特許第6775764号(P6775764)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6775764
(24)【登録日】2020年10月9日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20201019BHJP
   H01M 4/14 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   H01M4/62 B
   H01M4/14 Q
【請求項の数】5
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-193616(P2016-193616)
(22)【出願日】2016年9月30日
(65)【公開番号】特開2018-56059(P2018-56059A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】籠橋 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】元井 郁美
【審査官】 福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−250913(JP,A)
【文献】 特開平11−121008(JP,A)
【文献】 特開平09−082317(JP,A)
【文献】 特開平04−065062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機防縮剤を含有する負極電極材料を負極板中に備える鉛蓄電池であって、
前記有機防縮剤は、
芳香環を有しかつS元素含有量が3000μmol/g以上のS高分子と、
芳香環を有しかつS元素含有量が2000μmol/g以下のL高分子とを含有し、
S高分子の質量MS1とL高分子の質量ML1とが、
0.05≦ML1/(ML1+MS1)≦0.15 を充たす鉛蓄電池。
【請求項2】
鉛蓄電池の負極板から、下記の手順により測定した、L高分子の質量ML1とS高分子の質量MS1とが、 0.05≦ML1/(ML1+MS1)≦0.15 を充たす鉛蓄電池:
手順: 満充電後に、水洗により硫酸分を除去済みの負極板から分離した負極電極材料を、1mol/LのNaOH水溶液に40℃で48時間浸漬して溶解させた溶液から不溶成分をろ過により除去し、
カラムに前記溶液を通して、脱塩及び分画し、
分画した各成分について、波長350nmでの吸光度A350と波長300nmでの吸光度A300とを測定し、
ML1=(A350/A300>0.5の分画成分の質量和)
MS1=(A350/A300≦0.5の分画成分の質量和) とする。
【請求項3】
S高分子のS元素含有量が3000μmol/g以上であることを特徴とする、請求項2に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
S高分子のS元素含有量が6000μmol/g以下であることを特徴とする、請求項1または3に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
負極電極材料の密度が3.8g/cm3以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用等の鉛蓄電池では、始動性能を長期間に渡り確保するため、低温ハイレート容量の維持率が重要である。
【0003】
関連する先行技術を示す。特許文献1(WO2013/005733 )は、ビスフェノール縮合物とリグニンスルホン酸とを、負極電極材料中に含有させることにより、低温ハイレート容量を高めることができることを開示している。またビスフェノール類スルホン酸とリグニンスルホン酸の質量の関係は、リグニンスルホン酸/(リグニンスルホン酸+ビスフェノール縮合物)は0.16以上である。
【0004】
