(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6775247
(24)【登録日】2020年10月8日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】ドームガラスの製造方法、空冷装置及びドームガラス
(51)【国際特許分類】
C03B 11/00 20060101AFI20201019BHJP
C03B 27/012 20060101ALI20201019BHJP
C03C 21/00 20060101ALI20201019BHJP
B24B 9/14 20060101ALI20201019BHJP
B24C 3/32 20060101ALI20201019BHJP
B24C 5/04 20060101ALI20201019BHJP
B24C 11/00 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
C03B11/00 Z
C03B27/012
C03C21/00 101
B24B9/14 L
B24C3/32 D
B24C5/04 Z
B24C11/00 Z
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-42579(P2017-42579)
(22)【出願日】2017年3月7日
(65)【公開番号】特開2018-145059(P2018-145059A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2020年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】393022207
【氏名又は名称】オリエントブレイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100170
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 厚司
(72)【発明者】
【氏名】南出 大介
(72)【発明者】
【氏名】南出 弘治
【審査官】
永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−48923(JP,A)
【文献】
特開昭59−64537(JP,A)
【文献】
国際公開第2017/022382(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B11/00−11/16
B24B9/00−11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硼珪酸ガラスからなる板状のガラス素材をその屈伏点温度まで加熱する加熱工程と、
前記ガラス素材を金型により半球状の凹面と半球状の凸面を有するドーム部とフランジ部とを有するドーム状にプレスし、得られた成形品を前記金型内で所定温度で所定時間保持する成形工程と、
前記成形品を加熱し室温まで徐冷する応力除去工程と、
前記成形品の前記ドーム部の凸面の半球終端部と前記フランジ部の間に周方向に溝状の逃げ部を形成する加工工程とを含むことを特徴とするドームガラスの製造方法。
【請求項2】
前記成形品のドーム部の凹面と凸面を研磨する研磨工程をさらに含み、研磨皿の縁が前記逃げ部に重なるまで移動させることにより、半球領域を超える部分まで凸面を研磨することを特徴とする請求項1に記載のドームガラスの製造方法。
【請求項3】
前記研磨品を強化ピーク温度まで加熱し、前記凹面、前記凸面及び前記フランジ部の全面に空気ジェットを同時に吹き付けて冷却する風冷強化工程をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載のドームガラスの製造方法。
【請求項4】
前記研磨品をKNO3またはNaNО3若しくはその混塩の浴に浸漬させて、前記ドーム部のアルカリイオンがそのイオン半径より大きいイオン半径を有するアルカリイオンに変換する化学強化工程をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載のドームガラスの製造方法。
【請求項5】
前記請求項3に記載の半球状の凹面と半球状の凸面を有するドーム部とフランジ部とを有するドームガラスの製造方法で使用する空冷装置であって、
