニタリング測定した。
(4)本願減塩米味噌(KClオルニチン米味噌)の製造
原料大豆27.2kgを一晩水に浸漬し、水切り後、蒸し釜に入れ、0.5〜1.0kg/cm
2で15〜50分間蒸して、蒸し大豆を得た。この蒸し大豆を網目寸法4〜5mm程度で摺り潰した状態の蒸し豆を用意した。原料米20.0kgを一晩水に浸漬し、水切り後、30〜60分蒸し、蒸し米を得た。次いで冷却後、これに種麹を常法に従い適量まぶし、これを25〜40°Cの品温で約44時間かけて米麹を得た。なお、製麹工程中に乳酸菌としてTetragenococcus halophilus DA−353(イチビキ社)を蒸し米に対して10
5cell/gとなるように添加した。このように用意した蒸し大豆56.0kgと米糀16.0kgを、塩化カリウム7.4kgと種水1.0kgと共に仕込み容器内に仕込んだ。これに上蓋を載せて25〜35°Cの範囲で発酵・熟成を開始し、1週間後、2週間後までの経過に伴うオルニチン含量をモニタリングするとともに、最終的に得られたKClオルニチン米味噌中の乳酸濃度を測定した。結果を表3及び表4に示す。
(5)本願減塩米味噌(KCl/NaClオルニチン米味噌)の製造
KClの仕込み量を7.4kg(9.2%)から3.86kg(4.8%)にし、代わりにNaClを3.54kg(4.2%)仕込んだほかは、(4)と同様にしてKCl/NaClオルニチン米味噌を得、(4)と同様にモニタリング測定した。
(6)通常米味噌(NaClオルニチン米味噌)の製造
NaClの仕込み量を7.4kg(9.2%)としたほかは、(4)と同様にしてNaClオルニチン米味噌を得、(4)と同様にモニタリング測定した。
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
表2および表3から、塩化ナトリウムを塩化カリウムによって置換する割合を増やすにつれて、アルギニンをオルニチンに変換する乳酸菌を製麹時に使用した味噌について発酵熟成後最終的に生成する乳酸量が多くなる効果が観察されただけでなく、オルニチンの生成速度が早くなり、オルニチン生成量にも有意な増大が観察された。
【0049】
実施例3(多様なアミノ酸分解物を含有する減塩味噌の製造)
実施例2で記載した味噌のほか、以下のKClγ−アミノ酪酸味噌、KClβ−アラニン味噌を製造し、それぞれについて最終製品のサンプルを3つ用意し、ポストカラム誘導体化法によるHPLC(移動相:株式会社島津製作所、アミノ酸移動相NA型、カラム:Shim-Pack AMINO-Na)にかけてアミノ酸含量、アミノ酸分解物含量を検出、定量分析した。結果を表4に示す。
(1)KCLγ−アミノ酪酸豆味噌の製造
原料大豆103kgを重量が1.5〜1.6倍になるまで浸漬し、水切り後、蒸し釜に入れ、0.7〜1.0kg/cm
2で90分間蒸し、蒸し大豆を得た。次いで冷却後、乳酸菌としてLactobacillus halophilus(DA−722、イチビキ社製)を蒸し大豆に対して10
5cell/gとなるように添加して、味噌玉を作成した。これに種麹を常法に従い適量まぶし、これを25〜35°Cの品温で約48時間かけて豆麹を製造し、これを圧潰した。このように用意した豆麹155kgを、塩化カリウム19.37kgと種水23.28kgと共に仕込み容器内に仕込んだ。これに上蓋と重石を載せて25〜35°Cの範囲で発酵・熟成し、水分約44%、塩化カリウム濃度約9.7%の豆味噌を製造した。
(2)KCLγ−アミノ酪酸米味噌の製造
原料大豆27.2kgを一晩水に浸漬し、水切り後、蒸し釜に入れ、0.5〜1.0kg/cm
2で15〜50分間蒸して、蒸し大豆を得た。この蒸し大豆を網目寸法4〜5mm程度で播り潰した状態の蒸し豆を用意した。原料米20.0kgを一晩水に浸漬し、水切り後、30〜60分蒸し、蒸し米を得た。次いで冷却後、これに種麹を常法に従い適量まぶし、これを25〜40°Cの品温で約44時間かけて米麹を得た。なお、製麹工程中に乳酸菌としてLactobacillus halophilus(DA−722、イチビキ社製)を蒸し米に対して10
5cell/gとなるように添加した。このように用意した蒸し大豆56.0kgと米糀16.0kgを、塩化カリウム8.52kgと種水1.0kgと共に仕込み容器内に仕込んだ。これに上蓋を載せて25〜35°Cの範囲で発酵・熟成し、水分約44%、塩化カリウム濃度約10.3%の米味噌を製造した。
(3)KCLβ−アラニン豆味噌の製造
原料大豆103kgを重量が1.5〜1.6倍になるまで浸漬し、水切り後、蒸し釜に入れ、0.7〜1.0kg/cm
2で90分間蒸し、蒸し大豆を得た。次いで冷却後、乳酸菌としてTetragenococcus halophilus(DA−588、イチビキ社製)を蒸し大豆に対して10
5cell/gとなるように添加して、味噌玉を作成した。これに種麹を常法に従い適量まぶし、これを25〜35°Cの品温で約48時間かけて豆麹を製造し、これを圧潰した。このように用意した豆麹155kgを、塩化カリウム19.37kgと種水23.28kgと共に仕込み容器内に仕込んだ。これに上蓋と重石を載せて25〜35°Cの範囲で発酵・熟成し、水分約44%、塩化カリウム濃度約9.7%の豆味噌を製造した。
