【文献】
南条尚志,FRP構成素材入門 第2章 構成素材と種類 −ガラス繊維−,日本複合材料学会誌,日本,2007年,33/4,141−149
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
連続繊維束が平行に埋設された繊維強化樹脂成形体であって、上記連続繊維束が、炭素繊維およびガラス繊維の少なくとも一方からなり、上記繊維強化樹脂成形体のマトリックス樹脂が、下記の(A)を主成分とし下記の(B)および(C)成分を含有する樹脂組成物からなり、かつ(B)成分が、上記連続繊維束を構成する連続繊維に沿って配向した状態で分布していることを特徴とする繊維強化樹脂成形体。
(A)ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一つである、熱硬化性樹脂。
(B)モース硬度が4以上の針状無機充填剤であり、その外径が、上記連続繊維の外径に対して下記の式(1)に示す関係を満たす、アルミナ繊維およびチタン酸カリウムの少なくとも一方の、針状無機充填剤。
針状無機充填剤の外径÷連続繊維の外径=0.01〜0.71 ……(1)
(C)(A)成分の硬化剤。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、繊維強化樹脂成形体は、剛性(曲げ弾性率)が低いため、金属と同等レベルの剛性を発現するためには、繊維強化樹脂成形体の肉厚を厚くする等といった設計の見直しが必要となる。また、繊維強化樹脂成形体の肉厚を厚くすると、それに伴い重量も増えることから、たとえばアルミ合金部材と比較すると、繊維強化樹脂成形体のメリットが出ない問題がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、軽量で、強度が高く、さらに、高い剛性を示す、繊維強化樹脂成形体およびその製造方法の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明は、連続繊維束が平行に埋設された繊維強化樹脂成形体であって、上記連続繊維束が、炭素繊維およびガラス繊維の少なくとも一方からなり、上記繊維強化樹脂成形体のマトリックス樹脂が、下記の(A)を主成分とし下記の(B)および(C)成分を含有する樹脂組成物からなり、かつ(B)成分が、上記連続繊維束を構成する連続繊維に沿って配向した状態で分布している繊維強化樹脂成形体を第一の要旨とする。
(A)
ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一つである、熱硬化性樹脂。
(B)モース硬度が4以上の針状無機充填剤であり、その外径が、上記連続繊維の外径に対して下記の式(1)に示す関係を満たす、
アルミナ繊維およびチタン酸カリウムの少なくとも一方の、針状無機充填剤。
針状無機充填剤の外径÷連続繊維の外径=0.01〜0.71 ……(1)
(C)(A)成分の硬化剤。
【0007】
また、本発明は、上記繊維強化樹脂成形体の製造方法であって、炭素繊維およびガラス繊維の少なくとも一方からなる連続繊維を、束ねた状態で、下記の(A)成分を主成分とし下記の(B)および(C)成分を含有する樹脂組成物の入った槽に引き込み、連続繊維を樹脂組成物に含浸させる工程と、上記樹脂組成物を含浸させた連続繊維を引き抜き、熱硬化させる工程と、を備えている繊維強化樹脂成形体の製造方法を第二の要旨とする。
(A)
ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一つである、熱硬化性樹脂。
(B)モース硬度が4以上の針状無機充填剤であり、その外径が、上記連続繊維の外径に対して下記の式(1)に示す関係を満たす、
アルミナ繊維およびチタン酸カリウムの少なくとも一方の、針状無機充填剤。
針状無機充填剤の外径÷連続繊維の外径=0.01〜0.71 ……(1)
(C)(A)成分の硬化剤。
【0008】
