特許第6774861号(P6774861)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6774861歪抵抗膜および高温用歪センサ、ならびにそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774861
(24)【登録日】2020年10月7日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】歪抵抗膜および高温用歪センサ、ならびにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/16 20060101AFI20201019BHJP
【FI】
   G01B7/16 R
【請求項の数】16
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-234834(P2016-234834)
(22)【出願日】2016年12月2日
(65)【公開番号】特開2018-91705(P2018-91705A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2019年10月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173795
【氏名又は名称】公益財団法人電磁材料研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100099944
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 宏志
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 英二
【審査官】 九鬼 一慶
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−270201(JP,A)
【文献】 特開2010−275590(JP,A)
【文献】 特開2017−032554(JP,A)
【文献】 特開2013−117422(JP,A)
【文献】 特開昭60−059048(JP,A)
【文献】 特開平10−038727(JP,A)
【文献】 特開平08−201200(JP,A)
【文献】 特開平02−152201(JP,A)
【文献】 米国特許第05375474(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0356657(US,A1)
【文献】 丹羽英二,高温領域におけるCr-N薄膜ひずみセンサのゲージ率,第77回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集(CD-ROM),2016年,13p-D62-8,05-069
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Cr100−xMn
(ただし、xは原子比率(at.%)であり、0.1≦x≦34である)で表され、かつ使用温度範囲が250℃以上500℃以下であり、前記使用温度範囲において、ゲージ率が6以上であることを特徴とする歪抵抗膜。
【請求項2】
一般式Cr100−xAl
(ただし、xは原子比率(at.%)であり、4≦x≦25である)で表され、かつ使用温度範囲が250℃以上500℃以下であり、前記使用温度範囲において、ゲージ率が6以上であることを特徴とする歪抵抗膜。
【請求項3】
使用温度範囲が250℃以上450℃以下であり、前記使用温度範囲において、抵抗値の安定性が±0.2%以内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の歪抵抗膜。
【請求項4】
使用温度範囲が250℃以上400℃以下であり、前記使用温度範囲において、抵抗値の安定性が±0.02%以内であることを特徴とする請求項3に記載の歪抵抗膜。
【請求項5】
一般式Cr100−xMn
(ただし、xは原子比率(at.%)であり、0.1≦x≦34である)で表される薄膜を形成し、250℃以上500℃以下の範囲における使用する上限温度よりも50℃以上高い温度で大気中において30分以上4時間以下の熱処理を施し、250℃以上500℃以下の温度範囲において、ゲージ率が6以上である歪抵抗膜を得ることを特徴とする歪抵抗膜の製造方法。
