(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記気圧調整部は、前記キャビティに接続されたシリンダ部と、前記シリンダ部に往復移動可能に収容されたピストン部と、前記ピストン部を往復移動させる駆動部と、を有している、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の射出成形機。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る射出成形機について、
図1〜
図7を参照して説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る射出成形機の要部断面図である。
図2は、
図1の射出成形機の制御部およびそれに制御される各機能部を示す機能ブロック図である。
図3〜
図6は、
図1の射出成形機における成形品の成形動作について説明する図であって、順に型閉動作、射出動作、可塑化動作および製品取り出し動作を示す。
図7は、
図1の射出成形機において射出動作中にキャビティ内の気圧を調整する動作について説明する図である。
図7(a)は、キャビティの樹脂材料の充填率に対する目標気圧を示すグラフである。
図7(b)は、射出動作時におけるスクリューの射出速度を示すグラフである。
図7(c)は、射出動作時におけるキャビティ内の気圧を示すグラフである。以下の説明において、「前後」は、シリンダの先端側および後端側のことをいい、
図1、
図3〜
図6の左方および右方に対応する。
【0020】
本実施形態に係る射出成形機1は、移動金型K1および固定金型K2を有する金型KのキャビティCに、樹脂材料Jを射出して成形品である製品Mを製造する。
【0021】
図1に示すように、射出成形機1は、シリンダ10と、スクリュー30と、気圧調整部53と、気圧測定部57と、を有している。
【0022】
シリンダ10は、円筒形状のシリンダ本体11と、シリンダ本体11の先端(
図1左端)に取り付けられた射出ノズルであるシリンダ先端部12と、を有している。シリンダ本体11の外周面には、例えば、複数のバンドヒータからなる加熱装置13が設けられている。加熱装置13は、シリンダ先端部12にも設けられていてもよい。シリンダ先端部12は、シリンダ本体11内の空間と接続される樹脂流路14が形成されている。樹脂流路14の出口である射出口17は、固定金型K2に形成されたランナRに接続される。
【0023】
スクリュー30は、
図1に示すように、スクリュー本体31と、スクリュー本体31の先端に取り付けられたスクリューヘッド32と、を有している。
【0024】
スクリュー本体31は、円柱形状を有しており、外周面にスクリューフライトが設けられている。スクリュー本体31の後端部(
図1右側の端部、図示なし)は、後述するスクリュー駆動部60に連結されている。
【0025】
スクリューヘッド32は、円錐形状(テーパ形状)を有するヘッド部33と、ヘッド部33の後端に同軸に連なる円柱形状の軸部34と、逆流防止用の逆流防止リング35と、軸部34とスクリュー本体31との間に設けられた円形のシート36と、を有している。
【0026】
逆流防止リング35は、円筒形状を有しており、外径がシリンダ本体11の内径と略同一でかつ内径が軸部34の外径より大きくなるように形成されている。逆流防止リング35は、内側に軸部34が挿通され、軸部34に対して前後方向に移動可能である。
【0027】
逆流防止リング35は、軸部34との間に環状流路37を形成している。逆流防止リング35は、軸部34に対して前方に移動すると、シート36との間に隙間ができる。これにより、環状流路37において樹脂材料Jの流動が可能となる。また、逆流防止リング35は、軸部34に対して後方に移動すると、シート36に当接して隙間が無くなる。これにより、環状流路37において樹脂材料Jの後方への流動(逆流)が規制される。
【0028】
気圧調整部53は、気体流路59を通じてキャビティCに接続されており、キャビティC内から空気や樹脂材料Jが生じたガスなどを含む気体を吸い出しまたはキャビティC内に気体を送り込んでキャビティC内の気圧Pを調整する。気体流路59は、気体のみ通過可能に構成されている。
【0029】
気圧調整部53は、キャビティCに接続された筒状のシリンダ部54と、シリンダ部54に往復移動可能に収容されたピストン部55と、ピストン部55を往復移動させる駆動部としてのピストン駆動部56と、を有している。
【0030】
ピストン部55とピストン駆動部56とは、例えば、図示しないモータおよびボールねじ機構を有し、モータによりボールねじ機構を駆動してピストン部55をシリンダ部54内で往復移動させる。