すなわち、本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、本発明者らは、繊維強化樹脂成形体の補強材となる繊維に、炭素繊維(CF)およびガラス繊維(GF)の少なくとも一方からなる連続繊維束を用い、繊維強化樹脂成形体に平行に上記連続繊維束が埋設されるようにし、さらに補強性および力の分散性を高めるために、そのマトリックス樹脂中にフィラーを含有させることを検討した。そして、各種実験を重ねた結果、モース硬度が4以上の針状無機質充填剤であり、その外径が、上記連続繊維束を構成する連続繊維の外径に対して上記の式(1)に示す関係を満たす針状無機充填剤(B)を、上記フィラーとして含有させ、さらに、上記特定の針状無機質充填剤(B)を、連続繊維束を構成する連続繊維に沿って配向した状態で分布させたところ、その繊維強化樹脂成形体の補強性および力の分散性が高まり、その結果、反力に代わり、極めて高い曲げ弾性率(剛性)を示すようになることを見いだし、本発明に到達した。
【0009】
なお、上記のような針状無機質充填剤(B)を、連続繊維束を構成する連続繊維に沿って配向した状態で分布させるには、従来のような射出成形では困難である。そこで、連続繊維を、束ねた状態で、熱硬化性樹脂と上記針状無機質充填剤(B)と硬化剤とを含有する樹脂組成物の入った槽に引き込み、連続繊維を樹脂組成物に含浸させた後、上記樹脂組成物を含浸させた連続繊維を引き抜き、熱硬化させるといった特殊な製造方法を適用したところ、上記の問題は解消され、先に述べたような特殊な繊維強化樹脂成形体を良好に製造することができるようになることを、本発明者らは突き止めた。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明の繊維強化樹脂成形体は、連続繊維束が平行に埋設された繊維強化樹脂成形体であって、上記連続繊維束が、炭素繊維およびガラス繊維の少なくとも一方からなり、上記繊維強化樹脂のマトリックス樹脂が、熱硬化性樹脂(A)を主成分とし、特定の針状無機質充填剤(B)および硬化剤(C)を含有する樹脂組成物からなり、上記特定の針状無機質充填剤(B)が、連続繊維束を構成する連続繊維に沿って配向した状態で分布している。そのため、金属部材に匹敵するほどの極めて高い曲げ弾性率(剛性)および強度を示すことができ、さらに、金属部材よりも軽量化を図ることができる。また、上記のように高い曲げ弾性率(剛性)を示すことに伴い、振動を制御する特性(振動特性)も上がるため、輸送機器用支持部材またはOA機器用ロール用シャフトといった用途に好ましく用いることができる。
【0011】
特に、上記特定の針状無機質充填剤(B)が、アルミナ繊維およびチタン酸カリウムの少なくとも一方であると、より高い曲げ弾性率(剛性)および強度を示すことができる。
【0012】
また、上記樹脂組成物における特定の針状無機質充填剤(B)の割合が、熱硬化性樹脂(A)100重量部に対し0.5〜15重量部の範囲であると、他の性能を損なうことなく、高い曲げ弾性率(剛性)を示すことができる。
【0013】
また、上記熱硬化性樹脂(A)が、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一つであると、加工性等において優れるようになる。
【0014】
また、上記連続繊維束の占める割合(Vf値)が45〜80%の範囲であると、繊維強化樹脂成形体の表面平滑性等において、優れるようになる。
【0015】
また、繊維強化樹脂成形体の比弾性率が、(B)成分を含有しない上記繊維強化樹脂成形体の比弾性率を上回る値を示すと、共振周波数が高周波数側にシフトするなど振動伝達性において、より優れるようになる。
【0016】
また、連続繊維を束ねた状態で、上記(A)〜(C)成分を含有する樹脂組成物の入った槽に引き込み、連続繊維を樹脂組成物に含浸させた後、上記樹脂組成物を含浸させた連続繊維を引き抜き、熱硬化させるといった特殊な製造方法により、繊維強化樹脂成形体を製造すると、上記のように、特定の針状無機質充填剤(B)を、連続繊維束を構成する連続繊維に沿って配向した状態で分布させることができ、本発明の繊維強化樹脂成形体を良好に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0019】
本発明の繊維強化樹脂成形体は、先に述べたように、連続繊維束が平行に埋設された繊維強化樹脂成形体であって、上記連続繊維束が、炭素繊維およびガラス繊維の少なくとも一方からなり、上記繊維強化樹脂のマトリックス樹脂が、熱硬化性樹脂(A)を主成分とし、特定の針状無機質充填剤(B)および硬化剤(C)を含有する樹脂組成物からなり、かつ上記特定の針状無機質充填剤(B)が、上記連続繊維束を構成する連続繊維に沿って配向した状態で分布している。そして、上記特定の針状無機質充填剤(B)が、モース硬度4以上であり、さらにその外径が、上記連続繊維の外径に対して下記の式(1)に示す関係を満たしている。
