(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本発明の実施形態の説明]
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様に係る絶縁電線は、線状の導体と、この導体の外周面に積層される1又は複数の絶縁層とを備える絶縁電線であって、上記1又は複数の絶縁層の少なくとも1層が複数の気孔を有し、上記気孔の周縁部に外殻を有し、上記外殻が外面に複数の凸部を有する。
【0012】
当該絶縁電線は、1又は複数の絶縁層の少なくとも1層が複数の気孔を有するので低誘電率化を図ることができる。また、当該絶縁電線は、絶縁層が気孔の周縁部に外殻を有するため、気孔同士が連通し難く、その結果、絶縁層の気孔の大きさにばらつきが生じ難い。さらに、当該絶縁電線は、外殻が外面に複数の凸部を有するので、絶縁層における気孔の分散性が高く、この絶縁層中で気孔が局在化し難い。そのため、当該絶縁電線は、絶縁層の強度、絶縁性及び耐溶剤性の低下を抑制することができる。
【0013】
上記複数の凸部の平均高さとしては、0.01μm以上0.5μm以下が好ましい。このように、上記複数の凸部の平均高さが上記範囲内であることによって、絶縁層における気孔の分散性をより向上することができる。
【0014】
上記外殻1個の単位面積(14μm
2)当たりの凸部の平均存在個数としては、5個以上200個以下が好ましい。このように、上記外殻1個の単位面積(14μm
2)当たりの凸部の平均存在個数が上記範囲内であることによって、絶縁層における気孔の分散性をより向上することができる。
【0015】
本発明の一態様に係る絶縁電線の製造方法は、線状の導体と、この導体の外周面に積層される1又は複数の絶縁層とを備える絶縁電線の製造方法であって、上記導体の外周側に、熱分解性コア及びこのコアの外周を被覆するシェルを有する中空形成粒子を含有する樹脂ワニスを塗布する塗布工程と、上記塗布された樹脂ワニスを加熱する加熱工程とを備え、上記シェルが外面に複数の凸部を有する。
【0016】
当該絶縁電線の製造方法は、導体の外周側に、熱分解性コア及びこのコアの外周を被覆するシェルを有する中空形成粒子を含有する樹脂ワニスを塗布し、この樹脂ワニスを加熱することで導体の外周面に複数の気孔を有する絶縁層を積層することができる。具体的には、当該絶縁電線の製造方法は、上記樹脂ワニスを加熱することで上記コアが熱分解によってガス化し、このコアの存在部分が気孔となる。一方、上記シェルは上記樹脂ワニスの加熱によって熱分解されず、上記気孔の周縁部の外殻となる。これにより、当該絶縁電線の製造方法は、複数の気孔を有する絶縁層を形成することができるので、絶電電線の低誘電率化を図ることができる。また、当該絶縁電線の製造方法は、シェルがコアの外周を被覆しているため、コア同士が連結され難く、その結果、絶縁層の気孔の大きさにばらつきが生じ難い。さらに、当該絶縁電線の製造方法は、上記シェルが外面に複数の凸部を有するので、樹脂ワニス中における中空形成粒子の分散性が高い。そのため、当該絶縁電線の製造方法は、絶縁層における気孔の分散性を高めることができ、この絶縁層中での気孔の局在化を抑制することができる。従って、当該絶縁電線の製造方法は、絶縁層の強度、絶縁性及び耐溶剤性の低下を抑制することができる。
【0017】
なお、本発明において、「凸部の高さ」とは、凸部の底部の外縁を基準とする凸部の最大高さをいう。「凸部の平均高さ」とは、任意に抽出した10個の凸部の高さの平均値をいう。「外殻1個の単位面積(14μm
2)当たりの凸部の平均存在個数」とは、任意の10個の外殻において任意に抽出した面積14μm
2の真円中における凸部の存在個数の平均値をいう。
【0018】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明に係る絶縁電線の一つの実施形態について図面を参照しつつ詳説する。
【0019】
[第一実施形態]
<絶縁電線>
図1の絶縁電線は、線状の導体1と、この導体1の外周面に積層される1つの絶縁層2とを備える。絶縁層2は複数の気孔3を有する。また、当該絶電線は、
図2及び
図3に示すように、気孔3の周縁部に外殻4を有し、外殻4が外面に複数の凸部5を有する。
【0020】
