(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
以下、実施の形態1〜3に係る摩擦ダンパー装置の採用部位として、橋梁を例に説明する。
図1は、本実施の形態1に係る摩擦ダンパー装置100及び摩擦ダンパー装置が設置された構造体(橋梁)の説明図である。
図1(a)は、摩擦ダンパー装置100及び支承Kを側方から見た図であり、
図1(b)は、摩擦ダンパー装置100及び支承Kを上方から見た図である。なお、
図1(b)では上部工Rは図示を省略している。
【0013】
[摩擦ダンパー装置100の設置例]
構造体である橋梁は、第1構造物としての橋脚Br及び第2構造物としての上部工Rとを備えている。
図1において、摩擦ダンパー装置100及び支承Kは、橋梁の下部構造物である橋脚Brと、上部構造物である上部工Rとの間に組み込まれている。橋脚Brは、鉄筋コンクリート製であり、その上面は水平面として形成されている。なお、橋脚Brは、
図1に示すように断面形状が矩形である四角柱の他、例えば、断面形状が円形である円柱等であってもよい。上部工Rは、例えば橋梁の水平方向に渡された主桁であり、鉄筋コンクリート製や鉄骨製の構造部材である。なお、以下の説明の便宜上、橋梁(上部工R)の長手方向をX方向、橋梁(上部工R)の幅方向をY方向、橋脚Brの上下方向をZ方向とし、X−Y面は水平面に平行であるとする。
【0014】
支承Kは、上部工Rを橋脚Brに対して移動可能に支持するものであって、橋脚Brの上面に固定される下支承板Kaと、上部工Rの下面に設置される上支承板Kbと、下支承板Kaと上支承板Kbとによって挟まれた支承球体Kcと、を備えている。このとき、支承球体Kcは球体であるから、何れの方向に向かっても回転することができるため、上部工Rは、橋脚Brに対して水平面内を何れの方向に向かっても移動可能に支持されている。なお、支承球体Kcは、例えば、矩形のゴム製部材で構成することもできる。
【0015】
摩擦ダンパー装置100は、例えば、支承Kの横に配置される。
図1(b)では、Kが橋脚Brの上面上に3つ配置されているため、摩擦ダンパー装置100も橋脚Brの上面上に3つ配置されている。上部工Rの支持バランスを考慮すると、支承Kと摩擦ダンパー装置100との数は同数であると好ましいが、それに限定されるものではない。
【0016】
[構造説明]
図2Aは、本実施の形態1に係る摩擦ダンパー装置100の構造説明図である。
図2Bは、本実施の形態1に係る摩擦ダンパー装置100の摩擦面等の説明図である。
なお、
図2A(a)は摩擦ダンパー装置100を側方から見た図であり、
図2A(b)は摩擦ダンパー装置100を上方から見た図であり、
図2A(c)は
図2(a)のA−A端面図である。また、
図2A(b)においては、第1固定板2Aの下側に位置して隠れて見えない構成を点線で示し、また、説明の便宜上、第1固定材3及び第2固定材4については記載を省略している。
【0017】
摩擦ダンパー装置100は、スライド板1と、第1摩擦板1Aと、第2摩擦板1Bと、第1固定板2Aと、第2固定板2Bとを備えている。また、摩擦ダンパー装置100は、第1固定材3と、第2固定材4とを備えている。さらに、摩擦ダンパー装置100は、固定部材5A〜5Dを備えている。
【0018】
(スライド板1)
スライド板1は、矩形状の平板状部材である。スライド板1の長手方向は、X方向に平行である。スライド板1は、第1摩擦板1Aが配置された第1面S1と、第2摩擦板1Bが配置された第2面S2とが形成されている。第1面S1は、第1固定板2Aに対向配置されている。第2面S2は、第1面S1とは反対側に形成され、第2固定板2Bに対向配置されている。スライド板1は、一端及び他端が第1固定材3に接続されている。第1固定材3は上部工Rに固定されているため、スライド板1と第1固定材3と上部工Rとは一体である。
【0019】
スライド板1の第1面S1には、第1摩擦板1Aが固定されている。スライド板1の第2面S2には、第2摩擦板1Bが固定されている。第1摩擦板1Aと第1面S1との固定手段及び第2摩擦板1Bと第2面S2との固定手段には、例えば、接着剤等を採用することができる。スライド板1の第1面S1の上側には、第1固定板2Aが配置されている。第1面S1と第1滑り板2A1との間には、第1摩擦板1Aの厚みに対応する隙間Tが形成されている。