【0021】
なお、上記樹脂組成物の「主成分」とは、その組成物全体の特性に大きな影響を与えるもののことであり、本発明においては、組成物全体の50重量%以上を意味する。また、「上記特定の針状無機質充填剤(B)が、上記連続繊維束を構成する連続繊維に沿って配向した状態で分布している。」とは、針状無機質充填剤の凝集がみられず、その針状無機質充填剤の長手方向が、連続繊維に沿って配向した状態で分散した状態を意味する。この状態を模式的に示すと、
図1に示すようになる。
図1は、本発明の繊維強化樹脂成形体の一例である支持部材(またはシャフト)を模式的に示したものであり、図において、1は支持部材(またはシャフト)、2は連続繊維束、2aは、その連続繊維束を構成する連続繊維、3は針状無機質充填剤、4はマトリックス樹脂である。上記針状無機質充填剤の分布状態は、シャフトの長手方向断面を電子顕微鏡観察することにより確認することが可能である。
【0022】
本発明の繊維強化樹脂成形体において、補強材として埋設されている繊維は、上記のように、強度や剛性の観点から連続繊維である必要があり、それが、上記のように束になっている。そして、上記連続繊維としては、補強性に優れることから、先に述べたように、炭素繊維およびガラス繊維の少なくとも一方が用いられる。
【0023】
また、本発明の繊維強化樹脂成形体を導電性繊維強化樹脂成形体とする場合、導電性を高める観点から、上記連続繊維として炭素繊維を使用することが好ましく、より好ましくは、少なくとも繊維強化樹脂成形体の外周部に、炭素繊維の連続繊維が埋設されているようにすることである。なお、このような構成の繊維強化樹脂成形体において、その内部に埋設される連続繊維は、補強性の観点からは炭素繊維が好ましいが、低コスト化の観点からは、ガラス繊維、ポリエステル繊維およびアラミド繊維からなる群から選ばれた少なくとも一つを用いることが好ましく、なかでもガラス繊維が、補強性に優れているため、より好ましい。
【0024】
本発明の繊維強化樹脂成形体において、前記マトリックス樹脂の材料である樹脂組成物を構成する熱硬化性樹脂(A)としては、加工性の観点から、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂が好ましく用いられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、連続繊維との密着性が高いことから、ビニルエステル樹脂がより好ましい。
【0025】
上記熱硬化性樹脂(A)の硬化剤(C)として、例えば、ビニルエステル樹脂および不飽和ポリエステル樹脂には、メチルエチルケトンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキサイド、ターシャリーブチルパーベンゾエート、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物が用いられる。エポキシ樹脂には、ビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールF、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,3,3−トリメチル−1−m−ヒドロキシフェニルインダン−5−オール、1,3,3−トリメチル−1−m−ヒドロキシフェニルインダン−7−オール、1,3,3−トリメチル−1−p−ヒドロキシフェニルインダン−6−オール、レゾルシン、ハイドロキノン、カテコール、ナジク酸,マレイン酸,フタル酸,メチル−テトラヒドロフタル酸,メチルナジク酸等のポリカルボン酸とその無水物、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルエーテル、フェニレンジアミン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、キシリレンジアミン、トルエンジアミン、ジアミノジシクロシクロヘキサン、ジクロロ−ジアミノジフェニルメタン(異性体を含む)、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のポリアミン化合物、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジン、エポキシ基と反応可能な活性水素含有化合物等が用いられる。