特許第6774727号(P6774727)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6774727接合補強用組成物および接合補強部の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774727
(24)【登録日】2020年10月7日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】接合補強用組成物および接合補強部の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 22/40 20060101AFI20201019BHJP
   B23K 35/363 20060101ALI20201019BHJP
   H05K 3/34 20060101ALI20201019BHJP
   B23K 35/26 20060101ALN20201019BHJP
   C22C 13/00 20060101ALN20201019BHJP
   C22C 12/00 20060101ALN20201019BHJP
【FI】
   C08F22/40
   B23K35/363 D
   B23K35/363 E
   H05K3/34 504A
   !B23K35/26 310A
   !B23K35/26 310C
   !C22C13/00
   !C22C12/00
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-73435(P2016-73435)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-179312(P2017-179312A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年1月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100139996
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 洋子
(72)【発明者】
【氏名】喜多村 明
(72)【発明者】
【氏名】久保田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】横田 裕樹
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−183317(JP,A)
【文献】 特開2015−32639(JP,A)
【文献】 特開2015−193725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C19/00−19/44
C08F2/00−2/60,
6/00−246/00,283/01,
290/00−290/14,
299/00−301/00
C08G73/00−73/26
C08K3/00−13/08
C08L1/00−101/14
C09J1/00−5/10,
9/00−201/10
H01L23/28−23/31
H05K3/32−3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱硬化性樹脂と、(B)活性剤と、(C)硬化剤とを含み、
前記熱硬化性樹脂(A)はマレイミド骨格を有するマレイミド化合物(A−1)を含み、
前記活性剤(B)の配合量は、はんだ接合補強用組成物の固形分全量に対して3重量%から50重量%であり、
前記硬化剤(C)は、イミダゾール化合物、イミダゾール塩類、メラミンおよびアミン類から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするはんだ接合補強用組成物。
【請求項2】
前記マレイミド化合物(A−1)は、末端または側鎖に複数のマレイミド基を有することを特徴とする請求項1に記載のはんだ接合補強用組成物。
【請求項3】
前記マレイミド化合物(A−1)として、下記一般式(1)および(2)で表されるマレイミド化合物の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のはんだ接合補強用組成物。
【化1】
(式中、Yは炭素数36または54の重合脂肪酸から誘導されるダイマージアミン残基または脂肪族ジアミン残基を表し、
Zは四塩基酸無水物と1級アミンの反応からなるイミド化合物残基を表し、
Pは0から10の整数を表す。)
【化2】
(式中、RからR水素、水酸基、メチル基またはエチル基のいずれかを表
Xは介在する有機基がない、若しくはC、H、Oからなる任意の有機基を表す。)
