(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
弁座(8)、及び該弁座(8)の中心部を貫通する弁孔(10)を有する弁座部材(3)と、前記弁座(8)と協働して前記弁孔(10)を開閉する弁体(16)と、燃料噴孔(43)を有して前記弁座部材(3)の外端面に結合されるインジェクタプレート(36)とを備え、前記インジェクタプレート(36)が、プレス成形された金属板で構成される電磁式燃料噴射弁において、
前記インジェクタプレート(36)の、前記弁座部材(3)との対向面(36i)には、前記弁孔(10)から前記燃料噴孔(43)に向けて燃料を案内する燃料通路(FP)が凹設されると共に、その燃料通路(FP)の、前記弁座部材(3)側の開放面が該弁座部材(3)で塞がれており、
前記インジェクタプレート(36)の、前記弁座部材(3)とは反対側の外表面(36o)には、前記プレス成形により前記燃料通路(FP)に対応した隆起部(41)が形成されており、
前記隆起部(41)の外周面(41t)は、前記隆起部(41)の各部を横切る方向の横断面で見て、前記隆起部(41)の根元部分から頂面(41f)に向かって前記隆起部(41)の中央寄りに傾斜したテーパ面(41t)を備え、
前記燃料通路(FP)の周面(FPs)は、該燃料通路(FP)の底面(FPb)から真っ直ぐに立ち上がる起立面部(101)と、その起立面部(101)の上端に連なり前記対向面(36i)まで延びる、該起立面部(101)よりも深い曲面部(102)とを有し、
前記起立面部(101)は、該起立面部(101)と直交する横断面で見て、前記インジェクタプレート(36)の板面に沿う方向で前記隆起部(41)の頂面(41f)における前記テーパ面(41t)の起点となる外周端(41fe)と略同じ位置、又は前記外周端(41fe)よりも内方側の位置に配置されており、
前記曲面部(102)は、前記起立面部(101)と直交する横断面で見て前記燃料通路(FP)側に凸に湾曲していて、前記対向面(36i)に近づくにつれて前記起立面部(101)から前記板面に沿う方向で外方側に徐々に離れるように形成されていることを特徴とする、電磁式燃料噴射弁。
前記燃料通路(FP)は、前記弁孔(10)との連通部(37)から所定方向に延びる案内通路(38)と、前記案内通路(38)の下流端に接続されて前記弁孔(10)から該案内通路(38)を経て流入した燃料を旋回させ且つ底部に前記燃料噴孔(43)の上流端を開口させた旋回室(39)とを少なくとも有していることを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の電磁式燃料噴射弁。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところでインジェクタプレートの一面にプレス成形により複雑形状の燃料通路(例えば弁孔との連通部から放射方向に延びる案内通路と、案内通路に連なる旋回室と)を凹設する場合に、プレス成形時の金属材料の絞り深さが深くなればなる程、即ちプレス量が大きくなる程、燃料通路の形成負荷が大きくなり、これが成形品の燃料通路周辺部にクラックや破断を生じさせるリスクを高くする。
【0005】
本発明は、上記に鑑み提案されたもので、インジェクタプレートの一面にプレス成形により燃料通路を凹設する場合に、絞り深さを深くしても燃料通路の形成負荷を軽減できるようにして、燃料通路周辺部のクラックや破断を効果的に防止可能な電磁式燃料噴射弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、弁座、及び該弁座の中心部を貫通する弁孔を有する弁座部材と、前記弁座と協働して前記弁孔を開閉する弁体と、燃料噴孔を有して前記弁座部材の外端面に結合されるインジェクタプレートとを備え、前記インジェクタプレートが、プレス成形された金属板で構成される電磁式燃料噴射弁において、前記インジェクタプレートの、前記弁座部材との対向面には、前記弁孔から前記燃料