特許第6774732号(P6774732)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6774732非炭酸飲料、及びその製造方法、並びに非炭酸飲料におけるレトロネイザルアロマの組成の変化抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774732
(24)【登録日】2020年10月7日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】非炭酸飲料、及びその製造方法、並びに非炭酸飲料におけるレトロネイザルアロマの組成の変化抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/52 20060101AFI20201019BHJP
【FI】
   A23L2/52 101
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-168312(P2014-168312)
(22)【出願日】2014年8月21日
(65)【公開番号】特開2016-42813(P2016-42813A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2017年8月3日
【審判番号】不服2019-11791(P2019-11791/J1)
【審判請求日】2019年9月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】312017444
【氏名又は名称】ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100215957
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 明照
(72)【発明者】
【氏名】永安 弘樹
【合議体】
【審判長】 村上 騎見高
【審判官】 大熊 幸治
【審判官】 関 美祝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−72293(JP,A)
【文献】 特開2007−319050(JP,A)
【文献】 特開2013−5787(JP,A)
【文献】 特開2005−58142(JP,A)
【文献】 Beverage Japan,2011,34(10),22
【文献】 Beverage Japan,2012,35(9),8
【文献】 最新・ソフトドリンクス,2003,初版,株式会社光琳,196−198
【文献】 東洋食品工業短大・東洋食品研究所 研究報告書,2009,27,65−69
【文献】 日本調理科学会誌,2013,46(5),315−323
【文献】 ミルクサイエンス,2009,57(3),131−133
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00-2/84
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンCを1200〜1800ppm含有した、糖質甘味料と高甘味度甘味料とレモン果汁を含む非炭酸飲料であって、前記非炭酸飲料全体の甘味強度に対する前記高甘味度甘味料由来の甘味強度が25%以上である、レモン果汁含有非炭酸飲料(ただし、グアーガム、寒天、ペクチン、エリスリトール、マルチトール、コンドロイチン硫酸およびプロテオグリカンからなる群より選ばれる1種以上を配合する飲料、ジグリセリンミリスチン酸エステル及び/又はその塩を含有する酸性乳性飲料および卵殻膜粉末、魚類由来コラーゲンペプチドおよびN−アセチルグルコサミンを含有する飲料を除く。)。
【請求項2】
容器詰め飲料である、請求項1に記載の非炭酸飲料。
【請求項3】
加温販売用飲料である、請求項1〜2のいずれか一項に記載の非炭酸飲料。
【請求項4】
レトロネイザルアロマの組成の変化が抑制されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の非炭酸飲料。
【請求項5】
全原料中のビタミンC含有量が1200〜1800ppmとなるように調整する工程及び糖質甘味料と高甘味度甘味料とレモン果汁を添加する工程を含み、非炭酸飲料全体の甘味強度に対する前記高甘味度甘味料由来の甘味強度が25%以上である、レモン果汁含有非炭酸飲料(ただし、グアーガム、寒天、ペクチン、エリスリトール、マルチトール、コンドロイチン硫酸およびプロテオグリカンからなる群より選ばれる1種以上を配合する飲料、ジグリセリンミリスチン酸エステル及び/又はその塩を含有する酸性乳性飲料および卵殻膜粉末、魚類由来コラーゲンペプチドおよびN−アセチルグルコサミンを含有する飲料を除く。)の製造方法。
