(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記2次元回折パターン上又は前記1次元回折プロファイル上において希望拡大範囲が指定されたときに、その指定された範囲の2次元回折パターン及び1次元回折プロファイルを互いに並んだ状態で同じ比率で拡大表示することを特徴とする請求項1記載のX線回折測定における測定結果の表示方法。
前記X線回折測定は、デバイリングの周方向の一様性を考慮して結晶相候補の検索を行う工程を有した測定であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のX線回折測定における測定結果の表示方法。
【背景技術】
【0002】
固体物質のほとんどは結晶状態で存在する。結晶状態にあること又は結晶状態にある物質は、一般に、結晶質と呼ばれている。固体物質の多くは多数の微細な結晶粒子が集まってできている。多くの結晶粒子が集まってできた物質は多結晶体と呼ばれている。
【0003】
X線回折測定の中には、粉末X線回折測定、薄膜測定、微小部測定、小角散乱測定、等といった各種の測定手法が存在する。例えば、粉末X線回折測定は、粉末状の結晶又は多結晶体を試料として行われるX線回折測定である。
【0004】
粉末X線回折測定においては、X線回折装置を用いた測定によって試料のX線回折パターンが得られる。このX線回折パターンは結晶相毎に固有のものである。このX線回折パターンを分析することにより、試料に含まれる結晶相を同定できる。ここで、結晶相とは、試料に含まれる物質が結晶状態である場合のその物質を表す概念である。
【0005】
一般に、試料中の結晶粒子の数が十分に多く、かつ、格子面の方向がランダムであれば、試料に入射するX線に対して回折条件を満たす角度を持った格子面は必ず存在する。そして、格子面により回折角度2θで回折したX線は、
図3で示すように、2θ<90°のときは半頂角2θである円錐の母線に沿って進み、2θ>90°のときは半頂角が180°−2θである円錐の母線に沿って進む。つまり、粉末状の結晶又は多結晶体からなる試料で回折したX線は、中心角が異なる多数の円錐Cを形成する。これらのX線をX線検出器10のX線検出面によって領域A0の範囲で受けると、
図7の2次元回折パターンP2に示すような同心円状の回折模様が得られる。このような円弧状の回折模様はデバイシェラーリング(Debye-Scherrer ring)又はデバイリング(Debye ring)と呼ばれている。
【0006】
従来、特許文献1(米国特許US7,885,383B1号明細書)にX線回折測定が示されている。特許文献1の
図1において、デバイリングの2θ方向に直交する周方向(γ(ガンマ)方向)に沿って、デバイリングの形成に寄与したX線の強度を測定することが示されている。
【0007】
また、特許文献1の
図4には、複数のデバイリングを含んだ2次元回折パターンとγ−Iプロファイルとを並べて表示することが示されている。γ−Iプロファイルは、横軸にγ方向の角度値をとり、縦軸にX線強度値をとった座標上に表されたX線強度分布である。特許文献1にはデバイリングの周方向のX線強度データを表示することが示されているが、その周方向のX線強度データの表示が十分に有効に利用されていないという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の従来の問題点に鑑みて成されたものであって、デバイリングの周方向におけるX線情報と2θ角度位置との対応関係を視覚的に明確に且つ正確に認識できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
粉末X線回折測定を考えた場合、粉末回折データを用いた結晶相同定が従来から知られている。ここで、「粉末回折データ」とは、例えば
図7の符号P1に示すような1次元プロファイルである。この1次元プロファイルP1におけるピーク位置と強度(高さや積分強度)から、試料にどんな物質(結晶性物質)が含まれているかを分析することが、粉末回折パターンを用いた結晶相同定である。
【0011】