噴孔に向けて燃料を案内する燃料通路が凹設されると共に、その燃料通路の、前記弁座部材側の開放面が該弁座部材で塞がれており、前記インジェクタプレートの、前記弁座部材とは反対側の外表面には、前記プレス成形により前記燃料通路に対応した隆起部が形成されており、前記隆起部の外周面は、前記隆起部の各部を横切る方向の横断面で見て、前記隆起部の根元部分から頂面に向かって前記隆起部の中央寄りに傾斜したテーパ面を備え、前記燃料通路の周面は、該燃料通路の底面から真っ直ぐに立ち上がる起立面部と、その起立面部の上端に連なり前記対向面まで延びる、該起立面部よりも深い曲面部とを有し、前記起立面部は、該起立面部と直交する横断面で見て、前記インジェクタプレートの板面に沿う方向で前記隆起部の頂面における前記テーパ面の起点となる外周端と略同じ位置、又は前記外周端よりも内方側の位置に配置されており、前記曲面部は、前記
起立面部と直交する横断面で見て前記燃料通路側に凸に湾曲していて、前記対向面に近づくにつれて前記起立面部から前記板面に沿う方向で外方側に徐々に離れるように形成されていることを第1の特徴とする。
【0007】
また本発明は、前記第1の特徴に加えて、前記横断面で見て、前記板面に沿う方向での前記曲面部の幅が、前記インジェクタプレートの最小肉厚以上の長さに設定されることを第2の特徴とする。
【0008】
また本発明は、前記第1の特徴に加えて、前記
起立面部と直交する横断面で見て、前記板面に沿う方向での前記曲面部の幅が、前記インジェクタプレートの最小肉厚以上の長さに設定されることを第2の特徴とする。
【0009】
また本発明は、前記第1又は第2の特徴に加えて、前記曲面部の外周端は、前記
起立面部と直交する横断面で見て、前記板面に沿う方向で前記隆起部よりも外方側に位置していることを第3の特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の特徴によれば、燃料通路の周面は、通路底面から真っ直ぐに立ち上がる起立面部と、起立面部の上端に連なりインジェクタプレートの、弁座部材との対向面まで延びる、起立面部よりも深い曲面部とを有し、起立面部は、起立面部と直交する横断面で見て、インジェクタプレートの板面に沿う方向で隆起部の頂面の外周端と略同じ位置、又は前記外周端よりも内方側の位置に配置されており、曲面部は、前記横断面で見て燃料通路側に凸に湾曲していて、前記対向面に近づくにつれて起立面部から前記板面に沿う方向で外方側に徐々に離れるように形成されているので、起立面部に対し隆起部の頂部が比較的外方寄りとなり且つ起立面部に連ねて比較的深く幅広の曲面部(ダレ部分)が形成される成形態様で、燃料通路をプレス成形可能となり、従って、プレス成形時に、金属材料の流動量を極力抑えながら起立面部及び曲面部を比較的小さなプレス荷重で精度よく形成可能となる。これにより、プレス成形時の絞り深さが深い場合でも、燃料通路の形成負荷を効果的に軽減可能となってインジェクタプレートの燃料通路周辺部でのクラックや破断の発生防止に有効であり、成形不良品の発生頻度を低減可能となる。また成形態様によっては、燃料通路の深さを、例えばインジェクタプレートの板厚以上に深くするようなことも可能となり、設計自由度が高められる。また、燃料通路の周面のうち底面寄りの起立面部は、底面より真っ直ぐ立ち上がるため、燃料通路内で燃料噴孔に向かう燃料の流れを安定させることができる。
【0011】
また特に第2の特徴によれば、起立面部と直交する方向での曲面部の幅が、インジェクタプレートの最小肉厚以上の長さに設定されるので、曲面部が十分に拡幅され、燃料通路の形成負荷の更なる軽減に寄与することができる。
【0012】
また特に第3の特徴によれば、曲面部の外周端は隆起部よりも外方側に位置しているので、インジェクタプレートの部分的な肉厚低下を極力抑えながら、曲面部を燃料通路の外方側に十分に拡幅可能となり、燃料通路の形成負荷の更なる軽減に寄与することができる。
【0013】
