【文献】
BARRETO, G. et al.,Gadd45a promotes epigenetic gene activation by repair-mediated DNA demethylation,Nature,2007年,445(7128),pp.671-675, Suppl. pp.1-14
【文献】
実験医学, (2011.02.01), Vol. 29, No. 2, p. 50-55
【文献】
浜田淳一,癌細胞の悪性形質獲得に伴う形態学的変化,電子顕微鏡,1996年,Vol. 31, No. 2/3,p. 81-86
【文献】
BARRETO G. et al.,Gadd45a promotes epigenetic gene activation by repair-mediated DNA demethylation,Nature,2007年,445(7128),pp.671-675, Suppl. pp.1-14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記レポーターベクターは、前記被検細胞のゲノム上の特定の配列における修飾の状態を、前記被検細胞の核内での自己複製中に官能基の置換によって対応するその配列上に写し取り、当該写し取られた官能基の存在状況に依存して、特定の条件下で活性化されるプロモーター活性によって検出可能な信号を生ずることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の方法。
前記レポーターベクターの当該転写制御配列は、官能基が置換され得る塩基を含む、前記被検細胞のゲノム上の特定の配列に対して同一性を有する標的核酸配列を含み、当該官能基の置換の程度に依存して活性化されるプロモーター活性を有することを特徴とする請求項2〜4の何れか1項に記載の方法。
前記ラージT抗原遺伝子が、配列番号4、配列番号5若しくは配列番号6で示される核酸、または配列番号4、配列番号5若しくは配列番号6の配列中の1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された配列により示され、且つDNA複製開始機能を有する核酸であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
前記構成的プロモーターが、サイトメガロ・ウイルスプロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、シミアン・ウイルス初期プロモーターおよびシミアン・ウイルス後期プロモーターからなる群より選択されることを特徴とする請求項4〜9の何れか1項に記載の方法。
更に、前記被検細胞の核を染色することと、前記染色された核を観察することとを含み、前記被検細胞の特性を判定することが、更に核の観察により得られた結果に基づいて行われることを特徴とする請求項1〜13の何れか1項に記載の方法。
(1)被検細胞のゲノム上の特定の配列における修飾の状態を、前記被検細胞の核内での自己複製中に官能基の置換によって対応するその配列上に写し取り、当該写し取られた官能基の存在状況に依存して、NAMPT遺伝子のプロモーター活性によって発光を生ずるレポーターベクターを、被検細胞の核内に導入する遺伝子導入部と、
(2)前記遺伝子導入部で処理された前記被検細胞を培養し、前記被検細胞を分裂させることにより、前記レポーターベクターを自己複製させる培養部と、
(3)前記培養部で培養された生きた被検細胞について700nm〜750nmの波長
の明視野条件下で明視野画像を撮像し、更に、その同じ視野について当該レポーター遺伝子の発現に由来して細胞毎に生じた発光信号を含む発光画像を撮像する撮像部と、
(4)前記明視野画像から得られる、対照細胞と比較したときの前記被検細胞のアスペクト比の大小(第2の結果)と前記発光画像から得られる前記発光信号(第1の結果)との両方に基づいて、前記第1の結果と、前記アスペクト比がより大きいという前記第2の結果とから、前記被検細胞が高浸潤の乳癌細胞である若しくはその可能性が高いと判定するか、又は前記第1の結果と、前記アスペクト比がより小さいという前記第2の結果とから、前記被検細胞が低浸潤の乳癌細胞である若しくはその可能性が高いと判定する判定部を具備する細胞特性判定装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態について詳細に説明する。
【0012】
1つの実施形態は、遺伝子発現および発現制御に関する情報と形態学的な情報とに基づいて、被検細胞の細胞特性を判定する方法である。
【0013】
細胞特性は、例えば、被検細胞の健康状態の指標となる。例えば、細胞特性を知ることにより、被検細胞が、正常またはインタクトな細胞であるのか、異常または障害のある細胞であるのか、或いはその中間の状態の細胞であるのかなどを知ることができる。また、細胞特性を判定することによって、特定の疾病の検査をすることが可能である。特定の疾患の例は、癌、精神疾患、生活習慣病、神経疾患、自己免疫疾患、および循環器疾患などであってもよく、或いは前疾患状態、例えば、前癌状態、前糖尿病状態などであってもよい。また細胞特性を判定することにより、被検細胞が特定の状態にあるのか否かを知ることも可能である。また、細胞特性を知ることにより、例えば、幹細胞から分化誘導して得られた細胞が目的とする特性を有するのか否かを知ることができる。
【0014】
遺伝子発現および発現制御に関する情報とは、例えば、レポーターベクターを用いて得られた被検細胞のプロモーター転写活性についての情報であればよい。プロモーター転写活性は、特定の遺伝子の発現の有無および大きさを示す指標となる。更にまた、プロモーター転写活性は、被検細胞に含まれるゲノム核酸のメチル化状態、例えば、メチル化の有無および/または程度の指標として用いることができる。
【0015】
このようなプロモーター転写活性に関する情報から、特定の遺伝子の発現および発現制御に関する情報を得ることができる。プロモーター転写活性に関する情報は、詳しくは後述する特定の条件下で活性化されて検出可能な信号を発現するレポーターベクターを用いて得ることが可能である。
【0016】
実施形態に従う細胞特性を判定する方法では、このようなレポーターベクターを被検細胞に導入し、レポーターベクターの活性化に伴い生じた検出可能な信号(以下単に「信号」とも称す)を第1の情報として検出する。それにより、遺伝子発現または発現制御に関する情報を第1の結果として得る。更に当該方法では、レポーターベクターからの信号の検出に先駆けて、検出と同時または検出の後に形態学的な情報を第2の情報として得る。ここで、第2の情報は、第1の情報が得られた被検細胞について得ることが好ましい。例えば、第2の情報は、レポーターベクターからの信号が検出された細胞の形態を観察することによって得てもよい。このようにして、形態学的な情報を第2の結果として得る。第1の結果と第2の結果とに基づいて細胞の特性を判定する。これにより、被検細胞の遺伝子に関する情報と形態学的情報は、検査されるべき細胞が生きたままの状態で同時に得られる。このように、生きたままの状態で細胞に関する情報を得ることによって、細胞のあるがままの状態をより正確に知ることが可能となる。また被検細胞から、経時的に情報を得ることも可能となる。
【0017】
1.レポーターベクター
被検細胞のプロモーターの転写活性に関する情報は、レポーターベクターを使用することにより得る。レポーターベクターは、例えば、特定の条件下で活性化されてプロモーター活性を示す転写制御配列と、この転写制御配列の下流に機能的に連結されたレポーター遺伝子を含む。実施形態のレポーターベクターにおいては、予め定められた特定の条件下にあるとき、転写制御配列のプロモーター活性が活性化し、その下流のレポーター遺伝子が転写され、翻訳される。その結果、レポーター遺伝子がコードするレポーター蛋白質が発現される。
【0018】
図1を参照しながら、レポーターベクターの1例について更に説明する。レポーターベクター1は、レポーター遺伝子発現ユニット2を含む。レポーター遺伝子発現ユニット2は、転写制御配列4と、その下流に機能的に連結されたレポーター蛋白質をコードするレポーター遺伝子5と、その下流に機能的に連結された転写終結シグナル配列6とを含む。
【0019】
ここで、「機能的に連結された」とは、各遺伝子が目的とする機能を発揮することが可能な状態で連結している状態をいう。例えば、蛋白質をコードする配列の場合、それぞれの塩基配列がコードするアミノ酸配列が正しく連結されていることをいう。言い換えれば、それは、アミノ酸コドンのフレームにずれがなく、当該塩基配列が導入された細胞において、目的とする活性が機能するペプチドが合成されることをいう。またここで、「機能的に連結」の語は、「作動可能に連結」の語と交換可能に使用されてもよい。
【0020】
転写制御配列4のプロモーター活性の活性化は、転写制御配列4上の配列と転写因子との相互作用によって制御される。転写制御配列は、特定の条件下にあるときにプロモーター活性が活性化されるプロモーター配列であってもよく、特定の条件下にあるときにプロモーター活性が活性化されるプロモーター配列を含んでもよい。転写制御配列4は、所望に応じて予め選択されればよい。
【0021】
