(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
幹細胞、上皮細胞、神経系細胞、線維芽細胞、筋細胞及び炎症性細胞からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞(C)及び人工タンパク質(A)を含む細胞移植用組成物であって、
前記人工タンパク質(A)は、疎水性度が0.2〜1.2であり、
前記人工タンパク質(A)は、ポリペプチド鎖(Y)及び/又はポリペプチド鎖(Y’)を有し、
前記人工タンパク質(A)中の前記ポリペプチド鎖(Y)と前記ポリペプチド鎖(Y’)の合計個数が1〜100個であり、
前記ポリペプチド鎖(Y)は、VPGVG配列(1)、GVGVP配列(2)、GPP配列、GAP配列及びGAHGPAGPK配列(3)のうちいずれか1つのアミノ酸配列(X)が2〜100個連続したポリペプチド鎖であり、
前記ポリペプチド鎖(Y’)は、前記ポリペプチド鎖(Y)中の0.1〜5%のアミノ酸残基がリシン残基及び/又はアルギニン残基で置換されたポリペプチド鎖であり、
前記リシン残基及び前記アルギニン残基の合計個数が1〜100個である
ことを特徴とする細胞移植用組成物。
前記人工タンパク質(A)1分子中の、GAGAGS配列(4)と前記アミノ酸配列(X)及びアミノ酸配列(X’)の合計との配列の数の比率{GAGAGS配列(4):アミノ酸配列(X)及びアミノ酸配列(X’)の合計}が、1:2〜1:20であり、
前記アミノ酸配列(X’)は、アミノ酸配列(X)中の20〜80%のアミノ酸残基がリシン残基及び/又はアルギニン残基で置換されたアミノ酸配列である請求項2に記載の細胞移植用組成物。
前記人工タンパク質(A)のSDS−PAGE(SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動)法による分子質量が15〜200kDaである請求項1〜3のいずれかに記載の細胞移植用組成物。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において、人工タンパク質(A)は、動物由来成分を排除するために、人工的に製造されるものであり、有機合成法(酵素法、固相合成法及び液相合成法等)及び遺伝子組み換え法等によって製造できる。有機合成法に関しては、「生化学実験講座1、タンパク質の化学IV(1981年7月1日、日本生化学会編、株式会社東京化学同人発行)」又は「続生化学実験講座2、タンパク質の化学(下)(昭和62年5月20日、日本生化学会編、株式会社東京化学同人発行)」に記載されている方法等が適用できる。遺伝子組み換え法に関しては、特許第3338441号公報に記載されている方法等が適用できる。有機合成法及び遺伝子組み換え法はともに、人工タンパク質(A)を作製できるが、アミノ酸配列を簡便に変更でき、安価に大量生産できるという観点等から、遺伝子組み換え法が好ましい。
【0010】
本発明の細胞移植用組成物は、人工タンパク質(A)を含む細胞移植用組成物であって、前記人工タンパク質(A)は、疎水性度が0.2〜1.2であり、前記人工タンパク質(A)は、ポリペプチド鎖(Y)及び/又はポリペプチド鎖(Y’)を有し、前記人工タンパク質(A)中の前記ポリペプチド鎖(Y)と前記ポリペプチド鎖(Y’)の合計個数が1〜100個であり、前記ポリペプチド鎖(Y)は、VPGVG配列(1)、GVGVP配列(2)、GPP配列、GAP配列及びGAHGPAGPK配列(3)のうちいずれか1つのアミノ酸配列(X)が2〜100個連続したポリペプチド鎖であり、前記ポリペプチド鎖(Y’)は、前記ポリペプチド鎖(Y)中の0.1〜5%のアミノ酸残基がリシン残基及び/又は前記アルギニン残基で置換されたポリペプチド鎖であり、前記リシン残基及び前記アルギニン残基の合計個数が1〜100個であることを特徴とする細胞移植用組成物である。
【0011】
本発明においてポリペプチド鎖(Y)は、具体的には、(VPGVG)
b配列、(GVGVP)
c配列、(GPP)
d配列、(GAP)
e配列及び(GAHGPAGPK)
f配列である。(なお、b〜fは、それぞれ、アミノ酸配列(X)の連続する個数であり、2〜200の整数である)。
人工タンパク質(A)1分子中に、ポリペプチド鎖(Y)を複数有する場合は、(VPGVG)
b配列、(GVGVP)
c配列、(GPP)
d配列、(GAP)
e配列及び(GAHGPAGPK)
f配列からなる群から選ばれる1種を有してもよく、2種以上を有してもいい。
また、人工タンパク質(A)中にアミノ酸配列(X)が同種類のポリペプチド鎖(Y)を複数有する場合は、上記アミノ酸配列(X)の連続する個数は、ポリペプチド鎖(Y)ごとに同一でも異なっていてもよい。すなわち、上記b〜fが同じポリペプチド鎖(Y)を複数有してもよく、アミノ酸配列(X)の連続する個数b〜fが異なるポリペプチド鎖(Y)を複数有してもいい。
【0012】
ポリペプチド鎖(Y)を構成するアミノ酸配列(X)としては、細胞(C)の残存性の観点から、VPGVG配列(1)及び/又はGVGVP配列(2)が好ましい。つまり、細胞(C)の残存性の観点から、ポリペプチド鎖(Y)として(VPGVG)
b配列及び/又は(GVGVP)
c配列が好ましい。
人工タンパク質(A)が、アミノ酸配列(X)の種類が異なるポリペプチド鎖(Y)を有する場合、ポリペプチド鎖(Y)としては、細胞(C)の残存性の観点から、(GPP)
d配列、(GVGVP)
c配列及び(GAHGPAGPK)
f配列からなる群より選ばれる2種以上の配列であることが好ましく、特に好ましくは(GVGVP)
c配列及び(GAHGPAGPK)
f配列である。
【0013】
ポリペプチド鎖(Y)は、アミノ酸配列(X)が2〜200個連続した(上記b〜fがそれぞれ2〜200)ポリペプチド鎖であるが、細胞(C)の残存性の観点から、連続する個数は2〜50個(上記b〜fがそれぞれ2〜50)が好ましく、さらに好ましくは2〜30個(上記b〜fがそれぞれ2〜30)である。
【0014】
本発明において、ポリペプチド鎖(Y’)は、ポリペプチド鎖(Y)中の0.1〜5%のアミノ酸残基がリシン残基(K)及び/又はアルギニン残基(R)で置換されたポリペプチド鎖であり、リシン残基(K)及びアルギニン残基(R)の合計個数が1〜100個である。具体的には、ポリペプチド鎖(Y)を構成するアミノ酸配列(X)の一部又は全部が、下記アミノ酸配列(X’)に置換され、ポリペプチド鎖(Y)中の1〜100個のアミノ酸残基がリシン残基(K)及び/又はアルギニン残基(R)で置換されたポリペプチド鎖である。
