(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリスチレン系樹脂発泡シートに、接着層を介してポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムが積層されたポリスチレン系樹脂積層発泡シートにおいて、該接着層が多数の不連続な接着部と、連続した非接着部とからなり、該接着部の1個あたりの面積が100mm2以下であり、該接着部の合計面積がポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムの面積全体の50面積%以上100面積%未満であることを特徴とする熱成形用ポリスチレン系樹脂積層発泡シート。
前記接着部の合計面積がポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムの面積全体の60面積%以上80面積%以下である、請求項1に記載の熱成形用ポリスチレン系樹脂積層発泡シート。
160℃、30秒加熱後の前記ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムの加熱収縮率が、下記(4)式及び(5)式を満足する、請求項4に記載の熱成形用ポリスチレン系樹脂積層発泡シート。
5%<押出方向の加熱収縮率<20% ・・・(4)
0%<幅方向の加熱収縮率<10% ・・・(5)
160℃、30秒加熱後のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムとポリスチレン系樹脂発泡シートとの剥離強度が1.5N/25mm以上である、請求項4又は5に記載の熱成形用ポリスチレン系樹脂積層発泡シート。
145℃、30秒加熱後の前記ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムの加熱収縮率が、下記(4)式及び(5)式を満足する、請求項7に記載の熱成形用ポリスチレン系樹脂積層発泡シート。
5%<押出方向の加熱収縮率<20% ・・・(4)
0%<幅方向の加熱収縮率<10% ・・・(5)
145℃、30秒加熱後のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムとポリスチレン系樹脂発泡シートとの剥離強度が1.5N/25mm以上である、請求項7又は8に記載の熱成形用ポリスチレン系樹脂積層発泡シート。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、PETフィルムが積層された発泡シートには、PETフィルムの高いガスバリア性の弊害として、接着条件によっては、PETフィルムが発泡シートから部分的に剥がれて袋状になるという“膨れ”と呼ばれる現象が発生した。その原因は、経時により、残留物理発泡剤が発泡シートの内部から散逸する際に物理発泡剤が、ガスバリア性の高いPETフィルムを透過することができずに、PETフィルムと発泡シートの界面に滞留し、部分的に袋状の空間を形成することによりPETフィルムを発泡シートから剥がすことによるものである。この“膨れ”は、積層発泡シートとして在庫されている段階、さらに積層発泡シートが熱成形されて成形体として在庫されている段階の両方で発生しうる現象である。
【0005】
膨れが発生した積層発泡シートは、熱成形に用いた場合、表面が滑らかな成形体を得ることが出来ないので、商品価値の低いものである。また、熱成形後に成形体に膨れが発生した場合も、商品価値が著しく低下し、商品として通用しない成形体となる。そのため、PETフィルムとポリスチレン発泡シートを積層した積層発泡シートには、膨れを発生させない対策が求められている。
【0006】
本発明は、前記従来の問題点を解決し、ポリエチレンテレフタレートフィルムが貼りあわされたポリスチレン系樹脂積層発泡シートであって、耐熱性、ガスバリア性に優れると共に、熱成形性に優れ、経時による“膨れ”が発生することがない熱成形用ポリスチレン系樹脂積層発泡シートを提供することを、その課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、次に示す熱成形用ポリスチレン系樹脂積層発泡シート、ポリスチレン系樹脂積層発泡成形体が提供される。
[1]ポリスチレン系樹脂発泡シートに、接着層を介してポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムが積層されたポリスチレン系樹脂積層発泡シートにおいて、該接着層が多数の不連続な接着部と、連続した非接着部とからなり、該接着部の1個あたりの面積が100mm
2以下であり、該接着部の合計面積がポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムの面積全体の50面積%以上100面積%未満であることを特徴とする熱成形用ポリスチレン系樹脂積層発泡シート。
[2]前記接着部の合計面積がポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムの面積全体の60面積%以上80面積%以下である、前記1に記載の熱成形用ポリスチレン系樹脂積層発泡シート。
[3]隣合う前記接着部間の最短間隔が0.5mm以上である、前記1又は2に記載の熱成形用ポリスチレン系樹脂積層発泡シート。
[4]前記ポリスチレン系樹脂発泡シートを構成するポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度が110℃以上であり、160℃、30秒加熱後の幅方向(TD)の寸法に対する押出方向(MD)の寸法の比Hs(MD/TD)が下記(1)式を満たす前記ポリスチレン系樹脂発泡シートと、160℃、30秒加熱後の幅方向(TD)の寸法に対する押出方向(MD)の寸法の比Hf(MD/TD)が下記(2)式を満たすと共に、Hs(MD/TD)に対するHf(MD/TD)の比が下記(3)式を満たすポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムとが積層されてなる、前記1〜3のいずれかに記載の熱成形用ポリスチレン系樹脂積層発泡シート。
0.85<Hs(MD/TD)<1.10 ・・・(1)
0.85<Hf(MD/TD)<1.00 ・・・(2)
0.80<Hf(MD/TD)/Hs(MD/TD)<1.10 ・・・(3)
[5] 160℃、30秒加熱後の前記ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムの加熱収縮率が、下記(4)式及び(5)式を満足する、前記4に記載の熱成形用ポリスチレン系樹脂積層発泡シート。
5%<押出方向の加熱収縮率<20% ・・・(4)
0%<幅方向の加熱収縮率<10% ・・・(5)
[6]160℃、30秒加熱後のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムとポリスチレン系樹脂発泡シートとの剥離強度が1.5N/25mm以上である、前記4又は5に記載の熱成形用ポリスチレン系樹脂積層発泡シート。
[7]前記ポリスチレン系樹脂発泡シートを構成するポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度が110℃未満であり、
145℃、30秒加熱後の幅方向(TD)の寸法に対する押出方向(MD)の寸法の比Gs(MD/TD)が下記(6)式を満たす前記ポリスチレン系樹脂発泡シートと、145℃、30秒加熱後の幅方向(TD)の寸法に対する押出方向(MD)の寸法の比Gf(MD/TD)が下記(7)式を満たすと共に、Gs(MD/TD)に対するGf(MD/TD)の比が下記(8)式を満たすポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムとが積層されてなる、前記1〜3のいずれかに記載の熱成形用ポリスチレン系樹脂積層発泡シート。
0.88<Gs(MD/TD)<1.10 ・・・(6)
0.88<Gf(MD/TD)<1.00 ・・・(7)
