特許第6775224号(P6775224)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6775224
(24)【登録日】2020年10月8日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】マウス人工染色体ベクター及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/85 20060101AFI20201019BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20201019BHJP
   A01K 67/027 20060101ALI20201019BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20201019BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   C12N15/85 ZZNA
   C12N5/10
   A01K67/027
   C12P21/02 C
   C12P21/08
【請求項の数】22
【全頁数】83
(21)【出願番号】特願2020-506682(P2020-506682)
(86)(22)【出願日】2019年3月15日
(86)【国際出願番号】JP2019010953
(87)【国際公開番号】WO2019177163
(87)【国際公開日】20190919
【審査請求日】2020年3月19日
(31)【優先権主張番号】特願2018-50178(P2018-50178)
(32)【優先日】2018年3月16日
(33)【優先権主張国】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02656
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02657
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(73)【特許権者】
【識別番号】516291907
【氏名又は名称】株式会社Trans Chromosomics
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】香月 康宏
(72)【発明者】
【氏名】押村 光雄
(72)【発明者】
【氏名】阿部 智志
【審査官】 伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/083870(WO,A1)
【文献】 特開2015−119643(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/013067(WO,A1)
【文献】 TAKIGUCHI M. et al.,A Novel and Stable Mouse Artificial Chromosome Vector,ACS Synthetic Biology, 2012.10.09, Vol.3, pp.903-914
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マウス10番染色体及びマウス16番染色体からなる群から選択されるマウス染色体由来の天然型セントロメア、セントロメア近傍のマウス10番染色体長腕の染色体部位である遺伝子Gm8155から長腕遠位を削除したマウス10番染色体由来の長腕断片、又はセントロメア近傍のマウス16番染色体長腕の染色体部位である遺伝子Gm35974から長腕遠位を削除したマウス16番染色体由来の長腕断片、1つ又は複数の外来DNA挿入部位、及びテロメアを含むこと、並びに、齧歯類の細胞、組織又は個体において安定に保持される、かつ子孫伝達可能であることを特徴とする、マウス人工染色体ベクター。
【請求項2】
寄託細胞株DT40(10MAC)T5−26(NITE BP−02656)に含まれるマウス人工染色体を含む、請求項1に記載のマウス人工染色体ベクター。
【請求項3】
寄託細胞株DT40(16MAC)T1−14(NITE BP−02657)に含まれるマウス人工染色体を含む、請求項1に記載のマウス人工染色体ベクター。
【請求項4】
齧歯類がマウス又はラットである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のマウス人工染色体ベクター。
【請求項5】
外来DNA挿入部位が、loxP配列、FRT配列、φC31attB及びφC31attP配列、R4attB及びR4attP配列、TP901−1attB及びTP901−1attP配列、並びに、Bxb1attB及びBxb1attP配列からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のマウス人工染色体ベクター。
【請求項6】
レポーター遺伝子、選択マーカー遺伝子又はその両方をさらに含む、請求項1〜のいずれか1項に記載のマウス人工染色体ベクター。
【請求項7】
外来DNA挿入部位が外来DNAを含む、請求項1〜のいずれか1項に記載のマウス人工染色体ベクター。
【請求項8】
外来DNAがヒトDNAである、請求項に記載のマウス人工染色体ベクター。
【請求項9】
外来DNAが、ヒト染色体長腕又は短腕の遺伝子もしくは遺伝子座のDNAである、請求項に記載のマウス人工染色体ベクター。
【請求項10】
外来DNAが、ヒト免疫グロブリン重鎖遺伝子もしくは遺伝子座、ヒト免疫グロブリン軽鎖遺伝子もしくは遺伝子座、又はその重鎖及び軽鎖遺伝子もしくは遺伝子座の両方のDNAである、請求項又はに記載のマウス人工染色体ベクター。
【請求項11】
外来DNAが、サイトカイン類、ホルモン類、成長因子類、栄養因子類、造血因子類、血液凝固・溶解因子類、G蛋白質共役型受容体類、酵素類などのポリペプチド類をコードする遺伝子又はDNA、或いは、腫瘍、筋ジストロフィー、血友病、神経変性疾患、自己免疫疾患、アレルギー性疾患、遺伝性疾患などの疾患に関連する治療用遺伝子又はDNA、並びに、T細胞受容体(TCR)、ヒト白血球抗原(HLA)などの免疫系遺伝子又はDNAからなる群から選択される遺伝子又はDNAである、請求項のいずれか1項に記載のマウス人工染色体ベクター。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のマウス人工染色体ベクターを含む哺乳動物由来細胞。
【請求項13】
哺乳動物由来細胞が、体細胞、幹細胞及び前駆細胞からなる群から選択される、請求項12に記載の細胞。
【請求項14】
哺乳動物由来細胞が、齧歯類由来細胞である、請求項12又は13に記載の細胞。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のマウス人工染色体ベクターを含む非ヒト動物。
【請求項16】
非ヒト動物が、齧歯類動物である、請求項15に記載の非ヒト動物。
【請求項17】
齧歯類動物が、マウス又はラットである、請求項16に記載の非ヒト動物。
【請求項18】
ヒト抗体を産生可能にする動物である、請求項1517のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
【請求項19】
マウス人工染色体ベクターに含まれる外来DNAに対応する内在遺伝子が破壊されている又は内在遺伝子の発現が低下している、請求項1518のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
【請求項20】
外来DNA配列を含むマウス人工染色体ベクターを含む請求項1214のいずれか1項に記載の細胞を培養し、産生された該DNAによってコードされるタンパク質を回収することを含む、タンパク質の製造方法。
【請求項21】
ヒト抗体重鎖及び軽鎖遺伝子もしくは遺伝子座を含むマウス人工染色体ベクターを含む請求項18に記載の非ヒト動物を用いてヒト抗体を産生し、該ヒト抗体を回収することを含む、ヒト抗体の製造方法。
【請求項22】
ヒト抗体軽鎖遺伝子もしくは遺伝子座が、ヒト抗体λ及びκ軽鎖遺伝子もしくは遺伝子座である、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、齧歯類細胞、組織又は個体内で安定に保持され、かつ、子孫伝達可能な新規マウス人工染色体ベクター、具体的にはマウス10番染色体及びマウス16番染色体の各々に由来するマウス人工染色体に関する。
本発明はまた、上記マウス人工染色体ベクターを含む哺乳動物由来細胞に関する。
本発明はさらに、上記マウス人工染色体ベクターを含む、齧歯類などの非ヒト動物に関する。
本発明はさらに、上記細胞又は上記非ヒト動物を用いる有用タンパク質又はヒト抗体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工染色体ベクターは、約200kbを超える大きなサイズのDNA(例えば、メガベースサイズの染色体断片)を導入可能であるため、例えばヒト抗体産生、薬物代謝試験、疾患モデルなどに使用可能な非ヒト動物の作製などに使用されている。このようなベクターには、ヒト人工染色体(HAC)ベクター、マウス人工染色体(MAC)ベクターなどが知られている。具体的には、HACベクターは、ヒト14番染色体及びヒト21番染色体由来のベクターに関して特許文献1、2及び3、非特許文献1,2及び3に記載されており、またMACベクターは、マウス11番染色体由来のベクターに関して特許文献4に記載されている。
【0003】
しかしながら、HACベクター導入マウスでは、HACベクターの保持率の低下、組織間や個体間にばらつきが生じること、子孫伝達の頻度が不安定であることなどの問題が存在するため、HACベクターの保持率などを常に考慮する必要があり、また、特定の遺伝子領域が持つ機能や疾患との関わりについて研究する場合、目的遺伝子の発現動態や発現産物を組織細胞レベルで詳細かつ正確に解析することが難しい場合もあり、再現性の高い均一的な解析の障害となる。また、マウス細胞とヒト細胞を細胞融合するとき、マウス細胞内ではヒト染色体は不安定であることが知られている。このように、HACベクターを含むヒト染色体はマウス細胞内では保持率が一定しないことから、HACベクターをマウス細胞に導入する場合、及び遺伝子導入マウスを作製する場合において、人工染色体ベクターとしての利点を十分に発揮できていない。
【0004】
一方、MACベクター導入マウスでは、HACベクターの保持率の低下などの問題は実質的に解決される。しかし、MACベクターはマウス11番染色体由来のベクターが知られているだけであり、他の染色体を使用する場合の問題点として、染色体の構造に関する情報が少ないためMACベクターの作製には試行錯誤が必要であるし、また、公知のMACベクター以外のベクターがいかなる特性を有するかも不明である。
【0005】
このような状況のなかで本発明者らは、マウス10番染色体及びマウス16番染色体ベクター由来の2種類のMACベクターの作製を今回試みた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2009/063722号
【特許文献2】国際公開2004/031385号
【特許文献3】特開2007−295860号公報
【特許文献4】日本国特許第5557217号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kuroiwa et al,Nat Biotech,18:1086−1090,2000
【非特許文献2】Katoh et al,BBRC,321:280−290,2000
【非特許文献3】Hoshiya et al,Mol Ther,17:309−17,2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来公知のMACベクターではない他のMACベクターを作製するときの課題として、例えばマウス染色体の配列と構造に関係する情報が少なく、場合によっては未知であること、或いは、そのような情報は特定のマウス系統・個体の配列情報であるため系統が異なると配列が一致しないことがよくあり、したがって、ベクター内に余分なマウス遺伝子を持ち込まないようにするための遺伝子操作にはかなりの試行錯誤を要すること、天然セントロメアを含む染色体構造に違いがあることで、染色体の由来によってMACベクターの核内配置が異なり、宿主遺伝子の発現制御に影響を与える可能性があること、マウス11番染色体由来のMAC導入精巣由来幹細胞では幹細胞培養条件下において異常増殖を示すことなどの課題があるため、それらの課題を解決する必要がある。さらに、染色体番号が異なるマウス染色体から作製されたMACベクターが、ベクター上に残存するマウス遺伝子による影響と同様に、安定性、子孫伝達能などの性質にどのように影響するかは、知見がほとんどないためはっきりしていない。
【0009】
MACベクターは、理想的には、MACベクター導入そのものが意図しない宿主の遺伝子発現変動を引き起こさず、齧歯類細胞もしくは組織内又は齧歯類個体内で安定に維持されるとともに、子孫伝達されるベクターであるべきであるが、上記のとおり、そのようなベクターの作製には試行錯誤が必要である。
本発明は、上記の課題を解決する新規のMACベクターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、要約すると、以下の特徴を包含する。
【0011】
(1)マウス10番染色体及びマウス16番染色体からなる群から選択されるマウス染色体由来の天然型セントロメア、セントロメア近傍のマウス10番染色体長腕の染色体部位である遺伝子Gm8155から長腕遠位を削除したマウス10番染色体由来の長腕断片、又はセントロメア近傍のマウス16番染色体長腕の染色体部位である遺伝子Gm35974から長腕遠位を削除したマウス16番染色体由来の長腕断片、及びテロメア配列を含むこと、並びに、齧歯類の細胞、組織又は個体において安定に保持される、かつ子孫伝達可能であることを特徴とする、マウス人工染色体ベクター。
【0012】
(2)寄託細胞株DT40(10MAC)T5−26(NITE BP−02656)に含まれるマウス人工染色体を含む、上記(1)に記載のマウス人工染色体ベクター。
【0013】
(3)寄託細胞株DT40(16MAC)T1−14(NITE BP−02657)に含まれるマウス人工染色体を含む、上記(1)に記載のマウス人工染色体ベクター。
【0014】
(4)齧歯類がマウス又はラットである、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のマウス人工染色体ベクター。
【0015】
(5)1つ又は複数のDNA配列挿入部位をさらに含む、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載のマウス人工染色体ベクター。
【0016】
(6)DNA配列挿入部位が、loxP配列、FRT配列、φC31attB及びφC31attP配列、R4attB及びR4attP配列、TP901−1attB及びTP901−1attP配列、並びに、Bxb1attB及びBxb1attP配列からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含む、上記(5)に記載のマウス人工染色体ベクター。
【0017】
(7)レポーター遺伝子、選択マーカー遺伝子又はその両方をさらに含む、上記(1)〜(6)のいずれかに記載のマウス人工染色体ベクター。
【0018】
(8)外来DNA配列をさらに含む、上記(1)〜(7)のいずれかに記載のマウス人工染色体ベクター。
【0019】
(9)外来DNA配列がヒトDNA配列である、上記(8)に記載のマウス人工染色体ベクター。
【0020】
(10)外来DNA配列が、ヒト染色体長腕又は短腕の遺伝子もしくは遺伝子座のDNA配列である、上記(9)に記載のマウス人工染色体ベクター。
【0021】
(11)外来DNA配列が、ヒト免疫グロブリン重鎖遺伝子もしくは遺伝子座、ヒト免疫グロブリン軽鎖遺伝子もしくは遺伝子座、又はその重鎖及び軽鎖遺伝子もしくは遺伝子座の両方のDNA配列である、上記(9)又は(10)に記載のマウス人工染色体ベクター。
【0022】
(12)外来DNA配列が、サイトカイン類、ホルモン類、成長因子類、栄養因子類、造血因子類、血液凝固・溶解因子類、G蛋白質共役型受容体類、酵素類などのポリペプチド類をコードする遺伝子又はDNAの配列、或いは、腫瘍、筋ジストロフィー、血友病、神経変性疾患、自己免疫疾患、アレルギー性疾患、遺伝性疾患などの疾患に関連する治療用遺伝子又はDNAの配列、並びに、T細胞受容体(TCR)、ヒト白血球抗原(HLA)などの免疫系遺伝子又はDNAの配列からなる群から選択される遺伝子又はDNAの配列である、上記(8)〜(10)のいずれかに記載のマウス人工染色体ベクター。
【0023】
(13)上記(1)〜(12)のいずれかに記載のマウス人工染色体ベクターを含む哺乳動物由来細胞。
【0024】
(14)哺乳動物由来細胞が、体細胞、幹細胞及び前駆細胞からなる群から選択される、上記(13)に記載の細胞。
【0025】
(15)哺乳動物由来細胞が、齧歯類由来細胞である、上記(13)又は(14)に記載の細胞。
【0026】
(16)上記(1)〜(12)のいずれかに記載のマウス人工染色体ベクターを含む非ヒト動物。
【0027】
(17)非ヒト動物が、齧歯類動物である、上記(16)に記載の非ヒト動物。
【0028】
(18)齧歯類動物が、マウス又はラットである、上記(17)に記載の非ヒト動物。
【0029】
(19)ヒト抗体を産生可能にする動物である、上記(16)〜(18)のいずれかに記載の非ヒト動物。
【0030】
(20)マウス人工染色体ベクターに含まれる外来DNAに対応する内在遺伝子が破壊されている又は内在遺伝子の発現が低下している、上記(16)〜(19)のいずれかに記載の非ヒト動物。
【0031】
(21)外来DNA配列を含むマウス人工染色体ベクターを含む上記(13)〜(15)のいずれかに記載の細胞を培養し、産生された該DNAによってコードされるタンパク質を回収することを含む、タンパク質の製造方法。
【0032】
(22)ヒト抗体重鎖及び軽鎖遺伝子もしくは遺伝子座を含むマウス人工染色体ベクターを含む上記(19)に記載の非ヒト動物を用いてヒト抗体を産生し、該ヒト抗体を回収することを含む、ヒト抗体の製造方法。
【0033】
(23)ヒト抗体軽鎖遺伝子もしくは遺伝子座が、ヒト抗体λ及びκ軽鎖遺伝子もしくは遺伝子座である、上記(22)に記載の方法。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2018−050178号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0034】
本発明により、マウス10番染色体及び16番染色体の各々のマウス染色体由来の齧歯類組織内で安定な新規マウス人工染色体ベクターが提供され、これらのベクターを利用したヒト抗体を産生可能なマウス、ラットなどの齧歯類動物の作製、並びに該動物によるヒト抗体の製造を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】この図は、薬剤耐性遺伝子でマークされたマウス10番染色体又は16番染色体を保持するマウス胎仔線維芽細胞とマウスA9細胞とを細胞融合することによって各マウス染色体を保持したA9様細胞を作製することを示した図である。
図2】この図は、薬剤耐性遺伝子でマークされたマウス10番染色体又は16番染色体を含有するA9様細胞から微小核細胞融合法によって各マウス染色体をニワトリDT40細胞へ移すことを示した図である。
図3】この図は、天然マウス10番及び16番染色体の各々からテロメアトランケーションによってマウス人工染色体(MAC)を構築するステップ、並びに該MACにloxP、EGFP遺伝子などを含むカセットを挿入するステップの概略図である。図中、Cen.はセントロメアを表し、Tel.はテロメアを表す。また、HS4はインスレーター、CAG及びPGKはそれぞれプロモーター、EGFPは蛍光タンパク質をコードする遺伝子、NeoR、Puro、Neoはそれぞれ薬剤耐性遺伝子、HPRTはヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子を表す。
図4】この図は、マウス10番染色体のテロメアトランケーションの概略図である。
図5】この図は、長腕部分が削除される前のマウス10番染色体と長腕部分が削除されたマウス10番染色体(10MAC;T5−26、T6−37、T7−34)を示すFISH解析画像である。
図6】この図は、マウス10番染色体(10MAC)へloxP及びEGFP発現ユニットを搭載する概略図である。
図7】この図は、マウス10番染色体(10MAC)にloxP及びEGFP発現ユニットを搭載する前と後(10MAC1)のFISH解析画像である。図中、搭載前が、T5−26とT6−37であり、搭載後が、T5−26L1−2、T5−26L2−3、T6−37L1−5である。矢印は10MAC、10MAC1を示す。
図8】この図は、10MAC1を保持するCHO細胞のFISH解析画像である。図中、矢印は10MAC1を示す。
図9】この図は、マウス16番染色体のテロメアトランケーションの概略図である。
図10】この図は、マウス16番染色体のテロメアトランケーションで得られた長腕の大部分が削除された2パターンのアレルの図である。図中、一方のパターンがT1−14であり、他方のパターンがT2−64、T2−65である。
図11】この図は、長腕部分が削除される前のマウス16番染色体と長腕部分が削除されたマウス16番染色体(16MAC;T1−14、T2−64、T2−65)を示すFISH解析画像である。矢印は、マウス16番染色体、それぞれの16MACを示す。
図12】この図は、長腕部分の削除を行ったマウス16番染色体へloxP及びEGFP発現ユニットを搭載する概略図(パターン1)である。
図13】この図は、長腕部分の削除を行ったマウス16番染色体へloxP及びEGFP発現ユニットを搭載する概略図(パターン2)である。
図14】この図は、マウス16番染色体(16MAC)にloxP及びEGFP発現ユニットを搭載する前(16MAC;T1−14、T2−64、T2−65)と後(16MAC1HA;T1−14 L1−4、16MAC1Gm;T2−64 L1−4、T2−65 L1−4)の各FISH解析画像である。矢印は16MAC、16MAC1HA、16MAC1Gmを示す。
図15】この図は、10MAC1を保持するマウスES細胞TT2FのFISH解析画像である。矢印は、10MAC1を示す。
図16】この図は、10MAC1が子孫伝達したマウスの明視野(上)とGFP蛍光(下)を示す図である。10MAC1にGFP発現カセットが搭載されているので、10MAC1を保持する細胞はGFP蛍光陽性となる。
図17】この図は、IGHK−NAC構築とIGHK−NACを含むヒト抗体産生マウス又はラットの作製の概略図である。
図18】この図は、改変ヒト2番染色体とNAC(本発明の新規人工染色体ベクター)を保持するCHO細胞のFISH解析画像である。左の矢印がNACを示し、右の矢印が改変ヒト2番染色体を示す。
図19】この図は、Cre/loxPシステムによって生じる相互転座によるIGK−NAC構築の概略図である。図中、HAT耐性について、loxP配列で組換えを起こしたものは5’HPRTと3’ HPRTが連結し、HPRT遺伝子の再構築が起こり、HAT耐性になるので薬剤HATで選択できる。図中、Igκはイムノグロブリン軽鎖κ遺伝子(座)を表す。図中、Cen.はセントロメアを表し、Tel.はテロメアを表す。また、HS4はインスレーター、CAG、CMV、PGKはそれぞれプロモーター、EGFPは蛍光タンパク質をコードする遺伝子、Bsd、hyg、Puro、Neoはそれぞれ薬剤耐性遺伝子、HPRTはヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子を表す。
図20】この図は、Flp/FRTシステムによって生じる相互転座によるIGHK−NAC構築の概略図である。図中、HAT耐性について、FRT配列で組換えを起こしたものは5’HPRTと3’HPRTが連結し、HPRT遺伝子の再構築が起こり、HAT耐性になるので薬剤HATで選択できる。図中、Igκはイムノグロブリン軽鎖κ遺伝子(座)を表す。図中、IgHはイムノグロブリン重鎖遺伝子(座)を表す。図中、Cen.はセントロメアを表し、Tel.はテロメアを表す。また、HS4はインスレーター、CAG、CMV、PGKはそれぞれプロモーター、EGFPは蛍光タンパク質をコードする遺伝子、Bsd、hyg、Neoはそれぞれ薬剤耐性遺伝子、HPRTはヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子を表す。
図21】この図は、IGHL−NAC構築とIGHL−NACを含むヒト抗体産生マウス又はラットの作製の概略図である。
図22】この図は、Cre/loxPシステムによって生じる相互転座によるIGL−NAC構築の概略図である。図中、HAT耐性について、loxP配列で組換えを起こしたものは5’HPRTと3’HPRTが連結し、HPRT遺伝子の再構築が起こり、HAT耐性になるので薬剤HATで選択できる。図中、Igλはイムノグロブリン軽鎖λ遺伝子(座)を表す。図中、Cen.はセントロメアを表し、Tel.はテロメアを表す。また、HS4はインスレーター、CAG、CMV、PGKはそれぞれプロモーター、EGFPは蛍光タンパク質をコードする遺伝子、Bsd、hyg、Puro、Neoはそれぞれ薬剤耐性遺伝子、HPRTはヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子を表す。
図23】この図は、Flp/FRTシステムによって生じる相互転座によるIGHL−NAC構築の概略図である。図中、HAT耐性について、FRT配列で組換えを起こしたものは5’HPRTと3’HPRTが連結し、HPRT遺伝子の再構築が起こり、HAT耐性になるので薬剤HATで選択できる。図中、Cen.はセントロメアを表し、Tel.はテロメアを表す。また、HS4はインスレーター、CAG、CMV、PGKはそれぞれプロモーター、EGFPは蛍光タンパク質をコードする遺伝子、Bsd、hyg、Neoはそれぞれ薬剤耐性遺伝子、HPRTはヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子を表す。
図24】この図は、マウス10番染色体(10MAC)へ環状DNA挿入用のloxP配列及びネオマイシン耐性遺伝子を搭載した10MAC2構築の概略図である。
図25】この図は、マウス10番染色体(10MAC)へGFP蛍光発現ユニット及び環状DNA挿入用のloxP配列及びネオマイシン耐性遺伝子を搭載した10MAC3構築の概略図である。
図26】この図は、10MAC2を保持するDT40細胞のFISH解析画像である。矢印は構築された10MAC2を示す。
図27】この図は、10MAC3を保持するDT40細胞のFISH解析画像である。矢印は構築された10MAC3を示す。
図28】この図は、10MAC2を保持するCHO細胞のFISH解析画像である。矢印は10MAC2を示す。
図29】この図は、10MAC3を保持するCHO細胞のFISH解析画像である。矢印は10MAC3を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明をさらに詳細に説明する。
上記のとおり、本発明は、マウス10番染色体及びマウス16番染色体からなる群から選択されるマウス染色体由来の天然型セントロメア、セントロメア近傍のマウス10番染色体長腕の染色体部位である遺伝子Gm8155(NCBI;NC_000076.6)から長腕遠位を削除したマウス10番染色体由来の長腕断片、又セントロメア近傍のマウス16番染色体長腕の染色体部位である遺伝子Gm35974(NCBI;NC_000082.6)から長腕遠位を削除したマウス16番染色体由来の長腕断片、及びテロメア配列を含むこと、並びに、齧歯類の細胞、組織又は個体において安定に保持される、かつ子孫伝達可能であることを特徴とする、マウス人工染色体ベクターを提供する。
【0037】
本明細書中で使用する「マウス染色体由来の天然型セントロメア」という用語は、マウス10番染色体又はマウス16番染色体のセントロメア全体(完全なセントロメア)を指す。したがって、このようなセントロメアには、マウス染色体のセントロメア配列の一部を用いて偶発的又は人工的に得られたセントロメア機能を有する構造体、及び、他の動物種の染色体のセントロメアは含まれない。
【0038】
本明細書中で使用する「マウス人工染色体」又は「マウス人工染色体ベクター」はトップダウンアプローチで構築された人工染色体であり、ボトムアップアプローチで構築された人工染色体ではない。トップダウンアプローチとは、自然染色体から遺伝子領域を染色体改変により削除し天然セントロメアを人工染色体ベクターの一部として構築する方法である。一方、ボトムアップアプローチとは、セントロメア配列の一部をクローン化DNAとして取得し、哺乳類細胞にトランスフェクションすることによりセントロメア機能を有する人工染色体を構築する方法であり、本発明では、この方法は使用されていない。
【0039】
本明細書中で使用する「セントロメア近傍のマウス10番(もしくは、16番)染色体長腕の染色体部位である遺伝子Gm8155(もしくは、遺伝子Gm35974)から長腕遠位を削除したマウス10番(もしくは、16番)染色体由来の長腕断片」は、本発明のベクターがマウス、ラットなどの齧歯類の細胞又は個体組織において安定に保持されるように、かつ齧歯類の個体発生と子孫伝達の妨げにならないように、可能な限り内在遺伝子の影響を排除することが望ましく、そのために、上記マウス染色体の長腕中の内在遺伝子を実質的に除去するようにセントロメアに近い長腕部位の遺伝子Gm8155(もしくは、遺伝子Gm35974)の上流領域で長腕遠位を削除して得られるセントロメア側の長腕断片を指す。ここで「実質的に除去する」とは、マウス10番染色体又はマウス16番染色体の全内在遺伝子(数)の少なくとも99.5%、好ましくは少なくとも99.7%、より好ましくは少なくとも99.8%、最も好ましくは99.9〜100%が除去されることを意味する。また、「上流領域」とは、上記遺伝子の5'末端領域であり、好ましくは転写開始部位から5'非翻訳領域末端までの領域である。
【0040】
本明細書中で使用する、マウス人工染色体がマウス、ラットなどの齧歯類の細胞、組織又は個体において安定に保持されるときの「保持率」とは、培養細胞、又は齧歯類の組織や細胞の中で人工染色体が存在している細胞の割合を指す。
【0041】
本発明の染色体ベクターが「安定に保持される」とは、細胞分裂の際に該染色体ベクターの脱落を起こし難く、すなわち、分裂後であっても細胞内で安定に保持されること、それゆえに、該染色体ベクターが娘細胞や子孫マウスに効率よく子孫伝達されることを意味する。
【0042】
マウス10番染色体断片由来の人工染色体ベクターの場合には、前記長腕断片は、非限定的に例えば、該10番染色体の長腕のマーカー遺伝子Gm8155よりも遠位の領域が削除された長腕断片からなる。またマウス16番染色体断片由来の人工染色体ベクターの場合には、前記長腕断片は、非限定的に例えば、該16番染色体の長腕のマーカー遺伝子Gm35974よりも遠位の領域が削除された長腕断片からなる。或いは、前記長腕断片は、寄託細胞株DT40(10MAC)T5−26(受託番号:NITE BP−02656)又は寄託細胞株DT40(16MAC)T1−14(受託番号:NITE BP−02657)に含まれるマウス人工染色体を基本構造として含む。これらの基本構造には、外来DNA又は遺伝子もしくは遺伝子座を挿入するためのloxP、FRTなどのDNA配列挿入部位をさらに含むことができる。
【0043】
本発明のベクターは、外来DNA又は遺伝子配列を挿入するための部位を含むことができるため、この部位に、目的の外来DNA又は遺伝子もしくは遺伝子座を組み込むことによって、該ベクターが任意の細胞に導入されたときに該目的の外来DNA又は遺伝子もしくは遺伝子座を発現することが可能となり、したがって、タンパク質生産、治療用薬剤のスクリーニング、薬物代謝試験、DNAの機能解析、遺伝子治療、有用な非ヒト動物の作製などへの応用に使用することが可能である。
