(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ショックアブソーバに取り付けられる第一の取付部材と車両ボデーに取り付けられる第二の取付部材が本体ゴム弾性体によって相互に弾性連結された構造を有すると共に、内部に非圧縮性流体が封入された流体封入領域を備えており、流体の流動作用に基づく防振効果が発揮されるストラットマウントにおいて、
前記第一の取付部材と前記第二の取付部材の間への軸方向の振動入力によって前記流体封入領域に封入された非圧縮性流体が流動せしめられるオリフィス通路が形成されている一方、
自動車のロックアップ時に前記ショックアブソーバを介して該自動車の駆動系から前記車両ボデーへ伝達される振動が前記第一の取付部材と前記第二の取付部材の間へ略軸方向に入力されると共に、路面に接した車輪から該ショックアブソーバを介して該車両ボデーへ伝達される路面振動が該第一の取付部材と該第二の取付部材の間へ略軸直角方向乃至はこじり方向にも入力されるようになっており、略軸直角方向乃至はこじり方向の振動入力に対する流体の共振周波数が、前記オリフィス通路のチューニング周波数よりも高周波に設定されていることを特徴とするストラットマウント。
前記流体封入領域が壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成された主液室と壁部の一部が可撓性膜で構成された副液室とを備えており、それら主液室と副液室が前記オリフィス通路によって相互に連通されている一方、
該主液室が軸直角方向の両側にそれぞれ拡張領域を備えていると共に、それら拡張領域を周方向で相互に繋ぐ狭窄領域が設けられており、略軸直角方向乃至はこじり方向の振動入力によって該拡張領域の間で該狭窄領域を通じた流体流動が生じるようになっていると共に、該狭窄領域を通じて流動する流体の共振周波数が前記オリフィス通路のチューニング周波数よりも高周波に設定されている請求項1に記載のストラットマウント。
前記流体封入領域が壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成された主液室と壁部の一部が可撓性膜で構成された副液室とを備えており、それら主液室と副液室が前記オリフィス通路によって相互に連通されている請求項1〜3の何れか一項に記載のストラットマウント。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、優れた防振性能を実現することができる、新規な構造のストラットマウント
等を提供すること
などにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0009】
本発明者らは、気筒数の削減やロックアップ回転数を下げることによって車両ボデーの振動状態が悪化する原因を検討する中で、ロックアップ時のトルク変動による振動がドライブシャフトなどの駆動系からサスペンションを伝達経路として車両ボデーに伝達されることに起因するという知見を得た。かかる新たな振動伝達経路では、低周波振動の入力時に例えばサスペンション系や駆動系などの振動伝達系における共振が生じることから、ロックアップ時のトルク変動による振動が気筒数の削減やロックアップ回転数の低下によってより低周波になると、かかる共振によって振動が増幅されて車両ボデーに伝わることで、車両ボデーの振動状態が悪化するものと推察し、シミュレーションや実験によって確認した。
【0010】
そして、本発明者らは、このような知見に基づいて、ロックアップ時のトルク変動による振動がサスペンションから車両ボデーへ伝達されるという振動伝達経路において振動の伝達を低減することにより、車両ボデーの振動状態を改善して車両の防振性能や静音性能の向上を実現することができるものと考え、本発明を為すに至った。
【0011】
すなわち、本発明の第一の態様は、ショックアブソーバに取り付けられる第一の取付部材と車両ボデーに取り付けられる第二の取付部材が本体ゴム弾性体によって相互に弾性連結された構造を有すると共に、内部に非圧縮性流体が封入された流体封入領域を備えており、流体の流動作用に基づく防振効果が発揮されるストラットマウントにおいて、
前記第一の取付部材と前記第二の取付部材の間への軸方向の振動入力によって前記流体封入領域に封入された非圧縮性流体が流動せしめられるオリフィス通路が形成されている
一方、自動車のロックアップ時に前記ショックアブソーバを介して該自動車の駆動系から前記車両ボデーへ伝達される振動が前記第一の取付部材と前記第二の取付部材の間へ略軸方向に入力されると共に、路面に接した車輪から該ショックアブソーバを介して該車両ボデーへ伝達される路面振動が該第一の取付部材と該第二の取付部材の間へ略軸直角方向乃至はこじり方向にも入力されるようになっており、略軸直角方向乃至はこじり方向の振動入力に対する流体の共振周波数が、前記オリフィス通路のチューニング周波数よりも高周波に設定されていることを、特徴とする。
【0012】
このような第一の態様に従う構造とされたストラットマウントによれば、ロックアップ時にサスペンションのショックアブソーバを介して車両ボデーへ伝達される振動が、オリフィス通路を通じて流動する流体の共振作用などの流動作用に基づいて低減される。これにより、エンジンの気筒数を削減したり、ロックアップ回転数を下げたりして、ロックアップ時のトルク変動による振動の周波数がサスペンション系や駆動系の共振などが問題となる低周波となっても、車両ボデーの振動状態がロックアップ時に悪化するのを防ぐことができる。
【0013】
しかも、ストラットマウントを流体封入式とすると共に、ストラットマウントのオリフィス通路をロックアップ時にショックアブソーバを介して車両ボデーへ伝達される振動の周波数にチューニングすることにより、従来からショックアブソーバと車両ボデーの間に介装されているストラットマウントを利用した簡単な構造によって、ロックアップ時の防振性能の向上を実現できる。
