(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6775581
(24)【登録日】2020年10月8日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】X線回折像を収集して原子分解で結晶の結晶構造を解明するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/205 20180101AFI20201019BHJP
【FI】
G01N23/205
【請求項の数】11
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-526792(P2018-526792)
(86)(22)【出願日】2016年10月28日
(65)【公表番号】特表2019-502102(P2019-502102A)
(43)【公表日】2019年1月24日
(86)【国際出願番号】EP2016076032
(87)【国際公開番号】WO2017089069
(87)【国際公開日】20170601
【審査請求日】2018年7月23日
(31)【優先権主張番号】15195946.7
(32)【優先日】2015年11月24日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501494414
【氏名又は名称】パウル・シェラー・インスティトゥート
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】富崎 孝司
(72)【発明者】
【氏名】辻野 壮一郎
【審査官】
田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2012/0197005(US,A1)
【文献】
Sabina Santesson et al.,Screening of Nucleation Conditions Using Levitated Drops for Protein Crystallization,Anal.Chem.,2003年,Vol.75,pp.1733-1740
【文献】
Jork Leiterer et al.,The use of an acoustic levitator to follow crystallization in small droplets by energy-dispersive X-ray diffraction,Journal of Applied Crystallography,2006年,Vol.39,pp.771-773
【文献】
Alexei S.Soares et al.,Acoustically Mounted Microcrystals Yield High-Resolution X-ray Structures,BIOCHEMISTRY,2011年,Vol.50,pp.4399-4401
【文献】
Soichiro Tsujino et al.,Ultrasonic acoustic levitation for fast frame rate X-ray protein crystallography at room temperature,Scientific Reports,2016年 5月 6日,Vol.6 No.25558,pp.1-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折像を収集して原子分解能で生体高分子の結晶(4)の結晶構造を解明するシステム(2)であって、当該システムは、
a)1つまたは複数の、回転している結晶(4)を含んでいる結晶化溶液の流体(31)の少なくとも1つの液滴(8)を浮揚させる超音波音響浮揚装置(6)を含んでおり、当該超音波音響浮揚装置(6)は、
i)超音波(30)を生成する1つまたは複数の超音波トランスデューサ(10)と、
ii)前記超音波トランスデューサ(10)の駆動電力を供給する1つまたは複数の電源(16)と、
を含んでおり、
前記システムはさらに、
b)前記結晶(4)の採取および搬送を1つのステップで行うために、生体高分子の前記1つまたは複数の結晶(4)を含んでいる前記流体(31)の前記液滴(8)の1つまたは複数を前記超音波音響浮揚装置(6)内へ放射する1つまたは複数の液滴放射器(30)であって、前記結晶(4)は、結晶化プレートのウェルの一つで生成され、前記流体(31)中に保存されるか、または、前記流体(31)とともにキャピラリーを満たし、前記結晶(4)の結晶化条件は、前記結晶のオーダーで構成生体高分子の周期的な配列を有する単結晶を生成するために調整され、前記液滴放射器(30)は、集中高周波超音波パルスの印加による前記結晶化プレートのウェルからの音響放射、または、パルス状の音響圧の前記キャピラリーへの印加による前記結晶が満たされた前記キャピラリーからの音響放射のために使用される、液滴放射器(30)と、