特許文献2(WO2012/017702)は、リグニンスルホン酸を20mass%以上、ビスフェノール類スルホン酸の縮合物を80mass%以下の割合で、負極防縮剤に含有させることにより、低温ハイレート容量の初期値を高めることができることを開示している。特許文献1,2は、低温ハイレート容量の維持率に関しては記載していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2013/005733
【特許文献2】WO2012/017702
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自動車用等の鉛蓄電池では、始動性能を確保するため、低温ハイレート容量が求められる。これに対し、有機防縮剤を添加することで初期の低温ハイレート容量の向上がなされてきた。さらに、始動性能を長期間に渡り確保するため、低温ハイレート容量の維持率が重要視されてきている。そして発明者は、有機防縮剤と低温ハイレート容量の維持率との関係を検討し、本発明に到った。長期にわたり低温ハイレート容量を維持することが可能になったことは技術的に大きな意味を持つ。
【0007】
この発明の課題は、鉛蓄電池での低温ハイレート容量の維持率を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の1つは、有機防縮剤を含有する負極電極材料を負極板中に備える鉛蓄電池であって、
前記有機防縮剤は、
芳香環を有しかつS元素含有量が3000μmol/g以上のS高分子と、
芳香環を有しかつS元素含有量が2000μmol/g以下のL高分子とを含有し、
S高分子の質量MS1とL高分子の質量ML1とが、
0.05≦ML1/(ML1+MS1)≦0.15 を充たす。
【0009】
この発明の一つは、
鉛蓄電池の負極板から、下記の手順により測定した、L高分子の質量ML1とS高分子の質量MS1とが、 0.05≦ML1/(ML1+MS1)≦0.15 を充たす鉛蓄電池である。
手順: 満充電後に、水洗により硫酸分を除去済みの負極板から分離した負極電極材料を、1mol/LのNaOH水溶液に40℃で48時間浸漬して溶解させた溶液から不溶成分をろ過により除去し、
カラムに前記溶液を通して、脱塩及び分画し、
分画した各成分について、波長350nmでの吸光度A350と波長300nmでの吸光度A300とを測定し、
ML1=(A350/A300>0.5の分画成分の質量和)
MS1=(A350/A300≦0.5の分画成分の質量和) とする。
これにより、低温ハイレート容量(低温HR容量)の維持率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】3種類の有機防縮剤を単独で含有させた際の、有機防縮剤のS元素含有量と溶出量との関係を示す特性図
図2】有機防縮剤含有量を固定した際の、L高分子含有率と有機防縮剤の溶出量との関係を示す特性図
図3】S高分子含有量を固定した際の、L高分子含有量と有機防縮剤の溶出量との関係を示す特性図
図4】有機防縮剤に対してL高分子を5mass%含有させた際の、L高分子のS元素含有量と有機防縮剤の溶出量との関係を示す特性図
図5】有機防縮剤に対してL高分子を5mass%含有させた際の、S高分子のS元素含有量と有機防縮剤の溶出量との関係を示す特性図
図6】有機防縮剤の含有量と、有機防縮剤の溶出量との関係を示す特性図
図7】S高分子のS元素含有量と、初期低温ハイレート容量との関係を示す特性図
図8】S高分子のS元素含有量と、低温ハイレート容量の維持率との関係を示す特性図
図9】S高分子のS元素含有量と、初期5時間率容量との関係を示す特性図
図10】L高分子含有率と正極電極材料の脱落量との関係を示す特性図
図11】L高分子含有率と寿命サイクル数との関係を示す特性図
図12】L高分子含有率と初期低温ハイレート容量との関係を示す特性図
図13】L高分子含有率と低温ハイレート容量の維持率との関係を示す特性図
図14】L高分子含有率と初期5時間率容量との関係を示す特性図
図15】負極電極材料の密度と溶出量との関係を示す特性図で、有機防縮剤含有量は0.2mass%、L高分子含有率は5%