【0044】
本明細書中の「DNA」は、特に断らない限り、遺伝子もしくは遺伝子座、cDNA、化学修飾DNAを含むすべての種類のDNA核酸に対し使用するものとする。
【0045】
また、本明細書中の「外来遺伝子」又は「外来DNA」とは、ベクターの遺伝子挿入部位に挿入する、ベクターに搭載する目的の遺伝子又はDNAであり、対象とする細胞内に本来的には存在しない、対象とする細胞内で発現させるべき遺伝子又はDNA、或いはそれらの配列、を意味する。
【0046】
本明細書中の「DNA配列挿入部位」とは、人工染色体における、目的DNA(例えば遺伝子、遺伝子座など)配列を挿入できる部位、例えば、部位特異的組換え酵素の認識部位等を意味する。このような認識部位には、非限定的に、例えばloxP(Creリコンビナーゼ認識部位)、FRT(Flpリコンビナーゼ認識部位)、φC31attB及びφC31attP(φC31リコンビナーゼ認識部位)、R4attB及びR4attP(R4リコンビナーゼ認識部位)、TP901−1attB及びTP901−1attP(TP901−1リコンビナーゼ認識部位)、或いはBxb1attB及びBxb1attP(Bxb1リコンビナーゼ認識部位)などが含まれる。
【0047】
本明細書中の「部位特異的組換え酵素」とは、これら酵素の認識部位で特異的に目的のDNA配列と組換えを起こすための酵素である。その例は、Creインテグレース(Creリコンビナーゼとも称する。)、Flpリコンビナーゼ、φC31インテグレース、R4インテグレース、TP901−1インテグレース、Bxb1インテグレースなどである。
【0048】
本発明のベクターはまた、マウス染色体を改変し、マウス由来の天然型セントロメアをそのままベクターの作製のために利用する。
【0049】
本発明のベクターの有用な特性として、マウス、ラット、ハムスターなどの齧歯類の細胞又は個体組織において保持率が向上し、これによって細胞内で安定に保持され、したがって目的遺伝子(群)を長期間安定に含むことができ、齧歯類の個体間又は組織間において導入遺伝子量にバラつきがなく長期間発現させることができ、また、分化多能性細胞(例えばES細胞、iPS細胞、等)を介した齧歯類の個体発生及び子孫伝達の効率を向上させることができる。保持率は、試験した組織(例えば、肝臓、腸、腎臓、脾臓、肺、心臓、骨格筋、脳又は骨髄由来の組織)で約90%以上であるし、また、本発明のマウス人工染色体は、効率よく増殖可能であり、細胞内での複数(多)コピーの保持を可能にする。
【0050】
マウスの10番及び16番染色体の配列情報は、DDBJ/EMBL/GenBank、Santa Cruz Biotechnology,Inc.などのChromosome Databasesから入手可能である。
【0051】
本明細書中の染色体の「長腕」とは、マウス染色体のセントロメア側から遺伝子領域を含む染色体領域を指す。一方、マウス染色体には、短腕がほとんど存在しない。
【0052】
本明細書中の「遠位」とは、セントロメアから遠い領域(すなわち、テロメア側)を意味する。反対に、セントロメアに近い領域(すなわち、セントロメア側)は「近位」と称する。長腕遠位は、長腕の特定切断部位よりもテロメア側に位置する領域を意味し、長腕近位は、長腕の特定切断部位よりもセントロメア側に位置する領域を意味する。この特定切断部位は、マウス10番染色体又はマウス16番染色体の長腕に存在する全内在遺伝子(数)の少なくとも99.5%、好ましくは少なくとも99.7%、より好ましくは少なくとも99.8%、最も好ましくは99.9〜100%が削除される部位(位置)である。
【0053】
本明細書中の「テロメア配列」は、同種又は異種の天然テロメア配列、或いは、人工テロメア配列である。ここで、同種とは、人工染色体ベクターの染色体断片が由来するマウスと同種の動物を意味し、一方、異種とは、該マウス以外の哺乳動物(これには、ヒトを含む)を意味する。また、人工テロメア配列は、(TTAGGG)n配列(nは、繰り返しを意味する。)などの人工的に作製されたテロメア機能を有する配列を指す。人工染色体へのテロメア配列の導入は、例えば国際公開WO00/10383号に記載されるようなテロメアトランケーション(テロメア配列の置換)によって行うことができる。テロメアトランケーションは、本発明の人工染色体の作製において染色体の短縮のために使用することができる。
【0054】
本明細書中の「非ヒト動物」という用語は、ヒトを除く、サル、チンパンジーなどの霊長類、マウス、ラット、ハムスター、モルモットなどの齧歯類、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギなどの有蹄類などの哺乳動物を含むが、これらに限定されない。
【0055】
本明細書中の「胚性幹細胞」又は「ES細胞」は、哺乳動物由来の受精卵の胚盤胞の内部細胞塊から樹立された分化多能性と半永久的増殖能とを備えた幹細胞である(M.J.Evans and M.H.Kaufman(1981)Nature 292:154−156;J.A.Thomson et al.(1999)Science 282:1145−1147;J.A.Thomson et al.(1995)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:7844−7848;J.A.Thomson et al.(1996)Biol.Reprod.55:254−259;J.A.Thomson and V.S.Marshall(1998)Curr.Top.Dev.Biol.38:133−165)。この細胞と同等の性質をもつ、体細胞の再プログラミングによって人工的に誘導された細胞が「人工多能性幹細胞」又は「iPS細胞」である(K.Takahashi and S.Yamanaka(2006)Cell 126:663−676;K.Takahashi et al.(2007)Cell 131:861−872;J.Yu et al.(2007)Science 318:1917−1920)。
【0056】
<マウス人工染色体ベクターの作製及び用途>
以下に、本発明のマウス人工染色体ベクターの作製及びその用途について説明する。具体的には、後述の実施例及び図面にその手順が記載されている。
【0057】
(1)マウス人工染色体ベクターの作製
本発明の人工染色体ベクターは、以下の工程(a)〜(c):
(a)マウス染色体を含む細胞を得る工程、
(b)内在遺伝子(数)の大部分(99.5%以上100%以下)を含まないようにマウス染色体の長腕遠位を削除する工程、及び
(c)長腕近位に1つ以上のDNA配列挿入部位を挿入する工程
を含む方法によって作製することができる。ここで、工程(b)及び(c)の順序は逆であってもよい。
【0058】
工程(a):
本発明の人工染色体ベクターを作製するには、まず、マウス染色体を含む細胞を作製する。例えば、薬剤耐性遺伝子(例えば、G418耐性遺伝子であるneo遺伝子)で標識されたマウス染色体を含むマウス線維芽細胞であるmouse embryonic fibroblast(mChr11−neo)とblasticidin S耐性遺伝子であるBSr遺伝子を導入したマウスA9細胞(ATCC VA20110−2209)であるmouse A9(BSr)と細胞融合し、薬剤耐性遺伝子で標識されたマウス染色体を含むマウスA9雑種細胞であるmouse A9x mouse embryonic fibroblast(BSr;mChr−neo)から、その染色体を相同組換え率の高い細胞に移入することにより作製することができる。マウス繊維芽細胞は、文献記載の方法に基づいて入手することが可能であり、例えば、マウス繊維芽細胞は日本クレアより入手可能なICR系統やC57B6系統のマウスより樹立可能である。相同組換え率の高い細胞としては、例えば、ニワトリDT40細胞(Dieken et al.,Nature Genetics,12:174−182,1996)を利用できる。さらにまた、上記移入は、公知の染色体移入法、例えば、微小核細胞融合法(Koi et al.,Jpn.J.Cancer Res.,80:413−418,1973)によって行うことができる。
【0059】
工程(b):
マウス由来の単一の染色体を含む細胞において、該マウス染色体の長腕遠位を削除する。このとき、重要なことは、長腕上に存在する内在遺伝子の大部分を削除(又は、除去もしくは欠失)しマウスセントロメアを含む人工染色体を構築することである。これは長腕上に存在する全内在遺伝子の少なくとも99.5%、好ましくは少なくとも99.7%、より好ましくは少なくとも99.8%、最も好ましくは99.9〜100%を削除(又は、除去もしくは欠失)するように切断位置を決定することである。そうすることによって、人工染色体が導入された、齧歯類由来の、好ましくはマウスもしくはラット由来の、細胞、組織又は個体において安定かつ高保持率で保持され、目的遺伝子(群)の正確な解析、物質生産などに用いることができる。上記内在遺伝子の削除は、例えば、WO00/10383号に記載のテロメアトランケーションにより行うことができる。具体的には、マウス染色体を含む細胞において、人工テロメア配列を含むターゲティングベクターを構築し、相同組換えにより染色体上の所望の位置に(人工)テロメア配列が挿入されたクローンを取得し、これによってテロメアトランケーションにより欠失変異体が得られる。すなわち、所望の位置(又は、部位)が削除すべき長腕遠位の切断位置であり、この位置に人工テロメア配列が相同組換えにより置換、挿入されて長腕遠位が削除される。この位置は、ターゲティングベクターを構築する際の標的配列の設計により、適宜設定できる。例えば、後述の実施例では、マウス10番染色体長腕のNC_000076.6(GenBank登録番号)のDNA配列、及びマウス16番染色体長腕のNC_000082.6(GenBank登録番号)のDNA配列に基づいて標的配列を設計し、その標的配列よりもテロメア側でテロメトランケーションが起こるように設定されている。これにより、内在遺伝子の大部分が削除されたマウス10番染色体断片又はマウス16番染色体断片が得られる。
【0060】
工程(c):
DNA配列挿入部位として、好ましくは部位特異的組換え酵素の認識部位を挿入することができる。すなわち、ある種の酵素が特定の認識部位を認識して特異的にその認識部位でDNAの組換えを起こす現象が知られており、本発明のマウス人工染色体ベクターでは、このような酵素とその酵素の認識部位からなる系を利用して、目的とする遺伝子又はDNA配列を挿入、搭載できる。このような系として、例えば、バクテリオファージP1由来のCre酵素と、その認識部位であるloxP配列の系(Cre/loxP系;B.Sauer in Methods of Enzymology;1993,225:890−900)や、出芽酵母由来のFlp酵素と、その認識部位であるFRT(Flp Recombination Target)配列の系(Flp/FRT系)や、ストレプトミセスファージ由来のφC31インテグレースと、その認識部位であるφC31attB/attP配列の系、R4インテグレースと、その認識部位であるR4attB/attP配列の系、TP901−1インテグレースと、その認識部位であるTP901−1attB/attP配列の系、Bxb1インテグレースと、その認識部位であるBxb1attB/attP配列の系、などを挙げることができるが、DNA配列挿入部位として機能しうるのであれば、上記の系に限定されないものとする。
【0061】
このような部位特異的組換え酵素の認識部位の挿入のためには、公知の方法、例えば、相同組換え法が利用でき、挿入位置及び数は、長腕近位及び短腕近位内に適宜設定することができる。
【0062】
本発明においては、1つの種類の認識部位又は異なる種類の認識部位を1つ挿入することも可能である。認識部位の設定により、外来遺伝子又は外来DNAの挿入位置を特定することができるので、挿入位置が一定となり、想定外の位置効果(position effect)を受けることもなくなる。後述の実施例に例示されるマウス人工染色体の場合には、マウス染色体上の部位特異的組換え酵素の認識部位loxP配列において挿入された遺伝子を組織特異的に発現させることを可能にする。
【0063】
本発明の、DNA配列挿入部位を有するマウス人工染色体ベクターには、好ましくは、目的とする遺伝子又はDNA配列の挿入部位を残して、レポーター遺伝子をあらかじめ挿入しておいてもよい。レポーター遺伝子としては、特に限定するものではないが、例えば、蛍光タンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP、EGFP、等)遺伝子、黄色蛍光タンパク質(YFP)、等)、タグタンパク質コードDNA、β−ガラクトシダーゼ遺伝子、発光遺伝子(ルシフェラーゼ遺伝子、等)などが挙げられるが、GFP又はEGFPが好ましい。
【0064】
本発明のマウス人工染色体ベクターにはさらに、選択マーカー遺伝子を含んでもよい。選択マーカーは、該ベクターで形質転換された細胞を選別する際に有効である。選択マーカー遺伝子としては、ポジティブ選択マーカー遺伝子及びネガティブ選択マーカー遺伝子のいずれか、又はその両方が例示される。ポジティブ選択マーカー遺伝子には、薬剤耐性遺伝子、例えばネオマイシン耐性遺伝子(NeoもしくはNeoR)、アンピシリン耐性遺伝子、ブラストサイジンS(BS)耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子(Puro)、ゲネチシン(G418)耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子(Hyg)などが含まれる。また、ネガティブ選択マーカー遺伝子には、例えば単純ヘルペスチミジンキナーゼ(HSV−TK)遺伝子、ジフテリアトキシンA断片(DT−A)遺伝子などが包含される。一般に、HSV−TKは、ガンシクロビル又はシクロビルと組み合わせて使用される。
【0065】
本発明のマウス人工染色体ベクターに、レポーター遺伝子又は目的の外来遺伝子もしくはDNAを挿入する手法としては、相同組換え法を好ましく使用できる。相同組換えは、マウス染色体上の挿入位置の5’側領域及び3’側領域の塩基配列(各々約1〜6kb、好ましくは約2〜4kb)と相同な両配列(5’arm及び3’arm)の間に、挿入すべきDNAカセットを連結して得られたターゲティングベクターを用いて行うことができる。この目的で使用されるベクターとしては、例えばプラスミド、ファージ、コスミド、ウイルスなどが挙げられ、好ましくはプラスミドである。ターゲティングベクター構築のための基本プラスミドの例は、V907又はV913(Lexicon Genetics)などであるが、これらに限定されない。基本ベクターには、プロモーター、エンハンサー、選択マーカー遺伝子、複製開始点などの、ベクター構築において一般的に挿入される1つ又は2つ以上の配列又はエレメントが含まれていてもよい。プロモーターの例は、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター、ニワトリベータアクチン(CAG)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、エロンゲーションファクター1α(EF1α)プロモーターなどを含むことができる。
【0066】
上記の手法で作製されたマウス人工染色体ベクターは、マウス由来の染色体断片(これには、天然型セントロメア、少なくとも99%、好ましくは少なくとも99.5%、の内在遺伝子が削除された長腕断片、及び(存在する場合の)短腕が含まれる。)と、人工テロメア配列とを含む。また、上記セントロメアは、人工染色体の作製のために利用されたマウスの染色体のセントロメア構造の全体である。
【0067】
本発明のマウス人工染色体ベクターの例は、後述の実施例で作製されたマウス人工染色体ベクターであり、この人工染色体は、マウス10番染色体において長腕遠位を遺伝子Gm8155の上流領域において削除して得られたベクター、及びマウス16番染色体において長腕遠位を遺伝子Gm35974の上流領域において削除して得られたベクターである。これらのベクターは、寄託細胞株DT40(10MAC)T5−26(受託番号:NITE BP−02656)又は寄託細胞株DT40(16MAC)T1−14(受託番号:NITE BP−02657)に含まれるマウス人工染色体を基本構造として含む。基本構造であることから、このDNA構造中に以下のようなDNA配列挿入部位、選択マーカー遺伝子、外来遺伝子(又は、DNA)などを挿入することができる。
【0068】
上記マウス人工染色体ベクターは、好ましくは、1つ又は複数のDNA配列挿入部位、例えば部位特異的組換え酵素の認識部位(例えばCre酵素認識部位であるloxP配列)を含むことができる。ここで、部位特異的組換え酵素の認識部位は、例えばGFP−PGKneo−loxP−3’HPRTタイプのloxP配列であるか、或いは、5’HPRT−loxP−hygタイプであるか、或いはPGKneo−loxP−3’HPRTタイプのloxP配列或いはGFP−5’HPRT−loxP−PGKhygタイプのloxP配列であるが、これらに限定されない。ここで、GFPは、緑色蛍光タンパク質遺伝子であり、PGKneoは、ホスホグリセリン酸キナーゼプロモーター/ネオマイシン耐性遺伝子カセットであり、HPRTは、ヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子であり、hygはハイグロマイシン耐性遺伝子である。
【0069】
上記マウス人工染色体ベクターにはさらに、レポーター遺伝子、選択マーカー遺伝子(ポジティブ選択マーカー遺伝子、ネガティブ選択マーカー遺伝子など)を含むことができる。
上記マウス人工染色体ベクターにはさらに、外来遺伝子又はDNA配列を含んでもよい。
【0070】
外来遺伝子又はDNAは、限定されないが、ヒト遺伝子又はDNAなどを含み、このなかには例えばヒト染色体長腕又は短腕の遺伝子もしくは遺伝子座のDNAなどが含まれる(下記(2)参照)。
【0071】
本発明のマウス人工染色体ベクターの利点としては従来の人工染色体ベクターの利点である、1)宿主染色体に挿入されず独立して維持されることから、宿主遺伝子を破壊しない、2)一定のコピー数(複数(多)コピー可能)で安定に保持され、宿主細胞の生理的発現制御を受けることから、挿入された遺伝子の過剰発現や発現消失が起きない、3)導入可能なDNAサイズに制約がないことから、発現調節領域を含む遺伝子や複数遺伝子/アイソフォームの導入が可能となることに加え、齧歯類細胞或いは齧歯類個体中における保持率が向上すること、導入遺伝子の長期間における安定発現を実現し、かつ子孫伝達率が向上することで遺伝子導入マウスの作製効率が向上する、4)ベクター導入後の組織間のばらつきが少なく、すなわち保持率は約90%以上である、などの利点が挙げられる。
【0072】
(2)外来遺伝子又はDNAの導入
本発明のマウス人工染色体ベクターには、外来遺伝子又はDNAを導入することができる。
外来遺伝子又はDNA配列のサイズは、特に制限されず、20kb以下であってもよいし、或いは20kbを超えてもよく、例えば50kb以上、100kb以上、200kb以上、500kb以上、700kb以上、1Mb以上、10Mb以上、20Mb以上、30Mb以上、40Mb以上、又は50Mb以上である。本発明のベクターは、BAC、PAC、YACなどの人工染色体ベクターでは困難なサイズ、すなわち1Mb以上の外来DNA(染色体断片)を搭載可能である。そのうえ、本発明のベクターは、そのように200kb以上、例えば1Mb以上、の大サイズの外来遺伝子又はDNAを安定にかつ高い保持率で齧歯類の細胞内、組織内又は個体内、に含むことを可能にする。
【0073】
本発明の実施形態の一つとして、本発明は、200kb以上の巨大なサイズの外来遺伝子又はDNAを齧歯類の細胞、組織又は個体で90%以上の保持率で安定に維持させることが可能なベクター、並びに、該ベクターを作製する方法を提供する。
【0074】
外来遺伝子又はDNAは、マウス、ラットなどの齧歯類以外の生物種由来の核酸であり、特に限定されるものではなく、任意の生物種由来の或いは任意の組織又は細胞由来の遺伝子又はDNAであり、好ましくは哺乳動物由来の遺伝子又はDNA、より好ましくはヒト由来の遺伝子又はDNAである。そのような遺伝子又はDNAには、サイトカイン類、ホルモン類、成長因子類、栄養因子類、造血因子類、免疫グロブリン類、G蛋白質共役型受容体類、酵素類などのポリペプチド類をコードする遺伝子又はDNA、その他、腫瘍、筋ジストロフィー、血友病、神経変性疾患(例えばアルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、等)、自己免疫疾患、アレルギー性疾患、遺伝性疾患、感染症、閉塞性動脈硬化症、膿疱性線維症、ADA(アデノシン・デアミナーゼ)欠損症などを含む種々の疾患に関連する治療用遺伝子又はDNA、T細胞受容体(TCR)、ヒト白血球抗原(HLA)などの免疫系遺伝子又はDNA、(ヒト)薬物代謝酵素の遺伝子(群)又はDNAや(ヒト)薬物代謝関連遺伝子又はDNA、ヒト染色体の長腕又は短腕のDNA、(ヒト)ゲノムライブラリーなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0075】
サイトカイン類には、例えば、インターフェロン類(例えばIF−α,IF−β,IF−γ等)、インターロイキン類(例えばIL−1,IL−2,IL−4,IL−6,IL−11,IL−12等)、腫瘍壊死因子(例えばTNF−α,TNF−β)、TGF−βファミリータンパク質(例えば骨形成促進タンパク質(BMP)、等)などが含まれる。
【0076】
ホルモン類には、例えば、成長ホルモン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、ヒト胎盤性ラクトゲン(hPL)、ヒト下垂体性性腺刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、黄体形成ホルモン放出因子、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、プロラクチンなどが含まれる。
【0077】
成長因子類又は栄養因子類には、例えば、インスリン様増殖因子、脳由来神経栄養因子(BDNF)、アルブミン融合絨毛様神経栄養因子、血小板由来神経栄養因子(PDNF)、形質転換成長因子、神経成長因子(NGF)、TNF成長因子などが含まれる。
【0078】
血液凝固・溶解因子類には、例えば、第VII因子、第VIII因子、第X因子、t−PAなどが含まれる。
【0079】
造血因子類には、例えば、エリスロポエチン、(顆粒球)コロニー形成刺激因子、トロンボポエチンなどが含まれる。
【0080】
G蛋白質共役型受容体類には、アドレナリン受容体、ムスカリン性アセチルコリン受容体、アデノシン受容体、GABA受容体(B型)、アンギオテンシン受容体、コレシストキニン受容体、ドーパミン受容体、グルカゴン受容体、ヒスタミン受容体、嗅覚受容体、オピオイド受容体、セクレチン受容体、ソマトスタチン受容体、ガストリンの受容体、P2Y受容体などが含まれる。
【0081】
酵素類には、例えば、アスパラギナーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、ウリカーゼ、ストレプトキナーゼ、ドーパミン合成酵素、アデノシン・デアミナーゼなどが含まれる。
【0082】
腫瘍、筋ジストロフィー、神経変性疾患(例えばアルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、等)、自己免疫疾患、アレルギー性疾患、遺伝性疾患などを含む種々の疾患に関連する治療用遺伝子には、例えばジストロフィン遺伝子、IL−12遺伝子、TNF−α遺伝子、腫瘍抑制遺伝子、ドーパミン合成系酵素遺伝子、遺伝性欠損酵素の遺伝子類(例えば副腎酵素(例えばチトクロム酵素(P450)、3β−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ、21ヒドロキシラーゼ(P450 c21)、等)の遺伝子、等)などが含まれる。
【0083】
免疫系遺伝子には、T細胞受容体(TCR)、ヒト白血球抗原(HLA)、Fcγ受容体(FCGR)、キラー細胞Ig様受容体(killer cell Ig−like receptor(KIR))、白血球Ig様受容体(leukocyte Ig−like receptor(LILR))などの免疫系に関与するタンパク質をコードする遺伝子又はDNAなどが含まれる。
【0084】
薬物代謝酵素は、薬や毒物などの異物を分解・排出するための代謝反応に関わる酵素であり、第一相反応(酸化、還元、加水分解)に関わる酵素及び第二相反応(抱合)に関わる酵素を含む。第一相反応に関わる酵素には、例えばチトクロムP450(「CYP」)などの公知の酵素、具体的にはCYP1A、CYP1B、CYP2A、CYP2B、CYP2C、CYP2D、CYP2E、CYP2J、CYP3A、CYP4A、CYP4B及びそれらのサブファミリー、並びにCES、などが含まれる。CYPサブファミリーとしては、例えばCYP3AのサブファミリーにはCYP3A4,CYP3A43,CYP3A5,CYP3A7などが含まれるし、また、CYP2CのサブファミリーにはCYP2C8,CYP2C9,CYP2C18,CYP2C19などが含まれる。一方、第二相反応(抱合)に関わる酵素には、例えばUGT1及びUGT2などが含まれる。
【0085】
薬物代謝関連遺伝子には、例えばトランスポーターをコードする遺伝子、核内受容体をコードする遺伝子などが含まれる。トランスポーターをコードする遺伝子の例は、MDR1,MDR2,MRP2,OAT,OATP,OCT,BCRPなどであり、核内受容体をコードする遺伝子の例は、PXR,AhR,CAR,PPARαなどである。
【0086】
このように、本発明のベクターに導入可能な、薬物代謝に関係する外来DNA配列は、第一相反応に関わる酵素をコードする遺伝子、第二相に関わる酵素をコードする遺伝子、トランスポーターをコードする遺伝子及び核内受容体をコードする遺伝子からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子の配列、或いは、少なくとも2つの遺伝子の配列を含むことができる。
【0087】
免疫グロブリン類をコードする遺伝子又はDNAは、好ましくはヒト抗体遺伝子もしくは遺伝子座であり、具体的にはヒト免疫グロブリン重鎖遺伝子もしくは遺伝子座、ヒト免疫グロブリン軽鎖遺伝子もしくは遺伝子座、又はその重鎖及び軽鎖遺伝子もしくは遺伝子座の両方のDNAである。該軽鎖遺伝子もしくは遺伝子座は、λ軽鎖遺伝子もしくは遺伝子座及び/又はκ軽鎖遺伝子もしくは遺伝子座である。
【0088】
本明細書中で使用する「ヒト抗体遺伝子もしくは遺伝子座」は、特に断らない限り、ヒト14番染色体由来のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座、ヒト2番染色体由来のヒト抗体軽鎖κ遺伝子もしくは遺伝子座、及び/又はヒト22番染色体由来のヒト抗体軽鎖λ遺伝子もしくは遺伝子座を指す。具体的には、ヒト抗体遺伝子もしくは遺伝子座は、例えばヒト14番染色体のimmunoglobulin heavy locus(human)NC_000014.9((塩基番号105586437..106879844)あるいは(塩基番号105264221..107043718))、ヒト2番染色体のimmunoglobulin kappa locus(human)NC_000002.12((塩基番号88857361..90235368)あるいは(塩基番号88560086..90265666))、及びヒト22番染色体のimmunoglobulin lambda locus(human)NC_000022.11((塩基番号22026076..22922913)あるいは(塩基番号21620362..23823654))に記載される塩基配列によって表される。ヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座は、約1.3Mbの塩基長であり、ヒト抗体軽鎖κ遺伝子もしくは遺伝子座は、約1.4Mbの塩基長であり、ヒト抗体軽鎖λ遺伝子もしくは遺伝子座は、約0.9Mbの塩基長である。
【0089】
因みに、マウスの抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座は、マウス第12番染色体上にあり、マウスの抗体軽鎖κ遺伝子もしくは遺伝子座は、マウス第6番染色体上にあり、マウス抗体軽鎖λ遺伝子もしくは遺伝子座は、マウス第16番染色体上にある。具体的には、マウス抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座は、例えばChromosome 12,NC_000078.6(113258768..116009954,complement)、マウス抗体軽鎖κ遺伝子もしくは遺伝子座は、Chromosome 6,NC_000072.6(67555636..70726754)、マウス抗体軽鎖λ遺伝子もしくは遺伝子座は、Chromosome 16,NC_000082.6(19026858..19260844,complement)に記載される塩基配列によって表される。
【0090】
また、ラットの抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座は、ラット第6番染色体上にあり、ラットの抗体軽鎖κ遺伝子もしくは遺伝子座は、ラット第4番染色体上にあり、ラット抗体軽鎖λ遺伝子もしくは遺伝子座は、ラット第11番染色体上にある。同様に、これらの遺伝子もしくは遺伝子座の塩基配列は、米国NCBI(GenBank等)、公知文献などから入手可能である。
【0091】
本発明において上記のヒト抗体遺伝子を含む上記のマウス人工染色体ベクターは、ヒト14番染色体由来のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座とヒト2番染色体由来のヒト抗体軽鎖κ遺伝子もしくは遺伝子座を含むマウス人工染色体ベクター、あるいは、ヒト14番染色体由来のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座とヒト22番染色体由来のヒト抗体軽鎖λ遺伝子もしくは遺伝子座を含むマウス人工染色体ベクター、あるいは、ヒト14番染色体由来のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座、ヒト2番染色体由来のヒト抗体軽鎖κ遺伝子もしくは遺伝子座、及びヒト22番染色体由来のヒト抗体軽鎖λ遺伝子もしくは遺伝子座のすべてを含むマウス人工染色体ベクターである。これらのベクターは、本明細書に記載の染色体工学技術を用いることによって作製可能である。
【0092】
本発明の非ヒト動物は、上記のヒト14番染色体由来のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座とヒト2番染色体由来のヒト抗体軽鎖κ遺伝子もしくは遺伝子座を含むマウス人工染色体ベクター及びヒト14番染色体由来のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座とヒト22番染色体由来のヒト抗体軽鎖λ遺伝子もしくは遺伝子座を含むマウス人工染色体ベクターを含む動物、あるいは、ヒト14番染色体由来のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座、ヒト2番染色体由来のヒト抗体軽鎖κ遺伝子もしくは遺伝子座、及びヒト22番染色体由来のヒト抗体軽鎖λ遺伝子もしくは遺伝子座を含むマウス人工染色体ベクターを含む動物である。これによって上記の非ヒト動物は、抗原物質を投与されたとき、その物質に対するヒト抗体を産生することが可能になる。
