特許第6775230号(P6775230)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6775230
(24)【登録日】2020年10月8日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】パネル構造物
(51)【国際特許分類】
   B64G 1/66 20060101AFI20201019BHJP
   B64G 1/44 20060101ALI20201019BHJP
   G01S 7/03 20060101ALI20201019BHJP
   H01Q 21/06 20060101ALI20201019BHJP
   H01Q 13/08 20060101ALI20201019BHJP
   H01Q 1/28 20060101ALI20201019BHJP
   H01Q 1/16 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   B64G1/66 C
   B64G1/44 C
   G01S7/03 230
   H01Q21/06
   H01Q13/08
   H01Q1/28
   H01Q1/16
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-241105(P2016-241105)
(22)【出願日】2016年12月13日
(65)【公開番号】特開2018-95063(P2018-95063A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年4月19日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.刊行物名 第60回宇宙科学技術連合講演会講演集(DVD−ROM)、論文番号JSASS−2016−4582、4D03 宇宙大型アレイアンテナの構造と展開方法、第4〜6頁(3.2 パネル構造) 発行日 平成28年9月6日 発行所 一般社団法人 日本航空宇宙学会 2.集会名 第60回宇宙科学技術連合講演会 開催場所 函館アリーナ(北海道函館市湯川町1−32−2) 開催日 平成28年9月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒瀬 豊敏
(72)【発明者】
【氏名】上土井 大助
【審査官】 マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】 実開平05−086800(JP,U)
【文献】 米国特許第05777582(US,A)
【文献】 特開平02−035175(JP,A)
【文献】 特開2002−064318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 1/66
B64G 1/44
G01S 7/03
H01Q 1/16
H01Q 1/28
H01Q 13/08
H01Q 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の三角形状のパネルを有するパネルアレイと、
前記パネルの3つの角部の互いの間隔を拡張する方向にテンションを前記パネルに付加した状態で前記パネルの3つの角部が固定されたフレームと、
前記パネルに付加されたテンションを調整するテンション調整部と、を備え、
前記テンション調整部は、前記パネルの角部の一部を切り取って形成された切り欠きである、パネル構造物。
【請求項2】
前記テンション調整部は、前記パネルの3つの角部のうちの少なくとも2つに設けられている、請求項1に記載のパネル構造物。
【請求項3】
前記パネルの一方面に固定されるパッチアンテナをさらに備えている、請求項1又は2に記載のパネル構造物。
【請求項4】
複数の三角形状のパネルを有するパネルアレイと、
前記パネルの3つの角部の互いの間隔を拡張する方向にテンションを前記パネルに付加した状態で前記パネルの3つの角部が固定されたフレームと、
前記パネルに付加されたテンションを調整するテンション調整部と、
前記パネルと前記フレームとの間に介在するスペーサと、を備え、
前記パネルは、前記パネルおよび前記スペーサを貫通するファスナを用いて前記フレームに固定され、前記パネルの表面における前記ファスナの露出部分は断熱材により被覆されている、パネル構造物。
