特許第6775187号(P6775187)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6775187
(24)【登録日】2020年10月8日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】縦井戸ケーシングのシール構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 31/02 20060101AFI20201019BHJP
   E02D 31/00 20060101ALI20201019BHJP
   E02D 29/045 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   E02D31/02
   E02D31/00 Z
   E02D29/045 Z
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-154417(P2016-154417)
(22)【出願日】2016年8月5日
(65)【公開番号】特開2018-21414(P2018-21414A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2019年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】305011053
【氏名又は名称】株式会社ナガオカ
(73)【特許権者】
【識別番号】000149206
【氏名又は名称】株式会社大阪防水建設社
(73)【特許権者】
【識別番号】505346942
【氏名又は名称】株式会社エンバイオ・エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(72)【発明者】
【氏名】三村 等
(72)【発明者】
【氏名】柳本 洋一
(72)【発明者】
【氏名】塩田 智
(72)【発明者】
【氏名】田中 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】大島 浩
(72)【発明者】
【氏名】矢木 理将
(72)【発明者】
【氏名】平山 耕平
【審査官】 荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−041401(JP,A)
【文献】 特開2002−235333(JP,A)
【文献】 特開2010−203117(JP,A)
【文献】 特開平05−240392(JP,A)
【文献】 特開2005−282315(JP,A)
【文献】 米国特許第04907385(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/00
E02D 29/045−37/00
E21D 11/00−19/06
E21D 23/00−23/26
E02D 5/00−5/20
F16L 41/00−49/08
F16L 1/00−1/26
F16L 5/00−7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下浸透水の流れを堰止める止水壁構造体の上流側と下流側とには、それぞれ上流側及び下流側縦井戸が設置され、
その上流側縦井戸ケーシングと下流側縦井戸ケーシングとの間は、互いの水位よりも低所において横方向からのボーリングによってそれぞれ一端が連通する上流側及び下流側横管と、この上流側及び下流側横管同士を連結する連結管とで地下水流流通可能に繋がれており、
前記各横管と連通する上流側及び下流側縦井戸ケーシングの連通部には、前記各横管に対してシールするゴムパッキンが取り付けられているとともに、このゴムパッキンを外方から覆うゴムシール材が設けられ、
前記ゴムパッキンと前記ゴムシール材との間には、前記各横管をボーリングする際に当該各横管と接触してその横管の一端側にまとわりつくように飛散する滑剤が収容されていることを特徴とする縦井戸ケーシングのシール構造。
【請求項2】
前記滑剤は、前記ゴムパッキンと前記ゴムシール材との間において前記上流側及び下流側縦井戸ケーシングの連通部の周方向全域のうちのほぼ半周域に亘るように設けられている請求項1に記載の縦井戸ケーシングのシール構造。