アミノ酸配列(X’):アミノ酸配列(X)中の20〜80%のアミノ酸残基がリシン残基(K)及び/又はアルギニン残基(R)で置換されたアミノ酸配列。
【0015】
アミノ酸配列(X’)において、アミノ酸配列(X)中のアミノ酸残基の置換の数(リシン残基(K)及び/又はアルギンン残基(R)で置換された数)は、人工タンパク質(A)の水への溶解性の観点から、1〜5個が好ましく、さらに好ましくは1〜4個であり、次にさらに好ましくは1〜3個である。
また、アミノ酸配列(X’)において、アミノ酸配列(X)中の置換されたアミノ酸残基の割合は、人工タンパク質(A)の水への溶解性の観点から、20〜60%が好ましい。
また、アミノ酸配列(X’)としては、人工タンパク質(A)の水への溶解性の観点から、GKGVP配列(7)、GKGKP配列(8)、GKGRP配列(9)及びGRGRP配列(10)からなる群より選ばれる少なくとも1種の配列が好ましく、さらに好ましくはGKGVP配列(7)及びGKGKP配列(8)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0016】
ポリペプチド鎖(Y’)であるかどうかは、人工タンパク質(A)の配列中の全てのK及びRを、他のアミノ酸残基(G、A、V、P又はH)に置きかえたときに、ポリペプチド鎖(Y)となるかによって判断する。
なお、アミノ酸配列(X)がGAHGPAGPK配列(3)である場合は、配列中にKが存在するので、判断方法を以下のように変更する。
人工タンパク質(A)の配列中の全てのK及びRを、他のアミノ酸残基(G、A、V、P又はH)に置きかえたときに、GAHGPAGPαという配列が現れたときは(αはG、A、V、P又はH)、さらにαをKに置きかえる。その結果、その配列がポリペプチド鎖(Y)となる場合、アミノ酸残基を置きかえる前の配列は、ポリペプチド鎖(Y’)と判断する。
ポリペプチド鎖(Y’)において、ポリペプチド鎖(Y)中の置換されるアミノ酸残基の数は、人工タンパク質(A)の水への溶解性及び細胞(C)の残存性の観点から、1〜70個が好ましく、さらに好ましくは1〜30個である。
また、ポリペプチド鎖(Y’)は、ポリペプチド鎖(Y)中の0.1〜5%のアミノ酸残基がリシン残基(K)及び/又はアルギニン残基(R)で置換されたポリペプチド鎖であるが、人工タンパク質(A)の水への溶解性及び細胞(C)の残存性の観点から、0.1〜4%が好ましく、さらに好ましくは0.5〜3%である。
【0017】
本発明において、人工タンパク質(A)は、ポリペプチド鎖(Y)及び/又はポリペプチド鎖(Y’)を有し、人工タンパク質(A)中のポリペプチド鎖(Y)とポリペプチド鎖(Y’)との合計個数が1〜100個である。人工タンパク質(A)が、アミノ酸配列(X)の種類及び/又は連続する個数が異なるポリペプチド鎖(Y)を有している場合は、それぞれを1個として数え、ポリペプチド鎖(Y)の個数はその合計である。ポリペプチド鎖(Y’)も同様である。
【0018】
人工タンパク質(A)は、人工タンパク質(A)1分子中にポリペプチド鎖(Y)及び/又はポリペプチド鎖(Y’)を合計1〜100個有するものであるが、細胞(C)の残存性の観点から、1〜80個が好ましく、特に好ましくは1〜60個である。
【0019】
人工タンパク質(A)において、同じアミノ酸配列(X)が繰り返し結合している部分はポリペプチド鎖(Y)1個とし、アミノ酸配列(X)とは異なる配列が結合するまでを1個とする。例えば、(GVGVP)
100GAGAGS(VPGVG)
20という配列では、ポリペプチド鎖(Y)は(GVGVP)
100と(VPGVG)
20との2個である。また、人工タンパク質(A)の配列中の全てのリシン残基(K)及びアルギニン残基(R)を、他のアミノ酸(G、A、V、P又はH)に置きかえたときに、アミノ酸配列(X)が繰り返し結合しているものとなる部分をポリペプチド鎖(Y’)1個とし、アミノ酸配列(X)とは異なる配列が結合するまでを1個とする。例えば、(GVGVP)
4GKGVP(GVGVP)
3GAGAGS(GVGVP)
4GKGVP(GVGVP)
3という配列には、ポリペプチド鎖(Y’)である(GVGVP)
4GKGVP(GVGVP)
3が2個ある。
【0020】
本発明において、人工タンパク質(A)の疎水性度は0.2〜1.2であるが、人工タンパク質(A)の水への溶解性の観点、ゲル化する観点から、0.3〜1.2が好ましく、さらに好ましくは0.4〜1.2であり、次にさらに好ましくは0.45〜1.2であり、特に好ましくは0.60〜1.2であり、最も好ましくは0.60〜0.75である。
人工タンパク質(A)の疎水性度は、人工タンパク質(A)分子の疎水性の度合いを示すものであり、人工タンパク質(A)分子を構成するそれぞれのアミノ酸残基の数(M
α)、それぞれのアミノ酸の疎水性度(N
α)及び人工タンパク質(A)1分子中のアミノ酸残基の総数(M
T)を、下記数式に当てはめることにより算出することができる。なお、それぞれのアミノ酸の疎水性度は、非特許文献(アルバート・L.レーニンジャー、デビット・L.ネルソン、レ−ニンジャ−の新生化学 上、廣川書店、2010年9月、p.346−347)に記載されている下記の数値を用いる。
疎水性度=Σ(M
α×N
α)/(M
T)
M
α:人工タンパク質(A)1分子中のそれぞれのアミノ酸残基の数
N
α:各アミノ酸の疎水性度
M
T:人工タンパク質(A)1分子中のアミノ酸残基の総数
A(アラニン):1.8
R(アルギニン):−4.5
N(アスパラギン):−3.5
D(アスパラギン酸):−3.5
C(システイン):2.5
Q(グルタミン):−3.5
E(グルタミン酸):−3.5
G(グリシン):−0.4
H(ヒスチジン):−3.2
I(イソロイシン):4.5
L(ロイシン):3.8
K(リシン):−3.9
M(メチオニン):1.9
F(フェニルアラニン):2.8
P(プロリン):−1.6
S(セリン):−0.8
T(トレオニン):−0.7
W(トリプトファン):−0.9
Y(チロシン):−1.3
V(バリン):4.2
例えば、人工タンパク質(A)が(GVGVP)
4GKGVP(GVGVP)
