(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記セルロースナノファイバー100質量部に対するグリセリン又はグリセリン誘導体の含有量が、0.1質量部以上200質量部以下である請求項1に記載のセルロースナノファイバー含有乾燥体。
【背景技術】
【0002】
近年、物質をナノメートルレベルまで微細化し、物質が持つ従来の性状とは異なる新たな物性を得ることを目的としたナノテクノロジーが注目されている。化学処理、粉砕処理等によりセルロース系原料であるパルプから製造されるセルロースナノファイバーは、強度、弾性、熱安定性等に優れているため、ろ過材、ろ過助剤、イオン交換体の基材、クロマトグラフィー分析機器の充填材、樹脂及びゴムの配合用充填剤等としての工業上の用途や、口紅、粉末化粧料、乳化化粧料等の化粧品の配合剤の用途に用いられることが期待されている。また、セルロースナノファイバーは、水系分散性に優れているため、食品、化粧品、塗料等の粘度の保持剤、食品原料生地の強化剤、水分保持剤、食品安定化剤、低カロリー添加物、乳化安定化助剤などの多くの用途における利用が期待されている。
【0003】
セルロースナノファイバーは、通常、水分散状態のパルプ等を微細化することにより得られる。従って、得られるセルロースナノファイバーは水分散状態であり、このようなセルロースナノファイバーの分散液は、運送の際に多大なエネルギーが必要となる。また、水分を含むセルロースナノファイバーは、樹脂との溶融混錬の際に水蒸気爆発を誘発し得る。そのため、事業化を踏まえると、セルロースナノファイバーの分散液を乾燥させることが重要となる。しかし、セルロースナノファイバーを乾燥させると、セルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバー同士の水素結合により強く凝集する。このため、乾燥したセルロースナノファイバーを水に再び分散させたとき、乾燥前の状態にまで十分に分散性が戻らないという不都合を有する。また、単にセルロースナノファイバーを乾燥させた場合、得られる乾燥体が変色(着色)する場合がある。変色が生じたセルロースナノファイバーの乾燥体は、添加物として用いる際に望まない着色が生じるため好ましくない。
【0004】
一方、セルロースナノファイバーの分散媒に対する再分散性を向上させるための技術として、カルボキシ基を有するセルロースナノファイバーと再分散促進剤とを混合しゲル状体を得る工程、及びこのゲル状体と有機性の液体と分散剤とを混合して、セルロースナノファイバーを再分散させる工程を含むセルロースナノファイバー分散液の製造方法が提案されている(特開2014−118521号公報参照)。しかし、この技術は、セルロースナノファイバーを十分に乾燥させず、ゲル状体とするものである。また、酸化処理によって生じたカルボキシ基を有するセルロースナノファイバーが用いられており、このようなセルロースナノファイバーは、乾燥に時間がかかる、耐熱性が低い、経済的では無いなどといった不利な点を有する。また、カルボキシ基を有するセルロースナノファイバーは、製造過程でアルデヒド基やケトン基が副反応として極微量に生成し、アルデヒド基やケトン基は加熱によって黄色に着色することが知られている。しかし、上記技術において、得られる乾燥体の着色の有無については全く考慮されていない。
【0005】
また、再分散性の高いバクテリアセルロースの乾燥物を得る技術として、バクテリアセルロースを含む水性懸濁液に、グリセリン等の親水性の液体又は固体を加えた後に脱水乾燥する方法が提案されている(特開平9−165402号公報参照)。しかし、バクテリアセルロースとは、微生物により産出されるセルロースであり、パルプを解繊して得られ得るセルロースナノファイバーとは、物性等が異なる。そのため、このバクテリアセルロースを乾燥させる技術をセルロースナノファイバーへ転用したとしても、同様の効果が生じるとは限らない。
【0006】
その他、セルロースナノファイバーの乾燥方法としては、凍結乾燥法、臨界点乾燥法、有機溶媒での置換処理後に乾燥する方法などが提案されている(特開平6−233691号公報参照)。しかし、冷凍乾燥法や臨界点乾燥法は、多大なエネルギーを要する。また、有機溶媒により置換する方法も、水素結合を弱めるためには非極性溶媒を用いる必要があり、効率性や経済性などから好ましいとは言い難い。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係るセルロースナノファイバー含有乾燥体の製造方法、セルロースナノファイバー含有乾燥体、及びセルロースナノファイバー分散液の製造方法について、順に詳説する。
【0016】
<セルロースナノファイバー含有乾燥体の製造方法>
本発明の実施形態に係るセルロースナノファイバー含有乾燥体の製造方法は、