加えて、本態様によれば、ロックアップ時に駆動系からショックアブソーバを介して車両ボデーへ伝達される振動だけでなく、路面に接した車輪から入力される振動に対しても流体の流動作用に基づく防振効果が発揮される。しかも、路面からの入力振動は広い周波数域に亘っており、ロックアップ時に駆動系から伝達される振動よりも高周波まで含むことから、路面からの振動入力に対する流体の共振周波数がオリフィス通路のチューニング周波数に対して高周波に設定されており、路面からの振動入力に対する流体流動がオリフィス通路が反共振によって実質的に遮断された状態であっても、略軸直角方向乃至はこじり方向の路面からの振動入力に対する防振効果を効率的に得ることができる。
【0014】
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載されたストラットマウントにおいて、前記流体封入領域が壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成された主液室と壁部の一部が可撓性膜で構成された副液室とを備えており、それら主液室と副液室が前記オリフィス通路によって相互に連通されている一方、該主液室が軸直角方向の両側にそれぞれ拡張領域を備えていると共に、それら拡張領域を周方向で相互に繋ぐ狭窄領域が設けられており、略軸直角方向乃至はこじり方向の振動入力によって該拡張領域の間で該狭窄領域を通じた流体流動が生じるようになっていると共に、該狭窄領域を通じて流動する流体の共振周波数が前記オリフィス通路のチューニング周波数よりも高周波に設定されているものである。
第二の態様によれば、狭窄領域を通じて拡張領域間で流動する流体の共振作用などに基づいて、略軸直角方向乃至はこじり方向の振動入力に対する防振効果を得ることができる。しかも、拡張領域と狭窄領域が主液室に設けられていることから、略軸直角方向乃至はこじり方向の振動入力に対する防振効果をコンパクト且つ簡単な構造によって得ることができる。
本発明の第
三の態様は、第一
又は第二の態様に記載されたストラットマウントにおいて、前記オリフィス通路のチューニング周波数が50Hz以下に設定されているものである。
【0015】
第
三の態様によれば、オリフィス通路のチューニング周波数がサスペンション系の剛体共振などが発生し易い周波数域に設定されて、サスペンション系や駆動系の共振などによる振動の増幅が問題となり易い周波数域で優れた防振性能を得ることができる。
【0016】
本発明の第
四の態様は、第一
〜第三の何れか一つの態様に記載されたストラットマウントにおいて、前記流体封入領域が壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成された主液室と壁部の一部が可撓性膜で構成された副液室とを備えており、それら主液室と副液室が前記オリフィス通路によって相互に連通されているものである。
【0017】
第
四の態様によれば、振動入力時に内圧変動が惹起される主液室と、可撓性膜の変形によって容積変化が許容されることで内圧変動が生じ難い副液室が、オリフィス通路によって相互に連通された構造を採用することにより、流体の流動作用に基づく防振効果を有利に得ることができる。
【0018】
本発明の第
五の態様は、第
四の態様に記載されたストラットマウントにおいて、前記可撓性膜が前記ショックアブソーバと該ショックアブソーバに外挿されるコイルスプリングとの軸直角方向間に配置可能な環状とされているものである。
【0019】
第
五の態様によれば、ショックアブソーバとコイルスプリングの間の空間を利用して可撓性膜を配置することにより、副液室の容積を大きな自由度で設定することが可能になって、目的とする防振性能を有効に得ることができる。
【0024】
本発明の第
六の態様は、第一〜第
五の何れか1つの態様に記載されたストラットマウントにおいて、3気筒以下のエンジンを備えた自動車における前記ショックアブソーバと前記車両ボデーの間に装着されるものである。
【0025】
第
六の態様によれば、ロックアップ時に駆動系から車両ボデーへ伝達する振動の周波数がサスペンション系の剛体共振などの周波数に近くなり易い3気筒以下のエンジンを搭載する自動車において、ロックアップ時に車両ボデーの振動状態の悪化を防ぐことができる。
【0026】
本発明の第七の態様は、車両ボデーと車輪を連結するショックアブソーバとサスペンションアームと、該車両ボデーと該ショックアブソーバに介装されるストラットマウントと、該車両ボデーと該サスペンションアームに介装されるサスペンションブッシュとを、備えているサスペンション機構と、該車両ボデーに搭載されて駆動系を通じて該車輪へ駆動力を及ぼすエンジンとを、備えている自動車であって、前記ストラットマウントが、前記ショックアブソーバに取り付けられる第一の取付部材と前記車両ボデーに取り付けられる第二の取付部材が本体ゴム弾性体によって相互に弾性連結された構造を有すると共に、内部に非圧縮性流体が封入された流体封入領域を備えており、前記第一の取付部材と前記第二の取付部材の間への軸方向の振動入力によって該流体封入領域に封入された非圧縮性流体が流動せしめられて該非圧縮性流体の流動作用に基づく防振効果が発揮されるオリフィス通路が形成されていると共に、該オリフィス通路のチューニング周波数が、自動車のロックアップ時に前記ショックアブソーバを介して前記エンジンから前記駆動系を通じて前記車両ボデーへ伝達される振動の周波数に設定されていることを、特徴とする。
また、本発明の第八の態様は、
第七の態様に記載された自動車において、前記ストラットマウントとして第一〜第
六の何れか1つの態様に記載されたストラットマウントが採用されている一方、前記サスペンションブッシュが内部に非圧縮性流体が封入された流体封入領域を備えていると共に、該流体封入領域に封入された非圧縮性流体が流動せしめられるオリフィス通路が形成されており、該オリフィス通路のチューニング周波数が自動車のロックアップ時に前記サスペンションアームを介して