3配列(6)である場合、人工タンパク質(A)の疎水性度={16(Gの数)×(−0.4)+15(Vの数)×4.2+8(Pの数)×(−1.6)+1(Kの数)×(−3.9)}/40(アミノ酸残基の総数)=1.0である。
【0021】
本発明において、人工タンパク質(A)は、さらにGAGAGS配列(4)を有していることが好ましい。人工タンパク質(A)がGAGAGS配列(4)を有していると、人工タンパク質(A)が生体内でより分解されにくくなり、細胞(C)が患部に充分に定着するまで人工タンパク質(A)は分解されずに存在しやすくなる。
GAGAGS配列(4)は、生体内難分解性の観点から、GAGAGS配列(4)が2〜100個連続して結合したポリペプチド鎖(S)を有していることが好ましい。
ポリペプチド鎖(S)において、GAGAGS配列(4)が連続する数は、生体内難分解性の観点から、2〜100個が好ましく、さらに好ましくは2〜50個であり、次にさらに好ましくは3〜40個であり、特に好ましくは4〜30個である。
人工タンパク質(A)が、ポリペプチド鎖(S)を有する場合、人工タンパク質(A)は、1分子中にポリペプチド鎖(S)を1個以上有すればよいが、生体内難分解性の観点から、1〜20個有することが好ましく、さらに好ましくは3〜10個有することである。
【0022】
人工タンパク質(A)において、ポリペプチド鎖(Y)、ポリペプチド鎖(Y’)及びポリペプチド鎖(S)を合計2個以上有する場合は、ポリペプチド鎖とポリペプチド鎖との間に、介在アミノ酸配列(Z)を有していてもいい。介在アミノ酸配列(Z)は、アミノ酸が1個又は2個以上結合したアミノ酸配列であって、ポリペプチド鎖(Y)、ポリペプチド鎖(Y’)又はポリペプチド鎖(S)では無いアミノ酸配列である。介在アミノ酸配列(Z)を構成するアミノ酸の数は、生体内難分解性の観点から、1〜30個が好ましく、さらに好ましくは1〜15個、特に好ましくは1〜10個である。介在アミノ酸配列(Z)として、具体的には、VAAGY配列(11)、GAAGY配列(12)及びLGP配列等が挙げられる。
【0023】
人工タンパク質(A)中の両末端の各ポリペプチド鎖(Y)、ポリペプチド鎖(Y’)及びポリペプチド鎖(S)のN及び/又はC末端には、末端アミノ酸配列(T)を有していてもいい。末端アミノ酸配列(T)は、アミノ酸が1個又は2個以上結合したアミノ酸配列であって、ポリペプチド鎖(Y)、ポリペプチド鎖(Y’)又はポリペプチド鎖(S)では無いアミノ酸配列である。末端アミノ酸配列(T)を構成するアミノ酸の数は、生体内難分解性の観点から、1〜100個が好ましく、さらに好ましくは1〜50個、特に好ましくは1〜40個である。末端アミノ酸配列(T)として、具体的には、MDPVVLQRRDWENPGVTQLNRLAAHPPFASDPM配列(13)等が挙げられる。
【0024】
人工タンパク質(A)は、上記末端アミノ酸配列(T)以外に、発現させた人工タンパク質(A)の精製又は検出を容易にするために、人工タンパク質(A)のN及び/又はC末端に特殊なアミノ酸配列を有するタンパク質又はペプチド(以下これらを「精製タグ」と称する)を有してもいい。精製タグとしては、アフィニティー精製用のタグが利用される。そのような精製タグとしては、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GTS)、マルトース結合タンパク質(MBP)、HQタグ、Mycタグ、HAタグ、FLAGタグ、ポリヒスチジンからなる6×Hisタグ、V5タグ、Xpressタグ、AU1タグ、T7タグ、VSV−Gタグ、DDDDKタグ、Sタグ、CruzTag09
TM、CruzTag22
TM、CruzTag41
TM、Glu−Gluタグ、Ha.11タグ及びKT3タグ等がある。
以下に、各精製タグ(i)とそのタグを認識結合するリガンド(ii)との組み合わせの一例を示す。
(i−1)グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GTS) (ii−1)グルタチオン
(i−2)マルトース結合タンパク質(MBP) (ii−2)アミロース
(i−3)HQタグ (ii−3)ニッケル
(i−4)Mycタグ (ii−4)抗Myc抗体
(i−5)HAタグ (ii−5)抗HA抗体
(i−6)FLAGタグ (ii−6)抗FLAG抗体
(i−7)6×Hisタグ (ii−7)ニッケル又はコバルト
前記精製タグ配列の導入方法としては、発現用ベクターにおける人工タンパク質(A)をコードする核酸の5’又は3’末端に精製タグをコードする核酸を挿入する方法や市販の精製タグ導入用ベクターを使用する方法等が挙げられる。
【0025】
人工タンパク質(A)1分子中のポリペプチド鎖(Y)及びポリペプチド鎖(Y’)の合計含有量(重量%)は、細胞(C)との相互作用及び細胞(C)の残存性の観点から、人工タンパク質(A)の分子質量を基準として、10〜90重量%が好ましく、さらに好ましくは20〜80重量%である。
【0026】
人工タンパク質(A)中のポリペプチド鎖(Y)及びポリペプチド鎖(Y’)の合計含有量は、アミノ酸配列決定によって求めることができる。具体的には、下記の測定法によって求めることができる。
<ポリペプチド鎖(Y)及びポリペプチド鎖(Y’)の合計含有量の測定法>
島津製作所社製ペプチドシーケンサ(プロテインシーケンサ)PPSQ−33Aを用いて、アミノ酸配列を決定する。決定したアミノ酸配列から、下記数式(1)によりポリペプチド鎖(Y)及びポリペプチド鎖(Y’)の合計含有量を求める。
ポリペプチド鎖(Y)及びポリペプチド鎖(Y’)の合計含有量=Σ(γ×β)/Σ(α×β)×100 (1)
α:人工タンパク質(A)中の各アミノ酸残基の数
β:各アミノ酸の分子質量
γ:ポリペプチド鎖(Y)及びポリペプチド鎖(Y’)中の各アミノ酸の個数
【0027】
人工タンパク質(A)1分子中のアミノ酸配列(X)及びアミノ酸配列(X’)の合計含有量(重量%)は、細胞(C)の残存性の観点から、人工タンパク質(A)の分子質量を基準として10〜90重量%が好ましく、さらに好ましくは20〜80重量%である。
【0028】
人工タンパク質(A)中のアミノ酸配列(X)及びアミノ酸配列(X’)の合計含有量は、プロテインシーケンサによって求めることができる。具体的には、下記の測定法により求めることができる。
