特許第6775384号(P6775384)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6775384
(24)【登録日】2020年10月8日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】酸素洗浄装置
(51)【国際特許分類】
   F23J 1/00 20060101AFI20201019BHJP
   F23G 5/24 20060101ALI20201019BHJP
   F27D 3/16 20060101ALI20201019BHJP
   F27D 25/00 20100101ALI20201019BHJP
【FI】
   F23J1/00 B
   F23G5/24 B
   F27D3/16 Z
   F27D25/00
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-213599(P2016-213599)
(22)【出願日】2016年10月31日
(65)【公開番号】特開2018-71914(P2018-71914A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年8月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506000128
【氏名又は名称】日鉄環境プラントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100171099
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】野田 康一
(72)【発明者】
【氏名】戸畑 修一
(72)【発明者】
【氏名】西野 誠
(72)【発明者】
【氏名】古賀 芳明
【審査官】 藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−172449(JP,A)
【文献】 特開2005−172772(JP,A)
【文献】 特開2004−061104(JP,A)
【文献】 特開昭53−083116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23J 1/00
F23G 5/24
F27D 3/16
F27D 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を含むガスを溶融炉内に導入するためのパイプを備え、
前記パイプを経た酸素供給により前記溶融炉内の可燃物が燃焼して発生する第一熱量に対し、前記パイプを経た酸素供給により前記パイプ自体が燃焼して発生する第二熱量の比率が1/2.4未満となるように、前記パイプの外径及び肉厚が設定されており、
前記パイプの外径は20.7〜21.7mmであり、前記パイプの肉厚は1.6〜2.3mmである、溶融炉の酸素洗浄装置。
【請求項2】
前記パイプの外径は、前記パイプを保持するパイプホルダと嵌合するように定まっており、
前記第一熱量に対する前記第二熱量の比率が1/2.4未満となるように、前記パイプの肉厚が設定されている、請求項1に記載の溶融炉の酸素洗浄装置。
【請求項3】
前記パイプの外径及び肉厚は、前記パイプの内径が16.1mmより大きくなるように設定されている、請求項1又は2に記載の溶融炉の酸素洗浄装置。
【請求項4】
前記パイプの外径及び肉厚は、前記パイプを通る前記ガスの流量が65m/h(Normal)より大きくなるように設定されている、請求項1〜のいずれか一項記載の酸素洗浄装置。
【請求項5】
前記パイプの外周に装着され、かしめにより前記パイプ同士を接合する筒状の継手部材を更に備え、