プロモーター活性が活性化される「特定の条件」とは、検出されるべき細胞の種類、検出されるべき細胞の状況または状態を反映する条件、言い換えれば、そのような状況または状態の指標となる条件であればよい。特定の条件は、目的に応じて任意に選択されてよい。例えば、特定の条件は、特定の健康状態、例えば、特定の疾病に罹患した状態などを反映する条件であってもよい。特定の疾病の例は、例えば、癌、精神疾患、生活習慣病、神経疾患、自己免疫疾患、および循環器疾患などであってもよい。そのような特定の条件は、前疾患状態、例えば、前癌状態の指標となる条件であってもよい。或いはそれは、再生医療において幹細胞から分化誘導した臓器が正常であるか否かの指標となる条件であってもよい。例えば、それは細胞に含まれるゲノム核酸におけるメチル化状態、例えば、メチル化の有無および/または程度であってもよい。またそれは、細胞自体、例えば、細胞内部および/または細胞外部の「状態」、細胞を取り囲む「環境」に関わる条件であってもよい。このような条件は予め任意に決定されればよい。例えば、特定の疾患の兆候を示す指標、特定の疾患が発症している指標、特定の疾患の発症の進行の程度を示す指標または特定の疾患の重症度を示す指標などであってよい。例えば、それは、疾患発症、疾患存在または疾患の進展度に関連して含有量が変化する細胞内の物質に関する条件であってもよい。例えば、そのような条件は、特定の遺伝子の存在、特定の遺伝子の発現、細胞内外のpH値、酸化還元に関する情報、特定のイオンの存在、酵素の存在、酵素基質の存在、特定の物質の存在などについて、それらの存在の有無、それらの存在についての数量的な値の大きさ、それらの存在分布、および/または存在状体の変化などであってもよい。また、特定の条件は、例えば、被検細胞の薬剤感受性または薬剤適応性についての状況の指標となる条件であってもよい。
【0022】
標的核酸配列の例は、例えば、ヒトニコチンアミドホスホリボシル転移酵素遺伝子のプロモーター配列、Arf6遺伝子のプロモーター配列、Ki67遺伝子のプロモーター配列、Her2遺伝子のプロモーター配列、Glut1遺伝子のプロモーター配列などであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0023】
レポーター遺伝子5は、検出可能な信号を生ずる蛋白質をコードする何れかの遺伝子であればよい。検出可能な信号は、レポーター蛋白質自身、レポーター蛋白質と何れかの物質との反応、レポーター蛋白質と何れかの物質との結合などから生じる何れかの検出可能な信号であればよい。
【0024】
レポーター蛋白質をコードするレポーター遺伝子5は、検出可能な信号を生ずるレポーター蛋白質であればよい。レポーター遺伝子5は、例えば、ルシフェラーゼ遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子、一酸化窒素合成酵素遺伝子、キサンチンオキシダーゼ遺伝子、青色蛍光蛋白質遺伝子、緑色蛍光蛋白質遺伝子、赤色蛍光蛋白質遺伝子および重金属結合蛋白質遺伝子であってもよい。これらの遺伝子はそれぞれ、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、一酸化窒素合成酵素、キサンチンオキシダーゼ、青色蛍光蛋白質、緑色蛍光蛋白質、赤色蛍光蛋白質および重金属結合蛋白質をコードし、レポーターベクターの活性化によりこれらの蛋白質を発現する。1つの実施形態において好ましい例は、発光酵素蛋白質をコードする遺伝子であり、例えば、ルシフェラーゼ遺伝子およびβ−ガラクトシダーゼ遺伝子などを含む。
【0025】
重金属結合蛋白質を検出可能な信号として発現するレポーターベクターの1例は、特開2012−200245に開示されている。
【0026】
レポーター遺伝子から得られる信号は、何れかの装置により検出可能な信号であればよい。またそのような信号の検出は、信号の種類に応じて選択された何れかの装置を用いて行えばよい。装置の例は、発光測定装置、蛍光測定装置、X線測定装置、電子スピン共鳴装置、核医学診断装置、磁気共鳴イメージング装置などであってもよい。また、信号の検出により得られた結果は、信号の有無を示しても、信号の大きさを示しても、或いはその両方を示してもよい。
【0027】
検出可能な信号の好ましい例は、発光、蛍光および発色などの光学信号である。ここで用いる「発光」とは、化学発光、生物発光または生物化学発光を指す。信号が光学信号である場合、光学検出装置により信号を検出すればよい。例えば、検出可能な信号が発光である場合、発光を検出可能な発光測定装置、例えば、発光顕微鏡などで信号を検出すればよい。レポーターベクターの被検細胞への導入の容易さと細胞毒性が低い点から、1つの実施形態において発光が好ましく使用される。
【0028】
転写終結シグナル配列6は、その上流の遺伝子の転写を終結する配列であればよく、例えば、ポリ(A)付加シグナルであってよい。ポリ(A)付加シグナルは、哺乳動物の遺伝子の転写終結に機能するものであればよい。例としては、SV40ウイルスの後期ポリ(A)付加シグナル(配列番号1)や、牛成長ホルモン遺伝子のポリ(A)付加シグナル(配列番号2)などが挙げられる。ただし、本態様の実施において使用可能なポリ(A)付加シグナルは、これに限定されるものではなく、ポリ(A)付加シグナルとしての機能を損なわない限りにおいては、遺伝子配列を改変したものを用いてもよい。配列番号1および2で示される塩基配列を表1に示す。
【表1】
【0029】
レポーターベクターは、自己複製可能なベクターであってもよい。自己複製可能なベクターを用いる場合には、実施形態は、例えば以下のことを含む;特定の条件下で活性化されて検出可能な信号を発現する自己複製可能なレポーターベクターを準備すること、前記レポーターベクターを被検細胞に導入すること、前記被検細胞を培養し、前記レポーターを自己複製させること、細胞毎に前記被検細胞から生じた当該検出可能な信号を検出すること、当該信号を生じた当該細胞の形態を観察すること、および前記検出可能な信号についての結果と、前記形態についての結果とに基づいて当該被検細胞の特性を判定すること。
【0030】
自己複製可能なレポーターベクター(以下、自己複製ベクターと称す)は、レポーター遺伝子発現ユニットに加えて、レポーターベクターを自己複製させる自己複製開始ユニットを含む。自己複製開始ユニットは、自己複製開始の合図をレポーターベクターに与える自己複製開始配列を含めばよい。
【0031】
図2を参照しながら自己複製ベクターについて更に説明する。自己複製ベクター21は、複製開始ユニットを含むこと以外は、
図1に示したレポーターベクターと同じ構成を含む。
【0032】
自己複製ベクター21は、レポーター遺伝子発現ユニット2と、その下流に連結された複製開始ユニットを含む。
図2に示した例は、複製開始ユニットが複製開始配列3を含む例である。複製開始配列3は、対応する複製開始蛋白質の結合により自己複製ベクター21が導入された細胞内において自己複製を開始する。
【0033】
自己複製ベクターは、被検細胞で複製開始蛋白質が発現している条件下において、被検細胞核内で自己複製を行う。複製開始配列3は、例えば、哺乳類細胞で、複製開始蛋白質の結合によって活性化されて自己複製を開始する配列であればよく、それ自身公知の複製開始配列であればよい。複製開始配列3は、例えば、シミアン・ウイルス40(配列番号3)、エプスタイン・バー・ウイルスまたはマウス・ポリオーマ・ウイルスに由来する複製開始配列であってもよく、そのうちの1つの例を表2に示す。
【表2】
【0034】
自己複製ベクターは、例えば、それ自身公知のプラスミドベクターを利用してもよい。例えば、この自己複製ベクターのプラスミドベクターの例は、特開2013−42721に開示されている。
【0035】
自己複製ベクターの自己複製は、複製開始配列3に対して複製開始蛋白質が結合することにより開始される。複製開始蛋白質7は、複製開始配列3に結合できるように被検細胞核内に自己複製ベクターと共に存在すればよい。例えば、複製開始蛋白質7は、レポーターベクターとして使用される自己複製ベクターから発現されてもよく、更なるベクターから発現されてもよく、被検細胞により発現されてもよい。
【0036】
例えば、複製開始蛋白質7を被検細胞核内に供給するために、複製開始蛋白質ユニットが存在してもよい。複製開始蛋白質ユニットは、例えば、プロモーターと、その下流に機能的に連結された複製開始蛋白質をコードする複製開始蛋白質遺伝子と、その下流に機能的に連結された転写終結シグナル配列を含んでもよい。或いは、複製開始蛋白質ユニットは、これらの配列からなってもよい。
【0037】
複製開始蛋白質ユニットは、自己複製ベクター21の核酸上に存在してもよく、自己複製ベクター21の核酸とは異なる核酸上に存在してもよい。自己複製ベクターとは異なる核酸上に複製開始蛋白質ユニットが存在する場合、複製開始蛋白質ユニットは、被検細胞の染色体上に存在してもよく、被検細胞に含まれる他の核酸上に存在してもよい。
【0038】
複製開始蛋白質ユニットが、レポーターベクターとしての自己複製ベクターに含まれる場合、そこに含まれるレポーター遺伝子発現ユニット2と、複製開始蛋白質ユニットとが、1つの転写制御配列4によってそれらの発現が共に制御されていてもよく、独立した2つの転写制御配列よってそれらの発現がそれぞれ制御されていてもよい。2つの転写制御配列によってそれらの発現がそれぞれ制御される場合、例えば、複製開始蛋白質ユニットは、自己複製ベクター1の核酸上に、レポーター遺伝子発現ユニット2とは独立して存在してよい。その場合、複製開始蛋白質遺伝子の発現を制御するプロモーターは、構成的に発現するプロモーターであることが好ましい。
【0039】
複製開始蛋白質遺伝子は、例えば、シミアン・ウイルス40のラージT抗原遺伝子、エプスタイン・バー・ウイルスのEBNA−1遺伝子、マウス・ポリオーマ・ウイルスのラージT抗原遺伝子などであってもよい。好ましいラージT抗原遺伝子の例は、配列番号4(野生型、表3−1および表3−2)、配列番号5(変異型、表4−1および表4−2)若しくは配列番号6(変異型、表5−1および表5−2)で示される核酸、または配列番号4、配列番号5若しくは配列番号6の配列中の1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された配列により示され、且つDNA複製開始機能を有する核酸であってよい。ここで、DNA複製開始機能とは、複製を開始できる蛋白質をコードしていることをいう。上記複製開始蛋白質遺伝子の例を表3−1、表3−2、表4−1、表4−2、表5−1および表5−2に示す。