<アミノ酸配列(X)及びアミノ酸配列(X’)の含有量の測定法>
特定のアミノ酸残基で切断出来る切断方法から2種類以上を用いて、人工タンパク質(A)を30残基以下程度まで分解する。その後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて分離した後、プロテインシーケンサにてアミノ酸配列を読み取る。得られたアミノ酸配列からペプチドマッピングして、人工タンパク質(A)の全配列を決定する。その後、以下記載の測定式にてアミノ酸配列(X)及びアミノ酸配列(X’)の合計含有量を測定する。
アミノ酸配列(X)及びアミノ酸配列(X’)の合計含有量(%)=[{アミノ酸配列(X)の分子質量}×{アミノ酸配列(X)の数}+{アミノ酸配列(X’)の分子質量}×{アミノ酸配列(X’)の数}]/{人工タンパク質(A)の分子質量}×100
【0029】
人工タンパク質(A)1分子中の、GAGAGS配列(4)とアミノ酸配列(X)及びアミノ酸配列(X’)の合計との配列の数の比率{GAGAGS配列(4):アミノ酸配列(X)及びアミノ酸配列(X’)の合計}は、人工タンパク質(A)の水への溶解性及び細胞(C)の残存性の観点から、1:2〜1:20が好ましく、さらに好ましくは1:2〜1:10である。
【0030】
人工タンパク質(A)の分子質量は、細胞(C)の残存性の観点から、15〜200kDaが好ましく、さらに好ましくは15〜100kDaである。
なお、人工タンパク質(A)の分子質量は、SDS−PAGE(SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動)法により、測定サンプルを分離し、泳動距離を標準物質と比較する方法によって求められる。
【0031】
好ましい人工タンパク質(A)の一部を以下に例示する。
(1)アミノ酸配列(X)がGVGVP配列(2)の人工タンパク質
(1−1)GVGVP配列(2)が連続したポリペプチド鎖(Y1)中の1個のアミノ酸残基がリシン残基(K)で置換されたポリペプチド鎖(Y’1)を有する人工タンパク質(A1)であり、さらに好ましくは、(GVGVP)
4GKGVP(GVGVP)
3配列(6)であるポリペプチド鎖(Y’11)及び(GAGAGS)
4配列(5)であるポリペプチド鎖(S1−1)を有する人工タンパク質(A11)、ポリペプチド鎖(Y’11)及び(GAGAGS)
2配列(14)であるポリペプチド鎖(S1−2)を有する人工タンパク質(A12)、並びにポリペプチド鎖(Y’11)、ポリペプチド鎖(S1−1)及びポリペプチド鎖(S1−2)を有する人工タンパク質(A13)である。
具体的には、GAGAGS配列(4)が4個連続した(GAGAGS)
4配列(5)のポリペプチド鎖(S1−1)を12個及びGVGVP配列(2)が8個連続したポリペプチド鎖(Y11)中のバリン残基(V)のうち1個がリシン残基(K)に置換された(GVGVP)
4GKGVP(GVGVP)
3配列(6)であるポリペプチド鎖(Y’11)を13個有し、これらが交互に化学結合してなるものに、GAGAGS配列(4)が2個連続した(GAGAGS)
2配列(14)のポリペプチド鎖(S1−2)1個が化学結合した構造を有する分子質量が約80kDaの配列(15)の人工タンパク質(SELP8K、疎水性度0.62);GAGAGS配列(4)が2個連続した(GAGAGS)
2配列(14)のポリペプチド鎖(S1−2)及び(GVGVP)
4GKGVP(GVGVP)
3配列(6)のポリペプチド鎖(Y’11)をそれぞれ17個有し、これらが交互に化学結合してなる構造を有する分子質量が約82kDaの配列(16)の人工タンパク質(SELP0K、疎水性度0.72)等である。
(1−2)GVGVP配列(2)が連続したポリペプチド鎖(Y2)を有する人工タンパク質(A2)であり、さらに好ましくは、GVGVP配列(2)が2個連続したポリペプチド鎖(Y21)及びGAGAGS配列(4)が6個連続したポリペプチド鎖(S2−1)を有する人工タンパク質(A21)であり、具体的には、ポリペプチド鎖(Y21)とポリペプチド鎖(S2−1)が結合したアミノ酸ブロック(L−1)が29個繰り返し化学結合した構造を有する分子質量が約93kDaの配列(17)の人工タンパク質(SLP4.1、疎水性度0.47)である。
(1−3)GVGVP配列(2)が連続したポリペプチド鎖(Y1)中の2個のアミノ酸残基がリシン残基(K)で置換されたポリペプチド鎖(Y’3)を有する人工タンパク質(A3)であり、さらに好ましくは、GKGVP配列(7)が2個連続したポリペプチド鎖(Y’31)、GAGAGS配列(4)が6個結合したポリペプチド鎖(S2−1)及びGAGAGS配列(4)が10個結合したポリペプチド鎖(S2−2)を有する人工タンパク質(A31)である。
具体的には、ポリペプチド鎖(S2−1)にポリペプチド鎖(Y’31)が結合し、さらにポリペプチド鎖(S2−2)が結合したアミノ酸ブロック(L−2)が10個繰り返し化学結合した構造を有する分子質量が約73kDaの配列(18)の人工タンパク質(SLP4.2、疎水性度0.20)等である。
【0032】
(2)アミノ酸配列(X)がVPGVG配列(1)の人工タンパク質
(2−1)VPGVG配列(1)が連続したポリペプチド鎖(Y4)を有する人工タンパク質(A4)であり、具体的には、VPGVG配列(1)が160個連続したポリペプチド鎖(Y41)を有する分子質量が約65kDaの配列(19)の人工タンパク質(ELP1、疎水性度1.20)である。
(2−2)VPGVG配列(1)が4個連続したポリペプチド鎖(Y5−1)及びVPGVG配列(1)が8個連続したポリペプチド鎖(Y5−2)を有する人工タンパク質(A5)であり、さらに好ましくは、VPGVG配列(1)が4個連続したポリペプチド鎖(Y5−1)、VPGVG配列(1)が8個連続したポリペプチド鎖(Y5−2)及びGAGAGS配列(4)を有する人工タンパク質(A51)であり、具体的には、ポリペプチド鎖(Y5−1)にGAGAGS配列(4)が結合し、さらにポリペプチド鎖(Y5−2)が結合したアミノ酸ブロック(L−3)が40個繰り返し化学結合した構造を有する分子質量が約220kDaの配列(20)の人工タンパク質(ELP1.1、疎水性度1.12)である。
【0033】
上記の通り本発明の細胞移植用組成物は、細胞(C)の患部への残存性を向上させることができる。