実際の分析対象の試料には、1種類の物質だけではなく、複数の物質が含まれていることが多い。すなわち、実際の試料は混合物であることが多い。その場合、粉末回折パターンは、複数の物質の回折パターンの足し合わせになるため、結晶同定の作業を人だけの力で行うことは困難である。そこで、コンピュータソフトウエアで実現されるサーチマッチアルゴリズムを用いて、既知の物質の回折パターンが多数保存されているデータベースと、測定によって得られた回折パターンとを照合することにより、分析対象の試料に含まれている複数の物質を見つけ出すという作業を行うのが一般的である。サーチマッチアルゴリズムとしては、古くはハナワルト法(Hanawalt method)が知られている。
【0012】
近年、X線検出器として2次元検出器が主流となりつつある。これまでは、2次元検出器で測定した2次元回折データを1次元プロファイルに変換し、変換した1次元回折プロファイルを用いてサーチマッチを行い、結晶相同定を行ってきた。理想的な粉末試料であれば、2次元データには前記の円弧状又は楕円状の回折像であるデバイリングが写し込まれる。このデバイリングは、1次元回折
プロファイルにおいては回折ピークに相当する。
【0013】
しかしながら、粉末試料が理想的ではない場合、例えば強く配向した物質が含まれていたり、粗大粒子が含まれていたりすると、デバイリングは綺麗な円弧状や楕円状にはならず、リングが断続的に切れた状態になったり、スポット状の回折像が現れたりすることになる。このような試料に関する情報は、従来のシンチレーションカウンタや高速1次元検出器では得られない。このような試料に関する情報は、2次元検出器によって確実にもたらされるものである。
【0014】
粉末X線回折測定の測定結果の表示方法として、
図7に示すように、1次元回折プロファイルP1とリング状の回折像を含む2次元回折パターンP2を並べて表示することが考えられる。この表示方法によれば、強い配向の有無の情報J1や粗大粒子の有無の情報J2を視覚的に捕えることができる。しかしながら、この表示方法では、デバイリングが円弧状及び楕円状に表示されるため、1次元回折プロファイルP1の横軸(2θ)と2次元回折パターンP2の赤道(中央)部分の横軸(2θ)とを一致させて1次元回折プロファイルP1と2次元回折パターンP2を並べて表示しても、2次元回折パターンP2上の2θ角度位置が赤道から離れるに従って、1次元回折プロファイルP1のピーク位置と2次元回折パターンP2の断片状の像やスポット状の像の位置の比較が難しくなる。
【0015】
これに対し、本発明者は、例えば
図5及び
図6に示すように、2次元回折パターンP22において同じ2θ角のX線強度データが直線状に表示されるように2次元回折パターンのための2次元画像データを変換し、さらに、2次元データの横軸(2θ軸)が1次元回折プロファイルP1の横軸と正確に一致するように並べて表示することとした。これにより、2次元回折パターンP22における断片状の像やスポット状の像がどの2θ角度位置に属しているかを視覚的に、迅速に、容易に且つ正確に認識できるようになった。
【0016】
また、最近では、1次元回折プロファイルP1において、含有結晶相の候補を示したり、結晶相同定後の結果を示したりするために、各物質から得られる回折ピークの位置や強度を色付きのバー(すなわち直線)で表示することが多い。例えば、
図6において、1次元回折プロファイルP1及び2次元回折パターンP22のそれぞれに関して、WC(タングステンカーバイ
ド)に由来する情報を「青色」で示し、TiC(チタンカーバイ
ド)に由来する情報を「桃色」で示し、C(ダイヤモンド)に由来する情報を「緑色」で示し、そしてSiC(シリコンカーバイ
ド)に由来する情報を「赤色」で示している。
【0017】
本発明によれば、デバイリングの周方向のX線強度情報を2次元回折パターンP22において、リング状ではなく直線状に表示することにしたので、1次元回折プロファイルP1上での色付きバー表示と全く同じバー表示を2次元回折パターンP22に重ねて表示できるようになった。この結果、特に、含有結晶相の候補の回折ピーク位置を、2次元回折パターンP22上で容易に確認できるようになった。このことは、ユーザにとって非常に大きな有利点である。
【0018】
本発明に係るX線回折測定における測定結果の表示方法は、試料にX線を照射し当該試料で回折したX線をX線検出器によって検出する測定であるX線回折測定における測定結果の表示方法において、直交座標軸の一方に2θ角度値をとり直交座標軸の他方にX線強度値をとった座標内に、前記X線検出器の出力データに基づいて、2θ−Iプロファイルを表示することにより1次元回折プロファイルを形成し、試料で回折したX線が2θ角度ごとに形成する複数のデバイリングの周方向上のX線強度データを、前記X線検出器の出力データに基づいて、2θ角度値ごとに直線状に表示することにより2次元回折パターンを形成し、前記2次元回折パターンと前記
