特許第6774841号(P6774841)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6774841複合半透膜、及びスパイラル型分離膜エレメント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774841
(24)【登録日】2020年10月7日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】複合半透膜、及びスパイラル型分離膜エレメント
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/56 20060101AFI20201019BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20201019BHJP
   B01D 63/10 20060101ALI20201019BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20201019BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20201019BHJP
   C08J 9/36 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   B01D71/56
   B01D69/10
   B01D63/10
   B01D69/12
   C08G69/26
   C08J9/36CER
   C08J9/36CEZ
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-212336(P2016-212336)
(22)【出願日】2016年10月28日
(65)【公開番号】特開2018-69160(P2018-69160A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年9月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮部 倫次
(72)【発明者】
【氏名】越前 将
(72)【発明者】
【氏名】一氏 かずさ
【審査官】 宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−237230(JP,A)
【文献】 特開2014−210246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 71/56
B01D 63/10
B01D 69/10
B01D 69/12
C08G 69/26
C08J 9/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド系樹脂を含むスキン層が多孔性支持体の表面に形成されている複合半透膜において、
前記ポリアミド系樹脂は、多官能酸ハライド成分と多官能アミン成分とを重合して得られるものであり、前記多官能アミン成分は、m−フェニレンジアミンと、少なくとも1種の下記一般式(1)で表されるジアミン化合物とを含み、
前記ポリアミド系樹脂中におけるm−フェニレンジアミンに由来するセグメント(A)と、前記ジアミン化合物に由来するセグメント(B)との比率(モル%)が、99.9:0.1〜98:2(セグメント(A):セグメント(B))であることを特徴とする複合半透膜。
【化1】
(式中、R又はRのどちらか一方はCOOHであり、かつ他方は水素であり、R及びRはそれぞれ独立に水素又は炭素数1〜4のアルキル基である。)
【請求項2】
全ての多官能アミン成分に由来するセグメントの量を100モル%としたとき、前記セグメント(A)と前記セグメント(B)との合計量が、50モル%以上である請求項1に記載の複合半透膜。
【請求項3】
前記ポリアミド系樹脂中における全てのモノマー成分に由来するセグメントの量を100モル%としたとき、前記セグメント(A)と前記セグメント(B)との合計量が、50〜70モル%である請求項1又は2に記載の複合半透膜。
【請求項4】
ポリアミド系樹脂を含むスキン層が多孔性支持体の表面に形成されている複合半透膜において、
前記ポリアミド系樹脂は、多官能酸ハライド成分と多官能アミン成分とを重合して得られるものであり、前記多官能アミン成分は、m−フェニレンジアミンと、少なくとも1種の下記一般式(2)で表されるジアミン化合物とを含み、
前記ポリアミド系樹脂中におけるm−フェニレンジアミンに由来するセグメント(A)と、前記ジアミン化合物に由来するセグメント(C)との比率(モル%)が、97:3〜83:17(セグメント(A):セグメント(C))であることを特徴とする複合半透膜。
【化2】
(式中、R又はRのどちらか一方はCOORであり、かつ他方は水素であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、R及びRはそれぞれ独立に水素又は炭素数1〜4のアルキル基である。)
【請求項5】