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明の1つは、有機防縮剤を含有する負極電極材料を負極板中に備える鉛蓄電池であって、
前記有機防縮剤は、
芳香環を有しかつS元素含有量が3000μmol/g以上のS高分子と、
芳香環を有しかつS元素含有量が2000μmol/g以下のL高分子とを含有し、
S高分子の質量MS1とL高分子の質量ML1とが、
0.05≦ML1/(ML1+MS1)≦0.15 を充たす。
【0012】
この発明の一つは、
鉛蓄電池の負極板から、下記の手順により測定した、L高分子の質量ML1とS高分子の質量MS1とが、 0.05≦ML1/(ML1+MS1)≦0.15 を充たす鉛蓄電池である。
手順: 満充電後に、水洗により硫酸分を除去済みの負極板から分離した負極電極材料を、1mol/LのNaOH水溶液に40℃で48時間浸漬して溶解させた溶液から不溶成分をろ過により除去し、
カラムに前記溶液を通して、脱塩及び分画し、
分画した各成分について、波長350nmでの吸光度A350と波長300nmでの吸光度A300とを測定し、
ML1=(A350/A300>0.5の分画成分の質量和)
MS1=(A350/A300≦0.5の分画成分の質量和) とする。
これにより、低温ハイレート容量の維持率を向上させることができる。
【0013】
L高分子の質量と、S高分子とL高分子の質量和との比を0.05以上0.15以下とすると、低温ハイレート容量の維持率を高くできる。この性質は上記の質量比を0.2以上とすると発現せず、有機防縮剤中の少量のL高分子が低温ハイレート容量の維持率に寄与することは注目すべきことである。
【0014】
ここで、S高分子の、S元素含有量は3000μmol/g以上であってもよい。この一側面によれば、低温ハイレート容量の維持率を向上させることができるので好ましい。
【0015】
ここで、S高分子の、S元素含有量を4000μmol/g以上としてもよい。この一側面によれば、低温ハイレート容量の維持率をさらに向上させることができるので好ましい。
【0016】
ここで、S高分子の、S元素含有量を6000μmol/g以下としてもよい。この一側面によれば、有機防縮剤の溶出を抑制することができるので好ましい。
【0017】
ここで、S高分子の、S元素含有量を4000μmol/g以上6000μmol/g以下としてもよい。この一側面によれば、低温ハイレート容量を特に高く維持すると共に、有機防縮剤の溶出を抑制することができるので好ましい。
【0018】
ここで、負極電極材料の密度を3.8g/cm3以上としてもよい。この一側面によれば、有機防縮剤の溶出を抑制することができるので好ましい。
【0019】
ここで、負極電極材料の密度を4.0g/cm3以上としてもよい。この一側面によれば、負極電極材料の溶出をさらに抑制することができるので好ましい。
【0020】
用語と単位
実施例では、ビスフェノール類スルホン酸の縮合物を単にビスフェノール類スルホン酸と呼ぶ。同様に、ナフタレンスルホン酸の縮合物を単にナフタレンスルホン酸と呼ぶ。L高分子はS元素含有量が2000μmol/g以下の有機防縮剤であり、S高分子はS元素含有量が3000μmol/g以上の有機防縮剤である。有機防縮剤は、S高分子とL高分子の双方を含む、全有機防縮剤の意味で用いる。また物質の含有量を%で表す場合、mass%を意味する。
【0021】
L高分子とS高分子の定量法
満充電された鉛蓄電池を分解し、負極板を取り出し、水洗により硫酸分を除去し、乾燥する。負極板から所定質量Mの電極材料(活物質)を採取し、1mol/lのNaOH水溶液に40℃で48時間活物質を浸漬して有機防縮剤を抽出し、不溶成分をろ過で取り除いた溶液を得る。この溶液を、カラム収率yを測定したゲルカラムクロマトグラフィー等により、脱塩及び分画する。
分画には、高さ30cm、内径7.8mmのカラムを用い、流速1.0ml/minとし、3mlずつ分画する。
