【実施例】
【0178】
以下、実施例、比較例及び試験例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0179】
なお、実施例、比較例、及び試験例において使用される略称の意味は、以下の通りである。
Ac:アセチル基
NBKP:針葉樹漂白クラフトパルプ
NUKP:針葉樹未漂白クラフトパルプ
TUKP:トドマツ由来の未漂白クラフトパルプ
AcNBKP:NBKP中の一部の水酸基の水素原子がアセチル基で置換されたNBKP
AcNUKP:NUKP中の一部の水酸基の水素原子がアセチル基で置換されたNUKP
AcTUKP:TUKP中の一部の水酸基の水素原子がアセチル基で置換されたTUKP
DMF:N,N−ジメチルホルムアミド
NMP:N−メチルピロリドン
AcMFNBKP:NBKP中の一部の水酸基の水素原子がアセチル基で置換され、かつ、ミクロフィブリル化された繊維
AcMFNUKP:NUKP中の一部の水酸基の水素原子がアセチル基で置換され、かつ、ミクロフィブリル化された繊維
AcMFTUKP:TUKP中の一部の水酸基の水素原子がアセチル基で置換され、かつ、ミクロフィブリル化された繊維
AO:酸化防止剤
【0180】
また、実施例、比較例、図、及び表において使用する以下の用語は、次の意味を有する。
・パス:二軸混練機に被混練物(試験材料)を供給し、混練機にかける回数を「パス」と呼ぶ。したがって、例えば、「1パス」は1回混練機にかけたことを意味し、「1パス目」は、最初に(1回目として)試験材料を混練にかけたことを意味し、「2パス目」は、1回混練機にかけた材料を次いで、2回目として混練機にかけたことを意味する。
・押出:混練機(押し出し機ともいう)に被処理物(試験材料)を供給し、混練処理を行うことを意味する。
・冷間:0〜約30℃の温度で処理することを意味する。
【0181】
(A)使用原材料
以下の実施例及び比較例において、原材料として以下のものを使用した。
(1)樹脂
・ポリプロピレン(以下、「PP」という):日本ポリプロ製、ノバテックMA04A、MI=40、ペレット
・ポリプロピレン粉(以下、「PP粉」という):日本ポリプロ製、ノバテックMA04A、MI=40、粉状
・ポリ乳酸粉砕物(以下、「PLA粉」という):ネイチャーワークス、ingeo i3251D:MI=80、粉砕物
・ポリアミド6粉砕物(以下、「PA6粉」という):ユニチカ製、A1020 LP、モル質量12000g/mol、粉砕物
・ポリアミド6ペレット(以下、「PA6ペレット」という):ユニチカ製、A1020BRL
・ポリアセタール粉(以下、「POM粉」という):三菱エンジアニリングプラスチックス製、ユピタールF30、MI=27
・高密度ポリエチレンペレット(以下、「HDPEペレット」という):旭化成製、サンテック J320、MI=12
なお、本明細書において、高密度ポリエチレン(HDPE)を単にPEと記載することもある。
(2)相溶化剤
・マレイン酸変性ポリプロピレン(以下、「MAPP」という):東洋紡製、トーヨータックH1000P、MI=110、粉状
(3)解繊副剤
・クレイ:白石カルシウム製、ORBEN-M、ポリアミド用有機化処理済
・汎用タルク:日本タルク製、ミクロエースMSZ-C、平均粒径12.8μm、アミノ系表面処理済
(4)添加物
・酸化防止剤(以下「AO」という):BASF製、イルガノックス1010、フェノール系酸化防止剤
【0182】
(B)使用機器
・二軸混練機:テクノベル製、スクリュ径φ15mm、L/D(スクリュ長さ(L)とスクリュ径(D)との比)45
・射出成形機:日精樹脂工業製、NPX 7型、型締め力7トン
【0183】
(C)試験方法及び使用機器
(1)セルロース系繊維(以下、単に「繊維」と記載する。)の顕微鏡観察
繊維の状態、又は組成物中の繊維の解繊若しくは分散状態を、以下の偏光顕微鏡及び電子顕微鏡で観察した。
【0184】
(1-1) 走査型電子顕微鏡による、繊維含有組成物中の繊維の解繊状態の観察
(a)観察用試料の作成
a-1) 繊維含有組成物(繊維、PP、MAPP及びPLA含有組成物)の試料
キシレンとテトラクロロエタンとを1/1の比率で混合した混合溶媒を用い、繊維含有組成物から樹脂成分(PP、MAPP及びPLA)を抽出して除去し、試料を作成した。具体的には、繊維含有組成物(PP/MAPP/PLA/AO/セルロース複合体)を上記混合溶媒に投入して140℃で2時間程度加熱し、樹脂成分を抽出して除去し、繊維を主成分とする抽出残渣を得た。これをエタノールで洗浄し、得られた繊維を銅板上に置き、乾燥した後、スパッタリング装置(JEOL SEC-3000FC オートファインコーター)を用いてプラチナコートし、これを観察用試料とした。
【0185】
a-2) 繊維含有組成物(繊維、PP、MAPP及びPA6含有組成物)の試料
N-メチルピロリドン(NMP)とキシレンとを順次用いて、繊維含有組成物から樹脂成分(PP、MAPP及びPA6)を抽出して除去し、試料を作成した。具体的には、まず、繊維、PP、MAPP、PA6及びAOを含むセルロース複合体をNMPに投入して190℃で2時間程度加熱し、PA6を抽出して除去した。次に、PA6が除去された組成物をキシレンに投入し、140℃で2時間程度加熱し、PPを抽出して除去し、繊維を主成分とする抽出残渣を得た。これをエタノールで洗浄し、得られた繊維を上記と同様にしてプラチナコートし、これを観察用試料とした。
【0186】
繊維含有組成物(繊維及びPA6含有組成物、又は、繊維及びPOM含有組成物)については、上記a-2)と同様の操作で処理し、観察用試料を作成した。
繊維含有組成物(繊維、PE、MAPP及びPLA含有組成物)については、上記a-1)と同様の操作で処理し、観察用試料を作成した。
【0187】
(b)観察機器及び観察方法:得られた試料について、電界放射型走査型電子顕微鏡(JSM-7800F:日本電子)を用いて、二次電子像観察を行った。
【0188】
(1-2)偏光顕微鏡による、繊維含有組成物中の繊維の解繊状態及び分散状態の観察
(a) 観察用試料の作成
(i) 繊維含有組成物より約2mm角の試験片を切り出した。
(ii)スライドグラス上に試験片をのせ、その上にカバーグラスを載せた。
(iii)220〜250℃に加熱したプレス機で加圧し、試験片を薄片化した。
(iv)薄片化したサンプルを氷水につけて急冷し、観察用試料を得た。
【0189】
(b)観察
得られた観察用試料について、観察装置(システム偏光顕微鏡 OLYMPUS BX51)で、クロスニコル、温度23℃、相対湿度50%で観察した。
【0190】
(2)強度試験(3点曲げ試験)
・試験片(成形体)の製造方法
射出成形機(日精樹脂工業製、NPX 7型、型締め力7トン)を用いて短冊形試験片(10×80×4mm)を作製した。射出成型機のシリンダー温度を、170℃(供給部)〜190℃(計量部)として樹脂組成物を融解し、温度35℃の金型に射出して成形体を調製した。得られた試験片を温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下に2日間静置したのちに試験した。
【0191】
・試験方法
試験片について、万能試験機(島津製作所製AG5000E型)を用いて強度試験を行った。試験条件は支点間距離64mm、試験速度10mm/minとして試験した。
【0192】
<製造例1>AcNUKPの製造(ロット番号(1)EY262)DS=0.89
・使用パルプ:針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)
日本製紙(株)製のNUKPをリファイナー処理してその濾水度(CSF)を105mlとした。このリファイナー済NUKPを抄紙してシート状NUKP(厚さ約0.2mm)を調製した。NUKPの成分(質量%):セルロース(78.3%)、ヘミセルロース(11.3%)、リグニン(10.4%)。
・AcNUKPの製造方法:上記NUKP(固形分として1620g、含水率15.07質量%)に酢酸カリウム15.3g及び無水酢酸2846mlを加え、100℃で6時間反応させた。反応混合物を50℃まで冷却し、デカンテーションにより液体を取り除いた後、減圧下、60℃で無水酢酸及び酢酸を留去した。50℃で26時間減圧乾燥して乾燥重量1990gのAcNUKPを得た。このAcNUKPのDSは、0.89であった。
【0193】
得られたAcNUKPの電子顕微鏡観察像を
図1に示す。
【0194】
これを7cm×7cmのシートに裁断した後、ヘンシェルミキサーで粉砕し、以下の実施例及び比較例の複合体の製造に供した。
【0195】
<製造例2>AcTUKPの製造(ロット番号(16)NT-353)
・使用パルプ:トドマツ由来未漂白クラフトパルプ(TUKP)
日本製紙(株)製TUKPをリファイナー処理し、濾水度(CSF)が255mlのTUKPとし、これを抄紙して厚さ約0.2mmのシート状TUKPを得た。TUKP成分(質量%):セルロース(84.3%)、ヘミセルロース(13.7%)、リグニン(2%)。固形分含有量74質量%。
・AcTUKPの製造方法:上記シート状TUKP(固形分含有量2400g)に無水酢酸5600gを加え、120℃で5時間反応させた。反応混合物を50℃まで冷却し、デカンテーションにより液体を取り除いた後、減圧下60℃に加熱して無水酢酸及び酢酸を留去した。乾燥して乾燥重量で2200gのシート状AcTUKPを得た。このAcTUKPのDSは、0.59であった。このAcTUKPを、後述する解繊試験に使用した。
【0196】
以下、上記と同様にして、下表に示すアセチル化パルプを製造した。
【0197】
【表1】
注1:化学修飾パルプを構成するそれぞれの官能基の質量比を、各官能基の質量部で示したものである。Acはアセチル基の質量部、Ligはリグニン残基の質量部を示す。「Cell+Hem」は、化学修飾パルプを構成するセルロースのグルカン残基の質量部とヘミセルロースを構成する糖類(マンナン、キシラン等)の残基の質量部との合計質量部を示す。
【0198】
(実施例1)試験番号PP754
実施例1の製造方法を説明する模式図を
図2に示す。なお、
図2において、ラクタムはεカプロラクタムを示している。
【0199】