【請求項6】
一般式Cr100−xAl
(ただし、xは原子比率(at.%)であり、4≦x≦25である)で表される薄膜を形成し、250℃以上500℃以下の範囲における使用する上限温度よりも50℃以上高い温度で大気中において30分以上4時間以下の熱処理を施し、250℃以上500℃以下の温度範囲において、ゲージ率が6以上である歪抵抗膜を得ることを特徴とする歪抵抗膜の製造方法。
【請求項7】
250℃以上450℃以下の範囲における使用する上限温度よりも50℃以上高い温度で大気中において30分以上4時間以下の熱処理を施し、250℃以上450℃以下の範囲において、抵抗値の安定性が±0.2%以内であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の歪抵抗膜の製造方法。
【請求項8】
250℃以上400℃以下の範囲における使用する上限温度よりも50℃以上高い温度で大気中において30分以上4時間以下の熱処理を施し、250℃以上400℃以下の範囲において、抵抗値の安定性が±0.02%以内であることを特徴とする請求項7に記載の歪抵抗膜の製造方法。
【請求項9】
一般式Cr100−xMn
(ただし、xは原子比率(at.%)であり、0.1≦x≦34である)で表される薄膜で構成され、かつ使用温度範囲が250℃以上500℃以下であり、前記使用温度範囲において、ゲージ率が6以上の歪抵抗膜を起歪構造体上に形成してなることを特徴とする高温用歪センサ。
【請求項10】
一般式Cr100−xAl
(ただし、xは原子比率(at.%)であり、4≦x≦25である)で表される薄膜で構成され、かつ使用温度範囲が250℃以上500℃以下であり、前記使用温度範囲において、ゲージ率が6以上の歪抵抗膜を起歪構造体上に形成してなることを特徴とする高温用歪センサ。
【請求項11】
使用温度範囲が250℃以上450℃以下であり、前記使用温度範囲における前記歪抵抗膜の抵抗安定性が±0.2%以内であることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の高温用歪センサ。
【請求項12】
使用温度範囲が250℃以上400℃以下であり、前記使用温度範囲における前記歪抵抗膜の抵抗安定性が±0.02%以内であることを特徴とする請求項11に記載の高温用歪センサ。
【請求項13】
一般式Cr100−xMn
(ただし、xは原子比率(at.%)であり、0.1≦x≦34である)で表される薄膜を起歪構造体上に形成し、250℃以上500℃以下の範囲における使用する上限温度よりも50℃以上高い温度で大気中において30分以上4時間以下の熱処理を施し、250℃以上500℃以下の温度範囲において、ゲージ率が6以上である歪抵抗膜とし、これを用いて高温用歪センサを製造することを特徴とする高温用歪センサの製造方法。
【請求項14】
一般式Cr100−xAl
(ただし、xは原子比率(at.%)であり、4≦x≦25である)で表される薄膜を起歪構造体上に形成し、250℃以上500℃以下の範囲における使用する上限温度よりも50℃以上高い温度で大気中において30分以上4時間以下の熱処理を施し、250℃以上500℃以下の温度範囲において、ゲージ率が6以上である歪抵抗膜とし、これを用いて高温用歪センサを製造することを特徴とする高温用歪センサの製造方法。
【請求項15】
使用温度範囲が250℃以上450℃以下であり、前記使用温度範囲における前記歪抵抗膜の抵抗安定性が±0.2%以内であることを特徴とする請求項13または請求項14に記載の高温用歪センサの製造方法。
【請求項16】
使用温度範囲が250℃以上400℃以下であり、前記使用温度範囲における前記歪抵抗膜の抵抗安定性が±0.02%以内であることを特徴とする請求項15に記載の高温用歪センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温で優れた特性を有する歪抵抗膜およびそのような歪抵抗膜を用いた高温用歪センサ、ならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歪センサは、薄膜、細線または箔形状のセンサ材の電気抵抗が弾性歪によって変化する現象を利用するものであり、その抵抗変化を測定することにより、歪や応力の計測ならびに変換に用いられる。
【0003】
歪センサの感度は、ゲージ率Kによって決まり、Kの値は一般に以下の(1)式で与えられる。