【請求項5】
複数の三角形状のパネルを有するパネルアレイと、
前記パネルの3つの角部の互いの間隔を拡張する方向にテンションを前記パネルに付加した状態で前記パネルの3つの角部が固定されたフレームと、
前記パネルに付加されたテンションを調整するテンション調整部と、
前記パネルと前記フレームとの間に介在するスペーサと、を備え、
前記スペーサは前記パネルの裏面に接着されており、
前記テンション調整部は、前記パネルの裏面側で前記スペーサと前記フレームとの間をファスナを介して接続している、パネル構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パネル構造物に関し、特に、宇宙空間においてコンフォーマルレーダおよび太陽光発電衛星などに用いられるパネル構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のパネル構造物として、たとえば、特許文献1のトラス構造物が知られている。このトラス構造物は、複数の三角フレームを組み合わせて形成されている。三角フレームでは、フレーム辺部とフレーム角部とをそれぞれ3個ずつ用いて三角形状のフレームを構成し、この内側に太陽電池膜、および、電波アンテナなどの用途に用いられる膜状のパネル部を取り付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4022825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、宇宙警戒監視レーダ衛星および次世代降水レーダ衛星などの宇宙用コンフォーマルレーダ、ならびに、宇宙太陽光発電衛星など、宇宙用パネル構造物は、一辺が数十m〜数kmの大型サイズになり、多数のパネルにより構成されている。各パネルには、たとえば、面精度(rms)が1mm以下の高い平面度が要求されているため、高い平面度を維持する硬くて厚いパネルを用いると、パネルが重くなる。これにより、多数のパネルを用いた大型の宇宙用パネル構造物では重量が嵩むため、このような大型の宇宙用パネル構造物は未だ実現化に至っていない。
【0005】
これに対し、上記特許文献1のトラス構造体に用いられているパネル部は、膜状であるため、その厚みが薄いことにより軽量化が図られている。しかしながら、宇宙では太陽光によるパネル部の温度変化が非常に大きく、この温度変化によってパネル部は変形するおそれがある。これについて、上記特許文献1のトラス構造体では、膜状のパネル部のフレームに対する取り付け方について具体的に記載されておらず、どのようにパネル部の高い平面度が保たれているのか明らかではない。
【0006】
よって、本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、パネル毎に高い平面度を維持可能な軽量のパネル構造物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様に係るパネル構造物は、複数の三角形状のパネルを有するパネルアレイと、前記パネルの3つの角部の互いの間隔を拡張する方向にテンションを前記パネルに付加した状態で前記パネルの3つの角部が固定されたフレームと、前記パネルに付加されたテンションを調整するテンション調整部と、を備えている。
【0008】
この構成によれば、三角形状のパネルの3つの角部がテンションを付加された状態で固定されるため、パネルに必要な平面度が確保される。このテンションがテンション調整部により調整されることにより、パネルに荷重が加えられた場合であってもパネルの変形が低減されて、パネルの高い平面度が維持される。また、パネルの平面度がテンションにより得られるため、パネルの厚みを薄くすることができ、パネル構造物の軽量化が図られる。
【0009】
このパネル構造物では、前記テンション調整部は、前記パネルの3つの角部のうちの少なくとも2つに設けられていればよい。この構成によれば、パネルに必要な平面度を確保するように、パネルにテンションを付加させることができる。
【0010】
このパネル構造物では、前記テンション調整部は、前記パネルの角部の一部を切り取って形成された切り欠きであってもよい。この構成によれば、別途、パネルに部品を取り付けることなく、また、切り欠きが変形することによりパネルのテンションを調整することができる。このように、パネルの平面度を高く維持しながら、パネル構造物の簡素化および軽量化が図られる。
