【文献】
Differentiation, 2012, Vol. 83, pp. 47-59
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
GSK3阻害剤が、6−ブロモインディルビン−3’−オキシム(BIO)、CHIR−99021、SB216763、CHIR−98014、TWS119、IM−12、1−アザケンパウロン、AR−A014418、SB415286、AZD1080、AZD2858、インディルビン、A1070722、TCS2002、チデグルシブ、又はそれらの任意の誘導体である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この証拠に基づいて、単核球及びマクロファージを標的とする新たな臨床戦略を設計するために、マクロファージの胚性の原始的起源をインビトロで再現する必要がある。この点に関して、ヒト細胞の血球分化をもたらす圧倒的多数の現存するアプローチでは、間質層との共培養の利用、又は胚様体(EB、embryoid body)の利用のいずれかが行われている。これらのプロトコールの多くは、定義されていないウシ血清サプリメントの使用に依存する。これらの条件により、ヒト細胞の血球分化のためのプロトコールに、それ独自の変動レベルが導入され、こうした変動は、再現性及び収率に影響を及ぼす恐れがある。したがって、上記に記載した1又は2以上の欠点を克服又は少なくとも改善して、マクロファージの胚性の起源をインビトロで再現する、血球分化のための方法を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、幹細胞から原始様マクロファージ(primitive-like macrophages)を培養するための方法であって、
(a)前記幹細胞を、GSK3阻害剤を含む無血清培地と接触させてインキュベートし、前記幹細胞の中胚葉系列の細胞への分化を誘導するステップと、
(b)中胚葉系列の前記細胞を、DKK1を含む培地と接触させてインキュベートし、中胚葉系列の細胞を造血細胞系列の細胞に分化させるステップと、
(c)造血細胞系列の前記細胞を成熟させるステップと、
(d)造血細胞系列の前記成熟細胞を、M−CSFを含む培地と接触させてインキュベートし、前記造血細胞の原始様マクロファージへの分化をドライブするステップと
を含む方法を提供する。
【0007】
一態様では、GSK3阻害剤及びDKK1を使用説明書と共に含む、本明細書の定義に従う方法において使用する場合のキットを提供する。
【0008】
一態様では、本明細書の記載に従う方法により得られる原始様マクロファージを提供する。
【0009】
一態様では、疾患モデルを、インビトロで成長させる(developing)ための、本明細書の記載に従う原始様マクロファージの使用であって、疾患が、神経変性疾患、代謝疾患、呼吸器疾患、心血管疾患、結合組織疾患、がん又は炎症性疾患である使用を提供する。
【0010】
一態様では、疾患モデルを、インビトロで成長させるための、本明細書の記載に従うミクログリア細胞の使用であって、疾患が、神経変性疾患である使用を提供する。
【0011】
一態様では、疾患を治療するための化合物をスクリーニングするための、本明細書の記載に従う原始様マクロファージの使用であって、疾患が、神経変性疾患又は代謝疾患である使用を提供する。
【0012】
一態様では、疾患を治療するための化合物をスクリーニングするための、本明細書の記載に従うミクログリア細胞の使用であって、疾患が、神経変性疾患である使用を提供する。
【0013】
一態様では、創傷治癒及び組織再生ための医薬品の製造における、本明細書の記載に従う原始様マクロファージの使用を提供する。
【0014】
一態様では、カーゴ分子を組織内に送達するための、本明細書の記載に従う原始様マクロファージの使用であって、カーゴ分子が、免疫調節物質であるサイトカイン若しくはケモカイン、又はプロドラッグを活性化させる酵素である使用を提供する。
【0015】
一態様では、マウス幹細胞から原始様マクロファージを培養するための方法であって、
(a)前記幹細胞を、FGF2及びBMP4を含む無血清培地と接触させてインキュベートし、前記幹細胞の中胚葉系列の細胞への分化を誘導するステップと、