まず、AcNUKP(ロット番号(3)T008)、εカプロラクタム(解繊助剤)及び水の混合物を二軸混練機で混練し、AcNUKPの解繊処理を行い、次いで(2パス目で)加熱下に水を排出した。次に、(3パス目で)PLA粉末を加えて溶融混練し、同時に残存する水と共にεカプロラクタムを排出した。その後、得られた混練物にPP及びMAPPを加えて溶融混練して、ミクロフィブリル化AcNUKP、PLA及びPPを含有する組成物を得るとともに、この組成物中に残存するεカプロラクタムを排出した。
【0200】
以下、
図2に記載の各工程について詳細に説明する。
(1パス目:冷間押出)
組成比が、AcNUKP(ロット番号(3)T008)/εカプロラクタム/水/AO=(2.27+10)/30/40/1の混合物を、シリンダーを水冷した二軸混練機を用いて冷間押出を行った。
【0201】
なお、二軸混練機にかけた上記混合物の組成比の表記(AcNUKP/εカプロラクタム/水/AO=(2.27+10)/30/40/1)における数値は、以下の意味を有する。
(2.27+10):混合物の全質量中に占めるAcNUKPの質量割合を表記したものである。
ここで、上記(2.27+10)における2.27は、混合物の全質量中に占めるAcNUKPのアセチル基(Ac)の質量割合(これはAcNUKPのDS値から算出される)を意味する。また、上記(2.27+10)における10は、混合物の全質量中の繊維成分(すなわち、セルロース+ヘミセルロース)の質量割合を意味する。したがって、2.27+10=12.27が、混合物の全質量中に占めるAcNUKPの質量割合である。
30:混合物の全質量中のεカプロラクタムの質量割合
40:混合物の全質量中の水の質量割合
1:混合物の全質量中のAOの質量割合
【0202】
特に断りがない限り、混合物及び混練物の組成比の記載はこの表記方法に従うものとする。
【0203】
上記の、混合物中の各成分比率の数値の記載方法は、樹脂組成物中の各成分の比率の表記に適用される。
【0204】
但し、本明細書の強度試験結果を示す表中に記載された成形体(試験片)の含有成分(組成比)については、酸化防止剤を除いた成形体の全質量に対する各成分の組成比(質量比)を示すものである。
【0205】
そして、含有する化学修飾された繊維の表示はその略称で記載(例えば、アセチル化された針葉樹未漂白クラフトパルプはその略称AcNUKPで記載)されているが、その含有質量は未修飾繊維に換算して(すなわちAcNUKPの含有質量はNUKPに換算して)示している。
【0206】
(2パス目:脱水押出)
押出機シリンダーを70℃(供給部、本明細書では「上流部」ということもある)〜130℃(計量部、本明細書では「下流部」ということもある)に傾斜加熱し、ベントを設けた二軸混練機に、1パスした混合物を通すことにより脱水押出を行った。2パス目押出後の混合物の組成は、AcNUKP/(εカプロラクタム+水)/AO=(2.27+10)/33.52/1(合計全質量部:46.79)であった。
【0207】
(3パス目:PLAとの溶融混練)
2パスした混合物にPLA粉を添加し、PLA/2パス混合物=20/46.79混合物を調製し、PLAが融解するシリンダー温度(160℃)にて二軸混練機によるPLAとの溶融混練を行った。押出後の組成は、PLA/AcNUKP/(εカプロラクタム+水)/AO=20/(2.27+10)/14.32/1(合計全質量部:47.59)であった。
【0208】
(4パス目:PP及びMAPPによる希釈押出)
3パスした混合物にPP及びMAPPを添加し、組成比がPP/MAPP/3パス混合物=57.73/10/47.59の混合物を調製して、全ての混合樹脂が溶融するシリンダー温度(180-190℃)にて二軸混練機による溶融混練を行った。そして、残存する水及びεカプロラクタムを取り除くため、真空ベントにより脱気を行った。得られた組成物の組成比は、PP/MAPP/PLA/AcNUKP/AO=57.73/10/20/(2.27+10)/1であった。
【0209】
得られた組成物から、前記条件に従って顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を、前記の偏光顕微鏡及び電子顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡観察像及び電子顕微鏡観察像を
図3に示す。
【0210】
図3の偏光顕微鏡観察像によると太い繊維の繊維径は25μm程度であり、電子顕微鏡観察像によると細い繊維の繊維径は数十nm〜2μm程度であった。そして、解繊した繊維数が増加していることが観測された。
【0211】
得られた組成物から、前記条件に従って試験片(成形体)を作製し、試験片について、上記の方法で3点曲げ試験を行った。その結果を表2に示す。
【0212】
なお、本明細書において、強度試験の結果を示す表に記載された試験片(成形体)の含有成分の組成比は、酸化防止剤を除いた成形体の全質量に対する各成分の組成比(質量比)を示すものである。
【0213】
そして、含有する化学修飾された繊維の表示は、その略称で記載(例えば、アセチル化された針葉樹未漂白クラフトパルプはその略称AcNUKPで記載)されているが、その含有質量は未修飾繊維に換算して(すなわち、AcNUKPの含有質量はNUKPに換算して)示している。
【0214】
(実施例2)試験番号PP717
実施例2の製造方法を説明する模式図を
図4に示す。
【0215】
実施例2の方法は、3パス目でPPとMAPPとを加える代わりに、PP、MAPP及びクレイ(解繊副剤)の3成分を一度に加える以外は、実施例1と同様の方法である。
【0216】
以下、
図4に記載の各工程について詳細に説明する。
(1パス目:冷間押出)
組成比がAcNUKP(ロット番号(4)T001)/εカプロラクタム/水/AO=(3.96+10)/30/40/1の混合物を、シリンダーを水冷した二軸混練機を用いて冷間押出を行った。
【0217】
(2パス目:脱水押出)
押出機シリンダーを70℃(上流部)〜130℃(下流部)に傾斜加熱し、ベントを設けた二軸混練機に、1パスした混合物を通すことにより脱水押出を行った。2パス目押出後の混合物の組成比は、AcNUKP/(εカプロラクタム+水)/AO=(3.96+10)/32.93/1(合計全質量部:47.89)であった。
【0218】
(3パス目:PLAとの溶融混練)
2パスした混合物にPLA粉を添加し、組成比がPLA/2パス混合物=20/47.89の混合物を調製し、PLAが融解するシリンダー温度(150-160℃)にて二軸混練機による溶融混練を行った。押出後の組成物の組成比は、PLA/AcNUKP/(εカプロラクタム+水)/AO=20/(3.96+10)/7.02/1(合計全質量部:41.98)であった。
【0219】
(4パス目:PP/クレイ及びMAPPによる希釈押出)
組成比がPP/クレイ=51.04/5(組成物合計質量部:56.04)の混合物を二軸混練(シリンダー温度170℃)であらかじめ混練しておいて、PP/クレイ混合物と、MAPP及び上記の3パスした混合物とを、(PP/クレイ混合物)/MAPP/(3パス混合物)=56.04/10/41.98の組成比にて、二軸混練機(シリンダー温度180-190℃)で溶融混練した。そして、残存する水及びεカプロラクタムを取り除くため、真空ベントにより脱気を行った。得られた組成物の組成比は、PP/MAPP/PLA/AcNUKP/クレイ/AO=51.04/10/20/(3.96+10)/5/1であった。
【0220】
得られた組成物から、前記条件に従って顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を、前記の偏光顕微鏡及び電子顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡観察像及び電子顕微鏡観察像を
図5に示す。
【0221】
図5の偏光顕微鏡観察像によると太い繊維の繊維径は5〜20μm程度であり、電子顕微鏡観察像によると細い繊維の繊維径は100〜500nm程度であった。
【0222】
得られた組成物から、前記条件に従って試験片(成形体)を作製し、試験片について、上記の方法で3点曲げ試験を行った。その結果を表2に示す。
【0223】
【表2】
【0224】
(比較例1) PP成形体(非繊維強化PP)
市販ペレット状PPを、射出成形機(日精樹脂工業製、NPX7型、型締め力7トン)によりシリンダー温度190℃にて成形体(幅10mm×長さ80mm×厚み4mm)に加工した。
【0225】
(比較例2) 試験番号PP618(PPとPLAとの混合成形体、繊維非強化)
PP粉、PLA粉、MAPP及びAOを、PP/PLA粉/MAPP/AO=70/20/10/1の組成比にて混合し、二軸混練機(φ15mm、L/D45:テクノベル製)を用いて、混練シリンダー設定温度を170℃として溶融混練した。得られた組成物を前記と同様の方法で射出成形体に加工した。
【0226】
(比較例3)試験番号PP612(一括混練組成物)
イソプロピルアルコール(IPA)中でAcNUKP(ロット番号(1)EY262)をスラリー化し、そこにPLA粉及びMAPPを添加した。その後、撹拌し、ろ過することにより、ろ過ケーキを得た。これを撹拌乾燥機(TX5:井上製作所製、内容量5L)にAOとともに投入し、撹拌乾燥した。得られた混合物の組成比は、PLA粉/MAPP/AcNUKP/AO=20/10/(3.5+10)/1であった。この混合物を「粉MB1」と呼ぶ。粉MB1とPPとを、PP/粉MB1=56.5/44.5の比率で混合し、二軸混練機を用いて、シリンダー設定温度を170℃として溶融混練した。得られた溶融混練物の組成比は、PP/MAPP/PLA/AcNUKP/AO=56.5/10/20/(3.5+10)/1であった。
【0227】
得られた組成物から、前記条件に従って顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を、前記の偏光顕微鏡及び電子顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡観察像及び電子顕微鏡観察像を
図6に示す。
【0228】
この混練物を、前記と同様にして射出成形体に加工した。
【0229】