【請求項6】
前記非炭酸飲料が、容器詰め飲料である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記非炭酸飲料が、加温販売用飲料である、請求項5〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記非炭酸飲料が、レトロネイザルアロマの組成の変化が抑制されているものである、請求項5〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
レモン果汁含有非炭酸飲料のレトロネイザルアロマの組成の変化抑制方法であって、
ビタミンCの含有量が、糖質甘味料と高甘味度甘味料とレモン果汁を含む非炭酸飲料全量を基準として、1200〜1800ppmとなるように調整することを含む、レトロネイザルアロマの組成の変化抑制方法。
【請求項10】
前記非炭酸飲料全体の甘味強度に対する前記高甘味度甘味料由来の甘味強度が25%以上である、請求項9に記載の変化抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非炭酸飲料、及びその製造方法、並びに非炭酸飲料におけるレトロネイザルアロマの組成の変化抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、果汁入り飲料を含む各種飲料が、冷却されたり、加温されたりした状態で保存、販売されている。
【0003】
冷却、加温等による温度変化や、長期の保存によって、従来の飲料においては、香りの変化、風味の劣化等の品質変化や、液色の褐変等の色調変化が生じる場合がある。
【0004】
加温販売に供される果汁飲料の加温による品質の劣化や液色の褐変等の色調変化を抑制する方法としては、例えば特許文献1に、加温販売用果汁飲料の加温による劣化を抑制する方法であって、前記果汁飲料の製造工程において、ショ糖と高甘味度甘味料とを、前記ショ糖の甘味度と配合量との積及び前記高甘味度甘味料の甘味度と配合量との積の和が所定の値になるように配合することを特徴とする加温劣化抑制方法が提案されている。
【0005】
低温(コールド)でも、加温(ホット)でも美味しく飲用することができる嗜好性の高い果汁飲料を提供する方法としては、例えば特許文献2に、果汁飲料原料に、ショ糖、麦芽糖及びブドウ糖からなる糖類の1種又は2種以上を添加して、果汁飲料の糖酸比を15〜50に調整することを特徴とする果汁飲料の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−072293号公報
【特許文献2】特開2008−035753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、香りの変化を抑制する方法に関しては、十分な検討がなされているとはいえない。飲料における香りは、消費者にとって、風味や色調以上に重要な要素である場合が多い。したがって、商品価値を維持、向上させるためにも、香りの変化抑制は、非常に重要である。
【0008】
そこで、本発明は、レトロネイザルアロマの組成の変化が抑制された非炭酸飲料、及びその製造方法を提供すること、並びに非炭酸飲料におけるレトロネイザルアロマの組成の変化抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
飲料の香り評価には、飲料中の香気成分を、液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィー等で測定する方法が採用されることが多い。ヘッドスペース法は、このような測定方法の一例であり、容器詰め飲料における、容器上方のスペース(ヘッドスペース)に出てきている香気成分を測定し、評価する方法のことである。
【0010】
本発明者らの検討により、ヘッドスペース法による評価は、消費者が感じている香りの評価法としては有効でない場合があることが判明した。例えば、飲料を加温保存した前後の香り評価において、ヘッドスペース法による評価結果としては大きな差がみられないにも関わらず、消費者は香りの変化あるいは劣化を感じている場合がある。
【0011】
図5は、2種類の市販レモン果汁入り非炭酸飲料(参考例1及び参考例2)の香気成分組成について、ヘッドスペース法により測定評価した結果である。図5に示すグラフは、ヘッドスペース法により測定される香気成分の組成を示しており、このグラフから香気成分全体に占める各香気成分の割合を確認することができる。未経時におけるグラフと経時におけるグラフとで、各香気成分の記載順序に変更はない。それぞれの飲料について、購入時(未経時)及び60℃、2週間の条件で保管した後(経時)の香気成分組成を測定した。主たる成分であるリモネン(limonen)に着目すると、その変化の動向は、2種類の非炭酸飲料において大きな違いは見られなかった。しかし、消費者を模した熟練したパネルによる官能試験の評価では、参考例2に比べて、参考例1の飲料の香りの変化が大きいとの結果となっていた。