前記凹面を上にした状態で前記フランジ部を受けることにより前記ドームガラスを支持する支持部と、
前記凹面及び前記フランジ部に空気ジェットを吹き付ける複数の第1ノズルと、
前記第1ノズルを前記ドームガラスの中心軸の回りに回転させる第1駆動機構と、
前記凸面及び前記フランジ部に空気ジェットを吹き付ける複数の第2ノズルと、
前記第2ノズルを前記ドームガラスの中心軸の回りに回転させる第2駆動機構とを備えることを特徴とする空冷装置。
【請求項6】
半球状の凹面と半球状の凸面を有するドーム部とフランジ部とを有するドームガラスであって、
前記ドーム部の凸面の半球終端部と前記フランジ部の間に周方向に溝状の逃げ部が形成されていることを特徴とするドームガラス。
【請求項7】
前記ドーム部の凸面の凸面終端部は、前記ドーム部の半球中心を通る前記フランジ部と平行な半球終端面よりも、前記フランジ部側に延伸していることを特徴とする請求項6に記載のドームガラス。
【請求項8】
前記逃げ部は、円弧状の溝であることを特徴とする請求項6又は7に記載のドームガラス。
【請求項9】
前記逃げ部は、前記ドーム部の凸面の凸面終端部から1mm以下の深さを有することを特徴とする請求項6から8のいずれかに記載のドームガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドーム型防爆監視カメラを収容するハウジングに適したドームガラスに関する。詳しくは、本発明は、公益社団法人産業安全技術協会(TIIS)が行う水素防爆検定試験に耐える耐圧性、耐衝撃性を有し、カメラ映像に歪みが生じない高精度で透明性と視認性に優れた映像を提供できるとともに、安全性の高いドームガラスの製造方法、当該製造方法に使用する空冷装置及び当該製造方法により製造されたドームガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非特許文献1、2に示すように、成形ガラスは、溶融釜で水飴状に溶解した半硬質ガラスやソーダガラス等のガラス塊(以下、「ゴブ」という。)を押し出してドーム状にプレス加工成形し、凹凸面の光学研磨をした後、風冷強化加工又は化学強化加工法により凹凸面を強化して得られる。
【0003】
しかし、従来の製造方法により製造された成形ガラスは、品質管理が十分でなく、防爆型監視カメラのドームガラスとして使用することは困難であった。成形ガラスの内部に含有される硫化ニッケル等の異物や気泡が、カメラで撮像される映像を害したり、自爆の原因となったりするからである。
【0004】
また、ゴブを金型に流し込んでプレス成型するので、板厚を厳密に制御することが困難であった。特に人工成形法では、その都度異なる大きさ(容量)のコブが金型に投入され、プレス圧もプレス毎に変化するので、板厚が正確且つ均一に管理されないという問題があった。機械成形法では、ゴブフィーダによりゴブが金型に投入されるので、ゴブの容量は一定になり、重量面でガラスの個体差が少なくなるが、凹面の僅かな波形は人工成形法と同様に解消することは困難であった。
【0005】
また、成型時に、成形ガラスの部分的な肉厚や形状の違いにより、金型には温度の高い部分と低い部分が出来る。温度の高い部分では、ガラスが金型に焼き付いて型離れが悪くなり、温度の低い部分では、ガラスに亀裂や皺が生じる。このため、金型の温度を適正に保つ必要があるが、現実的に難しい。
【0006】
金型に投入するゴブの温度は、ソーダガラスでは約1200℃、半硬質ガラスでは約1300℃である。ガラスを高温に溶融すると、溶融不良が少なくなるが、過度に高温に溶融すると、ガラスの内部に気泡等が生じ、後工程に支障を来すので好ましくない。
【0007】
このように、従来の成形ガラスの製造方法は、表層や内部に部分的瑕疵が生じるので、光学特性に優れた歪の少ない360°旋回型の防爆監視カメラのドームガラスはその製造方法も含めてこれまで実現されていない。
【0008】
ドームガラスの凹凸面の光学研磨では、砂掛け機で表面を滑らかなすりガラス状にした後、研磨機で表面の傷や荒れを除去するが、凸面の研磨時に研磨皿の外周縁が凸面の半球領域を超えた部分と干渉するために、半球領域を超えて研磨することができず、超半球領域までカメラの視野を広げられないという問題があった。
【0009】
