特許第6774988号(P6774988)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 扶桑薬品工業株式会社の特許一覧

特許6774988新規二酢酸ナトリウム結晶及び該結晶を含有する固形透析用製剤
<>
  • 特許6774988-新規二酢酸ナトリウム結晶及び該結晶を含有する固形透析用製剤 図000016
  • 特許6774988-新規二酢酸ナトリウム結晶及び該結晶を含有する固形透析用製剤 図000017
  • 特許6774988-新規二酢酸ナトリウム結晶及び該結晶を含有する固形透析用製剤 図000018
  • 特許6774988-新規二酢酸ナトリウム結晶及び該結晶を含有する固形透析用製剤 図000019
  • 特許6774988-新規二酢酸ナトリウム結晶及び該結晶を含有する固形透析用製剤 図000020
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774988
(24)【登録日】2020年10月7日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】新規二酢酸ナトリウム結晶及び該結晶を含有する固形透析用製剤
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/43 20060101AFI20201019BHJP
   C07C 53/10 20060101ALI20201019BHJP
   A61K 35/14 20150101ALN20201019BHJP
   A61K 9/20 20060101ALN20201019BHJP
   A61K 47/02 20060101ALN20201019BHJP
   A61K 47/12 20060101ALN20201019BHJP
   A61K 47/26 20060101ALN20201019BHJP
   A61P 7/08 20060101ALN20201019BHJP
【FI】
   C07C51/43
   C07C53/10CSP
   !A61K35/14 Z
   !A61K9/20
   !A61K47/02
   !A61K47/12
   !A61K47/26
   !A61P7/08
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-138229(P2018-138229)
(22)【出願日】2018年7月24日
(62)【分割の表示】特願2015-547778(P2015-547778)の分割
【原出願日】2014年11月12日
(65)【公開番号】特開2018-193387(P2018-193387A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2018年8月23日
(31)【優先権主張番号】特願2013-234114(P2013-234114)
(32)【優先日】2013年11月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000238201
【氏名又は名称】扶桑薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】嶋村 英雄
(72)【発明者】
【氏名】村上 忠隆
(72)【発明者】
【氏名】倉田 康憲
(72)【発明者】
【氏名】加藤 綾歌
【審査官】 高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−239587(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/143013(WO,A1)
【文献】 特許第3433979(JP,B2)
【文献】 中国特許出願公開第1448145(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M
A61K
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムの混合物を調製し、
(2)該混合物に対して、塩化カリウムと水との溶液、又は塩化カリウムと酢酸ナトリウムと水との溶液若しくは懸濁液を添加して、造粒を行い、
(3)得られた造粒物を乾燥し、
(4)該造粒物に、ブドウ糖及び二酢酸ナトリウム結晶を添加し、混合する、
工程を含む、固形透析用製剤の製造方法であって、二酢酸ナトリウム結晶が、300〜3000μmの範囲のメジアン径を有し、かつ回折角2θ=4.0〜40.0°の走査範囲内に、11.16、13.65、15.77、19.33、20.19、20.90、21.66、22.38、23.73、25.04、26.28、27.47、28.61、29.80、30.78、31.82、33.83、34.76、35.69、36.60、38.38、39.22°(それぞれ±0.2°)から選択されるピークの組合せを有する粉末X線回折パターンを有する、二酢酸ナトリウムの結晶である、方法。
【請求項2】
二酢酸ナトリウム結晶が単結晶である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
二酢酸ナトリウム結晶が回折角2θ=4.0〜40.0°の走査範囲内に、11.16、13.65、15.77、19.33、20.19、20.90、21.66、22.38、23.73、25.04、26.28、27.47、28.61、29.80、30.78、31.82、33.83、34.76、35.69、36.60、38.38、39.22°(それぞれ±0.2°)からなるピークの組合せを有する粉末X線回折パターンを有するものである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
二酢酸ナトリウム結晶が下記表1に示される粉末X線回折パターンを有するものである、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【表1】