当該絶縁電線は、絶縁層2が複数の気孔3を有するので低誘電率化を図ることができる。また、当該絶縁電線は、絶縁層2が気孔3の周縁部に外殻4を有するため、気孔2同士が連通し難く、その結果、絶縁層2の気孔3の大きさにばらつきが生じ難い。さらに、当該絶縁電線は、外殻4が外面に複数の凸部5を有するので、絶縁層2における気孔3の分散性が高く、この絶縁層2中で気孔3が局在化し難い。そのため、当該絶縁電線は、絶縁層2の強度、絶縁性及び耐溶剤性の低下を抑制することができる。
【0021】
また、当該絶縁電線は、絶縁層2中における気孔3の分散性が高いので、品質の均一化を図り易く、これにより製品歩留まりを向上することができる。
【0022】
また、気孔が局在化していると、絶縁電線を軸方向に伸ばした場合又は径方向に折り曲げた場合に気孔の重なりに起因して絶縁層が破断し易い。これに対し、当該絶縁電線は、絶縁層2中における気孔3の分散性が高いので、軸方向に伸ばした場合又は径方向に折り曲げた場合であっても絶縁層2の破断を抑制することができ、これにより耐久性を高めることができる。そのため、当該絶縁電線は、例えば巻き線等として適している。
【0023】
(導体)
導体1は、例えば断面が円形状の丸線とされるが、断面が方形状の角線や、複数の素線を撚り合わせた撚り線であってもよい。
【0024】
導体1の材質としては、導電率が高くかつ機械的強度が大きい金属が好ましい。このような金属としては、例えば銅、銅合金、アルミニウム、ニッケル、銀、軟鉄、鋼、ステンレス鋼等が挙げられる。導体1は、これらの金属を線状に形成した材料や、このような線状の材料にさらに別の金属を被覆した多層構造のもの、例えばニッケル被覆銅線、銀被覆銅線、銅被覆アルミニウム線、銅被覆鋼線等を用いることができる。
【0025】
導体1の平均断面積の下限としては、0.01mm
2が好ましく、0.1mm
2がより好ましい。一方、導体1の平均断面積の上限としては、20mm
2が好ましく、10mm
2がより好ましい。導体1の平均断面積が上記下限に満たないと、導体1に対する絶縁層2の体積が大きくなり、当該絶縁電線を用いて形成されるコイル等の体積効率が低くなるおそれがある。逆に、導体1の平均断面積が上記上限を超えると、誘電率を十分に低下させるために絶縁層2を厚く形成しなければならず、当該絶縁電線が不必要に大径化するおそれがある。
【0026】
(絶縁層)
絶縁層2は、樹脂マトリックスと、この樹脂マトリックス中に散在する複数の気孔3と、気孔3の周縁部に形成される外殻4とを有する。絶縁層2は、後述するように、熱分解性コア及びこのコアの外周を被覆するシェルを有するコアシェル構造の中空形成粒子を含有する樹脂ワニスの導体1の外周面への塗布及び加熱によって形成される。
【0027】
気孔3は、上記中空形成粒子のコアのガス化によって形成される。また、外殻4は、上記中空形成粒子のコアが除去されて中空となったシェルで構成される。つまり、気孔3はコアシェル構造の中空形成粒子のコアに由来し、外殻4はこの中空形成粒子のシェルに由来する。
【0028】
気孔3の平均径の下限としては、0.5μmが好ましく、2μmがより好ましい。一方、気孔3の平均径の上限としては、10μmが好ましく、5μmがより好ましい。気孔3の平均径が上記下限に満たないと、絶縁層2の気孔率を十分に高め難くなるおそれがある。逆に、気孔3の平均径が上記上限を超えると、絶縁層2中における気孔3の分布の均一化を十分に促進し難くなるおそれがある。
【0029】
外殻4は内外を貫通する欠損を一部に有することが好ましい。当該絶縁電線は、ガス化したコアがこの欠損を通って外部に放出されることで外殻4内に気孔3を形成することができる。この欠損の形状は、シェルの材質や形状によって変化するが、外殻4による気孔3の連通防止効果を高める観点から、亀裂、割れ目及び孔が好ましい。なお、絶縁層2は、欠損のない外殻4を含んでいてもよい。ガス化したコアのシェル外部への放出条件によってはシェルに欠損が形成されない場合もある。また、絶縁層2は、気孔3の分散性を向上する点からは全ての気孔3の周縁部に外殻4を有することが好ましいが、一部に外殻4に被覆されない気孔3を含んでいてもよい。
【0030】
絶縁層2における全気孔3の存在個数に対する外殻4を有する気孔3の存在個数の比の下限としては、70%が好ましく、90%がより好ましく、100%が最も好ましい。上記存在個数の比が上記下限に満たないと、絶縁層2中における気孔3の分散性が十分に向上しないおそれや、複数の気孔3が連通した連続気孔が形成されるおそれがある。
