特許第6775905号(P6775905)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6775905
(24)【登録日】2020年10月9日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】電力貯蔵装置を備えた電動射出成形機
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/17 20060101AFI20201019BHJP
   B29C 45/76 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   B29C45/17
   B29C45/76
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-154471(P2018-154471)
(22)【出願日】2018年8月21日
(65)【公開番号】特開2020-28999(P2020-28999A)
(43)【公開日】2020年2月27日
【審査請求日】2019年4月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100097696
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100147072
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 裕通
(72)【発明者】
【氏名】松尾 忠義
【審査官】 松田 成正
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−135913(JP,A)
【文献】 特許第3440858(JP,B2)
【文献】 特開2017−028793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C45/00−45/84
B29C48/00−48/96
H02J 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から供給される三相交流電力が交流直流変換器によって直流電力に変換され、これがインバータによって所望の三相交流電力に変換されてモータに供給され、そして電力貯蔵装置が前記交流直流変換器と前記インバータとを接続する直流電圧線に設けられている電動射出成形機であって、
前記電動射出成形機の運転開始は、前記電力貯蔵装置の電力貯蔵量が所定の開始判定値に達していることが条件になっており、
前記電動射出成形機は、運転中に停電が検出されると前記電力貯蔵装置から直流電力が供給される停電運転モードに移行して成形サイクルが継続され、
前記停電運転モード中に前記電力貯蔵装置の電力貯蔵量が所定の停止判定値を下回ったら前記電動射出成形機が安全な状態になるまで運転した後に前記電動射出成形機が停止され、前記停止判定値に達する前に停電が回復したら前記外部からの三相交流電力で運転する通常運転モードに移行して成形サイクルが継続されるようになっていることを特徴とする、電力貯蔵装置を備えた電動射出成形機。
【請求項2】
請求項1に記載の電動射出成形機において、前記停止判定値は1回分の成形サイクルに必要となる電力量であることを特徴とする、電力貯蔵装置を備えた電動射出成形機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池、コンデンサ等の電力貯蔵装置を備えた電動射出成形機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形機は、従来周知のように、金型を型締めする型締装置、樹脂を溶融して金型内に射出する射出装置、等から構成され、射出装置は加熱シリンダ、この加熱シリンダ内に軸方向と回転方向とに駆動されるスクリュ等から構成されている。電動射出成形機は各装置にモータが設けられており、工場から供給される三相交流電力によって駆動されるようになっている。すなわち電動射出成形機にはコンバータが設けられ工場からの三相交流電力が直流電力に変換される。直流電力はインバータにおいて所望の周波数、電流の三相交流電力に変換されてモータに供給され、各装置が駆動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017−217836号公報
【特許文献2】特開2018−8397号公報
【0004】
特許文献1には、電力貯蔵装置を備えた電動射出成形機が記載されている。この電動射出成形機においては、コンバータから接続されている第1の直流電圧線に電力貯蔵装置が接続され、この電力貯蔵装置にチョッパ回路が設けられ、直流電圧が昇圧されて第2の直流電圧線に供給されるようになっている。モータを駆動するインバータはこの第2の直流電圧線に接続されている。電力貯蔵装置には、第1の直流電圧線において蓄電池とコンデンサとが接続されており、蓄電池において大容量の電力を貯蔵することができる。従って、比較的電力の消費が少ない工程において電力貯蔵装置に電力を貯蔵し、射出工程等の大電力が必要な工程において電力を供給し、消費電力を平滑化できる。そして貯蔵できる電力に余裕があるので、停電時には比較的長時間電動射出成形機を運転することができ、安全な状態にして停止できる。
