(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御装置は、前記送り歯の周回動作において、送り後半区間に比べて送り前半区間の送り歯が高くなる軌跡で周回させるように前記上下送りモーターを制御することを特徴とする請求項3,5,6,7又は8に記載のミシン。
前記制御装置は、前記送り歯の周回動作において、送り前半区間に比べて送り後半区間の送り歯が高くなる軌跡で周回させるように前記上下送りモーターを制御することを特徴とする請求項3,5,6,7又は8に記載のミシン。
前記制御装置は、前記送り歯の周回動作において、送り開始区間と送り終了区間において、送り歯が高くなる軌跡で周回させるように前記上下送りモーターを制御することを特徴とする請求項3,5,6,7又は8に記載のミシン。
前記制御装置は、前記送り歯の周回動作において、送り区間では、当該送り歯の歯先が針板の上面以下の高さとなる軌跡で周回させるように前記上下送りモーターを制御することを特徴とする請求項6又は7に記載のミシン。
前記制御装置は、縫製開始の一針目又は縫製開始から規定針数の間、前記送り歯の周回動作において、送り区間の前記送り歯の歯先の高さが、それ以降の縫製の送り歯の刃先の高さに比べて低くなる軌跡で周回させるように前記上下送りモーターを制御することを特徴とする請求項3,5,6,7又は8に記載のミシン。
前記制御装置は、縫製終了の最終針又は縫製終了までの複数針数の間、前記送り歯の周回動作において、送り区間の前記送り歯の歯先の高さが、それ以前の縫製の送り歯の刃先の高さに比べて低くなる軌跡で周回させるように前記上下送りモーターを制御することを特徴とする請求項3,5,6,7,8又は13に記載のミシン。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のミシンは、送り歯の水平方向の往復動作を布送りモーターから動力を得て行っているが、送り歯の水平方向の往復動作は、送り歯の上下方向の往復動作よりもストロークが大きく、布送りモーターの負荷が大きくなることが問題であった。
また、送り歯の水平方向の往復動作は、被縫製物を送る動作を伴うので、布送りモーターに生じる負荷が大きくなり、これも高速化の妨げとなっていた。
【0005】
本発明は、送り歯の周回の軌跡を任意に調節可能としつつ布送りモーターの負荷の軽減を図ることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ミシンにおいて、
針棒を上下動させる針上下動機構と、
前記針上下動機構の駆動源となるミシンモーターと、
針板の上の被縫製物を送る送り歯を支持する送り台と、
前記ミシンモーターから動力を得て前記送り台に対して水平方向の往復動作を伝達する水平送り機構と、
前記送り台に対して上下方向の往復動作を付与する上下送り機構とを備えるミシンにおいて、
前記水平送り機構は、前記ミシンモーターによる前記送り台に対する水平方向の往復動作のピッチを変更調節する送り調節モーターを有し、
前記上下送り機構は、前記送り台に対する上下方向の往復動作の駆動源となる上下送りモーターを有し、
前記送り調節モーターと前記上下送りモーターを制御して前記送り歯による前記被縫製物の送り動作を行う制御装置を備える
。
【0007】
さらに、本発明は、
前記上下送り機構は、
前記上下送りモーターの出力軸に連結されて回動動作を行う第一リンクと、
前記第一リンクの回動端部に一端部が連結された第二リンクと、
前記第二リンクの他端部に一端部が連結された第三リンクと、
前記第三リンクに連結されると共にミシンフレームに支持された回動軸とを備え、
前記制御装置が、
前記第一リンクと前記第二リンクとによって死点となる軸角度を通過しない角度範囲で往復回動動作を行うように前記上下送りモーターを制御することにより、前記第三リンクに往復回動動作を付与して前記送り台に上下方向の往復動作を付与する
構成としても良い。
【0008】
さらに、本発明は、
前記制御装置は、上軸角度に同期して所定の軌跡で前記送り歯を周回させるように前記上下送りモーターを制御する
構成としても良い。
【0009】
さらに、本発明は、
前記制御装置は、前記送り歯の周回動作において、送り後半区間に比べて送り前半区間の送り歯が高くなる軌跡で周回させるように前記上下送りモーターを制御する
構成としても良い。
【0010】
さらに、本発明は、
前記制御装置は、前記送り歯の周回動作において、送り前半区間に比べて送り後半区間の送り歯が高くなる軌跡で周回させるように前記上下送りモーターを制御する
構成としても良い。
【0011】
さらに、本発明は、
前記制御装置は、前記送り歯の周回動作において、送り開始区間と送り終了区間において、送り歯が高くなる軌跡で周回させるように前記上下送りモーターを制御する
構成としても良い。
【0012】
さらに、本発明は、
前記制御装置は、前記送り歯の周回動作において、送り区間では、当該送り歯の歯先が針板の上面以下の高さとなる軌跡で周回させるように前記上下送りモーターを制御する
構成としても良い。
【0013】
さらに、本発明は、
前記制御装置は、縫製開始の一針目又は縫製開始から規定針数の間、前記送り歯の周回動作において、送り区間の前記送り歯の歯先の高さが、それ以降の縫製の送り歯の刃先の高さに比べて低くなる軌跡で周回させるように前記上下送りモーターを制御する
構成としても良い。
【0014】
さらに、本発明は、
前記制御装置は、縫製終了の最終針又は縫製終了までの複数針数の間、前記送り歯の周回動作において、送り区間の前記送り歯の歯先の高さが、それ以前の縫製の送り歯の刃先の高さに比べて低くなる軌跡で周回させるように前記上下送りモーターを制御する
構成としても良い。
【0015】
さらに、本発明は、
前記ミシンモーターを駆動させる主電源の電力が所定値未満となる低下を検出する電源低下検出部と、
前記ミシンモーターの減速時に回生電力を蓄えるモーター駆動回路とを備え、
前記制御装置は、前記電源低下検出部による主電源の電力が所定値未満となる低下を検出した場合に、前記モーター駆動回路に蓄えられた回生電力を前記上下送りモーターに供給し、前記送り歯の歯先の高さが針板上面以下の高さとなるよう制御する
構成としても良い。
【0016】
さらに、本発明は、
前記送り歯の下側で縫い糸を切断する糸切り装置を備え、