カルボキシ基の含有量が0.1mmol/g以下のセルロースナノファイバーの分散液と、グリセリン又はグリセリン誘導体の水溶液との混合により混合液を得る工程(A)、及び
上記混合液を乾燥させる工程(B)
を備える。
【0017】
(セルロースナノファイバー)
はじめに、工程(A)に供せられる分散液に含まれるセルロースナノファイバーについて説明する。セルロースナノファイバーとは、パルプ(パルプ繊維)等の植物原料を解繊して得られる微細なセルロース繊維をいい、一般的に繊維幅がナノサイズ(1nm以上1000nm以下)のセルロース微細繊維を含むセルロース繊維をいう。セルロースナノファイバーは、通常、植物原料(繊維原料)を公知の方法により解繊することにより得ることができる。
【0018】
セルロースナノファイバーの原料となるパルプとしては、例えば
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)等の広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)等の針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の化学パルプ;
ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、晒サーモメカニカルパルプ(BTMP)等の機械パルプ;
茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙、更紙古紙等から製造される古紙パルプ;
古紙パルプを脱墨処理した脱墨パルプ(DIP)などが挙げられる。これらは、本発明の効果を損なわない限り、単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
パルプとしては、これらの中で、乾燥が容易となる観点などから、化学パルプが好ましく、広葉樹クラフトパルプ(LKP)がより好ましい。このようなパルプは、不純物が少ないという利点もある。
【0020】
その他の植物原料としては、リンターパルプ、麻、バガス、ケナフ、エスパルト草、竹、籾殻、わら等から得られるパルプなどが挙げられる。また、パルプの原料となる木材、麻、バガス、ケナフ、エスパルト草、竹、籾殻、わら等を直接植物原料として用いることもできる。以下、パルプを植物原料として用いた場合のセルロースナノファイバーの製造方法を説明するが、パルプ以外の植物原料の場合も、同様の方法でセルロースナノファイバーを得ることができる。
【0021】
セルロースナノファイバーの製造方法としては、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば水分散状態のパルプを機械的処理による解繊に付してよく、酵素処理、酸処理等の化学的処理による解繊に付してもよいが、機械的処理により解繊することが好ましい。パルプを機械的処理により解繊することで、セルロースナノファイバーをより容易かつ確実に得ることができ、また、グリセリン類を用いて得られる当該乾燥体の分散性をより高めることができ、変色の少ない乾燥体を得ることもできる。
【0022】
機械的処理による解繊方法としては、例えばパルプを回転する砥石間で磨砕するグラインダー法、高圧ホモジナイザーを用いた対向衝突法、ボールミル、ロールミル、カッターミル等を用いる粉砕法などが挙げられる。通常、パルプが解繊されて得られるセルロースナノファイバーが所望のサイズになるまで、解繊処理が繰り返し行われる。
【0023】
なお、パルプは解繊の前に予備叩解に付してもよい。予備叩解(機械的前処理)は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。具体的な方法の例としては、段階的に解繊を進めることが好ましい。特に未叩解の原料パルプをナイヤガラビーター等のいわゆる粘状叩解設備にて予め、ろ水度(カナディアンフリーネス)を出発原料の30%以下まで予備叩解処理した後、回転する砥石間で磨砕するグラインダー法にてセルロースナノファイバーが得られるまで解繊処理することが好ましい。
【0024】
また、パルプには、解繊の前に化学的な前処理を施してもよい。この化学的な前処理としては、硫酸等の酸や、酵素などを用いた加水分解処理などを挙げることができる。このように化学的な前処理を施すことで、機械的又は化学的な解繊処理により、効率的にセルロースナノファイバーを得ることができる。
【0025】
なお、当該セルロールナノファイバー含有乾燥体の製造方法に用いられるセルロースナノファイバーは、カルボキシ基の含有量が0.1mmol/g以下のものである。このように、実質的にカルボキシ基が修飾されていないイオン性の低いセルロースナノファイバーを用いることで、非イオン性又はイオン性の低いグリセリン類との均一混合性を高めることができる。また、得られる乾燥体の変色を低減する、あるいは変色を完全に無くすことができる。さらには、実質的にカルボキシ基が修飾されていないセルロースナノファイバーを用いることで、乾燥を比較的容易に行うことができる、セルロースナノファイバーを用いた成形体の耐熱性が高まる、経済性に優れるなどといった利点がある。
