【実施例1】
【0009】
まず、実施例1に係る三相変圧器(以下では単に「変圧器」と呼ぶこともある)を
図1、
図2、
図3を参照しながら説明する。
【0010】
図1は本実施例に係る変圧器の中身構造の斜視図で、
図2は
図1の部品展開図である。そして
図3はコイル一脚分を上から見た概略図である。変圧器は3つのコイル1と4つの鉄心2、そして補強金具3、上押え金具4A、下押え金具4B、縦金具5及び渡り金具6を備える。
【0011】
なお、コイル1、鉄心2、補強金具3、上押え金具4A、下押え金具4B、縦金具5、渡り金具6はいずれも複数存在する。そのため、たとえば複数のコイル1のうち特定のコイル1について説明する場合には、
図2に示すように、“−1”、“−2”、“−3”等の添え字が付された参照符号(“1−1”のような参照符号)を用いる。そしてコイル1−1、コイル1−2、コイル1−3に共通の事項を説明する場合には、添え字の付されていない参照符号(つまり“1”)を用いる。鉄心2、補強金具3、上押え金具4A、下押え金具4B、渡り金具6についても同様に、特定の1つの部品について説明する場合には、“−1”等の添え字の付された参照番号が用いられる。また本実施例に係る変圧器には、縦金具5が8つ存在するが、それぞれの縦金具5を特定する際には、“a”、“b”、“c”、“d”、“e”、“f”、“g”、“h”の添え字を付した参照符号を用いる。
【0012】
また、
図1に示すように、三相変圧器では、複数の(3つの)コイル1が一方向に並んで配置される。本実施例では、複数のコイル1の並んでいる方向を、「長手方向」または「X方向」と呼び、鉛直方向を「高さ方向」または「Z方向」と呼ぶ。そしてX方向及びZ方向と直交する方向を、「幅方向」または「Y方向」と呼ぶ。また、X方向またはY方向は「水平方向」と呼ばれることもある。
【0013】
補強金具3は、コイル1毎に設けられる金具で、コイル1の内側の中空部をZ方向に貫通している。また補強金具3の上端及び下端は、コイル1端面より突出している。補強金具3の上端は上押え金具4Aの中央部分に接続され、そして補強金具3の下端は下押え金具4Bの中央部分に接続される。なお、本実施例では、上押え金具4Aと下押え金具4Bとを総称して「上下押え金具4」と呼ぶ。
【0014】
上押え金具4Aと下押え金具4Bはそれぞれ、コイル1の上端と下端を押さえつけるための金具で、これにより変圧器短絡時のZ方向への短絡機械力によりコイル1中の電線が飛び出ることを抑制している。またこれに加えて、上押え金具4Aと下押え金具4Bは、補強金具3と縦金具5とを接続する(補強金具3を縦金具5に固定する)ための役割も果たす。
【0015】
縦金具5は、変圧器の支柱であり、各コイル1の外周よりも外側の位置に設けられる。
図1や
図2に示すように、本実施例に係る変圧器では、両側に複数(8本)の縦金具5(5a〜5h)が設けられている。変圧器の一方の側には縦金具5a,5b,5c,5dが設けられ、また変圧器のもう一方の側には縦金具5e,5f,5g,5hが設けられる。なお本実施例では、縦金具5a〜5dの並ぶ面を、変圧器の「第1側面」と呼び、縦金具5e〜5hの並ぶ面を、変圧器の「第2側面」と呼ぶ。そして、変圧器の第1側面と第2側面を総称して、変圧器の「側面」と呼ぶこともある。第1側面と第2の側面の間の間隔(幅)は、コイル1の幅(Y方向の長さ)よりも大きい。
【0016】
また縦金具5は、補強金具3と同等の長さ(高さ)を持ち、その上部及び下部にはそれぞれ、上押え金具4A及び下押え金具4Bの端部が接続される。
【0017】
