(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
様々な形で利用されているエネルギーについては、石油資源の枯渇に対する懸念から、代替燃料の模索や省資源が重要な課題となっている。その中にあって、種々の燃料を化学エネルギーに変換し、電力として取り出す燃料電池について、活発な開発が続けられている。燃料電池の中でも、固体高分子形燃料電池は低温領域での出力が可能であり、しかも比較的小型でありながら、効率的に電力を取り出すことができるため、活発に開発されている。
【0003】
図1は、固体高分子形燃料電池の基本構成を示す要部断面の模式図である。図中、材質として実質的に同一の構成若しくは機能を有する構成成分には、同一のハッチングを付している。固体高分子形燃料電池は
図1に示すような、燃料極(ガス拡散電極)17a、固体高分子電解質膜19及び空気極(ガス拡散電極)17cからなる膜−電極接合体(MEA)を、1対のバイポーラプレート11a、11cで挟んだセル単位を複数積層した構造からなる。前記燃料極17aはプロトンと電子とに分解する触媒層15aと、触媒層15aに燃料ガスを供給するガス拡散層13aとからなり、前記触媒層15aとガス拡散層13aとの間には水分管理層14aが形成されており、他方、空気極17cはプロトン、電子及び酸素含有ガスとを反応させる触媒層15cと、触媒層15cに酸素含有ガスを供給するガス拡散層13cとからなり、前記触媒層15cとガス拡散層13cとの間には水分管理層14cが形成されている。
【0004】
前記バイポーラプレート11aは燃料ガスを供給できる溝を有するため、このバイポーラプレート11aの溝を通して燃料ガスを供給すると、燃料ガスはガス拡散層13aを拡散し、水分管理層14aを透過して触媒層15aに供給される。供給された燃料ガスはプロトンと電子とに分解され、プロトンは固体高分子電解質膜19を移動し、触媒層15cに到達する。他方、電子は図示しない外部回路を通り、空気極17cへと移動する。一方、バイポーラプレート11cは酸素含有ガスを供給できる溝を有するため、このバイポーラプレート11cの溝を通して酸素含有ガスを供給すると、酸素含有ガスはガス拡散層13cを拡散し、水分管理層14cを透過して触媒層15cに供給される。供給された酸素含有ガスは固体高分子電解質膜19を移動したプロトン及び外部回路を通って移動した電子と反応し、水を生成する。この生成した水は水分管理層14cを通って、燃料電池外へ排出される。また、燃料極においては、空気極から逆拡散してきた水が水分管理層14aを通って、燃料電池外へ排出される。
【0005】
このようなガス拡散層13a及び水分管理層14a、又はガス拡散層13c及び水分管理層14cに必要な機能としては、低加湿条件下では固体高分子電解質膜19を湿潤に保つための保湿性、高加湿条件下では燃料電池内に水が溜まり、フラッディングが起こるのを防ぐための排水性などがある。このようなガス拡散層13a及び水分管理層14a、又はガス拡散層13c及び水分管理層14cは、従来、カーボンペーパー等の導電性多孔シートに、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂を含浸、又はカーボン粉末とフッ素系樹脂とを混合したペーストを塗布することによって、フッ素系樹脂が存在、又はカーボン粉末及びフッ素系樹脂が存在する水分管理層14a、14cを形成するとともに、これらが存在しない領域をガス拡散層13a、13cとしていた。しかしながら、このようにして形成した水分管理層14a、14cは、フッ素系樹脂、又はカーボン粉末及びフッ素系樹脂が導電性多孔シートに必要以上に染み込んでしまい、排水性およびガス拡散性が低下しやすいものであった。また、この方法で形成した水分管理層14a、14cは面方向(厚さと直交する方向)への水及びガスの透過性が低く、多量の水が生成される状況下においては、排水性およびガス拡散性に劣るため、燃料電池の性能低下の要因となっていた。
【0006】
そのため、本願出願人は、「固体高分子形燃料電池の触媒層と隣接して配置して使用する、自立した水分管理シートであり、前記水分管理シートは疎水性有機樹脂の少なくとも内部に導電性粒子を含有する導電性繊維を含有する不織布からなることを特徴とする水分管理シート。」(特許文献1)、「有機樹脂の少なくとも内部に導電性粒子を含有する導電性繊維を含有する不織布を備えているガス拡散電極用基材」(特許文献2)を提案した。この水分管理シートを使用する場合、触媒層を有する固体高分子電解質膜に積層し、更にガス拡散シートを積層し、ホットプレスにより接合して、膜−電極接合体を作製することを開示し、ガス拡散電極用基材を使用する場合、触媒層を有する固体高分子電解質膜に積層し、ホットプレスにより接合して、膜−電極接合体を作製することを開示しているが、水分管理シート又はガス拡散電極用基材が触媒層から剥離しやすいという問題があった。