【0005】
特許文献2にも、電力貯蔵装置を備えた電動射出成形機が記載されている。この電動射出成形機においても電力貯蔵装置は直流電圧線に接続され、電力消費の少ない工程においては電力貯蔵装置に電力を貯蔵し、大電力が必要な工程においては電力を供給して電力消費が平滑化されるようになっている。この電動射出成形機においては、電力貯蔵装置に蓄電される電力、放電される電力がモニタリングされており、蓄電量が計算されている。そしてこの電動射出成形機も工場からの電力供給が停止する停電時には電力貯蔵装置からの電力で運転が継続されるようになっているが、そのような停電が発生したときに備えて、電力貯蔵装置からの電力のみで運転可能な成形サイクル数が計算されて、常時モニタに表示するようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載のそれぞれの電動射出成形機は、電力貯蔵装置を備えているので、停電時であっても所定時間電動射出成形機を運転でき、安全な状態にして停止することができる。つまり電動射出成形機と金型を確実に保護することができる。また、特許文献2に記載の電動射出成形機においては、停電時に運転可能な成形サイクル数も表示されるので、使い勝手に優れている。しかしながら、これらの電動射出成形機についても改良の余地が見受けられる。電動射出成形機は、停電発生の頻度が高い地域や国において設置されることがある。このような地域、国においては停電が頻発するだけでなく、短時間の停電が、比較的短い時間において複数回発生することがある。このような場合、例えば特許文献1に記載の電動射出成形機であれば最初の停電の発生時に停止を判断して電動射出成形機を安全な状態で停止することができるが、短時間後に電力復旧したとしても電動射出成形機は停止している。運転再開するためにはオペレータの操作が必要になり、それだけ電動射出成形機の稼動時間が少なくなり成形品の成形コストが大きくなる。特許文献2に記載の電動射出成形機の場合には、最初の停電検出時において電動射出成形機を停止するとは限らない。また停電時に電力貯蔵装置からの電力供給で運転可能な成形サイクル数は計算されている。しかしながら運転可能な成形サイクル数はモニタに表示されるようになっていて、停電時にどのようにすべきかはオペレータの判断にゆだねられている。そうすると、停電/電力復旧が短時間で繰り返されるとき、電動射出成形機の運転を継続すべきか停止すべきかはオペレータがその都度判断しなければならず、煩雑である。他の改善すべき点もある。特許文献1、2に記載の電動射出成形機については、これらが停止した状態から運転を開始するとき、安全に開始するための条件が考慮されていないように見受けられる。例えば電力貯蔵装置に貯蔵されている電力が十分でないとき、電動射出成形機の運転開始直後に停電が発生すると電動射出成形機を安全な状態にして停止することが保証されない。安全に運転を開始するための条件が必要であるように見受けられる。
【0007】
本発明は、上記したような問題点を解決した電動射出成形機を提供することを目的とし、具体的には、停電時に電力を供給する電力貯蔵装置を備えた電動射出成形機であって、停電/電力復旧が頻発する状況においても可及的に連続的に運転を継続することができ、停止が必要な場合にはオペレータの判断を要することなく自律的に停止することができ、さらには、電動射出成形機の運転について安全に開始することができる、電動射出成形機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、コンバータとインバータとを接続する直流電圧線に電力貯蔵装置が設けられている電動射出成形機を対象とする。そして本発明の電動射出成形機は、停電が検出されると電力貯蔵装置から直流電力が供給される停電運転モードに移行して成形サイクルが継続され、停電運転モード中に電力貯蔵装置の電力貯蔵量が所定の停止判定値を下回ったら電動射出成形機が安全な状態になるまで運転した後に電動射出成形機が停止されるように構成する。一方、停電運転モード中に停止判定値に達する前に停電が回復したら外部からの三相交流電力で運転する通常運転モードに移行して成形サイクルが継続されるように構成する。また電動射出成形機は、電力貯蔵装置の電力貯蔵量が所定の開始判定値に達しない場合には運転開始が禁止されるように構成する。
【0009】