1次元回折プロファイルは両者の2θ角度値が互いに一致するように並べて表示されることを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、2次元回折パターンにおいて同じ2θ角のX線強度データが直線状に表示される。しかも、2次元回折パターンの座標軸(2θ角度軸)が1次元回折プロファイルP1の座標軸(2θ角度軸)と正確に一致するように並べて表示される。その結果、2次元回折パターンにおける断片状の回折像やスポット状の回折像がどの2θ角度位置に属しているかを視覚的に、迅速に、容易に且つ正確に認識できるようになった。
【0020】
本発明の第2の発明形態は、前記2次元回折パターン(P22)上又は前記1次元回折プロファイル(P1)上において希望拡大範囲が指定されたときに、その指定された範囲の2次元回折パターン(P22)及び1次元回折プロファイル(P1)を互いに並んだ状態で同じ比率で拡大表示する。
【0021】
本発明の第3の発明形態において、前記X線回折測定は、デバイリングの周方向の一様性を考慮して結晶相候補の検索を行う工程を有した測定である。
【0022】
本発明の第4の発明形態は、(1)「デバイリングの周方向の角度」対「X線強度」のデータであるβ−Iデータを求める工程と、(2)前記デバイリングに対応した回折パターンを前記β−Iデータに基づいてクラスタごとに分類する工程と、(3)同じクラスタ内で結晶相候補の検索を行う工程と、を有する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、2次元回折パターンにおいて同じ2θ角のX線強度データが直線状に表示される。しかも、2次元回折パターンの座標軸(2θ角度軸)が1次元回折プロファイルP1の座標軸(2θ角度軸)と正確に一致するように並べて表示される。その結果、2次元回折パターンにおける断片状の回折像やスポット状の回折像がどの2θ角度位置に属しているかを視覚的に、迅速に、容易に且つ正確に認識できるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係るX線回折測定における測定結果の表示方法を実施形態に基づいて説明する。なお、本発明がこの実施形態に限定されないことはもちろんである。また、本明細書に添付した図面では特徴的な部分を分かり易く示すために実際のものとは異なった比率で構成要素を示す場合がある。
【0026】
図1は、本発明に係るX線回折測定の測定結果の表示方法を実施するための装置であるX線回折測定装置の一実施形態を示している。ここに示すX線回折測定装置1は、X線回折装置2と、結晶相同定装置3と、表示装置4とを有している。表示装置4は、例えばフラットパネルディスプレイ装置である。表示装置4は結晶相同定装置3と一体に構成されていても良い。
【0027】
X線回折装置2は、
図2に示すように、ゴニオメータ7と、X線発生装置8と、コリメータ9と、X線検出器10と、制御ユニット11と、入出力装置12とを有している。ゴニオメータ7は測角器である。ゴニオメータ7の中心部には、試料Sを支持して回転する試料台15が設けられている。試料台15は自身の中心軸線(
図2の紙面を貫通する軸線)X0を中心として回転する。コリメータ9はX線をビーム状に絞るためのピンホールを有している。
【0028】
X線検出器10は、X線の強度を検出する機能に加えて2次元領域内(すなわち平面領域内)におけるX線の位置を検出することができる2次元X線検出器である。X線検出器10は、0次元X線検出器又は1次元X線検出器とすることもできる。0次元X線検出器は、X線の強度を検出する機能だけを有しており位置検出能力が無いX線検出器である。1次元X線検出器は、X線の強度を検出する機能に加えて1次元領域内(すなわち直線領域内)におけるX線の位置を検出することができるX線検出器である。なお、0次元X線検出器及び1次元X線検出器を用いる場合は、平面領域内のX線の位置情報を得るために、試料又はX線検出器を直線移動又は回転移動させる必要がある。また、2次元X線検出器を用いる場合でも、2次元X線検出器のX線検出面が小さいときには、広い平面領域内のX線の位置情報を得るために、2次元X線検出器を直線移動又は回転移動させることがある。