水分管理シート又はガス拡散電極用基材が触媒層から剥離すると、電池反応によって発生する水分で固体高分子電解質膜が膨潤と収縮を繰り返した時に、その変形による応力により触媒層が破断したり、触媒層が固体高分子電解質膜から剥離しやすくなる。このような触媒層の破断や剥離は物質輸送抵抗の増加や電子や熱の界面抵抗の増加を招き、発電性能の低下に繋がる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の膜−電極接合体は、導電性多孔シートと触媒層との平均90°剥離強度が0.01N/cm以上であり、導電性多孔シートと触媒層とが良好に接着している。よって、発電時における固体高分子電解質膜の膨潤と収縮を抑えることができ、その変形による応力を小さくすることができるため、触媒層の破断や固体高分子電解質膜からの剥離を防止し、発電性能の優れる燃料電池を作製可能である。また、有機樹脂製の導電性繊維を含有する導電性多孔シートは柔軟性を有するため、導電性多孔シートと隣接する部材(例えば、触媒層、ガス拡散層、バイポーラプレート)との隙間が小さい、又は小さくすることができ、電子や熱の界面抵抗が小さい、又は小さくできることからも、発電性能の優れる燃料電池を作製可能である。
【0015】
(導電性多孔シート)
本発明の膜−電極接合体を構成する導電性多孔シートは導電性粒子を含有する有機樹脂製の導電性繊維を含有している。この導電性繊維を構成する有機樹脂は疎水性有機樹脂であっても、親水性有機樹脂であっても良く、特に限定するものではない。前者の疎水性有機樹脂であると、フッ素系樹脂等の疎水性樹脂を導電性多孔シートの空隙に含浸しなくても優れた水の透過性を示し、優れた排水性を示す。他方で、親水性有機樹脂であると、水分を保持することができるため、電解質膜を湿潤に保つことができ、充分な発電性能を発揮できる固体高分子形燃料電池を作製することができる。なお、有機樹脂にダイヤモンド、グラファイト、無定形炭素は含まれない。この「疎水性有機樹脂」は水との接触角が90°以上の有機樹脂であり、その例として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及び前記樹脂を構成する各種モノマーの共重合体、などのフッ素系樹脂;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル系樹脂;などを挙げることができる。これらの中でもフッ素系樹脂は耐熱性、耐薬品性、疎水性が強いため、好適である。
【0016】
他方、「親水性有機樹脂」は水との接触角が90°未満の有機樹脂であり、その例として、レーヨンなどのセルロース;ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系樹脂;ポリアクリロニトリル;酸化アクリル;ポリビニルアルコール系樹脂;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸などのアクリル系樹脂;親水性ポリウレタン、ポリビニルピロリドンなどの親水性基(アミド基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、スルホン酸基等)を有する樹脂;を挙げることができる。これらの中でもポリアクリロニトリルは耐熱性に優れ、また、電解質膜の膨潤によっても潰れにくいため好適である。なお、本発明の導電性繊維は疎水性有機樹脂1種類以上及び/又は親水性有機樹脂1種類以上とが、混合又は複合した状態にあっても良い。
【0017】
本発明の導電性多孔シートを構成する導電性繊維は、燃料極又は空気極において電子移動性に優れているように、導電性粒子を含有している。この導電性粒子は電気抵抗率が10
5Ω・cm以下の粒子であり、導電性に優れているように、10
3Ω・cm以下であるのが好ましく、10
1Ω・cm以下であるのがより好ましい。このような導電性粒子は特に限定するものではないが、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、金属粒子、金属酸化物粒子などを挙げることができる。これらの中でもカーボンブラックは耐薬品性、導電性及び分散性の点で好適である。なお、導電性粒子の粒径は特に限定するものではないが、平均一次粒径が5nm〜200nmであるのが好ましく、10nm〜100nmであるのがより好ましい。この導電性粒子の平均一次粒径は脱落しにくく、また、繊維形態を形成しやすいように、導電性繊維の繊維径よりも小さいのが好ましい。
【0018】