【請求項5】
次の工程を含むものである、請求項1〜のいずれかに記載の製造方法:
(1)酢酸と酢酸ナトリウムとを1.5:1〜1:2(酢酸:酢酸ナトリウム)のモル比で混合し、
(2)該混合物に、該混合物の全重量の0〜2重量%の水を添加し、
(3)水の添加後、該混合物を130〜250℃に加熱して溶解させ、
(4)必要に応じて冷却後種結晶を添加し、冷却する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、日本国特許出願第2013−234114号について優先権を主張するものであり、ここに参照することによって、その全体が本明細書中へ組み込まれるものとする。
本発明は、新規な二酢酸ナトリウム結晶、該結晶を含有する固形透析用製剤または組成物(以下、「固形透析用製剤」を総称する)、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酢酸ナトリウム(ナトリウムジアセテート)は、酢酸と酢酸ナトリウムのモル比が1:1の結晶性の粉末粒子である。食品では、酸味料(粉末酢酸、寿司の素)やpH調整剤等の食品添加物、防黴剤や金属封鎖剤、防粘剤等として使用されている。また、腎不全患者用の固形透析用製剤では、pH調整剤である酢酸の揮発を防止する目的で含有させることが知られている(特許文献1〜3)。
【0003】
二酢酸ナトリウムは、主に酢酸と炭酸ナトリウム又は水酸化ナトリウムの混合により得られる(非特許文献1)。また、二酢酸ナトリウムは、酢酸ナトリウムに醸造酢を霧状に噴霧することによっても製造することができる(特許文献4)。
【0004】
しかしながら、上記のようにして製造された従来市販されている二酢酸ナトリウムは、結晶サイズが小さく、外気や熱に対する安定性が低いため、酢酸が容易に揮発し酢酸臭が発生する。そのため、透析剤に使用する場合、pHの変動や、製造過程や医療現場で透析剤を溶解する際に酢酸臭が発生し、作業に支障をきたすといった問題が生じていた。
【0005】
一方、食品分野において、酢酸臭を低減させる従来技術として、マルチトールやエリスロトール、ベタイン等を添加してマスキングする技術が提案されている(特許文献5及び6等)。しかしながら、マスキングに必要なこれらの添加剤の添加量が多く、医薬品である透析剤への使用は不向きであった。
【0006】
また、透析用剤の製造工程において、造粒物に酢酸を混入した後にその臭気を吸引する方法が提案されている(特許文献7及び8)。しかしながら、臭気を吸引する方法では、吸引後の経時的な酢酸の揮発を抑えることはできなかった。
【0007】
透析剤には、腎不全患者の酸塩基平衡を是正するために炭酸水素ナトリウムが含有されており、他の電解質成分との反応を避けるため、通常、A剤(塩化カルシウムや塩化マグネシウムを含み、炭酸水素ナトリウムを含まない製剤)とB剤(炭酸水素ナトリウム)に分けて製造され、用時混合し、透析剤として使用する。従来、A剤は溶液タイプが用いられていたが、大量であり取り扱いに不便であることから、固型化(粉末化)された固形透析剤が普及している。固形透析用剤のA剤の製造方法として、塩化カリウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウムの懸濁液をバインダー(結合剤)として使用して調製される方法が知られている(特許文献9)。しかしながら、該方法では、十分な含量均一性を示すA剤を製造することができなかった。
【0008】
また、従来の透析剤にはpH調整剤として主に酢酸が8〜12mEq/L使用されているが、これは生体内の基準値よりも80〜120倍多い。酢酸の血中濃度が上昇することにより顕著なアレルギー反応(酢酸不耐症)を示す報告もあることから(非特許文献2)、より基準値に近い、例えば酢酸濃度が5mEq/L以下である低酢酸濃度の透析剤が必要とされている。このような透析剤として、例えば、総酢酸イオンが2mEq/L以上6mEq/L未満である低酢酸透析剤が開発されている(特許文献10〜12)。
【0009】
また、酢酸を用いた固形透析剤の場合、製剤中の酢酸及び酢酸ナトリウムのモル比が1:3.6〜4.3の比率であれば酢酸臭が発生せず、この範囲を外れると強い酢酸臭が発生することが報告されている(特許文献13)。しかしながら、低酢酸濃度の固形透析剤を製造する場合、上記比率で添加するとpHが高くなり、B剤と混合した際に炭酸カルシウムの微粒子が発生する。一方、微粒子を発生させないpH範囲で製造する場合、酢酸及び酢酸ナトリウムの比率が1:1となり、上記比率の範囲外となるため非常に強い酢酸臭が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3433979号公報
【特許文献2】特開平10−259133号公報
【特許文献3】特開平11−114054号公報
【特許文献4】特許第4299752号公報
【特許文献5】特開2003−144115号公報
【特許文献6】特許第3693889号公報
【特許文献7】特許第4001062号公報
【特許文献8】特許第4370729号公報
【特許文献9】特許第4878233号公報
【特許文献10】特許第5376480号
【特許文献11】特許第5517321号
【特許文献12】特許第5517322号
【特許文献13】特開2007−131563号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J.C.S. Perkin2.(1975)15−18.
【非特許文献2】芦沢麻美子ら:九州人工透析研究会会誌、26,87(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、安定性が高く、酢酸の揮発を長期間抑えることができる新規の二酢酸ナトリウム結晶、及び酢酸の揮発及びブドウ糖の分解を抑制でき、酢酸臭が低減された固形透析用製剤を提供することにある。