また第4の特徴によれば、燃料通路は、弁孔との連通部から所定方向に延びる案内通路と、案内通路の下流端に接続されて燃料を旋回させる旋回室とを有するので、旋回室で通過燃料にスワールを付与して噴射燃料の微粒化促進に寄与することができる。また、このように案内通路及び旋回室を有することで燃料通路が複雑な通路形態となっても、これをインジェクタプレートにプレス成形で容易に且つ精度よく形成可能であり、しかも、そのプレス成形時に案内通路及び旋回室の周辺部でクラックや破断が発生するのを、比較的深く幅広の曲面部(ダレ部分)の特設により効果的に回避可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態を、添付図面を参照して、以下に説明する。
【0016】
先ず、
図1及び
図2において、内燃機関用電磁式燃料噴射弁Iのケーシング1は、円筒状の弁ハウジング2(磁性体)と、この弁ハウジング2の前端部に液密に結合される有底円筒状の弁座部材3と、弁ハウジング2の後端に環状スペーサ4を挟んで液密に結合される円筒状の固定コア5とから構成される。
【0017】
環状スペーサ4は、ステンレス鋼等の非磁性金属製であり、その両端面に弁ハウジング2及び固定コア5が突き当てられて液密に全周溶接され、その溶接にはレーザビームが使用される。
【0018】
弁座部材3及び弁ハウジング2の対向端部には、第1嵌合筒部3a及び第2嵌合筒部2aがそれぞれ形成される。そして第1嵌合筒部3aが第2嵌合筒部2a内にストッパプレート6と共に圧入され、ストッパプレート6は、弁ハウジング2と弁座部材3間で挟持される。その後、第1嵌合筒部3aの外周面と第2嵌合筒部2aの端面とに挟まれる隅部の全周にわたりレーザ溶接又はビーム溶接を施すことにより、弁ハウジング2及び弁座部材3が相互に液密に結合される。
【0019】
弁座部材3には、それの平坦な前端面即ち外端面に下流端を開口する円錐状の弁座8と、この弁座8の中心部を貫通して弁座部材3の外端面に開口する弁孔10と、弁座8の上流端、即ち大径部に連なる円筒状のガイド孔9とが設けられており、そのガイド孔9は、前記第2嵌合筒部2aと同軸状に形成される。
【0020】
弁ハウジング2及び環状スペーサ4内には、固定コア5の前端面に対向する可動コア12が摺動自在に収容され、この可動コア12に、前記ガイド孔9に軸方向摺動自在に収容される弁体16が一体的に結合される。この弁体16は、弁座8に着座し得る球状の弁部16aと、ガイド孔9に摺動自在に支承される前後一対のジャーナル部16b,16bと、前記ストッパプレート6に当接して弁体16の開弁限界を規定するフランジ16cとを一体に備えており、各ジャーナル部16bには、燃料の流通を可能にする複数の平坦面17,17…が設けられる。
【0021】
固定コア5は、弁ハウジング2内と連通する中空部21を有しており、その中空部21に、可動コア12を弁体16の閉じ方向、即ち弁座8への着座方向に付勢するコイル状の弁ばね22と、この弁ばね22の後端を支承するパイプ状のリテーナ23とが収容される。このリテーナ23は、中空部21においてカシメにより固定される。
【0022】
固定コア5の後端には、パイプ状のリテーナ23を介して固定コア5の中空部21に連通する燃料入口25aを持つ入口筒25が一体に連設され、その燃料入口25aに燃料フィルタ27が装着される。
【0023】
環状スペーサ4及び固定コア5の外周にはコイル組立体28が嵌装される。このコイル組立体28は、環状スペーサ4及び固定コア5に外周面に嵌合するボビン29と、これに巻装されるコイル30とからなっており、このコイル組立体28を囲繞するコイルハウジング31の一端部が弁ハウジング2の外周面に溶接により結合される。
【0024】
コイルハウジング31、コイル組立体28及び固定コア5は合成樹脂製の被覆体32内に埋封され、この被覆体32の中間部には、前記コイル30に連なる接続端子33を収容する備えたカプラ34が一体に連設される。
【0025】
