特許第6775141号(P6775141)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6775141
(24)【登録日】2020年10月8日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】誘電体バリア放電イオン化検出器
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/70 20060101AFI20201019BHJP
【FI】
   G01N27/70
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-175501(P2016-175501)
(22)【出願日】2016年9月8日
(65)【公開番号】特開2018-40718(P2018-40718A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2019年4月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】品田 恵
(72)【発明者】
【氏名】北野 勝久
【審査官】 吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−125022(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/169419(WO,A1)
【文献】 特開2006−012681(JP,A)
【文献】 米国特許第06333632(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60−70、92
30/00−96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルゴンを含有するプラズマ生成ガスが流通するガス流路中での放電により生起させたプラズマを利用して試料ガス中の試料成分をイオン化し検出する誘電体バリア放電イオン化検出器であって、
a)誘電体から成る管であって前記ガス流路の上流側の一区画を収容する誘電体管と、
b)前記誘電体管の外壁に取り付けられた高圧電極と、
c)電気的に接地され、前記ガス流路を臨むように配置された電極であって、該ガス流路を臨む面が誘電体で被覆されると共に該面の少なくとも一部が前記プラズマ生成ガスの流れ方向において前記高圧電極より下流側に位置する接地電極と、
d)前記高圧電極に接続され、前記ガス流路中に誘電体バリア放電を生起させてプラズマを生成するべく前記高圧電極と前記接地電極の間に交流電圧を印加する交流電源と、
e)前記ガス流路の下流側の一区画であって、前記接地電極よりも下流に位置し、試料を該区画に導入する試料ガス導入手段と、前記プラズマから発せられた光によって前記試料ガス中の試料成分から生成されたイオンを収集する収集電極とを備えた電荷収集部と、
を有し、
前記誘電体管の、前記高圧電極が取り付けられている領域及び/又は該領域よりも下流且つ前記電荷収集部よりも上流の領域の内壁に半導体膜が形成されていると共に、
前記高圧電極と前記電荷収集部の間に前記接地電極が存在する状態において該高圧電極と該電荷収集部の間で沿面放電が発生し得る前記接地電極の長さの最大値を、前記高圧電極と前記電荷収集部の間における沿面放電の開始距離とした場合に、
前記高圧電極よりも下流における前記接地電極の長さが、前記高圧電極と前記電荷収集部の間における沿面放電の開始距離よりも長いことを特徴とする誘電体バリア放電イオン化検出器。
【請求項2】
アルゴンを含有するプラズマ生成ガスが流通するガス流路中での放電により生起させたプラズマを利用して試料ガス中の試料成分をイオン化し検出する誘電体バリア放電イオン化検出器であって、
a)誘電体から成る管であり、前記ガス流路の上流側の一区画を収容する誘電体管と、
b)前記誘電体管に前記プラズマ生成ガスを導入するものであって金属から成り電気的に接地された管路先端部材と、
c)前記誘電体管の外壁に取り付けられた高圧電極と、
d)電気的に接地されると共に、前記誘電体管の外壁に取り付けられ、前記プラズマ生成ガスの流通方向において前記高圧電極より上流且つ前記管路先端部材よりも下流に位置する上流側接地電極と、
e)電気的に接地されると共に、前記誘電体管の外壁に取り付けられ、前記流通方向において前記高圧電極より下流に位置する下流側接地電極と、
f)前記高圧電極に接続され、前記ガス流路中に誘電体バリア放電を生起させてプラズマを生成するべく前記高圧電極と前記上流側接地電極の間、及び前記高圧電極と前記下流側接地電極の間に交流電圧を印加する交流電源と、
g)前記ガス流路の下流側の一区画であって、前記下流側接地電極よりも下流に位置し、試料を該区画に導入する試料ガス導入手段と、前記プラズマから発せられた光によって前記試料ガス中の試料成分から生成されたイオンを収集する収集電極とを備えた電荷収集部と、
を有し、
前記誘電体管の、前記高圧電極が取り付けられている領域及び/又は該領域よりも下流且つ前記電荷収集部よりも上流の領域の内壁に半導体膜が形成されていると共に、
前記高圧電極と前記電荷収集部の間に前記下流側接地電極が存在する状態において該高圧電極と該電荷収集部の間で沿面放電が発生し得る前記下流側接地電極の長さの最大値を、前記高圧電極と前記電荷収集部の間における沿面放電の開始距離とした場合に、
前記流通方向における前記下流側接地電極の長さが前記高圧電極と前記電荷収集部の間における沿面放電の開始距離よりも長いことを特徴とする誘電体バリア放電イオン化検出器。
【請求項3】
アルゴンを含有するプラズマ生成ガスが流通するガス流路中での放電により生起させたプラズマを利用して試料ガス中の試料成分をイオン化し検出する誘電体バリア放電イオン化検出器であって、
a)誘電体から成る管であり、前記ガス流路の上流側の一区画を収容する誘電体管と、
b)前記誘電体管に前記プラズマ生成ガスを導入するものであって金属から成り電気的に接地された管路先端部材と、
c)前記誘電体管の外壁に取り付けられた高圧電極と、
d)電気的に接地されると共に、前記誘電体管の外壁に取り付けられ、前記プラズマ生成ガスの流通方向において前記高圧電極より上流且つ前記管路先端部材よりも下流に位置する上流側接地電極と、
e)電気的に接地されると共に、前記誘電体管の外壁に取り付けられ、前記流通方向において前記高圧電極より下流に位置する下流側接地電極と、
f)前記高圧電極に接続され、前記ガス流路中に誘電体バリア放電を生起させてプラズマを生成するべく前記高圧電極と前記上流側接地電極の間、及び前記高圧電極と前記下流側接地電極の間に交流電圧を印加する交流電源と、
g)前記ガス流路の下流側の一区画であって、前記下流側接地電極よりも下流に位置し、試料を該区画に導入する試料ガス導入手段と、前記プラズマから発せられた光によって前記試料ガス中の試料成分から生成されたイオンを収集する収集電極とを備えた電荷収集部と、
を有し、
前記誘電体管の、前記高圧電極が取り付けられている領域及び/又は該領域よりも上流且つ前記管路先端部材よりも下流の領域の内壁に半導体膜が形成されていると共に、
前記高圧電極と前記管路先端部材の間に前記上流側接地電極が存在する状態において該高圧電極と該管路先端部材の間で沿面放電が発生し得る前記上流側接地電極の長さの最大値を、前記高圧電極と前記管路先端部材の間における沿面放電の開始距離とした場合に、