【0012】
図6は、上記参考例1及び2の非炭酸飲料の香気成分組成について、レトロネイザルアロマ分析法により測定評価した結果である。図6に示すグラフは、レトロネイザルアロマ分析法により測定される香気成分の組成を示しており、このグラフから香気成分全体に占める各香気成分の割合を確認することができる。図5と同様、未経時におけるグラフと経時におけるグラフとで、各香気成分の記載順序に変更はない。ヘッドスペース法による評価では、参考例1と参考例2とで大きな違いは観測されなかったが、レトロネイザルアロマ分析法の分析結果においては、参考例1と参考例2とで、大きな差がみられた。レトロネイザルアロマ分析法による測定結果は、主たる成分であるリモネンの量について、未経時の状態でも参考例1と2とで大きな差があることを示している。消費者が感じている香りの変化は、このレトロネイザルアロマの組成によく対応しており、香りの変化抑制の評価指標としては、レトロネイザルアロマの組成に着目することが重要である。なお、レトロネイザルアロマとは、消費者が飲料を飲んだ際に、飲料に含まれる香気成分のうち、喉の奥から鼻に抜けて感じられる口中香のことを示す。
【0013】
本発明者らは、更なる検討により、飲料中におけるビタミンCの含有量が所定量となるように調整することによって、加温や経時によるレトロネイザルアロマの組成の変化が抑制されることを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、ビタミンCを900〜2200ppm含有する、非炭酸飲料を提供する。
【0015】
上記非炭酸飲料は、レトロネイザルアロマの組成の変化が抑制されたものとなっている。ここで、レトロネイザルアロマの組成変化が抑制されていることについては、本願の実施例に記載のレトロネイザルアロマ分析法の具体的な方法に沿った測定により、確認することができる。
【0016】
本発明の非炭酸飲料は、果汁又は野菜汁を含有してもよい。レトロネイザルアロマは、果汁又は野菜汁に由来するものであってもよく、果汁又は野菜汁を含有する場合にも、レトロネイザルアロマの組成変化を抑制することができる。
【0017】
果汁としては、レモン果汁であってもよい。
【0018】
本発明の非炭酸飲料は、容器詰め飲料としてもよい。上記非炭酸飲料は、加温や経時によるレトロネイザルアロマの組成の変化が抑制されていることから、容器詰め飲料として保存、流通させるのに適している。
【0019】
本発明の非炭酸飲料は、加温販売用飲料としてもよい。上記非炭酸飲料は、加温によるレトロネイザルアロマの組成の変化も抑制されていることから、加温販売用飲料としても適する。
【0020】
本発明の非炭酸飲料は、レトロネイザルアロマの組成の変化が抑制されたものとなりうる。
【0021】
本発明はまた、全原料中のビタミンC含有量が900〜2200ppmとなるように調整する工程を含む、非炭酸飲料の製造方法を提供する。
【0022】
上記の製造方法により得られる非炭酸飲料は、レトロネイザルアロマの組成の変化が抑制されたものとなる。ここで、レトロネイザルアロマの組成変化が抑制されていることについては、本願の実施例に記載のレトロネイザルアロマ分析法の具体的な方法に沿った測定により、確認することができる。
【0023】
本発明の製造方法においては、原料が、果汁又は野菜汁を含有するものであってもよい。また、果汁が、レモン果汁であってもよい。
【0024】
本発明の製造方法において、得られる非炭酸飲料が、容器詰め飲料であってもよい。また、本発明の製造方法において、得られる非炭酸飲料が、加温販売用飲料であってもよい。
【0025】
本発明の製造方法において、得られる非炭酸飲料が、レトロネイザルアロマの組成の変化が抑制されたものであってもよい。上記製造方法では、全原料中のビタミンC含有量が所定の範囲となるように調整されていることから、製造される非炭酸飲料に含まれるレトロネイザルアロマの組成変化が抑制されたものとすることができる。
【0026】
また、本発明は、非炭酸飲料におけるレトロネイザルアロマの組成の変化抑制方法であって、ビタミンCの含有量が非炭酸飲料全量を基準として900〜2200ppmとなるように調整することを含む、レトロネイザルアロマの組成の変化抑制方法に関する。
【0027】