なお、このように全ての原料を、一括混合し二軸混練機に投入して混練する手法を、本明細書では、一括混練と呼び、得られた組成物を一括混練組成物と称する。
【0230】
(比較例4)試験番号PP610(二段階混練組成物)
イソプロピルアルコール(IPA)中にてAcNUKP(ロット番号(1)EY262)をスラリー化し、PLA粉を添加した。その後、撹拌し、ろ過することにより、ろ過ケーキを得た。これを撹拌乾燥機(TX5:井上製作所製、内容量5L)にAOとともに投入し撹拌乾燥した。得られた混合物の組成比は、PLA粉/AcNUKP/AO=20/(3.4+10)/1であった。この混合物を「粉MB2」と呼ぶ。粉MB2を、二軸混練機を用いて、シリンダー設定温度160℃で溶融混練し、溶融混練物(「MB2」と呼ぶ)を得た。PP、MAPP及びMB2をPP/MAPP/MB2=56.6/10/34.4の比率で混合し、二軸混練機を用いて、シリンダー設定温度180℃で溶融混練した。得られた溶融混練物の組成比は、比較例3と同じく、PP/MAPP/PLA/AcNUKP/AO=56.5/10/20/(3.5+10)/1である。なお、この組成比は、前述の実施例1と同じである。
【0231】
得られた組成物から、前記条件に従って顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を、前記の偏光顕微鏡及び電子顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡像及び電子顕微鏡像を
図7に示す。
【0232】
また、この混練物を、前記と同様にして射出成形体に加工した。
【0233】
なお、上記の様に予め化学修飾繊維集合体(AcNUKP)とPLA(第一の樹脂)とのみで溶融混合を行い、それをPP(第二の樹脂)とMAPPとで希釈して溶融混練する手法を、本明細書では二段階混練と呼び、得られた組成物を二段階混練組成物と称する。
【0234】
(比較例5)試験番号PP664(二段階混練PP組成物、AcNUKP及びクレイ含有)
イソプロピルアルコール(IPA)中にてAcNUKP(ロット番号(2)NT297)をスラリー化し、PLA粉を添加した。その後、撹拌し、ろ過することにより、ろ過ケーキを得た。これを撹拌乾燥機(TX5:井上製作所製、内容量5L)にAOとともに投入し撹拌乾燥した。得られた組成物の組成比は、PLA粉/Ac-NUKP/AO=20/(3.5+10)/1であった、この混合物を「粉MB3」と呼ぶ。粉MB3を、二軸混練機を用いて、シリンダー設定温度160℃で溶融混練し、混練組成物(これを、「MB3」と呼ぶ)を得た。
【0235】
一方、PPとクレイとを51.5/5の混合比にて170℃で二軸混練機を用いて溶融混練して、クレイ含有PP組成物を作製した。
【0236】
上記のクレイ含有PP組成物、MAPP及びMB3を、クレイ含有PP組成物/MAPP/MB3=56.5/10/34.5の組成比率で混合し、この混合物を、二軸混練機を用いてシリンダー設定温度180℃で溶融混練した。得られた溶融混練物の組成比は、PP/MAPP/PLA/AcNUKP/クレイ/AO=51.5/10/20/(3.5+10)/5/1であった。なお、この組成比は、前述の実施例2と同じである。
【0237】
また、この混練物を、前記と同様にして射出成形体に加工した。
【0238】
なお、このように予めPLA及び化学修飾繊維修飾体のみで溶融混合を行い、この混合物を、別途調製したクレイ含有PP組成物で希釈し、溶融混練することにより得られる組成物を、本明細書では二段階混練PP組成物(クレイ含有)と称する。
【0239】
以上の比較例1〜5の成形体について、前記の方法で3点曲げ試験を実施した。結果を表3に示す。
【0240】
【表3】
【0241】
表3に示す3点曲げ試験の結果から、以下のことがわかった。
【0242】
PP成形体(比較例1)に比べて、PLAを添加した成形体(比較例2)では曲げ弾性率及び曲げ強度が、いずれも約10%向上した。
【0243】
そして、さらにAcNUKPを添加した成形体(比較例3)では、PP成形体(比較例1)に比べて、曲げ弾性率が48%、曲げ強度が24%向上した。
【0244】
比較例3の原料を二段階で加えた二段階混練組成物の成形体(比較例4)では、PP成形体(比較例1)に比べて、曲げ弾性率が66%、曲げ強度が37%向上した。
【0245】
比較例4の成形体にクレイを添加した成形体(比較例5)では、PP成形体(比較例1)に比べて、曲げ弾性率が78%、曲げ強度が34%向上した。
【0246】
また、表2及び表3に示す3点曲げ試験の結果から、以下のことがわかった。
【0247】
実施例1の方法で製造した組成物からなる成形体は、PPの成形体(比較例1)に比べて、曲げ弾性率が82%、曲げ強度が41%向上した。
【0248】
実施例2の方法で製造した組成物からなる成形体は、PP成形体(比較例1)に比べて、曲げ弾性率が112%、曲げ強度が53%向上した。
【0249】
実施例1の方法で製造した組成物からなる成形体を、解繊助剤εカプロラクタムを使用せずに調製した比較例4の組成物からなる成形体と比較すると、実施例1の方法で製造した組成物からなる成形体では、比較例4のそれに対して、曲げ弾性率470MPa(14.4%)、曲げ強度が2.1MPa(2.9%)向上した。
【0250】
実施例2と比較例5とを比較すると、実施例2の方法(解繊助剤としてεカプロラクタムを使用)で製造した組成物からなる成形体は、比較例5の成形体に対して、曲げ弾性率が680MPa(19.4%)、曲げ強度が10MPa(13.9%)向上した。これは、解繊助剤(εカプロラクタム)の効果であるといえる。
【0251】
比較例4の成形体と比較例5(クレイ添加)の成形体とを比較すると、比較例4に対して比較例5では、曲げ弾性率は240MPa向上したが、曲げ強度は1.7MPa低下した。つまり、比較例ではクレイの添加効果は曲げ弾性率にのみ限定されているといえる。
【0252】
これに対して、実施例1の方法で製造した成形体と実施例2の方法で製造した成形体(いずれの組成物も解繊助剤としてのεカプロラクタムを使用して製造)との結果を比較すると、解繊副剤としてのクレイを使用した実施例2では、曲げ弾性率及び曲げ強度ともに、実施例1のそれよりも向上した(曲げ弾性率は450MPa、曲げ強度は6.2MPa向上)。
【0253】
これらの結果より、実施例1及び2ともに、比較例4及び5に対して飛躍的に解繊性が向上したことがわかる。また、実施例2ではεカプロラクタム(解繊助剤)とクレイ(解繊副剤)との相乗効果により一層の解繊性向上が見られたことがわかる。
【0254】
このように、εカプロラクタムには、セルロースを膨潤させて解繊性を向上させる解繊助剤の効果、解繊したAcNUKPが混練中に再凝集するのを抑制する凝集抑制剤の効果、及びPPマトリクスによる希釈時の分散効果を促す分散剤の効果があると考えられる。さらに、クレイ(解繊副剤)とεカプロラクタムとを併用することで相乗効果を奏することは、上記の曲げ特性の結果から明らかである。
【0255】
(実施例3)試験番号PP796(実施例2に対する押出プロセスの変更)
上記実施例2においてεカプロラクタム及びクレイを使用して調製した組成物の成形体では、飛躍的に曲げ特性、及び、樹脂中でのミクロフィブリル化したAcNUKPの分散性の向上がみられことから、実施例3では、樹脂組成物の含有割合は変えずに、実施例2の製造プロセスについて検討した。
【0256】
実施例3の製造方法を説明する模式図を
図8に示す。
【0257】
実施例2に対する実施例3の変更点は、(i)PLA粉を最初の工程(1パス目)で添加したこと、(ii)1パス目の冷間押出(シリンダー水冷)を脱水押出(シリンダー温度80〜130℃)に変更し、且つ2パス目の脱水押出(シリンダー温度70〜130℃)をεカプロラクタム/PLA膨潤混練(シリンダー温度80℃)としたことである。
【0258】
実施例3においては、AcNUKPを水中でスラリー化し、ろ過した後、εカプロラクタム、PLA粉およびAOを添加し、家庭用ミキサーによりAcNUKP/PLA粉/εカプロラクタム/水/AO混合物を作製し、この混合物を製造工程最初の組成として、二軸混練機に合計4パス通すことにより混合物を作製した。(なお、実施例1及び2においては、PLA粉はスタート時点の組成成分として添加していない。)
【0259】
以下、
図8に記載の各工程について詳細に説明する。
(1パス目:脱水押出)
AcNUKP(ロット番号(5)T011)/PLA粉/εカプロラクタム/水/AOの混合比が(3.1+10)/20/20/40/1の混合物を、ベントを設けた二軸混練機に通すことにより脱水押出を行った。押出機のシリンダー温度は80℃(上流部)〜130℃(下流部)に傾斜加熱した。この加熱温度はPLAの融点(約160℃)よりも低温であるが、PLAがεカプロラクタムにより膨潤され、その他の組成成分と混練され、一体化した状態で吐出された。
【0260】
(2パス目:εカプロラクタム/PLA膨潤物の混練)
押出機シリンダーを80℃に設定した二軸混練機に、上記の1パスした混合物を通すことにより混練押出を行った。上記の1パス目に水が大体取り除かれ、2パス目では、εカプロラクタムとPLAの膨潤物とその他の組成成分とが混練された。
【0261】
(3パス目:PLAとの溶融混練)
上記の2パスした混合物を、PLAが融解するシリンダー温度160℃にて二軸混練機にで溶融混練した。押出後の組成物の組成比は、AcNUKP/PLA粉/(εカプロラクタム+水)/AO=(3.1+10)/20/5.8/1(組成物合計質量部:39.9)であった。
【0262】
(4パス目:PP/MAPP/クレイ混練物による希釈押出)
予めPP/MAPP/クレイ=51.9/10/5(合計質量部:66.9)の組成にて二軸混練(シリンダー温度170℃)して得られたPP/MAPP/クレイ混練物及び上記の3パス済の混練物を、組成比(PP/MAPP/クレイ)/(3パス済混練物)=66.9/39.9にて二軸混練機(シリンダー温度180℃-190℃)で溶融混練した。そして、残存する水及びεカプロラクタムを取り除くため、真空ベントにより脱気を行った。得られた混練物の最終組成比は、実施例2と同様のPP/MAPP/PLA/AcNUKP/クレイ/AO=51.9/10/20/(3.1+10)/5/1であった。
【0263】