【請求項3】
前記ゴムシール材は、前記連通部の両端に近付くに従いそれぞれ径を漸減させるテーパー面を備えている請求項2に記載の縦井戸ケーシングのシール構造。
【請求項4】
前記滑剤は、澱粉質の添加によって粘度が高められている請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の縦井戸ケーシングのシール構造。
【請求項5】
前記上流側及び下流側縦井戸ケーシングとしては、それぞれの管径が200mm〜1000mmに設定されたものを対象としている請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の縦井戸ケーシングのシール構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下浸透水の流れを道路のトンネルなどの止水壁構造体によって堰き止めた際にその止水壁構造体の上流側と下流側との間での地下浸透水の水頭差をなくすようにする対策に関する。
【背景技術】
【0002】
地下構造物の施工時には、施工現場に対する土留めおよび地下水流の遮断をするための土留め壁などの止水壁構造体が用いられる。この止水壁構造体は、地下構造物を構築した後、地下水流を遮って地下ダムのような機能を生じ、止水壁構造体の上流側では地下浸透水位の上昇が起こり、下流側では地下浸透水位の低下が起こる。これでは、止水壁構造体の上流側にある構造物に対して浮上や浸水のおそれがあり、下流側では井戸枯れや地盤沈下が生じるおそれがある。
【0003】
かかる点から、従来より、止水壁構造体に通水部を形成して地下浸透水を通す機能を持たせることによって対処することが行われている。
【0004】
具体的には、地上に繋がる孔(または保護筒)を止水壁構造体に設け、この孔に挿入したノズルから高圧水を噴射して、止水壁構造体の躯体内を切り広げることで、止水壁構造体の外壁面に垂直方向および水平方向に大きく開口する貫通空間を形成し、地下浸透水を止水壁構造体の上流側と下流側とに通じさせる。その後、止水壁構造体の孔を利用して地上から投入した透水性材料を貫通空間内に充填して通水部を形成している(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0005】
ところが、前記従来のものでは、止水壁構造体の外壁面に垂直方向及び水平方向に大きく開口する貫通空間は、地下浸透水を通す通水能力を十分に得る上ではこのましいが、垂直方向及び水平方向に大きく開口する貫通空間を形成していると、貫通空間の上部を支える貫通空間の内側壁部の強度が低下することから、貫通空間が潰れて崩壊し、地上部が陥没するおそれがある。
【0006】
そこで、止水壁構造体の上流側と下流側とにそれぞれ上流側及び下流側縦井戸を止水壁構造体に沿って複数設置し、それぞれ止水壁構造体を挟んで互いに対峙する上流側及び下流側縦井戸ケーシングを、互いの水位よりも低所においてそれぞれ横管の一端を横方向からのボーリングによって連通し、各横管の他端同士を連結管によって地下水流の流通可能に連結することで、止水壁構造体の上流側と下流側とを必要最小限の管路で連通させて、大きく開口する貫通空間の崩壊による地上部の陥没を防止することが考えられる。この場合、横管の一端と連通する上流側及び下流側縦井戸ケーシングの連通部に横管に対してシールするゴムパッキンが取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−76827号公報
【特許文献2】特開平7−76828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、止水壁構造体の上流側と下流側とを必要最小限の管路で連通させるものにおいても、以下に述べる課題を保有している。
【0009】