前記駆動系から前記車両ボデーへ伝達される振動の周波数に設定されている
ものである。
【0027】
本発明の第九の態様は、ショックアブソーバに取り付けられる第一の取付部材と車両ボデーに取り付けられる第二の取付部材が本体ゴム弾性体によって相互に弾性連結された構造を有すると共に、内部に非圧縮性流体が封入された流体封入領域を備えており、流体の流動作用に基づく防振効果が発揮されるストラットマウントの製造方法であって、前記流体封入領域に封入された非圧縮性流体が流動せしめられるオリフィス通路を設けて、該オリフィス通路を流動せしめられる流体の流動作用に基づく防振効果が発揮される周波数域を、該ストラットマウントが装着される自動車においてロックアップ時に前記ショックアブソーバを介して該自動車のエンジンから駆動系を通じて前記車両ボデーへ伝達される振動の周波数にチューニングすることを、特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、ロックアップ時に駆動系からサスペンションのショックアブソーバを介して車両ボデーへ伝達される振動が、オリフィス通路を通じて流動する流体の共振作用などの流動作用に基づいて低減される。これにより、エンジンの気筒数を削減したり、ロックアップ回転数を下げたりして、ロックアップ時のトルク変動による振動の周波数が例えばサスペンション系の剛体共振などが問題となる低周波となっても、車両ボデーの振動状態がロックアップ時に悪化するのを防ぐことができる。しかも、従来からショックアブソーバと車両ボデーの間に介装されているストラットマウントを利用した簡単な構造によって、ロックアップ時の防振性能の向上を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0031】
図1,2には、本発明の第一の実施形態としてのストラットマウント10が示されている。ストラットマウント10は、第一の取付部材12と第二の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって弾性連結された構造を有している。以下の説明において、原則として、上下方向とはマウント軸方向である
図1中の上下方向を、前後方向とは車両装着状態で車両前後方向となる
図2中の左右方向を、左右方向とは車両装着状態で車両左右方向となる
図2中の上下方向を、それぞれ言う。
【0032】
より詳細には、第一の取付部材12は、金属や合成樹脂などで形成された高剛性の部材であって、全体として小径の略円筒形状を有するインナ筒部18を備えており、本実施形態のインナ筒部18は上部が下部よりも小径とされた略段付き円筒形状とされている。更に、第一の取付部材12の下端部には、軸直角方向で外周へ広がるフランジ状の上仕切部材20が一体形成されている。この上仕切部材20は、全体として略円環板形状を有しており、下面に開口しながら全周に亘って連続する環状の嵌合凹溝22が幅方向の略中央部分に形成されていると共に、嵌合凹溝22の内周側および外周側には周方向の複数箇所において下面に開口するねじ孔24が形成されている。
【0033】
第二の取付部材14は、第一の取付部材12と同様に高剛性の部材であって、上方へ向けて次第に縮径する大径のテーパ円筒形状とされたアウタ筒部26を有していると共に、下端部には略軸直角方向で外周へ広がるフランジ状の取付部28が一体形成されている。この取付部28は、
図2に示すように、軸方向視で全体として略三角板形状を有しており、各辺部が外周へ凸となるように湾曲している一方、3つの角部にそれぞれ取付用ボルト30が貫通状態で配設されて、各取付用ボルト30の軸部が上方へ向けて突出している。
【0034】
そして、第一の取付部材12と第二の取付部材14は、
図1に示すように、略同一中心軸上で相互に離れて配設されており、それら第一の取付部材12と第二の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって相互に弾性連結されている。本体ゴム弾性体16は、全体として略円筒形状とされており、内周部分が第一の取付部材12のインナ筒部18に加硫接着されていると共に、下面が第一の取付部材12の上仕切部材20の上面に重ね合わされて加硫接着されている一方、外周部分の上部が第二の取付部材14のアウタ筒部26に加硫接着されている。なお、本実施形態の本体ゴム弾性体16は、第一の取付部材12と第二の取付部材14を備える一体加硫成形品として形成されている。また、第二の取付部材14の取付部28の下面には、本体ゴム弾性体16と一体形成された被覆ゴム32が重ね合わされて加硫接着されており、取付用ボルト30の頭部が被覆ゴム32に埋設状態で固着されている。
【0035】
さらに、本体ゴム弾性体16には、環状凹所34が形成されている。環状凹所34は、
図1,3に示すように、本体ゴム弾性体16の下面に開口しながら周方向に延びる溝状の凹所であって、
図3に示すように全周に亘って連続して形成されている。また、環状凹所34は、
図1,4に示すように前後方向の両側に位置する部分がそれぞれ上下深さの大きい拡張領域36とされていると共に、
図1に示すように左右方向の両側に位置する部分がそれぞれ上下深さの小さい狭窄領域38とされている。そして、前後一対の拡張領域36,36が左右一対の狭窄領域38,38を介して周方向に繋がっている。
【0036】
また、第一の取付部材12の上仕切部材20には、下仕切部材40が取り付けられている。下仕切部材40は、金属や合成樹脂で形成された硬質の部材であって、全体として略円環板形状を有していると共に、上仕切部材20の嵌合凹溝22と対応する環状の嵌合凸部42が幅方向の略中央部分で上方へ向けて突出している。この嵌合凸部42には、上面に開口して周方向へ一周弱の所定長さで延びる周溝44が形成されており、上方への開口部が下仕切部材40とは別体の蓋部材46によって覆われている。更に、下仕切部材40における嵌合凸部42を挟んだ内周側および外周側には、上仕切部材20のねじ孔24と対応する第一のねじ挿通孔48が各複数形成されている。