(b)中胚葉系列の前記細胞を、FGF2、BMP4、アクチビンA及びVEGFを含む培地と接触させてインキュベートし、中胚葉系列の細胞を造血細胞系列の細胞に分化させるステップと、
(c)造血細胞系列の前記細胞を成熟させるステップと、
(d)造血細胞系列の前記成熟細胞を、M−CSFを含む培地と接触させてインキュベートし、前記造血細胞の原始様マクロファージへの分化をドライブするステップと
を含む方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
第1の態様では、本発明は、幹細胞から原始様マクロファージを培養するための方法を指す。この方法は、(a)前記幹細胞を、GSK3阻害剤を含む無血清培地と接触させてインキュベートし、前記幹細胞の中胚葉系列の細胞への分化を誘導するステップと、(b)中胚葉系列の前記細胞を、DKK1を含む培地と接触させてインキュベートし、中胚葉系列の細胞を造血細胞系列の細胞に分化させるステップと、(c)造血細胞系列の前記細胞を成熟させるステップと、(d)造血細胞系列の前記成熟細胞を、M−CSFを含む培地と接触させてインキュベートし、前記造血細胞の原始様マクロファージへの分化をドライブするステップとを含む。
【0018】
幹細胞を、胚性幹細胞(ESC、embryonic stem cell)及び誘導多能性幹細胞(iPSC、induced pluripotent stem cell)から選択することができる。一実施形態では、幹細胞が、ヒトH1胚性幹細胞(ESC)であり得る。別の実施形態では、幹細胞が、ヒト誘導多能性幹細胞(iPSC)であり得る。
【0019】
GSK3阻害剤を、6−ブロモインディルビン−3’−オキシム(BIO、6-bromoindirubin-3'-oxime)、CHIR−99021、SB216763、CHIR−98014、TWS119、IM−12、1−アザケンパウロン、AR−A014418、SB415286、AZD1080、AZD2858、インディルビン、A1070722、TCS2002、チデグルシブ、又はそれらの任意の誘導体から選択することができる。
【0020】
いくつかの実施形態では、ステップ(a)の少なくとも24時間前に、幹細胞を、マトリゲルコート6ウエルプレート上に、1cm
2当たり1未満の小型コロニーの密度で蒔く(plate)ことができる。
【0021】
ステップ(a)の前に、幹細胞を、80%のDMEM/F12、20%のノックアウト血清代替品、L−グルタミン、非必須アミノ酸、ベータ−メルカプトエタノール及びFGF−2を含む培地を用いてインキュベートすることができる。いくつかの実施形態では、幹細胞を、前記培地中で約1日間インキュベートすることができる。
【0022】
別の実施形態では、ステップ(a)において、幹細胞を、1〜20ng/mlのBMP4、5〜100ng/mlのVEGF、0〜50ng/mlのFGF−2及び0〜10μMのCHIR99021を含む分化培地と接触させることができる。分化培地が、Invitrogen社製のStemPro(登録商標)34であり得る。細胞を、約5%の酸素濃度下で、培地を用いて約2日間インキュベートすることができる。
【0023】
別の実施形態では、細胞を、ステップ(a)において、1〜20ng/mlのBMP4及び5〜100ng/mlのVEGFとさらに接触させる。
【0024】
別の実施形態では、細胞を、約5%の酸素濃度下で、前記培地を用いて約2日間インキュベートする。
【0025】
細胞を、ステップ(b)において、5〜100ng/mlのVEGF;0〜50ng/mlのFGF−2;0〜250ng/mlのSCF;0〜500ng/mlのDKK1;0〜50ng/mlのIL−6;及び0〜50ng/mlのIL−3を含む分化培地と接触させることができる。細胞を、約5%の酸素濃度下で、前記培地を用いて約3日間インキュベートすることができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、細胞を、ステップ(c)において、0〜50ng/mlのFGF−2;0〜250ng/mlのSCF;0〜50ng/mlのIL−3及び0〜50ng/mlのIL−6を含む分化培地と接触させることによって成熟させることができる。細胞を、正常酸素圧の条件下で、培地を用いて約7日間インキュベートすることができる。用語「正常酸素圧の条件」は、本明細書で使用する場合、培地中の酸素濃度のレベルが約20%であり得る条件を指す。
【0027】