かしめ前における前記継手部材の肉厚から前記パイプの肉厚を減じた値は0.1mm以下である、請求項1〜のいずれか一項記載の酸素洗浄装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、酸素洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物を溶融させ、溶融スラグを回収するための廃棄物溶融炉が知られている。廃棄物溶融炉の操業においては、炉底部内の酸素洗浄作業が行われる。特許文献1には、酸素洗浄作業を行うための装置が開示されている。この装置は、溶融スラグの出湯口から酸素供給用のパイプを挿入して炉底部内に酸素を供給し、パイプ自体の燃焼熱等によって不完全な溶融部を流動化させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−61104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、酸素洗浄用のパイプの材料消費を削減できる酸素洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係る酸素洗浄装置は、酸素を含むガスを溶融炉内に導入するためのパイプを備え、パイプを経た酸素供給により溶融炉内の可燃物が燃焼して発生する第一熱量に対し、パイプを経た酸素供給によりパイプ自体が燃焼して発生する第二熱量の比率が1/2.4未満となるように、パイプの外径及び肉厚が設定されている。
【0006】
従来、パイプを経た酸素供給により発生する熱量(以下、「全発生熱量」という。)の大半は、第二熱量であると考えられていた。これに対し、全発生熱量の内訳を分析した結果、以下の知見が得られた。
a) 全発生熱量の大半は、第二熱量ではなく第一熱量である。
b) パイプの内径の拡大により、酸素の供給量を増やしたとしても、第二熱量は大きくならない。
c) パイプの内径の拡大により、酸素の供給量を増やすと、第一熱量は大きくなる。
d) 既存の酸素洗浄装置において、第一熱量に対する第二熱量の比率は約1/2.4である。
これらの知見から、本発明者等は、パイプの寸法の調節により、全発生熱量に対する第一熱量の比率を大きくすることで、全発生熱量に対する第二熱量の比率を小さくし、酸素洗浄用のパイプの材料消費を削減できることを見出した。更に、第一熱量に対する第二熱量の比率が1/2.4未満となるようにパイプの寸法を設定すれば、既存の酸素洗浄装置に比較して、酸素洗浄用のパイプの材料消費を削減できることを見出した。従って、この設定を採用した酸素洗浄装置によれば、酸素洗浄用のパイプの材料消費を削減できる。
【0007】
パイプの外径は、パイプを保持するパイプホルダと嵌合するように定まっており、第一熱量に対する第二熱量の比率が1/2.4未満となるように、パイプの肉厚が設定されていてもよい。この場合、パイプの外径が定まった状況においても、酸素洗浄用のパイプの材料消費を削減できる。
【0008】
パイプの外径及び肉厚は、パイプの内径が16.1mmより大きくなるように設定されていてもよい。この場合、第一熱量をより大きくすることで、第二熱量の削減を可能とし、酸素洗浄用のパイプの材料消費をより確実に削減できる。
【0009】
パイプの外径は20.7〜21.7mmであり、パイプの肉厚は1.6〜2.3mmであってもよい。この場合、パイプの強度低下に伴う作業性の低下を抑制しつつ、第一熱量に対する第二熱量の比率を1/2.4未満にすることが可能となる。
【0010】
パイプの外径及び肉厚は、パイプを通るガスの流量が65m/h(Normal)より大きくなるように設定されていてもよい。この場合、第一熱量をより大きくすることで、第二熱量の削減を可能とし、酸素洗浄用のパイプの材料消費をより確実に削減できる。
【0011】
パイプの外周に装着され、かしめによりパイプ同士を接合する筒状の継手部材を更に備え、かしめ前における継手部材の肉厚からパイプの肉厚を減じた値は0.1mm以下であってもよい。パイプの肉厚を削減する場合、既存の継手部材を用いてパイプ同士を接合すると、当該接合部においてリークが生じる場合がある。これに対し、かしめ前における継手部材の肉厚からパイプの肉厚を減じた値が0.1mm以下である継手部材を採用することにより、上記接合部におけるリークの発生を抑制できる。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、酸素洗浄用のパイプの材料消費を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】酸素洗浄装置の概略構成を示す図である。
