【実施例】
【0045】
以下に本発明の実施例を挙げて、本発明の具体的な実施態様を説明するが、本発明の技術的範囲がこれら実施例に限定されるものと理解されるべきではない。
なお、実施例中、溶液H−NMR、固体C13−NMR、IR(顕微ATR法、顕微透過法)、粉末X線回折および結晶径は、以下の方法により測定した。
(1)溶液H-NMR
間接的検出液体NMRプローブを用いた500MHz NMR(アジレントテクノロジー株式会社製)を用いて、下記条件下で測定を行った。
分析条件:
Relaxation delay: 1.5 sec
Pulse degrees: 45.0°
Acquisition time: 3.5 sec
Repetitions: 32
(2)固体C13-NMR
3.2mm HXY MAS固体NMRプローブを用いた600MHz NMR(アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて、下記条件下で測定を行った。
分析条件:
Contact time: 10 ms
Acquisition time: 100 ms
Recycle delay: 1 min
Total scan: 16
(3)IR
(i)顕微ATR法
ATR PRO450-SとFT/IR-6100(日本分光株式会社製)を用いて行った。
(ii)顕微透過法
IRT-5000とFT/IR-6100(日本分光株式会社製)を用いて行った。
(4)粉末X線回折
X線回折装置:X’s Pert PRO MPD(スペクトリウム株式会社製)
ターゲット:Cu
X線管電流:40mV
X線管電圧:45kV
走査範囲:2θ=4.0〜40.0°
前処理:めのう製乳鉢を用いて粉砕。
(5)結晶径(メジアン径(D
50))
日本薬局方の粒度測定法のふるい分け法の振とう法に準拠して測定した。
詳しくは、1個のふるいの上により粗い網目のふるいを順次積み重ね、最上段のふるいの上に試験粉体を置き、ふるいを振動させた後、各ふるい上に残留する試料質量を量り、粉体の質量基準百分率(%)を求めた。測定装置は音波ふるい分け式自動粒度分布測定器(RPS-105M セイシン企業製)を用い、ふるいは、JIS規格のふるい(ふるい径2mm、1.4mm、1mm、850μm、600μm、500μm、425μm、355μm、300μm、250μm、150μm、106μm)を用いた。
さらに、粒度分布の中央値に対応する粒子径(メジアン径(D
50))を下記の式に基づき算出した。
【数1】
【化3】
【0046】
[実施例1]
温度計、リービッヒ冷却管、攪拌機(DM-30、アズワン株式会社製)を取り付けた4つ口フラスコ(500mL)に酢酸ナトリウム40g、酢酸31mL及び水72mgを加えた。フラスコをシリコンオイル(KF-96、信越化学工業株式会社製)で満たしたオイルバスに入れ、回転数100〜200rpmで撹拌しながらフラスコ内温度が140〜160℃となるようホットプレート(MR3001、Heidolph Instrument GmbH & Co.KG製)を用いて加熱した。
白色粉末が溶解し懸濁状態になった後、容器壁面に白色結晶が付着し始めた際に加熱を止め、その後容器内の温度が下がり始めると、撹拌の回転数を50rpm程度に下げ、結晶が析出し始めると、撹拌の回転数を再度100〜200rpm程度まで上げた。
温度が下がった時点で結晶を取り出し、pH4.5〜4.8となるまで過剰量の酢酸を60℃の加温により除去した。収率:98%(総量に対して)、メジアン径(D
50):1500μm
また、得られた結晶について、溶液H−NMR、固体C13−NMR、IR(顕微ATR法、顕微透過法)及び粉末X線回折を行った。溶液H−NMR、固体C13−NMR及びIRの測定の結果を以下に示す。また、得られた粉末X線回折パターンを上記表1及び
図1に示す。
【0047】
(1)溶液H−NMR
化学シフト23.66、179.59ppmにおいてピークが検出された。
(2)固体C13−NMR
化学シフト1.998ppmにおいてピークが検出された。
(3)IR
(i)顕微ATR法
452.225、636.394、922.771、1400.07、1698.02 cm
-1においてピークが検出された。
(ii)顕微透過法
937.235、1403.92、1713.44、3425.92 cm
-1においてピークが検出された。
【0048】