本実施例に係る変圧器では、それぞれの上押え金具4A(または下押え金具4B)の両端は、それぞれ異なる縦金具5に接続される。たとえば上押え金具4A−1と下押え金具4B−1は、縦金具5a及び5bに接続される。また縦金具5のうち、縦金具5bは2つの上押え金具4A−1,4A−2と2つの下押え金具4B−1,4B−2に接続され、縦金具5cは2つの上押え金具4A−2,4A−3と2つの下押え金具4B−2,4B−3に接続される。同様に縦金具5fは2つの上押え金具4A−4,4A−5と2つの下押え金具4B−4,4B−5に接続され、縦金具5gは2つの上押え金具4A−5,4A−6と2つの下押え金具4B−5,4B−6に接続される。結果として、隣り合う2つのコイル1を貫通している補強金具3のそれぞれは、上下押え金具4を介して、共通の(同一の)縦金具5に互いに接続されることで固定された状態になっているので、各補強金具3が独立に動くことがないように固定される。
【0018】
また縦金具5は、複数の縦金具5を連結するための渡り金具6と接続される。渡り金具6は各縦金具5の上部と下部に設けられる。
図1の例では、縦金具5a,5b,5c,5dの上部は、渡り金具6−1と接続され、縦金具5a,5b,5c,5dの下部は、渡り金具6−2と接続される。そして縦金具5e,5f,5g,5hの上部は、渡り金具6−3と接続され、縦金具5e,5f,5g,5hの下部は、渡り金具6−4と接続される。この構造により、補強金具3の位置がより確実に固定されるため、補強金具3がストッパとなり、これが貫通するコイル1は地震振動等で水平方向へ移動せず耐震性能が向上する。
【0019】
なお、先に述べたとおり上押え金具4A−1,4A−2,4A−3と下押え金具4B−1,4B−2,4B−3は、縦金具5(5bや5c)を介して互いに接続され、また上押え金具4A−4,4A−5,4A−6と下押え金具4B−4,4B−5,4B−6は、縦金具5(5f,5g)を介して互いに接続されている。そのため上下押え金具4が水平方向の移動に対する強度を充分に有する場合は、渡り金具6は不要または削減可能である。
【0020】
続いて
図3を用いて、補強金具3の構造と、補強金具3がコイル1に挿入された時の状態について説明する。補強金具3は
図3に示されるように、2本のフランジ3Aと、この2本のフランジ3Aを結合するウェブ3Bから成るH型の形状の金具である。コイル1は、公知の変圧器で用いられるものと同様に、銅線等の導体を1または複数回巻き回して形成されている。またコイル1の内側は、鉄心2及び補強金具3を挿入できるように、中空になっている。またコイル1の内壁には、導体が直接露出しているわけではなく、ボビン等の絶縁体が設けられているが、これは公知のコイルでも同様の構成であるため、本実施例では説明を略す。
【0021】
本実施例に係る変圧器におけるコイル1の内周断面の形状は略長方形であり、本実施例ではコイル1の内周断面のX方向の辺の長さを「X寸法」と呼び、Y方向の辺の長さを「Y寸法」と呼ぶ。補強金具3のフランジ3Aの幅(X方向の長さ)は、コイル1内側X寸法と同等であり、一方補強金具3のウェブ3Bの幅(Y方向の長さ)はコイル内側Y寸法と同等である。補強金具3はH型形状の金具であるため、2本のフランジ3Aの間に2つの矩形状の空間が形成される。以下ではこの空間のX方向の長さ(「高さ」と呼ぶ)を“h”、Y方向の長さ([幅]と呼ぶ)を“w”とする。
【0022】
コイル1の内周断面の寸法は、補強金具3の寸法(フランジ3A、ウェブ3Bの長さ)と等しくなるように設計されているため、補強金具3をコイル1の内側を貫通させると、少なくとも2本のフランジ3Aの外側の面(ウェブ3Bのある面とは反対側の面)がコイル1の内壁に接触する。これにより、X方向Y方向ともに強度を向上させながらコイル1を内側から固定でき耐震性能が強化される。また、コイルの水平方向への移動を補強金具3によって抑制するため、鉄心2に荷重が掛らず、鉄心2の変形や特性悪化を抑えることができる。特に鉄心が柔らかく荷重により特性が悪化しやすいアモルファス変圧器において大きな効果を得ることができる。