K=(ΔR/R)/(Δl/l)=1+2σ+(Δρ/ρ)/(Δl/l) (1)
ここで、R、σおよびρは、それぞれセンサ材である薄膜、細線または箔の全抵抗、ポアソン比および比電気抵抗である。またlは被測定体の全長であり、よってΔl/lは被測定体に生じる歪を表す。一般に、金属・合金におけるσはほぼ0.3であるから、前記の式における右辺第1項と第2項の合計は約1.6でほぼ一定の値となる。したがってゲージ率を大きくするためには、前記の式における第3項が大きいことが必須条件である。すなわち、材料に引っ張り変形を与えたとき材料の長さ方向の電子構造が大幅に変化し、比電気抵抗の変化量Δρ/ρが増加することによる。
【0004】
そこで近年になって注目されたのが、バルクのゲージ率として26〜28という非常に大きい値が報告されていたクロミウム(Cr)である。Crは加工が非常に困難であるが、加工を必要としない薄膜化によって歪センサに応用することができ、Crは薄膜化してもゲージ率が約15と依然として大きいため、Cr薄膜が歪センサとして注目されている(例えば特許文献1)。
【0005】
一方、近年、自動車および航空機等の内燃機関関連、射出成型、地熱発電、油田開発、火力発電のタービン関連など、200〜700℃の高温領域においてゲージ率が高く高感度な各種力学量のセンシングが強く要望されている。
【0006】
特許文献2、3には、Cr系薄膜を用いて、このような高温での力学量のセンシングを行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−256233号公報
【特許文献2】特開2005−69685号公報
【特許文献3】特開2012−207985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、高温領域で使用される歪ゲージにおいても、3以上という実用的な大きさのゲージ率が求められているが、上記特許文献2,3では、高温でのゲージ率は測定しておらず不明である。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、所定の高温領域において、高いゲージ率を示す歪抵抗膜およびその製造方法、ならびに、そのような歪抵抗膜を用いた高温用歪センサおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、先に、Cr薄膜を歪抵抗膜として用い、所定の高温での使用温度領域の上限よりも50℃以上高い温度で大気中において所定時間の熱処理を施すことにより、その高温での使用温度範囲において、実用的なゲージ率が得られることを見出し、特許出願した(特願2016−169410)。
【0011】
しかし、このようなCr薄膜は、100℃ではゲージ率の値が14程度であるが、100℃を超えるとゲージ率が低下して行き、250℃以上になると6程度、350℃以上になると4程度まで低下する。この値は、実用に供することができる値ではあるものの、常温から100℃におけるゲージ率よりもかなり小さい値である。このため、高温においてさらに大きなゲージ率を示す材料を見出すべく、Crに他の元素を添加したCr系薄膜について検討した。
【0012】
その結果、Crに添加する元素としてMnまたはAlを用い、その量を適切に調整することにより、250〜500℃において、Cr薄膜より高い6以上のゲージ率を安定的に得られることを見出した。
【0013】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、以下の(1)〜(16)を提供する。
【0014】
(1)一般式Cr100−xMn
(ただし、xは原子比率(at.%)であり、0.1≦x≦34である)で表され、かつ使用温度範囲が250℃以上500℃以下であり、前記使用温度範囲において、ゲージ率が6以上であることを特徴とする歪抵抗膜。
【0015】
(2)一般式Cr100−xAl
(ただし、xは原子比率(at.%)であり、4≦x≦25である)で表され、かつ使用温度範囲が250℃以上500℃以下であり、前記使用温度範囲において、ゲージ率が6以上であることを特徴とする歪抵抗膜。
【0016】
(3)使用温度範囲が250℃以上450℃以下であり、前記使用温度範囲において、抵抗値の安定性が±0.2%以内であることを特徴とする(1)または(2)に記載の歪抵抗膜。