【0026】
なお、カルボキシ基は、N−オキシル化合物等による表面酸化や種々の酸化剤を利用し、原料パルプに導入される。従って、前処理としてのN−オキシル化合物等による表面酸化や酸化剤による酸化処理を制御することなどによって、カルボキシ基の含有量が0.1mmol/g以下のセルロースナノファイバーを得ることができる。セルロースナノファイバーのカルボキシ基の含有量の上限としては、0.05mmol/gが好ましい。一方、この下限としては、0mmol/gであってよいが、0.0001mmol/gであってもよい。セルロースナノファイバーのカルボキシ基含有量は、中和滴定によって求めることができる。なお、パルプの解繊処理を機械的処理によりのみ行う場合など、カルボキシ基の量が解繊処理の前後で実質的に変化しない場合、セルロースナノファイバーのカルボキシ基含有量は、解繊処理前のパルプのカルボキシ基含有量と実質的に同じである。すなわち、この場合、セルロースナノファイバーのカルボキシ基含有量は、解繊処理前のパルプに対する中和滴定などによって求めることができる。
【0027】
セルロースナノファイバーの保水度としては、例えば250%以上500%以下であることが好ましい。保水度が上記下限未満の場合は、十分に微細化されたセルロースナノファイバーとなっていない場合がある。一方、保水度が上記上限を超える場合は、得られるセルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散性が低下するおそれがある。セルロースナノファイバーの保水度(%)はJAPAN TAPPI No.26に準拠して測定される。
【0028】
セルロースナノファイバーは、水分散状態でレーザー回折法により測定される擬似粒度分布曲線において単一のピークを有することが好ましい。このように、一つのピークを有するセルロースナノファイバーは、十分な微細化が進行しており、セルロースナノファイバーとしての良好な物性を発揮することができる。また、このピークとなるセルロースナノファイバーの粒径(最頻値)としては、例えば5μm以上25μm以下が好ましい。セルロースナノファイバーが上記サイズであることで、セルロースナノファイバー特有の諸特性をより良好に発揮することができる。「擬似粒度分布曲線」とは、粒度分布測定装置(例えば株式会社セイシン企業のレーザー回折・散乱式粒度分布測定器)を用いて測定される体積基準粒度分布を示す曲線を意味する。
【0029】
(工程(A))
工程(A)においては、セルロースナノファイバーの分散液と、グリセリン類の水溶液との混合により混合液を得る。
【0030】
上記分散液は、セルロースナノファイバーと、セルロースナノファイバーの分散媒とを含む。上記分散媒は、通常、水である。なお、上記分散液には、本発明の効果を阻害しない範囲で他の成分がさらに含有されていてもよい。この分散液におけるセルロースナノファイバーの含有量としては特に限定されないが、例えば0.1質量%以上5質量%以下とすることができる。
【0031】
上記水溶液は、グリセリン類と、溶媒としての水とを含む。但し、本発明の効果を阻害しない範囲で他の成分がさらに含有されていてもよい。この水溶液におけるグリセリン類の含有量としては特に限定されないが、例えば0.1質量%以上5質量%以下とすることができる。
【0032】
グリセリン類のうちのグリセリン誘導体とは、グリセリンから得られる化合物をいう。グリセリン誘導体としては、例えばグリセロールモノアセテート、グリセロールジアセテート、グリセロールトリアセテート、グリセロールトリブチレート、グリセロールエーテルアセテートなどのグリセリンエステルや、グリセリンを重合してなるポリグリセリン等を挙げることができる。
【0033】
グリセリン類としては、得られる乾燥体が良好な分散性を発揮することができる点などから、グリセリンが好ましい。
【0034】
セルロースナノファイバーの分散液と、グリセリン類の水溶液とを混合させることにより、セルロースナノファイバーとグリセリン類とを均一的に混合させることができる。なお、混合後、必要に応じて公知の攪拌機等を用いて、混合液を撹拌することが好ましい。
【0035】
混合により得られた混合液において、セルロースナノファイバーとグリセリン類との混合比としては特に限定されない。混合液におけるセルロースナノファイバー100質量部に対するグリセリン類の含有量の下限としては、0.1質量部が好ましく、1質量部がより好ましく、10質量部がさらに好ましく、50質量部がさらに好ましく、80質量部が特に好ましい。一方、この上限としては、200質量部が好ましく、150質量部がより好ましく、120質量部がさらに好ましい。グリセリン類の含有量が上記下限未満の場合、得られるセルロースナノファイバー含有乾燥体が良好な分散性を発揮できない場合がある。逆に、グリセリン類の含有量が上記上限を超える場合、グリセリン類の使用量が増加し、コスト高となるおそれがある。
