特許第6774910号(P6774910)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6774910円筒形スパッタリングターゲットの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774910
(24)【登録日】2020年10月7日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】円筒形スパッタリングターゲットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20201019BHJP
【FI】
   C23C14/34 C
   C23C14/34 B
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-124764(P2017-124764)
(22)【出願日】2017年6月27日
(65)【公開番号】特開2019-7054(P2019-7054A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2019年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100204032
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100200001
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 明彦
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 茂
【審査官】 宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−100930(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/067717(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形セラミックス焼結体からなるターゲット材と円筒状のバッキングチューブとのクリアランスに接合材が充填される円筒形スパッタリングターゲットの製造方法であって、
前記ターゲット材の中空部に前記バッキングチューブを同軸に配置する配置工程と、
前記ターゲット材および前記バッキングチューブのうち、少なくとも該ターゲット材を固定する押さえ工程と、
前記クリアランスに前記接合材を充填した後、前記接合材を冷却し、前記ターゲット材と前記バッキングチューブとを接合する接合工程とを有し、
前記配置工程では、前記ターゲット材と前記バッキングチューブとのクリアランスに複数の固定具を円周方向に等間隔に取り付け、
前記押さえ工程では、前記ターゲット材の上端面を押さえ機構で押圧することにより、該ターゲット材を固定した後、前記固定具を取り外すことを特徴とする円筒形スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項2】
円筒形セラミックス焼結体からなるターゲット材と円筒状のバッキングチューブとのクリアランスに接合材が充填される円筒形スパッタリングターゲットの製造方法であって、
前記ターゲット材の中空部に前記バッキングチューブを同軸に配置する配置工程と、
前記ターゲット材および前記バッキングチューブのうち、少なくとも該ターゲット材を固定する押さえ工程と、
前記クリアランスに前記接合材を充填した後、前記接合材を冷却し、前記ターゲット材と前記バッキングチューブとを接合する接合工程とを有し、
前記配置工程では、前記ターゲット材の上端面には前記バッキングチューブと同軸上に円筒状のダミーパイプがさらに設けられ、
前記押さえ工程では、前記ダミーパイプの上端面を押さえ機構で押圧することにより、該ダミーパイプを介して前記ターゲット材を固定することを特徴とする円筒形スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項3】
前記配置工程では、前記ダミーパイプと前記バッキングチューブとのクリアランスに複数の固定具を円周方向に等間隔に取り付け、
前記押さえ工程では、前記ダミーパイプの上端面を押さえ機構で押圧することにより、該ダミーパイプを介して前記ターゲット材を固定した後、前記固定具を取り外すことを特徴とする請求項記載の円筒形スパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロン型回転カソードスパッタリング装置によるスパッタリングに使用される、円筒形スパッタリングターゲットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、スパッタリングターゲットとしては、平板状のターゲット材をバッキングプレートに接合した平板形スパッタリングターゲットが一般的に利用されている。平板形スパッタリングターゲットを使用して、マグネトロンスパッタリング法によりスパッタリングを行った場合におけるターゲット材の使用効率は、20%〜30%に留まっている。その理由は、マグネトロンスパッタリング法では磁場によってプラズマをターゲット材の特定箇所に集中して衝突させるため、ターゲット材の表面の特定箇所にエロージョン(erosion)が進行する現象が起こり、ターゲット材の最深部がバッキングプレートまで達したところで、ターゲット材の寿命となってしまうためである。
【0003】
この問題に対して、スパッタリングターゲットの形状を円筒形にすることで、ターゲット材の使用効率を上げることが提案されている。この方法は、円筒形のバッキングチューブと、その外周部に形成された円筒形のターゲット材とからなる円筒形スパッタリングターゲットを用い、バッキングチューブの内側に磁場発生設備と冷却設備を設置して、円筒形スパッタリングターゲットを回転させながらスパッタリングを行うものである。この方法により、ターゲット材の使用効率を60%〜70%にまで高めることができるとされている。
【0004】
円筒形スパッタリングターゲットにおけるターゲット材の材料としては、円筒形状への加工が容易で機械的強度の高い金属材料が広く使用されているものの、セラミックス材料については、機械的強度が低く脆いという特性から、未だ普及するに至っていない。
【0005】
