特許第6774737号(P6774737)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774737
(24)【登録日】2020年10月7日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】原子炉の安全システム
(51)【国際特許分類】
   G21C 15/18 20060101AFI20201019BHJP
【FI】
   G21C15/18 A
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-73515(P2015-73515)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-194419(P2016-194419A)
(43)【公開日】2016年11月17日
【審査請求日】2018年3月9日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 「The 4th International Symposium and Seminar on Global Nuclear Human Resource Development for Safety, Security and Safeguards」開催日 平成27年2月24日にて発表 http://www.titech.ac.jp/event/pdf/e000386_IS4th.pdf The 4th International Symposium and Seminar on Global Nuclear Human Resource Development for Safety,Security and Safeguards Plant safety concept to improve accident coping ability
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】大塚 重満
【審査官】 大門 清
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−107926(JP,A)
【文献】 特開2014−010113(JP,A)
【文献】 特開2015−045592(JP,A)
【文献】 特開昭62−187291(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/081148(WO,A1)
【文献】 原子力安全の基本的考え方について第1編 別冊 深層防護の考え方,標準委員会 技術レポート,日本,日本原子力学会,2014年 5月,AESJ-SC-TR005 (ANX):2013,p.4−21
【文献】 原子力安全の基本的考え方について第1編 別冊2 深層防護の考え方,標準委員会 技術レポート,日本,日本原子力学会,2015年12月,AESJ-SC-TR005 (ANX2):2015,p.5−25
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 15/00−15/28
G21C 9/00− 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉心溶融が発生しない防護レベルでの第1事象初期段階で作動する第1静的設備と、
炉心溶融が発生しない防護レベルでの事象収束段階で作動する動的設備と、
炉心溶融が発生しない防護レベルから炉心溶融が発生する防護レベルに至ったタイミングでの第2事象初期段階及び事象収束段階で作動する第2静的設備と、
備え、
炉心溶融が発生しない防護レベルでの事象収束段階では、前記動的設備のみが作動する、
ことを特徴とする原子炉の安全システム。
【請求項2】
前記第2静的設備と前記動的設備は、それぞれ動作原理の異なる設備を採用することで独立して作動する設備であることを特徴とする請求項1に記載の原子炉の安全システム。
【請求項3】
前記第1静的設備と前記第2静的設備は、それぞれ動作原理の異なる設備を採用することで独立して作動する設備であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の原子炉の安全システム。
【請求項4】
前記第2静的設備は、前記第2事象初期段階で作動する初期静的設備と、前記事象収束段階で作動する収束静的設備とを有し、前記初期静的設備と前記収束静的設備は、それぞれ動作原理の異なる設備を採用することで独立して作動する設備であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の原子炉の安全システム。