【0031】
ピストン部55は、シリンダ部54の内部空間を2つの空間に区画している。一方の空間は、気体流路59を通じてキャビティCにつながる気圧調整空間54aであり、他方の空間は、外部に開放された残りの空間54bである。キャビティCおよび気圧調整空間54aは気密となるように構成されている。そのため、ピストン部55の移動により気圧調整空間54aの容積Vkが大きくなると、キャビティC内の気体が気圧調整空間54aに吸い出されてキャビティC内の気圧Pが低くなる。また、ピストン部55の移動により気圧調整空間54aの容積Vkが小さくなると、気圧調整空間54a内の気体がキャビティCに送り込まれてキャビティC内の気圧Pが高くなる。本実施形態において、シリンダ部54の内部空間の軸方向に直交する断面積(横断面積)は10cm
2であり、キャビティCの容積V
0は100cm
3である。
【0032】
気圧調整部53は、ピストン駆動部56によりシリンダ部54内でピストン部55を往復移動させることによってキャビティC内の気圧Pを調整することができるので、真空ポンプなどを採用した構成に比べて簡易な構成となる。なお、気圧調整部53として真空ポンプを採用してもよい。
【0033】
気圧測定部57は、気体の圧力を測定する圧力センサーであって、シリンダ部54の気圧調整空間54aに面するようにしてシリンダ部54の壁部に埋め込まれている。気圧測定部57は、気圧調整空間54a内の気圧を測定するものであるが、気圧調整空間54aはキャビティCにつながっていることから、気圧測定部57によって測定された気圧は、キャビティCの気圧Pとみなすことができる。なお、気圧測定部57は、金型Kに埋め込まれ、キャビティC内の気圧Pを直接測定するようにしてもよい。
【0034】
また、
図2に示すように、射出成形機1は、スクリュー駆動部60と、型締駆動部70と、制御部80と、を有している。
【0035】
スクリュー駆動部60は、例えば、図示しないモータ、減速機構およびボールねじ機構などを有して構成されている。スクリュー駆動部60は、シリンダ10内においてスクリュー30を回転および前後進させる。
【0036】
型締駆動部70は、例えば、図示しない型締装置が有するトグルリンク機構を屈伸させることにより、移動金型K1が取り付けられた図示しない可動ダイプレートを、固定金型K2が取り付けられた図示しない固定ダイプレートに対して進退させる。これにより、移動金型K1および固定金型K2が型閉および型開される。
【0037】
制御部80は、射出成形機1全体の動作を司る。制御部80は、例えば、CPU、メモリ(ROM、RAM、EEPROM)、各種I/Oインタフェースなどを有する組み込み機器用のマイクロコンピュータを有して構成されている。制御部80は、加熱装置13、ピストン駆動部56、スクリュー駆動部60および型締駆動部70に接続されている。制御部80は、型閉動作、射出動作、保圧動作、可塑化動作(計量動作)、型開動作および製品取り出し動作などの各種動作において、上記各機能部を制御する。また、制御部80は、気圧測定部57に接続されており、気圧測定部57から出力される信号に基づいてキャビティC内の気圧Pを取得する。
【0038】
制御部80には、表示操作部90が接続されている。表示操作部90は、射出成形機1に係る情報を表示する表示部91と、操作を入力するため操作部92と、を有している。表示部91は、制御部80からの制御信号に基づき、表示領域に各種画面を表示する。操作部92は、複数のキーを備えており、各キーに入力された操作に応じた信号を制御部80に送信する。なお、表示操作部90は、操作部92としてタッチパネルを備え、表示部91に表示領域に重ねられたタッチパネルとそこに表示したアイコンとを組み合わせて構成したソフトウェアスイッチを有していてもよい。
【0039】
本実施形態において、制御部80は、キャビティCに樹脂材料を射出する射出動作中に、気圧測定部57により測定されたキャビティC内の気圧P(例えば、気圧Pを示す数値や
図7(c)に示すグラフなど)を表示部91に表示する。
【0040】
次に、本実施形態の射出成形機1における成形品である製品Mの製造方法に係る動作の一例について説明する。
【0041】
射出成形機1の制御部80は、準備動作として、加熱装置13およびスクリュー駆動部60を制御して、溶融された樹脂材料Jが安定して射出口17から流れ出るまでパージ動作を行う。パージ動作が完了すると、制御部80は、スクリュー駆動部60を制御して、スクリュー30を回転させながら後退させ、樹脂材料Jを可塑化(溶融)しつつ1回の射出に必要となる量を、シリンダ10内のスクリュー30の前方の空間に供給する。シリンダ10を金型Kに向けて前進させて、シリンダ先端部12の射出口17を固定金型K2に形成されたランナRに接続する。