このような導電性粒子は導電性繊維において、どのように存在していても良いが、繊維内部においても存在しているのが好ましい。導電性繊維の外側表面にのみ導電性粒子が存在していると、繊維内部の有機樹脂成分が抵抗成分となり、導電性に劣る傾向があるためである。導電性という観点から、導電性繊維表面に、少なくとも一部が露出した導電性粒子と、導電性繊維内部に埋没した導電性粒子の両方を含んでいるのが好ましい。なお、導電性繊維は、繊維径のばらつきが比較的少なく、導電性多孔シート表面が平滑性に優れるように、分岐した構造を有しないのが好ましい。このような導電性粒子を含有する導電性繊維は、例えば、有機樹脂と導電性粒子とを含む紡糸液を紡糸することによって得ることができる。
【0019】
本発明の導電性繊維は導電性粒子を含有する繊維であり、導電性粒子の含有量は特に限定するものではないが、導電性に優れているように、導電性粒子と有機樹脂との質量比は10〜90:90〜10であるのが好ましく、20〜80:80〜20であるのがより好ましく、30〜70:70〜30であるのが更に好ましい。導電性粒子が10mass%未満であると、導電性が不足しやすい傾向があり、導電性粒子が90mass%を超えると、繊維形態保持性が低下する傾向があるためである。
【0020】
本発明の導電性多孔シートを構成する導電性繊維の平均繊維径は特に限定するものではないが、10nm〜10μmであるのが好ましく、50nm〜7μmであるのがより好ましく、100nm〜5μmであるのが更に好ましい。平均繊維径が10μmよりも太いと、導電性繊維同士の接触点が少なく、導電性が不足しやすい傾向があり、他方で、10nmよりも細いと、繊維内部に導電性粒子を含有しくい傾向があるためである。なお、導電性繊維の平均繊維径は導電性粒子が脱落しにくいように、導電性粒子の一次粒子径の5倍以上であるのが好ましい。
【0021】
本発明における「平均繊維径」は40点における繊維径の算術平均値を意味し、「繊維径」は顕微鏡写真をもとに計測した値であり、導電性粒子が繊維表面から露出した導電性繊維のみから構成されている場合には、繊維表面から露出した導電性粒子を含めた直径を意味し、導電性粒子が繊維表面から露出した導電性繊維を含有していないか、導電性粒子が繊維表面から露出した導電性繊維を含有していても、導電性粒子が繊維表面から露出していない部分を有する導電性繊維を含んでいる場合には、導電性粒子が繊維表面から露出していない部分における直径を意味する。
【0022】
本発明の導電性繊維は電子の移動性に優れているように、連続繊維であるのが好ましい。このような導電性連続繊維は、例えば、静電紡糸法、スパンボンド法により製造することができ、特に、静電紡糸法により形成した導電性連続繊維は電子の移動性に優れているため好適である。本発明における「連続繊維」とは、電子顕微鏡を用いる導電性多孔シートの写真撮影を、撮影画像の一辺が導電性繊維の平均繊維径の60倍程度の長さとなる倍率で行なった場合に、電子顕微鏡写真1枚あたりの導電性繊維の端部数が0.3以下であることを意味する。つまり、電子顕微鏡写真20枚における導電性繊維の端部の総数を撮影枚数(20枚)で除した、電子顕微鏡写真1枚あたりの導電性繊維の端部数が0.3以下であることを意味する。なお、その写真撮影は、導電性多孔シートの切断部を含まない中央部における、連続的に異なる箇所において行なう。例えば、平均繊維径が1μmの導電性繊維が連続繊維であるかどうかを確認する場合、電子顕微鏡を用いる写真撮影を、導電性多孔シートの切断部を含まない中央部における、連続的に異なる箇所において、撮影画像の一辺が60μm程度となる倍率(2500倍)で20枚行ない、電子顕微鏡写真1枚あたりの導電性繊維の端部数を算出し、0.3以下であれば、連続繊維と考えることができる。
【0023】
本発明の導電性多孔シートは上述のような導電性繊維を含有するものであるが、導電性多孔シートが本来有する多孔性を利用して、面方向においても、排水性およびガス拡散性に優れ、高加湿条件下においても発電性能の高い燃料電池を作製できるように、フッ素系樹脂及び/又は導電性粒子(例えば、カーボン粒子)など、何も充填されていないのが好ましい。つまり、導電性繊維などの繊維のみから構成されているのが好ましく、導電性繊維のみから構成されているのがより好ましい。
【0024】
本発明の導電性多孔シートの形態は特に限定するものではないが、例えば、不織布、織物、編物であることができる。これらの中でも不織布形態であると、孔径が比較的揃っており、排水性およびガス拡散性に優れていることができるため好適である。
【0025】
本発明の導電性多孔シートが不織布形態からなる場合、導電性繊維同士は接着剤によって結合していても良いが、導電性に優れるように、導電性繊維を構成する有機樹脂によって結合しているのが好ましい。この好適である有機樹脂の結合として、例えば、導電性繊維同士の絡合、溶媒による可塑化結合、熱による融着による結合を挙げることができる。
【0026】