【請求項5】
前記初期静的設備は、原子炉格納容器を有し、前記収束静的設備は、前記原子炉格納容器の冷却設備を有することを特徴とする請求項4に記載の原子炉の安全システム。
【請求項6】
前記第1静的設備及び前記第2静的設備は、AC電源が不要であると共に運転員による運転操作なしで作動することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の原子炉の安全システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉事故が発生したときに、この原子炉を安定して停止させるための原子炉の安全システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、加圧水型原子炉(PWR:Pressurized Water Reactor)を有する原子力発電プラントは、軽水を原子炉冷却材及び中性子減速材として使用し、原子炉の炉心全体にわたって沸騰しない高温高圧水とし、この高温高圧水を蒸気発生器に送って熱交換により蒸気を発生させ、この蒸気をタービン発電機へ送って発電するものである。そして、蒸気発生器は、原子炉からの高温高圧の一次系冷却水の熱を二次系冷却水に伝え、二次系冷却水で水蒸気を発生させるものである。
【0003】
このような原子力発電プラントは、原子炉事故が発生したとき、この原子炉を安定して停止させるための各種の設備を有している。そして、このような原子炉を安定して停止させるための設備として、静的な設備と動的な設備があり、この静的な設備の長所と動的な設備の長所を組み合わせたハイブリッド安全システムが提案されている。
【0004】
例えば、下記特許文献1に記載された沸騰水型原子炉のハイブリッド安全系は、原子炉冷却材喪失事故時、動的安全系と静的安全系を組み合わせて原子炉圧力容器を溝浸けし、その後は静的な安全系のみで炉心の冷却を継続するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5279325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、原子炉の安全システムは、深層保護の考え方に基づいて構築されている。即ち、異なる防護レベルにおいて、多重に連続し、且つ、独立した防護策を適用することが不可欠である。従来のハイブリッド安全システムは、一般的に、各防護レベルにて、事故の初期段階で静的な設備を適用し、その後の収束段階で動的な設備を適用する。ところが、炉心溶融などが発生した過酷事故(シビアアクシデント)では、収束段階で動的な設備を適用した場合、運転員に係る負担が大きいことから、運転員に係る負担を低減してより安全なシステムの提案が望まれている。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するものであり、原子炉事故の発生時に原子炉をより安全に収束させることができる原子炉の安全システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための本発明の原子炉の安全システムは、炉心溶融が発生しない防護レベルでの事象初期段階で作動する第1静的設備と、炉心溶融が発生しない防護レベルでの事象収束段階で作動する動的設備と、炉心溶融が発生する防護レベルでの事象初期段階及び事象収束段階で作動する第2静的設備と、を備えることを特徴とするものである。
【0009】
従って、炉心溶融が発生しない防護レベルにて、事象初期段階で第1静的設備が作動し、事象収束段階で動的設備が作動する。そして、炉心溶融が発生する防護レベルに至ると、事象初期段階から事象収束段階まで第2静的設備が作動する。そのため、炉心溶融に至るような状態で、事象初期段階から事象収束段階にかけて、外部電源などの駆動源を不要とし、且つ、運転員による判断なしに事故収束を継続することができる。そして、この間、運転員は、炉心損傷防止のための操作に集中することができる。その結果、原子炉事故の発生時に原子炉をより安全に収束させることができ、信頼性を向上することができる。
【0010】
本発明の原子炉の安全システムでは、前記第2静的設備と前記動的設備は、それぞれ独立して作動する設備であることを特徴としている。
【0011】