【0023】
なお、補強金具3のどの部分がコイル1の内壁に接触するかは、コイル1の内壁の断面形状に依存する。たとえばコイル1内壁の断面形状がほぼ長方形の形状の場合、2本のフランジ3Aの外側の面(ウェブ3Bのある面とは反対側の面)全体が、コイル1の内壁に接触する。ただしコイル1内壁の断面形状は、たとえば楕円形状であってもよく、その場合には、フランジ3Aの端部の各々がコイル1の内壁に接触するように、補強金具3とコイル1(の内壁の寸法)が設計されていると、コイル1が固定できるため好ましい。
【0024】
また、鉄心2の幅は、補強金具3内の矩形状の空間の幅wよりよりも小さく、また鉄心2の厚さは、補強金具3内の矩形状の空間の高さhよりも小さくなるように設計されており、これにより補強金具3内の2つの矩形状の空間内のそれぞれに、鉄心2が挿入可能になっている。2本の鉄心がコイル1の内側(補強金具3内の矩形状の空間)に挿入される時、ウェブ3Bは2本の鉄心2の間を通るよう位置づけられる。そのため補強金具3は、鉄心2に干渉することなくコイル1端面より突出させることが可能となる。この補強金具3の突出部を用いて、上下押え金具4を介して補強金具3を縦金具5に接続することが可能となる。
【0025】
縦金具5をコイル外形より外側に配置し、上下押え金具4をこれに接続することで、コイルより出るライン線やタップ線の引出空間を確保することができる。
【0026】
図4は本実施例に係る変圧器の組立手順例である。
【0027】
(a)最初に補強金具3と縦金具5を、下押え金具4Bを介して接続する。補強金具3、下押え金具4B、縦金具5の接続方法は、強度が確保される方法であれば任意の方法でよい。たとえば溶接が用いられてもよいし、ボルトによりそれぞれの金具が接続されてもよい。そして補強金具3、下押え金具4B、縦金具5が接続された後、コイル1を補強金具3に挿入する。
【0028】
(b)続いて、上押え金具4Aを補強金具3の上部、具体的にはコイル1の上端から突出している部分に接続するとともに、上押え金具4Aと縦金具5を接続する。なお、上押え金具4Aは、コイル1の上端に接触するように取り付けられる。これにより、コイル1上端及び下端はそれぞれ、上押え金具4Aと下押え金具4Bとで押さえつけられることになり、コイル1が補強金具3から外れることを防ぐことができる。さらに、縦金具5に渡り金具6を取り付ける(具体的には、縦金具5a,5b,5c,5dの上部に渡り金具6−1を、縦金具5a,5b,5c,5dの下部に渡り金具6−2を、縦金具5e,5f,5g,5hの上部に渡り金具6−3を、縦金具5e,5f,5g,5hの下部に渡り金具6−4を取り付ける)。ただし、上下押え金具4の強度が充分である場合には、渡り金具6の取り付けは不要である。
【0029】
(c)次に、鉄心2をコイル1の内周に挿入する。これは公知の処理のため、詳細は略すが、この時点では鉄心2は
図4に示す通り、環状にはなっていない。ある。ここでは、鉄心2をU字形状にし、この鉄心2の端部を、上からコイル1の内部に挿入する。
【0030】
(d)続いて、変圧器を横に倒し、変圧器の底部が横を向いた状態にする。そして鉄心2の接合部(端部同士)を接合し、鉄心2を環状にする。
【0031】
(e)最後に、変圧器を起こして、変圧器の組立は完了する。
【0032】
上記のように、組立工程中に変圧器中身を横に倒すまたは起す際、コイル1は金具類により固定、保護されており、特別な設備や治具が不要である。
【0033】