本発明の導電性多孔シートにおける導電性繊維の含有割合は、電子の移動性に優れるように、10mass%以上であるのが好ましく、50mass%以上であるのがより好ましく、導電性繊維のみ(100mass%)から構成されているのが特に好ましい。なお、導電性繊維以外の繊維として、フッ素繊維、ポリオレフィン繊維などの疎水性有機樹脂繊維、セルロース、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ポリビニルアルコール系繊維などの親水性有機樹脂繊維を含んでいることができる。
【0027】
本発明の導電性多孔シートは導電性繊維以外の繊維を含んでいることができるが、導電性に優れているように、電気抵抗が300mΩ・cm
2以下であるのが好ましく、150mΩ・cm
2以下であるのがより好ましく、50mΩ・cm
2以下であるのが更に好ましい。本発明の「電気抵抗」は、5cm角に切断した導電性多孔シート(25cm
2)を両面側から金メッキを施した金属プレートで挟み、金属プレートの積層方向に、2MPaで加圧下、1Aの電流(I)を印加した状態で、電圧(V)を計測する。続いて、抵抗(R=V/I)を算出し、更に、導電性多孔シートの面積(25cm
2)を乗じることによって得られる値である。
【0028】
なお、導電性多孔シートは導電性に優れるように、導電性粒子は導電性多孔シートの10〜90mass%を占めているのが好ましく、20〜80mass%を占めているのがより好ましい。
【0029】
本発明の導電性多孔シートの目付は特に限定するものではないが、取り扱い性、生産性の点から0.1〜100g/m
2であるのが好ましく、0.1〜50g/m
2であるのがより好ましい。また、厚さも特に限定するものではないが、1〜500μmであるのが好ましく、1〜250μmであるのが更に好ましく、3〜100μmであるのが更に好ましい。導電性多孔シートの厚さが薄いと、燃料電池の抵抗を下げることができ、また、燃料電池の体積を小さくすることができる。この「目付」は導電性多孔シートを10cm角に切断して試料を調製し、その試料の質量から1m
2の大きさの質量に換算した値をいい、「厚さ」はシックネスゲージ((株)ミツトヨ製:コードNo.547−321:測定力1.5N以下)を用いて測定した値をいう。
【0030】
本発明の導電性多孔シートは本来有する多孔性を利用して、面方向においても、排水性およびガス拡散性に優れ、高加湿条件下においても発電性能の高い燃料電池を作製できるように、60%以上の空隙率を有するのが好ましく、70%以上の空隙率を有するのがより好ましい。この「空隙率P(単位:%)」は次の式から得られる値をいう。
P=100−(Fr1+Fr2+・・+Frn)
ここで、Frnは導電性多孔シートを構成する成分nの充填率(単位:%)を示し、次の式から得られる値をいう。
Frn=[M×Prn/(T×SGn)]×100
ここで、Mは導電性多孔シートの目付(単位:g/cm
2)、Tは導電性多孔シートの厚さ(単位:cm)、Prnは導電性多孔シートにおける成分n(例えば、有機樹脂、導電性粒子)の存在質量比率、SGnは成分nの比重(単位:g/cm
3)を、それぞれ意味する。
【0031】
本発明の導電性多孔シートは液水が押し出されやすいように、導電性多孔シートを構成する導電性繊維表面はフッ素系樹脂で被覆されていても良い。このフッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及び前記樹脂を構成する各種モノマーの共重合体、などを挙げることができる。
【0032】
また、導電性多孔シートは導電性に優れるように、導電性多孔シートの空隙に、カーボンを含有していることができる。このカーボンとしては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどを挙げることができる。
【0033】
本発明の導電性多孔シートは常法により製造することができる。例えば、好適である不織布形態の導電性多孔シートを構成する導電性繊維は、有機樹脂と導電性粒子とを混合した紡糸液を用いて紡糸して得ることができ、この紡糸した導電性繊維を直接捕集し、集積すれば、繊維ウエブを形成することができる。この繊維ウエブが適度に絡合していることによって、ある程度の強度があれば導電性多孔シートとして使用できるし、強度を付与又は向上させるために、溶媒による可塑化、熱による融着、接着剤による接着等により結合して、導電性多孔シ−トとすることもできる。なお、導電性繊維を直接捕集し、集積して形成した繊維ウエブを構成する導電性繊維は連続繊維であるのが好ましい。連続繊維であることによって、導電性及び強度の点で優れているためである。
【0034】
なお、繊維ウエブの形成方法としては、例えば、静電紡糸法、スパンボンド法、メルトブロー法、或いは特開2009−287138号公報に開示されているような、液吐出部から吐出された紡糸液に対してガスを平行に吐出し、紡糸液に1本の直線状に剪断力を作用させて繊維化する方法、などを挙げることができる。これらの中でも静電紡糸法又は特開2009−287138号公報に開示の方法によれば、繊維径の小さい導電性繊維を紡糸できることから、薄い導電性多孔シートを製造することができ、結果として燃料電池の抵抗を下げることができ、また、燃料電池の体積を小さくすることができる膜−電極接合体を製造できる。