図2Bに示すように、この隙間TのZ方向の大きさは、第1面S1と第1摩擦面Fr1aとの距離Dsである。スライド板1の第2面S2の下側には、第2固定板2Bが配置されている。第2面S2と第2滑り板2B1との間には、第2摩擦板1Bの厚みに対応する隙間Tが形成されている。この隙間TのZ方向の大きさは、第2面S2と第2摩擦面Fr2aとの距離Dsである。
スライド板1を構成する材質は特に限定されるものではないが、スライド板1には、中央部に配置された第2摩擦板1Bを基準位置として、両端から上部工Rの荷重が加わる。この結果、スライド板1には強い曲げ力が作用することになる。したがって、スライド板1は、上部工Rの荷重で曲がらないように高剛性の金属等で構成するとよい。
【0020】
スライド板1に固定された第1摩擦板1A及び第2摩擦板1Bは、第1滑り板2A1及び第2滑り板2B1に対して、第1の方向(X方向)及び第1の方向と直交する第2の方向(Y方向)を含む方向に移動自在である。逆に、第1滑り板2A1及び第2滑り板2B1は、スライド板1に固定された第1摩擦板1A及び第2摩擦板1Bに対して、第1の方向及び第2の方向を含む方向に移動自在である。つまり、第1摩擦板1A及び第2摩擦板1Bと第1滑り板2A1及び第2滑り板2B1とは、水平面(X−Y平面)に平行な方向に相対移動自在となっている。
【0021】
(第1摩擦板1A及び第2摩擦板1B)
第1摩擦板1A及び第2摩擦板1Bは、円形の平板状部材である。第1摩擦板1Aの下面Cs1bは第1面S1に固定され、第1摩擦板1Aの上面Cs1aは後述する第1固定板2Aの第1滑り板2A1に接触している。また、第2摩擦板1Bの上面Cs2aは第2面S2に固定され、第2摩擦板1Bの下面Cs2bは後述する第2固定板2Bの第2滑り板2B1に接触している。ここで、第1摩擦板1Aの上面Cs1aと第1滑り板2A1とは固定されておらず、第2摩擦板1Bの下面Cs2bと第2滑り板2B1とは固定されていないため、第1摩擦板1A及び第2摩擦板1Bは、第1固定板2A及び第2固定板2Bに対して、X方向及びY方向に、相対移動できるようになっている。
第1摩擦板1A及び第2摩擦板1Bは同一形状であり、同一の材質で構成されている。また、第1摩擦板1A及び第2摩擦板1Bの配置位置も対応関係にある。つまり、第1摩擦板1A及び第2摩擦板1Bは1の矩形の対角線が交わる中心部に配置されている。
【0022】
第1摩擦板1Aは、スライド板1及び後述する第1摩擦面Fr1aを上側から見たときに、スライド板1と第1摩擦面Fr1aとが重なる領域よりもせまい領域に配置されている。ここで、スライド板1及び後述する第1摩擦面Fr1aを見る方向は、第1摩擦面Fr1aに垂直な方向である。また、スライド板1と第1摩擦面Fr1aとが重なる領域とは、スライド板1の向かい合う1対の長辺と、第1摩擦面Fr1a(第1滑り板2A1)の円弧と、によって区画される領域である。第1摩擦板1Aは、この領域よりも狭い領域に配置されている。
第2摩擦板1Bも同様である。すなわち、第2摩擦板1Bは、スライド板1及び後述する第2摩擦面Fr2aを上側から見たときに、スライド板1と第2摩擦面Fr2aとが重なる領域よりもせまい領域に配置されている。ここで、スライド板1及び第2摩擦面Fr2aを見る方向は、第2摩擦面Fr2aに垂直な方向である。
【0023】
第1摩擦板1A及び第2摩擦板1Bは、例えば、熱硬化性樹脂を結合材として、繊維材料、摩擦調整材及び充填材等から構成することができる。ここで、繊維材料は、アラミド繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維、カーボンファイバー等を採用することができ、摩擦調整材は、カシューダスト及び鉛等を採用することができ、充填材は、酸化バリウム等を採用することができる。また、第1摩擦板1A及び第2摩擦板1Bは、結合材、繊維材料、摩擦調整材及び充填材等で構成される摩擦材部と、摩擦材部に裏打ちされた鋼板とで構成してもよい。これにより、第1摩擦板1A及び第2摩擦板1Bの強度をより向上させることができる。
【0024】