c)X線ビーム(20)を生成するX線源(34)と、
d)前記X線ビーム(20)によって照射された前記結晶(4)によって散乱された前記X線回折像(24)を検出する、画素化した2次元X線検出器(36)と、
e)前記超音波浮揚装置(6)内の前記浮揚している液滴(8)内の前記結晶(4)の位置を、前記X線ビーム(20)に関して位置合わせする装置と、
f)前記結晶の前記位置を前記X線ビーム(20)を位置合わせし、前記結晶(4)の回転を制御して浮揚条件を調整するために、前記浮揚している液滴(8)内の前記結晶(4)の前記位置および前記回転を視覚化する装置と、
を含んでいる、
システム(2)。
【請求項2】
音響浮揚圧が、別の超音波トランスデューサ(14)によって監視される、請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記超音波音響浮揚装置(6)内の超音波伝達媒体の温度および湿度をコントロールする装置が含まれている、請求項1または2記載のシステム。
【請求項4】
前記超音波トランスデューサ(14)は、音響反射器(12)と機械的に接触している、請求項2記載のシステム。
【請求項5】
付加的な1つまたは複数の液滴放射器(40)が、流体(41)の液滴(42)の1つまたは複数を、前記超音波音響浮揚装置(6)内の前記浮揚している液滴(8)へ放射すし、前記流体(41)は、前記浮揚している液滴(8)の前記流体(31)のpHを含む化学物質含有量または化学組成を調整して、前記結晶(4)中の前記生体高分子の立体配座の変化を引き起こすための溶液、または、前記結晶(4)中の前記生体高分子の特定の部位に結合し得るリガンド溶液であり得る、
請求項1から4までのいずれか1項記載のシステム。
【請求項6】
前記浮揚している液滴(8)内の前記結晶(4)の視覚化のための装置は、前記結晶(4)の前記位置および前記回転を監視する、請求項1から5までのいずれか1項記載のシステム。
【請求項7】
X線回折像を収集して原子分解能で生体高分子の結晶(4)の結晶構造を解明する方法であって、
a)1つまたは複数の結晶(4)を含んでいる、流体(31)の液滴(8)を、液滴放射器(30)によって、超音波浮揚装置(6)内へ放射して、1つまたは複数の前記結晶(4)の採取および搬送を1つのステップで行うステップであって、前記結晶(4)は、結晶化プレートのウェルの一つで予め生成され、前記流体(31)中に保存されるか、または、前記流体(31)とともにキャピラリーを満たし、前記結晶(4)の結晶化条件は、前記結晶のオーダーで構成生体高分子の周期的な配列を有する単結晶を生成するために調整され、前記液滴放射器は、集中高周波超音波パルスの印加による前記結晶化プレートのウェルからの音響放射、または、パルス状の音響圧の前記キャピラリーへの印加による前記結晶が満たされた前記キャピラリーからの音響放射のために使用される、ステップと、b)超音波音響浮揚装置(6)内で、前記結晶(4)を含んでいる前記液滴(8)を浮揚させるステップと、
c)前記結晶の位置をX線ビーム(20)の位置と位置合わせするステップと、
d)X線ビーム(20)を前記結晶(4)に印加するステップであって、前記X線ビーム(20)はX線源(34)から生じる、ステップと、
e)画素化した2次元X線検出器(36)によって、前記X線ビーム(20)によって照射された前記単結晶(4)からの前記X線ビーム(20)のブラッグ散乱によって生成された、前記X線回折像(24)を検出するステップと、
f)前記結晶(4)の複数の方位からのX線回折像を記録するために、前記X線検出器(36)のフレームレートおよび前記結晶(4)の回転の一方または双方を調整するステップと、
を含む、
方法。
【請求項8】
前記超音波浮揚装置(6)内の前記浮遊している液滴(8)内へ、1つまたは複数の付加的な液滴放射器(40)によって、適切な流体(41)の液滴(42)の1つまたは複数を放射することによって、前記浮揚している液滴の前記流体のpHを含む化学物質含有量または化学組成を変えて、特定の化学溶液の液滴を噴射することによって、前記結晶(4)内の溶媒含有量および/または前記結晶(4)の分子立体配座を調整する、