[比較例1]
比較例として、市販品の二酢酸ナトリウム粉末(大東化学株式会社製「サンミエース
TM 42」、平均粒子径:100μm以下(カタログ値))を使用した。実施例1と同条件で、溶液H−NMR、固体C13−NMR、及び粉末X線回折を行った。溶液H−NMR、固体C13−NMR及びの測定の結果を以下に示す。また、得られた粉末X線回折パターンを上記表2及び
図2に示す。
【0049】
(1)溶液H−NMR
化学シフト23.67、179.55ppmにおいてピークが検出された。
(2)固体C13−NMR
化学シフト1.998ppmにピークにおいてピークが検出された。
【0050】
[比較例2]
市販の二酢酸ナトリウム試薬(和光純薬工業株式会社製)を使用した。該粉末について、実施例1と同条件でIR(顕微ATR法、顕微透過法)を行った。IRの測定の結果を以下に示す。
(1)IR
(i)顕微ATR法
452.225、636.394、925.664、1401.03、1698.02 cm
-1においてピークが検出された。
(ii)顕微透過法
943.02、1404.89、1711.51、3427.85 cm
-1においてピークが検出された。
【0051】
上記のように、比較例1の従来結晶の溶液H−NMR及び固体C13−NMRの測定の結果は、実施例1の結晶と同様であり、比較例2の二酢酸ナトリウム試薬のIRの測定結果は、実施例1の結晶と同様であった。一方で、比較例1で得られた粉末X線回折パターンは、上記表2及び
図2で示されるように、実施例1の結晶とは異なるものであった。
【0052】
[試験例1]結晶形の比較
実施例1で得られた二酢酸ナトリウム結晶及び比較例1の従来結晶を、デジタルマイクロスコープKH-7700(株式会社ハイロックス製)により撮影し、結晶形を比較した(
図3)。
図3より、実施例1の結晶(
図3A)は、比較例1の従来結晶(
図3B)よりも結晶径が大きいことが分かる。
【0053】
[試験例2]安定性の比較
実施例1で得られた結晶及び比較例1の結晶の安定性を、pH測定により比較した。
まず、両試料を入れたシャーレを精密恒温器(DF42、ヤマト科学株式会社製)により110℃で乾燥後、各々0.5gを水に溶かして50 mLとし、そのpHを経時的(0、10、20、30、40min)に測定した。その結果を表3及び
図4に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
乾燥温度110℃におけるpH安定性は、比較例1が20分以降不安定なのに対し、実施例1は安定していた。20分以降では、本発明の結晶の方が酢酸の揮発が少なく、pHが上昇しないと考えられる。よって、実施例1は比較例1と比較してより安定であると推測される。比較例1は微粉末であるが、実施例1は立方体のような結晶構造をしており、結晶構造の違いが安定性に寄与していると考えられる。
【0056】
[実施例2]
温度計、リービッヒ冷却管、攪拌機(DM-30、アズワン製)を取り付けた4つ口フラスコ(500mL)に酢酸ナトリウム60g、酢酸53.1mLを加えた。回転数150〜200rpmで撹拌しながら、シリコンオイル(KF-96、信越シリコン製)を満たしたオイルバス(OB-200AM、アズワン製)の温度を180℃に設定し、フラスコ内温度が150〜160℃となるよう加熱した。
白色粉末が完全に溶解し液体となった後、オイルバスを冷却しフラスコ内温度を120〜150℃にした。温度が安定した時に、フラスコ内に種結晶(150〜500μm、1.2g)を加えた。その後、撹拌の回転数を110〜160rpmに下げ、結晶を析出させた。
その後、結晶を取り出して室温まで戻し、目標のpH(4.5〜4.8)となるまで過剰量の酢酸を70℃の加温により除去した。
【0057】
[実施例3]
温度計、リービッヒ冷却管、攪拌機(DM-30、アズワン製)を取り付けた4つ口フラスコ(500mL)に酢酸ナトリウム60g、酢酸58.6mLを加えた。回転数170〜180rpmで撹拌しながら、シリコンオイル(KF-96、信越シリコン製)を満たしたオイルバス(OB-200AM、アズワン製)の温度を180℃に設定し、フラスコ内温度が150〜160℃となるよう加熱した。
白色粉末が完全に溶解し液体となった後、オイルバスを冷却しフラスコ内温度を120〜150℃にした。温度が安定した時に、フラスコ内に種結晶(150〜500μm、1.2g)を加えた。その後、撹拌の回転数を120〜165rpmに下げ、結晶を析出させた。