0.85<Gf(MD/TD)/Gs(MD/TD)<1.10 ・・・(8)
[8] 145℃、30秒加熱後の前記ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムの加熱収縮率が、下記(4)式及び(5)式を満足する、前記7に記載の熱成形用ポリスチレン系樹脂積層発泡シート。
5%<押出方向の加熱収縮率<20% ・・・(4)
0%<幅方向の加熱収縮率<10% ・・・(5)
[9]145℃、30秒加熱後のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムとポリスチレン系樹脂発泡シートとの剥離強度が1.5N/25mm以上である、前記7又は8に記載の熱成形用ポリスチレン系樹脂積層発泡シート。
[10]前記1〜9のいずれかに記載の熱成形用ポリスチレン系樹脂積層発泡シートを熱成形することにより得られたポリスチレン系樹脂積層発泡成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱成形用ポリスチレン系樹脂積層発泡シートは、ポリスチレン系樹脂発泡シートに、特定の不連続の接着部と、連続した非接着部とからなる接着層を介してポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムが積層されていることにより、耐熱性、ガスバリア性に優れると共に、積層発泡シートとして在庫されている状態、さらに積層発泡シートが熱成形されて成形体として在庫されている状態での膨れの発生が抑制されるものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の熱成形用ポリスチレン系樹脂積層発泡シート、及びポリスチレン系樹脂積層発泡成形体について詳細に説明する。
本発明の熱成形用ポリスチレン系樹脂積層発泡シート(以下、単に「積層発泡シート」ともいう。)は、ポリスチレン系樹脂発泡シート(以下、単に「発泡シート」ともいう。)に接着層を介してポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルム(以下、単に「PETフィルム」または「フィルム」ともいう。)が積層されたものである。
【0011】
本発明の積層発泡シートを構成するポリスチレン系樹脂発泡シートは、ポリスチレン系樹脂から構成される。ポリスチレン系樹脂は、樹脂中のスチレン系単量体成分を50重量%以上含むものであり、樹脂中のスチレン系単量体の含有量が、70重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることがさらに好ましい。ポリスチレン系樹脂としては、スチレン系単量体の単独重合体、2種以上のスチレン系単量体の共重合体、スチレン系単量体と他のモノマーとの共重合体、具体的には、ポリスチレン、スチレン−αメチルスチレン共重合体、スチレン−pメチルスチレン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸エチル共重合体、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリスチレン−ポリフェニレンエーテル共重合体、これら2種以上の混合物等が挙げられる。
【0012】
なお、ポリスチレン系樹脂発泡シートを構成するポリスチレン系樹脂は、ジビニルベンゼンや多分岐状マクロモノマーなどの多官能モノマー成分単位が含まれているものであっても良い。また、ポリスチレン系樹脂は、他の熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーを含んでもよい。但し、他の熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーの含有量は、ポリスチレン系樹脂中に20重量%以下が好ましく、15重量%以下がより好ましく、10重量%以下がさらに好ましい。
【0013】
本発明においては、前記の中でも、成形体の熱成形性、低コスト化が求められる場合には、発泡シートを構成するポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度が110℃未満であることが好ましい。また、得られた成形体が電子レンジ加熱用等に使用される場合には、発泡シートを構成するポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度が110℃以上であることが好ましい。電子レンジ加熱用等として用いる場合には、耐熱性により優れるという観点から、ポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度は112℃以上がより好ましく、114℃以上がさらに好ましい。なお、耐熱性の観点からはビカット軟化温度の上限は特に限定されないが、概ね160℃である。
【0014】
ビカット軟化温度が110℃以上のポリスチレン系樹脂としては、例えばスチレン−アクリル酸共重合体やスチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−αメチルスチレン共重合体、ポリスチレンとポリフェニレンエーテルとの混合物が好ましく用いられる。該ポリスチレン系樹脂としては、ビカット軟化温度が110℃以上のポリスチレン系樹脂の中から選択される1種または2種以上の混合物であっても、ビカット軟化温度が110℃以上のポリスチレン系樹脂とビカット軟化温度110℃未満のポリスチレン系樹脂とを含む混合物であっても良く、該混合物のビカット軟化温度が110℃以上であれば良い。なお、ポリスチレン系樹脂発泡シートの耐熱性を考慮すると、ビカット軟化温度110℃以上のポリスチレン系樹脂の含有量が60重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましく、80重量%以上であることがさらに好ましい。ビカット軟化温度が110℃未満のポリスチレン系樹脂としては、具体的にポリスチレンなどが挙げられる。
【0015】
本明細書において、ビカット軟化温度はJIS K7206:2016(試験荷重はB50法、液体加熱法で昇温速度は50℃/時の条件)にて求められる値を指す。
【0016】
本発明で用いるポリスチレン系樹脂発泡シートには、パラフィン、ポリカプロラクトン等の流動性改質剤、タルク、重曹、クエン酸等の造核剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、導電性付与剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤、無機充填剤等の各種の添加剤を目的に応じて適量含有することができる。
【0017】
本発明において、発泡シートに積層されるPETフィルムは、ポリエチレンテレフタレート系樹脂から構成される。該ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、ポリエチレンテレフタレートの単独重合体のみならず、ポリエチレンテレフタレート共重合体をも概念的に包含するものである。ポリエチレンテレフタレート共重合体とは、テレフタル酸とエチレングリコールを重縮合させる際、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分又は/及びエチレングリコール以外のグリコール成分を混合して重縮合させて得られるものを意味する。この際、ジカルボン酸成分中のテレフタル酸成分比率が50モル%以上であり、且つジオール成分中のエチレングリコール成分比率が50モル%以上である。
該ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、ポリエチレンテレフタレートの単独重合体にポリエチレンテレフタレート共重合体を1種または2種以上混合したものや、ポリエチレンテレフタレート共重合体を2種以上混合したものであっても良い。
【0018】