本発明の細胞移植用組成物が含有する細胞(C)は、幹細胞、上皮細胞、神経系細胞、線維芽細胞、筋細胞及び炎症性細胞からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞である。細胞(C)の由来は、組織から単離されたこれらの細胞であってもよく、継代培養されたこれらの細胞であってもよい。また、継代培養された細胞を用いる場合には不死化細胞であってもよい。
さらに、本発明の細胞移植用組成物には、細胞(C)が含まれていれば、細胞(C)の状態は特に限定されず、例えば、単独の細胞であってもよく、複数の細胞が接合した細胞群であってもよく、組織であってもよい。
なお、細胞(C)はAmerican Type Culture Collection(以下、ATCCと略記する)等の生物リソースセンターが配布する培養細胞、及び、市販されている細胞等の第三者から入手できる細胞を用いてもよい。第三者から入手できる細胞(C)としては、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC−BM)、ヒト骨格筋細胞(SkMC)、イヌ腎臓由来上皮細胞(MDCK)及びマウス神経芽細胞(Neuro2a)、マウス大腸がん由来細胞(CT26)等がある。また、細胞(C)の入手先としては、タカラバイオ株式会社及びDSファーマバイオメディカル株式会社等が挙げられる。
【0034】
また、本発明の細胞移植用組成物が用いられる組織としては、特に限定されないが、皮膚、神経、血液、筋肉、腎臓、すい臓等が挙げられる。
また、本発明の細胞移植用組成物が用いられる対象疾患としては、特に限定されないが、心筋梗塞、筋ジストロフィー、糖尿病、腎不全、創傷、熱傷等が挙げられる。
【0035】
本発明の細胞移植用組成物は、動物由来の血清等が含まれていないので、抗原性が低いと推察される。また、人工タンパク質(A)は、生物由来配列を有するので、生体適合性が高いと推察される。さらに、人工タンパク質(A)は大腸菌等の細菌により、安価に大量生産できるので、本発明の細胞移植用組成物は容易に入手できる。
また、本発明の細胞移植用組成物は、体内のプロテアーゼによる分解を受けにくいため、持続性があり、長期的に生体内に存在することができる。
【0036】
本発明の細胞移植用組成物が、細胞(C)の患部への残存性を向上させる原理について説明する。
本発明の細胞移植用組成物は、水に溶解されて細胞移植用溶液として用いられることになる。なお、このような細胞移植用溶液は、本発明の細胞移植用溶液でもある。
この細胞移植用溶液は、人工タンパク質(A)及び細胞(C)を含有するので、人工タンパク質(A)及び細胞(C)を一度に患部に適用することができる。
また、細胞移植用溶液は、室温では液状であるが体温程度の温度(約37℃)に加温されることで増粘する性質を有する。特に細胞移植用溶液が人工タンパク質(A)を10重量%以上の濃度で含有する場合には体温程度に加温されることで完全にゲル化する性質を有する。そのため、本発明の細胞移植用組成物を含む細胞移植用溶液は、注射器等で簡易に患部へ注入することができる。さらに、細胞移植用溶液は、注入された患部において体温によって加熱されて増粘、ゲル化して本発明の細胞移植用組成物が患部から流出することを防ぎ、細胞(C)が特定の移植部位に留まり易くする効果を有する。また、本発明の細胞移植用組成物に含まれる人工タンパク質(A)は細胞(C)の足場としても機能するため、細胞の死滅を抑制する効果も有する。
加えて、本発明の細胞移植用組成物に含まれる人工タンパク質(A)は、患部において生体組織と置換しながらゆっくりと分解される。そのため、細胞(C)がおかれた環境が急激に変化することがないため、細胞(C)の環境適応性と、細胞(C)の生体組織への残存性が向上することになる。
【0037】
本発明の細胞移植用溶液では、前記細胞移植用溶液中の前記人工タンパク質(A)の濃度が、前記細胞移植用溶液の合計重量を基準として1〜40重量%であることが好ましく、2〜20重量%であることがより好ましく、10〜20重量%であることがさらに好ましい。
細胞移植用溶液中の人工タンパク質(A)の濃度が細胞移植用溶液の合計重量を基準として1〜40重量%であると、細胞移植用溶液の粘度が充分に高くなる。そのため、細胞(C)を好適に患部に定着させることができ、細胞(C)の残存性が向上する。
特に、細胞移植用溶液中の人工タンパク質(A)の濃度が細胞移植用溶液の合計重量を基準として10〜20重量%である場合、細胞移植用溶液が約37℃に加熱されると、流動性が無くなり、自重によって形状変化が生じない程の固さを有するゲルとなる。
細胞移植用溶液がゲル化すると、細胞(C)が分散することを防ぐことができ、細胞(C)の残存性をより向上させることができる。
なお、このゲル化には架橋剤等のゲル化剤を細胞移植用溶液に含有させる必要は無く、細胞移植用組成物及び水のみでゲル化が進行する。
また、本発明の細胞移植用溶液は、架橋剤等のゲル化剤を含まないことが好ましい。
【0038】
本発明の細胞移植用溶液では、前記細胞移植用溶液中の前記細胞(C)の濃度が、前記細胞移植用溶液の合計体積を基準として、10
5〜10
8個/mLであることが好ましい。
細胞移植用溶液中の細胞(C)の濃度が、細胞移植用溶液の合計体積を基準として、10
5未満であると、細胞(C)の数が少なすぎるので、患部に細胞移植する効果が充分に得られにくい。
細胞移植用溶液中の細胞(C)の濃度が、細胞移植用溶液の合計体積を基準として、10
8を超えると、細胞(C)の数が多すぎ、患部に定着されない細胞の数が多くなり、細胞(C)の残存性が充分でなくなる。また、このような濃度の細胞(C)を用いる場合、費用対効果の観点から経済的でない。
【0039】
本発明の細胞移植用溶液中の水としては、特に限定するものではなく、滅菌されたものが好ましい。滅菌方法としては、0.2μm以下の孔径を持つ精密ろ過膜を通した水、限外ろ過膜を通した水、逆浸透膜を通した水及びオートクレーブで121℃、20分加熱して加熱滅菌したイオン交換水等が挙げられる。
【0040】
本発明の細胞移植用溶液は、上記細胞移植用組成物及び水以外に無機塩及びリン酸(塩)を含んでもいい。
無機塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム及び炭酸水素マグネシウム等が挙げられる。リン酸塩は無機塩に含まない。