つまり、上流側及び下流側縦井戸ケーシングに対するボーリング時に回転しながら押圧される横管との摩擦によって、ゴムパッキンが横管の径以上に引きちぎられるなどして大きく損傷するおそれがあり、横管に対するシール性が損なわれて土砂などの異物が上流側及び下流側縦井戸ケーシングに侵入してしまう。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、横管のボーリング時にゴムパッキンの大きな損傷を防止して横管に対するシール性を確保し、土砂などの異物の上流側及び下流側縦井戸ケーシングへの侵入を確実に防止することができる縦井戸ケーシングのシール構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明では、縦井戸ケーシングのシール構造として、地下浸透水の流れを堰止める止水壁構造体の上流側と下流側とに、それぞれ上流側及び下流側縦井戸を設置し、その上流側縦井戸ケーシングと下流側縦井戸ケーシングとの間を、互いの水位よりも低所において横方向からのボーリングによってそれぞれ一端を連通する横管と、この各横管の他端同士を連結する連結管とで地下水流流通可能に繋いでいる。更に、前記各横管と連通する上流側及び下流側縦井戸ケーシングの連通部に、前記各横管に対してシールするゴムパッキンを取り付けるとともに、このゴムパッキンを外方から覆うゴムシール材を設ける。そして、前記ゴムパッキンと前記ゴムシール材との間に、前記各横管をボーリングする際に当該各横管と接触してその横管の一端側にまとわりつくように飛散する滑剤を収容していることを特徴としている。
【0012】
また、前記滑剤を、前記ゴムパッキンと前記ゴムシール材との間において前記上流側及び下流側縦井戸ケーシングの連通部の周方向全域のうちのほぼ半周域に亘るように設けていてもよい。
【0013】
また、前記ゴムシール材に、前記連通部の両端に近付くに従いそれぞれ径を漸減させるテーパー面を備えていてもよい。
【0014】
また、前記滑剤の粘度を、澱粉質の添加によって高めてもよい。
【0015】
更に、前記上流側及び下流側縦井戸ケーシングとして、それぞれの管径を200mm〜1000mmに設定したものを対象とすることがこのましい。
【発明の効果】
【0016】
以上、要するに、止水壁構造体の上流側及び下流側縦井戸ケーシングに対し横方向からのボーリングによってそれぞれ横管が連通する連通部に、ゴムパッキンを取り付け、このゴムパッキンと当該ゴムパッキンを覆うゴムシール材との間に滑剤を収容することで、上流側及び下流側縦井戸ケーシングに対してボーリングする際に回転しながら押圧される各横管との接触によってゴムシール材を破断させて飛散する滑剤が横管の一端側にまとわりつく。このため、各横管が回転しながらゴムパッキン並びに上流側及び下流側縦井戸ケーシングに滑らかに押圧され、ゴムパッキンが各横管の径以上に引きちぎられるなどして大きく損傷したり、上流側及び下流側縦井戸ケーシングが管内に押し込まれたりすることがない。これにより、各横管に対するゴムパッキンのシール性を確保し、土砂などの異物の上流側及び下流側縦井戸ケーシングへの侵入を確実に防止することができる。
【0017】
また、滑剤を、ゴムパッキンとゴムシール材との間において上流側及び下流側縦井戸ケーシングの連通部の周方向全域のうちのほぼ半周域に亘るように設けることで、上流側及び下流側縦井戸ケーシングの連通部の周方向において滑剤の位置に多少のズレがあっても各横管をそのままボーリングすることが可能となる。このため、上流側及び下流側縦井戸ケーシングの連通部の周方向において滑剤の位置を各横管のボーリングに合わせた向きに正確に位置合わせする必要がない上、滑剤の使用量が周方向全域の略半分で済む。これにより、上流側及び下流側縦井戸ケーシングを安易に配置できて、各横管のボーリング作業を簡単かつ安価に行うことができる。
【0018】
また、ゴムシール材に、連通部の両端に近付くに従いそれぞれ径を漸減させるテーパー面を備えることで、上流側及び下流側縦井戸ケーシングを縦穴に設置する際に当該上流側及び下流側縦井戸ケーシングの径よりも大径なゴムシール材との接触がテーパーにより緩和される。これにより、上流側及び下流側縦井戸ケーシングの縦穴への設置作業を円滑に行うことができる。
【0019】