図2に明示するように、弁座部材3の前端面には円板状のインジェクタプレート36が液密に全周溶接wされ、その溶接にはレーザビームが使用される。このインジェクタプレート36は、金属板(例えば、ステンレス鋼板、その他の鋼板)を所定形状にプレス成形して得られるプレス成形品より構成される。インジェクタプレート36には、弁孔10の軸線回りの同一円周上で等間隔おきに並ぶ複数の燃料噴孔43が穿設される。インジェクタプレート36は、その板厚が、例えば0.1mm前後の薄肉の板状である。尚、図面上は、発明を理解し易くするためにインジェクタプレート36の板厚を多少誇張して描いている。
【0026】
インジェクタプレート36の上面、即ち弁座部材3外端面との対向面36iには、弁孔10から燃料噴孔43に向けて燃料を流動案内する燃料通路FPとなる浅い凹みが、上記プレス成形により形成される。この燃料通路FPは、通過燃料にスワールを付与して燃料噴孔43からの噴射燃料の微粒化促進に寄与すべく、以下に説明するような複雑な平面形態(本実施形態では花弁状)に燃料通路FPの周面FPsが形成される。
【0027】
即ち、燃料通路FPは、弁孔10に直接連通する連通部としての中央油室37と、その中央油室37からインジェクタプレート36の板面に沿う所定方向(本実施形態では弁孔10の中心に対し放射方向)に直線状に延びる複数の案内通路38と、各案内通路38の下流端が接線方向に開口する旋回室39とを備える。その旋回室39は、案内通路38の中心線Lに対し案内通路38の幅方向で一方側(換言すればインジェクタプレート36の周方向で一方側)にオフセット配置される。
【0028】
そして、旋回室39の底面には燃料噴孔43の上流端が開口している。尚、燃料噴孔43は、例えばプレス成形後のインジェクタプレート36に対しドリル加工等で形成される。
【0029】
燃料通路FPの大部分(より具体的には中央油室37の外周部、各案内通路39及び各旋回室39)の、弁座部材3側の開放面は、弁座部材3で塞がれる。またインジェクタプレート36の上面36iの、燃料通路FPを取り囲む領域は、弁座部材3の外端面に密着状態におかれる。そして、燃料通路FPを流れる燃料は、外部に漏れ出すことなく、弁孔10から中央油室37、案内通路38及び旋回室39を順次経て燃料噴孔43まで到達する。
【0030】
また、旋回室39の周面は、径方向外方側に凸に彎曲した彎曲周面39fとされ、その彎曲周面39fの旋回案内作用により、案内通路38を経て旋回室39に流入した燃料をスムーズに旋回させる。これにより、燃料噴孔43に流入する直前の燃料にスワールを付与することができる。
【0031】
一方、案内通路38の相対向する両内側面、即ち第1,第2内側面38i,38oは、案内通路38の長手方向(即ち弁孔10の中心に対し放射方向)に直線状に延びる。
【0032】
上記した第1,第2内側面38i,38oのうち、特に案内通路38の幅方向で旋回室39中心部寄り(即ち通路中心線Lに対し旋回室39がオフセット配置される側)に位置する第1内側面38iは、それの下流端と、旋回室39の彎曲周面39fの下流側終端とが曲面rで滑らかに接続される。尚、第1内側面38iの下流端と彎曲周面39fの下流側終端とは、その相互間を例えば曲面rを介さずに直接接続させるようにしてもよい。
【0033】
また、案内通路38の第2内側面38oの下流端と、旋回室39の彎曲周面39fの上流側始端とは、段差なく滑らかに接続される。これにより、案内通路38から旋回室39へ高圧燃料がスムーズに流入し得るようになっている。
【0034】
ところでインジェクタプレート36の下面(即ち弁座部材3とは反対側の外表面)36oには、後述するようにインジェクタプレート36をプレス成形することで燃料通路FPに対応して隆起した形状(本実施形態では花弁状)の隆起部41が形成される。この隆起部41の外周
面は、隆起部41の各部を横切る方向の横断面で見て、隆起部41の根元部分から頂面41fに向かって隆起部41の中央寄り(即ち先細り状)に傾斜したテーパ面
41tに形成される。
【0035】
