【実施例1】
【0023】
以下、本発明について、実施するための形態を図面にしたがって説明する。
【0024】
図1は、下腿回旋装具100の全体の斜視図である。下腿回旋装具100は、一対の支持側板110を左右縁から上向きに設ける足底板120と、支持側板110の先端に形成される継手部130に支持される下腿支柱140と、下腿支柱140に固定される下腿カフ150と、を備える下腿装具である。なお、下腿回旋装具100の下腿への固定は、脛ファスナー160および甲ファスナー170によることが好ましいが、これに限定されるものではない。固定手段の例として、スリッポン型とすること、面ファスナー、バックル、レースを使用することが挙げられる。膝OA患者の半月板に近い脛ファスナー160は、柔らかい素材を用いることが好ましい。
【0025】
支持側板110は、膝OA患者が下腿回旋装具100を装着するときに、足底板120の左右縁から概ね膝OA患者の両踝のあたりに向かうように、一対に設ける。
【0026】
図2は、足底板120の側面図である。足底板120は、膝OA患者の足裏が当接する部材であり、踵当接部121の周囲にアッパー122を設け、中足骨当接部123まで、具体的には膝OA患者の中足骨と基節骨を繋ぐ中足指節関節に相当する部分まで形成することが好ましい。
【0027】
踵当接部121の周囲にアッパー122を設けることは、膝OA患者の歩容改善において重要である。アッパー122を設けることによって、膝OA患者の踵骨のコントロールが可能となる。一般的に、踵骨の安定性は、踵骨と距骨の間にある距骨下関節の運動や変形の反映である。この距骨下関節の正常な回内可動域が阻止されるとストレスが下肢、骨盤および腰椎に加わり、病的状態をもたらす。踵部内外反の運動は足部の回内外と連動し、下腿の内外旋、膝関節の内外反にも影響する。また、アッパー122はインソールのずれの防止にも資する。インソールは、膝OA患者の左右の足の長さの調節、O脚の膝OA患者の膝関節位置の調整、アーチサポートとして膝関節への負荷の軽減のために用いることができる。
【0028】
また、足底板120は中足骨当接部123までとし、中足指節関節より先を自由にすることにより、膝OA患者の足部先端が靴底、地面等に直接触れることになり、足指での蹴り出しを補助する。
【0029】
足底板120の素材は、支持側板110を取付け、下腿支柱140、下腿カフ150などを支える必要があるため、強度が求められる。例えば、成形が容易かつ硬度が高い樹脂であるポリプロピレンを5mm厚として用いることが好ましいが、強度がある素材であれば、5mm厚のポリプロピレンに限定されるものではない。
【0030】
足底板120は、以上の構成とすることで、踵部の支持が可能となり、踵接地の促進および足指での蹴り出しを補助し、歩容改善の効果を高めることができる。
【0031】
継手部130は、支持側板110の上端に形成され、下腿支柱140を支持する。継手部130は、下腿支柱140の下端に設けた結合部材に固着した結合軸を、継手部130に設けた回動軸受により回動可能に支持する。下腿と足部の間の足関節の底屈(足首を伸ばす動作)および背屈(足首を曲げる動作)は、継手部130の回動軸受によって許容される。
【0032】
本実施例の継手部130は、回動軸受の回動範囲の前方限界位置と後方限界位置とを調節できるよう構成されている。このような構成からなる機構をダブルクレンザックという。回動範囲を左右でほぼ均一に調節することによって、足関節の底屈および背屈を補助することができ、膝関節の屈曲および伸展動作を制限する保存療法が可能となる。
【0033】
また、ダブルクレンザックの機構を有する継手部130を備える下腿回旋装具100は、膝装具と比較して、足部で固定することができるため、装具のずれの発生が少なく、膝OA患者が重度のO脚であるなど、膝装具の装着が困難な重度のFTA患者に対しても適用することができる。
【0034】
継手部130の回動範囲を左右で異ならしめ、内足側と外足側の回動範囲は可変とすることもできる。ここで、外足側とは足部の小指側をいい、内足側とは足部の親指側をいう。本実施例においては、外足側の継手部130は、下腿支柱140を前方および後方に回動可能にするダブルクレンザック機構のみならず、下腿支柱140の長手方向を軸に回動を可能とするボールジョイント機構も備える。このような継手部130を備えた下腿回旋装具100は、足関節の底背屈角度によって下腿を回旋させることができる。以下、ダブルクレンザック機構およびボールジョイント機構について説明する。
【0035】