本実施の形態1では第1摩擦板1Aと第2摩擦板1Bとは同一形状であるものとして説明するが、それに限定されるものではない。例えば、第1摩擦板1Aよりも第2摩擦板1Bの方が上部工Rの荷重を支える強度が要求され、また、荷重がかかる分だけ発生摩擦力も大きくなり得る、といったことが想定される。そこで、第1摩擦板1Aの厚みよりも第2摩擦板1Bの厚みを大きくしてもよいし、第2摩擦板1Bの径(円の径)を第1摩擦板1Aの径よりも大きくしてもよいし、第1摩擦板1Aよりも第2摩擦板1Bの方が耐摩耗性に優れる材質を採用してもよい。また、第1摩擦板1A及び第2摩擦板1Bは円形に限定されるものではなく、例えば、楕円形であってもよいし、多角形であってもよい。
【0025】
(第1固定板2A及び第2固定板2B)
第1固定板2A及び第2固定板2Bは、スライド板1を挟むように配置されている。第1固定板2A及び第2固定板2Bは、矩形状の平板状部材である。図示は省略しているが、第1固定板2A及び第2固定板2Bの四隅には、固定部材5A〜5Dが挿入される開口部が形成されている。第1固定板2A及び第2固定板2Bはスライド板1(第1摩擦板1A及び第2摩擦板1B)を押しつけるように挟み込んでいる。これは、第1固定板2Aと第2固定板2Bとが固定部材5A〜5Dによって締結されているためである。
【0026】
第1固定板2Aには第1摩擦面Fr1aが形成された第1滑り板2A1が設けられている。第2固定板2Bには第2摩擦面Fr2aが形成された第2滑り板2B1が設けられている。第1滑り板2A1及び第2滑り板2B1は、例えばステンレスで構成することができる。第1摩擦面Fr1aは、第1摩擦板1Aとの接触面に平行な第1の方向(X方向)及び当該接触面に平行であって第1の方向と直交する第2の方向(Y方向)に広がるように形成されている。また、第2摩擦面Fr2aは、第2摩擦板1Bとの接触面に平行な第1の方向(X方向)及び当該接触面に平行であって第1の方向と直交する第2の方向(Y方向)に広がるように形成されている。
なお、第1固定板2A及び第1滑り板2A1とは同一の材質で一体的に形成してもよいし、第1固定板2Aと第1滑り板2A1とは別体であってもよい。第2固定板2B及び第2滑り板2B1も同様である。本実施の形態1では第1固定板2Aと第1滑り板2A1とは別体であり、第2固定板2Bと第2滑り板2B1とについても別体であるものとして説明する。
【0027】
第1滑り板2A1の下面には第1摩擦面Fr1aが形成され、第1滑り板2A1の上面には第1固定板2Aに固定される固定面Fr1bが形成されている。第2滑り板2B1の上面には第2摩擦面Fr2aが形成され、第2滑り板2B1の下面には第2固定板2Bに固定される固定面Fr2bが形成されている。
【0028】
本実施の形態1では第1滑り板2A1と第2滑り板2B1とは同一形状であるものとして説明するが、それに限定されるものではない。例えば、第1滑り板2A1よりも第2滑り板2B1の方が上部工Rの荷重を支える強度が要求され、また、荷重がかかる分だけ発生摩擦力も大きくなり得る、といったことが想定される。そこで、第1滑り板2A1の厚みよりも第2滑り板2B1の厚みを大きくしてもよい。また、第1滑り板2A1及び第2滑り板2B1は、円形に限定されるものではなく、例えば、楕円形であってもよいし、多角形であってもよい。
【0029】
(第1固定材3)
第1固定材3は、上部工Rに固定され、スライド板1に接続されている。第1固定材3は、スライド板接続部3A1及びスライド板接続部3B1と、上部工固定部3A2及び上部工固定部3B2とを備えている。スライド板接続部3A1の下端にはスライド板1の一端が接続され、スライド板接続部3B1の下端にはスライド板1の他端が接続されている。スライド板接続部3A1及びスライド板接続部3B1は、スライド板1との接続位置から上側に延びるように形成されている。スライド板接続部3A1の上端は上部工固定部3A2に接続され、3B1の上端は上部工固定部3B2に接続されている。上部工固定部3A2及び上部工固定部3B2は、例えば、ボルト等によって上部工Rに固定される。第1固定材3は、第1摩擦面Fr1aに対して一方側に配置されている。つまり、第1固定材3は、第1摩擦面Fr1aを境にして上側に配置されている。なお、後述の第2固定材4は、第1摩擦面Fr1aに対して他方側に配置されている。つまり、第2固定材4は、第1摩擦面Fr1aを境にして下側に配置されている。
【0030】
(第2固定材4)
第2固定材4は、橋脚Brに固定され、第2固定板2Bに接続されている。第2固定材4は、固定板接続部4Aと、橋脚固定部4Bとを備えている。固定板接続部4Aは断面視形状が十字状となっている。固定板接続部4Aの上端は第2固定板2Bに接続され、固定板接続部4Aの下端は4Bに接続されている。橋脚固定部4Bは、例えば、ボルト等によって橋脚Brに固定される。