従って、炉心溶融が発生しない防護レベルで作動する動的設備と、炉心溶融が発生する防護レベルで作動する第2静的設備とが独立することから、多重防護設備を確立することができ、安全性及び信頼性を向上することができる。
【0012】
本発明の原子炉の安全システムでは、前記第2静的設備は、事象初期段階で作動する初期静的設備と、事象収束段階で作動する収束静的設備とを有し、前記初期静的設備と前記収束静的設備は、それぞれ独立して作動する設備であることを特徴としている。
【0013】
従って、炉心溶融が発生する防護レベルで作動する初期静的設備と収束静的設備が独立することから、多重防護設備を確立することができ、安全性及び信頼性を向上することができる。
【0014】
本発明の原子炉の安全システムでは、前記初期静的設備は、原子炉格納容器を有し、前記収束静的設備は、前記原子炉格納容器の冷却設備を有することを特徴としている。
【0015】
従って、初期静的設備を原子炉格納容器とし、収束静的設備を原子炉格納容器の冷却設備とすることから、事象初期段階から事象収束段階にかけて適正に事故収束することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の原子炉の安全システムによれば、炉心溶融が発生する防護レベルでの事象初期段階及び事象収束段階で作動する第2静的設備をもうけるので、原子炉事故の発生時に原子炉をより安全に収束させることができ、信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本実施形態の原子炉の安全システムが適用される原子力発電プラントを表す概略構成図である。
図2図2は、原子炉の安全システムを表す深層レベルに対する設備を説明するための表である。
図3図3は、静的設備と動的設備を説明するための分類表である。
図4図4は、原子炉の安全システムを表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照して、本発明の原子炉の安全システムの好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0019】
図1は、本実施形態の原子炉の安全システムが適用される原子力発電プラントを表す概略構成図である。
【0020】
本実施形態において、図1に示すように、原子力発電プラント10は、原子炉を有している。この原子炉は、軽水を原子炉冷却材及び中性子減速材として使用し、炉心全体にわたって沸騰しない高温高圧水とし、この高温高圧水を後述する蒸気発生器に送って熱交換により蒸気を発生させ、この蒸気をタービン発電機へ送って発電する加圧水型原子炉(PWR:Pressurized Water Reactor)である。なお、原子炉は、沸騰水型原子炉(BWR:Boiling Water Reactor)であってもよい。
【0021】
原子炉格納容器11は、内部に加圧水型原子炉12と複数(図示は1個)の蒸気発生器13が格納されている。加圧水型原子炉12と各蒸気発生器13は、高温側送給配管14と低温側送給配管15を介して連結されており、低温側送給配管15に一次系冷却水ポンプ16が設けられている。
【0022】
加圧器17は、下部が1個の高温側送給配管14に連結されており、低温側送給配管15から延びるスプレイ配管18がこの加圧器17の上部に連通し、中途部にスプレイ弁19が設けられ、先端部にスプレイノズル20が設けられている。加圧器17は、上部に加圧器安全弁21を有する加圧器安全配管22の一端部が連結されており、加圧器安全配管22の他端部が大気に開放している。また、加圧器17は、上部に加圧器逃がし弁23を有する加圧器逃がし配管24の一端部が連結されており、加圧器逃がし配管24の他端部に加圧器逃がしタンク25が連結されている。
【0023】
加圧水型原子炉12は、内部に炉心26が設けられており、この炉心26は、複数の燃料集合体(燃料棒)27により構成されている。また、加圧水型原子炉12は、炉心26における燃料集合体27の間に複数の制御棒28が配置されている。この各制御棒28は、制御棒駆動装置29により上下移動可能となっている。制御棒駆動装置29は、制御棒28を炉心26に対して抜き差しすることで、原子炉出力を制御することができる。
【0024】
蒸気発生器13は、内部に逆U字形状をなす複数の伝熱管からなる伝熱管群31が設けられている。複数の伝熱管は、各端部が管板に支持され、入室32と出室33に連通しており、入室32に高温側送給配管14の端部が連結され、出室33に低温側送給配管15の端部が連結されている。また、蒸気発生器13は、図示しないが、伝熱管群31の上方に給水を蒸気と熱水とに分離する気水分離器と、この分離された蒸気の湿分を除去して乾き蒸気に近い状態とする湿分分離器が設けられている。