【0035】
なお、静電紡糸法又は特開2009−287138号公報に開示の方法のように、溶媒に有機樹脂を溶解させた溶液に導電性粒子を混合した紡糸液を使用する場合、溶媒として、紡糸時に揮散しにくいものを使用し、繊維ウエブを形成した後に、溶媒置換により紡糸溶媒を除去すると、導電性繊維同士が可塑化結合した状態になりやすく、結果として導電性の優れる導電性多孔シートを製造することができ、また、導電性繊維同士が密着して接触抵抗が低くなるため、好適である。
【0036】
また、紡糸した導電性繊維を連続繊維として巻き取り、次いで導電性繊維を所望繊維長に切断して短繊維とした後、公知の乾式法又は湿式法により繊維ウエブを形成し、溶媒による可塑化、熱による融着、接着剤による接着等により結合し、導電性多孔シートとすることもできる。
【0037】
更に、導電性多孔シートが液水を押し出しやすいように、導電性繊維表面をフッ素系樹脂で被覆する場合には、フッ素系樹脂を含む溶液又はペーストを導電性多孔シートに塗布、散布、又は含浸するなどの方法により付与した後、乾燥及び焼成する。導電性多孔シートの空隙にカーボンを含有させる場合も同様に、カーボンとフッ素系樹脂とを含む溶液又はペーストを導電性多孔シートに塗布、散布、又は含浸するなどの方法により付与した後、乾燥及び焼成する。
【0038】
(電解質膜)
本発明の膜−電極接合体を構成する電解質膜は、従来から公知のものであることができ、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂膜、スルホン化芳香族炭化水素系樹脂膜、アルキルスルホン化芳香族炭化水素系樹脂膜、無機−有機複合系樹脂膜などであることができる。なお、電解質膜は不織布等の補強材で補強されていても良い。
【0039】
(触媒層)
本発明の膜−電極接合体の触媒層は触媒とイオン交換樹脂とを含む層であることができる。この触媒としては、特に限定するものではないが、例えば、白金、白金合金[ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、金、銀、クロム、鉄、チタン、マンガン、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、スズから選ばれる1種以上の金属と、白金との合金]、或いは白金又は白金合金が、活性炭、カーボンブラック等のカーボンに担持された触媒であることができる。なお、触媒は1種類、又は2種類以上を含むことができる。なお、カソード側触媒層の触媒とアノード側触媒層の触媒とは同じであっても異なっていても良い。
【0040】
一方、イオン交換樹脂は前述の電解質膜と同様であることができる。つまり、パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂、スルホン化芳香族炭化水素系樹脂、アルキルスルホン化芳香族炭化水素系樹脂、無機−有機複合系樹脂などであることができる。特に、電解質膜と同じであると、電解質膜との親和性に優れるため好適である。なお、カソード側触媒層のイオン交換樹脂とアノード側触媒層のイオン交換樹脂とは同じであっても異なっていても良い。また、いずれの触媒層のイオン交換樹脂も1種類から構成されていても、2種類以上から構成されていても良い。
【0041】
(膜−電極接合体)
本発明の膜−電極接合体は、前述のような導電性多孔シート、電解質膜、及び触媒層を有するものであり、電解質膜と導電性多孔シートの間に触媒層が存在し、導電性多孔シートと触媒層との平均90°剥離強度が0.01N/cm以上である。よって、導電性多孔シートと触媒層とが良好に接着しているため、発電時における固体高分子電解質膜の膨潤と収縮を抑えることができ、その変形による応力を小さくすることができるため、触媒層の破断や固体高分子電解質膜からの剥離を防止し、発電性能の優れる燃料電池を作製することができる。この平均90°剥離強度が大きい程、前記作用に優れているため、平均90°剥離強度は0.02N/cm以上であるのが好ましく、0.03N/cm以上であるのがより好ましく、0.05N/cm以上であるのが更に好ましく、0.07N/cm以上であるのが更に好ましい。
【0042】
この「平均90°剥離強度」は次の手順により得られる値である。
(1)膜−電極接合体を、幅10mmの短冊に切り出し、試験片を調製する。
(2)試験片の一方の電極面(一方の導電性多孔シート面)に両面テープの片面を貼付し、前記両面テープの他面を、縦型電動計測スタンドに組み込んだ剥離試験用アタッチメント[(株)イマダ製]の試験台に固定する。