【0031】
外殻4は、
図2及び
図3に示すように、外面に複数の凸部5が略等間隔で形成されている。これにより、外殻4は、ラズベリー状又はこんぺいとう状の外形を有する。
【0032】
外殻1個の単位面積(14μm
2)当たりの凸部5の平均存在個数の下限としては、5個が好ましく、10個がより好ましい。一方、上記存在個数の上限としては、200個が好ましく、100個がより好ましい。上記存在個数が上記下限に満たないと、絶縁層2における気孔3の分散性が不十分となるおそれがある。逆に、上記存在個数が上記上限を超えると、複数の凸部5による気孔3の分散性向上効果が余り高まらないおそれがある。また、上記存在個数が上記上限を超えると、外殻4に上述の欠損を形成し難くなり、その結果気孔3の形成が困難になるおそれがある。
【0033】
複数の凸部5の平均高さhの下限としては、0.01μmが好ましく、0.05μmがより好ましい。一方、複数の凸部5の平均高さhの上限としては、0.5μmが好ましく、0.4μmがより好ましい。上記平均高さhが上記下限に満たないと、絶縁層2における気孔3の分散性が不十分となるおそれがある。逆に、上記平均高さhが上記上限を超えると、絶縁層2中における気孔3の間隔が不要に大きくなり、絶縁層2の気孔率を十分に高め難くなるおそれがある。
【0034】
複数の凸部5の底部における平均径dの下限としては、0.05μmが好ましく、0.1μmがより好ましい。一方、複数の凸部5の底部における平均径dの上限としては、1.0μmが好ましく、0.5μmがより好ましい。上記平均径dが上記下限に満たないと、隣接する外殻2の凸部5同士を干渉させ難くなり、その結果絶縁層2における気孔3の分散性が不十分となるおそれがある。逆に、上記平均径dが上記上限を超えると、外殻4における凸部5以外の領域が小さくなり、その結果上記欠損を形成し難くなるおそれがある。なお、「凸部の底部における径」とは、凸部の底部の外縁の内部領域を等面積の真円に換算した場合の直径をいう。また、「凸部の底部における平均径」とは、任意に抽出した10個の凸部の底部における径の平均値をいう。
【0035】
外殻4の平均厚さの下限としては、特に限定されるものではないが、0.01μmが好ましく、0.02μmがより好ましい。一方、外殻4の平均厚さの上限としては、0.5μmが好ましく、0.4μmがより好ましい。外殻4の平均厚さが上記下限に満たないと、気孔3の連通抑制効果が十分に得られないおそれがある。逆に、外殻4の平均厚さが上記上限を超えると、気孔3の体積が小さくなり過ぎるため、絶縁層2の気孔率を所定以上に高められないおそれがある。なお、「外殻の平均厚さ」とは、複数の凸部を除く部分の平均厚さを意味する。また、外殻4は、1層で形成されていてもよく、複数の層で形成されていてもよい。外殻4が複数の層で形成される場合、上記平均厚さは、複数の層全体の平均厚さを意味する。
【0036】
絶縁層2は、気孔3の分散性を向上する点からは全ての外殻4の外面に複数の凸部5が形成されていることが好ましいが、凸部5を有しない外殻4が一部に存在していてもよい。絶縁層2における全外殻4の存在個数に対する凸部を有する外殻4の存在個数の比の下限としては、70%が好ましく、90%がより好ましく、100%が最も好ましい。上記存在個数の比が上記下限に満たないと、絶縁層2中における気孔3の分散性が十分に向上しないおそれがある。
【0037】
外殻4は、上記コアよりも熱分解温度が高い材料によって形成される。外殻4は、上述の樹脂マトリックスと同種の材料によって構成されてもよく、異なる材料によって構成されてもよい。外殻4の主成分としては、誘電率が低く、耐熱性が高い合成樹脂が好ましく、例えばポリスチレン、シリコーン、フッ素樹脂、ポリイミド等が挙げられる。中でも、弾性を高め易く、これにより樹脂ワニス中におけるシェルの分散性を向上し易いと共に、絶縁性及び耐熱性に優れるシリコーンが好ましい。なお、「フッ素樹脂」とは、高分子鎖の繰り返し単位を構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも1つが、フッ素原子又はフッ素原子を有する有機基(以下「フッ素原子含有基」ともいう)で置換されたものをいう。フッ素原子含有基は、直鎖状又は分岐状の有機基中の水素原子の少なくとも1つがフッ素原子で置換されたものであり、例えばフルオロアルキル基、フルオロアルコキシ基、フルオロポリエーテル基等を挙げることができる。また、絶縁性を損なわない範囲で外殻4に金属が含まれてもよい。なお、「主成分」とは、最も含有量の多い成分をいい、例えば50質量%以上含有される成分をいう。