全ての多官能アミン成分に由来するセグメントの量を100モル%としたとき、前記セグメント(A)と前記セグメント(C)との合計量が、50モル%以上である請求項4に記載の複合半透膜。
【請求項6】
前記ポリアミド系樹脂中における全てのモノマー成分に由来するセグメントの量を100モル%としたとき、前記セグメント(A)と前記セグメント(C)との合計量が、50〜70モル%である請求項4又は5に記載の複合半透膜。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の複合半透膜を含むスパイラル型分離膜エレメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合半透膜、及びスパイラル型分離膜エレメントに関する。かかる複合半透膜、及びスパイラル型分離膜エレメントは、超純水の製造、かん水または海水の脱塩などに好適であり、また染色排水や電着塗料排水などの公害発生原因である汚れなどから、その中に含まれる汚染源あるいは有効物質を除去・回収し、排水のクローズ化に寄与することができる。また、食品用途などで有効成分の濃縮、浄水や下水用途等での有害成分の除去などの高度処理に用いることができる。また、油田やシェールガス田などにおける排水処理に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
複合半透膜はその濾過性能や処理方法に応じてRO(逆浸透)膜、NF(ナノ濾過)膜、FO(正浸透)膜と呼ばれ、超純水製造、海水淡水化、かん水の脱塩処理、排水の再利用処理などに用いることができる。
【0003】
工業的に利用される複合半透膜としては、例えば、多官能酸ハロゲン化物と多官能アミン成分とを重縮合させて得られる架橋ポリアミドを含む薄膜層を支持膜上に形成した複合半透膜が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−237230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の複合半透膜は、透水性能が不十分であった。そして、透水性能を向上させると、イオン性物質及び/又は非イオン性物質の阻止性能が低下するというトレードオフの問題があった。
【0006】
本発明は、イオン性物質の阻止性能、非イオン性物質の阻止性能、及び透水性能の3つの性能が実用上バランスよく優れている複合半透膜、及び当該複合半透膜を含むスパイラル型分離膜エレメントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す複合半透膜により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、ポリアミド系樹脂を含むスキン層が多孔性支持体の表面に形成されている複合半透膜において、
前記ポリアミド系樹脂は、多官能酸ハライド成分と多官能アミン成分とを重合して得られるものであり、前記多官能アミン成分は、m−フェニレンジアミンと、少なくとも1種の下記一般式(1)で表されるジアミン化合物とを含み、
前記ポリアミド系樹脂中におけるm−フェニレンジアミンに由来するセグメント(A)と、前記ジアミン化合物に由来するセグメント(B)との比率(モル%)が、99.9:0.1〜98:2(セグメント(A):セグメント(B))であることを特徴とする複合半透膜、に関する。


(式中、R又はRのどちらか一方はCOOHであり、かつ他方は水素であり、R及びRはそれぞれ独立に水素又は炭素数1〜4のアルキル基である。)
【0009】
また、本発明は、ポリアミド系樹脂を含むスキン層が多孔性支持体の表面に形成されている複合半透膜において、
前記ポリアミド系樹脂は、多官能酸ハライド成分と多官能アミン成分とを重合して得られるものであり、前記多官能アミン成分は、m−フェニレンジアミンと、少なくとも1種の下記一般式(2)で表されるジアミン化合物とを含み、
前記ポリアミド系樹脂中におけるm−フェニレンジアミンに由来するセグメント(A)と、前記ジアミン化合物に由来するセグメント(C)との比率(モル%)が、97:3〜83:17(セグメント(A):セグメント(C))であることを特徴とする複合半透膜、に関する。


(式中、R又はRのどちらか一方はCOORであり、かつ他方は水素であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、R及びRはそれぞれ独立に水素又は炭素数1〜4のアルキル基である。)
【0010】
本発明者らは、m−フェニレンジアミンに由来するセグメント(A)と、上記一般式(1)で表されるジアミン化合物に由来するセグメント(B)又は上記一般式(2)で表されるジアミン化合物に由来するセグメント(C)とを特定の比率で含むポリアミド系樹脂を用いてスキン層を形成することにより、イオン性物質の阻止性能、非イオン性物質の阻止性能、及び透水性能の3つの性能が実用上バランスよく優れている複合半透膜が得られることを見出した。このような効果が得られる理由は定かではないが、一般的に反応性の高いモノマーを使用するとスキン層の架橋密度が低下する傾向にあることが知られているが、上記一般式(1)又は(2)で表されるジアミン化合物は、m−フェニレンジアミンと比較して反応性が低く、加えて親水性置換基を有しているため、スキン層の架橋密度を低下させることなく、スキン層の親水性が向上したためと考えられる。
