(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1又は2に記載の口腔内装置において、前記上部トレーおよび下部トレーのアンカーは、ボタン、フック、及びハーブストねじ(Herbst screw)からなる群から選択されることを特徴とする口腔内装置。
請求項1又は2に記載の口腔内装置において、第1の歯科矯正トレーと第2の歯科矯正トレーとを更に備え、これらの歯科矯正トレーは、前記口腔内装置の前記上部トレーまたは下部トレーの受け部内に受け入れられ得ることを特徴とする口腔内装置。
請求項1又は2に記載の口腔内装置において、前記上部トレーのアンカーは、歯科矯正用ゴムバンド、伸縮自在シム、及びプラスチックコネクタからなる群から選択されるコネクタを用いて、前記下部トレーのアンカーと機械的に連結されることを特徴とする口腔内装置。
【発明の概要】
【0005】
本発明の口腔内装置は、上部トレー及び下部トレーを備え、それぞれが対象者におけるいびき及び/又は睡眠時無呼吸を治療し、対象者の歯科矯正の治療を成し遂げるよう構成される。一の実施形態において、上部トレーは以下(a)〜(f)を備える。
(a)上部トレーの内面によって囲まれた受け部
(b)上端で、上部トレーの右側の下面に連結された右側の上部噛み合わせ用パッドであって、噛み合わせ用パッドは、下面、前面、後面、右側、及び左側を備え、噛み合わせ用パッドは、上部トレーの右側の後方部分から前方に延在し、噛み合わせ用パッドの下面は、右側の上部トレーの前方部分の下部の冠状面よりも低い、右側の上部噛み合わせ用パッド
(c)上面、下面、前面、後面、右側、及び左側を備える右側のインサートであって、上面は、右側の上部噛み合わせ用パッドに対して前方に上部トレーの右側の下面に面し、及び/又は接触し、後面は、右側の上部噛み合わせ用パッドの前面に可逆的に取り付けられるように構成された右側のインサート
(d)上端で、上部トレーの左側の下面に連結された左側の上部噛み合わせ用パッドであって、噛み合わせ用パッドは、下面、前面、後面、右側、及び左側を備え、噛み合わせ用パッドは、上部トレーの左側の後方部分から前方に延在し、噛み合わせ用パッドの下面は、左側の上部トレーの前方部分の下部の冠状面よりも低い、左側の上部噛み合わせ用パッド
(e)上面、下面、前面、後面、右側、及び左側を備える左側のインサートであって、上面は、左側の上部噛み合わせ用パッドに対して前方に上部トレーの左側の下面に面し、及び/又は接触し、後面は、左側の上部噛み合わせ用パッドの前面に可逆的に取り付けられるように構成された左側のインサート
(f)上部トレーの右側の前方部分の外側の頬側面上の頬側に面する前方右側のアンカーと、上部トレーの左側の前方部分の外側の頬側面上の頬側に面する前方左側のアンカー
【0006】
本実施形態において、下部トレーは以下(a)〜(e)を備える。
(a)上部トレーの内面によって囲まれた受け部
(b)下端で、下部トレーの右側の上面に連結された右側の下部噛み合わせ用パッドであって、噛み合わせ用パッドは、上面、前面、後面、右側、及び左側を備え、噛み合わせ用パッドは、下部トレーの右側の前方部分から後方に延在し、噛み合わせ用パッドの上面は、右側の下部トレーの後方部分の上部の冠状面よりも高い、右側の下部噛み合わせ用パッド
(c)下端で、上部トレーの左側の下面に連結された左側の下部噛み合わせ用パッドであって、噛み合わせ用パッドは、上面、前面、後面、右側、及び左側を備え、噛み合わせ用パッドは、下部トレーの左側の前方部分から後方に延在し、噛み合わせ用パッドの上面は、左側の下部トレーの後方部分の上部の冠状面よりも高い、左側の下部噛み合わせ用パッド
(d)下部トレーの右側の前方部分の外側の頬側面上の頬側に面する前方右側のアンカーと、下部トレーの左側の前方部分の外側の頬側面上の頬側に面する前方左側のアンカー
(e)下部トレーの右側の後方部分の外側の頬側面上の頬側に面する後方右側のアンカーと、下部トレーの左側の後方部分の外側の頬側面上の頬側に面する後方左側のアンカー
