特許第6775765号(P6775765)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6775765スチールコード接着用ゴム組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6775765
(24)【登録日】2020年10月9日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】スチールコード接着用ゴム組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20201019BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20201019BHJP
   C08K 3/11 20180101ALI20201019BHJP
   C08K 3/06 20060101ALI20201019BHJP
   B29D 30/00 20060101ALI20201019BHJP
   B60C 1/00 20060101ALN20201019BHJP
【FI】
   C08L9/00
   C08K3/013
   C08K3/11
   C08K3/06
   B29D30/00
   !B60C1/00 C
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-200795(P2016-200795)
(22)【出願日】2016年10月12日
(65)【公開番号】特開2018-62557(P2018-62557A)
(43)【公開日】2018年4月19日
【審査請求日】2019年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(72)【発明者】
【氏名】田口 隆文
(72)【発明者】
【氏名】大槻 洋敏
【審査官】 幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−080475(JP,A)
【文献】 特開2014−114341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 9/00
C08K 3/00
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソプレン系ゴムを主成分とするゴム成分に、充填剤、コバルト塩、不溶性硫黄を配合して混練することによりスチールコード接着用ゴム組成物を製造するスチールコード接着用ゴム組成物の製造方法であって、
前記不溶性硫黄として、単体の硫黄をステンレス配管内において窒素雰囲気下で加熱することにより重合させた不溶性硫黄を用い、
混練に際して、混練後における鉄分濃度が1.0ppm以下となるように管理して、スチールコード接着用ゴム組成物を製造することを特徴とするスチールコード接着用ゴム組成物の製造方法。
【請求項2】
前記不溶性硫黄の鉄分濃度が、20ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載のスチールコード接着用ゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
イソプレン系ゴムを主成分とするゴム成分に、充填剤、コバルト塩、不溶性硫黄を配合して、密閉式混練機を用いて混練することを特徴とする請求項1または請求項に記載のスチールコード接着用ゴム組成物の製造方法。
【請求項4】
前記密閉式混練機が、バンバリーミキサーであることを特徴とする請求項に記載のスチールコード接着用ゴム組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに使用されるスチールコード接着用ゴム組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの製造においては、スチールコードにゴムが被覆、接着された種々のタイヤ用ゴム材料が使用されており、スチールコードとゴム組成物との接着性が十分でないと、使用中にスチールコードとゴム組成物とが剥離して、タイヤの耐久性を大きく低下させる恐れがある。
【0003】
このため、スチールコード接着用ゴム組成物はタイヤの耐久性改善にとって重要な部材であるということができる。
【0004】
このスチールコード接着用ゴム組成物は、天然ゴム(NR)やポリイソプレンゴム(IR)を主成分とするゴム成分に、充填剤としてのカーボンブラックやシリカ等と共に、コバルト塩と比較的大量の不溶性硫黄を配合して混練することにより製造されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−156418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、近年、同じ製造方法で混練しているにも拘らず、得られたスチールコード接着用ゴム組成物においてスチールコードに対する接着性が十分でなく、タイヤの耐久性を大きく低下させるような事態が発生して、廃棄スクラップの発生を招く場合があった。
【0007】
そこで、本発明は、空気入りタイヤの耐久性を低下させないスチールコード接着用ゴム組成物を安定して製造することが可能なスチールコード接着用ゴム組成物の製造技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討を行い、以下に記載する発明により上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
