【実施例】
【0011】
図1は本開示の一実施例としての流体伝動装置10の構成の概略を示す構成図である。実施例の流体伝動装置10は、車両に搭載された図示しないエンジンからのトルクを伝達するトルクコンバータとして構成されている。この流体伝動装置10は、図示するように、エンジンのクランクシャフトにフロントハブ14を介して連結されたフロントカバー12と、フロントカバー12の外周部に接合されたポンプインペラ20と、ポンプインペラ20と同軸上に対向して配置されたタービンランナ30と、タービンランナ30からポンプインペラ20に向かう作動油の流れを整流するステータ40と、ロックアップ室80に収容されフロントハブ14に接続された多板式のロックアップクラッチ50と、ロックアップ室80に収容されタービンランナ30の内周部に接合されたタービンハブ32とロックアップクラッチ50とに接続されたダンパ装置70と、を備える。実施例では、図示しない有段の自動変速機(AT)や無段変速機などの変速装置のインプットシャフトがタービンハブ32に接続される。また、実施例の流体伝動装置10は、ポンプインペラ20とタービンランナ30とステータ40とで囲まれる空間によりコンバータ室48を形成している。
【0012】
ロックアップクラッチ50は、入力要素としてのフロントカバー12(フロントハブ14)と出力要素としてのタービンハブ32とを直結可能な機構である。ロックアップクラッチ50は、フロントハブ14により軸方向に摺動自在に支持されるロックアップピストン51と、フロントカバー12の内壁に固定される環状のクラッチハブ52と、ダンパ装置70を介してタービンハブ32に連結されるクラッチドラム53と、クラッチハブ52の外周にスプラインに係合される複数の環状の第1プレート60と、クラッチドラム53の内周にスプラインに係合される複数の環状の第2プレート62と、ロックアップピストン51よりもダンパ装置70側に位置するようにフロントハブ14に固定される環状部材54と、を備える。複数の第1プレート60と複数の第2プレート62とは、軸方向に沿って交互に配置されている。実施例では、第1プレート60は、摩擦材64が取り付けられていないセパレートプレートであり、第2プレート62は、プレート面に複数の摩擦材64(
図2参照)が取り付けられた摩擦プレートであるものとする。勿論、第1プレート60と第2プレート62とが、いずれも、複数の摩擦材が取り付けられる面と摩擦板が取り付けられない面とを有するものなどとしてもよい。
【0013】
このロックアップクラッチ50は、環状部材54とロックアップピストン51とにより、ロックアップ室80と区画された係合用油室58を形成する。そして、係合用油室58内の油圧をロックアップ室80内の油圧よりも高くしてロックアップピストン51をフロントカバー12側に移動させて、第1プレート60と第2プレート62とを押圧して接触させることにより、ロックアップをオンすることができる。また、係合用油室58内の油圧をロックアップ室80内の油圧よりも低くして、ロックアップピストン51をフロントカバー12と反対側に移動させて第1プレート60と第2プレート62との押圧による接触を解除することにより、ロックアップをオフすることができる。
【0014】
このような流体伝動装置10が搭載された車両では、発進時などにおいてはロックアップがオフ(解放)されており、エンジンからの動力がフロントカバー12(フロントハブ14)を介してポンプインペラ20に伝達され、ポンプインペラ20の回転をコンバータ室48内の作動油を介してタービンランナ30に伝達してタービンランナ30(タービンハブ32)を回転させる。これにより、エンジンからの動力が変速装置のインプットシャフトに伝達される。また、流体伝動装置10が搭載された車両では、低車速時などにおいてはエンジンのクランクシャフト(ポンプインペラ20)の回転速度と変速装置のインプットシャフト(タービンランナ30)の回転速度との差回転が目標回転速度となるように係合用油室58内の油圧を徐々に高めるスリップ制御が行われる。そして、スリップ制御中に車速やアクセル開度などに基づく所定のロックアップ条件が成立すると、ロックアップがオン(係合)となるように係合用油室58内の油圧が制御される。