さらに、ドームガラスの風冷強化加工では、ドームガラスの加熱後、凹凸面に空気を吹き付けて冷却し、表層に引張応力、内部に圧縮応力を生じさせて強化する。ドームガラスにはカメラに取り付けるためのフランジ部が設けられているので、空気が触れない部分が生じるために、フランジ部も含めて凹凸面に空気を一様に吹き付けることが困難であり、風冷強化ガラスとして不安定なものとなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】ガラス成型技術の概要、日本電気硝子(株)成形技術グループ
【非特許文献2】溶融ガラスの各種成形方法とその原理、日本電気硝子株式会社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は斯かる従来の問題に鑑みてなされたもので、ガラスの表層や内部に瑕疵がなく、カメラ映像を阻害することがないうえ、半球領域を超える部分も研磨することができ、視野を広げることができるドームガラスの製造方法、空冷装置及びドームガラスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するための第一手段として、本発明に係るドームガラスの製造方法は、
硼珪酸ガラスからなる板状のガラス素材をその屈伏点温度まで加熱する加熱工程と、
前記ガラス素材を金型により半球状の凹面と半球状の凸面を有するドーム部とフランジ部とを有するドーム状にプレスし、得られた成形品を前記金型内で所定温度で所定時間持する成形工程と、
前記成形品を加熱し室温まで
徐冷する応力除去工程と、
前記成形品の前記ドーム部の凸面の半球終端部と前記フランジ部の間に周方向に溝状の逃げ部を形成する加工工程とを含むことを特徴としている。
【0013】
本発明で使用するガラス素材は、従来のようなゴブを用いる人工成形や機械成形で使用される半硬質ガラスやソーダガラス等のガラス塊ではなく、TEMPAX(登録商標)、SCHOTT N−BK7(登録商標)又はその相当品等の硼珪酸ガラスを使用するため、ガラス内部に異物が少なく、瑕疵が少ないので、カメラ映像を阻害することがないドームガラスを製造できる。
また、ドーム部の凸面の半球終端部とフランジ部の間に逃げ部を形成するので、後の研磨工程で研磨皿がガラス面に干渉することがない。
【0014】
また、本発明に係るドームガラスの製造方法は、前記成形品のドーム部の凹面と凸面を研磨する研磨工程をさらに含み、研磨皿の縁が前記逃げ部に重なるまで移動させることにより、半球領域を超える部分まで凸面を研磨することを特徴とする。
このため、研磨皿がガラス面に干渉することがなく、半球領域を超える部分も研磨することができ、視野の広きドームガラスを製造できる。
【0015】
さらに、本発明に係るドームガラスの製造方法は、前記研磨品を強化ピーク温度まで加熱し、前記凹面、前記凸面及び前記フランジ部の全面に空気ジェットを同時に吹き付けて冷却する風冷強化工程をさらに含むことを特徴とする。
研磨品の凹面、凸面及びフランジ部の全面に空気ジェットを同時に吹き付けるので、フランジ部も含めて凹凸面に空気を一様に吹き付けることができ、風冷強化を確実に行うことができる。
【0016】
風冷強化工程に代えて、前記研磨品をKNO
3またはNaN
O3若しくはその混塩の浴に浸漬させて、前記ドーム部のアルカリイオンがそのイオン半径より大きいイオン半径を有するアルカリイオンに変換する化学強化工程をさらに含めてもよい。
【0017】
前記課題を解決するための第二手段として、本発明に係る半球状の凹面と半球状の凸面を有するドーム部とフランジ部とを有するドームガラスの製造方法で使用する空冷装置は、
前記凹面を上にした状態で前記フランジ部を受けることにより前記ドームガラスを支持する支持部と、
前記凹面及び前記フランジ部に空気ジェットを吹き付ける複数の第1ノズルと、
前記第1ノズルを前記ドームガラスの中心軸の回りに回転させる第1駆動機構と、
前記凸面及び前記フランジ部に空気ジェットを吹き付ける複数の第2ノズルと、
前記第2ノズルを前記ドームガラスの中心軸の回りに回転させる第2駆動機構とを備えることを特徴とする。
【0018】
本発明では、凹面及びフランジ部に空気ジェットを吹き付ける複数の第1ノズルと、凸面及びフランジ部に空気ジェットを吹き付ける複数の第2ノズルとを、それぞれドームガラスの中心軸の回りに回転させるので、フランジ部も含めて凹凸面に空気を一様に吹き付けることができ、風冷強化を確実に行うことができる。
【0019】
前記課題を解決するための第三手段として、本発明に係る