前記制御装置は、前記糸切り装置による糸切りの際に、当該送り歯が送り方向下流側に移動する区間の途中で一時的に前記送り歯の歯先が針板の上面以下の高さとなる軌跡で周回させるように前記上下送りモーターを制御する
構成としても良い。
【0017】
さらに、本発明は、
前記送り調節モーターと前記上下送りモーターとを、ミシンベッド部内で当該ミシンベッド部の長手方向について離隔して配置
する構成としても良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、水平送り機構が、ミシンモーターによる送り台に対する水平方向の往復動作のピッチを変更調節する送り調節モーターを有し、上下送り機構は、送り台に対する上下方向の往復動作の駆動源となる上下送りモーターを有し、送り調節モーターと上下送りモーターを制御して送り歯による被縫製物の送り動作を行う制御装置を備えている。
このため、送り歯の上下の往復動作についてミシンモーターから制約を受けることなく任意に動作させることができるので、多種多様の軌跡パターンで送り歯を周回移動させることが可能となる。
また、送り歯の上下の往復動作についてミシンモーターから独立した他のモーターを駆動源とすることでも、種々の軌跡パターンについて実行可能である。しかしながら、水平方向の往復ストロークは上下方向の往復ストロークよりも遙かに大きいので、より低イナーシャで出力が大きなモーターが必要となる。なお、モーターは出力が大きくなるとイナーシャも大きくなる傾向にあるので、実際にはそのようなモーターは入手困難であるため、縫製速度を低減して送りを行うことが余儀なくされる。
これに対して、上記ミシンは、上下送りモーターとして入手が容易な小型、低出力のものを使用することができ、また、高速縫製にも対応可能である。そして、より多彩な軌跡パターンで送りを行うことができる。
また、縫いピッチの調節は、送り台を水平方向に移動させるための負荷を伴わずに送り量の変更調節のみを送り調節モーターで行うので、信頼性及び安定性が高く、高精度である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[実施形態の概略構成]
以下、本発明の実施形態であるミシンについて詳細に説明する。
図1はミシン100のミシンベッド部内の主要な構成を示す斜視図である。
図1に示すように、ミシン100は、縫い針を上下動させる図示しない針上下動機構と、その駆動源となるミシンモーター16(
図7参照)と、ミシンモーター16により回転動作が行われる図示しない上軸と、上糸を下糸に絡める釜12と、縫い針の上下動に合わせて針板11上の被縫製物たる布地を送る送り装置30と、上軸から送り装置30の下軸33に回転力を伝達するベルト機構20と、上糸及び下糸を切断する糸切り装置14(
図7参照)上記各構成を支持するミシンフレーム(図示略)と、上記各構成を制御する制御装置90(
図7参照)とを備えている。
なお、上記ミシン100はいわゆる本縫いミシンであり、一般的な本縫いミシンが備える天秤機構、糸調子、布押さえ等の各構成を備えているが、これらは周知のものなので説明は省略する。
【0021】
上記ミシンフレームは、ミシンの全体において下部に位置するベッド部と、ミシンベッド部の長手方向の一端部において上方に立設された立胴部と、立胴部の上端部からベッド部と同方向に延設された図示しないアーム部とを備えている。
なお、以下の説明では、ミシンベッド部の長手方向に平行な水平方向をY軸方向とし、水平であってY軸方向に直交する方向をX軸方向とし、X軸及びY軸方向に直交する方向をZ軸方向とする。
【0022】
[針上下動機構及びベルト機構]
針上下動機構は、アーム部の内側に配設され、ミシンモーター16に回転駆動されると共にY軸方向に沿って配設された上軸と、縫い針を下端部で保持する針棒と、上軸の回転力を上下動の往復駆動力に変換して針棒に伝達する図示しないクランク機構とを備えている。
そして、ベルト機構20は、上軸に固定装備された主動プーリと、送り装置30の下軸33に固定装備された従動プーリ21と、主動プーリと従動プーリ21とに掛け渡されたタイミングベルト22とを備えている。そして、ベルト機構20により、下軸33は上軸と同速度で回転を行う。
なお、ベルト機構に替えて縦軸と傘歯車からなる歯車伝達機構で上軸から下軸33に回転力を伝達しても良い。
【0023】
[送り装置]
図1に示すように、送り装置30は、針板11の開口から出没して布地を所定方向に送る送り歯31と、送り歯31を保持する送り台32と、ミシンモーター16から動力を得て送り台32に対してX軸方向(水平方向)の往復動作を伝達する水平送り機構40と、送り台32に対して上下方向の往復動作を付与する上下送り機構60Bとを備えている。
【0024】
[水平送り機構]
水平送り機構40は、送り台32に対するX軸方向の往復動作のストロークを調節する送り調節機構50と、下軸33からX軸方向に沿った往復動作を取り出すクランクロッド41と、送り調節機構50を介してクランクロッド41から往復回動が付与される水平送り軸42と、水平送り軸42の往復回動駆動力を送り方向の往復駆動力に変換して送り台32に伝達する水平送りアーム43とを備えている。
【0025】
クランクロッド41は、その一端部が下軸33に固定装備された偏心カム(図示略)を回転可能に保持しており、他端部が送り調節機構50に連結されている。かかるクランクロッド41は、その長手方向がおおむねX軸方向に沿うように配置されており、下軸33が全回転で駆動すると、クランクロッド41の他端部は偏心カムによりその偏心量の二倍のストロークでその長手方向に沿って往復動作を行う。かかるクランクロッド41の往復動作が送り調節機構50を介して水平送り軸42への往復回動力として伝達される。
【0026】
送り調節機構50は、
図2に示すように、水平送り軸42に固定装備されると共に水平送り軸42を中心とする半径方向外側に延出された揺動アーム51と、クランクロッド41の他端部と揺動アーム51とを連結する一対の第一のリンク体53と、クランクロッド41の他端部の往復運動方向をいずれかの方向に誘導する一対の第二のリンク体54と、第二のリンク体54による誘導方向を決定する送り調節体55と、送り調節体55と一体的に回動する支軸52と、支軸52に固定装備されると共に支軸52を中心とする半径方向外側に延出された入力アーム56と、送り調節体55を回動させて下軸33から送り台32に伝達されるX軸方向(水平方向)の往復動作量を調節する送り調節モーター57と、送り調節モーター57の出力軸から入力アーム56に回動力を伝達する二つの伝達リンク58,59とを備えている。