上記方法によれば、非炭酸飲料におけるレトロネイザルアロマの組成の変化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、レトロネイザルアロマの組成の変化が抑制された非炭酸飲料、及びその製造方法を提供すること、並びに非炭酸飲料におけるレトロネイザルアロマ組成の変化抑制方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、レトロネイザルアロマの捕臭方法を説明するための模式図である。
図2図2は、実施例1の非炭酸飲料のレトロネイザルアロマの分析結果を示す図である。
図3図3は、比較例1の非炭酸飲料のレトロネイザルアロマの分析結果を示す図である。
図4図4は、実施例2,3及び比較例2〜4の非炭酸飲料のレトロネイザルアロマの分析結果を示す図である。
図5図5は、市販品の非炭酸飲料のヘッドスペース法による香気成分の分析結果を示す図である。
図6図6は、市販品の非炭酸飲料のレトロネイザルアロマの分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。しかし、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0031】
本実施形態に係る非炭酸飲料は、ビタミンCを900〜2200ppm含有する。
【0032】
本明細書において、非炭酸飲料とは、炭酸飲料以外の飲料のことを示す。炭酸飲料とは、飲用水に二酸化炭素を圧入した飲料、又は飲用水に甘味料、酸味料、フレーバー等を加えて、二酸化炭素を圧入した飲料のことを意味する。
【0033】
ビタミンCとは、L−アスコルビン酸又はL−アスコルビン酸ナトリウムのことを示す。本実施形態に係る非炭酸飲料中のビタミンCは、通常、食品に使用されるものを使用することができる。
【0034】
ビタミンCの含有量は、非炭酸飲料全量を基準として、900〜2200ppmである。ビタミンCの含有量としては、1000〜2000ppmであることが好ましく、1200〜1800ppmであることがより好ましく、1500〜1750ppmであることがさらに好ましい。ビタミンCの含有量が上記範囲であることにより、レトロネイザルアロマの組成の変化に対する充分な抑制効果が得られる。なお、ビタミンCは、外部から添加されたものであってもよく、また、果汁や野菜汁に由来するものであってもよい。
【0035】
非炭酸飲料中のビタミンCの含有量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法によりビタミンCを定量することにより決定することができる。測定方法及び測定条件は以下のように設定してもよい。
まず、測定対象となる非炭酸飲料2.5gに8%メタリン酸2.5mLを加え、エタノールを添加して10mLとなるように調製する。調製した溶液をよく撹拌した後、3000rpm,10分の条件にて遠心分離を行う。上澄み600μLに対して0.1%ホモシステイン溶液300μL、10%リン酸水素二ナトリウム溶液300μLを加えよく撹拌した後、40℃で20分静置し、0.45μmメンブレンフィルターに通液することで測定用サンプルを調製する。調製された測定用サンプルを、以下のHPLC条件でビタミンCを定量し、その結果から、測定対象となる非炭酸飲料中のビタミンC含有量を決定することができる。
<HPLC条件>
カラム;Unison UK−Amino 4.6mm×150mm(インタクト社製)
検出器;UV250nm
流速;1mL/min
オーブン温度;34℃
溶離液;アセトニトリル:50mLリン酸二水素アンモニウム=75:25
【0036】
本実施形態に係る非炭酸飲料は、果汁又は野菜汁をさらに含有してもよい。また、本実施形態に係る非炭酸飲料は、果実の搾汁や果実ペーストをさらに含有してもよい。
【0037】
果汁としては、濃縮されたものであってもよく、飲料水等で希釈されたものであってもよい。果汁としては、例えば、レモン果汁、オレンジ果汁、グレープフルーツ果汁等の柑橘果汁が挙げられる。本実施形態においては、リモネンを豊富に含むという観点から、レモン果汁の使用が好ましい。
【0038】
本実施形態に係る非炭酸飲料が果汁を含有する場合には、果汁の含有量は、目的とする風香味に合わせて、適宜調整することができる。
【0039】
本明細書において、野菜汁とは、野菜を破砕などして搾汁又は裏ごし等を行い、固形分を除去したもの(これを濃縮したもの又は濃縮したものを希釈して搾汁の状態に戻したものを含む)を意味する。
【0040】
本実施形態に係る非炭酸飲料は、ビタミンC、果汁、野菜汁の他に、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分は、添加剤として配合させることができる。このような添加剤としては、例えば、香料、甘味料、酸味料、着色料、酸化防止剤、調味料、ビタミン類(ビタミンCを除く)やミネラル類などの強化剤、pH調整剤、乳化剤、安定剤、食物繊維、デキストリン等を使用することができる。これらの成分は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0041】