【0029】
X線発生装置8で発生したX線は、コリメータ9を通過する間に細いビーム状の線束になる。このビーム状のX線が試料Sへ照射される。試料Sへ照射されたX線と、試料S内の結晶格子面との間で所定のX線回折条件が満たされるときに、X線が試料Sで回折する。X線検出器10は試料Sで回折したX線を検出する。
図2に示すように、試料S内の結晶格子面に対してX線が角度θで入射したとき、X線の回折角度は2θである。回折角度2θの大きさは入射角度θの2倍である。
【0030】
制御ユニット11はコンピュータ、シーケンサ、専用回路、等によって形成されている。制御ユニット11は、ゴニオメータ7、X線発生装置8及びX線検出器10の各機器の動作を制御する。入出力装置12は、測定条件及びその他の各種の信号を制御ユニット11へ伝送する。また、入出力装置12は、X線検出器10の出力データを
図1の結晶相同定装置3へ伝送する。なお、
図2は反射型のX線回折装置を示しているが、X線回折装置は透過型のX線回折装置であっても良い。
【0031】
結晶相同定装置3は、
図1において、入力部16と、記憶部17と、解析部18と、出力部19とを有している。結晶相同定装置3は、一般的なコンピュータによって構成できる。その場合には、入力部16は入力インターフェースによって実現でき、出力部19は出力インターフェースによって実現でき、記憶部17はハードディスク、メモリ等によって実現でき、そして解析部18はCPU(Central Processing Unit)等によって実現できる。
【0032】
記憶部17はデータベースとして機能する。このデータベースには、既知の複数の結晶相についてのX線回折パターンに関する情報が登録されている。具体的には、既知の複数の結晶相についての2θ−Iプロファイルにおけるピーク位置及びピーク強度比のデータが登録されている。より具体的には、既知の複数の結晶相についての「結晶格子面の距離d」対「強度比I」のデータ(d−Iデータ)が登録されている。
【0033】
本実施形態において、2次元X線検出器10のX線検出面には、
図3に示すように多数のピクセル22が平面的に並べられている。そして、この2次元X線検出器10を矢印Bのように走査移動させることにより、所定の検出領域A0のX線情報を取得するようになっている。
図2において、入出力装置12の出力端子からX線回折データD0が出力される。このX線回折データD0は、2次元X線検出器10のX線検出面を構成している複数のピクセル22の個々の出力信号によって形成されている。
【0034】
このX線回折データD0は、
図1において、結晶相同定装置3の入力部16を経由して解析部18へ伝送される。解析部18は伝送されたX線回折データD0を記憶部17へ伝送する。記憶部17は伝送されたX線回折データD0を記憶する。解析部18は、解析が必要となった任意のタイミングで記憶部17からX線回折データD0を読み出す。解析部18は、読み出したX線回折データD0に対して前処理を行う。前処理とは、例えば、雑音(ノイズ)を除去するためのバックグラウンド補正である。バックグラウンド補正には、一般に、一律バックグラウンド補正や、メディアンフィルタ(Median filter)補正がある。なお、上記のような前処理を行うためのデータ処理部はX線回折装置2の内部に設けることもできる。この場合には、解析部18によって改めて前処理を行う必要は無い。
【0035】
図4は1つの試料から得られる複数のデバイリングの一部d1,d2,d3を模式的に示している。矢印2θで示す方向が回折角度2θ方向であり、それと直交するβ方向がデバイリングの周方向である。
図1の解析部18は、上記の前処理を行った後、X線回折データD0に基づいて2θ−Iデータを生成する。2θ−Iデータは、回折角度2θ方向に沿った各角度位置におけるX線強度の値を示すデータである。
【0036】
解析部18は、生成した2θ−Iデータに基づいて画像データを生成し、この画像データを出力部19を介して表示装置4へ供給する。これにより、
図5に符号P1で示す1次元回折プロファイルや、
図6に符号P1で示す1次元回折プロファイルが、
図1の表示装置4の表示画面内に表示される。
【0037】
解析部18は、2θ−Iデータを生成する以外に、β−Iデータを生成する。β−Iデータは、