また、燃料通路FPの周面FPsは、燃料通路FPの平坦な底面FPbから真っ直ぐに略垂直に立ち上がる起立面部101と、起立面部101の上端に連なり且つインジェクタプレート36の上面36iまで湾曲して延びる曲面部102とを、周面FPsの全周に亘って有している。而して、燃料通路FPの深さdは、起立面部101の深さd1と、曲面部102の深さd2の和となる。尚、本実施形態では、燃料通路FPの底面FPbと起立面部101との間に僅かにアールを設けているが、このアールを省略して底面FPbから起立面部101を急峻(直角)に起立させてもよい。
【0036】
起立面部101は、本実施形態では、起立面部101と直交する横断面(例えば
図2、
図4(B)を参照)で見て、インジェクタプレート36の板面に沿う方向(例えば
図4で左右方向)で隆起部41の平坦な頂面41f
におけるテーパ面41tの起点となる外周端41feよりも内方側(例えば
図4(B)で燃料通路FPの中心部側に)にオフセットした位置に配置される。尚、図示はしないが、本実施形態の変形例として、起立面部101を、前記横断面で見て前記板面に沿う方向で隆起部41の頂面41fの外周端41feと略同じ位置に配置してもよい。この場合、「略同じ位置」には、厳密な意味での同じ位置が含まれることは元より、同じ位置より僅かにずれた位置も含まれる。
【0037】
曲面部102は、前記横断面で見て、燃料通路FP側に凸の湾曲面であって、インジェクタプレート36の上面36iに近づくにつれて起立面部101から、前記板面に沿う方向で外方側(例えば
図4(B)で燃料通路FPの中心部とは反対側に)に徐々に遠ざかるように形成されている。しかも曲面部102の外周端102e(即ち曲面部102の、インジェクタプレート36の上面36iへの開口端)は、前記横断面で見て前記板面に沿う方向で隆起部41よりも外方側に位置している。
【0038】
また、曲面部102は、起立面部101の深さd1以上の深さd2に設定される。しかも前記横断面で見て前記板面に沿う方向での曲面部102の幅wは、インジェクタプレート36の最小肉厚t
MIN 以上の長さに設定される。尚、本実施形態では、
図2に例示したように、インジェクタプレート36における隆起部41外面の根元部分と燃料通路FPの底面FPbの外周縁部とに挟まれたプレート部分の肉厚が、インジェクタプレート36の最小肉厚t
MIN となっている。
【0039】
次に、前記実施形態の作用について説明する。コイル30を消磁した状態では、弁ばね22の付勢力で可動コア12及び弁体16が前方に押圧され、弁座8に着座させている。したがって、燃料フィルタ27及び入口筒25を通して弁ハウジング2内に供給された高圧燃料は、弁ハウジング2内に待機させられる。
【0040】
コイル30を通電により励磁すると、それにより生ずる磁束が固定コア5、コイルハウジング31、弁ハウジング2及び可動コア12を順次走り、その磁力により可動コア12が弁体16と共に固定コア5に吸引され、弁体16が弁座8から離座するので、弁ハウジング2内の高圧燃料は、弁体16の平坦面17,17…、弁座8及び弁孔10を順次通過して燃料通路FPに移り、その燃料通路FPの中央油室37から複数の案内通路38に分岐し、放射状に拡散しながら複数の旋回室39に達する。
【0041】
このとき、高圧燃料が各案内通路38から対応する旋回室39へ高速で接線方向に流入するため、流入燃料は旋回室39を高速で旋回することでスワールを付与され、しかも案内通路38を経て旋回室39に到達するまでの燃料流に急激な屈曲がなく、その流れがスムーズとなるから、燃料の速度損失も少ない。その結果、各旋回室39の燃料噴孔43からエンジンの被噴射部位(例えば吸気ポート)に向けて噴射される噴射燃料の微粒化促進が達成されて、良好な噴霧フォームが得られ、しかも燃料噴射の応答性が良好である。これにより、燃焼室内での燃料の燃焼性が高められ、また燃焼制御が精度よく行われる。
【0042】
そして、燃料通路FPは、上記のように各複数の案内通路38及び旋回室39を有することで、複雑な通路形態となるが、これをインジェクタプレート36にプレス成形で容易に且つ精度よく形成可能である。