【0031】
(固定部材5A〜5D)
固定部材5A〜5Dは、スライド板1(第1摩擦板1A及び第2摩擦板1B)が第1固定板2A及び第2固定板2Bによって挟み込まれるように、第1固定板2A及び第2固定板2Bに締結されるものである。固定部材5A〜5Dは、第1摩擦面Fr1aの外周縁及び第2摩擦面Fr2aの外周縁よりも外側に配置されている。
【0032】
各固定部材5A〜5Dは、ボルト部Btと、ナット部Nuと、弾性部材Sp1と、弾性部材Sp2とを備えている。ボルト部Btは、第1固定板2A及び第2固定板2Bの開口部に挿入される挿入部と、挿入部の下端に形成され、挿入部よりも径が大きい頭部とが形成されている。ナット部Nuは、ボルト部Btの挿入部の上端に固定されている。
弾性部材Sp1は、ボルト部Btの一端部と第1固定板2Aの第1摩擦面Fr1aとは反対の面との間に配置されている。また、弾性部材Sp2は、ボルト部Btの他端部と第2固定板2Bのうちスライド板1に向かい合う面とは反対の面との間に配置されている。つまり、ボルト部Btの頭部と第2固定板2Bとの間には弾性部材Sp2が配置されている。また、ナット部Nuと第1固定板2Aとの間には弾性部材Sp1が配置されている。摩擦ダンパー装置100は、固定部材5A〜5Dが弾性部材Sp1及び弾性部材Sp2を備えているため、構造体の上下方向の振動を吸収することができるようになっている。
【0033】
固定部材5A〜5Dに第1固定板2A及び第2固定板2Bが挟み込まれた状態では、第1固定板2A及び第2固定板2Bには、スライド板1を押しつける力が作用している。この押しつける力は、固定部材5A〜5Dの締結力と相関関係がある。つまり、固定部材5A〜5Dを強く締結すればするほど、スライド板1は、第1固定板2A及び第2固定板2Bによって強く挟まれ、スライド板1と第1固定板2A及び第2固定板2Bとの相対移動を妨げるように作用する。摩擦ダンパー装置100では、地震で振動する構造体の運動エネルギーを、当該相対移動の際に生じる、第1摩擦板1A及び第2摩擦板1Bと第1滑り板2A1及び第2滑り板2B1との摩擦熱に変換している。
固定部材5A〜5Dの締結力が強すぎると、スライド板1と第1固定板2A及び第2固定板2Bとの相対移動が妨げられすぎて、摩擦熱の発生量が小さくなってしまう。逆に、固定部材5A〜5Dの締結力が弱すぎると、スライド板1と第1固定板2A及び第2固定板2Bとの間に生じる摩擦力が小さくなる結果、摩擦熱の発生量も小さくなってしまうだけでなく、スライド板1が傾いてしまい上部工Rを適切に支えられなくなる可能性もある。固定部材5A〜5Dの締結力は摩擦ダンパー装置100が設置される構造体にもよるが、橋脚である場合には、例えば、20t程度とするとよい。つまり、摩擦ダンパー装置100は4本の固定部材を備えているので、1本あたり5t程度の締結力とするとよい。
【0034】
[実施の形態1の動作説明]
図2Cは、本実施の形態1に係る摩擦ダンパー装置100の動作説明
図1である。
なお、
図2C(a)は摩擦ダンパー装置100を側方から見た図であり、
図2C(b)は摩擦ダンパー装置100を上方から見た図である。また、以下の説明において、第1固定材3、スライド板1、第1摩擦板1A、第2摩擦板1Bを上構造部とも称し、第2固定材4、第1固定板2A、第1滑り板2A1、第2固定板2B、第2滑り板2B1、固定部材5A〜5Dを下構造部とも称する。上構造部は上部工Rとともに動き、下構造部は橋脚Brとともに動く。
【0035】
図2Cでは構造体の振動方向の成分が主にX方向である場合を想定している。地震の発生により、地面と一体となっている橋脚BrがX方向に動く。このとき、橋脚Brとともに、下構造部もX方向に動く。下構造部がX方向に動いているときには、第1摩擦板1A及び第2摩擦板1Bと第1滑り板2A1及び第2滑り板2B1とが擦れ合って摩擦熱が発生する。つまり、摩擦ダンパー装置100は、構造体の振動エネルギーを摩擦熱に変換することができる。ここで、この摩擦熱が発生しているので、下構造部には、下構造部の移動方向とは逆方向に摩擦力が発生している。逆に、上構造部の第1滑り板2A1及び第2滑り板2B1は、作用反作用の関係から、この摩擦力とは逆方向に力が作用していることになる。