前記流通方向における前記上流側接地電極の長さが前記高圧電極と前記管路先端部材の間における沿面放電の開始距離よりも長いことを特徴とする誘電体バリア放電イオン化検出器。
【請求項4】
前記半導体膜がダイヤモンドライクカーボン膜又は酸化チタン膜であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体バリア放電イオン化検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてガスクロマトグラフ(GC)用の検出器として好適である誘電体バリア放電イオン化検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、GC用の新しい検出器として、誘電体バリア放電プラズマによるイオン化を利用した誘電体バリア放電イオン化検出器(Dielectric Barrier Discharge Ionization Detector、以下「BID」と略す)が実用化されている(特許文献1、2、非特許文献1など参照)。
【0003】
上記文献に記載されたBIDは、大きく分けて放電部とその下方に設けられた電荷収集部とで構成されている。放電部では、石英ガラス等の誘電体から成る管(誘電体管)に周設されたプラズマ生成用電極に低周波の交流高電圧を印加することで、該誘電体管の管路内に供給された不活性ガスを電離して大気圧非平衡プラズマを形成する。そして、このプラズマから発する光(真空紫外光)や励起種などの作用により、電荷収集部内に導入された試料ガス中の試料成分をイオン化し、生成されたこのイオンを収集電極により収集して、イオンの量つまりは試料成分の量に応じた検出信号を生成する。
【0004】
前記BIDにおける放電部周辺の構成を図4に示す。放電部410は、上述のように石英などの誘電体から成る誘電体円筒管411を備え、この内部がプラズマ生成ガスとしての不活性ガスの流路となっている。誘電体円筒管411の外壁面には、それぞれ所定距離離間させて、金属(例えばSUS、銅など)から成る環状の電極が3個周設されている。これら3個の電極のうち、中央の電極412には低周波の高圧交流電圧を発生する励起用高圧交流電源415が接続されており、この電極の上下に配置された電極413、414はいずれも接地されている。以下、前記中央の電極を高圧電極412とよび、上下の電極をそれぞれ接地電極413、414とよび、これらを総称してプラズマ生成用電極とよぶ。プラズマ生成用電極と前記不活性ガスの流路との間には誘電体円筒管411の壁面が存在するから、誘電体であるこの壁面自体が電極412、413、414の表面を被覆する誘電体被覆層として機能し、誘電体バリア放電を可能としている。誘電体円筒管411内を不活性ガスが流通している状態で励起用高圧交流電源415が駆動されると、低周波の高圧交流電圧が高圧電極412とその上下に配置された接地電極413、414との間に印加される。これにより、前記二つの接地電極413、414で挟まれる領域に放電が起こる。この放電は誘電体被覆層(誘電体円筒管411の壁面)を通して行われるため誘電体バリア放電であり、これにより誘電体円筒管411中を流れるプラズマ生成ガスが広く電離されてプラズマ(大気圧非平衡プラズマ)が発生する。
【0005】
なお、上記のように高圧電極412を、2個の接地電極413、414で挟む構成とすることにより、放電で発生したプラズマが誘電体円筒管411の上流側及び下流側に広がるのを抑え、実質的なプラズマ生成領域を2個の接地電極413、414の間に制限することができる。
【0006】
BIDでは上記のようにプラズマ生成用電極の表面が誘電体で覆われているため、金属電極表面からの熱電子や二次電子の放出が抑えられる。また、誘電体バリア放電によって生じるのは中性ガス温度が低い非平衡プラズマであるため、放電部の温度変動や加熱による石英管内壁からのガス放出等のプラズマの変動要因を抑制することができる。その結果、BIDでは安定したプラズマを維持することができるため、GC用検出器として最も一般的に使用されている水素炎イオン化型検出器(Flame Ionization Detector, FID)よりも高いSN比を達成することができる。
【0007】
なお、一般に「誘電体バリア放電」には、高圧電極と接地電極の一方のみが誘電体で覆われている構成による放電(以下「片側バリア放電」とよぶ)と、高圧電極と接地電極の双方が誘電体で覆われている構成による放電(以下「両側バリア放電」とよぶ)が含まれる。非特許文献1では、両構成による放電部をそれぞれ作成してBIDとほぼ同等の構造で検出器出力を比較し、その結果、両側バリア放電の方が片側バリア放電よりも高いSN比を達成できたことを示している。
【0008】
こうしたBIDにおけるプラズマ生成用の不活性ガスとしては、特にヘリウム(He)ガス若しくはアルゴン(Ar)ガス(又はArガスを微量に添加したHeガス)が実用上広く使われる。その理由はそれぞれ以下の通りである。
(1)Heガス:Heガスによる放電光のエネルギーは約17.7 eVと非常に大きいため、ネオン(Ne)及びHe以外のほとんどの原子及び分子をイオン化し、検出することができる。FIDは無機物質をイオン化できない(従って検出もできない)ため、特に無機物質の検出に有用である。
(2)Arガス(又はArガスを微量に添加したHeガス):Arガスによる放電光のエネルギーは約11.7 eVであるため、FIDと同様に無機物質をイオン化できない。この特性は有機物検出用に特化した場合に有用である。すなわち、例えば水溶液中の微量有機物を検出する場合に、溶媒である水は検出されないため、目的である微量有機物の検出が容易になる。
【0009】
ガスの種類によって放電特性が異なるため、前記不活性ガスとしてHeガスを使用するかArガスを使用するかによってBIDの放電部における最適な電極配置(各電極の幅や、電極同士の間隔など)も異なってくる。そのため、BIDでは、例えば電極配置の異なる複数の誘電体円筒管を用意しておき、使用するガスの種類に応じた電極配置の誘電体円筒管を選択して使用できるよう構成されている。なお、以下ではプラズマ生成ガスとしてAr(又はArガスを微量に添加したHeガス)を使用するBIDを「Ar−BID」と表記し、プラズマ生成ガスとしてHeを使用するBIDを「He−BID」と表記する。
【0010】
火花放電の放電電圧に関する実験則であるパッシェンの法則に基づき、大気圧におけるHeとArの放電開始電圧を電極間距離に対してプロットすると、図5のようになる。同図から分かるように、電極間距離が同一の場合Arの放電開始電圧はHeの放電開始電圧の約2倍である。換言すると、同じ放電開始電圧で動作させるためには、Arでは電極間距離をHeの場合の1/2以下にする必要がある。BIDに用いられる誘電体バリア放電には、誘電体の材質、ガス純度、放電電源周波数、及び電源波形などのパラメータも関与するため火花放電に関する実験則であるパッシェンの法則から最適な電極配置や放電条件を予測するのは困難であるが、以上により少なくともAr−BIDではHe−BIDよりもプラズマ発生用電極の電極間距離を短くする(又は放電電圧を高くする)必要があることが分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010-60354号公報
【特許文献2】国際公開第2012/169419号公報