また、滑剤の粘度を澱粉質の添加によって高めることで、上流側及び下流側縦井戸ケーシングに対するボーリング時に回転しながら押圧される各横管の接触によってゴムシール材を破断させて漏れ出す高い粘度の滑剤が各横管の一端側にまとわりつき易くなる。このため、各横管が回転しながらゴムパッキンに対しより滑らかに押圧され、ゴムパッキンの損傷自体も大幅に抑制される。これにより、各横管に対するゴムパッキンのシール性をより一層確保し、土砂などの異物の上流側及び下流側縦井戸ケーシングへの侵入をより確実に防止することができる。
【0020】
更に、上流側及び下流側縦井戸ケーシングとして、それぞれの管径を200mm〜1000mmに設定したものを対象とすることで、止水壁の上流側及び下流側縦井戸ケーシングとして用いる管材を管径によって特定し、止水壁の上流側及び下流側縦井戸ケーシングに対して横方向からボーリングする横管の径も自ずと特定でき、止水壁の上流側及び下流側縦井戸ケーシングを横方向からの各横管のボーリングにより連通させる作業においてのみ適用するものであることを明確にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施の形態に係る縦井戸ケーシングのシール構造がトンネルを構成する止水壁の上流側及び下流側においてそれぞれ等間隔置きに設置されている状況を説明する概略説明図である。
図2図1の止水壁の上流側及び下流側の上流側及び下流側縦井戸ケーシングを横管及び連結管により連通させた状態を説明するトンネルの縦断面図である。
図3図2の上流側縦井戸ケーシング及び横管の連通部での断面図である。
図4図2の下流側縦井戸ケーシング及び横管の連通部での断面図である。
図5図3の上流側縦井戸ケーシングの正面図である。
図6図5の上流側縦井戸ケーシングの下部に位置するスクリーン部分の正面図である。
図7図6のスクリーン部分の平面図である。
図8図6のスクリーン部分の連通部付近の拡大図である。
図9図8の横管をボーリングする前の連通部付近の断面図である。
図10図8の連通部のゴムシール材に対し横管をボーリングする直前状態での連通部付近の一部切り欠き断面図である。
図11図8の連通部の円管に対し横管をボーリングする直前状態での連通部付近の一部切り欠き断面図である。
図12図11の連通部の円管に対し横管をボーリングする直前状態での連通部の拡大断面図である。
図13図8の連通部の円管に対し横管をボーリングし終えた状態での連通部付近の一部切り欠き断面図である。
図14図13の連通部の円管に対し横管をボーリングし終えた状態での連通部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
図1は本発明の実施の形態に係る縦井戸ケーシングのシール構造がトンネルを構成する止水壁の上流側及び下流側においてそれぞれ等間隔置きに設置されている状況を説明する概略説明図を示している。
【0024】
図1において、1は地下に掘削された止水壁構造体としての自動車用のトンネルであって、このトンネル1の短手方向両側方(図1では上下両側方)には、地下浸透水の流れをその上流側及び下流側においてそれぞれ堰止める上流側及び下流側止水壁11U,11Dが設けられている。この上流側止水壁11Uの上流側と下流側止水壁11Dの下流側とには、それぞれ上流側及び下流側縦井戸21U,21Dがトンネル1の長手方向所定間隔置き(例えば略20m置き)に設置されている。この上流側及び下流側縦井戸21U,21Dの上流側及び下流側縦井戸ケーシング22U,22Dは、上流側及び下流側止水壁11U,11Dを挟んでトンネル1の幅方向に対峙している。また、上流側及び下流側縦井戸ケーシング22U,22Dの上端は、地上に開口している。
【0025】
図2は上流側及び下流側止水壁11U,11Dの上流側及び下流側縦井戸ケーシング22U,22Dを横管及び連結管により連通させた状態を説明するトンネル1の縦断面図を示している。この図2に示すように、トンネル1は、上流側止水壁11Uの近傍を長手方向へ沿って延びる避難路12と、下流側止水壁11Dの近傍を長手方向へ沿って延びる自動車走行路13とを備えている。また、上流側及び下流側縦井戸ケーシング22U,22Dには、互いの水位よりも低所において横方向からのボーリングによってそれぞれ一端が連通する上流側及び下流側横管23U,23Dが設けられている。上流側及び下流側横管23U,23Dの管径は、それぞれ150mmに設定されている。なお、上流側及び下流側横管23U,23Dの管径は、それぞれ150mmに設定されていなくてもよく、上流側及び下流側縦井戸ケーシングの管路部分の円管並びにスクリーン部分の螺旋管及び円管の管径に応じて50mm〜300mm程度に設定されていればよい。