【0011】
上記一般式(1)で表されるジアミン化合物に由来するセグメント(B)の比率(モル%)が0.1未満の場合には、複合半透膜の透水性能が不十分になる。その理由として、ポリアミド系樹脂中の親水性置換基の含有量が少ないためと考えられる。一方、前記セグメント(B)の比率(モル%)が2を超える場合には、複合半透膜のイオン性物質及び/又は非イオン性物質の阻止性能が低下する。その理由として、ポリアミド系樹脂中の親水性置換基の含有量は多くなるが、親水性置換基の立体障害によりポリアミド系樹脂の3次元構造が粗くなるためと考えられる。
【0012】
また、上記一般式(2)で表されるジアミン化合物に由来するセグメント(C)の比率(モル%)が3未満の場合には、上記と同様の理由により、複合半透膜の透水性能が不十分になる。一方、前記セグメント(C)の比率(モル%)が17を超える場合には、上記と同様の理由により、複合半透膜のイオン性物質及び/又は非イオン性物質の阻止性能が低下する。
【0013】
前記ポリアミド系樹脂において、全ての多官能アミン成分に由来するセグメントの量を100モル%としたとき、前記セグメント(A)と前記セグメント(B)との合計量が、50モル%以上であることが好ましい。前記セグメント(A)と前記セグメント(B)との合計量が50モル%以上であれば、本発明の効果がさらに向上する。
【0014】
また、前記ポリアミド系樹脂において、全ての多官能アミン成分に由来するセグメントの量を100モル%としたとき、前記セグメント(A)と前記セグメント(C)との合計量が、50モル%以上であることが好ましい。前記セグメント(A)と前記セグメント(C)との合計量が50モル%以上であれば、本発明の効果がさらに向上する。
【0015】
前記ポリアミド系樹脂において、全てのモノマー成分に由来するセグメントの量を100モル%としたとき、前記セグメント(A)と前記セグメント(B)との合計量が、50〜70モル%であることが好ましい。前記セグメント(A)と前記セグメント(B)との合計量が上記範囲外の場合には、イオン性物質の阻止性能、非イオン性物質の阻止性能、及び透水性能のうちのいずれか又は全ての性能が低下する傾向にある。
【0016】
また、前記ポリアミド系樹脂において、全てのモノマー成分に由来するセグメントの量を100モル%としたとき、前記セグメント(A)と前記セグメント(C)との合計量が、50〜70モル%であることが好ましい。前記セグメント(A)と前記セグメント(C)との合計量が上記範囲外の場合には、イオン性物質の阻止性能、非イオン性物質の阻止性能、及び透水性能のうちのいずれか又は全ての性能が低下する傾向にある。
【0017】
本発明のスパイラル型分離膜エレメントは、その構成部材として前記複合半透膜を含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明の複合半透膜は、イオン性物質の阻止性能、非イオン性物質の阻止性能、及び透水性能の3つの性能が実用上バランスよく優れたものである。本発明の複合半透膜を用いると、イオン性物質と非イオン性物質とを含む原水から高純度の水を効率よく精製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
本発明の複合半透膜は、ポリアミド系樹脂を含むスキン層が多孔性支持体の表面に形成されているものである。スキン層は、濾過において主たる機能層として作用する層である。
【0021】
前記ポリアミド系樹脂は、少なくとも多官能アミン成分と多官能酸ハライド成分とを重合して得られる。
【0022】
本発明においては、多官能アミン成分として、少なくともm−フェニレンジアミンと、下記一般式(1)で表されるジアミン化合物とを用いる。


(式中、R又はRのどちらか一方はCOOHであり、かつ他方は水素であり、R及びRはそれぞれ独立に水素又は炭素数1〜4のアルキル基である。)
【0023】
及びRはそれぞれ独立に水素又はメチル基であることが好ましい。
【0024】
前記ジアミン化合物のうち、3,5−ジアミノ安息香酸、2,4−ジアミノ安息香酸、N,N’−ジメチル−3,5−ジアミノ安息香酸、及びN,N’−ジメチル−2,4−ジアミノ安息香酸からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。また、3,5−ジアミノ安息香酸、及び2,4−ジアミノ安息香酸からなる群より選択される少なくとも1種を用いることがより好ましい。
【0025】
本発明においては、多官能アミン成分として、少なくともm−フェニレンジアミンと、下記一般式(2)で表されるジアミン化合物とを用いてもよい。


(式中、R又はRのどちらか一方はCOORであり、かつ他方は水素であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、R及びRはそれぞれ独立に水素又は炭素数1〜4のアルキル基である。)