(3)試験片の導電性多孔シート/触媒層/電解質膜/触媒層をピンセットで一部剥がしてつかみ部分とし、クリップでデジタルフォースゲージ[(株)イマダ製]に固定する。
(4)試験片の導電性多孔シート/触媒層/電解質膜/触媒層を、速度60mm/min.で引張り、安定した接着状態にある変位10〜30mmにおける荷重(N)を測定する。
(5)前記荷重を試験片の幅(1cm)で除して、90°剥離強度を算出する。
(6)この90°剥離強度の測定を5枚の試験片について行ない、その算術平均値を算出し、平均90°剥離強度(単位:N/cm)とする。
【0043】
本発明の膜−電極接合体は、例えば、電解質膜の両面に触媒層を形成した後、導電性多孔シートをそれぞれの触媒層に積層し、ホットプレスすることで製造できる。より具体的には、例えば、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、エチレングリコールジメチルエーテルなどからなる単一溶媒又は混合溶媒中に、触媒とイオン交換樹脂とを超音波分散機等で均一に混合して触媒ペーストを調製し、この触媒ペーストを電解質膜の両面にコーティング又は散布して触媒層を形成した後、導電性多孔シートをそれぞれの触媒層上に積層し、加熱することで、導電性繊維を構成する有機樹脂を流動または溶融させ、固化させることによって、触媒層と接着することができる。
【0044】
本発明の導電性繊維の導電性粒子が繊維表面から露出している場合、繊維表面における有機樹脂の露出面積が小さいが、有機樹脂が加熱により流動または溶融し、固化することによって、触媒層と接着し、前記平均90°剥離強度とすることができる。また、導電性粒子を含有していることによって、有機樹脂が加熱により流動または溶融しても繊維形状を保つことができ、導電性多孔シートの多孔性を維持することができるため、排水性およびガス拡散性に優れている。
【0045】
なお、膜−電極接合体の加熱は、例えば、ホットプレス機により実施することができ、そのホットプレス温度は前記平均90°剥離強度とすることができる温度であれば良く、特に限定するものではないが、有機樹脂が加熱により流動し始める温度を下限とし、他の材料(触媒層構成材料、電解質膜)を劣化させず、かつ有機樹脂の液化により皮膜を形成しない温度を上限とした範囲であるのが望ましい。例えば、融点が146℃のフッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合物を有機樹脂として用いた場合、ホットプレス温度は120℃〜170℃とするのが望ましく、150〜160℃とするのがより好ましい。
【0046】
また、ホットプレス圧力は、導電性多孔シートによって異なり、前記平均90°剥離強度とすることができる圧力であれば良く、特に限定するものではないが、0.1MPa以上であるのが好ましく、1MPa以上であるのがより好ましく、1.5MPa以上であるのが更に好ましい。一方で、圧力が強過ぎると、導電性多孔シートの空隙が少なくなってしまい、排水性及び/又はガス拡散性が悪くなる傾向があるため、20MPa以下であるのが好ましく、10MPa以下であるのがより好ましく、5MPa以下であるのが更に好ましい。
【0047】
前記方法においては、触媒ペーストを電解質膜の両面にコーティング又は散布して触媒層を形成しているが、これに替えて、ポリテトラフルオロエチレン基材等の転写基材に触媒ペーストをコーティング又は散布して触媒層を形成した後、電解質膜の両面にホットプレスして、触媒層を転写することもできる。
【0048】
また、前記方法においては、導電性多孔シートをそれぞれの触媒層上に積層しているが、紡糸した導電性繊維を直接触媒層上に集積することによって、導電性多孔シートを形成すると同時に積層することもできる。
【0049】
別の膜−電極接合体の製造方法として、導電性多孔シートと触媒層とを積層した後に、導電性多孔シートを構成する導電性繊維を触媒層に接着させた積層シートを2組作製した後、これら積層シートを電解質膜の両面に触媒層が当接するように積層し、それぞれ接着して製造することもできる。
【0050】
なお、導電性多孔シートを構成する導電性繊維の接着条件は、前記平均90°剥離強度とすることができる条件であれば良く、特に限定するものではないが、ホットプレスにより接着する場合、前述の方法の場合と同様の条件であることができる。また、触媒層は導電性多孔シートに前述のような触媒ペーストをコーティング又は散布して形成できるし、ポリテトラフルオロエチレン基材等の転写基材に触媒ペーストをコーティング又は散布して触媒層を形成した後、導電性多孔シートに転写することもできる。更に、ポリテトラフルオロエチレン基材等の転写基材に触媒ペーストをコーティング又は散布して形成した触媒層に、紡糸した導電性繊維を直接集積することによって、導電性多孔シートを形成すると同時に積層することもできる。また、積層シートの電解質膜との接着は、例えば、ホットプレスにより実施することができる。