【特許文献3】特開2013-125022号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】品田ほか4名、「誘電体バリア放電を応用したガスクロマトグラフ用新規イオン化検出器の開発」、島津評論、第69巻、第3・4号、2013年3月29日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記の理由から、従来のAr−BIDでは、隣接する電極間の距離をHe−BIDより短くしていたが、このように構成されたAr−BIDは、He−BIDに比べてSN比が明らかに低下するという問題があった。
【0014】
こうしたAr−BIDにおけるSN比低下の原因を調べた結果、Arガス中での放電では放電可能な電極間距離が上記の通り短いにもかかわらず、一度放電が始まるとプラズマ生成領域が誘電体円筒管411全体に拡大し、結果的に誘電体円筒管411の上端に設けられた管路先端部材416及び誘電体円筒管411の下端に接続された電荷収集部の接続部材421にまで到達していることが実験的に確認された。これらの管路先端部材416及び接続部材421はいずれも金属から成り且つ電気的に接地されていることから、このときの誘電体円筒管411内の放電は、誘電体被覆された高圧電極412と誘電体被覆されていない管路先端部材416又は接続部材421との間における片側バリア放電となっており、その結果として両側バリア放電の場合に比べてSN比が低下したと考えられる。
【0015】
本発明は上記の点に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、Ar−BIDにおける片側バリア放電の発生を抑制し、高いSN比を達成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願発明者は、上記のようにプラズマ生成領域がパッシェンの法則から推定される範囲よりも拡大してしまう原因として、誘電体円筒管411の内壁とArガスとの界面に沿面放電が生じていると予測した。沿面放電は、異なる誘電体の境界面に沿って生じる放電現象であり、Ar−BIDではこれが高圧電極412から上下方向に向かって進展し、最終的に高圧電極412と管路先端部材416の間及び高圧電極412と電荷収集部の間における気体放電を誘発していると考えられる。すなわち、上述したAr−BIDでは、管路先端部材416や電荷収集部の上端付近に設けられた金属性の部材(接続部材421)が電気的に接地されているため、高圧電極412からこれらの部材416、421に向かう電位勾配が生じる。このとき、高圧電極412と前記各部材416、421の間に設けられた接地電極413、414が十分に長ければ、高圧電極412と前記各部材416、421の間がそれぞれ広範囲に亘って基準電位となるため沿面放電の進展が阻止される。しかし、上記従来のAr−BIDではこれらの接地電極413、414の長さが不十分であるために、沿面放電が、高圧電極412から接地電極413、414が配置された領域を超えて管路先端部材416又は電荷収集部まで進展してしまい、これが上記のようなプラズマ生成領域の拡大を招来しているものと考えられた。こうした予測に基づき、本願発明者がArガス中とHeガス中における沿面放電の開始距離を比較したところ、前者の方が沿面放電開始距離が長い(すなわち高圧電極412と前記各部材416、421がより離れていても沿面放電が発生し得る)ことが確認された。
【0017】
そこで、高圧電極412の上下に設けられた接地電極413、414の一方のみの長さを従来よりも大きくしてそれぞれSN比を測定したところ、下流側の接地電極414の長さを大きくした際に特にSN比が大きく改善されることが確認された。これは、プラズマ生成ガスの流通方向の下流側、すなわち電荷収集部に近い側で沿面放電が生じてプラズマ生成領域が下流側に広がった場合、電荷収集部に設けられたイオン電流検出用の収集電極に対し、高電圧による電磁ノイズの混入やプラズマからの荷電粒子の入射が生じるためと考えられる。
【0018】
このことから、Ar−BIDにおいて沿面放電を抑制するには、前記接地電極の長さ、特に高圧電極の下流側における接地電極の長さをAr−BIDにおける沿面放電の開始距離よりも長くすることが有効と考えられる。しかしながら、接地電極の長さを長くするには、図6に示すように、該接地電極514を取り付ける誘電体管511も長くする必要があり、結果的に検出器全体のサイズ増大に繋がる。BIDでは、試料ガスの気化状態を保つために電荷収集部が通常200℃以上に加熱されるので、検出器サイズの増大は誘電体管内の温度の不均一性の増大に繋がり、出力のふらつきの原因になるという問題がある。
【0019】
そこで、上記課題を解決するために成された本発明に係る誘電体バリア放電イオン化検出器は、
アルゴンを含有するプラズマ生成ガスが流通するガス流路中での放電により生起させたプラズマを利用して試料ガス中の試料成分をイオン化し検出する誘電体バリア放電イオン化検出器であって、
a)誘電体から成る管であって前記ガス流路の上流側の一区画を収容する誘電体管と、
b)前記誘電体管の外壁に取り付けられた高圧電極と、
c)電気的に接地され、前記ガス流路を臨むように配置された電極であって、該ガス流路を臨む面が誘電体で被覆されると共に該面の少なくとも一部が前記プラズマ生成ガスの流れ方向において前記高圧電極より下流側に位置する接地電極と、
d)前記高圧電極に接続され、前記ガス流路中に誘電体バリア放電を生起させてプラズマを生成するべく前記高圧電極と前記接地電極の間に交流電圧を印加する交流電源と、
e)前記ガス流路の下流側の一区画であって、前記接地電極よりも下流に位置し、試料を該区画に導入する試料ガス導入手段と、前記プラズマから発せられた光によって前記試料ガス中の試料成分から生成されたイオンを収集する収集電極とを備えた電荷収集部と、
を有し、
前記誘電体管の、前記高圧電極が取り付けられている領域及び/又は該領域よりも下流且つ前記電荷収集部よりも上流の領域の内壁に半導体膜が形成されていると共に、
前記高圧電極よりも下流における前記接地電極の長さが、前記高圧電極と前記電荷収集部の間における沿面放電の開始距離よりも長いことを特徴としている。
【0020】
なお、ここで「前記高圧電極と前記電荷収集部の間における沿面放電の開始距離」とは、前記高圧電極と前記電荷収集部の間に誘電体被覆された接地電極が存在する状態において、該高圧電極と該電荷収集部の間で沿面放電が発生し得る接地電極の長さの最大値を意味する(以下同じ)。例えば、図4で示したような放電部410を有するAr−BIDにおいて、放電部410の下流に位置する電荷収集部と高圧電極412の間に接地電極414を配置した状態で励起用高圧交流電源415を駆動しつつ高圧電極412と電荷収集部(例えば接続部材421)の間の電流値を測定し、接地電極414の長さを徐々に短くしていくと、ある長さにおいて沿面放電が発生して前記電流値が急激に増加する。この電流値が急増するときの接地電極414の長さが前記沿面放電の開始距離である。
【0021】