【0036】
したがって、下構造部が移動すると、一定程度、上構造部及び上部工Rが移動する場合がある。第1固定板2A及び2Bが固定部材5A〜5Dで締結されているので、第1固定板2A及び第2固定板2Bと第1摩擦板1A及び第2摩擦板1Bにおける部材間の摩擦力に起因して、上構造部も一定程度は下構造部の動きに不随することになるということである。しかし、上構造部の移動量の方が下構造部の移動量よりも小さく抑えられることから、上部工R上の人間や車両等が受ける地震の揺れを抑制することができる。
【0037】
図2Dは、本実施の形態1に係る摩擦ダンパー装置100の動作説明
図2である。
なお、
図2D(a)は摩擦ダンパー装置100を側方から見た図であり、
図2D(b)は摩擦ダンパー装置100を上方から見た図である。
図2Dでは構造体の振動方向がX方向の成分だけでなくY方向の成分も有している場合を想定している。地震の発生により橋脚BrがX方向に動と、橋脚Brとともに下部構造部もX方向及びY方向に動く。
【0038】
[実施の形態1の効果]
従来の摩擦ダンパー装置のように、1方向にだけスライド自在となっている構成では、構造体の振動エネルギーを効率的に摩擦熱に変換することができない。例えば、スライド方向がX方向に平行になるように従来のダンパー装置を構造体に設置した場合を考えると、構造体の振動のX成分に応じてダンパー装置が動くことになる。一方、Y成分に応じてダンパー装置は、動かない、又は動いたとしても、移動量は小さいことが想定される。このため、従来のダンパー装置では構造体の振動エネルギーを摩擦熱に変換する効率低下してしまう。一方、本実施の形態1に係る摩擦ダンパー装置100では、第1固定板2A及び第2固定板2Bと第1摩擦板1A及び第2摩擦板1Bとが、X方向及びY方向にも相対移動することができるように構成されているので、構造体の振動エネルギーを摩擦熱に変換する効率が向上している。
【0039】
また、従来の摩擦ダンパー装置のように、柱体及び筒体を備え、軸方向に摺動自在となっている構成は、摺動方向(スライド方向)の延長に(先に)、構造体との固定部(本実施の形態1の第1固定材3及び第2固定材4に対応)が配置される。当該構成では、複数の方向の振動のエネルギーを熱エネルギーに変換できるようにするためには、配置角度を変えた複数の摩擦ダンパー装置を設ける必要があり、構造体への設置必要台数が嵩みやすい。
一方、本実施の形態1に係る摩擦ダンパー装置100は、スライド板1に接続され、上部工Rを固定することができる第1固定材3と、2が接続され、橋脚Brを固定することができる第2固定材4とを備えている。ここで、摩擦ダンパー装置100は、X方向及びY方向に平行なスライド面が形成されている。言い換えると、摩擦ダンパー装置100のスライド方向の延長に(先に)、第1固定材3及び第2固定材4が配置されていない。また、摩擦ダンパー装置100のスライド面を境にして、一方側に第1固定材3が配置され、他方側に第2固定材4が配置されているということもできる。摩擦ダンパー装置100はこのような態様を備えているので、1台でも複数の方向の振動エネルギーを容易に摩擦熱に変換することができ、構造体への設置必要台数が嵩むことを抑制することができる。
【0040】
[変形例1]
図2Eは、本実施の形態1に係る摩擦ダンパー装置の変形例1である。
図2E(a)は変形例1に係る摩擦ダンパー装置を側方から見た図であり、
図2E(b)は第1固定板2A等の板材が積み重ねられている状態を示している。
実施の形態1では、2つの摩擦板が設けられている態様であったが、それに限定されるものではない。本変形例1のように、摩擦板は1つであってもよい。本変形例1では、第1摩擦板1Aが設けられているが、第2摩擦板1Bは設けられていない。この構成であっても、実施の形態1に係る摩擦ダンパー装置100と同様の効果を得ることができる。なお、逆に、図示は省略するが、第2摩擦板1Bが設けられているが、第1摩擦板1Aは設けられていない構成であってもよい。
【0041】
[変形例2]
図2Fは、本実施の形態1に係る摩擦ダンパー装置の変形例2である。
図2F(a)は第1固定板2A等の板材が積み重ねられている状態を示し、
図2F(b)は変形例2に係る摩擦ダンパー装置を上側から見た図である。
