(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774743
(24)【登録日】2020年10月7日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】表面気泡除去方法、型枠、及びコンクリート部材
(51)【国際特許分類】
E04G 9/10 20060101AFI20201019BHJP
B28B 7/36 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
E04G9/10 101A
B28B7/36
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-111716(P2015-111716)
(22)【出願日】2015年6月1日
(65)【公開番号】特開2016-223200(P2016-223200A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2018年3月6日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】依田 侑也
(72)【発明者】
【氏名】辻埜 真人
(72)【発明者】
【氏名】黒田 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 竜貴
(72)【発明者】
【氏名】西川 浩之
(72)【発明者】
【氏名】関口 朋伸
(72)【発明者】
【氏名】麻植 啓司
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 侑哉
【審査官】
西村 隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−185506(JP,A)
【文献】
特開2005−022354(JP,A)
【文献】
特開昭60−000903(JP,A)
【文献】
実開平02−032558(JP,U)
【文献】
特開昭63−306003(JP,A)
【文献】
特開平11−005206(JP,A)
【文献】
特開2010−185598(JP,A)
【文献】
特開2004−197443(JP,A)
【文献】
実開昭62−155165(JP,U)
【文献】
特開2003−147340(JP,A)
【文献】
特開2016−008405(JP,A)
【文献】
特開2016−159591(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0107928(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 9/10
E04G 21/02
B28B 7/36
B28B 7/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートを打ち込む際に用いられる型枠のコンクリート側の内面に水との接触角が150°以上となる超撥水剤を塗布し、前記型枠を水平面に対して水平又は傾斜を持たせて配置し、前記コンクリート中の気泡が前記超撥水剤の表面に接した際に該気泡が前記超撥水剤の表面に沿って上昇して前記コンクリートの表面から抜けやすくなっていることを特徴とする表面気泡除去方法。
【請求項2】
前記超撥水剤が塗布されたシートを前記型枠に貼付することを特徴とする請求項1に記載の表面気泡除去方法。
【請求項3】
前記傾斜は、水平面に対する角度が60度以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面気泡除去方法。
【請求項4】
前記型枠が水平配置される水平型枠である場合、コンクリート表面から気泡を抜く脱気口を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の表面気泡除去方法。
【請求項5】
コンクリートを打ち込む際に用いられる型枠であって、該型枠のコンクリート側の内面に水との接触角が150°以上となる超撥水剤を塗布し、前記型枠を水平面に対して水平又は傾斜を持たせて配置し、前記コンクリート中の気泡が前記超撥水剤の表面に接した際に該気泡が前記超撥水剤の表面に沿って上昇して前記コンクリートの表面から抜けやすくしたことを特徴とする型枠。
【請求項6】
前記超撥水剤が塗布されたシートを前記型枠に貼付することを特徴とする請求項5に記載の型枠。
【請求項7】
前記傾斜は、水平面に対する角度が60度以下であることを特徴とする請求項5又は6に記載の型枠。
【請求項8】
前記型枠が水平配置される水平型枠である場合、コンクリート表面から気泡を抜く脱気口を設けたことを特徴とする請求項5〜7のいずれか一つに記載の型枠。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の表面気泡除去方法を用いて成形したことを特徴とするコンクリート部材。
【請求項10】
請求項5〜8のいずれか一つに記載の型枠を用いて成形したことを特徴とするコンクリート部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡易な構成でコンクリートの表面気泡を除去することができる表面気泡除去方法、型枠、及びこれらを用いたコンクリート部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンクリートの表面気泡を除去するために、コンクリートを打ち込む際に用いられる型枠のコンクリート側の内面に不織布などの透水シートを設けたものがある(特許文献1参照)。
【0003】
また、特許文献2には、コンクリート表面の気泡を容易かつ確実に抜き取ることができる気泡抜き取り具が記載されている。この気泡抜き取り具は、所定長さの杆体を所定間隔を置いて略平行に複数本配置して構成され、コンクリート型枠の内面に沿って挿入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−259331号公報