【表3-1】
【0045】
複製開始蛋白質遺伝子と、複製開始配列との組み合わせは、複製を開始することが可能な組み合わせであればよい。そのような組み合わせの例は次の通りである:
複製開始蛋白質をコードする遺伝子が、シミアン・ウイルス40のラージT抗原遺伝子であり、前記複製開始配列が、シミアン・ウイルス40からの複製開始配列である組み合わせ;
複製開始蛋白質遺伝子が、エプスタイン・バー・ウイルスのEBNA−1遺伝子であり、複製開始配列が、エプスタイン・バー・ウイルスからの複製開始配列である組み合わせ;
複製開始蛋白質遺伝子が、マウス・ポリオーマ・ウイルスのラージT抗原遺伝子であり、複製開始配列が、マウス・ポリオーマ・ウイルスからの複製開始配列である組み合わせ。これらのような組み合わせは好ましいが、これらに限定するものではない。
【0046】
また自己複製ベクターは、バイシストロニック発現ベクターであってもよい。バイシストロニック発現ベクターでは、バイシストロニック発現用配列を用いることにより、転写制御配列4により、その下流に含まれる2つの遺伝子、即ち、レポーター遺伝子の発現と複製開始蛋白質の発現とが同時に制御される。即ち、このような自己複製ベクターでは、レポーター遺伝子発現ユニット2と複製開始蛋白質ユニットとが、同じプロモーターによって制御されて発現される。そのようなバイシストロニック発現自己複製ベクターの例について
図3を参照しながら説明する。自己複製ベクター31は、転写制御配列4と、レポーター遺伝子5と、IRES32と、複製開始蛋白質遺伝子33と、転写終結シグナル配列34と、複製開始配列3とを含む。転写制御配列4と、レポーター遺伝子5と、IRES32と、複製開始蛋白質遺伝子33と、転写終結シグナル配列34とは、上流から下流に向けてこの順番で機能的に連結されている。IRES32は、内部リボソーム進入部位(internal ribosomal entry site)であり、バイシストロニック発現用配列の1例である。バイシストロニック発現配列の例は、例えば、脳心筋ウイルスの内部リボゾーム進入配列(配列番号7)などである。
【0048】
IRES32の存在により、転写制御配列4の配列内の塩基の修飾の程度に依存して活性化された転写制御配列4により、レポーター遺伝子5の配列が転写され、それに続いて複製開始蛋白質遺伝子33が転写される。複製開始蛋白質遺伝子33の配列が読まれた後、転写終結シグナル配列34の存在により、転写は停止する。複製開始蛋白質遺伝子33から転写、翻訳されて産生する複製開始蛋白質は、複製開始配列3に結合し、自己複製ベクター31の複製が開始される。
【0049】
転写制御配列4は、被検細胞のゲノムに含まれる配列とは異なる配列であってもよく、被検細胞のゲノム上の特定の核酸配列と同一性を有する配列であってもよい。ゲノム上の特定の核酸配列は、ゲノム中の一部分の配列であってよい。
【0050】
転写制御配列4が、被検細胞のゲノム上の一部分と同一性を有する配列である場合、レポーターベクターとしてそのような自己複製ベクターを用いて、被検細胞のエピジェネティックな特性を被検細胞の細胞特性として判定してもよい。そのような自己複製ベクターは、転写制御配列として、被検細胞のゲノムの一部分と同一性を有し、且つ官能基が置換され得る塩基を有する標的核酸配列を含む。この自己複製ベクターは、導入された細胞が分裂できる状態にあるときに、即ち、静止期以外の細胞周期であるときに自己複製する。この自己複製の際に、標的核酸配列と同一性を有する被検細胞のゲノムの一部分の配列における官能基の置換の状況をエピジェネティックな特性として、当該自己複製ベクターの標的核酸配列中の塩基上と同一な状況になる。
【0051】
以下に、エピジェネティックな情報が、ゲノムの特定の配列におけるメチル化に関する情報である例を説明する。表7に、レポーターベクターのレポーター活性とメチル化との相関について示す。
【表7】
【0052】
表7に示した相関は、レポーターベクターの信号が、レポーターベクターの対応する配列の脱メチル化により大きくなり、メチル化により小さくなる1例である。
【0053】
このレポーターベクターは、例えば、癌の検出に使用することが可能である。癌細胞の場合、ゲノム上の特定の配列において脱メチル化が生じる。
【0054】
このような細胞におけるエピジェネティックな情報は、その自己複製時に、レポーターベクターに含まれる対応する配列に写し取られる。例えば、レポーターベクターの対応する配列を予めメチル化しておけば、自己複製時に脱メチル化が生じる。この時、レポーターベクターからの検出可能な信号が大きくなる。例えば、このような大きな信号の検出を指標にして、癌を検出することが可能になる。ここで「対応する配列」とはゲノム上の特定の配列、即ち、検出されるべき修飾が位置する配列に相同な配列である。
【0055】
例えば、多くのメチル基を含むレポーターベクターを用意する(A−1)。ゲノム上の特定の配列がメチル基を多く含むとする(A−2−1)。この場合、自己複製した時に、当該ベクターにおける官能基の置換はない、または少ない(A−3−1)。この場合、検出信号は小さい(A−4−1)。相対的にレポーター活性は低い(A−5−1)。一方、ゲノム上の特定の配列がメチル基を多く含まないとする(A−2−2)。この場合、自己複製した時に、当該ベクターにおいては官能基が置換され、脱メチル化が起きる(A−3−2)。この場合、検出信号は大きい(A−4−2)。相対的にレポーター活性は高い(A−5−2)。
【0056】
或いは、例えば、少ないメチル基を含むレポーターベクターを用意する(B−1)。ゲノム上の特定の配列がメチル基を多く含むとする(B−2−1)。この場合、自己複製した時に、当該ベクターにおける官能基は置換され、メチル化が生じる(B−3−2)。この場合、検出信号は小さい(B−4−2)。なお且つ、この場合においては、時間の経過と共に信号は小さくなる。相対的にレポーター活性は低い(B−5−2)。一方、ゲノム上の特定の配列がメチル基を多く含まないとする(B−2−2)。この場合、自己複製した時に、当該ベクターにおいては官能基の置換はない、または少ない(B−3−2)。この場合、検出信号は大きい(B−4−2)。相対的にレポーター活性は高い(B−5−2)。
【0057】
以上、レポーターベクターのレポーター活性とメチル化との相関について示したが、この相関は例示のために示したものであり、これに限定するものではない。
【0058】
転写制御配列4は、エピジェネティックな情報が得られるべき核酸配列である標的核酸配列であってもよく、或いは標的核酸配列を含む配列であってもよい。標的核酸配列は、被検細胞が有する特定の核酸配列と同一性をもつ。そして標的核酸配列は、官能基が置換され得る塩基として、被修飾塩基を含む。転写制御配列4は、この標的核酸配列の被修飾塩基における修飾の程度に依存するプロモーター活性を有する。転写制御配列4のプロモーター活性の活性化は、標的核酸配列上の被修飾塩基の修飾により制御される。このような被修飾塩基は、修飾のための標的となる。転写制御配列4および標的核酸配列は、所望に応じて予め選択されればよい。標的核酸配列に関して得られたエピジェネティックな情報から、被検細胞における特定の核酸配列のエピジェネティックな情報が得られる。
【0059】
標的核酸配列の修飾とは、例えば、メチル化、アルキル化である。この場合、標的核酸配列の修飾の状態とは、標的核酸配列を構成する塩基に対して官能基であるメチル基および/またはアルキル基が結合しているか、或いは結合していないかということである。被検細胞の「エピジェネティックな情報」とは、そのような官能基が存在するか、否かであってもよい。或いはそれは、どの程度の量の官能基が存在しているかという情報であってもよい。或いはそれは、そのような修飾の状態の変化、即ち、官能基の置換の有無または程度などの情報であってもよい。また、それらのうちの何れかの組み合わせであってもよい。標的核酸配列の修飾は、例えば、標的核酸配列の主鎖中のシトシンおよび/またはグアニンに対する修飾であってもよい。標的核酸配列中に複数個のシトシンおよび/またはグアニンが存在する場合には、それらのうちの1つまたは1つ以上に関する修飾であってもよい。例えば、標的核酸配列の修飾は、標的核酸配列中のシトシンおよび/またはグアニンに対するメチル化であってよい。
【0060】
転写制御配列4のプロモーター活性化は、標的核酸配列上の被修飾塩基の修飾の状態によって制御される。言い換えれば、転写制御配列4のプロモーター活性は、標的核酸配列の配列内の塩基の修飾の程度に依存して活性化される。
【0061】
転写制御配列4のプロモーター活性は、例えば、標的核酸配列の被修飾塩基における修飾の程度が低いときに活性化される、または修飾が存在するときに活性化される、または修飾が存在しないときに活性化されるなど、これらの何れであってもよい。このようなプロモーター活性を有する転写制御配列4は、「標的核酸配列の配列内の塩基の修飾の程度に依存して活性化される」或いは「塩基における官能基の置換の程度に依存して活性化される」という転写制御配列の1例である。
【0062】