【0017】
(4)使用温度範囲が250℃以上400℃以下であり、前記使用温度範囲において、抵抗値の安定性が±0.02%以内であることを特徴とする(3)に記載の歪抵抗膜。
【0018】
(5)一般式Cr100−xMn
(ただし、xは原子比率(at.%)であり、0.1≦x≦34である)で表される薄膜を形成し、250℃以上500℃以下の範囲における使用する上限温度よりも50℃以上高い温度で大気中において30分以上4時間以下の熱処理を施し、250℃以上500℃以下の温度範囲において、ゲージ率が6以上である歪抵抗膜を得ることを特徴とする歪抵抗膜の製造方法。
【0019】
(6)一般式Cr100−xAl
(ただし、xは原子比率(at.%)であり、4≦x≦25である)で表される薄膜を形成し、250℃以上500℃以下の範囲における使用する上限温度よりも50℃以上高い温度で大気中において30分以上4時間以下の熱処理を施し、250℃以上500℃以下の温度範囲において、ゲージ率が6以上である歪抵抗膜を得ることを特徴とする歪抵抗膜の製造方法。
【0020】
(7)250℃以上450℃以下の範囲における使用する上限温度よりも50℃以上高い温度で大気中において30分以上4時間以下の熱処理を施し、250℃以上450℃以下の範囲において、抵抗値の安定性が±0.2%以内であることを特徴とする(5)または(6)に記載の歪抵抗膜の製造方法。
【0021】
(8)250℃以上400℃以下の範囲における使用する上限温度よりも50℃以上高い温度で大気中において30分以上4時間以下の熱処理を施し、250℃以上400℃以下の範囲において、抵抗値の安定性が±0.02%以内であることを特徴とする(7)に記載の歪抵抗膜の製造方法。
【0022】
(9)一般式Cr100−xMn
(ただし、xは原子比率(at.%)であり、0.1≦x≦34である)で表される薄膜で構成され、かつ使用温度範囲が250℃以上500℃以下であり、前記使用温度範囲において、ゲージ率が6以上の歪抵抗膜を起歪構造体上に形成してなることを特徴とする高温用歪センサ。
【0023】
(10)一般式Cr100−xAl
(ただし、xは原子比率(at.%)であり、4≦x≦25である)で表される薄膜で構成され、かつ使用温度範囲が250℃以上500℃以下であり、前記使用温度範囲において、ゲージ率が6以上の歪抵抗膜を起歪構造体上に形成してなることを特徴とする高温用歪センサ。
【0024】
(11)使用温度範囲が250℃以上450℃以下であり、前記使用温度範囲における前記歪抵抗膜の抵抗安定性が±0.2%以内であることを特徴とする(9)または(10)に記載の高温用歪センサ。
【0025】
(12)使用温度範囲が250℃以上400℃以下であり、前記使用温度範囲における前記歪抵抗膜の抵抗安定性が±0.02%以内であることを特徴とする(11)に記載の高温用歪センサ。
【0026】
(13)一般式Cr100−xMn
(ただし、xは原子比率(at.%)であり、0.1≦x≦34である)で表される薄膜を起歪構造体上に形成し、250℃以上500℃以下の範囲における使用する上限温度よりも50℃以上高い温度で大気中において30分以上4時間以下の熱処理を施し、250℃以上500℃以下の温度範囲において、ゲージ率が6以上である歪抵抗膜とし、これを用いて高温用歪センサを製造することを特徴とする高温用歪センサの製造方法。
【0027】
(14)一般式Cr100−xAl
(ただし、xは原子比率(at.%)であり、4≦x≦25である)で表される薄膜を起歪構造体上に形成し、250℃以上500℃以下の範囲における使用する上限温度よりも50℃以上高い温度で大気中において30分以上4時間以下の熱処理を施し、250℃以上500℃以下の温度範囲において、ゲージ率が6以上である歪抵抗膜とし、これを用いて高温用歪センサを製造することを特徴とする高温用歪センサの製造方法。
【0028】
(15)使用温度範囲が250℃以上450℃以下であり、前記使用温度範囲における前記歪抵抗膜の抵抗安定性が±0.2%以内であることを特徴とする(13)または(14)に記載の高温用歪センサの製造方法。
【0029】