【0026】
図3は上流側縦井戸ケーシング22U及び上流側及び下流側横管23U,23Dの連通部での断面図、図4は下流側縦井戸ケーシング22D及び上流側及び下流側横管23U,23Dの連通部での断面図をそれぞれ示している。
【0027】
図3に示すように、上流側縦井戸ケーシング22Uに一端が連通する上流側横管23Uは、上流側止水壁11Uの下流側に隣接して立設された上流側縦連結管24Uに他端が接続されている。一方、図4に示すように、下流側縦井戸ケーシング22Dに一端が連通する下流側横管23Dは、下流側止水壁11Dの上流側に隣接して立設された下流側縦連結管24Dに他端が接続されている。更に、避難路12と自動車走行路13との間には上下方向へ延びる路間縦連結管25が立設されている。この路間縦連結管25には、上流側縦連結管24U及び下流側縦連結管24Dの下端がそれぞれ上流側及び下流側横連結管26U,26Dを介して接続されている。上流側横連結管26Uは避難路12の下方に設けられ、下流側横連結管26Dは自動車走行路13の下方に設けられている。この場合、上流側及び下流側縦連結管24U,24D、路間縦連結管25、並びに上流側及び下流側横連結管26U,26Dによって、上流側及び下流側横管23U,23Dの他端同士を連結する連結管が構成され、この連結管と、上流側及び下流側横管23U,23Dとによって、上流側縦井戸ケーシング22Uと下流側縦井戸ケーシング22Dとの間を地下水流(地下浸透水)流通可能に繋いでいる。
【0028】
図5は上流側縦井戸ケーシング22Uの正面図、図6は上流側縦井戸ケーシング22Uの下部に位置するスクリーン部分の正面図、図7はスクリーン部分の平面図をそれぞれ示している。
【0029】
図5図7に示すように、上流側縦井戸ケーシング22U(下流側縦井戸ケーシング22Dも同一構成となるので、上流側縦井戸ケーシング22Uについてのみ説明する。)は、その上部に位置する管路部分22aと、この管路部分22aの下部に連結されたスクリーン部分22bとを備えている。管路部分22aは、ステンレス製の円管により形成されている。一方、スクリーン部分22bは、ステンレス製の螺旋管により形成されている。スクリーン部分22bの螺旋管は、帯状のストリップを螺旋状に巻回する際にその軸芯方向(図5図7では上下方向)に均一な隙間を存して巻回することで、地下浸透水を内部に取り込めるようにしている。また、スクリーン部分22bの下部位置には、内部に取り込まれた地下浸透水位よりも低所に位置しかつ上流側横管23U(又は下流側横管23D)の一端が連通する連通部3が設けられている。
【0030】
図8はスクリーン部分22bの連通部3付近の拡大図、図9は上流側横管23Uをボーリングする前の連通部3付近の断面図をそれぞれ示している。この図8及び図9において、連通部3は、スクリーン部分22bの螺旋管の下部位置において当該螺旋管を上下に分割するように介在されたステンレス製の円管30を備えている。この連通部3の円管30としては、その軸芯m方向の長さが1000mm程度のものが用いられている。この場合、上流側及び下流側縦井戸ケーシング22U,22Dの管路部分22aの円管並びにスクリーン部分22bの螺旋管及び円管は、それぞれの管径が500mmに設定され、互いに溶接されて強固に接合されている。
【0031】
連通部3の円管30には、上流側及び下流側横管23U,23Dに対してシールするゴムパッキン31が取り付けられている。このゴムパッキン31は、その厚さが20mm以上(好ましくは25mm)に設定され、連通部3の円管30の周方向全域に亘るように円環状に設けられている。
【0032】
また、連通部3の円管30には、ゴムパッキン31を外方から覆うゴムシール材32が設けられている。このゴムシール材32も、ゴムパッキン31を介した状態で連通部3の円管30の周方向全域に亘るように円環状に設けられている。また、ゴムシール材32は、連通部3の両端に近付くに従いそれぞれ径を円管30の外径に収束するように漸減させる上下のテーパー面321,322を備えている。この場合、ゴムパッキン31及びゴムシール材32は、クロロプレンゴムなどにより成形されている。
