特許第6775385号(P6775385)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6775385
(24)【登録日】2020年10月8日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】パワーモジュール用ベース
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/473 20060101AFI20201019BHJP
【FI】
   H01L23/46 Z
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-215116(P2016-215116)
(22)【出願日】2016年11月2日
(65)【公開番号】特開2017-92468(P2017-92468A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2019年8月8日
(31)【優先権主張番号】特願2015-220231(P2015-220231)
(32)【優先日】2015年11月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(72)【発明者】
【氏名】岡村 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】平野 智哉
【審査官】 正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−210822(JP,A)
【文献】 特開2013−055237(JP,A)
【文献】 特開2016−167503(JP,A)
【文献】 特開2006−294971(JP,A)
【文献】 特開2009−277768(JP,A)
【文献】 特開平11−067989(JP,A)
【文献】 特開2008−270297(JP,A)
【文献】 特開2015−126207(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102315178(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0001309(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第105023885(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0303126(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第105405815(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0071778(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/473
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
頂壁および底壁を有しかつ内部を冷却液が流れるようになっているケーシング、ならびにケーシング内に設けられたフィンを有する冷却器と、冷却器のケーシングの頂壁および底壁のうちいずれか一方の壁外面にろう付された絶縁積層材とよりなり、冷却器のケーシングが、互いにろう付されたアルミニウム製上下両構成部材からなり、上構成部材がケーシングの頂壁を有するとともに下構成部材がケーシングの底壁を有し、絶縁積層材が、セラミックス製絶縁板、および絶縁板における前記一方の壁とは反対側を向いた面に設けられ、かつ半導体素子が搭載される回路層からなり、絶縁積層材の回路層に搭載された半導体素子から発せられる熱が、絶縁積層材、冷却器のケーシングの前記一方の壁およびフィンを介してケーシング内を流れる冷却液に放熱されるパワーモジュール用ベースであって、
冷却器のケーシングの頂壁および底壁のうち絶縁板がろう付されている前記一方の壁の内面にフィンが固定状に設けられ、同じく絶縁板がろう付されていない他方の壁の外面に、アルミニウムよりも線膨張係数の低い材料からなり、かつ絶縁積層材の絶縁板とケーシングの上下両構成部材との線膨張係数の差に起因するケーシングおよび絶縁積層材の反りを抑制する反り抑制板がろう付され