【0042】
準備動作が完了すると、制御部80は、型締駆動部70を制御して、
図3に示すように、移動金型K1および固定金型K2を重ねて型締めする(型閉動作)。
【0043】
このとき、制御部80は、型閉動作と並行してピストン駆動部56を制御して、ピストン部55を初期位置に移動させる。本実施形態において、ピストン部55の初期位置は、気圧調整空間54aの容積Vkが0となる位置(ピストン部55の位置L=0)である。気圧調整空間54aの容積Vkはピストン部55の位置Lに比例する。ピストン部55が初期位置にあるとき、キャビティC内の気圧Pは初期気圧P
0となる。本実施形態において、初期気圧P
0は大気圧である。
【0044】
次に、制御部80は、スクリュー駆動部60を制御して、
図4に示すように、スクリュー30を前進させて樹脂材料Jを金型KのキャビティCに射出する(射出動作)。
【0045】
また、制御部80は、射出動作と連動してピストン駆動部56を制御し、射出動作中にキャビティC内の気圧Pが、キャビティCにおける樹脂材料Jの充填率Fに応じて、
図7(a)に示すような目標気圧Ptとなるようにピストン部55を移動させる。
【0046】
この目標気圧Ptは、
図7(a)に示すように、射出動作開始直後から充填率Fが高くなるにしたがって初期気圧P
0(大気圧)から徐々に低くなるように設定されている。これ以外にも、例えば、
図7(a)に示す目標気圧Pt’のように、充填率Fがある程度高く(例えば30%)なってから、充填率Fが高くなるにしたがって大気圧から徐々に低くなるように設定されていてもよい。または、
図7(a)に示す目標気圧Pt’’のように、充填率Fの変化にかかわらず一定の値となるように設定されていてもよい。目標気圧Ptは、樹脂材料Jの種類やキャビティCの形状などに応じて適宜設定される。
【0047】
射出動作において、スクリュー30は、
図7(b)に示す射出速度Sで前進され、スクリュー30の前進に伴って充填率Fが徐々に高くなっていく。制御部80は、スクリュー30の前進位置に基づいて樹脂材料Jの射出量を算出し、この射出量とキャビティCの容積V
0とから充填率Fを算出する。そして、制御部80は、ピストン駆動部56を制御して、充填率Fに応じて予め設定された目標気圧Ptに基づいて算出されたピストン部55の位置Lに当該ピストン部55を移動させる。
【0048】
このピストン部55の位置Lは、気圧調整空間54aの容積Vkと比例関係を有している。本実施形態において、ピストン部55の位置Lと気圧調整空間54aの容積Vkとは、以下の式(1)の関係を有する。ただし、αは定数であり、シリンダ部54の内部空間の横断面積を示す。
【数1】
【0049】
ボイルの法則から、キャビティC内の気圧Pと、射出動作開始直前のキャビティC内の気圧(初期気圧P
0)と、キャビティCの容積V
0と、気圧調整空間54aの容積Vkと、射出動作開始直前の気圧調整空間54aの容積(初期容積Vk
0)と、キャビティCの充填率Fとは、以下の式(2)の関係を有する。なお、気体の温度は一定とみなす。
【数2】
【0050】
上記式(2)の(1−F)・V
0はキャビティCにおける空間部分(樹脂材料Jが充填されていない部分)の容積である。そして、充填率FにおけるキャビティC内の気圧Pの目標値(目標気圧)をPtとしたとき、これら式(1)、(2)からピストン部55の位置Lを求める以下の式(3)が導出される。
【数3】
【0051】
表1に、実施形態における、キャビティCの樹脂材料の充填率Fと充填率F毎に設定された目標気圧Ptおよびピストン部55の位置Lとの一例を示す。なお、表1に示す例では、初期気圧P
0である大気圧を101325Paとし、気圧調整空間54aの初期容積Vk
0を0(ピストン部55の初期位置を0)としている。また、キャビティCの容積V
0を100cm
3とし、シリンダ部54の内部空間の横断面積αを10cm
2とし、気体流路59の容積を無視している。表1において充填率F毎に設定された目標気圧Ptは、
図7(a)に示す目標気圧Ptのグラフと概ね同じ形状となる。
【0053】
制御部80は、射出動作と並行してピストン駆動部56を制御して、充填率Fに応じてピストン部55を上記表1に示すピストン部55の位置Lに移動させる。これにより、
図7(c)に示すように、射出動作中に充填率Fが高くなるにしたがってキャビティC内の気圧Pが徐々に低くなる。
【0054】