(16)使用温度範囲が250℃以上400℃以下であり、前記使用温度範囲における前記歪抵抗膜の抵抗安定性が±0.02%以内であることを特徴とする(15)に記載の高温用歪センサの製造方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、高温領域において、高いゲージ率が安定して得られる歪抵抗膜およびその製造方法、ならびに、そのような歪抵抗膜を用いた高温用歪センサおよびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】Crに添加する元素Xの量とネール温度との関係を示す図である。
図2】Crに添加する元素Xの量とネール温度との関係を示す図である。
図3】Cr−Al合金のAlの添加量とネール温度の関係を示す図である。
図4】Cr−Mn合金のMnの添加量とネール温度の関係を示す図である。
図5】高温歪印加電気抵抗測定装置を示す概略構成図である。
図6】曲げ試験シーケンスを示す図である。
図7】Cr薄膜(サンプルA)の測定温度とゲージ率との関係を示す図である。
図8】Cr薄膜(サンプルA)とCr−3.0at.%Mn薄膜(サンプルB)の測定温度とゲージ率との関係を示す図である。
図9】Cr薄膜(サンプルA)とCr−14.1at.%Al薄膜(サンプルC)の測定温度とゲージ率との関係を示す図である。
図10】Cr薄膜(サンプルA)の測定温度に対するゲージ率および抵抗の値を示す図である。
図11】Cr−3.0at.%Mn薄膜(サンプルB)の測定温度に対するゲージ率および抵抗の値を示す図である。
図12】Cr−14.1at.%Al薄膜(サンプルC)の測定温度に対するゲージ率および抵抗の温度変化を示す図である。
図13】Cr−3.0at.%Mn薄膜(サンプルB)の抵抗変化率(ΔR/R)を示す図である。
図14】Cr−14.1at.%Al薄膜(サンプルC)の抵抗変化率(ΔR/R)を示す図である。
図15】比較例であるCr−4.4at.%Ni薄膜における測定温度と抵抗の値との関係を示す図、および測定温度とゲージ率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
Cr系薄膜においては、一般に、その電気抵抗は、広い温度領域全般に亘っては、通常の金属と同様に温度変化に対し正の傾きで変化するが、Crの反強磁性に関連するネール温度において極小値をとることが知られている。すなわち、ネール温度近傍のネール温度以下の温度領域では、電気抵抗の傾きが負になるかまたは傾きの減少が生じて極小点であるネール温度に至り、ネール温度以上の温度領域では再び正の傾きで電気抵抗が増加していく挙動を示す。そこで実際に種々のCr系薄膜の抵抗値の温度依存性を調査した結果、電気抵抗の温度変化においてネール温度と考えられる極小値が見出された。
【0033】
一方、過去の文献(E.Fawcett et al.:"Spin-density-wave antiferromagnetism in chromium alloys", Rev.Mod.Phys.,66(1),(1994).)には、Crに添加する元素Xの量とネール温度との関係が示されている。その40ページ、39ページに実際に示された、添加元素Xの量とネール温度との関係を、図1および図2に示す。これらに示すように、Crのネール温度が300K(127℃)程度であるのに対し、CrにAl、Mn、Pt、Re、Ru、Rh、Os、Ir、Ga、およびGeを添加することにより、添加する量に応じてネール温度が上昇することがわかる。
【0034】
これらの中で、MnとAl以外の他の元素はネール温度の上昇がおよそ300℃までであるのに対し、MnとAlは500℃を超える温度までネール温度を上昇させ得ることが確認された。
【0035】
Cr−Al合金の磁気状態図、つまりAlの添加量とネール温度の関係が上記文献の48ページに示されており、その図を図3に示す。図3から、CrへのAlの添加量が約25at%までネール温度が上昇し、その最高温度は約800K、すなわち約530℃であることがわかる。
【0036】
Mnの添加量とネール温度の関係については、上記文献の85ページに示されており、その図を図4に示す。この図の中で1〜20は、Mn添加量が異なっており、1がMn:0at.%、2がMn:0.1at.%、3がMn:0.2at.%、・・・・・8がMn:0.7at.%、9が1.0at.%、・・・・16がMn:6.0at.%、・・・・19がMn:30at.%、20がMn:34at.%である。この図に示すように、Mn添加量が34at.%まで、ネール温度が一様に上昇し、その最高温度は約780K、すなわち約510℃であることがわかる。
【0037】