【0043】
次に
図4を参照してインジェクタプレート36のプレス成形工程の一例を示す。
【0044】
インジェクタプレート36の最終製品と同形の円板状に予め加工された金属板よりなるワーク036は、
図4(A)に示すように、先ずダイ50上に載置されると共に、パンチガイド52により外周部を抑えられる。次いで、ワーク036は、
図4(B)に示すように、ダイ50と、パンチガイド52に沿って下降するパンチ51との間で加圧される。その加圧により、燃料通路FP(即ち中央油室37、案内通路38及び旋回室39)となる凹みがワーク036の上面36iにプレス成形される。
【0045】
この場合、パンチ51及びパンチガイド52のガイド孔52aは、何れも燃料通路FPの周面FPs、特に起立面部101と同じ横断面形状に形成されており、パンチ51は、ガイド孔52aに上下摺動可能に嵌合、支持されると共に、図示しない昇降駆動手段に連動連結される。そして、パンチ51は、燃料通路FPの起立面部101及び底面FPbを成形するための起立面・底面成形部を先部51aに有しており、先部51aの先端面51aeは、燃料通路FPの底面FPbに対応して平坦面に形成される。
【0046】
またダイ50には、パンチ51の先部51aに対向し且つ燃料通路FPの起立面部101よりも若干大きめの成形用凹部50aが形成される。成形用凹部50aは、その底面が平坦面に、また内周面がテーパ面50atに形成される。成形用凹部50aを横切る方向(
図4で左右方向)で、パンチ51の先部51a周面は、成形用凹部50aのテーパ面50atの小径端(
図4で下端)と略同じ位置、又は前記小径端よりも内方側(即ち成形用凹部50aの中心部側)にオフセットした位置に配置される。
【0047】
而して、上記したプレス成形工程によれば、パンチ51の先部51aによりワーク036の対応部位が剪断成形され、その結果、プレス成形後のワーク036の上面36iには、燃料通路FPとなる凹み、特に底面FPb、及び底面FPbから略垂直に起立する起立面部101がパンチ51の先部51aの形状に倣うように形成されると共に、起立面部101の上端に連なる曲面部102(ダレ部分)がパンチ51の先部51a周囲に形成され、一方、ワーク036の下面36oには、燃料通路FPに対応した隆起部41がダイ50の成形用凹部50aに倣うように形成される。それと共に、隆起部41の外周
面は、成形用凹部50aのテーパ面50atに倣ってテーパ面
41tに形成される。
【0048】
このように本実施形態において、燃料通路FPの周面FPsは、平坦な底面FPbから真っ直ぐに略垂直に立ち上がる起立面部101と、起立面部101の上端に連なり且つインジェクタプレート36の上面36iまで延びる、起立面部101よりも深い曲面部102とを有しており、起立面部101は、これと直交する横断面(例えば
図4)で見て、インジェクタプレート36の板面に沿う方向で隆起部41の頂面41f
におけるテーパ面41tの起点となる外周端41feと略同じ位置、又はその外周端41feよりも内方側の位置に配置され、一方、曲面部102は、前記横断面で見て、インジェクタプレート36の上面36iに近づくにつれて起立面部101から外方側に徐々に離れるように形成されている。
【0049】
即ち、本実施形態では、燃料通路FPの起立面部101に対し隆起部41の頂部が比較的外方寄りとなり且つ起立面部101に連ねて比較的深い曲面部102(ダレ部分)が形成される成形態様で、燃料通路FPがプレス成形されることから、プレス成形時には、金属材料の流動量を極力抑えながら燃料通路FPの周面FPsを比較的小さなプレス荷重で精度よく形成可能となる。その結果、プレス成形時の絞り深さdが深い場合でも、燃料通路FPの形成負荷を軽減可能となるから、インジェクタプレート36の燃料通路FP周辺部でのクラックや破断の発生を効果的に防止することができ、成形不良品の発生頻度が低減する。
【0050】