香料としては、天然物、合成物のいずれの香料であっても使用することができる。香料成分としては、例えば、リモネン、カレン、スチレン等を使用することができる。本実施形態にかかる非炭酸飲料においては、柑橘系フレーバー飲料を製造する観点からは、リモネンの使用が好ましい。これらの香料は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
本明細書においては、レトロネイザルアロマとは、飲料を飲んだ際に飲料に含まれる香気成分のうち喉の奥から鼻に抜けて感じられる口中香のことを意味する。ここで、レトロネイザルアロマには、外部から添加される香料に由来する香気成分に加え、果汁や野菜汁に由来する香気成分も含まれる。
【0043】
甘味料としては、砂糖、三温糖、黒糖、はちみつ、還元澱粉糖化物、オリゴ糖、糖アルコール、希少糖等の糖質、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、サッカリン、アリテーム、ネオテーム等の高甘味度甘味料などを使用することができる。これらの甘味料は1種を単独で、2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0044】
糖質と高甘味度甘味料とを組み合わせて使用する場合には、非炭酸飲料全体の甘味強度に対する高甘味度甘味料由来の甘味強度が25%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、35%以上であることがさらに好ましい。高甘味度甘味料由来の甘味を上記のような範囲とすることにより、飲料中のレトロネイザルアロマの変化をより強く抑制することができる。
【0045】
本明細書において甘味強度とは、飲料に配合した各種甘味料の配合量(質量%)にそれぞれの砂糖換算甘味度を掛け合わせ、それを合算した値のことを示す。例えば、甘味料Aと甘味料Bを配合した飲料Cの場合は、以下の式で甘味強度を算出することができる。
飲料Cの甘味強度=甘味料Aの配合量(質量%)×甘味料Aの砂糖換算甘味度+甘味料Bの配合量(質量%)×甘味料Bの砂糖換算甘味度
ここで、砂糖換算甘味度とは砂糖(ショ糖、スクロース)の甘味度を1としたときの各種甘味料の甘味の強度を相対値として表したものである。例えば、ビバレッジジャパン社「飲料用語事典」(平成11年6月25日発行)資料11頁を参照すると、各種の甘味成分の砂糖換算甘味度は下記表1に示すとおりである。
【0046】
【表1】
【0047】
酸味料は、食品に使用するものであれば特に限定されずに使用することができる。酸味料としては、例えば、クエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、フマル酸、酒石酸等を使用することができる。リモネンとの味覚の相性の観点から、クエン酸を用いるのが好ましい。
【0048】
着色料としては、食品の色付けに用いるものであれば、天然着色料、及び合成着色料のいずれも使用できる。例えば、ベニバナ色素、カロチノイド色素、アントシアニン色素、食用黄色4号等を使用することができる。
【0049】
本実施形態における非炭酸飲料は、容器詰め飲料としても好適である。上記のとおり、本実施形態に係る非炭酸飲料は、レトロネイザルアロマの組成の変化が抑制されていることから、容器詰め飲料として流通、保存させることができる。
【0050】
容器詰め飲料とする場合の容器としては、一般の飲料と同様に、例えば、樹脂製成形容器、金属缶、金属箔やプラスチィックフィルムと複合された紙容器、ビン等を用いることができる。容器の種類、形状及び色彩は特に制限されるものではない。
【0051】
樹脂製成形容器を構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等のポリオレフィン等が挙げられる。これらの樹脂の重量平均分子量、結晶化度等は、特に制限されるものではなく、飲料の流通条件、保管条件等に合わせて、適宜選択することが可能である。なお、ポリエチレンテレフタレートを使用した樹脂製成形容器は、一般にペットボトルと称される。ペットボトルとしては、飲料の常温充填(アセプチック充填)を想定したアセプチック用ペットボトル、加温殺菌を行いながら飲料を充填すること、又は加温販売を想定した耐熱ペットボトルなどに分類されるが、本実施形態においては、いずれも使用可能である。
【0052】
金属缶としては、例えば、スチール缶、アルミ缶、ブリキ缶等が挙げられる。
【0053】