図2】パイプの接合部の拡大図である。
図3】実施例・比較例の評価結果を示すリストである。
図4】実施例・比較例の評価結果を示すグラフである。
図5】実施例・比較例の評価結果を示すリストである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
図1に示す酸素洗浄装置1は、廃棄物溶融炉の炉底部9の酸素洗浄を行うための装置である。炉底部9は、廃棄物溶融炉の最下部に位置し、廃棄物の溶融により生成された溶融スラグ(溶融物)91を蓄積する。炉底部9の周壁には、溶融スラグ91を取り出すための出湯口9aが設けられている。溶融スラグ91は、溶融の程度の低い部分(以下、「不完全な溶融部分」という。)93を含む場合がある。酸素洗浄装置1は、炉底部9内に酸素を供給することにより炉底部9内における酸化反応を促進し、これに伴い発生する熱によって不完全な溶融部分93を流動化させる。
【0016】
酸素洗浄装置1は、パイプ2と、パイプホルダ3と、酸素供給源4とを有する。
【0017】
パイプ2は、出湯口9aから炉底部9内に挿入され、酸素を含むガス(以下、「酸素含有ガス」という。)を溶融炉内に導入する。パイプ2の外径D2及び肉厚t2(図2参照)は、下記第一熱量に対する下記第二熱量の比率が1/2.4未満となるように設定されている。
第一熱量:パイプ2を経た酸素供給により炉底部9内の可燃物(例えばコークス92)が燃焼して単位時間あたりに発生する熱量。
第二熱量:パイプ2を経た酸素供給によりパイプ2自体が燃焼して単位時間あたりに発生する熱量。
パイプ2の外径及び肉厚は、第一熱量に対する第二熱量の比率が1/4.5〜1/2.7となるように設定されていてもよいし、当該比率が1/3.6〜1/3.1となるように設定されていてもよい。これらの場合、パイプ2の強度と、パイプ2の材料消費の削減との両立を図り易い。
【0018】
パイプ2は、複数のパイプが連なったものであってもよい。図1は、パイプ2が二本のパイプ2A,2Bにより構成されている場合を例示している。パイプ2Aは、その基端部の周壁に酸素供給口2aを有する。酸素供給口2aは、酸素含有ガスをパイプ2内に受け入れる。パイプ2Bは、パイプ2Aの先端部に接合されている。なお、パイプ2A,2Bのいずれか一方は、前回の酸素洗浄処理において用いられたパイプ2において、消費されずに残った部分であってもよい。
【0019】
パイプ2A,2Bは、継手部材21により接合されていてもよい。すなわち、酸素洗浄装置1は継手部材21を更に備えてもよい。継手部材21は、パイプ2A,2Bの外周に装着され、かしめによりパイプ2A,2B同士を接合する筒状部材である。かしめ前における継手部材21の肉厚t21(図2参照)からパイプ2の肉厚t2を減じた値は0.1mm以下であってもよい。
【0020】
パイプホルダ3は、パイプ2の基端部(パイプ2Aの基端部)を保持する。パイプホルダ3は、本体30と測長装置31とを有する。本体30の中央部には、嵌合孔30aが形成されている。パイプ2の外径D2は、パイプホルダ3と嵌合するように定まっている。すなわち、パイプ2の外径D2は、嵌合孔30aの内径に比べて僅かに小さい値に設定されている。パイプ2の外径D2は、例えば20.7〜21.7mmである。
【0021】
このように、パイプ2の外径D2がパイプホルダ3と嵌合するように定まっている場合においては、第一熱量に対し、第二熱量の比率が1/2.4未満となるように、パイプ2の肉厚t2が設定されていればよい。パイプ2の肉厚t2は、第一熱量に対する第二熱量の比率が1/4.5〜1/2.7となるように設定されていてもよいし、当該比率が1/3.6〜1/3.1となるように設定されていてもよい。パイプ2の外径D2が20.7〜21.7mmである場合に適したパイプ2の肉厚t2は、例えば1.6〜2.3mmであり、1.6〜1.9mmであってもよい。これらの場合、パイプ2の強度と、パイプ2の材料消費の削減との両立を図り易い。
【0022】