上記テレフタル酸以外のジカルボン酸成分としては、テレフタル酸以外のジカルボン酸或いはそのエステル形成性誘導体を使用できる。エステル形成性誘導体としては、ジメチルエステル、ジエチルエステルなどのエステル誘導体、ジアンモニウム塩などの塩、ジクロリドなどの酸ハロゲン化物などを挙げることができる。重合体樹脂中のジカルボン酸成分単位としては、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、フタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、3,4’−ジフェニルジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸或いはそのエステル形成性誘導体から誘導される成分単位、又はシュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸或いはそのエステル形成性誘導体から誘導される成分単位、又は1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸或いはそのエステル形成性誘導体から誘導される成分単位が挙げられ、これらの1種又は2種以上が重合体中に含有される。
【0019】
上記エチレングリコール以外のグリコール成分としては、脂肪族系及び芳香族系ジオール(二価のフェノールを含む)を使用できる。具体的には、シクロヘキサンジメタノール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオール或いはそのエステル形成性誘導体から誘導される成分単位、又は1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,6−シクロヘキサンジオール等の脂環族ジオール或いはそのエステル形成性誘導体から誘導される成分単位、又はビスフェノールA等の芳香族ジオール或いはそのエステル形成性誘導体から誘導される成分単位を挙げられ、これらの1種又は2種以上が重合体中に含有される。
【0020】
また、上記のポリエチレンテレフタレート系樹脂は、例えば少量の安息香酸、ベンゾイル安息香酸、メトキシポリエチレングリコール等の単官能化合物から誘導される成分単位によって分子末端を封止されていてもよい。又、ピロメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多官能化合物から誘導される成分単位を少量含んでいてもよい。なお、ポリエチレンテレフタレート系樹脂の流動開始温度の調整は、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸等2種以上使用して、それらジカルボン酸成分単位のモル比を変える方法や、ジオール成分としてエチレングリコールとシクロヘキサンジメタノール等2種以上使用してそれらジオール成分単位のモル比を変える方法等により調整することができる。
【0021】
前記ポリエチレンテレフタレート共重合体の例としては、例えばイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート(PETI)、ネオペンチルグリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETNPG)、シクロヘキサンジメタノール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)等が挙げられる。
【0022】
前記ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、本発明の目的・効果を阻害しない範囲において、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン樹脂、ハイインパクトポリスチレン、スチレン系エラストマー等の樹脂、エラストマーやゴムを含有していても良く、その含有量は概ね20重量%以下である。
【0023】
前記ポリエチレンテレフタレート系樹脂においては、JIS K7122(1987)に記載の「一定の熱処理を行った後、融解熱を測定する場合」を採用し、樹脂の融解に伴う融解熱量が3〜30J/gであることが好ましい。前記ポリエチレンテレフタレート系樹脂の融解熱量測定は、ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムから切り出した試料2〜10mgを窒素雰囲気下で熱流束示差走査熱量計により5℃/分の昇温速度を採用することができる。
【0024】
PETフィルムの厚みは、15μm〜50μmであることが好ましい。該厚みが上記範囲であれば、PETフィルムの破れやピンホールが生じるおそれがなく、かつ発泡シートとの接着性に優れるPETフィルムとなる。かかる観点から、その下限は、15μmであることがより好ましく、さらに好ましくは18μmである。その上限は40μmであることがより好ましく、さらに好ましくは35μmである。
【0025】
接着層を構成する接着剤としては、後述する接着強度を発現し、積層発泡シートの熱成形を可能にすることができ、さらに後述する接着部を形成することができるものでありさえすれば、如何なるものも使用することができる。例えば、一般的に使用されるアクリル系接着剤、ウレタン系接着剤、酢酸エチルなどの従来公知の接着剤や、エチレン−酢酸ビニルなどの従来公知の接着性樹脂が挙げられる。
【0026】
また、リサイクル性の面からはあまり好ましくはないが、発泡シートに積層されるPETフィルムに加え、更にそのPETフィルムの上に、フィルム状のポリオレフィン樹脂や、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニリデン、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物、アルミニウム箔等の他の機能性材料と組み合わせて多層シートとして発泡シートに積層することもできる。PETフィルムの上にポリオレフィン樹脂層を積層する場合、そのポリオレフィン樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等が挙げられ、これらは適宜単独、又は2種以上の混合物で使用される。多層シートの厚みは、0.02〜0.5mm、好ましくは0.03〜0.3mmである。
【0027】
本発明の対象となる積層発泡シートを構成する発泡シートにおいては、製造時に使用した物理発泡剤が概ね1重量%以上残存することが好ましい。従来の積層発泡シートでは、発泡剤が、ガスバリア性の高いPETフィルムを透過することができずにPETフィルムと発泡シートの界面に滞留して、“膨れ”が発生してしまうが、本発明の積層発泡シートは、接着層が多数の不連続な接着部と連続した非接着部とからなるため、物理発泡剤が残存していても膨れの発生を抑制することができる。残存する物理発泡剤の上限に特に制限はないが、通常4重量%程度である。
【0028】
積層発泡シート中に残存する物理発泡剤の種類に制限はなく、“膨れ”の原因となる物理発泡剤であれば全て対象となるが、発泡シートを容易に製造することができることから、通常、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサンやこれらの混合物等の炭素数3〜6の飽和炭化水素が挙げられる。
【0029】
発泡ポリスチレンシートの発泡剤残量(重量%)は、積層発泡シートから切り分けた発泡シートを、トルエンを入れた蓋付きの試料ビンの中に入れ、攪拌して発泡シート中の発泡剤をトルエンに溶解させた後、発泡剤を溶解したトルエンをマイクロシリンジで採取してガスクロマトグラフィーによる内部標準法により測定される。具体的には、例えば(株)島津製作所製GC−14Bを測定機として用い、次の条件で測定される。
(a)カラム:(株)島津製作所製カラムSilicone DC550 20% on Chromosorb W AW−DMCS 60/80メッシュ、4.1m×3.2mm
(b)カラム温度:40℃
(c)検出器温度:180℃
(d)注入口温度:180℃
(e)検出器:FID
(f)キャリアガス:窒素140ml/min.