図4のデバイリングd1,d2,d3のそれぞれの周方向βに沿った各角度位置におけるX線強度の値を示すデータである。解析部18は、生成したβ−Iデータに基づいて画像データを生成し、この画像データを出力部19を介して表示装置4へ供給する。これにより、
図7の2次元回折パターンP2に示すような複数のデバイリングd1,d2,d3を含んだ2次元回折パターンが、
図1の表示装置4の表示画面内に表示される。
【0038】
解析部18は、β−Iデータを
図7の2次元回折パターンP2に示すようなリング形状の2次元画像として表示させるための画像データを生成する以外に、β−Iデータを直線状の2次元画像として表示させるための画像データを生成する。以下、このような画像データを直線表示形式の画
像データという場合がある。また、この直線表示形式の画像データによって表示される直線状の2次元画像を含む2次元回折パターンを直線表示形式の2次元回折パターンということがある。このような直線表示形式の画像データが出力部19を介して表示装置4へ供給されると、
図5に符号P22で示すような直線状のX線強度情報を含んだ2次元回折パターンや、
図6に符号P22で示すような直線状のX線強度情報を含んだ2次元回折パターンが表示装置4の表示画面内に表示される。
【0039】
解析部18は、さらに、
図5及び
図6に示すように、1次元回折プロファイルP1と直線表示形式の2次元回折パターンP22とを並べて表示させるための画像データを生成して、その画像データを表示装置4へ供給する。より具体的には、1次元回折プロファイルP1と直線表示形式の2次元回折パターンP22の横軸の値、すなわち回折角度2θの角度値が一致するように、1次元回折プロファイルP1と直線表示形式の2次元回折パターンP22とを上下に並べて表示する。
【0040】
以上のように、本実施形態においては、
図5及び
図6に示すように、2次元回折パターンP22において同じ2θ角のX線強度データが直線状に表示されるように2次元回折パターンのための画像データを変換し、さらに、2次元回折パターンP22の横軸(2θ軸)が1次元回折プロファイルP1の横軸と正確に一致するように並べて表示することとした。これにより、2次元回折パターンP22における断片状の回折像やスポット状の回折像がどの2θ角度位置に属しているかを視覚的に、迅速に、容易に且つ正確に認識できるようになった。
【0041】
また、本実施形態では、1次元回折プロファイルP1において、含有結晶相の候補を示したり、結晶相同定後の結果を示したりするために、各物質から得られる回折ピークの位置や強度を色付きのバー(すなわち直線)で表示している。例えば、
図6において、1次元回折プロファイルP1及び2次元回折パターンP22のそれぞれに関して、WC(タングステンカーバイ
ド)に由来する情報を「青色」で示し、TiC(チタンカーバイ
ド)に由来する情報を「桃色」で示し、C(ダイヤモンド)に由来する情報を「緑色」で示し、そしてSiC(シリコンカーバイ
ド)に由来する情報を「赤色」で示している。
【0042】
本実施形態によれば、デバイリングの周方向のX線強度情報を2次元回折パターンP22において、リング状ではなく直線状に表示することにしたので、1次元回折プロファイルP1上での色付きバー表示と全く同じバー表示を2次元回折パターンP22に重ねて表示できるようになった。この結果、特に、含有結晶相の候補の回折ピーク位置を、2次元回折パターンP22上で容易に確認できるようになった。このことは、ユーザにとって非常に大きな有利点である。
【0043】
(拡大表示)
次に、本実施形態において、
図1の解析部18は、
図8に示すように希望する2θ角度範囲(希望する横軸上の範囲)を指定すると、直線表示形式の2次元回折パターンP22及び1次元回折プロファイルP1の両方の対応する範囲部分を、符号Eで示すように、拡大状態で表示する。特に、2次元回折パターンP22と1次元回折プロファイルP1とを同じ比率で拡大表示する。これにより、2次元回折パターンP22において断片状の回折像やスポット状の回折像を迅速に、容易に且つ正確に認識できる。なお、2θ角度範囲の指定は、2次元回折パターンP22上で行っても良いし、1次元回折プロファイルP1上で行っても良い。
【0044】
仮に、デバイリングを
図7の2次元回折パターンP2に示すようにリング状態で表示した場合には、デバイリングが断片状の像として現れたり、スポット状の像として現れたりする場合、それらの像がどの2θ回折角度に属するのかが分かり難くなることがある。特に、2次元回折パターンの一部分を拡大表示した場合には、それらの像がどの2θ回折角度に属するのかが、さらに一層、分かり難くなる。このことに関して、本実施形態では、