フェノール樹脂には、ヘキサメチレンテトラミン、メチロールメラミンおよびメチロール尿素等が用いられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。上記樹脂組成物における硬化剤(C)の割合は、その硬化性の観点から、熱硬化性樹脂(A)100重量部に対し、好ましくは0.5〜10重量部の範囲であり、より好ましくは1〜5重量部の範囲である。
【0026】
上記熱硬化性樹脂(A)とともに用いられる特定の針状無機質充填剤(B)は、先に述べたように、モース硬度が4以上であり、その外径が、前記連続繊維の外径に対して下記の式(1)に示す関係を満たすものが用いられる。
【0028】
なお、連続繊維が炭素繊維の場合、「針状無機充填剤の外径÷連続繊維の外径」の値は、好ましくは0.071〜0.71の範囲である。また、連続繊維がガラス繊維の場合、「針状無機充填剤の外径÷連続繊維の外径」の値は、好ましくは0.025〜0.5の範囲であり、より好ましくは0.25〜0.5の範囲である。このように、連続繊維の種類によって「針状無機充填剤の外径÷連続繊維の外径」の好適な範囲が異なる理由は、それぞれの繊維(フィラメント)径が異なることから、外力を受けた際に支持できるフィラー径が異なるためである。なお、繊維強化樹脂成形体内の上記針状無機充填剤の外径や連続繊維の外径は、繊維強化樹脂成形体をミクロトーム、クロスセクションポリッシャ(CP)加工、集束イオンビーム(FIB)加工等により切り出し、その断面を、拡大鏡、SEM(電子顕微鏡)等を用いて観察することにより測定することができる。繊維強化樹脂成形体作製前であれば、針状無機充填剤や連続繊維を、そのまま、拡大鏡、SEM等を用いて観察すればよい。そして、上記針状無機充填剤の外径および連続繊維の外径は、上記のような手法により観察された50個以上の針状無機充填剤の外径(短径)、および50本以上の連続繊維の外径(繊維径)の平均値を、その値とするものである。また、上記モース硬度は、旧モース硬度を基準とし、その上限を10とするものであり、モース硬度計(東京サイエンス社製)により測定された値である。そして、上記のような各規定を満たす針状無機質充填剤を用いることにより、繊維強化樹脂成形体の補強性および力の分散性が高まり、その結果、高い曲げ弾性率(剛性)を示すようになる。また、上記のように高い曲げ弾性率(剛性)を示すことに伴い、振動を制御する特性(振動特性)も上がるようになる。なお、上記無機質充填剤が針状か否かの規定は、SEM観察等により無機質充填剤の粒子のアスペクト比を測定し、その値が20〜40のものを「針状」と規定する。そして、同じくSEM観察等により測定することができる、上記特定の針状無機質充填剤(B)粒子における長径の平均長さは、10〜50μmであることが、樹脂との混合性および補強性の観点から、好ましい。
【0029】
なお、一般的に知られている無機質充填剤、例えば、シリカ、カーボンブラック、タルク、マイカ等は、上記のような高硬度を示すものではなく、また、上記規定したような針状のものでもない。すなわち、上記針状無機質充填剤(B)は、特殊なものであり、例えばチタン酸カリウム、アルミナ繊維、酸化亜鉛、酸化チタン、ボロン繊維、ジルコニア繊維、または、チタンおよびジルコニウムの少なくとも一方と,シリコン,炭素および酸素からなるセラミック繊維、カーボンナノチューブ、ガラスミルドファイバー等が、この針状無機質充填剤(B)に相当する。これらの針状無機質充填剤は、単独であるいは二種以上併せて用いられる。なかでも、本発明の繊維強化樹脂成形体がより高い剛性および強度を示すようになることから、アルミナ繊維およびチタン酸カリウムの少なくとも一方が、上記針状無機質充填剤(B)として好ましい。また、この針状無機充填剤に予めシランカップリング剤により表面処理を施してもよく、シランカップリング剤の種類としては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン等があげられる。これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。そして、上記表面処理方法としては噴霧などが簡便で好ましい。
