(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6775340
(24)【登録日】2020年10月8日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】成形用アルミニウム合金箔およびアルミニウム合金箔の製造方法、ならびにアルミニウム合金箔成形容器
(51)【国際特許分類】
C22C 21/06 20060101AFI20201019BHJP
C22F 1/047 20060101ALI20201019BHJP
B65D 1/00 20060101ALI20201019BHJP
B65D 81/34 20060101ALI20201019BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20201019BHJP
【FI】
C22C21/06
C22F1/047
B65D1/00 110
B65D81/34 Z
!C22F1/00 622
!C22F1/00 630K
!C22F1/00 640A
!C22F1/00 661B
!C22F1/00 671
!C22F1/00 673
!C22F1/00 682
!C22F1/00 683
!C22F1/00 685Z
!C22F1/00 686A
!C22F1/00 691B
!C22F1/00 691C
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-135590(P2016-135590)
(22)【出願日】2016年7月8日
(65)【公開番号】特開2018-3136(P2018-3136A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年5月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000176707
【氏名又は名称】三菱アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091926
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】西田 寛明
【審査官】
相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−097077(JP,A)
【文献】
特開平11−219709(JP,A)
【文献】
特開昭54−135347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00−21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg:1.2〜2.0wt%、Mn:0.7〜1.6wt%未満、Fe:0.1wt%未満、Cr:0.05wt%以下、Cu:0.03wt%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする成形用アルミニウム合金箔。
【請求項2】
箔厚が65〜100μmであることを特徴とする請求項1に記載の成形用アルミニウム合金箔。
【請求項3】
Mg:1.0超〜2.0wt%、Mn:0.7〜1.6wt%未満、Fe:0.1wt%未満、Cr:0.05wt%以下、Cu:0.03wt%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金箔に対し、250℃〜330℃で最終焼鈍を行なうことを特徴とするアルミニウム合金箔の製造方法。
【請求項4】
前記アルミニウム合金箔の箔厚が65〜100μmであることを特徴とする請求項3に記載のアルミニウム合金箔の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のアルミニウム合金箔からなることを特徴とするアルミニウム合金箔成形容器。
【請求項6】
電磁調理用に用いられることを特徴とする請求項5に記載のアルミニウム合金箔成形容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、
成形用アルミニウム合金箔および
アルミニウム合金箔の製造方法、ならびにアルミニウム合金箔成形容器に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金箔は成形性や熱伝導性に優れ、かつ軽量であることから、麺類や鍋物等の加熱食品用の容器として広く用いられている。加熱食品用の容器としては、ガスコンロでの直火による加熱の他に、最近では、電磁調理器を用いた加熱も行うことが要望されている。
しかし、一般に、アルミニウム箔は電気抵抗が小さく、電磁調理では加熱効率が悪い。このため、例えば、特許文献1や特許文献2、3では、アルミニウム箔の電気抵抗を上げるため、アルミニウム箔にMg等の微量元素を含有させている。このアルミニウム箔は、電磁調理で鍋などとして使用されるように成形した容器とされる。このため成形性に優れている必要があり、冷間圧延後に高温での熱処理を施すが、Mg含有による表面変色を防止するために特許文献4、5に示すような特殊な軟化処理を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−270351号公報
【特許文献2】特開2009−097077号公報
【特許文献3】特許第5613573号公報
【特許文献4】特開平11−172389号公報