【0025】
また、加圧水型原子炉12は、化学体積制御系(CVCS)34が設けられている。低温側送給配管15は、一次系冷却水循環ライン35が設けられており、一次系冷却水循環ライン35に再生熱交換器36、非再生冷却器37、脱塩塔38、体積制御タンク39、充填ポンプ40が設けられている。一次系冷却水循環ライン35は、一次系冷却水補給ライン41を介して一次系純水タンク42に連結され、一次系冷却水補給ライン41に補給水ポンプ43が設けられている。一次系冷却水補給ライン41は、ホウ酸水供給ライン44を介してホウ酸タンク45が連結され、ホウ酸水供給ライン44にホウ酸ポンプ46が設けられている。加圧水型原子炉12は、化学体積制御系34により炉心26におけるホウ素濃度を調整可能である。
【0026】
原子炉格納容器11は、内部に原子炉非常用冷却装置47が設けられている。原子炉格納容器11は、下部に燃料取替用水ピット48が設けられており、この燃料取替用水ピット48から原子炉格納容器11の外部を通って再び原子炉格納容器11内に戻り、加圧水型原子炉12の上方まで延出される冷却水散布ライン49が設けられている。この冷却水散布ライン49は、中間部にスプレイポンプ50と冷却器51が設けられ、先端部に多数の噴射ノズル52が設けられている。また、燃料取替用水ピット48から原子炉格納容器11の外部を通って再び原子炉格納容器11内に戻り、加圧水型原子炉12に連結される冷却水供給ライン53が設けられている。この冷却水供給ライン53は、安全注入ポンプ54、開閉弁55が設けられている。
【0027】
原子炉格納容器11は、内部に蓄圧タンク56が設けられている。蓄圧タンク56は、注入ライン57を介して低温側送給配管15に連結されており、注入ライン57に開閉弁58が設けられている。また、冷却水散布ライン49から分岐した冷却水分岐ライン59が注入ライン57に連結されている。
【0028】
原子炉格納容器11は、冷却媒体を自然対流により循環させて冷却する格納容器冷却設備93が設けられている。格納容器冷却設備93は、原子炉格納容器11の内部に設けられる内部容器94と、原子炉格納容器11の外部に設けられる外部容器95とを有し、配管96,97により連結され、配管97に開閉弁98が設けられている。そして、内部容器94、外部容器95、配管96,97内に冷却媒体が充填される。また、外部容器95の下方に送風機99が設けられている。そのため、開閉弁98を開放すると、原子炉格納容器11の内部が内部容器94内の冷却媒体により冷却され、高温となった冷却媒体が配管96を通って外部容器95に送られ、送風機99の冷却風により冷却された後、配管97を通って内部容器94送られる。
【0029】
加圧水型原子炉12は、炉心26の燃料集合体27により一次系冷却水として軽水が加熱され、高温の一次系冷却水が加圧器17により所定の高圧に維持された状態で、高温側送給配管14を通して蒸気発生器13に送られる。この蒸気発生器13は、高温高圧の一次系冷却水と二次系冷却水との間で熱交換を行うことで二次系蒸気を生成し、冷やされた一次系冷却水が加圧水型原子炉12に戻される。このとき、制御棒駆動装置29は、炉心26から制御棒28を抜き差しすることで、炉心26内での核分裂を調整する。即ち、燃料集合体27を構成する原子燃料が核分裂することで中性子を放出し、軽水が放出された高速中性子の運動エネルギを低下させて熱中性子とし、新たな核分裂を起こしやすくすると共に、発生した熱を奪って冷却する。制御棒駆動装置29は、全ての制御棒28を炉心26に挿入することで、加圧水型原子炉12を停止することができる。
【0030】
各蒸気発生器13は、上端部が配管61aを介して蒸気タービン62と連結されており、この配管61aに主蒸気隔離弁63が設けられている。蒸気タービン62は、高圧タービン64と低圧タービン65を有すると共に、発電機(発電装置)66が接続されている。また、高圧タービン64と低圧タービン65は、その間に湿分分離加熱器67が設けられている。低圧タービン65は、復水器68を有しており、この復水器68は、配管61aからバイパス弁69を有するタービンバイパス配管70が接続されると共に、冷却水(例えば、海水)を給排する取水管71及び排水管72が連結されており、取水管71に給水ポンプ(海水ポンプ、循環水ポンプ)73が装着されている。
