特許第6774829号(P6774829)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6774829ドアホールシールおよびドアホールシールの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774829
(24)【登録日】2020年10月7日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】ドアホールシールおよびドアホールシールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60J 5/00 20060101AFI20201019BHJP
【FI】
   B60J5/00 501E
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-184674(P2016-184674)
(22)【出願日】2016年9月21日
(65)【公開番号】特開2018-47802(P2018-47802A)
(43)【公開日】2018年3月29日
【審査請求日】2019年7月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000196107
【氏名又は名称】西川ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】金田 弘明
(72)【発明者】
【氏名】山下 隆史
【審査官】 鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭61−012813(JP,U)
【文献】 実開昭56−011116(JP,U)
【文献】 特開2001−287546(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用ドアのドアインナーパネルに取付けられるドアホールシールであって、
上記ドアインナーパネルを覆うための弾性シートを備えており、
上記弾性シートには、上記ドアインナーパネルと上記ドアホールシールとの間に配置された車両部材を格納するための部材格納部が設けられており、
上記部材格納部は、
上記弾性シートの一部を構成するとともに、上記弾性シートに形成された開口部の外縁を形成する側壁から車内側に向けて立ち上がるように延伸している柱部と、
上記開口部に挿入された上記車両部材の一部分および上記柱部を覆う被覆部材と、を有しており、
上記開口部の形状は、略長方形状であり、
上記柱部は、上記側壁における上記開口部の角から離間した箇所に形成されており、
上記柱部と上記被覆部材とが溶着していることを特徴とするドアホールシール。
【請求項2】
上記被覆部材は、上記弾性シートにおける上記開口部を取り囲む周辺領域を覆っており、
上記被覆部材と上記周辺領域とが溶着していることを特徴とする請求項1に記載のドアホールシール。
【請求項3】
上記部材格納部は、上記柱部を少なくとも3つ以上有しており、
少なくとも3つ以上の上記柱部は、互いに隣り合う2つの上記柱部の間隔が均等になるように、上記開口部の外縁に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載のドアホールシール。
【請求項4】
請求項1に記載のドアホールシールの製造方法であって、
記弾性シートの一部を構成し、上記側壁から延伸している柱部を車内側に向けて立ち上げる第1工程と、
上記開口部に挿入される上記車両部材の一部分および上記第1工程で立ち上げた上記柱部を覆うための上記被覆部材によって、上記第1工程で立ち上げた上記柱部を覆うとともに、上記被覆部材と上記第1工程で立ち上げた上記柱部とを溶着することにより、上記部材格納部を成形する第2工程と、を含んでいることを特徴とするドアホールシールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用ドアのドアインナーパネルに取付けられるドアホールシール、および当該ドアホールシールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用ドアの内部構造の凹凸化が顕著になってきたことに伴い、当該凹凸化に対応すべく、様々な構造を有する自動車用ドア、および自動車用ドアのドアインナーパネルに取付けられるドアホールシールの研究開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、サイドドア(自動車用ドア)のドアインナーパネルに形成された開口と、当該開口を塞ぐとともに車室側に開放した凹部を備えたホールカバーと、ドアインナーパネルの開口まで侵入してホールカバーの凹部に受け入れられる凸部を備えた衝撃吸収部材と、を有する自動車のドア構造が開示されている。また例えば、特許文献2には、弾性的伸張が可能なコア層と、当該コア層の両面に配置され、所定の部位で塑性変形している非弾性スキン層と、を含む多層積層フィルムからなる車両用ドアホールシールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−44635号公報(2006年2月16日公開)