現在、セラミックス製の円筒形スパッタリングターゲットの製造方法は、冷間静水圧プレス(CIP:Cold Isostatic Pressing)により円筒形セラミックス成形体を成形し、これを焼結することにより円筒形セラミックス焼結体を得ている。そして、この製造方法では、円筒形セラミックス焼結体をバッキングチューブと接合材を用いてボンディング(接合)することにより、円筒形スパッタリングターゲットを形成することが一般的になっている。
【0006】
円筒形スパッタリングターゲットの製造方法において、通常、オーステナイト系ステンレス鋼、チタン等の金属製のバッキングチューブが使用される。円筒形ターゲット材とバッキングチューブとのクリアランスは、通常1.5mm以下であり、このクリアランスを均等に保ち、接合材を隙間なく充填することが重要である。
【0007】
例えば、特許文献1では、円筒形ターゲット材を垂直に積み上げ、バッキングチューブとの間に生じたクリアランスに複数のスペーサーを設けることでクリアランスを均等にたもち、接合材を流し込む方法が開示されている。また、特許文献2では、融液状態の接合材の貯留槽の上に円筒形ターゲット材を固定し、ターゲット材の両端にかかるようにバッキングチューブにスペーサーを取り付け、さらにバッキングチューブの一端にダミー栓をして、このバッキングチューブを接合材の貯留槽に下降させてクリアランスに接合材を充填する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−252237号公報
【特許文献2】特開2014−037619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1や特許文献2の製造方法では、ターゲット材とバッキングチューブとのクリアランスには、接合材とともに、クリアランスを維持するためのスペーサーが複数配置されたままである。スペーサーは、クリアランスの狭い曲面に設置するため、形状にもよるが、接合材を充填した時、スペーサー角部や曲面との接触部分等には空隙が発生しやすい。接合層にこの空隙が残ったターゲットを使用しスパッタリングを行った場合、スパッタリング時の熱負荷によって、ターゲット材に割れや剥離等の不具合が生じることがある。
【0010】
また、このスペーサーは、一般的に、熱膨張係数が高い銅材やステンレス材が用いられ、接合材は、インジウム合金が用いられる。このため、接合材のみの箇所とスペーサーのある箇所のクリアランスでは、熱膨張係数に差があり、ターゲットの割れや欠けの原因となる。さらに、スペーサーのある箇所は、バッキングチューブと接触しており接合材で接合されないため高温になった場合、ターゲット材とバッキングチューブとの剥離が起こりやすい。このため、クリアランスには接合材のみで充填することが望ましい。
【0011】
このように、円筒形スパッタリングターゲットの接合方法においては、低コストかつ簡素な方法により、ターゲット材とバッキングチューブとのクリアランスに、固定具を使用せずに、接合材のみを充填する要請があった。
【0012】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて考案されたものであり、円筒形のセラミックス焼結体からなるターゲット材とバッキングチューブとのクリアランスに、固定具を使用せずに接合材のみを充填することが可能な、新規かつ改良された円筒形スパッタリングターゲットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
即ち、上記目的を達成するための本発明の一態様では、円筒形セラミックス焼結体からなるターゲット材と円筒状のバッキングチューブとのクリアランスに接合材が充填される円筒形スパッタリングターゲットの製造方法であって、前記ターゲット材の中空部に前記バッキングチューブを同軸に配置する配置工程と、前記ターゲット材および前記バッキングチューブのうち、少なくとも該ターゲット材を固定する押さえ工程と、前記クリアランスに前記接合材を充填した後、前記接合材を冷却し、前記ターゲット材と前記バッキングチューブとを接合する接合工程とを有し、前記配置工程では、前記ターゲット材と前記バッキングチューブとのクリアランスに複数の固定具を円周方向に等間隔に取り付け、前記押さえ工程では、前記ターゲット材の上端面を押さえ機構で押圧することにより、該ターゲット材を固定した後、前記固定具を取り外すことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の一態様では、円筒形セラミックス焼結体からなるターゲット材と円筒状のバッキングチューブとのクリアランスに接合材が充填される円筒形スパッタリングターゲットの製造方法であって、前記ターゲット材の中空部に前記バッキングチューブを同軸に配置する配置工程と、前記ターゲット材および前記バッキングチューブのうち、少なくとも該ターゲット材を固定する押さえ工程と、前記クリアランスに前記接合材を充填した後、前記接合材を冷却し、前記ターゲット材と前記バッキングチューブとを接合する接合工程とを有し、前記配置工程では、前記ターゲット材の上端面には前記バッキングチューブと同軸上に円筒状のダミーパイプがさらに設けられ、前記押さえ工程では、前記ダミーパイプの上端面を押さえ機構で押圧することにより、該ダミーパイプを介して前記ターゲット材を固定することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の一態様では、前記配置工程において、前記ダミーパイプと前記バッキングチューブとのクリアランスに複数の固定具を等間隔に取り付け、前記押さえ工程において、前記ダミーパイプの上端面を押さえ機構で押圧することにより、該ダミーパイプを介して前記ターゲット材を固定した後、前記固定具を取り外すことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ターゲット材とバッキングチューブとを接合する過程において、低コストかつ簡素な方法により、ターゲット材とバッキングチューブとのクリアランスに固定具を使用しないで接合材のみを充填することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の各実施形態に係る円筒形スパッタリングターゲットの製造方法で製造される円筒形スパッタリングターゲットの概略断面図である。
図2】第1の実施形態に係る円筒形スパッタリングターゲットの製造方法の概略を示すフロー図である。
図3】(A)ないし(F)は、第1の実施形態に係る円筒形スパッタリングターゲットの製造方法の概略を模式的に示す断面図である。
