特許第6775784号(P6775784)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6775784
(24)【登録日】2020年10月9日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】ホタテ稚貝回収装置
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/54 20170101AFI20201019BHJP
【FI】
   A01K61/54
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-39340(P2019-39340)
(22)【出願日】2019年3月5日
(65)【公開番号】特開2020-141580(P2020-141580A)
(43)【公開日】2020年9月10日
【審査請求日】2019年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】502235153
【氏名又は名称】株式会社 星野鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100133260
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 基子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】星野 一喜
【審査官】 吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−100074(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2009−0072376(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホタテ貝の養殖漁業において網状の採苗器からホタテ稚貝を回収するためのホタテ稚貝回収装置であって、
前記ホタテ稚貝回収装置の入口位置に設けられており前記採苗器を送り出す複数のローラから構成された送出部と、
前記ホタテ稚貝回収装置の出口位置に設けられており前記採苗器を先端側から順に狭持して水平方向に装置内に引き込む引込部と、
前記送出部および前記引込部の間に設けられており前記採苗器にテンションを与えつつ上下振動させることにより前記採苗器に付着しているホタテ稚貝を分離落下させる稚貝分離部と、
前記稚貝分離部の下方位置に設けられており分離落下した前記ホタテ稚貝を回収する稚貝回収部と
を有している、前記ホタテ稚貝回収装置。
【請求項2】
前記稚貝分離部は、前記引込部に引き込まれる前記採苗器に対してテンションを付与する方向に回転駆動されるテンションロータを有するとともに、このテンションロータのロータ軸周りには前記採苗器に接触しつつ空転可能な複数の空転ローラが軸支されている、請求項1に記載のホタテ稚貝回収装置。
【請求項3】
前記稚貝分離部のテンションロータは、前記採苗器の送り経路における下方位置に軸支されており前記採苗器を下方から上方に押し上げる押上テンションロータと、前記送り経路における上方位置に軸支されており前記採苗器を上方から下方に押し下げる押下テンションロータとで構成されており、これら押上テンションロータと押下テンションロータとが送り方向に沿って交互に配置されている、請求項2に記載のホタテ稚貝回収装置。
【請求項4】
2つの前記押上テンションロータと1つの前記押下テンションロータが送り方向に沿って交互に配置されているとともに、これらのテンションロータには3つの空転ローラがロータ軸から等距離の位置において軸支されている、請求項3に記載のホタテ稚貝回収装置。
【請求項5】
前記押上テンションロータおよび前記押下テンションロータの周囲には、前記採苗器の内袋が巻き込まれるのを防止するための巻込防止ローラが水平軸をもって回転自在に軸支されている、請求項3または請求項4に記載のホタテ稚貝回収装置。
【請求項6】
前記送出部は、水平軸をもって回転可能に軸支された横ローラと、鉛直軸をもって回転可能に軸支されているとともに互いのピッチを変更可能に設けられた複数の縦ローラとから構成されている、請求項1から請求項5のいずれかに記載のホタテ稚貝回収装置。