【0093】
本明細書におけるヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン(Ig)のいずれのクラス及びサブクラスでもよい。そのようなクラスには、IgG、IgA、IgM、IgD及びIgEが含まれ、サブクラスには、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2が含まれる。これらのクラス及びサブクラスは、重鎖の違いによって分けることが可能であり、IgG鎖は、γ鎖と称し、IgG1〜IgG4に対応してγ1、γ2、γ3及びγ4鎖と称し、IgA、IgM、IgD、IgEはそれぞれα鎖(α1及びα2)、μ鎖、δ鎖、ε鎖と称する。いずれの抗体の軽鎖にもκ鎖とλ鎖があり、免疫グロブリン遺伝子の再配列の過程でκ鎖遺伝子の再構成が不成功に終わるとλ鎖遺伝子の再構成が起こることが知られている。また、ヒト抗体重鎖遺伝子座は、5'から3'に向けて、VH1,VH2,....,VHm(ここで、mは、例えば38〜46である。)を含むV(variable)領域遺伝子、DH1,DH2..DHn(ここで、nは、例えば23である。)を含むD(diversity)領域遺伝子、JH1,JH2..JHr(ここで、rは6である。)を含むJ(joining)領域遺伝子、Cμ,Cδ,Cγ3,Cγ1,Cα1,Cγ2,Cγ4,Cε,Cα2を含むC(constant)領域遺伝子を含む。免疫システムにおいて上記のヒト免疫グロブリン遺伝子の再配列を介して産生される抗体が、ヒト抗体である。
【0094】
ヒト抗体分子は、2本のヒト抗体重鎖と2本のヒト抗体軽鎖からなり、各重鎖と各軽鎖は2つのジスルフィド結合によって結合されており、並びに、2本の重鎖は定常(C)領域で2つのジスルフィド結合によって結合された構造を有する。また、抗体分子の可変(V)領域には、とりわけ変異の大きい部分が3か所あり、相補性決定領域(complementarity−determining region(CDR))と呼ばれており、N末端側からCDR1、CDR2及びCDR3という。このCDR領域の配列の違いにより抗体の抗原に対する結合特性が変化する。免疫グロブリン遺伝子の再構成によって抗体の多様性が生じることが知られている。
【0095】
本発明のマウス人工染色体ベクターにおける外来遺伝子又は外来DNAの挿入部位の近傍又は挿入部位の両側には、少なくとも1つのインスレーター配列を存在させることができる。インスレーター配列は、エンハンサーブロッキング効果(すなわち、隣り合う遺伝子が互いに影響を受けない)又は染色体バウンダリー効果(遺伝子発現を保証する領域と遺伝子発現が抑制される領域を隔て区別する)を有する。このような配列には、例えばヒトβグロビンHS1〜HS5、ニワトリβグロビンHS4などが包含される。
【0096】
外来遺伝子又はDNAの導入は、上記のDNA配列挿入部位として挿入されている、上で例示されるような部位特異的組換え酵素の系を利用して行うことができる。例えば、Cre酵素の認識部位であるloxP配列と外来遺伝子又はDNAを含むターゲティングベクター或いは、Cre酵素の認識部位であるloxP配列を挿入した外来遺伝子又はDNAを含む染色体断片を構築し、本発明のマウス人工染色体ベクターを含む細胞内でCre酵素を発現させることにより、loxP配列において該ターゲティングベクター或いは該染色体断片との部位特異的組換えにより、外来遺伝子又はDNAを導入できる。
【0097】
本発明のマウス人工染色体ベクターには、部位特異的組換え酵素の認識部位(例えばloxP配列、FRT配列など)を含む環状DNAを挿入することもでき、大腸菌を宿主としたプラスミドや、酵母を宿主とした環状YAC等の既存のベクターによりクローン化されたDNAも挿入できる。好適なloxP配列はP1ファージに由来する野生の配列であり、Cre酵素による人工染色体ベクター上のloxP配列への環状インサートの挿入反応は可逆的である。一旦環状インサートが挿入されると、人工染色体ベクター上に2つのloxP配列が残る。このため再度Cre酵素を発現させると環状インサートを切り出す逆反応が起きる可能性もあり、二次的にインサートを挿入するようなさらなる人工染色体ベクターの改変が困難となる。しかし、塩基置換を行った変異loxP配列やφC31インテグレースの認識部位であるattB/attP配列の組み合わせ等によっては、逆反応を起こさず、複数の環状インサートを逐次挿入する系も構築できる。
【0098】
(3)マウス人工染色体ベクターの細胞への移入及び非ヒト動物の作出
本発明のマウス人工染色体ベクター、或いは、外来遺伝子若しくはDNAを含む本発明のマウス人工染色体ベクターは、任意の細胞に移入又は導入することができる。そのための手法には、例えば、微小核細胞融合法、リポフェクション、リン酸カルシウム法、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションなどが含まれるが、好ましい手法は微小核細胞融合法である。
【0099】
微小核細胞融合法は、本発明のマウス人工染色体ベクターを含有する微小核形成能を有する細胞(例えばマウスA9細胞)と、他の所望の細胞との微小核融合によって該ベクターを該他の細胞に移入する方法である。微小核形成能を有する細胞は、倍数体誘発剤(例えばコルセミド、コルヒチンなど)で処理して微小核多核細胞を形成し、サイトカラシン処理により微小核体を形成する処理を行ったのちに、所望の細胞との細胞融合を行う。
【0100】
上記のベクター導入可能な細胞は、動物細胞、好ましくはヒト細胞を含む哺乳動物細胞、例えば卵母細胞、精子細胞などの生殖系列細胞、胚性幹(ES)細胞、精子幹(GS)細胞、体性幹細胞などの幹細胞、体細胞、胎児細胞、成体細胞、正常細胞、疾患細胞、初代培養細胞、継代細胞又は株化細胞など、を包含する。幹細胞には、例えばES細胞、胚性生殖(EG)細胞、胚性癌腫(EC)細胞、mGS細胞、ヒト間葉系幹細胞などの多能性幹細胞、人工多能性幹(iPS)細胞、核移植クローン胚由来胚性幹(ntES)細胞などが含まれる。好ましい細胞は、哺乳動物(好ましくは、マウスを含む齧歯類)由来の体細胞、非ヒト生殖系列細胞、幹細胞及び前駆細胞からなる群から選択される。細胞が齧歯類などの哺乳類由来の細胞である場合、本発明のベクターが導入された哺乳類(例えばマウスなどの齧歯類)の細胞又は組織において、ベクターがより安定に保持される、すなわち細胞からのベクターの脱落が有意に低下する、又は脱落が起こらない。
【0101】
細胞は、例えば、肝細胞、腸細胞、腎細胞、脾細胞、肺細胞、心臓細胞、骨格筋細胞、脳細胞、骨髄細胞、リンパ球細胞、巨核球細胞、精子、卵子などである。
組織は、例えば肝臓、腸、腎臓、胸腺、脾臓、肺、心臓、筋肉(例えば骨格筋)、脳、骨髄、精巣、卵巣などの組織である。
ES細胞は、対象動物の受精卵の胚盤胞から内部細胞塊を取出し、マイトマイシンC処理マウス胎仔線維芽細胞をフィーダーにして樹立し維持することができる(M.J.EvansとM.H.Kaufman(1981)Nature 292:154−156)。
【0102】
iPS細胞は、体細胞(体性幹細胞を含む)に、ある特定の再プログラム化因子(DNA又はタンパク質)を導入し、適当な培地にて培養、継代培養することによって約3〜5週間でコロニーを生成する。再プログラム化因子は、例えばOct3/4、Sox2、Klf4及びc−Mycからなる組み合わせ;Oct3/4、Sox2及びKlf4からなる組み合わせ;Oct4、Sox2、Nanog及びLin28からなる組み合わせ;或いは、Oct3/4、Sox2、Klf4、c−Myc、Nanog及びLin28からなる組み合わせなどが知られている(K.Takahashi and S.Yamanaka,Cell 126:663−676(2006);WO 2007/069666;M.Nakagawa et al.,Nat.Biotechnol.26:101−106(2008);K.Takahashi et al.,Cell 131:861−872(2007);J.Yu et al.,Science 318:1917−1920(2007);J.Liao et al.,Cell Res.18,600−603(2008))。培養例は、マイトマイシンC処理したマウス胎仔線維芽細胞株(例えばSTO)をフィーダー細胞とし、このフィーダー細胞層上でES細胞用培地を用いて、ベクター導入体細胞(約10〜10細胞/cm)を約37℃の温度で培養することを含む。フィーダー細胞は必ずしも必要ではない(Takahashi,K.et al.,Cell 131:861−872(2007))。基本培地は、例えばダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ハムF−12培地、それらの混合培地などであり、ES細胞用培地は、マウスES細胞用培地、霊長類ES細胞用培地(リプロセル社)などを使用することができる。
【0103】
ES細胞及びiPS細胞は、生殖系列に寄与することが知られているので、目的の遺伝子又はDNAを含む本発明のマウス人工染色体ベクターを導入したこれらの細胞を、該細胞が由来する同種の哺乳動物の胚の胚盤胞に注入し、この胚を仮親の子宮に移植し、出産させることを含む手法によって、非ヒト動物(又は、トランスジェニック動物(ヒトを除く))を作出することができる。さらにまた、得られた雌雄のトランスジェニック動物を交配することによって、ホモ接合性動物、さらにその子孫動物を作出することができる。
【0104】
本発明のマウス人工染色体ベクターを介してES細胞やiPS細胞などの分化多能性細胞、その他の上記細胞類に、ヒト抗体遺伝子、疾患治療用遺伝子、薬物代謝関連遺伝子などの外来の遺伝子若しくはDNAを導入することによって、ヒト抗体を産生可能にする細胞や非ヒト動物を作製することができるし、また、治療用タンパク質を産生可能にする細胞を作製することができるし、さらにまた、薬物代謝関連疾患などの疾患モデル非ヒト動物を作製することができる。
【0105】
そのような非ヒト動物では、マウス人工染色体ベクターに含まれる外来遺伝子に対応する内在遺伝子が破壊されている又は内在遺伝子の発現が低下していることが好ましい場合もある。破壊の方法には、ジーンターゲティング法を使用することができる。内在遺伝子の発現の低下法には、RNAi法やmiRNA法などを用いることができる。例えば、そのような外来遺伝子の例には、薬物代謝関連遺伝子、ヒト抗体遺伝子などが挙げられる。内在遺伝子が破壊された非ヒト動物は、外来遺伝子を含むマウス人工染色体ベクターを含むキメラ非ヒト動物若しくはその子孫と、対応する内在遺伝子をクラスターごと欠失させたキメラ動物若しくは子孫とを交配させて得られた該内在遺伝子がヘテロに欠失した動物同士をさらに交配させることによって作出することができる。
【0106】
上記の手法によって、マウス人工染色体ベクターを含む細胞又はトランスジェニック非ヒト動物を作製することができる。具体的な非ヒト動物の例は、マウス人工染色体ベクターを含む、マウスやラットなどの齧歯類である。
【0107】
すなわち、本発明は、マウス人工染色体ベクターを含むことを特徴とする、細胞又は非ヒト動物を提供する。
【0108】
さらにまた、本発明の非ヒト動物から得られる細胞、組織又は器官は、それらから、外来遺伝子によって発現されたタンパク質を産生する細胞株を作製するために使用することも可能である。
【0109】
(4)ヒト抗体産生非ヒト動物
本発明の非ヒト動物は、上記のとおり、ヒト14番染色体由来のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座とヒト2番染色体由来のヒト抗体軽鎖κ遺伝子もしくは遺伝子座を含むマウス人工染色体ベクター、ヒト14番染色体由来のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座とヒト22番染色体由来のヒト抗体軽鎖λ遺伝子もしくは遺伝子座を含むマウス人工染色体ベクターを含む動物、あるいは、ヒト14番染色体由来のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座、ヒト2番染色体由来のヒト抗体軽鎖κ遺伝子もしくは遺伝子座、及びヒト22番染色体由来のヒト抗体軽鎖λ遺伝子もしくは遺伝子座を含むマウス人工染色体ベクターを含む動物である。
【0110】
具体的には、例えば図17図21に示された手順によって、ヒト抗体を産生可能な本発明の非ヒト動物(マウス及びラット)を作製することができる。
以下において、マウス人工染色体を利用する非ヒト動物の作製例について説明する。
【0111】
部位特異的組換え酵素の認識部位(例えばloxP及びFRT)を導入して改変された、ヒト2番染色体由来のヒト抗体軽鎖κ遺伝子もしくは遺伝子座を含む動物細胞(例えばDT40)、及びヒト22番染色体由来のヒト抗体軽鎖λ遺伝子もしくは遺伝子座を含む動物細胞(例えばDT40)のそれぞれを、細胞融合法によりマウス人工染色体(MAC)を含む齧歯類細胞(例えばCHO)に移入したのち、部位特異的組換え酵素(例えばCre)発現を誘導することにより、ヒト抗体軽鎖κ遺伝子もしくは遺伝子座を含むMACを含む齧歯類細胞、並びにヒト抗体軽鎖λ遺伝子もしくは遺伝子座を含むMACを含む齧歯類細胞を作製する。
【0112】
動物細胞(例えばDT40)に保持されるヒト14番染色体上のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座の近傍に部位特異的組換え酵素の認識部位(例えばFRT)を導入したのち、改変されたヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座を含む動物細胞を、細胞融合法によりMACを含む齧歯類細胞(例えばCHO)に移入して、ヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座を含むMACを含む齧歯類細胞を作製する。
【0113】
上記のヒト抗体軽鎖κ遺伝子もしくは遺伝子座を含むMACを含む齧歯類細胞、及びヒト抗体軽鎖λ遺伝子もしくは遺伝子座を含むMACを含む齧歯類細胞のそれぞれと、上記のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座を含む齧歯類細胞とを融合することによって、ヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座を含む齧歯類細胞内に、ヒト抗体軽鎖κ遺伝子もしくは遺伝子座を含むMAC、又はヒト抗体軽鎖λ遺伝子もしくは遺伝子座を含むMACを移入したのち、部位特異的組換え酵素(例えばFLP)発現を誘導することにより、ヒト14番染色体由来のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座とヒト2番染色体由来のヒト抗体軽鎖κ遺伝子もしくは遺伝子座を含むMACを含む齧歯類細胞、並びにヒト14番染色体由来のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座とヒト22番染色体由来のヒト抗体軽鎖λ遺伝子もしくは遺伝子座を含むMACを含む齧歯類細胞のそれぞれを作製する。
【0114】
上記のヒト14番染色体由来のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座とヒト2番染色体由来のヒト抗体軽鎖κ遺伝子もしくは遺伝子座を含むMACを含む齧歯類細胞、並びにヒト14番染色体由来のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座とヒト22番染色体由来のヒト抗体軽鎖λ遺伝子もしくは遺伝子座を含むMACを含む齧歯類細胞のそれぞれを、微小核細胞融合法により、非ヒト動物(例えばマウス又はラット)分化多能性幹細胞(例えばES細胞又はiPS細胞)と融合して、ヒト14番染色体由来のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座とヒト2番染色体由来のヒト抗体軽鎖κ遺伝子もしくは遺伝子座を含むMACを含む非ヒト動物分化多能性幹細胞、並びにヒト14番染色体由来のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座とヒト22番染色体由来のヒト抗体軽鎖λ遺伝子もしくは遺伝子座を含むMACを含む非ヒト動物分化多能性幹細胞を作製する。
【0115】
上記のヒト14番染色体由来のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座とヒト2番染色体由来のヒト抗体軽鎖κ遺伝子もしくは遺伝子座を含むMACを含む非ヒト動物分化多能性幹細胞、並びにヒト14番染色体由来のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座とヒト22番染色体由来のヒト抗体軽鎖λ遺伝子もしくは遺伝子座を含むMACを含む非ヒト動物分化多能性幹細胞のそれぞれを、非ヒト動物の初期胚(例えば8細胞期胚又は胚盤胞期胚)に移植して、上記MACのそれぞれを含むキメラ動物を作製し、さらに子孫動物を作製する。さらに子孫動物同士の交配により上記MACのそれぞれを含む子孫動物を作製する。
【0116】
同様の手法を用いることによって、上記のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座、ヒト抗体軽鎖κ遺伝子もしくは遺伝子座、及びヒト抗体軽鎖λ遺伝子もしくは遺伝子座を含むマウス人工染色体ベクターを含む非ヒト動物を作製することができる。
【0117】
上記のヒト14番染色体由来のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座とヒト2番染色体由来のヒト抗体軽鎖κ遺伝子もしくは遺伝子座を含むMACを含む非ヒト動物、又は、ヒト14番染色体由来のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座とヒト22番染色体由来のヒト抗体軽鎖λ遺伝子もしくは遺伝子座を含むMACを含む非ヒト動物と、ヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座及びヒト抗体軽鎖κ及びλ遺伝子もしくは遺伝子座に対応する内在抗体遺伝子もしくは遺伝子座がノックアウトされた同種の非ヒト動物との間での交配を行い、ヒト14番染色体由来のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座とヒト2番染色体由来のヒト抗体軽鎖κ遺伝子もしくは遺伝子座を含むMACを含む、かつヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座及びヒト抗体軽鎖κ及びλ遺伝子もしくは遺伝子座に対応する内在抗体遺伝子もしくは遺伝子座がノックアウトされた非ヒト動物、あるいは、ヒト14番染色体由来のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座とヒト22番染色体由来のヒト抗体軽鎖λ遺伝子もしくは遺伝子座を含むMACを含む、かつヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座及びヒト抗体軽鎖κ及びλ遺伝子もしくは遺伝子座に対応する内在抗体遺伝子もしくは遺伝子座がノックアウトされた非ヒト動物を作製する。
【0118】
或いは、上記のヒト14番染色体由来のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座とヒト2番染色体由来のヒト抗体軽鎖κ遺伝子もしくは遺伝子座を含むMACを含む非ヒト動物、並びに、ヒト14番染色体由来のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座とヒト22番染色体由来のヒト抗体軽鎖λ遺伝子もしくは遺伝子座を含むMACを含む非ヒト動物と、ヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座及びヒト抗体軽鎖κ及びλ遺伝子もしくは遺伝子座に対応する内在抗体遺伝子もしくは遺伝子座がノックアウトされた同種の非ヒト動物との間での交配を行い、ヒト14番染色体由来のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座とヒト2番染色体由来のヒト抗体軽鎖κ遺伝子もしくは遺伝子座を含むMACを含む、並びに、ヒト14番染色体由来のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座とヒト22番染色体由来のヒト抗体軽鎖λ遺伝子もしくは遺伝子座を含むMACを含む、かつ対応するヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座及びヒト抗体軽鎖κ及びλ遺伝子もしくは遺伝子座に内在抗体遺伝子もしくは遺伝子座がノックアウトされた非ヒト動物を作製する。
【0119】
或いは、上記のヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座、ヒト抗体軽鎖κ遺伝子もしくは遺伝子座、及びヒト抗体軽鎖λ遺伝子もしくは遺伝子座を含むマウス人工染色体ベクターを含む非ヒト動物と、ヒト抗体重鎖遺伝子もしくは遺伝子座及びヒト抗体軽鎖κ及びλ遺伝子もしくは遺伝子座に対応する内在抗体遺伝子もしくは遺伝子座がノックアウトされた同種の非ヒト動物を交配し、MACを含み、かつ該動物の該内在抗体遺伝子もしくは遺伝子座がノックアウトされた、非ヒト動物を作製する。
【0120】
(5)有用なタンパク質の生産法
本発明はさらに、外来DNA配列を発現可能に含むマウス人工染色体ベクターを含む細胞を培養し、産生された該DNAによってコードされるタンパク質を回収することを含む、タンパク質の生産方法を提供する。
【0121】
タンパク質として、例えば上記の医療上、診断上、農業上などの産業上有用なタンパク質又はポリペプチド類が挙げられる。これらのタンパク質又はポリペプチド類をコードするDNAを、プロモーター(及び必要であれば、エンハンサー)の存在下で発現可能となるようにマウス人工染色体ベクターに挿入し、適当な細胞を形質転換若しくはトランスフェクションする。得られた細胞を培養し、該DNAを発現させて該タンパク質又はポリペプチドを産生させ、これを、細胞又は培地から回収する。
【0122】
細胞は、哺乳動物細胞の他に、Sf細胞などの昆虫細胞、鳥類細胞、酵母細胞、植物細胞などの真核細胞の使用も可能である。
【0123】
培地を含む培養条件は、細胞の種類に応じて選択され、培養条件として公知の条件を使用しうる。例えば、動物細胞の培地としては、MEM培地、DMEM培地、Ham’s F12培地、Eagle’s MEM培地、イスコフEME培地、RPMI1640培地、これらの混合培地などが含まれる。
【0124】
タンパク質又はポリペプチド類の回収(又は、単離)は、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、HPLC、FPLCなどのクロマトグラフィー法、塩析法、硫安沈殿法、有機溶媒沈殿法、限外ろ過法、結晶化などの公知の手段を単独で又は組み合わせて実施しうる。
【0125】
(6)ヒト抗体の製造法
本発明はさらに、ヒト抗体遺伝子を含むマウス人工染色体ベクターを含む上記(4)の非ヒト動物を用いてヒト抗体を産生し、該ヒト抗体を回収することを含む、ヒト抗体の製造方法を提供する。
【0126】
ヒト抗体遺伝子は、ヒトIgG,IgM,IgA,IgD,IgEのいずれかのクラス、或いは、ヒトIgG1,IgG2,IgG3,IgG4,IgA1,IgA2のいずれかのサブクラスをコードする遺伝子である。好ましいヒト抗体遺伝子は、IgGクラス及びそのサブクラスである。
【0127】
ヒト抗体は、2本の同一配列の重鎖(H)と2本の同一配列の軽鎖(L)から構成されており、H鎖もL鎖もともに、可変領域と定常領域から構成されている。ヒトH鎖及びL鎖の可変領域はともに、3つの超可変領域(N末端側からC末端側にCDR1,CDR2,CDR3の順番)と4つのフレームワーク領域(N末端側からC末端側にFR1,FR2,FR3,FR4の順番)からなり、ヒトH鎖及びL鎖のそれぞれ3つずつのCDR配列によって抗体の特異性が決まる。
【0128】
ヒトIgG抗体の場合、重鎖であるμ鎖と、軽鎖であるλ鎖若しくはκ鎖とによって構成されており、これらの抗体鎖遺伝子はそれぞれ、ヒト14番染色体、22番染色体、2番染色体上に存在する。本発明で使用するヒト抗体遺伝子としては、各抗体遺伝子座を含むヒト染色体断片を使用し、これらを異なる又は同一のマウス人工染色体に組み込む。抗体遺伝子配列は、NCBI(米国)のデータベースなどから入手可能である。この一連の手法は、例えば特開2005−230020号公報に記載される技術の改良である。
【0129】
完全ヒト抗体を生産可能な非ヒト動物は、ヒトμ鎖遺伝子座を含むマウス人工染色体ベクターを含む非ヒト動物と、ヒトλ鎖遺伝子座及び/又はヒトκ鎖遺伝子座を含むマウス人工染色体ベクターを含む同種の非ヒト動物とを交配することによって、両方のH鎖及びL鎖遺伝子座を保有するキメラ非ヒト動物及びその子孫動物を得ることが可能である。
【0130】
このようにして作製された完全ヒト抗体産生可能な非ヒト動物(例えばマウス、ラットなどの齧歯類)に、ある特定の抗原ペプチド若しくは抗原ポリペプチドを免疫し、該動物の血液からヒト抗体を分離することを含む方法により、ヒト抗体を生産することができる。
【0131】
或いは、ある特定の抗原で免疫した非ヒト動物の脾臓を摘出し、ミエローマ細胞と融合させ、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることも可能である。
【0132】
(7)治療物質のスクリーニング法
本発明はさらに、疾患モデル動物である上記非ヒト動物に候補薬剤を投与し、該薬剤の治療効果を評価することを含む、該疾患を治療するのに有効な物質をスクリーニングする方法を提供する。
【0133】
疾患モデル非ヒト動物は、ある種のタンパク質の欠損、変異などによる生物機能異常、薬物代謝異常、染色体異常などの異常を原因とする疾患を持つ人工的に作製された動物である。染色体異常をもつモデル非ヒト動物の例は、以下に限定されないが、ヒト18番又は21番染色体トリソミーをもつ動物である。
【0134】
このような非ヒト動物は、遺伝子又は染色体に上記のような異常を含む遺伝子又は染色体断片を作製し、これを本発明のマウス人工染色体ベクターに組み込み、ES細胞又はiPS細胞に導入し、受精卵の胚盤胞に注入し、この細胞を非ヒト動物の仮親の子宮に移植し、出産させることを含む方法によって作出することができる。
【0135】
上記のようにして作製された非ヒト動物に、候補薬剤を投与し、該薬剤の治療効果を評価することによって、該疾患を治療するのに有効な物質をスクリーニングすることができる。
【0136】
候補薬剤は、非限定的に、例えば、低分子化合物、高分子化合物、(糖)タンパク質、ペプチド、(リン又は糖)脂質、糖類、核酸類などである。
【0137】
(8)薬物又は食品の薬理作用、代謝又は毒性の試験方法
本発明の実施形態によれば、本発明はまた、ヒト薬物代謝関連遺伝子を含むマウス人工染色体ベクターを含む上記非ヒト動物或いは該動物由来の細胞、器官又は組織に、薬物又は食品を投与し、該薬物又は食品の薬理作用及び/又は代謝及び/又は毒性を測定することを含む、薬物又は食品の薬理作用及び/又は代謝及び/又は毒性の試験方法を提供する。
【0138】
本発明はまた、ヒト薬物代謝関連遺伝子を含むマウス人工染色体ベクターを含む上記非ヒト動物から得られたミクロソーム又はミクロソーム画分S9を、培養細胞若しくは細菌及び薬物若しくは/及び食品と共に培養し、薬物又は食品が該細胞又は細菌に及ぼす(悪)影響(例えば変異、等)を測定することを含む、薬物又は食品の毒性の試験方法を提供する。
【0139】
ヒト薬物代謝関連遺伝子は、上に例示したものである。また、非ヒト動物の作出方法も上に記載したものと同様である。
【0140】
ヒト薬物代謝関連遺伝子を有するマウス人工染色体ベクターを含む上記の非ヒト動物を用いる上記方法では、例えば、該動物の状態の観察、臓器や染色体に及ぼす影響の試験などによって、薬物又は食品の薬理作用、代謝又は毒性を判定することができる。
【0141】
本発明のもうひとつの方法では、該非ヒト動物から得られたミクロソーム若しくはミクロソーム画分S9(9000g画分であって加水分解、還元、酸化、結合などを触媒する多数の酵素を含む画分)を、培養細胞(特に、動物細胞、好ましくは哺乳類細胞)又は細菌(好ましくは、サルモネラ菌)と一緒に、薬物及び/又は食品の存在下で培養する。薬物又は食品の、細胞に対する毒性の検出は、エイムス試験又は小核試験によって行うことができる。エイムス試験では、サルモネラ菌の変異に基づいて毒性を判定する。小核試験では、細胞核の染色体の異常に基づいて毒性を判定する。これらの試験法はよく知られており、本発明の方法で使用しうる。
【実施例】
【0142】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0143】
[実施例1]マウス人工染色体ベクター構築を目的とした染色体改変のためのマウス染色体保持DT40細胞の作製
マウス人工染色体ベクター構築のため、微小核形成率の高いマウスA9細胞を介して、相同組換え頻度の高いニワトリDT40細胞へマウス染色体を移入する。
【0144】
[A]A9細胞とマウス繊維芽細胞(Bsd;mChr−Neo)のハイブリッド細胞樹立
薬剤耐性遺伝子(neo耐性遺伝子)で標識されたマウス10番染色体及び16番染色体を含有するマウス繊維芽細胞であるmouse embryonic fibroblast(mChr10−Neo、mChr16−Neo)と公知のマウスA9細胞にブラストサイジンS耐性遺伝子であるBsd遺伝子を挿入したmouse A9(Bsd)とを細胞融合し、薬剤耐性遺伝子で標識されたマウス染色体を保持するマウスA9雑種細胞であるmouse A9xmouse embryonic fibroblast hybrid(Bsd;mChr10−Neo及びBsd;mChr16−Neo)を樹立する(図1)。薬剤耐性遺伝子で標識されたマウス染色体を微小核細胞融合法により相同組換頻度の高いニワトリDT40細胞へ導入するために、微小核形成率が高いことが知られているマウスA9細胞に薬剤耐性遺伝子で標識されたマウス染色体を細胞融合によって導入する。
【0145】
[A.1]細胞融合及び二重薬剤耐性クローンの単離
G418耐性遺伝子であるneo遺伝子をマウス染色体上に挿入したマウス繊維芽細胞であるmouse embryonic fibroblast(mChr10−Neo及びmChr16−Neo)と、ブラストサイジンS耐性遺伝子であるBsd遺伝子が挿入されているマウスA9細胞であるmouse A9(bsd)をそれぞれPBS(−)で細胞表面を洗浄後、トリプシン添加によって細胞を分散し、培養液(10%FBS、DMEM)に懸濁し、それぞれの細胞1x10個を培養用フラスコ(25cm)に同時に植え込み、一日間培養する。PBS(−)で細胞表面を2回洗浄した後に3mlのPEG(1:1.4)溶液[5g,PEG1000,cat:165−09085,wakoを無血清DMEM6mlに溶解させ、ジメチルスルホキシド1mlを加えて濾過滅菌する]で1分間処理し、さらに3mlのPEG(1:3)溶液[5g,PEG1000,cat:165−09085,wakoを無血清DMEM15mlに溶解させて濾過滅菌する]に換えて1分間処理した。PEG溶液を吸引後、無血清DMEMで3回洗浄し、通常の培養液(10%FBS、DMEM)で一日間培養した。PBS(−)で細胞表面を洗浄後、トリプシン添加によって細胞を分散し、G418及びブラストサイジンSを含む二重選択培養液(10%FBS、DMEM)に懸濁した細胞をプラスチック培養皿に植え込み、2〜3週間選択培養した。mChr10−Neoでは4回の細胞融合で得た各合計9個の耐性コロニーを単離し増殖させ、mChr16−Neoでは4回の細胞融合で得た各合計10個の耐性コロニーを単離し増殖させ、ランダムに選択したクローンを以降に用いた(クローン名:mouse A9xmouse embryonic fibroblast hybrid(bsd;mChr10−neo及びbsd;mChr16−neo))。