請求項1に記載の発明は、
イソプレン系ゴムを主成分とするゴム成分に、充填剤、コバルト塩、不溶性硫黄を配合して混練することによりスチールコード接着用ゴム組成物を製造するスチールコード接着用ゴム組成物の製造方法であって、
前記不溶性硫黄として、単体の硫黄をステンレス配管内において窒素雰囲気下で加熱することにより重合させた不溶性硫黄を用い、
混練に際して、混練後における鉄分濃度が1.0ppm以下となるように管理して、スチールコード接着用ゴム組成物を製造することを特徴とするスチールコード接着用ゴム組成物の製造方法である。
【0011】
請求項に記載の発明は、
前記不溶性硫黄の鉄分濃度が、20ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載のスチールコード接着用ゴム組成物の製造方法である。
【0012】
請求項に記載の発明は、
イソプレン系ゴムを主成分とするゴム成分に、充填剤、コバルト塩、不溶性硫黄を配合して、密閉式混練機を用いて混練することを特徴とする請求項1または請求項に記載のスチールコード接着用ゴム組成物の製造方法である。
【0013】
請求項に記載の発明は、
前記密閉式混練機が、バンバリーミキサーであることを特徴とする請求項に記載のスチールコード接着用ゴム組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、空気入りタイヤの耐久性を低下させないスチールコード接着用ゴム組成物を安定して製造することが可能なスチールコード接着用ゴム組成物の製造技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.本発明に係る技術の背景
本発明を実施するための形態について説明するに先立って、本発明の理解を容易にするために、本発明に係る技術の背景について説明する。
【0020】
前記したように、近年、同じ製造方法で混練しているにも拘らず、得られたスチールコード接着用ゴム組成物においてスチールコードに対する接着性が十分でなく、タイヤの耐久性を大きく低下させるような事態が発生して、廃棄スクラップの発生を招く場合があった。
【0021】
本発明者が、種々の実験と検討を行ったところ、スチールコード接着用ゴム組成物に鉄、マンガン、鉛、クロム等が混入されていると、接着補強剤として配合されているコバルト塩の作用をこれらの金属が阻害して、スチールコードとの接着力の低下を招き、結果的に空気入りタイヤの耐久性を低下させることが分かった。
【0022】
そして、これらの金属のうち、鉄を除く金属は、スチールコード接着用ゴム組成物の製造に際して混入する可能性が低いため、上記した問題の解決にあたっては、鉄分の混入について管理することが現実的であることが分かった。
【0023】
そこで、本発明者は、この鉄分がどこから混入したものであるか、引き続いて、実験と検討を行った。その結果、スチールコード接着用ゴム組成物を構成する上記各配合材料には、鉄単体の形や、酸化鉄、硫化鉄、塩化鉄等の化合物の形で鉄分が混入しているが、不溶性硫黄を除く配合材料においては、スチールコードとの接着力の低下を招く程には鉄分濃度が高くなく、不溶性硫黄における鉄分濃度に影響されていることが分かった。
【0024】
即ち、不溶性硫黄における鉄分濃度は大きくばらついており、鉄分濃度が高い不溶性硫黄が用いられている場合には、スチールコード接着用ゴム組成物における鉄分濃度も高くなって、スチールコードとの接着力の低下を招いていることが分かった。
【0025】
そして、得られたスチールコード接着用ゴム組成物において適切な鉄分濃度を調べたところ、1.0ppm以下の鉄分濃度であれば、確実に、空気入りタイヤの耐久性の低下を防止して、優れた耐久性の空気入りタイヤを提供できることが分かり、本発明を完成するに至った。
【0026】
2.本発明を実施するための形態
以下、実施の形態に基づいて本発明を具体的に説明する。
【0027】
本実施の形態に係るスチールコード接着用ゴム組成物は、従来と同様に、イソプレン系ゴムを主成分とするゴム成分に、充填剤としてのカーボンブラックやシリカ等と共に、コバルト塩と比較的大量の不溶性硫黄を配合して混練することにより製造される。
【0028】
しかし、本実施の形態においては、混練されたスチールコード接着用ゴム組成物における鉄分濃度が1.0ppm以下に管理されている点で従来と異なっており、鉄分濃度が1.0ppm以下に管理されたスチールコード接着用ゴム組成物をスチールコードに被覆、接着させて空気入りタイヤ用ゴム材料を製造し、さらに、この空気入りタイヤ用ゴム材料を用いて空気入りタイヤを製造することにより、優れた耐久性の空気入りタイヤを提供することができる。
【0029】
上記した本実施の形態に係るスチールコード接着用ゴム組成物は、以下に示す配合材料および製造方法により製造される。
【0030】
(a)配合材料
本実施の形態に係るスチールコード接着用ゴム組成物の配合材料は、基本的に従来と同様の材料が使用されるが、上記したように、不溶性硫黄に含有される鉄分の濃度が空気入りタイヤの耐久性に影響を与えるため、以下においては、まず、不溶性硫黄について説明し、その後、その他の配合材料について説明する。
【0031】
(イ)不溶性硫黄
前記したように、スチールコード接着用ゴム組成物の製造に際しては、空気入りタイヤの耐久性に影響を与えないように、鉄分濃度を1.0ppm以下に管理して混練する必要がある。即ち、スチールコード接着用ゴム組成物における鉄分濃度が1.0ppmを超えると、ゴムとスチールコードの接着性を高めるためのコバルト塩を配合した効果が小さくなって、十分な接着力を確保することができなくなり、タイヤの耐久性を維持することができない。