【0037】
また、下仕切部材40の下方には、可撓性膜50が配設されている。可撓性膜50は、薄肉のゴム膜であって、厚さ方向の変形が容易に許容されるようになっていると共に、下方へ向けて凸の略U字断面形状で全周に亘って連続する環状とされている。更に、上端に位置する可撓性膜50の端部には、外周固定部材52と内周固定部材54が加硫接着されている。外周固定部材52は、大径の略円環板形状を有する硬質の部材であって、上下に貫通する複数の第二のねじ挿通孔56が第一のねじ挿通孔48と対応する位置に形成されていると共に、内周端部が可撓性膜50の外周端部に対して全周に亘って連続的に加硫接着されている。内周固定部材54は、外周固定部材52よりも小径の略円環板形状を有する硬質の部材であって、
上下に貫通する複数の第二のねじ挿通孔56が第一のねじ挿通孔48と対応する位置に形成されていると共に、外周端部が可撓性膜50の内周端部に対して全周に亘って連続的に加硫接着されている。なお、外周固定部材52の内周端部と内周固定部材54の外周端部がそれぞれ下方へ突出していることにより、可撓性膜50に対する固着面積が大きく確保されている。
【0038】
そして、下仕切部材40が第一の取付部材12の上仕切部材20に対して下方から重ね合わされて、下仕切部材40の嵌合凸部42が上仕切部材20の嵌合凹溝22へ差し入れられていると共に、可撓性膜50に固着された外周固定部材52と内周固定部材54が、下仕切部材40の下面に重ね合わされており、第一のねじ挿通孔48と第二のねじ挿通孔56に挿通された固定ねじ58がねじ孔24に螺着されることにより、上仕切部材20と下仕切部材40と固定部材52,54が相互に固定されている。なお、図中では必ずしも明らかではないが、上仕切部材20と下仕切部材40の重ね合わせ面間は、例えば嵌合凸部42の外周および内周に配されるゴム製のOリングなどによって流体密に封止されている。また、例えば可撓性膜50の上端面から上方へ突出するシール突部が下仕切部材40の下面に押し当てられることによって、下仕切部材40と可撓性膜50の間に形成される空間(後述する副液室64)が外部から流体密に隔てられている。
【0039】
このように上仕切部材20と下仕切部材40と可撓性膜50が相互に固定されることにより、本体ゴム弾性体16と可撓性膜50の間には、非圧縮性流体を封入された流体封入領域60が形成されている。なお、流体封入領域60に封入される非圧縮性流体は、特に限定されるものではないが、例えば、水やエチレングリコール、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、或いはそれらの混合液などが好適に採用される。更に、流体封入領域60に封入される流体は、後述するオリフィス通路68や狭窄流路69による防振効果を有利に得るために低粘性流体であることが望ましく、好適には0.1Pa・s以下の低粘性流体が採用される。
【0040】
また、流体封入領域60は、上仕切部材20および下仕切部材40によって軸方向上下に二分されており、上仕切部材20の上方には、環状凹所34の下開口が蓋部材46によって覆われることによって、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて、振動入力時に内圧変動が惹起される主液室62が形成されている。一方、下仕切部材40の下方には、可撓性膜50の上開口が下仕切部材40によって覆われることによって、壁部の一部が可撓性膜50で構成されて、可撓性膜50の変形による容積変化が容易に許容される副液室64が形成されている。
【0041】
さらに、下仕切部材40の嵌合凸部42に形成された周溝44の上開口が蓋部材46で覆われていると共に、周溝44の長さ方向の両端部が、蓋部材46を貫通する上連通孔66と下仕切部材40における周溝44の底壁部を貫通する下連通孔67(
図3参照)とを通じて、主液室62と副液室64の各一方へ連通されていることにより、主液室62と副液室64を相互に連通するオリフィス通路68が形成されている。
【0042】
このオリフィス通路68は、通路断面積(A)と通路長さ(L)の比(A/L)を調節することにより、流動流体の共振周波数であるチューニング周波数が、自動車のロックアップ時に駆動系から後述するショックアブソーバ72を介して車両へ伝達されるトルク変動による振動の周波数域に設定されている。そして、オリフィス通路68のチューニング周波数域の振動が第一の取付部材12と第二の取付部材14の間に入力されると、主液室62と副液室64の間に相対的な圧力変動が生じて、それら主液室62と副液室64の間でオリフィス通路68を通じた流体流動が生ぜしめられることにより、流体の共振作用などの流動作用に基づいた防振効果が発揮されるようになっている。好適には、オリフィス通路68は、後述するサスペンション系や駆動系などの共振周波数を含む1Hz〜50Hzの低周波数にチューニングされており、本実施形態では、3気筒のエンジンを備える自動車において入力振動を改善する必要があるロックアップ回転数が1000rpm〜1500rpmである場合を想定して、25Hz〜37.5Hzの間で設定されている。
【0043】
また、主液室62の狭窄領域38,38の下開口が蓋部材46によって覆われることにより、主液室62の拡張領域36,36を相互に連通する狭窄流路69が主液室62の一部(狭窄領域38,38)によって構成されている。この狭窄流路69も、オリフィス通路68と同様に、通路断面積(A’)と通路長さ(L’)の比(A’/L’)を調節することによって流動流体の共振周波数がチューニングされており、狭窄流路69のチューニング周波数がオリフィス通路68のチューニング周波数よりも高周波に設定されている。そして、第一の取付部材12と第二の取付部材14の間に狭窄流路69のチューニング周波数域の振動が入力されると、オリフィス通路68が反共振によって実質的に目詰まりすると共に、主液室62の拡張領域36,36間で狭窄流路69を通じた流体流動が共振状態で積極的に生ぜしめられて、流体の流動作用に基づく防振効果が発揮されるようになっている。なお、狭窄流路69のチューニング周波数は、好適には20Hz〜100Hzの範囲で設定されており、本実施形態ではハーシュネスなどの路面から入力される振動の周波数に合わせて45Hz〜100Hz程度に設定されている。