得られた組成物から、前記条件に従って顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を、前記の偏光顕微鏡及び電子顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡観察像及び電子顕微鏡観察像を
図9に示す。
【0264】
偏光顕微鏡観察像によると太い繊維の繊維径は10μm程度であり、電子顕微鏡観察像によると細い繊維の繊維径は数十nm〜500nm程度であった。
【0265】
得られた組成物から、前記条件に従って試験片(成形体)を作製し、試験片について、上記の方法で3点曲げ試験を行った。その結果を表4に示す。
【0266】
(実施例4)試験番号PP826(実施例3のクレイを汎用タルクに変更した実施例)
図10に実施例4の製造方法を示す。この製造方法は、実施例3において、解繊副剤としてのクレイを汎用タルク(ミクロエースMSZ-C:日本タルク製、平均粒径12.8μm、アミノ系表面処理済、以下、単にタルクと記載する)に変更した以外は、実施例3と同様である。
【0267】
(1パス目:脱水押出)
組成比がAcNUKP(ロット番号(6)T014)/PLA粉/εカプロラクタム/水/AO=(3.07+10)/20/20/40/1の混合物を、押出機シリンダー設定温度が80℃(上流部)〜130℃(下流部)に傾斜加熱させて、かつ、ベントを設けた二軸混練機に通すことにより脱水押出を行った。
【0268】
この加熱温度はPLAの融点(約160℃)よりも低温であるが、PLAがεカプロラクタムにより膨潤され、各組成成分が混練され一体化した状態で吐出された。
【0269】
(2パス目:εカプロラクタム/PLA膨潤物の混練)
シリンダー温度を80℃に設定した二軸混練機に、上記1パス済の混合物を通すことにより混練押出を行った。上記の1パス目に水が大体取り除かれ、2パス目では、εカプロラクタムとPLAの膨潤物とその他の組成物とが混練された。
【0270】
(3パス目:PLAとの溶融混練)
上記2パス済の混合物を、PLAが融解するシリンダー温度(160℃)に設定した二軸混練機で溶融混練を行った。押出後の混練物の成分組成比は、AcNUKP/PLA粉/εカプロラクタム+水/AO=(3.07+10)/20/3.77/1(混練物合計質量部:37.84)であった。
【0271】
(4パス目:PP/MAPP/タルク混練物による希釈押出)
成分組成比PP/MAPP/タルク=51.93/10/5(合計66.93)の組成にて二軸混練(シリンダー温度170℃)で予め混練して得られたPP/MAPP/タルク混練物及び上記の3パス済の混練物を、(PP/MAPP/タルク)/3パス混練物=66.93/37.84の組成比にて二軸混練(シリンダー温度180℃)を行った。そして、残存する水及びεカプロラクタムを取り除くため、真空ベントにより脱気を行った。得られた混練組成物の組成比は、PP/MAPP/PLA/AcNUKP/タルク/AO=51.93/10/20/(3.07+10)/5/1であった。
【0272】
得られた組成物から、前記条件に従って顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を、前記の偏光顕微鏡及び電子顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡観察像及び電子顕微鏡像を
図11に示す。
【0273】
偏光顕微鏡観察像によると太い繊維の繊維径は5〜10μm程度であり、電子顕微鏡観察像によると細い繊維の繊維径は数十nm〜500nm程度であった。
【0274】
また、実施例3の製造法(実施例2の押出プロセスを変更)で製造した樹脂組成物の偏光顕微鏡観察像では、ミクロフィブリル化AcNUKPに相当する白いモヤ状の領域が増大し(
図9)、さらにクレイの代わりにタルクを使用することにより(実施例4)、解繊不十分である繊維に相当する濃い白色の筋が大幅に減少した(
図11)。
【0275】
得られた組成物から、前記条件に従って試験片(成形体)を作製し、試験片について、上記の方法で3点曲げ試験を行った。その結果を表4に示す。
【0276】
【表4】
【0277】
表3及び表4の結果より、実施例3の成形体は、PPのみからなる成形体(比較例1)に対して、曲げ弾性率が132%、曲げ強度が62%向上した。実施例4の成形体は、PPのみからなる成形体(比較例1)に対して、曲げ弾性率が129%、曲げ強度が69%向上した。
【0278】
表2及び表4の結果から、実施例3の製造方法を、実施例2から上記のように変更したことによって、実施例3の製造方法で製造した組成物からなる成形体の曲げ弾性率は、実施例2の方法で製造した組成物からなる成形体のそれに対して、390MPa上昇し、曲げ強度は4.8MPa向上したことがわかる。
【0279】
また、使用する解繊副剤をクレイ(実施例3)から汎用タルク(実施例4)に変更することで、曲げ強度が大きく向上した(4MPa)。
【0280】
以上のことから、最初の工程(1パス目)で、組成物成分として解繊助剤(εカプロラクタム)と共にPLAを混合しておくことにより、εカプロラクタムとPLAとの混練物がAcNUKPの解繊に効果を発揮し、曲げ弾性率及び曲げ強度が向上したものと考えられる。また低コストのタルクを、クレイの代わりに使えることも明らかとなった。
【0281】
(実施例5)試験番号PP864(原材料の一括混合)
実施例3において、押出機1パス目に脱水を行い、2パス目においてεカプロラクタム/PLA膨潤混練が効果的であること、実施例4では汎用タルクがクレイ以上の補強効果を示すことが示唆された。そこで、さらなる物性改善及び製造工程の簡略化を目指し、下記実施例5を実施した。
【0282】
具体的には、実施例5では、各原材料間の相互作用による分散性の向上と、実施例3及び4の製造方法で採用しているPP/MAPP/タルクの溶融混練工程の省略化を目指して、PP以外の全ての原材料を製造工程の最初に混合して使用した。
【0283】
図12に実施例5の製造方法を説明する模式図を示す。
【0284】
上記の実施例4では、スタート材料(工程の最初に用いる原材料)は、AcNUKP/PLA粉/εカプロラクタム/水/AOからなる混合物であるが、実施例5ではPP以外の原材料すべてからなる混合物(組成比:AcNUKP(ロット番号(7)T025)/PLA粉/MAPP/タルク/εカプロラクタム/水/AO=(3.01+10)/20/10/5/20/40/1))をスタート材料とした。
【0285】
以下、
図12に記載の各工程について詳細に説明する。
原材料混合物(スタート材料)の調製:
AcNUKP(ロット番号(7)TO25、DS0.64)を水中でスラリー化し、ろ過した後、εカプロラクタム、PLA粉、MAPP、タルク及びAOを添加し、家庭用ミキサーにより、組成比AcNUKP/PLA/MAPP/タルク/εカプロラクタム/水/AO=(3.01+10)/20/10/5/20/40/1の混合物を作製した。実施例5及び6においては、この混合物をスタート材料として最初の工程に使用した。
【0286】
(1パス目:脱水押出)
上記の原材料混合物を、シリンダーを80℃(上流部)〜130℃(下流部)に傾斜加熱し、ベントを設けた二軸混練機に通すことにより脱水押出を行った。上記加熱温度は、PLAの融点(約160℃)よりも低温であるが、PLAがεカプロラクタムにより膨潤されて、原材料混合物が混練されて一体化した状態で吐出された。
【0287】
(2パス目:εカプロラクタム/PLA膨潤物の混練)
シリンダーを80℃に設定した二軸混練機に、1パスした混合物を通すことにより混練押出を行った。1パス目に水が大体取り除かれεカプロラクタムとPLAの膨潤物により、それ以外の材料が混練された。
【0288】
(3パス目:PLAの溶融混練)
上記の2パス済の混練物をPLAが融解するシリンダー温度160℃にて二軸混練機による溶融混練を行った。押出後の組成は、AcNUKP/PLA/MAPP/タルク/εカプロラクタム+水/AO=(3.01+10)/20/10/5/19.36/1(組成合計質量部:68.37)であった。
【0289】
(4パス目:PPによる希釈押出)
上記の3パス済の溶融混練物にPPを混合し、組成物混合比が、(上記3パス済の混合物)/PP=68.37/51.99の混合物とし、これを二軸混練機で溶融混練した(シリンダー温度180℃)。そして、残存する水及びεカプロラクタムを取り除くため、真空ベントにより脱気を行った。得られた樹脂組成物の組成比は、PP/MAPP/PLA/AcNUKP/タルク/AO=51.99/10/20/(3.01+10)/5/1であった。
【0290】
得られた組成物から、前記条件に従って顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を、前記の偏光顕微鏡及び電子顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡観察像及び電子顕微鏡観察像を
図13に示す。偏光顕微鏡観察像によると太い繊維の繊維径は5〜10μm程度であり、電子顕微鏡観察像によると細い繊維の繊維径は数十nm〜1μm程度であった。
【0291】
得られた組成物から、前記条件に従って試験片(成形体)を作製し、試験片について、上記の方法で3点曲げ試験を行った。その結果を表5に示す。
【0292】
(実施例6)試験番号PP873(工程の省略化)
図14に実施例6の製造方法を説明する模式図を示す。
【0293】
実施例6では、さらなる物性改善および製造工程の簡略化を目指して、実施例5と同様にPP以外の全ての原材料の混合物を工程の最初に使用し、組成物からの水及びεカプロラクタムの除去並びにPP樹脂による希釈混練工程を4パスから3パスに変更した。つまり実施例3、4、及び5の製造方法における3パス目(PLA溶融練工程(160℃))を省いた。使用した化学修飾リグノパルプ(AcNUKP)は、製造番号(7)TO25(DS0.64)である。
【0294】
以下、
図14に記載の各工程について詳細に説明する。
(1パス目:脱水押出)