標的核酸配列の配列内の被修飾塩基における修飾の程度に依存するプロモーター活性を有する配列は、例えば、被検細胞由来の配列であればよく、人工的に合成した配列であってもよい。たとえば、そのような配列の例は、グリア細胞線維性酸蛋白質(GFAP; Glial fibrillary acidic protein)遺伝子の5’上流領域(−1651〜+32bp)(配列番号8)などであってもよい。GFAP遺伝子の5’上流領域配列は、標的核酸配列のメチル化が存在しない場合に活性化される。或いは、サイトケラチン19(CK19)遺伝子の5’上流領域(−617〜+61bp)(配列番号9)や、シクロオキシゲナーゼ2(COX2)遺伝子の5’上流領域(−540〜+115bp)(配列番号10)であってもよい。更なる標的核酸配列の例として、ヒトニコチンアミドホスホリボシル転移酵素遺伝子(NAMPT遺伝子)のプロモーター配列(配列番号11)、CK19遺伝子プロモーター配列(配列番号12)、GFAP遺伝子プロモーター配列、SOX2遺伝子プロモーター配列およびCOX2遺伝子プロモーター配列、やArf6遺伝子のプロモーター配列、Ki67遺伝子のプロモーター配列、Her2遺伝子のプロモーター配列、Glut1遺伝子のプロモーター配列などが挙げられるがこれに限定されるものではない。これらの配列の例を表8、表9、表10、表11−1、表11−2、表12に示す。これらの標的核酸配列が転写制御配列として使用されてもよい。
【表8】
【0068】
転写制御配列4の下流には、レポーター遺伝子5が機能的に連結されている。即ち、レポーター遺伝子5の上流には転写制御配列4が機能的に連結されている。レポーター遺伝子5は、転写制御配列4が活性化されることにより転写される。この転写により、レポーター蛋白質が発現される。
【0069】
標的核酸配列を含む自己複製ベクター31を細胞に導入する際には、標的核酸配列中の被修飾塩基が修飾されていても、されていなくてもよい。
【0070】
自己複製ベクター31の標的核酸配列中の被修飾塩基が、修飾されていない場合、被検細胞に導入された自己複製ベクター31は次のように振る舞う。まず、被検細胞中に存在する目的とする核酸の修飾状態が高い場合には、標的核酸配列中の被修飾塩基が高度に修飾される。そのため、プロモーター活性は活性化されず、レポーター遺伝子と複製開始蛋白質遺伝子は発現しない。従って、自己複製ベクター31の自己複製は停止する。これに対して、被検細胞中に存在する目的とする核酸の修飾状態が低い、もしくは修飾がない場合には、被修飾塩基の修飾状態が低く維持される。そのため、プロモーター活性が活性化される。活性化状態にある場合、IRES32で連結されたレポーター遺伝子5と複製開始蛋白質遺伝子33とは、バイシストロニックなmRNAに転写され、翻訳される。IRES32が2つの遺伝子の間に組み込まれることで、この2つの遺伝子は単一バイシストロン性mRNAとして転写される。リボソームはバイシストロン性mRNAからレポーター遺伝子5を翻訳するだけでなく、IRESの位置にも結合し、複製開始蛋白質遺伝子も翻訳する。転写終結シグナル配列34はレポーター遺伝子5と複製開始蛋白質遺伝子33との転写を終結するためのシグナルをコードする塩基配列である。複製開始蛋白質遺伝子33から転写され、被検細胞の成分により翻訳された複製開始蛋白質は、複製開始配列3を認識し、それに対して結合する。更に被検細胞に含まれるDNA複製に係る複数の蛋白質が結合する。結合した複数の蛋白質により、被検細胞において自己複製ベクター31の自己複製が行われる。
【0071】
自己複製ベクター31の標的核酸配列中の被修飾塩基が修飾されている場合、被検細胞に導入された自己複製ベクター31は次のように振舞う。まず、被検細胞中に存在する目的とする核酸の修飾状態が高い場合には、標的核酸配列中の被修飾塩基の当初の修飾の程度が維持されるためプロモーター活性は活性化されない。そのため、レポーター遺伝子と複製開始蛋白質遺伝子は発現しない。従って、自己複製ベクター31の自己複製は停止する。それに対して、被検細胞中に存在する目的とする核酸の修飾状態が低い、もしくは修飾がない場合には、標的核酸配列の被修飾塩基における修飾状態は低下、もしくはなくなるため転写制御配列4が活性化される。プロモーター活性が活性化状態にある場合、IRES32で連結されたレポーター遺伝子5と複製開始蛋白質遺伝子33とは、バイシストロニックなmRNAに転写され、翻訳される。IRES32が2つの遺伝子の間に組み込まれることで、この2つの遺伝子は単一バイシストロン性mRNAとして転写される。リボソームはバイシストロン性mRNAからレポーター遺伝子5を翻訳するだけでなく、IRESの位置にも結合し、複製開始蛋白質遺伝子についても翻訳する。転写終結シグナル配列34はレポーター遺伝子5と複製開始蛋白質遺伝子33との転写を終結するためのシグナルをコードする塩基配列である。複製開始蛋白質遺伝子33から転写され、被検細胞の成分により翻訳された複製開始蛋白質は、複製開始配列3を認識し、それに対して結合する。更に被検細胞に含まれるDNA複製に係る複数の蛋白質が結合する。結合した複数の蛋白質により、被検細胞において自己複製ベクター31の自己複製が行われる。
【0072】
標的核酸配列の被修飾塩基における修飾の程度が低いとき、レポーター遺伝子5が発現する。更に、それよりも下流に存在する配列が読まれることで、自己複製ベクター31の自己複製が開始する。自己複製ベクター31の自己複製によって生じた複製生成物は、配列に関しては自己複製ベクター31と同じ配列を有する。しかしながら被検細胞中に存在する目的とする核酸の修飾状態が、標的核酸配列の被修飾塩基における修飾状態に反映される。その結果、標的核酸配列の被修飾塩基における修飾の程度が高くなると、プロモーター活性は活性化されない。従って、レポーター遺伝子5は発現しない。そして、それよりも下流に存在する配列は読まれない。従って、自己複製ベクター31の自己複製は停止する。
【0073】
上記では、レポーター遺伝子5と複製開始蛋白質遺伝子33とをIRES32で連結し、1つの転写制御配列4としての標的核酸配列で遺伝子の発現を制御するベクターについて説明した。しかしながら、IRESなどのバイシストロニック発現配列を使用せずに、それぞれの転写制御配列により、レポーター遺伝子5と複製開始蛋白質遺伝子33の発現を制御してもよい。
【0074】
標的核酸配列に関して、被検細胞が有する特定の核酸配列に対して「同一性を有する配列」とは、被検細胞のゲノム上の特定の配列と同一な配列であるか、またはゲノム上の特定の配列と実質的に同一な配列、例えば、1若しくは数個の塩基が置換、欠失または付与された配列であり、且つ特定の条件下で活性化されるプロモーター活性を有すればよい。ここにおいて、「同一性を有する」の語と「相同性を有する」の語は交換可能に使用されてよい。例えば、「同一性を有する」、「相同な」および「相同の」とは、特定の配列に対して90%以上または95%以上で同一である配列であればよい。また、「特定の配列」とは、ゲノムにおいてエピジェネティックな情報を担う配列であればよい。「ゲノム上の配列と同一な配列」とは、ゲノム上で連続する特定の配列に同一な配列であっても、ゲノム上で連続しない2つ以上の特定の配列にそれぞれ同一性を有する複数の配列が一体化してなる配列であってもよい。
【0075】
例えば、標的核酸配列は、ゲノム上の複数の位置に存在する2つ以上の配列にそれぞれ相同な2つ以上の配列を一体化してなる配列に相同な配列であってもよく、そのような一体化してなる配列に相同な配列を含んでもよい。言い換えれば、ゲノム上の複数の位置に存在する2以上の配列のそれぞれを1ユニットとすると、標的核酸配列の塩基配列は、これらの複数のユニットのそれぞれに対して、それぞれ相同な配列を一体化した配列に相同な配列からなっても、そのような一体化した配列に相同な配列を含んでもよい。即ち、標的核酸配列は、ゲノム上でそれぞれ相同な配列であるユニットに対応して、2つ以上のユニットにより構成されてもよい。
【0076】
標的核酸配列において、例えば、1つのユニットは、ゲノム上の特定のプロモーター配列の部分に相同であり、もう1つのユニットが、当該プロモーター配列の活性化を制御することが可能な被修飾塩基を含む配列に相同であってもよい。例えば、ゲノム上の特定のプロモーター配列の部分と、このプロモーター配列の活性化を制御することが可能な配列は、ゲノム上において必ずしも連続して存在するものではなく、その間に、更なる配列を含むこともある。またゲノム上の特定の配列を選択する場合、選択されるべき配列に隣接するなどの配列が、標的核酸配列に更に含まれてもよい。しかしながら、そのような更なる配列がプロモーター配列の活性化の制御に何ら影響しない配列である場合には、標的核酸配列に含ませる必要は必ずしもない。
【0077】
転写制御配列4は、被検細胞のゲノム上の配列に同一性を有する標的核酸配列に加えて、任意の更なる配列を含んでもよい。任意の更なる配列を含む場合、転写制御配列4がプロモーター活性を有する限り、任意の更なる配列は、被検細胞のゲノム上の配列に相同性を有する配列を構成する何れかの塩基の間に含まれてもよく、被検細胞のゲノム上の配列に同一性を有する配列に隣接して含まれてもよい。
【0078】
上記レポーターベクターにおいて、プロモーター活性とは、プロモーター配列の下流に機能的に接続された遺伝子の転写を誘導することを意味する。転写制御配列4がプロモーター活性を示す場合、そのプロモーター活性は、転写制御配列4の配列全体により由来するものであっても、転写制御配列4の一部分の配列、例えば、そこに含まれる標的核酸配列に由来するものであってもよい。また例えば、転写制御配列4が最小プロモーターを含んでもよい。転写制御配列4のプロモーター活性化は、転写制御配列4上の一部分の配列に対する転写因子の結合の有無や被修飾塩基の修飾の状態、即ち、官能基が置換され得る塩基における官能基の置換の程度によって制御される。
【0079】
自己複製ベクターは、転写制御配列またはその一部分に、観察されるべき特定の配列と同一性を有する配列、即ち、標的核酸配列を含んでいる。このような構造を有することにより、レポーターベクターが自己複製した際に、ゲノムの特定の配列上の修飾状態とレポーターベクター中の同一性を有する配列上の修飾状態が同一になる。レポーターベクターは、当該レポーターベクターに写し取られた官能基の存在状況に依存して、検出可能な信号を生じる。この時、官能基の存在状況により信号の有無もしくは大きさまたは量が異なる。このようにしてレポーターベクターは、ゲノムの特定の配列上の修飾状態をレポートすることが可能である。