【0044】
かくの如き本実施形態に従う構造のストラットマウント10は、
図5,6に示すように、3気筒エンジンを搭載する自動車のサスペンション機構70に設けられて、ショックアブソーバ72と車両ボデー74に介装されている。即ち、第一の取付部材12のインナ筒部18に対してストッパ部材75が上方から重ね合わされており、第一の取付部材12とストッパ部材75がショックアブソーバ72のピストンロッド76に固定されている。ストッパ部材75は、金属や合成樹脂で形成された高剛性の部材であって、上方へ向けて開口する略カップ形状を有していると共に、上端部には外周へ広がるフランジ状のストッパ片78が一体形成されて、ストッパ片78の外周端部が緩衝ゴム80で覆われている。そして、ストッパ部材75の内周端部が上下の位置決めナット82,82によって上下に挟まれていると共に、それら上下の位置決めナット82,82がピストンロッド76に螺着されていることにより、ストッパ部材75がピストンロッド76に対して上下方向で位置決めされている。
【0045】
一方、第二の取付部材14は、取付用ボルト30によって車両ボデー74に固定されている。即ち、車両ボデー74が第二の取付部材14の取付部28に上方から重ね合わされていると共に、車両ボデー74に形成されたボルト孔86に対して第二の取付部材14に固設された取付用ボルト30が挿通されており、車両ボデー74の上方へ突出した取付用ボルト30の軸部に取付用ナット88が螺着されることにより、第二の取付部材14が車両ボデー74に取り付けられるようになっている。このように、第一の取付部材12がショックアブソーバ72に取り付けられるとともに第二の取付部材14が車両ボデー74に取り付けられることにより、ショックアブソーバ72の上端部がストラットマウント10を介して車両ボデー74に取り付けられる。なお、車両ボデー74の第二の取付部材14を装着する部分には、上下に貫通する円形孔が形成されており、該円形孔の開口周縁部分が第二の取付部材14の取付部28に重ね合わされている。
【0046】
さらに、第二の取付部材14の取付部28には、スプリング支持部材90が下方から重ね合わされている。スプリング支持部材90は、略円環板形状とされて第二の取付部材14の取付部28に下方から重ね合わされる支持部92と、支持部92の内周端部から下方へ向けて延び出す略円筒形状の挿入部94とを備えており、支持部92の下面と挿入部94の略全面が支持ゴム96によって覆われている。
【0047】
そして、支持ゴム96で覆われた支持部92の下面には、ショックアブソーバ72に外挿されたコイルスプリング98の上端部が重ね合わされており、コイルスプリング98の上端部がスプリング支持部材90を介して第二の取付部材14によって支持されている。本実施形態のスプリング支持部材90は、コイルスプリング98によって第二の取付部材14の取付部28に押し付けられることにより、第二の取付部材14に対して位置決めされている。また、環状の可撓性膜50がショックアブソーバ72のピストンロッド76とコイルスプリング98の径方向間に配設されており、可撓性膜50の上下寸法を大きな自由度で設定することが可能とされて、副液室64の容積が十分に確保されていると共に、可撓性膜50の変形を許容する空間が確保されて、容積変化が十分に許容されている。なお、コイルスプリング98の下端部は、例えばショックアブソーバ72のシリンダによって支持されており、ショックアブソーバ72の伸縮に応じてコイルスプリング98が伸縮せしめられるようになっている。
【0048】
以上のように、ストラットマウント10の第一の取付部材12がショックアブソーバ72に取り付けられると共に、第二の取付部材14が車両ボデー74に取り付けられて、それらショックアブソーバ72と車両ボデー74がストラットマウント10を介して防振連結されている。
【0049】
また、ショックアブソーバ72の下端部は、
図6に示すように、車輪100に取り付けられている。車輪100は、ホイールにタイヤを装着した構造とされており、ショックアブソーバ72の下端部がホイールに設けられたステアリングナックル102に取り付けられている。更に、車輪100のステアリングナックル102には、サスペンションアーム104が取り付けられており、サスペンションアーム104のステアリングナックル102と反対側の端部がサスペンションブッシュ106を介して車両ボデー74に取り付けられている。
【0050】
サスペンションブッシュ106は、例えば特開2016−75347号公報に示されているような構造を有する流体封入式の筒形防振装置であって、内部に非圧縮性流体を封入された流体封入領域を備えていると共に、非圧縮性流体が流動するオリフィス通路を備えている。更に、サスペンションブッシュ106のオリフィス通路は、チューニング周波数がロックアップ時のトルク変動による振動に合わせて設定されている。本実施形態において、サスペンションブッシュ106のオリフィス通路のチューニング周波数は、ストラットマウント10のオリフィス通路68のチューニング周波数と略同じとされている。
【0051】
さらに、ステアリングナックル102に組み付けられた車軸が、パワーユニット108のディファレンシャルから取り出されたドライブシャフト110によって回転駆動せしめられるようになっており、車輪100がドライブシャフト110によって回転駆動せしめられるようになっている。なお、パワーユニット108は、エンジンマウント112によって車両ボデー74に弾性連結されている。このエンジンマウント112の具体的な構造は特に限定されるものではなく、ソリッドタイプや流体封入式、電磁式アクチュエータなどの加振力によって振動を相殺的に低減する能動型、空気圧式アクチュエータなどによって防振特性を切り替え可能とした切替式など、各種公知の構造が採用され得る。