【0007】
上記の配置に伴い、右側のインサートの前面は、右側の下部噛み合わせ用パッドの後面に接触する係合面を形成し、左側のインサートの前面は、左側の下部噛み合わせ用パッドの後面に接触する係合面を形成する。このことは、上部トレーの下部トレーに対する前方への配置が制限され、したがって対象者による口腔内装置の使用時にいびき/無呼吸が緩和される。
【0008】
本発明の別の特有の特徴は、対象者の歯科矯正の治療を可能とし、同時にいびき及び/又は無呼吸を治療することである。一実施形態において、上部トレーの受け部、及び下部トレーの受け部はそれぞれ、歯科矯正トレー、好ましくは一連の歯科矯正トレーを受け入れて保持するように構成される。別の実施形態において、上部トレーの受け部、及び下部トレーの受け部はそれぞれ、対象者による装置の着用時に、対象者の1又はそれ以上の歯を再配置し、及び/又は対象者の上顎及び/又は下顎の構成を変えるように構成される。
【0009】
代替的な実施形態において、上部噛み合わせ用パッド、及び下部噛み合わせ用パッドの位置は逆になり得るので、下部噛み合わせ用パッドは、下部トレーの後方部分に配置され、インサートは、下部噛み合わせ用パッドの前端に取り付けられ得る。この場合、上部噛み合わせ用パッドは前方に配置され、インサートの前面は、上部噛み合わせ用パッドの後面と係合する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[定義]
本明細書で用いられるにあたり、以下の用語及びそれらの変形は、そのような用語が用いられる文脈によって異なる意味が明確に意図されない限り、以下に示す意味を有する。
【0012】
「アンカー」は、装置の一部分に固定され、その部分を装置の別の部分に連結するよう補助する本発明の装置の構成要素をいう。
【0013】
「前方」は、対象者の口の前部分(開口)の方向、対象者の口の前部分(開口)の方に向かう、又は対象者の口の前部分(開口)に隣接することを意味する。
【0014】
「いびき」及び「睡眠時無呼吸」は、一般的に対象者の気道が塞がって生じる、睡眠中の呼吸の一時的な停止、及び/又は浅い又は頻繁でない呼吸の事象をいう(閉塞性睡眠時無呼吸と称する)。
【0015】
「頬側」は、対象者の頬の方向、又は対象者の頬の方に向かうことを指す。対象者の歯に関して、頬側とは頬に面する歯の側を指す。
【0016】
「冠状面」は、頭から足までの身体を通り、身体を前半分と後半分とに分ける仮定の平面をいう。
【0017】
「冠状」は、歯の遠位端(つまり、そしゃく面が位置するところ)上の又は歯の遠位端の方に向かう位置又は方向を指す。従って、冠状面は歯のそしゃく面であり、後方の歯では一般的に咬合面と呼ばれ、前方の歯では切歯面と呼ばれる。「冠状面」は、本発明の装置をユーザが着用する時に一方の歯科用トレーに接触する他方の歯科用トレーの対応する面、つまり上部の歯科用トレーの下面、又は下部の歯科用トレーの上面にも関する。
【0018】
「歯科用トレー」は、対象者の歯を受容する受け部を備える構造を指す。いくつかの実施形態において、受け部は、歯を受け入れるための開口、及び対象者の歯に直接接触する内面を有する。他の実施形態において、受け部は歯科矯正トレーを受け入れる。
【0019】
「下方」及び「下方に」は、対象者の身体の下部の方向、又は対象者の身体の下部の方に向かうことを意味する。「上方」及び「上方に」は、反対方向、つまり対象者の身体の上部の方向、又は対象者の身体の上部の方に向かうことを意味する。
【0020】
「細長い」は、幅より長い長さを有する構成又は形状を指す。
【0021】
「前方へ」は、対象者の口の前方(前部)の方に向かう方向を意味する。
【0022】
本発明の装置に対して「水平」とは、対象者の矢状面及び/又は冠状面にほぼ垂直な面、つまりそのような垂直面の15度以内への配置を指す。
【0023】
「唇側」は、対象者の唇の方向、対象者の唇の方に向かう、又は対象者の唇に隣接することを意味する。対象者の歯に関して、唇側とは唇に面する前の歯の側を指す。