【特許文献2】特開2007−290668号公報(2007年11月8日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された自動車のドア構造においては、ホールカバーおよび衝撃吸収部材等を、それぞれ別工程で製造する必要がある。したがって、上記ドア構造の製造に多工程を要することとなり、コスト高になるという問題点があった。また、特許文献2に開示された車両用ドアホールシールの製造においても、多層積層フィルムを成形する工程と、多層積層フィルムに押込み部材を押し込む工程とが別工程となっており、上記のドア構造と同様にコスト高になるという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、自動車用ドアの内部に配置された車両部材による干渉を回避できるドアホールシールを、簡易に、かつ低コストで製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るドアホールシールは、自動車用ドアのドアインナーパネルに取付けられるドアホールシールであって、上記ドアインナーパネルを覆うための弾性シートを備えており、上記弾性シートには、上記ドアインナーパネルと上記ドアホールシールとの間に配置された車両部材を格納するための部材格納部が設けられており、上記部材格納部は、上記弾性シートの一部を構成するとともに、上記弾性シートに形成された開口部の外縁から車内側に向けて立ち上がるように延伸している柱部と、上記開口部に挿入された上記車両部材の一部分および上記柱部を覆う被覆部材と、を有しており、上記柱部と上記被覆部材とが溶着している。
【0008】
上記構成によれば、弾性シートに設けられた部材格納部において、当該部材格納部を構成する柱部と被覆部材とが溶着している。したがって例えば、弾性シートの開口部に車用部材と略同一の形状・大きさの雄型を挿入しつつ、柱部を立ち上げ、立ち上がった状態の柱部および雄型の露出部分を被覆部材で覆い、雌型を用いて前記被覆部材で覆った部分を溶着温度で癖付することにより、部材格納部の成形および部材格納部と弾性シートとの結合を一工程で行うことができる。
【0009】
それゆえ、部材格納部によって車両部材による干渉を回避できるドアホールシールを、簡易に、かつ低コストで製造することができる。
【0010】
また、上記構成によれば部材格納部に柱部が備わっており、当該柱部が遮音壁としての役割を果たす。それゆえ、部材格納部からの音漏れを効果的に防止でき、遮音性が担保されたドアホールシールを実現することができる。
【0011】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るドアホールシールは、上記被覆部材は、上記弾性シートにおける上記開口部を取り囲む周辺領域を覆っており、上記被覆部材と上記周辺領域とが溶着していることが好ましい。
【0012】
部材格納部において、柱部の根元付近を覆っている被覆部材の部位については、弾性シートと柱部とのなす角度によっては破れ等の破損が生じる虞がある。その点、上記構成によれば、被覆部材が弾性シートの周辺領域をも覆っており、かつ被覆部材と周辺領域とが溶着している。したがって、たとえ上記の破損が生じた箇所から雨水等が浸入した場合でも、被覆部材と周辺領域との溶着箇所で雨水等のさらなる浸入を防止できる。
【0013】
それゆえ、車両部材による干渉を回避できるとともに、防水性も担保されたドアホールシールを実現することができる。
【0014】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るドアホールシールは、上記部材格納部は、上記柱部を少なくとも3つ以上有しており、少なくとも3つ以上の上記柱部は、互いに隣り合う2つの上記柱部の間隔が均等になるように、上記開口部の外縁に配置されていることが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、遮音壁として機能する複数の柱部が、互いに隣り合う2つの上記柱部の間隔が均等になるように開口部の外縁に配置されていることから、あらゆる方向からの異音を効果的に遮断できるドアホールシールを実現することができる。
【0016】