実施例5と同様にして調製した、組成比が、AcNUKP(ロット番号(7)T025)/PLA/MAPP/タルク/εカプロラクタム/水/AO=(3.01+10)/20/10/5/20/40/1の混合物を、シリンダー温度を80℃(上流部)〜130℃(下流部)に傾斜加熱し、ベントを設けた二軸混練機に通すことにより脱水押出を行った。PLAの融点(約160℃)よりも低温であるが、PLAがεカプロラクタムにより膨潤され、上記混合物が混練され一体化した状態で吐出された。
【0295】
(2パス目:εカプロラクタム/PLA膨潤物の混練)
シリンダー温度を80℃に設定した二軸混練機に、上記1パス混合物を通すことにより混練押出を行った。1パス目に水が大体取り除かれ。2パス後の混練物の組成比は、AcNUKP/PLA/MAPP/タルク/(εカプロラクタム+水)/AO=(3.01+10)/20/10/5/20.36/1(組成合計質量部:69.37)であった。
【0296】
(3パス目:PPによる希釈押出)
上記2パス済の混練物にPPを加えて、組成比が、(上記2パス済混練物)/PP=69.37/51.99の混合物とし、これを二軸混練機で溶融混練(シリンダー温度180℃)し、そして、残存する水及びεカプロラクタムを取り除くため、真空ベントにより脱気を行った。得られた樹脂組成物の組成は、PP/MAPP/PLA/AcNUKP/タルク/AO=51.99/10/20/(3.01+10)/5/1であった。
【0297】
得られた組成物から、前記条件に従って顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を、前記の偏光顕微鏡及び電子顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡観察像及び電子顕微鏡観察像を
図15に示す。偏光顕微鏡観察像によると太い繊維の繊維径は5μm以下であり、電子顕微鏡観察像によると細い繊維の繊維径は数十nm〜500nm程度であった。
【0298】
得られた組成物から、前記条件に従って試験片(成形体)を作製し、試験片について、上記の方法で3点曲げ試験を行った。その結果を表5に示す。
【0299】
【表5】
【0300】
表5より、PP以外の全ての原材料を製造工程の最初に混合して製造した実施例5の成形体の曲げ弾性率及び曲げ強度は、実施例4のそれと同等以上であった。
【0301】
さらに製造工程を簡略して実施例6で製造した成形体の曲げ弾性率は4866MPa、曲げ強度は96.9MPaであり、高い強度特性を示した。
【0302】
表3及び表5の結果から、以下のことがわかった。
【0303】
実施例5の方法で製造した成形体の曲げ弾性率は、PPのみからなる成形体(比較例1)のそれに比べて131%高い値を示し、曲げ強度は72%高い値を示した。
【0304】
実施例6の方法で製造した成形体の曲げ弾性率は、PPのみからなる成形体(比較例1)のそれに比べて、146%高い値を示し、曲げ強度80%高い値を示した。
【0305】
上記のように、実施例5においては、実施例4の製造方法を改良し、PP以外の全原材料を製造工程の最初に混練した。実施例6においては、さらに、組成物からの水及びεカプロラクタムの除去工程を4パスから3パスに変更して工程を簡略化した。以上の製造法の改良によって、製造される成形体の強度特性がさらに向上し、組成物中に分散するAcNUKPの繊維径も劇的に小さくなった。さらに、工程を簡略化することにより(実施例6)、樹脂組成物及びそれからなる成形体の低コスト化も期待できることがわかった。
【0306】
ここで、実施例1〜6をまとめると、解繊助剤としてεカプロラクタムを使用して化学修飾パルプ(AcNUKP)の解繊を図り、まず、化学修飾MFC(ミクロフィブリル化AcNUKP)とPLAとの複合体を調製し、次いでこれをPPと複合化することにより、ミクロフィブリル化AcNUKPが、熱可塑性樹脂(PLA及びPP)に分散した組成物を製造する方法である。すなわち、実施例1〜6では、まずマスターバッチとして化学修飾MFCを含有するPLA組成物が調製され、これがPPで希釈されて、化学修飾MFCを含有する熱可塑性混合樹脂(PLAとPPとの混合樹脂)組成物が調製される。
【0307】
(実施例7)試験番号PP800
実施例7では、PLAの代わりにPA6を用い、化学修飾MFC、PA6及びPPを含有する樹脂組成物の製造を行った。使用材料は、前記の通りである。
【0308】
図16に実施例7の製造方法を説明する模式図を示す。
【0309】
PP以外の全ての原材料を配合比:AcNUKP(ロット番号(8)T011)/PA6粉/MAPP/εカプロラクタム/水/AO=(3.1+10)/20/10/20/40/1で混合し、この混合物をスタート材料(出発原料)として用いた。
【0310】
以下、
図16に記載の各工程について詳細に説明する。
(1パス目:脱水押出)
上記のスタート材料を、シリンダー設定温度を80℃(上流部)〜130℃(下流部)に傾斜加熱し、ベントを設けた二軸混練機に通すことにより脱水押出を行った。
【0311】
(2パス目:εカプロラクタム/PA6膨潤物の混練)
シリンダーを130℃(上流部)〜180℃(下流部)に傾斜加熱した二軸混練機に、上記1パス済の混合物を通すことにより混練押出を行った。1パス目に水が大体取り除かれ、εカプロラクタムとPA6の膨潤物により、それ以外の材料が混練された。
【0312】
(3パス目:PA6溶融混練)
得られた2パス済の混練物を、シリンダー温度が170〜180℃の二軸混練機で溶融混練した。混練後の組成比は、AcNUKP/PA6/MAPP/εカプロラクタム+水/AO=(3.1+10)/20/10/6.72/1(組成合計質量部:50.82)であった。
【0313】
(4パス目:PPによる希釈押出)
得られた3パス済の混練物にPPを混合し、(3パス済混合物)/PP=50.82/56.9の組成物を調製し、シリンダー温度180℃〜190℃で二軸混練を行い、残存する水及びεカプロラクタムを取り除くために真空ベントにより脱気を行った。得られた樹脂組成物の組成比は、PP/MAPP/PA6/AcNUKP/AO=56.9/10/20/(3.01+10)/1であった。
【0314】
得られた組成物から、前記条件に従って顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を、前記の偏光顕微鏡及び電子顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡観察像及び電子顕微鏡観察像を
図17に示す。偏光顕微鏡観察像によると太い繊維の繊維径は10μm以下であり、電子顕微鏡観察像によると細い繊維の繊維径は数十nm〜1μm程度であった。
【0315】
得られた組成物から、前記条件に従って試験片(成形体)を作製し、試験片について、上記の方法で3点曲げ試験を行った。その結果を表6に示す。
【0316】
(実施例8)試験番号PP880
実施例8の製造方法は、実施例6で使用したPLAの代わりにPA6を用いた以外は、実施例6と同様である。
【0317】
実施例8の製造方法を説明する模式図を
図18に示す。
【0318】
PP以外の全ての原材料を、AcNUKP(ロット番号(9)T031)/PA6粉/MAPP/タルク/εカプロラクタム/水/AO=(3.15+10)/20/10/5/20/40/1)の混合比で混合し、これをスタート材料として使用した。
【0319】
以下、
図18に記載の各工程について詳細に説明する。
(1パス目:脱水押出)
上記のスタート材料を、混練機シリンダーを80℃(上流部)〜180℃(下流部)に傾斜加熱し、ベントを設けた二軸混練機に通すことにより脱水押出を行った。上記の設定温度はPA6の融点(約225℃)よりも低温であるが、PA6がεカプロラクタムにより膨潤され、上記スタート材料の混合物が混練され、一体化した状態で吐出された。
【0320】
(2パス目:εカプロラクタム/PA6膨潤物の混練)
混練機シリンダーを155℃に設定した二軸混練機に、上記1パス済の混練物を通して、混練押出を行った。上記1パス目では水が大体取り除かれ、εカプロラクタムとPA6との膨潤物及びその他の成分が混練されたが、2パス目では残存する水及びεカプロラクタムが排出された。2パス後の混練物の組成比は、AcNUKP/PA6/MAPP/タルク/(εカプロラクタム+水)/AO=(3.15+10)/20/10/5/12.94/1(組成合計質量部は62.09)であった。
【0321】
(3パス目:PPによる希釈押出)
上記2パス済の混練物にPPを混合し、(2パス混合物)/PP=62.09/51.85の組成比の混合物とし、これをシリンダー温度200℃の二軸混練機で溶融混練し、残存する水及びεカプロラクタムを取り除くため、真空ベントにより脱気を行った。得られた溶融混練物の組成比は、PP/MAPP/PA6/AcNUKP/タルク/AO=51.85/10/20/(3.15+10)/5/1であった。
【0322】
得られた組成物から、前記条件に従って顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を、前記の偏光顕微鏡及び電子顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡観察像及び電子顕微鏡観察像を
図19に示す。偏光顕微鏡像によると太い繊維の繊維径は10μm以下であり、電子顕微鏡像によると細い繊維の繊維径は数十nm〜1μm程度であった。
【0323】
また、
図17の実施例7の偏光顕微鏡像と、
図19の実施例8の偏光顕微鏡像とを比較すると、実施例8の偏光顕微鏡像では、繊維長が大きく、ミクロフィブリル化AcNUKPに相当する白いモヤ状の像の領域が大きかった。
【0324】
得られた組成物から、前記条件に従って試験片(成形体)を作製し、試験片について、上記の方法で3点曲げ試験を行った。その結果を表6に示す。
【0325】
【表6】
【0326】
(比較例6)PA6成形体
市販のPA6ペレットをそのまま使用し、射出成型機のシリンダー温度を230℃とし、あとは前記と同様にして射出成形体に加工した。
【0327】
得られた成形体(試験片)について、上記の方法で3点曲げ試験を行った。その結果を表7に示す。
【0328】
(比較例7)試験番号PP494(AcNBKP、PA6及びPP含有組成物)