パイプ2の基端部は、パイプホルダ3の一方側から嵌合孔30a内に挿入されている。測長装置31は、パイプホルダ3の他方側に固定されており、パイプ2の基端部に当接している。測長装置31は、パイプ2の長さを検出する長さセンサを内蔵している。長さセンサは、例えばマイクロ波距離計であり、マイクロ波を出力してパイプ2の基端部に伝播させ、パイプ2の先端部(パイプ2Bの先端部)にて反射して戻ってくるマイクロ波に基づいてパイプ2の全長を検出する。
【0023】
酸素供給源4は酸素含有ガスを酸素供給口2aに供給する。酸素供給源4は、例えば圧縮された酸素含有ガスを収容したタンクであり、管路40を介してパイプ2の酸素供給口2aに接続されている。管路40にはバルブ41が設けられている。バルブ41は、管路40の開度を調節する。管路40の開度を調節することにより、酸素供給口2aにおける酸素含有ガスの圧力を調節可能である。
【0024】
以上の構成において、パイプ2の外径D2及び肉厚t2は、パイプ2を通る酸素含有ガスの流量が65m/h(Normal)より大きくなるように設定されていてもよく、当該流量が70〜110m/h(Normal)となるように設定されていてもよく、80〜100m/h(Normal)となるように設定されていてもよい。このように設定されたパイプ2の外径D2及び肉厚t2の組み合わせの一例として、パイプ2の内径d2(図2参照)が16.1mmより大きくなる組み合わせが挙げられる。但し、この組み合わせは、パイプ2の酸素供給口2aにおける酸素含有ガスの圧力が約40kPaであることを前提としている。
【0025】
以上に説明したように、酸素洗浄装置1においては、第一熱量に対する第二熱量の比率が1/2.4未満となるように、パイプ2の外径及び肉厚が設定されている。従来、パイプ2を経た酸素供給により発生する熱量(以下、「全発生熱量」という。)の大半は、第二熱量であると考えられていた。これに対し、後述の実施例及び比較例に示すように、以下の知見が得られた。
a) 全発生熱量の大半は、第二熱量ではなく第一熱量である。
b) パイプの内径の拡大により、酸素の供給量を増やしたとしても、第二熱量は大きくならない。
c) パイプの内径の拡大により、酸素の供給量を増やすと、第一熱量は大きくなる。
d) 既存の酸素洗浄装置において、第一熱量に対する第二熱量の比率は約1/2.4である。
これらの知見から、パイプ2の寸法の調節により、全発生熱量に対する第一熱量の比率を大きくすることで、全発生熱量に対する第二熱量の比率を小さくし、パイプ2の材料消費を削減できることが見出された。更に、第一熱量に対する第二熱量の比率が1/2.4未満となるようにパイプ2の寸法を設定すれば、既存の酸素洗浄装置に比較して、パイプ2の材料消費を削減できることが見出された。従って、この設定を採用した酸素洗浄装置1によれば、パイプ2の材料消費を削減できる。
【0026】
パイプ2の外径は、パイプ2を保持するパイプホルダ3と嵌合するように定まっていてもよく、第一熱量に対し、第二熱量の比率が1/2.4未満となるように、パイプ2の肉厚が設定されていてもよい。この場合、パイプ2の外径が定まった状況においても、パイプ2の材料消費を削減できる。
【0027】
なお、パイプ2の外径が定まった状態で上記比率を小さくするには、パイプ2の肉厚を小さくする必要がある。パイプ2の肉厚を小さくすると、パイプ2の材料消費が削減されるのに加えてパイプ2の構成材料自体が少なくなる。仮に、パイプ2の構成材料を変えることなくパイプ2の材料消費のみを削減すると、酸素洗浄処理において消費されずに残るパイプ2が長くなる。次の酸素洗浄処理に再利用できるパイプ2の長さには制限があるので、酸素洗浄処理後にパイプ2が残り過ぎると、長さ調整のみを目的としてパイプ2を燃焼させることが必要となる場合がある。これに対し、パイプ2の材料消費の削減に加えてパイプ2の構成材料自体も少なくなるので、長さ調整のみを目的としたパイプ2の燃焼の頻度が低減される。このことも、パイプ2の材料消費の削減に寄与する。
【0028】
パイプ2の外径及び肉厚は、パイプ2の内径が16.1mmより大きくなるように設定されていてもよい。この場合、第一熱量をより大きくすることで、第二熱量の削減を可能とし、パイプ2の材料消費をより確実に削減できる。