半球状の凹面と半球状の凸面を有するドーム部とフランジ部とを有するドームガラスは、
前記ドーム部の凸面の半球終端部と前記フランジ部の間に周方向に溝状の逃げ部が形成されていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係るドームガラスでは、前記ドーム部の凸面の凸面終端部は、前記ドーム部の半球中心を通る前記フランジ部と平行な半球終端面よりも、前記フランジ部側に延伸していることを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係るドームガラスでは、前記逃げ部は、円弧状の溝であることを特徴とする。
【0022】
さらに、本発明に係るドームガラスでは、前記逃げ部は、前記ドーム部の凸面の凸面終端部から1mm以下の深さを有することを特徴とする。
【0023】
本発明では、ドーム部の凸面の半球終端部とフランジ部の間に周方向に溝状の逃げ部が形成されているので、研磨工程で研磨皿がガラス面に干渉することがなく、半球領域を超える部分も研磨することができ、視野の広いドームガラスとなる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るドームガラスの製造方法によれば、ガラスの表層や内部に瑕疵がなく、カメラ映像を阻害することがないうえ、半球領域を超える部分も研磨することができ、視野の広いドームガラスを製造することができる。
【0025】
本発明に係る空冷装置によれば、フランジ部も含めて凹凸面に空気を一様に吹き付けることができ、風冷強化を確実に行うことができる。
【0026】
本発明に係るドームガラスによれば、研磨工程で研磨皿がガラス面に干渉することがなく、半球領域を超える部分も研磨することができ、視野が広いので、360°旋回型の防爆監視カメラのドームガラスとして十分に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明のドームガラスの製造方法を示すフローチャート。
【
図2】ガラス素材の正面図(a)、プレス成型後のドームガラスの断面図(b)、プレス成形後のドームガラスの斜視図(c)。
【
図5】ドームガラスの凸面研磨を実施する状況を示す断面図。
【
図7】ドームガラスの風冷強化加工を実施する空冷装置の正面図。
【
図8】
図7の空冷装置により風冷強化を実施する状況を示す一部断面正面図(a)及びその一部拡大断面図(b)。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明の実施形態を添付図面に従って説明する。
【0029】
図1は、本発明のドームガラスの製造方法を示す。防爆監視カメラに使用されるドームガラスは、素材調整工程S1、加熱工程S2、プレス成形工程S3、応力除去工程S4、研磨工程S5及び強化加工工程S6を経て製造される。以下、これらの工程について詳述する。
【0030】
(1)素材調整工程
素材調整工程S1では、まず、
図2(a)に示すように、ガラス素材1´として、従来のようなゴブを用いる人工成形や機械成形で使用される半硬質ガラスやソーダガラス等のガラス塊ではなく、TEMPAX(登録商標)、SCHOTT N−BK7(登録商標)又はその相当品等の硼珪酸ガラスを選定する。
【0031】
TEMPAXは、その板厚によってフロート製法又はロールアウト製法で製造され、原材料の溶解温度が約1600℃又はそれ以上であって、従来のゴブの溶融温度の約1200℃から1300℃よりも高いため、溶解不良が少なく、難溶性鉱物以外はその高温をもって溶解されている。このため、ガラス素材1´としてのTEMPAXは、ガラス内部の異物が少なく、カメラ映像を阻害しないし、風冷強化加工時の自爆を大幅に抑制することができる。
【0032】
SCHOTT N−BK7は、組成に風冷強化加工時の自爆原因となる硫化ニッケルを含まないばかりか、高度に管理された溶融炉内で溶融されるために炉の耐火物に含まれる異物が混入していることはない。
【0033】
このように瑕疵の少ないガラス素材1´を選定するが、成形前に、目視で検査し、泡や異物があれば、その部分を切断又は切削して除去するか、瑕疵がある部分を避けて円形に板取りする。続いて、後の加熱工程でガラス素材1´のエッジ部が先に溶けて折れ込むのを防止するために、
図2(a)示すように、ガラス素材1´の面取りを行う。また、ガラス素材1´は、成形後の製品の体積となるように、ダイヤ式切削機で削ることにより重量調整を行う。