【0031】
復水器68は、配管61bが接続されており、この配管61bに復水ポンプ74、グランドコンデンサ75、復水脱塩装置76、低圧給水加熱器77、脱気器78、主給水ポンプ79、高圧給水加熱器80、主給水制御弁81が設けられている。
【0032】
また、配管61aは、主蒸気逃がし弁82を有する主蒸気逃がし配管83の一端部と、主蒸気安全弁84を有する主蒸気安全配管85の一端部が接続されており、各配管83,85の他端部が大気に開放している。一方、配管61bは、主給水制御弁81と蒸気発生器13との間に補助給水配管86の一端部が接続されており、この補助給水配管86は開閉弁87が設けられ、他端部に復水タンク88が接続されている。補助給水配管86は、並列して2個の分岐補助給水配管89,90が設けられ、分岐補助給水配管89に補助給水ポンプ91が設けられ、分岐補助給水配管90に電動補助給水ポンプ92が設けられている。補助給水ポンプ91は、蒸気によりタービンが回転することで駆動し、電動補助給水ポンプ92は、非常用電源により駆動する。
【0033】
そのため、蒸気発生器13にて、二次系冷却水が高温高圧の一次系冷却水と熱交換を行って生成された二次系蒸気は、配管61aを通して蒸気タービン62(高圧タービン64から低圧タービン65)に送られ、この蒸気により蒸気タービン62を駆動して発電機66により発電を行う。このとき、蒸気発生器13からの蒸気は、高圧タービン64を駆動した後、湿分分離加熱器67で蒸気に含まれる湿分が除去されると共に加熱されてから低圧タービン65を駆動する。そして、蒸気タービン62を駆動した蒸気は、復水器68で海水を用いて冷却されて復水となり、配管61bを通って蒸気発生器13に戻される。
【0034】
また、原子力発電プラント10は、加圧水型原子炉12や蒸気発生器13などの運転状態を検出するための各種センサが設けられている。加圧水型原子炉12は、内部の温度を検出する温度センサ101と、内部の圧力を検出する圧力センサ102が設けられている。蒸気発生器13は、二次冷却水の水位を検出する水位センサ103と、内部の圧力を検出する圧力センサ104が設けられている。また、低温側送給配管15は、一次冷却水の温度を検出する温度センサ105と、圧力を検出する圧力センサ106が設けられている。加圧器17は、一次冷却水の水位を検出する水位センサ107と、内部の圧力を検出する圧力センサ108が設けられている。配管61aは、主蒸気(一次冷却水)の圧力を検出する圧力センサ109と、流量を検出する流量センサ110が設けられている。
【0035】
また、原子炉格納容器11は、内部の放射線量を検出する放射線モニタ111と、水素濃度を検出する濃度センサ112と、温度を検出する温度センサ113と、圧力を検出する圧力センサ114が設けられている。原子炉非常用冷却装置47は、冷却水散布ライン49を流れる冷却水の流量を検出する流量センサ115が設けられている。補助給水配管86は、給水ポンプ91,92により供給される冷却水の流量を検出する流量センサ116が設けられている。また、図示しないプラント機器の監視操作を行う監視操作画面における母線の電圧を表示する電圧センサ117が設けられている。この安全系VDUにより外部電源の有無や非常用電源の有無を検出することができる。
【0036】
中央制御室200は、本実施形態の原子炉の安全システムを有する監視制御装置201が設けられている。監視制御装置201は、運転コンソールや大型表示盤、運転指令コンソールなどを有するプラントの制御設備である。監視制御装置は、上述した温度センサ101,105,113、圧力センサ102,104,106,108,109,114、水位センサ103,107、流量センサ110,115,116、放射線モニタ111、濃度センサ112、電圧センサ117などの検出結果が入力される。
【0037】
また、監視制御装置201は、手動または自動により加圧水型原子炉12や蒸気発生器13などの状態を変更するための機器を操作可能となっている。中央制御室200は、空調設備211が設けられると共に、非常用循環ファン212が設けられており、監視制御装置201は、空調設備211と非常用循環ファン212を操作可能である。監視制御装置201は、原子炉非常用冷却装置47(スプレイポンプ50、安全注入ポンプ54)を操作可能である。監視制御装置201は、化学体積制御系34(充填ポンプ40、補給水ポンプ43、ホウ酸ポンプ46)を操作可能である。監視制御装置201は、主蒸気逃がし弁82を操作可能である。また、監視制御装置201は、非常用電源が喪失した際にプラント設備への給電を可能とする空冷式非常用電源装置(電源車)213を操作可能である。