【請求項4】
前記マレイミド化合物(A−1)として、多官能芳香族マレイミド化合物および多官能脂肪族マレイミド化合物を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のはんだ接合補強用組成物。
【請求項5】
前記多官能芳香族マレイミド化合物と前記多官能脂肪族マレイミド化合物の配合比率は、重量比で5:95から95:5(多官能芳香族マレイミド化合物:多官能脂肪族マレイミド化合物)であることを特徴とする請求項4に記載のはんだ接合補強用組成物。
【請求項6】
基板と基板上に接合される被接合材との接合を補強する接合補強部の製造方法であって、
前記基板上および前記被接合材の少なくとも一方の所定の位置に接合用金属を設ける工程と、
前記基板または前記被接合材の所定の位置に請求項1から請求項のいずれか1項に記載のはんだ接合補強用組成物を塗布する工程と、
前記被接合材を前記基板上の所定の位置に載置してこれを加熱する工程と、
加熱により前記接合用金属を溶融させ前記基板と前記被接合材を接合する接合部を形成すると共に当該接合部に当接する領域およびその近傍領域の少なくとも一方に前記はんだ接合補強用組成物の硬化物からなる接合補強部を形成する工程とを含むことを特徴とする接合補強部の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合補強用組成物および接合補強部の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品といった被接合材を基板に実装する際には、はんだ合金を用いたはんだ接合が行われている。
【0003】
近年、電子機器に用いられる基板および電子部品等の被接合材は更なる小型化、薄型化が進められており、基板上には微小サイズの被接合材が多く搭載されている。そしてこれに伴い、はんだ接合の対象となる領域も微細、微小化が求められている。このような電子機器、特に今後より一層の機能が追加される自動車用電子機器においては、これに搭載される車載用基板にも小さく且つ多くの被接合材が搭載されるようになっており、微細、微小なはんだ接合(以下、「微細接合」という。)に対して求められる信頼性はより一層高くなることが予想される。
【0004】
従来、パッケージ部品などの微細接合が行われるものには、信頼性の観点から、基板と被接合材とのはんだ接合部にアンダーフィル等の手法で樹脂を充填、硬化することでこれを補強していた。しかし基板上に実装される部品が微細になればなるほど各はんだ接合部間および基板と被接合材間が近接するようになるため、例えばはんだ接合後に樹脂を充填するいわゆるキャピラリーアンダーフィルの場合、はんだ接合部間等への樹脂の充填に時間がかかる等の問題がある。
【0005】
また先に樹脂を塗布し被接合材を接合する場合もあり、この樹脂としてはエポキシ樹脂を用いることが多い(特許文献1)。しかしエポキシ樹脂はこれと併用する有機酸やアミンの種類によってこれと反応し易いという特性を有するいため、これらを混合した段階から両者の反応が始まり、シェルフライフの悪化や混合物の粘度の上昇を引き起こし、接合部の補強効果が阻害される虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016−23299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、使用する活性剤を選ぶことなく良好なシェルフライフおよび粘度を実現し、微細接合においても手間なく良好な接合部の形成およびその補強効果を発揮することのできる接合補強用組成物およびこれを用いた接合補強部の製造方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の接合補強用組成物は、(A)熱硬化性樹脂と、(B)活性剤とを含み、前記熱硬化性樹脂(A)はマレイミド骨格を有するマレイミド化合物(A−1)を含むことをその特徴とする。
【0009】
(2)上記(1)に記載の構成にあって、前記マレイミド化合物(A−1)は、末端または側鎖に複数のマレイミド基を有することをその特徴とする。
【0010】
(3)上記(1)または(2)に記載の構成にあって、前記マレイミド化合物(A−1)としては、下記一般式(1)および(2)で表されるマレイミド化合物の少なくとも一方を含むことをその特徴とする。
【0011】
【化1】
(式中、Yは炭素数36または54の重合脂肪酸から誘導されるダイマージアミン残基または脂肪族ジアミン残基を表し、Zは四塩基酸無水物と1級アミンの反応からなるイミド化合物残基を表し、Pは0から10の整数を表す。)
【0012】
【化2】