ケーシングの底壁にはケーシング内方(上方)に凹んだ凹所が形成され、
反り抑制板は凹所内に配置されて、反り抑制板の肉厚が凹所の深さ以下であるパワーモジュール用ベース。
【請求項2】
冷却器のケーシングの頂壁および底壁のうち絶縁板がろう付されている前記一方の壁の内面に、複数のピンフィンが一体に設けられている請求項1記載のパワーモジュール用ベース。
【請求項3】
ケーシング内に、冷却液が外部から流入する入口ヘッダと、冷却液が外部に流出する出口ヘッダと、入口ヘッダに流入した冷却液を出口ヘッダに流す冷却液流路とが設けられており、ピンフィンが、ケーシングの頂壁および底壁のうちの前記一方の壁の内面に、冷却液流路の全体に点在するように一体に設けられている請求項2記載のパワーモジュール用ベース。
【請求項4】
絶縁積層材の絶縁板における回路層が設けられた面とは反対側の面に、回路層と同種の金属からなる伝熱層が設けられており、当該伝熱層が、ケーシングの頂壁および底壁のうち前記一方の壁外面にろう付されている請求項1〜3のうちのいずれかに記載のパワーモジュール用ベース。
【請求項5】
絶縁積層材の絶縁板がAlN、Al23およびSi34のうちのいずれか1種からなり、反り抑制板が、AlN、Al23、Si34、溶融アルミニウムめっき鋼およびステンレス鋼のうちのいずれか1種からなる請求項1〜4のうちのいずれかに記載のパワーモジュール用ベース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、たとえば電力変換装置などのパワーモジュールを構成し、かつIGBTなどのパワーモジュール用半導体素子を冷却するパワーモジュール用ベースに関する。
【0002】
この明細書および特許請求の範囲において、図2の上下を上下というものとする。
【0003】
また、この明細書および特許請求の範囲において、「アルミニウム」という用語には、純アルミニウムの他にアルミニウム合金を含むものとする。
【背景技術】
【0004】
たとえば、電気自動車、ハイブリッド自動車、電車などに搭載される電力変換装置として用いられるパワーモジュールにおいては、IGBTなどの半導体素子から発せられる熱を効率良く放熱して、パワーモジュール用半導体素子の温度を所定温度以下に保つ必要がある。
【0005】
そこで、従来、アルミニウム製放熱基板と、セラミックス製絶縁板、絶縁板の上面に設けられたアルミニウム製回路層および絶縁板の下面に設けられたアルミニウム製伝熱層からなり、かつ伝熱層が放熱基板の上面にろう付された絶縁積層材と、放熱基板における絶縁積層材の伝熱層にろう付された側と反対側の面にろう付されたアルミニウム製ヒートシンクとからなり、ヒートシンクの内部に冷却液流路が形成されたパワーモジュール用ベースが提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1記載のパワーモジュール用ベースにおいては、絶縁積層材の回路層に所定パターンの回路が形成されるとともに、回路層上に半導体素子がはんだ層を介して搭載されることによってパワーモジュールが構成されている。このパワーモジュールは、たとえば電動モータを駆動源の一部とするハイブリットカーなどの移動体のインバータ回路に適用されることにより、移動体の運転状況に応じて電動モータに供給する電力を制御するようになっている。当該パワーモジュールにおいては、半導体素子から発せられた熱は、回路層、絶縁板、伝熱層および放熱基板を経てヒートシンクに伝えられ、冷却液流路内を流れる冷却液に放熱される。
【0007】