【0015】
摩擦プレートである第2プレート62の構成について更に説明する。
図2は第2プレート62の構成の概略を示す構成図であり、
図3は第2プレート62の部分拡大図であり、
図4は
図3のA−A断面を示す断面図である。第2プレート62は、
図2に示すように、円環板状のベースプレート63と、ベースプレート63のプレート面63aに第2プレート62の周方向(以下、単に周方向とする)に沿って等間隔で固着された複数組の摩擦材64,64とを備えている。一組(一対)の摩擦材64,64は、プレス成形により同じ形状に形成されて左右対称となるよう配置されたものであるため、区別する必要がある場合を除いて、単に摩擦材64という。
【0016】
摩擦材64は、
図3,
図4に示すように、ロックアップがオンされる場合に対向する第1プレート60に接触する頂部(接触部)65と、第2プレート62の周方向において頂部65の両側に位置し頂部65よりもプレート面63aからの高さが低い段差部66,67とを有し、周方向における断面(
図4参照)が凸状に形成された凸状部材である。なお、
図4では、説明の便宜上、
図3よりも段差部66,67を大きく図示している。また、摩擦材64は、第2プレート62の径方向における略中央の位置に、周方向の一端から部分的に切り欠いた切り欠き部68を有している。上述したように、一組の摩擦材64は、左右対称に配置されており、左右の摩擦材64,64の各切り欠き部68が互いに向き合うものとなる。
【0017】
この摩擦材64は、打ち抜き加工により切り欠き部68を有する粗形材が形成されてから、面押し加工により頂部65の両側の段差部66,67が形成される。段差部66,67を形成することにより、打ち抜き加工によって生じたバリや鋭利なエッジを抑えて、バリや鋭利なエッジにより作動油の流れが阻害されるのを防止することができる。段差部66,67は、第2プレート62の周方向における幅が0.20mm以上で頂部65の幅よりも小さな幅となるよう形成される。ここで、
図4の矢印は、エンジンのクランクシャフト(ポンプインペラ20)の回転速度が変速装置のインプットシャフト(タービンランナ30)の回転速度よりも大きい場合(ロックアップがオフ)の作動油の流れ方向を示す。本実施例では、
図4に示す流れ方向において、上流側となる図中左側の段差部66(以下、上流側段差部66とする)と、下流側となる図中右側の段差部67(以下、下流側段差部67とする)とのサイズが異なるものとなっている。具体的には、周方向における上流側段差部66の幅L1が周方向における下流側段差部67の幅L2よりも大きくなっており、プレート面63aからの上流側段差部66の高さH1とプレート面63aからの下流側段差部67の高さH2とが同じものとなっている。このような形状は、面押し加工時に、上流側段差部66の押し込み幅(L1)を下流側段差部67の押し込み幅(L2)よりも大きくし、上流側段差部66の押し込み深さ(高さ)D1と下流側段差部67の押し込み深さD2とを同じものとすることにより形成することができる。上流側段差部66の幅L1は、面押し加工時の摩擦材64の位置ズレなどの製造のバラツキが生じても、下流側段差部67の幅L2よりも大きくなるように、幅L2よりも約0.5〜1mm程度大きく設定されている。これらのことから、摩擦材64の製造のバラツキが生じても、上流側段差部66の幅L1は下流側段差部67の幅L2よりも大きく、上流側段差部66の方が下流側段差部67よりも周方向における断面積が大きなものとなる。
【0018】
摩擦材64をこのような形状とする理由について説明する。
図5はロックアップクラッチがオフの場合に比較例の摩擦材64Aによりプレート60,62A間に生じる油圧の変化の様子を示す説明図であり、
図6はロックアップクラッチがオフの場合に実施例の摩擦材64によりプレート60,62間に生じる油圧の変化の様子を示す説明図である。