【0051】
また、いずれの場合であっても、燃料極側の導電性多孔シートと空気極側の導電性多孔シートは同じであっても良いし、導電性粒子に関して、種類、粒径、存在状態、含有量;導電性繊維に関して、平均繊維径、繊維長、構成有機樹脂、フッ素系樹脂での被覆の有無;導電性多孔シートに関して、形態、結合状態、導電性繊維の含有割合、電気抵抗、導電性粒子の占有率、目付、厚さ、空隙率、製造方法、フッ素系樹脂及び/又は導電性粒子等の充填の有無;などの点で異なる導電性多孔シートであっても良い。
【0052】
(固体高分子形燃料電池)
本発明の固体高分子形燃料電池(以下、単に「燃料電池」と表記することがある)は前述の本発明の膜−電極接合体を備えているため、触媒層の破断や剥離が生じにくく、また、導電性多孔シートと隣接する部材(例えば、触媒層、ガス拡散層、バイポーラプレート)との隙間が小さく、電子や熱の界面抵抗が小さいため、発電性能の優れるものである。本発明の燃料電池は前述のような本発明の膜−電極接合体を備えていること以外は、従来の燃料電池と全く同様であることができる。例えば、前述のような膜−電極接合体を1対のバイポーラプレートで挟んだセル単位を複数積層した構造からなる。このような燃料電池は、例えば、セル単位を複数積層し、固定して製造できる。
【0053】
なお、バイポーラプレートとしては、導電性が高く、ガスを透過せず、導電性多孔シートにガスを供給できる流路を有するものであれば良く、特に限定するものではないが、例えば、カーボンや金属などを材料としたプレス加工品や、メッシュ、発泡体などの多孔体であることができる。
【0054】
また、本発明の燃料電池においては、膜−電極接合体とバイポーラプレートとの間に、ガス拡散層として作用できる導電性多孔シート(以下、「ガス拡散多孔シート」と表記することがある)を介在させて、セル単位とすることもできる。このようにガス拡散多孔シートを介在させた場合、膜−電極接合体を構成する導電性多孔シートは従来のガス拡散層における水分管理層として作用することができるが、この水分管理層が、ガス拡散層として作用するガス拡散多孔シートに染み込み、ガス拡散多孔シートの排水性およびガス拡散性を阻害することはないため、ガス拡散多孔シートが本来有する排水性およびガス拡散性を発揮できる、排水性およびガス拡散性に優れる燃料電池である。
【0055】
なお、前記ガス拡散多孔シ−トとしては、例えば、カーボンペーパー、カーボン不織布、ガラス繊維不織布に導電剤とフッ素系樹脂を充填したもの、耐酸性のある有機繊維(例えば、ポリテトラフルオロエチレン繊維、ポリフッ化ビニリデン繊維、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維やポリトリメチレンテレフタレート繊維を代表とするポリエステル系繊維を単独で、又は2種類以上を含む)からなる有機繊維不織布に導電剤とフッ素系樹脂を充填したもの、耐酸性のある金属(例えば、ステンレス鋼、チタンなど)の多孔体やメッシュなどを挙げることができる。
【実施例】
【0056】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
〔触媒層付電解質膜の作製〕
エチレングリコールジメチルエーテル10.4gに対して、白金担持炭素粒子(田中貴金属(株)製、TEC10V40E)を0.8g加え、超音波処理によって分散させた後、イオン交換樹脂溶液として、5mass%ナフィオン(登録商標)溶液(米国シグマ・アルドリッチ社製、4.0gを加え、超音波処理により分散させ、更に攪拌機で攪拌して、触媒ペーストを調製した。
【0058】
次いで、この触媒ペーストを50mm角に切り出した支持体[ナフロン(登録商標)、ポリテトラフルオロエチレン製テープ、ニチアス(株)製、厚さ:0.1mm]に塗布し、熱風乾燥機によって60℃で乾燥し、白金担持量が0.5mg/cm
2の触媒層を形成した。
【0059】
他方、電解質膜として、Nafion(登録商標)NRE212CS(米国デュポン社製、融点:200℃以上)を用意した。この電解質膜の両面に、前記触媒層を転写した後、温度140℃、圧力2.5MPa、時間10分間の条件でホットプレスにより接合し、触媒層付電解質膜(触媒層:50mm角)を作製した。
【0060】
<実施例1>
フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合物(融点:146℃)をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に加え、ロッキングミルを用いて溶解させ、濃度10mass%の溶液を得た。
【0061】
次いで、導電性粒子として、アセチレンブラック(デンカブラック粒状品、電気化学工業(株)製、平均一次粒子径:35nm)を前記溶液に混合し、撹拌した後、DMFを加えて希釈してアセチレンブラックを分散させ、アセチレンブラック、フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合物の固形質量比が40:60で、固形分濃度が11mass%の紡糸溶液を調製した。