誘電体表面を沿面放電が進展する際には、その最先端で盛んに電離が起こり、これにより、その後方に導電性のよい経路が形成されていく。しかしながら、このとき誘電体の表面に半導体膜が形成されていると、前記電離により生じた電荷が該半導体膜内を速やかに拡散していくため、上記のような導電性のよい経路が形成されず、沿面放電が進展しにくくなる。従って、上記本発明のように、誘電体管の、前記高圧電極が取り付けられている領域及び/又は該領域よりも下流且つ前記電荷収集部よりも上流の領域の内壁に半導体膜を形成することにより、該高圧電極から電荷収集部に向かう沿面放電の進展を起こりにくくすることができる。これにより、高圧電極と該電荷収集部の間における沿面放電開始距離が従来よりも短くなるため、該沿面放電開始距離よりも前記接地電極の長さを大きくしても大幅な検出器サイズの増大を招来することがない。すなわち、上記本発明に係る誘電体バリア放電イオン化検出器によれば、検出器サイズの増大を最小限に抑えつつ沿面放電の発生を抑制することができる。
【0022】
ここで、前記半導体膜を構成する半導体の種類は特に問わないが、誘電体管内壁への膜形成が容易で、且つスパッタされにくい反応性の低いものを用いることが望ましい。こうした特性を有する半導体としては、例えば、ダイヤモンドライクカーボンや酸化チタンを挙げることができる。
【0023】
なお、前記沿面放電の開始距離は、前記半導体膜を構成する半導体の種類、該半導体膜の厚さ及び面積などに加えて、低周波交流電圧の周波数、電圧振幅、電源波形、ガス種(ガス純度)、及び誘電体材料などのパラメータに依存する。そのため、本発明における「前記高圧電極よりも下流における前記接地電極の長さ」は、Ar−BIDの使用時における前記各パラメータに応じて決定される。
【0024】
上記本発明に係る誘電体バリア放電イオン化検出器は、図4で示したような誘電体円筒管411の外周に高圧電極412と二つの接地電極413、414を周設した構成のものに限らず、種々の構造の誘電体バリア放電イオン化検出器に適用することができる。例えば、特許文献3に記載された誘電体バリア放電イオン化検出器(概略構成を図7に示す)のように、外部誘電体管611の外周に高圧電極612を周設すると共に、内部誘電体管631で被覆され且つ電気的に接地された金属管632(本発明における接地電極に相当)を含む電極構造体634を外部誘電体管611に挿入した構成から成るものにも同様に本発明を適用することができる(詳細は後述する)。
【0025】
上記本発明を、図4で示したような誘電体バリア放電イオン化検出器に適用する場合、誘電体円筒管411が本発明における「誘電体管」と接地電極を被覆する「誘電体」の双方に相当する。つまり、これらの誘電体管及び誘電体は一体に形成されたものとなる。また、上記本発明を、図7で示したような誘電体バリア放電イオン化検出器に適用する場合、外部誘電体管611が前記本発明における「誘電体管」に相当し、内部誘電体管631が本発明における接地電極を被覆する「誘電体」に相当する。つまり、これらの誘電体管及び誘電体は別体に形成されたものとなる。
【0026】
また、本発明に係る誘電体バリア放電イオン化検出器は、
アルゴンを含有するプラズマ生成ガスが流通するガス流路中での放電により生起させたプラズマを利用して試料ガス中の試料成分をイオン化し検出する誘電体バリア放電イオン化検出器であって、
a)誘電体から成る管であり、前記ガス流路の上流側の一区画を収容する誘電体管と、
b)前記誘電体管に前記プラズマ生成ガスを導入するものであって金属から成り電気的に接地された管路先端部材と、
c)前記誘電体管の外壁に取り付けられた高圧電極と、
d)電気的に接地されると共に、前記誘電体管の外壁に取り付けられ、前記プラズマ生成ガスの流通方向において前記高圧電極より上流且つ前記管路先端部材よりも下流に位置する上流側接地電極と、
e)電気的に接地されると共に、前記誘電体管の外壁に取り付けられ、前記流通方向において前記高圧電極より下流に位置する下流側接地電極と、
f)前記高圧電極に接続され、前記ガス流路中に誘電体バリア放電を生起させてプラズマを生成するべく前記高圧電極と前記上流側接地電極の間、及び前記高圧電極と前記下流側接地電極の間に交流電圧を印加する交流電源と、
g)前記ガス流路の下流側の一区画であって、前記下流側接地電極よりも下流に位置し、試料を該区画に導入する試料ガス導入手段と、前記プラズマから発せられた光によって前記試料ガス中の試料成分から生成されたイオンを収集する収集電極とを備えた電荷収集部と、
を有し、
前記誘電体管の、前記高圧電極が取り付けられている領域及び/又は該領域よりも下流且つ前記電荷収集部よりも上流の領域の内壁に半導体膜が形成されていると共に、
前記流通方向における前記下流側接地電極の長さが前記高圧電極と前記電荷収集部の間における沿面放電の開始距離よりも長いものとすることができる。
【0027】
上記は、本発明を図4で示したような、誘電体円筒管411の外周に高圧電極412と二つの接地電極413、414を周設した構成の誘電体バリア放電イオン化検出器に適用したものである。
【0028】
なお、上述の通り、誘電体バリア放電イオン化検出器では、放電部410の上端に設けられた管路先端部材416も金属から成り且つ電気的に接地されているため、高圧電極412からその下流側のみならず上流側にも沿面放電が進展し得る。
【0029】
そこで、前記本発明に係る誘電体バリア放電イオン化検出器は、
アルゴンを含有するプラズマ生成ガスが流通するガス流路中での放電により生起させたプラズマを利用して試料ガス中の試料成分をイオン化し検出する誘電体バリア放電イオン化検出器であって、
a)誘電体から成る管であり、前記ガス流路の上流側の一区画を収容する誘電体管と、
b)前記誘電体管に前記プラズマ生成ガスを導入するものであって金属から成り電気的に接地された管路先端部材と、
c)前記誘電体管の外壁に取り付けられた高圧電極と、
d)電気的に接地されると共に、前記誘電体管の外壁に取り付けられ、前記プラズマ生成ガスの流通方向において前記高圧電極より上流且つ前記管路先端部材よりも下流に位置する上流側接地電極と、
e)電気的に接地されると共に、前記誘電体管の外壁に取り付けられ、前記流通方向において前記高圧電極より下流に位置する下流側接地電極と、
f)前記高圧電極に接続され、前記ガス流路中に誘電体バリア放電を生起させてプラズマを生成するべく前記高圧電極と前記上流側接地電極の間、及び前記高圧電極と前記下流側接地電極の間に交流電圧を印加する交流電源と、
g)前記ガス流路の下流側の一区画であって、前記下流側接地電極よりも下流に位置し、試料を該区画に導入する試料ガス導入手段と、前記プラズマから発せられた光によって前記試料ガス中の試料成分から生成されたイオンを収集する収集電極とを備えた電荷収集部と、
を有し、
前記誘電体管の、前記高圧電極が取り付けられている領域及び/又は該領域よりも上流且つ前記管路先端部材よりも下流の領域の内壁に半導体膜が形成されていると共に、
前記流通方向における前記上流側接地電極の長さが前記高圧電極と前記管路先端部材の間における沿面放電の開始距離よりも長いものとしてもよい。
【0030】
なお、SN比の改善という点では前記上流側接地電極と前記下流側接地電極の双方をそれぞれ高圧電極の上流側と下流側における沿面放電の開始距離よりも長くすることが望ましい。しかしながら、その場合、誘電体管の全長が長くなったり、沿面放電を完全に抑制することで高圧電極と上下の接地電極の間の放電も起こりにくくなり、交流電源からかなり高い電圧を供給する必要が生じたりといった問題が発生する。従って、片側の接地電極の長さのみを長くする構成も実用上利点を有している。
【発明の効果】
【0031】