【0033】
そして、ゴムパッキン31とゴムシール材32との間には、上流側横管23U(又は下流側横管23D)をボーリングする際に当該上流側横管23Uと接触してその上流側横管23Uの一端側にまとわりつくように飛散する滑剤33が収容されている。この滑剤33は、合成樹脂よりなる容器内に充填され、ゴムパッキン31又はゴムシール材32に接着された状態で、ゴムパッキン31とゴムシール材32との間に介在される。この場合、滑剤33を充填した容器は、ゴムパッキン31とゴムシール材32との間において連通部3の円管30の周方向全域のうちのほぼ半周域に亘って設けられるように略半円環の帯状を呈し、その円管30の周方向の半周域においてのみ滑剤33を介在させるようにしている。
【0034】
また、滑剤33としては、主原料とするポリカルボン酸塩類に多価アルコール類や安息香酸ナトリウムなどを添加したポリカルボン酸塩系のダクタイル鋳鉄管継手用滑剤が用いられている。
なお、滑剤33は、ポリカルボン酸塩系のダクタイル鋳鉄管継手用滑剤に限定されるものではなく、主原料とする精製植物油や精製動植物性脂肪酸石鹸に一価アルコール類や多価アルコール類などを添加した脂肪酸石鹸系のダクタイル鋳鉄管継手用滑剤が用いられていてもよい。また、その他、ステアリン酸カルシウムなどの高級脂肪酸金属塩、低分子量ポリエチレンの水性分散液が用いられていてもよい。更に、液状炭化水素油、高級脂肪酸、高級アルコール、高級脂肪酸硫酸化油、脂肪族リン酸エステル、ポリアルキレングリコール又はその誘導体、あるいはこれらの水性分散液や、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの石油ワックスなどが滑剤として使用されていてもよい。
【0035】
次に、上流側横管23U(又は下流側横管23D)を連通部3に対してボーリングする際の手順の一例を図10図14に基づいて説明する。
【0036】
図10は連通部3のゴムシール材32に対し上流側横管23U(又は下流側横管23D)をボーリングする直前状態での連通部3付近の一部切り欠き断面図を示している。また、図11は連通部3の円管30に対し上流側横管23U(又は下流側横管23D)をボーリングする直前状態での連通部3付近の一部切り欠き断面図、図12は連通部3の円管30に対し上流側横管23U(又は下流側横管23D)をボーリングする直前状態での連通部3の拡大断面図をそれぞれ示している。更に、図13は連通部3の円管30に対し上流側横管23U(又は下流側横管23D)をボーリングし終えた状態での連通部3付近の一部切り欠き断面図、図14は連通部3の円管30に対し上流側横管23U(又は下流側横管23D)をボーリングし終えた状態での連通部3の拡大断面図をそれぞれ示している。
【0037】
先ず、図10に示すように、図示しない油圧式ロータリーパーカッションドリルに装填した上流側横管23U(又は下流側横管23D)を連通部3に対し回転させながら進出させる。このとき、連通部3の円管30は、上流側横管23U(又は下流側横管23D)の進出方向に滑剤33の容器の周方向ほぼ中央部が対面するように設置されていて、上流側横管23U(又は下流側横管23D)を連通部3の円管30の軸芯mに対し直行する方向から進出させている。この場合、油圧式ロータリーパーカッションドリルには、二重管構造の内外両管が装填され、その外側管が上流側横管23U(又は下流側横管23D)として使用される。
【0038】
その後、図11及び図12に示すように、油圧式ロータリーパーカッションドリルにより上流側横管23U(又は下流側横管23D)を連通部3に対し回転させながら押圧し、上流側横管23Uとの接触によりゴムシール材32及び滑剤33(容器)を破断させる。このとき、滑剤33が飛散して上流側横管23Uの一端側にまとわりつく。
【0039】
それから、図13及び図14に示すように、上流側横管23Uを連通部3に対し回転させながらさらに押圧し、連通部3の円管30を貫通させる。
【0040】
しかる後、連通部3の円管30を貫通した二重管構造の内外両管のうちの外側管を上流側横管23Uをそのまま残し、内側管のみを再利用可能に引き抜く。