【0011】
このパネル構造物では、前記パネルの一方面に固定されるパッチアンテナをさらに備えていてもよい。この構成によれば、高い平面度のパネルにパッチアンテナが固定されていることにより、パッチアンテナ間の必要なアンテナ面精度を確保でき、各パッチアンテナから放射される電波の位相が揃うため、パネル構造物をコンフォーマルレーダに用いることができる。
【0012】
このパネル構造物は、前記パネルと前記フレームとの間に介在するスペーサをさらに備えていてもよい。この構成によれば、パネルとフレームとの間にスペーサを介在させていることにより、フレームの平面度に影響されずに、フレームに固定されるパネルに高い平面度を確保することができる。
【0013】
このパネル構造物は、前記パネルは、前記パネルおよび前記スペーサを貫通するファスナを用いて前記フレームに固定され、前記パネルの表面における前記ファスナの露出部分は断熱材により被覆されていてもよい。この構成によれば、ファスナの締結およびその解除によりパネルをフレームから取り替えることができる。また、パネルの表面に現れているファスナの部分が断熱材により被覆されているため、熱によるファスナの緩みを防止することができる。
【0014】
このパネル構造物は、前記スペーサは前記パネルの裏面に接着されており、前記テンション調整部は、前記パネルの裏面側で前記スペーサと前記フレームとの間をファスナを介して接続していてもよい。この構成によれば、パネル自体にファスナを用いないことにより、ファスナがパネルの表面に露出しないため、頭部を被覆するための断熱材が不要であり、作業性に優れている。また、パネルとフレームとの間にスペーサを介在させていることにより、パネルに高い平面度を確保することができる。さらに、ファスナの締結およびその解除によりパネルをフレームから取り替えることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以上に説明した構成を有し、パネル毎に高い平面度を維持可能な軽量のパネル構造物を提供することができるという効果を奏する。
【0016】
本発明の上記目的、他の目的、特徴および利点は、添付図面を参照の下、以下の好適な実施態様の詳細な説明から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1Aは、本発明の実施の形態1に係るパネル構造物を備えたコンフォーマルレーダを概略的に示す斜視図であり、図1Bは、図1Aのパネル構造物のパネルアレイを上方から視た図である。
図2図2は、図1Bのパネル構造物の一部を示す図である。
図3図3Aは、図2のパネル構造物の一部を示す図であり、図3Bは、図3Aのパネル構造物を概略的に示す断面図である。
図4図4Aは、本発明の実施の形態2に係るパネル構造物の一部を上方から視た図であり、図4Bは、図4Aのパネル構造物を概略的に示す断面図である。
図5図5Aは、本発明の実施の形態3に係るパネル構造物のパネルアレイを概略的に示す図であり、図5Bは、図5Aのパネル構造物の一部を上方から視た図であり、図5Cは、図5Bのパネル構造物を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下では全ての図面を通じて同一または相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0019】
(実施の形態1)
まず、実施の形態1に係るパネル構造物1を備えたコンフォーマルレーダ100について、図1A図3Bを参照して説明する。コンフォーマルレーダ100は、パネル構造物1、パッチアンテナ2、電気ボックス3および断熱フィルム4を備えており、パネル構造物1上に規則的に配置された多数のパッチアンテナ2のそれぞれから放射される電波の位相をたとえばパネル単位でまとめて制御して対象物を探知する。
【0020】
パネル構造物1は、パッチアンテナ2および電気ボックス3を支持する構造物であり、複数(この実施の形態では、50枚)のパネルアレイ10、フレーム20およびテンション調整部30を備えている。パネルアレイ10は、複数(この実施の形態では、32枚)のパネル11により構成される単一の矩形状の板状構造体であり、フレーム20により支持されている。
【0021】