イソプロピルアルコール(IPA)中にてAcNBKP(ロット番号(8)Mb-c73-77)をスラリー化し、PA6粉、MAPP及びPP粉を添加した。その後、撹拌し、ろ過して、ろ過ケーキを得た。これを撹拌乾燥機(TX5:井上製作所製、内容量5L)に投入し、撹拌乾燥して組成比がPA6粉/MAPP/PP粉/AcNBKP=10/10/1.6/(1.73+10)の混合物(これを「粉MB4」という)を得た。粉MB4、PP及びPA6粉を、PP/PA6粉/粉MB4=56.1/9.9/33の比率で混合し、シリンダー温度を170℃に設定した二軸混練機を用いて溶融混練した。このように全ての原材料を一括して混合して調製した混合物を二軸混練機で溶融混練した。得られた混練物の組成比は、PP/MAPP/PA6/AcNBKP=57.7/10/20/(1.73+10)であった。
【0329】
得られた組成物から、前記条件に従って顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を、前記の偏光顕微鏡及び電子顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡観察像及び電子顕微鏡観察像を
図20に示す。
【0330】
得られた組成物から、前記条件に従って試験片(成形体)を作製し、試験片について、上記の方法で3点曲げ試験を行った。その結果を表7に示す。
【0331】
【表7】
【0332】
表6及び表7の結果から、εカプロラクタム及びPA6を使用し実施例7の方法で調製した成形体は、比較例7の成形体に比べ、曲げ弾性率及び曲げ強度が優れていたことがわかる。さらにタルクを併用し、製造プロセスを簡略した実施例8の製造方法で調製した成形体は、曲げ弾性率4210MPa、曲げ強度90.3MPaの高い強度特性を示した。
【0333】
表3及び表6の結果から、実施例7の成形体の曲げ弾性率及び曲げ強度をPP成形体(比較例1)のそれと比べると、曲げ弾性率が90%、曲げ強度が66%向上したことがわかる。実施例8の成形体では、PP成形体(比較例1)に比べて、曲げ弾性率が114%、曲げ強度が68%向上していることがわかる。
【0334】
(比較例8)試験番号PP766
解繊助剤(εカプロラクタム)を使用しないこと以外は実施例2と同様にして、AcNUKPと熱可塑性樹脂(PP及びPLA)を含有する溶融混練組成物及びそれからなる成形体を製造した。
【0335】
その製造方法の概略は次の通りである。
【0336】
最初にAcNUKP(ロット番号(10)NT298)を水中でスラリー化し、ろ過後AOを添加し、家庭用ミキサーによりAcNUKP/水/AOの混合物を作製し、この混合物をスタート材料として二軸混練機に合計4パス通過させることにより比較例8の組成物を得た。
【0337】
比較例8の組成物の製造法を
図21に示す。
【0338】
以下、
図21に記載の各工程について詳細に説明する。
【0339】
(1パス目:冷間押出)
AcNUKP(ロット番号(10)NT298)/水/AO=(3.86+10)/40/1混合物を、シリンダーを水冷した二軸混練機を用いて冷間押出を行った。
【0340】
(2パス目:脱水押出)
押出機シリンダーを70℃(上流部)〜130℃(下流部)に傾斜加熱し、ベントを設けた二軸混練機に、1パスした混合物を通すことにより脱水押出を行った。2パス目押出後の混合物の組成は、AcNUKP/水/AO=(3.86+10)/0/1(合計全質量部14.86)であった。
【0341】
(3パス目:PLAとの溶融混練)
2パスした混合物にPLA粉を添加し、組成比がPLA/2パス混合物=20/14.86の混合物を調製し、PLAが融解するシリンダー温度(150-160℃)にて二軸混練機による溶融混練を行った。押出後の組成比は、PLA/AcNUKP/水/AO=20/(3.86+10)/0/1(合計全質量部:34.86)であった。
【0342】
(4パス目:PP/クレイ及びMAPPによる希釈押出)
組成比がPP/クレイ=51.14/5(組成物合計質量部:56.14)の混合物を二軸混練(シリンダー温度170℃)であらかじめ混練してPP/クレイ混練物を得た。この混練物、MAPP及び3パスした混合物を、(PP/クレイ混練物)/MAPP/(3パス混合物)=56.14/10/34.86の組成比にて二軸混練(シリンダー温度180℃)で溶融混練した。そして、残存する水を除くために真空ベントにより脱気を行った。得られた組成物の組成比は、PP/MAPP/PLA/AcNUKP/クレイ/AO=51.14/10/20/(3.86+10)/5/1であった。
【0343】
得られた組成物から、前記条件に従って顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を、前記の偏光顕微鏡及び電子顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡観察像及び電子顕微鏡観察像を
図22に示す。
【0344】
図22の偏光顕微鏡観察像によると太い繊維の繊維径は5μm程度であり、電子顕微鏡観察像によると細い繊維の繊維径は数十nm〜1μm程度であった。また、
図22の繊維は、解繊が少しは進行しているが、短繊維化が顕著であることがわかった。
【0345】
得られた組成物から、前記条件に従って試験片(成形体)を作製し、試験片について、上記の方法で3点曲げ試験を行った。その結果を表8に示す。
【0346】
【表8】
【0347】
表2と表8とを比べると、比較例8の成形体では実施例2(試験番号PP717)に比べて、曲げ弾性率が1GPa、曲げ強度が110MPa以上低い。εカプロラクタムを添加していない比較例8の成形体は、比較例5(表3)と比較しても著しく物性が劣る。比較例8において、成形体の繊維による補強効果が得られない原因の1つは、繊維の顕著な短繊維化によると考察する。
【0348】
以上のことは、解繊剤(εカプロラクタム)を使用しないと良好な物性の樹脂組成物(成形体)が得られないことを示すものである。すなわち、実施例2と比較例8との比較から、解繊剤(εカプロラクタム)の効果が顕著であることがわかる。
【0349】
(実施例9)試験番号PP1172
実施例9の製造方法は、樹脂として実施例8で使用したPA6を使用しないこと、及び化学修飾パルプとしてAcNUKPの代わりにAcTUKPを使用したこと以外は、実施例8と同様である。
【0350】
実施例9の製造方法を説明する模式図を
図23に示す。
【0351】
PP以外の全ての原材料を、AcTUKP(ロット番号(11)T081)/MAPP/タルク/εカプロラクタム/水/AO=(2.13+10)/10/5/20/20.4/1)の混合比で混合し、これをスタート材料として使用した。
【0352】
以下、
図23に記載の各工程について詳細に説明する。
(1パス目:脱水押出)
上記のスタート材料を、混練機シリンダーを90℃(上流部)〜150℃(下流部)に傾斜加熱し、ベントを設けた二軸混練機に通すことにより脱水押出を行った。上記の設定温度はMAPPの加工温度として低温であるが、MAPPがεカプロラクタムにより膨潤され、上記スタート材料の混合物が混練され、一体化した状態で吐出された。
【0353】
(2パス目:εカプロラクタム/MAPP膨潤物の混練)
混練機シリンダーを130℃に設定した二軸混練機に、上記1パス済の混練物を通して、混練押出を行った。上記1パス目では水が大体取り除かれ、εカプロラクタムとMAPPとの膨潤物及びその他の成分が混練されたが、2パス目では残存する水及びεカプロラクタムが排出された。2パス後の混練物の組成比は、AcTUKP/MAPP/タルク/(εカプロラクタム+水)/AO=(2.13+10)/10/5/17.38/1(組成合計質量部は45.51)であった。
【0354】
(3パス目:PPによる希釈押出)
上記2パス済の混練物にPPを混合し、(2パス混合物)/PP=45.51/72.87の組成比の混合物とし、これをシリンダー温度180℃の二軸混練機で溶融混練し、残存する水及びεカプロラクタムを取り除くため、真空ベントにより脱気を行った。得られた溶融混練物の組成比は、PP/MAPP/AcTUKP/タルク/AO=72.87/10/(2.13+10)/5/1であった。
【0355】
得られた組成物から、前記条件に従って顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を、前記の偏光顕微鏡及び電子顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡観察像及び電子顕微鏡観察像を
図24に示す。偏光顕微鏡像によると太い繊維の繊維径は10μm程度であり、電子顕微鏡像によると細い繊維の繊維径は数十nm〜1μm程度であった。
【0356】
得られた組成物から、前記条件に従って試験片(成形体)を作製し、試験片について、上記の方法で3点曲げ試験を行った。その結果を表9に示す。
【0357】
【表9】
【0358】
(比較例9)試験番号PP304
AcNBKP(ロット番号(12) Mb-c6-3)/PP/MAPP=(1.51+10)/78.49/10の組成比にて混合し、二軸混練機を用いて、混練シリンダー設定温度を170℃として溶融混練した。
【0359】
得られた組成物から、前記条件に従って顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を、前記の偏光顕微鏡及び電子顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡観察像及び電子顕微鏡観察像を
図25に示す。偏光顕微鏡像によると太い繊維の繊維径は20〜30μm程度であり、電子顕微鏡像によると細い繊維の繊維径は数十nm〜3μm程度であった。
【0360】
比較例9の組成物から前記と同様に試験片(成形体)を作製し、前記の方法で3点曲げ試験を行った。その結果を表10に示す。
【0361】
【表10】
【0362】
実施例9の偏光顕微鏡観察像(
図24)と、実施例6(MAPPに加えてPLAを使用)の偏光顕微鏡観察像(
図15)、及び実施例8(MAPPに加えてPA6を使用)の偏光顕微鏡観察像(
図19)とを比較すると、実施例9の観察像(
図24)の方が、繊維径が大きく、樹脂中の繊維の分散性が低下しているように見えた。
一方、実施例9の偏光顕微鏡観察像(