さらに、本発明の課題は、含量均一性に優れた固形透析用製剤を製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の性質を有する二酢酸ナトリウム結晶が、安定性が高く、酢酸の揮発を長期間抑えることができること、そして、上記結晶を含有させること、特定の製造方法を使用することなどにより、酢酸の揮発を抑制し、酢酸臭が低減され、酢酸の揮発及びブドウ糖の分解が低減され、安定した固形透析用製剤を得ることができること、加えて、酢酸臭を抑えた低酢酸固形透析剤を得ることができること、さらに、塩化カリウム(及び酢酸ナトリウム)懸濁液をバインダー(結合剤)として使用することにより、含量均一性に優れた固形透析用製剤を得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明は、以下のものを含む。
[1] 300〜3000μmの範囲のメジアン径を有する、二酢酸ナトリウムの結晶。
[2] 単結晶である、上記[1]に記載の結晶。
[3] 回折角2θ=4.0〜40.0°の走査範囲内に、11.16、13.65、15.77、19.33、20.19、20.90、21.66、22.38、23.73、25.04、26.28、27.47、28.61、29.80、30.78、31.82、33.83、34.76、35.69、36.60、38.38、39.22°(それぞれ±0.2°)から選択されるピークの組合せを有する粉末X線回折パターンを有する、二酢酸ナトリウムの結晶。
[4] 回折角2θ=4.0〜40.0°の走査範囲内に、11.16、13.65、15.77、19.33、20.19、20.90、21.66、22.38、23.73、25.04、26.28、27.47、28.61、29.80、30.78、31.82、33.83、34.76、35.69、36.60、38.38、39.22°(それぞれ±0.2°)からなるピークの組合せを有する粉末X線回折パターンを有する、二酢酸ナトリウムの結晶。
[5] 後記表1に示される粉末X線回折パターンを有する、二酢酸ナトリウムの結晶。
[6] 図1に示される粉末X線回折パターンを有する、二酢酸ナトリウムの結晶。
[7] 次の工程を含む方法により製造することができる、二酢酸ナトリウムの結晶:
(1)酢酸と酢酸ナトリウムとを1.5:1〜1:2(酢酸:酢酸ナトリウム)のモル比で混合し、
(2)該混合物に、該混合物の全重量の0〜2重量%の水を添加し、
(3)水の添加後、該混合物を130〜250℃に加熱して溶解させ、
(4)必要に応じて冷却後種結晶を添加し、冷却する。
[8] (1)酢酸と酢酸ナトリウムとを1.5:1〜1:2(酢酸:酢酸ナトリウム)のモル比で混合し、
(2)該混合物に、該混合物の全重量の0〜2重量%の水を添加し、
(3)水の添加後、該混合物を130〜250℃に加熱して溶解させ、
(4)必要に応じて冷却後種結晶を添加し、冷却する、
工程を含む、二酢酸ナトリウムの結晶の製造方法。
[9] 上記[1]〜[7]のいずれかに記載の結晶を含有する、固形透析用製剤。
[10] (1)塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムの混合物を調製し、
(2)該混合物に対して、塩化カリウムと水との溶液、又は塩化カリウムと酢酸ナトリウムと水との溶液若しくは懸濁液を添加して、造粒を行い、
(3)得られた造粒物を乾燥する、
工程を含む、低酢酸濃度固形透析用製剤の製造方法。
[11] (1)塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムの混合物を調製し、
(2)該混合物に対して、塩化カリウムと水との溶液、又は塩化カリウムと酢酸ナトリウムと水との溶液若しくは懸濁液を添加して、造粒を行い、
(3)得られた造粒物を乾燥し、
(4)該造粒物に、ブドウ糖及び二酢酸ナトリウム結晶を添加し、混合する、
工程を含む、固形透析用製剤の製造方法。
[12] 二酢酸ナトリウム結晶が、上記[1]〜[7]のいずれかに記載の結晶である、上記[11]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の二酢酸ナトリウム結晶は、安定性(例えば、熱又は外気に対する安定性)が高く、酢酸の揮発を抑えることができる。したがって、食品添加物、防黴剤や金属封鎖剤、防粘剤、透析剤等の医薬品などに好適に使用できる。例えば、該結晶を含有させることで、酢酸の揮発が低減され、酢酸臭が低減された固形透析用製剤を得ることができる。
また、本発明の結晶の製造方法は、冷却時間を変えることにより、得られる結晶の大きさを容易に調整することができる。したがって、使用目的に応じた結晶サイズの結晶を製造することができる。
本発明の固形透析用製剤は、上記結晶を含有するものであり、酢酸の揮発を抑制し、酢酸臭が低減されたものである。したがって、本発明の固形透析用製剤は、酢酸臭を低減するためのマスキング剤が不要である。また、固形透析用製剤にブドウ糖が存在する場合、従来市販されている二酢酸ナトリウムに比べ酢酸の揮発が抑制されることから酢酸によるブドウ糖の分解も抑制することができる。さらに、酢酸臭が低減された低濃度酢酸透析剤も製造することができる。
また、本発明の固形透析用製剤の製造方法は、塩化カリウム(及び酢酸ナトリウム)懸濁液をバインダー(結合剤)として使用することにより、含量均一性に優れた透析剤を製造することができる。該方法において、上記結晶を使用することにより、酢酸の揮発を抑制し、酢酸臭が低減され、酢酸の揮発及びブドウ糖の分解が低減され、安定した、含量均一性に優れた固形透析用製剤を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1で得られた結晶の粉末X線回折パターンを示す。
図2】比較例1の従来結晶の粉末X線回折パターンを示す。
図3】実施例1で得られた結晶(A)及び比較例1の従来結晶(B)をデジタルマイクロスコープ(株式会社ハイロックス製「KH−7700」)により撮影した画像を示す。
図4】実施例1で得られた結晶及び比較例1の従来結晶の安定性を、経時的にpH測定することにより比較したグラフを示す。