【0080】
このようなレポーターベクターのレポート機能は、レポーターベクターが自己複製することにより初めて得られる。従って、レポーターベクターは、レポーターベクターの自己複製が開始される条件に置かれる被検細胞の核内に導入される。そして、被検細胞の核内に導入されたレポーターベクターが自己複製するために必要な時間が経過した後に、被検細胞内でレポーターベクターが生じた信号が検出される。信号の検出は、信号の有無について行われてもよく、信号の大きさまたは量について行われてもよい。検出によって得られた結果が、被検細胞のエピジェネティックな情報である。
【0081】
ここで、「細胞のエピジェネティックな情報」とは、被検細胞のゲノム上の特定の配列を構成する塩基に対して官能基が結合しているか、否か、置換があったのか、否かなどについての情報であってもよい。検出可能な信号は、レポーターベクターに写し取られた官能基の存在状況に依存して、その提示の有無または大きさが変わる。
【0082】
2.被検細胞の細胞特性を判定する方法
被検細胞の細胞特性は、被検細胞について得られた遺伝子発現および発現制御に関する情報と形態学的な情報とに基づいて判定される。遺伝子発現および発現制御に関する情報と、形態学的な情報とは、同時に行ってもよく、遺伝子発現および発現制御に関する情報の前または後に形態学的な情報が得られてもよい。検出可能な信号の検出および形態学的情報は、個々の被検細胞毎に得てもよく、複数の被検細胞について得られた結果を平均した結果として得てもよい。
【0083】
被検細胞の細胞特性を判定する方法の1例について
図4を参照しながら説明する。まず検体を準備する(S1)。検体は、血液、尿、便、精液、唾液、バイオプシーで得られた組織、口腔内粘膜、体腔液および喀痰などであってもよい。つぎに検体から、被検細胞を分離する(S2)。例えば、蛋白質分解酵素による処理や、フィルターろ過による処理などを含んでもよい。次に、分離により得られた被検細胞について、被検細胞の転写活性に関する情報を得る。所望の標的核酸配列を備えるレポーターベクターを用意する(S3)。次に、レポーターベクターを生きている被検細胞に導入する(S4)。レポーターベクターの被検細胞への導入は、例えば、エレクトロポレーション、ソノポレーション、リポフェクションなどのいずれか公知の方法またはその組み合わせにより行われてよい。その後、被検細胞を1つずつ視認できる条件下において、被検細胞において、レポーターベクターが予め設定された条件に応じてレポーター蛋白質を生合成する状態を維持する(S5)。例えば、被検細胞の核内に複製開始蛋白質が存在する状態で、被検細胞を任意の時間に亘り培養する。任意の時間は、例えば、細胞分裂して増殖するための時間であってもよい。この培養期間において、必要に応じて被検細胞の観察を行う。次に、レポーター蛋白質の量を測定する(S6)。必要に応じて、別途、同様の方法により対照細胞から得られた結果、即ち、レポーター蛋白質の検出量と(S6)により得られた結果とを比較する(S7)。例えば、対照細胞のレポーター蛋白質量に対して、被検細胞のレポーター蛋白質量が多い場合には、標的核酸配列の相同な配列における転写活性は高いと判定する。対照細胞のレポーター蛋白質量に対して、被検細胞のレポーター蛋白質量が少ない場合には、標的核酸配列の相同な配列における転写活性は低いと判定する。対照細胞のレポーター蛋白質量は予め測定したものを用いてもよい。
【0084】
他方、レポーター蛋白質量を測定した同じ細胞について、被検細胞の画像を非侵襲的光学的手法で取得する(S8)。さらに対照細胞の画像と比較する(S9)。これにより被検細胞の形態的特性を判定する。例えば、被検細胞の長径に対する短径の比率(例えば、アスペクト比)が、対照細胞の長径に対する短径の比率と有意に異なる場合には、被検細胞の形態が変化したと判定する。
【0085】
ここで、対照細胞のデータを得る工程は、検査の度に行ってもよく、予め対象細胞のデータを得ておき、それを対象細胞からの基準データとして使用してもよい。また、転写活性特性に関するデータと、形態的特性に関するデータとを得る順番は、何れか先であってもよい。即ち、転写活性特性に関するデータを得た後に、形態的特性に関するデータを得てもよく、転写活性特性に関するデータを得る前に、形態的特性に関するデータを得てもよい。或いは転写活性特性に関するデータを得る前後に、形態的特性に関するデータを得てもよい。更に、これらの工程を繰り返す、或いは経時的に行ってもよい。
【0086】
次に、被検細胞について、転写活性および形態の2つの指標に基づいて、被検細胞の細胞特性を判定する(S10)。被検細胞の細胞特性の判定は、検査毎に得た対照細胞からのデータと比較することにより行ってもよく、予め用意された対照細胞からのデータと比較することにより行ってもよく、或いは予め用意された対照細胞からのデータに基づいて作製した基準値との比較により行ってもよい。
【0087】
レポーターベクターから発現されたレポーター蛋白質の検出方法について以下に説明する。レポーター遺伝子として発光蛋白質遺伝子や、蛍光蛋白質遺伝子、発色蛋白質遺伝子、活性酸素生成酵素遺伝子または重金属結合蛋白質遺伝子などが選択可能である。発光蛋白質遺伝子は、発光反応を触媒する酵素蛋白質をコードする遺伝子である。発光蛋白質遺伝子としては、例えば、ルシフェラーゼ遺伝子が挙げられる。ルシフェラーゼ遺伝子の翻訳産物であるルシフェラーゼは、基質の一種であるルシフェリンを用いて発光反応を行う。
【0088】
更なる発色蛋白質遺伝子としては、例えば、β−ガラクトシダーゼ遺伝子が挙げられる。β−ガラクトシダーゼ遺伝子の翻訳産物であるβ−ガラクトシダーゼは、5−ブルモー4−クロロー3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド(X−Gal)やo−ニトロフェニル−β−D−ガラクトピラノシド(ONPG)などの基質を用いて発色反応を行う。
【0089】
具体的には、レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子の場合、被検細胞に基質を加えた後に、レポーター遺伝子からの蛋白が合成された後に発光強度を測定すればよい。レポーター遺伝子が蛍光蛋白質遺伝子の場合、例えば、被検細胞に特定波長の光を照射し、被検細胞内において蛍光蛋白質から発生される蛍光の強度を蛍光測定装置により測定してもよい。活性酸素生成酵素遺伝子は、活性酸素を生成する酵素をコードする遺伝子である。活性酸素生成酵素遺伝子としては、例えば、一酸化窒素合成酵素遺伝子やキサンチンオキシダーゼ遺伝子などが挙げられる。一酸化窒素合成酵素遺伝子の翻訳産物である一酸化窒素合成酵素とキサンチンオキシダーゼ遺伝子の翻訳産物であるキサンチンオキシダーゼとは、活性酸素を生成する。活性酸素は、電子スピン共鳴装置(ESR装置)などで検出することができる。ESR装置による方法では、活性酸素の発生量を直接的に測定してもよいし、特異的なスピントラップ剤を利用して測定してもよい。スピントラップ剤を利用する場合には、まず、活性酸素生成酵素をスピントラップ剤でトラップしてから、トラップされた活性酸素生成酵素から発生される活性酸素の発生量を測定する。重金属結合蛋白質遺伝子は、重金属に特異的に結合する蛋白質をコードする遺伝子である重金属に結合された蛋白質の生成量は、例えば、磁気共鳴イメージング装置、核医学診断装置またはX線コンピュータ断層撮影装置により行われればよい。
【0090】
重金属結合蛋白質の発生量の検出は、例えば、以下のように行われる。まず、測定可能な重金属を予め被検細胞の培養液に加える。次に、必要に応じて被検細胞を洗浄した後に、被検細胞から重金属結合蛋白質を抽出し、得られた重金属結合蛋白質を定量する。或いは、被検細胞の培養液に対して重金属を加える。次にこの被検細胞を画像診断装置により撮像し、得られた画像から、重金属の結合している重金属結合蛋白質を検出または定量する。なお、重金属結合蛋白質は、被検細胞の内部で発現させてもよいし、被検細胞の外表面で発現させてもよい。例えば、MRI撮像では、造影効果が高いためにガドリニウム化合物が好ましく使用される。ガドリニウム化合物は、例えば、ガドリニウム、ガドリニウムイオン、ガドリニウム錯体、それらの塩およびそれらの誘導体、これらの何れかを含む誘導体、またはガドリニウム化合物の類似物などからなる金属化合物であればよい。
【0091】
このような被検細胞の細胞特性を判定する方法では、被検細胞のプロモーター活性特性と、その同じ被検細胞の形態的特性とを判定し、それにより総合的な被検細胞の細胞特性を判定する。これにより、より高精度で細胞の特性を判定することが可能となる。
【0092】
上述の例では、(S7)および(S9)において対照細胞との比較を行っている。しかしながら、(S1)〜(S6)において被検細胞のプロモーター活性特性を特定し、対照細胞の比較を行わずに、(S8)において形態的特性を特定し、これらの結果から、被検細胞の特性を判定してもよい。
【0093】
例えば、被検細胞の細胞特性の判定は、予め設計されたレポーターベクターの構成に応じて、即ち、予め選択された「特定の条件」に応じて、その細胞が特定の条件下にあるのか否かを特定することと、形態学的な特徴を特定することにより行ってもよい。
【0094】
従来では、細胞特性を判定するためにレポーターベクターを使用する場合、観察されるべき細胞の形態については重要視されていない。これは、PCRやFACSでは、形態が重視されないことと同様の理由によると考えられる。しかしながら、レポーターベクターを使用して得られた情報のみから細胞特性を判定する場合、例えば、レポーター遺伝子の発現頻度によっては十分でないことがある。実施形態に従い、プロモーターアッセイの結果と、細胞形態を同時に観察し、それにより被検細胞の細胞特性を判定することにより、より効率的に、またより正確に細胞特性を判定することができる。