【0029】
パイプ2の外径は20.7〜21.7mmであり、パイプ肉厚が1.6〜2.3mmであってもよい。この場合、パイプ2の強度低下に伴う作業性の低下を抑制しつつ、第一熱量に対する第二熱量の比率を1/2.4未満にすることが可能となる。
【0030】
パイプ2の外径及び肉厚は、パイプ2を通る酸素含有ガスの流量が65m/h(Normal)より大きくなるように設定されていてもよい。この場合、第一熱量をより大きくすることで、第二熱量の削減を可能とし、酸素洗浄用のパイプ2の材料消費をより確実に削減できる。
【0031】
パイプ2の外周に装着され、かしめによりパイプ2同士を接合する筒状の継手部材21を更に備えてもよい。かしめ前における継手部材21の肉厚からパイプ2の肉厚を減じた値は0.1mm以下であってもよい。パイプ2の肉厚を削減する場合、既存の継手部材を用いてパイプ2同士を接合すると、当該接合部においてリークが生じる場合がある。これに対し、かしめ前における継手部材21の肉厚からパイプ2の肉厚を減じた値が0.1mm以下である継手部材21を採用することにより、上記接合部におけるリークの発生を抑制できる。
【0032】
以上、実施形態について説明したが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
〔第一の評価〕
実施例及び比較例を次のように準備した。なお、比較例1は、既存の酸素洗浄装置において用いられているものである。
実施例1:パイプ2を外径21.7mm・肉厚2.3mmの鉄パイプとした。
実施例2:パイプ2を外径21.7mm・肉厚1.9mmの鉄パイプとした。
実施例3:パイプ2を外径21.7mm・肉厚1.6mmの鉄パイプとした。
比較例1:パイプ2を外径21.7mm・肉厚2.8mmの鉄パイプとした。
比較例2:パイプ2を外径21.7mm・肉厚1mmの鉄パイプとした。
【0035】
比較例1の作業性を基準にして、実施例1〜3及び比較例2の作業性を評価した。具体的には、比較例1による作業を長年経験した作業者の感触によって作業性を評価し、その「OK」、「NG」を次のように判定した。
OK:比較例1と同等の作業性である。
NG:パイプ2の撓みに起因して、比較例1に対して作業性が悪化した。
この判定結果を図3に示す。図3に示すように、実施例1〜3は「OK」であり、比較例2は「NG」であった。これらのことから、パイプ2の肉厚が少なくとも1.6mm以上であれば、従来通りの操作性を保てることが確認された。
【0036】
〔第二の評価〕
上述の実施例1〜3及び比較例1について、全発生熱量と、第一熱量と、第二熱量とを測定し、比較評価を行った。具体的には、次の要領にて測定を行った。
i) 酸素濃度90%の酸素含有ガスを収容した酸素供給源4を準備した。
ii) パイプ2の外径が21.7mmであり、パイプ2の肉厚が2.8mmであり、パイプ2の長さが4mである場合に、パイプ2を経て炉底部9内に導入される酸素の流量が約65m/h(Normal)となるように、バルブ41の開度を設定し、各測定においてこの開度を一定に保った。
iii) パイプ2の消耗速度を測定し、消耗したパイプ2は全てFeとなる前提にて、消耗速度の測定結果から第二熱量[kJ/s]を算出した。
iv) 上記iii)と共通の前提にて、パイプ2の燃焼に用いられた酸素量を算出した。
v) パイプ2を経た酸素供給量を測定し、その測定結果から上記iv)の算出結果を減算することで、炉内可燃物の燃焼に用いられた酸素量を算出した。
vi) 炉内可燃物は全てCOとなる前提にて、上記v)の算出結果から第一熱量[kJ/s]を算出した。
vii) 上記iii)の算出結果と上記vi)の算出結果とを加算して、全発生熱量[kJ/s]を算出した。
全発生熱量QTと、第一熱量Q1と、第二熱量Q2との測定結果を図4に示す。図4に示すように、比較例1においては、第一熱量Q1に対する第二熱量Q2の比率が約1/2.4であった。実施例1〜3において、第一熱量Q1に対する第二熱量Q2の比率は、それぞれ約1/2.8、1/3.1、1/3.6、1/4.5であった。実施例1〜3のいずれにおいても、第二熱量Q2は比較例1と同様であった。一方、実施例1における第一熱量Q1は比較例1に比べて大きく、実施例2における第一熱量Q1は実施例1に比べて更に大きく、実施例3における第一熱量Q1は実施例2に比べて更に大きかった。これらの結果から、以下の知見が得られた。