【0036】
上記混合液は、水、セルロースナノファイバー及びグリセリン類を含むが、本願発明の効果を阻害しない限り、水、セルロースナノファイバー及びグリセリン類以外の他の成分をさらに含有していてもよい。但し、混合液における他の成分の含有量としては、10質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0037】
上記混合液における固形分濃度としては特に限定されないが、下限としては、0.1質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましい。一方、この上限としては、5質量%が好ましく、3質量%がより好ましい。固形分濃度が上記下限未満の場合は、乾燥効率が低下する傾向にある。一方、固形分濃度が上記上限を超える場合は、混合液の調製が困難になる場合がある。
【0038】
(工程(B))
工程(B)においては、上記工程(A)で得られた混合液を乾燥させる。これにより、セルロースナノファイバー含有乾燥体を得ることができる。このような乾燥工程において、セルロースナノファイバーの表面に、グリセリン類が析出し、各セルロースナノファイバーがグリセリン類に被覆された状態のセルロースナノファイバー含有乾燥体を得ることができると推察される。このようにして得られたセルロースナノファイバー含有乾燥体は、各セルロースナノファイバー間の水素結合がグリセリン類により阻害され、高い再分散性を発揮することができる。また、このようにして得られたセルロースナノファイバー含有乾燥体は、変色の少ない、好ましくは変色が実質的に無い乾燥体となる。
【0039】
上記混合液の乾燥方法としては特に限定されず、自然乾燥、加熱乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥等の公知の方法により行うことができる。なお、噴霧乾燥により、再分散性に特に優れる粒子状のセルロースナノファイバー含有乾燥体を得ることができる。
【0040】
工程(B)における乾燥温度の下限としては、80℃が好ましく、90℃がより好ましい。一方、この上限としては、160℃が好ましく、120℃がより好ましい。乾燥温度が上記下限未満の場合は、十分に乾燥されたセルロースナノファイバー含有乾燥体を得ることが困難になる場合がある。逆に、乾燥温度が上記上限を超える場合は、セルロースナノファイバーが熱により変色するおそれがある。
【0041】
工程(B)における乾燥時間としては乾燥温度等によって異なるが、例えば1時間以上24時間以下とすることができる。
【0042】
<セルロースナノファイバー含有乾燥体>
本発明の実施形態に係るセルロースナノファイバー含有乾燥体は、カルボキシ基の含有量が0.1mmol/g以下のセルロースナノファイバーと、グリセリン又はグリセリン誘導体とを含むセルロースナノファイバー含有乾燥体である。当該セルロースナノファイバー含有乾燥体は、後に詳述するように、水と混合して再分散された分散液にして使用することができる。当該セルロースナノファイバー含有乾燥体は、上述したセルロースナノファイバー含有乾燥体の製造方法により好適に得ることができる。
【0043】
当該セルロースナノファイバー含有乾燥体に含まれるセルロースナノファイバーやその製造方法の具体例及び好適な例は、セルロースナノファイバー含有乾燥体の製造方法の説明において例示したものと同様である。また、当該セルロースナノファイバー含有乾燥体に含まれるグリセリン類の具体例及び好適な例は、セルロースナノファイバー含有乾燥体の製造方法の説明において例示したものと同様である。
【0044】
当該セルロースナノファイバー含有乾燥体におけるセルロースナノファイバー100質量部に対するグリセリン類の含有量の下限としては、0.1質量部が好ましく、1質量部がより好ましく、10質量部がさらに好ましく、50質量部がさらに好ましく、80質量部が特に好ましい。一方、この上限としては、200質量部が好ましく、150質量部がより好ましく、120質量部がさらに好ましい。グリセリン類の含有量が上記下限未満の場合、良好な分散性を発揮できない場合がある。逆に、グリセリン類の含有量が上記上限を超える場合は、相対的にセルロースナノファイバーの含有量が低下し、用途や機能が制限される場合などがある。
【0045】