【0146】
[B]薬剤耐性遺伝子で標識されたマウス染色体のDT40細胞への導入
薬剤耐性遺伝子で標識されたマウス染色体を含有するマウスA9雑種細胞であるmouse A9xmouse embryonic fibroblast hybrid(bsd;mChr10−neo及びbsd;mChr16−neo)から薬剤耐性遺伝子で標識されたマウス染色体をニワトリ由来であるDT40細胞へ導入する(図2)。人工テロメア(TTAGGG)n配列(サイズ:約1kb)の挿入による染色体部位特異的切断であるテロメアトランケーション、及び相同組換によりマウス染色体にDNA配列挿入部位であるloxP配列の挿入を効率的に行うために、薬剤耐性遺伝子で標識されたマウス染色体を微小核細胞融合法により相同組換頻度の高いDT40細胞へ導入する。
【0147】
[B.1]微小核細胞融合及び薬剤耐性クローンの単離
染色体改変を効率的に行うために、マウス染色体をA9雑種細胞クローンであるA9xmouse embryonic fibroblast hybrid(bsd;mChr10−neo及びbsd;mChr16−neo)から相同組換え頻度の高いニワトリ由来細胞であるDT40へ移入した。フラスコ×24で培養していたドナー細胞であるA9xmouse embryonic fibroblast hybrid(bsd;mChr10−neo及びbsd;mChr16−neo)がそれぞれのフラスコにおいて70%コンフルエントになった時点で、コルセミド処理(コルセミド0.05μg/ml、20%FCS、DMEM)を37℃、5%COの条件下にて48時間行った。コルセミド処理が終了したら、フラスコ内のmediumをアスピレートし、そのフラスコの9分目までをサイトカラシンBで満たした。フラスコを大型高速遠心機(BECKMAN)専用の容器に挿入し、温湯(34℃)をフラスコが隠れない程度に加え、遠心(Rortor ID10.500、8,000rpm、1h、34℃)をした。遠心終了後、サイトカラシンBを回収し、各フラスコ内のペレットを、それぞれ2mlの無血清培地DMEMにて15mlチューブに回収した。8μm→5μm→3μmフィルターの順にゆっくりとフィルトレーションした後、それぞれのチューブを遠心(2000rpm、5分、R.T)し、上清をアスピレートした後、各チューブのペレットをまとめて5mlの無血清培地DMEMに回収、懸濁し、遠心(2000rpm、5分)をした。
【0148】
レシピエント細胞であるDT40細胞は浮遊細胞であるため、一度付着状態にする必要がある。DT40を6穴プレート(Nunc)のうちの1穴に付着させるために50μg/mlに調整したポリ−L−リジン(SIGMA)1.5mlで1穴を37℃、オーバーナイトでインキュベートすることでコーティングした。ポリ−L−リジンを回収し、プレートをPBS(−)で洗浄し、約1x10個のDT40細胞を2mlの無血清培養液(DMEM)でプレートに静かに播種した。プレートごと遠心機(Beckman)にセットし、37℃、1200rpm、3分間遠心して付着DT40にした。
【0149】
精製した微小核細胞をPHA−P(SIGMA)を含む無血清培養液2mlに再度懸濁し、無血清培養液(DMEM)を除去した付着DT40上に静かに播種した。プレートを37℃、1200rpm、3分間遠心した。上清を除去し、PEG1000(Wako)[5gのPEG1000を無血清DMEM培地に完全に溶解し、ジメチルスルホキシドを1ml添加して濾過滅菌する]溶液を1mlで正確に1分間融合した。無血清培養液(DMEM)を4mlで4回洗浄し、通常のDT40の培養液3mlでピペッティングして、付着DT40を浮遊状態に戻し、37℃、24穴プレート2枚に播種し、オーバーナイトでインキュベートした。G418を1500μg/mlになるように加え、3〜4週間選択培養した。A9xmouse embryonic fibroblast hybrid(bsd;mChr10−neo)#4、A9xmouse embryonic fibroblast hybrid(bsd;mChr16−neo)#2の微小核細胞融合で得た各合計10及び2個の耐性コロニーを単離し増殖させ、以降の解析を行った(クローン名:DT40(mChr10−neo)及びDT40(mChr16−neo))。
【0150】
[B.2]薬剤耐性クローンの選別
[B.2.1]FISH解析
上記で得られたDT40(mChr10−neo)及びDT40(mChr16−neo)のクローンについてShinoharaらの報告(Human Molecular Genetics,10:1163−1175,2001)に記された方法でマウスcot−1 DNAをプローブにしたFISH解析を行ったところDT40(mChr10−neo)1及びDT40(mChr16−neo)3において、それぞれ90%、93%で正常核型(2n)あたりのマウス染色体数が1コピーであったため、以降のステップに用いた。
【0151】
[実施例2]マウス10番染色体改変によるマウス人工染色体(10MAC)の構築
マウス人工染色体ベクターを構築するにあたり、内在の遺伝子を可能な限り削除することが必要である。相同組換え効率の高いニワトリDT40細胞内においてテロメアトランケーションという方法で内在遺伝子を含むマウス10番染色体長腕の大部分を削除する。
【0152】
[A]ニワトリDT40細胞内におけるマウス10番染色体領域セントロメア近傍から遠位のテロメアトランケーションによる部位特異的切断
マウス人工染色体ベクターとして導入目的遺伝子以外の内在遺伝子は少ない方が実験系に及ぼす影響が軽減され、かつ内在遺伝子のうちインプリント遺伝子のようにマウス個体発生に遺伝子発現量の変化による影響を及ぼす遺伝子を極力残さないことが必要であるので、マウス長腕の大部分を削除する(図3)。
【0153】
[A.1]テロメアトランケーションベクター作製
短腕近位部位特異的切断用の基本ベクターにはpBS−TEL/puroコンストラクト(Kuroiwa et al.Nature Biotech 2002)を用いた。
pBS−TEL/puroのEcoRIサイトにセルフアニーリングした合成オリゴ(Sigma)を挿入した。合成オリゴの配列を以下に示す。
EcoRI-AscI-EcoRI:5’-AATTCGGCGCGCCG-3’(配列番号1)
GenBankデータベースより得た(NC_000076.6)マウス10番染色体長腕近位の塩基配列から相同組換え標的配列を設計した。DT40(mChr10−neo)1からゲノムDNAを抽出して鋳型とし、相同組換え標的配列をPCR増幅するためのプライマーの配列を以下に示す。
AscI_m10T F2:5'-TCGAGGCGCGCCAGCCTTCTAGGGAACAGGAGATGTTCAA-3' (配列番号2)
BamHI_m10T R3:5'-TCGAGGATCCGCCTTGAGTGGGGTTCTAGTCATCTTTC-3' (配列番号3)
【0154】
PCRは、サーマルサイクラーとしてPerkin−Elmer社製のGeneAmp9600を、TaqポリメラーゼはKOD FX(TOYOBO)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,dGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いた。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、98℃15秒、68℃6分を35サイクル行ったPCR産物をAscIとBamHI(NEB)で消化して、アガロースゲルにより分離し精製後、AscI及びBamHI消化したpBS−TEL/puroにクローニングした(ベクター名:pBS−TEL/puro_10MAC)。ターゲティングベクター、標的配列、及び相同組換えにより生じる染色体アレルを図4に示した。
【0155】
[A.2]相同組換え体の選別
マウス10番染色体領域近位から遠位において部位特異的切断を行うベクターは上述のpBS−TEL/puro_10MACを用いてトランスフェクションを行い、ピューロマイシン耐性クローンの単離及び相同組換え体の選別を行った。
【0156】
得られたクローンからDNAを抽出しそれを鋳型にPCRを行い、部位特異的切断の確認を行った。プライマー配列を以下に示す。
m10 F6:5'-AACTACCCAGTTCTGCATTTGGTGTGAG-3' (配列番号4)
m10 R6: 5'- ATCAGTCATCAGTACCCCCAACCTCTCT-3' (配列番号5)
m10 F6 (前出)
PuroI:5'-GAGCTGCAAGAACTCTTCCTCACG-3' (配列番号6)
【0157】
PCRは、サーマルサイクラーとしてPerkin−Elmer社製のGeneAmp9600を、TaqポリメラーゼはKOD FX (TOYOBO)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,dGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いた。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、98℃15秒、68℃8分を35サイクル行った。
Plekhg1 F:5'- TGGATGGGTTTCAATGCCACT-3' (配列番号7)
Plekhg1 R:5'- GGCATTCTCCCCTGTTGTGG-3' (配列番号8)
Gm8155 F:5'- ACCCCTCGAACCCCTATTGC-3' (配列番号9)
Gm8155 R:5'- CACGCCATCGGTGATGGATA-3' (配列番号10)
Iyd F:5'- TGGGATGACCCCCACTTCTTT-3' (配列番号11)
Iyd R:5'- TTTTGGCCTCTTGCCCCATA-3' (配列番号12)
【0158】
PCRは、サーマルサイクラーとしてPerkin−Elmer社製のGeneAmp9600を、TaqポリメラーゼはAmpli Taq Gold(Applied Biosystems)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,dGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いた。温度、サイクル条件は95℃10分の熱変性後、94℃30秒、60℃30秒、72℃30秒を35サイクル行った。
【0159】
その結果、マウス10番染色体領域を切断できた3クローンを確認した(クローン名:DT40(10MAC))。ターゲティングベクター、標的配列、及び相同組換えにより生じる染色体アレルを図4に示した。
【0160】
[A.3]Two−color FISH解析による薬剤耐性クローンの選別
上記で得られたDT40(10MAC)の3クローンについてShinoharaらの報告(Human Molecular Genetics,10:1163−1175,2001)に記された方法でマウスcot−1 DNA及びPGKPuro plasmidをプローブにしたFISH解析を行ったところ3クローンすべてにおいてマウス10番染色体の長腕部分がセントロメア近傍で切断されていることを確認した(図5)。以降のステップではクローンT5−26,T6−37を用いた。
【0161】
[実施例3]マウス人工染色体ベクター10MAC1の構築
マウス人工染色体10MACにDNA挿入配列としてGFP−PGKneo−loxP−3’HPRTタイプのloxP配列を挿入することでマウス人工染色体ベクター10MAC1を構築し、遺伝子搭載を行うためのhprt欠損CHO細胞株へ導入する。
【0162】
[A]マウス人工染色体10MACへのGFP−PGKneo−loxP−3’HPRTタイプのloxP配列の挿入によるマウス人工染色体ベクター10MAC1構築
マウス人工染色体10MACへ遺伝子搭載サイトloxP及び、その存在をモニター可能なGFP発現ユニットを搭載する。
【0163】
[A.1]GFP−PGKneo−loxP−3’HPRTタイプのloxPターゲティングベクター作製
DT40(10MAC)にloxP配列を挿入するための基本プラスミドにはV913(Lexicon genetics)を用いた。loxP挿入部位であるマウス10番染色体のDNA配列はGenBankデータベースより得た(NC_000076.6)。薬剤耐性クローンからゲノムDNAを抽出して鋳型とし、相同組換えの二つの標的配列の増幅に用いたプライマーの配列を以下に示す。
KpnI_m10 LA F:5'- TCGAGGTACCTCTAAGTCAGGGAAAGATCCCCTTCTTG-3' (配列番号13)
XhoI_m10 LA R:5'- TCGACTCGAGGACCATGAAGATGGTCCAACTAAAGCAA-3' (配列番号14)
SalI_m10 RA F:5'- TCGAGTCGACCACTGCTCTTTCTTTAGTTACATGCAGCCC-3' (配列番号15)
NotI_m10 RA R:5'- TCGAGCGGCCGCATTCTTGCCAAGCTACTCTTCCGAGCTA-3' (配列番号16)
【0164】
PCRは、サーマルサイクラーとしてPerkin−Elmer社製のGeneAmp9600を、TaqポリメラーゼはKOD FX(TOYOBO)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,dGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いた。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、98℃15秒、68℃3分及び5分を35サイクル行った。
【0165】
それぞれのPCR産物をKpnI(NEB)とXhoI(NEB)及びSalI(NEB)とNotI(NEB)で消化して、アガロースゲルにより分離し精製後、V913のKpnI/XhoIあるいはSalI/NotIサイトにクローニングした(ベクター名:V913−m10LARA)。3’HPRT−loxPはV820(Lexicon genetics)のXbaIサイトにオリゴ合成したloxP配列をクローニングした。HPRT遺伝子の3番目から9番目のエクソンである3’HPRT−loxPをV907(Lexicon genetics)のEcoRIとAscIにクローニングした(ベクター名:X3.1)。さらにX3.1のKpnIサイトとEcoRIサイトにKpnIとNotIにより切り出したPGKneo配列をクローニングした(ベクター名:X4.1)。X4.1からKpnIとAscIにより切り出したPGKneo−loxP−3’HPRTをV913のKpnIサイトとAscIサイトにクローニングした(ベクター名:pVNLH)。pVNLHのEcoRVサイトにNotIとSalI消化後に平滑化を行ったHS4−CAG−EGFP−HS4(大阪大学、岡部博士及びNIH、Felsenfeld博士より分与)をクローニングした(ベクター名:pVGNLH)。pVGNLHからSalIとAscIにより切り出したGFP−PGKneo−loxP−3’HPRTカセットをV913−m10LARAのXhoIサイトとAscIサイトにクローニングした(ベクター名:p10MAC1)。ターゲティングベクター、標的配列及び相同組換えにより生じる染色体アレルを図6に示す。
【0166】
[A.2]トランスフェクション及びG418耐性クローンの単離
ニワトリDT40細胞の培養は10%ウシ胎仔血清(ギブコ、以下「FBS」で記す)、1%ニワトリ血清(ギブコ)、10−4M 2−メルカプトエタノール(シグマ)を添加したRPMI1640培地(ギブコ)中で行った。DT40(10MAC)T5−26、T6−37の約10個の細胞を無添加RPMI1640培地で一回洗浄し、0.5mlの無添加RPMI1640培地に懸濁し、制限酵素NotI(TAKARA)で線状化したターゲティングベクターp10MAC1を25μg加え、エレクトロポレーション用のキュベット(バイオラッド)に移し、室温で10分間静置した。キュベットをジーンパルサー(バイオラッド)にセットし、550V、25μFの条件で電圧印加した。室温で10分間静置後、24時間培養した。G418(1.5mg/ml)を含む培地に交換し、96穴培養プレート2枚に分注して約2週間の選択培養を行った。T5−26,T6−37各2回のトランスフェクションで得た各24、20個の耐性コロニーを単離し増殖させ、以後の解析を行った(クローン名:DT40(10MAC1))。
【0167】
[A.3]相同組換体の選別
[A.3.1]PCR解析
G418耐性株のゲノムDNAを抽出して鋳型として組換え体を選別するため、以下のプライマーを用いてPCRを行い、マウス10番染色体上で部位特異的に組換え起こっているかを確認した。そのプライマー配列を以下に示す。
m10 F1:5'- TGAGAAATACCGAATGGCAGAGAAACAC-3' (配列番号17)
EGFP-F(L):5'- CCTGAAGTTCATCTGCACCA-3' (配列番号18)
kj neo:5'- CATCGCCTTCTATCGCCTTCTTGACG-3' (配列番号19)
m10 R2:5'- GAGAGGAGGGAAGCTTGATGAGAAAATG-3' (配列番号20)
KpnI m10 LA F (前出)
XhoI m10 LA R (前出)
【0168】
PCRは、サーマルサイクラーとしてPerkin−Elmer社製のGeneAmp9600を、TaqポリメラーゼはKOD FX(TOYOBO)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,dGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いた。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、98℃15秒、68℃5分、8分、2.5分を35サイクル行った。
その結果DT40(10MAC)T5−26、T6−37について、各8、3クローンについて目的の組換えが行われていることが示唆された。
【0169】
[A.3.2]two−color FISH解析
上記から得られたDT40(10MAC1)において、two−color FISH解析を松原ら(FISH実験プロトコール、秀潤社、1994)に従い行った。マウスcot−1 DNA及びGFP−PGKneo−loxP−3’HPRT(pVGNLH)カセットをプローブにしてFISH解析を行ったところ、loxP配列がターゲティングされたマウス10番染色体断片のセントロメア付近にプローブ由来のFITCシグナルが検出され、かつネガティブコントロールのターゲティングする前のマウス10番染色体断片(DT40(10MAC))では現れなかったシグナルが検出されたことから、部位特異的に組換えが起こったことが視覚的に確かめられた(図7)。これらの結果から、マウス人工染色体ベクター10MAC1を保持するDT40細胞クローンが得られたと結論できた。以降のステップでは、DT40(10MAC1)T5−26 L1−2、T5−26 L2−3、T6−37 L1−5の3クローンを用いることとした。
【0170】
[B]マウス人工染色体ベクター10MAC1含有DT40細胞から10MAC1のCHO細胞への導入
CHO細胞を介してマウス人工染色体ベクター10MAC1をマウスES細胞に導入するため、或いはCHO細胞内でマウス人工染色体ベクター10MAC1のDNA配列挿入部位であるloxPを介して安定に目的遺伝子(群)等、例えばCYP3Aクラスター、ヒト抗体遺伝子などを挿入するため、CHO細胞に導入する。
【0171】
[B.1]微小核細胞融合と薬剤耐性クローンの単離
ドナー細胞であるDT40(10MAC1)を用いて、上記と同様にCHO hprt欠損細胞(ヒューマンサイエンス研究資源バンクより入手、登録番号JCRB0218)であるCHO(HPRT)に微小核細胞融合法を行う。微小核細胞融合で得たG418耐性コロニーを単離し増殖させ、以降の解析を行う(クローン名:CHO(HPRT;10MAC1))。
【0172】
[B.2]薬剤耐性クローンの選別
[B.2.1]PCR解析
G418耐性株のゲノムDNAを抽出して鋳型として組換え体を選別するため、以下のプライマーを用いてPCRを行い、マウス人工番染色体ベクター10MAC1がCHO細胞に導入できているかを確認した。そのプライマー配列を以下に示す。
m10 F6 (前出)
PuroI (前出)
m10 F1 (前出)
EGFP-F(L) (前出)
kj neo (前出)
m10 R2 (前出)
【0173】
PCRは、サーマルサイクラーとしてPerkin−Elmer社製のGeneAmp9600を、TaqポリメラーゼはKOD FX(TOYOBO)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,dGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いた。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、98℃15秒、68℃8分、2.5分を35サイクル行う。その結果、PCR陽性のクローンについて以降の解析を行った。
【0174】
[B.2.2]mono−color FISH解析
上記で得られたCHO(HPRT;10MAC1)クローンについてShinoharaらの報告(Human Molecular Genetics,10:1163−1175,2001)に記された方法でマウスcot−1 DNAをプローブにしたFISH解析を行い、マウス人工染色体ベクター10MAC1がCHO細胞に導入されていることを確認した。結果、1クローンについてCHO内で10MAC1が独立して安定に保持されていることを確認した(図8)。
[C]10MAC1への組換え挿入確認
10MAC1の組換え配列であるLoxP−3’HPRTが機能するか動作確認を行う。
[C.1]MAC1へのCre/loxPシステムによる環状DNAの挿入
CHO(HPRT;10MAC1)を6cm dishでコンフルエントになるように培養を行った。Lipofectamine2000を用いてメーカーのプロトコールに従い、Cre発現プラスミド(ベクター名:pBS185)および5’HPRT−LoxPのプラスミドを共導入した。遺伝子導入24時間後細胞を10cmdish10枚に継代培養し、さらに24時間後からHATで薬剤選択を行った。得られた薬剤耐性クローン24クローンについて以降の解析を行った。
[C.2]薬剤耐性クローンの解析
期待された部位特異的組換えが起こり、5’HPRT−LoxPを保持した環状DNAが挿入されると10MAC1でHPRT遺伝子の再構成が起こり、HAT耐性になる。薬剤耐性クローンからDNAを抽出し、この組換えのつなぎ目を検出するPCRを行った。使用したプライマーを以下に示す。
TRANS L1:5'-TGGAGGCCATAAACAAGAAGAC-3' (配列番号21)
TRANS R1:5'-CCCCTTGACCCAGAAATTCCA-3' (配列番号22)
これらプライマーについては、LA taq(Takara)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、94℃10秒、60℃30秒、72℃3分を30サイクル行った。その結果、すべての薬剤耐性24クローンについてPCR陽性であったころから、得られた薬剤耐性クローンについて高効率で部位特異的組換えによる環状DNAの挿入が起こっていることが示された。
【0175】
[実施例4]マウス16番染色体改変によるマウス人工染色体(16MAC)の構築
マウス人工染色体ベクターを構築するにあたり、内在の遺伝子を可能な限り削除することが必要である。相同組換え効率の高いニワトリDT40細胞内においてテロメアトランケーションという方法で内在遺伝子を含むマウス16番染色体長腕部を削除する。
【0176】
[A]ニワトリDT40細胞内におけるマウス16番染色体領域セントロメア近傍から遠位のテロメアトランケーションによる部位特異的切断
マウス人工染色体ベクターとして導入目的遺伝子以外の内在遺伝子は少ない方が実験系に及ぼす影響が軽減され、かつ内在遺伝子のうちインプリント遺伝子のようにマウス個体発生に遺伝子発現量の変化による影響を及ぼす遺伝子を極力残さないことが必要であるので、マウス長腕の大部分を削除する(図3)。
【0177】
[A.1]テロメアトランケーションベクター作製
短腕近位部位特異的切断用の基本ベクターにはpBS−TEL/puroコンストラクト(Kuroiwa et al.Nature Biotech 2002)を用いた。
GenBankデータベースより得たマウス16番染色体長腕近位の塩基配列から相同組換え標的配列を設計した。DT40(mChr16−neo)3からゲノムDNAを抽出して鋳型とし、相同組換え標的配列をPCR増幅するためのプライマーの配列を以下に示す。
BamHI_m16T F2:5'-TCGAGGATCCGGGAGTAATTTTCAATCCTTGAGGCAGA-3' (配列番号23)
BglII_m16T R2:5'-TCGAAGATCTCATCAGTGTACACCACAATCCCATCTGT-3' (配列番号24)
【0178】
PCRは、サーマルサイクラーとしてPerkin−Elmer社製のGeneAmp9600を、TaqポリメラーゼはKOD FX(TOYOBO)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,dGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いた。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、98℃15秒、68℃7分を35サイクル行ったPCR産物をBamHIとBglII(NEB)で消化して、アガロースゲルにより分離し精製後、BamHI消化したpBS−TEL/puroにクローニングした(ベクター名:pBS−TEL/puro_16MAC)。ターゲティングベクター、標的配列、及び相同組換えにより生じる染色体アレルを図9に示した。
【0179】
[A.2]相同組換え体の選別
マウス16番染色体領域近位から遠位において部位特異的切断を行うベクターは上述のpBS−TEL/puro_16MACを用いてトランスフェクションを行い、ピューロマイシン耐性クローンの単離及び相同組換え体の選別を行った。
【0180】
得られたクローンからDNAを抽出しそれを鋳型にPCRを行い、部位特異的切断の確認を行った。プライマー配列を以下に示す。
m16 F5: 5'-cctcttcttgacggttaccacattttgc-3' (配列番号25)
PuroI (前出)
【0181】
PCRは、サーマルサイクラーとしてPerkin−Elmer社製のGeneAmp9600を、TaqポリメラーゼはKOD FX(TOYOBO)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,dGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いた。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、98℃15秒、68℃9分を35サイクル行った。
Vmn1r-ps137 F:5'- TGAATTGGTCCCTCCTGCTCA-3'(配列番号26)
Vmn1r-ps137 R:5'- CAGGCCATGAGACCCAGACA-3'(配列番号27)
Mefv F:5'- TCCTCGGAGAATGGCTCCTG-3'(配列番号28)
Mefv R:5'- GGCAGGTTGATGGGAACTGG-3'(配列番号29)
Slx4 F:5'- AACCAGGGTCCCCATCCTGT-3'(配列番号30)
Slx4 R:5'- TGGGCTGGTTTCAATGCTGA-3'(配列番号31)
Gm4106 F:5'- GTGTGGCCATGGCTGGAGTA-3'(配列番号32)
Gm4106 R:5'- TGTTCCTCTGCTGCCACTCG-3'(配列番号33)
Gm35974 F:5'- ACCCAGCCACTCCCACCATA-3'(配列番号34)
Gm35974 R:5'- AAGGGCATGGCTATCCCACA-3'(配列番号35)
【0182】
PCRは、サーマルサイクラーとしてPerkin−Elmer社製のGeneAmp9600を、TaqポリメラーゼはAmpli Taq Gold(Applied Biosystems)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,dGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いた。温度、サイクル条件は95℃10分の熱変性後、94℃30秒、60℃30秒、72℃30秒を35サイクル行った。
【0183】
その結果、マウス10番染色体領域切断を示唆する3クローンを確認した(クローン名:DT40(16MAC))。これらのクローンについて切断箇所が異なることが確認され、2パターン存在することが示唆された。想定される切断後のアレル2パターンを図10に示した。
【0184】
[A.3]Mono−color FISH解析による薬剤耐性クローンの選別
上記で得られたDT40(16MAC)の3クローンについてShinoharaらの報告(Human Molecular Genetics,10:1163−1175,2001)に記された方法でマウスcot−1 DNAをプローブにしたFISH解析を行ったところ3クローンすべてにおいてマウス16番染色体の長腕部分がセントロメア近傍で切断されていることを確認した(図11)。
【0185】
[実施例5]マウス人工染色体ベクター16MAC1の構築
マウス人工染色体16MACにDNA挿入配列としてGFP−PGKneo−loxP−3’HPRTタイプのloxP配列を挿入することでマウス人工染色体ベクター16MAC1を構築し、遺伝子搭載を行うためのhprt欠損CHO細胞株へ導入する。
【0186】
[A]マウス人工染色体ベクター16MACへのGFP−PGKneo−loxP−3’HPRTタイプのloxP配列の挿入
[A.1]GFP−PGKneo−loxP−3’HPRT タイプのloxPターゲティングベクター作製
切断部位が異なる2種の16MACに対して異なる配列を標的としたターゲティングベクターを構築した。
【0187】
タイプ1として、テロメアトランケーションに用いた相同配列を標的としたターゲティングベクターを構築した。
【0188】
DT40(16MAC)にloxP配列を挿入するための基本プラスミドにはV913(Lexicon genetics)を用いた。loxP挿入部位であるマウス16番染色体のDNA配列はGenBankデータベースより得た(NC_000082.6)。薬剤耐性クローンからゲノムDNAを抽出して鋳型とし、相同組換えの二つの標的配列の増幅に用いたプライマーの配列を以下に示す。
KpnI_m16 HAtLA F:5'- TCGAGGTACCGGGAGTAATTTTCAATCCTTGAGGCAGA-3' (配列番号36)
XhoI_m16 HAtLA R:5'- TCGACTCGAGTGGCACTGACCCCTTAATTACGTACAGA-3' (配列番号37)
SalI_m16 HAtRA F:5'- TCGAGTCGACAAAGATTTGCATCCTTGGCCATGACTC-3' (配列番号38)
NotI_m16 HAtRA R:5'- TCGAGCGGCCGCCATCAGTGTACACCACAATCCCATCTGT-3' (配列番号39)
【0189】