【請求項7】
前記引込部は、前記採苗器の送り経路における下方位置で回転可能に軸支された2つの下部引込ローラと、前記送り経路における上方位置で回転可能に軸支された1つの上部引込ローラとが、送り方向に沿って交互に配置されており、前記上部引込ローラの回転軸が左右の支持端部を一体的または別個に上下動可能に下方へ付勢されている、請求項1から請求項6のいずれかに記載のホタテ稚貝回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホタテ貝の養殖漁業において、長大化した採苗器からホタテ稚貝を連続的かつ効率的に回収するのに好適なホタテ稚貝回収装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ホタテ貝の養殖漁業では、ホタテ貝の幼生を付着させて稚貝を採取するための採苗器が使われている。この採苗器は、図13に示すように、内網と筒状の長い外網とで構成されており、複数の前記内網を一本の長いロープに連結し、これらの内網すべてを長い外網で覆うようにしてその両端をロープの位置で締結して閉じられる。当該採苗器は春頃に海に張られた長いロープに結ばれ、浮き球によって海中に垂下されると、海を浮遊するホタテ貝の幼生が内網に糸足を絡みつかせて付着する。その後、この幼生が稚貝にまで成長すると、外網の小さな網目を抜けることができなくなるため、前記採苗器を陸上に回収することによって大量の稚貝を容易に採取することができる。採取された稚貝は海岸沿いの養殖施設に移されて育成籠に収容されつつ適宜、収容密度を変えられながら育成され、所望の大きさにまで育ったホタテ貝は陸揚げされて、各地のホタテ貝放流漁場に放流されることになる。
【0003】
上記のような採苗器から稚貝を分離するための装置として、例えば、特開2014−100074号公報には、採苗器を吊り下げた状態で移動させながら、振動を与えることによって稚貝を分離する分離装置が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−100074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された発明においては、採苗器を吊り下げる必要があるため、近年、長大化傾向にある採苗器には対応しきれないという問題がある。また、特許文献1では、吊り下げた採苗器から稚貝をはたき落とす構成であるため、高い位置からはたき落とされた稚貝は貝殻が破損し、商品価値を失ってしまうものが多いという問題もある。
【0006】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、長大化した採苗器からでも連続的かつ効率的にホタテ稚貝を回収するとともに、その破損率を低減することができるホタテ稚貝回収装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るホタテ稚貝回収装置は、長大化した採苗器からでも連続的かつ効率的にホタテ稚貝を回収するとともに、その破損率を低減するという課題を解決するために、ホタテ貝の養殖漁業において網状の採苗器からホタテ稚貝を回収するための回収装置であって、前記回収装置の入口位置に設けられており前記採苗器を送り出す複数のローラから構成された送出部と、前記回収装置の出口位置に設けられており前記採苗器を先端側から順に狭持して水平方向に装置内に引き込む引込部と、前記送出部および前記引込部の間に設けられており前記採苗器にテンションを与えつつ上下振動させることにより前記採苗器に付着しているホタテ稚貝を分離落下させる稚貝分離部と、前記稚貝分離部の下方位置に設けられており分離落下した前記ホタテ稚貝を回収する稚貝回収部とを有している。
【0008】
また、本発明の一態様として、採苗器からホタテ稚貝を分離しやすくするとともに、採苗器から受ける抵抗を低減するという課題を解決するために、前記稚貝分離部は、前記引込部に引き込まれる前記採苗器に対してテンションを付与する方向に回転駆動されるテンションロータを有するとともに、このテンションロータのロータ軸周りには前記採苗器に接触しつつ空転可能な複数の空転ローラが軸支されていてもよい。
【0009】