図5】実施例2及び3で得られた結晶及び比較例1の従来結晶の安定性を、経時的にpH測定することにより比較したグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、従来の結晶に比べて顕著に大きい結晶径を有し得る結晶を提供する。すなわち、本発明の結晶は、通常300〜3000μm、好ましくは500〜2000μmの範囲の結晶径を有する。結晶径が大きい程、比表面積が低減するため、酢酸の揮発が起こりにくくなり、熱及び外気に対する安定性も向上する。
上記結晶径は、複数の結晶の粒子が結合した集合体についての径ではなく、結晶の粒子一つ一つについての径を意味する。
なお、上記結晶径は、後述する日本薬局方の粒度測定法のふるい分け法の振とう法に準拠して測定した場合の「メジアン径(D50)」である。
【0017】
本発明の結晶は、好ましくは単結晶である。本発明でいう「単結晶」とは、一つの固体(結晶の粒子)が、数種の結晶多形の混合物ではなく、実質的に単一の結晶形から構成されるものである。
【0018】
本発明の二酢酸ナトリウム結晶は、好ましくは、回折角2θ=4.0〜40.0°の走査範囲内に、11.16、13.65、15.77、19.33、20.19、20.90、21.66、22.38、23.73、25.04、26.28、27.47、28.61、29.80、30.78、31.82、33.83、34.76、35.69、36.60、38.38、39.22°(それぞれ±0.2°)から選択されるピークの組合せを有する粉末X線回折パターンを有する。
【0019】
より好ましくは、本発明の二酢酸ナトリウム結晶は、回折角2θ=4.0〜40.0°の走査範囲内に、11.16、13.65、15.77、19.33、20.19、20.90、21.66、22.38、23.73、25.04、26.28、27.47、28.61、29.80、30.78、31.82、33.83、34.76、35.69、36.60、38.38、39.22°(それぞれ±0.2°)からなるピークの組合せを有する粉末X線回折パターンを有する。
【0020】
さらに好ましくは、本発明の二酢酸ナトリウム結晶は、下記表1又は図1に示される粉末X線回折パターンを有するものである。
[表1]
【表1】
上記粉末X線回折パターンは、下記条件で測定したものである。
[測定条件]
X線回折装置:X’s Pert PRO MPD(株式会社スペクトリウム社製)
ターゲット:Cu
X線管電流:40mV
X線管電圧:45kV
走査範囲:2θ=4.0〜40.0°
前処理:めのう製乳鉢を用いて粉砕。
【0021】
上記粉末X線回折パターンは、従来の結晶とは明らかに異なるものである。下記表2又は図2に示されるように、従来の結晶は、上記測定条件下で粉末X線回折パターンを測定した場合、本発明の結晶には存在しない多くのピークを有する。これは、本発明の結晶が単結晶であるのに対して、従来の結晶は数種の結晶多形の混合物であるためと考えられる。
[表2]
【表2】
【0022】
本発明の結晶は、次の工程を含む方法により製造することができる。
(1)酢酸と酢酸ナトリウムとを1.5:1〜1:2(酢酸:酢酸ナトリウム)のモル比で混合し、
(2)該混合物に、該混合物の全重量の0〜2重量%の水を添加し、
(3)水の添加後、該混合物を130〜250℃に加熱して溶解させ、
(4)必要に応じて冷却後種結晶を添加し、冷却する。
【0023】
上記工程(1)において、酢酸と酢酸ナトリウムとのモル比(酢酸:酢酸ナトリウム)は、通常1.5:1〜1:2であり、例えば、1.5:1〜1:1、1.4:1〜1:2、1.27:1〜1:2、1.1:1〜1:2、1:1〜1:2、1:1〜1:1.5である。得られる結晶の収率及び結晶径の均一性が向上する点から、好ましい酢酸と酢酸ナトリウムとのモル比(酢酸:酢酸ナトリウム)は、1.5:1〜1:1である。
【0024】
上記工程(2)において、水の添加量は、該混合物の全重量に対して、通常0〜2重量%、好ましくは0〜0.5重量%、より好ましくは0〜0.2重量%である。上記方法において、水は、酢酸と酢酸ナトリウムとの混合物の溶解を助けるために添加されるものであり、添加しなくてもよい。水を添加しないことが好ましい。一般に、酢酸のモル量が酢酸ナトリウムのモル量よりも多い場合、水の添加量を小さくすることができる。
【0025】
上記工程(3)において、酢酸と酢酸ナトリウムと(必要により水と)の混合物を溶解させる際の温度は、通常130〜250℃、好ましくは150〜200℃、より好ましくは150〜170℃である。
【0026】
上記工程(4)は、溶解した酢酸と酢酸ナトリウムと水との溶液から、二酢酸ナトリウム結晶を析出させるための工程である。加熱を停止して放冷しても、冷却器等を用いて強制的に冷却してもよい。
この際、必要に応じて、冷却後種結晶(シード)を添加してもよい。種結晶の添加量は特に限定されないが、酢酸と酢酸ナトリウムとの混合物の全重量に対して、通常0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%、より好ましくは0.9〜1.1重量%である。一般に、種結晶を添加すると、得られる結晶径は大きくなる。
冷却時間は特に限定されないが、冷却時間を変えることにより、本発明の結晶の大きさを容易に調整することができる。一般に、冷却時間を長くすれば、得られる結晶径は大きくなる。ここで、冷却時間は、加熱停止後から結晶が析出するまでの間の時間をいう。
【0027】
上記工程(4)後、得られた結晶を、通常40〜80℃、好ましくは50〜60℃で加温し、余分な酢酸を除去することもできる。この際、pHが4.5〜4.8になるまで加温することが好ましい。
【0028】
例えば、次のように本発明の結晶を製造することができる。まず、酢酸と酢酸ナトリウム(1.5:1〜1:2)、全量の0〜2重量%の水を冷却管付4つ口フラスコに入れ、ミキサーにて撹拌させる。その後150〜170℃に加温し酢酸ナトリウムの結晶がほとんど溶解し、その時の温度で一定時間(10分程度)保つ。その後、必要により冷却して酢酸と酢酸ナトリウムとの混合物の全量の1重量%の種結晶を添加し、結晶析出後、室温(約1〜30℃)まで戻し、必要により乾燥機で余分な酢酸を40〜80℃で除去する。