(g)試料量:2μl
(h)内部標準:シクロペンタン
【0030】
発泡シートの見かけ密度は、0.05〜0.5g/cm
3であることが好ましく、より好ましくは0.07〜0.3g/cm
3である。該見かけ密度が上記範囲であれば、軽量性に優れ、かつ断熱性にも優れることから食品用途に好適に使用することができる。
【0031】
発泡シートの厚みは、0.5〜5mmであることが好ましく、より好ましくは0.8〜3mmである。該厚みが上記範囲であれば、加熱成形の際に発泡シート内部と外部の加熱ムラが生じるおそれがないため、熱成形性に優れる発泡シートになるので好ましい。
【0032】
また、本発明の積層発泡シートにおいて、ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムが積層された面の他方の面には、フィルム状のポリスチレン系樹脂が積層されてもよい。発泡シートの他方の面にフィルムを積層することによって発泡シートの熱成形性を向上できる他、その面への印刷性が向上する。積層されるポリスチレン系樹脂は特に限定されるものではないが、耐衝撃性の強いハイインパクトポリスチレン、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体等のスチレン−共役ジエンブロック共重合体等を用いることができる。
【0033】
本発明における接着層は、複数の不連続な接着部と、発泡シートとPETフィルムの間でPETフィルムの面方向に連続する非接着部からなり、個々の接着部が非接着部に囲まれた構造を有している。不連続な接着部が形成されていることにより、多層発泡シートの面方向に物理発泡剤が移動可能な通路が形成されている。従って、発泡シートから物理発泡剤が散逸する際に、一箇所に滞留することなく、非接着部の通路を通って拡散し、さらに外部に放出されることにより、膨れの発生が防止される。個々の接着部の形状、面積を変えたり、非接着部の形状、面積を変えることもできるが、等しい形状、面積の接着部とし、等しい形状、面積の非接着部とし、接着部と該接着部を取囲む非接着部が押出方向、幅方向に繰り返す構造が、製造が容易であると共に取扱いやすいので好ましい。接着部の形状としては、例えば正方形、長方形、円形などが挙げられる。
【0034】
接着部の形状が多数の平行線やジグザグ線などからなる形状ではなく、円や正方形、長方形などの形状であることが好ましい。そうであれば、PETフィルムと発泡シートとの端部における剥がれがより抑制され、成形体としたときの端部に接着部が連続した状態で現れ易くなり、PETフィルムの剥がれが抑制される。また、接着部の形状が円や正方形、長方形などの単純な形状であれば、円の半径、正方形や長方形の辺の長さ、同一形状の繰返し単位を定めることにより、接着部の1個あたりの面積、繰返し単位の長さ、面積占有率、隣合う接着部間の最短間隔を計算により算出し、評価することができる。
【0035】
該接着部の1個あたりの面積は100mm
2以下である。該面積が大きすぎると、接着部内の物理発泡剤が非接着部まで辿り着くことができなくなって、1つの接着部の中に膨れが発生するおそれがある。一方、該面積が100mm
2以下であれば、接着部内の物理発泡剤が接着部内にとどまることが防止され、物理発泡剤は非接着部の通路を通って外部に散逸される。かかる観点から、該面積は80mm
2以下であることが好ましく、より好ましくは50mm
2以下である。該面積の下限は、製造が容易であることから、概ね10mm
2であることが好ましく、より好ましくは20mm
2であり、さらに好ましくは25mm
2である。
【0036】
全ての該接着部の面積の合計は、PETフィルムの面積全体の50面積%以上100面積%未満であることを要する(以下、PETフィルムの面積全体に対する接着部の面積の合計の割合を、面積占有率ともいう。)。該面積占有率が小さすぎると、PETフィルムと発泡シートとの一体性が失われ、熱成形時のプレス工程において伸びたフィルムが一部剥がれるなどの不具合が発生するおそれがある。さらに、成形体のフランジなどの端部に非接着部が連続した状態で現れ易くなり、接着されていない部分が浮き上がって容器としての見栄えが悪くなったり、浮きあがった部分からPETフィルムが剥がれるおそれがある。一方、面積占有率が大きすぎると、非接着部の面積が小さすぎて、発泡シートから漏れ出てきた物理発泡剤を逃がす機能が十分に発現しないおそれがある。かかる観点から、面積占有率は60面積%以上であることが好ましく、より好ましくは70面積%超である。面積占有率の上限は、好ましくは90面積%であり、より好ましくは80面積%である。
【0037】
隣合う接着部間の最短間隔は0.5mm以上であることが好ましい。該間隔がこの範囲を満たせば、発泡シートから漏れ出てきた物理発泡剤を良好に逃がすことができる。この観点から、該間隔は、0.6mm以上であることがより好ましい。一方、該間隔の上限は概ね2mmであることが好ましく、より好ましくは1.5mmであり、さらに好ましくは1.0mmである。該間隔の上限がこの範囲内であれば、PETフィルムと発泡シートとの一体性が失われるおそれがないので好ましい。
【0038】
接着層の具体例を、
図1〜
図4に示す。
図中、1は接着層を、2は接着部を、3は非接着部を、3aは接着部間の最短となる部分を、Lは繰返し間隔を、L1は接着部間の最短間隔をそれぞれ示す。
【0039】
図1は、個々の接着部2の形状を半径6.1mmの1/4円とし(個々の接着部2の面積:29mm
2)、繰返し間隔Lを7.0mmとして、該1/4円を縦、横方向に平行移動させて連続して配置し、面積占有率を60面積%、隣り合う接着部間の最短部分3aの間隔L1が0.9mmとなる例であり、実施例に該当する。
図2は、個々の接着部2の形状を半径3.1mmの円とし(個々の接着部2の面積:30mm
2)、繰返し間隔Lを10.0mmとして、該円を千鳥状に配置し、面積占有率が60面積%、隣り合う接着部間の最短部分3aの間隔L1が0.9mmとなる例であり、実施例に該当する。
図3は、個々の接着部2の形状を半径5.0mmの円とし(個々の接着部2の面積:79mm