【0030】
前記マトリックス樹脂の材料である樹脂組成物における針状無機質充填剤(B)の割合は、熱硬化性樹脂(A)100重量部に対し、0.5〜15重量部の範囲であることが、他の性能を損なうことなく、高い曲げ弾性率(剛性)を示すことができるため好ましい。なお、熱硬化性樹脂(A)100重量部に対する上記針状無機質充填剤(B)の含有量のより好ましい範囲は、前記連続繊維が炭素繊維の場合では5〜15重量部、前記連続繊維がガラス繊維の場合では2〜10重量部の範囲である。このように、連続繊維の種類によって針状無機質充填剤含有量の好適な範囲が異なる理由は、それぞれの繊維(フィラメント)径が異なることから、外力を受けた際に支持できるフィラー径が異なるためである。そして、上記針状無機質充填剤(B)の配合量が少なすぎると、充分な剛性が得られず、逆に上記針状無機質充填剤(B)の配合量が多すぎると、樹脂組成物の粘度が高くなり、繊維束中に樹脂組成物が含浸しきらず、成形性の低下等の問題がみられるようになる。
【0031】
さらに、上記樹脂組成物には、必要に応じて、硬化促進剤、カップリング剤、分散剤、タルク,カーボンブラック,マイカ等の無機フィラー、炭酸カルシウム,酸化マグネシウム等の収縮防止剤、難燃剤、離型剤等を適宜添加してもよい。
【0032】
つぎに、本発明の繊維強化樹脂成形体は、例えば以下のようにして作製される。
【0033】
すなわち、連続繊維を束ねた状態で、熱硬化性樹脂(A)を主成分とし、その硬化剤(C)、特定の針状無機質充填剤(B)、および必要に応じ他の添加剤を含有する樹脂組成物の入った槽に引き込み、連続繊維を樹脂組成物に含浸させた後、上記樹脂組成物を含浸させた連続繊維を引き抜き、プレス成形や金型に引き込む等して熱硬化させる。なお、上記熱硬化により得られた繊維強化樹脂成形品が長尺のものの場合、所定の長さに切断する。また、連続繊維を樹脂組成物に含浸させた後、プレス成形や金型に引き込む等する場合、連続繊維の表面への露出を抑えるために不織布(材質としては、ポリエステル系、ガラス系、アラミド系がある)を設定しても良い。このような特殊な製造方法により、目的とする繊維強化樹脂成形体を良好に製造することができる。
【0034】
そして、上記含浸処理に用いる樹脂組成物の調製には、三本ロールやビーズミルなどの混練機を用いることで、針状無機質充填剤(B)の凝集がより解消され、得られる繊維強化樹脂成形体の曲げ弾性率(剛性)をより高めることができる。特に、フィラーの凝集を解くためにロールの間隙を簡便に調節して加工できる点から、上記混練機として三本ロールを用いることが好ましい。なお、上記混練処理は、硬化剤(C)を加える前に行い、硬化剤(C)を加えた後に再度混練を行うが、このときの混練は、硬化剤(C)が樹脂組成物中に混ざればよいため、手撹拌、羽撹拌およびロールによる混練のうち、いずれかの処理で構わない。なかでも、羽撹拌による混練が、簡便であるため好ましい。
【0035】
また、上記含浸処理に用いる樹脂組成物の粘度を、25Pa・s以下とすることが、上記特殊な製造方法を良好に行う観点から好ましい。すなわち、上記粘度が高すぎると、樹脂組成物が連続繊維束中に充分に含浸しきらず、繊維強化樹脂成形体の成形性の低下等の問題がみられるからである。なお、上記粘度は、硬化剤(C)を添加する前に測定したものであり、JIS K 7117に準拠し、B型粘度計を用いて、温度:室温(28℃〜35℃)で測定した値である。
【0036】
上記含浸処理した樹脂組成物の熱硬化は、100〜160℃で、1〜60分間程度の熱処理で行われる。
【0037】
上記熱硬化により得られた長尺の繊維強化樹脂成形品は、切断機等により所定の長さに切断され、目的とする繊維強化樹脂成形体となる。
【0038】
なお、上記一連の製造方法は、一般的な引抜成形機を用いて行うことも可能である。
【0039】
このようにして得られる本発明の繊維強化樹脂成形体における連続繊維含有率(Vf値)は、好ましくは45〜80%であり、より好ましくは55〜70%である。なお、上記連続繊維含有率(Vf値)は、以下の計算式(2)で求めた値である。そして、Vf値が少な過ぎると、成形収縮がひどく、寸法性が確保できなくなるおそれがあり、逆にVf値が多過ぎると、樹脂量が少なくなり、表面平滑性が確保できなくなるおそれがある。