図4】第1の実施形態に係る円筒形スパッタリングターゲットの製造方法で使用される第1の押さえ機構を示す概略平面図である。
図5】(A)ないし(F)は、第2の実施形態に係る円筒形スパッタリングターゲットの製造方法の概略を模式的に示す断面図である。
図6】第2の実施形態に係る円筒形スパッタリングターゲットの製造方法における配置工程を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0021】
[1.円筒形スパッタリングターゲットの概要]
まず、本発明の各実施形態に係る円筒形スパッタリングターゲットの製造方法で製造される円筒形スパッタリングターゲットの構成について、図面を使用しながら説明する。図1は、本発明の各実施形態に係る円筒形スパッタリングターゲットの製造方法で製造される円筒形スパッタリングターゲットの概略断面図である。
【0022】
図1に示すように、円筒形スパッタリングターゲット1は、円筒形のターゲット材10が円筒形のバッキングチューブ20の外周面に設置されたものであり、ターゲット材10とバッキングチューブ20とが接合層30を介して接合されている。各実施形態では、円筒形スパッタリングターゲット1は、ターゲット材10の内周面側に有する中空部にバッキングチューブ20を同軸に配置して、これらターゲット材10とバッキングチューブ20の中心軸が一致した状態で接合層を介して接合されたものとなっている。すなわち、円筒形スパッタリングターゲット1は、ターゲット材10の内周面とバッキングチューブ20の外周面とを接合層30を介して一体となるように接合されたものとなっている。
【0023】
円筒形スパッタリングターゲット1のサイズは、材質や顧客の要望等に応じて適宜調整することができ、特に限定されるものではない。例えば、外径が100mm〜200mm、内径が80mm〜180mm、全長が50mm〜200mmの円筒形セラミックス焼結体をターゲット材10として用いた場合には、そのターゲット材10を単独で用いるとき、分割して用いるとき、あるいは複数で用いるとき等があり、その状況により円筒形スパッタリングターゲット1のサイズが適宜決定される。
【0024】
ターゲット材10は、円筒形セラミックス焼結体からなり、当該円筒形セラミックス焼結体は、用途に応じて材料を適宜選択することができ、特に限定されることはない。例えば、インジウム(In)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、及びチタン(Ti)から選択される少なくとも1種を主成分とする酸化物等から構成される円筒形セラミックス焼結体を使用することができる。
【0025】
特に、後述する低融点接合材と馴染みやすい酸化インジウムを主成分とする円筒形セラミックス焼結体、具体的には、スズを含有する酸化インジウム(ITO)、セリウム(Ce)を含有する酸化インジウム(ICO)、ガリウム(Ga)を含有する酸化インジウム(IGO)、ガリウム及び亜鉛を含有する酸化インジウム(IGZO)等から構成される円筒形セラミックス焼結体がターゲット材10として好適に利用される。
【0026】
ターゲット材10の外径及び全長は、円筒形スパッタリングターゲットのサイズに応じて適宜調整することが可能である。ターゲット材10の内径は、ターゲット材10の内周面とバッキングチューブ20の外周面との間のクリアランスの幅及びバッキングチューブの外径に応じて適宜調整することが可能であり、これらは、特に限定されるものではない。また、ターゲット材10としては、1つの円筒形セラミックス焼結体から構成されるものだけでなく、複数の円筒形セラミックス焼結体を連結したものを使用することができる。円筒形セラミックス焼結体同士の連結方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。
【0027】
ターゲット材10の内周面に対して、めっき処理などによりニッケルや銅からなる下地層を形成したり、超音波はんだごてを用いて、接合材を接合面になじませる濡らし作業を行ったりといった前処理を行なってもよい。
【0028】
バッキングチューブ20は、その材質が円筒形スパッタリングターゲット1の使用時に、接合層30が劣化及び溶融しない十分な冷却効率を確保できる熱伝導性があり、スパッタリング時に、放電可能な電気伝導性、円筒形スパッタリングターゲット1の支持が可能な強度等を備えているものであればよい。バッキングチューブ20として、例えば、一般的なオーステナイト系ステンレス製、特にSUS304製のものに加えて、銅又は銅合金、チタン又はチタン合金、モリブデン又はモリブデン合金、アルミニウム又はアルミニウム合金等の各種材質を使用することができる。
【0029】
また、バッキングチューブ20は、公知の表面処理を施すことができる。例えば、旋盤加工等で得られたバッキングチューブ20の表面をブラスト加工により、クリーニングすることが好ましい。このようにブラスト加工を行うことによって、旋盤加工で付着した異物、油分をクリーニングすると共に、比表面積増加による接合材の濡れ性が向上できる。
【0030】
バッキングチューブ20の全長は、円筒形スパッタリングターゲット1のサイズに応じて適宜調整することが可能である。内径は、スパッタリング装置に応じて適宜調整することが可能であり、これらは特に限定されるものではない。また、バッキングチューブ20の外径は、下地層の厚さと共に、ターゲット材10とバッキングチューブ20との線膨張率の差を考慮して設定することが好ましい。
【0031】
例えば、ターゲット材10として、20℃における線膨張率が7.2×10−6/℃のITOを使用し、バッキングチューブとして、20℃における線膨張率が17.3×10−6/℃であるSUS304を使用する場合には、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスの幅が、好ましくは0.3mm〜3.0mm、より好ましくは0.5mm〜1.0mmとなるように、バッキングチューブ20の外径を設定する。
【0032】
ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスの幅が0.3mm未満では、溶融した接合材をこの隙間に注入した場合に、バッキングチューブ20が熱膨張し、ターゲット材10が割れてしまう虞がある。一方、隙間の幅が3.0mmを超えると、ターゲット材10の中空部に、バッキングチューブ20を同軸に配置し、これらの中心軸が一致した状態で接合することが困難となる。