当該セルロースナノファイバー含有乾燥体の水分率(水の含有率)としては、例えば80質量%未満であり、50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下が特に好ましい。水分率が上記上限以下であることにより、運送等におけるエネルギー消費をより低減でき、取扱性や保管性等も向上する。また、樹脂との溶融混錬の際の水蒸気爆発の危険性を低減することができる。なお、当該セルロースナノファイバー含有乾燥体の水分率の下限としては、実質的に0質量%であってよいが、0.1質量%でもよく、1質量%でもよく、3質量%でもよい。
【0046】
当該セルロースナノファイバー含有乾燥体の形状としては特に限定されないが、粒子状及びフィルム状であることが好ましい。セルロースナノファイバー含有乾燥体が粒子状又はフィルム状であることにより、水に対する分散性をより高めることができる。当該セルロースナノファイバー含有乾燥体が粒子状である場合、この平均粒径としては、例えば1μm以上5mm以下とすることができる。「平均粒径」とは、JIS−Z−8815(2013年)に準拠しレーザー回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS−Z−8819−2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を指す。当該セルロースナノファイバー含有乾燥体がフィルム状である場合、この平均厚みとしては、例えば0.1μm以上1mm以下とすることができる。
【0047】
当該セルロースナノファイバー含有乾燥体は、実質的にセルロースナノファイバー及びグリセリン類から構成されている。当該セルロースナノファイバー含有乾燥体は、本願発明の効果を阻害しない範囲で、セルロースナノファイバー及びグリセリン類以外の他の成分(固形分)を含有していてもよい。当該セルロースナノファイバー含有乾燥体における、セルロースナノファイバー及びグリセリン類以外の他の成分(固形分)の含有量としては、セルロースナノファイバー及びグリセリン類の合計量を100質量部とした場合に、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。他の成分の含有量が上記下限を超える場合、これらの成分によりセルロースナノファイバーの分散性に影響を与える場合がある。
【0048】
<セルロースナノファイバー分散液の製造方法>
本発明の実施形態に係るセルロースナノファイバー分散液の製造方法は、当該セルロースナノファイバー含有乾燥体と水とを混合する工程を備える。当該セルロースナノファイバー分散液の製造方法によれば、分散性の高いセルロースナノファイバー含有乾燥体を用いるため、分散性の高い、高濃度のセルロースナノファイバー分散液を容易に得ることができる。また、着色の無いセルロースナノファイバー分散液を得ることができる。なお、セルロースナノファイバー含有乾燥体と混合する水は、純水であってもよく、他の成分を含む水溶液や水分散液であってもよい。セルロースナノファイバー含有乾燥体と水との混合に際しては、必要に応じ撹拌することが好ましい。
【0049】
撹拌方法としては特に限定されず、撹拌翼や回転子を使用した撹拌、超音波による撹拌等の公知の方法を用いることができる。撹拌の際に用いられる攪拌機としては、自動式又は手動式のシェイカー、マグネティックスターラー、超音波振動子、その他の各種撹拌子を有する攪拌機、ビーズミル等のメディアミル、スタティックミキサー等の静止型攪拌機等を挙げることができる。
【0050】
得られるセルロースナノファイバー分散液におけるセルロースナノファイバーの濃度としては特に限定されないが、下限としては、例えば0.1質量%であり、0.5質量%が好ましい。一方、この上限としては、例えば5質量%であり、3質量%とすることができる。
【0051】
本発明のセルロースナノファイバー含有乾燥体及びその製造方法並びにセルロースナノファイバー分散液の製造方法は、上記実施の形態に限定されるものでは無い。例えば、当該セルロースナノファイバー含有乾燥体は、水以外の分散媒に再分散させて使用することもできる。また、水と他の分散媒との混合溶媒に再分散させてもよい。上記水以外の分散媒としては、アルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類、炭化水素類等を挙げることができる。また、当該セルロースナノファイバー含有乾燥体を、例えば樹脂等と混合して使用することもできる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
<評価方法>
実施例及び比較例の各種物性は、以下の評価方法に準じて測定した。
【0054】
(擬似粒度分布曲線)
ISO−13320(2009)に準拠して、粒度分布測定装置(セイシン企業社の「レーザー回折・散乱式粒度分布測定器」)を用いて体積基準粒度分布を示す曲線を測定し、ピークの数を数えた。
【0055】
(保水度(%))