(式中、RからR水素、水酸基、メチル基またはエチル基のいずれかを表、Xは介在する有機基がない、若しくはC、H、Oからなる任意の有機基を表す。)
【0013】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1に記載の構成にあって、本発明の接合補強用組成物は更に(C)硬化剤を含むことをその特徴とする。
【0014】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1に記載の構成にあって、前記硬化剤(C)は、イミダゾール化合物、イミダゾール塩類、過酸化物類、メラミンおよびアミン類から選ばれる少なくとも1種であることをその特徴とする。
【0015】
(6)上記(1)から(5)のいずれか1項に記載の構成にあって、本発明の接合補強用組成物は基板と被接合材とのはんだ接合の補強に用いられ、前記基板と前記被接合材とをはんだ接合する接合部を形成する接合用金属のはんだ溶融時における粘度が10Pa・s以下であり、且つ300℃におけるその粘度が100Pa・s以上であることをその特徴とする。
【0016】
(7)本発明の接合補強部の製造方法は、基板上および被接合材の少なくとも一方の所定の位置に接合用金属を設ける工程と、前記基板または前記被接合材の所定の位置に上記(1)から(6)のいずれか1に記載の接合補強用組成物を塗布する工程と、前記被接合材を前記基板上の所定の位置に載置してこれを加熱する工程と、加熱により前記接合用金属を溶融させ前記基板と前記被接合材を接合する接合部を形成すると共に当該接合部に当接する領域およびその近傍領域の少なくとも一方に前記接合補強用組成物の硬化物からなる接合補強部を形成する工程とを含むことをその特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の接合補強用組成物および接合補強部の製造方法は、使用する活性剤を選ぶことなく良好なシェルフライフおよび粘度を実現し、微細接合においても手間なく良好な接合部の形成およびその補強効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例および比較例の接合補強用組成物に係るはんだ接合性試験における加熱プロファイル条件を示したグラフ。
図2】実施例1および比較例2の接合補強用組成物に係るレオメーター試験において測定した粘度を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の接合補強用組成物および接合補強部の製造方法の一実施形態を以下に詳述する。
【0020】
1.接合補強用組成物
本実施形態に係る接合補強用組成物は、(A)熱硬化性樹脂と、(B)活性剤とを含む。
【0021】
(A)熱硬化性樹脂
本実施形態の接合補強用組成物に使用する熱硬化性樹脂(A)としては、(A−1)マレイミド骨格を有するマレイミド化合物が好ましく用いられる。当該マレイミド化合物(A−1)としては、末端または側鎖に複数のマレイミド基を有する化合物が好ましく用いられる。
このようなマレイミド化合物(A−1)は耐熱性、絶縁性、耐湿性および低誘電特性に優れ、また活性剤(B)と反応し難い。そのため本実施形態の接合補強用組成物はその粘度の上昇を抑制することができ、またこれを用いて形成される接合補強部は良好な耐熱性、絶縁性および耐湿性を実現できる。
【0022】
前記マレイミド化合物(A−1)としては例えば多官能脂肪族マレイミド化合物や多官能芳香族マレイミド化合物が好ましく用いられる。また当該多官能脂肪族化合物としては、下記一般式(1)で表されるマレイミド化合物(A−1)が好ましく用いられる。
【0023】
【化3】
(式中、Yは炭素数36または54の重合脂肪酸から誘導されるダイマージアミン残基または脂肪族ジアミン残基を表し、Zは四塩基酸無水物と1級アミンの反応からなるイミド化合物残基を表し、Pは0から10の整数を表す。)
【0024】
前記一般式(1)で表されるマレイミド化合物(A−1)は、例えば炭素数36または54のダイマー酸から誘導されたジアミンとマレイン酸無水物とを反応させてビスマレアミド酸を得、これを脱水閉環することにより得られる。
【0025】
前記一般式(1)で表されるマレイミド化合物(A−1)としては、例えば2−[8−(3−ヘキシル−2,6−ジオクチルシクロヘキシル)オクチル] ピロメリティックジイミドオリゴマーが挙げられる。市販品としては例えばBMI−689、BMI−1500、BMI−1700、BMI−3000、 BMI−5000(いずれもDesigner Molecules Inc.製)が好ましく用いられる。
【0026】
また前記多官能芳香族マレイミド化合物としては、下記一般式(2)で表されるマレイミド化合物(A−1)が好ましく用いられる。
【0027】