細胞を、ステップ(d)において、0〜100ng/mlのM−CSFを含む分化培地と接触させてインキュベートすることができる。細胞を、正常酸素圧の条件下で、培地を用いて少なくとも6日間インキュベートすることができる。
【0028】
一実施形態では、本明細書の記載に従う方法は、6ウエル培養プレート中で21〜25日間培養すると、1×10
6/ウエルより高い、原始様マクロファージの収率をもたらすことができる。当技術分野で理解されているように、マクロファージの収率は、本明細書に記載する方法において適用する細胞の起源に依存し得る。
【0029】
別の実施形態では、この方法は、前記原始様マクロファージを、FACSソーティング又は磁気分離を使用して単離するステップをさらに含むことができる。
【0030】
本明細書ではまた、GSK3阻害剤及びDKK1を使用説明書と共に含む、本明細書の記載に従う方法に従って使用する場合のキットも提供する。
【0031】
本明細書はまた、本明細書の記載に従う方法により得られる原始様マクロファージも提供する。原始様マクロファージを、後に、ミクログリア細胞、肺胞マクロファージ、クッパー細胞、ランゲルハンス細胞又はその他の組織マクロファージに分化させることができる。用語「その他の組織のマクロファージ」は、これらに限定されないが、腎臓組織、膵臓組織、脂肪組織、肝臓組織又は結合組織を含む、任意の組織型中に見出すことができるマクロファージを指す。
【0032】
本明細書はまた、疾患モデルを、インビトロで成長させるための、本明細書の記載に従う原始様マクロファージの使用であって、疾患が、神経変性疾患、代謝疾患、呼吸器疾患、心血管疾患、結合組織疾患、がん又は炎症性疾患である使用も提供する。一実施形態では、疾患が、神経変性疾患である。
【0033】
いくつかの実施形態では、疾患を治療するための化合物をスクリーニングするための、本明細書の記載に従う原始様マクロファージの使用であって、疾患が、神経変性疾患又は代謝疾患である使用を提供する。
【0034】
いくつかの実施形態では、疾患が、神経変性疾患である。いくつかの実施形態では、神経変性疾患が、アルツハイマー病、ハンチントン病又はレット症候群であり得る。いくつかの実施形態では、代謝疾患が、肥満又は糖尿病であり得る。いくつかの実施形態では、呼吸器疾患が、肺胞蛋白症であり得る。いくつかの実施形態では、心血管疾患が、アテローム動脈硬化症であり得る。いくつかの実施形態では、結合組織疾患が、線維症であり得る。いくつかの実施形態では、炎症性疾患が、関節炎、関節リウマチ、実験的な自己免疫性脳脊髄炎、多発性硬化症又は炎症性腸疾患、及び皮膚の炎症性疾患、例として、アトピー性皮膚炎、乾癬であり得る。
【0035】
また、創傷治癒及び組織再生のための、本明細書の記載に従う原始様マクロファージの使用も提供する。
【0036】
また、カーゴ分子を組織内に送達するための、本明細書の記載に従う原始様マクロファージの使用であって、カーゴ分子が、免疫調節物質であるサイトカイン若しくはケモカイン、又はプロドラッグを活性化させる酵素である使用も提供する。
【0037】
また、マウス幹細胞から原始様マクロファージを培養するための方法であって、(a)前記幹細胞を、FGF2及びBMP4を含む無血清培地と接触させてインキュベートし、前記幹細胞の中胚葉系列の細胞への分化を誘導するステップと、(b)中胚葉系列の前記細胞を、FGF2、BMP4、アクチビンA及びVEGFを含む培地と接触させてインキュベートし、中胚葉系列の細胞を造血細胞系列の細胞に分化させるステップと、(c)造血細胞系列の前記細胞を成熟させるステップと、(d)造血細胞系列の前記成熟細胞を、M−CSFを含む培地と接触させてインキュベートし、前記造血細胞の原始様マクロファージへの分化をドライブするステップとを含む方法も提供する。
【0038】
マウス幹細胞を、マウス胚性幹細胞(ESC)及びマウス誘導多能性幹細胞(iPSC)から選択することができる。
【0039】