一方、後述するように高温におけるゲージ率を測定した結果、Cr系薄膜においては、ほとんどの場合、ネール温度のすぐ低温側にゲージ率のピークが現れることが確認された。そして、上述したネール温度が高いCr−Mn薄膜、Cr−Al薄膜の場合、MnまたはAl成分量の増加にともなって、ネール温度とともに、ゲージ率のピークまたはピーク高温側の傾斜のふもとが高温側へシフトしていく挙動が観察された。
【0038】
このことから、Cr−Mn薄膜およびCr−Al薄膜は、MnおよびAl量に追従するネール温度の高温化にともなって、高温領域で大きなゲージ率を示すことが見出された。
【0039】
そして、Cr−Al合金の場合、上記図3に示すように、Alが4at.%未満ではネール温度の減少が見られ、4〜25at.%でネール温度の上昇が見られ、Cr−Mn合金の場合、上記図4に示すように、Mnが0.1〜34at.%でネール温度の上昇がみられることから、Cr−Al薄膜では、Al量が4〜25at.%の範囲、Cr−Mn薄膜では、Mn量が0.1〜34at.%の範囲において、250〜500℃の高温領域で6以上の高いゲージ率を安定して示すことが見出された。
【0040】
このように、上記組成範囲のCr−Mn薄膜およびCr−Al薄膜は、高温用歪センサに用いる抵抗薄膜として良好な特性を有する。また、このような抵抗薄膜を歪材料として用いることにより、実用的な高温用歪センサが得られる。
【0041】
また、上記Cr−Mn薄膜またはCr−Al薄膜からなる抵抗薄膜は、250℃以上450℃以下の範囲で、上記特性に加えて抵抗値の安定性が±0.2%以内という特性を示す。また、250℃以上400℃以下の範囲において、抵抗値の安定性が±0.02%以内と一層良好な抵抗安定性を示す。
【0042】
次に、高温におけるゲージ率の測定装置および方法について説明する。
上述したように、本発明は高温領域でのゲージ率が高い抵抗薄膜および歪センサを提供するものであり、高温でのゲージ率を把握することが必要であるが、従来、高温におけるゲージ率の測定方法が確立されていなかった。
【0043】
このため、高温におけるゲージ率を測定することができる装置と方法について様々な検討を行った結果、図5に示す高温歪印加電気抵抗測定装置に想到した。
【0044】
図5の装置は、大気中で1000℃付近まで加熱することができる温度制御機能付きの電気オーブン1を有し、電気オーブン1の上部には窓2が形成されている。窓2は蓋部材3により塞がれており、蓋部材3には、電気オーブン1内に向けて下方に延びる支持棒4が固定されている。支持棒4は、電気オーブン1内の測定台5を支持している。
【0045】
測定台5の上には固定部材6が設けられており、固定部材6には、基板7上に高周波スパッタリング等により所定パターンのCr系薄膜8が形成された試料20が片持ち梁固定されている。測定台5は箱状をなしており、内部に端子11を有する端子台10が設けられている。Cr系薄膜8と端子11はボンディングワイヤー9で接続されている。
【0046】
端子11には耐熱配線ケーブル(図示せず)が接続されている。耐熱配線ケーブルは窓2を介して引き出され、測定系(DMM)14に接続されている。また、電源15も耐熱配線ケーブルにより接続されている。
【0047】
蓋部材3にはマイクロメータ12が固定されており、マイクロメータ12からは歪印加用押し込み棒13が下方に延び、試料20の自由端近傍に接触するようになっている。これにより、マイクロメータ12により歪印加用押し込み棒13を所定長さ降下させて、試料20に所定の歪を印加することができるようになっている。
【0048】
このような高温歪印加電気抵抗測定装置により高温でのゲージ率を測定するに際しては、電気オーブン1内の温度を約800℃までの所定の温度に設定し、電気オーブン1の外部からマイクロメータ12により歪印加用押し込み棒13を操作して、試料20に所定の歪を印加し、歪抵抗膜の抵抗を測定する。このような操作を各温度で行い、各温度で得られた抵抗変化率を別途100℃で測定したゲージ率で校正し、高温でのゲージ率を求める。これにより、高温でのゲージ率を正確に求めることができる。
【0049】
次に、本発明の歪抵抗膜および歪センサの製造方法について説明する。
本発明では、基板上に歪抵抗膜として上述したCr−Mn薄膜またはCr−Al薄膜を成膜した後、250℃以上500℃以下における使用温度範囲の上限よりも50℃以上高い温度で大気中において30分以上4時間以下の熱処理を施す。例えば使用温度範囲の上限が300℃の場合は、350℃以上の温度でこのような熱処理を施す。