さらに、本発明の一態様として、採苗器を上下にうねらせ、テンションロータに発生する遠心力と、各空転ローラによる上下振動とを付与することにより、ホタテ稚貝を高確度で分離させるという課題を解決するために、前記稚貝分離部のテンションロータは、前記採苗器の送り経路における下方位置に軸支されており前記採苗器を下方から上方に押し上げる押上テンションロータと、前記送り経路における上方位置に軸支されており前記採苗器を上方から下方に押し下げる押下テンションロータとで構成されており、これら押上テンションロータと押下テンションロータとが送り方向に沿って交互に配置されていてもよい。
【0010】
また、本発明の一態様として、簡単な構成でありながらホタテ稚貝を効率的に分離するという課題を解決するために、2つの前記押上テンションロータと1つの前記押下テンションロータが送り方向に沿って交互に配置されているとともに、これらのテンションロータには3つの空転ローラがロータ軸から等距離の位置において軸支されていてもよい。
【0011】
さらに、本発明の一態様として、採苗器の内袋がテンションロータに巻き込まれるのを防止するという課題を解決するために、前記押上テンションロータおよび前記押下テンションロータの周囲には、前記採苗器の内袋が巻き込まれるのを防止するための巻込防止ローラが水平軸をもって回転自在に軸支されていてもよい。
【0012】
また、本発明の一態様として、不規則な形状や方向で進入する採苗器であってもスムーズに送り出すという課題を解決するために、前記送出部は、水平軸をもって回転可能に軸支された横ローラと、鉛直軸をもって回転可能に軸支されているとともに互いのピッチを変更可能に設けられた複数の縦ローラとから構成されていてもよい。
【0013】
さらに、本発明の一態様として、簡単な構成でありながら、不規則な形状の採苗器であっても安定的に引き込むいう課題を解決するために、前記引込部は、前記採苗器の送り経路における下方位置で回転可能に軸支された2つの下部引込ローラと、前記送り経路における上方位置で回転可能に軸支された1つの上部引込ローラとが、前記送り方向に沿って交互に配置されており、前記上部引込ローラの回転軸が左右の支持端部を一体的または別個に上下動可能に下方へ付勢されていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、長大化した採苗器からでも連続的かつ効率的にホタテ稚貝を回収するとともに、その破損率を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係るホタテ稚貝回収装置の一実施形態を示す斜視図である。
図2】本実施形態のホタテ稚貝回収装置において、装置カバーを取り外した状態の斜視図である。
図3】本実施形態のホタテ稚貝回収装置を図1の反対側から見た図である。
図4】本実施形態のホタテ稚貝回収装置の動作状態を示す説明図である。
図5】本実施形態の上部引込ローラおよび下部引込ローラを示す斜視図である。
図6】本実施形態の引込部が、薄い部分を引き込む場合の状態を示す図である。
図7】本実施形態の引込部が、不規則な形状部分を引き込む場合の状態を示す図である。
図8】本実施形態の上下動レバーを示す図である。
図9】本実施形態のテンションロータを示す斜視図である。
図10】本実施形態の巻込防止ローラが(a)ない場合と、(b)ある場合の違いを説明する図である。
図11】採苗器の外網を裏返した状態を示す図である。
図12】採苗器の他の例を示す図である。
図13】採苗器の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るホタテ稚貝回収装置の一実施形態について図面を用いて説明する。
【0017】
本実施形態のホタテ稚貝回収装置1は、ホタテ貝の養殖漁業において網状の採苗器10からホタテ稚貝を回収するためのものであり、図1から図4に示すように、主として、採苗器10を装置内へ送り出す送出部2と、採苗器10を装置内に引き込む引込部3と、採苗器10に付着しているホタテ稚貝を分離落下させる稚貝分離部4と、分離落下したホタテ稚貝を回収する稚貝回収部5とを有している。以下、各構成について詳細に説明する。
【0018】
なお、本発明において、採苗器10とは、ホタテ貝養殖漁業においてホタテ貝幼生を付着させて稚貝を採取するための全ての網状物を含む概念である。
【0019】