本明細書で例示的に記載している本発明は、本明細書に具体的な開示がない任意の要素(複数可)又は限定(複数可)なしで適切に実行することができる。したがって、例えば、用語「含む(comprising)」、「含む(including)」、「含有する(containing)」等は、広範かつ非限定的に読み取るものとする。さらに、本明細書で利用する用語及び表現は、限定するのではなく、説明する用語として使用しており、そのような用語及び表現を使用することによって、いかなる場合であっても、示したり、記載したりした特徴の均等物又はそれらの一部を除外する意図はないが、多様な改変形態が特許請求する本発明の範囲に属し得ることも認識されたい。したがって、本発明を、好ましい実施形態により具体的に開示してきたが、本明細書に開示する実施形態における、本発明の任意の特徴、改変形態及び変更形態を当業者であれば利用することができること、並びにそのような改変形態及び変更形態は、本発明の範囲に属するとみなされるものとすることを理解すべきである。
【0040】
本明細書では、本発明を広くかつ一般的に記載してきた。一般的な開示の範囲に属する、種及び亜属のより狭いグループのそれぞれもまた、本発明の一部を形成する。これには、本発明についての一般的な記載に、取り除かれる材料が本明細書に具体的に列挙されているか否かにかかわらず、属から何らかの主題を除去する条件又は否定的限定を伴う場合が含まれる。
【0041】
その他の実施形態は、以下の特許請求の範囲及び非限定的な例に属する。さらに、本発明の特徴又は態様を、マーカッシュ群の形で記載する場合、それにより、本発明はまた、マーカッシュ群のうちのいずれかの個々のメンバー又はメンバーのサブグループによっても説明されることを当業者であれば認識するであろう。
【0042】
[実施例]
最良のモードを含む、本発明の非限定的な例、及び比較例を、具体的な実施例を参照することにより、より詳細にさらに記載する;いかなる場合であっても、これらの実施例が本発明の範囲を限定すると解釈してはならない。
【実施例1】
【0043】
マウス多能性幹細胞の原始マクロファージへの分化
mESC/miPSCがMEF上で増殖したら、ゼラチンコート6ウエルプレート上で1〜2回継代することによって、MEFを枯渇させてから、分化を開始する。
【0044】
第0日に、コロニーを解離させ、5ng/mlのhFGF2及び5ng/mlのhBMP4を補充した無血清分化培地(レシピ、下記)中に、175,000〜200,000細胞/mlで再懸濁する。これらを非接着性のプレート内に分注して、胚様体(EB)を形成させる。
【0045】
48時間後、EBをプールし、TrypLE(推奨の)又はトリプシンを用いて解離させる。
【0046】
次いで、5ng/mlのhFGF2、2ng/mlのhBMP4、2ng/mlのヒトアクチビンA、5ng/mlのhVEGFを補充した無血清分化培地中で、EBを175,000細胞/mlで再凝集させる。
【0047】
その48時間後、EBを解離させ、Flk−1+細胞について選別する。
【0048】
次いで、5ng/mlのVEGF、300ng/mlのDKK1、100ng/mlのM−CSFを補充した無血清分化培地中で、選別した細胞を500,000細胞/mlで再凝集させる。次いで、細胞の懸濁液を非接着性の培養ウエル内に分注して、EBを形成させる。
【0049】
その48時間後(分化全体の第6日)、EBを解離させ、100ng/mlのSCF、10ng/mlのIL−3、100ng/mlのM−CSFを補充したStemPro SFM完全培地(レシピ、下記)中に再懸濁する。次いで、細胞を、ゼラチンコート組織培養プレート上に蒔く。
【0050】
原始様マクロファージは、分化の第8日から出現し、分化の第13〜14日付近でピークに達するはずである。典型的には、細胞を第10〜11日付近で選別又は採取する。細胞を継代する必要はないが、第8日までに多くの細胞が懸濁液中に生じることに注目されたい。懸濁液及び接着画分の両方を収集して、選別を行う。
【0051】
無血清分化培地:
75%のIMDM/25%のF12
0.5×のN2サプリメント
0.5×のB27サプリメント(レチノイン酸を含有しない)
1×のpen/strep
0.05%のBSA
2mMのL−グルタミン
0.5mMのアスコルビン酸
4.5×10
−4Mの1−チオグリセロール
【0052】
StemPro SFM完全培地:
StemPro-34 SFM(Invitrogen社)
1×のpen/strep
2mMのL−グルタミン
200μg/mlのトランスフェリン
0.5mMのアスコルビン酸
4.5×10
−4Mの1−チオグリセロール
【実施例2】
【0053】
ヒト多能性幹細胞の原始マクロファージへの分化