PCRは、サーマルサイクラーとしてPerkin−Elmer社製のGeneAmp9600を、TaqポリメラーゼはKOD FX(TOYOBO)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,dGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いた。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、98℃15秒、68℃4分を35サイクル行った。
【0190】
それぞれのPCR産物をKpnI(NEB)とXhoI(NEB)及びSalI(NEB)とNotI(NEB)で消化して、アガロースゲルにより分離し精製後、V913のKpnI/XhoIあるいはSalI/NotIサイトにクローニングした(ベクター名:V913−m16HA)。3’HPRT−loxPはV820(Lexicon genetics)のXbaIサイトにオリゴ合成したloxP配列をクローニングした。HPRT遺伝子の3番目から9番目のエクソンである3’HPRT−loxPをV907(Lexicon genetics)のEcoRIとAscIにクローニングした(ベクター名:X3.1)。さらにX3.1のKpnIサイトとEcoRIサイトにKpnIとNotIにより切り出したPGKneo配列をクローニングした(ベクター名:X4.1)。X4.1からKpnIとAscIにより切り出したPGKneo−loxP−3’HPRTをV913のKpnIサイトとAscIサイトにクローニングした(ベクター名:pVNLH)。pVNLHのEcoRVサイトにNotIとSalI消化後に平滑化をおこなったHS4−CAG−EGFP−HS4(大阪大学、岡部博士及びNIH、Felsenfeld博士より分与)をクローニングした(ベクター名:pVGNLH)。pVGNLHからSalIとAscIにより切り出したGFP−PGKneo−loxP−3’HPRTカセットをV913−m10LARAのXhoIサイトとAscIサイトにクローニングした(ベクター名:p16HAMAC1)。ターゲティングベクター、標的配列及び相同組換えにより生じる染色体アレルを図12に示す。
【0191】
タイプ2として、残存するマウス16番染色体近位配列を標的としたターゲティングベクターを構築した。
【0192】
DT40(16MAC)にloxP配列を挿入するための基本プラスミドにはV913(Lexicon genetics)を用いた。loxP挿入部位であるマウス16番染色体のDNA配列はGenBankデータベースより得た(NC_000082.6)。薬剤耐性クローンからゲノムDNAを抽出して鋳型とし、相同組換えの二つの標的配列の増幅に用いたプライマーの配列を以下に示す。
KpnI_m16 GmLA F:5'- TCGAGGTACCAAGAACAAGCTTCAGAACACAGCCAGAC-3' (配列番号40)
XhoI_m16 GmLA R:5'- TCGACTCGAGAACTTGTCACACAGATCCTACTGGAGGTG-3' (配列番号41)
SalI_m16 GmRA F:5'- TCGAGTCGACCCACAGACTGAAGCAATTGACCTCAAAAG-3' (配列番号42)
NotI_m16 GmRA R:5'- TCGAGCGGCCGCAAAGCAGTTATCCGCTATTTGGGACCTT-3' (配列番号43)
【0193】
PCRは、サーマルサイクラーとしてPerkin−Elmer社製のGeneAmp9600を、TaqポリメラーゼはKOD FX(TOYOBO)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,dGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いた。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、98℃15秒、68℃4分を35サイクル行った。
【0194】
それぞれのPCR産物をKpnI(NEB)とXhoI(NEB)及びSalI(NEB)とNotI(NEB)で消化して、アガロースゲルにより分離し精製後、V913のKpnI/XhoIあるいはSalI/NotIサイトにクローニングした(ベクター名:V913−m16Gm)。3’HPRT−loxPはV820(Lexicon genetics)のXbaIサイトにオリゴ合成したloxP配列をクローニングした。HPRT遺伝子の3番目から9番目のエクソンである3’HPRT−loxPをV907(Lexicon genetics)のEcoRIとAscIにクローニングした(ベクター名:X3.1)。さらにX3.1のKpnIサイトとEcoRIサイトにKpnIとNotIにより切り出したPGKneo配列をクローニングした(ベクター名:X4.1)。X4.1からKpnIとAscIにより切り出したPGKneo−loxP−3’HPRTをV913のKpnIサイトとAscIサイトにクローニングした(ベクター名:pVNLH)。pVNLHのEcoRVサイトにNotIとSalI消化後に平滑化を行ったHS4−CAG−EGFP−HS4(大阪大学、岡部博士及びNIH、Felsenfeld博士より分与)をクローニングした(ベクター名:pVGNLH)。pVGNLHからSalIとAscIにより切り出したGFP−PGKneo−loxP−3’HPRTカセットをV913−m10LARAのXhoIサイトとAscIサイトにクローニングした(ベクター名:p16GmMAC1)。ターゲティングベクター、標的配列及び相同組換えにより生じる染色体アレルを図13に示す。
【0195】
[A.2]トランスフェクション及びG418耐性クローンの単離
ニワトリDT40細胞の培養は10%ウシ胎仔血清(ギブコ、以下「FBS」で記す)、1%ニワトリ血清(ギブコ)、10−4M 2−メルカプトエタノール(シグマ)を添加したRPMI1640培地(ギブコ)中で行った。DT40(16MAC)T1−14、T2−64、T2−65の約10個の細胞を無添加RPMI1640培地で一回洗浄し、0.5mlの無添加RPMI1640培地に懸濁し、制限酵素NotI(TAKARA)で線状化したターゲティングベクターp10MAC1を25μg加え、エレクトロポレーション用のキュベット(バイオラッド)に移し、室温で10分間静置した。キュベットをジーンパルサー(バイオラッド)にセットし、550V、25μFの条件で電圧印加した。室温で10分間静置後、24時間培養した。G418(1.5mg/ml)を含む培地に交換し、96穴培養プレート2枚に分注して約2週間の選択培養を行った。p16HAMAC1、p16GmMAC1ベクターそれぞれ1回のトランスフェクションで得た各12個の耐性コロニーを単離し増殖させ、以後の解析を行った(クローン名:DT40(16MAC1HA及び16MAC1Gm))。
【0196】
[A.3]相同組換体の選別
[A.3.1]PCR解析
G418耐性株のゲノムDNAを抽出して鋳型として組換え体を選別するため、以下のプライマーを用いてPCRを行い、マウス16番染色体上で部位特異的に組換えが起こっているかを確認した。そのプライマー配列を以下に示す。
パターン1(p16MAC1HA):
m16 F5 (前出)
EGFP-F(L) (前出)
kjneo (前出)
PuroI (前出)
【0197】
PCRは、サーマルサイクラーとしてPerkin−Elmer社製のGeneAmp9600を、TaqポリメラーゼはKOD FX(TOYOBO)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,dGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いた。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、98℃15秒、68℃7.5分を35サイクル行った。
【0198】
その結果DT40(16MAC)T1−14由来、5クローンについて目的の組換えが行われていることが示唆された。(クローン名:DT40(16MAC1HA))
パターン2(p16GmMAC1):
m16 F6:5'- CATGCACATTTGCTTACACACAGAGGTT-3' (配列番号44)
EGFP-F(L) (前出)
kjneo (前出)
m16 R7:5'- ATCTGGGCACTGGGGTACAACTGTTAAT-3' (配列番号45)
【0199】
PCRは、サーマルサイクラーとしてPerkin−Elmer社製のGeneAmp9600を、TaqポリメラーゼはKOD FX(TOYOBO)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,dGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いた。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、98℃15秒、68℃7.5分を35サイクル行った。
【0200】
その結果DT40(16MAC)T2−64、T2−65由来、各11、9クローンについて目的の組換えが行われていることが示唆された(クローン名:DT40(16MAC1Gm))。
【0201】
[A.3.2]two−color FISH解析
上記から得られたDT40(16MAC1HA及び16MAC1Gm)において、two−color FISH解析を松原ら(FISH実験プロトコール、秀潤社、1994)に従い行った。マウスcot−1 DNA及びGFP−PGKneo−loxP−3’HPRT(pVGNLH)カセットをプローブにしてFISH解析を行ったところ、loxP配列がターゲティングされたマウス10番染色体断片のセントロメア付近にプローブ由来のFITCシグナルが検出され、かつネガティブコントロールのターゲティングする前のマウス16番染色体断片(DT40(16MAC)T1−14、T2−64、T2−65)では現れなかったシグナルが検出されたことから、部位特異的に組換えが起こったことが視覚的に確かめられた(図14)。これらの結果から、マウス人工染色体ベクター16MAC1HA及び16MAC1Gmを保持するDT40細胞クローンが得られたと結論できた。
【0202】
[B]マウス人工染色体ベクター16MAC1HA及び16MAC1Gm含有DT40細胞から16MAC1HA及び16MAC1GmのCHO細胞への導入
CHO細胞を介してマウス人工染色体ベクター16MAC1HA及び16MAC1GmをマウスES細胞に導入するため、或いはCHO細胞内でマウス人工染色体ベクター16MAC1HA及び16MAC1GmのDNA配列挿入部位であるloxPを介して安定に目的遺伝子(群)等、例えばCYP3Aクラスター、ヒト抗体遺伝子などを挿入するため、CHO細胞に導入する。
【0203】
[B.1]微小核細胞融合と薬剤耐性クローンの単離
ドナー細胞であるDT40(16MAC1HA)及びDT40(16MAC1Gm)を用いて、上記と同様にCHO hprt欠損細胞(ヒューマンサイエンス研究資源バンクより入手、登録番号JCRB0218)であるCHO(HPRT)に微小核細胞融合法を行う。微小核細胞融合で得たG418耐性コロニーを単離し増殖させ、以降の解析を行う(クローン名:CHO(HPRT;16MAC1HA及び16MAC1Gm))。
【0204】
[B.2]薬剤耐性クローンの選別
[B.2.1]PCR解析
G418耐性株のゲノムDNAを抽出して鋳型として組換え体を選別するため、以下のプライマーを用いてPCRを行い、マウス人工番染色体16MAC1HA及び16MAC1GmがCHO細胞に導入できているかを確認する。そのプライマー配列を以下に示す。16MAC1HAの確認:
m16 F5 (前出)
EGFP-F(L) (前出)
kjneo (前出)
PuroI (前出)
16MAC1Gmの確認
m16 F6 (前出)
EGFP-F(L) (前出)
kjneo (前出)
m16 R7 (前出)
【0205】
PCRは、サーマルサイクラーとしてPerkin−Elmer社製のGeneAmp9600を、TaqポリメラーゼはKOD FX(TOYOBO)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,dGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いた。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、98℃15秒、68℃7.5分を35サイクル行う。PCR陽性のクローンについて以降の解析を行う。
【0206】
[B.2.2]mono−color FISH解析
上記で得られたCHO(HPRT;16MAC1HA及び16MAC1Gm)クローンについてShinoharaらの報告(Human Molecular Genetics,10: 1163−1175,2001)に記された方法でマウスcot−1 DNAをプローブにしたFISH解析を行い、マウス人工染色体ベクター16MAC1HA及び16MAC1GmがCHO細胞に導入されていることを確認する。
【0207】
[実施例6]マウス人工染色体ベクターのマウス個体における安定性評価
10MAC1、10MAC1HA、10MAC1GmのマウスES細胞での安定性を検証し、さらに各マウス人工染色体ベクターを導入した子孫伝達マウスを作製することで、個体組織での安定性を検証する。
【0208】
[A]各マウス人工染色体ベクター含有CHO細胞からマウスES細胞へマウス人工染色体ベクター10MAC1、16MAC1HA、16MAC1Gmの導入
マウスES細胞及びマウス個体内でのマウス人工染色体ベクター10MAC1、16MAC1HA、16MAC1Gmの安定性を検証するために、各マウス人工染色体10MAC1、16MAC1HA、16MAC1GmをマウスES細胞に導入し、各マウス人工染色体ベクター10MAC1、16MAC1HA、16MAC1Gm含有キメラマウスならびに子孫伝達マウスを作製する。
【0209】
[A.1]微小核細胞融合と薬剤耐性クローンの単離
レシピエント細胞であるCHO(HPRT;10MAC1)、CHO(HPRT;16MAC1HA)、CHO(HPRT;16MAC1Gm)を細胞培養皿で培養し、コンフルエントになった時点で20%FBS、0.1μg/mlコルセミドを添加したF12培地に交換し、さらに48時間培養後に20%FBS、0.1μg/mlコルセミドを添加したF12培地で培地交換し、さらにオーバーナイトでインキュベートしてミクロセルを形成させる。培養液を除去し、予め37℃で保温したサイトカラシンB(10μg/ml,シグマ)溶液を遠心用フラスコに満たし、34℃、8000rpm、1時間の遠心を行った。ミクロセルを無血清DMEM培地に懸濁し、8μm,5μm,3μmフィルターにて精製した。精製後、2000rpm,10分間遠心し、無血清DMEM培地5mlに懸濁した。ミクロセルを5mlの無血清DMEM培地に懸濁し、8μm,5μm,3μmフィルターにて精製する。精製後、2000rpm,10分間遠心する。
【0210】
ドナー細胞にはC57B6系統マウスのES細胞であるB6−ES、及びB6−ES細胞に6TG処理を行ったHPRT欠損株であるB6(HPRT)、及びC57B6xCBA系統F1マウスのES細胞であるTT2F、及びTT2F細胞に6TG処理を行ったHPRT欠損株であるKO56(HPRT)を用いる。培養には、DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium−high glucose:SIGMA)に、10%FCS、LIF(Muerin Leukemia Inhibitory Factor)、1×10‐5M 2−ME(2−メルカプトエタノール:SIGMA)、L−グルタミン(3.5g/ml:GIBCO)、Sodium pyruvate solution(3.5g/ml:GIBCO)、MEM Nonessential amino acid(0.125mM:GIBCO)を添加し、5% CO、37℃にて培養を行う。マウスES細胞をPBS(−)で細胞表面を2回洗浄後にトリプシン処理により細胞を分散させ、DMEM培地に10%FBSを添加した培養液で回収し、1500rpmで遠心し、上清を除去し、無血清培養液5mlに再度懸濁し、ミクロセルの遠心後のペレットを含む無血清培地に静かに添加し、さらに1200rpmで遠心する。上清を除去し、PEG1000(Wako)溶液[5gのPEG1000を無血清DMEM培地に完全に溶解し、ジメチルスルホキシドを1ml添加して濾過滅菌する]を0.5mlで正確に1分30秒間融合した。13mlの無血清培養液(DMEM)を静かに添加し、1200rpmで遠心する。上清を除去し、通常のマウスES細胞の培養液を添加し、マイトマイシン処理したG418耐性マウス胎生線維芽細胞をフィーダー細胞として使用し、直径10cm細胞培養皿2枚に播種し、オーバーナイトでインキュベートする。G418を250μg/mlになるように加え、3〜4週間選択培養する(クローン名:B6−ES(10MAC1、16MAC1HA、16MAC1Gm)及びB6(HPRT;10MAC1、16MAC1HA、16MAC1Gm)及びTT2F(10MAC1、16MAC1HA、16MAC1Gm)及びKO56(HPRT;10MAC1、16MAC1HA、16MAC1Gm))。その結果、得られたTT2F(10MAC1)の薬剤耐性コロニー13クローンを単離し増殖させ、以降の解析を行った。
【0211】
[A.2]薬剤耐性クローンの選別
[A.2.1]PCR解析
G418耐性株のゲノムDNAを抽出して鋳型として組換え体を選別するため、以下のプライマーを用いてPCRを行い、各マウス人工番染色体ベクターがマウスES細胞に導入できているかを確認する。そのプライマー配列を以下に示す。
10MAC1の確認:
m10 F6 (前出)
PuroI (前出)
m10 F1 (前出)
EGFP-F(L) (前出)
kj neo (前出)
m10 R2 (前出)
【0212】
PCRは、サーマルサイクラーとしてPerkin−Elmer社製のGeneAmp9600を、TaqポリメラーゼはKOD FX(TOYOBO)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,dGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いた。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、98℃15秒、68℃8分、2.5分を35サイクル行った。その結果得られたPCR陽性9クローンについて以降の解析を行う。
16MAC1HAの確認:
m16 F5 (前出)
EGFP-F(L) (前出)
kjneo (前出)
PuroI (前出)
16MAC1Gmの確認:
m16 F6 (前出)
EGFP-F(L) (前出)
kjneo (前出)
m16 R7 (前出)
【0213】
PCRは、サーマルサイクラーとしてPerkin−Elmer社製のGeneAmp9600を、TaqポリメラーゼはKOD FX(TOYOBO)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,dGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いた。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、98℃15秒、68℃7.5分を35サイクル行う。PCR陽性のクローンについて以降の解析を行う。
【0214】
[A.2.2]mono−color FISH解析
上記で得られたB6−ES(MAC1)及びB6(HPRT;10MAC1、16MAC1HA、16MAC1Gm)及びTT2F(10MAC1、16MAC1HA、16MAC1Gm)及びKO56(HPRT;10MAC1、16MAC1HA、16MAC1Gm)のクローンについてShinoharaらの報告(Human Molecular Genetics,10:1163−1175,2001)に記された方法でマウス minor satellite DNAをプローブにしたFISH解析を行う。各マウス人工染色体ベクターが保持されていることを確認する。また、正常核型である内在マウス染色体の本数がB6−ESの場合40本、またはKO56の場合39本であることを確認する。結果を受けて、マウス人工染色体ベクター10MAC1、16MAC1HA、16MAC1GmがマウスES細胞に導入できたと結論付ける。TT2F−ES(10MAC1)PCR陽性9クローンについてFISH解析を行った結果、2クローンについてMAC1を高保持で正常核型のクローンであることが確認できた(図15)。
【0215】
[B]各マウス人工染色体ベクター10MAC1、16MAC1HA、16MAC1Gmの安定性
[B.1]マウス人工染色体ベクター10MAC1、16MAC1HA、16MAC1GmのCHO細胞における安定性
上記で得られたCHOクローン(例えばCHO(HPRT;10MAC1)上記実施例3で取得)について0〜25PDLの非選択培養下での長期培養後におけるFISH解析により10MAC1保持細胞の割合を計測する。
【0216】
[B.2]マウス人工染色体ベクター10MAC1、16MAC1HA、16MAC1GmのマウスES細胞における安定性
上記で得られたマウスESクローン(例えばKO56(10MAC1)及びTT2F(10MAC1)上記実施例6[A]で取得できる)について0〜100PDLの非選択培養下での長期培養後におけるFISH解析により10MAC1保持細胞の割合を計測する。
【0217】
[B.3]マウス人工染色体ベクター10MAC1、16MAC1HA、16MAC1Gmを保持するキメラマウスの作製
上記実施例6[A]で得られたES細胞クローンを用いてTomizukaらの方法(Nature Genet.16:133,1997)でキメラマウスを作製した。宿主としてはMCH(ICR)(白色、日本クレア社より購入)の雌雄交配により得られる8細胞期胚を用いる。注入胚を仮親に移植した結果生まれる仔マウスは毛色によりキメラであるかどうかを判定できる。10MAC1保持ESクローンTT2F(10MAC1)(例えば他にKO56 10MAC1、上記実施例6[A]で取得できる)を注入した胚を仮親に移植した。出生したキメラマウスについて毛色により(毛色に濃茶色の部分の認められる)キメラ率を判定した。これにより、マウス人工染色体ベクター10MAC1を保持するES細胞株(KO56及びTT2F)がキメラ形成能を保持しているか、すなわちマウス個体の正常組織に分化する能力を保持していることを確認した。
【0218】
[B.4]各種マウス人工染色体ベクター10MAC1、16MAC1HA、16MAC1Gmを保持するキメラマウスからの10MAC1、16MAC1HA、16MAC1Gmの子孫伝達
上記[B.3]で作製された雌キメラマウス(キメラ率約100%)をMCH(ICR)(白色、日本クレア社より購入)雄マウスと交配する。キメラマウスより誕生した仔マウスについてGFP蛍光により各種マウス人工染色体ベクターの保持を検討した。各マウス人工染色体が子孫伝達されたマウス系統をTC(10MAC1、16MAC1HA、16MAC1Gm)と呼ぶ。TT2F(MAC1)由来キメラから得られた子孫伝達個体について全身でGFP蛍光タンパクが発現が確認できる個体を得た(図16)。
【0219】
[B.5]TC(10MAC1、16MAC1HA、16MAC1Gm)マウス系統の体細胞における10MAC1、16MAC1HA、16MAC1Gmの安定性
[B.5.1]実体蛍光顕微鏡観察
上記で得られたTC(10MAC1、16MAC1HA、16MAC1Gm)マウスのうち雄及び雌について脳、胸腺、心臓、肺、肝臓、腎臓、脾臓、小腸、筋肉、精巣(または卵巣)を実体蛍光顕微鏡観察下にて観察し、全ての組織にてGFP陽性を観察する。
【0220】
[B.5.2]血液系細胞のFACS解析
B細胞(CD19)、T細胞(CD4,CD8)、巨核球(CD41)に対する特異的抗体(Becton,Dickinson and Company)を用いて、骨髄ならびに脾臓細胞におけるGFP陽性率を検討する。
【0221】
[B.5.3]蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)解析
また上記と同様の個体から調製した尻尾繊維芽細胞を用いて、Shinoharaらの報告(Human Molecular Genetics,10:1163−1175,2001)に記された方法でマウスマイナーサテライト(minor satellite)DNAをプローブにしたFISH解析を行い、視覚的にMACの存在を確認し、宿主染色体とは独立して維持されていることを確認する。
【0222】
[実施例7]新規マウス人工染色体ベクターを用いたヒト抗体産生(IGHK−NAC)マウス及びラットの作製
10MAC1、16MAC1HA、16MAC1Gm各マウス人工染色体ベクターの機能性評価から、使用するベクターを絞り(選抜したマウス人工染色体を「NAC」と呼ぶ)、ヒト抗体遺伝子(IGH、IGK)を搭載し、ヒト抗体産生マウス及びラットの作製を行う(図17)。10MAC1を選択し、NACとして以降の実験を行った。
【0223】
[A]NACを保持するCHO細胞への改変ヒト2番染色体の移入
改変ヒト2番染色体保持CHO細胞より改変ヒト2番染色体をNAC保持CHO細胞に導入する。
【0224】
[A.1]微小核細胞融合法による改変ヒト2番染色体のNAC保持Hprt欠損CHO細胞への移入
ドナー細胞である改変ヒト2番染色体CHO細胞(CHO hChr2LF)を細胞培養皿で培養し、コンフルエントになった時点で20%FBS、0.1μg/mlコルセミドを添加したF12培地に交換し、さらに48時間培養後に20%FBS、0.1μg/mlコルセミドを添加したF12培地で培地交換し、さらにオーバーナイトでインキュベートしてミクロセルを形成させる。培養液を除去し、予め37℃で保温したサイトカラシンB(10μg/ml,シグマ)溶液を遠心用フラスコに満たし、34℃、8000rpm、1時間の遠心を行う。微小核(「ミクロセル」ともいう)を無血清DMEM培地に懸濁し、8μm,5μm,3μmフィルターにて精製する。精製後、ミクロセルをDMEMで調製した0.05mg/ml PHA−P(シグマ)溶液2mLに懸濁し、6cm細胞培養皿でコンフルエントになったレシピエントであるNAC保持Hprt欠損CHO細胞株に、培養液を除いた後添加する。15分インキュベートして微小核をCHO細胞に張り付ける。その後、PEG1000(Wako)溶液[5gのPEG1000を無血清DMEM培地6mLに完全に溶解し、ジメチルスルホキシドを1ml添加して濾過滅菌する]を1mlで正確に1分融合する。5mLの無血清DMEMでPEGを除去するために4回ウオッシュ操作を行った後、CHO培養液を添加する。24時間後、10cm細胞培養皿10枚に細胞を播種し、8μg/mLブラストサイジンSを添加し、10日選択培養を行った。得られた薬剤耐性株ついて以降の解析を行った。
【0225】
[A.2]PCR解析による薬剤耐性クローンの選別
ブラストサイジンS耐性株のゲノムを抽出し、鋳型としてPCR解析を行い、改変ヒト2番染色体の保持を確認する。そのプライマー配列を以下に示す。
改変ヒト2番染色体loxP配列確認プライマー:
cos138 sp L:5’-CTGAGAAGAGTCATTGTTTATGGTAGACT-3’ (配列番号46)
cos138 sp R:5’- ATCCCCATGTGTATCACTGGCAAACTGT-3’ (配列番号47)
x6.1cosRa L:5’-GGGGAATAAACACCCTTTCCAAATCCTC-3’(配列番号48)
x6.1cosRa R:5’- ACCAAGTAACCGATCAAACCAACCCTTG-3’ (配列番号49)
【0226】
cos138 sp L, cos138 sp Rのプライマーについては、Accuprime Taq DNA polymerase(Thermo Fisher Scientific)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は94℃2分の熱変性後、94℃15秒、60℃15秒、68℃5分を35サイクル行う。
【0227】
x6.1cosRa L,x6.1cosRa Rのプライマーについては、KOD FX(TOYOBO)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、98℃15秒、68℃12分を30サイクル行う。
改変ヒト2番染色体FRT配列確認プライマー:
kD9 tcLa L:5’-TGAGAACACAGGGGTCTCCATTCTGACT-3’ (配列番号50)
kD9 tcLa R:5’-ACAATCAACAGCATCCCCATCTCTGAAG-3’ (配列番号51)
kD9 tcRa L:5’-GACGTGCTACTTCCATTTGTCACGTCCT-3’ (配列番号52)
kD9 tcRa R:5’-TGGTCACTGAAGCTTTCCATCTGCTCTT-3’ (配列番号53)
【0228】
これらプライマーについては、KOD FX(TOYOBO)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、98℃15秒、68℃5分を35サイクル行う。
【0229】
加えて、ヒト2番染色体上のプライマーを用い領域が保持されているかを確認する。そのプライマー配列を以下に示す。
D2S177 F:5’-AGCTCAGAGACACCTCTCCA-3’ (配列番号54)
D2S177 R:5’-CTGTATTAGGATACTTGGCTATTGA-3’ (配列番号55)
FABP1-F:5’-TATCAAGGGGGTGTCGGAAATCGTG-3’ (配列番号56)
FABP1-R:5’-ACTGGGCCTGGGAGAACCTGAGACT-3’ (配列番号57)
EIF2AK3-F:5’-AGGTGCTGCTGGGTGGTCAAGT-3’ (配列番号58)
EIF2AK3-R:5’-GCTCCTGCAAATGTCTCCTGTCA-3’ (配列番号59)
RPIA-F:5’-CTTACCCAGGCTCCAGGCTCTATT-3’ (配列番号60)
RPIA-R:5’-CTCTACCTCCCTACCCCATCATCAC-3’ (配列番号61)
IGKC-F:5’-TGGAAGGTGGATAACGCCCT-3’ (配列番号62)
IGKC-R:5’-TCATTCTCCTCCAACATTAGCA-3’ (配列番号63)
IGKV-F:5’-AGTCAGGGCATTAGCAGTGC-3’ (配列番号64)
IGKV-R:5’-GCTGCTGATGGTGAGAGTGA-3’ (配列番号65)
Vk3-2 F:5’-CTCTCCTGCAGGGCCAGTCA-3’ (配列番号66)
Vk3-2 R:5’-TGCTGATGGTGAGAGTGAACTC-3’ (配列番号67)
D2S159_1 F:5’-CTCTAACTGAATCAAGGGAATGAAC-3’ (配列番号68)
D2S159_1 R:5’-AGCAGTTTGAGTTTAGGATGAAGG-3’ (配列番号69)
TaqポリメラーゼはAmpli Taq Gold(Applied Biosystems)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いた。温度、サイクル条件は95℃10分の熱変性後、95℃30秒、60℃30秒、72℃1分を35サイクル行う。
PCR陽性であったクローンについて以降の解析を行った。その結果、改変ヒト2番染色体とNAC(新規人工染色体ベクター)が維持されているクローンを取得した。
【0230】
[A.3]two−color FISH解析
上記の結果よりPCR陽性クローンについて、two−color FISH解析を松原ら(FISH実験プロトコール、秀潤社、1994)に従い行う。Human cot−1 DNA及びMouse cot−1 DNAをプローブにしてFISH解析を行い、改変ヒト2番染色体及びNACが宿主染色体と独立して安定に維持されていることを確認した(図18)。
【0231】
[B]転座クローニングによるヒト2番染色体IGK領域のマウス人工染色体ベクター(NAC)への搭載