【0038】
上記樹脂マトリックスの主成分としては、例えばポリビニルホルマール、ポリウレタン、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエステル、ポリエステルイミド、ポリエステルアミドイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン等が挙げられる。中でも、絶縁層2の強度及び耐熱性を向上させ易いポリイミドが好ましい。上記樹脂マトリックスは2種類以上の合成樹脂の複合体又は積層体であってもよい。
【0039】
なお、絶縁層2には、上記成分の他、フィラー、酸化防止剤、レベリング剤、硬化剤、接着助剤等の他の成分が添加されていてもよい。
【0040】
絶縁層2の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、絶縁層2の平均厚さの上限としては、200μmが好ましく、100μmがより好ましい。絶縁層2の平均厚さが上記下限に満たないと、絶縁層2に破れが生じ、導体1の絶縁が不十分となるおそれがある。逆に、絶縁層2の平均厚さが上記上限を超えると、当該絶縁電線を用いて形成されるコイル等の体積効率が低くなるおそれがある。
【0041】
絶縁層2の気孔率の下限としては、5体積%が好ましく、10体積%がより好ましい。一方、絶縁層2の気孔率の上限としては、80体積%が好ましく、50体積%がより好ましい。絶縁層2の気孔率が上記下限に満たないと、絶縁層2の誘電率が十分に低下せず、コロナ放電開始電圧を十分に向上できないおそれがある。逆に、絶縁層2の気孔率が上記上限を超えると、絶縁層2の機械的強度を維持できないおそれがある。なお、「気孔率」とは、気孔を含む絶縁層の体積に対する気孔の容積の百分率を意味する。
【0042】
絶縁層2と材質が同一でかつ気孔を含有しない層の誘電率に対する絶縁層2の誘電率の比の上限としては、95%が好ましく、90%がより好ましく、80%がさらに好ましい。上記誘電率の比が上記上限を超えると、コロナ放電開始電圧を十分に向上できないおそれがある。
【0043】
<絶縁電線の製造方法>
次に、
図4を参照して、線状の導体1と、この導体1の外周面に積層される絶縁層2とを備える
図1の当該絶縁電線の製造方法を説明する。当該絶縁電線の製造方法は、導体1の外周側に、熱分解性コア3a及びこのコア3aの外周を被覆するシェル4aを有する中空形成粒子6を含有する樹脂ワニスを塗布する塗布工程と、上記塗布工程で塗布された樹脂ワニスを加熱する加熱工程とを備え、シェル4aが外面に複数の凸部5aを有する。
【0044】
当該絶縁電線の製造方法は、導体1の外周側に、熱分解性コア3a及びこのコア3aの外周を被覆するシェル4aを有する中空形成粒子6を含有する樹脂ワニスを塗布し、この樹脂ワニスを加熱することで導体1の外周面に複数の気孔3を有する絶縁層2を積層することができる。具体的には、当該絶縁電線の製造方法は、上記樹脂ワニスを加熱することでコア3aが熱分解によってガス化し、このコア3aの存在部分が気孔3となる。一方、シェル4aは上記樹脂ワニスの加熱によって熱分解されず、気孔3の周縁部の外殻4となる。これにより、当該絶縁電線の製造方法は、複数の気孔3を有する絶縁層2を形成することができるので、絶電電線の低誘電率化を図ることができる。また、当該絶縁電線の製造方法は、シェル4aがコア3aの外周を被覆しているため、コア3a同士が連結され難く、その結果、絶縁層2の気孔3の大きさにばらつきが生じ難い。さらに、当該絶縁電線の製造方法は、シェル4aが外面に複数の凸部5aを有するので、樹脂ワニス中における中空形成粒子6の分散性が高い。そのため、当該絶縁電線の製造方法は、絶縁層2における気孔3の分散性を高めることができ、この絶縁層2中での気孔3の局在化を抑制することができる。従って、当該絶縁電線の製造方法は、絶縁層2の強度、絶縁性及び耐溶剤性の低下を抑制することができる。
【0045】
(樹脂ワニス)