【0041】
このようにして得られた本発明の繊維強化樹脂成形体は、その曲げ弾性率が、65GPa以上であることが好ましく、より好ましくは70〜100GPaの範囲である。なお、上記曲げ弾性率は、長さ100mmの繊維強化樹脂成形体のサンプルに対し、JIS K 7074に準拠して、室温(28℃〜35℃)にて、試験速度2mm/min、スパン間距離100mmで、3点曲げ試験を行い、算出した弾性率である。
【0042】
そして、上記繊維強化樹脂成形体の比弾性率が、特定の針状無機質充填剤(B)を含有しない上記繊維強化樹脂成形体の比弾性率を上回る値を示すと、共振周波数が高周波数側にシフトするなど振動伝達性において、より優れるようになるため、好ましい。なお、上記比弾性率は、繊維強化樹脂成形体のサンプルに対し、JIS K 0061(天びん法)に準拠して、比重を測定した値と、上記のように測定された曲げ弾性率の値をもとに、下記の式(3)に従い、算出することができる。
【0044】
また、上記製法により得られた本発明の繊維強化樹脂成形体は、長尺のものでは、シャフトのような円柱状のものに限定されず、角パイプ状、丸パイプ状、チャンネル状、アングル状、フラットバー状、シート状等といった、引抜成形可能な形状のものがあげられる。また、長尺のものでないものの例としては、前記樹脂組成物を含浸させた連続繊維を金属板等に巻き取り、プレス成形したもの等があげられる。
【0045】
そして、本発明の繊維強化樹脂成形体は、その形状に応じ、輸送機器用支持部材およびOA機器用ロール用シャフトに好ましく用いることができる。上記輸送機器用支持部材としては、具体的には、自動車用タワーバー、自動車用パフォーマンスダンパー、自動車用アーム部品、自動車用サイドドアビーム、自動車用クロスメンバー(メンバーフレーム)、自動車用ブラケット・ステイ、自動車用サブフレーム等があげられる。また、上記OA機器用ロール用シャフトとしては、具体的には、帯電ロール用シャフト、現像ロール用シャフト、トナー供給ロール用シャフト、転写ロール用シャフト、給紙ロール用シャフト、クリーニングロール用シャフト等があげられる。これらは、従来品に比べ、軽量で錆びの心配もなく、さらに、強度も剛性も振動特性も高いため、有用である。また、上記OA機器用ロール用シャフトは、剛性の無い従来のFRP製シャフトを使用したときのような、印刷用紙とロールとの間でロールの浮きが生じることによる印刷画像のかすれやむらあるいは印字用紙の搬送むら等の不具合が解消され、ロールの印字・印刷紙の搬送性能等を向上させることができるため、特に有用である。
【実施例】
【0046】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、その要旨を超えない限り、これら実施例に限定されるものではない。
【0047】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備した。なお、下記針状フィラー(B1)〜(B6)の外径(短径)および長さ(長径)は、SEM観察により50個以上の針状フィラーの外径(短径)および長さ(長径)を測定した平均値である。また、下記連続ガラス繊維および連続炭素繊維の外経(繊維径)は、SEM観察により50本以上の連続繊維の外経(繊維径)を測定した平均値である。また、下記針状フィラー(B1)〜(B6)のモース硬度は、モース硬度計(東京サイエンス社製)により測定した値である。
【0048】
〔熱硬化性樹脂(A1)〕
ビニルエステル樹脂(主剤)(CBZ−500LM−AS、日本ユピカ社製)
【0049】
〔針状フィラー(B1)〕
チタン酸カリウム(モース硬度:4、外径0.5μm、長さ:15μm)(ティスモD102、大塚化学社製)
【0050】
〔針状フィラー(B2)〕
アルミナ繊維(モース硬度:9、外径5μm、長さ:約5000μm)(アルセン B97NK4、デンカ社製)
【0051】
〔針状フィラー(B3)〕
ガラスミルドファイバー(モース硬度:5、外径10μm、長さ:100μm)(SS 05C−404、日東紡社製)
【0052】
〔針状フィラー(B4)〕
ガラスミルドファイバー(モース硬度:5、外径25μm、長さ:80μm)
【0053】
〔針状フィラー(B5)〕
カーボンナノチューブ(モース硬度:5、外径0.1μm、長さ:約10μm)(AMC、宇部興産社製)