【0027】
第一のリンク体53は、一端部がクランクロッド41の他端部に連結され、他端部が揺動アーム51の揺動端部に連結され、これら両端部はいずれもY軸回りに回動可能に連結されている。
第二のリンク体54は、一端部が第一のリンク体53の一端部と共にクランクロッド41の他端部に連結され、他端部が送り調節体55の回動端部に連結され、これら両端部はいずれもY軸回りに回動可能に連結されている。
送り調節体55は、その基端部にY軸方向に沿った支軸52が固定装備されており、当該支軸52はミシンフレーム内でY軸回りに回動可能に支持されている。
また、送り調節体55の回動端部は第二のリンク体54の他端部とY軸回りに回動可能に連結されている。
【0028】
送り調節機構50では、第一のリンク体53と第二のリンク体54のそれぞれの長手方向が一致する状態、つまり各リンク体53,54が丁度重なる状態となるように送り調節体55を回動させると、クランクロッド41の駆動力が揺動アーム51に伝わらない状態となる。このとき、水平送り軸42には往復回動動作が伝わらないので、送り台32のX軸方向の往復のストロークが0、即ち、縫いピッチが0となる。このように、各リンク体53,54が重なる状態となる送り調節体55の回動角度を「送り調節体55の中立角度」とする。
【0029】
そして、この送り調節体55を中立角度から一方に回動させると、その回動角度量に応じて揺動アーム51側に往復の揺動動作が付与され、これにより正送り方向の縫いピッチを大きくすることができる。
また、この送り調節体55を中立角度から逆方向に回動させると、やはりその回動角度量に応じて揺動アーム51側に往復の揺動動作を付与することができるが、この場合には、位相が反転して伝達され、これにより逆送り方向の縫いピッチを大きくすることができる。
【0030】
送り調節モーター57は、ミシンベッド部内のY軸方向一端部側において、出力軸をY軸方向に向けて配置されている。前述した伝達リンク58は、その長手方向を概ねX軸方向に向けてその一端部が送り調節モーター57の出力軸に固定装備されている。従って、送り調節モーター57の駆動により伝達リンク58の他端部は上下に回動を行う。
伝達リンク59は、その長手方向が概ねZ軸方向に沿った状態で、その下端部が伝達リンク58の他端部にY軸回りに回動可能に連結されている。従って、送り調節モーター57の駆動により伝達リンク59は全体的に上下動を行う。
入力アーム56は、支軸52に固定装備されると共に支軸52から概ねX軸方向に沿って延出されており、その延出端部は伝達リンク59の上端部にY軸回りに回動可能に連結されている。
これらにより、送り調節モーター57が駆動すると、伝達リンク58,59及び入力アーム56を介して送り調節体55を回動させることができる。
【0031】
水平送り軸42は、ミシンベッド部内においてY軸方向に沿って回転可能に支持されており、下軸33に対して布地の送り方向下流側(
図1における左方)に配置されている。かかる水平送り軸42の立胴部側の一端部には前述した送り調節機構50を介して下軸33から往復回動力が付与され、水平送り軸42の他端部から水平送りアーム43を介して送り台32にX軸方向に沿った往復動作を伝達する。
【0032】
水平送りアーム43は、その基端部が水平送り軸42の針板11側の端部に固定連結され、その揺動端部はほぼ上方に向けられた状態で送り台32に連結されている。
従って、水平送りアーム43は、ミシンモーター16の駆動により送り台32をX軸方向に沿って往復移動させることができる。また、送り台32のX軸方向に沿った往復動作のストロークは、送り調節機構50の送り調節モーター57を制御することにより、任意に調節することができる。
【0033】
送り台32は、針板11の下方に配設され、布送り方向(X軸方向)における一端部が上下送り機構60Bに連結され、他端部が水平送りアーム43に連結されている。また、送り台32の長手方向中間位置の上部には送り歯31が固定装備されている。
これにより、送り台32はその一端部から上下方向に往復駆動力が付与され、他端部からは同じ周期で送り方向の往復駆動力が付与される。そして、これらの往復駆動力を合成することでX−Z平面に沿って長円運動を行うこととなる。この送り台32に伴って送り歯31も長円運動を行い、当該長円運動軌跡の上部領域を移動する際に送り歯31の先端部が針板11の開口部から上方に突出し、布地を送ることを可能としている。
【0034】
[上下送り機構]
図3は上下送り機構60Bの斜視図、
図4〜
図6は上下送り機構60Bの動作説明図である。
この上下送り機構60Bは、送り台32に対する上下方向(Z軸方向)の往復動作の駆動源となる上下送りモーター66と、当該上下送りモーター66の出力軸に連結されて回動動作を行う第一リンク61Bと、第一リンク61Bの回動端部に一端部が連結された第二リンク62Bと、第二リンク62Bの他端部に一端部が連結された第三リンク63Bと、第三リンク63Bの他端部に連結されると共にミシンフレーム内で位置が固定された回動軸67と、当該回動軸67を介して第三リンク63Bと連結された第四リンク64と、当該第四リンク64の回動端部に一端部が連結されると共に他端部が送り台32の一端部に連結された第五リンク65とを備えている。
なお、上記の上下送り機構60Bに替えて、モーターと偏心カムとリンクを用いる構成や、モーターとラックとピニオンを用いる構成に変更することも容易に考えられる。
【0035】
上下送りモーター66は、ミシンベッド部内でY軸方向における針板11側の端部に配置され、Y軸方向について、前述した送り調節機構50の送り調節モーター57と離隔して配置されている。これらのモーター57,66は、いずれも設置スペースを広く必要とするが、このようにミシンベッド部内でその長手方向について離隔して配置することにより、相互間のスペースをミシンの他の構成、例えば、モーターと同様に設置スペースを広く必要とする糸切り装置14の駆動源となるソレノイドの設置スペースを確保することができる。