図3は、継手部130を拡大した正面図であり、右足に装着する下腿回旋装具100を示す。継手部130は、基部131が支持側板110と回動可能に接続されている。基部131の前後にロッド棒132が内蔵され、ロッド棒132の締め込み深さによって、回動範囲の前方限界位置と後方限界位置とを無段階で調節することが可能である。具体的には、ロッド棒132は回動のストッパーの役目を担っており、締め込みを深くすることで、回動範囲は狭くなり、逆に締め込みを浅くすることで、回動範囲は広くなる。一例として、外足側の継手部130の前方のロッド棒132の締め込みを内足側の継手部130の前方のロッド棒132の締め込みより浅くし、回動範囲の前方限界位置を右側の継手部130の回動範囲の前方限界位置より前にすることができる。この場合、外足側の継手部130は、内足側の継手部130より前方に傾倒する。
【0036】
ロッド棒132は、継手部130の前方および後方に設けられ、簡易な機構のため調節が容易である。一例として、前方のロッド棒132にスプリングを適用して、回動時の衝撃を緩和してもよい。また、回動時の衝撃の緩和を目的として、継手部130を油圧または電気による制御としてもよい。
【0037】
図4は、
図3における外足側の継手部130を拡大した斜視図である。本実施例におけるボールジョイント機構は、基部131から延設されるスタッド133および、スタッド133に対して球面接触して回動可能に嵌め合いかつ下腿支柱140と接続されるソケット134を備える。
【0038】
本実施例のボールジョイント機構は、スタッド133の中心軸と、ソケット134に接続する下腿支柱140の長手方向が同軸上にあり、ソケット134の内面が、スタッド133の球面と摺動して、下腿支柱140が回動自在となる。また、ソケット134が膝OA患者の脚部に接触しないよう、スタッド133は基部131の外側に設けられる。
【0039】
図5は、右足に装着する下腿回旋装具100の下腿支柱140の動作を説明する模式図である。
図5においては、左支持側板210aおよび右支持側板210bは支持側板110に、平足底板220は足底板120に、左継手部230aおよび右継手部230bは継手部130に、左下腿支柱240aおよび右下腿支柱240bは下腿支柱140に、それぞれ相当する。右足に装着するので、膝OA患者から見ると、左側が内足側、右側が外足側である。また、接地面からの垂直方向に対する左下腿支柱240aおよび右下腿支柱240bの角度をそれぞれ、θおよびφとする。
【0040】
図5(a)の模式図は、踵が接地したときの左下腿支柱240aおよび右下腿支柱240bの状態を示す。踵が接地したときとは、足底が接地していない遊脚期から足底が接地する立脚期への移行が起こるときであり、この時点の下腿と足部の間の足関節の角度αを基準とする。ここで、この時点の接地面からの垂直方向に対する左下腿支柱240aの角度をθ
1、同じく右下腿支柱240bの角度をφ
1とすると、θ
1=φ
1である。
【0041】
図5(b)の模式図は、足底全体が接地したときの立脚中期の左下腿支柱240aおよび右下腿支柱240bの状態を示す。このとき、足関節は底屈しており、足関節の角度βはαより大きい。健常者であれば、足関節底屈が生じる踵の接地から立脚中期の間、下腿は、内足側に回旋、いわゆる内旋をする。ここで、立脚中期の時点の接地面からの垂直方向に対する左下腿支柱240aの角度をθ
2、同じく右下腿支柱240bの角度をφ
2とすると、θ
2>φ
2である。
【0042】
膝OA患者が下腿内旋異常を有する場合は、外足側が内足側より前方に傾倒するよう、右継手部230bの回動範囲の前方限界位置を左継手部230aの回動範囲の前方限界位置より前にするよう調節すればよい。θ
2>φ
2となることによって、下腿の内旋が誘導される。このように調節することによって、歩行時において、足関節底屈時の内旋運動が矯正される。
【0043】
図5(c)の模式図は、踵から爪先までが接地面から離れようとする立脚後期の左下腿支柱240aおよび右下腿支柱240bの状態を示す。このとき、足関節は背屈しており、足関節の角度γはαおよびβより小さい。健常者であれば、足関節背屈が生じる立脚中期から立脚後期の間、下腿は外旋する。ここで、立脚後期の時点の接地面からの垂直方向に対する左下腿支柱240aの角度を−θ
3、同じく右下腿支柱240bの角度をφ
3とすると、φ
3>−θ
3である。
【0044】
膝OA患者が下腿外旋異常を有する場合は、内足側が外足側より前方に傾倒するよう、左継手部230aの回動範囲の前方限界位置を右継手部230bの回動範囲の前方限界位置より前にするよう調節すればよい。φ