本変形例2では、実施の形態1とは異なり、摩擦板及び滑り板との上下関係が逆になっている。また、実施の形態1とは異なり、スライド板1の形状をY方向において拡大している。また、第1滑り板2A1及び第2滑り板2B1は共に、スライド板1に対応するようにY方向に拡大している。
【0042】
第1摩擦板1Aは第1固定板2Aに固定されている。なお、固定手段は例えば接着剤等を採用することができる。第1摩擦板1Aは第1固定板2Aの中央部に配置されているとよい。第1滑り板2A1はスライド板1の第1面S1に配置されている。
第2摩擦板1Bは第2固定板2Bに固定されている。なお、固定手段は例えば接着剤等を採用することができる。第2摩擦板1Bは第2固定板2Bの中央部に配置されているとよい。第2滑り板2B1はスライド板1の第2面S2に配置されている。
【0043】
本変形例2であっても、実施の形態1に係る摩擦ダンパー装置100と同様の効果を得ることができる。なお、実施の形態1の構成の場合においては、第1摩擦板1A及び第2摩擦板1Bの存在によって隙間Tが形成されるが、この隙間Tの前後左右の比率が変わる。例えば、
図2C(a)に示すように、下構造部がX方向に大きく移動した場合には、固定部材5B(及び固定部材5D)側は第1摩擦板1A及び第2摩擦板1Bの存在により隙間Tが埋められている。一方、固定部材5A(及び固定部材5C)側は隙間Tが形成されることになる。このように、摩擦ダンパー装置100が動くと、隙間Tの比率が変わることになる。ここで、隙間Tが形成されている部分では、第1滑り板2A1(及び第2滑り板2B1)を第1面S1(及び第2面S2)に接触させるように、固定部材5A(及び固定部材5C)が作用している。この作用は、第1摩擦板1A及び第2摩擦板1Bから遠い側である、固定部材5A(及び固定部材5C)の近傍ほど大きい。
本変形例2では、隙間Tの前後左右の比率が変わらないので、固定部材5A〜5Dの作用により隙間Tが埋められて、意図しない部材同士がこすれてしまうことをより確実に回避することができる。なお、第1摩擦板1A及び第2摩擦板1Bが、第1滑り板2A1及び第2滑り板2B1の長手方向に平行な端を超えてしまうと、第1固定板2A及び第2固定板2Bがスライド板1から脱落してしまう可能性がある。これを回避するため、例えば、実施の形態1で説明した場合よりも、第1滑り板2A1及び第2滑り板2B1のY方向の寸法を大きくするとよい。
【0044】
[変形例3]
図2Gは、本実施の形態1に係る摩擦ダンパー装置の変形例3である。実施の形態1では、2つの固定板(第1固定板2A及び第2固定板2B)が設けられている態様であったが、それに限定されるものではなく、3つ以上の固定板を備えていてもよい。本変形例3では、3つ固定板を備えている態様を一例に説明する。
本変形例3では、実施の形態1の構成に加えて、スライド板1bと、第3固定板2Cと、第3摩擦板1C及び第4摩擦板1Dとを備えている。スライド板1bは、配置位置以外は、スライド板1と同様の構成である。また、第3固定板2Cは、配置位置以外は第1固定板2A及び第2固定板2Bと同様の構成である。さらに、第3摩擦板1C及び第4摩擦板1Dは、配置位置以外は、第1摩擦板1A及び第2摩擦板1Bと同様の構成である。なお、固定部材5A〜5Dのボルト部Btの長さは、固定板等を積み重ねる枚数が増えた結果、厚みが増えた場合には、長さを長くすればよい。
【0045】
スライド板1bは、両端が第1固定材3に接続され、スライド板1の上側に配置されている。スライド板1bは第1固定板2Aと第3固定板2Cとの間に挟まれて配置されている。スライド板1bの上面(スライド板1の第1面S1に対応)には第4摩擦板1Dが固定され、スライド板1bの下面(スライド板1の第2面S2に対応)には第3摩擦板1Cが固定されている。
第1固定板2Aには、第1滑り板2A1に加えて第3滑り板2A2が設けられている。第3滑り板2A2は第3摩擦板1Cと接触する。第3滑り板2A2と第3摩擦板1Cとが相対移動する。
第3固定板2Cは、矩形状の平板状部材であり、四隅には固定部材5A〜5Dが挿入される開口部が形成されている。第3固定板2Cには摩擦面が形成された第4滑り板2C1が設けられている。第4滑り板2C1は第4摩擦板1Dと接触する。第4滑り板2C1と第4摩擦板1Dとが相対移動する。
本変形例3であっても、実施の形態1に係る摩擦ダンパー装置100と同様の効果を得ることができる。
【0046】
実施の形態2.