【0052】
そして、駆動系のロックアップ時に生じるトルク変動による振動は、駆動系を構成するドライブシャフト110からサスペンション機構70のステアリングナックル102に伝達されて、ショックアブソーバ72およびサスペンションアーム104を介して車両ボデー74へ伝達される。
【0053】
ここにおいて、ショックアブソーバ72と車両ボデー74の間にストラットマウント10が配設されており、ショックアブソーバ72を介して車両ボデー74へ伝達されるロックアップ時のトルク変動による振動が第一の取付部材12と第二の取付部材14の間へ軸方向(上下方向)に入力される。そして、ドライブシャフト110からショックアブソーバ72を介して車両ボデー74へ伝達されるロックアップ時のトルク変動による振動が、ストラットマウント10の防振性能によって低減されるようになっている。特に、ストラットマウント10が流体封入式とされていると共に、オリフィス通路68がロックアップ時のトルク変動による振動の周波数にチューニングされていることから、ロックアップ時のトルク変動による振動に対して流体の流動作用に基づく優れた防振効果が発揮される。従って、ロックアップ時のトルク変動による振動が、サスペンション側からショックアブソーバ72を介して車両ボデー74に伝達されるのを防いで、防振性能や静音性能の向上が図られる。
【0054】
さらに、本実施形態のストラットマウント10は
、振動入力時に内圧変動を惹起する主液室62と、容積変化によって内圧が略一定に保持される副液室64が、オリフィス通路68によって相互に連通された構造を有している。それ故、振動入力時にオリフィス通路68を通じた流体流動が効率的に生ぜしめられて、流体の流動作用による防振効果が有利に発揮される。特に、ロックアップ時のトルク変動による振動がストラットマウント10に対して軸方向に入力されることにより、主液室62の内圧変動が効率的に惹起されて、主液室62と副液室64の相対的な圧力差が生じることから、目的とする防振効果を有利に得ることができる。
【0055】
一方、サスペンションアーム104と車両ボデー74の間にサスペンションブッシュ106が配設されていることにより、ドライブシャフト110からサスペンションアーム104を介して車両ボデー74へ伝達されるロックアップ時のトルク変動による振動が、サスペンションブッシュ106によって低減されるようになっている。特に、サスペンションブッシュ106が流体封入式とされていると共に、サスペンションブッシュ106のオリフィス通路がロックアップ時のトルク変動による振動の周波数にチューニングされていることから、ロックアップ時のトルク変動による振動に対して優れた防振効果が発揮される。従って、ロックアップ時のトルク変動による振動が、サスペンション側からサスペンションアーム104を介して車両ボデー74に伝達されるのを防いで、防振性能や静音性能の向上が図られる。
【0056】
また、ストラットマウント10のオリフィス通路68とサスペンションブッシュ106のオリフィス通路は、何れも、例えばサスペンション系の剛体共振(ショックアブソーバ72の剛体共振やサスペンションアーム104の剛体共振など)の周波数域である1〜50Hz程度の低周波数にチューニングされている。これにより、サスペンション系の剛体共振などによる振動の増幅が問題になり易い低周波数域において、ストラットマウント10およびサスペンションブッシュ106による防振効果を得ることができる。
【0057】
さらに、ストラットマウント10とサスペンションブッシュ106は、オリフィス通路が低周波数にチューニングされていることにより、これまで一般的に採用されていた4気筒以上のエンジンに比してロックアップ時のトルク変動による振動の周波数が低くなる3気筒以下のエンジンを搭載した自動車に適用しても、ロックアップ時のトルク変動による振動を効果的に低減することができる。特に、気筒数の削減に加えてロックアップ回転数を下げることで、ロックアップ時のトルク変動による振動の周波数が、例えばサスペンション系や駆動系の剛体共振などによる振動増幅が問題になる周波数域まで下がったとしても、ストラットマウント10とサスペンションブッシュ106の防振効果によって振動状態の悪化が防止される。
【0058】
ストラットマウント10およびサスペンションブッシュ106では、ロックアップ時のトルク変動による振動入力に対して、流体の流動作用に基づく高減衰作用による防振効果と、流体の流動作用に基づく振動絶縁作用(低動ばね化)による防振効果との何れかが、オリフィス通路のチューニングに応じて選択的に発揮される。高減衰作用と振動絶縁作用の何れが有効であるかは、サスペンション系や駆動系などの振動増幅系の共振周波数や車両ボデー74の共振周波数などを考慮して、適宜に選択され得るが、一例としては、サスペンション系や駆動系などの共振周波数と車両ボデー74の共振周波数の差が小さい場合には、高減衰作用によってサスペンション系や駆動系などの剛体共振による振動増幅が低減されるようにチューニングすることが考えられる。
【0059】
なお、4サイクルエンジンのロックアップ時のトルク変動による振動の周波数は、エンジンの気筒数とロックアップ時のエンジン回転数によって簡単に算出することが可能であり、具体的には、1秒当たりのエンジン回転数にエンジン気筒数の1/2倍を乗算することで算出できる。ロックアップ時のトルク変動による振動の周波数は、
図7に示すように、2気筒エンジンにおいて、ロックアップ時のエンジン回転数が500rpmの場合に8.3Hz、1000rpmの場合に16.7Hz、1500rpmの場合に25.0Hzとなる。また、3気筒エンジンでは、ロックアップ時のエンジン回転数が500rpmの場合に12.5Hz、1000rpmの場合に25.0Hz、1500rpmの場合に37.5Hzとなる。更に、4気筒エンジンでは、500rpmの場合に20.0Hz、1000rpmの場合に33.3Hz、1500rpmの場合に50.0Hzとなると共に、6気筒エンジンでは、500rpmの場合に25.0Hz、1000rpmの場合に50.0Hz、1500rpmの場合に75.0Hzとなる。