まず、当該絶縁電線の製造方法で用いられる樹脂ワニスについて説明する。上記樹脂ワニスとしては、絶縁層2の上記樹脂マトリックスを形成する主ポリマーと、この主ポリマーに分散する中空形成粒子6とを溶剤で希釈したものが用いられる。また、上記樹脂ワニスは、フィラー、酸化防止剤、レベリング剤、硬化剤、接着助剤等の他の成分を含有していてもよい。
【0046】
〈主ポリマー〉
上記主ポリマーとしては、特に限定されないが、例えばポリビニールホルマール前駆体、ポリウレタン前駆体、アクリル樹脂前駆体、エポキシ樹脂前駆体、フェノキシ樹脂前駆体、ポリエステル前駆体、ポリエステルイミド前駆体、ポリエステルアミドイミド前駆体、ポリアミドイミド前駆体、ポリイミド前駆体等の前駆体や、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン等が挙げられる。中でも、上記樹脂ワニスの塗布性を向上できると共に、絶縁層2の強度及び耐熱性を向上させ易いポリイミド前駆体が好ましい。
【0047】
〈中空形成粒子〉
中空形成粒子6は、
図4に示すように、熱分解性樹脂を主成分とするコア3aと、この熱分解性樹脂より熱分解温度が高いシェル4aとを有する。
【0048】
コア3aの主成分に用いる熱分解性樹脂としては、上記樹脂ワニスに含まれ、絶縁層2の樹脂マトリックスを形成する主ポリマーの焼付温度よりも低い温度で熱分解する樹脂粒子が用いられる。上記主ポリマーの焼付温度は、樹脂の種類に応じて適宜設定されるが、通常200℃以上600℃以下程度である。従って、中空形成粒子6のコア3aに用いる熱分解性樹脂の熱分解温度の下限としては200℃が好ましく、上限としては400℃が好ましい。ここで、熱分解温度とは、空気雰囲気下で室温から10℃/分で昇温し、質量減少率が50%となるときの温度を意味する。熱分解温度は、例えば熱重量測定−示差熱分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社の「TG/DTA」)を用いて熱重量を測定することにより測定できる。
【0049】
中空形成粒子6のコア3aに用いる熱分解性樹脂としては、特に限定されないが、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの片方、両方の末端又は一部をアルキル化、(メタ)アクリレート化又はエポキシ化した化合物、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸プロピル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチルなどの炭素数1以上6以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルの重合体、ウレタンオリゴマー、ウレタンポリマー、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ε―カプロラクトン(メタ)アクリレートなどの変性(メタ)アクリレートの重合物、ポリ(メタ)アクリル酸、これらの架橋物、ポリスチレン、架橋ポリスチレン等が挙げられる。これらの中でも、主ポリマーの焼付温度で熱分解し易く絶縁層2に気孔3を形成させ易い点において、炭素数1以上6以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルの重合体が好ましい。このような(メタ)アクリル酸エステルの重合体として、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)が挙げられる。
【0050】
コア3aの形状は、球状が好ましい。コア3aの形状を球状とするために、例えば球状の熱分解性樹脂粒子をコア3aとして用いるとよい。球状の熱分解性樹脂粒子を用いる場合、この熱分解性樹脂粒子の平均粒子径としては、上述の気孔3の平均径と同様とすることができる。なお、上記熱分解性樹脂粒子の平均粒子径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した粒度分布において、最も高い体積の含有割合を示す粒径を意味する。
【0051】
シェル4aの主成分としては、上記熱分解性樹脂より熱分解温度が高い材料が用いられる。また、シェル4aの主成分としては、誘電率が低く、耐熱性が高いものが好ましい。シェル4aの主成分としては、上述の外殻4の主成分と同様の合成樹脂を用いることができる。
【0052】