【0050】
これにより、上述したように、使用範囲が250℃以上500℃以下の範囲で、ゲージ率が6以上の高いゲージ率を安定して示す歪抵抗膜を製造することができる。また、このようにして製造された歪抵抗膜は、450℃以下の範囲で、上記特性に加えて抵抗値の安定性が±0.2%以内、400℃以下の範囲において、抵抗値の安定性が±0.02%以内という良好な抵抗安定性を示す。
【0051】
そして、このような歪抵抗膜を用いることにより、高温用歪センサを製造することができる。
【0052】
本発明において、歪抵抗膜を構成するCr−Mn薄膜、Cr−Al薄膜を成膜する基材(起歪構造体)としては、耐熱性が良好な絶縁性セラミックスであるアルミナを好適に用いることができる。また、アルミナに限らず、他の種々のセラミックスを用いることもできる。さらに、基材としてステンレス鋼(SUS)等、種々の金属板に絶縁コートを施したものを用いることもできる。また、歪抵抗膜を構成するCr−Mn薄膜、Cr−Al薄膜を成膜する手法は特に限定されないがスパッタリング、特に高周波スパッタリングが好ましい。高周波スパッタリング装置としてはマグネトロン方式のものが好適である。高周波スパッタリングの際のガス圧は、16mTorr(2.13Pa)以下、例えば5mTorr(0.67Pa)が好ましい。歪抵抗膜として用いるCr系薄膜のパターンとしては、歪センサとして通常用いるパターンでよく、例えば格子状パターンを用いることができる。また、高周波スパッタリングに用いるターゲットとしては高純度のCr円盤にMnまたはAlのチップを所定個数貼り付けた複合ターゲットでもよいが、予め所定組成のCr−Mn、Cr−Alに調製された合金ターゲットを用いてもよい。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の実施例について説明する。
ここでは、まず、基材(起歪構造体)としてのアルミナ基板上に、高周波スパッタリングにより、比較材として格子状パターンのCr薄膜を成膜したサンプルAを準備した。その後、図5の装置により試料を大気中500℃で0.5時間の熱処理を施した後、図5の装置により450℃までの温度範囲におけるゲージ率を測定した。
【0054】
ゲージ率の測定に際しては、試料を測定台の所定の位置にセットし、各温度に保持した状態で、図5の装置のマイクロメータにより歪印加用押し込み棒を操作して、試料に図6のシーケンスで約0.05%の歪を印加する曲げ試験を行い、450℃までの各温度において抵抗測定を行った。各温度で得られた抵抗変化率を、別途100℃で測定したゲージ率で校正し、各温度でのゲージ率を求めた。
【0055】
その結果を図7に示す。この図に示すように、350℃以上450℃以下において、ゲージ率が3以上であり、かつゲージ率の温度変化が小さいことが確認された。
【0056】
次に、基材(起歪構造体)としてのアルミナ基板上に、高周波スパッタリングにより、本発明例としてCr−3.0at.%Mn薄膜を成膜したサンプルBおよび、Cr−14.1at.%Al薄膜を成膜したサンプルCを準備した。その後、図5の装置により試料を大気中500℃で0.5時間の熱処理を施した後、図5の装置により450℃までの温度範囲におけるゲージ率を測定した。
【0057】
ゲージ率の測定に際しては、試料を測定台の所定の位置にセットし、各温度に保持した状態で、図5の装置のマイクロメータにより歪印加用押し込み棒を操作して、試料に図6のシーケンスで約0.05%の歪を印加する曲げ試験を行い、450℃までの各温度において抵抗測定を行った。各温度で得られた抵抗変化率を、別途100℃で測定したゲージ率で校正し、各温度でのゲージ率を求めた。
【0058】
その結果を図8図9に示す。図8は、Cr薄膜を成膜したサンプルAとCr−3.0at.%Mn薄膜を成膜したサンプルBの結果を比較したものであり、図9はサンプルAとCr−14.1at.%Al薄膜を成膜したサンプルCの結果を比較したものである。これらの図に示すように、本発明例であるCr−3.0at.%Mn薄膜(サンプルB)およびCr−14.1at.%Al薄膜(サンプルC)は、250℃から450℃において、Cr薄膜(サンプルA)よりもゲージ率が高く、サンプルAでは250℃でゲージ率が6、300℃でゲージ率が5、350〜450℃でゲージ率が4程度であったのに対し、サンプルBおよびサンプルCでは、ほぼ6以上であった。