【0095】
遺伝子発現および発現制御に関する情報は、上述したようなレポーターベクターを使用し、検出可能な信号を指標にして得る。形態学的な情報は、被検細胞の所望の形態的特徴を検出可能な装置を用いて観察することより得られてもよい。形態的特徴の観察は、細胞の輪郭、細胞の大きさ、核の輪郭、核の大きさおよび核の数などに関して予め定められた特徴点を検出することにより行ってもよい。それらの特徴点の検出は、例えば、顕微鏡下で明視野画像を撮像し、得られた明視野画像に含まれる個々の細胞について行われてよい。また検出されるべき特徴点は、例えば、明視野画像などの画像中の位置情報と結び付けて示された輝度として得られてもよい。またそれは、例えば、画像中の位置情報と位置毎の輝度とを含むテーブルとして得られてもよい。更に、特徴点は、例えば、画像中の位置情報および輝度などの数値を予め定められた解析法により解析して得られた数値であってもよい。
【0096】
形態学的特徴は、例えば、被検細胞の面積、被検細胞の面積に対する核の面積の比率、被検細胞の長径に対する短径の比率、被検細胞における核の数または被検細胞の辺縁部の特徴、例えば、辺縁部のコントラスト比などであってもよい。これらは、非侵襲性光学的撮像方法によって得られる。例えば、ハイパースペクトルイメージング法、位相差顕微法または微分干渉法などによってこれらの情報を得てもよい。
【0097】
例えば、明視野で形態学的観察を行う場合、近赤外領域の波長を有する光を照射して行うことが好ましい。例えば、近赤外領域の波長を有する光は、700nm〜750nmの波長を有する近赤外光または350nm〜1050nmのマルチスペクトル光が好ましい。例えば、被検細胞に対して近赤外領域の波長の光を照射し、その光の反射または吸収、例えば、反射率または吸収率を指標に被検細胞の形態学的情報を得ればよい。
【0098】
プロモーターアッセイの結果と形態学的特徴とから被検細胞について細胞特性を判定することにより、偽陽性や偽陰性を回避し易くなり、またより精度よく病理検査を行うことが可能となる。また、従来に比べて、より効率的に、例えば疾患に関連する細胞特性を有する細胞を検出できる。
【0099】
被検細胞の細胞特性を判定する方法は、レポーターベクターからの信号を検出し、被検細胞の形態学的特徴を得るために、例えば、発光顕微鏡、蛍光発光顕微鏡など、CCDイメージセンサまたはCMOSイメージセンサなどの撮像機能を備えた蛍光イメージング装置、発光イメージング装置、蛍光発光イメージング装置、磁気共鳴イメージング装置、核医学診断装置またはX線コンピュータ断層撮影装置などを備えた装置を用いて行われてもよい。これらの装置は、被検細胞の形態学的特徴を観察するために、例えば、被検細胞の輪郭や各の輪郭や、予め定められた形態学的な特徴点を明らかにできる検出器を更に備えていてもよい。
【0100】
1つの実施形態において、レポーターベクターからの信号の検出と形態学的特徴の取得とは、1つの被検細胞について行われてもよく、複数の被検細胞について細胞毎に行われてもよく、複数の被検細胞を含むグループについてグループ毎に行われてもよい。例えば、レポーター蛋白質からの信号を検出するために発光顕微鏡を用いて発光画像を撮像する場合、発光画像に加えて、発光画像の撮像の前または後に、同じ視野で明視野画像を撮像することにより形態学的な特徴を得ればよい。そうして得られた発光画像と明視野画像とを重ね合せる(マージする)ことにより、1つ被検細胞について、または複数の被検細胞について細胞毎またはグループ毎に、遺伝子発現または発現制御に関する情報と形態学的情報とを得ることができる。
【0101】
レポーター蛋白質からの信号は、例えば、次のような過程を経て被検細胞において生じる。被検細胞へのレポーターベクターの導入時から、被検細胞内の環境に応じて転写制御配列が活性化され、プロモーター活性が示された後に、レポーター遺伝子の転写および転写物の翻訳によってレポーター蛋白質が発現する。必要に応じて、例えば、レポーター蛋白質が発光酵素である場合には、基質を添加した後にそれらが反応して生じる。従って、レポーター蛋白質からの信号は、それが観察されるために必要な所定の時間が経過した時点で測定すればよい。例えば、8時間〜72時間の間の何れかの時点で1回または複数回で行われてもよく、8時間〜48時間または48時間〜72時間の何れかの時点で1回または複数回で行われてもよい。
【0102】
形態学的特徴の取得は、レポーター蛋白質からの信号を検出する前であっても、後であってもよく、或いは信号検出と同時であってもよい。また、レポーター蛋白質からの信号の検出または測定は1時点、複数時点または継続して行われてもよい。同様に形態的特徴の取得についても取得点は1時点、複数時点または継続して行われてもよい。
【0103】
形態学的特徴を取得するために、核を染色してもよい。核の染色は、色素、例えば、蛍光色素を用いて行えばよい。形態学的特徴は、未染色の被検細胞から得ても、染色された被検細胞から得てもよく、1つの被検細胞について無染色時と染色時との両方について得てもよい。核を染色する場合、核の観察に先駆けて、DAPI、ヘキスト33258またはヘキスト33342などの蛍光色素を被検細胞の核に取り込ませればよい。この場合、例えば、明視野画像、発光画像および蛍光画像を撮像可能な装置を使用し、被検細胞について、最初に明視野画像を撮像し、次に発光画像を撮像し、その後に蛍光色素を試料に添加して核を染色した後に蛍光画像を撮像すればよい。明視野画像、発光画像および蛍光画像を互いに重ね合せることによって、より正確且つ迅速な病理検査を行うことも可能である。
【0104】
レポーターベクターの被検細胞への導入は、明視野画像の撮像前に行われることが好ましい。また、複数の視野について、それぞれ明視野画像、発光画像および蛍光画像を撮像し、複数の視野からそれぞれに得られた結果を平均してもよい。また例えば、最初に低倍率で任意の視野を観察および任意に撮像し、そこに含まれる一部分の領域をより高い倍率で観察および任意に撮像してもよい。また例えば、試料に含まれる全被検細胞のうち、どの程度の割合の細胞が特定の条件を満たしているのか、およびどの程度の割合の細胞が形態的に異常であるのかを算出してもよい。
【0105】
例えば、好ましい実施形態では、明視野で未染色の被検細胞群を撮像し、続いて暗視野で、その同じ被検細胞群の発光画像を撮像し、次に被検細胞群の核を蛍光色素で染色した後に、その同じ被検細胞群の蛍光画像を撮像する。このように、明視野画像、発光画像および蛍光画像の順番で撮像し、得られた全ての結果から被検細胞の細胞特性が判定されてもよい。また、また、明視野画像、発光画像および蛍光画像を互いに重ね合せて得たマージ画像を用いて細胞特性を判定してもよい。このような実施形態により、より正確且つ迅速な病理検査を行うことが可能である。
【0106】
このような方法により、可能な限り生きたままの状態で被検細胞の細胞特性に関する情報を得ることが可能となる。これによって、より正確な病理検査を行うことが可能である。
【0107】
このような細胞特性を判定する方法により得た被検細胞に関する結果に基づいて、被検細胞が由来する対象の特定の疾患である可能性に大きさを判定することも可能である。また、細胞特性を判定する方法により得た被検細胞に関する結果に基づいて、被検細胞が由来する対象の特定の疾患を診断してもよい。
【0108】
3.疾患の検査方法
細胞特性を判定することにより、対象からの試料を用いて特定の疾患の検査を行ってもよい。そのような疾患の検査方法も実施形態として提供される。例えば、実施形態によれば、被検細胞が特定の疾患に関連した細胞特性を有するか否かを知ることができる。例えば、予め特定の細胞特性と特定の疾患とを結び付けておき、被検細胞がその特定の細胞特性を有すると判定されたときに対象が特定の疾患である可能性が高いと予測してもよい。
【0109】
疾患の検査方法は、上述したような細胞特性を判定する方法を含めばよく、且つプロモーター活性が活性化する特定の条件が、検査されるべき疾患に関連した条件であればよい。疾患に関連した条件とは、特定の疾患の前段階または発症の指標となる条件であればよい。
【0110】
特定の疾患の例は、癌、精神疾患、生活習慣病、神経疾患、自己免疫疾患、および循環器疾患などであってもよく、或いは前疾患状態、例えば、前癌状態、前糖尿病状態などであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0111】
「対象」とは、主にヒトを含む哺乳類、家畜、愛玩動物および産業用動物などの個体であってもよく、対象から得た器官、臓器、組織または細胞群であってもよい。「被検細胞」とは、対象に含まれた状態の細胞であってもよく、組織に含まれた状態の細胞であってもよく、単離された細胞であってもよい。好ましくは「被検細胞」とは、単離された細胞である。
【0112】
また、実施形態によれば、上記の実施形態により判定された細胞特性に基づいて、更に対象について疾患の診断を行ってもよい。診断は、予め設計されたレポーターベクターの活性化される特定の条件が、どのような細胞の状況または状態を示唆しているのかに応じて行われてもよい。
【0113】
被検細胞についての細胞特性を判定する方法は、採取された被検細胞についてインビトロで行われる。即ち、当該方法は、対象から採取された被検細胞について行われればよい。当該方法により得られた細胞の転写活性に関する遺伝情報と形態に関する情報に基づいて、対象における疾患の診断方法として利用することも可能である。診断方法は、検出対象である個体、器官、臓器、組織、細胞群および/または単一細胞などに対して自己複製ベクターを導入する。その後、レポーター蛋白質からの信号の検出と形態学的情報を得ればよい。