その後、結晶を取り出して室温まで戻し、目標のpH(4.5〜4.8)となるまで過剰量の酢酸を70℃の加温により除去した。
【0058】
[実施例4]
温度計、リービッヒ冷却管、攪拌機(DM-30、アズワン製)を取り付けた4つ口フラスコ(500mL)に酢酸ナトリウム60g、酢酸41.8mLを加えた。回転数200rpmで撹拌しながら、シリコンオイル(KF-96、信越シリコン製)を満たしたオイルバス(OB-200AM、アズワン製)の温度を180℃に設定し、フラスコ内温度が150〜160℃となるよう加熱した。
白色粉末が完全に溶解し液体となった後、オイルバスを冷却しフラスコ内温度を120〜150℃にした。温度が安定した時に、フラスコ内に種結晶(150μm以下、1.0g)を加えた。その後、徐冷し、撹拌の回転数を150rpmに下げ、結晶を析出させた。
その後、結晶を取り出して室温まで戻し、目標のpH(4.5〜4.8)となるまで過剰量の酢酸を75℃の加温により除去した。
【0059】
[実施例5]
温度計、リービッヒ冷却管、攪拌機(DM-30、アズワン製)を取り付けた4つ口フラスコ(500mL)に酢酸ナトリウム60g、酢酸46.0mL、水2.17mLを加えた。回転数50〜110rpmで撹拌しながら、シリコンオイル(KF-96、信越シリコン製)を満たしたオイルバス(OB-200AM、アズワン製)の温度を180℃に設定し、フラスコ内温度が150〜160℃となるよう加熱した。
白色粉末が完全に溶解し液体となった後、徐冷し、結晶を析出させた。
その後、結晶を取り出して室温まで戻し、目標のpH(4.5〜4.8)となるまで過剰量の酢酸を70℃の加温により除去した。
【0060】
[試験例3]
上記結晶径(メジアン径(D
50))の測定方法にしたがって、比較例1及び2の結晶、並びに実施例2〜5で得られた結晶の粒度分布およびメジアン径(メジアン径(D
50))を測定し、比較した。その結果を、表4に示す。
【0061】
【表4】
上記表4に示す粒度分布およびメジアン径の結果から、本発明の結晶は、従来の結晶よりも大きな粒子径を有することが明らかである。
【0062】
[試験例4]安定性の比較
実施例2及び3で得られた結晶及び比較例1の結晶の安定性を、pH測定により比較した。
まず、両試料を入れたシャーレを精密恒温器(DF42、ヤマト科学株式会社製)により110℃で乾燥後、各々0.5gを水に溶かして50 mLとし、そのpHを経時的(0、10、20、30、40、50、60min)に測定した。その結果を表5及び
図5に示す。
【0063】
【表5】
【0064】
乾燥温度110℃におけるpH安定性は、比較例1が40分以降不安定なのに対し、実施例2及び3は安定していた。40分以降では、本発明の結晶の方が酢酸の揮発が少なく、pHが上昇しないと考えられる。よって、実施例2及び3は比較例1と比較してより安定であると推測される。比較例1は微粉末であるが、実施例2及び3は立方体のような結晶構造をしており、結晶構造の違いが安定性に寄与していると考えられる。
【0065】
[実施例6]透析用A剤の製造
塩化ナトリウム602.88g、塩化カリウム8.40g、塩化カルシウム21.60g、塩化マグネシウム11.60gをハイスピードミキサー(型番LFS-GS-2J、深江パウテック株式会社製)に仕込み、予め混合(アジテータ回転数230rpm、チョッパー回転数350rpm、ジャケット温度55℃)した。塩化カリウム6.496g、精製水13.256gを水浴により90℃程度に加熱し、塩化カリウムを溶解させた懸濁液をバインダーとして混合物に添加し、混合・造粒を行った。バインダーを添加し造粒を行った後、120℃2時間の条件下で乾燥し、乾燥物をアルミ袋に充填し自然冷却した。
得られた塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムからなる造粒物(A1剤)のうち46.73gにブドウ糖10.50g、二酢酸ナトリウム結晶2.00gを添加し、混合後、保存包装容器に充填し、A剤を得た。得られたA剤の処方は、以下の表6に示すとおりである。
【0066】
【表6】
【0067】
[実施例7]透析用A1剤の製造