【0032】
そして、前記したように、スチールコード接着用ゴム組成物における鉄分濃度は、不溶性硫黄において大きくばらつく鉄分濃度に影響されている。
【0033】
このため、本実施の形態において、加硫剤として配合される不溶性硫黄の鉄分濃度はできるだけ低いことが求められるが、スチールコード接着用ゴム組成物における通常の不溶性硫黄の配合量から考えると、不溶性硫黄において許容される鉄分濃度は20ppm以下であることが好ましく、鉄分濃度20ppm以下の不溶性硫黄を用いることにより、確実に、鉄分濃度1.0ppmのスチールコード接着用ゴム組成物を製造することができる。
【0034】
ここで、このような低い鉄分濃度の不溶性硫黄の製造方法について説明する。
【0035】
従来の不溶性硫黄は、Sで示される単体の硫黄(溶解性硫黄)を大気条件下でロール加熱し、その後、急冷して粉砕する。次に、粉砕された溶解性硫黄を鉄製配管に入れ、加熱して溶解性硫黄を重合反応させることにより作製されていたが、重合反応時、鉄製配管内に形成されていた鉄酸化物等が不溶性硫黄へ混入するため、得られた不溶性硫黄における鉄分濃度が大きく上昇していた。
【0036】
本実施の形態においては、単体の硫黄をステンレス配管内で窒素雰囲気下、間接的加熱して重合させ、同じくステンレス配管内で窒素雰囲気下、冷却、粉砕している。
【0037】
ステンレス配管では鉄錆(鉄酸化物)の形成が抑制されるため、このようなステンレス配管内で重合反応させることにより、配管からの鉄酸化物等の混入を防止することができる。この結果、不溶性硫黄の鉄分濃度を十分に低減させることができ、本実施の形態において好ましい20ppm以下にまで鉄分濃度を容易に低減させることができる。
【0038】
なお、上記した低い鉄分濃度の不溶性硫黄の製造方法は一例であって、その他の製造方法を採用してもよい。
【0039】
また、上記において、不溶性硫黄中の鉄分濃度は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置を用いて測定することができる。そして、不溶性硫黄と共にオイルが含まれているオイル処理不溶性硫黄の場合には、不溶性硫黄、オイルの総質量(すなわち、オイル処理不溶性硫黄の質量)に対する鉄分の含有量によって不溶性硫黄中の鉄分濃度とする。
【0040】
上記のように製造された低い鉄分濃度(好ましくは、20ppm以下)の不溶性硫黄を配合材料として用いることにより、混練されたスチールコード接着用ゴム組成物における鉄分濃度を1.0ppm以下に管理して、接着性に優れたスチールコード接着用ゴム組成物を安定して製造することができる。
【0041】
(ロ)ゴム成分
次に、不溶性硫黄以外の配合材料について説明するが、基本的に従来の配合材料と同様の材料を使用することができる。しかし、前記した通り、各々の配合材料における鉄分濃度は、できるだけ低いことが好ましい。
【0042】
本実施の形態において、ゴム成分としてはイソプレン系ゴムを主成分とするゴム成分が使用される。イソプレン系ゴムは、縦安定性、低燃費性、破断時伸び、スチールコードとの接着性、加工性、タイヤの耐久性をバランスよく改善できるという利点があり好ましい。なお、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)等のジエン系ゴムを適宜添加してもよい。
【0043】
具体的なイソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)等が挙げられるが、タイヤの耐久性、スチールコードとの接着性等に優れるという理由から天然ゴムが好ましく、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。また、ポリイソプレンゴムとしても特に限定されず、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。
【0044】
ゴム成分100質量部中のイソプレン系ゴムの含有量は、好ましくは60質量部以上、より好ましくは80質量部以上であり、100質量部であってもよい。60質量部未満であると、充分な破断時伸び、スチールコードとの接着性、加工性、タイヤの耐久性が得られない恐れがある。
【0045】
(ハ)コバルト塩
本実施の形態において、コバルト塩は、前記したように、ゴムとスチールコードの接着性を高めるために使用されるため、スチールコード接着用ゴム組成物において重要な配合材料である。具体的には、加硫時、スチールコード接着用ゴム組成物に含まれているコバルトが、スチールコードのメッキ界面へ移動することにより、スチールコード被覆メッキ層がCu−Zn−Coの3元合金となって優れた接着性を発揮する。
【0046】
このとき、スチールコード接着用ゴム組成物中の鉄分濃度が高ければ、コバルトのイオン化、移動、メッキ層中での定着が妨げられるため、前記したように、優れた接着性を発揮させることができない。
【0047】
具体的なコバルト塩としてはステアリン酸コバルトが挙げられるが、その他の有機酸コバルトを配合してもよい。有機酸コバルトとしては、例えば、ナフテン酸コバルト、アビチエン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ホウ素3ネオデカン酸コバルト等が挙げられる。中でも、スチールコードとの接着性に優れるという理由から、ホウ素含有有機酸コバルトが好ましい。
【0048】
(ニ)充填剤
本実施の形態において、使用される充填剤としては、主にカーボンブラックやシリカが挙げられるが、一般的にタイヤ用として用いられる充填剤であれば、本発明でも用いることができる。