すなわち、請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するために、外部から供給される三相交流電力が交流直流変換器によって直流電力に変換され、これがインバータによって所望の三相交流電力に変換されてモータに供給され、そして電力貯蔵装置が前記交流直流変換器と前記インバータとを接続する直流電圧線に設けられている電動射出成形機であって、前記電動射出成形機の運転開始は、前記電力貯蔵装置の電力貯蔵量が所定の開始判定値に達していることが条件になっており、前記電動射出成形機は、運転中に停電が検出されると前記電力貯蔵装置から直流電力が供給される停電運転モードに移行して成形サイクルが継続され、前記停電運転モード中に前記電力貯蔵装置の電力貯蔵量が所定の停止判定値を下回ったら前記電動射出成形機が安全な状態になるまで運転した後に前記電動射出成形機が停止され、前記停止判定値に達する前に停電が回復したら前記外部からの三相交流電力で運転する通常運転モードに移行して成形サイクルが継続されるようになっていることを特徴とする、電力貯蔵装置を備えた電動射出成形機として構成される。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電動射出成形機において、前記停止判定値は1回分の成形サイクルに必要となる電力量であることを特徴とする、電力貯蔵装置を備えた電動射出成形機として構成される。
【発明の効果】
【0010】
以上のように本発明は、外部から供給される三相交流電力が交流直流変換器によって直流電力に変換され、これがインバータによって所望の三相交流電力に変換されてモータに供給され、そして電力貯蔵装置が交流直流変換器とインバータとを接続する直流電圧線に設けられている電動射出成形機を対象としている。そして電動射出成形機の運転開始は、電力貯蔵装置の電力貯蔵量が所定の開始判定値に達していることが条件になっている。これによって運転開始直後に停電が発生した場合の危険を回避することができる。つまり、電力貯蔵装置の電力貯蔵量が十分でないときに運転を開始してしまうと、停電が発生したときに電動射出成形機を安全な状態になるまで運転することもできなくなってしまうが、電力貯蔵量が開始判定値に達しているか否かを判断することによって、停電が発生しても確実に電動射出成形機を安全な状態になるまで運転できることが保証される。そして本発明によると電動射出成形機は、運転中に停電が検出されると電力貯蔵装置から直流電力が供給される停電運転モードに移行して成形サイクルが継続されるように構成されている。つまり停電が発生しても成形品を成形し続けることができる。さらに本発明によると、停電運転モード中に電力貯蔵装置の電力貯蔵量が所定の停止判定値を下回ったら電動射出成形機が安全な状態になるまで運転した後に電動射出成形機が停止される。つまり停電時でも可能な限り成形サイクルを継続できるが、電力貯蔵装置の電力貯蔵量が所定の値を下回ったら安全に電動射出成形機を停止できるので安心である。さらに本発明によると、停止判定値に達する前に停電が回復したら外部からの三相交流電力で運転する通常運転モードに移行して成形サイクルが継続される。従って、比較的短時間で停電/電力復旧が発生しても、電動射出成形機を運転し続けることができる。つまり停電の影響を受けにくく生産性を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係る電動射出成形機の給電システムを模式的に示す配線図である。
図2】本発明の実施の形態に係る電動射出成形機の運転方法を示すフローチャートであり、その(ア)は運転を開始するときの、その(イ)は停電が発生したときの、それぞれの運転方法を示すフローチャートである。
図3】本発明の実施の形態に係る電動射出成形機に設けられている電力貯蔵装置における電力貯蔵量の変化を示すグラフであり、その(ア)は電動射出成形機の運転を開始するときにおける、その(イ)は停電が発生したときにおける、それぞれの電力貯蔵量の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明の実施の形態に係る電動射出成形機1は、型締装置、射出装置等の各装置がサーボモータ等のモータM、M、…によって駆動される電動射出成形機からなり、その給電システムが図1に示されている。電動射出成形機1は、工場電源2から三相交流電力が供給されるようになっており、図1には示されていないが、射出成形機1内の三相交流電圧線3は所定の遮断器を介して工場電源2に接続されている。このような三相交流電圧線3には、PWMコンバータ等からなる交流直流変換器5が設けられ、交流直流変換器5には直流電圧線6が接続されている。三相交流電圧線3によって供給される三相交流電力はこの交流直流変換器5によって直流電力に変換され直流電圧線6に供給されることになる。この直流電圧線6には複数のインバータ8、8、…が設けられ、各インバータ8、8、…はそれぞれ、射出軸、可塑化軸、型開閉軸等の各モータM、M、に接続されている。直流電力は各インバータ8、8、…によって所望の周波数、電流の三相交流電力に変換され、モータM、M、…に供給されてモータM、M、…が駆動される。すなわち型締装置、射出装置等が駆動される。
【0013】