3>−θ
3となることによって、下腿の外旋が誘導される。このように調節することによって、歩行時において、足関節底屈時の内旋運動の後、足関節背屈時に外旋運動が矯正される。
【0045】
本実施例においては、外足側である右継手部230bにのみ、ボールジョイント機構を備える。ボールジョイント機構を備えることによって、右下腿支柱240bの自由回動が可能となり、内旋運動および外旋運動において回動軸受の回動限界まで下腿支柱が傾倒したときの衝撃を吸収し、膝OA患者の負担を軽減することができる。また、ボールジョイント機構の自由回動は、回動軸受の回動限界においても、膝OA患者の内旋運動および外旋運動による左下腿支柱240aおよび右下腿支柱240bの動作を補助するため、回動範囲の前方限界位置および後方限界位置の調整に幅を持たせることができる。
【0046】
ここで、下腿支柱140および下腿カフ150について詳しく説明する。
図1において、下腿支柱140は、継手部130に支持され、概ね膝OA患者の脛骨および腓骨に沿って、上方に伸びる。下腿支柱140には、下腿カフ150を取付けることができる。下腿カフ150は、下腿支柱140に固定され、しなりを可能とするための略半円柱形(蒲鉾形)の湾曲部151を備える。湾曲部151は、膝OA患者の下腿に当接し、下腿支柱140の動作を伝達する。
【0047】
図5においては、左下腿支柱240aおよび右下腿支柱240bに下腿カフ150が取付けられる。ここで、下腿回旋装具100が左継手部230aおよび右継手部230bの回動軸受の左右で異なる回動範囲を許容するため、湾曲部151には軟性樹脂素材を用いることが好ましい。湾曲部151がしなりのない剛性素材であるならば、連動する左下腿支柱240aおよび右下腿支柱240bならびに左継手部230aおよび右継手部230bは、左右で異なる動作をすることが困難である。一方で、湾曲部151は、膝OA患者の下腿を支えるだけの強度も必要である。例えば、低密度ポリエチレンを3mm厚として用いることが好ましいが、しなりと強度が両立する素材であれば、3mm厚の低密度ポリエチレンに限定されるものではない。
【0048】
下腿カフ150を取付けることによって、左下腿支柱240aおよび右下腿支柱240bは連動する。左継手部230aに設けられたボールジョイント機構および下腿カフ150のしなりによって、左下腿支柱240aおよび右下腿支柱240bの傾き差が許容される。このとき、左下腿支柱240aおよび右下腿支柱240bは、左継手部230aおよび右継手部230bのダブルクレンザックによる回動、ならびに、右継手部230bのボールジョイントによる回動の3軸の自由度を備えることにより、下腿回旋装具100の全体に負荷を掛けることなく、左下腿支柱240aおよび右下腿支柱240bの連動性が確保される。
【0049】
なお、ボールジョイント機構は、左継手部230aに設けるのみならず、右継手部230bに設けてもよく、左継手部230aおよび右継手部230bの双方に設けてもよい。ボールジョイント機構の装着は、膝OA患者の下腿回旋量の状態に応じて、適宜決定すればよい。
【0050】
下腿カフ150を取付けたときにおいて、継手部130の回動軸受の回動範囲の前方限界位置は、左右で0度より大きくかつ30度以下の差とすることが好ましく、5度以上かつ30度以下とすることがより好ましい。このような構成とすることによって、本発明の下腿回旋装具100は、膝OA患者の下腿回旋量を十分に確保することができる。このとき、左右の継手部130は、前方限界位置および後方限界位置を無段階で調節できるため、左右の下腿支柱140の傾き差も無段階で調節できる。
【0051】
継手部130、下腿支柱140および下腿カフ150は、以上の構成とすることで、下腿内旋異常を有する患者の場合、内足側より外足側の回動範囲を大きくし、また、下腿外旋異常を有する患者の場合、外足側より内足側の回動範囲を大きくするように設定することができ、左右の下腿の回旋量を膝OA患者個々の症状にあわせて容易に調節すること、および、足関節の底背屈角度によって下腿を回旋させることが可能となり、装置のずれによる無理な矯正の心配がない。
【0052】
また、下腿回旋装具100は、以上の構成とすることで、膝OA患者に対し、下腿の正しい回旋運動に誘導しつつ、踵部中央で接地面に接し、その後、立脚中期にかけて第1、第2中足骨頭中心、外足側中央の順に重心が移動し、立脚後期において拇指で蹴りだし、踵が接地面から離れるといった、正常に近い歩容に矯正することができる。