上記の容器の中でも、加温販売用の飲料を容器詰め飲料に利用する場合には、樹脂製成形容器、金属缶等の使用が好ましい。加温販売用に使用する樹脂製成形容器としては、ホット販売に適した積層ペット(PET)ボトル等を用いるのが好ましい。
【0054】
容器の容量は、特に制限されるものではないが、200〜500mLであることが好ましく、250〜350mLであることがより好ましい。本実施形態に係る非炭酸飲料は、レトロネイザルアロマの組成の変化が抑制されていることから、比較的容量の大きい容器詰め飲料として提供することができる。
【0055】
本実施形態における非炭酸飲料は、加温販売用飲料としても好適である。通常、加温により飲料のレトロネイザルアロマの組成の変化、風味の品質劣化等や、液体の褐変等の色調変化が促進されると考えられるが、本実施形態に係る非炭酸飲料は、加温時であっても、レトロネイザルアロマの組成の変化を抑制することができる。
【0056】
本明細書において、加温販売用飲料とは、例えば、保温器やベンダー等で加温され販売される飲料を意味する。加温の温度としては、例えば、40〜80℃であることが好ましく、50〜70℃であることがより好ましく、55〜65℃であることがさらに好ましい。
【0057】
次に、本願発明に係る非炭酸飲料の製造方法について説明する。
【0058】
本実施形態に係る非炭酸飲料の製造方法は、全原料中のビタミンC含有量が900〜2200ppmとなるように調整する工程を含む。ここで原料とは、上述のビタミンC、果汁又は野菜汁、その他の添加剤等の非炭酸飲料を製造するための原材料のことを意味し、上記同様のものを使用することができる。
【0059】
全原料の中のビタミンCの含有量の調整は、例えば、飲料水の量、果汁、野菜汁の含有量、外部から添加するビタミンC量等を調整することにより制御することができる。
【0060】
果汁を配合する場合には、果実の搾汁や果実ペーストとして配合してもよい。本明細書においては、果実の搾汁とは、果実又は搾汁した果実残渣等を破砕等して裏ごし等を行い、皮、種等を除去したもの(これを濃縮したもの又は濃縮したものを希釈して搾汁の状態に戻したものを含む)を意味する。果実ペーストとは、果実を破砕等して搾汁又は裏ごし等を行い、ペースト状(擬固体状)に調整したものを意味する。
【0061】
本実施形態に係る製造方法は、加熱処理工程、容器詰め工程等、他の工程を含んでいてもよい。
【0062】
加熱処理工程は、通常、90〜150℃程度の温度に加熱することにより行われる。この工程により、飲料の滅菌、殺菌処理を行うことができる。また、果汁や野菜汁の青臭さを低減することもできる。
【0063】
加熱処理の方法は、特に制限されるものではないが、例えば、熱水・蒸気加熱殺菌法、低温殺菌法、高温殺菌法、超高温殺菌法(UHT殺菌法)を適用することができる。UHT殺菌法の場合、通常100〜150℃で1〜120秒間程度行われるが、内容液に合わせて適宜加熱処理条件を設定すればよい。
【0064】
容器詰め工程は、例えば、不活性ガスを容器に充填する工程、飲料を容器に充填する工程、容器を密封する工程などからなっていてもよい。このような工程を経ることによって、容器詰めされた非炭酸飲料の品質保持性を高めることができる。
【0065】
本実施形態に係る製造方法により得られる非炭酸飲料は、レトロネイザルアロマの組成の変化が抑制されたものであるから、容器詰め飲料や加温販売用飲料とすることもできる。
【0066】
次に、本発明に係る非炭酸飲料におけるレトロネイザルアロマ組成の変化抑制方法について説明する。
【0067】
本実施形態に係る非炭酸飲料におけるレトロネイザルアロマの組成の変化抑制方法は、ビタミンCの含有量が、非炭酸飲料全量を基準として、900〜2200ppmとなるように調整することを含む。非炭酸飲料中のビタミンCの含有量の調整は、例えば、飲料水の量、果汁、野菜汁の含有量、外部から添加するビタミンC量等を調整することにより制御してもよい。
【0068】
上記方法によれば、非炭酸飲料におけるレトロネイザルアロマの組成の変化を抑制することが可能である。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0070】
(実施例1)
砂糖40g、精製はちみつ10g、還元デンプン糖化物20g、レモン透明濃縮果汁5g、レモンペースト0.3g、クエン酸3.25g、L−アスコルビン酸ナトリウム(ビタミンC)1.9g、スクラロース0.05g、アセスルファムカリウム0.03g、香料(レモン香料及びはちみつ香料の混合物)1.1g、カロチノイド色素0.3gをそれぞれ溶解、混合し、水を加えて全量を1リットルとした。その後108℃30秒のUHT殺菌を行い、積層PETボトルに充填することで、非炭酸飲料1を得た。なお、得られた非炭酸飲料1におけるビタミンCの含有量は、1715ppmであった。なお、各成分は、市販のものを使用した。