【特許文献5】特開平11−222623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、Mgを添加したアルミニウム箔で高温の熱処理を行うと箔表面に変色が生じてしまい、製品品質を低下させる。一方、熱処理温度を下げると、軟化が十分になされないという問題がある。
【0005】
本発明は上記事情を背景としてなされたものであり、Mg含有においても加熱処理による変色発生が抑制された
成形用アルミニウム合金箔および
アルミニウム合金箔の製造方法、ならびにアルミニウム合金箔成形容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の
成形用アルミニウム合金箔のうち、第1の形態は、Mg:
1.2〜2.0wt%、Mn:0.7〜1.6wt%未満、Fe:0.1wt%未満、Cr:0.05wt%以下、Cu:0.03wt%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする。
【0007】
他の形態の
成形用アルミニウム合金箔は、前記形態のアルミニウム合金箔において、箔厚が65〜100μmであることを特徴とする。
【0008】
本発明のアルミニウム合金箔の製造方法は、
Mg:1.0超〜2.0wt%、Mn:0.7〜1.6wt%未満、Fe:0.1wt%未満、Cr:0.05wt%以下、Cu:0.03wt%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金箔に対し、250℃〜330℃で最終焼鈍を行なうことを特徴とする。
他の形態のアルミニウム合金箔の製造方法は、前記形態の成形用アルミニウム合金箔において、前記アルミニウム合金箔の箔厚が65〜100μmであることを特徴とする。
【0009】
本発明のアルミニウム合金箔成形容器は、第1または第2の形態に記載のアルミニウム合金箔からなることを特徴とする。
【0010】
他の形態のアルミニウム合金箔成形容器は、前記形態のアルミニウム合金箔成形容器において、電磁調理用に用いられることを特徴とする。
【0011】
以下、本発明で規定している成分等の限定理由について説明する。
【0012】
Mg:1.0超〜2.0wt%
Mgは、アルミニウム合金箔の電気比抵抗を大きくし、かつ、箔の強度の向上に寄与する。Mgの含有量が1.0wt%以下では、十分な電気比抵抗が得られない恐れがある。一方、Mgの含有量が2.0wt%を超えると、アルミニウム合金箔の強度が高すぎるためにプレス成形が困難となるおそれがある。このため、Mgの含有量を上記範囲に定める。なお、同様の理由で、下限を1.5wt%、上限を2.0wt%とするのが望ましい。
【0013】
Mn:0.7〜1.6wt%未満
Mnは、アルミニウム合金箔の電気比抵抗を大きくし、かつ、箔の強度の向上に寄与する。Mnの含有量が0.7wt%未満では、十分な電気比抵抗が得られない恐れが有る。一方、1.6wt%以上では、粗大な金属間化合物が晶出して、プレス時に、それを起点に穴開きが発生する等、成形性が著しく悪化する恐れが有る。このため、Mnの含有量を上記範囲に定める。なお、同様の理由で、下限を0.9wt%、上限を1.3wt%とするのが望ましい。
【0014】
Cr:0.05wt%以下
Crは電気比抵抗を高める効果がある。しかし、その含有量が0.05wt%を超えると、所望の強度とするために、最終焼鈍の温度を上げる必要が生じ、その結果、最終焼鈍温度上昇により箔表面の変色を招くおそれがある。このためCrの含有量を上記範囲に定める。同様の理由で、上限を0.02wt%以下とするのが望ましい。
なお、Crの含有量の下限は特に限定されないが、高品位地金を使用することによるコスト増や、電気比抵抗の低下により電磁調理器用アルミニウム合金箔成形容器として使用した場合に必要な加熱効率が得られない恐れから、下限を0.0001wt%とするのが望ましい。
【0015】
Fe:0.1wt%未満
Feの含有量が0.1wt%以上であると耐食性が低下するため、アルミニウム合金箔を容器として内容物を入れて保管する際に変色する恐れが有り、場合によっては貫通孔が発生して容器として使用出来なくなる。同様の理由で、0.05wt%未満が望ましい。
【0016】
Cu:0.03wt%以下
Cuは、0.03wt%を超えると、耐食性が低下するため、アルミニウム合金箔を容器として内容物を入れて保管する際に変色する恐れが有り、場合によっては貫通孔が発生して容器として使用出来なくなるため、上限を0.03wt%とする。同様の理由により、上限を0.02wt%とするのが一層望ましい。
【0017】
箔厚:65〜100μm
アルミニウム合金箔の箔厚を薄くすることにより電磁調理器での加熱効率を良くすることができる。しかし、箔厚が65μm未満では、成形容器として必要な強度が得られないおそれがあり、箔厚が100μmを超えると、電磁調理器用アルミニウム合金箔成形容器として使用した場合に必要な加熱効率が得られない。また、材料コストが増加するとともに容器重量が増加して輸送コストが上昇する等、経済的でない。このためアルミニウム合金箔の箔厚は上記範囲内であるのが望ましい。
【0018】
最終焼鈍温度:250℃〜330℃
最終焼鈍温度は箔表面の変色とプレス性に影響する。最終焼鈍温度が250℃未満では、箔が完全に再結晶しないために強度が高くなってプレス成形が困難となる恐れがある。最終焼鈍温度が330℃を超えると箔表面の変色を招く恐れがある。これより、最終焼鈍温度を上記範囲に定める。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、アルミニウム合金箔に加熱処理を行った際の表面変色の発生が抑制され、表面品質に優れたアルミニウム合金箔およびアルミニウム合金箔成形容器が得られる効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態について説明する。