本実施の形態に係る電動射出成形機1においては、直流電圧線6に電力貯蔵装置10が設けられている。電力貯蔵装置10は、工場電源2から正常に電力供給されているときは、直流電圧線6に供給されている直流電力により蓄電するようになっており、停電時には蓄電した電力を直流電圧線6に供給して電動射出成形機1の運転を継続するようになっている。従って、大容量の電力を貯蔵する必要があり、蓄電池から構成することが好ましい。しかしながら電気二重層キャパシタ等の大容量のコンデンサから構成してもよいし、蓄電池とコンデンサとが組合わされていてもよい。なお、電力貯蔵装置10は、停電時における電力供給だけでなく、工場電源2から正常に電力が供給されているときにおいても、消費電力の変動の平滑化を目的として使用することができる。すなわち、成形サイクルにおいて消費電力が大きい射出工程において、電力貯蔵装置10から直流電圧線6に直流電力を供給し、他の工程において電力貯蔵装置10は蓄電する。そうすると交流直流変換器5から供給する直流電力を平滑化できる。
【0014】
電動射出成形機1には電動射出成形機1のコントローラ、つまり制御装置12が設けられており、型締装置、射出装置等の各装置、および電力貯蔵装置10は制御装置12によって制御される。この制御装置12に供給される制御用電力は三相交流電圧線3から得るようになっており、図示されない専用のコンバータが三相交流電圧線3に設けられ、このコンバータによって三相交流電力が制御用直流電圧に変換されて制御装置12に供給されている。制御装置12に対しては、停電時においても制御用電力を供給する必要がある。そこで本実施の形態においては、直流電圧線6に、いわゆる降圧チョッパ回路を備えた制御用電力供給装置13が設けられている。停電時には電力貯蔵装置10から直流電圧線6に直流電力が供給されるので、これを制御用電力として利用することになる。制御装置12は、三相交流電圧線3の三相交流電力を監視しており、電力供給が正常であれば三相交流電力から制御用電力を得、停電を検出したら制御用電力供給装置13から制御用電力を得る。なお、停電時における制御用電力の供給用として、必ずしも制御用電力供給装置13を直流電圧線6に設ける必要はない。例えば、三相交流電圧線3から前記したコンバータを介して制御用電力を得る電力線において、専用の蓄電装置を設けてもよい。そうすると停電時においてこの蓄電装置から制御用電力の供給を受けることができる。
【0015】
本実施の形態に係る電動射出成形機1は、停電において電力貯蔵装置10からの電力供給により運転を継続できるようになっているが、停電/電力復旧が頻発する場合においても電動射出成形機1を安全に運転できることが保証されている。これを実現するために、制御装置12には予め次の2個のデータが設定されている。
「開始判定値」
電動射出成形機1が成形サイクルを開始するために必要となる、電力貯蔵装置10の電力貯蔵量。貯蔵されている電力量が開始判定値に達しない場合には成形サイクルの開始が禁止される。開始判定値として、例えば1回分の成形サイクルに必要となる電力の貯蔵量が設定される。
「停止判定値」
停電時に電力貯蔵装置10からの電力で電動射出成形機1を運転しているときの、成形サイクルの停止を判断するための電力貯蔵装置10の電力貯蔵量。貯蔵されている電力量が停止判定値を下回ったら電動射出成形機1が停止される。停止判定値は開始判定値と同じ値でもよい。停止判定値として、例えば1回分の成形サイクルに必要となる電力量が設定される。
【0016】
本実施の形態に係る電動射出成形機1の運転方法を説明する。最初に電動射出成形機1の運転開始方法を説明する。電動射出成形機1に工場電源2からの三相交流電力を供給するいわゆる通電を実施すると、最初に制御装置12が立ち上がる。制御装置12は安全を確認し、直流交流変圧器5を起動する。直流電力が直流電圧線6に供給される。そうすると図2の(ア)においてステップS1として示されているように、電力貯蔵装置10への電力が貯蔵が開始される。図3の(ア)のグラフには、電力の貯蔵を開始したタイミングが符号21として示されており、その後、電力貯蔵量22が上昇している様子が示されている。制御装置12は、ステップS1として電力貯蔵装置10の電力貯蔵量22、つまりSOC(State Of Charge)を確認する。電力貯蔵量22が開始判定値に達しているか否かについてステップS3において判定する。開始判定値に達していない場合には、ステップS2に戻る。すなわち電力貯蔵量22が確認され、再びステップS3に戻る。開始判定値に達するまでこれが繰り返される。やがて電力貯蔵量22は図3の(ア)において符号23で示されているように開始判定値に達する。制御装置12は、ステップS3において電力貯蔵量22が開始判定値に達したことを確認したら、成形サイクルを安全に開始できると判断し、ステップS4として通常運転モードにより運転を開始する。すなわち電動射出成形機1は、工場電源2からの三相交流電力によって成形サイクルを開始する。電力貯蔵装置10には開始判定値を超える十分な電力が蓄電されているので、仮に運転開始直後に停電が発生しても、電力貯蔵装置10から電力を供給することによって、安全な状態になるまで電動射出成形機1を運転し、停止できることが保証される。