分化の戦略を、4つの段階、すなわち、原条/中胚葉の誘導、造血系への指定(hematopoietic specification)、造血細胞の成熟、そして最後に、最終の骨髄の増殖に分けることができる。各段階の実験の詳細を、
図1及び
図2に示し、下記に記載する。
【0054】
段階0:ES細胞又はiPS細胞を、マトリゲルコート皿上で、CF1 MEF馴化培地中に維持する。培地のレシピは、80%のDMEM/F12、20%のノックアウト血清代替品、L−グルタミン、非必須アミノ酸、ベータ−メルカプトエタノール及び6ng/mlのFGF−2からなり、培地を、1日1回交換する。コラーゲナーゼIV処理及び細胞スクレーパーを用いる穏やかな剥離を使用して、細胞を5〜6日に1回継代する。分化の開始の24時間前に、細胞を、マトリゲルコート6ウエルプレート上に、非常に低い密度(1cm
2当たり1未満の小型コロニー)で蒔き、一晩かけて付着させる。
【0055】
段階1(原条/中胚葉の誘導):この初期の段階では、細胞を、BMP4及びGSK3阻害剤を用いて処理して、後側の原条への指定(specification)を促進する;原条から、胚形成の間に中胚葉が発生する。VEGFもまた添加して、造血中胚葉の発生を促進する。また、細胞を、低酸素条件(5%のO
2)下に維持する。
【0056】
段階2(造血系への指定):およそ4〜5日後には、KDR及びCD31の高い発現を示す、細胞のサブセットを観察することができる。この集団は、血管芽細胞、すなわち、造血細胞及び内皮細胞への二分化能前駆体を含有する。この時点の誘導用カクテルは、血管芽細胞を増殖させ、さらにそれらを造血系列へと指定する(specify)ように調整される。ここで、SCF及びFGF−2を添加して、細胞の生存及び増殖を促進する。IL−3、IL−6及びVEGFを添加して、血球分化を促進し、DKK1を添加して、赤血球への分化を抑制する(恐らく、マクロファージへの分化をドライブする)。細胞を、第8日まで低酸素条件下に維持し、その後、正常酸素圧下で培養する。
【0057】
段階3(造血細胞の成熟):この段階では、造血細胞に対するドライブをより完全なものにし、マクロファージ系列へ向かわせる。DKK及びVEGFは、この時点までに最早必要でなくなっており、したがって、カクテルから除去する。
【0058】
段階4(最終の骨髄の増殖):CSF1受容体を介するシグナル伝達により原始マクロファージの増殖を促進することが見出されたM−CSFを除く、全てのサイトカインを除去する。
【0059】
古典的な表面マーカーを発現するマクロファージを、早くも分化の第18日に、集団中に観察することができ、分化の第21〜25日における細胞の流動選別により、良好な収率及び生存率が得られることを本発明者らは見出すに至った。具体的には、
図3に、マクロファージの一般的なマーカー(CD14、HLA−DR、CD11b及びCD163)の発現プロファイルを、H1 ES細胞、患者由来WT iPSC及び患者由来変異体iPSCから分化したマクロファージに関して示す。
【0060】
分化培地1(DM1、Differentiation medium 1):
サプリメント及び1×のpen/strepを加えたStemPro 34(Invitrogen社)
2mMのグルタミン
1×のアポ−トランスフェリン
4×10
−4Mのモノチオグリセロール(MTG、monothioglycerol)
50μg/mlのアスコルビン酸(AA、ascorbic acid)
【0061】
分化培地2(DM2、Differentiation medium 2):
1×のpen/strepを加えた75%のIMDM/25%のHam's F-12
0.5×のB27サプリメント(レチノイン酸を含有しない)
0.5×のN2サプリメント
2mMのグルタミン
4×10
−4Mのモノチオグリセロール
50μg/mlのアスコルビン酸
【0062】
手順
第0日:増殖培地を、BMP4(5ng/ml)、VEGF(50ng/ml)、CHIR99021(2μM)を含有するDM1と交換する。5%のO
2下で培養する;
第2日:培地を、BMP4(5ng/ml)、VEGF(50ng/ml)、FGF−2(20ng/ml)を含有するDM1と交換する。5%のO
2下で培養する;
第4日:培地を、VEGF(15ng/ml)、FGF−2(5ng/ml)を含有するDM1と交換する。5%のO
2下で培養する;