【特許文献2】特開2004−197443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した透水シートの設置には、主に施工人工数によるコストがかかることが多い。また、気泡抜き取り具を用いて表面気泡を除去する場合には、特殊な用具を用意しなければならないとともに、施工人工数によるコストがかかることが多い。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、簡易な構成でコンクリートの表面気泡を除去することができる表面気泡除去方法、型枠、及びコンクリート部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる表面気泡除去方法は、コンクリートを打ち込む際に用いられる型枠のコンクリート側の内面に超撥水剤を塗布してコンクリートの表面気泡を除去することを特徴とする。
【0008】
また、本発明にかかる表面気泡除去方法は、上記の発明において、前記超撥水剤の塗布は、超撥水剤が塗布されたシートを前記型枠に貼付することによってなされることを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかる表面気泡除去方法は、上記の発明において、前記型枠は、コンクリートを打ちこむ際、水平面に対して傾斜を持たせて配置されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかる表面気泡除去方法は、上記の発明において、前記傾斜は、水平面に対する角度が60度以下であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかる表面気泡除去方法は、上記の発明において、前記型枠が水平配置される水平型枠である場合、コンクリート表面から気泡を抜く脱気口を設けたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかる表面気泡除去方法は、上記の発明において、前記脱気口から脱気処理及び脱水処理を強制的に行うことを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかる型枠は、コンクリートを打ち込む際に用いられる型枠であって、該型枠のコンクリートと側の内面に超撥水剤を塗布したことを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかる型枠は、上記の発明において、前記超撥水剤の塗布は、超撥水剤が塗布されたシートを前記型枠に貼付することによってなされることを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかる型枠は、上記の発明において、前記型枠は、コンクリートを打ちこむ際、水平面に対して傾斜を持たせて配置されることを特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかる型枠は、上記の発明において、前記傾斜は、水平面に対する角度が60度以下であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明にかかる型枠は、上記の発明において、前記型枠が水平配置される水平型枠である場合、コンクリート表面から気泡を抜く脱気口を設けたことを特徴とする。
【0018】
また、本発明にかかるコンクリート部材は、上記の発明の表面気泡除去方法を用いて成形したことを特徴とする。
【0019】
また、本発明にかかるコンクリート部材は、上記の発明の型枠を用いて成形したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、コンクリートを打ち込む際に用いられる型枠のコンクリート側の内面に超撥水剤を塗布してコンクリートの表面気泡を除去するようにしているので、簡易な構成でコンクリートの表面気泡を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態である型枠及び型枠の使用状態を示す模式図である。
【
図2】
図2は、型枠が水平型枠であって、脱気口から脱気・脱水処理を行う状態を示す模式図である。
【
図3】
図3は、
図2に示した水平型枠であって、脱気口からの強制的な脱気・脱水処理を行わない状態を示す模式図である。
【
図4】
図4は、角度θが90°、75°、60°のときの超撥水処理を施した場合と施さない場合とにおける表面気泡の状態を示す図である。
【
図5】
図5は、角度θが45°、30°、15°のときの超撥水処理を施した場合と施さない場合とにおける表面気泡の状態を示す図である。
【
図6】
図6は、角度が0°のときの超撥水処理を施した場合と施さない場合、及びそれぞれの場合において脱気・脱水処理を行った場合と行わない場合との4つの場合の結果を示す図である。
【
図7】
図7は、角度θが180°のときの超撥水処理を施した場合と施さない場合とにおける表面気泡の状態を示す図である。
【
図8】
図8は、コンクリートの表面気泡を写し取ったシートの一例を示す図である。
【
図10】
図10は、
図9に示した表面気泡率のうち、脱気・脱水処理を行った場合のものを除いた表面気泡率の角度θの依存性を示す図である。
【
図11】
図11は、超撥水剤が塗布されたシートの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施の形態である型枠及び型枠の使用状態を示す模式図である。
図1に示すように、型枠2は、打ち込まれたコンクリート1を成形するものである。この型枠2は、水平面(X−Y平面)に対して角度θの角度を有する勾配型枠である。型枠2のコンクリート1側の内面には、超撥水剤3が塗布されている。超撥水剤3は、水との接触角が150°以上となる材料である。超撥水剤3は、例えば、一般的なフッ素系材料や、疎水性酸化物微粒子から形成される多孔質層である。超撥水剤3が多孔質層の場合、打ち込まれたコンクリート1に対する型枠2の離型性能を高めることができる。
【0024】
図1に示すように、コンクリート1内で発生した気泡4は、水泡であるため、超撥水剤3の表面を滑りやすくなり、鉛直上方(+Z方向)に容易に移動する。この結果、コンクリート1が固まった後のコンクリート部材の表面に、表面気泡が生じにくくなる。なお、