図8の2次元回折パターンP22においてデバイリングに相当する回折像が直線状に表示され、しかも1次元回折プロファイルP1の2θ軸(横軸)が2次元回折パターンP22の2θ軸に一致しているので、拡大表示の中に存在する断片状の回折像やスポット状の回折像の2θ角度位置を迅速に、容易に且つ正確に認識できる。
【実施例1】
【0045】
図2において、Mullite(アルミノケイ酸塩)及びQuartz(石英)を含む試料Sを試料台15にセットした。そして、試料SにX線を照射し、10°〜60°の2θ角度範囲を検出領域とできるように2次元X線検出器10を回折角度2θに沿って試料Sを中心として回転移動させた。そして、試料Sから出る回折X線を2次元X線検出器10によって検出した。
【0046】
2次元X線検出器10から出力されたピクセル毎のX線回折データに基づいて、
図1の表示装置4の画面内に測定結果を表示したところ、
図5に示す表示が得られた。
図5において、1次元回折プロファイルP1と直線表示形式の2次元回折パターンP22とが、2θ軸上の2θ角度値が一致する状態で並べて表示された。デバイリングが直線状に表示されている2次元回折パターンP22において、微細粒子に由来するデバイリングは周方向の強度が一様であることが認識された。また、粗大粒子に由来する回折像がスポット状に現れていることが認識された。このスポット状の回折像の2θ角度位置の値が視覚的に容易に認定できた。
【実施例2】
【0047】
図2において、WC(タングステンカーバイ
ド)、TiC(チタンカーバイ
ド)、C(ダイヤモンド)及びSiC(シリコン
カーバイド)を含む試料Sを試料台15にセットした。そして、試料SにX線を照射し、30°〜110°の2θ角度範囲を検出領域とできるように2次元X線検出器10を回折角度2θに沿って試料Sを中心として回転移動させた。そして、試料Sから出る回折X線を2次元X線検出器10によって検出した。
【0048】
2次元X線検出器10から出力されたピクセル毎のX線回折データに基づいて、
図1の表示装置4の画面内に測定結果を表示したところ、
図6に示す表示が得られた。
図6において、1次元回折プロファイルP1と直線表示形式の2次元回折パターンP22とが、2θ軸上の2θ角度値が一致する状態で並べて表示された。デバイリングが直線状に表示されている2次元回折パターンP22において、選択配向した結晶に由来する回折像が周方向で部分的に現れる状態が認識された。また、粗大粒子に由来する回折像がスポット状に現れていることが認識された。このスポット状の回折像の2θ角度位置の値が視覚的に容易に認定できた。また、無配向の微細粒子に由来する回折像が周方向で一様に現れることが認識された。
【0049】
(第2の実施形態)
本発明者は、特願2016−103750
(特開2017−211251)において次のような結晶相同定方法を提案した。すなわち、
(1)
図4におけるデバイリングの周方向βの各角度位置におけるX線強度のデータ、すなわちβ−Iデータを
図2の2次元X線検出器10の出力信号である2次元X線回折データに基づいて作成する工程と、
(2)
図4における各デバイリングに対応した2次元回折パターンを上記のβ−Iデータに基づいて複数のクラスタに組分けする工程と、
(3)同じクラスタに組分けした2次元回折パターンのピーク位置及びピーク強度比の組に基づいて所定のデータベースから試料に含まれる結晶相候補を検索する工程と、
を有する結晶相同定方法である。
【0050】
上記の記述において、「クラスタ」は同じ属性を持つ物質や物理量の集合体のことである。また、「所定のデータベース」とは、X線回折パターンにおけるピーク位置とピーク強度比のデータが複数の結晶相のそれぞれに対して予め登録されているデータベースである。
【0051】
この結晶相同定方法は次の特徴を有している。
(A)X線検出器(例えば
図2の符号10)から出力されたX線回折データから、複数の回折パターン(例えば
図7の2次元回折パターン
P2における複数のリング状の回折像
d1〜d5)について、ピーク位置及びピーク強度を求め、各回折パターンについての「周方向(例えば
図4のβ方向)の角度」対「X線強度」のデータを作成する。ここで、複数の回折パターンとは、同心円状の複数のデバイリングに含まれる各リングを示している。