送出部2は、採苗器10を装置内へ送り出すためのものである。本実施形態において、送出部2は、図3および図4に示すように、ホタテ稚貝回収装置1の入口位置に設けられており、採苗器10を送り出す複数の空転可能なローラから構成されている。具体的には、送出部2は、水平軸をもって回転可能に軸支された横ローラ21と、鉛直軸をもって回転可能に軸支された複数の縦ローラ22とから構成されている。
【0020】
なお、本実施形態では、図3に示すように、3本の縦ローラ22が、互いのピッチを変更可能に設けられている。このため、様々なサイズや形状の採苗器10に対応するとともに、2本の採苗器10を同時に処理しうるようになっている。しかしながら、この構成に限定されるものではなく、常に同じ幅の採苗器10を処理するのであれば、縦ローラ22を固定してもよく、同時に処理する採苗器10の数に応じて縦ローラ22の本数を適宜増減してもよい。
【0021】
引込部3は、採苗器10を装置内に引き込むためのものである。具体的には、引込部3は、図2および図4に示すように、ホタテ稚貝回収装置1の出口位置に設けられており、採苗器10を先端側から順に狭持して水平方向に装置内に引き込むようになっている。ここで、「水平方向」とは厳密な水平方向のみならず、本発明の作用効果を奏する限りにおいて、水平方向からある程度傾斜した方向を含む概念である。
【0022】
本実施形態において、引込部3は、図4に示すように、採苗器10の送り経路における下方位置で回転可能に軸支された2つの下部引込ローラ31,31と、送り経路における上方位置で回転可能に軸支された1つの上部引込ローラ32とが送り方向に沿って交互に配置されている。また、各ローラ31,32は、採苗器10を送り方向へ引き込むように回転駆動されるとともに、その外周面には、図5に示すように、軸線に沿って複数の溝が形成された滑り止め用のゴム板33が巻き付けられている。
【0023】
また、本実施形態において、上部引込ローラ32は、その回転軸の左右の支持端部が別個に上下動可能に下方へ付勢されている。具体的には、図1および図3に示すように、上下方向に設けられた一対のガイドレール34,34に沿ってスライド可能なスライド部材35に回転軸の両端部が支持されており、当該スライド部材35が圧縮コイルバネ36によって下方へ付勢されている。また、上部引込ローラ32は上下動可能に構成するために、下部引込ローラ31を駆動するモータとは別個独立のモータによって駆動される。
【0024】
以上の構成により、採苗器10の網部等のように、薄い部分を引き込む場合は、図6に示すように、上部引込ローラ32の下端縁部が、下部引込ローラ31の上端縁部よりも下方へ移動し、網部を曲線状にうねらせてしっかりと挟み込む。一方、採苗器10の縛りこぶ部等のように、不規則な形状部分を引き込む場合は、図7に示すように、上部引込ローラ32は縛りこぶ部の挟み込み位置に応じて上方へ退避し、確実に引き込むようになっている。
【0025】
なお、本実施形態において、上部引込ローラ32は、回転軸の左右の支持端部のそれぞれを別個に上下動可能に構成している。しかしながら、この構成に限定されるものではなく、各支持端部を一体的に上下動可能に構成してもよい。また、採苗器10の厚さがほぼ一定であれば、上部引込ローラ32の回転軸を固定してもよい。
【0026】
また、本実施形態では、図4に示すように、2本の下部引込ローラ31,31の隙間にスペーサ37を設け、採苗器10のロープ等が巻き込まれて落下するのを防止するようになっている。さらに、図8に示すように、上部引込ローラ32を上下動させるための上下動レバー38を設けてもよい。これにより、上部引込ローラ32に採苗器10が絡みついてしまった場合等、不測の事態が発生した場合の対処が容易になる。
【0027】
稚貝分離部4は、採苗器10に付着しているホタテ稚貝を分離落下させるものである。本実施形態において、稚貝分離部4は、図4に示すように、送出部2および引込部3の間に設けられており、採苗器10にテンションを与えつつ上下振動させるようになっている。具体的には、稚貝分離部4は、図4に示すように、引込部3に引き込まれる採苗器10に対してテンションを付与する方向に回転駆動される複数のテンションロータ41を有している。
【0028】