このように、制御部80が、充填率Fが高くなるにしたがってキャビティC内の気圧Pが徐々に低くなるようにピストン駆動部56を制御することで、射出動作を開始する時点でキャビティC内の気圧Pが大気圧より大幅に低くなることを回避できる。これにより、金型Kのゲートを通じてキャビティC内に流れ込んだ樹脂材料Jが飛まつ状になって拡散してしまうことを防ぐことができ、成形品の表面に斑点状のムラなどが生じることを抑制できる。また、キャビティCへの樹脂材料Jの充填が完了するまで、キャビティC内の気圧Pを低く保つことができるので、キャビティCへの樹脂材料Jの焼けや充填不良を抑制することができる。
【0055】
そして、射出動作によるキャビティCへの樹脂材料Jの充填が完了すると、制御部80は、スクリュー駆動部60を制御して、スクリュー30を前方に押圧して、樹脂材料Jに所定の保圧圧力を加えるようにする(保圧動作)。保圧動作完了後に、制御部80は、スクリュー駆動部60を制御して、
図5に示すように、スクリュー30を回転させながら後退させ、樹脂材料Jを可塑化(溶融)しつつ1回の射出に必要となる量を、シリンダ10内のスクリュー30の前方の空間に供給する(可塑化動作)。その後、樹脂材料Jが硬化すると、
図6に示すように、制御部80は型締駆動部70を制御して、移動金型K1および固定金型K2を開き(型開動作)、図示しないエジェクトピンによりキャビティCから製品Mを取り出す(製品取り出し動作)。
【0056】
以降、上記型閉動作〜上記製品取り出し動作を繰り返して製品Mの成形を行う。
【0057】
以上より、本実施形態の射出成形機1によれば、キャビティCに接続され、キャビティC内から気体を吸い出しまたはキャビティC内に気体を送り込んでキャビティC内の気圧を調整する気圧調整部53と、キャビティCに樹脂材料Jを射出する射出動作中にキャビティC内の気圧Pを調整するようピストン駆動部56を制御する制御部80と、を有する。このようにしたことから、射出動作中にキャビティC内の気圧Pを調整することができるので、キャビティC内の気圧Pを調整することによってキャビティC内の樹脂材料Jの拡散状態や流動状態を制御することができる。そのため、製品Mの表面性状の不良を効果的に抑制できる。
【0058】
また、制御部80は、キャビティC内の気圧PがキャビティCにおける樹脂材料Jの充填率Fに応じて定められた目標気圧Ptとなるようにピストン駆動部56を制御する。このようにすることで、充填率Fに応じてキャビティC内を適切な気圧Pに調整することができ、製品Mの表面性状の不良をより効果的に抑制できる。
【0059】
上述した実施形態では、ピストン部55の位置の算出にボイルの法則を用いるものであったが、ボイル・シャルルの法則を用い、上記式(1)〜(3)に代えて温度変化を考慮した式を導出して、ピストン部55の位置Lを算出するようにしてもよい。このようにすることで、キャビティC内の気圧Pをより精度よく調整できる。
【0060】
また、上述した実施形態では充填率Fに応じて予め定めたピストン部55の位置Lに当該ピストン部55を移動させるものであったが、これに限定されるものではない。これ以外にも、例えば、制御部80が、気圧測定部57によって測定されたキャビティCの気圧Pに基づいて、この気圧Pが目標気圧Ptとなるようにピストン駆動部56をフィードバック制御して、ピストン部55を移動させるようにしてもよい。このようなフィードバック制御を採用した構成においても、キャビティC内の気圧Pを精度よく調整することができる。
【0061】
また、上述した実施形態では、制御部80が、キャビティCの充填率が高くなるにしたがってキャビティC内の気圧Pが徐々に低くなるように気圧調整部53を制御する構成であったが、これに限定されるものではない。例えば、制御部80は、射出動作前にキャビティC内の気圧Pを大気圧より高い加圧上限値まで上昇させかつ射出動作中にキャビティC内の気圧を加圧上限値に保つように気圧調整部53を制御する構成を採用してもよい。このようにすることで、発泡成形において、樹脂材料の流動中に気泡が破裂してしまうことを抑制することができ、さらに、キャビティC内の気圧Pが必要以上に上昇してしまうことを防ぐことができる。そのため、樹脂材料のスムーズな流動を確保して、成形品の表面に生じるフローマークなどを抑制できる。
【0062】
上記に本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。前述の実施形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、実施形態の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。