シェル4aの主成分は、上記樹脂ワニスに含有される主ポリマーと同種のものを用いてもよく、異なるものを用いてもよい。例えばシェル4aの主成分として、上記主ポリマーと同種のものを用いた場合でも、熱分解性樹脂より熱分解温度が高いので、熱分解性樹脂がガス化してもシェル4aの主成分の樹脂は熱分解し難いため、気孔3の連通抑制効果が得られる。このような樹脂ワニスで形成された当該絶縁電線は、電子顕微鏡で観察してもシェル4aの存在を確認できない場合がある。一方、シェル4aの主成分として上記主ポリマーと異なるものを用いることにより、シェル4aを上記主ポリマーと一体化され難くできるので、気孔3の連通抑制効果が得易くなる。
【0053】
シェル4aの平均厚さとしては、上述の外殻4の平均厚さと同様とすることができる。
【0054】
シェル4aは、外面に複数の凸部5aが略等間隔で形成されている。シェル1個の単位面積(14μm
2)当たりの凸部5aの平均存在個数としては、上述の外殻1個の単位面積(14μm
2)当たりの凸部5の平均存在個数と同様とすることができる。複数の凸部5aの平均高さとしては、上述の外殻4における凸部5の平均高さhと同様とすることができる。複数の凸部5aの底部における平均径としては、上述の外殻4における複数の凸部5の底部における平均径dと同様とすることができる。
【0055】
中空形成粒子6におけるシェル4aの含有量の下限としては、5質量%が好ましく、10質量%がより好ましい。一方、中空形成粒子6におけるシェル4aの含有量の上限としては、35質量%が好ましく、25質量%がより好ましい。上記含有量が上記下限に満たないと、凸部5aの個数及び高さが不足して、絶縁層2における気孔3の分散性が不十分となるおそれがある。逆に、上記含有量が上記上限を超えると、凸部5aが大きくなり過ぎて、絶縁層2における気孔3の間隔が不要に大きくなり、絶縁層2の気孔率を十分に高め難くなるおそれがある。
【0056】
中空形成粒子6の凸部5aを除く部分のCV値の上限としては、30%が好ましく、20%がより好ましい。上記CV値が上記上限を超えると、絶縁層2にサイズが異なる複数の気孔3が含まれるようになるため、誘電率の分布に偏りが生じ易くなるおそれがある。なお、上記CV値の下限としては、特に制限はないが、例えば1%が好ましい。上記CV値が上記下限に満たないと、中空形成粒子6のコストが高くなり過ぎるおそれがある。なお、「CV値」とは、JIS−Z8825:2013に規定される変動係数を意味する。
【0057】
なお、中空形成粒子6は、コア3aを1個の熱分解性樹脂粒子で形成する構成としてもよいし、コア3aを複数の熱分解性樹脂粒子で形成し、シェル4aの合成樹脂がこれらの複数の熱分解性樹脂粒子を被覆する構成としてもよい。
【0058】
〈溶剤〉
上記溶剤としては、絶縁電線用樹脂ワニスに従来より用いられている公知の有機溶剤を用いることができる。具体的には、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサエチルリン酸トリアミド、γ−ブチロラクトンなどの極性有機溶媒をはじめ、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素類、ジクロロメタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、クレゾール、クロルフェノールなどのフェノール類、ピリジンなどの第三級アミン類等が挙げられ、これらの有機溶媒はそれぞれ単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0059】
上記樹脂ワニスの樹脂固形分濃度の下限としては、15質量%が好ましく、20質量%がより好ましい。一方、上記樹脂ワニスの樹脂固形分濃度の上限としては、50質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。上記樹脂ワニスの樹脂固形分濃度が上記下限に満たないと、1回のワニスの塗布で形成できる厚さが小さくなるため、所望の厚さの絶縁層2を形成するためのワニス塗布工程の繰り返し回数が多くなり、塗布工程の時間が長くなるおそれがある。逆に、上記樹脂ワニスの樹脂固形分濃度が上記上限を超えると、ワニスが増粘することにより、ワニスの保存安定性が悪化するおそれがある。
【0060】