NACを保持するCHO細胞において、ヒト2番染色体上IGK領域をNACへ転座クローニングする。転座クローニングにはCre/loxPシステムを用い、ヒト2番染色体とNACを相互転座させることで、IGK領域をNACに搭載する(図19)。
【0232】
[B.1]Cre発現によるHAT耐性染色体組換え体の取得
NACにはloxPサイトが搭載されており、Cre組換え酵素存在下で改変ヒト2番染色体のloxPサイトと組換えが起こるようになっている。また、組換えが起こると副産物となるNACに載らないヒト2番染色体領域の5’HPRTと副産物となるNAC末端の3’HPRTが連結して、HPRT遺伝子の再構成が起こり、CHO(hprt−/−)はHAT耐性を獲得する。
【0233】
改変ヒト2番染色体とNACを保持するHprt欠損CHO細胞について、10cm細胞培養皿においてコンフルエントになった時に、18μgのCre発現プラスミド(ベクター名:pBS185)をLipofectamine2000(Thermo Fisher Scientific)を用いてメーカーの手順を参照して加える。添加後6時間経過したら、培養液を交換し、24時間後に、10cm細胞培養皿10枚に播種し、1×HAT(シグマ)、4μg/mL Blasticidinで薬剤選択を行う。得られた薬剤耐性株を以降の解析に用いる。
【0234】
[B.2]PCR解析による薬剤耐性クローンの選別
HAT耐性株のゲノムDNAを抽出して鋳型として相互転座クローンを選別するため、以下のプライマーを用いてPCRを行い、ヒト2番染色体断片とNAC上で染色体相互転座が起こっているかを確認する。そのプライマー配列を以下に示す。
TRANS L1 (前出)
TRANS R1 (前出)
KJneo:5'-CATCGCCTTCTATCGCCTTCTTGACG-3’(配列番号70)
PGKr-2:5'-ATCTGCACGAGACTAGTGAGACGTGCTA-3’(配列番号71)
【0235】
これらプライマーについては、LA taq(Takara)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、94℃10秒、60℃30秒、72℃3分を30サイクル行う。
【0236】
加えて、ヒト2番染色体領域とFRT配列が維持されているかどうかPCRを行う。プライマーを以下に示す。
【0237】
ヒト2番染色体領域確認プライマー:
D2S177 F (前出)
D2S177 R (前出)
FABP1-F (前出)
FABP1-R (前出)
EIF2AK3-F (前出)
EIF2AK3-R (前出)
RPIA-F (前出)
RPIA-R (前出)
IGKC-F (前出)
IGKC-R (前出)
IGKV-F (前出)
IGKV-R (前出)
Vk3-2 F (前出)
Vk3-2 R (前出)
D2S159_1 F (前出)
D2S159_1 R (前出)
TaqポリメラーゼはAmpli Taq Gold(Applied Biosystems)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は95℃10分の熱変性後、95℃30秒、60℃30秒、72℃1分を35サイクル行う。
【0238】
ヒト2番染色体上FRT配列確認プライマー:
kD9 tcLa L (前出)
kD9 tcLa R (前出)
kD9 tcRa L (前出)
kD9 tcRa R (前出)
これらプライマーについては、KOD FX(TOYOBO)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、98℃15秒、68℃5分を35サイクル行う。PCR陽性クローンについて以降の解析を行う。
【0239】
[B.3]two−color FISH解析
PCR陽性クローンについてHuman cot−1 DNA及びMouse cot−1 DNAをプローブにしてFISH解析を行う。NACと改変ヒト2番染色体が相互転座をおこしかつ、IGK領域がNACに搭載されたIGK−NAC、副産物が独立して保持されていることを確認する。このクローンをCHO IGK−NACと呼ぶ。
【0240】
[C]IGK−NACの改変ヒト14番染色体保持CHO(hprt−/−)細胞株への移入
作製したIGK−NACを、改変ヒト14番染色体を保持するCHO(hprt−/−)細胞株へ移入し、FRT/Flpシステムによる組換えを起こさせIGH領域をIGK−NACに搭載し、IGHK−NACを作製する(図20)。
【0241】
[C.1]微小核細胞融合と薬剤耐性クローンの単離
ドナー細胞であるCHO IGK−NACを細胞培養皿で培養し、コンフルエントになった時点で20%FBS、0.1μg/mlコルセミドを添加したF12培地に交換し、さらに48時間培養後に20%FBS、0.1μg/mlコルセミドを添加したF12培地で培地交換し、さらにオーバーナイトでインキュベートしてミクロセルを形成させる。培養液を除去し、予め37℃で保温したサイトカラシンB(10μg/ml,シグマ)溶液を遠心用フラスコに満たし、34℃、8000rpm、1時間の遠心を行う。微小核(「ミクロセル」ともいう)を無血清DMEM培地に懸濁し、8μm,5μm,3μmフィルターにて精製する。精製後、ミクロセルをDMEMで調製した0.05mg/ml PHA−P(シグマ)溶液2mLに懸濁し、6cm細胞培養皿でコンフルエントになったレシピエントであるCHO hprt−/− 14FRTを、培養液を除いた後添加する。15分インキュベートして微小核をCHO細胞に張り付ける。その後、PEG1000(Wako)溶液[5gのPEG1000を無血清DMEM培地6mLに完全に溶解し、ジメチルスルホキシドを1ml添加して濾過滅菌する]を1mlで正確に1分融合する。5mLの無血清DMEMでPEGを除去するために4回ウオッシュ操作を行った後、CHO培養液を添加する。24時間後、10cm細胞培養皿10枚に細胞を播種し、600μg/mL G418と6μg/mL Blasticidinを添加し、10日選択培養を行う。得られた薬剤耐性株ついて以降の解析を行う。
【0242】
[C.2]PCR解析による薬剤耐性クローンの選別
IGK−NACが改変ヒト14番染色体を保持するCHO(hprt−/−)株に移入されているか、改変ヒト14番染色体は維持されているかを確認するためにPCR解析を行う。以下に用いるプライマーを示す。
IGK−NACの確認プライマー:
KJneo (前出)
PGKr-2 (前出)
これらプライマーについては、LA taq(Takara)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、94℃10秒、60℃30秒、72℃3分を30サイクル行う。
【0243】
IGK−NAC上のFRT挿入部位確認プライマー:
kD9 tcLa L (前出)
kD9 tcLa R (前出)
kD9 tcRa L (前出)
kD9 tcRa R (前出)
これらプライマーについては、KOD FX(TOYOBO)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、98℃15秒、68℃5分を35サイクル行う。
【0244】
ヒト2番染色体領域確認プライマー:
D2S177 F (前出)
D2S177 R (前出)
EIF2AK3-F (前出)
EIF2AK3-R (前出)
RPIA-F (前出)
RPIA-R (前出)
IGKC-F (前出)
IGKC-R (前出)
IGKV-F (前出)
IGKV-R (前出)
Vk3-2 F (前出)
Vk3-2 R (前出)
TaqポリメラーゼはAmpli Taq Gold(Applied Biosystems)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は95℃10分の熱変性後、95℃30秒、60℃30秒、72℃1分を35サイクル行う。
【0245】
改変ヒト14番染色体上FRT配列確認プライマー:
14TarC_La F:5’-AGCAATTAGGGCCTGTGCATCTCACTTT-3’(配列番号72)
14TarC_La R:5’-CCAGCTCATTCCTCCCACTCATGATCTA-3’(配列番号73)
14TarC_Ra F:5’-CATCTGGAGTCCTATTGACATCGCCAGT-3’(配列番号74)
14TarC_Ra R:5’-CTTATTCCTCCTTCTGCCCACCCTTCAT-3’(配列番号75)
これらプライマーについては、KOD FX(TOYOBO)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、98℃15秒、68℃6分を35サイクル行う。
【0246】
ヒト14番染色体領域確認プライマー:
MTA1-F3:5’-AGCACTTTACGCATCCCAGCATGT-3’(配列番号76)
MTA1-R3:5’-CCAAGAGAGTAGTCGTGCCCCTCA-3’(配列番号77)
ELK2P2-F:5’-CCCACTTTACCGTGCTCATT-3’(配列番号78)
ELK2P2-R:5’-ATGAAGGTCCGTGACTTTGG-3’(配列番号79)
g1(g2)-F:5’-ACCCCAAAGGCCAAACTCTCCACTC-3’(配列番号80)
g1(g2)-R:5’-CACTTGTACTCCTTGCCATTCAGC-3’(配列番号81)
VH3-F:5’-AGTGAGATAAGCAGTGGATG-3’(配列番号82)
VH3-R:5’-CTTGTGCTACTCCCATCACT-3’(配列番号83)
CH3F3:5’-AGGCCAGCATCTGCGAGGAT-3’(配列番号84)
CH4R2:5’-GTGGCAGCAAGTAGACATCG-3’(配列番号85)
TaqポリメラーゼはAmpli Taq Gold(Applied Biosystems)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は95℃10分の熱変性後、95℃30秒、60℃30秒もしくは56℃30秒、72℃1分を35サイクル行う。PCR陽性のクローンを以降の解析に用いた。
【0247】
[C.3]two−color FISH解析
選別したクローンについて、Human cot−1 DNA及びMouse cot−1 DNAをプローブにしてFISH解析を行い、IGK−NACと改変ヒト14番染色体が独立して、1コピーずつ維持されていることを確認し、以降のステップに用いる。
【0248】
[D]FRT/Flp組換えシステムを用いたIGHK−NACの構築
IGK−NACと改変ヒト14番染色体をFRT/Flpシステムで相互転座させることで、IGK−NAC上にヒト14番染色体由来IGH領域を転座クローニングし、IGHK−NACを構築する。
【0249】
[D.1]FLP発現によるHAT耐性染色体組換え体の取得
IGK−NAC上のFRTサイトと改変ヒト14番染色体上のFRTサイトを用いて、FLP組換え酵素存在下で相互転座を起こさせる。また、組換えが起こるとIGHK−NAC上では、5’HPRTと3’HPRTが連結して、HPRT遺伝子の再構成が起こり、HAT耐性を獲得する。IGK−NACと改変ヒト14番染色体を保持するCHO(hprt−/−)株が、10cm細胞培養皿においてコンフルエントになった時に18μgのFLP発現プラスミドをLipofectamine2000(Thermo Fisher Scientific)を用いてメーカーの手順を参照して加える。添加後6時間経過したら、培養液を交換し、24時間後に、10cm細胞培養皿10枚に播種し、1×HAT、6μg/mL Blasticidinで薬剤選択を行う。得られたHAT耐性クローンについて以降の解析を行う。
【0250】
[D.2]PCR解析による薬剤耐性クローンの選別
FRT/FLPシステムを用いて期待した相互転座が起こり、IGHK−NACが構築されているか確認するため、薬剤耐性クローンのDNAを抽出し、鋳型としてPCR解析を行う。用いるプライマーを以下に示す。
相互転座連結部位の確認プライマー:
TRANS L1 (前出)
TRANS R1 (前出)
CMVr-1:5’- CCTATTGGCGTTACTATGGGAACATACG-3’(配列番号 86)
PGKr-2 (前出)
KJneo (前出)
PGKr-2 (前出)
これらプライマーについては、LA taq(Takara)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、94℃10秒、60℃30秒、72℃3分を30サイクル行う。
【0251】
ヒト2番染色体領域確認プライマー:
D2S177 F (前出)
D2S177 R (前出)
EIF2AK3-F (前出)
EIF2AK3-R (前出)
RPIA-F (前出)
RPIA-R (前出)
IGKC-F (前出)
IGKC-R (前出)
IGKV-F (前出)
IGKV-R (前出)
Vk3-2 F (前出)
Vk3-2 R (前出)
TaqポリメラーゼはAmpli Taq Gold(Applied Biosystems)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は95℃10分の熱変性後、95℃30秒、60℃30秒、72℃1分を35サイクル行う。
【0252】
ヒト14番染色体領域確認プライマー:
MTA1-F3 (前出)
MTA1-R3 (前出)
ELK2P2-F (前出)
ELK2P2-R (前出)
g1(g2)-F (前出)
g1(g2)-R (前出)
VH3-F (前出)
VH3-R (前出)
CH3F3 (前出)
CH4R2 (前出)
これらプライマーを用いたPCRについて、TaqポリメラーゼはAmpli Taq Gold(Applied Biosystems)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は95℃10分の熱変性後、95℃30秒、60℃30秒もしくは56℃30秒、72℃1分を35サイクル行う。PCR陽性のクローンについて以降の解析を行う。
【0253】
[D.3]two−color FISH解析
選別したクローンについて、Human cot−1 DNA及びMouse cot−1 DNAをプローブにしてFISH解析を行う。副産物であるNACに載らないヒト14番染色体に、余分なヒト2番染色体領域が転座して染色体が長くなっていれば、相互転座が起こったことが示唆される。さらに、プローブとしてBACクローンCH17−405H5(IGK領域:CHORI)とCH17−262H11(IGH領域:CHORI)及びCH17−216K2(IGK領域:CHORI)とCH17−212P11(IGH領域:CHORI)の組み合わせを用いてtwo−color FISH解析を行い、実際IGHK−NACが構築されているか詳細に解析する。IGHK−NACと考えられる染色体が1コピーで独立して存在していることが確認できたクローンを以降用いる。
【0254】
[E]IGHK−NACのCHO K1細胞株への移入
IGHK−NAC及びIGHK−NAC構築のための相互転座の際に形成された副産物の両方にNeo耐性遺伝子がのっており、微小核細胞融合法で目的の細胞に移入した際、G418で薬剤選択するとIGHK−NACもしくは副産物がそれぞれあるいは両方移入された細胞を取得することになる。NAC上にはEGFPが搭載されているので、目的の細胞にIGHK−NACが移入されているか確認することが可能であるが、染色体導入が効率的に行えるドナー細胞でかつIGHK−NACのみを保持する細胞を作製するため、IGHK−NACをCHO K1細胞株に移入する。
【0255】
[E.1]微小核細胞融合と薬剤耐性クローンの単離:染色体移入による、IGHK−NACのみを保持する細胞株を作製する。
ドナー細胞であるCHO IGHK−NACを細胞培養皿で培養し、コンフルエントになった時点で20%FBS、0.1μg/mlコルセミドを添加したF12培地に交換し、さらに48時間培養後に20%FBS、0.1μg/mlコルセミドを添加したF12培地で培地交換し、さらにオーバーナイトでインキュベートしてミクロセルを形成させる。培養液を除去し、予め37℃で保温したサイトカラシンB(10μg/ml,シグマ)溶液を遠心用フラスコに満たし、34℃、8000rpm、1時間の遠心を行った。微小核(「ミクロセル」ともいう)を無血清DMEM培地に懸濁し、8μm,5μm,3μmフィルターにて精製する。精製後、ミクロセルをDMEMで調製した0.05mg/ml PHA−P(シグマ)溶液2mLに懸濁し、6cm細胞培養皿でコンフルエントになったレシピエントであるCHO K1細胞株に、培養液を除いた後添加する。15分インキュベートして微小核をCHO細胞に張り付ける。その後、PEG1000(Wako)溶液[5gのPEG1000を無血清DMEM培地6mLに完全に溶解し、ジメチルスルホキシドを1ml添加して濾過滅菌する]を1mlで正確に1分融合する。5mLの無血清DMEMでPEGを除去するために4回ウオッシュ操作を行った後、CHO培養液を添加する。24時間後、10cm細胞培養皿10枚に細胞を播種し、800μg/mL G418を添加し、10日選択培養を行った。得られた薬剤耐性株については、IGHK−NAC上GFP遺伝子の蛍光タンパク発現を確認し、以降の解析に用いる。
【0256】
[E.2]PCR解析による薬剤耐性クローンの選別
IGHK−NACがCHO K1細胞株に移入されていることを確認するため、薬剤耐性クローンのDNAを抽出し、それを鋳型としてPCR解析を行う。用いるプライマーを以下に示す。
相互転座連結部位確認プライマー:
TRANS L1 (前出)
TRANS R1 (前出)
CMVr-1 (前出)
PGKr-2 (前出)
KJneo (前出)
PGKr-2 (前出)
これらプライマーについては、LA taq(Takara)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、94℃10秒、60℃30秒、72℃3分を30サイクル行う。
【0257】
ヒト2番染色体領域確認プライマー:
EIF2AK3-F (前出)
EIF2AK3-R (前出)
RPIA-F (前出)
RPIA-R (前出)
IGKC-F (前出)
IGKC-R (前出)
IGKV-F (前出)
IGKV-R (前出)
Vk3-2 F (前出)
Vk3-2 R (前出)
TaqポリメラーゼはAmpli Taq Gold(Applied Biosystems)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は95℃10分の熱変性後、95℃30秒、60℃30秒、72℃1分を35サイクル行う。
【0258】
ヒト14番染色体領域確認プライマー:
MTA1-F3 (前出)
MTA1-R3 (前出)
ELK2P2-F (前出)
ELK2P2-R (前出)
g1(g2)-F (前出)
g1(g2)-R (前出)
VH3-F (前出)
VH3-R (前出)
CH3F3 (前出)
CH4R2 (前出)
これらプライマーを用いたPCRについて、TaqポリメラーゼはAmpli Taq Gold(Applied Biosystems)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は95℃10分の熱変性後、95℃30秒、60℃30秒もしくは56℃30秒、72℃1分を35サイクル行う。PCRの結果からIGHK−NACのみ保持していることを示唆したクローンについて以降の解析を行う。
【0259】
[E.3]two−color FISH解析
選別したクローンについて、Human cot−1 DNA及びMouse cot−1 DNAをプローブにしてFISH解析を行い、期待通りIGHK−NACのみを保持していることを確認する。加えて、プローブとしてBACクローンCH17−405H5(IGK領域:CHORI)とCH17−262H11(IGH領域:CHORI)及びCH17−216K2(IGK領域:CHORI)とCH17−212P11(IGH領域:CHORI)の組み合わせを用いてtwo−color FISH解析を行い、実際IGHK−NACが構築されているか詳細に解析する。
【0260】
[F]マウスES細胞へのIGHK−NACの移入
ヒト抗体産生マウスを作製するためにはIGHK−NACをマウスES細胞に移入し、受精卵8細胞期にインジェクションし、キメラマウスを作製し、IGHK−NACを子孫伝達させることが必要である。IGHK−NACを保持したマウスES細胞の作製を行う。
【0261】
[F.1]微小核細胞融合と薬剤耐性クローンの単離
ドナー細胞は、CHO K1 IGHK−NACを用いる。ドナー細胞を細胞培養皿で培養し、コンフルエントになった時点で20%FBS、0.1μg/mlコルセミドを添加したF12培地に交換し、さらに48時間培養後に20%FBS、0.1μg/mlコルセミドを添加したF12培地で培地交換し、さらにオーバーナイトでインキュベートしてミクロセルを形成させる。培養液を除去し、予め37℃で保温したサイトカラシンB(10μg/ml,シグマ)溶液を遠心用フラスコに満たし、34℃、8000rpm、1時間の遠心を行う。微小核(「ミクロセル」ともいう)を無血清DMEM培地に懸濁し、8μm,5μm,3μmフィルターにて精製する。精製後、2000rpm,10分間遠心した。2000rpm,10分間遠心し、無血清DMEM培地5mlに懸濁する。さらに2000rpm,10分間遠心した。レシピエント細胞には、マウスES細胞HKD31 6TG−9(マウスのIgh及びIgk遺伝子が破壊されている。国際公開WO98/37757号に記載)及びXO ES9(抗体遺伝子は破壊されていない。)を用いる。培養には、DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium−high glucose:SIGMA)に、10%FCS、LIF(Murine Leukemia Inhibitory Factor)、1×10‐5M 2−ME(2−メルカプトエタノール:SIGMA)、L−グルタミン(3.5g/ml:GIBCO)、Sodium pyruvate溶液(3.5g/ml:GIBCO)、MEM非必須アミノ酸(0.125mM:GIBCO)を添加し、5%CO、37℃にて培養をおこなう。10cm細胞培養皿でコンフルエントになったマウスES細胞をPBS(−)で細胞表面を2回洗浄後にトリプシン処理により細胞を分散させ、DMEM培地に10%FBSを添加した培養液で回収し、1500rpmで遠心し、上清を除去し、無血清培養液5mlに再度懸濁し、ミクロセルの遠心後のペレットを含む無血清培地に静かに添加し、さらに1200rpmで遠心する。上清を除去し、PEG1000(Wako)溶液[5gのPEG1000を無血清DMEM培地に完全に溶解し、ジメチルスルホキシドを1ml添加して濾過滅菌する]を0.5mlで正確に1分30秒間融合する。13mlの無血清培養液(DMEM)を静かに添加し、1200rpmで遠心した。上清を除去し、通常のマウスES細胞の培養液を添加し、マイトマイシン処理したG418耐性マウス胎生線維芽細胞をフィーダー細胞として使用し、直径10cm細胞培養皿2枚に播種し、オーバーナイトでインキュベートする。G418を250μg/mLになるように加え、3〜4週間選択培養する。薬剤耐性かつEGFP陽性株について以降の解析を行う。
【0262】
[F.2]PCR解析による薬剤耐性クローンの選別
IGHK−NACが各種マウスES細胞株に移入されていることを確認するため、薬剤耐性クローンのDNAを抽出し、それを鋳型としてPCR解析を行う。用いるプライマーを以下に示す。
相互転座連結部位確認プライマー:
TRANS L1 (前出)
TRANS R1 (前出)
KJneo (前出)
PGKr-2 (前出)
これらプライマーについては、LA taq(Takara)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、94℃10秒、60℃30秒、72℃3分を30サイクル行う。
【0263】
ヒト2番染色体領域確認プライマー:
EIF2AK3-F (前出)
EIF2AK3-R (前出)
RPIA-F (前出)
RPIA-R (前出)
IGKC-F (前出)
IGKC-R (前出)
IGKV-F (前出)
IGKV-R (前出)
Vk3-2 F (前出)
Vk3-2 R (前出)
TaqポリメラーゼはAmpli Taq Gold(Applied Biosystems)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は95℃10分の熱変性後、95℃30秒、60℃30秒、72℃1分を35サイクル行う。
【0264】
ヒト14番染色体領域確認プライマー:
MTA1-F3 (前出)
MTA1-R3 (前出)
ELK2P2-F (前出)
ELK2P2-R (前出)
g1(g2)-F (前出)
g1(g2)-R (前出)
VH3-F (前出)
VH3-R (前出)
CH3F3 (前出)
CH4R2 (前出)
これらプライマーを用いたPCRについて、TaqポリメラーゼはAmpli Taq Gold(Applied Biosystems)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は95℃10分の熱変性後、95℃30秒、60℃30秒もしくは56℃30秒、72℃1分を35サイクル行う。PCRの結果からIGHK−NACを保持していることを示唆したクローンについて以降の解析を行う。
【0265】
[F.3]two−color FISH解析
Human cot−1 DNA及びMouse cot−1 DNAをプローブにしてFISH解析を行い、IGHK−NACの独立保持と宿主の核型が正常であることを確認する。期待した結果が得られたクローンについてキメラマウス作製に用いる。
【0266】
[G]ラットES細胞へのIGHK−NACの移入
ヒト抗体産生ラットを作製するためにはIGHK−NACをラットES細胞に移入し、8細胞期胚にインジェクションし、キメララットを作製し、IGHK−NACを子孫伝達させることが必要である。
【0267】
[G.1]微小核細胞融合と薬剤耐性クローンの単離
CHO K1 IGHK−NACをドナーとして、上記F.1記載のようにマウスES細胞への微小核細胞融合法と同様の手法を用いてラットES細胞へのIGHK−NACの導入を行う。融合後、オーバーナイトでインキュベーションし、G418を150μg/mLになるように加え、3〜4週間選択培養する。薬剤耐性及びGFP陽性を示す株を選別し、以降の解析を行う。
【0268】
[G.2]PCR解析による薬剤耐性クローンの選別
IGHK−NACがラットES細胞株に移入されていることを確認するため、薬剤耐性クローンのDNAを抽出し、それを鋳型としてPCR解析を行う。用いるプライマーを以下に示す。
相互転座連結部位確認プライマー:
TRANS L1 (前出)
TRANS R1 (前出)
KJneo (前出)
PGKr-2 (前出)
これらプライマーについては、LA taq(Takara)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、94℃10秒、60℃30秒、72℃3分を30サイクル行う。
【0269】
ヒト2番染色体領域確認プライマー:
EIF2AK3-F (前出)
EIF2AK3-R (前出)
RPIA-F (前出)
RPIA-R (前出)
IGKC-F (前出)
IGKC-R (前出)
IGKV-F (前出)
IGKV-R (前出)
Vk3-2 F (前出)
Vk3-2 R (前出)
TaqポリメラーゼはAmpli Taq Gold(Applied Biosystems)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は95℃10分の熱変性後、95℃30秒、60℃30秒、72℃1分を35サイクル行う。
【0270】
ヒト14番染色体領域確認プライマー:
MTA1-F3 (前出)
MTA1-R3 (前出)
ELK2P2-F (前出)
ELK2P2-R (前出)
g1(g2)-F (前出)
g1(g2)-R (前出)
VH3-F (前出)
VH3-R (前出)
CH3F3 (前出)
CH4R2 (前出)
これらプライマーを用いたPCRについて、TaqポリメラーゼはAmpli Taq Gold(Applied Biosystems)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は95℃10分の熱変性後、95℃30秒、60℃30秒もしくは56℃30秒、72℃1分を35サイクル行う。PCRの結果からIGHK−NACを保持していることを示唆したクローンについて以降の解析を行う。
【0271】
[G.3]two−color FISH解析
Human cot−1 DNA及びMouse cot−1 DNAをプローブにしてFISH解析を行い、期待通りIGHK−NACを独立保持しており、ラットESの正常核型(42本)を維持していることが確認できた株についてキメララット作製に用いる。
【0272】
[H]IGHK−NACを保持したマウスの作製
IGHK−NACを保持したマウスの作製及び、解析を行う。過程で得られたキメラについても解析を行う。
【0273】
[H.1]キメラマウスの作製
得られたIGHK−NACを保持するマウスES細胞を用いて(ジーンターゲティング、実験医学、1995)の手法に従い、キメラマウスを作製する。宿主としてはMCH(ICR)(白色、日本クレア社より購入)の雌雄交配により得られる桑実胚及び8細胞期胚を用いる。注入胚を仮親に移植した結果生まれる仔マウスは毛色によりキメラであるかどうかを判定できる。
【0274】
[H.2]キメラマウスのIGHK−NAC保持解析
誕生後3週以上を経たキメラマウスから(勝木元也,発生工学実験マニュアル,講談社サイエンティフィク,1987)に記された方法に従い尻尾を取得し、Puregene DNA Isolation Kit(Qiagen)を用いてゲノムDNAを抽出する。上記G.2記載のプライマー及びPCR条件により、PCR解析を行い、IGHK−NAC保持を確認する。
さらに、キメラマウスから採血を行った後、細胞固定を行い標本作製し、Human cot−1及びMouse minor satellite DNAをプローブとしてFISH解析を行うことで、IGHK−NACを保持した細胞を染色体レベルで確認する。
【0275】
[H.3]IGHK−NACを保持するES細胞由来キメラマウスにおけるヒトIGM発現評価
HKD31マウスES細胞はマウスIgh,Igk遺伝子が破壊されている。Bリンパ球の発生に必須な抗体μ鎖遺伝子ノックアウトマウスは体液性免疫を担う成熟Bリンパ球が欠損していることにより抗体を産生することができない。したがって、HKD31マウスES細胞は、キメラマウスにおいて成熟B細胞になれない。キメラマウス作製に用いるIGHK−NAC保持HKD31マウス細胞について、IGHK−NACからヒトIGMが発現すれば、この欠損を救済可能で、GFP陽性のB細胞を検出することができる。これにより、IGHK−NAC上のIGM遺伝子の機能的発現が間接的に検証できる。キメラマウスより血液を採取し、マウスCD45R(B220)に対する抗体染色を用い、マウスB細胞をフローサイトメーターにより検出する。CD45RとGFP共陽性の細胞が存在するか解析を行うことで、IGHK−NAC由来IGMの機能的発現を確認することができる。ヒトIGMとマウスCD45R(B220)に対する抗体を用いて、血液細胞を染色し、ヒトIGM、CD45R、GFP陽性の細胞を確認する。末梢血を採血し、ヘパリンPBSの入ったチューブに血液を移し、転倒混和して氷冷する。遠心(2000rpm、3分、4℃)の後、上清除去後、各種抗体を添加し、4℃で30分反応させ、5%牛胎仔血清を添加したPBS(5%FBS/PBS)により洗浄する。最後の遠心後、ペレットに1.2%Dextran/生理食塩水を加え、タッピング後、室温で45分静置し、赤血球を自然沈降させる。上清を新しいチューブに移し、2000rpm、3分、4℃で遠心後上清除去し、ペレットに室温の溶血剤(0.17M NHCl)を加え、5分静置する。2000rpm、3分、4℃で遠心し、5%FBS/PBSで洗浄した後500μlの5%FBS/PBSで懸濁したものを解析サンプルとし、フローサイトメーターにより解析する。