【0038】
ここで、本実施形態の原子炉の安全システムについて詳細に説明する。図2は、原子炉の安全システムを表す深層レベルに対する設備を説明するための表、図3は、静的設備と動的設備を説明するための分類表、図4は、原子炉の安全システムを表す概略図である。
【0039】
本実施形態の原子炉の安全システムは、炉心溶融を伴う原子炉事故、炉心溶融を伴わない原子炉事故に拘わらず、原子炉事故が発生したとき、加圧水型原子炉12を安定して停止させるための各種設備を有している。この原子炉の安全システムは、深層保護(多重保護)の考え方に基づいて構築されている。深層防護の考え方とは、複数の防護レベルを用意し、所定のレベルの防護に失敗したら、次のレベルで防護するという概念である。即ち、深層保護は、多数の連続し、且つ、独立した防護レベルの組み合わせによって構築されるものであり、この異なる防護レベルの独立した有効性が深層防護に不可欠な要素となる。
【0040】
原子炉の安全システムは、静的設備(パッシブ設備)と動的設備(アクティブ設備)を有しており、この静的設備の長所と動的設備の長所を組み合わせたハイブリッド安全システムである。静的設備の長所は、外部電源(AC電源)などの駆動源が不要であることから比較的信頼性が高く、運転員による判断が不要であることである。一方、静的設備の短所は、限定された駆動源による緩慢な事故収束(低温停止)が困難なこと、予期しない状況での運転員による修復操作が困難であることである。また、動的設備の長所は、強力な駆動力による迅速な事故収束(低温停止)が可能なこと、予期しない状況での運転員による修復操作が比較的容易であることである。一方、動的設備の短所は、外部電源(AC電源)などの駆動源が必要であることから比較的信頼性が低く、運転員による判断が必要であることである。
【0041】
そのため、本実施形態の原子炉の安全システムは、図2に示すように、原子炉プラントの状態に応じて複数の深層防護レベルを設定し、各防護レベルに対して事象初期段階と事象収束段階で、最適に設備を適用するものである。即ち、深層防護レベル1は、原子炉プラントの正常運転(通常運転)状態に適用するものであり、この場合、事象初期段階と事象収束段階で適用する設備はない。
【0042】
深層防護レベル2は、原子炉プラントの通常運転時の異常な温度変化状態に適用するものであり、この場合、事象初期段階に対して静的設備P2が作動するように設定され、事象収束段階に対して動的設備A2が作動するように設定される。深層防護レベル3は、原子炉プラントにて炉心溶融の伴わない事故発生状態に適用するものであり、この場合、事象初期段階に対して静的設備P3が作動するように設定され、事象収束段階に対して動的設備A3が作動するように設定される。なお、深層防護レベル3は、単一起因事故並びに多重起因事故を含むものである。深層防護レベル4は、原子炉プラントにて炉心溶融を伴う事故発生状態(シビアアクシデント)に適用するものであり、この場合、事象初期段階に対して静的設備P4−1が作動するように設定され、事象収束段階に対して静的設備P4−2が作動するように設定される。
【0043】
即ち、本実施形態の原子炉の安全システムは、炉心溶融が発生しない深層防護レベル2,3での事象初期段階で作動する第1静的設備としての静的設備P2,P3と、炉心溶融が発生しない深層防護レベル2,3での事象収束段階で作動する動的設備とA2,A3と、炉心溶融が発生する深層防護レベル4での事象初期段階及び事象収束段階で作動する第2静的設備としての静的設備P4−1,P4−2を備えている。
【0044】
ここで、事象初期段階とは、原子炉事故が発生してから事象収束段階で使用する設備が作動可能となるまでの期間であり、事象収束段階とは、この事象収束段階で使用する設備が作動可能となってから事故収束が完了するまでの期間である。例えば、外部電源が喪失する事故が発生したとき、原子炉事故の発生から非常用電源が確保または外部電源が復旧するまでの期間が事象初期段階であり、それ以降が事象収束段階である。そして、深層防護レベル3から深層防護レベル4に至るタイミングは、炉心溶融であり、温度センサ105が検出した加圧水型原子炉12からの一次冷却水の出口温度と、圧力センサ106が検出した加圧水型原子炉12からの一次冷却水の出口圧力である。この一次冷却水の温度と圧力が予め設定された規定温度、規定圧力を超えると、炉心溶融であると判定し、深層防護レベル4となる。