【0029】
上記結晶は、熱又は外気等に対する安定性が高く、酢酸の揮発が抑制されたものであるので、固形透析用製剤に好適に使用することができる。本発明の結晶を含有する固形透析用製剤は、酢酸臭が低減され、酢酸の揮発及び該酢酸によるブドウ糖の分解が抑制され、安定したものとなる。
【0030】
本発明の固形透析用製剤は、上記結晶を含有するものである。該固形透析製剤としては、二酢酸ナトリウムを含有し得るものであれば特に限定されないが、例えば、特許第3433979号公報、特開平10−259133号公報、特開平11−114054号公報などに記載される固形透析用製剤が挙げられる。
また、上記結晶を用いることにより酢酸臭が低減された低酢酸濃度固形透析剤も製造することができる。本発明の低酢酸濃度固形透析剤とは、透析液中の酢酸濃度が5mEq/L以下、好ましくは4mEq/L以下の透析剤をいう。
【0031】
好ましい本発明の固形透析用製剤は、A剤中に上記二酢酸ナトリウム結晶をpH調整剤として含有するものであり、例えば、電解質成分として塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等を含み、ブドウ糖、及びpH調整剤として上記二酢酸ナトリウム結晶を含むA剤が挙げられる。この場合、A剤中に含有される各成分の量は、通常、塩化ナトリウム75〜85重量%、塩化カリウム1〜3重量%、塩化カルシウム2〜4重量%、塩化マグネシウム1〜2重量%、ブドウ糖10〜20重量%、二酢酸ナトリウム結晶1〜8重量%、酢酸ナトリウム0〜5重量%の範囲内であり、また、mEq/Lの単位では、Naは132〜140、Kは2.0〜2.5、Ca2+は2.5〜3.5、Mg2+は1.0〜1.5、Clは105〜110、CHCOOは2〜12、ブドウ糖は0.5〜2.5g/Lの範囲内である。
なお、低酢酸濃度透析剤の場合、酢酸濃度は上記のように、5mEq/L以下(好ましくは4mEq/L以下)となるようにする。
【0032】
上記A剤は、従来既知の方法、例えば、特許第3433979号公報、特開平10−259133号公報、特開平11−114054号公報などに記載の方法により製造することができるが、後述する方法により製造することが好ましい。
【0033】
また、本発明は、塩化カリウム(及び酢酸ナトリウム)懸濁液をバインダー(結合剤)として使用することを含む固形透析用製剤の製造方法を提供する。すなわち、本発明の方法は、下記製造フロー図で示されるように、次の工程を含む。
(1)塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムの混合物を調製し、
(2)該混合物に対して、塩化カリウムと水との溶液、又は塩化カリウムと酢酸ナトリウムと水との溶液若しくは懸濁液を添加して、造粒を行い、
(3)得られた造粒物を乾燥する。
【化1】
【0034】
上記工程(1)において、好ましくは、塩化ナトリウムが75〜90重量%、塩化カリウムが0.5〜2.5重量%、塩化カルシウムが2.0〜5.0重量%、塩化マグネシウムが1.0〜3.0重量%の成分量になるように混合することができる。
【0035】
上記工程(2)において、好ましくは、使用する溶液又は懸濁液中には、塩化カリウム0.5〜2.5重量%、酢酸ナトリウム0〜6重量%の範囲内の成分量が含まれる。また、使用する水は、特に限定されないが、通常、精製水である。
上記溶液又は懸濁液を調製する場合、通常50〜150℃、好ましくは80〜100℃に加熱し、塩化カリウム及び酢酸ナトリウムを溶解させることが好ましい。
【0036】
上記工程(3)において、好ましくは80〜150℃、30〜120分の条件下で乾燥することができる。
【0037】
また、上記方法において、本発明の結晶を使用することで、酢酸の揮発及びブドウ糖の分解が低減され、安定した、含量均一性に優れた固形透析用製剤を得ることができる(下記製造フロー図参照)。
【化2】
したがって、本発明の固形透析用製剤の製造方法は、次の工程を含むものである。
(1)塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムの混合物を調製し、
(2)該混合物に対して、塩化カリウムと水との溶液、又は塩化カリウムと酢酸ナトリウムと水との溶液若しくは懸濁液を添加して、造粒を行い、
(3)得られた造粒物を乾燥し、
(4)該造粒物に、ブドウ糖及び二酢酸ナトリウム結晶を添加し、混合する。
【0038】
上記工程(1)において、好ましくは塩化ナトリウムが75〜90重量%、塩化カリウムが0.5〜2.5重量%、塩化カルシウムが2.0〜5.0重量%、塩化マグネシウムが1.0〜3.0重量%の成分量で混合することができる。
【0039】
上記工程(2)において、好ましくは、使用する溶液又は懸濁液中には、塩化カリウム0.5〜2.5重量%、酢酸ナトリウム0〜6.0重量%の範囲内の成分量が含まれる。また、使用する水は、特に限定されないが、通常、精製水である。
上記溶液又は懸濁液を調製する場合、通常50〜150℃、好ましくは80〜100℃に加熱し、塩化カリウム及び酢酸ナトリウムを溶解させることが好ましい。
【0040】
上記工程(3)において、好ましくは80〜150℃、30〜120分の条件で乾燥する。
【0041】
上記工程(4)において、混合物全量に対して、二酢酸ナトリウム結晶は1.0〜8.0重量%、ブドウ糖は10〜20重量%の範囲内の成分量を添加する。
【0042】
上記のようにして得られるA剤は、用時、B剤とともに、それぞれ水で溶解、希釈後、混合して透析液を調製することができる。ここでB剤は、炭酸水素ナトリウム)など、従来既知のものを使用することができる。
【0043】
また、本発明は、上記固形透析用製剤(特にA剤)を製造するための、上記結晶の使用を提供する。