【0114】
4.薬物のスクリーニング方法
被検細胞の細胞特性を判定する方法を利用して、特定の疾患を治療または予防するための薬物をスクリーニングすることもできる。例えば、スクリーニングされるべき薬物で処理した薬物処理細胞群と、薬物を処理しない病態細胞群とを用意し、これらの2つの細胞群についてそれぞれ細胞特性を判定し、得られた結果を比較すればよい。病態細胞群は、治療されるべき病態を有する細胞に特徴的な細胞特性、即ち、病態細胞特性を有すればよい。このような病態細胞特性が、薬物処理により治療されたか否かを指標に薬物のスクリーニングを行えばよい。また、薬物処理細胞群および病態細胞群に加えて、正常細胞群を用意し、正常な細胞の細胞特性を判定してもよい。正常な細胞の細胞特性は、薬物のスクリーニングを行う際にコントロールとして使用してもよい。正常な細胞の細胞特性は、薬物のスクリーニングに並行して判定されてもよく、予め判定しておいてもよい。
【0115】
5.被検細胞の細胞特性を判定する装置
実施形態に従う被検細胞の細胞特性を判定する装置について
図5を用いて説明する。
図5は、装置70の概略を示すブロック図である。装置70は、被検細胞の転写活性と形態的特性とを計測し、それに基づいて細胞特性を判定する装置の1例である。
【0116】
装置70は、細胞分離ユニット71と、DNA導入ユニット72と、測定ユニット73と、これらの下方に連続して配置されたステージ74とを含む。細胞分離ユニット71、DNA導入ユニット72および測定ユニット73は、1つのステージ74を共有し、このステージ74によって、この順番で連絡している。言い換えれば、ステージ74の上方に細胞分離ユニット71と、DNA導入ユニット72と、測定ユニット73とが上流から下流に向けてこの順番で配置される。
【0117】
細胞分離ユニット71は、対象から得た検体から、試験されるべき細胞を分離するための分離器75を含む。分離器75は、対象から得た検体を受ける受容器76aと、受容器76aで受け取った検体について消化などを行う処理器76bと、処理器76bで処理された処理済み検体から試験されるべき細胞を分離するための分離部77とを備える。受容器76aと処理器76bと分離部77は、互いに内径の異なる3つの中空の筒状体が上から下へと向けてこの順番で積み重なり、互いに液密に一体化されてなる。受容器76aと処理器76bと分離部77との各境界部は、弁により開閉可能に液絡されている。受容器76aは上部が開口したテーパのある筒状体であり、開閉可能な蓋を備える。受容器76aと処理器76bとの境界は、弁が液密に閉じる。この弁が閉じたときには、これは受容器76aの底となる。処理器76bは、受容器76aの下端と連続する筒状体である。受容器76aとの境界部の弁が液密に閉じたときには、処理器76bは有蓋となる。分離部77との境界部の弁が閉じたときには、処理器76bは有底となる。分離部77は、その内壁が処理器76bの内壁から液密に連続している筒状体であり、その下端には弁が設けられている。この弁が液密に閉じて、分離部77は有底となる。分離部77内部には、分離材が固定されている。装置70の使用時には、分離部77底の下方のステージ74上に、容器78が載置される。容器78は、分離された被検細胞79を含む試料を分離部77から受け取り、収容する容器78である。ここで、処理器76bは、その内部に含む検体に対して消化および生化学反応などの所望の処理を行う加熱および/または恒温機構を備えてもよい。また、分離材は、処理器76bからの下りてきた検体から、被検細胞を含む試料を分離、採取する部材であってもよく、または処理器76bからの下りてきた検体から、夾雑物を取り除く部材であってもよい。分離材は、分離部77の中心軸に交差する面に沿って広がり分離部77の内壁の円周に亘って固定されていてよい。分離材は、例えば、フィルター、メンブランおよび/または磁石などであってもよい。
【0118】
分離器75で分離された被検細胞79を含む試料は、ステージ74上に載置された容器78に収容される。被検細胞を収容する容器78は、DNA導入ユニット72に送られる。
【0119】
DNA導入ユニット72は、容器78に収容された被検細胞に対してレポーターベクターを導入する制御部80と導入プローブ81とを備える。被検細胞へのレポーターベクターの導入はそれ自身公知の方法により行われてよい。制御部80と導入プローブ81は、選択された導入方法を達成するための何れかの導入機構を利用した装置であればよい。例えば、DNA導入ユニット72はエレクトロポレーションを行う装置であってもよい。その場合、制御部80はパルスジェネレーターであり、導入プローブ81は電極プローブであり、これらによってエレクトロポレーターが構成されていてもよい。更に、DNA導入ユニット72は、レポーターベクターを含む試薬を容器78に供給するためのノズルを備えてもよい(図示せず)。更にDNA導入ユニット72は、ノズルに試薬を送るための送液システム、送液システムに試薬を供給するための試薬収納容器を備えてもよい(図示せず)。
【0120】
また、DNA導入ユニット72は、所定の時間に亘り、所定の培養条件下で容器78内の被検細胞79を培養する培養器として機能してもよい。DNA導入ユニット72の培養は、制御部80により制御されればよい。
【0121】
DNA導入ユニット72において、レポーターベクターが導入された被検細胞を含む容器78は、次に測定ユニット73に送られる。
【0122】
測定ユニット73は、ステージ74の一部分を上部と下部とから覆う暗箱82と、暗箱82内部に配置された光源83と、光源83の下方のステージ面に開口する窓と、窓の下方に設置された対物レンズ87を取り付けられた撮像部88と、光源83および撮像部88に連絡している制御部85と、制御部85にそれぞれ連絡した表示部84および記憶部86とを備える。例えば、測定ユニット73の光源83、対物レンズ87および撮像部88は、CCDカメラまたはCMOSカメラなどを搭載した顕微鏡に含まれて設置されてもよい。また、制御部85、表示部84および記憶部86は、これらを備えたコンピュータであってもよい。
【0123】
実施形態に従う被検細胞の細胞特性を判定する装置について
図6を用いて説明する。
図6は、
図5に示した装置70のうち、ステージについての構成のみが異なる装置の例である。この装置70では、細胞分離ユニット71と、DNA導入ユニット72と、測定ユニット73と、これらのユニットのそれぞれの下方にそれぞれ配置されたステージ74a、74b、74cとを含む。このように
図6の装置70は、ステージがそれぞれのユニットに対して設けられる。ユニット間、即ち、ステージ間の移動は、手動により行ってもよく、それぞれの移動をロボットアームなどによって行ってもよい。
【0124】
このような
図5に示す装置70による細胞特性の判定の1例について
図7を用いて説明する。まず、細胞分離ユニットに検体を持ち込む(S20)。次に、処理部で検体を処理する(S21)。S21で処理された検体から被検細胞を分離部で分離する(S22)。分離された被検細胞を容器に播種する(S23)。細胞分離ユニットからDNA導入ユニットに被検細胞を収容する容器を送る(S24)。被検細胞にレポーターベクターを導入する(S25)。被検細胞を所定の時間に亘って培養する(S26)。明視野画像を撮像する(S27)。発光画像を撮像する(S28)。明視野画像と発光画像とに基づいて細胞特性を判定する(S29)。例えば、このような細胞特性の判定は次のように行ってもよい。まず、細胞分離ユニット71の分離部77下方のステージ74上に容器78を載置する。次に、上部開口から受容器76a内に、所望により予めミンスやホモジナイズなどの前処理がなされた検体を持ち込む。これと共に、処理器76bでの処理に必要な試薬が添加される。試薬の添加は、処理器76bに開閉可能に設けられた試薬添加口から行われてよい。受容器76aの蓋を閉め、処理器76bとの境界の弁を開く。予め設定された条件に従って処理器76b内で消化処理が行われる。処理器76bは予め設定された条件を満たす環境を作り出すための温度調節器を備えてよい。次に、処理器76bと分離部77との境界の弁か解放され、処理器76b内で処理された検体が分離部77内部に送られる。分離部77の分離材を通過することにより、検体に含まれる夾雑物が除去される。分離された被検細胞を含む試料は容器78に送られて収容される。ここで、分離材を通過するのに先駆けて処理器76b内で進められた反応を止めるための反応停止試薬が検体に対して添加されてもよい。この添加は、予め分離部77内に反応停止試薬を収容されていてもよく、そのような試薬を添加するための開閉可能な試薬添加口が分離器75の何れかの位置の壁面に設けられていてもよい。
【0125】
被検細胞79を含む試料を収容したままで、容器78は、DNA導入ユニット72に送られる。DNA導入ユニット72のノズルからレポーターベクターを含む試薬が容器78に添加される。導入プローブ81を容器78内の試料に接触させ、制御部80からの制御によりレポーターベクターが被検細胞79に導入される。制御部80の制御下で被検細胞79は、所定の時間に亘り、所定の培養条件下で培養される。
【0126】
その後、容器78は測定ユニット73に送られる。測定ユニット73では、容器78に収容された被検細胞79におけるレポーター蛋白質量と形態的特徴とを測定する。測定ユニット73における全ての手続きは、予め記憶部86に格納されたプログラムおよび複数の情報が纏められたテーブルに従って制御部85が制御する。例えば、光源83からの光照射、照射時間および照射間隔などの照射条件の制御、撮像部88による撮像および撮像条件の制御、撮像された画像についての画像処理および画像処理などが測定ユニット73により制御される。また、細胞特性の判定についても、予め記憶部86に格納されたプログラムに沿って、画像と細胞特性とを対応付けした情報を含むテーブルを参照して、制御部85が行う。