また、部材格納部の外形を形成している被覆部材の部位を少なくとも3つ以上の柱部で支持していることから、被覆部材が破れる等して部材格納部の内部と貫通し得る箇所を低減できる。それゆえ、車両部材による干渉を回避できるとともに、防水性・遮音性も担保されたドアホールシールを実現することができる。
【0017】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るドアホールシールの製造方法は、自動車用ドアのドアインナーパネルに取付けられるドアホールシールの製造方法であって、上記ドアインナーパネルを覆うための弾性シートの一部を構成し、上記弾性シートに形成された開口部の外縁から延伸している柱部を車内側に向けて立ち上げる第1工程と、上記開口部に挿入される車両部材の一部分および上記第1工程で立ち上げた上記柱部を覆うための被覆部材によって、上記第1工程で立ち上げた上記柱部を覆うとともに、上記被覆部材と上記第1工程で立ち上げた上記柱部とを溶着することにより、上記ドアインナーパネルと上記ドアホールシールとの間に配置された上記車両部材を格納するための部材格納部を成形する第2工程と、を含んでいる。
【0018】
上記構成によれば、車両部材による干渉を回避でき、かつ遮音性も担保されたドアホールシールを、簡易に、かつ低コストで製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様によれば、車両部材による干渉を回避でき、かつ遮音性も担保されたドアホールシールを、簡易に、かつ低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係るドアホールシールが取付けられたフロントドアの車内側の構造を示す図である。
図2】(a)〜(c)は、本発明の一実施形態に係るドアホールシールの各成形部材を示す図である。
図3】(a)は、本発明の一実施形態に係るドアホールシールに設けられた部材格納部の外観図である。(b)は、上記部材格納部および当該部材格納部に挿入された車両部材の一部分の断面図である。
図4図3に示す部材格納部の形状保持に係る説明図である。
図5】(a)〜(c)は、本発明の一実施形態に係るドアホールシールの製造方法を示す図である。
図6】(a)〜(c)は、従来のドアホールシールの製造方法を示す図である。
図7】本発明の一実施形態に係るドアホールシールの変形例の主要部を示す外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<ドアホールシールの取付け例>
先ず、図1を参照して、本発明の一実施形態に係るドアホールシール1が取付けられたフロントドア100(自動車用ドア)の車内側の構造について説明する。図1は、ドアホールシール1が取付けられたフロントドア100の車内側の構造を示す図である。なお、図1において、紙面向かって左側が前側(フロント側)に、右側が後側(リヤ側)に、それぞれ対応している。
【0022】
図1に示すように、自動車のフロントドア用開口部(不図示)に開閉可能に設けられるフロントドア100には、ドアフレームが一体成形されている。ドアフレームは、ドアアウターパネル(不図示)とドアインナーパネル101とで構成されており、ドアインナーパネル101には、ドアホールシール1がシーラー等の接着剤によって取付けられている。
【0023】
ドアホールシール1は、ドアインナーパネル101に形成された作業穴部101a等を車内側から塞ぐことで、ドアガラス(不図示)とドアアウターパネルとの間から浸入した雨水等が、作業穴部101aを通ってさらに車内に浸入するのを防止する。なお、作業穴部101aには、インナーハンドル(不図示)等の機能部品が取付けられる。
【0024】
具体的には、図1に示すように、ドアインナーパネル101の所定の部位(作業穴部101aを含むことが前提)を覆うことができる大きさ・形状に成形されたドアホールシール1の周縁部にシーラー等を塗布し、狙いとする位置に接着させる。
【0025】
なお、上述したドアホールシール1の取付けはあくまで一例であり、例えば、リアドア(不図示)に取付けてもよい。換言すれば、本発明に係るドアホールシールが取付けられる自動車用ドアにつき、その種類は限定されない。また、本発明に係るドアホールシールの取付け対象となる自動車についても、ハードトップ車あるいはコンバーチブル車など、その種類は限定されない。
【0026】
<ドアシールホールの構造>
次に、図2図4を参照して、ドアホールシール1の構造について説明する。図2の(a)〜(c)は、ドアホールシール1の各成形部材を示す図である。図3の(a)は、ドアホールシール1に設けられた部材格納部10の外観図である。図3の(b)は、部材格納部10および当該部材格納部10に挿入された車両部材102の一部分の断面図である。図4は、部材格納部10の形状保持に係る説明図である。なお、図3の(b)において、紙面向かって上側が車内側に、下側が車外側に、それぞれ対応している。