以上で説明した通り、上記構成から成る本発明に係る誘電体バリア放電イオン化検出器(Ar−BID)によれば、沿面放電の発生を抑制することができ、これにより上述のような片側バリア放電を防止してSN比を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の第1の実施例によるAr−BIDの概略構成図。
図2】試験例及び比較例における電極配置を示す図。
図3】本発明の第2の実施例によるAr−BIDの概略構成図。
図4】従来のBIDにおける放電部周辺の概略構成図。
図5】大気圧におけるArとHeの火花放電の放電開始電圧と電極間距離との関係を示すグラフ。
図6】従来のBIDの下流側接地電極を長くした場合を示す概略構成図。
図7】従来のBIDの更に別の構成例を示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0034】
図1は本発明の第1の実施例(実施例1)によるAr−BIDの概略構成図である。
【0035】
本実施例のAr−BIDは、石英ガラス等の誘電体から成りその内部にプラズマ生成ガスが流通される誘電体円筒管111を備えている。以下では説明の便宜上、誘電体円筒管111内におけるガスの流れ方向(図1の下向きの矢印で示す方向)における上流側を上、下流側を下として上下方向を定義するが、これによりAr−BIDの使用時の方向が限定されるものではない。
【0036】
誘電体円筒管111の内壁面には、その全域に亘って半導体膜117が形成されている(詳細は後述する)。また、誘電体円筒管111の外壁面には、前記ガスの流れ方向に沿って所定の距離離間させて、例えばSUSや銅などの導電体から成る環状の電極が3個周設されている。
【0037】
上記3個の電極の中で中央の電極112には励起用高圧交流電源115が接続され、電極112の上下に配置された2個の電極113、114はいずれも接地されている。以下、電極112を「高圧電極」、電極113を「上流側接地電極」、114を「下流側接地電極」とよび、これらを総称して「プラズマ生成用電極」とよぶ。励起用高圧交流電源115は、周波数が1 kHz〜100 kHzの範囲、更に好ましくは5〜30kHz程度(低周波数)で、電圧が5 kV〜10 kV程度である高圧交流電圧を発生する。なお、交流電圧の波形形状は、正弦波、矩形波、三角波、鋸歯状などのいずれでもよい。
【0038】
なお、本実施例のAr−BIDでは、図1中で下流側接地電極114の下端よりも上側の領域が放電部110であり、下流側接地電極114の下端よりも下側の領域が電荷収集部120である。
【0039】
誘電体円筒管111の上端に設けられた管路先端部材116にはガス供給管116aが接続され、このガス供給管116aを通して誘電体円筒管111の内部に希釈ガスを兼ねるプラズマ生成ガス(Arガス、又はArガスを微量に添加したHeガス)が供給される。プラズマ生成用電極112、113、114と前記プラズマ生成ガスとの間には誘電体円筒管111の壁面が存在するから、この壁面自体がプラズマ生成用電極112、113、114の表面を被覆する誘電体被覆層として機能し、後述する誘電体バリア放電を可能としている。
【0040】
誘電体円筒管111の下流には、同一内径の円筒形状体である接続部材121、バイアス電極122、及び収集電極123が、アルミナ、PTFE樹脂などの絶縁体125a、125bを間に介挿してガスの流れ方向に沿って配置され、更に収集電極123の下流側には絶縁体125cを介挿して有底円筒形状の管路末端部材124が配置されている。これらの接続部材121、バイアス電極122、収集電極123、管路末端部材124、及び絶縁体125a、125b、125cにより形成される内部空間は、前記誘電体円筒管111の内部空間と連通している。
【0041】
接続部材121の周面にはプラズマ生成ガスの一部を外部に排出するバイパス排気管121aが接続されており、管路末端部材124の周面には試料排気管124aが接続されている。更に、管路末端部材124の下面には、細径の試料導入管126が挿通されており、この試料導入管126を通して電荷収集部120内に試料ガスが供給される。なお、電荷収集部120は、試料ガスの気化状態を保つため、図示しない外部ヒータによって最大450℃程度まで加熱される。
【0042】
接続部材121は接地されており、ガス流に乗って移動するプラズマ中の荷電粒子が収集電極123に到達することを防止するための反跳電極として機能する。バイアス電極122はバイアス直流電源127に接続され、収集電極123は電流アンプ128に接続されている。
【0043】
このAr−BIDにおいて、試料ガスに含まれる試料成分を検出する際の動作を概略的に説明する。図1中に右向き矢印で示すように、誘電体円筒管111中にはガス供給管116aを通して希釈ガスを兼ねるプラズマ生成ガスが供給される。本実施形態に係るBIDはAr−BIDであるから、該プラズマ生成ガスとしてはArガス、又はArガスを微量に含んだHeガスが使用される。プラズマ生成ガスは誘電体円筒管111中を下向きに流れ、一部はバイパス排気管121aを通して外部に排出され、その残りは希釈ガスとして電荷収集部120中を下向きに流れ試料排気管124aを通して外部に排出される。一方、試料成分を含む試料ガスは試料導入管126を通して供給され、その末端の試料ガス吐出口から電荷収集部120中に吐き出される。試料ガス吐出口からは前記希釈ガスの流れ方向とは逆方向に試料ガスが吐き出されるが、図1中に矢印で示すように、試料ガスはすぐに押し返され、希釈ガスと合流して下方向に進む。
【0044】
上述したようにプラズマ生成ガスが誘電体円筒管111中に流通しているときに、励起用高圧交流電源115は、高圧交流電圧を高圧電極112と上流側接地電極113との間及び高圧電極112と下流側接地電極114との間に印加する。これにより、誘電体円筒管111中で誘電体バリア放電が起こり、プラズマ生成ガスが電離されてプラズマ(大気圧非平衡プラズマ)が発生する。大気圧非平衡プラズマから放出された励起光は、放電部110及び電荷収集部120中を通って試料ガスが存在する部位まで到達し、その試料ガス中の試料成分をイオン化する。こうして生成されたイオンは、バイアス電極122に印加されている直流電圧によって形成される電場の作用によって収集電極123に近づくように移動し、収集電極123において電子を授受する。これにより、生成された試料成分由来のイオンの量、つまりは試料成分の量に応じたイオン電流が電流アンプ128に入力され、電流アンプ128はこれを増幅して検出信号を出力する。このようにして、本実施例に係るAr−BIDでは、試料導入管126を通して導入された試料ガスに含まれる試料成分の量(濃度)に応じた検出信号が出力される。
【0045】
本実施例のAr−BIDの基本的な構成要素は一般的なBIDと同じである。また、上述した基本的な検出動作は一般的なBIDと同様である。本実施例のAr−BIDの構成上の特徴は、誘電体円筒管111の内壁面を半導体膜117で被覆した点と、上流側接地電極113及び下流側接地電極114の長さを、それぞれ高圧電極112と管路先端部材116の間及び高圧電極112と電荷収集部120(具体的には接続部材121)の間における沿面放電開始距離よりも長くした点にある。
【0046】