【0033】
接合層30は、例えば、インジウムからなり、ターゲット材10とバッキングチューブ20とを接合する。接合層30の役割は、放電により円筒形スパッタリングターゲット1上に発生した熱をバッキングチューブ20の内側を流れる冷却液で放熱するため、ターゲット材10とバッキングチューブ20との熱的な伝達を行うことにある。すなわち、接合層30は、円筒形スパッタリングターゲット1を使用する際に、バッキングチューブ20と同様にして、熱伝導性、電気伝導性、接着強度等を備えていればよい。
【0034】
[2.円筒形スパッタリングターゲットの製造方法]
(第1の実施形態)
次に、第1の実施形態に係る円筒形スパッタリングターゲットの製造方法について、図面を使用しながら説明する。図2は、第1の実施形態に係る円筒形スパッタリングターゲットの製造方法の概略を示すフロー図である。図3(A)ないし(F)は、第1の実施形態に係る円筒形スパッタリングターゲットの製造方法の概略を模式的に示す断面図である。図4は、第1の実施形態に係る円筒形スパッタリングターゲットの製造方法で使用される第1の押さえ機構を示す概略平面図である。第1の実施形態に係る円筒形スパッタリングターゲットの製造方法は、円筒形セラミックス焼結体からなるターゲット材と円筒状のバッキングチューブとのクリアランスに接合材が充填される。そして、第1の実施形態は、図2に示すように、配置工程S1と押さえ工程S2と接合工程S3とを有する。以下、各工程S1〜S3について図面を使用しながら説明する。
【0035】
配置工程S1は、図3(A)に示すように、円筒形セラミックス焼結体からなるターゲット材10の中空部にバッキングチューブ20を同軸に配置する工程である。
【0036】
バッキングチューブ20を、ターゲット材10の中空部に同軸に、即ち、これらの中心軸が一致した状態で配置し、両者を接合することが重要となる。両者の中心軸がずれた状態で接合すると、得られる円筒形スパッタリングターゲットの外径の中心と内径の中心が必然的にずれる。その結果、スパッタリング時の熱負荷により、円筒形スパッタリングターゲットが不均一に膨張し、ターゲット材に割れや剥離が生じるおそれがある。
【0037】
まず、配置工程S1では、バッキングチューブ20を、ターゲット材10の中空部に同軸に配置する。この位置に配置する方法としては、特に制限されることなく、公知の手段を用いることができる。例えば、X−Yステージを用いて位置決めをすることにより、バッキングチューブ20を、ターゲット材10の中空部に同軸に配置することができる。詳細には、バッキングチューブ20は、X−Yステージによる位置決め可能な架台40に一方の端を、上記架台40の上面に形成された凹部41に固定して設置する。第1の実施形態では、後述する第2の押さえ機構70(図3(C)参照)でバッキングチューブ20の上端面21を押圧することにより、このバッキングチューブ20がさらに固定されるので、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスをより確実に維持することができる。なお、バッキングチューブ20は、凹部41に固定する他に、接着剤等を塗布した接着面に固定してもよい。
【0038】
このバッキングチューブ20には、軸方向の端部を耐熱Oリング42によって封止し、その後、バッキングチューブ20にターゲット材10の中空部に同軸に配置するとともに、この封止側が下方となるように、ターゲット材10とバッキングチューブ20を直立させて配置する。
【0039】
次いで、図3(B)に示すように、ターゲット材10とバッキングチューブ20の上端面側のクリアランスに、スペーサーやくさびやシックネスゲージ等の固定具50を取り付ける。機構60(図3(C)参照)でターゲット材10を固定し、かつ第2の押さえ機構70(図3(C)参照)でバッキングチューブ20を固定することができる。また、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスの上端部には、上記クリアランスをより確実に維持するため、複数の固定具50を円周方向に等間隔に取り付けることが好ましい。さらに、固定具50を3ヶ所以上、円周方向に等間隔に取り付けることがより好ましい。なお、固定具50は、ターゲット材10の上端部付近にスペーサーを配置するだけではなく、ターゲット材10の長さと同等のスペーサーを使用してもよい。
【0040】
固定具50としては、例えば、クリアランスの厚さと同等またはクリアランスより若干薄い厚さのスペーサーやくさびやシックネスゲージを用いることができる。固定具50の材料は、特に限定はないが、例えば、SUS材、Cu材等が挙げられる。
【0041】
押さえ工程S2は、ターゲット材10およびバッキングチューブ20のうち、少なくともターゲット材10を固定する押さえ工程である。すなわち、図3(C)に示すように、前工程である配置工程S1でバッキングチューブ20を、ターゲット材10の中空部に同軸に、即ち、これらの中心軸が一致した状態で配置し、第1および第2の押さえ機構60,70により、ターゲット材10とバッキングチューブ20を固定する。
【0042】
第1および第2の押さえ機構60,70は、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスを維持するために、ターゲット材10およびバッキングチューブ20を固定する機能を有する。押さえ工程S2では、上記配置工程S1の状態で押さえ機構60、70によりターゲット材10およびバッキングチューブ20をそれぞれ固定する。架台40の一端部には、支柱43を鉛直方向に設置され、この支柱43には、第1の押さえ機構60と第2の押さえ機構70とをそれぞれ取り付ける。
【0043】
第1の押さえ機構60は、支柱43から水平方向に延在される第1のアーム部61とその第1のアーム部61の先端部の下方側に第1の押さえ部62が設けられる。また、第2の押さえ機構70は、支柱43から水平方向に延在される第2のアーム部71とその第2のアーム部71の先端部の下方側に第2の押さえ部72が設けられる。第1および第2の押さえ機構60,70は、支柱43よりネジやばね等でターゲット材10およびバッキングチューブ20を鉛直下方に押圧することによりターゲット材10およびバッキングチューブ20を固定する。なお、バッキングチューブ20が、架台40に十分に固定されている場合は、ターゲット材10のみを第1の押さえ機構60で固定してもよい。つまり、押さえ工程S2では、ターゲット材10およびバッキングチューブ20のうち、少なくともターゲット材10の上端面を押さえ機構で押圧することにより、ターゲット材10が固定されていればよい。