本発明の細胞移植用溶液中の塩の含有量(重量%)は、細胞(C)の残存性の観点から、細胞移植用溶液の合計重量を基準として0〜1.3重量%が好ましく、さらに好ましくは0.5〜1.3重量%であり、次にさらに好ましくは0.7〜1.1重量%であり、特に好ましくは0.85〜0.95重量%である。
【0041】
リン酸(塩)は、リン酸及び/又はリン酸塩を意味する。
本発明の細胞移植用溶液中のリン酸(塩)としては、リン酸及びリン酸塩が挙げられる。
塩としては、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩が挙げられ、具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩等が挙げられる。
細胞移植用溶液中のリン酸(塩)の含有量(重量%)は、人工タンパク質(A)の溶解性の観点から、細胞移植用溶液の合計重量を基準として0〜0.30重量%が好ましく、さらに好ましくは0.10〜0.30重量%であり、次にさらに好ましくは0.12〜0.28重量%であり、特に好ましくは0.14〜0.26重量%である。
【0042】
また、細胞移植用溶液は、上記以外に、成長因子を含んでもよい。
細胞移植用溶液が成長因子を含む場合、成長因子の種類は、患部や対象疾患の種類に応じて決定することが好ましく、成長因子としては、上皮成長因子(Epidermal growth factor:EGF)、インスリン様成長因子(Insulin−like growth factor:IGF)、トランスフォーミング成長因子(Transforming growth factor:TGF)、神経成長因子(Nerve growth factor:NGF)、脳由来神経栄養因子(Brain−derived neurotrophic factor:BDNF)、血管内皮細胞増殖因子(Vesicular endothelial growth factor:VEGF)、顆粒球コロニー刺激因子(Granulocyte−colony stimulating factor:G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(Granulocyte−macrophage−colony stimulating factor:GM−CSF)、血小板由来成長因子(Platelet−derived growth factor:PDGF)、エリスロポエチン(Erythropoietin:EPO)、トロンボポエチン(Thrombopoietin:TPO)、塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor:bFGF又はFGF2)、肝細胞増殖因子(Hepatocyte growth factor:HGF)等が挙げられる。
細胞移植用溶液中の成長因子の濃度は細胞増殖の観点から、細胞移植用溶液の合計重量を基準として、0.003〜9.1重量%が好ましく、さらに好ましくは0.003〜6.25重量%である。
【0043】
細胞移植用溶液は、さらに公知の分化因子、ホルモン、ケモカイン、サイトカイン、細胞接着分子、走化因子、酵素、酵素インヒビター、補酵素、鉱物、脂肪、脂質、糖類、抗生物質、炎症阻害剤、免疫抑制剤、緩衝物質、安定剤及びビタミン等を含んでもいい。
【0044】
細胞移植用溶液のpHは、組織親和性の観点から、5〜9が好ましく、さらに好ましくは6〜8である。pHの調整は公知の緩衝物質等を添加することで調整できる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
<製造例1>
○SELP8Kの生産
特許第4088341号公報の実施例記載の方法に準じて、SELP8KをコードしたプラスミドpPT0345を作製した。SELP8Kをコードしている遺伝子の3´末端には、6×Hisタグをコードした遺伝子が含まれている。
作製したプラスミドを大腸菌にトランスフォーメーションし、SELP8K生産株を得た。
30℃で生育させたSELP8K生産株の一夜培養液を使用して、250mlフラスコ中のLB培地50mlに接種した。カナマイシンを最終濃度50μg/mlとなるように加え、該培養液を30℃で攪拌しながら(200rpm)インキュベートした。培養液の600nmでの吸光度(OD
600)を測定し、培養液がOD
600=0.8(吸光度計UV1700:島津製作所製を使用)となった時に、40mlを42℃に前もって温めたフラスコに移し、同じ温度で約2時間インキュベートした。該培養体を氷上で冷却し、培養液のOD
600を測定し、培養に異常がないことを確認した。大腸菌を遠心分離で集めた。集菌した大腸菌から人工タンパク質を取り出すために、超音波破砕(4℃、30秒×10回)をして溶菌した。
この大腸菌により産生された人工タンパク質を、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)に供した後、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜にトランスファーした。その後、一次抗体にラビット抗SELP8K抗体、2次抗体に抗ラビットIgG HRP標識抗体(GEヘルスケア社製)を用いたウエスタンブロット分析を行なった。該生成物の見かけ分子質量は約80kDaであった。よってSELP8K生産株は、見かけ分子質量が約80kDaのラビット抗SELP8K抗体反応性を有するSELP8Kを生成したことが分かった。
【0047】
○SELP8Kの精製
上記で得たSELP8Kを、菌体溶解、遠心分離による不溶性細片の除去、及びアフィニティークロマトグラフィーにより大腸菌バイオマスから精製した。このようにして、細胞移植用組成物である分子質量が約80kDaの人工タンパク質(A−1)(SELP8K)を得た。
【0048】
○SELP8Kの同定
得られた人工タンパク質(A−1)を下記の手順で同定した。
ラビット抗SELP8K抗体及びC末端配列の6×Hisタグに対するラビット抗6×His抗体(Roland社製)を用いたウエスタンブロット法により分析した。見かけ分子質量が約80kDaのタンパク質バンドが、各抗体に抗体反応性を示した。また得られたタンパク質をアミノ分析供した結果、該生成物が、グリシン(43.7%),アラニン(12.3%),セリン(5.3%),プロリン(11.7%)及びバリン(21.2%)に富むものであった。また、該生成物はリシンを1.5%含んでいた。下記の表1は、精製された生成物の組成と、合成遺伝子配列から推測された予測理論組成との相関関係を示す。