特許文献1記載のパワーモジュール用ベースにおいて、絶縁積層材、放熱基板およびヒートシンクを、ろう付により一括して同時に行う場合、加熱時に絶縁積層材の絶縁板、回路層および伝熱層、放熱基板ならびにヒートシンクが熱膨張するとともに熱膨張した状態で固着され、その後常温までの冷却時に絶縁板、放熱基板およびヒートシンクが熱収縮する。ところで、絶縁板がセラミックス製であるとともに放熱基板およびヒートシンクがアルミニウム製であって、放熱基板およびヒートシンクの線膨張係数が絶縁板の線膨張係数よりも大きいので、何も対策を講じなければ、上述した線膨張係数の差に起因して、放熱基板およびヒートシンクを反らせようとする力が発生し、得られたパワーモジュール用ベースの全体、すなわち絶縁積層材、放熱基板およびヒートシンクに反りが発生する。その結果、絶縁積層材の回路層に所望のパターン回路を形成することが困難になったり、あるいは回路層に搭載される半導体素子とパターン回路との間の配線のはんだ付が困難になる。上述したような絶縁積層材、放熱基板およびヒートシンクの反りを抑制するために、特許文献1記載のパワーモジュール用ベースにおいては、放熱基板の厚みを大きくしている。しかしながら、放熱基板の厚みを大きくすると、半導体素子からヒートシンクまでの熱伝導の経路が長くなり、放熱性能が低下することがある。
【0008】
そこで、上述したような放熱基板およびヒートシンクの反りを抑制したパワーモジュール用ベースとして、アルミニウム製放熱基板と、セラミックス製絶縁板、絶縁板の上面に設けられた高純度アルミニウム製回路層および絶縁板の下面に設けられた高純度アルミニウム製伝熱層からなり、かつ伝熱層が放熱基板の上面にろう付された絶縁積層材と、放熱基板の下面にろう付されかつ絶縁板と放熱基板との線膨張係数の差に起因する放熱基板および絶縁積層材の反りを拘束するセラミックス製拘束板と、拘束板における放熱基板に接合された側と反対側の面に接合されたアルミニウム製放熱フィンと、拘束板および放熱フィンを覆うように放熱基板の下面に固定された冷却ジャケットをと備えており、冷却ジャケット内に冷却液が流されるようになっているパワーモジュール用ベースが提案されている(特許文献2参照)。
【0009】
特許文献2記載のパワーモジュール用ベースにおいては、絶縁板、放熱基板および放熱フィンを一括して同時にろう付する際に、絶縁板と放熱基板との線膨張係数の差に起因して放熱基板を反らせようとする力が発生するとともに、拘束板と放熱基板との線膨張係数の差に起因して放熱基板を反対側に反らせようとする力が発生する。その結果、これら2つの力が相殺されることになって、得られたパワーモジュール用ベースの全体、すなわち絶縁板、放熱基板および放熱フィンに反りが発生することが抑制される。
【0010】
しかしながら、特許文献2記載のパワーモジュール用ベースにおいては、放熱フィンが拘束板にろう付されており、拘束板がセラミックス、インバー合金、電磁軟鉄により形成されているので、絶縁板の回路層上に搭載される半導体素子から発せられる熱の冷却ジャケット内を流れる冷却液へ伝熱性能が不足し、十分な放熱性能が得られないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−86744号公報
【特許文献2】特開2007−141932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この発明の目的は、上記問題を解決し、両特許文献記載のパワーモジュール用ベースに比べて優れた放熱性能を有するパワーモジュール用ベースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するために以下の態様からなる。
【0014】
1)頂壁および底壁を有しかつ内部を冷却液が流れるようになっているケーシング、ならびにケーシング内に設けられたフィンを有する冷却器と、冷却器のケーシングの頂壁および底壁のうちいずれか一方の壁外面にろう付された絶縁積層材とよりなり、冷却器のケーシングが、互いにろう付されたアルミニウム製上下両構成部材からなり、上構成部材がケーシングの頂壁を有するとともに下構成部材がケーシングの底壁を有し、絶縁積層材が、セラミックス製絶縁板、および絶縁板における前記一方の壁とは反対側を向いた面に設けられ、かつ半導体素子が搭載される回路層からなり、絶縁積層材の回路層に搭載された半導体素子から発せられる熱が、絶縁積層材、冷却器のケーシングの前記一方の壁およびフィンを介してケーシング内を流れる冷却液に放熱されるパワーモジュール用ベースであって、
冷却器のケーシングの頂壁および底壁のうち絶縁板がろう付されている前記一方の壁の内面にフィンが固定状に設けられ、同じく絶縁板がろう付されていない他方の壁の外面に、アルミニウムよりも線膨張係数の低い材料からなり、かつ絶縁積層材の絶縁板とケーシングの上下両構成部材との線膨張係数の差に起因するケーシングおよび絶縁積層材の反りを抑制する反り抑制板がろう付されているパワーモジュール用ベース。