パネル構造物1では、複数のパネルアレイ10が重ね合わせられ、展開が可能に予め連結されている。パネルアレイ10を重ね合わせた状態でパネル構造物1は、たとえば、パネル構造物1を宇宙に搬送する宇宙ロケットの収納スペースに収納可能なサイズに複数のパネル11が連結されている。たとえば、パネルアレイ10は、長手方向に6mであり、それに直交する方向に3mのサイズである。この場合、パネル構造物1において、パネルアレイ10が縦横に配列されて成るサイズは、縦横ともに30mになる。
【0022】
フレーム20は、パネル11を支持する枠体であり、パネル11の各辺に沿って延びる。フレーム20は、たとえば、金属製または複合材料製(CFRP等)で形成されており、パイプ材または管柱材など、断面が矩形状であって直線形状の筒状体により構成されている。フレーム20にはファスナ21およびナット22によりパネル11の裏面が固定されており、フレーム20にはファスナ21の挿入孔が設けられており、フレーム20とパネル11との間にはスペーサ23が介在している。
【0023】
パネル11は、薄い板状体であり、その厚みは、たとえば、0.2〜0.5mmであるが、パネル11の機械的特徴および製造方法などを考慮して適宜、設定される。パネル11は、軽量で線膨張係数が小さい値に調整し易い材料、たとえば、CFPRなどのプラスチック、および、金属などが用いられる。
【0024】
パネル11は、三角形状であり、この実施の形態では、直角二等辺三角形である。パネル11の三角形状の3つの角部はそれぞれ、2つの辺により形成される鋭角の角の形状に限定されず、たとえば、図2図5に示すように、鋭角の角が切り取られた形状、および、角に円形状などの突出部が取り付けられた形状も含む。
【0025】
直角二等辺三角形のパネル11は、底辺12、第1斜辺13および第2斜辺14を有している。第1斜辺13と第2斜辺14との間の角部に第1固定部15が設けられ、第1斜辺13と底辺12との間の角部に第2固定部16およびテンション調整部30が設けられ、第2斜辺14と底辺12との間の角部に第3固定部17およびテンション調整部30が設けられている。第1固定部15、第2固定部16および第3固定部17がファスナ21およびナット22により固定される場合には、各固定部にはファスナ21が挿入される挿入孔が設けられている。
【0026】
このパネル11の3つの角部の第1固定部15、第2固定部16および第3固定部17でフレーム20に固定する際、たとえば、第1固定部15どうしを突き合わせてパネル11を配置する。これにより、底辺12がパネルアレイ10の側辺を形成し、第1斜辺13が、隣接するパネル11の第2斜辺14に対向するように配置される。このため、矩形を形成する隣接の4枚のパネル11については、各第1固定部15が突き合わされるように配列されている。
【0027】
第1固定部15は、鋭角の角から突出した円形状であって、隣接する4枚のパネル11の各第1固定部15が重ね合される。この各第1固定部15の挿入孔およびフレーム20の挿入孔にファスナ21が挿入されて、ファスナ21がナット(図示せず)により締結されて、第1固定部15がフレーム20に固定されている。
【0028】
第2固定部16および第3固定部17は、たとえば、鋭角の角が切り取られて残った円形状である。第2固定部16および第3固定部17は、ファスナ21が各固定部の挿入孔およびフレーム20の挿入孔に挿入され、フレーム20の中空部に配されたナット22により締結されて、スペーサ23を介してフレーム20に固定されている。
【0029】
また、パネル11をフレーム20に固定する際、パネル11と同一平面上においてパネル11の3つの角部の互いの間隔が拡張する方向に所定範囲(たとえば、数N)のテンションをパネル11に常時、付加する。このテンションは、第1固定部15、第2固定部16および第3固定部17の各ファスナ21の挿入孔の位置とフレーム20におけるファスナ21の挿入孔の位置とにより調整される。これらの位置は、パネル11の熱変形および製造誤差を許容すると共に、一定のばねストローク(たとえば、0.5mm)を確保するように設定される。たとえば、3つの角部を互いに離す方向のテンションをパネル11に付加することにより、パネル11が張り、パネル11に必要な平面度、たとえば、1mm以下の面精度(rms)が確保される。
【0030】