【0026】
はメチル基であることが好ましく、R及びRはそれぞれ独立に水素又はメチル基であることが好ましい。
【0027】
前記ジアミン化合物のうち、3,5−ジアミノ安息香酸メチルエステル、2,4−ジアミノ安息香酸メチルエステル、N,N’−ジメチル−3,5−ジアミノ安息香酸メチルエステル、及びN,N’−ジメチル−2,4−ジアミノ安息香酸メチルエステルからなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。また、3,5−ジアミノ安息香酸メチルエステル、及び2,4−ジアミノ安息香酸メチルエステルからなる群より選択される少なくとも1種を用いることがより好ましい。
【0028】
また、本発明においては、多官能アミン成分として、少なくともm−フェニレンジアミンと、上記一般式(1)で表されるジアミン化合物と、上記一般式(2)で表されるジアミン化合物とを用いてもよい。
【0029】
多官能アミン成分として、m−フェニレンジアミン及び前記ジアミン化合物以外の芳香族、脂肪族又は脂環式の多官能アミンを併用してもよい。
【0030】
芳香族多官能アミンとしては、例えば、p−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、N,N’−ジメチル−m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノアニソール、アミドール、キシリレンジアミン等が挙げられる。
【0031】
脂肪族多官能アミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリス(2−アミノエチル)アミン、n−フェニル−エチレンジアミン等が挙げられる。
【0032】
脂環式多官能アミンとしては、例えば、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、4−アミノメチルピペラジン等が挙げられる。
【0033】
これらの多官能アミンは1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。高塩阻止性能のスキン層を得るためには、芳香族多官能アミンを用いることが好ましい。
【0034】
多官能酸ハライド成分とは、反応性カルボニル基を2個以上有する多官能酸ハライドである。
【0035】
多官能酸ハライドとしては、芳香族、脂肪族及び脂環式の多官能酸ハライドが挙げられる。
【0036】
芳香族多官能酸ハライドとしては、例えば、トリメシン酸トリクロライド、テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライド、ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、ベンゼントリスルホン酸トリクロライド、ベンゼンジスルホン酸ジクロライド、クロロスルホニルベンゼンジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。
【0037】
脂肪族多官能酸ハライドとしては、例えば、プロパンジカルボン酸ジクロライド、ブタンジカルボン酸ジクロライド、ペンタンジカルボン酸ジクロライド、プロパントリカルボン酸トリクロライド、ブタントリカルボン酸トリクロライド、ペンタントリカルボン酸トリクロライド、グルタリルハライド、アジポイルハライド等が挙げられる。
【0038】
脂環式多官能酸ハライドとしては、例えば、シクロプロパントリカルボン酸トリクロライド、シクロブタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタントリカルボン酸トリクロライド、シクロペンタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロヘキサントリカルボン酸トリクロライド、テトラハイドロフランテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタンジカルボン酸ジクロライド、シクロブタンジカルボン酸ジクロライド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、テトラハイドロフランジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。
【0039】
これら多官能酸ハライドは1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。高塩阻止性能のスキン層を得るためには、芳香族多官能酸ハライドを用いることが好ましい。また、多官能酸ハライド成分の少なくとも一部に3価以上の多官能酸ハライドを用いて、架橋構造を形成することが好ましい。
【0040】
また、ポリアミド系樹脂を含むスキン層の性能を向上させるために、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などのポリマー、ソルビトール、グリセリンなどの多価アルコールなどを共重合させてもよい。
【0041】