【0044】
また、第1の押さえ部62は、次工程である接合工程S3で接合材31をターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスに供給するため、接合材31の供給に干渉せずに、効率的に鉛直方向にターゲット材10を固定することができるよう、ターゲット材10の上端面11のうち所定の領域に接するものであればよく、図4に示すように、例えばハーフリング状に形成されたものがよい。
【0045】
次いで、押さえ工程S2では、ターゲット材10の上端面11を第1の押さえ機構60で押圧し、かつバッキングチューブ20の上端面21を第2の押さえ機構70で押圧することにより、ターゲット材10およびバッキングチューブ20を固定した後、図3(D)に示すように、配置工程S1で用いた固定具50を取り外す。
【0046】
これにより、固定具50によりターゲット材10とバッキングチューブ20との中心軸が一致したままの状態で、固定具50が取り外されても第1および第2の押さえ機構60,70によりターゲット材10およびバッキングチューブ20が固定されているので、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスが維持される。すなわち、ターゲット材10とバッキングチューブ20との中心軸が一致するように固定されているので、上記クリアランスを維持することができる。そして、後述する接合工程S3では、すでに上記クリアランスを維持できているため、バッキングチューブ20とターゲット材10とのクリアランスに固定具50を使用せずに、このクリアランスには接合材31のみが充填される。この結果、上記クリアランスに充填された接合材31を冷却した後、接合層30が形成されても、スパッタリング時の熱負荷によって、ターゲット材10に割れや剥離等の不具合が生じることのない円筒形スパッタリングターゲット1(図3(F)参照)を得ることができる。
【0047】
接合工程S3は、図3(E)に示すように、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスに接合材31を充填し、ターゲット材10とバッキングチューブ20とを放冷させることにより接合材31を冷却し、ターゲット材10とバッキングチューブ20とを接合する工程である。すなわち、接合工程S3では、ターゲット材10とバッキングチューブ20を直立させたまま、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスに固定具50を使用せずに、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスに接合材31のみを充填する。
【0048】
従来、ターゲット材とバッキングチューブとのクリアランスには、接合材の充填とともに、クリアランスを維持するためのスペーサーが複数配置されたままであった。スペーサーは、クリアランスの狭い曲面に配置するため、形状にもよるが、接合材を充填した時、スペーサー角部や曲面との接触部分等に空隙が発生しやすいものとなる。この空隙が存在する接合層を形成したスパッタリングターゲットを使用してスパッタリングを行った場合、スパッタリング時の熱負荷によって、ターゲット材に割れや剥離等の不具合が生じることがある。また、このスペーサーは、一般的に熱膨張係数が高い銅材やステンレス材が用いられる一方、接合材はインジウム合金が用いられる。このため、接合材のみの箇所とスペーサーのある箇所のクリアランスでは、熱膨張係数に差があり、ターゲット材の割れや欠けの原因となる。また、スペーサーのある箇所は、バッキングチューブと接触し、接合材で接合されないため、高温になった場合、ターゲット材とのバッキングチューブとの剥離が起こりやすい。そこで、第1の実施形態では、上記クリアランスに、固定具50を使用せずに接合材31のみを充填することで、上述した不具合を防止することができる。
【0049】
接合工程S3では、配置工程S1において接合層30を形成するため、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスの両端開口部の下端側を、耐熱Oリング42などの封止手段を用いて封止されている。ターゲット材10とバッキングチューブ20は、これらの間に流し込まれる接合材31の融点以上にバンドヒータ(不図示)などで加熱される。
【0050】
ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスの両端開口部のうち、封止されていない上端側から溶融状態にある接合材31を流し込む。充填された液体の接合材31がターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスの最下部より充填される。
【0051】
ターゲット材10およびバッキングチューブ20は、予め、その表面温度が接合材31の融点以上、好ましくは融点より10℃〜30℃高い温度となるように加熱しておくことが必要である。ターゲット材10およびバッキングチューブ20の表面温度が接合材31の融点以下では、接合材31がターゲット材10またはバッキングチューブ20に接触すると同時に硬化し、十分な量の接合材31を流し込むことが困難となる。
【0052】
接合層30には、上述のバッキングチューブ20と同様にして、熱伝導性、電気伝導性、接着強度等の特性を持たせるためには、接合層30の形成に用いる接合材31を選定する必要がある。例えば、インジウムを主成分とする接合材31は、スズを主成分とする接合材に比べて凝固時の硬度が低い。そのため、インジウムを主成分とする接合材31を用いて接合層30を形成する場合には、溶融した接合材31を注入してから固化するまでの過程において、ターゲット材10の割れ等の不具合を効果的に防止することができる。
【0053】
また、インジウムを主成分とする接合材31を用いて接合層30を形成する場合には、インジウムを50質量%以上、好ましくは70質量%〜100質量%、より好ましくは80質量%〜100質量%含有するものを使用する必要がある。特に、インジウムを80質量%以上、好ましくは90質量%〜100質量%含有する低融点接合材を接合材31として用いることが好ましい。このような低融点接合材であれば、原子又は分子間の結合が弱いため軟らかく、冷却固化後の硬度が適切な範囲にあるため、作業性に優れている。また、低融点接合材は、作業性に優れるだけでなく、溶融時の流動性が高いため、巣(鬆)やひけが極めて少ない、均一な接合層30を容易に形成することができる。