【0071】
[レトロネイザルアロマ分析法による測定]
(測定サンプルの調製)
以下の手順にしたがって、レトロネイザルアロマをTENAX(登録商標)樹脂(Buchem BV社製)を封入したガラスチューブに捕集し、ガスクロマトグラフィーを用いて測定した。
図1は、レトロネイザルアロマの捕臭方法を説明するための模式図である。図1に示すように、レトロネイザルアロマの捕臭装置100を用意した。まず、ポンプ4、流量計5、シリコンチューブを接続した。捕臭剤3であるTENAX(登録商標)を封入したガラスチューブを、金属メッシュ側がポンプ側になるようにシリコンチューブに接続し、TENAX(登録商標)を封入したガラスチューブにノーズコーン2を接続した。ポンプ4を稼動し、流量が1L/minになるように流量計5のバルブを調節し、一旦ポンプを停止した。
【0072】
ブランク測定用サンプルの調製を行った。被験者1の準備を整え、再びポンプ4を稼動させ、被験者1の鼻にノーズコーン2を当てたまま鼻から息を吐き出させた(10呼吸:呼気10秒、吸気5秒)後、ポンプを停止し、TENAX(登録商標)チューブからノーズコーン2を取り外し、TENAX(登録商標)チューブをシリコンチューブから外した。TENAX(登録商標)チューブの金属メッシュ側に専用の金属キャップをはめ、キャップ付きTENAX(登録商標)チューブをブランク測定用サンプルとした。
【0073】
次に、測定用サンプルの調製を行った。まず、実施例1で得られた非炭酸飲料1を30mL、容器に量りとり、被験者1の準備を整え、試料を全量飲み込んでから直ちに被験者1の鼻にノーズコーン2を当てたまま鼻から息を吐き出させた(10呼吸:呼気10秒、吸気5秒)後、ポンプ4を停止し、TENAX(登録商標)チューブからノーズコーン2を取り外し、TENAX(登録商標)チューブをシリコンチューブから外した。TENAX(登録商標)チューブの金属メッシュ側に専用の金属キャップをはめ、キャップ付きTENAX(登録商標)チューブを測定用サンプル1とした。
【0074】
また、実施例1で得られた非炭酸飲料1を60℃で2週間保管した後、これを30mL、容器に量りとり、上記同様にして、測定用サンプルを調製し、測定用サンプル2とした。
【0075】
連続して測定を行う場合には、被験者が前の試料を飲んでから30分以上は時間を空けて次の測定を行った。このようにすることで、前の試料の香気が残っている可能性を排除した。なお、ブランクは、試料を測定する前に行い、連続して試料測定を行う場合には、3つのサンプルを測定した後に、1つのブランク測定を行うようにした。
【0076】
(レトロネイザルアロマの測定)
上記ブランク測定用サンプル、及び測定用サンプル1及び2に対して、それぞれ、内部標準としてオクタノール溶液10μLをシリンジで吸引し、TENAX(登録商標)チューブのガラスメッシュ端から注入した。TENAX(登録商標)チューブのガラスメッシュ端側を窒素ボンベに接続子、金属キャップを外して、30分間100mL/minの流量で装置にパージし、ガスクロマトグラフィーにより測定を行った。結果を、図2に示す。
【0077】
ガスクロマトグラフィーの測定条件は以下のとおりである。
分析機器:Agilent 6890N GC/5973N MSD(Agilent Technologies製)
カラム:DB1(正径0.53mm、長さ30m、膜厚5μm)(Agilent Technologies製)
オートサンプラ:MPS2(Agilent Technologies製)
捕臭剤:TENAX(登録商標)を封入したガラスチューブ(ゲステル社製)
【0078】
(実施例2,3、比較例1〜4)
全原料中のL−アスコルビン酸ナトリウムの含有量を表2に示す含有量となるように変更したほかは、実施例1と同様にして、非炭酸飲料を得た。
【0079】
【表2】
【0080】
実施例2,3及び比較例2〜4で得られた非炭酸飲料について、実施例1と同様にレトロネイザルアロマの測定を行った。結果を図3、4に示す。なお、図4中の「720ppm」等の数値は、全原料中のビタミンC含有量を示す。
【0081】
図2、3に示されたとおり、実施例1の非炭酸飲料は、ビタミンCの含有量の低い比較例1の非炭酸飲料に比べて、60℃、2週間の条件で保管した後の香りの変化が抑制されていることが確認された。また、図4に示されるとおり、ビタミンCの含有量が本願所定の範囲となることにより、非炭酸飲料の香りの変化抑制効果が、特に優れていることが確認された。
【符号の説明】
【0082】
1…被験者、2…ノーズコーン、3…捕臭剤、4…ポンプ、5…流量計。
図1
図2
図3
図4
図5
図6