また、上下送りモーター66はその出力軸をY軸方向に沿わせて配置されている。
【0036】
さらに、上下送りモーター66は、前述した送り調節モーター57と同一仕様且つ同一性能であって機種及び種別が同一のモーターを使用している。
これにより、モーター及びその周辺の部材の共通化を図ることができ、コスト低減及びメンテナンス性の向上を図ることが可能となる。
【0037】
第一リンク61Bは、回動中心となる基端部が上下送りモーター66の出力軸に固定支持されている。
一方、第三リンク63Bは、その他端部がミシンベッド部のフレームにより回転可能に支持された回動軸67に固定支持されている。
そして、第一リンク61Bの回動端部と第三リンク63Bの回動端部は第二リンク62Bの一端部と他端部とにそれぞれY軸回りに回動可能に連結されている。
そして、これら第一〜第三リンク61B〜63Bは、
図4に示すように、第一リンク61BがZ軸方向にほぼ並行且つその回動端部が上方を向いた状態であって、第三リンク63BがZ軸方向にほぼ並行且つその回動端部が下方を向いた状態である場合に、第二リンク62BはほぼX軸方向に平行な水平状態となるように、それぞれの長さが設定されている。
【0038】
これにより、上下送りモーター66の出力軸を
図4に示す軸角度(0°)とすると、第一リンク61Bと第二リンク62Bとが90度(直角)となる。この状態が第一〜第三リンク61B〜63Bからなるリンク列における「原点」である。
上記「原点」となる軸角度では、送り歯31の高さは針板11の上面の高さと一致する。
また、「原点」となる軸角度を基準として、
図5に示すように逆方向(反時計方向)に上下送りモーター66を回転駆動させると送り歯31は針板11の上面より上昇し、
図6に示すように正方向(時計方向)に上下送りモーター66を回転駆動させると送り歯31は針板11の上面より下降する。
なお、ミシン100では、その制御装置90が、送り歯31による一針分の送り動作につき、上下送りモーター66に対して、第一リンク61Bと第二リンク62Bとが同一直線上に並んだ最大伸長状態(死点)となる出力軸角度には到達しない角度範囲内(例えば原点±10°)で正逆方向の往復回動を一回行う動作制御を実行する。
【0039】
このように、第一〜第三リンク61B〜63Bからなるリンク列は、上下送りモーター66の回動動作と送り台32への上下動作の付与を等倍の頻度に維持するので、水平方向の送りの往復動作をミシンモーター16から独立したモーターによって付与する場合に比べると、往復のストロークが小さいことにより、高速回転の縫製への追従性が優れている。特に、上下送りモーター66が、第一リンク61Bと第二リンク62Bとが死点となる軸角度を避けて駆動を行うこと、さらには、第一リンク61Bと第二リンク62Bとが直角をなす軸角度を含む範囲で駆動を行うことにより、往復のストロークをより小さくすることができ、高速回転の縫製への追従性をさらに向上させることができる。
【0040】
また、第四リンク64は、概ねX軸方向に沿った状態で基端部が回動軸67に固定されているので、第三リンク63Bと一体的に回動を行う。
そして、第五リンク65は、概ねZ軸方向に沿った状態で第四リンク64の回動端部に一端部が連結されると共に他端部が送り台32の一端部に連結されているので、第四リンク64の回動により第五リンク65を介して送り台32に上下動を伝達することができる。
【0041】
[糸切り装置]
糸切り装置14は、送り歯31と釜12との間に配置された固定メス及び動メスと、下軸33に設けられたカムと、カムに係合して動メスに切断動作を付与するカムコロと、カムコロをカムに係合させるソレノイドとを備えている。ソレノイドは、制御装置90の制御によって作動し、ソレノイドの作動によりカムコロがカムに係合して、動メスに往復の切断動作を伝達し、動メスと固定メスとの協働により上糸及び下糸を切断する。
【0042】
[ミシンの制御系]
上記ミシン100の制御系を
図7のブロック図に示す。この
図7に示すように、ミシン100は、各構成の動作制御を行う制御装置90を備えている。そして、この制御装置90には、ミシンモーター16、送り調節モーター57及び上下送りモーター66が各々のモーター駆動回路16a,57a,66aを介して接続されている。
また、ミシンモーター16には、その回転数を検出するエンコーダ161が併設されており、このエンコーダ161もモーター駆動回路16aを介して制御装置90に接続されている。
また、制御装置90には、糸切り装置14が接続されており、糸切りの実行の際に駆動するソレノイドが制御装置90により制御される。
【0043】
また、制御装置90には電源回路97が併設されている。この電源回路97が回部から電力供給を受けており、外部電力を調整して制御装置90,各モーターやアクチュエーターへの駆動電力を供給する。
電源回路97には、電源低下検出部としての電源電圧検出部98が併設されており、当該電源電圧検出部98は、電源回路97の電源電圧を検出し、制御装置90に入力している。制御装置90は、電源電圧検出部98からの電源電圧を監視して、電源回路97への外部電力の供給が絶たれた停電状態の発生を監視している。
【0044】
また、ミシンモーター16のモーター駆動回路16aは、ミシンモーター16の減速時(停電を原因として減速停止する場合を含む)に発生する回生電力を蓄えるコンデンサーが内蔵されている。
【0045】
制御装置90は、CPU91、ROM92、RAM93、EEPROM94(EEPROMは登録商標)を備え、後述する各種の動作制御を実行する。
また、制御装置90には、後述する送り装置30に対する各種の動作制御の選択、実行や設定を入力するための操作入力部96がインターフェイス96aを介して接続されており、踏み込み操作により縫製の開始及び踏み込み量に応じた縫い速度を入力するペダル95がインターフェイス95aを介して接続されている。
【0046】
[送り装置の動作制御(基準形の軌跡パターン)]
ミシン100では、送り歯31の上下方向の往復動作をミシンモーター16とは独立して上下送りモーター66が行うので、上下送りモーター66を制御することにより、送り歯31の周回移動の軌跡を任意に変更することが可能である。
図8は通常の送りを行う場合の基準形の軌跡である。