さらに、本発明は、透析液を製造するための、上記結晶または上記固形透析用製剤(特にA剤)の使用を提供する。
【0044】
さらに、本発明は、上記結晶または上記固形透析用製剤(特にA剤)を使用して製造された透析液を使用する、透析方法を提供する。例えば、上記A剤を、用時、B剤(炭酸水素ナトリウムなど、従来既知のもの)とともに、それぞれ水で溶解、希釈後、混合して透析液を調製し、これを用いて透析を行うことができる。当該透析方法における対象(患者)、対象疾患等としては、従来既知のものが挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下に本発明の実施例を挙げて、本発明の具体的な実施態様を説明するが、本発明の技術的範囲がこれら実施例に限定されるものと理解されるべきではない。
なお、実施例中、溶液H−NMR、固体C13−NMR、IR(顕微ATR法、顕微透過法)、粉末X線回折および結晶径は、以下の方法により測定した。
(1)溶液H-NMR
間接的検出液体NMRプローブを用いた500MHz NMR(アジレントテクノロジー株式会社製)を用いて、下記条件下で測定を行った。
分析条件:
Relaxation delay: 1.5 sec
Pulse degrees: 45.0°
Acquisition time: 3.5 sec
Repetitions: 32
(2)固体C13-NMR
3.2mm HXY MAS固体NMRプローブを用いた600MHz NMR(アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて、下記条件下で測定を行った。
分析条件:
Contact time: 10 ms
Acquisition time: 100 ms
Recycle delay: 1 min
Total scan: 16
(3)IR
(i)顕微ATR法
ATR PRO450-SとFT/IR-6100(日本分光株式会社製)を用いて行った。
(ii)顕微透過法
IRT-5000とFT/IR-6100(日本分光株式会社製)を用いて行った。
(4)粉末X線回折
X線回折装置:X’s Pert PRO MPD(スペクトリウム株式会社製)
ターゲット:Cu
X線管電流:40mV
X線管電圧:45kV
走査範囲:2θ=4.0〜40.0°
前処理:めのう製乳鉢を用いて粉砕。
(5)結晶径(メジアン径(D50))
日本薬局方の粒度測定法のふるい分け法の振とう法に準拠して測定した。
詳しくは、1個のふるいの上により粗い網目のふるいを順次積み重ね、最上段のふるいの上に試験粉体を置き、ふるいを振動させた後、各ふるい上に残留する試料質量を量り、粉体の質量基準百分率(%)を求めた。測定装置は音波ふるい分け式自動粒度分布測定器(RPS-105M セイシン企業製)を用い、ふるいは、JIS規格のふるい(ふるい径2mm、1.4mm、1mm、850μm、600μm、500μm、425μm、355μm、300μm、250μm、150μm、106μm)を用いた。
さらに、粒度分布の中央値に対応する粒子径(メジアン径(D50))を下記の式に基づき算出した。
【数1】
【化3】
【0046】
[実施例1]
温度計、リービッヒ冷却管、攪拌機(DM-30、アズワン株式会社製)を取り付けた4つ口フラスコ(500mL)に酢酸ナトリウム40g、酢酸31mL及び水72mgを加えた。フラスコをシリコンオイル(KF-96、信越化学工業株式会社製)で満たしたオイルバスに入れ、回転数100〜200rpmで撹拌しながらフラスコ内温度が140〜160℃となるようホットプレート(MR3001、Heidolph Instrument GmbH & Co.KG製)を用いて加熱した。
白色粉末が溶解し懸濁状態になった後、容器壁面に白色結晶が付着し始めた際に加熱を止め、その後容器内の温度が下がり始めると、撹拌の回転数を50rpm程度に下げ、結晶が析出し始めると、撹拌の回転数を再度100〜200rpm程度まで上げた。
温度が下がった時点で結晶を取り出し、pH4.5〜4.8となるまで過剰量の酢酸を60℃の加温により除去した。収率:98%(総量に対して)、メジアン径(D50):1500μm
また、得られた結晶について、溶液H−NMR、固体C13−NMR、IR(顕微ATR法、顕微透過法)及び粉末X線回折を行った。溶液H−NMR、固体C13−NMR及びIRの測定の結果を以下に示す。また、得られた粉末X線回折パターンを上記表1及び図1に示す。
【0047】
(1)溶液H−NMR
化学シフト23.66、179.59ppmにおいてピークが検出された。
(2)固体C13−NMR
化学シフト1.998ppmにおいてピークが検出された。
(3)IR
(i)顕微ATR法
452.225、636.394、922.771、1400.07、1698.02 cm-1においてピークが検出された。
(ii)顕微透過法
937.235、1403.92、1713.44、3425.92 cm-1においてピークが検出された。
【0048】
[比較例1]
比較例として、市販品の二酢酸ナトリウム粉末(大東化学株式会社製「サンミエースTM 42」、平均粒子径:100μm以下(カタログ値))を使用した。実施例1と同条件で、溶液H−NMR、固体C13−NMR、及び粉末X線回折を行った。溶液H−NMR、固体C13−NMR及びの測定の結果を以下に示す。また、得られた粉末X線回折パターンを上記表2及び図2に示す。
【0049】
(1)溶液H−NMR
化学シフト23.67、179.55ppmにおいてピークが検出された。
(2)固体C13−NMR
化学シフト1.998ppmにピークにおいてピークが検出された。
【0050】
[比較例2]
市販の二酢酸ナトリウム試薬(和光純薬工業株式会社製)を使用した。該粉末について、実施例1と同条件でIR(顕微ATR法、顕微透過法)を行った。IRの測定の結果を以下に示す。
(1)IR
(i)顕微ATR法
452.225、636.394、925.664、1401.03、1698.02 cm-1においてピークが検出された。