スキン層を支持する多孔性支持体は、スキン層を支持しうるものであれば特に限定されず、通常、平均孔径10〜500Å程度の微孔を有する限外濾過膜が好ましく用いられる。多孔性支持体の形成材料としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンのようなポリアリールエーテルスルホン、ポリイミド、ボリフッ化ビニリデンなど種々のものをあげることができるが、特に化学的、機械的、熱的に安定である点からポリスルホン、ポリアリールエーテルスルホンが好ましく用いられる。かかる多孔性支持体の厚さは、通常約25〜125μm、好ましくは約40〜75μmであるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。なお、多孔性支持体は織布、不織布等の基材による裏打ちにて補強されている。
【0042】
ポリアミド系樹脂を含むスキン層を多孔性支持体の表面に形成する方法は特に制限されず、あらゆる公知の手法を用いることができる。例えば、界面縮合法、相分離法、薄膜塗布法などが挙げられる。界面縮合法とは、具体的に、多官能アミン成分を含有するアミン水溶液と、多官能酸ハライド成分を含有する有機溶液とを接触させて界面重合させることによりスキン層を形成し、該スキン層を多孔性支持体上に載置する方法や、多孔性支持体上での前記界面重合によりポリアミド系樹脂のスキン層を多孔性支持体上に直接形成する方法である。かかる界面縮合法の条件等の詳細は、特開昭58−24303号公報、特開平1−180208号公報等に記載されており、それらの公知技術を適宜採用することができる。
【0043】
本発明においては、多官能アミン成分を含むアミン水溶液からなる水溶液被覆層を多孔性支持体上に形成し、次いで多官能酸ハライド成分を含有する有機溶液と水溶液被覆層とを接触させて界面重合させることによりスキン層を形成する方法が好ましい。
【0044】
前記界面重合法において、アミン水溶液中の多官能アミン成分の濃度は特に制限されないが、0.1〜10重量%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5重量%である。多官能アミン成分の濃度が0.1重量%未満の場合にはスキン層にピンホール等の欠陥が生じやすくなり、また塩阻止性能が低下する傾向にある。一方、多官能アミン成分の濃度が10重量%を超える場合には、多官能アミン成分が多孔性支持体中に浸透しやすくなったり、膜厚が厚くなりすぎて透過抵抗が大きくなって透過流束が低下する傾向にある。
【0045】
前記アミン水溶液に用いられる溶媒としては、主に水が用いられるが、上記一般式(1)又は(2)で表されるジアミン化合物を溶解しやすくして当該ジアミン化合物の反応性を向上させ、それによりポリアミド系樹脂中における前記ジアミン化合物に由来するセグメント(B)又はセグメント(C)の含有率を高めるために、アルコールを併用することが好ましい。使用するアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、及びイソプロピルアルコールなどが挙げられる。これらは1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。アルコールは、全溶媒中に0.1〜50重量%用いることが好ましく、より好ましくは1〜10重量%である。
【0046】
前記有機溶液中の多官能酸ハライド成分の濃度は特に制限されないが、0.01〜5重量%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜1重量%である。多官能酸ハライド成分の濃度が0.01重量%未満の場合には、未反応多官能アミン成分が残留しやすくなったり、スキン層にピンホール等の欠陥が生じやすくなって塩阻止性能が低下する傾向にある。一方、多官能酸ハライド成分の濃度が5重量%を超える場合には、未反応多官能酸ハライド成分が残留しやすくなったり、膜厚が厚くなりすぎて透過抵抗が大きくなり、透過流束が低下する傾向にある。
【0047】
前記有機溶液に用いられる有機溶媒としては、水に対する溶解度が低く、多孔性支持体を劣化させず、多官能酸ハライド成分を溶解するものであれば特に限定されず、例えば、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、及びノナン等の飽和炭化水素、1,1,2−トリクロロトリフルオロエタン等のハロゲン置換炭化水素などを挙げることができる。好ましくは沸点が300℃以下、さらに好ましくは沸点が200℃以下の飽和炭化水素またはナフテン系溶媒である。有機溶媒は1種単独で用いてもよく、2種以上の混合溶媒として用いてもよい。
【0048】
前記アミン水溶液又は有機溶液には、製膜を容易にしたり、得られる複合半透膜の性能を向上させるための目的で各種の添加剤を加えることができる。前記添加剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、及びラウリル硫酸ナトリウム等の界面活性剤、重合により生成するハロゲン化水素を除去する水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、及びトリエチルアミン等の塩基性化合物、アシル化触媒、特開平8−224452号公報記載の溶解度パラメータが8〜14(cal/cm1/2の化合物などが挙げられる。