【化4】
(式中、RからR水素、水酸基、メチル基またはエチル基のいずれかを表、Xは介在する有機基がない、若しくはC、H、Oからなる任意の有機基を表す。)
【0028】
前記一般式(2)で表されるマレイミド化合物(A−1)は、例えば芳香族ジアミンと無水マレイン酸の脱水イミド化により得られる。
【0029】
前記一般式(2)で表されるマレイミド化合物としては、例えば4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、3,3’−ジメチル−5,5’−ジエチル−4、4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、4,4’−ジフェニルエーテルビスマレイミド、4,4’−ジフェニルスルホンビスマレイミド等が挙げられる。なお市販品としては例えばBMI、BMI−70、BMI−80(いずれもケイ・アイ化成(株)製)が挙げられる。
【0030】
なお前記マレイミド化合物(A−1)としては、特にビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミドが好ましく用いられる。
また前記マレイミド化合物(A−1)は1種を単独でまたは複数種を組合せて使用することができるが、前記多官能芳香族マレイミド化合物を用いる場合、多官能脂肪族マレイミド化合物と併用することがより好ましい。
【0031】
前記マレイミド化合物(A−1)の配合量は、前記熱硬化性樹脂(A)全量に対して10重量%から100重量%であることが好ましい。より好ましいその配合量は20重量%から90重量%であり、特に好ましくは30重量%から80重量%である。
なお前記多官能芳香族マレイミド化合物と多官能脂肪族マレイミド化合物とを併用する場合、その配合比率は5:95から95:5(多官能芳香族マレイミド化合物:多官能脂肪族マレイミド化合物)である。
【0032】
また前記熱硬化性樹脂(A)としては、本実施形態の接合補強用組成物の効果を阻害しない範囲において、前記マレイミド化合物(A−1)以外に例えばエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ロジン樹脂、アクリル樹脂、マレイン酸樹脂、ブチラール樹脂等の他の熱硬化性樹脂を用いることもできる。
【0033】
なお、前記熱硬化性樹脂(A)の配合量は、本実施形態に係る接合補強用組成物の固形分全量に対して5重量%から95重量%であることが好ましい。より好ましいその配合量は20重量%から90重量%であり、特に好ましくは30重量%から80重量%である。
【0034】
(B)活性剤
前記活性剤(B)としては、例えば有機アミンのハロゲン化水素塩等のアミン塩(無機酸塩や有機酸塩)、有機酸、有機酸塩、有機アミン塩を配合することができる。更に具体的には、ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩、シクロヘキシルアミン臭化水素酸塩、ジエチルアミン塩、酸塩、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸等が挙げられる。これらの中でも特にアジピン酸が好ましく用いられる。またこれらは1種を単独で、または複数種を組合せて使用することができる。
【0035】
本実施形態の接合補強用組成物は、主たる前記熱硬化性樹脂(A)として前記マレイミド化合物(A−1)を含むことにより、当該熱硬化性樹脂(A)と活性剤(B)との反応を抑制することでその粘度の上昇を抑制し、良好なシェルフライフを実現できる。また前記活性剤(B)の活性力を高い状態で保つことができることから、当該接合補強用組成物を塗布した基板上に接合用金属を設けてこれを加熱することで接合部と接合補強部とを形成する場合にも良好な接合用金属の溶融性を実現することができる。
なお粘度の上昇を抑制し得るため、本実施形態の接合補強用組成物は、無溶剤であっても好適に使用することができる。
【0036】
前記活性剤(B)の配合量は、接合補強用組成物の固形分全量に対して3重量%から50重量%であることが好ましい。より好ましいその配合量は5重量%から30重量%であり、特に好ましくは8重量%から20重量%である。
【0037】
(C)硬化剤
本実施形態の接合補強用組成物には、更に(C)硬化剤を配合することができる。当該硬化剤(C)を併用することにより、形成される接合補強部の硬度および弾性率を高めることができる。
前記硬化剤(C)としては、例えばイミダゾール化合物、イミダゾール化合打つ、過酸化物類、メラミンおよびアミン類が挙げられる。これらの中でも特にイミダゾール化合物が好ましく用いられる。またこれらは1種を単独で、または複数種を組合せて使用することができる。