上記のように誘電体円筒管111の内壁面に半導体膜117を設けることにより、高圧電極112と管路先端部材116の間及び高圧電極112と接続部材121の間における沿面放電開始距離を、半導体膜117を形成しない場合に比べて短くすることができる。その結果、沿面放電を抑制するために必要な上流側接地電極113の長さ及び下流側接地電極114の長さも、半導体膜117を形成しない場合(例えば図6の電極514)に比べて小さくなる。従って、本実施例に係るAr−BIDによれば、検出器サイズの増大を最小限に抑えつつ沿面放電を抑制してSN比を改善することが可能となる。
【0047】
なお、半導体膜117はいかなる種類のものであってもよいが、反応性が低くスパッタされにくい特性を有し、且つ誘電体円筒管111の内壁への膜形成が容易なものを用いることが望ましい。こうした半導体膜としては、例えばプラズマCVD法で作成可能なダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜やゾルゲル法で作成可能な酸化チタン(TiO)膜等を好適に用いることができる。
【0048】
本実施例において、下流側接地電極114の長さは、前記半導体膜の種類及び厚さ、並びに低周波交流電圧の周波数、電圧振幅、電源波形、及びガス種などのパラメータに応じて、高圧電極112と電荷収集部120の間で沿面放電が生じない長さに調整される。また、上流側接地電極113の長さは、前記半導体膜の種類及び厚さ、並びに上記の各パラメータに応じて、高圧電極112と管路先端部材116の間で沿面放電が生じない長さに調整される。
【0049】
なお、上記の例では、誘電体円筒管111の全域に半導体膜117を形成するものとしたが、半導体膜117は誘電体円筒管111のうち少なくとも高圧電極112を被覆している領域(以下「高圧電極被覆領域」とよぶ)の内周面、該高圧電極被覆領域よりも下流且つ電荷収集部120よりも上流の領域(以下「下流側領域」とよぶ)の内周面、又は前記高圧電極被覆領域よりも上流且つ管路先端部材116よりも下流の領域(以下「上流側領域」とよぶ)の内周面のいずれか一つ以上に形成すればよい。前記半導体膜を前記高圧電極被覆領域及び/又は前記下流側領域に設けた場合は、高圧電極112と電荷収集部120の間における沿面放電開始距離を短くすることができ、前記半導体膜を前記高圧電極被覆領域及び/又は前記上流側領域に設けた場合は、高圧電極112と管路先端部材116の間における沿面放電開始距離を短くすることができる。
【0050】
また、上記の例では、上流側接地電極113と下流側接地電極114の両方の長さを沿面放電開始距離よりも長くするものとしたが、この内の一方、特に下流側接地電極114の長さのみを(高圧電極112と電荷収集部120の間における)沿面放電開始距離よりも長くするようにしてもよい。ここで、下流側接地電極114の長さのみを沿面放電開始距離よりも長くする場合は、前記高圧電極被覆領域又は前記下流側領域の少なくとも一方の内周面に半導体膜を形成する。なお、上流側接地電極113の長さのみを沿面放電開始距離よりも長くする場合には、前記高圧電極被覆領域又は前記上流側領域の少なくとも一方の内周面に半導体膜を形成する。
【0051】
[試験例]
以下、実施例1に係るAr−BIDの効果を確認するために行った試験について説明する。この試験では、誘電体円筒管の内周面の一部にDLCから成る半導体膜を付加したAr−BID(以下、「試験例」とよぶ)と、半導体膜を付加しない誘電体円筒管を備えたAr−BID(以下、「比較例」とよぶ)とを使用した。試験例及び比較例のAr−BIDの放電部における電極配置を図2に示す。なお、試験例のみ同図で示す位置に半導体膜217が形成されている。試験例及び比較例のいずれにおいても、誘電体円筒管211は外径が4 mm、内径が2 mm、長さが92 mmの石英から成る管であり、該誘電体円筒管211の外周に銅箔を巻き付けることにより高圧電極212と、上流側接地電極213と、下流側接地電極214とを構成した。なお、同図の電極配置は、半導体膜を付加しない誘電体円筒管211を使用し且つ後述する測定条件で測定を行った場合に、高圧電極212の上流側では沿面放電が生じ、下流側では沿面放電が生じないように設定されている。つまり、上流側接地電極213の長さは比較例のAr−BIDの前記条件下における沿面放電の開始距離よりも短く、下流側接地電極214の長さは前記沿面放電の開始距離よりも長くなっている。
【0052】
上記の各Ar−BIDをGCの検出器として使用し、誘電体円筒管211にArガス(純度99.9999%以上)を導入しつつ、励起用高圧交流電源215を駆動して周波数約40 kHz、電圧振幅約5 kVp-p、電流波形サイン波の交流高電圧を印加して、標準試料(ドデカン)溶液の面積感度を実測した。また、それぞれについてノイズの測定値から検出限界を計算した。実測結果及びそれに基づく計算結果を次の表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1によると、試験例の面積感度は、比較例よりも低下しているが、これは、比較例よりも沿面放電の開始距離が短くなった結果、高圧電極212から下流側に向かって進展する沿面放電のみならず、上流側に向かって進展する沿面放電も抑制されるようになり、その結果、高圧電極212より上流側における放電領域が縮小して放電光の光量が低下したためと考えられる。但し、試験例では、面積感度だけでなくノイズも低下したため、結果的に検出限界は比較例よりも改善しており、SN比も比較例よりも改善しているといえる。該SN比の改善は、前記のように高圧電極212より上流側における放電領域が縮小したことにより、比較例では該上流側で生じる片側バリア放電が、試験例では両側バリア放電となったためと考えられる。
【0055】
上記のように、試験例では、接地電極213の長さが相対的に小さい上流側の領域においてもSN比を改善することができた。このことから、試験例のAr−BIDでは、誘電体円筒管211の内壁の半導体膜217(DLC膜)を設ける領域を前記高圧電極212よりも下流側の領域まで拡大すれば、下流側接地電極214の長さを上流側接地電極213の長さと同程度としても、高圧電極212から下流側に向けて進展する沿面放電を抑制できると考えられる。
【0056】
なお、上述の通り、沿面放電の開始距離は、半導体膜の種類、厚さ及び面積、並びに低周波交流電圧の周波数、電圧振幅、電源波形、ガス種、誘電体材質などのパラメータに依存する。従って、本発明に係るAr−BIDにおける接地電極の長さは図2で示したものに限定されるものではなく、該Ar−BIDの構成及び使用条件に応じて適宜決定される。例えば、上記の各種パラメータを固定した状態で、下流側接地電極又は上流側接地電極の長さを種々に変更しつつ、プラズマが生成される領域の大きさや、高圧電極(図1の112)と接続部材(図1の121)の間に流れる電流、又は高圧電極と管路先端部材(図1の116)の間に流れる電流、又は試料測定時のSN比などが急激に変化するポイントを求めることにより、該ポイントにおける接地電極の長さが沿面放電の開始距離に相当すると推測することができる。そのため、下流側接地電極又は上流側接地電極の長さを前記ポイントにおける長さよりも大きくすることにより、沿面放電を抑制して高いSN比を達成することが可能となる。更に、予め上記各種パラメータを種々に変えながら上記のように沿面放電が生じなくなる接地電極の長さを調べておくことにより、所定の条件下において高SN比を達成可能な接地電極の長さを推測することもできる。
【実施例2】
【0057】
本発明に係るAr−BIDの第2の実施例(実施例2)について図3を参照しつつ説明する。図3は本実施例によるAr−BIDの概略構成図である。