【0024】
「側面」は、対象者の矢状面から離れることを意味する。
【0025】
「左」は、対象者から見て対象者の矢状面の左側を意味する。
【0026】
「舌側」は、対象者の舌の方向、対象者の舌の方に向かう、又は対象者の舌に隣接することを意味する。対象者の歯に関して、舌側とは舌に面する歯の側を指す。
【0027】
「下部」は、本発明の装置における構成要素の相対位置を指し、その構成要素が用いられる時に対象者の身体の下部の近く、又は対象者の身体の下部の方に向かっている。例えば、本発明の装置における上部トレーは、装置がユーザに着用されている時に、下部トレーより上(それより上方)に、つまり上部トレーが上顎歯列に嵌合し、下部トレーが下顎歯列に嵌合するように配置される。
【0032】
「機械的に連結された」は、直接的な物理的接触に基づいた連結を通じて、又は別の機械的構造を介してのいずれかで物理的に連結されることを意味する。
【0033】
「中間の」は、対象者の中央の矢状面の方に向かうことを意味する。
【0034】
「歯科矯正」は、対象者の歯、及び/又は顎の位置の再配置を行う機能又は装置を指す。
【0035】
「歯科矯正トレー」は、対象者の上部歯列、又は下部歯列を受け入れるための歯科用トレーを指す。歯科矯正トレーの内面は、対象者の歯を受け入れる大きさであるソケット又は凹みで、対象者の歯と直接接触する。
【0036】
「柱」は、表面から突き出て、弾性バンド等の別の構成要素に対する接着点として作用する構成要素を指す。
【0037】
「後方(posterior)」及び「後方(rearward)」は、対象者の口の後方の方向、対象者の口の後方の方に向かう、又は対象者の口の後方に隣接することを意味する。
【0038】
「右」は、対象者から見て、対象者の矢状面の右側を意味する。
【0039】
「矢状面」は、対象者の身体の上から下まで垂直に進み、対象者の身体を左部分と右部分とに分ける架空の平面を指す。
【0040】
「対象者」は、本発明の装置のユーザであって、通常は人間のユーザを指す。
【0041】
「熱可塑性」は、材料で、一般的にポリマー材料を指し、可逆の物理過程において、加熱により軟化し、冷却により硬化し得る。本発明の装置のいくつかの構成要素に用いられる熱可塑性材料は、100°Fではその形状を保ち、好ましくは212°F以下で軟らかく(変形可能に)なる。
【0042】
本明細書で用いられる「トレー」及び「歯科用トレー」は、本発明の装置の概ねU字状の部分を指し、状況次第で対象者の上顎又は下顎の歯を受け入れるための開口領域を備える。
【0043】
「上部」は、本発明の装置における構成要素の相対位置であって、使用時に対象者の身体の上部の近く、又は対象者の身体の上部の方に向かっている相対位置を指す。
【0044】
本発明の装置に対して「垂直」とは、対象者の矢状面及び/又は冠状面にほぼ平行な面、つまりそのような平行面の15度以内への配置を指す。好ましくは、垂直は対象者の頭又は脚の方に向かう、又は対象者の頭又は脚から離れる方向を指す。
【0045】
「備える(comprise)」の用語、及び「備える(comprising)」、「備える(comprises)」等のその用語の変形は、他の付加物、構成要素、整数、又は工程を除外することを意図していない。本明細書で用いられる、「a」、「an」、及び「the」の用語、及び類似の指示語は、文脈においてそれらの使用が特定されない限りは、単数及び複数の両方を含むと解釈されるべきである。左や右といった相対語について、その用語は、他の向きが示されない場合、本発明の装置がユーザによって着用される時に、装置のユーザの視点からと解釈されるべきである。
【0046】
[口腔内装置]