図24)と、比較例9に示す組成(εカプロラクタムを使用しないで製造した組成物)の偏光顕微鏡観察像(
図25)とを比較すると、実施例9の観察像の方が、繊維の分散性が向上していることが観察された。これより、解繊助剤としてεカプロラクタムを使用して作製した実施例9の組成物における繊維の分散性は、通常の混練法で作製した組成物(比較例9)のそれよりも優れていることが確認された。
【0363】
成形体の物性については、表5、表6、及び表9の結果から、MAPP及びPLAを配合して調製した成形体(実施例6)、又はMAPP及びPA6を配合して調製した成形体(実施例8)と、実施例9の成形体とを比較すると、実施例9の曲げ特性は実施例6又は実施例8のそれより低い値であることがわかる。表9及び表10の結果から、実施例9の曲げ特性を、εカプロラクタム(解繊助剤)を使用しないで調製した成形体(比較例9)と比較すると、実施例9の曲げ特性は、比較例9の曲げ特性よりも飛躍的に向上していることがわかる。
【0364】
(実施例10)試験番号PA6-617
実施例10の製造方法を説明する模式図を
図26に示す。
【0365】
実施例10の製造方法では、実施例9のMAPP及びPPの代わりにPA6を用いた。最初に非含水AcTUKP及びPA6を混合し、この混合物をスタート材料として使用した。スタート材料の混合比は、AcTUKP(ロット番号(13)日本製紙株式会社製)/PA6/εカプロラクタム=(1.41+10)/21.92/10である。
【0366】
実施例10の製造方法は、1パス目にAcTUKP及びPA6の混合物を溶融混練してPA6中にAcTUKPを分散し、次いで、2パス目にPA6を追加してセルロース繊維含量が10%となるように希釈して混練する方法である。実施例10ではスタート材料を非含水とすることによって、実施例9における1パス目の脱水押出工程が省略され、実施例9の方法に比べて押出機パス回数が合計2回に減じられている。
【0367】
以下、
図26に記載の各工程について詳細に説明する。
(1パス目:εカプロラクタム/PA6混合物の混練)
上記のスタート材料を、混練機シリンダーを165℃に設定した二軸混練機に通すことにより混練押出を行った。この設定温度はPA6の加工温度として低温であるが、PA6がεカプロラクタムにより膨潤され、上記スタート材料の混合物が混練され、一体化した状態で吐出された。混練物の組成比は、AcTUKP/PA6/εカプロラクタム=(1.41+10)/21.92/10(組成合計質量部は43.33)であった。これを50℃の温水で洗浄してεカプロラクタムを除去した。
【0368】
(2パス目:PA6による希釈、押出)
上記1パス洗浄済の混練物にPA6を混合し、(1パス洗浄済混合物)/PA6=33.33/66.66の組成比の混合物とし、これをシリンダー温度200〜215℃の二軸混練機で溶融混練した。得られた溶融混練物の組成比は、PA6/AcTUKP=88.59/11.41である。
【0369】
得られた組成物から、前記条件に従って顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を、前記の偏光顕微鏡及び電子顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡観察像及び電子顕微鏡観察像を
図27に示す。偏光顕微鏡像によると太い繊維の繊維径は5〜10μm程度であり、電子顕微鏡像によると細い繊維の繊維径は数十nm〜1μm程度であった。
【0370】
実施例10の組成物から、前記条件に従って試験片(成形体)を作製し、試験片について、前記方法で3点曲げ試験を行った。その結果を表11に示す。
【0371】
【表11】
【0372】
(比較例10)試験番号PA6-614
出発材料として非含水AcTUKP及びPA6とを、AcTUKP(ロット番号(13)日本製紙株式会社製)/PA6=(1.41+10)/21.92の組成比にて混合し、二軸混練機の混練シリンダー設定温度を200℃として溶融混練した。これをPA6で3倍に希釈し混練して、溶融混練物(組成比PA6/AcTUKP=88.59/11.41、セルロース繊維として10%を含有)を得た。
【0373】
得られた組成物から、前記条件に従って顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を、前記の偏光顕微鏡及び電子顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡観察像及び電子顕微鏡観察像を
図28に示す。偏光顕微鏡像及び電子顕微鏡像によると太い繊維の繊維径は10〜20μm程度であり、細い繊維の繊維径は数十nm〜1μm程度であった。
【0374】
比較例10の組成物から、前記方法に従って試験片(成形体)を作製し、試験片について、上記方法で3点曲げ試験を行った。その結果を表12に示す。
【0375】
【表12】
【0376】
実施例10の偏光顕微鏡観察像(
図27)と比較例10の偏光顕微鏡観察像(
図28)とを比較すると、比較例10の組成物中の繊維の分散性は明らかに悪く、かつ短繊維化が進行しており、実施例10の組成物中では明らかに繊維の分散性が向上していた。
【0377】
成形体の物性については、表11及び表12の結果から、実施例10の成形体の曲げ物性は、比較例10に示すεカプロラクタム(解繊助剤)を使用しないで作製した成形体の曲げ物性よりも飛躍的に向上していることがわかる。
【0378】
(実施例11)試験番号POM-169
実施例11の製造方法は、実施例9の製造方法と比べて、MAPP及びPPの代わりにPOMを使用すること、そして、AO及びタルクを使用しない点が異なる。
【0379】
実施例11の製造方法を説明する模式図を
図29に示す。
【0380】
原材料を、AcTUKP(ロット番号(14)T072)/POM/εカプロラクタム/水=(2.1+10)/21.23/20/25の混合比で混合し、これをスタート材料として使用した。
【0381】
以下、
図29に記載の各工程について詳細に説明する。
(1パス目:脱水押出)
上記のスタート材料を、混練機シリンダーを90℃(上流部)〜140℃(下流部)に傾斜加熱し、ベントを設けた二軸混練機に通すことにより脱水押出を行った。この工程でPOMがεカプロラクタムにより膨潤され、上記スタート材料の混合物が混練されて一体化した状態で吐出された。
【0382】
(2パス目:εカプロラクタム/POM膨潤物の混練)
混練機シリンダーを140℃に設定した二軸混練機に、上記1パス済の混練物を通して、混練押出を行った。上記1パス目では水が大体取り除かれたが、2パス目では残存する水及びεカプロラクタムが排出された。2パス後の混練物の組成比は、AcTUKP/POM/(εカプロラクタム+水)=(2.1+10)/21.23/19.81(組成合計質量部は53.14)であった。
【0383】
(3パス目:POMによる希釈押出)
上記2パス済の混練物にPOMを混合し、(2パス混合物)/PP=53.14/66.66の組成比の混合物とし、これをシリンダー温度160〜170℃に傾斜加熱された二軸混練機で溶融混練し、残存する水及びεカプロラクタムを取り除くため、真空ベントにより脱気を行った。得られた溶融混練物の組成比は、POM/AcTUKP=87.89/(2.1+10)であった。
【0384】
得られた組成物から、前記条件に従って顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を、前記の偏光顕微鏡及び電子顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡観察像及び電子顕微鏡観察像を
図30に示す。偏光顕微鏡像によると太い繊維の繊維径は5〜10μm程度であり、電子顕微鏡像によると細い繊維の繊維径は数十nm〜2μm程度であった。
【0385】
得られた組成物から、前記方法に従って試験片(成形体)を作製し、試験片について、前記の方法で3点曲げ試験を行った。その結果を表13に示す。
【0386】
【表13】
【0387】
(比較例11)試験番号POM-170
AcTUKP(ロット番号(15)T073)/POM=(1.97+10)/88.02の組成比にて、AcTUKP及びPOMを混合し、二軸混練機を用いて、混練シリンダー設定温度を160〜170℃に設定し溶融混練した。
【0388】
得られた組成物から、前記条件に従って顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を、前記の偏光顕微鏡及び電子顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡観察像及び電子顕微鏡観察像を
図31に示す。偏光顕微鏡像によると太い繊維の繊維径は50μm以上であり、電子顕微鏡像によると細い繊維の繊維径は数十nm〜5μm程度であった。
【0389】
比較例11の組成物から、前記条件に従って試験片(成形体)を作製し、その試験片について、前記方法で3点曲げ試験を行った。結果を表14に示す。
【0390】
【表14】
【0391】
図30と
図31とを比較することにより、実施例11の組成物では、比較例11(εカプロラクタムを使用しない製造方法)よりも組成物中での繊維の分散性の向上が認められた。
【0392】
成形体の物性については、表13及び表14の結果から、実施例11の成形体の曲げ特性は、比較例11の曲げ特性と比較して、飛躍的に向上していることがわかる。
【0393】
(実施例12)試験番号PE198
化学修飾パルプとして、AcTUKP(ロット番号(11)T081)の代わりにAcTUKP(ロット番号(15)T073)を用いるほかは、実施例9と同様のスタート材料を用いた。そして、3パス目でPPの代わりに高密度ポリエチレン(HDPE)を用いる以外は、実施例9と同様の工程で、実施例12の組成物を製造した。
【0394】
実施例12の製造方法を説明する模式図を
図32に示す。
【0395】
以下、
図32に記載の各工程について詳細に説明する。
(1パス目:脱水押出)
スタート材料として、混合比が、AcTUKP(ロット番号(15)T073)/MAPP/タルク/εカプロラクタム/水/AO=(1.97+10)/10/5/20/25/1の混合物を使用した。このスタート材料を、実施例9と同一の温度条件でベントを設けた二軸混練機に通すことにより脱水押出を行った。MAPPがεカプロラクタムにより膨潤され、上記スタート材料が混練されて一体化した状態で吐出された。