分画した各成分毎に、紫外可視吸光度計で紫外可視吸収スペクトルを測定し、カルボキシル基等に対応する350nmでの吸光度A350と、スルホン酸基等に対応する300nmでの吸光度A300とを測定する。また分画した各成分を濃縮及び乾燥して粉末試料とし、成分毎の粉末試料の質量を測定する。そしてL高分子の質量ML1とS高分子の質量MS1を、下式により定める。
ML1=(A350/A300>0.5の分画成分の質量和) 1)
MS1=(A350/A300≦0.5の分画成分の質量和) 2)
負極活物質中のL高分子の濃度及びS高分子の濃度は、各々 ML1/(M×y)及び MS1/(M×y)で定まる。
【0022】
S元素含有量の測定法
分画した各成分0.1g中のS元素を酸素燃焼フラスコ法により硫酸に変換し、トリンを指示薬として溶出液を過塩素酸バリウムで滴定することにより、各成分のS元素含有量を求める。過塩素酸バリウム水溶液の濃度をC (μmol L-1)、滴定量V (L)とすると、S元素含有量Ws(μmol g-1)は、Ws = CV / 0.1 となる。
【0023】
負極活物質の密度の測定法
負極電極材料の密度は化成後の負極電極材料のかさ密度の値を意味し、以下のようにして測定する。
化成後の電池を満充電してから解体し、入手した負極板を、水洗と乾燥とを施すことにより負極板中の電解液を除く。
次いで負極板から負極電極材料を分離して、未粉砕の測定試料を入手する。
測定容器に試料を投入し、真空排気した後、0.5〜0.55psiaの圧力で水銀を満たして、負極電極材料のかさ容積を測定し、
測定試料の質量をかさ容積で除すことにより、負極電極材料のかさ密度を求める。
尚、測定容器の容積から、水銀の注入容積を差し引いた容積をかさ容積とする。
【0024】
満充電状態にする補充電条件は以下の通りである。
(1)液式電池の場合、25℃、水槽中、0.2CAで2.5V/セルに達するまで定電流充電をおこなった後、さらに0.2CAで2時間、定電流充電をおこなう。
(2)VRLA電池(制御弁式鉛蓄電池)の場合、25℃、気槽中、0.2CA、2.23V/セルの定電流定電圧充電をおこない、定電圧充電時の充電電流が1mCA以下になった時点で充電を終了する。
【0025】
鉛蓄電池の特性の測定法
・ 低温ハイレート容量: -15℃の気槽中で6.25CAで放電した際に、端子電圧が6.0Vへ低下するまでの時間を低温ハイレート放電持続時間とし、低温ハイレート容量を測定した。ここでの1CAは、S元素含有量が500μmol/gのリグニンスルホン酸を負極活物質中に0.2mass%含有させ、S高分子を含有させなかった鉛蓄電池(標準電池)での5時間率容量を基準の容量とし、鉛蓄電池によらず一定である。結果は、標準電池での値を100とする相対値で示す。
・ 初期5時間率容量: 鉛蓄電池を25℃で、終止電圧10.5Vまで0.2CAで放電させ、0.2CAで放電電気量の1.3倍充電するサイクルを3回行い、3サイクルの放電電気量の平均を初期5時間率容量とした。結果は、標準電池での値を100とする相対値で示す。
・ 寿命サイクル数:SBA S0101:2014に規定するアイドリングストップ寿命試験により求めた。
・ 正極電極材料(活物質)の脱落量: アイドリングストップ寿命試験を3万サイクル経験後の鉛蓄電池を満充電し、正極板中の正極電極材料(活物質)の質量から、脱落量を測定した。
・ 有機防縮剤の溶出量: アイドリングストップ寿命試験を3万サイクル経験後の鉛蓄電池に対し、L高分子含有量、S高分子含有量を測定し、有機防縮剤濃度C1(C1=(ML+MS)/M)を求めた。当初の有機防縮剤濃度C2(C2=(ML+MS)/M)を用い、 1−C1/C2 を有機防縮剤の溶出量とした。なおMLはL高分子の質量を、MSはS高分子の質量を表す。
・ 低温ハイレート容量の維持率: 試験温度60℃、充電電流0.05CAによる高温過充電を10日間経験させた後の鉛蓄電池に対し、低温ハイレート容量を測定し、初期低温ハイレート容量との比を維持率とした。
【0026】
鉛蓄電池の製造例