【0038】
前記イミダゾール化合物としては、例えばイミダゾール、ベンゾイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、4−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール等が挙げられる。
【0039】
前記イミダゾール塩類としては、例えばイミダゾール化合物の塩酸塩、イソシアヌール酸付加物および多価カルボン酸付加物等が挙げられる。
【0040】
前記過酸化物類としては、例えばケトンパーオキサイド類、ジアシルキルパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、アルキルパーエステル類、パーカーボネート類等の有機過酸化物が挙げられる。
【0041】
前記メラミンとしては、メラミン、メラミン誘導体等が挙げられる。
【0042】
前記アミン類としては、例えばジシアンジアミド、ベンジルジメチルアミン、4−(ジメチルアミノ)−N,N−ジメチルベンジルアミン、4−メトキシ−N,N−ジメチルベンジルアミン、4−メチル−N,N−ジメチルベンジルアミン等が挙げられる。
【0043】
前記硬化剤(C)としては、前記熱硬化性樹脂(A)の熱硬化を促進するものであれば上記以外のものであってもいずれも使用することができる。
【0044】
前記硬化剤(C)の配合量は、接合補強用組成物の固形分全量に対して0.5重量%から50重量%であることが好ましい。より好ましいその配合量は1重量%から30重量%であり、特に好ましくは3重量%から10重量%である。
なお、本実施形態の接合補強用組成物は、その構成により、前記硬化剤(C)を上記範囲内で配合した場合であっても組成物中の成分の反応およびその進行を抑制し得るため、良好な粘度を保つことができる。
【0045】
(D)チクソ剤
本実施形態の接合補強用組成物には、更に(D)チクソ剤を配合することができる。当該チクソ剤(D)としては、例えばヒマシ油、水素添加ヒマシ油、脂肪酸アマイド類、オキシ脂肪酸類等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。またこれらは1種を単独で、または複数種を組合せて使用することができる。
前記チクソ剤(D)の配合量は、接合補強用組成物の固形分全量に対して0.1重量%から10重量%であることが好ましい。より好ましいその配合量は0.5重量%から5重量%であり、特に好ましくは1重量%から3重量%である。
【0046】
(E)酸化防止剤
本実施形態の接合補強用組成物には、更に(E)酸化防止剤を配合することができる。当該酸化防止剤(E)としては、例えばヒンダードフェノール化合物(セミヒンダード系化合物を含む)、フェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、ポリマー型酸化防止剤、トリアゾール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄化合物(ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジラウリルスルフィド、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトメチルベンズイミダゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラキス(2−エチルへキシル)チウラムジスルフィド、N,N’−ジフェニルチオ尿素、ジチオカルバミン酸亜鉛塩、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、ブチルキサントゲン酸亜鉛等)等が挙げられる。これらは1種を単独で、または複数種を組合せて使用することができる。
前記酸化防止剤(E)の配合量は、接合補強用組成物の固形分全量に対して0.01重量%から10重量%であることが好ましい。より好ましいその配合量は0.1重量%から8重量%であり、特に好ましくは1重量%から5重量%である。
【0047】
(F)溶剤
本実施形態の接合補強用組成物には、更に(F)溶剤を配合することができる。当該溶剤(F)としては、例えばイソプロピルアルコール、エタノール、アセトン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、グリコールエーテル等を使用することができるが、これらに限定されるものではない。またこれらは1種を単独で、または複数種を組合せて使用することができる。
前記溶剤(F)の配合量は、接合補強用組成物全量に対して0重量%から90重量%であることが好ましい。より好ましいその配合量は10重量%から80重量%であり、特に好ましくは20重量%から50重量%である。