【0396】
(2パス目:εカプロラクタム/MAPP膨潤物の混練)
上記1パス済の混練物を実施例9と同一の条件で二軸混練機に通して混練押出を行い、混練物中の水及びεカプロラクタムを排出した。2パス後の混練物の組成比は、AcTUKP/MAPP/タルク/(εカプロラクタム+水)/AO=(1.97+10)/10/5/17.25/1(組成合計質量部は45.22)であった。
【0397】
(3パス目:HDPEによる希釈押出)
上記2パス済の混練物にHDPEを混合し、(2パス済混合物)/HDPE=45.22/73.03の組成比の混合物とし、これをシリンダー温度140℃の二軸混練機で溶融混練し、残存する水及びεカプロラクタムを取り除くため、真空ベントにより脱気を行った。得られた溶融混練物の組成比は、HDPE/MAPP/AcTUKP/タルク/AO=73.03/10/(1.97+10)/5/1であった。
【0398】
得られた溶融混練組成物から、前記条件に従って顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を、前記の偏光顕微鏡及び電子顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡観察像及び電子顕微鏡観察像を
図33に示す。偏光顕微鏡像によると太い繊維の繊維径は30μm程度であり、電子顕微鏡像によると細い繊維の繊維径は数百nm〜1μm程度であった。
【0399】
得られた実施例12の組成物から、前記条件に従って試験片(成形体)を作製し、試験片について、前記の方法で3点曲げ試験を行った。その結果を表15に示す。
【0400】
【表15】
【0401】
(比較例12)試験番号PE196
スタート材料の各成分を、AcTUKP(ロット番号(15)T073)/HDPE/MAPP/タルク/AO=(1.97+10)/72.03/10/5/1の組成比にて混合し、二軸混練機を用いて、混練シリンダー設定温度を140℃として溶融混練した。
【0402】
得られた組成物から、前記条件に従って顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を、前記の偏光顕微鏡及び電子顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡観察像及び電子顕微鏡観察像を
図34に示す。偏光顕微鏡像によると太い繊維の繊維径は50μm程度であり、電子顕微鏡像によると細い繊維の繊維径は数百nm〜10μm程度であった。
【0403】
比較例12の組成物から、前記条件に従って試験片(成形体)を作製し、試験片について上記の方法で3点曲げ試験を行った。その結果を表16に示す。
【0404】
【表16】
【0405】
図33と
図34との比較により、実施例12の組成物は、比較例12の組成物と比較すると、組成物中の繊維の分散性が良好であった。このことから、εカプロラクタム(解繊助剤)を使用して作製した実施例12の組成物中の繊維の分散性は、比較例12(εカプロラクタムを使用しない方法)の組成物のそれよりも優れていることが確認された。
【0406】
成形体の物性については、表15及び表16の結果から、実施例12の成形体は、比較例12の成形体と比較して、飛躍的に曲げ特性が向上した。
【0407】
(実施例13)試験番号PE190
実施例12の場合と同様の工程で、タルクを含まない高密度ポリエチレン(HDPE)組成物を調製した。
【0408】
実施例12と異なる点は、スタート材料にタルクを含まない点、及び使用したAcTUKPのAc化DSが若干大きい点である。
【0409】
スタート材料の組成比は、AcTUKP(ロット番号(14)T072)/MAPP/εカプロラクタム/水/AO=(2.1+10)/10/20/25/1であった。
【0410】
以下に各工程について説明する。
(1パス目:脱水押出)
上記のスタート材料を、実施例12と同一温度条件でベントを設けた二軸混練機に通すことにより脱水押出を行った。
【0411】
(2パス目:εカプロラクタム/MAPP膨潤物の混練)
実施例12と同一条件で上記1パス済の混練物を通して、混練押出を行った。2パス後の混練物の組成比は、AcTUKP/MAPP/(εカプロラクタム+水)/AO=(2.1+10)/10/17.85/1(組成合計質量部は40.95)であった。
【0412】
(3パス目:HDPEによる希釈押出)
上記2パス済の混練物にHDPEを混合し、(2パス混合物)/HDPE=40.95/77.9の組成比の混合物とし、これを実施例12と同一条件で溶融混練し、残存する水及びεカプロラクタムを取り除くため、真空ベントにより脱気を行った。得られた溶融混練物の組成比は、HDPE/MAPP/AcTUKP/AO=77.9/10/(2.1+10)/1であった。
【0413】
得られた組成物から、実施例12と同様の条件で顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を偏光顕微鏡及び電子顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡観察像及び電子顕微鏡観察像を
図35に示す。偏光顕微鏡像によると太い繊維の繊維径は10〜20μm 程度であり、電子顕微鏡像によると細い繊維の繊維径は数十nm〜5μm程度であった。
【0414】
実施例13の組成物から、実施例12と同様にして試験片(成形体)を作製し、試験片について実施例12の場合と同様に3点曲げ試験を行った。その結果を表17に示す。
【0415】
【表17】
【0416】
図33と
図35との比較により、実施例12の組成物(タルク5%及びAcTUKPを含む組成物)と比較して、実施例13では繊維分散性がやや低下していた。この結果より、タルクが解繊副剤として作用していることがわかった。
【0417】
成形体の物性については、表15及び表17の結果から、実施例13の成形体の物性は実施例12のそれと同等であった。
【0418】
(実施例14)試験番号PE200
実施例12のスタート材料にPLAを添加したものを実施例14のスタート材料とし、実施例12と類似の操作で、樹脂としてPLAと高密度ポリエチレン(HDPE)を含む樹脂組成物を製造した。
【0419】
実施例14の製造方法を説明する模式図を
図36に示す。
【0420】
出発原料の混合比は、AcTUKP(ロット番号(11)T081)/MAPP/PLA/タルク/εカプロラクタム/水/AO=(2.13+10)/10/20/5/20/19.1/1であった。
【0421】
以下、
図36に記載の各工程について詳細に説明する。
(1パス目:脱水押出)
上記のスタート材料を、混練機シリンダーを80℃(上流部)〜130℃(下流部)に傾斜加熱し、ベントを設けた二軸混練機に通すことにより脱水押出を行った。上記の設定温度はPLAの加工温度として低温であるが、PLAがεカプロラクタムにより膨潤され、上記スタート材料の混合物が混練され、一体化した状態で吐出された。
【0422】
(2パス目:εカプロラクタム/PLA膨潤物の混練)
混練機シリンダーを80℃に設定した二軸混練機に、上記1パス済の混練物を投入し混練押出を行った。2パス目では残存する水及びεカプロラクタムが排出された。2パス後の混練物の組成比は、AcTUKP/MAPP/PLA/タルク/(εカプロラクタム+水)/AO=(2.13+10)/10/20/5/17.77/1(組成合計質量部は65.9)であった。
【0423】
(3パス目:HDPEによる希釈押出)
上記2パス済の混練物にHDPEを混合し、(2パス混合物)/HDPE=65.9/52.87の組成比の混合物とし、これをシリンダー温度180℃の二軸混練機で溶融混練し、残存する水及びεカプロラクタムを取り除くため、真空ベントにより脱気を行った。得られた溶融混練物の組成比は、HDPE/MAPP/PLA/AcTUKP/タルク/AO=52.87/10/20/(2.13+10)/5/1であった。
【0424】
得られた組成物から、前記条件に従って顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を、前記の偏光顕微鏡及び電子顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡観察像及び電子顕微鏡観察像を
図37に示す。偏光顕微鏡像によると太い繊維の繊維径は5〜10μm 程度であり、電子顕微鏡像によると細い繊維の繊維径は数十nm〜1μm程度であった。
【0425】
実施例14の組成物から、前記条件に従って試験片(成形体)を作製し、試験片について、前記の方法で3点曲げ試験を行った。その結果を表18に示す。
【0426】
【表18】
【0427】
図34と
図37との比較により、実施例14の組成物中の繊維は、PLAを使用していない実施例12の組成物中の繊維よりも明らかに解繊性が向上していた。
【0428】
成形体の物性については、表15及び表18の結果から、実施例12の成形体(PLAを含有しない)に比べて、実施例14の成形体(PLAを含有)は、曲げ特性が飛躍的に向上した。
【0429】
解繊試験
有機溶媒として、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、アセトン、及びイソプロピルアルコール(IPA)を使用し、繊維の解繊試験を行った。具体的には、製造例2で製造したAcTUKP(ロット番号(16)NT-353)乾燥重量換算30mgを、上記の各種有機溶媒2mlに加え、室温下、マグネチックスターラー(500rpm)で20時間撹拌した。攪拌終了後、偏光顕微鏡(オリンパスシステム偏光顕微鏡BX53-31P-OC-1 10倍の対物レンズを使用)で観察し、幅1〜200μmの繊維の数(A)のうちで幅1〜10μmの繊維の数(B)を数えた。
【0430】
Aに対するBの割合(%)を求め、この割合をこの試験では解繊度と称する。そして、80%以上の解繊度を示した有機溶媒は解繊助剤としての性能が良好、80%未満の有機溶媒は解繊助剤としての性能が不十分と判定した。
結果を表19に示す。
【0431】
【表19】