(4)KCLβ−アラニン米味噌の製造
原料大豆27.2kgを一晩水に浸漬し、水切り後、蒸し釜に入れ、0.5〜1.0kg/cm
2で15〜50分間蒸して、蒸し大豆を得た。この蒸し大豆を網目寸法4〜5mm程度で播り潰した状態の蒸し豆を用意した。原料米20.0kgを一晩水に浸漬し、水切り後、30〜60分蒸し、蒸し米を得た。次いで冷却後、これに種麹を常法に従い適量まぶし、これを25〜40°Cの品温で約44時間かけて米麹を得た。なお、製麹工程中に乳酸菌としてTetragenococcus halophilus(DA−588、イチビキ社製)を蒸し米に対して10
5cell/gとなるように添加した。このように用意した蒸し大豆56.0kgと米糀16.0kgを、塩化カリウム8.52kgと種水1.0kgと共に仕込み容器内に仕込んだ。これに上蓋を載せて25〜35°Cの範囲で発酵・熟成し、水分約44%、塩化カリウム濃度約10.3%の米味噌を製造した。
【0050】
【表4】
【0051】
表4において、通常品との比較に基づいて、各種乳酸菌の作用により、アルギニンを消費してオルニチンを生成したこと、グルタミン酸を消費してγ−アミノ酪酸を生じたこと、アスパラギン酸を消費してアラニンを生成したことが推察され、これらのアミノ酸分解物を有する減塩豆味噌及び減塩米味噌をKClの存在下で特定の乳酸菌を用いて製造できることが実証された。
【0052】
実施例4(官能試験による塩味、苦味、酸味、味の厚み等の評価)
喫食時のカリウム濃度を一定にして、発酵乳酸の配合量や乳酸発酵(減塩)味噌の配合を減塩率30%の減塩豆味噌については表5〜表16、減塩率50%の減塩豆味噌については表20〜表29、減塩率30%の減塩米味噌については表33〜表42、減塩率50%の減塩米味噌については表46〜表53に記載の通りに変えることによって乳酸量が異なる即席味噌を製造し、それぞれ20gを採って160mlの熱湯を加えて喫食し、表17、表30、表43、表54に示す官能基準によって塩味、苦味、酸味、味の厚みの観点、および総合的な印象で5段階評価した。減塩豆味噌の結果を表18、表19、表31、表32に、減塩米味噌の結果を表44、表45、表55、表56にそれぞれ示す。表中、減塩率は、喫食時の食塩相当量が2.31gである豆味噌を標準品としたときの減塩率、MSGはL−グルタミン酸ナトリウム、INは、5’−イノシン酸二ナトリウムである。
なお、KCl豆味噌、KClオルニチン豆味噌は、実施例1の(1)に記載の方法により製造し、NaCl豆味噌及びNaClオルニチン豆味噌は、実施例1の(1)の塩化カリウムを塩化ナトリウムに置き換えて製造した。
【0053】
【表5】
【0054】
【表6】
【0055】
【表7】
【0056】
【表8】
【0057】
【表9】
【0058】
【表10】
【0059】
【表11】
【0060】
【表12】
【0061】
【表13】
【0062】
【表14】
【0063】
【表15】
【0064】
【表16】
【0065】
【表17】
【0066】
【表18】
【0067】
【表19】
【0068】
【表20】
【0069】
【表21】
【0070】
【表22】
【0071】
【表23】
【0072】
【表24】
【0073】
【表25】
【0074】
【表26】
【0075】
【表27】
【0076】
【表28】
【0077】
【表29】
【0078】
【表30】
【0079】
【表31】
【0080】
【表32】
【0081】
【表33】
【0082】
【表34】
【0083】
【表35】
【0084】
【表36】
【0085】
【表37】
【0086】
【表38】
【0087】
【表39】
【0088】
【表40】
【0089】
【表41】
【0090】
【表42】
【0091】
【表43】
【0092】
【表44】
【0093】
【表45】
【0094】
【表46】
【0095】
【表47】
【0096】
【表48】
【0097】
【表49】
【0098】
【表50】
【0099】
【表51】
【0100】
【表52】
【0101】
【表53】
【0102】
【表54】
【0103】
【表55】
【0104】
【表56】
【0105】
表から、KCl味噌に発酵乳酸を添加した味噌については、KClの配合割合と、添加した発酵乳酸量とが所定の範囲内にあるものについては、通常品と遜色ない(同等程度の塩味を感じる一方、苦味酸味を感じない味噌)ことがわかった。また、KClの存在下で発酵によりオルニチンと乳酸とを産生した味噌を使用した場合、味に厚みが出て、乳酸添加味噌の場合に比べて、乳酸量の許容範囲(上限と下限との間)が広がることがわかった。このことは、減塩率増加と充分な塩味との両立のためにカリウム濃度を高めた結果、顕著に出てくる苦味やえぐ味を抑えるべく乳酸量を多くしても、徒に酸味が際立つことがないことを意味する。
【0106】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内においてさらに種々の形態で実施することができる。