S高分子として、ビスフェノール類スルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、及びリグニンスルホン酸のスルホン酸含有量を定法よりも増したものを用いた。これらのS高分子の混合物を用いても良い。S元素として、スルホン酸基の他にスルホニル基等を含有させても良く、S元素の存在形態は任意である。またS高分子の基材となる有機高分子の種類は任意である。
【0027】
ビスフェノールの種類はA型、F型、S型のいずれでも良い。ビスフェノールスルホン酸の場合もナフタレンスルホン酸の場合も、縮合剤は例えばホルムアルデヒドであるが、縮合剤の種類は任意である。またスルホン酸基は、ビスフェノールのフェニル基、ナフタレンスルホン酸のナフタレン基に直接結合していても、骨格とは別のフェニル基、ナフタレン基、アルキル基等に結合していても良い。
【0028】
L高分子としてS元素含有量が通常のリグニンスルホン酸を用い、スルホン化条件を制御して化成後の電池でのS元素含有量を変化させた。L高分子の基材となる有機高分子の種類は、任意である。S高分子とL高分子とを混合して有機防縮剤としたが、S高分子とL高分子とを別々に鉛粉に混合しても良い。
【0029】
以下に、本願発明の最適実施例を示す。本願発明の実施に際しては、当業者の常識及び先行技術の開示に従い、実施例を適宜に変更できる。なお実施例では、負極電極材料を負極活物質と呼び、正極電極材料を正極活物質と呼ぶことがある。また負極板は、負極集電体(負極格子)と負極電極材料(負極活物質)とから成り、正極板は、正極集電体(正極格子)と正極電極材料(正極活物質)とから成り、集電体以外の固形成分は電極材料に属するものとする。
【0030】
鉛粉と有機防縮剤とカーボンと硫酸バリウム及び合成繊維補強材を水と硫酸で混練し、負極活物質ペーストとした。化成後の負極活物質(厳密には負極電極材料)に対して、硫酸バリウムは1mass%、カーボンは0.2mass%、合成繊維補強材は0.1mass%含有させた。これらの成分の好ましい含有量の範囲は、硫酸バリウムは0.2mass%以上2.0mass%以下、カーボンは0.05mass%以上3.0mass%以下、合成繊維補強材は0.05mass%以上0.2mass%以下である。負極活物質ペーストを、Pb-Ca-Sn系合金からなる負極格子に充填し、熟成と乾燥を施して未化成の負極板とした。鉛粉の種類、製造条件、格子の種類等は任意で、負極活物質は上記以外の成分を含有させても良い。
【0031】
鉛粉と合成繊維補強材(化成済みの正極活物質に対して0.1mass%)とを、水と硫酸で混練し正極活物質ペーストとした。このペーストをPb-Ca-Sn系合金から成る正極格子に充填し熟成と乾燥とを施し、未化成の正極板とした。
【0032】
未化成の負極板を微多孔質のポリエチレンから成る袋状のセパレータに収容し、セル当たり未化成の正極板5枚と未化成の負極板6枚とを対向させて電槽にセットし、電解液を加えて電槽化成して12V出力の液式鉛蓄電池を作製した。負極活物質の化成後の密度は3.0g/cm3〜5.0g/cm3となる範囲で変化させた。鉛蓄電池は制御弁式でも良く、格子に代えてPb系合金等の芯金を正極の集電体に用いても良い。化成後に、L高分子とS高分子の活物質中の濃度を前出の方法により定量した。また、L高分子とS高分子中のS元素含有量を前出の方法により測定した。負極電極材料の密度は、島津製作所製、自動ポロシメータ、オートポアIV9505を用い、前出の方法により測定した。
【0033】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成処理は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0034】
L高分子を含まない有機防縮剤での、S元素含有量と有機防縮剤の溶出量との関係
L高分子とS高分子とを混合するのではなく、1種類の有機防縮剤を用い、そのS元素含有量を変えて、有機防縮剤のS元素含有量と溶出量との関係を求めた。結果を表1と図1とに示し、有機防縮剤の含有量は0.2mass%に固定し、活物質密度は3.5g/cm3に固定した。防縮剤の基材を変えても傾向は同じでS元素含有量が2000μmol/gを越えると、溶出量が増加した。