また、上記樹脂ワニスに、中空形成粒子6に加えて、気孔形成のために熱分解性粒子等の気孔形成剤を混合してもよい。また、気孔形成のために、沸点の異なる希釈溶剤を組合せて上記樹脂ワニスを調製してもよい。気孔形成剤により形成された気孔や沸点の異なる希釈溶剤の組合せにより形成される気孔は、中空形成粒子6に由来する気孔とは連通し難い。従って、このように外殻4に被覆されない気孔を含む場合でも、外殻4に被覆される気孔の存在により、絶縁層2に粗大な気孔が生じ難い。
【0061】
(塗布工程)
上記塗布工程では、上述の樹脂ワニスを導体1の外周側に塗布する。上記樹脂ワニスを塗布する方法としては、例えば上記樹脂ワニスを貯留した貯留槽と塗布ダイスとを備える塗布装置を用いた方法が挙げられる。この塗布装置によれば、導体1が貯留槽内を挿通することで樹脂ワニスが導体1の外周側に付着し、その後塗布ダイスを通過することでこの樹脂ワニスが略均一な厚さで塗布される。
【0062】
(加熱工程)
上記加熱工程では、上記塗布工程で塗布された樹脂ワニスを加熱する。上記加熱工程によって、上記樹脂ワニスを導体1の外周側に焼き付けることで、導体1の外周側に絶縁層2が積層される。上記加熱工程における加熱方法としては、特に限定されないが、熱風加熱、赤外線加熱、高周波加熱等、従来公知の方法が挙げられる。上記加熱工程における加熱温度としては、通常200℃以上600℃以下である。
【0063】
なお、当該絶縁電線の製造方法では、上記塗布工程及び加熱工程を複数回繰り返して行うことが好ましい。つまり、絶縁層2は、複数の焼付層の積層体として構成されることが好ましい。このように絶縁層2が複数の焼付層の積層体として構成される場合、焼付層毎に気孔3が形成されるので、気孔3の分散性が高まり易い。
【0064】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0065】
上記実施形態においては、1層の絶縁層が導体の外周面に積層される絶縁電線について説明したが、複数の絶縁層が導体の外周面に積層される絶縁電線としてもよい。つまり、
図1の導体1と複数の気孔3を有する絶縁層2との間に1又は複数の絶縁層が積層されてもよいし、
図1の複数の気孔3を有する絶縁層2の外周面に1又は複数の絶縁層が積層されてもよいし、
図1の複数の気孔3を有する絶縁層2の外周面及び内周面の両方に1又は複数の絶縁層が積層されてもよい。このように複数の絶縁層が積層される絶縁電線において、少なくとも1の絶縁層が、複数の気孔と、気孔の周縁部に形成され、外面に複数の凸部を有する外殻とを有していればよい。つまり、2以上の絶縁層が、複数の気孔と、気孔の周縁部に形成され、外面に複数の凸部を有する外殻とを有していてもよい。
【0066】
また、例えば当該絶縁電線において、導体と絶縁層との間にプライマー処理層等のさらなる層が設けられてもよい。プライマー処理層は、層間の密着性を高めるために設けられる層であり、例えば公知の樹脂組成物により形成することができる。
【0067】
導体と絶縁層との間にプライマー処理層を設ける場合、このプライマー処理層を形成する樹脂組成物は、例えばポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリエステル及びフェノキシ樹脂の中の一種又は複数種の樹脂を含むとよい。また、プライマー処理層を形成する樹脂組成物は、密着向上剤等の添加剤を含んでもよい。このような樹脂組成物によって導体と絶縁層との間にプライマー処理層を形成することで、導体と絶縁層との間の密着性を向上することが可能であり、その結果、当該絶縁電線の可撓性や耐摩耗性、耐傷性、耐加工性などの特性を効果的に高めることができる。
【0068】
また、プライマー処理層を形成する樹脂組成物は、上記樹脂と共に他の樹脂、例えばエポキシ樹脂、メラミン樹脂等を含んでもよい。また、プライマー処理層を形成する樹脂組成物に含まれる各樹脂として、市販の液状組成物(絶縁ワニス)を使用してもよい。
【0069】
プライマー処理層の平均厚さの下限としては、1μmが好ましく、2μmがより好ましい。一方、プライマー処理層の平均厚さの上限としては、30μmが好ましく、20μmがより好ましい。プライマー処理層の平均厚さが上記下限に満たないと、導体との十分な密着性を発揮できないおそれがある。逆に、プライマー処理層の平均厚さが上記上限を超えると、当該絶縁電線が不必要に大径化するおそれがある。
【実施例】
【0070】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