(ii)顕微透過法
943.02、1404.89、1711.51、3427.85 cm-1においてピークが検出された。
【0051】
上記のように、比較例1の従来結晶の溶液H−NMR及び固体C13−NMRの測定の結果は、実施例1の結晶と同様であり、比較例2の二酢酸ナトリウム試薬のIRの測定結果は、実施例1の結晶と同様であった。一方で、比較例1で得られた粉末X線回折パターンは、上記表2及び図2で示されるように、実施例1の結晶とは異なるものであった。
【0052】
[試験例1]結晶形の比較
実施例1で得られた二酢酸ナトリウム結晶及び比較例1の従来結晶を、デジタルマイクロスコープKH-7700(株式会社ハイロックス製)により撮影し、結晶形を比較した(図3)。図3より、実施例1の結晶(図3A)は、比較例1の従来結晶(図3B)よりも結晶径が大きいことが分かる。
【0053】
[試験例2]安定性の比較
実施例1で得られた結晶及び比較例1の結晶の安定性を、pH測定により比較した。
まず、両試料を入れたシャーレを精密恒温器(DF42、ヤマト科学株式会社製)により110℃で乾燥後、各々0.5gを水に溶かして50 mLとし、そのpHを経時的(0、10、20、30、40min)に測定した。その結果を表3及び図4に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
乾燥温度110℃におけるpH安定性は、比較例1が20分以降不安定なのに対し、実施例1は安定していた。20分以降では、本発明の結晶の方が酢酸の揮発が少なく、pHが上昇しないと考えられる。よって、実施例1は比較例1と比較してより安定であると推測される。比較例1は微粉末であるが、実施例1は立方体のような結晶構造をしており、結晶構造の違いが安定性に寄与していると考えられる。
【0056】
[実施例2]
温度計、リービッヒ冷却管、攪拌機(DM-30、アズワン製)を取り付けた4つ口フラスコ(500mL)に酢酸ナトリウム60g、酢酸53.1mLを加えた。回転数150〜200rpmで撹拌しながら、シリコンオイル(KF-96、信越シリコン製)を満たしたオイルバス(OB-200AM、アズワン製)の温度を180℃に設定し、フラスコ内温度が150〜160℃となるよう加熱した。
白色粉末が完全に溶解し液体となった後、オイルバスを冷却しフラスコ内温度を120〜150℃にした。温度が安定した時に、フラスコ内に種結晶(150〜500μm、1.2g)を加えた。その後、撹拌の回転数を110〜160rpmに下げ、結晶を析出させた。
その後、結晶を取り出して室温まで戻し、目標のpH(4.5〜4.8)となるまで過剰量の酢酸を70℃の加温により除去した。
【0057】
[実施例3]
温度計、リービッヒ冷却管、攪拌機(DM-30、アズワン製)を取り付けた4つ口フラスコ(500mL)に酢酸ナトリウム60g、酢酸58.6mLを加えた。回転数170〜180rpmで撹拌しながら、シリコンオイル(KF-96、信越シリコン製)を満たしたオイルバス(OB-200AM、アズワン製)の温度を180℃に設定し、フラスコ内温度が150〜160℃となるよう加熱した。
白色粉末が完全に溶解し液体となった後、オイルバスを冷却しフラスコ内温度を120〜150℃にした。温度が安定した時に、フラスコ内に種結晶(150〜500μm、1.2g)を加えた。その後、撹拌の回転数を120〜165rpmに下げ、結晶を析出させた。
その後、結晶を取り出して室温まで戻し、目標のpH(4.5〜4.8)となるまで過剰量の酢酸を70℃の加温により除去した。
【0058】
[実施例4]
温度計、リービッヒ冷却管、攪拌機(DM-30、アズワン製)を取り付けた4つ口フラスコ(500mL)に酢酸ナトリウム60g、酢酸41.8mLを加えた。回転数200rpmで撹拌しながら、シリコンオイル(KF-96、信越シリコン製)を満たしたオイルバス(OB-200AM、アズワン製)の温度を180℃に設定し、フラスコ内温度が150〜160℃となるよう加熱した。
白色粉末が完全に溶解し液体となった後、オイルバスを冷却しフラスコ内温度を120〜150℃にした。温度が安定した時に、フラスコ内に種結晶(150μm以下、1.0g)を加えた。その後、徐冷し、撹拌の回転数を150rpmに下げ、結晶を析出させた。
その後、結晶を取り出して室温まで戻し、目標のpH(4.5〜4.8)となるまで過剰量の酢酸を75℃の加温により除去した。
【0059】
[実施例5]
温度計、リービッヒ冷却管、攪拌機(DM-30、アズワン製)を取り付けた4つ口フラスコ(500mL)に酢酸ナトリウム60g、酢酸46.0mL、水2.17mLを加えた。回転数50〜110rpmで撹拌しながら、シリコンオイル(KF-96、信越シリコン製)を満たしたオイルバス(OB-200AM、アズワン製)の温度を180℃に設定し、フラスコ内温度が150〜160℃となるよう加熱した。
白色粉末が完全に溶解し液体となった後、徐冷し、結晶を析出させた。
その後、結晶を取り出して室温まで戻し、目標のpH(4.5〜4.8)となるまで過剰量の酢酸を70℃の加温により除去した。
【0060】
[試験例3]
上記結晶径(メジアン径(D50))の測定方法にしたがって、比較例1及び2の結晶、並びに実施例2〜5で得られた結晶の粒度分布およびメジアン径(メジアン径(D50))を測定し、比較した。その結果を、表4に示す。
【0061】
【表4】
上記表4に示す粒度分布およびメジアン径の結果から、本発明の結晶は、従来の結晶よりも大きな粒子径を有することが明らかである。
【0062】
[試験例4]安定性の比較
実施例2及び3で得られた結晶及び比較例1の結晶の安定性を、pH測定により比較した。
まず、両試料を入れたシャーレを精密恒温器(DF42、ヤマト科学株式会社製)により110℃で乾燥後、各々0.5gを水に溶かして50 mLとし、そのpHを経時的(0、10、20、30、40、50、60min)に測定した。その結果を表5及び図5に示す。
【0063】
【表5】
【0064】