図1に示すように、コンクリート1の打設後、型枠2の表面から木槌5で叩くようにしてもよい。木槌5で型枠2を叩くことによって、型枠2が振動し、型枠2の内面、すなわちコンクリート表面の気泡の移動がさらにしやすくなるので、好ましい。
【0025】
なお、
図2に示すように、型枠2が水平型枠2aを有する場合、水平型枠2aのコンクリート1側の内面に超撥水剤3を塗布する。この場合、気泡4は、鉛直上方に移動できず、滑って水平方向に移動可能になる。したがって、水平型枠2aには、脱気口6を設ける。そして、脱気口6を介して、脱気処理及び脱水処理を強制的に行う。この際、
図1と同様に、木槌5によって水平型枠2aを叩いて振動させることが好ましい。
【0026】
また、
図3に示すように、脱気口6を介した脱気処理及び脱水処理を強制的に行わず、木槌5によって気泡4の水平移動を促進して、気泡4を脱気口6から抜くようにしてもよい。
【0027】
(実施例)
ここで、型枠2の内面に超撥水層(超撥水剤3)を塗布、すなわち超撥水処理を施した場合と、施さない場合とにおける表面気泡の状態を、角度θを変化させて比較した。
図4は、角度θが90°、75°、60°のときの超撥水処理を施した場合と施さない場合とにおける表面気泡の状態を示している。また、
図5は、角度θが45°、30°、15°のときの超撥水処理を施した場合と施さない場合とにおける表面気泡の状態を示している。
図4及び
図5において、右側の表面気泡の状態が超撥水処理を施した場合であり、左側の表面気泡の状態が超撥水処理を施さない、無処理の場合である。また、
図6は、角度が0°のときの超撥水処理を施した場合と施さない場合、及びそれぞれの場合において脱気・脱水処理を行った場合と行わない場合との4つの場合の結果を示している。
図6の左上の画像は、超撥水処理及び脱気・脱水処理を行った場合を示している。
図6の右上の画像は、超撥水処理を行い、脱気・脱水処理を行わない場合を示している。
図6の左下の画像は、超撥水処理を行わず、脱気・脱水処理を行った場合を示している。
図6の右下の画像は、超撥水処理及び脱気・脱水処理をともに行わなかった場合を示している。なお、
図6では、脱気口を設けている。また、
図7は、角度θが180°のときの超撥水処理を施した場合と施さない場合とにおける表面気泡の状態を示している。
【0028】
上述した
図4〜
図7までの結果をまとめるため、表面気泡率Rpを求めた。この表面気泡率Rpの算定は、鉄筋の錆の腐食面積率の算定方法を参考にして行い、直径1mm以上のものを表面気泡と定義した。このため、透明なシートに、
図8に示すように表面気泡を写し取り、白黒の二値化処理を行い、次式によって表面気泡率Rp(%)を求めた。ただし、RAは、表面気泡の面積である。また、AAは、型枠2の面積である。
Rp=(RA/AA)×100
【0029】
図9は、
図4〜
図7で示した画像に対する表面気泡率の結果を示す図である。
図9に示すように、いずれの場合も、斜線で示した超撥水処理を施した場合の方が、超撥水処理を施さない場合に比して表面気泡率が小さいことがわかる。特に、角度θが60°以下の場合、超撥水処理を施さない場合に比して表面気泡率を大幅に低減できる。また、角度θが小さい場合、例えば角度が15°の場合、型枠2に沿った気泡4の移動抵抗力が大きくなるが、超撥水剤3を塗布することによって、表面気泡率が格段に小さくなっている。
【0030】
図10は、
図9に示した表面気泡率のうち、脱気・脱水処理を行った場合のものを除いた表面気泡率の角度θの依存性を示している。
図10に示した曲線のように、超撥水処理を施すことによって、無処理の場合に比して、表面気泡率が小さくなっている。なお、それぞれの相関係数rは、0.9以上であり、示した曲線は、強い相間をもっている。
【0031】
なお、
図9に示したように、角度θが0°の場合、超撥水処理を施し、脱気・脱水処理を施さなくても、ある程度の表面気泡率を低減することができるが、超撥水処理及び脱気・脱水処理を施すことによって、表面気泡率を格段に小さくすることができることがわかる。
【0032】
本実施の形態では、超撥水剤3を型枠2のコンクリート1側の内面に塗布するのみという簡単な処理によって、無処理の場合に比して、表面気泡を大幅に低減することができる。
【0033】
なお、超撥水剤3の塗布の態様は、超撥水剤3を型枠2のコンクリート1側の内面に直接塗布するほか、超撥水剤3が塗布されたシートを型枠2のコンクリート1側の内面に貼付することを含む。すなわち、超撥水剤3を、シートを介して間接的に型枠2のコンクリート1側の内面に塗布するようにしてもよい。超撥水剤3が塗布されたシートを型枠2に貼付する方法では、超撥水剤3を型枠2に直接塗布する場合に比して、作業現場における超撥水剤3の塗布作業を容易に行うことができる。
【0034】
具体的には、
図11に示すように、超撥水剤3が塗布されたシート10を型枠2に貼付する。超撥水剤3が多孔質層である場合、例えばシート10は、超撥水剤3から順次、接着層11、樹脂フィルム12、接着層13を有する。
【0035】
接着層11は、超撥水剤3と樹脂フィルム12との接着を行う層である。したがって、超撥水剤3が樹脂フィルム12に直接接着することができる場合、接着層11は不要となる。
【0036】
なお、超撥水剤3が塗布されたシート10を型枠2に貼付する方法としては、接着層13にホットメルト型接着剤や感熱型接着剤を用いた場合は、ヒートガンやアイロン等で加温することにより、貼り合わせることができる。また、接着層13にドライラミネート型接着剤や感圧型接着剤や粘着剤を用いた場合は、貼り合わせ後に圧力を加えることにより、貼り合わせることができる。なお、現場や作業場において二液硬化型接着剤や粘着剤を用いて樹脂フィルム12〜超撥水剤3の積層体を貼り合わせるようにしてもよい。また、超撥水剤3が塗布されたシート10の裏面、すなわちシート10の超撥水剤3が塗布されていない側の面に粘着剤を塗布し、さらに粘着剤の表面に離型紙を貼り付けてもよい。これにより、現場や作業場においてシート10を適切な大きさにカットして離型紙をはがし、粘着剤を介してシート10を型枠2に貼り付けることができる。
【符号の説明】
【0037】
1 コンクリート
2 型枠
2a 水平型枠
3 超撥水剤
4 気泡
5 木槌
6 脱気口
10 シート
11,13 接着層
12 樹脂フィルム