【0035】
【表1】
【0036】
L高分子とS高分子とを含む有機防縮剤での、L高分子含有量と溶出量との関係
S高分子のS元素含有量を5000μmol/g、L高分子のS元素含有量を500μmol/gに固定し、有機防縮剤の含有量を0.2mass%に固定し、活物質密度を3.5g/cm3に固定し、有機防縮剤中のL高分子の含有率を変化させた際の、有機防縮剤の溶出量を表2と図2とに示す。L高分子含有率を5mass%以上とすることにより、溶出量が低下した。
【0037】
【表2】
【0038】
確認のため、S高分子含有量を0.2mass%に固定し、L高分子含有量を変化させて、有機防縮剤の溶出量を測定した。結果を表3と図3とに示す。この場合も、L高分子含有率を5mass%以上とすることにより、溶出量が低下した。S高分子の基材が変化し、S高分子の含有量を固定するか有機防縮剤の総量を固定するかを変化させても、L高分子含有率が5mass%以上で、溶出量が低下することは変わらなかった。
【0039】
【表3】
【0040】
L高分子のS元素含有量と、有機防縮剤の溶出量との関係
S高分子のS元素含有量を5000μmol/gに固定し、有機防縮剤の負極活物質中の含有量を0.2mass%に固定し、活物質密度を3.5g/cm3に固定し、有機防縮剤中のL高分子の含有率を5mass%に固定した。L高分子のS元素含有量を変化させた際の、有機防縮剤の溶出量を表4と図4とに示す。L高分子のS元素含有量が2000μmol/g以下で、溶出量が小さくなった。
【0041】
【表4】
【0042】
S高分子のS元素含有量と、有機防縮剤の溶出量との関係
有機防縮剤の含有量を0.2mass%に固定し、L高分子のS元素含有量を500μmol/gに固定し、活物質密度を3.5g/cm3に固定し、有機防縮剤中のL高分子の含有率を5mass%に固定し、S高分子のS元素含有量を変化させた際の、有機防縮剤の溶出量を表5と図5とに示す。S高分子のS元素含有量が6000μmol/gを越えると、溶出量が大きくなった。
【0043】
【表5】
【0044】
有機防縮剤の含有量と、有機防縮剤の溶出量との関係
S高分子のS元素含有量を5000μmol/gに固定し、L高分子のS元素含有量を500μmol/gに固定し、有機防縮剤中のL高分子の含有率を5mass%に固定し、活物質密度を3.5g/cm3に固定し、有機防縮剤の含有量を変化させた際の、有機防縮剤の溶出量を表6と図6とに示す。有機防縮剤の含有量が0.3mass%以下の範囲で、溶出量はほぼ一定であった。このことから、有機防縮剤の含有量は0.5mass%以下が好ましく、より好ましくは0.01mass%以上0.5mass%以下とし、特に好ましくは0.1mass%以上0.5mass%以下とする。
【0045】
【表6】
【0046】
S高分子のS元素含有量と鉛蓄電池の特性の関係
有機防縮剤の含有量を0.2mass%に固定し、L高分子(リグニンスルホン酸)のS元素含有量を500μmol/gに固定し、活物質密度を3.5g/cm3に固定し、有機防縮剤中のL高分子の含有率を5mass%に固定した。ビスフェノール類スルホン酸から成るS高分子のS元素含有量を変化させた際の、鉛蓄電池の特性の変化を、表7と図7図9に示す。S高分子のS元素含有量が4000μmol/g以上で特性が大きく向上し、6000μmol/gで初期低温ハイレート容量(図7)も、低温ハイレート容量の維持率(図8)も最大となり、初期5時間率容量(図9)はS元素含有量が6000μmol/gを越えると急減した。これらのことから、S高分子のS元素含有量は、L高分子のみの時以上の性能が得られる3000μmol/g以上とし、好ましくは4000μmol/g以上とする。またS高分子のS元素含有量は、より好ましくは6000μmol/g以下とし、最も好ましくは4000μmol/g以上6000μmol/g以下とする。