(B)各回折パターンを、作成した「周方向の角度」対「X線強度」のデータに基づいて、複数のクラスタに組分けする。これにより、各回折パターンが、その周方向の一様性に応じて、複数のクラスタに組分けされる。
(C)同じクラスタに組分けした回折パターンのピーク位置及びピーク強度比の組に基づいて、所定のデータベースから試料に含まれる結晶相候補を検索する。これにより、周方向の一様性が近似する回折パターンの組に基づいて、結晶相候補の検索が行われる。従って、結晶相の同定において、結晶相候補の検索が精度良く行われ、分析精度が向上する。
【0052】
さらに、上記の結晶相同定方法においては、各回折パターンの「周方向の角度」対「X線強度」のデータから、各回折パターンの強度の周方向の均一度を表すリング特徴因子を求め、求めたリング特徴因子に応じて各回折パターンを複数のクラスタに組分けすることができる。「リング特徴因子」は、本発明者の考えによる造語であり、各回折パターンの強度
の周方向の均一度を表す要素のことである。リング特徴因子により、各回折パターンの周方向の一様性が明確化される。従って、求めたリング特徴因子に応じて各回折パターンを複数のクラスタに組分けすることにより、周方向の一様性が異なっている回折パターンを、複数のクラスタに組分けできる。「リング特徴因子」としては、β−IデータにおけるX線強度Iを変量Xとしたときに、
図9に示す各種の値を適用できる。
【0053】
図10は本第2の実施形態に適したX線回折測定装置51を示している。このX線回折測定装置51において、
図1に示したX線回折測定装置1の構成要素と同じ要素は同じ符号を付して示している。X線回折測定装置51において、解析部18は、検出手段52と、クラスタリング手段53と、検索手段54とを有している。これらの各手段は、CPUの演算部によって実現される。
【0054】
検出手段52は、記憶部17に記憶されたX線回折データを読み出し、X線回折データに対して前処理を行った後、X線回折データを2θ−Iデータに変換する。検出手段52は、2θ−Iプロファイルにおけるピーク位置及びピーク強度を検出する。この処理は、ピークサーチと呼ばれている。検出手段52は、2θ−Iプロファイルの各ピーク位置における、各回折パターンの「周方向の角度β」対「X線強度I」のデータ(すなわちβ−Iデータ)を作成する。検出手段52は、β−Iデータから、リング特徴因子を算出又は作成する。
【0055】
クラスタリング手段53は、各回折パターンをリング特徴因子に応じて複数のクラスタに組分けする。
【0056】
検索手段54は、同じクラスタに含まれる回折パターンの全部又は一部が同一の結晶相に由来するものと仮定して、同じクラスタに組分けされた回折パターンのピーク位置及びピーク強度比の組と一致度が高いピーク位置及びピーク強度比を示す結晶相を、データベースから検索して、結晶相候補を抽出する。
【0057】
本実施形態のX線回折測定によれば、デバイリングに対応した2次元回折パターンの周方向の一様性を考慮した上で、測定された2次元回折パターンとデータベース内の登録情報とを比較するようにした。このため、周方向の一様性が異なっている回折パターンの組に基づいて結晶相候補が検索結果に挙げられるという好ましくない事態が回避され、その結果、精度の高い分析を行うことができるようになった。
【0058】
本実施形態のX線回折測定は、上記のようにデバイリングに対応した2次元回折パターンの周方向の一様性を考慮した上で検索を行うようにしたX線回折測定において、さらに、
図5及び
図6に示すように1次元回折プロファイルP1と直線表示形式の2次元回折パターンP22とを2θ角度位置を一致させた状態で並べて表示することにしたX線回折測定である。これにより、本実施形態においては、回折パターンの周方向の一様性を考慮した処理を実行する際に、
図5及び
図6のような画面表示、すなわち周方向(β方向)のX線強度情報と2θ角度位置との関連が明確に表されている画面表示、を同時に確認することができるので、信頼性が非常に高い分析を行うことができる。
【0059】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
例えば、以上に説明した実施形態においては、粉末X線回折測定において本発明を適用したが、本発明は粉末X線回折測定以外のX線回折測定に対して適用することもできる。