尚、インジェクタプレート36の必要な肉厚・強度を確保しつつ上記成形態様でのプレス成形を行うためには、少なくとも、成形用凹部50aを横切る方向でパンチ51の先部51a周面を成形用凹部50aのテーパ面50atの小径端(
図4で下端)と略同じ位置、又は前記小径端よりも内方側(即ち成形用凹部50aの中心部側)にオフセットした位置に配置する必要があり、またインジェクタプレート36の板厚・材質等も踏まえパンチ51の押込ストローク(即ち燃料通路FPの絞り深さd)や押込荷重等にも配慮する必要がある。
【0051】
かくして、燃料通路FPはその通路形態が複雑であっても成形精度を高めることができ、燃料通路FP内での燃料の円滑な流れ確保や噴射燃料の微粒化促進を図る上で有利となる。その上、成形態様によっては、燃料通路FPの深さdを、例えばインジェクタプレート36の板厚t以上に深くするようなことも可能となるため、それだけ設計自由度が高められる。また、燃料通路FPの周面FPsのうち底面FPb寄りの起立面部101は、平坦な底面FPbより略垂直に真っ直ぐ立ち上がるため、燃料通路FP内を流動して燃料噴孔43に向かう燃料の流れを安定させることができる。
【0052】
また本実施形態では、起立面部101と直交する方向での、曲面部102の幅wが、インジェクタプレート36の最小肉厚t
MIN 以上の長さに設定されるような成形態様が選定される。これにより、曲面部102が十分に拡幅され、燃料通路FPの形成負荷の更なる軽減が図られる。
【0053】
その上、本実施形態では、曲面部102の外周端102eが、燃料通路FPに対応してインジェクタプレート36の外表面36oに膨出形成された隆起部41よりも、起立面部101と直交する方向で外方側に位置するような成形態様が選定される。これにより、インジェクタプレート36の部分的な肉厚低下を極力抑えながら、曲面部102を燃料通路FPの外方側に十分に拡幅可能となり、燃料通路FPの形成負荷の更なる軽減が図られる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【0055】
例えば、燃料通路FPにおける案内通路38及び旋回室39の数や配列は、要求される燃料噴霧フォームの本数や形状に応じて適宜選定することができる。例えば、前記実施形態では、燃料通路FPの中央油室37(弁孔10との連通部)から案内通路38を放射状且つ直線状に延ばしたものを例示したが、本発明では、案内通路38を放射方向から周方向に多少傾斜して径方向外方側に延ばしたもの、或いは、案内通路38を多少カーブさせて曲線状に延ばしたものに適用してもよい。また案内通路38及び旋回室39の組の数は、実施形態では6組であるが、それ以外の任意の数、例えば4組でもよい。
【0056】
また前記実施形態では、噴射燃料の微粒化を特に促進するために、燃料通路FPを複数の案内通路38と、各々の案内通路38の下流端が接線方向に開口する複数の旋回室39とを組み合わせた通路構成としているが、本発明の燃料通路の通路構成は前記実施形態に限定されず、少なくとも弁孔10から燃料噴孔43に向けてスムーズに燃料を案内し得る通路構成であればよい。例えば、前記特許文献1に示されるように、旋回室を省略して複数の案内通路の下流端部底面に燃料噴孔を開口させるような燃料通路においても本発明を適用可能である。
【0057】
また前記実施形態では、インジェクタプレート36と弁座部材3との結合手段として、レーザビームによる全周溶接wが例示されたが、その結合手段は、溶接手段に限定されない。即ち、インジェクタプレート36と弁座部材3との間を全周に亘り液密に結合し得る結合手段であれば、種々の結合手段を採用可能である。
【0058】
また前記実施形態では、インジェクタプレート36は、その板厚が例えば0.1mm前後の薄肉の板状であるものを例示したが、本発明は、実施形態よりも厚肉又は更に薄肉の(但しプレス成形で燃料通路FP(案内通路38及び旋回室39)を精度よく成形可能な程度の肉厚の)インジェクタプレートにも実施可能である。