図5の比較例では、実施例と異なり、周方向における上流側段差部66の幅と下流側段差部67の幅とが同じ幅L0で、プレート面63aからの高さが同じ高さH0(押し込み深さD0)の設計となっている。ここで、プレート60,62(62A)の隙間は、摩擦材64(64A)がある部分で小さくなるため、プレート60,62(62A)の隙間に流入した作動油の油圧は、摩擦材64(64A)がない部分の基準圧P0から変化することになる。上流側段差部66においては、プレート60,62(62A)の隙間が狭くなるため、圧縮により油圧が正圧側に変化する傾向となり、下流側段差部67においては、プレート60,62(62A)の隙間が広くなるため、膨張により油圧が負圧側に変化する傾向となる。また、
図5,
図6には、上流側段差部66の上流側の縁から頂部65の略中央近傍まで流れ方向に進むほど隙間が狭くなるくさびとみなし、頂部65の略中央近傍から下流側段差部67の下流側の縁まで流れ方向に進むほど隙間が広くなるくさびとみなして、くさび効果の式(油空圧便覧((社)日本油空圧学会編)P40)を参考に、くさび内の圧力分布を流体解析をもとに算出した油圧の変化を模式的に示す。
図5に示すように、基準圧P0から圧力が上昇して上流側段差部66と頂部65との境で正圧側に最も高い圧力P1となった後、圧力が低下していき、頂部65と下流側段差部67との境で負圧側に最も高い圧力P2となった後、基準圧P0まで圧力が上昇するよう変化するものとなる。また、圧力P1は、幅Lが大きいほど正圧側に大きくなり、高さHが高いほど(深さDが浅いほど)正圧側に大きくなる傾向にあり、圧力P2は、幅Lが大きいほど負圧側に大きくなり、高さHが高いほど(深さDが浅いほど)負圧側に大きくなる傾向にある。
【0019】
このため、比較例において、上流側段差部66と下流側段差部67とが設計通りに同じサイズに形成されている場合、圧力P1の絶対値と圧力P2の絶対値とが等しく、
図5中に実線で示すような圧力変化となる。この場合、正圧側への変化分と負圧側への変化分とが略同じ大きさとなって打ち消し合うことになる。しかし、面押し加工時の摩擦材64の位置ズレなどにより各段差部が設計通りに形成されない場合がある。その場合、例えば下流側段差部67の幅が上流側段差部66の幅よりも大きくなると、
図5中に点線で示すように、上流側段差部66における圧力P1’が圧力P1よりも絶対値として小さくなり、下流側段差部67における圧力P2’が圧力P2よりも絶対値として大きくなる。そうなると、第1プレート60と第2プレート62Aとの間に作用する荷重は、負圧側に大きなものとなる(斜線部分の面積差)。このため、第1プレート60と第2プレート62Aとを互いに引き付ける力が大きくなり、引き摺りトルクが増大する。引き摺りトルクが増大すると、動力の伝達効率が低下することがある。また、特に、作動油の油温が低いために作動油の粘性が高い状態で、車両の発進時などのエンジンの回転速度が低い場合には、引き摺りトルクの影響が顕著となって、エンジンの回転速度の制御性が大きく損なわれたり、エンジンの停止などを引き起こしたりするおそれがある。
【0020】
そこで、本実施例では、上述したように、面押し加工時の位置ズレなどの摩擦材64の製造のバラツキが生じた場合であっても、上流側段差部66の幅L1が下流側段差部67の幅L2よりも大きくなるように幅L1,L2を設定しているのである。これにより、
図6に示すように、圧力P1の絶対値を圧力P2の絶対値よりも確実に大きくすることができるため、製造のバラツキが生じても、第1プレート60と第2プレート62との間に作用する荷重を正圧側に大きなものとすることができる(斜線部分の面積差)。このため、第1プレート60と第2プレート62とを互いに引き離す力が作用することになるから、製造のバラツキによって、引き摺りトルクが生じるのを防止してロックアップクラッチ50の制御性が低下するのを防止することができる。また、複数枚の第2プレート62に固着される摩擦材64を全てこのような形状とすることで、第2プレート62の製造のバラツキが生じても、ロックアップクラッチ50全体で引き摺りトルクを低減させることができるものとなる。
【0021】
また、摩擦材64は、上述したように、部分的に切り欠いた切り欠き部68を有している。このため、例えば、一組の摩擦材64,64のうち作動油の流れ方向の下流側(例えば