【0060】
このように、同じ気筒数のエンジンでは、ロックアップ時のエンジン回転数が低いほどトルク変動による振動の周波数が低くなる。また、ロックアップ時のエンジン回転数が同じであれば、気筒数が少ないほどトルク変動による振動の周波数が低くなる。そして、現状で低燃費を実現するためにロックアップ時のエンジン回転数として採用され得る1000rpm〜1500rpmの領域では、
図7に示すように、2気筒,3気筒,4気筒の各エンジンにおいて、ロックアップ時のトルク変動による振動の周波数とサスペンション・駆動系共振モードの周波数が近くなって、サスペンション系や駆動系などの剛体共振による振動の増幅が生じ易くなる。従って、2〜4気筒のエンジンを搭載するとともにロックアップエンジン回転数が1000rpm〜1500rpmの自動車に、本実施形態に係るストラットマウント10およびサスペンションブッシュ106を適用することにより、ロックアップ時のトルク変動による振動を効果的に低減することができる。特に、3気筒以下のエンジンを搭載する自動車に適用すれば、ロックアップ時のエンジン回転数をより低く設定することも可能となって、燃費性能の向上が図られ得る。
【0061】
しかも、
図8に示すように、ロックアップ時のトルク変動による振動は、エンジンの気筒数が少なくなるに従って、パワートレイン系を経路とする伝達やその他の経路による伝達に対して、駆動系からサスペンション系を経路とする振動伝達の比率が高くなることが、実験やシミュレーションによって確認された。従って、3気筒以下のエンジンを搭載する自動車のサスペンション機構70に対して、本実施形態に係るストラットマウント10およびサスペンションブッシュ106を適用することにより、ロックアップ時のトルク変動による振動をより効果的に低減することができる。
【0062】
また、
図9,10には、3気筒エンジンを搭載する自動車についての実測データを示す。
図9は、ロックアップ加速時に、ストラットマウントの上下振動をサスペンション側で測定した結果であって、ロックアップ時のエンジン回転数が1000rpm〜2000rpmの領域にサスペンション系の剛体共振などであると考えられる振動レベルのピークが複数確認された。次に、
図10は、ロックアップ加速時の車両ボデー74におけるフロア振動(上下振動、左右振動、前後振動)において、どの経路で伝達された振動の寄与が大きいかを寄与度の比率として示したものであって、1000rpm〜2000rpmの領域において左右のストラットマウントの寄与度が大きいことが確認された。特に、
図10の実測結果では、エンジン回転数が1370rpm〜1600rpm前後の領域において、左右のストラットマウントの寄与度が50%〜70%程度まで大きくなっており、ロックアップ時のトルク変動による振動がサスペンション系を介して車両ボデー74へ入力されていることを確認した。
【0063】
このような
図9,10の実測結果によれば、3気筒エンジン搭載車では、本実施形態に係るストラットマウント10を採用することにより、ロックアップエンジン回転数が1000rpm〜2000rpmの領域である場合に優れた防振性能が発揮されることが分かった。特に、
図10によれば、ストラットマウント10を採用することによって、1370rpm〜1600rpmの領域において特に優れた防振効果が発揮されるものと推測できる。なお、
図9,10の実測結果は、全ての3気筒エンジン搭載車に共通するものではなく、あくまでも一例に過ぎない。
【0064】
また、本実施形態のストラットマウント10は、主液室62が前後一対の拡張領域36,36と左右一対の狭窄領域38,38を備えており、蓋部材46によってトンネル状とされた狭窄領域38,38(狭窄流路69,69)によって拡張領域36,36が周方向で相互に連通されている。これにより、車輪100が路面の凹凸を乗り越える際などにストラットマウント10に入力される略軸直角方向(軸方向と軸直角方向の何れに対しても傾斜する方向を含む)乃至はこじり方向の振動に対して、前後一対の拡張領域36,36に相対的な内圧差が生じて、それら拡張領域36,36の間で狭窄流路69,69を通じた流体流動が生ぜしめられる。その結果、ストラットマウント10では、流体の流動作用に基づく防振効果が発揮されて、路面に接した車輪100からの振動入力に対しても優れた防振性能を得ることができる。
【0065】
特に、
路面の凹凸を乗り越える際などに路面に接した車輪100から入力される振動は、ロックアップ時のトルク変動による振動に比して高周波の振動であることから、ロックアップ時のトルク変動による振動の周波数にチューニングされたオリフィス通路68は、反共振によって実質的に目詰まりする。一方、狭窄流路69,69は、流動流体の共振周波数がオリフィス通路68のチューニング周波数よりも高周波数に設定されており、路面から入力される振動にチューニングされていることから、目的とする防振効果を効率的に得ることができる。
【0066】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記実施形態のストラットマウント10では、車両ボデー74が第二の取付部材14に対してボルト固定される構造を例示したが、例えば、車両ボデーが第二の取付部材に対して非固定で上方から重ね合わされる構造も採用可能である。
【0067】
前記実施形態では、主液室62が前後一対の拡張領域36,36と左右一対の狭窄領域38,38を備えており、拡張領域36,36の間で狭窄領域38,38を通じて生ぜしめられる流体流動によって、流体の流動作用に基づく防振効果が発揮される構造を例示したが、このような拡張領域36,36と狭窄領域38,38は必須ではない。具体的には、