請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記結晶(4)内の溶媒含有量および/または前記結晶(4)の分子立体配座を、前記液滴(8)の湿度をコントロールすることおよび/または前記液滴(8)の温度をコントロールすることによって、当該液滴(8)が浮揚している間、前記溶媒をコントロール可能に蒸発させることによって調整する、請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
前記結晶(4)中の前記生体高分子の特定の部位でのリガンド分子の結合は、前記浮揚している液滴(8)中にリガンド溶液の前記流体(41)の液滴(42)を放射することによって引き起こされ、その場でのX線回折実験によって測定される、請求項8記載の方法。
【請求項11】
広帯域の波長の光学的放射の印加、または、特定の波長または磁気パルスによって、生体高分子の前記結晶(4)の分子立体配座を変化させる、請求項7から10までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線回折像を収集して原子分解で結晶の結晶構造を解明するシステムおよび方法に関する。
【0002】
X線回折は、生体結晶試料や合成分子等の高分子の原子分解構造解析のための最も良く確立された方法のうちの1つである。シンクロトロン光源と2次元高フレームレートピクセル検出器とを組み合わせることで、完全なデータセットを収集する時間が数分に短縮された。今や通常、10Hzを超える取得レートが、凍結温度で維持されているタンパク質結晶の連続的な回転を可能にする。このようなX線回折実験の設定は、全ての主要なシンクロトロンビームラインに共通して、過去10年の間に、重要なタンパク質分子構造の解明を加速させた。100〜1000Hz以上の、比較的速いデータ取得レートであっても、X線吸収によって生じたラジカルの拡散を避けることによって、脆弱なタンパク質結晶の損傷を最小限に抑えることができ、このようにして室温での回折データセットの質を大幅に向上させることが提唱されている。比較的速いデータ取得レートはまた、タンパク質結晶が生理学的条件により近づく室温でのみ行うことができる一連の実験、例えばin−situ構造動的研究および時間分解実験を行うことを可能にするだろう。室温での実験は、結晶の迅速なスクリーニングを可能にするだけでなく、凍結試料では研究が困難な生体分子の構造多様性の調査も容易にする。
【0003】
結晶が、音響放射圧によって浮揚されている液滴の内部にあるとき、音響流による液滴の内部循環が、結晶の高速回転および軌道周回を誘発する。その結果、結晶にX線ビームを注意深く位置合わせすることによって、高速X線検出器を用いて短時間で様々な結晶方位で、データセットを取得することが可能になる。
【0004】
しかし、X線回折データセットを収集する従来の方法および音響浮揚方法では、単結晶試料が手動で採取および搬送されなければならない。試料搬送の自動化された方法、例えば結晶化プレートによる直接的なX線回折実験や、固体試料保持機構上への結晶の音響放射ならびに単結晶試料を含んでいる結晶化液体の連続的な流れまたは液滴列の使用は既に報告されている。しかし、このような方法の試料利用効率は、複数の結晶方位で各試料のX線回折像を測定することが困難であるため、極めて低い。
【0005】
本発明の目的は、液滴の超音波音響浮揚を自動試料採取および搬送機構と組み合わせることによって、試料を凍結する必要無く、かつ高い試料利用効率で、100〜1000Hz以上のフレームレートでの高速X線回折データセット取得を実現することである。
【0006】
したがって本発明の課題は、X線回折像を収集して原子分解で結晶の結晶構造を解明し、それによって脆弱な高分子結晶、例えばタンパク質の結晶構造の原子分解解明を可能にするシステムおよび方法を提供することである。
【0007】
上述の課題は、システムに関しては、本発明に相応に、X線回折像を収集して原子分解で結晶の結晶構造を解明するシステムによって解決され、このシステムは
a)1つまたは複数の、回転している結晶を含んでいる流体の少なくとも1つの液滴を浮揚させる超音波音響浮揚装置を含んでおり、この超音波音響浮揚装置は、
i)1つまたは複数の超音波トランスデューサと、
ii)上記超音波トランスデューサの駆動電力を供給する1つまたは複数の電源と、
iii)少なくとも1つのX線窓と、
iv)内部で液滴が浮揚されている超音波伝達媒体を、空気と空気の乱れとに関して周囲から隔離する、超音波音響浮揚装置の機械的シールドと、少なくとも1つのX線窓とを含んでおり、
このシステムはさらに、