【0015】
上記1)において、「壁の内面にフィンが固定状に設けられ」とは、壁の内面にフィンが一体に設けられる場合と、壁の内面にフィンが適当な方法で固定される場合とを含む。
【0016】
2)冷却器のケーシングの頂壁および底壁のうち絶縁板がろう付されている前記一方の壁の内面に、複数のピンフィンが一体に設けられている上記1)記載のパワーモジュール用ベース。
【0017】
3)ケーシング内に、冷却液が外部から流入する入口ヘッダと、冷却液が外部に流出する出口ヘッダと、入口ヘッダに流入した冷却液を出口ヘッダに流す冷却液流路とが設けられており、ピンフィンが、ケーシングの頂壁および底壁のうちの前記一方の壁の内面に、冷却液流路の全体に点在するように一体に設けられている上記2)記載のパワーモジュール用ベース。
【0018】
4)絶縁積層材の絶縁板における回路層が設けられた面とは反対側の面に、回路層と同種の金属からなる伝熱層が設けられており、当該伝熱層が、ケーシングの頂壁および底壁のうち前記一方の壁外面にろう付されている上記1)〜3)のうちのいずれかに記載のパワーモジュール用ベース。
【0019】
5)絶縁積層材の絶縁板がAlN、Al23およびSi34のうちのいずれか1種からなり、反り抑制板が、AlN、Al23、Si34、溶融アルミニウムめっき鋼およびステンレス鋼のうちのいずれか1種からなる上記1)〜4)のうちのいずれかに記載のパワーモジュール用ベース。
【発明の効果】
【0020】
上記1)〜5)のパワーモジュール用ベースにおいては、ケーシングの上下両構成部材どうしのろう付と、冷却器のケーシングの頂壁および底壁のうちの前記一方の壁と絶縁板とのろう付を一括して同時に行う際に、上下両構成部材と絶縁積層材の絶縁板との線膨張係数の差に起因して、上下両構成部材および絶縁板を反らせようとする力が発生するとともに、上下両構成部材と反り抑制板との線膨張係数の差に起因して上下両構成部材および反り抑制板を反対側に反らせようとする力が発生する。その結果、これら2つの力が相殺されることになって、得られたパワーモジュール用ベースの全体、すなわちケーシング、絶縁積層材および反り抑制板に反りが発生することが抑制される。
【0021】
しかも、上記1)〜5)のパワーモジュール用ベースによれば、冷却器のケーシングの頂壁および底壁のうち絶縁板がろう付されている前記一方の壁の内面にフィンが固定状に設けられているので、絶縁板の回路層上に装着されるパワーモジュール用半導体素子から発せられる熱のケーシング内を流れる冷却液への伝熱性能が向上し、放熱性能が優れたものになる。
【0022】
上記2)のパワーモジュール用ベースによれば、絶縁板の回路層上に装着されるパワーモジュール用半導体素子から発せられる熱のケーシング内を流れる冷却液への伝熱性能が一層向上する。
【0023】
上記4)のパワーモジュール用ベースによれば、絶縁板の回路層上に搭載される半導体素子から伝わった熱が、伝熱層の面方向に拡散されてケーシングの頂壁および底壁のうちの前記一方の壁に伝わるので、前記一方の壁、ひいてはケーシング内を流れる冷却液への伝熱性能が向上する。
【0024】
上記5)のパワーモジュール用ベースによれば、反り抑制板の材料コストが比較的安価になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】この発明のパワーモジュール用ベースを示す分解斜視図である。
図2図1のパワーモジュール用ベースを示す垂直断面図である。
図3図2のA−A線断面図である。
図4】フィンの変形例を示す図3相当の図である。
図5】フィンの他の変形例を示す図3相当の図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、この発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0027】
また、以下の説明において、図2の左右を左右といい、図3の上下方向を前後方向というものとする。
【0028】
図1図3は、この発明によるパワーモジュール用ベースの全体構成を示す。
【0029】