【0048】
また本実施形態の接合補強用組成物には、その他の樹脂、並びにハロゲン、つや消し剤、消泡剤およびフィラー等の添加剤を加えてもよい。
これらの配合量は、接合補強用組成物の固形分全量に対して0.1重量%から10重量%であることが好ましい。より好ましいその配合量は0.5重量%から5重量%であり、特に好ましくは1重量%から3重量%である。
【0049】
本実施形態の接合補強用組成物は、電子機器等に用いられる、はんだ接合された基板と被接合材において、両者のはんだ接合の補強に好適に用いることができる。
【0050】
本実施形態の接合補強用組成物は、基板と被接合材とのはんだ接合の補強に用いられ、前記基板と前記被接合材とをはんだ接合する接合部を形成する接合用金属のはんだ溶融時の粘度が10Pa・s以下であり、且つ300℃におけるその粘度が100Pa・s以上であることが好ましい。この粘度の測定方法としては、例えばレオメーターを用い、レオメーターの付属容器に前記接合補強用組成物と粉末状の前記接合用金属を入れて測定する。当該接合補強用組成物は、接合補強部の形成の際、前記接合用金属に接するように前記基板および前記被接合材の少なくとも一方に塗布される場合があり、この場合においては加熱時に前記接合用金属に接してその溶融性を向上させ、はんだ接合部の形成を補助する役割も担うため、当該接合用金属と合わせた状態で粘度を測定する。なおその際の測定条件としては、室温から300℃まで5℃/minの昇温条件にて加熱し、ギャップ0.50mm、周波数1Hzである。
【0051】
即ち、本実施形態の接合補強用組成物は、以下に例示する、基板と被接合材とをはんだ接合する接合部を形成する接合用金属の溶融温度における粘度が10Pa・s以下であることが好ましい。前記接合用金属として例えばSn−3Ag−0.5Cuはんだ合金を用いる場合、当該接合用金属の溶融時(溶融温度:約217℃から約220℃)における粘度が10Pa・s以下であり、300℃の粘度が100Pa・s以上であることが好ましい。また前記接合用金属として例えばSn−58Biはんだ合金を用いる場合、当該接合用金属の溶融時(約138℃)における粘度が10Pa・s以下であり、300℃の粘度が100Pa・s以上であることが好ましい。
本実施形態の接合補強用組成物の粘度を上記範囲に設定することで、一定温度までの粘度を低く抑えられると共に、加熱後は良好な硬度を有する接合補強部を提供することができる。
【0052】
2.接合補強部の製造方法
次に、本実施形態の接合補強用組成物を用いた接合補強部の製造方法について説明する。なお本発明の接合補強用組成物の用途、およびこれを用いた接合補強部の製造方法はこの製造方法に限定されるものではない。
【0053】
本実施形態の接合補強部の製造方法は、例えば基板上および被接合材の少なくとも一方の所定の位置に接合用金属を設ける工程と、前記基板または前記被接合材の所定の位置に本実施形態の接合補強用組成物を塗布する工程と、前記被接合材を前記基板上の所定の位置に載置してこれを加熱する工程と、加熱により前記接合用金属を溶融させ前記基板と前記被接合材を接合する接合部を形成すると共に当該接合部に当接する位置およびその近傍の少なくとも一方に前記接合補強用組成物の硬化物からなる接合補強部を形成する工程とを含む。以下各工程について説明する。
【0054】
まず基板上および被接合材の少なくとも一方の所定の位置に接合用金属を設ける工程について、当該接合用金属としては、例えば錫および鉛を含む合金、錫および鉛並びに銀、ビスマスおよびインジウムの少なくとも1種を含む合金、錫および銀を含む合金、錫および銅を含む合金、錫、銀および銅を含む合金、錫およびビスマスを含む合金等を用いることができる。またこれら以外にも、例えば錫、鉛、銀、ビスマス、インジウム、銅、亜鉛、ガリウム、アンチモン、金、パラジウム、ゲルマニウム、ニッケル、クロム、アルミニウム、リン等を適宜組合せたはんだ合金を使用することができる。なお、上記に挙げた元素以外であってもその組合せに使用することは可能である。
これらの中でも特に錫、銀および銅を含む合金、例えば錫−鉛系合金、錫−銀系合金はんだ、錫−銀−銅系合金、錫−銀−銅−ビスマス系合金、錫−銀−銅−インジウム系合金、錫−銀−銅−ビスマス−インジウム系合金が好ましく用いられる。これらの中でも特に、Sn−3Ag−0.5Cu合金、Sn−58Bi等が好ましく用いられる。
【0055】
前記接合用金属を前記基板上に設ける方法としては、例えば当該金属からなるはんだボールの載置、めっき、ソルダペースト組成物の塗布等が挙げられるが、前記基板上に前記接合用金属を設けることができるものであればこれらに限定されずいずれの方法を用いることができる。また予めはんだボールが設けられているボールグリッドアレイパッケージ(BGAパッケージ)を用いてもよい。