【0027】
図2に示すように、ドアホールシール1は、弾性シート1a、樹脂シート1bおよび部材格納部用シート1c(被覆部材)を用いて成形されている。図2の(a)に示す弾性シート1aは、ドアインナーパネル101の所定の部位を直接覆うものであり、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム)製のシートを所定の大きさ・形状に切断することによって成形される。図2の(b)に示す樹脂シート1bは、PE(ポリエチレン樹脂)製のシートを弾性シート1aと略同一の大きさ・形状に切断し、弾性シート1aに溶着する。
【0028】
また、弾性シート1aには、後述する車両部材102の車内側の一部分102a(以下、「車内側部位102a」と表現する)が挿入できる大きさ・形状の開口部1a−1が形成されている。同様に樹脂シート1bにも、車内側部位102aが挿入できる大きさ・形状の開口部1b−1が形成されている。
【0029】
開口部1b−1は、開口部1a−1よりも若干大きく、その形状は開口部1a−1の形状と略同一である。また、弾性シート1aに樹脂シート1bを溶着した状態において、開口部1a−1の中心(不図示)と開口部1b−1の中心(不図示)とが略一致する。さらに、ドアホールシール1をドアインナーパネル101に取付けた状態において、両開口部1a−1・1b−1が車両部材102の配置位置と略一致する。
【0030】
また、弾性シート1aの開口部1a−1の外縁には、弾性シート1aの一部を構成する、略長方形状で板状の柱部1a−2が4つ形成されている。4つの柱部1a−2は、互いに略同一の大きさとなっている。柱部1a−2の詳細については後述する。
【0031】
図2の(c)に示す部材格納部用シート1cは、後述する部材格納部10の外形を形成する、略正方形状のPE製のシートである。部材格納部用シート1cは、(i)4つの柱部1a−2の根元付近における車内側の面、および(ii)弾性シート1aの開口部1a−1を取り囲む領域における車内側の面にそれぞれ溶着されるとともに、凸型形状に成形される(図3図4参照)。この溶着・成形により、樹脂シート1bで覆い尽くせなかった弾性シート1aの領域(開口部1a−1の周辺の領域)が、部材格納部用シート1cの周縁部で覆われることとなる。
【0032】
なお、弾性シート1aの成形材料として用いているEPDMはあくまで一例であり、他の弾性体からなるシートを用いてもよい。同様に、樹脂シート1bおよび部材格納部用シート1cの成形材料として用いる樹脂についても、PE以外の樹脂を用いてもよい。また、部材格納部用シート1cについては樹脂製である必要は必ずしもなく、柱部1a−2と溶着可能な材料で成形されていればよい。
【0033】
また、ドアホールシール1には、図3の(a)に示すような部材格納部10が設けられている。部材格納部10は、ドアインナーパネル101とドアホールシール1との間に配置された車内側部位102a(車両部材)を格納するための、凸型形状の部位である。部材格納部10は、ドアホールシール1をドアインナーパネル101に取付けた状態において、車両部材102の配置位置に対応する位置に配置される。
【0034】
図3の(a)および(b)に示すように、部材格納部10は、4つの柱部1a−2(複数の柱部)と部材格納部用シート1cとで構成されており、当該部材格納部10の内部には、車内側部位102aの体積と略同一の体積の空間10aが形成されている。車内側部位102aは、弾性シート1aの開口部1a−1から部材格納部10内部の空間10aに挿入され、ドアホールシール1をドアインナーパネル101に取付けた状態において、当該空間10aに格納される。
【0035】
本実施形態では、車内側部位102aの形状が角錐台形状であることから、開口部1a−1(開口部1b−1も同様)の形状が略長方形状となっている。また、4つの柱部1a−2は、開口部1a−1の外縁を形成する4つの側壁のそれぞれから、1つずつ車内側に向けて立ち上がるように延伸している。さらに、4つの柱部1a−2は、互いに隣り合う2つの柱部1a−2の間隔が均等になるように、弾性シート1aの開口部1a−1の外縁に配置されている。
【0036】
なお、柱部1a−2の形状は、必ずしも本実施形態のように略長方形状で板状である必要はなく、例えは、略半円形状の板状であってもよい。また、4つの柱部1a−2の大きさについても、互いに略同一である必要はなく、それぞれ異なる大きさであってもよい。但し、部材格納部10からの音漏れをより確実に防止する観点からすれば、4つの柱部の大きさをなるべく大きくするのが好ましい。
【0037】