第6日:培地を、VEGF(10ng/ml)、FGF−2(10ng/ml)、SCF(50ng/ml)、DKK1(30ng/ml)、IL−6(10ng/ml)、IL−3(20ng/ml)を含有するDM1と交換する。5%のO
2下で培養する;
第8日、第10日:培地を、VEGF(10ng/ml)、FGF−2(10ng/ml)、SCF(50ng/ml)、DKK1(30ng/ml)、IL−6(10ng/ml)、IL−3(20ng/ml)を含有するDM1と交換する。細胞を、正常酸素圧の条件(20%のO
2)に戻す;
第12日、第14日:培地を、FGF−2(10ng/ml)、SCF(50ng/ml)、IL−6(10ng/ml)、IL−3(20ng/ml)を含有するDM1と交換する;
第16日、第18日、第20日:培地を、MCSF(50ng/ml)を含有するDM2と交換する。
【0063】
技術的な留意点
6ウエルプレート中の3ml培地/ウエルの体積を推奨する。
【0064】
第6日以降、懸濁液中に細胞が観察される。造血細胞の損失を回避するために、上清を遠心分離し、得られた細胞ペレットを、少量の新鮮な培地中に再懸濁してから、それらの元々のウエルに再び添加する。
【0065】
DM1は、5〜7日に1回用時調製し、生理活性の損失を最小限に留めるために、4℃で保存すべきである。
【0066】
DM2は、(AA及びMTGを含有させずに)あらかじめ調製し、使用するまで、一定分量に分けて凍結しておくことができる。AA及びMTGを、解凍した一定分量に添加し、4℃で最長1週間保存することができる。
【0067】
この方法には、胚性卵黄嚢中の原始造血発生を模倣することを含む、いくつかの特有かつ好都合な特徴がある。血清の補充を後に必要とし、間質細胞、例として、OP9との共培養を必要とする競合技術と比較して、この方法は、血清もフィーダーも完全に含有しない。さらに、解離のステップを必要とせず、胚様体形成の段階もない。それどころか、プロセス全体にわたり、2Dの接着培養物上において、分化を行う。また、この方法の妥当性を、H1細胞及びその他のiPSC細胞株上でも確認しており、この方法は、拡張性があり、原始マクロファージが高い収率(6ウエルプレートにおいて、1×10
6超/ウエル)で得られている。GSK阻害剤の添加は、原条への初期指定を推し進め、一方、DKKの添加は、赤血球への分化を抑制する。
【実施例3】
【0068】
ヒトiPSC由来原始マクロファージの分化
貪食作用アッセイを、第12日に選別したiPSC由来原始マクロファージ(CD163+CD11b+HLA−DR+IBA−1+CX3CR1+CD14+)を用いて実施した;このマクロファージは、患者由来WT iPSCから分化させてあり、その発現プロファイルは、CD45+CD11b+及びCD163+である。具体的には、第12日に選別したiPSC由来原始マクロファージを、マクロファージ及びミクログリアとしての、それらの貪食能力を評価するために、蛍光標識したラテックスビーズ又はアミロイドAβペプチドに曝露させた。
【0069】
図4に示すように、前記iPSC由来原始マクロファージの、マクロファージ及びミクログリアとしての貪食能力が裏付けられている。このことは重要である;というのは、アミロイドベータ(amyloid beta、Aβ又はAbeta)ペプチドは、アルツハイマー患者の脳中に見出されるアミロイドプラークの主要な構成成分として、アルツハイマー病に決定的に関与するからである。
【0070】
手順
マクロファージの貪食能力を分析するための方法は、ハンチントン病ヒトiPSC(HD33i)の対照株に由来する原始マクロファージを使用し、これらのマクロファージは、10%のFCSを含有するIMDMを用いて再構成し、24ウエル皿上に(5.0×10
4細胞/ウエルで)播種し、空気中に5%のCO2を有する完全に加湿した雰囲気下、37℃で一晩かけて定着させた。
【0071】
次いで、細胞をラテックスビーズと共に(1:100,000)24時間インキュベートし、PBSを用いて3回洗浄し、4%のPFAを用いて固定し、レーザー共焦点顕微鏡法により分析した。
【0072】
細胞形態(微分干渉)及び核(DAPI、1:10,000)を参照することによって、貪食されたラテックスビーズを分析した。
【実施例4】
【0073】
ヒトiPSC由来のニューロン及びマクロファージの共培養
本明細書に記載する方法により得たiPSC由来原始マクロファージを、ニューロンと共に共培養した。