2)、繰返し間隔Lを単位15.0mmとして、該円を千鳥状に配置し、面積占有率が70面積%、接着部間の最短部分3aの間隔L1が0.6mmとなる例であり、実施例に該当する。
図4は、個々の接着部2の形状を一辺8.0mmの正方形とし(個々の接着部2の面積:64mm
2)、繰返し間隔Lを10.0mmとして、該正方形を縦、横方向に並行に連続して配置し、接着部間の最短部分3aの間隔L1が2.0mm、面積占有率が64面積%となる例であり、実施例に該当する。
【0040】
前記ポリスチレン系樹脂発泡シートを構成するポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度が110℃未満である場合には、PETフィルムの加熱収縮率は、145℃、30秒加熱後において下記(4)式及び(5)式を満足することが好ましい。
5%<押出方向の加熱収縮率<20% ・・・(4)
0%<幅方向の加熱収縮率<10% ・・・(5)
【0041】
該加熱収縮率が、145℃、30秒加熱後において(4)式及び(5)式を満足するPETフィルムは、ビカット軟化温度110℃未満のポリスチレン系樹脂から構成されるポリスチレン系樹脂発泡シートに好適に用いることができる。
【0042】
前記ポリスチレン系樹脂発泡シートを構成する樹脂のビカット軟化温度が110℃以上である場合には、PETフィルムの加熱収縮率は、160℃、30秒加熱後において下記(4)式及び(5)式を満足することが好ましい。
5%<押出方向の加熱収縮率<20% ・・・(4)
0%<幅方向の加熱収縮率<10% ・・・(5)
【0043】
160℃、30秒加熱後において(4)式及び(5)式を満足するPETフィルムは、ビカット軟化温度110℃以上のポリスチレン系樹脂から構成されるポリスチレン系樹脂発泡シートに好適に用いることができる。
【0044】
前記発泡シートがビカット軟化温度が110℃未満のポリスチレン系樹脂により構成されている場合、PETフィルムの145℃、30秒加熱後における加熱収縮率が(4)式及び(5)式を満たせば、発泡シートの加熱収縮率も145℃、30秒加熱後において同程度の加熱収縮率となるように調整することにより、型内成形を容易に行うことができる。また、ビカット軟化温度が110℃以上のポリスチレン系樹脂により発泡シートが構成されている場合、PETフィルムの160℃、30秒加熱後における加熱収縮率が(4)式及び(5)式を満たせば、発泡シートの加熱収縮率も160℃、30秒加熱後において同程度の加熱収縮率となるように調整することにより、型内成形を容易に行うことができる。即ち、PETフィルムが積層された発泡シートを加熱成形する場合、発泡シートの収縮とPETフィルムの収縮との差が小さくなるので、両者を剥離させるような応力を抑制することができ、成形時にフィルム剥離が起こらない良好な成形体品が得られる。例えば、PETフィルムの収縮率が発泡シートの収縮率に比べ大幅に大きい場合には、加熱後の両者の寸法が大きく異なる結果、PETフィルムに対して寸法が大きい発泡シートの寸法が小さくなるような力が働き、発泡シートにしわが発生することがある。かかる観点から、PETフィルム押出方向の加熱収縮率は、145℃、30秒加熱後の場合であっても、160℃、30秒加熱後の場合であっても、5〜10%であることがより好ましく、幅方向の加熱収縮率は0〜10%であることがより好ましい。
【0045】
フィルムの加熱収縮率は、製造時の引取速度を変化させることによりある程度まで調整できる。しかし、前述のとおりの引張破断伸びを実現するためにはなるべく無延伸の状態に近づける必要があり、その調整範囲は狭い傾向にある。そのため、発泡シートの熱収縮率をフィルムの加熱収縮率に合わせるよう調整することが好ましい。
【0046】
具体的には、発泡シートを構成しているポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度が110℃以上の場合、発泡シートの160℃、30秒加熱後の押出方向の加熱収縮率は0〜20%であることが好ましく、幅方向の加熱収縮率は0〜20%であることが好ましい。夫々の加熱収縮率がこの範囲内であれば、加熱成形に際して、収縮力が強すぎて積層発泡シートがクランプから外れることがないので、良好に成形を行なうことができ、金型の形状を積層発泡シートに良好に賦形することができる。かかる観点から、発泡シートの押出方向の加熱収縮率は0〜10%であることがより好ましく、幅方向の加熱収縮率は、0〜10%であることがより好ましい。
【0047】
さらに、発泡シートを構成しているポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度が110℃以上の場合、本発明の積層発泡シートは、160℃、30秒加熱後の幅方向(TD)の寸法に対する押出方向(MD)の寸法の比Hs(MD/TD)が下記(1)式を満たす前記発泡シートと、160℃、30秒加熱後の幅方向(TD)の寸法に対する押出方向(MD)の寸法の比Hf(MD/TD)が下記(2)式を満たすと共に、Hs(MD/TD)に対するHf(MD/TD)の比が下記(3)式を満たすPETフィルムとが積層されてなることが好ましい。
即ち、160℃、30秒加熱後の幅方向(TD)の寸法に対する押出方向(MD)の寸法の比Hs(MD/TD)が下記(1)式を満たす耐熱性発泡シートと、160℃、30秒加熱後の幅方向(TD)の寸法に対する押出方向(MD)の寸法の比が下記(2)式を満たすポリエチレンテレフタレートフィルムとが積層されてなり、Hs(MD/TD)に対するHf(MD/TD)が下記(3)式を満たす積層発泡シートであることが好ましい。
0.85<Hs(MD/TD)<1.20 ・・・(1)
0.85<Hf(MD/TD)<1.00 ・・・(2)
0.80<Hf(MD/TD)/Hs(MD/TD)<1.10 ・・・(3)
【0048】
式(1)、式(2)、式(3)が共に満たされる場合、熱成形温度付近でのPETフィルムの加熱後の形状と発泡シートの加熱後の寸法とが近似していることから、成形性が良好な耐熱性の積層発泡シートを得ることができる。
【0049】