【0049】
本発明においては、前記アミン水溶液と前記有機溶液との接触後、多孔性支持体上の過剰な有機溶液を除去し、多孔性支持体上の形成膜を20℃以上に加熱してスキン層を形成することが好ましい。形成膜を加熱処理することにより、上記一般式(1)又は(2)で表されるジアミン化合物の反応性を向上させて、ポリアミド系樹脂中における前記ジアミン化合物に由来するセグメント(B)又はセグメント(C)の含有率を高めることができる。加熱温度は20〜200℃であることがより好ましく、さらに好ましくは100〜150℃であり、特に好ましくは130〜150℃である。
【0050】
スキン層の形成材料である本発明のポリアミド系樹脂は、樹脂中におけるm−フェニレンジアミンに由来するセグメント(A)と、前記ジアミン化合物に由来するセグメント(B)との比率(モル%)が、99.9:0.1〜98:2(セグメント(A):セグメント(B))であり、好ましくは99.8:0.2〜98.2:1.8であり、より好ましくは99.75:0.25〜98.5:1.5であり、さらに好ましくは99.7:0.3〜98.8:1.2であり、特に好ましくは99.65:0.35〜98.9:1.1である。
【0051】
また、スキン層の形成材料である本発明のポリアミド系樹脂は、樹脂中におけるm−フェニレンジアミンに由来するセグメント(A)と、前記ジアミン化合物に由来するセグメント(C)との比率(モル%)が、97:3〜87:17(セグメント(A):セグメント(C))である。
【0052】
本発明のポリアミド系樹脂は、全ての多官能アミン成分に由来するセグメントの量を100モル%としたとき、前記セグメント(A)と前記セグメント(B)との合計量が、50モル%以上であることが好ましく、より好ましくは70モル%以上であり、さらに好ましくは90モル%以上である。
【0053】
また、本発明のポリアミド系樹脂は、全ての多官能アミン成分に由来するセグメントの量を100モル%としたとき、前記セグメント(A)と前記セグメント(C)との合計量が、50モル%以上であることが好ましく、より好ましくは70モル%以上であり、さらに好ましくは90モル%以上である。
【0054】
本発明のポリアミド系樹脂は、樹脂中における全てのモノマー成分に由来するセグメントの量を100モル%としたとき、前記セグメント(A)と前記セグメント(B)との合計量が、50〜70モル%であることが好ましく、より好ましくは55〜65モル%であり、さらに好ましくは56〜63モル%であり、特に好ましくは56〜60モル%である。前記セグメント(A)と前記セグメント(B)以外のセグメントとしては、m−フェニレンジアミン及び前記ジアミン化合物以外の多官能アミンに由来するセグメント、及び多官能酸ハライドに由来するセグメントなどが挙げられる。
【0055】
また、本発明のポリアミド系樹脂は、樹脂中における全てのモノマー成分に由来するセグメントの量を100モル%としたとき、前記セグメント(A)と前記セグメント(C)との合計量が、50〜70モル%であることが好ましい。前記セグメント(A)と前記セグメント(C)以外のセグメントとしては、m−フェニレンジアミン及び前記ジアミン化合物以外の多官能アミンに由来するセグメント、及び多官能酸ハライドに由来するセグメントなどが挙げられる。
【0056】
多孔性支持体上に形成したスキン層の厚みは特に制限されないが、通常0.05〜2μm程度であり、好ましくは、0.1〜1μmである。
【0057】
本発明の複合半透膜はその形状になんら制限を受けるものではない。すなわち平膜状、あるいはスパイラルエレメント状など、考えられるあらゆる膜形状が可能である。また、複合半透膜の塩阻止性、透水性、及び耐酸化剤性等を向上させるために、従来公知の各種処理を施してもよい。
【0058】
本発明のスパイラル型分離膜エレメントは、前記複合半透膜を用いて、公知の方法により製造することができる。
【実施例】
【0059】
以下に実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら限定されるものではない。
【0060】
〔評価及び測定方法〕
(透過流束、塩化ナトリウム阻止率、及びホウ素阻止率の測定)
作製した平膜状の複合半透膜を所定の形状、サイズに切断し、平膜評価用のセルにセットした。操作圧力5.5MPa、温度25℃、及びpH6.5にて、塩化ナトリウム3.2重量%とホウ素5ppm(ホウ酸29ppm)を含み、かつNaOHを用いてpH6.5〜7に調整した水溶液を25℃で膜の供給側と透過側に5.5MPaの差圧を与えて膜に1時間接触させた後、塩化ナトリウム阻止率、ホウ素阻止率、及び透過流束を測定した。塩化ナトリウム阻止率は、通常の電導度測定によって行い、ホウ素阻止率は、ICP分析装置にて濃度測定を行い、その測定結果からそれぞれ下記式により算出した。
<塩化ナトリウム阻止率>