図8では横軸が送り歯31のX軸方向の位置、縦軸がZ軸方向の送り歯31の位置を示している。横軸の左側が送り方向下流側であり、横軸の0となる位置は針落ち位置である。また、縦軸の0となる位置が針板11の上面の高さである(後述する
図10,
図12,
図14,
図16,
図18も同様とする)。
この基準形の軌跡では、針板11の上面を基準として上下にほぼ対称な長円となる。なお、送り歯31の歯先(上端部)が針板11の上面以上の位置にある上軸角度の範囲を「送り区間」と定義する。
【0047】
制御装置90は、この長円の軌跡上に並んだドットの各位置に送り歯31を位置決めするための上下送りモーター66の軸角度を上軸角度と関連づけて記録した軌跡パターンデータをEEPROM94内に保持している。
なお、送り調節モーター57の軸角度は長円の軌跡の横軸の幅(縫いピッチ)を決定するので、操作入力部96から縫いピッチが設定されると、送り歯が周回移動している間は縫いピッチが設定値となる軸角度を維持する。
【0048】
そして、制御装置90は、縫製の際には、軌跡パターンデータをRAM93に読み込み、エンコーダ161の出力を監視して、所定の上軸角度となるたびに上下送りモーター66を軌跡パターンデータに定める軸角度に位置決めすることにより送り歯31を
図8の軌跡に従って周回移動させる。
図9は基準形の軌跡で得る上下送りモーター66の軸角度(縦軸)と上軸角度(横軸)との関係を示している。
図8の基準形の軌跡パターンにおける上下送りモーター66の軸角度の変化は、
図9に示すように、おおよそ2π分のサインカーブとなる。
なお、正方向と逆方向の一往復回動で送り歯が上下に一往復する関係のため、時計方向の回動で得る軌跡パターンデータと反時計方向の回動で得る軌跡パターンデータとの二種類を用意する必要はなく、一種類の軌跡パターンデータのみを保有している。
【0049】
[送り装置の動作制御(変形軌跡(1)の軌跡パターン)]
図10は変形軌跡(1)の軌跡である。この変形軌跡(1)は送り後半区間(長円の上半分の区間の送り方向下流側の半分)に比べて送り前半区間(長円の上半分の区間の送り方向上流側の半分)の送り歯が高くなる軌跡であり、送り後半区間が下がる方向に傾斜した長円となる。この軌跡で送り歯31を送ると、送り前半区間で送り歯31が大きく上昇し、徐々に下降するので、送りの際の被縫製物を強力に保持して送り出すことができる。従って、厚物の被縫製物の送りに適している。
制御装置90は、この長円の軌跡上に並んだドットの各位置に送り歯31を位置決めするための上下送りモーター66の軸角度を上軸角度と関連づけて記録した軌跡パターンデータをEEPROM94内に保持している。
【0050】
そして、制御装置90は、所定の上軸角度となるたびに上下送りモーター66を軌跡パターンデータに定める軸角度に位置決めするように制御する。
【0051】
図11は
図10の変形軌跡(1)の回動で得る軌跡パターンデータの上下送りモーター66の軸角度(縦軸)と上軸角度(横軸)との関係を実線で示し、比較の為に、基準形の軸角度と上軸角度との関係を点線で示している。基準形の軌跡パターンにおける上軸角度の変化に対して、送り前半区間で送り歯31が大きく上昇し、その後徐々に下降するように駆動される。
【0052】
[送り装置の動作制御(変形軌跡(2)の軌跡パターン)]
図12は変形軌跡(2)の軌跡である。この変形軌跡(2)は送り前半区間に比べて送り後半区間の送り歯が高くなる軌跡であり、送り後半区間が上がる方向に傾斜した長円となる。この軌跡で送り歯31を送ると、送り前半区間で送り歯31が緩やかに上昇して、徐々に被縫製物を保持して送り出すことができる。従って、薄物の被縫製物の送りに適している。
制御装置90は、この長円の軌跡上に並んだドットの各位置に送り歯31を位置決めするための上下送りモーター66の軸角度を上軸角度と関連づけて記録した軌跡パターンデータをEEPROM94内に保持している。
【0053】
そして、制御装置90は、所定の上軸角度となるたびに上下送りモーター66を軌跡パターンデータに定める軸角度に位置決めするように制御する。
【0054】
図13は
図12の変形軌跡(2)の回動で得る軌跡パターンデータの上下送りモーター66の軸角度(縦軸)と上軸角度(横軸)との関係を実線で示し、比較の為に、基準形の軸角度と上軸角度との関係を点線で示している。基準形の軌跡パターンにおける上軸角度の変化に対して、送り前半区間において送り歯31が緩やかに上昇するように駆動される。
【0055】
[送り装置の動作制御(変形軌跡(3)の軌跡パターン)]
図14は変形軌跡(3)の軌跡である。この変形軌跡(3)は送り区間(長円の上半分の区間)全体に送り歯31の歯先が針板11の上面以下の高さとなる上半分が潰れた形状の長円の軌跡である。この軌跡で送り歯31を送ると、一針分送りを停止させることができる。
送りを停止する(縫いピッチを0にする)ことは、送り調節モーター57を所定の軸角度する制御を行うことでも実行可能だが、送り調節機構50はイナーシャが大きいので、この変形軌跡(3)の軌跡パターンで上下送りモーター66を制御することにより軽快に行うことが可能である。
【0056】
制御装置90は、この長円の軌跡上に並んだドットの各位置に送り歯31を位置決めするための上下送りモーター66の軸角度を上軸角度と関連づけて記録した軌跡パターンデータをEEPROM94内に保持している。
そして、制御装置90は、所定の上軸角度となるたびに上下送りモーター66を軌跡パターンデータに定める軸角度に位置決めするように制御することは、前述した基準形の軌跡パターンの場合と同様である。
【0057】
図15は
図14の変形軌跡(3)の回動で得る軌跡パターンデータの上下送りモーター66の軸角度(縦軸)と上軸角度(横軸)との関係を実線で示し、比較の為に、基準形の軸角度と上軸角度との関係を点線で示している。基準形の軌跡パターンにおける上軸角度の変化に対して、送り区間中は送り歯31の歯先が針板11の上面以下の高さとなるように駆動される。
【0058】
[送り装置の動作制御(変形軌跡(4)の軌跡パターン)]
図16は変形軌跡(4)の軌跡である。この変形軌跡(4)は送り開始区間と送り終了区間において、基準形の軌跡に比べて送り歯31が高くなる形状の長円の軌跡である。