テンション調整部30は、荷重が作用した際にそれ自体が変形することによってパネル11の面内方向におけるテンションを所定範囲に維持する弾性要素である。テンション調整部30として、たとえば、切り欠き、ならびに、ゴムおよび蛇腹などの弾性部材などが例示される。テンション調整部30の形状、サイズおよび位置は、パネル11およびフレーム20の特性などにより適宜、設定される。
【0031】
この実施の形態では、パネル11の一部が切り取られた3つの切り欠き(第1切り欠き31、第2切り欠き32および第3切り欠き33)がテンション調整部30としてパネル11に設けられている。テンション調整部30は、第2固定部16または第3固定部17とこれに最も近いパッチアンテナ2または孔部18との間であって、第2固定部16または第3固定部17に最も近いパッチアンテナ2または孔部18よりもこの固定部に近い位置に配置されている。
【0032】
第1切り欠き31、第2切り欠き32および第3切り欠き33は直線形状であり、第1切り欠き31および第2切り欠き32は第3切り欠き33より第2固定部16または第3固定部17に近い位置に配されている。第1切り欠き31は底辺12から切り込まれ、第2切り欠き32は第1斜辺13および第2斜辺14から切り込まれている。第1切り欠き31および第2切り欠き32は、一直線上に並び、第1斜辺13または第2斜辺14と底辺12のなす角の二等分線Lに直交して、二等分線Lに対して線対称に配されている。第3切り欠き33は、第1切り欠き31および第2切り欠き32に平行に設けられ、二等分線Lに対して線対称に配されている。
【0033】
1つまたは複数の孔部18がパネル11には設けられている。孔部18は、パネル11を貫通し、パネル11の重量を軽減する。孔部18は、パネル11がパッチアンテナ2および電気ボックス3を支持しながら高い平面度を維持することができる強度を確保できるように、形状、サイズおよび位置が適宜設定される。この実施の形態では、パネル11の第1斜辺13および第2斜辺14に平行な方向において隣接するパッチアンテナ2の間に配置されている。
【0034】
パッチアンテナ2は、パネル11の表面に設けられており、パネル11の底辺12に平行な方向およびこれに直交する方向において間隔を空けながら並べられている。パッチアンテナ2は、パネル11に設けられた貫通孔(図示せず)を通る導体等の電磁波伝搬路により電気ボックス3と電気的に接続されている。パッチアンテナ2は、レーダ波を送受信するコンフォーマルレーダ100のアンテナであり、その具体的な構成は特に限定されず、公知の構成であればよい。また、コンフォーマルレーダ100のアンテナとしては、パッチアンテナ2以外の公知のアンテナを用いることもできる。
【0035】
電気ボックス3は、各パネル11の裏面に設けられており、送受信ユニット(図示せず)およびバッテリ(図示せず)などの電子機器を収容している。送受信ユニットおよびバッテリの具体的な構成は特に限定されず、宇宙機の分野で使用可能な公知の機器などを挙げることができる。
【0036】
パッチアンテナ2が地表に向けてレーダ波(送信波)を送信すると共に、地表で反射されたレーダ波(受信波)を受信する際、送受信ユニットは、制御部(図示せず)から入力される送信波発生指令に基づいて送信波を生成すると共に、制御部により画像生成用情報に変換された受信波を地上または他の宇宙機に送信する。また、送受信ユニットは、1つのパネル11に配置された複数のパッチアンテナ2の送受信を行う。
【0037】
断熱フィルム4は、太陽光を遮る断熱材であって、たとえば、カプトンフィルムが用いられる。断熱フィルム4は、パネル11に取り付けられている電気ボックス3およびワイヤーハーネスなどを断熱するため、これらを覆う範囲に設けられる。断熱フィルム4は、パネル11の裏面と電気ボックス3の表面との間、および、電気ボックス3の裏面側に設けられている。パネル11と電気ボックス3との間の断熱フィルム4は、パネル11の裏面とフレーム20の表面との間に挟まれて固定されており、パネル11の孔部18を通って電気ボックス3等に至る太陽光を遮断する。電気ボックス3の裏面側の断熱フィルム4は、フレーム20の裏面に貼り付けられて固定され、電気ボックス3の裏面側から入射する太陽光を遮断する。
【0038】
上記構成によれば、三角形状のパネル11の3つの角部の互いの間隔を拡張する方向にテンションをパネル11に付加した状態で、パネル11の3つの角部をフレーム20に固定している。このテンションによりパネル11が張った状態で三角形状のパネル11の3つの角部が同一平面上に位置するため、パネル11を高い平面度でパネル11に固定することができる。