図1図3において、パワーモジュール用ベース(1)は、頂壁(3a)、底壁(3b)および周壁(3c)を有するケーシング(3)、ならびにケーシング(3)内に設けられた複数のピンフィン(4)を有する冷却器(2)と、冷却器(2)のケーシング(3)の頂壁(3a)および底壁(3b)のうちのいずれか一方の壁、ここでは頂壁(3a)外面にろう付、すなわちろう材を介して接合された絶縁積層材(5)と、冷却器(2)のケーシング(3)の頂壁(3a)および底壁(3b)のうちのいずれか他方の壁、ここでは底壁(3b)外面にろう付された反り抑制板(6)とからなる。
【0030】
冷却器(2)のケーシング(3)は、頂壁(3a)を構成する板状のアルミニウム製上構成部材(7)と、底壁(3b)および周壁(3c)を構成する上方に開口した箱状のアルミニウム製下構成部材(8)とよりなり、上構成部材(7)下面の周縁部が下構成部材(8)の周壁(3c)を構成する部分の上端部に設けられた外向きフランジ(8a)上面にろう付されている。ケーシング(3)内には、ケーシング(3)の長手方向の一端寄り、ここでは左端寄りの部分に位置し、かつ冷却液が外部から流入する入口ヘッダ(9)と、ケーシング(3)の長手方向の他端寄り、ここでは右端寄りの部分に位置し、かつ冷却液が外部に流出する出口ヘッダ(11)と、入口ヘッダ(9)に流入した冷却液を出口ヘッダ(11)に流す冷却液流路(12)とが設けられている。ケーシング(3)の底壁(3b)外面における入口ヘッダ(9)と出口ヘッダ(11)との間の冷却液流路(12)と対応する部分に、底壁(3b)が変形させられることによってケーシング(3)内方(上方)に凹んだ凹所(13)が形成されている。
【0031】
ケーシング(3)の底壁(3b)の左側部分の前後方向中央部に、入口ヘッダ(9)に通じる冷却液流入口(16)が形成され、ケーシング(3)の底壁(3b)の右側部分の前後方向中央部に、出口ヘッダ(11)に通じる冷却液流出口(17)が形成されている。
【0032】
ケーシング(3)の入口ヘッダ(9)の前後方向中央部において、ケーシング(3)の頂壁(3a)に、ケーシング(3)内方(下方)に突出して先端が底壁(3b)にろう付され、かつ冷却液流入口(16)から入口ヘッダ(9)内に流入した冷却液を冷却液流路(12)側に向けて流す入口側ガイド部(18)が一体に設けられている。また、ケーシング(3)の出口ヘッダ(11)の前後方向中央部において、ケーシング(3)の頂壁(3a)に、下方に突出して先端が底壁(3b)にろう付され、かつ冷却液流路(12)から出口ヘッダ(11)内に流入した冷却液を冷却液流出口(17)側に向けて流す出口側ガイド部(19)が一体に設けられている。両ガイド部(18)(19)は、上下両側から見て開口が冷却液流路(12)側を向いたU字状であり、冷却液流入口(16)および冷却液流出口(17)がそれぞれ両ガイド部(18)(19)内に臨んでいる。
【0033】
ケーシング(3)の入口ヘッダ(9)および出口ヘッダ(11)における両ガイド部(18)(19)よりも前後方向外側部分において、ケーシング(3)の頂壁(3a)に、それぞれケーシング(3)内方(下方)に突出して先端が底壁(3b)にろう付された内方突出部(21)が一体に設けられている。ケーシング(3)の頂壁(3a)および内方突出部(21)に、頂壁(3a)外面と内方突出部(21)の先端とを通じさせる貫通穴(22)が形成されており、貫通穴(22)の一端が頂壁(3a)の外面に開口するとともに、他端が底壁(3b)に形成された貫通穴(23)を介して底壁(3b)外面に開口している。内方突出部(21)の先端における貫通穴(22)の周囲の部分が、底壁(3b)のケーシング(3)内方を向いた面における貫通穴(23)の周囲の部分にろう付されている。
【0034】
冷却器(2)の複数のピンフィン(4)は横断面円形であり、ケーシング(3)の頂壁(3a)(絶縁積層材(5)がろう付された壁)の下面における冷却液流路(12)の臨む部分に、冷却液流路(12)の全体に点在するように千鳥配置状に一体に設けられている。なお、ピンフィン(4)の横断面形状は円形に限定されるものではなく、適宜変更可能であり、たとえば横断面形状が菱形や楕円形や流線形であってもよい。ピンフィン(4)の先端部はケーシング(3)の底壁(3b)内面にろう付されていることが好ましい。