図3中の右側)に配置されている摩擦材64では、切り欠き部68内に流入した作動油を貯留することができる。そして、切り欠き部68内に貯留された作動油の油圧が高まると、頂部65上に作動油が流れ込むため、頂部65上の油圧を正圧側に変化させるよう作用することになる。したがって、下流側の摩擦材64では、上流側段差部66の幅L1が下流側段差部67の幅L2よりも大きくなっていることによる作用と、切り欠き部68が形成されていることによる作用とが相まって、第1プレート60と第2プレート62との間の油圧を正圧側に変化させる傾向を促すものとすることができる。このため、第1プレート60と第2プレート62とを互いに引き離す力を大きくして、引き摺りトルク増大をより一層防止することができるものとなる。
【0022】
以上説明した本開示の第2プレート62(摩擦プレート)によれば、摩擦材64の上流側段差部66と下流側段差部67とは、ロックアップオフ時において、上流側段差部66における油圧の正圧側への変化分が下流側段差部67における油圧の負圧側への変化分よりも大きくなるように、異なる形状に形成されているから、第1プレート60と第2プレート62との間に正圧を作用させて両者を引き離す力を大きくすることができる。したがって、ロックアップオフ時において、摩擦プレートの製造のバラツキによる引き摺りトルクの増大を防いで、動力伝達効率の低下等の問題が生じるのを防止することができる。
【0023】
また、本開示の第2プレート62によれば、摩擦材64の上流側段差部66と下流側段差部67とは、周方向における上流側段差部66の幅L1と下流側段差部67の幅L2とが異なり、同じ高さに形成されている。このため、面押し加工時の面押し幅を異なるものとするだけで、上流側段差部66と下流側段差部67とを異なるサイズに形成することができる。したがって、各段差部の複雑な加工や面押し加工時の押し込み量に差を設けるなどの煩雑な管理を必要とすることなく、引き摺りトルクの増大を防止することができる。
【0024】
また、本開示の第2プレート62によれば、摩擦材64は、ベースプレート63の周方向に全周に亘って等間隔で設けられている。このため、ロックアップオフ時において、第1プレート60と第2プレート62との間に正圧を作用させる効果が両プレートの全周にわたって発生することになるから、引き摺りトルクの増大をより確実に防止することができる。
【0025】
本開示の第2プレート62は、上流側段差部66と下流側段差部67とは、周方向における上流側段差部66の幅L1と下流側段差部67の幅L2とが異なり高さH1,H2が同じ高さに形成されているものとしたが、これに限られるものではない。例えば、上流側段差部66と下流側段差部67とは、上流側段差部66の高さH1と下流側段差部67の高さH2とが異なり周方向における幅L1,幅L2が同じ幅に形成されているものとしてもよい。そのようにする場合、上流側段差部66の高さH1が下流側段差部67の高さH2よりも高いもの、即ち、上流側段差部66の押し込み深さD1が下流側段差部67の押し込み深さD2よりも浅い(頂部65の上面からの段差が小さい)ものとすることができる。あるいは、周方向における上流側段差部66の幅L1と下流側段差部67の幅L2、および、上流側段差部66の高さH1(押し込み深さD1)と下流側段差部67の高さH2(押し込み深さD2)がいずれも異なるものとすることができる。そのようにする場合、例えば、上流側段差部66の幅L1が下流側段差部67の幅L2よりも大きく、且つ、上流側段差部66の高さH1が下流側段差部67の高さH2よりも高い(押し込み深さD1が押し込み深さD2よりも浅い)ものなどとすることができる。
【0026】
本開示の第2プレート62は、上流側段差部66と下流側段差部67とは、周方向における断面の形状がいずれも矩形状の同じ形状としたが、これに限られず、異なる形状としてもよい。例えば、上流側段差部66の周方向における断面の形状を、本開示のように矩形状とし、下流側段差部66の周方向における断面の形状を、プレート面63aから段差部上面までの高さが下流側に向かうほど低くなるよう傾斜したくさび状に形成するものなどとすることができる。この場合の変形例の第2プレート162の断面図を