【0039】
また、パネル11に付加されたテンションをテンション調整部30により調整している。このテンション調整部30が変形することによって、太陽光によるパネル11の熱変形およびパネル11の製造誤差によるテンションの変動を低減し、パネル11に作用しているテンションを所定範囲に保つ。よって、パネル11が張った状態でパネル11の3つの角部が同一平面上に存続するため、パネル11の高い平面度を維持することができる。
【0040】
このように、パネル11にテンションを付加して固定すると共に、そのテンションをテンション調整部30によりその所定範囲に調整することによって、パネル11に必要な平面度が確保される。このため、テンションが作用すると必要な平面精度が得られる薄いパネル構造を用いることができ、パネル構造物1の軽量化が図られる。
【0041】
さらに、パネル11を貫通する孔部18が設けられていることにより、パネル11の軽量化、延いてパネル構造物1の軽量化が図られる。また、各パネル11を3か所で固定することにより、パネル11毎の固定個所を削減でき、多数のパネル11が固定された大型のパネル構造物1の軽量化が図られる。
【0042】
また、テンション調整部30は、パネル11の一部を切り取って形成された切り欠きにより構成されている。これにより、別途部材をパネル11に取り付ける必要がなく、作業性に優れる上、パネル11の一部が切り取られることにより、パネル11の軽量化が図られる。
【0043】
さらに、パネル11はスペーサ23を介してファスナ21およびナット22によりフレーム20に固定されている。このように、パネル11とフレーム20との間にスペーサ23を介してパネル11の角部が一点で固定されていることにより、フレーム20がパネル11の必要な平面度を有していなくても、パネル11はフレーム20の形状の影響を受けることなく、高い平面度でフレーム20に固定される。また、パネル11が劣化した場合など、ファスナ21とナット22の締結を解除することによりパネル11をフレーム20から取り外し、新しいパネル11に交換することができる。
【0044】
また、1つのパネル11に配置されているパッチアンテナ2毎にその送受信を制御している。このため、パネル構造物1およびパネルアレイ10の全体ではなく、パネル11毎の平面度を確保すればよく、パネル構造物1の軽量化および簡素化が図られる。
【0045】
(実施の形態2)
実施の形態2に係るパネル構造物1を備えたコンフォーマルレーダ100では、図4Aおよび図4Bに示すように、第2固定部16、第3固定部17およびテンション調整部30の形状が実施の形態1と異なる。ただし、これ以外の構成、作用および効果は実施の形態1と同様であるため、その説明は省略する。
【0046】
パネルアレイ10の端側に位置するパネル(端側パネル)11では、第2固定部16および第3固定部17は鋭角の角が切り取られて残った台形状であり、ここにファスナ21の挿入孔が設けられている。このファスナ21の挿入孔、スペーサ23の穴およびフレーム20の挿入孔にファスナ21を通してナット22で締結することにより、第2固定部16および第3固定部17がフレーム20に固定される。
【0047】
端側パネル11におけるテンション調整部30は、パネル11の一部が切り取られた5つの切り欠き(第11切り欠き311、第12切り欠き312、第13切り欠き313、第14切り欠き314および第15切り欠き315)により構成されている。第11切り欠き311および第12切り欠き312は、第13切り欠き313、第14切り欠き314および第15切り欠き315より第2固定部16またはおよび第3固定部17に近い位置に配されている。第11切り欠き311および第12切り欠き312は直線形状であり、第13切り欠き313および第14切り欠き314は半円形状であり、第15切り欠き315は直線形状の切り欠きの端部に円形状の切り欠きが設けられた形状である。
【0048】
第11切り欠き311は底辺12からこれに対して垂直に切り込まれ、第12切り欠き312は第1斜辺13および第2斜辺14からこれに対して垂直に切り込まれている。第11切り欠き311および第12切り欠き312は、第1斜辺13または第2斜辺14と底辺12のなす角の二等分線Lに対して線対称に配されている。第13切り欠き313は底辺12から切り込まれ、第14切り欠き314は第1斜辺13および第2斜辺14から切り込まれている。第13切り欠き313および第14切り欠き314は、二等分線Lに対して線対称に配されている。第15切り欠き315は、第13切り欠き313および第14切り欠き314と直線上に並び、二等分線Lに対して線対称に配置されている。