【0035】
絶縁積層材(5)は、絶縁板(24)と、絶縁板(24)の上面に設けられかつパワーモジュール用半導体素子が取り付けられる回路層(25)と、絶縁板(24)の下面に設けられた伝熱層(26)とよりなり、伝熱層(26)が、ケーシングの頂壁(3a)外面にろう付されている。絶縁板(24)は、必要とされる電気絶縁特性、熱伝導率および機械的強度を満たしていれば、どのようなセラミックスから形成されていてもよいが、たとえばAlN、Al23およびSi34のうちのいずれか1種からなるものが用いられる。絶縁板(24)の肉厚は0.1〜1mmであることが好ましい。回路層(25)は、導電性に優れたアルミニウム、銅(銅合金も含む。以下、同じ)などの金属により形成されるが、電気伝導率が高く、変形能が高く、しかも熱伝導性に優れた純度の高いアルミニウムにより形成されていることが好ましい。伝熱層(26)は、熱伝導性に優れたアルミニウム、銅などの金属により形成されるが、熱伝導率が高く、変形能が高く、しかも溶融したろう材との濡れ性に優れた純度の高いアルミニウムにより形成されていることが好ましい。また、回路層(25)および伝熱層(26)は同一材料で形成されていることが好ましい。絶縁積層材(5)としては、たとえば絶縁板(24)に、回路層(25)および伝熱層(26)が予め設けられている三菱マテリアル社製、DBA(Direct Brazed Alminum、登録商標)基板が用いられる。また、絶縁積層材(5)としては、絶縁板(24)とは別個に形成された回路層(25)をつくる金属板および伝熱層(26)をつくる金属板が、ケーシング(3)の両構成部材(7)(8)のろう付と同時にろう付されたものであってもよい。
【0036】
反り抑制板(6)は、線膨張係数がアルミニウムよりも低い材料で形成されており、凹所(13)内に配置されてケーシング(3)の底壁(3c)における凹所(13)の底となる部分にろう付されている。反り抑制板(6)の肉厚は、凹所(13)の深さ以下であることが好ましく、反り抑制板(6)の下面が、ケーシング(3)の底壁(3b)における凹所(13)を除いた部分の下面と面一か、またはケーシング(3)の底壁(3b)における凹所(13)を除いた部分の下面よりも上方に位置していることが好ましい。また、反り抑制板(6)の大きさ、形状、肉厚は、用いる材料によって適宜最適なものが選ばれる。また、反り抑制板(6)は、線膨張係数が絶縁積層材(5)の絶縁板(24)と同程度である材料で形成されていることが好ましい。絶縁板(24)がAlN、Al23およびSi34のうちのいずれか1種で形成されている場合、反り抑制板(6)は、AlN、Al23、Si34、溶融アルミニウムめっき鋼およびステンレス鋼のうちのいずれか1種で形成されていることが好ましい。
【0037】
パワーモジュール用ベース(1)は、以下に述べる方法で製造される。
【0038】
すなわち、ケーシング(3)の下構成部材(8)の外向きフランジ(8a)上に上構成部材(7)の周縁部を載せることにより両構成部材(7)(8)を組み合わせるとともに、上構成部材(7)の頂壁(3a)となる部分の外面上に、絶縁板(24)、回路層(25)および伝熱層(26)が一体に設けられている絶縁積層材(5)を、伝熱層(26)が頂壁(3a)側に来るように配置し、さらに下構成部材(8)の底壁(3b)の凹所(13)内に反り抑制板(6)を配置する。なお、上構成部材(7)の周縁部と下構成部材(8)の外向きフランジ(8a)との間、上構成部材(7)の頂壁(3a)となる部分の外面と絶縁積層材(5)の伝熱層(26)との間、ならびに下構成部材(8)の底壁(3b)における凹所(13)内に存在する部分と反り抑制板(6)との間に、適当な方法によりろう材を配置しておく。
【0039】
ついで、上下両構成部材(7)(8)、絶縁積層材(5)および反り抑制板(6)を適当な手段で仮止めし、接合面に適当な荷重を加えながら、真空雰囲気中または不活性ガス雰囲気中において、570〜600℃に加熱することによって、上構成部材(7)と下構成部材(8)の外向きフランジ(8a)、上構成部材(7)の頂壁(3a)外面と絶縁積層材(5)の伝熱層(26)、および下構成部材(8)の底壁(3b)外面と反り抑制板(6)とをそれぞれ同時にろう付する。また、ろう付と同時にピンフィン(4)の先端を下構成部材(8)の底壁(3b)内面にろう付してもよい。こうして、パワーモジュール用ベース(1)が製造される。