本発明の装置10は、一般的には一対の歯科用トレー15、上部トレー100、及び下部トレー200を備え、それらは睡眠時無呼吸を回避するように、協働して対象者の顎を位置づける。上部トレー100は対象者の上顎歯列に嵌合し、一方で下部トレー200は対象者の下顎歯列に嵌合する。本発明の装置のトレー部分15は、内面21、外面23、右側12、左側14、前方部分16、及び後方部分18を有し、トレー部分15のそれぞれが、対象者の歯列に適合するようトレー15の一方の水平側に形成された、概ねU字型の歯受容受け部20を備える。
【0047】
一実施形態において、受け部20は、対象者の歯を受け入れ、トレー15の内面21上で歯と接触するように構成される。受け部20は、側面の切れ目のない壁であって、その壁は対象者の歯の一部又は全部の頬側及び口唇側の一部又は全部を覆うように、対象者の歯の冠状面に面する底面から、それぞれ上顎又は下顎に向けて延在する、つまり頬側壁22及び唇側壁24を備える。以下で更に説明するように、トレー15は、対象者の既存の歯列に一致するように形成することができ、又は好ましい実施形態において、トレー15は、既存の歯列及び/又は対象者の上顎及び/又は下顎の形状の変更を実現するように形成され得る。
【0048】
トレー15の外側部分は、受け部20と反対のトレーの水平側、つまりトレー15の外面23に形成された冠状面30を備える。各トレー15は、トレー15のそれぞれの側面に配置された一対の噛み合わせ用パッド35であって、下部噛み合わせ用パッド40又は上部噛み合わせ用パッド50のいずれかを更に備える。下部噛み合わせ用パッド40又は上部噛み合わせ用パッド50は、各トレー15と一体形成されてもよいし、各トレー15に結合されてもよい。図示した実施形態において、噛み合わせ用パッド35は、無呼吸の治療を補助すべく上顎と下顎とを離し、更に、上部トレー100の上部切端面101と、下部トレー200の下部切端面201との間に開口5を設けて空気が対象者の口を通るようにする。このように上顎及び下顎を離すことで対象者の口を若干空けた位置で維持することは、無呼吸を治療することも補助する。しかしながら、他の実施形態では、上部切端面101と下部切端面201は互いに接触してもよい。
【0049】
図示した実施形態において、それぞれの下部噛み合わせ用パッド40は、下部トレー200の冠状面30に対して遠位に、つまり対象者が本発明の装置10を着用した時に上側に延在する突出部を備える。下部噛み合わせ用パッド40は、下部トレー200のそれぞれの側12、14の前方部分16、図示した実施形態におけるトレー200の下部冠状面30の前方に位置するが、(上部噛み合わせ用パッド50が前方に位置する)他の実施形態においては、下部噛み合わせ用パッド40は、比較的後ろの位置に位置してもよい。下部噛み合わせ用パッド40は、上部トレー100の前方部分の対応する冠状面30と接触するための、概ね水平の冠状面42を備える。下部噛み合わせ用パッド40は、噛み合わせ用パッド40の後方部分において後向きの係合面44を更に備え、これは冠状面42から下部トレー200の外面23の冠状面30に下方に延在する。
【0050】
上部トレー100は同様に、それぞれが上部トレー100の外面23から下方に延在する一対の上部噛み合わせ用パッド50を備える。上部噛み合わせ用パッド50は、下部トレー200の後方部分の対応する冠状面30と接触するための、概して水平の冠状面52と、上部噛み合わせ用パッド50の前方部分の前向きの接触面又は連結端54とを備える。それぞれの上部噛み合わせ用パッド50は、上部トレー100の冠状面30から遠位に、つまり対象者が本発明の装置10を着用した時に下方に延在し、下部トレー200の後方部分の対応する冠状面に接触するための概ね水平の冠状面52を含む、突出部を備える。本発明の装置10は、好ましくは、ユーザによる着用時に、上部噛み合わせ用パッド50の冠状面52が下部トレー200の後方部分の外側の冠状面30と接触し、同時に下部噛み合わせ用パッド40の冠状面42が上部トレー100の前方部分の冠状面30と接触するように構成される。
【0051】