【0276】
[H.4]キメラマウス血清中のヒト抗体検出
キメラマウスにおいて、ヒト抗体遺伝子軽鎖、重鎖、各種アイソタイプ発現確認を目的として、血清中のヒト抗体濃度をエンザイムリンクドイムノソルベントアッセイ(ELISA)を用いて測定する。ELISAは以下に記載されている方法に従う。富山・安東、単クローン抗体実験マニュアル、講談社、1987;安東・千葉、単クローン抗体実験操作入門、講談社、1991;石川、超高感度酵素免疫測定法、学会出版センター、1993:Ed Harlow and David Lane,Antibodies A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,1988;A.Doyle and J.B.Griffiths,Cell&Tissue Culture:Laboratory Procedures,John Wiley&Sons Ltd.,1996。これらの文献に記載の方法を参考にして、測定系によっては反応時間や温度を4℃で終夜行うなどの改良を行う。特定の抗体検出については、kitを用いて実施する。ヒト抗体(hγ、hμ、hκ、hγ1、hγ2、hγ3、hγ4、hα、hε、hδ)の発現及び血清中の濃度を測定する。基本的な操作を以下に示す。
【0277】
測定しようとするヒト免疫グロブリンに対する抗体を希釈し、ELISAプレートを4℃で一晩コーティングする。血清試料の測定では、ブロッキング、試料及び標識抗体の希釈に5%牛胎仔血清を添加したPBSを用いる。コーティングしたプレートを洗浄した後、ブロッキングを1時間以上行う。プレートを洗浄後、試料を加えて30分以上インキュベートするプレート洗浄後、希釈した酵素標識抗ヒト及びマウス免疫グロブリン抗体を加えて、1時間以上インキュベートした後、プレートを洗浄し基質液を加えて発色させる。また測定系によって、基本的には同じ操作で、ビオチン標識した抗体を用い、プレート洗浄後これにアビジン−酵素複合体を加えてインキュベートした後洗浄し基質液を加える。マイクロプレートリーダーで吸光度を測定する。血清中の濃度の測定には濃度既知の標準を段階希釈してELISAをサンプルと同時に行い、検量線を引いて解析することで濃度を特定できる。
【0278】
[H.5]ヒト抗体の発現解析及び配列同定
キメララット脾臓由来RNAからcDNAを合成し、ヒト抗体遺伝子可変領域クローニングと塩基配列決定を行う。方法は国際公開WO98/37757号に記されている方法同様実施することで解析、評価できる。
【0279】
[H.6]抗原特異的ヒト抗体産生応答の評価
キメラマウスについて、抗原特異的ヒト抗体価の増加が見られるかを評価する。方法は特許(国際公開WO98/37757号)に記されている方法同様にヒト血清アルブミンで免疫し、抗体力価の上昇を解析する。
【0280】
[I]IGHK−NACを保持するキメラマウスからのIGHK−NACの子孫伝達
[I.1]IGHK−NAC子孫伝達
上記[H]で作製される雌キメラマウス(キメラ率約100%)をICR雄マウスと交配し、誕生した仔マウスについて、ES細胞由来のIGHK−NACの優性遺伝形質である、GFPの蛍光を観察する。GFPの蛍光が観察されれば、マウス個体においてIGHK−NACが子孫伝達し、安定に保持されていることが確認できる。IGHK−NACが子孫伝達されたマウス系統をmTC(IGHK−NAC)と呼ぶ。
[I.2]IGHK−NACを保持するマウスのIGHK−NAC保持確認
mTC(IGHK−NAC)について(実施例7)[H.2]同様解析を行うことでIGHK−NACの子孫伝達を詳細に確認できる。
[I.3]IGHK−NACを保持するマウスのヒト抗体産生能評価
mTC(IGHK−NAC)について(実施例7)[H.4][H.5][H.6]同様に評価する。
【0281】
[J]IGHK−NACを保持するラットの作製
IGHK−NACを保持したラットの作製及び、解析を行う。過程で得られたキメラについても解析を行う。
[J.1]キメララットの作製
上記実施例7[G]で得られたIGHK−NAC保持ラットES細胞クローンを用いてHirabayashiらの方法(Mol Reprod Dev. 2010 Feb;77(2):94.doi:10.1002/mrd.21123.)でキメララットを作製した。宿主としてはCrlj:WIラット(白色、日本チャールスリバー社より購入)の雌雄交配により得られる胚盤胞期胚を用いた。注入胚を仮親に移植した結果生まれる仔ラットは毛色によりキメラであるかどうかを判定できる。ES細胞由来のIGHK−NACの優性遺伝形質である、GFPの蛍光も産まれて間もない時期に観察し、ES細胞の寄与を確認する。
[J.2]IGHK−NACを保持するES細胞由来キメララットのIGHK−NAC保持確認
上記[H.2]同様に解析を行い、IGHK−NAC保持をより詳細に確認する。血液細胞についてHuman cot−1及びMouse cot−1 DNAをプローブとして用い、FISH解析を実施する。
[J.3]キメララットのヒト抗体産生能評価
キメララットについて(実施例7) [A.4][A.5][A.6]同様に評価する。
【0282】
[K]IGHK−NACを保持するキメララットからのIGHK−NACの子孫伝達
[K.1]IGHK−NACを保持するキメララットからのIGHK−NACの子孫伝達
上記[J]で作製されたキメララット(キメラ率約100%)とCrlj:WIラットを交配し、誕生した仔ラットについてES細胞由来のIGHK−NACの優性遺伝形質である、GFPの蛍光を観察する。GFPの蛍光が観察され、ラット個体においてIGHK−NACが子孫伝達し、安定に保持されていることを確認する。IGHK−NACが子孫伝達されたラット系統をrTC(IGHK−NAC)と呼ぶ。
[K.2]IGHK−NACを保持するラットのIGHK−NAC保持確認
rTC(IGHK−NAC)について[J.2]同様解析を行うことでIGHK−NACの子孫伝達を詳細に確認できる。
[K.3]IGHK−NACを保持するラットのヒト抗体産生能評価
rTC(IGHK−NAC)について(実施例7)[H.4][H.5][H.6]同様に評価する。
【0283】
[実施例8]新規マウス人工染色体ベクターを用いたヒト抗体産生(IGHL−NAC)マウス及びラットの作製
ヒト抗体遺伝子(IGH、IGL)をNACへ搭載することでIGHL−NACを構築し、IGHL−NACを保持したヒト抗体産生マウス及びラットの作製を行う(図21)。
【0284】
[A]NACを保持するCHO細胞への改変ヒト22番染色体の移入
改変ヒト22番染色体保持CHO細胞より改変ヒト22番染色体をNAC保持CHO細胞に導入する。
【0285】
[A.1]微小核細胞融合法による改変ヒト22番染色体のNAC保持Hprt欠損CHO細胞への移入
ドナー細胞である改変ヒト22番染色体CHO細胞(CHO hChr22LF)を細胞培養皿で培養し、コンフルエントになった時点で20%FBS、0.1μg/mlコルセミドを添加したF12培地に交換し、さらに48時間培養後に20% FBS、0.1μg/mlコルセミドを添加したF12培地で培地交換し、さらにオーバーナイトでインキュベートしてミクロセルを形成させる。培養液を除去し、予め37℃で保温したサイトカラシンB(10μg/ml,シグマ)溶液を遠心用フラスコに満たし、34℃、8000rpm、1時間の遠心を行う。微小核(「ミクロセル」ともいう)を無血清DMEM培地に懸濁し、8μm,5μm,3μmフィルターにて精製する。精製後、ミクロセルをDMEMで調製した0.05mg/ml PHA−P(シグマ)溶液2mLに懸濁し、6cm細胞培養皿でコンフルエントになったレシピエントであるNAC保持Hprt欠損CHO細胞株に、培養液を除いた後添加する。15分インキュベートして微小核をCHO細胞に張り付ける。その後、PEG1000(Wako)溶液[5gのPEG1000を無血清DMEM培地6mLに完全に溶解し、ジメチルスルホキシドを1ml添加して濾過滅菌する]を1mlで正確に1分融合する。5mLの無血清DMEMでPEGを除去するために4回ウオッシュ操作を行った後、CHO培養液を添加する。24時間後、10cm細胞培養皿10枚に細胞を播種し、8μg/mLブラストサイジンSを添加し、10日選択培養を行った。得られた薬剤耐性株ついて以降の解析を行う。
【0286】
[A.2]PCR解析による薬剤耐性クローンの選別
ブラストサイジンS耐性株のゲノムを抽出し、鋳型としてPCR解析を行い、改変ヒト2番染色体の保持を確認する。そのプライマー配列を以下に示す。
改変ヒト22番染色体loxP配列確認プライマー:
22CeT La L:5’-CCTGCCTTCTTGTTTCAGCTCTCAACTG-3’(配列番号87)
22CeT La R:5’-GACGTGCTACTTCCATTTGTCACGTCCT-3’(配列番号88)
22CeT Ra L:5’-ATCCCCATGTGTATCACTGGCAAACTGT-3’(配列番号89)
22CeT Ra R:5’-ACACTTTAGTCCCTGTCCCCTCAACGAG-3’(配列番号90)
PCRは、サーマルサイクラーとしてTakara社製のTP600を、PCR酵素はKOD FX(TOYOBO)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、98℃15秒、68℃5分を35サイクル行う。
【0287】
改変ヒト22番染色体FRT配列確認プライマー:
22TeT La L:5’-TGCAGGTATCTGTTGGTGTCCCTGTTTT-3’(配列番号91)
22TeT La R:5’-GACGTGCTACTTCCATTTGTCACGTCCT-3’(配列番号92)
22TeT Ra L:5’-AGCAGAGCTCGTTTAGTGAACCGTCAGA-3’(配列番号93)
22TeT Ra R:5’-CTGTCCTATCCTTGCAGCTGTCTTCCAG-3’(配列番号94)
PCRは、サーマルサイクラーとしてTakara社製のTP600を、PCR酵素はKOD FX(TOYOBO)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、98℃15秒、68℃5分を35サイクル行えば組換えが確認する。
【0288】
加えて、ヒト2番染色体上のプライマーを用い領域が保持されているかを確認する。そのプライマー配列を以下に示す。
553P-F:5’-AGATCTCTTGAGCCCAGCAGTTTGA-3’(配列番号95)
553P-R:5’-TGAAGTTAGCCGGGGATACAGACG-3’(配列番号96)
PPM1F L:5’-AACGGCAGCCAAACCAAAGA-3’(配列番号97)
PPM1F R:5’-ACCAGGACTGGCTGGGCATA-3’(配列番号98)
IGLVI-70 L:5’-AGTCTGCGCTGACCCAGGAA-3’(配列番号99)
IGLVI-70 R:5’-TTGAGCCAGAGAAGCGGTCA-3’(配列番号100)
GNAZ L:5’-TCCACTTGGGGGTCTGCATT-3’(配列番号101)
GNAZ R:5’-TGGTGCTGAGCAGCTGTGTG-3’(配列番号102)
LIF L:5’-TGGGACTTAGGTGGGCCAGA-3’(配列番号103)
LIF R:5’-GCCTCCCCAAGAGCCTGAAT-3’(配列番号104)
hVpreB1-F:5’-TGTCCTGGGCTCCTGTCCTGCTCAT-3’(配列番号105)
hVpreB1-Rm:5’-GGCGGCGACTCCACCCTCTT-3’(配列番号106)
hVpreB3-F:5’-CACTGCCTGCCCGCTGCTGGTA-3’(配列番号107)
hVpreB3-R:5’-GGGCGGGGAAGTGGGGGAGAG-3’(配列番号108)
hL5-F:5’-AGCCCCAAGAACCCAGCCGATGTGA-3’(配列番号109)
hL5-R:5’-GGCAGAGGGAGTGTGGGGTGTTGTG-3’(配列番号110)
344-F:5’-ATCATCTGCTCGCTCTCTCC-3’(配列番号111)
344-R:5’-CACATCTGTAGTGGCTGTGG-3’(配列番号112)
350P-F:5’-ACCAGCGCGTCATCATCAAG-3’(配列番号113)
350P-R:5’-ATCGCCAGCCTCACCATTTC-3’(配列番号114)
IgL-F:5’-GGAGACCACCAAACCCTCCAAA-3’(配列番号115)
IgL-Rm:5’-GAGAGTTGGAGAAGGGGTGACT-3’(配列番号116)
SERPIND1 L:5’-ACCTAGAGGGTCTCACCTCC-3’(配列番号117)
SERPIND1 R:5’-CCCTGGACATCAAGAATGG-3’(配列番号118)
これらプライマーを用いたPCRについて、TaqポリメラーゼはAmpli Taq Gold(Applied Biosystems)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は95℃10分の熱変性後、95℃30秒、63、62、60、56、55、50℃のいずれかで30秒、72℃1分を35サイクル行う。
PCR陽性クローンについて以降の解析を行う。
【0289】
[A.3]two−color FISH解析
PCR解析陽性クローンについて、Human cot−1 DNA及びMouse cot−1 DNAをプローブにしてFISH解析を行い、NACと改変ヒト22番染色体が独立して保持されている陽性細胞を選別する。
【0290】
[B]転座クローニングによるヒト22番染色体IGL領域のマウス人工染色体ベクター(NAC)への搭載
NACを保持するCHO細胞において、ヒト22番染色体上IGK領域をNACへ転座クローニングする。転座クローニングにはCre/loxPシステムを用い、ヒト2番染色体とNACを相互転座させることで、IGL領域をNACに搭載する(図22)。
【0291】
[B.1]Cre発現によるHAT耐性染色体組換え体の取得
NACにはloxPサイトが搭載されており、Cre組換え酵素存在下で改変ヒト2番染色体のloxPサイトと組換えが起こるようになっている。また、組換えが起こると副産物となるNACに載らないヒト2番染色体領域の5’HPRTと副産物となるNAC末端の3’HPRTが連結して、HPRT遺伝子の再構成が起こり、CHO(hprt−/−)はHAT耐性を獲得する。
改変ヒト2番染色体とNACを保持するHprt欠損CHO細胞について、10cm細胞培養皿においてコンフルエントになった時に、18μgのCre発現プラスミド(ベクター名:pBS185)をLipofectamine2000(Thermo Fisher Scientific)を用いてメーカーの手順を参照して加える。添加後6時間経過したら、培養液を交換し、24時間後に、10cm細胞培養皿10枚に播種し、1×HAT(シグマ)、4μg/mL Blasticidinで薬剤選択を行う。得られた薬剤耐性株を以降の解析に用いる。
【0292】
[B.2]PCR解析による薬剤耐性クローンの選別
HAT耐性株のゲノムDNAを抽出して鋳型として相互転座クローンを選別するため、以下のプライマーを用いてPCRを行い、ヒト2番染色体断片とNAC上で染色体相互転座が起こっているかを確認する。そのプライマー配列を以下に示す。
TRANS L1 (前出)
TRANS R1 (前出)
KJneo (前出)
PGKr-2 (前出)
これらプライマーについては、LA taq(Takara)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、94℃10秒、60℃30秒、72℃3分を30サイクル行う。
【0293】
FRT挿入部位が維持されているか確認するためのプライマーを以下に示す。
22TeT La L (前出)
22TeT La R (前出)
22TeT Ra L (前出)
22TeT Ra R (前出)
PCRは、サーマルサイクラーとしてTakara社製のTP600を、PCR酵素はKOD FX(TOYOBO)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、98℃15秒、68℃5分を35サイクル行う。
【0294】
また、ヒト22番染色体領域についてPCR解析を行う。以下に配列を示す。
553P-F (前出)
553P-R (前出)
PPM1F L (前出)
PPM1F R (前出)
IGLVI-70 L (前出)
IGLVI-70 R (前出)
GNAZ L (前出)
GNAZ R (前出)
LIF L (前出)
LIF R (前出)
hVpreB1-F (前出)
hVpreB1-Rm (前出)
hVpreB3-F (前出)
hVpreB3-R (前出)
hL5-F (前出)
hL5-R (前出)
344-F (前出)
344-R (前出)
350P-F (前出)
350P-R (前出)
IgL-F (前出)
IgL-Rm (前出)
SERPIND1 L (前出)
SERPIND1 R (前出)
これらプライマーを用いたPCRについて、TaqポリメラーゼはAmpli Taq Gold(Applied Biosystems)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は95℃10分の熱変性後、95℃30秒、63、62、60、56、55、50℃のいずれか30秒、72℃1分を35サイクル行う。
【0295】
[B.3]two−color FISH解析
Human cot−1 DNA及びMouse cot−1 DNAをプローブにしてFISH解析を行い、NACと改変ヒト22番染色体が相互転座をおこしかつ、IGL領域がNACに搭載されたIGL−NAC、副産物が独立して保持されていることを確認する。選別した陽性細胞(CHO IGL−NACと命名する)について、以下の実験を行う。
【0296】
[C]IGL−NACの改変ヒト14番染色体保持CHO(hprt−/−)細胞株への移入
作製したIGL−NACを、改変ヒト14番染色体を保持するCHO(hprt−/−)細胞株へ移入し、FRT/Flpシステムによる組換えを起こさせIGH領域をIGL−NACに搭載し、IGHL−NACを作製する。
【0297】
[C.1]微小核細胞融合と薬剤耐性クローンの単離
ドナー細胞であるCHO IGL−NACを細胞培養皿で培養し、コンフルエントになった時点で20%FBS、0.1μg/mlコルセミドを添加したF12培地に交換し、さらに48時間培養後に20%FBS、0.1μg/mlコルセミドを添加したF12培地で培地交換し、さらにオーバーナイトでインキュベートしてミクロセルを形成させる。培養液を除去し、予め37℃で保温したサイトカラシンB(10μg/ml,シグマ)溶液を遠心用フラスコに満たし、34℃、8000rpm、1時間の遠心を行う。微小核(「ミクロセル」ともいう)を無血清DMEM培地に懸濁し、8μm,5μm,3μmフィルターにて精製する。精製後、ミクロセルをDMEMで調製した0.05mg/ml PHA−P(シグマ)溶液2mLに懸濁し、6cm細胞培養皿でコンフルエントになったレシピエントであるCHO hprt−/−14FRT(PCT/JP2017/039441に記載)、培養液を除いた後添加する。15分インキュベートして微小核をCHO細胞に張り付ける。その後、PEG1000(Wako)溶液[5gのPEG1000を無血清DMEM培地6mLに完全に溶解し、ジメチルスルホキシドを1ml添加して濾過滅菌する]を1mlで正確に1分融合する。5mLの無血清DMEMでPEGを除去するために4回ウオッシュ操作を行った後、CHO培養液を添加する。24時間後、10cm細胞培養皿10枚に細胞を播種し、600μg/mL G418と6μg/mLブラストサイジン(Blasticidin)を添加し、10日選択培養を行う。得られた薬剤耐性株ついて以降の解析を行う。
【0298】
[C.2]PCR解析による薬剤耐性クローンの選別
IGL−NACが改変ヒト14番染色体を保持するCHO(hprt−/−)株に移入されているか、改変ヒト14番染色体は維持されているかを確認するためにPCR解析を行う。以下に用いるプライマーを示す。
IGL−NACの確認プライマー:
KJneo (前出)
PGKr-2 (前出)
これらプライマーについては、LA taq(Takara)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、94℃10秒、60℃30秒、72℃3分を30サイクル行う。
【0299】
FRT挿入部位が維持されているか確認するためのプライマーを以下に示す。
22TeT La L (前出)
22TeT La R (前出)
22TeT Ra L (前出)
22TeT Ra R (前出)
PCRは、サーマルサイクラーとしてTakara社製のTP600を、PCR酵素はKOD FX(TOYOBO)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、98℃15秒、68℃5分を35サイクル行う。
【0300】
また、ヒト22番染色体領域についてPCR解析を行う。以下に配列を示す。
553P-F (前出)
553P-R (前出)
PPM1F L (前出)
PPM1F R (前出)
IGLVI-70 L (前出)
IGLVI-70 R (前出)
GNAZ L (前出)
GNAZ R (前出)
LIF L (前出)
LIF R (前出)
hVpreB1-F (前出)
hVpreB1-Rm (前出)
hVpreB3-F (前出)
hVpreB3-R (前出)
hL5-F (前出)
hL5-R (前出)
344-F (前出)
344-R (前出)
350P-F (前出)
350P-R (前出)
IgL-F (前出)
IgL-Rm (前出)
SERPIND1 L (前出)
SERPIND1 R (前出)
これらプライマーを用いたPCRについて、TaqポリメラーゼはAmpli Taq Gold(Applied Biosystems)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は95℃10分の熱変性後、95℃30秒、63、62、60、56、55、50℃のいずれかで30秒、72℃1分を35サイクル行う。
【0301】
ヒト14番染色体領域の確認プライマー:
MTA1-F3 (前出)
MTA1-R3 (前出)
ELK2P2-F (前出)
ELK2P2-R (前出)
g1(g2)-F (前出)
g1(g2)-R (前出)
VH3-F (前出)
VH3-R (前出)
CH3F3 (前出)
CH4R2 (前出)
これらプライマーを用いたPCRについて、TaqポリメラーゼはAmpli Taq Gold(Applied Biosystems)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は95℃10分の熱変性後、95℃30秒、60℃30秒もしくは56℃30秒、72℃1分を35サイクル行う。
【0302】
改変ヒト14番染色体上FRT挿入部位の確認プライマー:
14TarC_La F (前出)
14TarC_La R (前出)
14TarC_Ra F (前出)
14TarC_Ra R (前出)
これらプライマーについては、KOD FX(TOYOBO)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、98℃15秒、68℃6分を35サイクル行う。
この結果を受けて、クローンを選別し、以降の実験を進める。
【0303】
[C.3]two−color FISH解析
Human cot−1 DNA及びMouse cot−1 DNAをプローブにしてFISH解析を行い、IGL−NACと改変ヒト14番染色体が独立して、1コピーずつ維持されているクローンを確認する。陽性細胞(CHO #14 IGL−NACと命名)を選択し以降の実験を行う。
【0304】
[D]FRT/Flp組換えシステムを用いたIGHL−NACの構築
IGL−NACと改変ヒト14番染色体をFRT/Flpシステムで相互転座させることで、IGL−NAC上にヒト14番染色体由来IGH領域を転座クローニングし、IGHL−NACを構築する(図23)。
【0305】
[D.1]FLP発現によるHAT耐性染色体組換え体の取得
IGL−NAC上のFRTサイトと改変ヒト14番染色体上のFRTサイトを用いて、FLPo組換え酵素存在下で相互転座を起こさせる。また、組換えが起こるとIGHL−NAC上では、5’HPRTと3’HPRTが連結して、HPRT遺伝子の再構成が起こり、HAT耐性を獲得する。CHO#14IGL−NACについて、10cm細胞培養皿においてコンフルエントになった時に18μgのFLP発現プラスミドをLipofectamine2000(Thermo Fisher Scientific)を用いてメーカーの手順を参照して加える。添加後6時間経過したら、培養液を交換し、24時間後に、10cm細胞培養皿10枚に播種し、1×HAT、8μg/mL Blasticidinで薬剤選択を行う。
得られたHAT耐性クローンを以降の解析に用いる。
【0306】
[D.2]PCR解析による薬剤耐性クローンの選別
FRT/FLPシステムを用いて期待した相互転座が起こり、IGHK−NACが構築されているか確認するため、薬剤耐性クローンのDNAを抽出し、鋳型としてPCR解析を行う。用いるプライマーを以下に示す。
相互転座連結部位の確認プライマー:
TRANS L1 (前出)
TRANS R1 (前出)
CMVr-1 (前出)
PGKr-2 (前出)
KJneo (前出)
PGKr-2 (前出)
これらプライマーについては、LA taq(Takara)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、94℃10秒、60℃30秒、72℃3分を30サイクル行う。
【0307】
ヒト22番染色体領域についてPCR解析を行う。以下に配列を示す。
553P-F (前出)
553P-R (前出)
PPM1F L (前出)
PPM1F R (前出)
IGLVI-70 L (前出)
IGLVI-70 R (前出)
GNAZ L (前出)
GNAZ R (前出)
LIF L (前出)
LIF R (前出)
hVpreB1-F (前出)
hVpreB1-Rm (前出)
hVpreB3-F (前出)
hVpreB3-R (前出)
hL5-F (前出)
hL5-R (前出)
344-F (前出)
344-R (前出)
350P-F (前出)
350P-R (前出)
IgL-F (前出)
IgL-Rm (前出)
これらプライマーを用いたPCRについて、TaqポリメラーゼはAmpli Taq Gold(Applied Biosystems)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は95℃10分の熱変性後、95℃30秒、63、62、60、56、55、50℃のいずれかで30秒、72℃1分を35サイクル行う。
【0308】
ヒト14番染色体領域の確認プライマー:
MTA1-F3 (前出)
MTA1-R3 (前出)
ELK2P2-F (前出)
ELK2P2-R (前出)
g1(g2)-F (前出)
g1(g2)-R (前出)
VH3-F (前出)
VH3-R (前出)
CH3F3 (前出)
CH4R2 (前出)
これらプライマーを用いたPCRについて、TaqポリメラーゼはAmpli Taq Gold(Applied Biosystems)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は95℃10分の熱変性後、95℃30秒、60℃30秒もしくは56℃30秒、72℃1分を35サイクル行う。
PCR結果によりクローンを選別し、以降の実験に用いる。
【0309】
[D.3]two−color FISH解析
プローブとしてBACクローンCH17−424L4(IGL領域)とCH17−262H11(IGH領域)及びCH17−95F2(IGL領域)とCH17−212P11(IGH領域)の組み合わせを用いてtwo−color FISH解析を行い、実際IGHL−NACが構築されているか詳細に解析する。NAC上にそれぞれ、IGL領域とIGH領域の存在を示すシグナルが観察されたものを陽性とし、IGHL−NACが構築されていることを確認(CHO IGHL−NACと命名)しクローンを選別し、以降の実験を行う。
【0310】
[E]IGHL−NACのCHO K1細胞株への移入
IGHL−NAC及びIGHL−NAC構築のための相互転座の際に形成された副産物の両方にNeo耐性遺伝子が載っており、微小核細胞融合法で目的の細胞に移入した際、G418で薬剤選択するとIGHL−NACもしくは副産物がそれぞれあるいは両方移入された細胞を取得することになる。NAC上にはEGFPが搭載されているので、目的の細胞にIGHL−NACが移入されているか確認することが可能であるが、染色体導入が効率的に行えるドナー細胞でかつIGHL−NACのみを保持する細胞を作製するため。IGHL−NACをCHO K1細胞株に移入する。
【0311】
[E.1]微小核細胞融合と薬剤耐性クローンの単離:IGHL−NACのCHO K1株への移入
ドナー細胞であるCHO IGHL−NACを細胞培養皿で培養し、コンフルエントになった時点で20%FBS、0.1μg/mlコルセミドを添加したF12培地に交換し、さらに48時間培養後に20%FBS、0.1μg/mlコルセミドを添加したF12培地で培地交換し、さらにオーバーナイトでインキュベートしてミクロセルを形成させる。培養液を除去し、予め37℃で保温したサイトカラシンB(10μg/ml,シグマ)溶液を遠心用フラスコに満たし、34℃、8000rpm、1時間の遠心を行った。微小核(「ミクロセル」ともいう)を無血清DMEM培地に懸濁し、8μm,5μm,3μmフィルターにて精製する。精製後、ミクロセルをDMEMで調製した0.05mg/ml PHA−P(シグマ)溶液2mLに懸濁し、6cm細胞培養皿でコンフルエントになったレシピエントであるCHO K1細胞株に、培養液を除いた後添加する。15分インキュベートして微小核をCHO細胞に張り付ける。その後、PEG1000(Wako)溶液[5gのPEG1000を無血清DMEM培地6mLに完全に溶解し、ジメチルスルホキシドを1ml添加して濾過滅菌する]を1mlで正確に1分融合する。5mLの無血清DMEMでPEGを除去するために4回ウオッシュ操作を行った後、CHO培養液を添加する。24時間後、10cm細胞培養皿10枚に細胞を播種し、800μg/mL G418を添加し、10日選択培養を行う。得られた薬剤耐性株について以降の解析を行う。
【0312】
[E.2]PCR解析による薬剤耐性クローンの選別
IGHL−NACがCHO K1細胞株に移入されていることを確認するため、薬剤耐性クローンのDNAを抽出し、それを鋳型としてPCR解析を行った。用いたプライマーを以下に示す。
相互転座連結部位確認プライマー:
TRANS L1 (前出)
TRANS R1 (前出)
CMVr-1 (前出)
PGKr-2 (前出)
KJneo (前出)
PGKr-2 (前出)
これらプライマーについては、LA taq(Takara)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、94℃10秒、60℃30秒、72℃3分を30サイクル行う。
【0313】
ヒト22番染色体領域についてPCR解析を行う。以下に配列を示す。
553P-F (前出)
553P-R (前出)
PPM1F L (前出)
PPM1F R (前出)
IGLVI-70 L (前出)
IGLVI-70 R (前出)
hVpreB1-F (前出)
hVpreB1-Rm (前出)
hVpreB3-F (前出)
hVpreB3-R (前出)
hL5-F (前出)
hL5-R (前出)
344-F (前出)
344-R (前出)
350P-F (前出)
350P-R (前出)
IgL-F (前出)
IgL-Rm (前出)