なお前記接合用金属を設ける位置は前記被接合材の種類、基板の用途および回路設計等により適宜決定される。また前記接合用金属は前記基板および被接合材の少なくとも一方に設けられていればよい。
【0056】
また前記基板としては、プリント配線板、シリコンウエハ、セラミックパッケージ基板等、電子部品の搭載、実装に用いられるものであればこれらに限らず基板として使用することができる。更に前記被接合材としては、例えば電子部品等、基板上に接合されるものが挙げられる。なお当該接合は電気的な接合を伴うものであっても伴わないものであってもいずれでもよい。
【0057】
次に前記基板または前記被接合材の所定の位置に本実施形態の接合補強用組成物を塗布する工程について、当該接合補強用組成物を塗布する位置は前記被接合材の種類、基板の用途および回路設計等により適宜決定されるが、例えば前記接合用金属が設けられた領域、その周辺、前記基板や前記被接合材の角部近傍等が挙げられる。なお形成される接合部の補強および接合部形成時の前記接合用金属の溶融性向上を考慮すると、前記接合用金属が設けられた領域およびその周辺の少なくとも一方に塗布されることが好ましい。
また前記接合補強用組成物の塗布方法としては、例えばスピンコーター、ディスペンサー、ジェットディスペンサー、ローラ等で塗布する方法や、スクリーン印刷、メタルマスク印刷等が挙げられる。
なお塗布する前記接合補強用組成物の量および厚みは前記接合用金属の大きさおよび高さにより適宜調整されるが、少なくとも前記接合用金属の高さ寸法よりも厚くすることが好ましい。
【0058】
また前記被接合材を前記基板上の所定の位置に載置してこれを加熱する工程について、前記被接合材の載置位置は前記被接合材の種類、基板の用途および回路設計等により適宜決定される。
上記加熱の条件は前記接合用金属の種類、特に溶融温度により適宜決定される。前記接合用金属として例えばSn−Ag−Cu系合金を用いる場合、プリヒート条件は150℃から180℃の温度下で60秒から120秒で、ピーク温度を220℃から260℃に設定することができる。
なお前記基板と前記被接合材は、圧着しながら加熱する、いわゆる熱圧着方法により加熱をしてもよい。
上記加熱に使用する装置としては、例えばリフロー装置や熱圧着装置等が挙げられ、その加熱条件によって適宜選択される。
【0059】
そして上記加熱により前記接合用金属が溶融し、前記基板と前記被接合材を接合する接合部が形成される。またこれと共に前記接合補強用組成物が塗布された位置、例えば前記接合部に当接する位置およびその近傍の少なくとも一方に前記接合補強用組成物の硬化物からなる接合補強部が形成される。
なお当該接合補強部は、前記基板と前記接合材と前記接合部により形成される空間(前記基板上に絶縁層が形成されている場合は前記絶縁層と前記接合材と前記接合部により形成される空間でもよい)を埋めるように形成されていることが好ましい。
【0060】
本実施形態の接合補強部の製造方法によれば、加熱によって前記接合部と前記接合補強部が同時に形成されるため、微細接合においても手間なく良好な接合部を形成でき、且つ接合補強部による補強効果を発揮することができる。
また前記接合補強部は本実施形態の接合補強用組成物により形成されるため、耐熱性、絶縁性、耐湿性および低誘電特性に優れる。更には、当該接合補強部は、はんだ接合された基板および被接合材における前記はんだ接合部への応力を低減する効果を奏する。
【0061】
また本実施形態の接合補強部の製造方法により形成される接合補強部を有する電子回路基板は、自動車用電子機器のようにより高い信頼性が求められる電子機器にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳述する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0063】
表1に記載の各成分を混練し、実施例1から5、および比較例1から3に係る各接合補強用組成物を得た。なお、特に記載のない限り、表1に記載の数値は重量%を意味するものとする。
【0064】
【表1】
※1 ケイ・アイ化成(株)製 芳香族ビスマレイミド化合物
※2 ケイ・アイ化成(株)製 芳香族ビスマレイミド化合物
※3 Designer Molecules Inc.製 脂肪族ビスマレイミド化合物
※4 Designer Molecules Inc.製 脂肪族ビスマレイミド化合物
※5 DIC(株)製 ビスフェノールF型エポキシ樹脂
※6 DIC(株)製 2官能ナフタレン型エポキシ樹脂
※7 東亜合成(株)製 イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート
※8 岡村製油(株)製 エイコサン二酸
※9 四国化成(株)製 2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール
※10 新日本理化(株)ジベンジリデンソルビトール
※11 BASFジャパン(株)製 ヒンダードフェノール系酸化防止剤
【0065】
1.ガラス転移温度
厚み100μmの銅フィルムを準備し、これに各接合補強用組成物をその厚みが100〜200μmとなるようにアプリケーターを用いて印刷した。印刷後の各銅フィルムについて、印刷された各接合補強用組成物が十分に硬化する加熱条件(180℃の温度下で3時間)にて加熱し、各銅フィルム上に硬化膜を形成した。次いで得られた各硬化膜を各銅フィルムより剥離し、縦40mm×横5mmの大きさにカットした。そしてThermal Mechanical Analysis(以降、TMAという。)を用い、昇温速度10℃/min、温度範囲30〜300℃の条件下にて、各硬化膜のガラス転移温度を測定し、120℃以上のものを○、120℃未満のものを×として評価した。その結果を表2に表す。なおガラス転移温度はTMAにて得られたデータを基準として計算した。
【0066】
2.はんだ接合性
BGA基板(Sn−3Ag−0.5Cu組成のはんだボール搭載、0.5mmピッチ、228ピン)と当該BGA基板に対応するCu電極が形成されたFR−4板とを用意した。当該FR−4基板上のCu電極に当該各接合補強用組成物を塗布し、これらを高温観察装置(製品名:SMT Scope、山陽精工(株)製)を用いて図1に表す加熱プロファイル条件にてリフローし各試験基板を得た。
各試験基板の導通性(はんだ接合が正常で導通しているか否か)について、導通性が得られる場合を〇、得られない場合を×として評価した。その結果を表2に表す。
【0067】
3.粘度
各接合補強用組成物を容器に入れ、これを25℃の温度下で2〜3時間放置した。その後各容器の蓋をあけ、中の各接合補強用組成物をスパチュラを用いて空気の混入を避けるようにして1〜2分間かき混ぜた。次いで当該容器を粘度計(商品名:PCU105、(株)マルコム製)に入れ、回転速度10rpmにて25℃の温度下にて約3分間攪拌した。その後回転を停止させ、温度が一定になるまで待った後、温度を調節した上で回転速度10rpmにて3分間攪拌し、その粘度を測定した。その結果を表2に表す。
【0068】
4.10℃シェルフライフ
各接合補強用組成物について、混練後の粘度を測定した。次いで各接合補強用組成物を容器に入れて10℃の温度下にて30日間放置し、放置後の各接合補強用組成物について粘度を測定した。放置前の粘度と放置後の粘度について、以下の式を用いて変化率を計算し、その変化率が±20%以内のものを○、±20%超のものを×とした。その結果を表2に表す。なおこれらの粘度は上記粘度試験と同じ条件にて測定した。
(放置後の粘度−放置前の粘度)/放置前の粘度×100
【0069】
5.−10℃シェルフライフ
容器に入れた各接合補強用組成物を−10℃の温度下にて放置する以外は上記10℃シェルフライフ試験と同じ条件にて粘度を測定および評価した。その結果を表2に表す。
【0070】
6.レオメーター試験
レオメーター(商品名:HAKKEMARSIII、Thermo Fisher Scientific,Inc.製)を用い、その付属容器に各接合補強用組成物を入れ、これらについて粘度上昇が開始した温度と180℃における粘度を測定した。その結果を表2に表す。また実施例1および比較例2について測定した粘度のグラフを図2に表す。なお、粘度の測定条件は室温から300℃まで5℃/minの昇温条件にて加熱し、ギャップ0.50mm、周波数1Hzとした。また上記の粘度上昇が開始した温度とは、大幅な粘度低下を伴わず1,000Pa・sを超えた際の、その粘度の上昇開始温度を指す。
【0071】
【表2】
【0072】
以上、本実施例の接合補強用組成物は、使用する活性剤を選ぶことなく、10℃および−10℃の温度下で放置した場合であっても良好なシェルフライフおよび良好な粘度を実現できると共に、接合部を形成するはんだボールに良好な溶融性を付与することができるため、その結果、良好な接合信頼性を確保できる。
また本実施例の接合補強用組成物は、上述の条件下における180℃での粘度が0.1〜10Pa・sと低く、また大幅に上昇する温度が160℃以上と高い。そのため、これを用いて接合補強部を形成する際にも良好な粘度を実現することができる。
従ってこのような接合補強用組成物により形成される接合補強部を有する電子回路基板は、自動車用電子機器のようにより高い信頼性が求められる電子機器にも好適に用いることができる。

図1
図2