図5は本実施例の鉄心挿入前の変圧器を横に倒した場合の正面概略図(つまり底面の概略図)である。本実施例に係る変圧器の場合、変圧器を横に倒した時には、コイル1の自重を補強金具3で内側から受け、またこの補強金具3を上下押え金具4を介して支持する縦金具5および渡り金具6はコイル1外形より外側に位置するため、コイル1が床面と接触せず、コイル1の変形や外層に傷が付くことを防止できる。横に倒した状態でもコイル1が外側から保護されるため、大形機種でも横にした状態での鉄心ラップ作業が可能となる。また、コイルと金具を組立てた
図5の状態で輸送が可能であり、コイル1と鉄心を分解輸送し現地で組立てることができる。
【実施例2】
【0034】
図6に、実施例2に係る変圧器のコイル一脚分を上から見た概略図を示す。実施例2に係る変圧器では、実施例1で説明した補強金具3に代えて補強金具3’を有する。補強金具3’は、補強金具3と同様に2本のフランジ3Aと、これらに直交する1本のウェブ3Bを有するが、さらに補強金具3’のウェブ3Bの中央部分には、ウェブ3Bと直交するX方向支持部3Cが設けられている。X方向支持部3Cの長さはフランジ3Aと等しい。2本のフランジ3AとX方向支持部3Cとウェブ3Bによって、補強金具3’内部には4つの矩形状の空間が形成される。実施例2に係る変圧器では、鉄心2とX方向支持部3Cが干渉しないように、1本のコイル1に4本(2列)の鉄心2(2a,2b,2c,2d)が挿入される構成になっている。実施例2に係る変圧器で用いられる補強金具3’は、実施例1で説明した補強金具3にX方向支持部3Cが追加されたものであるため、さらにX方向の強度を得ることができる。コイル1の中央部は、短絡時に発生する機械力によるコイル1内側への座屈が最も大きい箇所である。本実施例に係る補強金具3’は、この座屈をX方向支持部3Cで抑えることができるため、短絡強度が向上する。
【0035】
実施例2に係る変圧器の構造は、1本のコイルに鉄心が4本挿入される点と、補強金具3’の構造が実施例1における補強金具3と異なる点を除いては、実施例1に係る変圧器と同じで、
図1などに示されたものと同様の構造を取る。また、実施例2に係る変圧器の製造方法(組立方法)も、実施例1で説明したものと同様で、
図4に示された手順で組み立てられる。
【0036】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、さまざまな変形例が含まれる。たとえば上の実施例では、それぞれの上押え金具4A(または下押え金具4B)の両端は、それぞれ異なる縦金具5に接続される例を説明したが、強度が充分にある場合には、それぞれの上押え金具4A(または下押え金具4B)が1本の縦金具5のみに接続されるような構造であってもよい。またこの場合、縦金具5の本数が、上押え金具4A(または下押え金具4B)の数と同数(つまり6)でもよい。
【0037】
縦金具5の本数が6本で(以下ではそれぞれの縦金具5の参照符号を“5’−1”、“5’−2”、“5’−3”、“5’−4”、“5’−5”、“5’−6”とし、変圧器の第1側面に縦金具5’−1,5’−2,5’−3が並び、第2側面に縦金具5’−4,5’−5,5’−6が並ぶものとする)、上下押え金具4はそれぞれ、1本の縦金具5のみに接続される構造の場合、上押え金具4A−1,4A−2,4A−3(及び下押え金具4B−1,4B−2,4B−3)はそれぞれ、縦金具5’−1,5’−2,5’−3に接続され、上押え金具4A−4,4A−5,4A−6(及び下押え金具4B−4,4B−5,4B−6)はそれぞれ、縦金具5’−4,5’−5,5’−6に接続される構造であってもよい。上下押え金具4の強度(剛性)が充分にある場合にはこのような構造であっても、コイル1の水平方向への移動を抑制することができる。