セルロースナノファイバーの保水度(%)は、JAPAN TAPPI No.26:2000に準拠して測定した。
【0056】
(カルボキシ基含有量(mmol/g))
解繊前のパルプ(原料パルプ又は酸化処理したパルプ)を精秤し、pH2.5〜3.0に調製し、0.05mol/L水酸化ナトリウムにて自動滴定した。電導度測定(東亜DKK社の伝導度装置「pH/ion/EC/DO meter MN−60R」を用いた常温での測定)を行い、電導度の変化の無い範囲をカルボキシ基の量とした。
【0057】
[実施例1]
原料パルプ(LBKP:水分98質量%)に対し、ナイヤガラビーターを用いて2時間30分かけて予備叩解を行った。次いで、石臼型分散機(増幸産業社の「スーパーマスコロイダー」)を用いた解繊処理を2回施し、セルロースナノファイバーの水分散液(濃度2質量%)を得た。この水分散液に含まれるセルロースナノファイバーは、レーザー回折を用いた粒度分布測定の疑似粒度分布において1つのピークを有し、保水度は350%以上であった。また、カルボキシ基の含有量は、0.05mmol/gであった。
【0058】
水98gと、グリセリン2gとを混合し、マグネットスターラーを用い60分間600rpmで撹拌し、グリセリン水溶液を得た。
【0059】
得られた濃度2質量%のセルロースナノファイバーの水分散液25gと、濃度2質量%のグリセリン水溶液25gとを混合し、マグネットスターラーを用い60分間1200rpmで撹拌し、混合液を得た。セルロースナノファイバー(CNF)とグリセリンとの混合比(質量比)は、100:100である。この混合液を105℃で6時間乾燥させ、フィルム状のセルロースナノファイバー含有乾燥体を得た。得られたセルロースナノファイバーの含水率は、5.0質量%であった。
【0060】
[実施例2〜3、比較例1〜9、11]
再分散剤(グリセリン類又はその代替成分)として表1に記載の化合物を用い、セルロースナノファイバーとの混合比を表1に記載の比としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜3及び比較例1〜9、11のセルロースナノファイバー含有乾燥体を得た。なお、比較例11は、グリセリン類又はその代替成分を混合させず、セルロースナノファイバーの水分散液をそのまま乾燥させてセルロースナノファイバー含有乾燥体を得た。
【0061】
[比較例10]
乾燥質量で10gの原料パルプ(LBKP:水分98質量%)、0.16gのTEMPO及び1.0gの臭化ナトリウムを水500mlに混合した後、12質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を25ml加えて反応させた。反応中はpH10以下にならないように、0.5M(モル濃度)の水酸化ナトリウム水溶液を添加した。pHの変化がなくなった時点で反応終了とし、水洗後、ろ過し、酸化処理したパルプを得た。このとき、カルボキシ基の導入量は1.29mmol/gであった。得られた酸化処理したパルプを固形分濃度2質量%に希釈し、ホモミキサーで12,000rpm、6時間分散処理して、セルロースナノファイバーの水分散液(濃度2質量%)を得た。このカルボキシ基含有量1.29mmol/gのセルロースナノファイバーの水分散液を用い、セルロースナノファイバーと再分散剤との混合比を表1に記載の比としたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例10のセルロースナノファイバー乾燥体を得た。
【0062】
<評価>
(濃度(%))
得られた各セルロースナノファイバー含有乾燥体0.2gを水9.8gに添加し、次いで、マグネティックスターラーを用い60分間、800rpmで撹拌して、各セルロースナノファイバーの再分散液を得た。得られた再分散液を10分間静置した後、上澄み液の濃度を以下の方法にて測定した。測定結果を表1に示す。なお、完全に再分散した状態であれば、濃度は2.0質量%となる。
【0063】
セルロースナノファイバーの再分散液(沈殿があるものは上澄み液)を1g採取し、容器に移す。105℃で2時間乾燥後、電子天秤にて質量を測定し、濃度を算出した。これを2回行い、平均値を求めた。
【0064】
(変色の有無)
得られた各セルロースナノファイバー含有乾燥体を目視にて観察し、無色透明あるいは白色であるものは、変色(着色)が無いと評価した。一方、黄色、茶色等が見られるものは、変色(着色)が有ると評価した。評価結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示されるように、実施例1〜3においては、変色の無いセルロースナノファイバー含有乾燥体が得られた。また、実施例1〜3のセルロースナノファイバー含有乾燥体から得られた再分散液の上澄み液の濃度は、比較例1〜11と比べて高く、再分散性に優れることがわかる。