したがって、人工タンパク質(A−1)(SELP8K)がGVGVP配列(2)が8個連続したポリペプチド鎖(Y)においてVのうち1個がKに置換された(GVGVP)
4GKGVP(GVGVP)
3配列(6)であるポリペプチド鎖(Y’11)を13個及びGAGAGS配列(4)が4個連続した(GAGAGS)
4配列(5)のポリペプチド鎖(S1−1)を12個有し、これらが交互に化学結合してなるものに、GAGAGS配列(4)が2個連続した(GAGAGS)
2配列(14)のポリペプチド鎖(S1−2)が化学結合した配列(15)の人工タンパク質であることを確認した。
【0049】
【表1】
【0050】
<製造例2>
製造例1において、「SELP8KをコードしたプラスミドpPT0345」に変えて、「SELP0KをコードしたプラスミドpPT0364」を用いる以外は同様にして、細胞移植用組成物である分子質量が約82kDaの配列(16)の人工タンパク質(A−2)を得た。
【0051】
<製造例3>
製造例1において、「SELP8KをコードしたプラスミドpPT0345」に変えて、「SLP4.1をコードしたpSY1398−1」を用いる以外は同様にして、細胞移植用組成物である分子質量が約93kDaの配列(17)の人工タンパク質(A−3)を得た。
【0052】
<製造例4>
製造例1において、「SELP8KをコードしたプラスミドpPT0345」に変えて、「ELP1.1をコードしたプラスミドpPT0102−1」を用いる以外は同様にして、細胞移植用組成物である分子質量が約220kDaの配列(20)の人工タンパク質(A−4)を得た。
【0053】
<製造例5>
製造例1において、「SELP8KをコードしたプラスミドpPT0345」に変えて、「ELP1をコードしたプラスミドpPT0102」を用いる以外は同様にして、細胞移植用組成物である分子質量が約65kDaの配列(19)の人工タンパク質(A−5)を得た。
【0054】
製造例1〜5で得られた人工タンパク質を用いて、以下の方法で細胞移植用溶液を作成し、それを用いた場合の細胞残存性を評価した。
【0055】
細胞の残存性試験には、下記の試薬を用いた。
10重量%FBS含有RPMI−1640培地:RPMI−1640培地(和光純薬工業社製)に100分の1重量のペニシリン・ストレプトマイシン(SIGMA ALDRICH社製)と、10分の1重量のFBS(Fetal Bovine Serum(Thermo))を添加し、4℃の条件下で保管したもの
PBS:PBS(日本製薬社製)粉末を9.6g/Lの濃度になるように、超純水で溶解させたものをオートクレーブ滅菌後、室温で保管したもの
【0056】
<製造例6:移植細胞の培養>
移植細胞として、GFPを定常的に発現しているマウス大腸がん由来細胞であるCT26細胞を使用し、滅菌シャーレ及び滅菌プレートに播種し、37℃、CO
2濃度が5体積%の空気中で3日間培養を行った。10cmのシャーレで培養したサブコンフルエント状態のCT26細胞を、5mLのPBSで2回洗浄した後、3mLのトリプシン溶液(SIGMA ALDRICH社製)を加えた。トリプシン溶液を除去し、10重量%FBS含有RPMI−1640培地を2mL加え、ピペッティングを行い、移植細胞の懸濁液を作製した。
なお、CT26細胞としては、ATCCが配布する細胞を入手して使用した。
【0057】
<実施例1>
滅菌済みの水0.1mLに製造例1で得られた人工タンパク質(A−1)を培養液の体積を基準として0.05g/mLの濃度となるように添加し、さらに移植細胞の濃度が2.5×10
6個/mLになるように前記の細胞懸濁液を添加し、マトリックスとして人工タンパク質(A−1)を細胞移植用溶液の合計重量を基準として5重量%含み、移植細胞を細胞移植用溶液の合計体積を基準として2.5×10
6個/mL含む実施例1に係る細胞移植用溶液を調製した。
【0058】
<実施例2〜15>
人工タンパク質(A)の種類、及び、細胞移植用溶液中の人工タンパク質(A)の濃度を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様に実施例2〜15に係る細胞移植用溶液を調製した。
【0059】
<比較例1>
人工タンパク質(A−1)を添加しないこと以外は実施例1と同様にして、人工タンパク質(A)を含まず、移植細胞を細胞移植用溶液の合計体積を基準として2.5×10
6個/mL含む比較例1に係る細胞移植用溶液を調製した。
【0060】
<比較例2>
製造例1の人工タンパク質(A−1)に変えて、マトリックスとしてマトリゲル(Corning社製)を用いること以外は実施例1と同様に、マトリゲルを細胞移植用溶液の合計重量を基準として10重量%含み、移植細胞を細胞移植用溶液の合計体積を基準として2.5×10
6個/mL含む比較例2に係る細胞移植用溶液を調製した。
【0061】
<比較例3>
製造例1の人工タンパク質(A−1)に変えて、マトリックスとしてベリプラスト(CSLベーリング社製)を用いること以外は実施例1と同様に、ベリプラスト(CSLベーリング社製)を細胞移植用溶液の合計重量を基準として25重量%含み、移植細胞を細胞移植用溶液の合計体積を基準として2.5×10
6個/mL含む比較例3に係る細胞移植用溶液を調製した。
【0062】
(動物への移植実験及び移植後の細胞残存性評価)
実施例1〜15及び比較例1〜3で得られた細胞移植用溶液を、40μLずつマウス(BALB/cSlc−nu、メス、10週齢)の皮下に注射器を用いて注入し、注入した部位(以下、注入部という)を油性ペンでマークした後、シルキーテックス(アルケア株式会社製)で患部を保護した。その後、マウスを3日間飼育した。
3日間の飼育後、検体を犠死させ、注入部を含む皮膚を1cm
2になるように採取し、O.T.C.コンパウンド(サクラファインテックジャパン株式会社製)に包埋し、−80℃で凍結して凍結標本を作製した。作製した凍結標本を、ミクロトームを用いて注入部の中心部分を厚さ15μmとなるように切断し、切断した切片をプレパレート用ガラスに塗布し、観察用凍結切片を作製した。
【0063】