基準形の軌跡では、送り開始区間では徐々に送り歯31が上昇し、送り中央区間で最も送り歯31が被縫製物を保持した状態となり、送り終了区間では徐々に下降する。このような軌跡を採る場合、被縫製物の厚さや収縮性の違いによって縫いピッチに差が生じやすくなる。
この変形軌跡(4)では、送り区間のほぼ全体に渡って送り歯31が高位置を維持するので、被縫製物の厚さや収縮性の違いによって縫いピッチに差が生じにくくなる。例えば、縫製の途中で被縫製物の厚さや収縮性が変化するような被縫製物の縫製を行う場合であっても、縫いピッチを一定に維持することが可能となる。
【0059】
制御装置90は、この長円の軌跡上に並んだドットの各位置に送り歯31を位置決めするための上下送りモーター66の軸角度を上軸角度と関連づけて記録した軌跡パターンデータをEEPROM94内に保持している。
そして、制御装置90は、所定の上軸角度となるたびに上下送りモーター66を軌跡パターンデータに定める軸角度に位置決めするように制御することは、前述した基準形の軌跡パターンの場合と同様である。
なお、被縫製物の厚さを検知する段部検知装置を取り付け、段部を検知した際に、制御装置90は、変形軌跡(4)となるように上下送りモーター66を制御するようにしても良い。
【0060】
図17は
図16の変形軌跡(4)で得る軌跡パターンデータの上下送りモーター66の軸角度(縦軸)と上軸角度(横軸)との関係を実線で示し、比較の為に、基準形の軸角度と上軸角度との関係を点線で示している。図示のように、基準形の軌跡パターンにおける上軸角度の変化に対して、送り開始区間と送り終了区間とで、送り歯31が高い位置を維持するべく中心から大きく振れるように駆動される。
【0061】
[送り装置の動作制御(変形軌跡(5)の軌跡パターン)]
図18は変形軌跡(5)の軌跡である。この変形軌跡(5)は糸切り装置14による糸切りを実行する場合に一時的に送り歯31の歯先が針板11の上面以下の高さとなる様に下げるように、一部を切り欠いた形状の長円の軌跡である。
全体的に、基準形の軌跡とほぼ同一であるが、糸切り装置14の動メスが固定メスとの協働により上糸及び下糸を切断する瞬間の上軸角度の時だけ、送り歯31の歯先が針板11の上面の高さとなっている。
糸切り装置14は、針板11の下側で上糸及び下糸を切断するので、送り歯31に持ち上げられる被縫製物が針板11の上面から離れた位置にあるほど切断後の残端が長くなる。従って、上記変形軌跡(5)の軌跡を採ると、送り歯31が一時的に下降して被縫製物が針板11の上面と一致するので、被縫製物に残る上糸及び下糸の残端を短くすることができる。また、下降させるのは一時的であるため、縫いピッチがほぼ設定値となるように被縫製物を送ることができる。
【0062】
制御装置90は、この長円の軌跡上に並んだドットの各位置に送り歯31を位置決めするための上下送りモーター66の軸角度を上軸角度と関連づけて記録した軌跡パターンデータをEEPROM94内に保持している。
そして、制御装置90は、所定の上軸角度となるたびに上下送りモーター66を軌跡パターンデータに定める軸角度に位置決めするように制御することは、前述した基準形の軌跡パターンの場合と同様である。
【0063】
図19は
図18の変形軌跡(5)で得る軌跡パターンデータの上下送りモーター66の軸角度(縦軸)と上軸角度(横軸)との関係を実線で示し、比較の為に、基準形の軸角度と上軸角度との関係を点線で示している。図示のように、ほぼ全体的に基準形と同じパターンとなるが、上糸及び下糸の切断が行われる僅かの区間のみ、送り歯の歯先が針板11の上面高さとなるように軸角度が定められている。
【0064】
[送り装置の動作制御(その他)]
上述した各種の軌跡パターン(1)〜(5)は、操作入力部96により予め選択することができる。選択されると、制御装置90では選択された軌跡パターンに対応する軌跡パターンデータを特定し、RAM93に読み込み、送り制御を実行する。
また、操作入力部96から軌跡パターンの各上軸角度での上下送りモーター66の軸角度(又は送り歯の歯先の高さ)を設定して軌跡パターンデータの作成や編集を行うことができる。
【0065】
[送り装置の動作制御(変形軌跡(6)の軌跡パターン)]
図20は変形軌跡(6)の軌跡である。この変形軌跡(6)は送り区間全体が基準形の軌跡パターンに比べて送り歯の刃先が低くなる軌跡である。この軌跡で送り歯31を送ると、送り歯31の刃先の高さが通常よりも低い位置を通過するので、例えば、被縫製物の縫製開始端部に縫製を行う場合に、被縫製物を送り歯31と布押さえとの間に円滑に引き込むことができ、縫製開始時の作業を良好に行うことが可能となる。
また、この軌跡で送り歯31を送ると、被縫製物の縫製終了端部に縫製を行う場合に、被縫製物と送り歯31の引っ掛かりを低減させ、被縫製物を送り歯31と布押さえと間から円滑に引き出すことができ、縫製終了時の作業を良好に行うことが可能となる。
従って、変形軌跡(6)は、被縫製物の縫製開始端部と縫製終了端部の送りに適している。
制御装置90は、この長円の軌跡上に並んだドットの各位置に送り歯31を位置決めするための上下送りモーター66の軸角度を上軸角度と関連づけて記録した軌跡パターンデータをEEPROM94内に保持している。
【0066】
そして、制御装置90は、所定の上軸角度となるたびに上下送りモーター66を軌跡パターンデータに定める軸角度に位置決めするように制御する。
【0067】
図21は
図20の変形軌跡(6)の回動で得る軌跡パターンデータの上下送りモーター66の軸角度(縦軸)と上軸角度(横軸)との関係を実線で示し、比較の為に、基準形の軸角度と上軸角度との関係を点線で示している。基準形の軌跡パターンにおける上軸角度の変化に対して、送り区間全体で送り歯31の上昇量が小さくなるように駆動される。
【0068】
上記変形軌跡(6)は、前述したように、被縫製物の縫製開始端部と縫製終了端部の縫製に適していることから、基準形の軌跡パターンで縫製を行う場合に、その一部で変形軌跡(6)に基づいて縫製を行うよう制御することが望ましい。
即ち、制御装置90は、ペダル95が踏み込まれて縫製を開始すると、縫製開始から設定針数の間、変形軌跡(6)に基づいて縫製を行い、その後は、基準形の軌跡パターンで縫製を行う。
上記変形軌跡(6)で縫製を行う針数については、操作入力部96から任意に設定可能とし、その針数は、EEROM94に記憶される。
【0069】