さらには、柱部1a−2の配置・個数も任意に設計してよい。但し、音漏れ防止の観点からすれば、少なくとも3つ以上の柱部1a−2を有していることが好ましい。なおかつ、互いに隣り合う2つの柱部1a−2の間隔が均等になるように、開口部1a−1の外縁に配置されているのが好ましい。
【0038】
部材格納部用シート1cは、上述のように凸型形状に癖付された状態で、車内側部位102aおよび4つの柱部1a−2を覆っている。なお、部材格納部用シート1cは必ずしも凸型形状に成形される必要はなく、部材格納部10に格納される車両部材の形状に応じて任意に設計してもよい。
【0039】
このように、部材格納部10の外形を形成するための部材に部材格納部用シート1cを用いて溶着処理することにより、部材格納部10の外形(凸型形状)を確実に保持することができる。
【0040】
すなわち、図4に示すように、部材格納部10の成形に際して、部材格納部10のうちの弾性シート1aと柱部1a−2との境界付近に相当する溶着角部10bに対応する、弾性シート1aの部位および部材格納部用シート1cの部位を、ともに上記の境界に向けて圧縮させる。また、溶着時に、溶着角部10b周辺に加える熱量Q(図中の破線矢印参照)を他の溶着箇所よりも多くすることで、成形完了時には上記の境界に向かう方向に収縮力Fが生じる(図中の実線矢印参照)。この収縮力によって、4つの柱部1a−2がそれぞれ車内側に向けて立ち上がる方向に引っ張られ、当該引っ張られた状態で保持されることとなる。
【0041】
なお、上記の収縮力をより大きくするために、本実施形態では、溶着角部10b周辺における弾性シート1aの厚みおよび4つの柱部1a−2の厚みに、それぞれ直線的な傾斜をつけている。具体的には、溶着角部10bの境界に向かって徐々に厚みが薄くなっており、特に弾性シート1aについては、溶着角部10bの境界に対応する部位の厚みA2を、厚みが均一な部位における当該厚みA1の約3分の1としている。但し、このような、弾性シート1aおよび柱部1a−2の厚みにそれぞれ傾斜をつけることは必須ではない。
【0042】
また、ドアホールシール1における部材格納部10の配置位置(弾性シート1aの開口部1a−1の形成位置)、および部材格納部10の個数・大きさは、本実施形態の場合に限定されない。換言すれば、部材格納部10は、車両部材102の配置位置・個数・大きさ等に応じて、任意に設計してもよい。
【0043】
<ドアホールシールの製造方法>
次に、図5を参照して、ドアホールシール1の製造方法について説明する。図5の(a)〜図5の(d)は、ドアホールシール1の製造方法を示す図である。ドアホールシール1の製造は、以下の各工程を踏むことによって実現される。
(1) 先ず、図5の(a)に示すように、弾性シート1aにおける車両部材102の配置位置と対応する箇所を、のりしろ(4つの柱部1a−2に相当)を残しつつ略長方形状に打ち抜くことで、開口部1a−1および4つの柱部1a−2を形成する。
(2) 次に、図5の(b)に示すように、車両部材102の車内側部位102aの大きさ・形状と略同一の大きさ・形状の雄型K1(金型)を、開口部1a−1に挿入しつつ、4つの柱部1a−2をそれぞれ立ち上げる(柱部立ち上げ工程;第1工程)。
(3) 次に、図5の(c)に示すように、第1工程で立ち上げた4つの柱部1a−2、および雄型K1の頂面を覆うように、部材格納部用シート1cを4つの柱部1a−2の先端に乗せる(部材格納部用シート被覆工程;第2工程)。この時、並行して、弾性シート1aにおける柱部1a−2が立ち上がっている側の面を樹脂シート1bで覆う(不図示)。
(4) 次に、4つの柱部1a−2の先端に乗っている部材格納部用シート1cの上から、雄型の外形に対応する凹部を有する雌型K2(金型)を被せ、溶着ポイント(弾性シート1aと柱部1a−2との境界近傍の部分)を所定の熱量で加熱する。このような雌型K2の装着および溶着ポイント(図中の点線で囲まれた領域)の加熱により、部材格納部用シート1cの形状が部材格納部10の外形に癖付されるとともに、部材格納部用シート1cが4つの柱部1a−2に溶着される。この時、並行して、弾性シート1aに樹脂シート1bを溶着する(溶着工程;第2工程)。
【0044】
このように、ドアホールシール1については、弾性シート1aと樹脂シート1bとの溶着と同時に、4つの柱部1a−2と部材格納部用シート1cとの溶着を行うことができる。したがって、少ない製造工程でドアホールシール1を製造することができる。
【0045】
<従来のドアホールシールとの対比>
次に、図6を参照して、本発明の一実施形態に係るドアホールシール1と従来のドアホールシール50との対比について説明する。図6の(a)〜図6の(c)は、従来のドアホールシール50の製造方法を示す図である。
【0046】