b)上記超音波音響浮揚装置への、上記1つまたは複数の結晶を含んでいる上記流体の1つまたは複数の液滴の1つまたは複数の放射器と、
c)X線源と、
d)上記X線源によって照射された上記結晶からのX線回折像を検出するX線検出器とを含んでいる。
【0008】
方法に関しては、上述の課題は、本発明に相応に、X線回折像を収集して原子分解で結晶の結晶構造を解明する方法によって解決され、この方法は、
a)1つまたは複数の結晶を含んでいる流体の液滴を超音波音響浮揚装置内へ放射するステップと、
b)上記超音波音響浮揚装置内で、上記結晶を含んでいる上記液滴を浮揚させるステップと、
c)上記浮揚している液滴内の上記結晶の空間的な位置および回転を視覚的に監視するステップと、
d)上記浮揚している液滴内の上記結晶に、X線源から生じているX線ビームを印加するステップと、
e)100〜3000フレーム/秒以上の範囲のフレームレートで2次元回折パターンを捕捉することができるX線検出器によって、上記X線源によって照射された上記結晶からのX線回折像を検出するステップとを含んでいる。
【0009】
本発明は、高いデータ取得レートと高い試料利用効率とを備える、完全に自動化されたX線回折実験を実現し、これによって生体分子の構造解析ならびに構造ベースの薬品開発が加速される。
【0010】
本発明の有利な実施形態は、
a)1つまたは複数の、回転している結晶を含んでいる流体の少なくとも1つの液滴を浮揚させる超音波音響浮揚装置を含んでいてもよく、この超音波音響浮揚装置は、
i)第1の超音波トランスデューサと、
ii)超音波反射器と、
iii)上記第1の超音波トランスデューサと上記超音波反射器との間の音響空洞内の音響定在波の圧力を監視する第2の超音波トランスデューサと、
iv)安定した超音波圧力出力のために第1の超音波トランスデューサの駆動力を供給する電源と、
v)少なくとも1つのX線窓と、
vi)内部で液滴が浮揚されている超音波伝達媒体を、空気と空気の乱れとに関して周囲から隔離する、超音波音響浮揚装置の機械的シールドと、少なくとも1つのX線窓と、
vii)上記第1の超音波トランスデューサと上記超音波反射器との間の間隙、平行度、およびずれの調整機構とを含んでおり、
本発明の有利な実施形態はさらに、
b)上記超音波音響浮揚装置内への、上記1つまたは複数の結晶を含んでいる上記流体の液滴の放射器と、
c)上記浮揚されている液滴内の上記結晶の位置および回転を視覚化する装置と、
d)X線源と、
e)上記X線源によって照射された上記結晶からのX線回折像を検出するX線検出器と、
f)上記結晶と上記X線検出器との間で、入射するX線ビームを停止させるビームストップと、
g)内部で上記液滴が浮揚されている超音波伝達媒体の湿度および温度をコントロールする装置とを含んでいてもよい。
【0011】
付加的な手段は、湿度をコントロールすることによって、液滴が浮揚している間、液滴流体をコントロール可能に蒸発させることによって、結晶内の溶媒含有量を調整することであってもよい。
【0012】
付加的にまたは択一的に、結晶の分子立体配座を、超音波浮揚装置内の浮遊している液滴内へ追加の液滴を放射することによって、液滴の温度、溶媒の化学的コンシステンシーまたはpHをコントロールすることによって、変えることができる。
【0013】
本発明のさらに有利な実施形態は、液滴に、特定の波長を有する光パルスまたはレーザパルスを印加することによって、結晶の分子立体配座を変化させるステップを提供してもよい。
【0014】
その結晶構造を特定するために、本方法および本システムにおいて使用される結晶を、タンパク質、生体分子結晶、高分子結晶等を含んでいる非排他的なグループから選択することができる。
【0015】
本発明の有利な実施形態を以降で、添付の図面に関してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】結晶の結晶構造を解明するX線回折イメージングシステムの概略図
【
図2】
図1に示されたシステムと比較される択一的なシステムの概略図
【
図3】
図1および
図2に示されたシステムと比較される、別の択一的なシステムの概略図
【0017】
図1〜