本発明の口腔内装置10の独特の構成は、アキシャルインサート300の使用である。インサート300は、トレー15の一方に取り付け、本発明の装置10の他方のトレー15の噛み合わせ用パッド35と係合するように構成される。図示した実施形態において、インサート300は、上部トレー100に取り付けられ、下部トレーの下部噛み合わせ用パッド40と係合する。噛み合わせ用パッド35及びインサート300は、協働して、本発明の装置10のユーザの上顎及び下顎の相対的な前方―後方位置を限定及び規定する。
図10から12に好例を示すように、それぞれのインサート300は、係合面302と、右側面304と、左側面306と、係合面302の反対側に取り付け端310とを備える。インサート300は、冠状面(上部トレー100に取り付けられる場合は下面)330と、冠状面330の反対側のトレー接触面(上面)332とを更に備える。インサート300の取り付け端310が上部トレーの連結端54と係合する場合、インサート300のトレー接触面は上部トレー100の冠状面30に接し、インサート300の冠状面330は外側に(下側に)向く。冠状面330は、好ましくは上部噛み合わせ用パッド50の冠状面52と平行であって、より好ましくは、同一の面に構成される。
【0052】
上部トレー100にインサート300を保持すべく、取り付け端310及び連結端54には、好ましくは相互に嵌る締め要素が設けられる。図示した実施形態において、インサート300の取り付け端310は、上部トレー100の連結端54とさねはぎ式に係合し、すなわち横方向に広がるくさび312が連結端54に形成された凹部56に嵌るようにする。当業者に明らかであるように、インサート300には代替的に溝を設け、連結端54に前方に突出する「舌部」が構成されてもよく、又は対応する円形の穴に嵌るように適合された円形の球体等の異なる構成の突出部を用いてもよい。インサート300を上部トレー100に機械的に取り付けるのに他の構成を用いてもよい。一代替例において、インサート300は、上部噛み合わせ用パッド100に拡張ネジで取り付けられ、それによりインサート300の長さを所望の場合更に調節することを可能にしてもよい。 インサート300は、下部噛み合わせ用パッド40等、下部トレー200に代替的に取り付けられ得ることも、当業者に明らかであろう。図示した実施形態において、くさび312の側311、313、及び315は、本発明の装置10においてインサートをしっかりと保持すべく、好ましくは溝又は凹部56と締り嵌めを形成する。好ましい実施形態において、インサート300及び/又は上部噛み合わせ用パッド50は弾性材料から形成され、取り付け端310の舌部は、凹部56よりも若干大きい寸法で形成され、したがって舌部が凹部56内に付勢されると、凹部56内に保持するのを補助する外向きの力が加わる。
【0053】
上部トレー100に取り付けられると、インサート300の前向きの係合面302は、本発明の装置10がユーザに着用された時に、下部噛み合わせ用パッド40の後向きの係合面44と接触するように配置される。例えば
図1に示されるように、インサートの係合面302が下部噛み合わせ用パッドの係合面44に接触すると、上顎に対してユーザの下顎の後方への動きが制限され、それによって睡眠時無呼吸を緩和する。
【0054】
インサートの係合面(前面)302及び下部噛み合わせ用パッドの係合面(後面)44は、上顎の係合面の発達を果たすべく互いに作用する、好ましくは角度のついた対向面である。図示した実施形態に示されるように、下部噛み合わせ用パッド40の後面(係合面)44及びインサートの前面(係合面)302の両方に角度がつけられており、トレー15が縦に閉じる時に、カミング作用により下顎を前進させるよう補助する。係合面44は、好ましくは上方及び前方に傾斜した非垂直の角度に配置される。この係合面44は、不規則、非平坦、弓状、凹状又は凸状の表面、若しくは上記のスライド係合を実現する他の表面構造を採用することができる。インサートの係合面302と下部噛み合わせ用パッドの係合面44との間は垂直の境界面としてもよい。
【0055】