【0058】
本実施例のAr−BIDは、石英等の誘電体から成る外部誘電体管311を備えている。該外部誘電体管311としては、例えば外径が7 mm、内径が5 mmの石英管を用いることができる。外部誘電体管311の内壁面には、その全域に亘って半導体膜317が形成されている(詳細は後述する)。また、外部誘電体管311の外周面には金属(例えばSUS、銅など)から成る環状電極312が周設されている。
【0059】
外部誘電体管311の上部には、上面が閉鎖され下面が開放された円筒形状を有する管路先端部材316が取り付けられている。管路先端部材316の周面にはガス供給管316aが接続されている。なお、これら管路先端部材316及びガス供給管316aは、例えばSUS等の金属で構成されている。
【0060】
外部誘電体管311の内部には石英等の誘電体から成る内部誘電体管331が配置されており、該内部誘電体管331の内部にはSUS等の金属から成る金属管332が挿通されている。更に、該金属管332の内部にはアルミナ等から成る絶縁管333が挿通され、更にその内部にはSUS等の金属から成る金属線322が挿通されている。これらの部材は、内部誘電体管331、金属管332、絶縁管333、金属線322の順に長くなっており、内部誘電体管331の上下端からは金属管332の上下端が突出し、金属管332の上下端からは絶縁管333の上下端が突出している。更に絶縁管333の上下端からは金属線322の上下端が突出している。以下、この内部誘電体管331、金属管332、絶縁管333、金属線322から成る構造物を電極構造体334と称する。
【0061】
管路先端部材316の上部には貫通孔が設けられており、該貫通孔には金属管332の上端部が溶接又は蝋付けによって固定されている。また、前記絶縁管333と金属線322は管路先端部材316上部の前記貫通孔から外部に引き出され、管路先端部材316の上面にて気密性接着剤316bによって封止・固定されている。
【0062】
管路先端部材316は、電気配線(又はガス供給管316a)によって電気的に接地されており、これにより、上述の金属管332も該管路先端部材316を介して接地される。一方、環状電極312には励起用高圧交流電源315が接続されている。つまり本実施例のAr−BIDでは、環状電極312が本発明における高圧電極に相当し、金属管332の内部誘電体管331で被覆された領域(以下「誘電体被覆領域」とよぶ)が本発明における接地電極に相当し、これらの環状電極(高圧電極)312、及び金属管332の誘電体被覆領域(接地電極)がプラズマ生成用電極として機能する。環状電極312の内周面と金属管332の外周面の一部とは、外部誘電体管311と内部誘電体管331の壁面を挟んで対向している。そのため、誘電体であるこれらの壁面自体がプラズマ生成用電極(すなわち、環状電極312と金属管332)の表面を被覆する誘電体被覆層として機能し、誘電体バリア放電を可能としている。
【0063】
なお、本実施例では、図3において内部誘電体管331の下端よりも上側の領域が放電部310に相当し、内部誘電体管331の下端よりも下側の領域が電荷収集部320に相当する。
【0064】
外部誘電体管311の下端は円筒状の接続部材321に挿入されており、接続部材321の周面にはSUS等の金属から成るバイパス排気管321aが設けられている。
【0065】
接続部材321の下部には、円筒状の絶縁部材325a、フランジ付金属管323、円筒状の絶縁部材325b、及び管路末端部材324がこの順に配置されている。フランジ付金属管323は、円筒部323aと、該円筒部323aの下端に形成され、該円筒部323aの径方向外側に延びるフランジ部323bとを有している。円筒部323aは外部誘電体管311の内径よりも小さな外径を有しており、外部誘電体管311の内部に下側から挿入される。一方、フランジ部323bは前記接続部材321、絶縁部材325a、325b及び管路末端部材324の外径とほぼ同一の外径を有しており、絶縁部材325a、325bを介して接続部材321の下端及び管路末端部材324の上端によって挟持される。なお、前記接続部材321、管路末端部材324、及びフランジ付金属管323は、いずれもSUS等の金属で構成されており、接続部材321、絶縁部材325a、フランジ付金属管323、絶縁部材325b、及び管路末端部材324は、それぞれセラミック系の耐熱接着剤によって隣接する部材と接着されている。
【0066】
管路末端部材324は、上面が開放された有底円筒形状の部材であり、その周面にはSUS等の金属から成る試料排気管324aが接続される。管路末端部材324の下面には貫通孔が設けられ、該貫通孔にはGCカラムの出口端等に接続された試料導入管326が挿入される。試料導入管326はフランジ付金属管323の円筒部323a内に引き込まれ、該試料導入管326の上端(すなわち、試料ガス出口)は該円筒部323aの上端と下端の間の高さ位置に配置される。
【0067】
電極構造体334に含まれる金属線322の下端には、上述の通り、絶縁管333で被覆されない部分(露出部)が設けられている。該露出部はフランジ付金属管323の円筒部323aの内側に上方から挿入され、該円筒部323aの上端付近に配置される。これにより、試料ガス出口の直上に前記金属線322の露出部が配置されることとなる。更に、該金属線322は、管路先端部材316から外部に引き出されてバイアス直流電源327に接続されており、フランジ付金属管323は電流アンプ328に接続されている。つまり、本実施例のAr−BIDでは、前記金属線322下端の露出部がバイアス電極として機能し、フランジ付金属管323の円筒部323aがイオン収集電極として機能する。つまり円筒部323aの内壁と金属線322の露出部との間の空間が実質的なイオン収集領域となる。
【0068】
また、電極構造体334に含まれる金属管332は、上述の通り、管路先端部材316を介して接地されており、更に該金属管332の下端には内部誘電体管331で被覆されない部分(露出部)が設けられている。この露出部は、フランジ付金属管323の直上に位置しており、プラズマ中の荷電粒子がイオン収集電極(すなわち、円筒部323a)に到達するのを防ぐための反跳電極として機能する。
【0069】
このAr−BIDによる検出動作を説明する。まず、図3中に右向き矢印で示すように、ガス供給管316aを通して管路先端部材316内に希釈ガスを兼ねるプラズマ生成ガス(Arガス、又はArガスを微量に含んだHeガス)が供給される。
【0070】
上記希釈ガスを兼ねるプラズマ生成ガスは、外部誘電体管311の内壁と内部誘電体管331の外壁の間を下向きに流れ、フランジ付金属管323の円筒部323aの上端でその一部が分岐される。分岐されたプラズマ生成ガスは、外部誘電体管311の内壁と円筒部323aの外壁の間を下向きに流れた後、外部誘電体管311の下端で外側上方に折り返す。そして、外部誘電体管311の外壁と接続部材321の内壁の間を上向きに流れた後、バイパス排気管321aを経て外部に排出される。一方、残りのプラズマ生成ガスは、円筒部323aの内壁で囲まれた空間に流入し、希釈ガスとして試料ガスと混合される。
【0071】