【0062】
そして、この紡糸溶液を静電紡糸法により紡糸し、形成した導電性連続繊維を直接、ステンレスドラム上に集積して、導電性連続繊維が絡合した導電性多孔不織布(導電性連続繊維の平均繊維径:420nm、アセチレンブラックは導電性連続繊維内部及び繊維表面に露出、導電性繊維は分枝構造にない、導電性連続繊維のみからなる、電気抵抗:10mΩ・cm
2、目付:11g/m
2、厚さ:50μm、空隙率:88%)を作製した。なお、静電紡糸条件は次の通りとした。
【0063】
<静電紡糸条件>
電極:金属製ノズル(内径:0.41mm)とステンレスドラム
吐出量:2g/時間
ノズル先端とステンレスドラムとの距離:10cm
印加電圧:12kV
温度/湿度:25℃/35%RH
【0064】
次いで、触媒層と同じ面積(50mm角)に切り出した前記導電性多孔不織布を、前記触媒層付電解質膜の触媒層と完全に重なるように、触媒層付電解質膜の両面に積層した後、温度150℃、圧力1.5MPa、時間4分間の条件でホットプレスすることにより、導電性多孔不織布/触媒層/電解質膜/触媒層/導電性多孔不織布からなり、いずれの導電性多孔不織布の導電性繊維も触媒層に接着した、膜−電極接合体を製造した。
【0065】
<比較例1>
片面に、フッ素系樹脂とカーボン粒子からなるマイクロポーラス層を有するカーボン不織布(フロイデンベルグ社製、品名H15C5、目付:94g/m
2、厚さ:170μm、導電性繊維の平均繊維径:10μm、電気抵抗:8mΩ・cm
2)を用意した。
【0066】
また、5mass%Nafion(登録商標)溶液(米国シグマ・アルドリッチ社製)とアセチレンブラック[デンカブラック(登録商標)粒状品、電気化学工業(株)製、平均一次粒子径:35nm]とを、重量比で[Nafion(固形分)]:[アセチレンブラック]=4:5となるように混合して、接着溶液を調製した。
【0067】
そして、前記カーボン不織布のマイクロポーラス層面に、前記接着溶液を2mg/cm
2(固形分)となるように塗工し、乾燥して、接着層付カーボン不織布を作製した。
【0068】
次いで、触媒層と同じ面積(50mm角)に切り出した前記接着層付カーボン不織布の接着層が、前記触媒層付電解質膜の触媒層と完全に重なるように、触媒層付電解質膜の両面に積層した後、温度150℃、圧力1.5MPa、時間4分間の条件でホットプレスすることにより、接着層付カーボン不織布/触媒層/電解質膜/触媒層/接着層付カーボン不織布からなり、接着層付カーボン不織布は接着層により触媒層に接着した、膜−電極接合体を製造したが、直ぐに接着層付カーボン付織布と触媒層付電解質膜とか剥離してしまい、取り扱うことのできないものであった。
【0069】
<比較例2>
実施例1と同様の方法で導電性多孔不織布を作製した。
【0070】
次いで、触媒層と同じ面積(50mm角)に切り出した前記導電性多孔不織布を、前記触媒層付電解質膜の触媒層と完全に重なるように、触媒層付電解質膜の両面に積層した後、温度100℃、圧力1.5MPa、時間4分間の条件でホットプレスすることにより、導電性多孔不織布/触媒層/電解質膜/触媒層/導電性多孔不織布からなり、いずれの導電性多孔不織布も触媒層に接着した、膜−電極接合体を製造した。
【0071】
<平均90°剥離強度試験>
前述の方法により、実施例1及び比較例2の膜−電極接合体の平均90°剥離強度を測定した。この結果は表1に示す通りであった。
【0072】
【表1】
【0073】
本発明の実施例1の膜−電極接合体は、90°剥離強度を測定でき、平均90°剥離強度が0.01N/cm以上の、導電性多孔シートと触媒層とが良好に接着した状態にあったため、発電時における固体高分子電解質膜の膨潤と収縮を抑えることができ、その変形による応力を小さくすることができるため、触媒層の破断や固体高分子電解質膜からの剥離を防止し、発電性能の優れる燃料電池を作製できることが推定できた。
【0074】
一方で比較例1の膜−電極接合体は、ホットプレスした直後に、接着層付カーボン不織布が触媒層から剥離し、発電時における固体高分子電解質膜の膨潤と収縮を抑えることができず、その変形による応力によって触媒層の破断や固体高分子電解質膜からの剥離が発生しやすく、発電性能の優れる燃料電池を作製するのが困難であると推定できた。
【0075】
また、比較例2の膜−電極接合体は、試験片を試験装置に準備する段階で剥離し、90°剥離強度を測定することができなかった。そのため、発電時における固体高分子電解質膜の膨潤と収縮を抑えることができず、その変形による応力によって触媒層の破断や固体高分子電解質膜からの剥離が発生しやすく、発電性能の優れる燃料電池を作製するのが困難であると推定できた。