本発明の装置10の装着時に、ユーザの上顎及び下顎の相対位置を調節可能とすべく、異なる長さの複数のインサート300を用いることができる。
図8に示されるように、異なるインサートの係合面302が、ユーザの必要に応じて前方又は後方に更に延在するように、インサート300は長さの異なる側面304、306で形成してもよい。
図11及び12において、321、322、323と付されたインサートは、長さを増大させた側面304及び306を備える。その結果、ユーザの上顎は、より長いインサートの使用を通じて、つまりより長い側面304、306で比較的前方に配置され、より短い側面のインサートの使用を通じて比較的後方に配置され得る。例えば1mm単位、0.5mm単位、又は0.25mm単位で異なる側面を有する1組のインサートを、本発明の装置10での使用に提供することができる。このため、インサート300の上部トレー100への取り付けは機械的な連結を介すると取り付けが可逆となるとともに、必要に応じて変更可能となる。しかしながら、化学的手段(例えば、接着)等の他の係合手段も利用可能である。
【0056】
上部トレー100を下部トレー200に対して一定の位置に維持すべく、上部装置トレー100及び下部装置トレー200は、アンカー60を介して機械的に連結される。特に、上部トレー100の左側部分のアンカー162は、下部トレー200の左側部分のアンカー262に機械的に連結され、上部トレー100の右側部分のアンカー162は、下部トレー200の右側部分のアンカー262に機械的に連結される。アンカーは、例えば、ボタン62、フック64、Herbstネジであり得、歯科矯正ゴムバンド、伸縮自在シム、及び/又はプラスチックコネクタ等の適切なコネクタにより機械的に連結され得る。
【0057】
図示した実施形態に示されるように、トレー100、200が特定の対象物に嵌ると、弾性バンド400が、
図1及び9に示されるように、頬側ボタン62に配置される。頬側ボタン62は、上部トレー100及び下部トレー200それぞれの外面23から頬側に延在するポスト又は突出部である。
図5に見られるように、それらは、頬側ボタン62上の弾性バンド400を良好に固定すべく、弾性バンド400を固定可能な横に延在する部分152と、頬側ボタン62の遠位端で横に延在する部分152の軸から離れて延在する円周「ボタン」部分154とを備える。
【0058】
図示した実施形態において、前方―後方の(対角線)弾性バンド420は、上部前方のアンカー162と下部の比較的後方のアンカー264との間に、上部トレー100の前方から下部トレー200の後方に延在する。この弾性から生じる力が、下顎を上顎に対して前方へと促す。第2の垂直に延在する弾性材440は、上部前方アンカー162と下部前方アンカー262との間に、一般的には両方のトレー50上の第一小臼歯の領域の間に、概ね垂直の構成で延在する。垂直に延在する弾性材440は、睡眠中に「閉口」の状態をもたらす。この弾性バンドの組み合わせにより、本発明の装置10により決定される位置に下顎が穏やかに保持され、また、下顎が開いて後退するのを防ぐことにより、鼻呼吸が促進される。
【0059】
本発明の装置10は、様々な経口適合材料、典型的にポリマーから形成され得る。一実施形態において、アクリルを用いて本発明の装置を形成してもよい。熱可塑性ポリマーが典型的に本発明の装置に用いられるが、熱硬化性、熱可塑性エラストマー、他の材料も用いることができる。用いられる熱可塑性材料は、対象者の使用時にその形を保持可能なものでなければならず、従って少なくとも約100°Fで、好ましくは、110°F、120°F以上といった、若干高い温度でも固体のままであることが好ましい。本発明のトレーを形成するのに熱可塑性材料を用いる場合、それらは好ましくは212°F以下の温度で変形可能となり、熱湯につけることによって可塑性となる。好ましくは、材料は120°F以下、好ましくは145°F以下で変形可能とならない。
【0060】
[口腔内トレー]