本実施形態において、各テンションロータ41は、採苗器10の送り経路における下方位置に軸支されており採苗器10を下方から上方に押し上げる押上テンションロータ42と、送り経路における上方位置に軸支されており採苗器10を上方から下方に押し下げる押下テンションロータ43とで構成されている。そして、図4に示すように、2つの押上テンションロータ42,42と1つの押下テンションロータ43とが送り方向に沿って交互に配置され、当該送り方向とは逆方向へ採苗器10を引き込むように回転駆動される。また、本実施形態では、押下テンションロータ43の下端縁部が、押上テンションロータ42の上端縁部よりも下方となるように配置されており、採苗器10を曲線状にうねらせてホタテ稚貝を落下させやすくなっている。
【0029】
各テンションロータ41のロータ軸44周りには、図4および図9に示すように、採苗器10に接触しつつ空転可能な3つの空転ローラ45がロータ軸44から等距離の位置において軸支されている。この構成により、各テンションロータ41は、採苗器10の内袋等を巻き込みにくくなるとともに、採苗器10にテンションを付与する際に採苗器10から受ける抵抗が低減する。
【0030】
なお、稚貝分離部4の構成は、上述した構成に限定されるものではなく、採苗器10にテンションを与えつつ上下振動させうる限り、適宜変更してもよい。例えば、本実施形態では、3つのテンションロータ41を用いているが、ホタテ稚貝回収装置1のサイズや分離性能に応じて増減してもよい。また、本実施形態では、各テンションロータ41につき3本の空転ローラ45を用いているが、複数本であればよい。
【0031】
また、本実施形態において、押上テンションロータ42および押下テンションロータ43の周囲には、図4に示すように、採苗器10の内袋が巻き込まれるのを防止するための巻込防止ローラ46が、水平軸をもって回転自在に軸支されている。巻込防止ローラ46がない場合、図10(a)に示すように、内袋が押上テンションロータ42や押下テンションロータ43に巻き込まれてしまうおそれがある。一方、巻込防止ローラ46を設けた場合、図10(b)に示すように、内袋が巻込防止ローラ46によって弾かれ、テンションロータ41への巻き込みが防止される。
【0032】
稚貝回収部5は、採苗器10から分離落下したホタテ稚貝を回収するものである。本実施形態において、稚貝回収部5は、図1および図4に示すように、中央に向けて緩やかに下方傾斜されたシュートによって構成されており、稚貝分離部4の下方位置に設けられている。
【0033】
また、本実施形態では、図4に示すように、稚貝回収部5の上端縁部および稚貝分離部4の上方に、散水を行うための散水パイプ51が設けられている。これにより、採苗器10を水洗いすると同時に、ホタテ稚貝がシュートに落下する際の衝撃を緩和し、破損しにくくするようになっている。
【0034】
つぎに、本発明に係るホタテ稚貝回収装置1の作用について、採苗器10からホタテ稚貝を回収する際の工程に沿って説明する。
【0035】
本実施形態のホタテ稚貝回収装置1を用いて、採苗器10からホタテ稚貝を回収する場合、まず、図11に示すように、採苗器10の外網を裏返した後、内網が連結されたロープの先端側を送出部2、稚貝分離部4を通して引込部3にセットする。つぎに、上部引込ローラ32および下部引込ローラ31のそれぞれを回転駆動させると、図4に示すように、採苗器10が順に挟持されながら略水平方向に引き込まれる。
【0036】
このとき、送出部2は、水平方向の横ローラ21と、鉛直方向の複数の縦ローラ22とから構成されているため、採苗器10の進入方向に関わらずスムーズに装置内へと送り出す。また、各縦ローラ22のピッチや本数を適宜調節することで、様々なサイズや形状の採苗器10に対応するとともに、複数の採苗器10を同時に処理することが可能となる。
【0037】
一方、引込部3では、上部引込ローラ32が、左右の支持端部を上下動可能に下方へ付勢されているため、簡単な構成でありながら、採苗器10の薄い部分や不規則な形状部分であっても適宜、追従・退避しながら挟み込み状態を維持し、安定的に引き込む。また、上部引込ローラ32の左右端部が別個に上下動可能なため、不規則な形状部分近傍のみを上方に退避させるとともに、薄い部分の挟持状態を保持する。さらに、下部引込ローラ31間のスペーサ37が、採苗器10のロープ等が巻き込まれて落下するのを防止する。
【0038】