[実施例]
[No.1]
まず、銅を鋳造、延伸、伸線及び軟化し、断面が円形で平均径1mmの導体を得た。一方、主ポリマーとしてポリイミド前駆体を用い、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを用いて主ポリマーをこの溶剤で希釈した樹脂組成物を作成した。次に、中空形成粒子としてコアがPMMA粒子でシェルがシリコーンであり、コアの平均粒子径が3.0μmのコア/シェル型複合粒子を用い、上記樹脂組成物に上記中空形成粒子を分散させて樹脂ワニスを得た。このコア/シェル型複合粒子のシェルの外面には複数の凸部が形成されており、この凸部の平均高さは0.1μm、凸部の底部における平均径は0.1μm、シェル1個の単位面積(14μm
2)当たりの凸部5aの平均存在個数は90個であった。また、このコア/シェル型複合粒子におけるシリコーンの含有量は10質量%であった。この樹脂ワニスを上記導体の外周面に塗布し、線速2.5m/min、加熱炉入口温度350℃、加熱炉出口温度450℃の条件で焼き付けることによって絶縁層を積層し、No.1の絶縁電線を得た。なお、絶縁層は単層で、その平均厚さは30μmとした。また、この絶縁電線は、コアのガス化によって形成された気孔、及びコアが除去されて中空となったシェルで構成され、外面に複数の凸部を有する外殻を有していた。さらに、この外殻における凸部の平均高さ、凸部の底部における平均径、及び外殻1個の単位面積(14μm
2)当たりの凸部の存在個数は、シェルの外面に形成される凸部の平均高さ、この凸部の底部における平均径、及びシェル1個の単位面積(14μm
2)当たりの凸部の存在個数と同様であった。また、この絶縁電線における絶縁層の気孔率は30体積%であった。
【0072】
[No.2]
中空形成粒子として、シェルの凸部の平均高さが0.2μm、凸部の底部における平均径が0.2μm、シェル1個の単位面積(14μm
2)当たりの凸部の平均存在個数が38個、シリコーンの含有量が17質量%であるコア/シェル型複合粒子を用いた以外はNo.1と同様にしてNo.2の絶縁電線を得た。なお、この絶縁電線の外殻における凸部の平均高さ、凸部の底部における平均径、及び外殻1個の単位面積(14μm
2)当たりの凸部の存在個数は、シェルの外面に形成される凸部の平均高さ、この凸部の底部における平均径、及びシェル1個の単位面積(14μm
2)当たりの凸部の存在個数と同様であった。また、この絶縁電線における絶縁層の気孔率は30体積%であった。
【0073】
[No.3]
中空形成粒子として、シェルの凸部の平均高さが0.3μm、凸部の底部における平均径が0.4μm、シェル1個の単位面積(14μm
2)当たりの凸部の平均存在個数が15個、シリコーンの含有量が25質量%であるコア/シェル型複合粒子を用いた以外はNo.1と同様にしてNo.3の絶縁電線を得た。なお、この絶縁電線の外殻における凸部の平均高さ、凸部の底部における平均径、及び外殻1個の単位面積(14μm
2)当たりの凸部の存在個数は、シェルの外面に形成される凸部の平均高さ、この凸部の底部における平均径、及びシェル1個の単位面積(14μm
2)当たりの凸部の存在個数と同様であった。また、この絶縁電線における絶縁層の気孔率は30体積%であった。
【0074】
[比較例]
[No.4]
中空形成粒子として、シェルが外面に凸部を有しないコア/シェル型複合粒子を用いた以外はNo.1と同様にしてNo.4の絶縁電線を得た。このコア/シェル型複合粒子におけるコアの平均径は2.5μmであり、シリコーンの含有量は10質量%であった。なお、No.4の絶縁電線は、コアのガス化によって形成された気孔、及びコアが除去されて中空となったシェルで構成される外殻を有しており、この外殻の外面には凸部は形成されていなかった。
【0075】
<品質>
No.1〜No.3の絶縁電線は、外殻が外部に複数の凸部を有していることから、気孔同士の分散性に優れると共に、気孔同士が連通した連続気孔も確認されなかった。また、No.1〜No.3の絶縁電線では、中空形成粒子におけるシリコーンの含有量が多いほど凸部のサイズが大きくなっており、これにより気孔同士の間隔も大きくなっていた。これに対し、No.4の絶縁電線は、外殻が外面に凸部を有しないため、気孔同士が凝集する部分が見られ、気孔の分散性が不十分であることが分かった。