図7に示す。図示するように、変形例の摩擦材164は、上流側段差部166が頂部65に向かうほどプレート面63aからの高さが高くなるよう傾斜したくさび状に形成され、下流側段差部167が頂部65から遠ざかるほどプレート面63aからの高さが低くなるよう傾斜したくさび状に形成されている。このようにしても、本開示の第2プレート62と同様の効果を奏するものとなる。あるいは、上流側段差部66と下流側段差部67とにおけるエッジ部の面取り形状、R形状、テーパー形状が異なるものなどとすることができる。また、上流側と下流側とのうち、いずれか一方を段差部とし、他方をくさび状部としてもよいし、いずれ一方側にのみ段差部(くさび状部)を形成するものとしてもよい。このように、上流側段差部66と下流側段差部67とは、形状が異なるものであればよい。また、上流側段差部66と下流側段差部67とを異なる形状とする場合、上流側段差部66の方が下流側段差部67よりも周方向における断面積が大きく形成されているものとすることもできる。これにより、断面積の大きな上流側段差部66により作動油を圧縮する作用が大きくなるから、本開示の第2プレート62と同様に、上流側段差部66における油圧の正圧側への変化分が下流側段差部67における油圧の負圧側への変化分よりも大きな傾向とすることができる。
【0027】
また、変形例の第2プレート262の部分拡大図を
図8に示す。図示するように、変形例の摩擦材264では、径方向の外周側に段差部268が形成されており、径方向の内周側に段差部269が設けられている。即ち、変形例の摩擦材264は、周方向だけでなく、径方向の外周側と内周側に段差部268,269が形成されている。なお、径方向の外周側と内周側とに段差部が形成されるものに限られず、頂部65に向かうほど高さが高くなるくさび状に形成されるものなど、径方向の外周側と内周側との形状が頂部65の形状と異なる異形部として形成されるものであればよい。また、径方向の外周側と内周側の両側に形成されるものに限られず、外周側と内周側のいずれか一方に形成されるものでもよい。さらに、外周側(あるいは内周側)の異形部が、周方向における摩擦材264の全長に亘って形成されるものに限られず、周方向における摩擦材264の途中まで形成されるものとしてもよいし、部分的に複数箇所に形成されるものとしてもよい。なお、周方向における摩擦材264の途中まで形成される場合、周方向における上流側のみに形成されるものなどとしてもよい。また、摩擦材の段差部として、径方向における段差部のみが形成され(外周側と内周側の少なくとも一方の段差部(
図8の段差部268,269))、周方向における段差部(上流側段差部66や下流側段差部67,
図8では段差部266a〜266e,267a〜267c)が形成されないものとしてもよい。即ち、摩擦材は、摩擦係合装置の係合時に摩擦対象物に接触する接触部を有し、径方向において接触部の少なくとも一方側でプレート面からの高さが接触部よりも低く形成されている(接触部と異なる形状に形成されている)ものとしてもよい。また、そのような接触部と異なる形状の部分は、本開示の第2プレート62のように、上流側における油圧の正圧側への変化分が下流側における油圧の負圧側への変化分よりも大きくなるように形成されているものとしてもよい。
【0028】
また、
図8の変形例の摩擦材264では、周方向の上流側における段差部と下流側における段差部の数が異なるものとなっている。例えば、左側の摩擦材264では、上流側に3つの段差部266a,266b,266cが形成されており、下流側に2つの段差部267a,267bが形成されている。また、右側の摩擦材264では、上流側に2つの段差部266d,266eが形成されており、下流側に1つの段差部267cが形成されている。なお、段差部の数が異なるものに限られず、上方からみて各段差部の面積が異なるものとしたり、各段差部の幅や長さが異なるものとしてもよい。なお、これらの段差部266a〜266e,267a〜267cのいずれかあるいは全てを、頂部65に向かうほど高さが高くなるくさび状に形成するものとしてもよい。また、左,右の摩擦材264を同様の形状に形成してもよい。