引込部3の駆動開始とともに、稚貝分離部4では、押上テンションロータ42および押下テンションロータ43の回転駆動が開始され、送り方向とは逆方向に採苗器10を引き込んでテンションを付与する。このとき、各テンションロータ41を構成する空転ローラ45が、採苗器10に接触しつつ空転するため、採苗器10からホタテ稚貝を分離しやすくする一方、採苗器10から受ける抵抗を低減する。このため、モータや採苗器10に過度な負担がかかることを防止する。
【0039】
また、各テンションロータ41を構成する複数の空転ローラ45が、順次、ロータ軸44周りに回転しながら遠心力を発生させ、採苗器10を上方から下方に押し下げる動作、および下方から上方に押し上げる動作を繰り返す。これにより、上下にうねらせられた状態の採苗器10は、各空転ローラ45から連続的に衝撃が付与されるため、小刻みに上下振動を繰り返し、ホタテ稚貝を高い確度で分離落下させる。
【0040】
さらに、本実施形態において、稚貝分離部4がホタテ稚貝を分離落下している間、巻込防止ローラ46が、図10(b)に示すように、採苗器10の内袋を巻込防止ローラ46によって弾き返し、テンションロータ41に巻き込まれるのを防止する。
【0041】
稚貝分離部4によって分離落下されたホタテ稚貝は、稚貝回収部5によって回収される。このとき、採苗器10は略水平方向に引き込まれて処理されるため、長大化した採苗器10からでも連続的かつ効率的にホタテ稚貝を回収する。また、略水平状態の採苗器10のすぐ下方に稚貝回収部5が設けられるため、稚貝回収部5に落下した際の衝撃が小さく、ホタテ稚貝の破損率が抑制される。さらに、本実施形態では、散水パイプ51で散水することにより、採苗器10を水洗いすると同時に、ホタテ稚貝がシュートに落下する際の衝撃を緩和し、破損しにくくする。
【0042】
なお、送り方向における採苗器10の後端部に、次の採苗器10の先端部を順次、連結することにより、複数の採苗器10を連続的に処理することも可能である。
【0043】
以上のような本実施形態によれば、以下のような作用効果を奏する。
1.長大化した採苗器10からでも連続的かつ効率的にホタテ稚貝を回収するとともに、その破損率を低減することができる。
2.採苗器10からホタテ稚貝を分離しやすくするとともに、採苗器10から受ける抵抗を低減することができる。
3.採苗器10を上下にうねらせ、テンションロータ41に発生する遠心力と、各空転ローラ45による上下振動とを付与することにより、ホタテ稚貝を高確度で分離させることができる。
4.簡単な構成でありながらホタテ稚貝を効率的に分離することができる。
5.採苗器10の内袋がテンションロータ41に巻き込まれるのを防止することができる。
6.不規則な形状や方向で進入する採苗器10であってもスムーズに送り出すことができる。
7.簡単な構成でありながら、不規則な形状の採苗器10であっても安定的に引き込むことができる。
【0044】
なお、本発明に係るホタテ稚貝回収装置1は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0045】
例えば、上述した本実施形態では、採苗器10として、図11に示すような、ロープに複数の内網を連結し外網で被覆してなる採苗器10からホタテ稚貝を回収していたが、この構成に限定されるものではなく、図12に示すように、ロープに大きめの内網を一つ連結し、これを外網で被覆してなる採苗器10から回収することもできる。
【0046】
また、上述した本実施形態では、3本の縦ローラ22を設け、各縦ローラ22間に採苗器10を通すことにより、2本の採苗器10を同時に処理しうるように構成されている。しかしながら、この構成に限定されるものではなく、縦ローラ22の本数を適宜増設し、複数の採苗器10を同時に処理しうるように構成してもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 ホタテ稚貝回収装置
2 送出部
3 引込部
4 稚貝分離部
5 稚貝回収部
10 採苗器
21 横ローラ
22 縦ローラ
31 下部引込ローラ
32 上部引込ローラ
33 ゴム板
34 ガイドレール
35 スライド部材
36 圧縮コイルバネ
37 スペーサ
38 上下動レバー
41 テンションロータ
42 押上テンションロータ
43 押下テンションロータ
44 ロータ軸
45 空転ローラ
46 巻込防止ローラ
51 散水パイプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13