【0034】
(2)加熱工程
加熱工程S2では、プレス成形の先立ち、所謂ヒケを抑止するために、ガラス素材1´を電気炉にて屈伏点程度の温度(1000℃以上)まで加熱する。
【0035】
(3)プレス成形
プレス工程S3では、板状のガラス素材1´から
図2(b)に示すようなドーム状のガラス製品(ドームガラス)をプレス成形できるように予め金型を作製しておく。560℃程度の一定温度に制御した金型に板状のガラス素材1´を設置してプレス加工し、
図2(b),(c)に示すドームガラス1に成形する。成形されたドームガラス1は軟らかく変形しやすいため、560℃に温度制御された金型内で所定時間保持する。保持時間が短いと変形しやすく、保持時間が長すぎると金型とドームガラス1の冷却速度の違いで温度差が生じドームガラス1が割れやすくなるため、保持時間は4〜5分が好ましい。ドームガラス1は、
図2(b)に示すように、半径R1の半球状の凸面2bと、半径R2の半球状の凹面2aとを有するドーム部2と、該ドーム部2に連続する円筒部3と、該円筒部3の端部から外方にフランジ部4とを有する
【0036】
(4)応力除去工程
応力除去工程S4では、プレス成形されたドームガラス1を金型から取り出し、ガラス内部に残存している内部応力を除去するために、電気炉に搬入する。電気炉では、ドームガラス1を軟化状態に転移を開始する温度である
徐冷点まで加熱し、3℃/hrから10℃/hr程度の速度で緩やかに室温まで
徐冷する。
【0037】
(5)研磨工程
応力除去されたドームガラス1の表面の傷や荒れを除去し透明性を持たせるために研磨を行う。研磨工程S5では、
図1に示すように、まずステップS5−1で、ドームガラス1のフランジ部4を加工してその厚みを平坦化する。このために、
図4に示すドームガラス1のフランジ部4の上面を基準とし、底面を平面研削機により研削する(このフランジ部加工を「ゼネ切り」という)。
【0038】
次に、ステップS5−2で、ドームガラス1を横向きに支持して、ドーム部2の凹面研磨を行う。凹面研磨では、砂掛け機により粗い砂を使用して凹面2aに砂掛けした後、細かい砂を使用して凹面2aに砂掛けを行い、凹面2aをすりガラス状に滑らかにする。続いて、研磨機により研磨剤を用いて凹面2aを研磨する。凹面2aは、
図4に示すように、凹面終端部e1が半球中心Oを通る半球終端面Aの内半球終端部a1を超える領域まで研磨する。
【0039】
ステップS5−3では、
図4に示すように、リューターを用いて、ドームガラス1のドーム部2の凸面2bの外半球終端部a2とフランジ部4の間に周方向に溝状の逃げ部5を形成する。ドーム部2の凸面2bの凸面終端部e2は、ドーム部2の半球中心Oを通るフランジ部4と平行な半球終端面Aの外半球終端部a2よりも、フランジ部4側に延伸している。逃げ部5は、半径5mmの円弧状の溝であり、ドーム部2の凸面2bの凸面終端部e2から1mm以下の深さdを有することが好ましい。
【0040】
ステップS5−4では、ステップS5−2の凹面研磨と同様に、ドーム部2の凸面研磨を行う。凸面研磨では、砂掛け機により粗い砂を使用して凸面2bに砂掛けした後、細かい砂を使用して凸面2bに砂掛けを行い、凸面2bをすりガラス状に滑らかにする。続いて、研磨機により研磨剤を用いて凸面2bを研磨する。凸面2bは、凹面2aと同様に、半球中心Oを通る半球終端面Aの外半球終端部a2を超える領域まで研磨する。
【0041】
凸面2bの研磨では、
図5に示すように、ドーム部2の凸面2bの外半球終端部a2とフランジ部4の間に周方向に溝状の逃げ部5が存在するので、研磨皿6の外周縁がドーム部2の凸面2bの外半球終端部a2から円筒部3にかかっても該円筒部3と干渉することがなく、可動範囲が確保されため、外半球終端部a2を超える凸面終端部e2まで凸面2bを完全に研磨することができる。
【0042】
ステップS5−5では、超音波洗浄機を用いてドームガラス1の全面を洗浄し、砂や研磨剤を除去する。
【0043】
研磨工程S5では、凹面研磨よりも凸面研磨を先に行ってもよく、工程順序は後先を問わない。また、砂掛け時の砂の代用として球状の人工ダイヤモンド粒を使用してもよい。
【0044】
(6)強化加工
強化工程S6では、光学研磨後のドームガラス1に対し、風冷強化加工又は化学強化加工により靱性を向上させる。
【0045】