【0059】
なお、サンプルA〜Cの製造条件等の詳細について、以下にまとめて示す。
1.成膜方法:スパッタリング法
2.成膜装置:マグネトロン方式の高周波スパッタリング装置
3・ターゲット
・Cr:公称純度99.9%で直径75.5mmのCr円盤
・Cr−Mn、Cr−Al:上記Cr円盤状に5×5mm大で厚さ1mmのMnチップ、Alチップを8個乗せた複合ターゲット
4・基板:純度99.9%、厚さ0.1mmのアルミナ板
5・成膜条件
・成膜真空度(背景真空度):1×10−5Pa
・ターゲット−基板間距離(T−S距離):43mm
・スパッタガス圧:5mTorr(0.67Pa)
・スパッタガス流量:5sccm
・入力電力:10W
・基板温度:20℃水冷
6.薄膜歪センサ(歪ゲージ)素子のパターニングおよび熱処理等
・受感部形状:8回の折り返しからなる格子状
・格子の線幅および間隔:ともに0.05mm
・格子長さ:2mm
・薄膜の厚さ:約100nm
・パターン形状:フォトリソグラフィー技術とCrエッチング液による腐食整形技術を利用
・熱処理:大気中において所定の温度で30分間保持
・電極形成:センサ薄膜の所定位置にAu/Ni/Cr積層薄膜をリフトオフ法で重ねて形成
・評価用素子の切り出し:ダイシング装置を用いて素子を個別に切り出し
【0060】
次に、Cr薄膜を成膜したサンプルAと、Cr−3.0at.%Mn薄膜を成膜したサンプルBと、Cr−14.1at.%Al薄膜を成膜したサンプルCとについて、ゲージ率および抵抗の温度依存性を把握した。図10はCr薄膜(サンプルA)の測定温度に対するゲージ率および抵抗の値を示す図であり、図11はCr−3.0at.%Mn薄膜(サンプルB)の測定温度に対するゲージ率および抵抗の値を示す図であり、図12はCr−14.1at.%Al薄膜(サンプルC)の測定温度に対するゲージ率および抵抗の温度変化を示す図である。
【0061】
これらの図に示すように、Cr薄膜(サンプルA)はネール温度が170℃程度と低いため、ゲージ率のピークが100℃程度であり、高温でのゲージ率が低下する傾向にあったが、本発明例であるCr−3.0at.%Mn薄膜(サンプルB)と、Cr−14.1at.%Al薄膜(サンプルC)は、ネール温度が500℃付近であり、いずれもゲージ率のピークが350〜400℃程度であり、ネール温度が高いことにより、高温領域でのゲージ率が高い値を示すことが確認された。
【0062】
次に、上記サンプルB,Cについて各測定温度における抵抗変化率(ΔR/R)を求めた。図13はサンプルBにおける抵抗変化率(ΔR/R)を示す図であり、図14はサンプルCにおける抵抗変化率(ΔR/R)を示す図である。抵抗変化率は、図6に示すように、曲げを含む30分保持前後の抵抗値から求めた。なお、成膜後の熱処理は、大気中500℃で0.5時間とした。
【0063】
これらの図に示すように、大気中500℃で0.5時間の熱処理によって、いずれも400℃まで抵抗変化率が±0.02%以内の高い安定性を示した。
【0064】
次に、比較のため、Crに添加する元素としてネール温度を低下させるNiを用いたCr−4.4at.%Ni薄膜について、各測定温度について抵抗の値とゲージ率の値度変化を測定した。測定手法および製造条件等はサンプルA〜Cと同様にした。その結果を図15に示す。図15(a)は、測定温度と抵抗の値との関係を示す図であるが、Cr−Ni薄膜の場合、ネール温度が低温側にシフトして見えなくなっている。また、図15(b)は、測定温度とゲージ率との関係を示す図であるが、ネール温度が低温側にシフトすることにより、室温〜500℃でゲージ率のピークはなく、ゲージ率は室温〜500℃まででほぼ一定値で安定していたが、高温でのゲージ率の上昇は見られなかった。Ni−Cr合金は、温度に対するゲージ率が安定しているため、従来から高温用の歪ゲージとして用いられているが、そのゲージ率の値は2程度であり、不十分であった。
【符号の説明】
【0065】
1;電気オーブン、2;窓、3;蓋部材、4;支持棒、5;測定台、6;固定部材、7;基板、8;Cr系薄膜(歪抵抗膜)、10;端子台、11;端子、12;マイクロメータ、13;歪印加用押し込み棒
図1
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