図11に示すストラットマウント120では、本体ゴム弾性体16に形成される環状凹所122が全周に亘って略一定の断面形状を有しており、環状凹所122の下開口部を蓋部材46で覆うことにより形成される主液室124が全周に亘って略一定の断面形状を有している。このようなストラットマウント120においても、前記実施形態と同様に、ロックアップ時のトルク変動による振動に対して、主液室124と副液室64の間でオリフィス通路68を通じて流動する流体の共振作用などに基づいた防振効果が発揮される。なお、
図11の環状凹所122は、前記実施形態の拡張領域36に相当する断面形状とされているが、環状凹所ひいては主液室の形状は特に限定されない。更に、主液室および副液室は全周に亘って連続する環状とされている必要はなく、周方向に一周弱の長さで延びるC字状などであっても良い。
【0068】
また、前記実施形態では、駆動系からの振動が実質的にショックアブソーバ72だけによって入力される入力分離タイプのストラットマウント10を例示したが、例えば、
図12に車両への装着状態で示すストラットマウント130のように、振動がショックアブソーバ72およびコイルスプリング98の両方によって入力される入力一体タイプの構造にも、本発明は好適に適用され得る。なお、
図12に示すストラットマウント130の説明において、第一の実施形態のストラットマウント10と実質的に同一の部材および部位については、
図11に示すストラットマウント120と同様に、図中に同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0069】
このストラットマウント130は、
図12に示すように、第一の取付部材12が第一の実施形態と同様にショックアブソーバ72のピストンロッド76に取り付けられると共に、コイルスプリング98の上端部を支持するスプリング支持金具132が第一の取付部材12に取り付けられるようになっている。
【0070】
さらに、スプリング支持金具132は、筒状の内周部分134
を備えており、内周部分134が、インナ筒部18に差し入れられた環状のベアリング136を介して第一の取付部材12に取り付けられるようになっている。これにより、コイルスプリング98を支持する環板状の外周部分138に周方向の回転モーメントが作用する際に、
スプリング支持金具132が第一の取付部材12に対する相対回転を許容されて、本体ゴム弾性体16に対する周方向のねじり入力が回避されることで、本体ゴム弾性体16の耐久性の向上が図られる。
【0071】
なお、ベアリング136は、上部140が第一の取付部材12に固定されていると共に、下部142が上部140に対して球状の転動体144を介して相対回転可能に取り付けられることで、下部142が第一の取付部材12に対して周方向へ回転可能とされている。更に、上部140と下部142は、外嵌された薄肉の連結部材146によって上下方向で相対的に位置決めされて、上下方向に分離することなく保持されている。そして、スプリング支持金具132の内周部分134がベアリング136の下部142に固定されている。
【0072】
このような
図12に示す構造のストラットマウント130では、駆動系を伝わるロックアップ時のトルク変動による上下方向の振動が、ショックアブソーバ72を介してだけでなく、コイルスプリング98を介しても入力されるようになっている。そして、ストラットマウント130において、第一の実施形態のストラットマウント10と同様に、流体の流動作用に基づく防振効果が発揮されることから、ショックアブソーバ72およびコイルスプリング98を介して車両ボデー74へ伝達される振動が低減されて、良好な乗り心地などが実現される。このように、本発明に係るストラットマウントの適用範囲は、自動車のロックアップ時の振動の全てがショックアブソーバを介して自動車の駆動系から車両ボデーへ伝達される構造に限定されるものではない。
【0073】
前記実施形態では、流体封入式のサスペンションブッシュ106を採用すると共に、サスペンションブッシュ106におけるオリフィス通路のチューニング周波数をロックアップ時のトルク変動による振動の周波数に設定した構造を例示したが、例えば、サスペンションブッシュのオリフィス通路を路面からの入力振動の周波数にチューニングしても良いし、サスペンションブッシュとして特開2014−145410号公報などに示されているソリッドタイプのブッシュを採用しても良い。
なお、本発明の出願時の第八の態様は、車両ボデーと車輪を連結するショックアブソーバとサスペンションアームを備えていると共に、該車両ボデーと該ショックアブソーバに介装されるストラットマウントと該車両ボデーと該サスペンションアームに介装されるサスペンションブッシュを備えているサスペンション機構において、前記ストラットマウントとして第一〜第七の何れか1つの態様に記載されたストラットマウントが採用されている一方、前記サスペンションブッシュが内部に非圧縮性流体が封入された流体封入領域を備えていると共に、該流体封入領域に封入された非圧縮性流体が流動せしめられるオリフィス通路が形成されており、該オリフィス通路のチューニング周波数が自動車のロックアップ時に前記サスペンションアームを介して該自動車の駆動系から前記車両ボデーへ伝達される振動の周波数に設定されていることを、特徴とする。
このような出願時の第八の態様に従う構造とされたサスペンション機構によれば、ロックアップ時のトルク変動による振動が、ショックアブソーバから車両ボデーに伝達されるのをストラットマウントによって防ぐだけでなく、サスペンションアームから車両ボデーに伝達されるのをサスペンションブッシュによって防ぐことができる。従って、ロックアップ時に車両ボデーの振動状態が悪化するのをより有利に防ぐことができて、防振性能および静音性能の更なる向上が図られ得る。しかも、ストラットマウントとサスペンションブッシュが何れも流体封入式とされて、流体の流動作用に基づく優れた防振効果を発揮することから、ロックアップ時の振動をより効果的に低減することができる。