【0045】
そして、深層防護レベル2,3での事象収束段階で作動する動的設備とA2,A3と、深層防護レベル4での事象初期段階及び事象収束段階で作動する第2静的設備としての静的設備P4−1,P4−2とは、それぞれ独立して作動する設備となっている。また、深層防護レベル4での事象初期段階で作動する静的設備P4−1と、深層防護レベル4での事象収束段階で作動する静的設備P4−2は、それぞれ独立して作動する設備となっている。具体的には、後述するが、静的設備P4−1は、原子炉格納容器であり、静的設備P4−2は、原子炉格納容器の冷却設備である。
【0046】
ここで、静的整備と動的設備について説明する。各種の安全設備を分類と作動媒体により分類すると、図3に示すものとなる。即ち、図1及び図3に示すように、分類1は、原子炉格納容器11であり、作動媒体を必要としない。分類2は、自然対流による冷却設備であり、作動媒体として流体(例えば、冷却水)を必要とする。分類3は、例えば、逆止弁や蓄圧タンクであり、作動媒体として流体と動作部品を必要とする。分類4は、例えば、静的予熱除去設備であり、作動媒体として流体と動作機器と作動信号の入力を必要とする。分類5は、例えば、非常用炉心冷却装置(ECCS:Emergency Core Cooling System)であり、作動媒体として流体と動作機器と作動信号の入力と外部電源を必要とする。分類6は、例えば、手動によるほう酸の添加処理であり、作動媒体として流体と動作機器と作動信号の入力と外部電源と運転員による起動操作を必要とする。分類7は、例えば、消火活動であり、作動媒体として流体と動作機器と作動信号の入力と外部電源と運転員による起動操作と運転員による運転操作を必要とする。そして、分類1,2,3,4が静的設備であり、分類5,6,7が動的設備である。
【0047】
具体的に説明すると、深層防護レベル2の事象初期段階で作動する静的設備P2は、制御棒28(制御棒駆動装置29)であり、深層防護レベル2の事象収束段階で作動する動的設備A2は、化学体積制御系34である。深層防護レベル3の事象初期段階で作動する静的設備P3は、蓄圧タンク56であり、深層防護レベル3の事象収束段階で作動する動的設備A3は、原子炉非常用冷却装置47である。深層防護レベル4の事象初期段階で作動する静的設備P4−1は、原子炉格納容器11であり、深層防護レベル4の事象収束段階で作動する静的設備P4−2は、格納容器冷却設備93である。
【0048】
なお、上述した静的設備と動的設備は、一例であり、この構成に限定されるものではなく、上述した各種設備に代えて既存の設備や新規な設備を適用してもよい。
【0049】
本実施形態の原子炉の安全システムは、上述したように、深層防護レベル2,3で作動する静的設備P2,P3と、深層防護レベル2,3で作動する動的設備A2,A3と、深層防護レベル4で作動する静的設備P4−1,P4−2が独立した設備として設けられている。
【0050】
図4に示すように、深層防護レベル2,3では、事象初期段階へ静的設備P2,P3を適用する。ここでは、運転員の操作や動的設備を期待することができないことから、深層防護レベル2,3での事象初期段階に対して静的設備P2,P3の概念を適用する。
【0051】
一方、深層防護レベル2,3では、事象収束段階へ動的設備A2,A3を適用する。動的設備の長所を活用し、迅速に原子炉を安定状態(低温停止)に移行させ、安全設備の予期しない故障時においても代替設備と運転員操作により柔軟に炉心損傷を防止する。また、動的設備の短所を補強するため、外部電源の信頼性を確保する。つまり、深層防護レベル3にて、非常用AC電源を設置する。また、動的設備の短所を補強するため、運転員支援を強化する。つまり、AM支援システムを整備する。
【0052】
深層防護レベル4では、事象初期段階及び事象収束段階へ静的設備P4−1,P4−2を適用する。静的設備の長所を活用し、炉心損傷に至るような状態では、運転員操作にもAC電源にも期待することができないことから、静的設備P4−1,P4−2とする。そのため、運転員は、炉心損傷防止のための操作に集中することができる。また、静的設備の短所を補強するため、限定された駆動力として、原子炉格納容器(CV)損傷を防止するための冷却能力を確保する。
【0053】