本発明において、発泡シートを構成しているポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度が110℃未満の場合、発泡シートの145℃、30秒加熱後の押出方向の加熱収縮率は0〜20%であることが好ましく、幅方向の加熱収縮率は0〜20%であることが好ましい。夫々の加熱収縮率が上記範囲内であれば、加熱成形に際して、収縮力が強すぎて積層発泡シートがクランプから外れることがなくなり、良好に成形を行なうことができ、金型の形状を良好に積層発泡シートに賦形することができる。上記観点から、押出方向の加熱収縮率は0〜10%であることがより好ましく、幅方向の加熱収縮率は0〜10%であることがより好ましい。
【0050】
さらに、発泡シートを構成しているポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度が110℃未満の場合、本発明の積層発泡シートは、145℃、30秒加熱後の幅方向(TD)の寸法に対する押出方向(MD)の寸法の比Gs(MD/TD)が下記(6)式を満たす前記発泡シートと、145℃、30秒加熱後の幅方向(TD)の寸法に対する押出方向(MD)の寸法の比が下記(7)式を満たすと共に、Gs(MD/TD)に対するGf(MD/TD)の比が下記(8)式を満たすポリエチレンレテフタレート系樹脂フィルムとが積層されてなることが好ましい。
即ち、145℃、30秒加熱後の幅方向(TD)の寸法に対する押出方向(MD)の寸法の比Gs(MD/TD)が下記(6)式を満たすポリスチレン系樹脂発泡シートと、145℃、30秒加熱後の幅方向(TD)の寸法に対する押出方向(MD)の寸法の比が下記(7)式を満たすポリエチレンテレフタレートフィルムとが積層されてなり、Gs(MD/TD)に対するGf(MD/TD)が下記(8)式を満たす積層発泡シートであることが好ましい。
0.85<Gs(MD/TD)<1.20 ・・・(6)
0.85<Gf(MD/TD)<1.00 ・・・(7)
0.80<Gf(MD/TD)/Gs(MD/TD)<1.10 ・・・(8)
【0051】
式(6)、式(7)、式(8)が共に満たされる場合、熱成形温度付近でのPETフィルムの加熱後の形状と発泡シートの加熱後の形状とが近似していることから、成形性が良好な積層発泡シートを得ることができる。
【0052】
式(1)、式(2)、式(3)を共に満たすため、又は式(6)、式(7)、式(8)を共に満たすためには、発泡シートの加熱収縮率をフィルムの加熱収縮率に合わせるよう調整することが好ましい。即ち、フィルムの加熱収縮率は、製造時の引取速度を変化させることによりある程度まで調整できるが、前述のとおりの引張破断伸びを実現するためにはなるべく無延伸の状態に近づける必要があり、その調整範囲は狭い傾向にある。そのため、発泡シートの熱収縮率をフィルムの加熱収縮率に合わせるよう調整することが好ましい。
【0053】
前記ポリスチレン系樹脂発泡シートを構成するポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度が110℃以上の場合における寸法の比Hs(MD/TD)は、一辺200mmの正方形サンプルを用いて160℃、30秒加熱した後、該発泡シートについての押出方向の寸法を幅方向の寸法で割算することにより求められる。また、該発泡シートに積層されるPETフィルムの寸法の比Hf(MD/TD)は、一辺200mmの正方形サンプルを用いて160℃、30秒加熱した後、該PETフィルムについての押出方向の寸法を幅方向の寸法で割算することにより求められる。
また、前記ポリスチレン系樹脂発泡シートを構成するポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度が110℃未満の場合における寸法の比Gs(MD/TD)は、一辺200mmの正方形サンプルを用いて145℃、30秒加熱した後、発泡シートについての押出方向の寸法を幅方向の寸法で割算することにより求められる。また、該発泡シートに積層されるPETフィルムの寸法の比Gf(MD/TD)は、一辺200mmの正方形サンプルを用いて145℃、30秒加熱した後、該PETフィルムについての押出方向の寸法を幅方向の寸法で割算することにより求められる。
【0054】
本明細書における発泡シート、PETフィルムの加熱後寸法、さらに加熱収縮率は、次のようにして測定される。
まず、発泡シートやPETフィルムから、縦、横のそれぞれの辺が、押出方向、幅方向と一致するようにして一辺200mmの正方形試験片を切り出す。次に正方形試験片の一方の面に、MDと平行であって、その面のTD方向の中点を通って試験片を縦断する直線(A)を引くと共に、TDと平行であって同面のMD方向の中点を通って試験片を横断する直線(B)を引く。直線(A)と直線(B)はそれぞれ200mmの長さの直線となる。そして、直線(A)の長さ(200mm)は、上記測定試験片の押出方向の加熱前寸法であり、直線(B)の長さ(200mm)は、上記測定試験片の幅方向の加熱前寸法となる。
【0055】
次に、縦300mm、横300mm、厚さ10mmサイズの正方形状の木製枠材(枠幅50mm)であって、中央部に縦250mm、横250mmの正方形状の貫通孔が設けられた木製枠材を2枚用意する。各木製枠材の一方の面に、直径0.1mmの円形断面の針金を使用して、上記貫通孔上に縦横それぞれ20mm間隔の網状となるように、当該針金をそれぞれ釘で固定する。尚、針金が固定された側の反対側から木製枠材の貫通孔を見ると、針金は縦横に、それぞれ、20mm間隔で12本配列された目の粗い網状を呈している。次に、一方の木製枠材の針金固定側における枠の四隅に、それぞれ縦20mm、横10mm、厚み5mmの木製スペーサを固定する。
【0056】
次に、上記2枚の木製型枠のスペーサと針金によって形成される空間内(2枚の木製型枠を針金が固定されている側同士を、型枠の四片に設けられたスペーサにより5mmの間隔を保持しながら対向させることにより形成される空間内)に、上記正方形試験片を枠やスペーサにより束縛されないように配置し、その状態で上記2枚の木製型枠をクリップや万力などで強く固定する。