a) パイプ2を経た酸素供給により発生する熱量(以下、「全発生熱量」という。)の大半は、第二熱量ではなく第一熱量である。
b) パイプの内径の拡大により、酸素の供給量を増やしたとしても、第二熱量は大きくならない。
c) パイプの内径の拡大により、酸素の供給量を増やすと、第一熱量は大きくなる。
d) 既存の酸素洗浄装置において、第一熱量に対する第二熱量の比率は約1/2.4である。
これらの知見から、パイプ2の寸法の調節により、全発生熱量に対する第一熱量の比率を大きくすることで、全発生熱量に対する第二熱量の比率を小さくし、酸素洗浄用のパイプの材料消費を削減できることが確認された。更に、第一熱量に対する第二熱量の比率が1/2.4未満となるようにパイプ2の寸法を設定すれば、既存の酸素洗浄装置に比較して、パイプ2の材料消費を削減できることが確認された。
【0037】
〔第三の評価〕
次の5種類のパイプ及び4種類の継手部材を準備した。
パイプ2A:外径21.7mm・肉厚2.8mmの鉄パイプ。
パイプ2B:外径21.7mm・肉厚2.3mmの鉄パイプ。
パイプ2C:外径21.5mm・肉厚2.3mmの鉄パイプ。
パイプ2D:外径21.7mm・肉厚1.9mmの鉄パイプ。
パイプ2E:外径21.7mm・肉厚1.6mmの鉄パイプ。
継手部材21A:内径22mm、肉厚2.6mmの鉄パイプ(筒状部材)。
継手部材21B:内径22mm、肉厚1.7mmの鉄パイプ(筒状部材)。
継手部材21C:内径22.2mm、肉厚1.6mmの鉄パイプ(筒状部材)。
継手部材21D:内径22.5mm、肉厚1.6mmの鉄パイプ(筒状部材)。
【0038】
4種類の継手部材のそれぞれを用い、5種類のパイプのそれぞれについて同種のパイプ同士の接合を行った。その後、各接合部について「OK」、「NG」を次のように判定した。
OK:接合部から酸素含有ガスのリークなし。
NG:接合部から酸素含有ガスのリークあり。
この判定結果を図5に示す。なお、4種類の継手部材21及び5種類のパイプ2の組み合わせのうち、他の組み合わせの判定結果に基づいて評価結果を推定できるものについては、適宜評価を省略した。図5に示す組み合わせのうち、評価を省略した組み合わせについては、「OK」、「NG」に代えて「−」が付されている。
【0039】
パイプ2A,2B,2D,2Eに継手部材21Aを用いた結果は、それぞれ「OK」、「NG」、「NG」、「NG」であった。パイプ2B,2D,2Eに継手部材21Aを用いた結果が「NG」であった理由としては、パイプ2B,2D,2Eの肉厚が小さいために、かしめ後におけるパイプ2B,2D,2Eの変形量が継手部材21Aの変形量よりも大きくなったことが考えられる。パイプ2B,2D,2Eに継手部材21Bを用いた結果はいずれも「OK」であった。パイプ2A,2B,2D,2Eに継手部材21Cを用いた結果はいずれも「OK」であった。パイプ2B,2C,2D,2Eに継手部材21Dを用いた結果はいずれも「OK」であった。これらの結果から、以下の知見が得られた。
e)かしめ前における継手部材21の肉厚からパイプ2の肉厚を減じた値は0.1mm以下であることが好ましい。
【0040】
なお、パイプ2と継手部材21との隙間が過大になると、かしめ後においてもパイプ2と継手部材21Cとが密着し難くなり、接合部における気密性を確保できなくなる可能性がある。図5に示す組み合わせにおいて、継手部材21の内径とパイプ2の外径との差が最大であるのは、継手部材21Dとパイプ2Bとの組み合わせである。継手部材21Dの内径とパイプ2Bの外径との差は1mmであり、この組み合わせにおける酸素含有ガスのリークはなかった。この結果から、少なくとも、継手部材21の内径とパイプ2の外径との差が1mm以下であれば、接合部における気密性を確保できることが確認された。
【符号の説明】
【0041】
1…酸素洗浄装置、2,2A,2B…パイプ、3…パイプホルダ、21…継手部材。
図1
図2
図3
図4
図5