従来のドアホールシール50としては、例えば図6の(c)に示すような、ドアホールシール本体50aとパック部50bとが一体になった構造のものが一般的である。具体的には、EPDM製の弾性シート50a−1とPE製の樹脂シート50a−2とが溶着したドアホールシール本体50aに、PE製のパック部50bを溶着することにより、従来のドアホールシール50が成形される。
【0047】
ドアホールシール本体50aは、弾性シート1aと同様の機能を果たす部材であり、フロントドア等の自動車用ドアのドアインナーパネルを直接覆う。パック部50bは、部材格納部10と同様の機能を果たす凸型形状の部材であり、内部に空間が形成されている(不図示:図3の(b)参照)。この空間に、自動車用ドアの内部に配置された車両部材の一部分が挿入・格納される。
【0048】
従来のドアホールシール50は、図6の(a)〜図6の(c)までの各工程を経て製造される。すなわち、まず、図6の(a)に示すように、金型(雄型・雌型)を用いてPE製の樹脂シートを凸型形状に成形することにより、パック部50bを製造する。次に、図6の(b)に示すように、EPDM製の弾性シート50a−1を所定の形状に切断した後、PE製の樹脂シート50a−2を溶着させて、ドアホールシール本体50aを製造する。次に、図6の(c)に示すように、ドアホールシール本体50aにパック部50bを溶着させることによって、ドアホールシール50が完成する。
【0049】
このように、従来のドアホールシール50では、ドアホールシール本体50aの製造とパック部50bの製造とが別工程になることから、ドアホールシール50の製造に多工程を要し、コスト高の要因となっていた。
【0050】
また、図示しないものの、従来のドアホールシール50の製造については、図6の(b)に示すドアホールシール本体50aの製造工程において、同時にパック部50bを製造する方法も採用されている。しかしながら、この方法を採用した場合、パック部50bを真空成型によって成形する必要があり、設備費用が増大するとともにドアホールシール50の成形リードタイムが長くなってしまう。したがって、この方法を採用した場合でもコスト高の問題は解消しない。
【0051】
その点、本発明の一実施形態に係るドアホールシール1は上述のように、弾性シート1aと樹脂シート1bとの溶着と同時に、真空成型を用いることなく、4つの柱部1a−2と部材格納部用シート1cとの溶着を行うことができる。したがって、ドアホールシール1は、簡易に、かつ低コストで製造することができる。
【0052】
<ドアホールシールの変形例>
次に、図7を参照して、ドアホールシール1の変形例について説明する。図7は、ドアホールシール1の変形例の主要部を示す外観図である。
【0053】
ドアホールシール1の部材格納部10について、その外形形状、および柱部1a−2の立ち上がりの程度は、部材格納部10に格納される車両部材102(特に、車内側部位102a)の大きさ・形状に応じて適宜設計変更できる。したがって、車両部材102の大きさ・形状によっては、例えば、4つの柱部1a−2のいずれか(あるいは全部)と弾性シート1aとのなす角度を略直角にしなければならない場合がある。
【0054】
このような場合において、部材格納部用シート1cを4つの柱部1a−2に溶着して部材格納部10を成形すると、経年使用等によって溶着角部10b付近の部材格納部用シート1cの破れが発生する可能性が高くなる。
【0055】
そこで、本発明に係るドアホールシールとして、実際に上記の破れが発生した場合に破れた箇所から雨水等が浸入するのを防ぐために、図7に示すドアシールホール2のような構成を採用してもよい。ドアシールホール2には、部材格納部10成形時の溶着ポイント10cに加えて、部材格納部10の周囲を取り囲む部位(樹脂シート1bで覆われている側)に、水漏れ防止溶着ライン2aが形成されている。
【0056】
水漏れ防止溶着ライン2aは、弾性シート1aの開口部1a−1を取り囲む周辺領域1a−3を覆っている、部材格納部用シート1cの周縁部1c−1(被覆部材)と、周辺領域1a−3とを溶着することによって形成されている。溶着角部10b付近の部材格納部用シート1cの破れが発生しても、破れた箇所から浸入した雨水等を、この水漏れ防止溶着ライン2aによって堰き止めることができる。
【符号の説明】
【0057】
1、2:ドアホールシール 1a:弾性シート 1a−1:開口部
1a−2:柱部 1a−3:周辺領域 1c:部材格納部用シート(被覆部材)
10:部材格納部 100:フロントドア(自動車用ドア)
101:ドアインナーパネル 102:車両部材
102a 車内側部位(車両部材の一部分)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7