これらプライマーを用いたPCRについて、TaqポリメラーゼはAmpli Taq Gold(Applied Biosystems)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は95℃10分の熱変性後、95℃30秒、63、62、60、56、55、50℃のいずれかで30秒、72℃1分を35サイクル行う。
【0314】
ヒト14番染色体領域の確認プライマー:
MTA1-F3 (前出)
MTA1-R3 (前出)
ELK2P2-F (前出)
ELK2P2-R (前出)
g1(g2)-F (前出)
g1(g2)-R (前出)
VH3-F (前出)
VH3-R (前出)
CH3F3 (前出)
CH4R2 (前出)
これらプライマーを用いたPCRについて、TaqポリメラーゼはAmpli Taq Gold(Applied Biosystems)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は95℃10分の熱変性後、95℃30秒、60℃30秒もしくは56℃30秒、72℃1分を35サイクル行う。PCR解析陽性細胞株について以降の解析を行う。
【0315】
[E.3]two−color FISH解析
Human cot−1 DNA及びMouse cot−1 DNAをプローブにしてFISH解析を行い、IGHL−NACを1コピー独立して保持していることを確認する。
さらに、プローブとしてBACクローンCH17−424L4 (IGL領域)とCH17−262H11(IGH領域)及びCH17−95F2 (IGL領域)とCH17−212P11(IGH領域)の組み合わせを用いてtwo−color FISH解析を行い、IGHL−NACの構造を詳細に解析する。NAC上にそれぞれ、IGL領域とIGH領域の存在を示すシグナルが観察されたものを陽性(CHO K1 IGHL−NACと命名)として、以降の実験に用いる。
【0316】
[F]マウスES細胞へのIGHL−NACの移入
ヒト抗体産生マウスを作製するためにはIGHL−NACをマウスES細胞に移入し、受精卵8細胞期にインジェクションし、キメラマウスを作製し、IGHL−NACを子孫伝達させることが必要である。
【0317】
[F.1]微小核細胞融合と薬剤耐性クローンの単離
ドナー細胞は、CHO K1 IGHL−NACを用いる。実施例7[F.1]と同様の手法を用いて微小核細胞融合を行い、EGFP陽性かつ薬剤耐性株を取得し、以降の解析を行う。
【0318】
[F.2]PCR解析による薬剤耐性クローンの選別
IGHL−NACがマウスES細胞株に移入されていることを確認するため、薬剤耐性クローンのDNAを抽出し、それを鋳型としてPCR解析を行う。用いるプライマーを以下に示す。
相互転座連結部位確認プライマー:
TRANS L1 (前出)
TRANS R1 (前出)
KJneo (前出)
PGKr-2 (前出)
これらプライマーについては、LA taq(Takara)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、94℃10秒、60℃30秒、72℃3分を30サイクル行う。
【0319】
ヒト22番染色体領域についてPCR解析を行う。以下に配列を示す。
553P-F (前出)
553P-R (前出)
PPM1F L (前出)
PPM1F R (前出)
IGLVI-70 L (前出)
IGLVI-70 R (前出)
hVpreB1-F (前出)
hVpreB1-Rm (前出)
hVpreB3-F (前出)
hVpreB3-R (前出)
hL5-F (前出)
hL5-R (前出)
344-F (前出)
344-R (前出)
350P-F (前出)
350P-R (前出)
IgL-F (前出)
IgL-Rm (前出)
これらプライマーを用いたPCRについて、TaqポリメラーゼはAmpli Taq Gold(Applied Biosystems)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は95℃10分の熱変性後、95℃30秒、63、62、60、56、55、50℃のいずれか30秒、72℃1分を35サイクル行う。
【0320】
ヒト14番染色体領域の確認プライマー:
MTA1-F3 (前出)
MTA1-R3 (前出)
ELK2P2-F (前出)
ELK2P2-R (前出)
g1(g2)-F (前出)
g1(g2)-R (前出)
VH3-F (前出)
VH3-R (前出)
CH3F3 (前出)
CH4R2 (前出)
これらプライマーを用いたPCRについて、TaqポリメラーゼはAmpli Taq Gold(Applied Biosystems)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は95℃10分の熱変性後、95℃30秒、60℃30秒もしくは56℃30秒、72℃1分を35サイクル行う。PCR解析陽性細胞株について以降の解析を行う。
【0321】
[F.3]two−color FISH解析
Human cot−1 DNA及びMouse cot−1 DNAをプローブにしてFISH解析を行い、IGHL−NACのみを保持しており、マウスESの正常核型を維持していることを確認する。
プローブとしてBACクローンCH17−95F2(IGL領域)とCH17−262H11(IGH領域)及びCH17−424L4(IGL領域)とCH17−212P11(IGH領域)の組み合わせを用いてtwo−color FISH解析を行い、実際IGHL−NACが構築されているか詳細に解析する。NAC上にそれぞれ、IGL領域とIGH領域の存在を示すシグナルが期待した位置に観察されたものを陽性細胞株(HKD31 IGHL−NAC)とし、インジェクションに用いる。
【0322】
[G]ラットES細胞へのIGHL−NACの移入
ヒト抗体産生ラットを作製するためにはIGHL−NACをラットES細胞に移入し、受精卵8細胞期にインジェクションし、キメラマウスを作製し、IGHL−NACを子孫伝達させることが必要である。
【0323】
[G.1]微小核細胞融合と薬剤耐性クローンの単離
実施例7[F.1]に記載のようにマウスES細胞への微小核細胞融合法と同様の手法を用いてラットES細胞へのIGHL−NACの導入を行う。ドナー細胞は、CHO K1 IGHL−NACを用いる。融合後、オーバーナイトでインキュベーションし、G418を150μg/mLになるように加え、3〜4週間選択培養する。結果GFP陽性かつ薬剤耐性のクローンを以降の解析に用いる。
【0324】
[G.2]PCR解析による薬剤耐性クローンの選別
IGHL−NACがラットES細胞株に移入されていることを確認するため、薬剤耐性クローンのDNAを抽出し、それを鋳型としてPCR解析を行う。用いたプライマーを以下に示す。
相互転座連結部位確認プライマー:
TRANS L1 (前出)
TRANS R1 (前出)
KJneo (前出)
PGKr-2 (前出)
これらプライマーについては、LA taq(Takara)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いた。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、94℃10秒、60℃30秒、72℃3分を30サイクル行った。
【0325】
ヒト22番染色体領域についてPCR解析を行う。以下に配列を示す。
553P-F (前出)
553P-R (前出)
PPM1F L (前出)
PPM1F R (前出)
IGLVI-70 L (前出)
IGLVI-70 R (前出)
hVpreB1-F (前出)
hVpreB1-Rm (前出)
hVpreB3-F (前出)
hVpreB3-R (前出)
hL5-F (前出)
hL5-R (前出)
344-F (前出)
344-R (前出)
350P-F (前出)
350P-R (前出)
IgL-F (前出)
IgL-Rm (前出)
これらプライマーを用いたPCRについて、TaqポリメラーゼはAmpli Taq Gold(Applied Biosystems)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は95℃10分の熱変性後、95℃30秒、63、62、60、56、55、50℃のいずれか30秒、72℃1分を35サイクル行う。
【0326】
ヒト14番染色体領域確認プライマー:
MTA1-F3 (前出)
MTA1-R3 (前出)
ELK2P2-F (前出)
ELK2P2-R (前出)
g1(g2)-F (前出)
g1(g2)-R (前出)
VH3-F (前出)
VH3-R (前出)
CH3F3 (前出)
CH4R2 (前出)
これらプライマーを用いたPCRについて、TaqポリメラーゼはAmpli Taq Gold(Applied Biosystems)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は95℃10分の熱変性後、95℃30秒、60℃30秒もしくは56℃30秒、72℃1分を35サイクル行う。PCR解析陽性細胞株について以降の解析を行う。
【0327】
[G.3]two−color FISH解析
Human cot−1 DNA及びMouse cot−1 DNAをプローブにしてFISH解析を行い、IGHL−NACを1コピー独立して保持しており、ラットESの正常核型(42本)を維持していることを確認する。プローブとしてBACクローンCH17−95F2(IGL領域)とCH17−262H11(IGH領域)及びCH17−424L4(IGL領域)とCH17−212P11(IGH領域)の組み合わせを用いてtwo−color FISH解析を行い、IGHL−NACの構造をさらに詳しく解析する。NAC上にそれぞれ、IGL領域とIGH領域の存在を示すシグナルが期待した位置に観察されたものを陽性細胞株(rESIGHL−NACと命名)とし、インジェクションに用いる。
【0328】
[H]IGHL−NACを保持するマウス及びラットの作製と子孫伝達個体の作製
IGHL−NACを保持するマウス及びラットES細胞を用い、(実施例7)[H][I][J][K]同様に操作を行うことで、IGHL−NACを保持した子孫伝達マウス及び、ラットを作製することができる。子孫伝達マウス、ラット及び過程で得られたキメラマウスについても、(実施例7)[H.4][H.5][H.6]同様に解析を行い、IGHL−NAC保持及び抗体発現(hλも含む)を確認する。作製されたIGHL−NAC保持マウス及びラット系統をそれぞれmTC(IGHL−NAC)、rTC(IGHL−NAC)と呼ぶ。
【0329】
[実施例9]完全ヒト抗体産生マウスの作製
IGHK−NAC及びIGHL−NACを保持するマウスと、マウスIgh,及びIgk遺伝子が破壊されており、かつIgl変異を持つ(Iglの発現が低くなる変異を持つ)マウスを交配させ、ヒト抗体産生マウスを作製する。
【0330】
[A]Igh及びIgk遺伝子欠損、Igl低発現マウスの作製
ヒト抗体産生マウスを作製するため、マウス抗体遺伝子を欠損または低発現しているマウスを作製する。
【0331】
[A.1]Igh及びIgk遺伝子欠損、Igl低発現マウスの作製
HKD31(マウスIgh、Igkの遺伝子破壊が破壊されている)マウスESより得られたマウス系統と、マウスIgl低発現の変異を持つCD−1(ICR、チャールズリバーより購入)を交配して、Igh及びIgk遺伝子欠損、Igl低発現マウスを作製する。
CD−1由来のマウスIglc変異はPCR−RFLP解析により確認する。
以下のプライマーを用いてPCRを行う。
mIglc1VnC L:5’-CCTCAGGTTGGGCAGGAAGA-3’(配列番号119)
J3C1:5’-GACCTAGGAACAGTCAGCACGGG-3’(配列番号120)
TaqポリメラーゼはAmpli Taq Gold(Applied Biosystems)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は95℃10分の熱変性後、95℃30秒、60℃30秒、72℃1分を35サイクル行う。
PCRプロダクトをKpnI−HF(NEB)で処理し、電気泳動後、PCRプロダクトの切断が認められないものを変異アレル保持として判定する。Igλ変異が両アレルで認められるマウス(「LD系統」と呼ぶ。)を交配にて獲得する。
【0332】
[A.2]マウス抗体遺伝子の発現評価
マウス抗体が発現消失及びほぼ発現していないことをフローサイトメトリー(FCM)解析及びELISAによって、評価する。
実施例7[H.3]で述べたように、Igh遺伝子が破壊されており、Igμの発現がなくなるとB細胞ができず、B細胞の有無を判定することで、Igh遺伝子欠損が評価できる。FCM解析は以前の報告(Proc Natl Acad Sci U S A.2000 Jan 18;97(2):722−7.)同様行い、B細胞欠失が見られた個体について、マウスIgh欠損と判定する。マウスIgh、Igκが破壊されていると考えられるマウス(HKD系統と呼ぶ。)とIgλ変異マウスとの交配を進め、Igh、Igκが破壊されかつIgλ変異を両アレルにもつマウス(HKLD系統と呼ぶ。)を得る。
また、得られたマウスについて、マウスIghに加え、Igk,Iglの発現も以前の報告(Proc Natl Acad Sci U S A.2000 Jan 18;97(2):722−7)と同様に、ELISAを行い、発現消失及び低発現であることを確認する。
【0333】
[A.3]ヒト抗体産生マウスの作製
IGHK−NAC保持マウスもしくはIGHL−NAC保持マウスとマウスIghKO、IgkKO、Igl変異マウスを交配し、完全ヒト抗体産生マウスを作製する。
【0334】
[B]完全ヒト抗体産生マウスの評価
[B.1]FACS解析
IGHK−NACもしくはIGHL−NACを保持するB細胞の存在確認を目的としてフローサイトメトリー解析を行う。ヒトIGMとマウスCD45R(B220)に対する抗体を用いて、血液細胞を染色し、ヒトIGM、CD45R、GFP陽性の細胞を確認する。ヘパリンコートキャピラリ―を用いて、眼窩より採血し、ヘパリンPBSの入ったチューブに血液を移し、転倒混和して氷冷。遠心2000rpm、3分、4℃、の後、上清除去後、各種抗体を添加し、4℃で30分反応させ、5%牛胎仔血清を添加したPBS(5%FBS/PBS)により洗浄する。最後の遠心後、ペレットに1.2%Dextran/生理食塩水を加え、タッピング後、室温で45分静置し、赤血球を自然沈降させる。上清を新しいチューブに移し、2000rpm、3分、4℃で遠心後上清除去し、ペレットに室温の溶血剤(0.17M NHCl)を加え、5分静置する。2000rpm、3分、4℃で遠心し、5%FBS/PBSで洗浄した後500μlの5%FBS/PBSで懸濁したものを解析サンプルとし、フローサイトメーターにより解析する。
【0335】
[B.2]ヒト抗体の発現解析
ヒト抗体遺伝子軽鎖、重鎖、各種アイソタイプ発現確認を目的として、ELISAにより測定する。(実施例7)[H.4]に記載した方法同様、マウスの抗体発現の有無確認も含め、マウス抗体(mγ、mμ、mκ、mλ)、ヒト抗体(hγ、hμ、hκ、hλ、hγ1、hγ2、hγ3、hγ4、hα、hε、hδ)の発現及び血清中の濃度を測定する。
【0336】
[B.3]ヒト抗体の発現解析及び配列同定
ヒト抗体産生マウス脾臓由来RNAからcDNAを合成し、ヒト抗体遺伝子可変領域クローニングと塩基配列決定を行う。(実施例7)[H.5]と同様に実施することで解析、評価できる。
【0337】
[B.4]抗原特異的ヒト抗体産生応答の評価
ヒト抗体産生マウスについて、抗原特異的ヒト抗体産生応答が見られるかを評価する。(実施例7)[H.6]に記載した方法同様にヒト血清アルブミンで免疫し、抗体力価の上昇を解析する。
【0338】
[B.5]ヒト抗体産生マウスからのヒト抗体産生ハイブリドーマの取得
特許(国際公開WO98/37757号)に記載されている方法同様にヒト抗体産生ハイブリドーマの取得ができる。
【0339】
[実施例10]完全ヒト抗体産生ラットの作製
IGHK−NAC及びIGHL−NACを保持するラットと、ラットIgh,Igk,Iglが破壊されたKOラットを交配させ、ヒト抗体産生ラットを作製する。
【0340】
[A]ヒト抗体産生ラットの作製及び評価
[A.1]ヒト抗体産生ラットの作製
IGHK−NACもしくはIGHL−NACを保持したラット系統とラットIgh、Igκ、Igλ遺伝子が破壊されたラット系統を交配することで、ヒト抗体産生ラットを作製できる。
【0341】
[A.2]FACS解析
IGHK−NACもしくはIGHL−NACを保持するB細胞の確認を行う。(実施例14)[B.1]と同様の方法で実施し、抗体は抗ラットCD45R(B220)抗体を用い、溶血剤は0.15M NHClを用いる。
【0342】
[A.3]ヒトIgの発現解析
ELISAによるヒト抗体遺伝子軽鎖、重鎖、各種アイソタイプ発現確認を目的として、(実施例7)[H.4]]と同様に解析を行うことでヒト抗体産生を評価することができる。抗ラット免疫グロブリン抗体を用いてラット抗体(rγ、rμ、rκ、rλ)の発現も評価する。
【0343】
[A.4]ヒト抗体の発現解析及び遺伝子配列同定
上記の(実施例7)[H.5]と同様の方法を用いて、抗体遺伝子配列決定、解析、評価を行うことができる。
【0344】
[A.5]抗原特異的ヒト抗体産生応答の評価
(実施例7)[H.6]の記載と同様に実施し、評価することができる。
【0345】
[A.6]ヒト抗体産生ラットからのヒト抗体産生ハイブリドーマの取得
(実施例9)[B.5]の記載と同様の方法で実施し、ヒト抗体産生ハイブリドーマの取得ができる。
【0346】
[実施例11]マウス人工染色体ベクター10MAC2、10MAC3の構築
マウス人工染色体10MACにDNA挿入配列としてPGKneo−5’HPRT−loxPおよびGFP−PGKneo−5’HPRT−loxPタイプのloxP配列を挿入することでマウス人工染色体ベクター10MAC2、10MAC3を各々構築し、環状DNAを介した遺伝子搭載を行うためのhprt欠損CHO細胞株へ導入し、動作確認を行う。
【0347】
[A]マウス人工染色体10MACへのPGKneo−5’HPRT−loxPおよびGFP−PGKneo−5’HPRT−loxPタイプのloxP配列の挿入によるマウス人工染色体ベクター10MAC2、10MAC3の構築
マウス人工染色体10MACに遺伝子搭載サイトloxPのみを搭載した10MACおよび遺伝子搭載サイトloxPとその存在をモニター可能なGFP発現ユニットを搭載した10MACを構築する。
【0348】
[A.1] PGKneo−5’HPRT−loxPおよびGFP−PGKneo−5’HPRT−loxPタイプのloxPターゲティングベクターの作製
DT40(10MAC)にloxP配列を挿入するための基本プラスミドにはV907(Lexicon genetics)を用いた。loxP挿入部位であるマウス10番染色体のDNA配列はGenBankデータベースより得た(NC_000076.6)。薬剤耐性クローンからゲノムDNAを抽出して鋳型とし、相同組換えの二つの標的配列の増幅に用いたプライマーの配列を以下に示す。
NotI_m10 LA F:5'- TCGAGCGGCCGCTCTAAGTCAGGGAAAGATCCCCTTCTTG -3' (配列番号121)
SalI_m10 LA R:5'- TCGAGTCGACGACCATGAAGATGGTCCAACTAAAGCAA -3' (配列番号122)
ClaI_m10 RA F:5'- TCGAATCGATCACTGCTCTTTCTTTAGTTACATGCAGCCC -3' (配列番号123)
ClaI_m10 RA R:5'- TCGAATCGATATTCTTGCCAAGCTACTCTTCCGAGCTA -3' (配列番号124)
PCRは、サーマルサイクラーとしてPerkin−Elmer社製のGeneAmp9600を、TaqポリメラーゼはKOD FX(TOYOBO)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,dGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いた。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、98℃15秒、68℃3分及び5分を35サイクル行った。
PGKneo−5’HPRT−loxPのターゲティングベクターの作製。
V907のEcoRIサイトにPGKneoをクローニングした。AscIサイトとClaIサイトに5’HPRT−loxPを挿入した。ClaI m10 RA FとClaI m10 RA RのPCR産物をClaI(NEB)で消化して、アガロースゲルにより分離し精製後、V907のClaIサイトにクローニングした(ベクター名:V907−PGKneo−5’HPRT−loxP−m10RA)。NotI_m10 LA FとSalI_m10 LA RのPCR産物をNotI(NEB)とSalI(NEB)で消化して、アガロースゲルにより分離し精製後、V907−PGKneo−5’HPRT−loxP−m10RAのNotI/SalIサイトにクローニングした(ベクター名:p10MAC2)。
GFP−PGKneo−5’HPRT−loxPのターゲティングベクターの作製。V907−PGKneo−5’HPRT−loxP―m10RAのNotI/SalIサイトににCAG−EGFPをクローニングした。NotI_m10 LA FとSalI_m10 LA RのPCR産物をNotI(NEB)とPspOMI(NEB)で消化して、アガロースゲルにより分離し精製後、V907−EGFP−PGKneo−5’HPRT−loxP―m10RAのNotIサイトにクローニングした(ベクター名:p10MAC3)。
ターゲティングベクター、標的配列及び相同組換えにより生じる染色体アレルを図24、25に示す。
【0349】
[A.2]トランスフェクション及びG418耐性クローンの単離
ニワトリDT40細胞の培養は10%ウシ胎仔血清(ギブコ、以下「FBS」で記す)、1%ニワトリ血清(ギブコ)、10−4M 2−メルカプトエタノール(シグマ)を添加したRPMI1640培地(ギブコ)中で行った。DT40(10MAC)T5−26の約10個の細胞を無添加RPMI1640培地で一回洗浄し、0.5mlの無添加RPMI1640培地に懸濁し、制限酵素NotI(TAKARA)で線状化したターゲティングベクターp10MAC2もしくはp10MAC3を25μg加え、エレクトロポレーション用のキュベット(バイオラッド)に移し、室温で10分間静置した。キュベットをジーンパルサー(バイオラッド)にセットし、550V、25μFの条件で電圧印加した。室温で10分間静置後、24時間培養した。G418(1.5mg/ml)を含む培地に交換し、96穴培養プレート2枚に分注して約2週間の選択培養を行った。T5−26,T6−37各2回のトランスフェクションで得た各24、20個の耐性コロニーを単離し増殖させ、以後の解析を行った(クローン名:DT40(10MAC2)およびDT40(10MAC3))。
【0350】
[A.3]相同組換体の選別
[A.3.1]PCR解析
G418耐性株のゲノムDNAを抽出して鋳型として組換え体を選別するため、以下のプライマーを用いてPCRを行い、マウス10番染色体上で部位特異的に組換え起こっているかを確認した。そのプライマー配列を以下に示す。
DT40(10MAC2)
m10 F1 (前出)
NAC R1:5'- CTCTTCAGCAATATCACGGGTAGCCAAC -3' (配列番号125)
NAC F1:5'- TGCTTGCATTGTATGTCTGGCTATTCTG -3' (配列番号126)
m10 R2 (前出)
m10 F6 (前出)
Puro I (前出)
DT40(10MAC3)
m10 F1 (前出)
EGFP-R:5'- TGCTCAGGTAGTGGTTGTCG -3' (配列番号127)
NAC F1 (前出)
m10 R2 (前出)
m10 F6 (前出)
Puro I (前出)
PCRは、サーマルサイクラーとしてPerkin−Elmer社製のGeneAmp9600を、TaqポリメラーゼはKOD FX(TOYOBO)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,dGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いた。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、98℃15秒、68℃5分もしくは6分を35サイクル行った。
その結果DT40(10MAC2)およびDT40(10MAC3)について各14、11クローンについて目的の組換えが行われていることが示唆された。
【0351】
[A.3.2]two−color FISH解析
上記から得られたDT40(10MAC2)およびDT40(10MAC3)において、two−color FISH解析を松原ら(FISH実験プロトコール、秀潤社、1994)に従い行った。マウスcot−1 DNA及び5’-HPRT-loxP(X6.1)カセットをプローブにしてFISH解析を行ったところ、loxP配列がターゲティングされたマウス10番染色体断片のセントロメア付近にプローブ由来のFITCシグナルが検出されたことから、部位特異的に組換えが起こったことが視覚的に確かめられた(図26、27)。これらの結果から、マウス人工染色体ベクター10MAC2および10MAC3を保持するDT40細胞クローンが得られたと結論できた。以降のステップでは、DT40(10MAC2) #8、DT40(10MAC3)#12の各1クローンを用いることとした。
【0352】
[B]マウス人工染色体ベクター10MAC2および10MAC3含有DT40細胞から10MAC2および10MAC3のCHO細胞への導入
CHO細胞内でマウス人工染色体ベクター10MAC2もしくは10MAC3のDNA配列挿入部位であるloxP配列を介して目的遺伝子(群)を保持した環状DNAを挿入するため、或いはCHO細胞を介して目的の遺伝子が搭載されたマウス人工染色体ベクター10MAC2もしくは10MAC3をマウスES細胞等に導入するためにCHO細胞に導入する。
【0353】
[B.1]微小核細胞融合と薬剤耐性クローンの単離
ドナー細胞であるDT40(10MAC2)およびDT40(10MAC3)を用いて、上記と同様にCHO hprt欠損細胞(ヒューマンサイエンス研究資源バンクより入手、登録番号JCRB0218)であるCHO(HPRT)に微小核細胞融合法を行った。微小核細胞融合で得たG418耐性コロニーを単離し増殖させ、以降の解析を行った(クローン名:CHO(HPRT;10MAC2)およびCHO(HPRT;10MAC3))。
【0354】
[B.2]薬剤耐性クローンの選別
[B.2.1]PCR解析
G418耐性株のゲノムDNAを抽出して鋳型として組換え体を選別するため、以下のプライマーを用いてPCRを行い、マウス人工番染色体ベクター10MAC2および10MAC3がCHO細胞に導入できているかを確認した。そのプライマー配列を以下に示す。
CHO(HPRT;10MAC2)
m10 F1 (前出)
NAC R1 (前出)
NAC F1 (前出)
m10 R2 (前出)
m10 F6 (前出)
Puro I (前出)
CHO(HPRT;10MAC3)
m10 F1 (前出)
EGFP-R (前出)
NAC F1 (前出)
m10 R2 (前出)
m10 F6 (前出)
Puro I (前出)
PCRは、サーマルサイクラーとしてPerkin−Elmer社製のGeneAmp9600を、TaqポリメラーゼはKOD FX(TOYOBO)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,dGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いた。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、98℃15秒、68℃5分もしくは6分を35サイクル行った。PCR陽性のクローン各12、10クローン得られたため以降の解析を行った。
【0355】
[B.2.2]mono−color FISH解析
上記で得られたCHO(HPRT;10MAC2)および(HPRT;10MAC3)に関して選抜した各6クローンについてShinoharaらの報告(Human Molecular Genetics,10: 1163−1175,2001)に記された方法でマウスcot−1 DNAをプローブにしたFISH解析を行い、マウス人工染色体ベクター10MAC2および10MAC3がCHO細胞に導入されていることを確認した。解析結果よりMAC2が安定に独立して保持されている1クローンおよびMAC3が安定かつ独立して保持されている2クローンを確認した(図28、29)。
【0356】
[C]MAC2およびMAC3への環状DNAの挿入確認
作製したMAC2およびMAC3への環状DNAの組換え挿入が動作するか検証を行った。
[C.1]MAC2およびMAC3へのCre/loxPシステムによる環状DNAの挿入
CHO(HPRT;10MAC2)および(HPRT;10MAC3)を6cm dishでコンフルエントになるように培養を行った。Lipofectamine2000を用いてメーカーのプロトコールに従い、CHO(HPRT;10MAC2)にはCre発現プラスミド(ベクター名:pBS185)およびLoxP-3’HPRT-EGFPのプラスミド(ベクター名:X3.1−I−EGFP-I)を共導入し、CHO(HPRT;10MAC3)にはpBS185およびLoxP-3’HPRT-tdtomatoのプラスミド(ベクター名:X3.1−I−tdtomato-I)を共導入した。遺伝子導入24時間後細胞を10cmdish10枚に継代培養し、さらに24時間後からHATで薬剤選択を行った。得られた薬剤耐性クローンについて以降の解析を行う。
【0357】
[C.2]薬剤耐性クローンの解析
期待された部位特異的組換えが起こり、LoxP-3’HPRTを保持した環状DNAが挿入されると10MAC2および10MAC3でHPRT遺伝子の再構成が起こり、HAT耐性になる。薬剤耐性クローンからDNAを抽出し、この組換えのつなぎ目を検出するPCRを行う。使用したプライマーを以下に示す。
TRANS L1 (前出)
TRANS R1 (前出)
これらプライマーについては、LA taq(Takara)を用い、バッファーやdNTPs(dATP,dCTP,DGTP,dTTP)は添付のものを推奨される条件に従って用いる。温度、サイクル条件は98℃1分の熱変性後、94℃10秒、60℃30秒、72℃3分を30サイクル行う。その結果で、部位特異的組換えによる環状DNAの挿入効率を評価する。
【産業上の利用可能性】
【0358】
本発明のマウス人工染色体ベクターは、例えば、外来遺伝子を発現する細胞や有用な非ヒト動物の作製、ヒト抗体などのタンパク質の製造などの種々の用途や目的のために利用できる。
【受託番号】
【0359】
本明細書に記載された下記の(1)及び(2)の細胞株はそれぞれ、マウス10番染色体由来及びマウス16番染色体由来のマウス人工染色体をニワトリB前駆細胞株DT40にエレクトロポレーションによって導入した動物細胞株であり、これら2つの動物細胞株はいずれも、2018年2月28日に国際寄託機関である独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(郵便番号292−0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8、122号室)にブダペスト条約の規定に基づき国際寄託された。
(1)DT40(10MAC)T5−26の受託番号:NITE BP−02656
(2)DT40(16MAC)T1−14の受託番号:NITE BP−02657
【配列表フリーテキスト】
【0360】
配列番号1〜127:プライマー
【0361】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]