阻止率(%)=(1−(膜透過液中の塩化ナトリウム濃度/供給液中の塩化ナトリウム濃度))×100
<ホウ素阻止率>
阻止率(%)=(1−(膜透過液中のホウ素濃度/供給液中のホウ素濃度))×100
【0061】
(IPA阻止率の測定)
作製した平膜状の複合半透膜を所定の形状、サイズに切断し、平膜評価用のセルにセットした。そして、操作圧力1.5MPa、温度25℃、及びpH6.5にて、複合半透膜に濃度0.15重量%のイソプロピルアルコール(IPA)水溶液を30分間透過させた後、IPA阻止率を測定した。IPA阻止率は、GC分析装置にて供給液及び透過液の濃度測定を行い、その測定結果から下記式により算出した。
<IPA阻止率>
阻止率(%)=(1−(膜透過液中のIPA濃度/供給液中のIPA濃度))×100
【0062】
(ポリアミド系樹脂中の各セグメント量の測定)
作製した複合半透膜をシクロヘキサノンに浸し、スキン層のポリアミド系樹脂を回収した後、ステンレス管に採取し、メタノール及びアルカリを加えて240℃で1時間加熱してポリアミド系樹脂の分解を実施した。その後、室温まで放冷した後、分解液を回収してH−NMR測定(測定装置:BRUKER Biospin,AVANCEIII−600、測定溶媒:DMSO−d6、化学シフト基準:2.50ppm(重DMSO)、積算64回、化学シフト:メタフェニレンジアミン(7.56ppm)、3,5−ジアミノ安息香酸(7.75ppm)、3,5−ジアミノ安息香酸メチル(7.78ppm)、トリメシン酸クロライド(8.60ppm)、イソフタル酸クロライド(8.40ppm))を行った。各セグメント成分に由来するピークからセグメント量(mol%)を算出した。
【0063】
実施例1
m−フェニレンジアミン(MPD)2.4重量%、3,5−ジアミノ安息香酸(DABA)0.9重量%、ドデシル硫酸ナトリウム0.15重量%、トリエチルアミン2.15重量%、水酸化ナトリウム0.31重量%、カンファースルホン酸6重量%、及びイソプロピルアルコール1重量%を含有するアミン水溶液を多孔性ポリスルホン支持体上に塗布し、その後、余分なアミン水溶液を除去することにより水溶液被覆層を形成した。なお、アミン水溶液中のMPDとDABAの含有比率は、MPD約80モル%、DABA約20モル%である。次に、前記水溶液被覆層の表面を、トリメシン酸クロライド(TMC)0.075重量%、及びイソフタル酸クロライド(IPC)0.113重量%をナフテン系溶媒(エクソンモービル社製、Exxsol D40)に溶解させた酸クロライド溶液中に7秒間浸した。その後、前記水溶液被覆層表面の余分な溶液を除去し、20秒間風乾し、さらに140℃の熱風乾燥機中で3分間保持して、多孔性ポリスルホン支持体上にポリアミド系樹脂を含むスキン層を形成して複合半透膜を作製した。
【0064】
実施例2
m−フェニレンジアミン(MPD)2.1重量%、3,5−ジアミノ安息香酸(DABA)1.3重量%、ドデシル硫酸ナトリウム0.15重量%、トリエチルアミン2.15重量%、水酸化ナトリウム0.31重量%、カンファースルホン酸6重量%、及びイソプロピルアルコール1重量%を含有するアミン水溶液を用いた以外は実施例1と同様の方法で複合半透膜を作製した。なお、アミン水溶液中のMPDとDABAの含有比率は、MPD約70モル%、DABA約30モル%である。
【0065】
実施例3
m−フェニレンジアミン(MPD)1.5重量%、3,5−ジアミノ安息香酸(DABA)2.1重量%、ドデシル硫酸ナトリウム0.15重量%、トリエチルアミン2.15重量%、水酸化ナトリウム0.31重量%、カンファースルホン酸6重量%、及びイソプロピルアルコール1重量%を含有するアミン水溶液を用いた以外は実施例1と同様の方法で複合半透膜を作製した。なお、アミン水溶液中のMPDとDABAの含有比率は、MPD約50モル%、DABA約50モル%である。
【0066】
実施例4
m−フェニレンジアミン(MPD)2.7重量%、3,5−ジアミノ安息香酸メチルエステル(DABAME)0.45重量%、ドデシル硫酸ナトリウム0.15重量%、トリエチルアミン2.15重量%、水酸化ナトリウム0.31重量%、カンファースルホン酸6重量%、及びイソプロピルアルコール1重量%を含有するアミン水溶液を用いた以外は実施例1と同様の方法で複合半透膜を作製した。なお、アミン水溶液中のMPDとDABAMEの含有比率は、MPD約90モル%、DABAME約10モル%である。
【0067】
比較例1、2
表1に記載の配合に変更した以外は実施例1と同様の方法で複合半透膜を作製した。
【0068】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の複合半透膜及びスパイラル型分離膜エレメントは、超純水の製造、かん水または海水の脱塩などに好適であり、また染色排水や電着塗料排水などの公害発生原因である汚れなどから、その中に含まれる汚染源あるいは有効物質を除去・回収し、排水のクローズ化に寄与することができる。また、食品用途などで有効成分の濃縮、浄水や下水用途等での有害成分の除去などの高度処理に用いることができる。また、油田やシェールガス田などにおける排水処理に用いることができる。