乾燥温度110℃におけるpH安定性は、比較例1が40分以降不安定なのに対し、実施例2及び3は安定していた。40分以降では、本発明の結晶の方が酢酸の揮発が少なく、pHが上昇しないと考えられる。よって、実施例2及び3は比較例1と比較してより安定であると推測される。比較例1は微粉末であるが、実施例2及び3は立方体のような結晶構造をしており、結晶構造の違いが安定性に寄与していると考えられる。
【0065】
[実施例6]透析用A剤の製造
塩化ナトリウム602.88g、塩化カリウム8.40g、塩化カルシウム21.60g、塩化マグネシウム11.60gをハイスピードミキサー(型番LFS-GS-2J、深江パウテック株式会社製)に仕込み、予め混合(アジテータ回転数230rpm、チョッパー回転数350rpm、ジャケット温度55℃)した。塩化カリウム6.496g、精製水13.256gを水浴により90℃程度に加熱し、塩化カリウムを溶解させた懸濁液をバインダーとして混合物に添加し、混合・造粒を行った。バインダーを添加し造粒を行った後、120℃2時間の条件下で乾燥し、乾燥物をアルミ袋に充填し自然冷却した。
得られた塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムからなる造粒物(A1剤)のうち46.73gにブドウ糖10.50g、二酢酸ナトリウム結晶2.00gを添加し、混合後、保存包装容器に充填し、A剤を得た。得られたA剤の処方は、以下の表6に示すとおりである。
【0066】
【表6】
【0067】
[実施例7]透析用A1剤の製造
塩化ナトリウム602.88g、塩化カリウム8.40g、塩化カルシウム21.60g、塩化マグネシウム11.60gをハイスピードミキサー(LFS-GS-2J、深江パウテック株式会社製)に仕込み、予め混合(アジテータ回転数230rpm、チョッパー回転数350rpm、ジャケット温度55℃)した。塩化カリウム6.496g、酢酸ナトリウム7.93g、精製水13.256gを水浴により90℃程度に加熱し、塩化カリウム及び酢酸ナトリウム溶解させた懸濁液をバインダーとして混合物に添加し、混合・造粒を行った。バインダー(結合剤)を添加し造粒を行った後、120℃2時間の条件下で乾燥し、乾燥物をアルミ袋に充填し自然冷却し、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなるA1剤を得た。
【0068】
[比較例3]透析用A1剤の製造
塩化ナトリウム602.88g、塩化カリウム7.936g、塩化カルシウム19.565gを実施例7と同条件にて予め混合した。塩化カリウム6.496g、塩化マグネシウム10.04g、酢酸ナトリウム7.93g、精製水13.256gを水浴により90℃程度に加熱し、塩化カリウム及び酢酸ナトリウムを溶解させた懸濁液をバインダー(結合剤)として混合物に添加し、混合及び造粒を行った。バインダーを添加し造粒を行った後、実施例7と同条件にて乾燥及び冷却し、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなるA1剤を得た。
【0069】
[試験例5]各A1剤における含量均一性の比較
実施例7及び比較例3で得られた各透析用A1剤46.73gを、精製水により正確に200mLとし、これを133倍希釈して高速液体クロマトグラフ(HPLC)にて各種陽イオンを定量し、偏析を確認した。HPLC分析条件は下記の通りである。その結果を表7に示す。
[HPLCの分析条件]
装置:高速液体クロマトグラフ(LC-20AD、株式会社島津製作所製)
カラム:IC YS-50(株式会社東亜ディーケーケー製)
カラム温度:40℃
サンプル量:10μL
移動相:5mM メタンスルホン酸、1mM 18-クラウン-6
流量:0.5mL/min
【0070】
表7に各種陽イオンの定量値を理論値に対する%で示した。
【表7】
【0071】
表7に示す通り、実施例7では比較例3と比べて理論値に非常に近い組成の製剤となっており、含量均一性に優れていることが分かる。
【0072】
[試験例6]ブドウ糖分解物(5-HMF量)及び酢酸量の測定
実施例1で得られた二酢酸ナトリウム結晶、比較例1の従来結晶、並びに比較例2の二酢酸ナトリウム試薬を用いて、実施例6に従って製造した各A剤59.23gを、キンダリー透析剤4E(扶桑薬品工業株式会社製)の保存袋(ポリエチレン製)に充填した。これらを、40±1℃、75±5%RHの条件下にて4週間保存し、開始時及び4週間後における5-HMF量及び酢酸量を測定した。
【0073】
(1)5-HMF類の測定
各A剤を59.23g量りとり、水に溶かして正確に200mLとし、自記分光光度計(UV-2400PC、株式会社島津製作所製)にて紫外可視吸光度測定法により試験開始時及び開始4週間後の波長284nmにおける吸光度を測定した。その結果を表8に示す。
【0074】
【表8】
上記表8より、実施例1で得られた結晶を使用したA剤における4週間後の5−HMF値は、比較例1及び比較例2を使用したA剤と比較すると約1/2程度の値であり、糖の分解を抑制されていることが分かる。
【0075】
(2)酢酸量の定量
各A剤を59.23g量りとり、水に溶かして正確に200mLとし、これを40倍希釈して高速液体クロマトグラフ(HPLC)にて酢酸を定量した。HPLC分析条件は下記の通りである。その結果を表9に示す。
[HPLCの分析条件]
装置:高速液体クロマトグラフシステム(LC-10Avp、株式会社島津製作所製)
カラム:PCI-305S(Shodex)
カラム温度:40℃
サンプル量:10μL
移動相:過塩素酸(60%)を1.7mL量りとり、水を加えて1000mLとした。
流量:0.97mL/min
【0076】
【表9】

上記表9より、実施例1で得られた結晶を使用したA剤では、比較例1及び2を使用したA剤の場合よりも酢酸の低下量が低く、酢酸の揮発が抑えられていることが分かる。
【0077】
以上より、本発明の結晶を使用した透析剤は、従来結晶を使用したものよりも、ブドウ糖の分解及び酢酸の揮発が抑制された安定な製剤である。
図1
図2
図3
図4
図5