【0049】
パネルアレイ10の中側に位置するパネル(中側パネル)11では、第2固定部16および第3固定部17は鋭角であり、ここにファスナ21の挿入孔が設けられている。このファスナ21の挿入孔、スペーサ23の穴およびフレーム20の挿入孔にファスナ21を通してナット22で締結することにより、第2固定部16および第3固定部17がフレーム20に固定される。
【0050】
中側パネル11におけるテンション調整部30は、パネル11の一部が切り取られた3つの切り欠き(第21切り欠き321、第22切り欠き322および第23切り欠き323)により構成されている。第21切り欠き321、第22切り欠き322および第23切り欠き323は直線形状であり、第21切り欠き321および第22切り欠き322が第23切り欠き323より第2固定部16または第3固定部17に近い位置に配されている。
【0051】
第21切り欠き321は底辺12からこれに対して垂直に切り込まれ、第22切り欠き322は第1斜辺13および第2斜辺14からこれに対して垂直に切り込まれている。第21切り欠き321および第22切り欠き322は、二等分線Lに対して線対称に配されている。第23切り欠き323は、第21切り欠き321および第22切り欠き322に平行に設けられ、二等分線Lに対して線対称に配されている。
【0052】
(実施の形態3)
実施の形態3に係るパネル構造物1を備えたコンフォーマルレーダ100では、図5A図5Cに示すように、第1固定部15、第2固定部16、第3固定部17およびテンション調整部30の形状、ならびにパネル11の固定方法が実施の形態1と異なる。ただし、これ以外の構成、作用および効果は実施の形態1と同様であるため、その説明は省略する。
【0053】
第1固定部15は、この実施の形態の二等辺直角三角形状のパネル11の場合、直角の角に相当し、スペーサ(図示せず)などを介してフレーム20にパネル11が接着剤などにより固定される。また、スペーサはファスナ21およびナット部25によりフレーム20に固定される。
【0054】
第2固定部16は、たとえば、鋭角の角が切り取られて残った台形状の角部であり、第3固定部17は鋭角の角部である。第2固定部16および第3固定部17は、スペーサ23に接着剤などにより貼り付けられ、スペーサ23、テンション調整部30、ナット部25およびファスナ21によりフレーム20に固定されている。
【0055】
スペーサ23は、厚みが薄い板状体であって、第2固定部16および第3固定部17の裏面とフレーム20の表面との間に介在している。テンション調整部30は、パネル11の裏面側においてフレーム20の側方に配置され、スペーサ23の端部に接続されてスペーサ23に対して垂直に延び、たとえば、ゴムなどの弾性部材により形成されている。ナット部25は、パネル11の裏面側においてフレーム20の側方に配置され、テンション調整部30に接続されて、そのファスナ21の挿入孔がフレーム20の側面に平行に設けられている。開口部26は、環形状であって、その中央にファスナ21の挿入孔が設けられ、このファスナ21の挿入孔がフレーム20の側面に平行になるようにフレーム20の側面に接続されている。ファスナ21は、開口部26の挿入孔を介してナット部25の挿入孔に挿入されここで締結されて、第2固定部16および第3固定部17がフレーム20に固定される。
【0056】
上記構成によれば、スペーサ23などを介してフレーム20にパネル11を接着剤などで固定していることにより、ファスナ21の頭部がパネル11の表面に露出せず、この頭部を被覆する断熱材が不要になるため、作業性に優れている。また、スペーサ23はファスナ21およびナット部25によりフレーム20に固定されているため、ファスナ21およびナット部25の締結を解除することによりパネル11の取り替えが可能である。また、パネル11を3点で固定することができるため、パネル11に必要な平面度を確保することができる。
【0057】
(その他の実施の形態)