上述したようにプラズマ生成ガスが外部誘電体管311の内壁と内部誘電体管331の外壁の間を流通している状態で、励起用高圧交流電源315が駆動され、励起用高圧交流電源315は低周波の高圧交流電圧をプラズマ生成用の電極である環状電極(高圧電極)312と、金属管332の誘電体被覆領域(接地電極)との間に印加する。これにより、環状電極312と、金属管332の誘電体被覆領域とで挟まれる領域に放電が起こる。この放電は誘電体被覆層(外部誘電体管311及び内部誘電体管331)を通して行われるため誘電体バリア放電である。この誘電体バリア放電によって、外部誘電体管311の内壁と内部誘電体管331の外壁の間を流れるプラズマ生成ガスが電離されてプラズマ(大気圧非平衡プラズマ)が発生する。
【0072】
大気圧非平衡プラズマから放出された励起光は、外部誘電体管311の内壁と内部誘電体管331の外壁の間を通って試料ガスが存在する部位まで到達し、その試料ガス中の試料成分分子(又は原子)をイオン化する。こうして生成された試料イオンは、試料ガス出口の直上にあるバイアス電極(すなわち、金属線322の露出部)の電界によってイオン収集電極(すなわち、フランジ付金属管323の円筒部323a)に集められ、電流出力として検出される。これにより、生成された試料イオンの量、つまりは試料成分の量に応じたイオン電流が電流アンプ328に入力され、電流アンプ328はこれを増幅して検出信号として出力する。このようにして、このAr−BIDでは、導入された試料ガスに含まれる試料成分の量(濃度)に応じた検出信号が出力される。
【0073】
なお、図3では、金属線322をバイアス電極として機能させ、フランジ付金属管323をイオン収集電極として機能させるものとしたが、これらは逆にしてもよい。すなわち、金属線322を電流アンプ328に接続し、フランジ付金属管323をバイアス直流電源327に接続してもよい。また、フランジ付金属管323に代わり、図1の電荷収集部に設けられた円筒状の金属電極122又は123と同様のものを設け、これをイオン収集電極又はバイアス電極として機能させるようにしてもよい。
【0074】
本実施例のAr−BIDの基本的な構成要素及び検出動作は特許文献3に記載されたBIDと同様である。特許文献3に記載のBIDの構成を図7に示す。なお、同図において図3と共通する構成要素には下二桁が共通する符号を付してある。
【0075】
本実施例のAr−BIDの構成上の特徴は、外部誘電体管311の内壁面を半導体膜317で被覆した点と、環状電極(高圧電極)312の下端位置よりも下流側において、金属管332(接地電極)の誘電体被覆領域の長さを、環状電極312と電荷収集部320の間における沿面放電開始距離よりも長くした点、及び環状電極(高圧電極)312の上端位置よりも上流側において、金属管332(接地電極)の誘電体被覆領域の長さを環状電極312と管路先端部材316の間における沿面放電開始距離よりも長くした点にある。
【0076】
上記のように外部誘電体管311の内壁面に半導体膜317を設けることにより、環状電極312と管路先端部材316の間及び環状電極312と電荷収集部(例えば、金属管332下端の内部誘電体管331で被覆されていない領域、又はフランジ付金属管323の上端部など)の間における沿面放電開始距離を、半導体膜317を形成しない場合に比べて短くすることができる。その結果、沿面放電を抑制するために必要な前記金属管332の誘電体被覆領域の長さも、(半導体膜317を形成しない場合に比べて)小さくなる。従って、本実施例に係るAr−BIDによれば、検出器サイズの増大を最小限に抑えつつ沿面放電を抑制してSN比を改善することが可能となる。
【0077】
なお、半導体膜317はいかなる種類のものであってもよいが、反応性が低くスパッタされにくい特性を有し、且つ外部誘電体管311の内周面への膜形成が容易なものを用いることが望ましい。こうした半導体膜としては、例えばプラズマCVD法で作成可能なダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜やゾルゲル法で作成可能な酸化チタン(TiO)膜等を好適に用いることができる。
【0078】
なお、上記の例では、外部誘電体管311の全域に半導体膜317を形成するものとしたが、半導体膜317は、外部誘電体管311のうち少なくとも環状電極312を被覆している領域(以下「環状電極被覆領域」とよぶ)の内周面、該環状電極被覆領域よりも下流且つ電荷収集部320よりも上流の領域(以下「下流側領域」とよぶ)の内周面、又は前記環状電極被覆領域よりも上流且つ管路先端部材316よりも下流の領域(以下「上流側領域」とよぶ)の内周面のいずれか一つ以上に形成すればよい。前記半導体膜317を前記環状電極被覆領域及び/又は前記下流側領域に設けた場合は、環状電極312と電荷収集部320の間における沿面放電開始距離を短くすることができ、前記半導体膜317を前記環状電極被覆領域及び/又は前記上流側領域に設けた場合は、環状電極312と管路先端部材316の間における沿面放電開始距離を短くすることができる。
【0079】
また、上記の例では、環状電極312の上端よりも上流側と、環状電極312の下端よりも下流側の双方において金属管332の誘電体被覆領域の長さを沿面放電開始距離よりも長くするものとしたが、この内の一方、特に環状電極の下端よりも下流側における金属管332の誘電体被覆領域の長さのみを(環状電極312と電荷収集部320の間における)沿面放電開始距離よりも長くするようにしてもよい。ここで、環状電極312の下端よりも下流側における金属管332の誘電体被覆領域の長さのみを前記沿面放電開始距離よりも長くする場合は、前記環状電極被覆領域又は前記下流側領域の少なくとも一方の内周面に半導体膜317を形成する。また、環状電極312の上端よりも上流側における金属管332の誘電体被覆領域の長さのみを沿面放電開始距離よりも長くする場合は、前記環状電極被覆領域又は前記上流側領域の少なくとも一方の内周面に半導体膜317を形成する。
【0080】
なお、環状電極312の下端位置よりも下流側における前記金属管332の誘電体被覆領域の長さは、外部誘電体管311の前記環状電極被覆領域及び下流側領域における前記半導体膜317の種類、厚さ及び面積、並びに低周波交流電圧の周波数、電圧振幅、電源波形、誘電体材料、及びガス種などのパラメータに応じて、環状電極312と電荷収集部320の間で沿面放電が生じない長さに調整される。また、環状電極312の上端位置よりも上流側における前記誘電体被覆領域の長さは、前記環状電極被覆領域及び前記上流側領域における前記半導体膜317の種類、厚さ及び面積、並びに上記の各パラメータに応じて、環状電極312と管路先端部材316の間で沿面放電が生じない長さに調整される。
【符号の説明】
【0081】
110、210、10…放電部
111、211…誘電体円筒管
112、212…高圧電極
113、213…上流側接地電極
114、214…下流側接地電極
115、215、315…励起用高圧交流電源
116、216、316…管路先端部材
117、217、317…半導体膜
120、320…電荷収集部
121、221、321…接続部材
122…バイアス電極
123…収集電極
126、326…試料導入管
127、327…バイアス直流電源
128、328…電流アンプ
311…外部誘電体管
312…環状電極
334…電極構造体
331…内部誘電体管
332…金属管
333…絶縁管
322…金属線
323…フランジ付金属管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7