【0054】
例えば、インジウムの含有量が100質量%であるインジウム金属を接合材31として用いた場合には、インジウム金属の熱伝導率が81.6W/m・Kと熱伝導性に優れることから好ましい。また、インジウム金属は、液化して固化することによりターゲット材10とバッキングチューブ20とを接合させる際に、これらの密着性を高く接合できることから好ましい。
【0055】
一方、インジウムの含有量が50質量%未満では、バッキングチューブ20側との濡れ性が低いため、そのような接合材31を加熱して溶融した接合材31をターゲット材10の内周面とバッキングチューブ20の外周面との間の空隙部に、高い充填性をもって隙間なく注入することができない。
【0056】
また、接合材31としては、上述したインジウム系低融点接合材の他に、インジウム粉末を含有する樹脂ペースト、導電性樹脂等を用いることができるが、導電性や展延性の観点から、インジウム系低融点接合材が好ましく、融点が130℃〜160℃のインジウム系低融点接合材がより好ましい。なお、インジウム以外の成分については、特に制限されることはなく、例えば、スズ、アンチモン(Sb)、亜鉛等を必要に応じて含有させることができる。インジウム以外の成分の含有量は、50質量%未満であり、30質量%未満が好ましく、20質量%未満がより好ましい。
【0057】
次いで、ターゲット材10およびバッキングチューブ20の表面にバンドヒータで熱をかけるのを停止し、室温(20℃)まで放冷し、充填した接合材31が固化することで接合層30を形成する。
【0058】
次いで、図3(F)に示すように、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスに充填された接合材31が完全に固化して、接合層30が形成されたことを目視で確認した後、配置工程S1で使用した架台40、耐熱Oリング42、押さえ工程S2で使用した第1および第2の押さえ機構60,70をそれぞれ取り除く。このように、円筒形スパッタリングターゲット1を作製する。
【0059】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る円筒形スパッタリングターゲットの製造方法について、図面を使用しながら説明する。なお、上述した第1の実施形態と重複する説明を割愛する。
【0060】
図5(A)ないし(F)は、第2の実施形態に係る円筒形スパッタリングターゲットの製造方法の概略を模式的に示す断面図である。図6は、第2の実施形態に係る円筒形スパッタリングターゲットの製造方法における配置工程を模式的に示す断面図である。配置工程S1では、図5(A)に示すように、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスに接合材31を十分に充填させるために、ターゲット材10の上端面11に円筒状のダミーパイプ80を配置する。
【0061】
ダミーパイプ80は、ターゲット材10およびバッキングチューブ20のクリアランスに接合材を充填する際に、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスの上方の開口端まで接合層30で形成されるよう、ターゲット材10の上端面11よりも高い位置に接合材31が充填されても、接合材31が系外に漏れないよう堰止めする機能を有する。
【0062】
このダミーパイプ80は、ターゲット材10の上端面11にバッキングチューブ20と同軸上に設けられる。後工程の接合工程S3では、ダミーパイプ80を設けたことにより、ターゲット材10及びバッキングチューブ20を接合材31で充填した際に、ターゲット材10の上端面11よりも高い位置にあるダミーパイプ80の所定の高さまで接合材31を充填することが可能となる。その結果、接合層30を形成する冷却時に、接合材31が体積収縮しても、接合層30の上端面の位置は、ターゲット材10の上端面11と同じ高さとなる。すなわち、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスには、ターゲット材10の上端面付近が未充填とならずに、接合材31を充填することができる。
【0063】
ダミーパイプ80には、Cu材やSUS材で作製し、前述した前処理等を行わない。これにより、接合工程S3において接合層30を形成した後、ダミーパイプ80に接着した接合材31は、容易に剥離させることができる。
【0064】
もし、ダミーパイプ80を利用しない場合には、接合材31を充填した後、接合材31の冷却時に、接合材31が体積収縮してターゲット材10の上端面11付近において、わずかに接合材31が充填されていないこともある。必要に応じて、この接合材31が充填されていない部分(以下、「未充填部」ともいう。)に再度、接合材31を充填することもある。したがって、第2の実施形態では、未充填部に接合材31を再充填せずに、ダミーパイプ80を使用しない場合よりも接合率を向上させるため、ターゲット材10の上端面11にはダミーパイプ80が配置される。
【0065】
上記所定の高さとしては、この接合層30の上端面の位置がターゲット材10の上端面11と同じ高さに調整するため、ダミーパイプ80の下端からターゲット材の高さの4%以上の位置まで充填材31を充填することが好ましい。この下限値は、インジウムの液体から固体への体積収縮率に基づき、接合材31を充填するダミーパイプの高さ位置を算出したものである。このように、ダミーパイプ80の当該下限値の高さまで溶融したインジウムからなる接合材31をターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスだけでなく、ダミーパイプ80とバッキングチューブ20とのクリアランスまで充填することにより、接合材31を冷却した際、接合層30の上端面の位置がターゲット材10の上端面11と同じ高さとなるため、接合率の高いスパッタリングターゲットが得られる。上記ダミーパイプ80の長さは、上記下限値よりも長く設定する。例えば、上記下限値より+10mmとしてもよい。なお、充填材が冷却により固化した接合層30のうち余分な接合層が存在する場合には、この接合層30の上端面の位置がターゲット材10の上端面11と同じ高さに調整するため、余分な接合層を除去する。