【0017】
通常運転モードの運転中に、つまり工場電源2からの三相交流電力の供給により電動射出成形機1を運転中に、停電が発生した場合の運転方法について説明する。停電が発生すると制御装置12は、図2の(イ)においてステップS11として示されているように、これを検出する。制御装置12はステップS12として通常運転モードから停電運転モードに移行する。すなわち、制御装置12により電力貯蔵装置10が制御され、電力貯蔵装置10から直流電力が供給される。この電力によりモータM、M、…を駆動して成形サイクルを継続することができる。停電運転モードにおいては、制御装置12の制御用電力は制御用電力供給装置13から得るようにする。図3の(イ)のグラフには、符号31で示されているタイミングで停電が発生し、このタイミング以降電力貯蔵量32が少しずつ低下している様子が示されている。制御装置12はステップS13として電力貯蔵装置10の電力貯蔵量32を確認する。ステップS14により、得られた電力貯蔵量32と1回の成形サイクルにおいて必要となる電力量とから、電力貯蔵装置10からの電力供給により運転可能な成形サイクル数を計算する。なお、1回の成形サイクルにおいて必要となる電力量は、通常運転モードにおいて成形サイクルを実施したときに測定される消費電力を使用すればよい。計算した運転可能な成形サイクル数を、電動射出成形機1のモニタに表示する。なお、運転可能な成形サイクル数の計算とモニタへの表示は、本発明において必ずしも必須ではなく、オペレータに対する参考情報として提供されている。制御装置12はステップS15として、電力貯蔵装置10の電力貯蔵量32を停止判定値と比較する。電力貯蔵量32が停止判定値より上回っていたら、そのまま成形サイクルを継続する。すなわちステップS16として1回成形サイクルを実施する。しかしながら電力貯蔵量32が停止判定値を下回ったら、成形サイクルを中断してステップS17として電動射出成形機1を安全な状態まで運転した後に停止する。図3の(イ)のグラフには、電力貯蔵量32が停止判定値を下回ったタイミングが符号33で示されている。制御装置12がこれを検出し、所定時間後に電動射出成形機1が符号34において停止し、その後電力貯蔵量32が一定になっている様子が示されている。
【0018】
ステップS16により1回分の成形サイクルを実施したら、ステップS18として停電からの電力の復旧の有無を確認する。停電が継続していたらステップS13に戻って電力貯蔵装置10の電力貯蔵量32を確認し、ステップS14、S15、…を繰り返す。ステップS18において、電力の復旧を確認したら、ステップS19として制御装置12は停電運転モードから通常運転モードに移行する。すなわち、電力貯蔵装置10からの電力供給を停止して、工場電源2からの三相交流電力によって電動射出成形機1を運転する。制御用電力も三相交流電圧線3から得る。図3の(イ)には、停電運転モードによる運転中において符号35で示されているタイミングで電力が復旧した様子が示されている。通常運転モードに移行して電力貯蔵装置10からの電力供給は停止されるので、電力貯蔵装置10への電力の貯蔵が再開し、それによって電力貯蔵量32’のグラフが上向きに変化している。なお、図2の(イ)のフローチャートにおけるステップS18は、ステップS16による1回分の成形サイクルの完了後に実施して電力復旧の有無について確認しているが、実際には電力復旧の有無の監視は常時実施されており、電力復旧したら成形サイクルの途中であっても制御装置12は速やかに通常運転モードに移行する。図3の(イ)のグラフにおいて、電力貯蔵装置10の電力貯蔵量32’が上向きに転じているタイミングは符号35で示されているように成形サイクルの途中であり、これは成形サイクルの途中で通常運転モードに移行しているからである。
【0019】
本実施の形態に係る電動射出成形機1は色々な変形が可能である。例えば、本実施の形態においては開始判定値や停止判定値は、予め制御装置12に設定されるべきデータであるように説明した。つまりオペレータが設定すべきデータであるように説明した。しかしながら、これらは制御装置12が自動的に計算して決定してもよい。例えば、開始判定値と停止判定値は、通常運転モード時において1回あたりの成形サイクルで消費される消費電力を使用することができる。そうすると制御装置12によって開始判定値と停止判定値を決定することができる。このように開始判定値と停止判定値を決定すると、少なくとも停電時においても1回分の成形サイクルに必要な電力量が電力貯蔵装置10に貯蔵されていることが保証される。
【符号の説明】
【0020】
1 電動射出成形機 2 工場電源
3 三相交流電圧線 5 交流直流変換器
6 直流電圧線 8 インバータ
10 電力貯蔵装置 12 制御装置
13 制御用電力供給装置
図1
図2
図3