上記実施の形態1および2において、パネル11の表面からファスナ21を取り付けていることにより、ファスナ21の頭部がパネル11の表面に露出する。このファスナ21の頭部を断熱フィルム4により被覆してもよい。これにより、ファスナ21の頭部が太陽光を受けて、ファスナ21が熱変形し、ファスナ21による固定が緩むことを防止することができる。この断熱フィルム4によりファスナ21を覆う際、実施の形態1では、各パネル11のファスナ21が近くに配置されているため、これらを共に被覆するように断熱フィルム4でパネル11に取り付けることができ、作業性に優れる。
【0058】
上記実施の形態1および2において、パネル11をファスナ21およびナット22によりフレーム20に固定したが、パネル11の固定方法はこれに限定されない。たとえば、パネル11を接着剤などによりフレーム20に固定してもよい。
【0059】
上記実施の形態1において第1切り欠き31および第2切り欠き32が二等分線Lに対して線対称に配され、実施の形態3において第11切り欠き311、第12切り欠き312、第13切り欠き313、第14切り欠き314および第15切り欠き315が二等分線Lに対して線対称に配された。ただし、テンション調整部30がパネル11のテンションをその面内方向において調整することができるものであれば、テンション調整部30を構成する切り欠きの形状および配置はこれに限定されない。
【0060】
上記全ての実施の形態において、隣接するパッチアンテナ2の間に孔部18が設けられたパネル11を用いたが、パネル11はこれに限定されない。たとえば、多数の小さな孔部18が開いたメッシュ状の板状体をパネル11に用いることもできる。この場合、パッチアンテナ2は孔部18上にも配置される。
【0061】
上記全ての実施の形態において、パネル11に孔部18が設けられたが、パネル11の重量が許容される場合、パネル11に孔部18が設けられていなくてもよい。この場合、パネル11の裏面と電気ボックス3の表面との間に設けられる断熱フィルム4は省略されてもよい。
【0062】
上記全ての実施の形態において、パネル11において第2固定部16および第3固定部17の近傍にテンション調整部30が設けられたが、テンション調整部30の位置はこれに限定されない。第1固定部15、第2固定部16および第3固定部17の少なくとも2つに固定部の近傍にテンション調整部30が設けられてもよい。または、各固定部から離れた位置にテンション調整部30が設けられてもよい。
【0063】
上記全ての実施の形態において、パネル11において第2固定部16の角部および第3固定部17の角部にテンション調整部30が設けられたが、テンション調整部30の3つの角部のうちの少なくとも2つの角部に設けられていればよい。このため、第1固定部15、第2固定部16および第3固定部17の3つの角部にテンション調整部30が設けられてもよい。
【0064】
上記全ての実施の形態において、スペーサ23を介してパネル11をフレーム20に固定していたが、パネル11のみを取り替える必要がない場合、パネル11をフレーム20に直接固定してもよい。
【0065】
上記全ての実施の形態において、パネル構造物1のパネル11にパッチアンテナ2を固定したが、太陽光で発電する太陽電池モジュール(ソーラーパネル)をパネル11にさらに固定してもよい。これにより、パネル構造物1は太陽光発電衛星に用いられ、この場合、電気ボックス3には、太陽電池モジュールにより得られた電力をマイクロ波およびレーザ光などによりパッチアンテナ2から地球へ伝送する電子機器などが設けられる。
【0066】
なお、上記全実施の形態は、互いに相手を排除しない限り、互いに組み合わせてもよい。上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施の形態が明らかである。したがって、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造および/または機能の詳細を実質的に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のパネル構造物は、パネル毎に高い平面度を維持可能な軽量のパネル構造物等として有用である。
【符号の説明】
【0068】
1 :パネル構造物
2 :パッチアンテナ
4 :断熱フィルム(断熱材)
11 :パネル
18 :孔部
20 :フレーム
21 :ファスナ
23 :スペーサ
25 :ナット部
26 :開口部
30 :テンション調整部
図1
図2
図3
図4
図5