図3Aは、本実施の形態2に係る摩擦ダンパー装置200の構造説明図である。
なお、
図3A(a)は摩擦ダンパー装置200を側方から見た図であり、
図3A(b)は摩擦ダンパー装置200を上方から見た図であり、
図3A(c)は
図3A(a)のA−A端面図である。また、
図3A(b)においては、第1固定板20Aの下側に位置して隠れて見えない構成を点線で示し、また、説明の便宜上、第1固定材3及び第2固定材24については記載を省略している。本実施の形態2では実施の形態1と相違する構成について説明するものとし、共通する構成は同一符号を付し説明を省略する。
【0047】
第1固定板20Aは、実施の形態1の第1固定板2Aよりも短手方向の幅が小さくなっている。実施の形態1の第1滑り板2A1はでは円形であったが、第1滑り板20A1は、矩形状である。なお、第1固定板20Aには固定部材5A〜5Dを挿入する開口部が形成されている。ここで、第1滑り板20A1の配置位置は、第1固定板20Aのうち固定部材5A、5B側から固定部材5C、5D側にかけて形成されている。
第2固定板20B及び第2滑り板20B1は、第1固定板20A及び第1滑り板20A1と同様の形状である。第2固定板20Bは、第2固定板2Bよりも短手方向の幅が小さくなっている。第2滑り板20B1は、矩形状である。なお、第2固定板20Bには固定部材5A〜5Dを挿入する開口部が形成されている。第2滑り板20B1の配置位置は、第2固定板20Bのうち固定部材5A、5B側から固定部材5C、5D側にかけて形成されている。
【0048】
スライド板21には第1摩擦板21A及び第2摩擦板21Bが設けられている。第1摩擦板21Aは、スライド板1及び第1摩擦面Fr1aを上側から見たときに、スライド板1と第1摩擦面Fr1aとが重なる領域と略同等の領域に配置されている。また、第2摩擦板21Bは、スライド板1及び第2摩擦面Fr2aを上側から見たときに、スライド板1と第2摩擦面Fr2aとが重なる領域と略同等の領域に配置されている。なお、本実施の形態2では、第1摩擦板21A及び第2摩擦板21Bはスライド板21の長手方向の略全域であって短手方向の略全域にかけて形成されている。
【0049】
第2固定材24は、橋脚Brに固定され、第2固定板20Bに接続されている。第2固定材24は、固定板接続部24Aと、橋脚固定部24Bとを備えている。固定板接続部24Aは、
図3(c)に示すように、第1接続部24A1と、第2接続部24A2と、第3接続部24A3とを備えている。第1接続部24A1と第2接続部24A2とは間隔をあけて配置されており、お互いに平行である。第3接続部24A3は、第1接続部24A1及び第2接続部24A2に直交するように接続されている。橋脚固定部24Bは、第1接続部24A1、第2接続部24A2、及び第3接続部24A3の下端に接続されている。
【0050】
図3Bは、本実施の形態2に係る摩擦ダンパー装置200の動作説明
図1である。
図3Cは、本実施の形態2に係る摩擦ダンパー装置200の動作説明
図2である。
なお、
図3B(a)は摩擦ダンパー装置200を側方から見た図であり、
図3B(b)は摩擦ダンパー装置200を上方から見た図である。上構造部は、第1固定材3、スライド板21、第1摩擦板21A、第2摩擦板21Bである。下構造部は、第2固定材24、第1固定板20A、第1滑り板20A1、第2固定板20B、第2滑り板20B1、固定部材5A〜5Dである。
図3Bでは構造体の振動方向が主にX方向である場合を想定している。
【0051】
また、
図3C(a)は摩擦ダンパー装置200を側方から見た図であり、
図3C(b)は摩擦ダンパー装置100を上方から見た図である。
図3Cでは構造体の振動方向がX方向の成分だけでなくY方向の成分も有している場合を想定している。
なお、
図3B及び
図3Cに示すように、本実施の形態2では、隙間Tが形成されない又はほとんど形成されないように、実施の形態1の場合よりも第1摩擦板21A及び第2摩擦板21Bの面積が拡大している。
【0052】
本実施の形態2に係る摩擦ダンパー装置200においても、実施の形態1に係る摩擦ダンパー装置100と同様の効果を得ることができる。なお、本実施の形態2においても、実施の形態1で説明した変形例1〜変形例3を採用することができる。つまり、本実施の形態2においても、第1摩擦板21A又は第2摩擦板21Bが無い構成を採用することができ、また、第1摩擦板21Aと第1滑り板20A1との上下関係が逆であるとともに第2摩擦板21Bと第2滑り板20B1との上下関係が逆である構成を採用することができる。
【0053】
実施の形態3.