【0029】
本開示の第2プレート62は、複数の摩擦材64がベースプレート63の周方向に全周に亘って等間隔で設けられた複数のセグメント状の部材であるものとしたが、これに限られず、ベースプレート63の周方向に一続きに設けられた一の部材であるものとしてもよい。即ち、一の円環状の摩擦材がベースプレート63に設けられているものとしてもよい。この場合、摩擦材には、頂部65と段差部とが交互に形成されるものとなる。なお、この円環状の摩擦材を、一部が途切れたC状に形成してもよい。また、円環状の摩擦材を半切した2分割に構成してもよいし、3分割や4分割など複数に分割して構成してもよい。
【0030】
本開示の第2プレート62は、一組の摩擦材64,64のいずれも切り欠き部68を有するものとしたが、これに限られず、一組の摩擦材64,64のうち作動油の流れ方向の下流側(
図3中の右側)に配置される摩擦材64のみ切り欠き部68を有するものとしてもよい。また、摩擦材64が有する切り欠き部68を一箇所としたが、切り欠き部68を複数箇所有するものとしてもよい。あるいは、このような切り欠き部68が形成されていないものとしてもよい。
【0031】
本開示の第2プレート62は、第1プレート60と第2プレート62とを複数枚有する多板式のロックアップクラッチ50に用いられるものとしたが、これに限られず、1枚のプレートを有する単板式のロックアップクラッチに用いられるものとしてもよい。
【0032】
本開示の第2プレート62は、トルクコンバータのロックアップクラッチ50に用いられるものとしたが、これに限られず、自動変速機(AT)などの変速装置の変速段を構成するクラッチやブレーキなどの摩擦係合装置に用いられる摩擦板としてもよい。
【0033】
以上説明したように、本開示の摩擦板(62)は、入力回転部材(12)と出力回転部材(32)とを係合する摩擦係合装置(50)に用いられ、円環板状のベースプレート(63)と、該ベースプレート(63)の周方向に設けられた摩擦材(64)とを備える摩擦板(62)であって、前記摩擦材(64)は、前記摩擦係合装置(50)の係合時に摩擦対象物(60)に接触する接触部(65)を有し、前記周方向において前記接触部(65)の少なくとも一方側で前記ベースプレート(63)のプレート面(63a)からの高さが前記接触部(65)よりも低く形成されており、前記周方向における前記接触部(65)の両側は、前記入力回転部材(12)の回転速度が前記出力回転部材(32)の回転速度よりも高い状態で流れる流体の上流側となる上流部(66)と下流側となる下流部(67)とした場合に、前記上流部(66)における流体圧の正圧側への変化分が前記下流部(67)における流体圧の負圧側への変化分よりも大きくなるように形状が異なる。
【0034】
ここで、上流部(66)と下流部(67)とを同じ形状に設計している場合、製造のバラツキによっては、負圧側への変化分が正圧側への変化分よりも大きくなって、摩擦板(62)と摩擦対象物(60)との間に負圧が作用することになる。本開示の摩擦板(62)は、上流部における流体圧の正圧側への変化分が下流部における流体圧の負圧側への変化分よりも大きくなるように形状が異なるから、摩擦板(62)と摩擦対象物(60)との間に正圧を作用させて両者を引き離す力を大きくすることができる。したがって、摩擦板(62)の製造のバラツキによる引き摺りトルクの増大を防止することができる。なお、上流部と下流部との形状が異なるとは、上流部と下流部の幅、上流部と下流部の高さ、上流部の上面と下流部の上面のテーパ形状、上流部と下流部のR形状のうち、少なくともいずれかが異なるものなどとすることができる。
【0035】
また、前記上流部(66)は、前記下流部(67)よりも前記周方向における幅が大きく形成されているものとすることもできる。
【0036】
また、前記上流部(66)は、前記下流部(67)よりも前記接触部(65)との高さの差が小さく形成されているものとすることもできる。
【0037】
また、前記上流部(66)は、前記下流部(67)よりも前記周方向における断面積が大きく形成されているものとすることもできる。