【0074】
図5及び
図6に示すように、共培養により、iPSC由来原始マクロファージが、インビボの成体ミクログリアを連想させる網目状の形態を有するIBA1+ミクログリアに分化した。
【0075】
これらの結果から、iPSC由来原始マクロファージがミクログリア細胞へ分化する能力を有することが示されている。
【0076】
手順
本明細書に記載する分化の方法を採用して、ヒトiPSC(HD33i)からニューロンを誘導した。80パーセント(80%)の培養密度のiPSCを、DMEM/F12を用いて2回洗浄し、accutaseを用いて単一細胞に解離させた。細胞を、ニューロン前駆細胞(NPC、neuron precursor cell)+培地を用いて再懸濁し、マトリゲルコート6ウエル皿上に蒔いた。NPC+培地を、NPCの誘導のために、7日間毎日交換した。次いで、NPCを、マトリゲルコート6ウエル皿上で、10μMのROCK阻害剤を加えたNPC−培地中に1:3の希釈度で分割し、続いて、EGF(20ng/ml)及びbFGF(20ng/ml)を補充したNPC−培地を用いて数回継代して、馴化させた。ニューロンへの最終の分化のために、コンフルエントなNPCを、accutaseを用いて単一細胞に解離させ、ニューロン用分化培地を用いて再懸濁させ、24ウエル皿中のポリ−L−オルニチン及びラミニンを用いてコートしたカバーガラス上に(5.0×10
4細胞/ウエルで)播種した。
【実施例5】
【0077】
CSF2aR−KOマウス肺への移植
肺胞蛋白症のCSF2aR−KOマウス(CD45.2)マウスモデルを、iPSC由来原始マクロファージの効果を試験するのに使用した。
【0078】
図7に示すように、マウスモデルにおいて、マウスiPSC由来原始マクロファージの移植により、肺胞蛋白症疾患が回復及び軽減した。
【0079】
未治療の野生型マウス肺から得られた細胞の懸濁液(8a、陽性対照)、未治療のマウスモデルCSF2aR−KO肺から得られた細胞の懸濁液(8b、陰性対照)、及び技術的対照としての、マウスモデルCSF2aR−KO肺から得られた細胞の懸濁液であって、その中にiPSCマクロファージを添加した細胞の懸濁液(8c)を、フローサイトメトリーにより分析し、肺胞マクロファージの有無を、公知のマクロファージのマーカーの可視化により検出した。
【0080】
この点に関して、
図8a、
図8b及び
図8c中の円で囲んだ領域は、肺胞マクロファージの有無を示す;肺胞マクロファージは、
図8a中には存在し、
図8b及び
図8c中には存在しない。
図8a、
図8b及び
図8cは、エクスビボ誘導マクロファージの鼻腔内移植前に、CSF2aR−KOマウスにおいては、肺胞マクロファージが欠損していることを示す。
【0081】
さらに、さらなる実験において、CSF2ar−KOマウスに、1000KのiPSC CX3CR1−GFPマクロファージを鼻腔内移植し、肺の細胞の懸濁液を、フローサイトメトリーにより分析した。
図9及び
図10に示すように、マウスiPSC由来原始マクロファージ(iPSC由来のマクロファージは、F4/80及びCX3CR1−GFPであり、シグレック−Fの発現を獲得する)は、肺内に42日超にわたり生着し、肺胞マクロファージのマーカー(シグレックF)を獲得し、かつ特異的マーカー、例として、CD11bの発現を同時に維持している。具体的には、
図9中の点線で示す円は、WTマウス中に存在する内因性の肺胞マクロファージの予測される集団を示す。
【0082】
また、マウスiPSC由来原始マクロファージが、肺内に8週超にわたり生着し、肺胞マクロファージのマーカー(シグレックF)を獲得し、肺全体に分布することも示されている(
図10)。
【0083】
また、マウスiPSC由来原始マクロファージ(CX3CR1−GFP+)が、肺内に8週超にわたり生着し、内因性の機能性肺胞マクロファージの非存在に起因して蓄積したサーフェクタント関連タンパク質B(SPB)を貪食することも示された(
図10及び
図11を参照されたい)。結果として、移植された肺中のSPBの蓄積が減り、ELISAにより測定した気管支肺胞洗浄液の濁度が低下する(
図12及び
図13)。理解されるように、CSF2aR−KOマウス(CD45.2)マウスモデル上で示された効果及び結果は、iPSC由来原始マクロファージを用いた治療の結果として、疾患が消失する徴候である。