【0041】
したがって、本実施の形態では、トンネル1の上流側及び下流側縦井戸ケーシング22U,22Dに対し横方向からのボーリングによってそれぞれ上流側及び下流側横管23U,23Dが連通する連通部3の円管30に、ゴムパッキン31を取り付け、このゴムパッキン31と当該ゴムパッキン31を覆うゴムシール材32との間に、滑剤33を充填した容器を収容することで、円管30に対してボーリングする際に回転しながら押圧される上流側及び下流側横管23U,23Dとの接触によってゴムシール材32を破断させて飛散する滑剤33が上流側及び下流側横管23U,23Dの一端側にまとわりつく。このため、上流側及び下流側横管23U,23Dが回転しながらゴムパッキン31並びに円管30に滑らかに押圧され、ゴムパッキン31が上流側及び下流側横管23U,23Dの径以上に引きちぎられるなどして大きく損傷したり、円管30が管内に押し込まれたりすることがない。これにより、上流側及び下流側横管23U,23Dに対するゴムパッキン31のシール性を確保し、土砂などの異物の円管30内への侵入を確実に防止することができる。
【0042】
また、滑剤33の容器が、ゴムパッキン31とゴムシール材32との間において、連通部3の円管30の周方向全域のうちの略半周域に亘って設けられるように略半円環の帯状を呈しているので、上流側及び下流側縦井戸ケーシング22U,22Dの連通部3の円管30の周方向において滑剤33の容器の位置に多少のズレがあっても上流側及び下流側横管23U,23Dをそのままボーリングすることが可能となる。このため、上流側及び下流側縦井戸ケーシング22U,22Dの連通部3の周方向を上流側及び下流側横管23U,23Dのボーリングに合わせた向きに正確に位置合わせする必要がない上、滑剤33の使用量が周方向全域の略半分で済む。これにより、上流側及び下流側縦井戸ケーシング22U,22Dを安易に配置できて、上流側及び下流側横管23U,23Dのボーリング作業を簡単かつ安価に行うことができる。
【0043】
また、ゴムシール材32に、連通部3の両端に近付くに従いそれぞれ径を漸減させる上下のテーパー面321,322が設けられているので、上流側及び下流側縦井戸ケーシング22U,22Dを縦穴に設置する際に当該上流側及び下流側縦井戸ケーシング22U,22Dの径よりも大径なゴムシール材32との接触がテーパー面321,322により緩和される。これにより、上流側及び下流側縦井戸ケーシング22U,22Dの縦穴への設置作業を円滑に行うことができる。
【0044】
なお、本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、その他種々の変形例を包含している。例えば、本実施の形態では、上流側及び下流側縦井戸ケーシング22U,22Dの管路部分22aの円管並びにスクリーン部分22bの螺旋管及び円管の管径をそれぞれ500mmに設定したが、それぞれの管径が200mm〜1000mmに設定されていればよい。つまり、このような範囲に設定したものを対象とすることで、上流側及び下流側縦井戸ケーシングとして用いる管材を管径によって特定し、上流側及び下流側縦井戸ケーシングに対して横方向からボーリングする上流側及び下流側横管の径も自ずと特定でき、上流側及び下流側縦井戸ケーシングを横方向からの上流側及び下流側横管のボーリングにより連通させる作業においてのみ適用するものであることを明確にすることが可能となる。
【0045】
また、本実施の形態では、上流側及び下流側縦井戸21U,21Dをトンネル1の長手方向所定間隔置き、例えば略20m置きに設置したが、地下浸透水の流量つまり地下水流の流通量に応じて上流側及び下流側縦井戸の間隔を変更してもよい。たとえば、地下水流の流通量が多い箇所では上流側及び下流側縦井戸の間隔を密に、地下水流の流通量が少ない箇所では上流側及び下流側縦井戸の間隔を粗にそれぞれ変更すればよい。
【0046】
また、本実施の形態では、トンネル1内の避難路12と自動車走行路13との間に路間縦連結管25を立設させたが、上流側及び下流側縦井戸ケーシングが、上流側及び下流側横管と、これらを横方向に延びて連結する横連結管とで地下水流流通可能に繋がれていてもよい。