【0054】
〔針状フィラー(B6)〕
カーボンミルドファイバー(モース硬度:5、外径7μm、長さ:100μm)(CFMP−150X、日本ポリマー社製)
【0055】
〔カップリング剤〕
3−アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM903、信越ポリマー社製)
【0056】
〔硬化促進剤〕
PR−CBZ−02、日本ユピカ社製
【0057】
〔硬化剤(C1)〕
カヤエステルO−50E、日油社製
【0058】
〔連続ガラス繊維〕
外径20μmの連続ガラス繊維(RS440 RR−520、日東紡社製)
【0059】
〔連続炭素繊維〕
外径7μmの連続炭素繊維(トレカT−700、東レ社製)
【0060】
[実施例1〜16、比較例1〜4]
上記熱硬化性樹脂等(硬化剤を除く)を配合し、三本ロールにて混練した。その後、硬化剤を加え羽撹拌を行い、樹脂組成物を調製した。なお、上記各成分の配合割合は、後記の表1および表2に示す通りとした。
そして、三本ロールにて混練した後の樹脂組成物の粘度(硬化剤を添加する前の粘度)を下記の条件で測定した。
・装置:TOKI SANGYO社製、VISCOMETER TVB−10(TVR)・ローター種:H7
・回転数:60rpm
・測定環境:室温(28℃〜35℃)
【0061】
続いて、連続繊維を束ねた状態で、上記調製の樹脂組成物の入った槽に引き込み、連続繊維を樹脂組成物に含浸させた後、100mm×150mm×3mmの金属板に巻き取り、5MPaの圧力で150℃×30minプレスし、板状のサンプルを作製した。
【0062】
また、上記サンプルとは別に、棒状のサンプルも作製した。すなわち、連続繊維を束ねた状態で、上記調製の樹脂組成物の入った槽に引き込み、連続繊維を樹脂組成物に含浸させた後、金型に引き込み熱硬化させ、それにより得られた長尺の繊維強化樹脂成形品を切断し、直径8mm、長さ100mmの棒状(円柱状)のサンプルを作製した。
【0063】
なお、上記連続繊維として、実施例1〜8および比較例1,2では、連続ガラス繊維(RS440 RR−520、日東紡社製)のみを用い、実施例9〜16および比較例3,4では、連続炭素繊維(トレカT−700、東レ社製)のみを用いた。
【0064】
また、上記作製の、実施例1〜16および比較例1〜4のサンプルにおいて、以下の計算式(2)に従い求められる連続繊維含有率(Vf値)が、いずれも、59%となるようにした。
【0065】
【数5】
【0066】
このようにして得られた実施例および比較例のサンプルと、参考例として用意した、一般鋼材であるSPCC−91製のサンプルに関し、下記の基準に従い各特性の測定を行った。その結果を、先の樹脂組成物の粘度(硬化剤を添加する前の粘度)とともに、後記の表1および表2に併せて示した。
【0067】
≪曲げ弾性率≫
棒状のサンプルに対し、JIS K 7074に準拠して、室温(28℃〜35℃)にて、試験速度2mm/min、スパン間距離100mmで、3点曲げ試験を行い、曲げ弾性率(GPa)を算出した。
【0068】
≪比弾性率≫
棒状のサンプルに対し、JIS K 0061(天びん法)に準拠して、比重を測定した。そして、上記測定方法により得られた曲げ弾性率の測定値と、上記比重の測定値をもとに、下記の式(3)に従い、比弾性率を算出した。なお、表1における比弾性率は、比較例1のサンプルにおける比弾性率の値を1.000とし、この値に対し、各実施例および比較例のサンプルにおける比弾性率の値を指数換算したものである。また、表2における比弾性率は、比較例3のサンプルにおける比弾性率の値を1.000とし、この値に対し、各実施例および比較例のサンプルにおける比弾性率の値を指数換算したものである。
【0069】
【数6】
【0070】
≪振動特性≫
板状のサンプルに対し、JIS G 0602「制振鋼板の振動減衰特性試験方法」に準じ、片端固定打撃法にて試験を実施し、ヒルベルト変換を用いて、一次共振周波数を求めた。なお、一次共振周波数が高いほど、振動特性に優れていることを示す。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
上記結果より、実施例のサンプルは、その実施例と同じ連続繊維を用いた比較例のサンプルに比べ、曲げ弾性率が高く、比弾性率も高く、さらに、振動特性にも優れることがわかる。