【0066】
また、図6に示すように、ダミーパイプ80とバッキングチューブ20との高さ位置を調節するため、バッキングチューブ20の上端面21にダミーチューブ90を取り付けてもよい。第2の押さえ機構70は、ダミーチューブ90の上端面91を押圧することにより、ダミーチューブ90を介して、バッキングチューブ20を固定することができる。
【0067】
ダミーパイプ80の外径及び内径は、ターゲット材10と略同一とし、ダミーチューブ90の外径及び内径は、バッキングチューブ20と略同一に設定する。また、ターゲット材10とダミーパイプ80とのつなぎ目周辺の外周を耐熱テープ等巻き、あるいはバッキングチューブ20とダミーチューブ90とのつなぎ目周辺の内周及び外周を耐熱テープ等で巻くことでそれぞれの位置合わせを行う。さらに、ダミーパイプ80とターゲット材10との合わせた長さからなる固定具50を使用して位置出しを行ってもよい。この場合、次の押さえ工程S2で、第1の押さえ機構60によりダミーパイプ80を介してターゲット材10を固定するので耐熱テープ等は必要ない。
【0068】
次いで、図5(B)に示すように、ダミーパイプ80とバッキングチューブ20のクリアランスには、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスを維持できるよう、ダミーパイプ80よりも長い固定具50を取り付ける。なお、ターゲット材10とダミーパイプ80が既に耐熱テープで固定されている場合は、ダミーパイプ80とバッキングチューブ20のクリアランスには、ダミーパイプ80よりも短い固定具50を取り付けてもよい。また、ダミーチューブ90を使用する場合、図6に示すように、ダミーパイプ80とダミーチューブ90とのクリアランスには、少なくとも固定具50の一部がダミーパイプ80に係るように取り付ける。
【0069】
ダミーパイプ80とバッキングチューブ20のクリアランスには、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスをより確実に維持するため、複数の固定具50を円周方向に等間隔に取り付けることが好ましい。
【0070】
次いで、押さえ工程S2では、図5(C)に示すように、第1の押さえ機構60は、ダミーパイプ80の上端面81を押圧することにより、ダミーパイプ80を介してターゲット材10を固定する。第2の押さえ機構70は、バッキングチューブ20の上端面21を押圧することにより、バッキングチューブ20を固定する。これにより、固定具50を取り外してもターゲット材10とバッキングチューブ20のクリアランスの幅を維持することができる。なお、バッキングチューブ20が、架台40の上面に形成された凹部41に十分に固定されているので、第2の押さえ機構70を使用せず、第1の押さえ機構60でターゲット材10のみを固定してもよい。
【0071】
次いで、押さえ工程S2では、ダミーパイプ80の上端面81を第1の押さえ機構60で押圧し、かつバッキングチューブ20の上端面21を第2の押さえ機構70で押圧することにより、ターゲット材10およびバッキングチューブ20を固定した後、図5(D)に示すように、配置工程S1で用いた固定具50を取り外す。
【0072】
次いで、接合工程S3では、図5(E)に示すように、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスに接合材31を充填し、ターゲット材10とバッキングチューブ20とを放冷させることにより接合材31を冷却し、ターゲット材10とバッキングチューブ20とを接合する。
【0073】
次いで、図5(F)に示すように、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスに充填された接合材31が完全に固化して、接合層30が形成されたことを目視で確認した後、配置工程S1で使用した架台40、耐熱Oリング42、ダミーパイプ80、押さえ工程S2で使用した第1および第2の押さえ機構60,70をそれぞれ取り除く。このように、円筒形スパッタリングターゲット1を作製する。
【0074】
以上で説明した通り、第1および第2の実施形態に係る円筒形スパッタリングターゲットの製造方法は、ターゲット材の中空部にバッキングチューブを同軸に配置する配置工程S1と、ターゲット材およびバッキングチューブのうち、少なくともターゲット材を固定する押さえ工程S2と、クリアランスに接合材を充填し、ターゲット材とバッキングチューブとを放冷させることにより接合材を冷却し、ターゲット材とバッキングチューブとを接合する接合工程S3とを有する。第1および第2の実施形態では、押さえ工程S2により、ターゲット材とバッキングチューブとが固定されることから、クリアランスを維持したままで固定具を取り外すことができるため、接合工程S3で、クリアランスには、固定具を使用せずに接合材のみを充填できる。このような方法は、簡素かつ低コストなものである。
【0075】
そして、ターゲット材とバッキングチューブとのクリアランスにおける接合材の接合率を向上させることができ、スパッタリング時の熱負荷によって、ターゲット材に割れや剥離等の不具合が生じることのない円筒形スパッタリングターゲットを得ることができる。
【0076】
また、第1および第2の実施形態では、このような円筒形スパッタリングターゲットを、工業規模の生産において、容易に得ることができるので、その工業的意義は極めて大きい。
【実施例】
【0077】
[3.実施例]
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例及び比較例に限定されるものではない。
【0078】
(実施例1)
実施例1では、外径100mm、内径81mm、全長200mmのITO製の円筒形セラミックス焼結体を5つ用意した。次に、全ての円筒形セラミックス焼結体について、接合面となる内周面以外の部分に余分な接合材が付着することを防止するため、耐熱性のマスキングテープでマスキングを行った。その後、全ての円筒形セラミックス焼結体について、接合面となる内周面をインジウムで濡らすと共に、全長が1000mmとなるように、円筒形セラミックス焼結体を一定間隔で5個配列し、外周面を耐熱テープで固定することにより、ターゲット材を得た。
【0079】