【0040】
上述したろう付の際に、上下両構成部材(7)(8)と絶縁積層材(5)の絶縁板(24)との線膨張係数の差に起因して、上下両構成部材(7)(8)および絶縁板(24)を反らせようとする力が発生するとともに、上下両構成部材(7)(8)と反り抑制板(6)との線膨張係数の差に起因して上下両構成部材(7)(8)および反り抑制板(6)を反対側に反らせようとする力が発生する。その結果、これら2つの力が相殺されることになって、得られたパワーモジュール用ベース(1)の全体、すなわちケーシング(3)、絶縁積層材(5)および反り抑制板(6)に反りが発生することが抑制される。
【0041】
なお、絶縁積層材(5)が、絶縁板(24)とは別個に形成された回路層(25)をつくる金属板および伝熱層(26)をつくる金属板が、絶縁板(24)にろう付されたものである場合、上述した上下両構成部材(7)(8)および反り抑制板(6)のろう付と同時にろう付される。
【0042】
上述した構成のパワーモジュール用ベース(1)において、絶縁積層材(5)の回路層(25)に所定パターンの回路が形成され、たとえばIGBTなどの半導体素子が搭載され、さらに回路層(25)と半導体素子との間に配線がはんだ付されてパワーモジュールとして用いられる。
【0043】
上記パワーモジュールは、内方突出部(21)の貫通穴(22)を利用してハイブリッド自動車などに取り付けられ、冷却液流入口(16)から入口ヘッダ(9)内に冷却液が流入させられる。入口ヘッダ(9)内に流入した冷却液は、入口側ガイド部(18)に案内されて冷却液流路(12)側に案内され、ピンフィン(4)の間を通って冷却液流路(12)を右方に流れて出口ヘッダ(11)内に入る。出口ヘッダ(11)内に入った冷却液は、出口側ガイド部(19)に案内されて冷却液流出口(17)側に向けて流され、冷却液流出口(17)を通って排出される。パワーモジュールの半導体素子から発せられる熱は、回路層(25)、絶縁板(24)を通って伝熱層(26)に伝わり、伝熱層(26)の面方向に拡散されてケーシング(3)の頂壁(3a)を経て冷却液流路(12)内を流れる冷却液に放熱される。こうして、半導体素子が冷却される。
【0044】
図4および図5は、ケーシング(3)の頂壁(3a)(絶縁積層材(5)がろう付された壁)の下面に固定状に設けられるフィンの変形例を示す。
【0045】
図4において、ケーシング(3)の頂壁(3a)下面における冷却液流路(12)の臨む部分に、幅方向を上下方向に向けるとともに長手方向を左右方向(冷却液流路(12)における冷却液の流れ方向)に向けた複数のプレートフィン(30)が、前後方向に間隔をおいて固定状に設けられている。プレートフィン(30)は、フィン高さ方向と直交する水平面で切断した形状が直線状となっている。
【0046】
図5において、ケーシング(3)の頂壁(3a)下面における冷却液流路(12)の臨む部分に、幅方向を上下方向に向けるとともに長手方向を左右方向(冷却液流路(12)における冷却液の流れ方向)に向けた複数のプレートフィン(35)が、前後方向に間隔をおいて固定状に設けられている。プレートフィン(35)は、フィン高さ方向と直交する水平面で切断した形状が波形であって、波頂部および波底部が交互に形成されており、冷却液が、隣り合う2つのフィン間を蛇行状に流れるようになっている。
【産業上の利用可能性】
【0047】
この発明によるパワーモジュール用ベースは、電気自動車、ハイブリッド自動車、電車などに搭載される電力変換装置になどのパワーモジュールに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0048】
(1):パワーモジュール用ベース
(2):冷却器
(3):ケーシング
(3a):頂壁
(3b):底壁
(4):ピンフィン
(5):絶縁積層材
(6):反り抑制板
(7):上構成部材
(8):下構成部材
(9):入口ヘッダ
(11):出口ヘッダ
(12):冷却液流路
(24):絶縁板
(25):回路層
(26):伝熱層
(30)(35):プレートフィン
図1
図2
図3
図4
図5