一方、空気循環式オーブン(例えば、タバイエスペック株式会社製 品番PERFECT OVEN PH−200)の装置内の温度を前記ポリスチレン系樹脂発泡シートを構成するポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度が110℃以上の場合には160℃に設定し、前記ポリスチレン系樹脂発泡シートを構成するポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度が110℃未満の場合には145℃に設定し、ダンパー開度を20%にそれぞれ設定し、その中に上記2枚の木製型枠に配置された状態の上記正方形試験片を入れ、30秒加熱した後、オーブンから25℃の部屋に取り出して放置して冷却する。その後、加熱前の直線(A)に対応する直線又は曲線(a)の長さと、加熱前の直線(B)に対応する直線又は曲線(b)の長さをそれぞれ測定する。この場合、直線又は曲線(a)の長さが積層シートの押出方向の加熱後寸法となり、直線又は曲線(b)の長さが積層シートの幅方向の加熱後寸法となる。これらの測定結果に基づいてMDの加熱収縮率とTDの加熱収縮率が計算される。なお、上記の加熱条件(時間、温度)を採用する理由は、連続生産時の加熱炉において積層発泡シートが加熱される状態に近い条件であることによる。
【0057】
なお、上記した木製枠材内に正方形試験片を配置した状態でオーブン内で加熱する理由は、これにより、試験片の加熱を阻害することがなく(粗い網状の針金の配置)、加熱時に試験片の収縮を妨げることがなく(木製スペーサの配置)、収縮時に試験片を曲がり難くすること(粗い網状の針金と木製スペーサの配置)が可能となり、加熱収縮後の寸法の測定が容易となるためである。
【0058】
さらに効果的に、加熱時の前記膨れを予防する手段として、発泡シートのガス濃度を抑制する方法を組み合わせることは有効である。具体的には、PETフィルムを積層前の発泡シートを押出後十分に経時させることで、含有する揮発性ガス濃度を低くしておくなどの手段がある。
【0059】
本発明においては、ポリスチレン系樹脂発泡シートを構成するポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度が110℃以上の場合、積層発泡シートを160℃、30秒加熱した後のPETフィルムと発泡シートとの剥離強度が1.5N/25mm以上であることが好ましい。
該剥離強度が1.5N/25mm以上あれば、良好な熱成形が可能となり、熱成形時や電子レンジ加熱の際の膨れの発生が防止され、食品容器としての見栄えの良い成形体を得ることができる。剥離強度の上限に制限はないが、熱融着で到達可能な強度という観点からは概ね10N/25mmである。
【0060】
ポリスチレン系樹脂発泡シートを構成するポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度が110℃未満の場合、積層発泡シートを145℃、30秒加熱した後のPETフィルムと発泡シートとの剥離強度が1.5N/25mm以上であることが好ましい。
該剥離強度が1.5N/25mm以上あれば、良好な熱成形が可能となり、熱成形時や電子レンジ加熱の際の膨れの発生が防止され、食品容器としての見栄えの良い成形体を得ることができる。剥離強度の上限に制限はないが、熱融着で到達可能な強度という観点からは概ね10N/25mmである。
【0061】
前記接着強度は次のように求める。積層発泡シートから押出方向に平行な帯状の幅25mmの試験片を切り出し、JIS Z0237に準拠して剥離速度300mm/minの条件にて90°剥離試験を行ない、その結果得られた測定値(mN/25mm)を層間の接着強度とする。尚、上記測定において25mm幅の試験片を作製できない場合は、できるだけ広幅の試験片を作製し、該試験片についての測定値(mN/試験片の幅mm)に(試験片の幅mm/25mm)をかけて得られた値を接着強度(mN/25mm)とする。
【0062】
本発明の積層発泡シートは、例えば押出発泡方法により単層の発泡シートを製造し、その後、この発泡シートに対して、製造ライン上または別ラインで、得られた発泡シートに接着層が設けられたPETフィルムを接着層側が発泡シートに向くようにして重ねて熱ロール等を通して積層接着することにより製造することができる。
【0063】
発泡シートの製造方法、発泡シートの製造に使用する装置、熱ラミネートの方法、および熱ラミネートに使用する装置は、従来公知の技術を用いることができる。
【0064】
PETフィルムに接着層を形成する方法に制限はないが、例えばグラビア印刷が好ましく採用される。
【0065】
本発明の積層発泡シートは、これを加熱軟化させ、金型を使用し真空成形法及び/又は圧空成形法、更にはそれらを応用したマッチドモールド成形法、プラグアシスト成形法等の熱成形等を行なうことにより、主にトレイ、カップ、丼、弁当箱等に成形することができる。尚、積層発泡シートを熱成形する場合、容器等の成形体の内側に樹脂層が位置するように成形することが好ましい。
【実施例1】
【0066】
次に、本発明について実施例、比較例によりさらに詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものでない。
【0067】
(PETフィルム)
実施例、比較例において、PETフィルムとして、中本パックス(株)製の無延伸のPETフィルム(NTIII、常温での引張破断伸び2.2%)を用いた。該PETフィルムは、175線でポリスチレンに接着可能なメジュームを塗工したものである。該PETフィルムに、接着剤としてアクリル系接着剤を用い、表1に示す半径の円形の接着部を、表1に示す繰返し単位でグラビア印刷により塗布した。表1に、接着部の形状、半径、接着部1個あたりの面積、繰返し単位の長さL、接着部間の最短間隔L1、面積占有率、160℃、145℃でそれぞれ30秒加熱した、加熱後寸法(押出方向[MD]、幅方向[TD])、加熱収縮率(MD,TD)、加熱後寸法の比(MD/TD)を示す。
【0068】
【表1】
【0069】
(発泡シートの製造)
発泡シートの樹脂原料として、次の樹脂を使用した。
<1>ポリスチレン:PSジャパン社製GX154(ビカット軟化温度103℃、略称「GX154」)