次に、実施例1では、旋盤加工で得られた、外径80mm、内径70mm、全長1100mmのSUS304製の円筒形バッキングチューブを用意した。この円筒形バッキングチューブのうち、接合面以外の部分については、余分な接合材が付着することを防止するため、耐熱テープでマスキングを行った。その後、投射材としてガラスビーズ♯80を使用し、円筒形バッキングチューブについて、ブラスト加工を行った。
【0080】
その後、超音波ハンダ付け装置(会社名:黒田テクノ株式会社、製品名:サンボンダ(登録商標)USM−528)を使用し、インジウム系低融点半田を用いた公知の濡らし作業を行った。
【0081】
次に、配置工程S1では、X−Yステージによる位置決めおよびクリアランスを維持するシクネスゲージの使用により、円筒形バッキングチューブをターゲット材の中空部に同軸に配置すると共に、クリアランスの軸方向一端部を耐熱Oリングによって封止し、この封止側が下方となるように、ターゲット材と円筒形バッキングチューブとを直立させた。次に、ターゲット材とバッキングチューブの上端面側のクリアランスには、クリアランスと同等のスペーサーを3ヶ所、円周方向に等間隔に取り付け、ターゲット材とバッキングチューブを同軸に配置した。
【0082】
次に、押さえ工程S2では、第1の押さえ機構によりターゲット材を固定し、第2の押さえ機構によりバッキングチューブを固定した。その後、スペーサーをクリアランスより取り除いた。なお、ターゲット材とバッキングチューブのクリアランスは、0.5mmであった。
【0083】
続いて、接合工程S3では、ターゲット材の外周面にバンドヒータを取り付け、設定温度を180℃として加熱した。また、インジウム系低融点半田を用意し、これをバンドヒータにより190℃まで加熱して溶融した。
【0084】
実施例1では、バンドヒータが設定温度に達したことを確認した後、上方のクリアランスの開口側から溶融した接合材を注入し、下端側から徐々に接合材が充填された。所定量(1017g)の接合材を注入された後、バンドヒータのスイッチを切り、室温(20℃)まで放冷した。その後、上記クリアランスの未充填部に接合材を再充填した。接合材が完全に固化して接合層が形成されたことを確認した後、押さえ機構を解放して、ダミーパイプ、マスキングテープと耐熱Oリングを取り除き、円筒形スパッタリングターゲットを得た。
【0085】
実施例1では、得られた円筒形スパッタリングターゲットに対して、超音波探傷装置(会社名:株式会社KJTD、製品名:SDS−WIN)を用いて、接合材の接合率を測定した。
【0086】
実施例1では、得られた円筒形スパッタリングターゲットの接合率を上記方法により測定した。その結果、この接合率が95%であり、円筒形スパッタリングターゲットは、優れたものであることが確認された。また、円筒形スパッタリングターゲットをマグネトロン型回転カソードスパッタリング装置に取り付け、0.6Paのアルゴン雰囲気中、出力300Wで放電試験を実施したところ、スパッタリング中に、ターゲット材に割れや欠け等が生じることはなかった。
【0087】
実施例1では、接合率と放電試験の結果を表1にそれぞれ示した。なお、表1中の「接合率」は、クリアランス体積に対する、接合材を加熱して接合材がクリアランスに注入されて接合層が形成された場合の接合層の体積(溶融した接合材の充填量)をいう。また、表1中の「放電試験」には、放電試験後の円筒形スパッタリングターゲットの割れ、欠け、剥離等の不具合が生じたか否かの結果を、「有り」又は「無し」で示した。
【0088】
(実施例2)
実施例2では、配置工程S1において、外径100mm、内径81mm、全長50mmのSUS製のダミーパイプを、ターゲット材の上端面に、外周面のつなぎ目を耐熱テープで巻き同一の位置に配置した。押さえ工程S2では、第1の押さえ機構は、ダミーパイプの上端面を押圧することによりダミーパイプを介してターゲット材を固定し、第2の押さえ機構は、バッキングチューブの上端面を第2の押さえ機構で押圧することにより、バッキングチューブを固定した。これ以外は、実施例1と同様とした。
【0089】
接合工程S3では、接合材を上記クリアランスに充填し接合材が完全に固化して接合層が形成されたことを確認した後、押さえ機構を解放して、ダミーパイプ、ダミーチューブ、マスキングテープ、耐熱Oリングを取り除き、円筒形スパッタリングターゲットを得た。なお、実施例2では、接合率と放電試験の結果を表1にそれぞれ示した。
【0090】
(比較例1)
比較例1では、実施例1と同様に、ターゲット材と円筒形バッキングチューブとを直立させた。次いで、ターゲット材と円筒形バッキングチューブの上端面側のクリアランスには、同等のスペーサーを3ヶ所、円周方向に等間隔に取り付け、ターゲット材と円筒形バッキングチューブを同軸に配置した。そして、実施例1,2と異なり、第1および第2の押さえ機構で押圧することを行わず、配置工程において使用したスペーサーはクリアランス内に留め、接合材を充填した。それ以外は実施例1と同様にして、円筒形スパッタリングターゲットを得た。なお、比較例1では、接合率と放電試験の結果を表1にそれぞれ示した。
【0091】
【表1】
【0092】
(実施例による考察)
表1に示す結果から、実施例1および実施例2では、接合材を充填する際に、スペーサーを使用しなくても、第1の押さえ機構でターゲット材を固定することで、ターゲット材とバッキングチューブとのクリアランスを維持することができ、接合率の高い円筒形スパッタリングターゲットが得られた。
【0093】
一方、比較例1では、第1の押さえ機構でターゲット材を固定しなかったこと以外は実施例1と同様にして、円筒形スパッタリングターゲットを作製した。表1に示す結果から、接合材を充填する際に、ターゲット材とバッキングチューブとのクリアランス内にスペーサーが残っていたため、その近辺の接合層内に空隙が発生し高い接合率が得られなかった。このため、比較例1では、放電試験中に、ターゲット材に割れ、欠けが生じたので、放電試験を行うことができなかった。
【符号の説明】
【0094】
1 円筒形スパッタリングターゲット、10 ターゲット材、11 上端面、20 バッキングチューブ、21 上端面、30 接合層、31 接合材、40 架台、41 凹部、42 耐熱Oリング、43 支柱、50 固定具、60 第1の押さえ機構、61 第1のアーム部、62 第1の押さえ部、70 第2の押さえ機構、71 第2のアーム部、72 第2の押さえ部、80 ダミーパイプ、81 上端面、90 ダミーチューブ、91 上端面、S1 配置工程、S2 押さえ工程、S3 接合工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6