また、制御装置90は、基準形の軌跡パターンで縫製を行っている状態で、エンコーダ161の出力から、ミシンモーター16の回転状態を監視し、縫製終了とみなす所定条件を満たした場合に、変形軌跡(6)に基づいて縫製を行う。
縫製終了とみなす所定条件は、例えば、ミシンモーター16の回転の加速度が所定の閾値以下の減速を示した場合や回転速度が所定の閾値以下となった場合、或いはこれら両方の条件を満たした場合等が挙げられる。
【0070】
なお、縫製終了時に変形軌跡(6)に基づいて縫製を行う場合には、最終針又は最終針を含む複数針で変形軌跡(6)の送りを行えば良いので、エンコーダ161の監視に替えて、針落ち位置近傍であって送り方向上流側に被縫製物の終端部を検出するセンサ等を設け、被縫製物の終端部の通過を検出した場合に変形軌跡(6)に基づいて縫製を行うよう制御しても良い。
また、予め、操作入力部96により、縫製を行う針数を設定可能とする場合には、縫製開始からの針数をカウントし、これにより、縫製開始から所定針数の間と縫製終了までの所定針数の間、変形軌跡(6)で送り歯31の送りを行うように上下送りモーター66を制御する構成としても良い。
【0071】
[停電時のモーター制御]
制御装置90は、送り歯をいずれの軌跡パターンで動作している場合でも、停電時には以下の動作制御を実行する。
前述したように、電源回路97には、電源電圧検出部98が併設されており、検出された電源電圧が所定の閾値未満となることにより、制御装置90は、外部電力が立たれた停電状態の発生を検出することができる。
そして、停電状態の発生を検出すると、制御装置90は、停電に起因する停止までの速度低下状態によりミシンモーター16のモーター駆動回路16a内のコンデンサーに蓄えられた電力を上下送りモーター66に供給する。さらに、制御装置90は、上下送りモーター66を制御して、送り歯31の先端が針板上面と同じ高さとなる様に駆動させる。なお、送り歯31の先端部は針板上面より低くなるように制御してもよい。
これにより、停電によってミシン100が完全に停止するまでに、送り歯31が布押さえとの間で被縫製物を挟持した状態から解放することができ、被縫製物の取り出しが可能となる。
なお、この制御を実行するための制御装置90の電力もモーター駆動回路16a内のコンデンサーから得ることが出来る。
【0072】
[実施形態による効果]
以上のように、ミシン100は、水平送り機構40は、ミシンモーター16による送り台32に対する水平方向の往復動作のピッチを変更調節する送り調節モーター57を有し、上下送り機構60Bは、送り台32に対する上下方向の往復動作の駆動源となる上下送りモーター66を有し、送り調節モーター57と上下送りモーター66を制御して送り歯31による被縫製物の送り動作を行う制御装置90を備えている。
このため、送り歯31の上下の往復動作についてミシンモーター16から制約を受けることなく任意に動作させることができるので、前述したように、多種多様の軌跡パターンで送り歯31を周回移動させることが可能となる。
また、送り歯31の水平方向の往復動作についてミシンモーター16から独立した他のモーターを駆動源とすることでも、前述した各種の軌跡パターンの内の一部については実行可能である。しかしながら、水平方向の往復ストロークは上下方向の往復ストロークよりも遙かに大きいので、より低イナーシャで出力が大きなモーターが必要となる。なお、モーターは出力が大きくなるとイナーシャも大きくなる傾向にあるので、実際にはそのようなモーターは入手困難であるため、縫製速度を低減して送りを行うことが余儀なくされる。
これに対して、上記ミシン100は、送り歯31の水平方向の往復動作の駆動源はミシンモーター16とし、送り歯31の上下方向の往復動作の駆動源を上下送りモーター66としているので、送り歯31の上下動については狭い往復ストロークの範囲で往復させれば良く、上下送りモーター66として入手が容易な小型、低出力のものを使用することができる。そして、より多彩な軌跡パターンで送りを行うことができる。
また、縫いピッチの調節は、従来から行われている送り調節体55と送り調節モーター57の構成を使用するので、信頼性及び安定性が高く、高精度である。
【0073】
第一リンク61Bと第二リンク62Bの「死点」を通過しない角度範囲で上下送りモーター66を駆動させた場合、上下送りモーター66の一定の軸角度の変化に対して第三リンク63Bに付与される軸角度の変化の割合はミシン100の場合よりも大きくすることが可能となる。特に、上下送りモーター66が第一リンク61Bと第二リンク62Bとが直角となる軸角度を通過する範囲で駆動させた場合には、上下送りモーター66の一定の軸角度の変化に対して第三リンク63Bに付与される軸角度はより大きくなる。
従って、ミシン100における送り歯31の1ストロークにおける上下送りモーター66の片側回動の軸角度変化の大きさに対して、送り歯31の1ストロークにおける上下送りモーター66の往復回動の往路の軸角度変化の大きさと復路の軸角度変化の大きさの合計を小さくすることができる。これにより、第二の実施形態のミシンにおける高速回転の縫製への追従性と、ミシン100における高速回転の縫製への追従性の差は僅かである。
また、上下送りモーター66は、高速対応のものに限られず、送り調節モーター57と同じ仕様で同じ性能のものを使用することが可能となる。
【0074】
また、上下送りモーター66が第一リンク61Bと第二リンク62Bの「死点」となる軸角度を通過して上下送りモーター66の片側回動1回につき、送り歯31の一往復の上下動を得るような機構の場合、送り歯31の下死点の高さは必ず一定の高さとなり、これを任意に調節することはできない(なお、各リンクの連結の組み方を変えることにより、第一リンク61Bと第二リンク62Bの「死点」となる軸角度で送り歯31が上死点となるように組み付けることも可能であり、その場合には、送り歯31の上死点の高さが必ず一定の高さとなり、任意に調節することができなくなる)。
これに対して、ミシン100の場合には、上下送りモーター66が第一リンク61Bと第二リンク62Bの「死点」となる軸角度を通過させないので、ミシン100のような制約を受けることなく、送り歯31の上死点の高さも下死点の高さも任意に調節することが可能となる。従って、より多彩な軌跡パターンで送り歯31を移動させることができる。