本発明の組成を有するアルミニウム合金を作製する。本発明としては、アルミニウム合金の製造方法が特定のものに限定されるものではなく、例えば、半連続鋳造法や連続鋳造法等の所望の方法によって作製することができる。
なお、得られた材料に対しては均質化処理を行うことが好ましい。均質化処理の条件は特に限定されないが、高温長時間で均質化処理を行うことが好ましい。例えば、500℃〜600℃で、3時間〜20時間の条件にて均質化処理を行うことができる。
【0021】
均質化処理後の材料に対し、熱間圧延を行って所望の厚さとした後、冷間圧延、中間焼鈍、再度冷間圧延を経ることにより、所望の厚さのアルミニウム合金箔を得ることができる。箔厚は特に限定されないが、強度および電気抵抗などの観点から65〜100μmとするのが望ましい。その後、最終焼鈍を経て、本発明のアルミニウム合金箔を得ることができる。最終焼鈍の条件は250℃〜330℃の温度で、3時間〜30時間とするのが望ましい。
【0022】
得られたアルミニウム合金箔は特別に温度を上げる、真空炉を使用する、コイル端部を被覆するなどの特殊な焼鈍を行う必要がなく、表面の変色が抑制され、優れた表面品質を有している。
【0023】
また、このアルミニウム合金箔を成形することにより、本発明のアルミニウム合金箔成形容器を得ることができる。成形はプレス成形等によって行うことができ、成形容器の形状については特に限定されず、たとえば、底部と、底部の周縁から立ち上がる周壁部と、周壁部の開口部から外側へ伸長するフランジ部とを有する加熱調理用のアルミニウム合金箔成形容器とすることができる。
得られたアルミニウム合金箔成形容器は、電気抵抗が大きくて高いIH適性を有しており、電磁調理器での加熱に適している。また、この成形容器は、電磁調理に限られず、ガスコンロ等の直火による加熱調理に用いることも可能である。
【実施例】
【0024】
以下に、本発明の実施例について説明する。
表1の組成(残部がAlと不可避不純物)を有する厚さ500mmのアルミニウム合金鋳塊を半連続鋳造法によって作製した。得られた鋳塊の表面を面削し、560℃×4時間の均質化処理後、冷却した。その後、520℃に再加熱し、熱間圧延で厚さ7.0mmにし、冷間圧延、中間焼鈍、再度冷間圧延を行い表1記載の厚さとした後に、各々の箔が完全に再結晶する温度(表1中に記載)で20時間の最終焼鈍を行い、アルミニウム合金軟質箔を得た。
【0025】
得られたアルミニウム合金軟質箔に対し、変色、プレス性、IH適性、および耐食性の評価を、以下の方法で行い、その評価結果を表1に示した。
【0026】
・変色
最終焼鈍前のアルミニウム合金箔との色調差がどの程度であるかを、目視によって判定した。
最終焼鈍前とほとんど色調差が見られなければ「○」と判定し、一部分もしくは全面がごく僅かに黄変していれば「△」と判定し、一部分もしくは全面が明らかに黄変していれば「×」と判定した。判定が△以上であれば実用上問題はないが、○であることが望ましい。
【0027】
・プレス性
アルミニウム合金箔1000枚をプレス成形してアルミニウム合金箔成形容器(底部径:11.6cm、周壁高さ:5.6cm、フランジ部幅:1.4cm)1000個を作製した。作製した成形容器について、容器底部や壁面部に穴あきが発生した容器が10個以下である場合はプレス性を「○」、10個超であった場合はプレス性を「×」と判定した。
【0028】
・IH(Induction Heating)適性
電磁調理器用のアルミニウム合金箔として十分な電気比抵抗を有している指標として、IH適性評価を行った。
IH適性の評価は、プレス成形後のアルミニウム合金箔成形容器(底部径:11.6cm、周壁高さ:5.6cm、フランジ部幅:1.4cm)に350ccの水を入れ、電磁調理器により水温が20℃から90℃まで上昇する所要時間を測定することにより行った。
所要時間が125秒以下であれば電磁調理器用のアルミニウム合金箔として十分な性能(電気比抵抗)を有していると判断しIH適性は「○」、所要時間が125秒を超え140秒以下であればIH適性は「△」、所要時間が140秒を超えた場合は、IH適性は「×」と判定した。なお、試験は海抜500m地点で実施し、電磁調理器は日立製作所製HT−B6S(200V、3.0kW)を用いた。判定結果が△であっても電磁調理器用アルミニウム合金箔として実用上問題は無いが、判定結果が○であることが望ましい。
【0029】
・耐食性
ガラス容器に市販の醤油を入れ、アルミニウム合金箔を浸漬して室温で7日間および14日間保持後、腐食生成物を除去して目視した。
14日後まで貫通孔が発生しないものを「○」、7日後まで貫通孔が発生しなかったが14日後では貫通孔が発生したものを「△」、7日後までに貫通孔が発生したものを「×」と判定した。判定が△以上であれば実用上問題はないが、○であることが望ましい。
【0030】
【表1】
【0031】
評価結果によれば、本発明の規定を満たしている実施例1〜8では、変色、プレス性、IH適性および耐食性の全てにおいて良い結果が得られたのに対し、本発明の規定を満たしていない比較例1〜7では、変色、プレス性、IH適性または耐食性のいずれか一つ以上において良い結果が得られなかった。
【0032】
以上、本発明について、上記実施形態と実施例に基づいて説明を行ったが、本発明は上記説明の内容に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りは上記実施形態および実施例に対する適宜の変更が可能である。