【0038】
また、前記摩擦材(64)は、前記ベースプレート(63)の周方向に全周に亘って等間隔で設けられた複数のセグメント状の部材であるものとすることもできる。
【0039】
また、前記摩擦材(64)は、前記ベースプレート(63)の周方向に一続きに設けられた一の部材であるものとすることもできる。
【0040】
また、前記摩擦材(64)は、前記上流部(66)と前記下流部(67)とが前記プレート面(63a)からの高さが前記接触部(65)よりも低い凸状に形成されているものとすることもできる。
【0041】
また、前記摩擦材(164)は、前記上流部(166)が前記接触部(65)に向かうほど前記プレート面(63a)からの高さが高くなるよう傾斜したくさび状に形成され、前記下流部(167)が前記接触部(65)から遠ざかるほど前記プレート面(63a)からの高さが低くなるよう傾斜したくさび状に形成されているものとすることもできる。
【0042】
また、前記摩擦材(64)は、径方向における内周側と外周側の少なくとも一方側に、前記接触部(65)と形状の異なる少なくとも一の異形部(268,269)が形成されているものとすることもできる。ここで、異形部は、接触部と高さの異なる段差部やテーパ部などとすることができる。
【0043】
また、本開示の流体伝動装置10は、上述したいずれかの摩擦板(62)を用いるロックアップクラッチ(50)を備えたものである。このため、流体伝動装置10は、摩擦板(62)が有する効果、即ち、摩擦板(62)の製造のバラツキによる引き摺りトルクの増大を防止することができる効果を奏するものとなる。
【0044】
なお、実施例では、上流側段差部66の方が下流側段差部67よりも周方向における幅が大きくプレート面63aからの高さ(面押し深さ)が同じものとすることで、上流側段差部66における流体圧の正圧側への変化分が下流側段差部67における流体圧の負圧側への変化分よりも大きくなるようしたが、これに限られるものではない。即ち、上流側段差部66における流体圧の正圧側への変化分が下流側段差部67における流体圧の負圧側への変化分よりも小さくなるようにしてもよい。例えば、下流側段差部67の方が上流側段差部66よりも周方向における幅が大きくプレート面63aからの高さが同じものとしてもよいし、下流側段差部67の方が上流側段差部66よりもプレート面63aからの高さが高く周方向における幅が同じものとしてもよいし、下流側段差部67の方が上流側段差部66よりもプレート面63aからの高さが高く周方向における幅も大きいものなどとしてもよい。また、下流側段差部67の方が上流側段差部66よりも周方向における断面積が大きいものとしてもよい。このようにすれば、製造のバラツキが生じても、第1プレート60と第2プレート62との間に負圧を作用させて両者を引き付ける力を大きくすることができる。このため、例えば第1プレート60と第2プレート62とを係合させる際に、より速やかに両プレートを近付けることができるから、スリップ制御時やロックアップをオンする際の応答性を向上させることができる。
【0045】
ここで、上記実施形態における主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した本開示の発明の主要な要素との対応関係について説明する。上記実施形態では、フロントカバー12(フロントハブ14)が入力回転部材に相当し、タービンハブ32が出力回転部材に相当し、第2プレートが「摩擦板」に相当し、ベースプレート63が「ベースプレート」に相当し、摩擦材64が「摩擦材」に相当し、頂部65が「接触部」に相当し、上流側段差部66が「上流部」に相当し、下流側段差部67が「下流部」に相当する。また、ロックアップクラッチ50を備える流体伝動装置10が「流体伝動装置」に相当し、
【0046】
そして、本開示の発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記実施形態は、あくまで発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。