<2>スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体:PSジャパン社製G9001(ビカット軟化温度118℃、略称「G9001」)95重量%と、スチレン系エラストマー:旭化成ケミカルズ社製タフプレン125(略称「タフプレン125」)5重量%との混合物(ビカット軟化温度116℃)
【0070】
表2に示す配合の樹脂原料と、表2に示す配合(樹脂原料100重量部に対する重量部)のタルク(気泡調整剤:松村産業社製ハイフィラー#12)をタンデム押出機の第一押出機に供給して、加熱溶融し混練し、ノルマルブタン/イソブタン=35/65(重量比)の混合ブタンを樹脂原料100重量部に対して表2に示す量となるように圧入し、さらに混練して、第二押出機に移送し、表2に示す樹脂温度に調整して発泡シート形成用樹脂溶融物とし、該発泡シート形成用樹脂溶融物を環状ダイから、吐出量300kg/hrで大気中に押出し、外径670mmの冷却用筒(マンドレル)の外面に沿わせながら表2に示す速度で引取り、さらに押出方向に沿って2枚に切り開いて、発泡シート(幅1050mm)を製造した。
原料樹脂、発泡シートの製造条件、得られた発泡シートの物性を表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
実施例1〜5、比較例1〜2
表3に示す発泡シートに表3に示すPETフィルムを、次のように熱ラミネートすることにより、積層発泡シートを製造した。
200℃に設定されたφ400mmのロールと、バックアップロールとを備える熱ラミネート装置を用い、発泡シートとPETフィルムとを重ねて、ロールとバックアップロールの間を通してピンチすることにより、発泡シートにPETフィルムを熱融着させた。このときピンチする間隙は0.5mmに設定し、引取速度は17m/minに設定した。
【0073】
得られた積層発泡シートについて、加熱後剥離強度を測定し、膨れの発生、成形体のフルム浮きを評価した。その結果を加熱収縮試験の結果とあわせて表3に示す。
【0074】
【表3】
【0075】
(加熱後剥離強度)
熱ラミネート後24時間以上経過した積層発泡シートに対し、発泡シートとPETフィルムとの剥離強度を次のように測定した。まず、積層発泡シートから260mm×260mmの試験片を切り出し、切り出した積層発泡シートを加熱収縮率の測定に用いた木製枠材(有効枠内200×200mm、枠幅50mm)に挟み、ポリスチレン系樹脂発泡シートを構成するポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度が110℃以上の場合には、160℃に設定したオーブンで30秒、ポリスチレン系樹脂発泡シートを構成するポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度が110℃未満の場合には、145℃に設定したオーブンで30秒加熱した。加熱後冷却した積層発泡シートからシートの幅方向に略等間隔に4個の剥離試験片(25×180mm)を幅方向が長辺となるように切り出し、各剥離試験片に対してJIS Z0237:2009に基づいて求めた積分平均荷重をその試験片の剥離強度とし、各剥離試験片の剥離強度の算術平均値を剥離強度とした。
【0076】
(積層発泡シートの膨れ評価)
積層発泡シートから押出方向、幅方向に略等間隔に300mm×300mmの試験片を10個切り出し、40℃に設定したオーブンに48時間保持した後、10個の試験片について膨れの発生の有無を目視観察し、その発生率を求めた。
【0077】
(成形体の膨れ評価)
浅野研究所社製の単発成形機を用いて、得られた積層発泡シートの熱成形を行なった。金型として、展開倍率1.6倍の容器成形用のマッチドモールド成形金型(プラグ下)を用い、積層発泡シートのPET側を下側とし、加熱条件は、上ヒーター温度310℃、下ヒーター温度340℃、加熱時間10秒として、積層発泡シートの熱成形を行った。容器はφ220の丸形のフランジを有し、一般的な抜き刃を使用してそれぞれを切り離し個別の成形体を得た。
得られた成形体について、積層発泡シートと同様に40℃に設定したオーブンに48時間保持した後、膨れの発生の有無を目視観察した。n=10で試験を行い、その発生率を求めた(表中の分子が発生件数、分母が試験件数)。
【0078】
(成形体の浮きの評価)
積層発泡シートを加熱成形した後、個別に切り離した成形体のフランジ部分を観察し、切り離し端面を全周にわたって指で上下に往復3回軽く擦らせ、フィルムの浮き上がりの有無を目視観察した。
【0079】
(ビカット軟化温度)
発泡シートを構成するポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度は、JIS K7206:2016に基づいて、B50法で測定した。実施例及び比較例と同配合で押出機にて溶融混練したポリスチレン系樹脂の混練物を230℃で5MPaに加圧することにより気泡が混入しないようにして縦20mm×横20mm×厚み3mmの試験片を作製し、該試験片をアニーリング処理せずに測定に用いた。測定装置としては、株式会社上島製作所製「HDT/VSPT試験装置 MODEL TM−4123」を使用した。
なお、原料ポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度の測定には、原料ポリスチレン系樹脂のペレットを230℃、5MPaで加圧することにより作製した試験片を用いた。
【0080】
(加熱後寸法、加熱後寸法の比、加熱収縮率)
まず、発泡シートやPETフィルムから、縦、横のそれぞれの辺が、押出方向、幅方向と一致するようにして一辺200mmの正方形試験片を切り出し、前記方法により測定した。
【0081】
(引張破断伸び)
引張破断伸びの測定は、JIS K7127(1999年)に準じ、例えば株式会社オリエンテック製のテンシロン万能試験機と株式会社東洋ボールドウイン製の引張試験機用恒温槽の組み合わせによって測定した。具体的には、厚みはPETフィルムそのものの厚みとし、2号型試験片を作製し、23℃、湿度50%の条件下で24時間放置後、つかみ具間距離80mm、試験速度500mm/minの条件で測定して算出された値をとった。測定は異なる試験片を用いて5回行い、測定値から最大値と最小値を除き、残りの値の平均値を採用した。