【0075】
また、制御装置90は、送り歯31の周回動作において、送り後半区間に比べて送り前半区間の送り歯が高くなる軌跡で周回させるように上下送りモーター66を制御するので、厚物の被縫製物等も好適に送ることが可能となる。
さらに、制御装置90は、送り歯31の周回動作において、送り前半区間に比べて送り後半区間の送り歯が高くなる軌跡で周回させるように上下送りモーター66を制御するので、薄物の被縫製物等も好適に送ることが可能となる。
【0076】
また、制御装置90は、送り歯31の周回動作において、当該送り歯31が送り区間では、当該送り歯31の歯先が針板11の上面以下の高さとなる軌跡で周回させるように上下送りモーター66を制御するので、送り調節機構50によらずとも速やかに縫いピッチ0にすることが可能である。
【0077】
また、制御装置90は、送り歯31の周回動作において、送り開始区間と送り終了区間において、送り歯31が高くなる軌跡で周回させるように上下送りモーター66を制御するので、縫製の途中で被縫製物の厚さや収縮性が変化するような被縫製物の縫製を行う場合であっても、縫いピッチを一定に維持することが可能となる。
【0078】
また、制御装置90は、糸切り装置14による糸切りの際に、当該送り歯31が送り方向下流側に移動する区間の途中で一時的に送り歯31の歯先が針板11の上面以下の高さとなる軌跡で周回させるように上下送りモーター66を制御するので、糸切り装置14と被縫製物の距離が縮まり、糸切り後の被縫製物の上糸及び下糸の残端を短くすることが可能となる。
【0079】
また、制御装置90は、縫製開始の一針目又は縫製開始から規定針数の間、送り歯31の周回動作において、送り区間の送り歯31の歯先の高さが、それ以降の縫製の送り歯31の刃先の高さに比べて低くなる変形軌跡(6)となるように上下送りモーター66を制御するので、被縫製物を送り歯31と布押さえとの間に円滑に引き込むことができ、縫製開始時の作業を良好に行うことが可能となる。
【0080】
さらに、制御装置90は、縫製終了の最終針又は縫製終了までの複数針数の間、送り歯31の周回動作において、送り区間の送り歯の歯先の高さが、それ以前の針数の送り歯の刃先の高さに比べて低くなる変形軌跡(6)となるように上下送りモーター66を制御するので、被縫製物と送り歯31の引っ掛かりを低減させ、被縫製物を送り歯31と布押さえと間から円滑に引き出すことができ、縫製終了時の作業を良好に行うことが可能となる。
【0081】
また、ミシン100は、ミシンモーター16等を駆動させる主電源の電力が所定値未満となる低下を検出する電源電圧検出部98と、ミシンモーター16の減速時に回生電力を蓄えるコンデンサーを有するモーター駆動回路16aとを備え、制御装置90は、電源電圧検出部98による主電源の電力が所定値未満となる低下を検出した場合に、モーター駆動回路16aに蓄えられた回生電力を上下送りモーター66に供給し、送り歯31の歯先の高さが針板上面の高さ又はそれ以下の高さとなるよう制御している。
これにより、停電発生時に、送り歯31の先端が針板上面よりも上に位置したまま停止することにより、被縫製物が送り歯31と布押さえとに挟まれたまま外せない状態となることを回避することができ、被縫製物を容易に外すことが可能となる。
【0082】
[その他]
上下送り機構60Bは、
図22(A)に示すように、上下送りモーター66から送り台32の間を第一〜第五リンク61B〜65で連結して上下動伝達を行っているが、
図22(B)の上下送り機構60Aに示すように、第三リンク63Bと第四リンク64とを一体化してベルクランク状の第三リンク63Aを使用しても良い。その場合、回動軸67は第三リンク63Bと第四リンク64とを連結する必要がなくなるので、ミシンフレームに対して回動可能とせずに固定状態としても良い。
【0083】
[上下送り機構の他の例]
図23に示すように、上下送り機構60Bにおいて、前述したように、第一リンク61Bを上下送りモーター66により回転駆動する溝カム61Cに替えてもよい。その場合、第二リンク62Bの一端部には、溝カム61Cのカム溝611C内で溝に沿って転動可能なコロ621BをY軸回りに回転可能に装備することが望ましい。
【0084】
溝カム61Cのカム溝611Cは、溝カム61Cの回転中心から徐々に距離が変わる曲線形状とする。
そして、前述した上下送り機構60Bのように、上下送りモーター66の往復回動により送り歯31に上下の往復動作を付与する場合には、制御装置90は、溝カム61Cのカム溝611Cにおける回転中心から最も遠い点Mを通過しない軸角度の範囲であって、当該範囲の一端部から他端部までの往復回動により、送り歯31が上昇又は下降のみを行う形状の範囲H2で上下送りモーター66を片側回動させるように動作制御を行う。
また、制御装置90が、溝カム61Cのカム溝611Cにおける回転中心から最も遠い点Mを通過する軸角度の範囲H1で上下送りモーター66を片側回動させるように動作制御を行うことにより、上下送りモーター66の片側回動のみにより送り歯31に上下の往復動作を付与することも可能である。即ち、溝カム61Cの回転中心からの距離が増加する区間と減少する区間とが連続する合計区間を利用する(回転中心からの距離が減少する区間と増加する区間とが連続する合計区間でも良い)。
また、上下送りモーター66と溝カム61Cの間には、歯車機構等の伝達機構を介在させてもよい。
【0085】
このように、カムを使用する構成の場合も同一の技術的効果を得ることが可能である。
なお、カムは溝カムに限らず、外周カムからなるカム機構を使用しても良い。その場合、溝カム61Cのカム溝611Cと同じ外周形状の外周カムを使用する。また、第二リンク62Bは、コロ621Bが常に外周カムの外周に当接した状態を維持するように、バネ等の弾性体によりコロ621Bを外周カムの外周側に付勢することが望ましい。
【0086】
[その他]
また、上記の発明の実施形態では、本縫いミシンを例示したが、送り装置30は、送り歯で被縫製物を送るいずれのタイプのミシンにも適用可能である。
また、上記の発明の実施形態では、上下送りモーター66の出力軸に直接的に第一リンク61Bを取り付けて連結した場合を例示したが、上下送りモーター66の出力軸と第一リンク61Bとの間に伝達部材や伝達機構を介在させて間接的に連結しても良い。