一実施形態において、トレー15は、対象者により用いられる一連の口腔内歯科トレーとして形成され得る。本実施形態において、異なって構成された受け部20を有するトレー15は、個々の歯を連続工程で再配置し、及び/又は対象者の上顎及び/又は下顎の構成を変更するために、時間をかけて対象者に適用される。このような多くの歯科用トレー15を連続使用すると、各装置が個々の歯を小さい単位で、典型的には2mm以下、好ましくは1mm以下、より好ましくは0.5mm以下(単一の装置を用いた結果、歯の任意の地点の最大線形平行移動を指す)移動させるように構成することが可能になる。歯科矯正トレーが本発明で用いられる場合に、本発明の装置10のインサート300の使用は多大な利点をもたらす。それは、ユーザの上顎及び下顎の最適な相対位置が、所望の長さを有するインサートを用いて設けられ、それによってユーザの睡眠時無呼吸に対処し、同時に歯科矯正を可能とするからである。
【0061】
歯科用トレー15において歯を受容する受け部20は、通常、対象者専用の中間又は端の歯列に対応する形状を有する。対象者がこのようなトレー15を最初に装着する時に、ある程度の歯は、トレー15の受け部20の未変形の形状に対してずれることになる。本実施形態において、トレー15は、ずれのある歯を収容又は適合するのに十分に弾力のある材料から形成されるが、中間又は端の配置に歯を再配置すべく、そのようなずれのある歯に対して治療の段階で求められる十分な弾性力をかけるだろう。必須ではないが、装置は、好ましくは上顎又は下顎に存在する全ての歯に嵌ることとなる。場合によって、一部の歯のみが再配置されるが、一方で再配置される歯又は複数の歯に対して弾性の再配置の力をかけるため、再配置の装置を所定の位置に保つためのベース又はアンカー領域が設けられる。
【0062】
対象者の口に一連のインクリメンタル位置調節装置を配置することにより、対象者の歯は、当初の歯列から最終的な歯列へと再配置される。一連のうちの最初のトレー装置は、当初の歯列から第1の中間の歯列まで歯を再配置するよう選択された形状を有することになる。第1の中間の歯列に近くなるか達成されたら、1またはそれ以上の更なる(中間の)装置が歯に連続的に配置され、これらの更なる装置は、第1の中間の歯列から連続的な中間の歯列を通して歯を徐々に再配置するよう選択された形状を有する。最後の装置を対象者の歯に配置することにより治療は終了し、この最後の装置は、最後の中間の歯列から最後の歯列まで徐々に歯を再配置するように選択された形状を有する。
【0063】
特定の対象者の歯を再配置する一連の歯科用トレー15を設計するために、当初の歯列と最終的な歯列を表すデジタルデータセットを特定する。当初の歯列を表す最初のデータは、視覚像として表すことができ、個々の歯を再配置するのに操作される。それから、再配置された歯を有する最終的な歯列を表す最後のデジタルデータセットが作成される。最初のデジタルデータセットは、従来技術により提供することができ、それにはX線画像のデジタル化、コンピュータ援用断層写真(CATスキャン)による作成画像、磁気共鳴画像法(MRI)による作成画像、及び/又は対象者の歯の三次元デジタル表示を作成するための当業者に周知の他の方法が含まれる。代替的には、最初のデジタルデータセットは、例えば、従来技術により(治療の前に)対象者の歯の石膏模型を作成することにより提供され、その後にこの石膏模型をレーザ又は他のスキャン技術機器を用いてスキャンして、対象者の歯の石膏模型の高解像度デジタル表示を作成するようにしてもよい。
【0064】
最初と最後のデータセットが決定されると、対象者の歯に関して中間の歯の位置を表す一連の中間のデータセットが決定される。連続的な中間のデジタルデータセットは、好ましくは最初のデータセット及び最後のデータセットにおける選択された個々の歯の位置の相違を決定し、その相違を補間することにより作成される。そのような補間は、少なくとも3つの別々の段階にわたって行われ、3つの異なる歯科用トレーに実装され得るが、より頻繁には少なくとも10、時折少なくとも25、稀に40以上の異なる歯科用トレーに実装され得る。補間は、位置の相違の一部又は全部に対して直線の補間であってもよい、代替的には非直線であってもよい。位置の相違は、歯の任意の地点の最大直線移動が、好ましくは2mm以下、通常1mm以下、及び好ましくは0.5mm以下である歯の移動に対応する。