塩化ナトリウム602.88g、塩化カリウム8.40g、塩化カルシウム21.60g、塩化マグネシウム11.60gをハイスピードミキサー(LFS-GS-2J、深江パウテック株式会社製)に仕込み、予め混合(アジテータ回転数230rpm、チョッパー回転数350rpm、ジャケット温度55℃)した。塩化カリウム6.496g、酢酸ナトリウム7.93g、精製水13.256gを水浴により90℃程度に加熱し、塩化カリウム及び酢酸ナトリウム溶解させた懸濁液をバインダーとして混合物に添加し、混合・造粒を行った。バインダー(結合剤)を添加し造粒を行った後、120℃2時間の条件下で乾燥し、乾燥物をアルミ袋に充填し自然冷却し、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなるA1剤を得た。
【0068】
[比較例3]透析用A1剤の製造
塩化ナトリウム602.88g、塩化カリウム7.936g、塩化カルシウム19.565gを実施例7と同条件にて予め混合した。塩化カリウム6.496g、塩化マグネシウム10.04g、酢酸ナトリウム7.93g、精製水13.256gを水浴により90℃程度に加熱し、塩化カリウム及び酢酸ナトリウムを溶解させた懸濁液をバインダー(結合剤)として混合物に添加し、混合及び造粒を行った。バインダーを添加し造粒を行った後、実施例7と同条件にて乾燥及び冷却し、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなるA1剤を得た。
【0069】
[試験例5]各A1剤における含量均一性の比較
実施例7及び比較例3で得られた各透析用A1剤46.73gを、精製水により正確に200mLとし、これを133倍希釈して高速液体クロマトグラフ(HPLC)にて各種陽イオンを定量し、偏析を確認した。HPLC分析条件は下記の通りである。その結果を表7に示す。
[HPLCの分析条件]
装置:高速液体クロマトグラフ(LC-20AD、株式会社島津製作所製)
カラム:IC YS-50(株式会社東亜ディーケーケー製)
カラム温度:40℃
サンプル量:10μL
移動相:5mM メタンスルホン酸、1mM 18-クラウン-6
流量:0.5mL/min
【0070】
表7に各種陽イオンの定量値を理論値に対する%で示した。
【表7】
【0071】
表7に示す通り、実施例7では比較例3と比べて理論値に非常に近い組成の製剤となっており、含量均一性に優れていることが分かる。
【0072】
[試験例6]ブドウ糖分解物(5-HMF量)及び酢酸量の測定
実施例1で得られた二酢酸ナトリウム結晶、比較例1の従来結晶、並びに比較例2の二酢酸ナトリウム試薬を用いて、実施例6に従って製造した各A剤59.23gを、キンダリー透析剤4E(扶桑薬品工業株式会社製)の保存袋(ポリエチレン製)に充填した。これらを、40±1℃、75±5%RHの条件下にて4週間保存し、開始時及び4週間後における5-HMF量及び酢酸量を測定した。
【0073】
(1)5-HMF類の測定
各A剤を59.23g量りとり、水に溶かして正確に200mLとし、自記分光光度計(UV-2400PC、株式会社島津製作所製)にて紫外可視吸光度測定法により試験開始時及び開始4週間後の波長284nmにおける吸光度を測定した。その結果を表8に示す。
【0074】
【表8】
上記表8より、実施例1で得られた結晶を使用したA剤における4週間後の5−HMF値は、比較例1及び比較例2を使用したA剤と比較すると約1/2程度の値であり、糖の分解を抑制されていることが分かる。
【0075】
(2)酢酸量の定量
各A剤を59.23g量りとり、水に溶かして正確に200mLとし、これを40倍希釈して高速液体クロマトグラフ(HPLC)にて酢酸を定量した。HPLC分析条件は下記の通りである。その結果を表9に示す。
[HPLCの分析条件]
装置:高速液体クロマトグラフシステム(LC-10Avp、株式会社島津製作所製)
カラム:PCI-305S(Shodex)
カラム温度:40℃
サンプル量:10μL
移動相:過塩素酸(60%)を1.7mL量りとり、水を加えて1000mLとした。
流量:0.97mL/min
【0076】
【表9】
上記表9より、実施例1で得られた結晶を使用したA剤では、比較例1及び2を使用したA剤の場合よりも酢酸の低下量が低く、酢酸の揮発が抑えられていることが分かる。
【0077】
以上より、本発明の結晶を使用した透析剤は、従来結晶を使用したものよりも、ブドウ糖の分解及び酢酸の揮発が抑制された安定な製剤である。