【0047】
【表7】
【0048】
L高分子の含有率と鉛蓄電池の特性の関係
表8〜表10はL高分子の含有率と鉛蓄電池の特性との関係を示し、表8はS高分子としてS元素含有量が5000μmol/gのリグニンスルホン酸を用いた際の結果を、表9はS高分子としてS元素含有量が5000μmol/gのビスフェノール類スルホン酸を用いた際の結果を、表10はS高分子としてS元素含有量が5000μmol/gのナフタレンスルホン酸を用いた際の結果を示す。いずれも有機防縮剤の含有量は0.2mass%、L高分子はリグニンスルホン酸で、S元素含有量が500μmol/g、活物質密度は3.5g/cm3とした。
【0049】
L高分子含有率と正極活物質の脱落量との関係を図10に、寿命サイクル数との関係を図11に、初期低温ハイレート容量との関係を図12に、低温ハイレート容量の維持率との関係を図13に、初期5時間容量との関係を図14に示す。S高分子の基材の影響は小さく、寿命サイクル数と低温ハイレート容量の維持率は、L高分子の含有率が5mass%以上15mass%以下で特異なピークを示す。正極活物質の脱落量はL高分子の含有率が5mass%以上で低下し、初期低温ハイレート容量と初期5時間率容量はL高分子の含有率が15mass%以下で高くなった。
【0050】
【表8】
【0051】
【表9】
【0052】
【表10】
【0053】
負極電極材料密度と有機防縮剤の溶出量との関係
S高分子とL高分子を共に用いると、S高分子のみの場合に比べ、特異な活物質密度の影響が見られた。結果を表11と図15とに示し、有機防縮剤の含有量は0.2mass%に固定し、S高分子はS元素含有量が5000μmol/gのビスフェノール類スルホン酸、L高分子はS元素含有量が500μmol/gのリグニンスルホン酸で、有機防縮剤中のL高分子の含有率は5mass%である。負極活物質の密度が3.5g/cmを越えると有機防縮剤の溶出量が低下した。データは示さないが、これにより負極活物質の脱落量、低温ハイレート容量の維持率、寿命サイクル数等が向上する。負極活物質の密度は好ましくは3.8g/cm以上、より好ましくは4.0g/cm以上とする。また負極活物質の密度は5.0g/cm以下がより好ましい。
【0054】
【表11】
【0055】
実施例における負極活物質中の有機防縮剤のS元素含有量(以下単に「S元素含有量」)、および負極活物質(負極電極材料)の密度の測定は、前出の測定方法に記載の方法にて実施した。
【0056】
以下の様な態様にて実施することができる。
1. 鉛蓄電池の負極板から、下記の手順により測定した、L高分子の質量ML1とS高分子の質量MS1とが、 0.05≦ML1/(ML1+MS1)≦0.15 を充たす鉛蓄電池:
手順: 満充電後に、水洗により硫酸分を除去済みの負極板から分離した負極電極材料を、1mol/LのNaOH水溶液に40℃で48時間浸漬して溶解させた溶液から不溶成分をろ過により除去し、
カラムに前記溶液を通して、脱塩及び分画し、
分画した各成分について、波長350nmでの吸光度A350と波長300nmでの吸光度A300とを測定し、
ML1=(A350/A300>0.5の分画成分の質量和)
MS1=(A350/A300≦0.5の分画成分の質量和) とする。
2. 1.に記載の鉛蓄電池で、
S高分子の、S元素含有量が3000μmol/g以上である。
3. 1.または2.に記載の鉛蓄電池で、
S高分子の、S元素含有量が4000μmol/g以上である。
4. 1.〜3.のいずれかに記載の鉛蓄電池で、
S高分子の、S元素含有量が6000μmol/g以下である。
5. 4.に記載の鉛蓄電池で、
S高分子の、S元素含有量が4000μmol/g以上6000μmol/g以下である。
6. 1.〜5.のいずれかに記載の鉛蓄電池で、
負極電極材料の密度が3.8g/cm3以上である。
7. 6.に記載の鉛蓄電池で、
負極電極材料の密度が4.0g/cm3以上である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15