【0065】
中間及び最後のデータセットが決定されると、例えば高速原型装置又はデジタルプリンターを用いて、装置を作成することができる。好ましくは、装置はポリマーでなり、Tru−Tain0.03インチの熱形成歯科用材料(Tru−Tain Plastics,Rochester,Minn.55902)等の適切なエラストマーの高分子の薄いシートから形成される。歯科用トレー装置の各々に対応して1つの構造体が製造される。
【0066】
上述の歯科用トレー装置及び口腔内治療におけるそれらの使用は、米国特許第5975893号、及びAlign Technology,Inc.に譲渡された米国特許第621562号、第6217325号、第6398548号、第6626666号、第6629840号、第6699037号、第7134874号、第7474307号、第8105080号、及び第8562340号を含む他の特許に記載されている。
【0067】
連続的な口腔内治療の後のように、歯又は顎の再配置が必要でない又は望まれていない実施形態において、上部及び下部の歯科用トレー15は、この分野の周知の方法で形成することができる。例えば、本発明の装置が熱可塑性のポリマーから形成される場合、上部の歯科用トレー100及び下部の歯科用トレー200は、最初に対象者の口への適合を評価した後、好ましくは、数秒から1分間にほぼ沸騰したお湯に装置をつけて装置を柔らかくする。軟らかくなった装置は、それから対象者の上部及び下部の歯と整列するよう対象者の口に入れられ、対象者は、軟らかくなった材料に歯の跡をつけるべく、軟らかくなった材料を噛むよう指示される。トレーの材料はそれから、約1分間口の中で冷却した後、装置を好ましくは冷水に更に1分間浸す。本発明の装置のトレーにおいて、他の方法及び他の材料を用いてカスタマイズされた歯の跡を形成することは、周知の方法を用いて当業者により実現され得る。
【0068】
別の実施形態において、
図14に示されるように、本発明のトレー15は、典型的にはポリマー材料から形成される、1組の別々に形成された口腔内トレー400との組み合わせで用いられるよう設計され得る。
図14に示されるように、そのような口腔内トレー400のそれぞれは、通常、上部口腔内トレー402、下部口腔内トレー404、対象者の歯の少なくともいくつかと接触する内面403、外面405、前方部分416、後方部分418、右側412、及び左側414を備える。本実施形態において、本発明の装置10の受け部20は、一般的に口腔内トレー400の外面405と接触することにより、口腔内トレー400を収容し、可逆に保持する大きさである。このようにして、対象者は、口腔内トレー400を日中使用し、それから睡眠時無呼吸から楽になるべく、本発明の装置10と組み合わせて夜間も使用し続けることができる。
【0069】
本発明は特定の好ましい実施形態を参照にかなり詳細に記載されているが、他の実施形態も実現可能である。例えば、本発明の方法に関して開示される工程は、限定することを意図せず、またそれぞれの工程が必ずしもその方法に不可欠なものであると示すことも意図せず、むしろ例示的な工程に過ぎない。従って、添付の特許請求の範囲は、本開示に含まれる好ましい実施形態の記載に限定されるべきではない。
【0070】
本明細書における数値範囲の記載は、その範囲に入るそれぞれ別個の値を個々に参照するための簡潔な方法の機能を果たすことを単に意図している。本明細書において特段記載されない限り、それぞれの個々の値は、それが個々に本明細書に記載されているかのごとく本明細書に組み込まれる。本明細書において引用される全ての文献は、その全体において参照として組み込まれる。