即ち、原子炉の炉心溶融を伴う事故、原子炉の炉心溶融を伴わない事故に拘わらず、原子炉事故の発生直後の対応設備は、運転員が操作する時間的な余裕も動的設備を起動して原子炉事故を収束する時間的な余裕もないことから、本実施形態では、静的設備により対応する。炉心溶融を伴わない原子炉事故における事故収束期間では、プラントを早期に安全な状態(低温停止状態)に移行させる必要があるため、動的設備で対応することで動的設備の長所を十分に生かすことができる。ポンプ等へのAC電源が必要な短所は、AC電源の多重性や多様性を強化することで補強する。一方、静的設備は、自然対流や沸騰・凝縮プロセスを使用するため、プラントを低温(水の沸点以下)まで移行させることが困難となる。しかし、原子炉事故が進展し、炉心溶融事故(シビアアクシデント)に至った場合には、運転員の迅速な操作が期待できず、また、外部電源が喪失している可能性も高いため、静的設備で対応する。本実施形態の炉心溶融事故で作動する静的設備は、溶融炉心を冷却する静的設備であり、発生する水素の濃度を制御する静的水素再結合装置や原子炉格納容器内の温度及び圧力を低減する静的格納容器冷却設備から構成され、最終的な放射性物質の物理的障壁である格納容器を防護することができる。
【0054】
このように本実施形態の原子炉の安全システムにあっては、炉心溶融が発生しない防護レベル2,3での事象初期段階で作動する第1静的設備P1,P3と、炉心溶融が発生しない深層防護レベル2,3での事象収束段階で作動する動的設備A2,A3と、炉心溶融が発生する深層防護レベル4での事象初期段階及び事象収束段階で作動する第2静的設備P4−1,P4−2とを設けている。
【0055】
従って、炉心溶融が発生しない深層防護レベル2,3にて、事象初期段階で静的設備P2,P3が作動し、事象収束段階で動的設備A2,A2が作動する。そして、炉心溶融が発生する防護レベルに至ると、事象初期段階から事象収束段階まで第2静的設備P4−1,P4−2が作動する。そのため、炉心溶融に至るような状態で、事象初期段階から事象収束段階にかけて、外部電源などの駆動源を不要とし、且つ、運転員による判断なしに事故収束を継続することができる。そして、この間、運転員は、炉心損傷防止のための操作に集中することができる。その結果、原子炉事故の発生時に原子炉をより安全に収束させることができ、信頼性を向上することができる。
【0056】
即ち、炉心溶融事故に至った場合には、運転員の操作は期待しなくてもよくなり、運転員は、炉心溶融事故への進展防止操作に注力することができ、万が一に炉心溶融事故に至った場合であっても、放射性物質の最終障壁である格納容器の損傷が防止されるため、運転員の事故時の肉体的・精神的負担を大幅に軽減することができる。
【0057】
本実施形態の原子炉の安全システムでは、動的設備A2,A3と静的設備P4−1,P4−2とをそれぞれ独立して作動する設備としている。従って、多重防護設備を確立することができ、安全性及び信頼性を向上することができる。即ち、深層防護レベル3と深層防護レベル4とで、動作原理の異なる設備を採用するため、深層防護レベル3と深層防護レベル4の独立性を確保することができ、深層防護概念の適用を強化することができる。
【0058】
本実施形態の原子炉の安全システムでは、静的設備P4−1,P4−2をそれぞれ独立して作動する設備としている。従って、多重防護設備を確立することができ、安全性及び信頼性を向上することができる。
【0059】
本実施形態の原子炉の安全システムでは、深層防護レベル4にて、静的設備P4−1を原子炉格納容器11とし、静的設備P4−2を格納容器冷却設備93としている。従って、事象初期段階から事象収束段階にかけて適正に事故収束することができる。
【0060】
なお、上述した実施形態では、原子炉を加圧水型原子炉として説明したが、この原子炉に限定されるものではなく、沸騰水型原子炉(BWR:Boiling Water Reactor)などの原子炉にも適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
10 原子力発電プラント
11 原子炉格納容器
12 加圧水型原子炉
13 蒸気発生器
14 高温側送給配管
15 低温側送給配管
17 加圧器
23 加圧器逃がし弁
26 炉心
27 燃料集合体
28 制御棒
29 制御棒駆動装置
31 伝熱管群
34 化学体積制御系
47 原子炉非常用冷却装置
56 蓄圧タンク
61a,61b 配管
62 蒸気タービン
66 発電機
68 復水器
93 格納容器冷却設備
200 中央制御室
201 監視制御装置
P2,P3 静的設備(第1静的設備)
P4−1 静的設備(第2静的設備、初期静的設備)
P4−2 静的設備(第2静的設備、収束静的設備)
A2,A3 動的設備
図1
図2
図3
図4