観察用凍結切片をヘマトキシリン溶液に30分間浸漬し、その後緩やかな流水で10分間洗浄し、さらにエオジン溶液に5分間浸漬した後、70%エタノールで洗浄し、封入することでHE切片を作製した。作製したHE切片をBZ−9000(キーエンス社製)を用いて観察し、ゲルが残存している領域は濃赤紫色に染まっていること利用し、注入したゲルが局在している場所を同定した。
この操作において実施例2及び比較例2を用いた場合の写真を、それぞれ
図1(a)及び
図1(b)に示す。
図1(a)は、実施例2の細胞移植用溶液を用いて細胞移植を行った際のゲルの残存範囲を示す写真である。
図1(b)は、比較例2の細胞移植用溶液を用いて細胞移植を行った際のゲルの残存範囲を示す写真である。
図1(a)及び
図1(b)において矢印で示す部分が、ゲルが残存している領域である。
【0064】
実施例1〜15、比較例1及び比較例3に係る細胞移植用溶液をそれぞれ用いた場合のHE切片におけるゲルが残存する領域(濃赤紫色の領域)の広さを、比較例2で得られたマトリゲルを含む細胞移植用溶液を用いた場合にゲルが残存する領域(濃赤紫色の領域)の広さに対する割合として、以下の基準で評価し、表2に比較例2のゲルの残存範囲に対するゲルの残存範囲割合としてその結果を記載した。
【0065】
(比較例2のゲルの残存範囲に対するゲルの残存範囲割合の評価基準)
+:マトリゲルを含む細胞移植用溶液を用いた場合のHE切片における赤紫色の領域の広さに対する、各実施例及び各比較例に係る細胞移植用溶液をそれぞれ用いた場合のHE切片における赤紫色の領域が101%以上である。
±:マトリゲルを含む細胞移植用溶液を用いた場合のHE切片における赤紫色の領域の広さに対する、各実施例及び各比較例に係る細胞移植用溶液をそれぞれ用いた場合のHE切片における赤紫色の領域が50%〜100%である。
−:マトリゲルを含む細胞移植用溶液を用いた場合のHE切片における赤紫色の領域の広さに対する、各実施例及び各比較例に係る細胞移植用溶液をそれぞれ用いた場合のHE切片における赤紫色の領域が50%以下である。
これらの結果を表2に示す。
【0066】
また、観察用凍結切片をそのまま封入して蛍光観察用切片として、BZ−9000を用いて、顕微鏡観察を行い、細胞が残存している領域が緑色蛍光を呈することを利用し、細胞が残存している領域を同定した。
この操作において実施例2及び比較例2を用いた場合の写真を、それぞれ
図2(a)及び
図2(b)に示す。
図2(a)は、実施例2の細胞移植用溶液を用いて細胞移植を行った際の細胞の残存範囲を示す写真であり、
図2(b)は、比較例2の細胞移植用溶液を用いて細胞移植を行った際の細胞の残存範囲を示す写真である。
図2(a)及び
図2(b)において矢印で示す部分が、細胞が残存している領域である。
【0067】
実施例1〜15、比較例1及び比較例3に記載の細胞移植用溶液をそれぞれ用いた場合の蛍光観察用切片における細胞が残存している領域の広さを、比較例2で得られたマトリゲルを含む細胞移植用溶液を用いた場合に細胞が残存している領域の広さに対する割合として、以下の基準で評価し、表2に比較例2の細胞の残存範囲に対する細胞の残存範囲割合としてその結果を記載した。
【0068】
(比較例2の細胞の残存範囲に対する細胞の残存範囲割合の評価基準)
+:マトリゲルを含む細胞移植用溶液を用いた場合の蛍光観察用切片における緑色蛍光を呈する領域部分の広さに対する、各実施例及び各比較例に係る細胞移植用溶液をそれぞれ用いた場合の蛍光観察用切片における緑色蛍光を呈する領域が101%以上である
±:マトリゲルを含む細胞移植用溶液を用いた場合の蛍光観察用切片における緑色蛍光を呈する領域部分の広さに対する、各実施例及び各比較例に係る細胞移植用溶液をそれぞれ用いた場合の蛍光観察用切片における緑色蛍光を呈する領域が50%〜100%である
−:マトリゲルを含む細胞移植用溶液を用いた場合の蛍光観察用切片における緑色蛍光を呈する領域部分の広さに対する、各実施例及び各比較例に係る細胞移植用溶液をそれぞれ用いた場合の蛍光観察用切片における緑色蛍光を呈する領域が50%以下である。
これらの結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
実施例2、5、8、11及び14の細胞移植用溶液中の人工タンパク質(A)の含有量は、細胞移植用溶液の合計重量を基準として10重量%である。また、比較例2の細胞移植用溶液中のマトリゲルの含有量は、細胞移植用溶液の合計重量を基準として10重量%である。
ゲルが残存する領域の広さ及び細胞の残存する範囲の広さは、マトリックスの量にも依存すると考えられるが、10重量%の人工タンパク質(A)を含む実施例2、5、8、11及び14の本発明の細胞移植用溶液を用いた場合、10重量%のマトリゲルを含む比較例2の細胞移植用溶液を用いた場合より、ゲルが残存する領域の広さ、及び、細胞の残存する範囲の広さが広かった。
この結果より、本発明の細胞移植用溶液を用いると、マトリゲル含む細胞移植用溶液を用いるよりも、広範囲にゲル及び細胞を分布させることができることが分かった。
【0071】
(タンパク質定量)
前記の移植後のマウスから採取した注入部を含む皮膚を、はさみを用いてミンチ状にし、1.5ml遠心管に移した。500μLのSDS sample buffer(Thermo Fisher社製)を加え、95℃で10分間加温した。20μLのサンプルを、15%ポリアクリルアミドゲル(アトー社製)にアプライし、1次抗体をGFP抗体(ab230、abcam社製)、2次抗体をAnti−Rabbit IgG AP conjugate(PROMEGA社製)、発色試薬をWestern blue(PROMEGA社製)を用いてウエスタンブロット法を行った。画像解析ソフト(ImageJ)を用いてバンドの定量を行い、検出された人工タンパク質の量と検出された細胞の量とを、比較例2で得られたマトリゲルを含む細胞移植用溶液を用いたときの結果を基準にした相対値で評価し、それぞれマトリックスの含有割合及び細胞の残存率として表3に結果を記載した。
【0072】
【表3】
【0073】
表3から、実施例1〜15の本発明の細胞移植用溶液を用いた場合、患部に注入された細胞の残存性が高いことが分かる。
特に、実施例1、4、7、10及び13の細胞移植用溶液では、マトリックスである人工タンパク質(A)の含有量が少ないにも関わらず、比較例2の細胞移植用溶液よりも細胞の残存性が高かった。