【0047】
また、本実施の形態では、滑剤33の容器をゴムパッキン31とゴムシール材32との間において連通部3の円管30の周方向全域のうちのほぼ半周域に亘って設けるように略半円環の帯状としたが、滑剤の容器は、連通部の円管の周方向において上流側横管及び下流側横管の直径よりも大きければよく、この場合には、滑剤の容器を上流側横管及び下流側横管のボーリングに合わせた向きに位置合わせしておけば、各横管のボーリング作業を円滑に行うことが可能となる。
一方、滑剤の容器がゴムパッキンとゴムシール材との間において連通部の円管の周方向全域に亘るように略円環状に設けられていてもよい。この場合には、連通部の円管の周方向の何れの方向からでも上流側及び下流側横管をそのままボーリングすることが可能となる。このため、滑剤の容器を上流側横管及び下流側横管のボーリングに合わせた向きに位置合わせする必要がない。これにより、上流側及び下流側縦井戸ケーシングを安易に配置できて、各横管のボーリング作業をより簡単に行うことが可能となる。
【0048】
また、本実施の形態では、滑剤33として、ポリカルボン酸塩系のダクタイル鋳鉄管継手用滑剤を用いたが、滑剤の粘度が澱粉質の添加によってさらに高められていてもよい。この種の澱粉質としては、例えば酸化澱粉、カチオン化澱粉、カルボキシメチル化澱粉、α化澱粉、リン酸エステル化澱粉、尿素リン酸変性澱粉、未変性澱粉等、公知の種々のものを単独で又は2種以上を混合して用いられていてもよい。また、これらの澱粉の原料についても特に限定されるものではなく、例えばタピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、小麦澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、トウモロコシ澱粉等、公知の種々の原料澱粉を単独で又は2種以上を混合して使用されるとよい。この場合、滑剤の粘度が澱粉質の添加によって高められていると、連通部の円管に対するボーリング時に回転しながら押圧される上流側及び下流側横管の接触によって容器を破断させて漏れ出す高い粘度の滑剤が上流側及び下流側横管の一端側にまとわりつき易くなる。このため、上流側及び下流側横管が回転しながらゴムパッキンに対しより滑らかに押圧され、ゴムパッキンの損傷自体も大幅に抑制される。これにより、上流側及び下流側横管に対するゴムパッキンのシール性をより一層確保し、土砂などの異物の円管内への侵入をより確実に防止することが可能となる。
【0049】
また、本実施の形態では、上流側及び下流側縦井戸ケーシング22U,22Dの管路部分22aの円管並びにスクリーン部分22bの螺旋管及び円管30をそれぞれステンレスにより形成したが、その他の鋼材などの金属により上流側及び下流側縦井戸ケーシングの管路部分の円管並びにスクリーン部分の螺旋管及び円管が形成されていてもよく、また、これらの管が樹脂材により形成されていてもよい。
【0050】
更に、本実施の形態では、ゴムパッキン31とゴムシール材32との間に、滑剤33を充填した容器を収容したが、ゴムパッキンの厚みを増やし、その厚みを増やしたゴムパッキンの増厚部分に、上流側横管(又は下流側横管)との接触により容器から飛散した滑剤を一時貯留可能な複数の溝を設けていてもよい。この場合には、各溝に一時貯留された滑剤を時間差で上流側及び下流側横管の一端側にまとわりつかせることが可能となり、ゴムパッキンの大きな損傷や、連通部の円管の管内への押し込みをより効果的に回避することが可能となる。
【符号の説明】
【0051】
1 トンネル(止水壁構造体)
21U 上流側縦井戸
21D 下流側縦井戸
22U 上流側縦井戸ケーシング
22D 下流側縦井戸ケーシング
23U 上流側横管
23D 下流側横管
24U 上流側縦連結管(連結管)
24D 下流側縦連結管(連結管)
25 路間縦連結管(連結管)
26U 上流側横連結管(連結管)
26D 下流側横連結管(連結管)
3 連通部
31 ゴムパッキン
32 ゴムシール材
321 テーパー面
322 テーパー面
33 滑剤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14