図3は、X線回折像を収集して原子分解で結晶4の結晶構造を解明するシステム2を示している。このシステム2は、1つまたは複数の、回転している結晶4を含んでいる流体の少なくとも1つの液滴8を浮揚させる超音波音響浮揚装置6を含む。本発明の一実施形態では、上記超音波音響浮揚装置6は、超音波を発生させる超音波トランスデューサ10と、超音波反射器12と、音響浮揚圧を監視する超音波トランスデューサ14とを含む。また、超音波音響浮揚装置6は、駆動電流をフィードバック信号として使用することによって、駆動周波数および電圧出力を変化させて、安定した一定の圧力出力を生成するように、上記超音波トランスデューサ10の駆動電力を駆動する電源16を含む。さらに、超音波音響浮揚装置6は、入射するX線ビーム20のための第1のX線窓18と、回折されたX線ビーム24のための第2のX線窓22とを含む。超音波音響浮揚装置6の機械的シールド26は、上記超音波音響浮揚装置6内の超音波伝達媒体および上記浮揚している液滴8を包囲して、空気と空気の乱れとから隔離するために設けられている。さらに、調整機構28が、上記超音波トランスデューサ10と上記超音波反射器12との間の間隙、平行度およびずれを調整するために設けられている。
【0018】
システム2はさらに、上記1つまたは複数の結晶4を含んでいる上記流体31の液滴32の1つまたは複数を、上記超音波音響浮揚装置6内へ放射する放射器30を含む。浮揚している液滴8内の上記結晶4の位置および回転を視覚化する装置と、X線源34と、上記X線源34によって照射された1つの上記結晶4からのX線回折像24を検出するX線検出器36とが設けられている。ビームストップ29は、上記結晶4と上記X線検出器との間で、入射するX線ビーム20を停止させる。
【0019】
音響的に浮揚されている液滴8は、X線回折によって解析される1つまたは複数のタンパク質結晶4を含んでいる。高フレームレートの2次元検出器36は、回折されたX線24を捕捉する。音響浮揚装置6の状態は、結晶方位が、液滴8の内部循環を介して急速に変化するように選択される。これは典型的には1〜3kPaの範囲の音響浮揚圧を設定することによって行われる。1つのタンパク質結晶4を含んでいる液滴8は、自動的にコントロール可能な液滴放射器30を介して浮揚装置6内に配置される。
【0020】
さらに付加的な1つまたは複数の液滴放射器40が、超音波音響浮揚装置6内の浮揚している液滴8内へ、特定の化学的コンシステンシーを有する流体41の液滴42の1つまたは複数を放射する。
【0021】
システム2の目的は、試料を凍結させることなく、かつ増大された最大線量で、サブkHzからkHz以上のデータ取得レートで、1つの結晶4からX線回折データセットを収集することである。このシステムの別の目的は、オングストローム分解能で結晶構造を解明するための、タンパク質結晶の採取、X線ビーム路へのタンパク質結晶の搬送およびX線回折像のデータセットの取得から成る、完全に自動化された一連のタスクを備える、高速X線タンパク質構造解析を実現することである。
【0022】
システム2は、音響浮揚装置6と、2次元X線検出器36と、X線源34と、1つのタンパク質結晶4を含んでいる液滴8の放射器30とを含む。音響浮揚装置6は、超音波ミラー反射器12のフィードバックによって出力が安定化される超音波トランスデューサ10と、浮揚装置6の超音波音響浮揚圧を監視するトランスデューサ14とを含む。超音波ミラー反射器12は、上記トランスデューサ14を上記ミラー反射器12に取り付けることによって、浮揚装置圧力センサであってもよい。2次元X線検出器36は、フレーム間の最小の非アクティブ時間で、サブkHzからkHz以上の高い繰り返し率で一連のX線像を捕捉することができる。
【0023】
音響浮揚装置6の一実施形態では、定在波音響圧力分布30が、上記トランスデューサ10と上記反射器12との間に確立される。ピーク圧力振幅が十分な量であるとき、液滴8を、垂直方向と水平方向の両方で、小さなドリフト振幅で、あらゆる圧力ノードに近い位置で浮揚させることができる。特に重要なのは、音響浮揚圧を調整して、音響流による、浮揚されている液滴8の内部循環を介して、浮揚されている液滴8内のタンパク質結晶4の安定した浮揚状態ならびに高速の回転および/または軌道周回を実現することである。これは例えば、音響圧を、次のような圧力より低く調整することによって実現可能である。すなわち液滴8を噴霧することができるが、その値を下回ると、重力のために浮揚が維持できない圧力閾値よりも十分に(例えば40〜60%)大きい圧力より低く調整することによって実現可能である。これは、音響反射器12を含んでいる浮揚装置の実施形態の場合において、上記トランスデューサ10と上記反射器12との間の間隙を調整することによって行われる。
【0024】
放射器30は、結晶化トレイ内への、1つまたは複数の集中高周波超音波パルスを用いた音響放射を使用してもよい、またはキャピラリーにパルス状の音響圧を印加することによる、結晶化キャピラリーからの音響放射を使用してもよい。