【0049】
まず、カーボンブラックとしては特に限定されないが、硫黄と吸着しやすく、硫黄のブルームを好適に抑制でき、またタイヤの耐久性が好適に得られるという観点から、窒素吸着比表面積(BET比表面積(NSA))が60〜120m/g、窒素吸着比表面積(NSA)/ジブチルフタレート吸油量(DBP)>0.95を満たすカーボンブラックが好ましい。
【0050】
SAが60m/g未満では充分な破断時伸び、操縦安定性が得られない恐れがある一方、120m/gを超えると、充分な低燃費性、低燃費性が得られない恐れがある。また、DBPが0.95以下では発熱性が大きくなり低燃費性に劣る傾向があり、加工性にも劣る傾向がある。
【0051】
次に、シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)等が挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0052】
シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは100〜250m/gが好ましい。100m/g未満では、破断時伸びが低下する傾向がある一方、250m/gを超えると、低燃費性、加工性が低下する傾向がある。
【0053】
(b)スチールコード接着用ゴム組成物の製造
次に、上記した各配合材料に基づいたスチールコード接着用ゴム組成物の製造について説明する。
【0054】
上記した各配合材料を適宜配合して、混練後のスチールコード接着用ゴム組成物における鉄分濃度が1.0ppm以下となるように、混練を管理することにより、優れた接着性のスチールコード接着用ゴム組成物を安定して製造することができ、得られたスチールコード接着用ゴム組成物をスチールコードに被覆、接着させて空気入りタイヤ用ゴム材料を製造し、さらに、この空気入りタイヤ用ゴム材料を用いて空気入りタイヤを製造することにより、優れた耐久性の空気入りタイヤを提供することができる。
【0055】
本実施の形態において、スチールコード接着用ゴム組成物の混練は従来と同様の工程で行うことができる。混練機としては、適度に圧力を掛けた効率的な混練りが可能で、配合材料の飛散が防止できるという観点から、密閉式混練機を使用することが好ましく、その内でも、バンバリーミキサーが好ましい。
【0056】
(c)空気入りタイヤ用ゴム材料および空気入りタイヤの製造
上記で得られたスチールコード接着用ゴム組成物を、従来と同様の方法により、スチールコードに被覆、接着させて空気入りタイヤ用ゴム材料を製造し、さらに、この空気入りタイヤ用ゴム材料を用いて空気入りタイヤを製造する。
【0057】
このとき、スチールコード接着用ゴム組成物は鉄分濃度が1.0ppmに管理されているためスチールコードとの接着性に優れており、スチールコードとスチールコード接着用ゴム組成物とが十分に接着した空気入りタイヤ用ゴム材料を製造することができる。そして、このような空気入りタイヤ用ゴム材料を用いることにより、優れた耐久性の空気入りタイヤを製造することができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
【0059】
1.実施例および比較例
表1に示した配合でバンバリーミキサーを用いて混練することにより、スチールコード接着用ゴム組成物を製造した。このとき、不溶性硫黄としては、鉄分濃度が異なる4種類の不溶性硫黄を使用した。具体的に、実施例1では約10ppm、実施例2では約20ppm、比較例1では約500ppm、比較例2では約750ppmの不溶性硫黄を使用した。なお、実施例1、2における不溶性硫黄は上記した方法により鉄分濃度を低減させた。
【0060】
【表1】
【0061】
得られた各スチールコード接着用ゴム組成物の鉄分濃度を測定したところ、0.40(実施例1)、0.90(実施例2)、1.50ppm(実施例2)、15.00ppm(比較例2)であった。
【0062】
この結果より、鉄分濃度が低い不溶性硫黄を使用することにより、スチールコード接着用ゴム組成物における鉄分濃度を低減できることが確認できた。
【0063】
次いで、得られた各スチールコード接着用ゴム組成物を用いて空気入りタイヤ用ゴム材料を製造し、さらに、この空気入りタイヤ用ゴム材料を用いて、サイズTBR11R22.5 トラクションタイプの空気入りタイヤを製造した。
【0064】
2.評価
製造された各空気入りタイヤを解体して、接着試験を行い、剥離評点を観察して評価した。
【0065】
具体的には、空気入りタイヤのベルト部分について剥離試験(剥離面積:17.5cm)を行った後、剥離面を実体顕微鏡で観察(視野:25mm×80mm)し、金属露出の数をカウントし、単位面積あたりに換算し、その数を剥離評点とした。
【0066】
評価は、剥離評点が0であった場合を「優」、実用上耐久性に問題が生じない1点未満の場合を「良」、1点以上5点未満の場合を「可」、5点以上の場合を「不可」とした。結果を表2に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
表2の結果より、鉄分濃度が低減されたスチールコード接着用ゴム組成物を用いて空気入りタイヤを製造した場合、剥離評価が向上していることが分かる。
【0069】
この剥離評点は、空気入りタイヤの耐久性と関係する破壊の起点の密度を示すものと考えることができるため、良好な剥離評点の実施例1や実施例2では、優れた耐久性の空気入りタイヤを提供することができる。
【0070】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。