風冷強化加工では、加熱炉でドームガラス1を強化ピーク温度まで加熱して熱処理した後、後述する空冷装置11で冷却する。ガラス素材1´がTEMPAXの場合、その軟化温度820℃に対して強化ピーク温度を約700℃に設定し、板厚1mmにつき、約1分間加熱する。ドームガラス1の冷却時に、空気が触れない部分があると、風冷強化ガラスとして不安定になる。このため、ドームガラス1の冷却には、後述する空冷装置11を用いて、ドームガラス1のドーム部2の凸面2b、凹面2a、及びフランジ部4の全面に空気ジェットを同時に吹き付けて冷却する。空気ジェットによる冷却の際、ドームガラス1の表層温度のほうが内部温度よりも温度降下速度が速いため、ドームガラスの表層に引張応力が生じ、内部に圧縮応力が生じて、強度が向上する。
【0046】
ガラス素材1´がSCHOTT N−BK7若しくはその相当品、又はその他のガラスの場合、TEMPAXの場合に準拠して、軟化点付近の温度で熱処理を行い、後述する空冷装置を用いて空気ジェットで冷却する。
【0047】
化学強化加工では、ドームガラス1を、KNO
3の融点339℃の浴、又はNaNO
3の融点308℃の浴に、通常4−6時間程度、浸漬させる。浸漬温度及び時間の条件は、応力層と応力地の指定により適宜変更することができる。化学強化加工により、ドームガラス1の表層のアルカリイオンが、そのイオン半径より大きいイオン半径を有するアルカリイオンに変換される。例えば、Na含有ガラスでは、KNO
3と接触すると、Na含有ガラス中のナトリウムイオンがカリウムイオンと変換される。また、Li含有ガラスでは、NaNO
3又はその混塩と接触すると、Li含有ガラス中のリチウムイオンがナトリウムイオンに変換される。これにより、ドームガラス1のアルカリイオンがイオン半径の大きいアルカリイオンに置換されるので、表層に圧縮応力が発生し、強度が向上する。
【0048】
以上説明した製造方法により製造されたドームガラス1は、
図6示すように、ドーム部2の凹面2aの凹面終端部e1は、ドーム部2の半球中心Oを通るフランジ部4と平行な半球終端面Aの内半球終端部a1よりも、フランジ部4側に延伸している。同様に、ドーム部2の凸面2bの凸面終端部e2は、ドーム部2の半球中心Oを通るフランジ部4と平行な半球終端面Aの外半球終端部a2よりも、フランジ部4側に延伸している。
このため、ドームガラス1のドーム部2は半球領域を超えて存在するので、防爆型監視カメラのハウジングとして使用した場合に、カメラの中心位置Bを半球中心Oよりも深い位置に設けることができ、カメラの視野θを180℃から、最大、カメラ中心位置Bと凸面終端部e2を結ぶ角度2αだけ広くすることができる。
【0049】
次に、前述したドームガラス1の製造工程における風冷強化加工工程で使用する空冷装置11について説明する。
【0050】
図7に示すように、空冷装置11は、架台12と、図示しない加熱炉で熱処理されたドームガラス1を支持する支持台13とを有する。
【0051】
架台12には、水平方向に延びる上アーム14aと下アーム14bがそれぞれシリンダ15により昇降可能に取り付けられている。
【0052】
上アーム14aの基部には、モータ16が設けられ、該モータ16の駆動軸にスプロケット17が取り付けられている。上アーム14aの先端部には、下方に延びる中空の回転軸18が回転可能に取り付けられている。回転軸18の中間には、スプロケット19が設けられ、該スプロケット19は、モータ16のスプロケット17とチェーン20で連結されている。これにより、回転軸18はモータ16により回転駆動可能になっている。回転軸18の下端には、4本のノズル21が取り付けられている。4本のノズル21は、
図9に示すように、ドームガラス1のドーム部2の凹面2aの経線方向に等間隔で設けられている。各ノズル21は、
図8に示すように、中空の回転軸18に連通し、ドームガラス1のドーム部2の凹面2aの緯線に沿って湾曲し、先端はフランジ部4に沿って水平に延伸している。ノズル21にはドームガラス1のドーム部2の凹面2aとフランジ部4に面する多数の噴射口22が長手方向に等間隔で形成されている。
【0053】
図7に戻ると、上アーム14aの先端の上面に突出する回転軸18の上端にロータリージョイント23が取り付けられている。ロータリージョイント23には、図示しない圧縮空気源から供給される圧縮空気を受け入れる供給口24が形成され、この供給口24から中空の回転軸18及び4本のノズル21を通り、噴射口22から空気ジェットをドームガラス1に吹き付けるように形成されている。