図4Aは、本実施の形態3に係る摩擦ダンパー装置300の構造説明図である。
図4Bは、本実施の形態3に係る摩擦ダンパー装置300の第1固定板30A、スライド板31、第1摩擦板31A、第2摩擦板31B及び第2固定板30Bの説明図である。なお、
図4A(a)は摩擦ダンパー装置300を側方から見た図であり、
図4A(b)は摩擦ダンパー装置300を上方から見た図であり、
図4A(c)は
図4A(a)のA−A端面図である。また、
図4A(b)においては、第1固定板30Aの下側に位置して隠れて見えない構成を点線又は薄い色で示している。また、
図4A(b)では、説明の便宜上、第1固定材33及び第2固定材34については記載を省略している。さらに、
図4A(d)は、
図4A(a)のB−B端面図である。
本実施の形態3では実施の形態1、2と相違する構成について説明するものとし、共通する構成は同一符号を付し説明を省略する。
【0054】
第1固定板30A及び第2固定板30Bは、円形状の平板状部材である。第1固定板30Aには固定部材35のボルト部Btが挿入される開口部30A2が形成されている。第1固定板30Aには円形状の第1滑り板30A1が配置されている。第1滑り板30A1には第1摩擦面Fr1aが形成されている。第2固定板30Bは第1固定板30Aと同様の形状である。第2固定板30Bは固定部材35のボルト部Btが挿入される開口部30B2が形成されている。第2固定板30Bには円形状の第2滑り板30B1が配置されている。第2滑り板30B1には第2摩擦面Fr2aが形成されている。
【0055】
スライド板31には、固定部材35のボルト部Btが挿入される開口部Hoが形成されている。スライド板31は、第1固定材33との接続側はY方向の幅が一定であるが、開口部Hoの形成側は半円状になっており、Y方向の幅が小さくなっている。開口部Hoは、第1固定板30A及び第2固定板30Bと、スライド板31とが一定程度、X方向及びY方向に相対移動できるように、開口径が定められている。なお、開口部Hoが円形状である場合を一例として説明しているが、楕円形であってもよいし、多角形であってもよい。スライド板31の第1面S1には第1摩擦板31Aが固定され、第2面S2には第2摩擦板31Bが固定されている。
【0056】
第1摩擦板31A及び第2摩擦板31Bは、開口部Hoの周縁よりも外側に配置されている。本実施の形態3では、第1摩擦板31A及び第2摩擦板31Bは、開口部Hoの周縁に配置されている。つまり、開口部Hoの周縁と、第1摩擦板31Aの内周縁及び第2摩擦板31Bの内周縁とが近接している。第1摩擦板31A及び第2摩擦板31Bは、開口部Hoの周縁形状に合わせた形状に形成されている。つまり、第1摩擦板31A及び第2摩擦板31Bは、リング状に形成されている。なお、第1摩擦板31A及び第2摩擦板31Bの形状は連続的な形状(リング状)に限定されるものではなく、例えば、一部が途切れていてもよい。
【0057】
第1固定材33は、スライド板31の他端が接続されている。第1固定材33は、スライド板接続部33A1、上部工固定部33A2、及び補強部33A3と、を備えている。スライド板接続部33A1の下端側は、スライド板31の他端に接続されている。スライド板接続部33A1の上端側は、上部工固定部33A2に接続されている。スライド板接続部33A1の上端側と下端側との間の中間部には、複数の補強部33A3が接続されている。各補強部33A3は、間隔を開けて配置されている。そして、各補強部33A3同士は平行である。補強部33A3は平面視形状が、例えば、三角形状の板材で構成することができる。
【0058】
第2固定材34は、第1接続部34A1、第2接続部34A2、第3接続部34A3、及び第4接続部34A4を備えている。開口部Hoの周縁の回りに、第1接続部34A1、第2接続部34A2、第3接続部34A3、及び第4接続部34A4が配置されている。これにより、第2固定材34と固定部材35とが干渉することを回避することができる。本実施の形態3では、開口部Hoを中心として、90度ごとに、第1接続部34A1、第2接続部34A2、第3接続部34A3、及び第4接続部34A4が配置されている。
【0059】
固定部材35は固定部材5A〜5Dと同様の構造である。固定部材35は、ボルト部Btが開口部Hoを通るように配置されている。
【0060】
図4Cは、本実施の形態3に係る摩擦ダンパー装置300の動作説明
図1である。
図4Dは、本実施の形態3に係る摩擦ダンパー装置300の動作説明
図2である。
なお、
図4C(a)は摩擦ダンパー装置300を側方から見た図であり、
図4C(b)は摩擦ダンパー装置300を上方から見た図である。上構造部は、第1固定材33、スライド板31、第1摩擦板31A、第2摩擦板31Bである。下構造部は、第2固定材34、第1固定板30A、第1滑り板30A1、第2固定板30B、第2滑り板30B1、固定部材35である。
図4Cでは構造体の振動方向が主にX方向である場合を想定している。
【0061】
また、
図4D(a)は摩擦ダンパー装置300を側方から見た図であり、
図4D(b)は摩擦ダンパー装置300を上方から見た図である。
図4Dでは構造体の振動方向がX方向の成分だけでなくY方向の成分も有している場合を想定している。
【0062】
本実施の形態3に係る摩擦ダンパー装置300においても、実施の形態1に係る摩擦ダンパー装置100と同様の効果を得ることができる。なお、本実施の形態3においても、実施の形態1で説明した変形例1〜変形例3を採用することができる。つまり、本実施の形態3においても、第1摩擦板31A又は第2摩擦板31Bが無い構成を採用することができ、また、第1摩擦板31Aと第1滑り板30A1との上下関係が逆であるとともに第2摩擦板31Bと第2滑り板30B1との上下関係が逆である構成を採用することができる。