【0054】
下アーム14bは、ノズル21の向きを除いて上アーム14aと上下対称に配置されている。下アーム14bのノズル21は、
図9に示すように、ドームガラス1のドーム部2の凸面2bの経線方向に等間隔で設けられている。各ノズル21は、
図8に示すように、ドームガラス1のドーム部2の凸面2bの緯線に沿って湾曲し、先端はフランジ部4に沿って斜めに延伸している。ノズル21にはドームガラス1のドーム部2の凸面2bとフランジ部4に面する多数の噴射口22が長手方向に等間隔で形成されている。下アーム14bの他の構成部材は、上アーム14aと同様であるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0055】
一方、支持台13は、
図7において左方向にある図示しない加熱炉で熱処理されたドームガラス1をフランジ部4を上にして支持したまま搬出して、架台12の近傍まで搬送するようになっている。支持台13は、ドームガラス1のフランジ部4を支持する円形の支持リング25を有している。支持リング25の上面には、
図8(b)に示すように、周方向の複数個所に、下アーム24bのノズル21の噴射口22から噴射された空気ジェットが通過するように、切欠き26が形成されている。
【0056】
空冷装置11の作用について説明すると、
図7の左方にある図示しない加熱炉で熱処理されたドームガラス1が支持台13に支持されて架台12に接近すると、上アーム14aのノズル21と下アーム14bのノズル21の間にドームガラス1が進入するように、架台12の上下のシリンダ15を駆動して、上アーム14aを上昇し、下アーム14bを下降する。上アーム14aのノズル21と、下アーム14bのノズル21との間にドームガラス1が位置すると、上アーム14aを下降してドームガラス1のノズル21を凹面2aに接近させるとともに、下アーム14bを上昇させて、ドームガラス1のノズル21を凸面2bに接近させる。
【0057】
続いて、モータ16を駆動し、チェーン20を介して上アーム14aと下アーム14bの回転軸18を回転させる。これとほぼ同時に、図示しない圧縮空気源から圧縮空気を上アーム14aと下アーム14bのロータリージョイント23の供給口24に供給し、上アーム14aのノズル21と下アーム14bのノズル21のそれぞれの噴射口22から空気ジェットを吹き付ける。
【0058】
上アーム14aのノズル21の噴射口22から噴射された空気ジェットは、
図8に示すように、ドームガラス1のドーム部2の凹面2aとフランジ部4の底面(
図8において上面)に接触し、ノズル21の回転に伴って、ドームガラス1の全表面の表層を冷却する。同様に、下アーム14bのノズル21の噴射口22から噴射された空気ジェットは、
図8に示すように、ドームガラス1のドーム部2の凸面2bとフランジ部4の上面(図において下面)に接触し、ノズル21の回転に伴って、ドームガラス1の全表面の表層を冷却する。ドームガラス1のフランジ部4は、支持リング25に支持されているが、支持リング21には複数の切欠き26が形成されているので、これらの切欠き26を通って空気ジェットが通過することになり、フランジ部4も均一に冷却される。
【0059】
空気ジェットによる冷却の際、ドームガラス1の表層温度のほうが内部温度よりも温度降下速度が速いため、ドームガラス1の表層に引張応力が生じ、内部に圧縮応力が生じて、強度が向上する。
【0060】
上アーム14aのノズル21と、下アーム14bのノズル21は、同方向に回転させてもよいが、反対方向に回転させてもよい。
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内で、適宜修正、変更することができる。
【符号の説明】
【0062】
1´…ガラス素材
1…ドームガラス
2a…凹面
2b…凸面
2…ドーム部
3…円筒部
4…フランジ部
5…逃げ部
6…研磨皿
11…空冷装置
12…架台
13…支持台
14a…上アーム
14b…下アーム
15…シリンダ
16…モータ(駆動機構)
17…スプロケット(駆動機構)
18…回転軸(駆動機構)
19…スプロケット(駆動機構)
20…チェーン(駆動機構)
21…ノズル(第1ノズル、第2ノズル)
22…噴射口
23…ロータリージョイント
24…供給口
25…支持リング(支持部)
26…切欠き