【0127】
DNA導入ユニット72における被検細胞の培養の後、容器78は測定ユニット73に送られる。その後、光源83からの光が容器78内に照射される。容器78を通過した光は、対物レンズ87で集められ、その光から撮像部88は明視野画像を得る。その後、暗箱82内において、被検細胞に導入されたレポーター蛋白質からの光学的な信号(ここでは、1例としての発光)を、対物レンズ87を通して、撮像部88によって撮像する。光源83の光照射を止め、被検細胞からの発光が対物レンズ87で集められ、その光から撮像部88が発光画像を得る。撮像部88により得られた明視野画像および発光画像は、制御部85により画像処理されて重ね合わされて(マージされて)表示部84に表示される。制御部85では、画像の表示部84への表示と同時または表示と前後して、明視野画像および発光画像と、記憶部86に格納されたテーブルとに基づいて、被検細胞の細胞特性を判定する。この判定の結果は、マージされた画像と共に表示部84に示される。
【0128】
ここでは、レポーター蛋白質からの光学的な信号として発光が生じる例を示したが、発光とは異なるレポーター蛋白質が生じる検出な可能な信号についても、撮像部88を構成する検出装置を交換することにより同様に測定することが可能である。
【0129】
またここで、図には示さないが、測定ユニット73は、電算的処理および画像処理などを行う処理部あるいは特性判定を行う解析部を更に備えてもよい。これらの処理部および解析部が、上述では制御部85が行っている電算的処理および画像処理、並びに特性判定を行ってもよい。
【0130】
上記実施形態では、被検細胞の培養をDNA導入ユニット72が行う例を示したが、被検細胞の培養は、測定ユニット73において行ってもよい。その場合、装置70が更に細胞培養を可能にする部材を備えればよい。或いは、DNA導入ユニット72と測定ユニット73と両方において、被検細胞が培養されてもよい。
【0131】
装置70の各ユニットの動きを制御するために各ユニットがそれぞれに制御部を備えてもよく、装置70に含まれる全てのユニットが1つの制御部、例えば、制御部85により行われてもよい。また、ステージ74上に載置された容器78のユニット間の移動は、ステージ74に搭載された容器移動機構により行ってもよい。そのような機構は、例えば、装置70に備えられ、装置70に備えられた制御部により動きを制御されたロボットアームによって行われてもよい。或いは、ステージ74にベルトコンベアが取り付けられていてもよい。
【0132】
また、容器78へのレポーターベクターの添加は、容器78がDNA導入ユニット72の所定の位置に送られる以前の何れかの時期に行われてもよい。その場合、装置70は、レポーターベクター添加機構をDNA導入ユニット72よりも上流の所望の位置に更に備えればよい。
【0133】
また、レポーター蛋白質からの信号が発光であり、且つ核を蛍光色素により染色することにより核を観察する場合の方法の例を
図8に示す。発光画像の撮像(S28)までは、
図7に示した方法と同様に行えばよい。発光画像の撮像の後に、容器78内に核を染色するための蛍光色素を添加する(S29A)。次に、被検細胞の核について蛍光画像を撮像する(S30A)。その後、得られた明視野画像、発光画像および蛍光画像に基づいて、細胞特性の判定を行う(S31A)。また、明視野画像、発光画像および蛍光画像は、互いにマージされて示されてもよい。
【0134】
このような装置によって、被検細胞の細胞特性が判定される。この装置によれば、より高い精度で被検細胞の細胞特性を評価することが可能である。また、検査をスループットで行うことが可能であるので、簡便に検査を行うことが可能であり、試料の取り違えやコンタミネーションを防ぐことが可能である。
【0135】
従来の細胞診では、通常細胞の固定が行われている。例えば、HER−2染色の場合、ホルマリン固定パラフィン抱埋標本を利用する。固定された細胞について蛍光インサイチューハイブリダイゼーション法(FISH)を行いHER−2遺伝子のコピー数を検出し、それにより被検細胞の遺伝子的な情報を得ている。このようなホルマリン固定パラフィン抱埋標本では、被検細胞のプロモーター活性を検査することはない。実施形態では、生きたままで被検細胞について検査を行うので、より対象の状態を正確に検査することが可能である。また、プロモーター活性と形態的特徴との複数の側面から診断を行うため、より正確な結果を出すことが可能である。
【0136】
更に、自己複製ベクターを使用することにより、エピジェネティックな情報を得ることも可能であり、それにより例えば、疾病の初期または前疾病の段階であっても、対象が特定の疾病に罹患している可能性をより正確に判定することが可能となる。エピジェネティック制御の変化は、DNAの修飾、ヒストンの化学修飾、非翻訳性RNAなどの制御の変化によって生じる。例えば、特定の塩基配列のメチル化などの修飾の有無や修飾量の変化などは、有用なエピジェネティックな情報の1つである。このようなエピジェネティックな情報と形態学的特性とから細胞特性を判定することにより、実施形態は、例えば、疾病の初期または前疾病の段階であっても、対象が特定の疾病に罹患しているか否かをより正確に判定することが可能となる。
【0137】
[例]
例1 NAMPT遺伝子を組み込んだレポーターベクターによる乳癌細胞の解析
(1)レポーターベクターの構築
標的核酸配列として、ニコチンアミドホスホリボシル転移酵素(Nampt)遺伝子のプロモーター領域(−2702〜+276bp、配列番号11)を組込んだレポーターベクターを作製した。Nampt遺伝子のプロモーター領域について、ヒトのゲノムを鋳型にPCRで増幅し、標的核酸配列からなる核酸断片を得た。PCRは、PrimeStar GLX DNA polymerase(TaKaRa BIO)を用いて行った。PCRに用いたプライマー配列を以下に示す。
【0138】
フォワードプライマー:5’-GGGACGCGTCCATGTTGCCCAGGCTGGTCTCA-3’(配列番号13)
リバースプライマー:5’-CGGCTCGAGAGCTCCCTGGCGCGGCTGCGAGGAA-3’(配列番号14)。
【0139】
上記で得た核酸断片を、PGV−B2(TOYO B−Net)に組込んでレポーターベクター:pNampt−Lを作製した。PGV−B2は、ルシフェラーゼ遺伝子(レポーター遺伝子)と転写終結シグナル配列とを上流から下流に向けてこの順番で備えるベクターである。PGV−Bのルシフェラーゼ遺伝子の上流に、PCRで得たCK19プロモーター領域を有する核酸断片を組込み、レポーターベクター:pNampt−Lを作製した(
図9)。
【0140】
(2)リポフェクション(細胞へのレポーターDNA導入)
500μLのOpti−MEM(Life Technologies)に、2.5μgのレポーターベクター:pNampt−Lと2.5μgのエンハンサー試薬(Plus reagent、Life Technologies)を加えた。これを室温で5分間インキュベートした。この溶液に、6.25μLのLipofectamine LTX(Life Technologies)を加えてよく縣濁した。その後、室温で25分間インキュベートした。溶液を35mm培養ディッシュに移し、ヒト乳腺由来の悪性腫瘍細胞:BT−549(ATCCより購入)、或いは良性腫瘍細胞:MCF−10A(ATCCより購入)の縣濁液2.0mLを加えて穏やかに混合した。その後、37℃、5%CO
2雰囲気のインキュベータ内で細胞を培養した。
【0141】
(3)細胞特性の判定
レポーターベクター導入細胞株の発光イメージングは、LUMINOVIEW発光イメージングシステム(LV200、Olympus)でおこなった。上記例1(2)に示したリポフェクションから24時間後、pNampt−AmpL導入BT−549およびpNampt−AmpL導入MCF−10Aの培地に発光基質VivoGlo luciferin (Promega)を添加した(最終濃度200μM)。培養ディッシュをLUMINOVIEWの所定の位置にセットし、レポーターベクターの転写活性化により発光した細胞からのシグナルを発光イメージングにより取得した。発光細胞の撮像は、暗視野条件下で倍率20倍、発光検出時間20分で行った。細胞の形態は、明視野条件下で撮像することで取得した。さらに2つの画像を、画像処理ソフトウェアMetamorphにより重ね合せた。ヒト乳腺由来の悪性腫瘍細胞BT−549では、発光細胞が多く観察されたが(
図10(A))、ヒト乳腺由来の良性腫瘍細胞MCF−10Aでは、発光細胞はほとんど観察されなかった(
図10(B))。また、
図10(B)における発光は、細胞以外の領域からものであることが確認できた。また、ヒト乳腺由来の悪性腫瘍細胞BT−549およびヒト乳腺由来の良性腫瘍細胞MCF−10Aの形態が良好に観察できた。即ち、ヒト乳腺由来の良性腫瘍細胞MCF−10Aでは、観察された視野内の細胞の形態は、一定していた。それに対して、ヒト乳腺由来の悪性腫瘍細胞BT−549は、ヒト乳腺由来の良性腫瘍細胞MCF−10Aに比べて、観察された視野内に含まれる細胞の形態は不定形であった。実施形態により、レポーターベクター活性特性と形態的特性とから、被検細胞について乳癌の特性の有無を判別できることが証明できた(
図10)。
【0142】
例2 CK19遺伝子を組み込んだレポーターベクターによる肝臓癌細胞の解析
(1)自己増幅型レポーターベクターの作製
標的核酸配列として、サイトケラチン19(CK19)遺伝子のプロモーター領域(−845〜+61bp、配列番号12)を組込んだ自己増幅型レポーターベクターを作製した。CK19遺伝子のプロモーター領域の核酸断片は、ヒトゲノムを鋳型とするPCRにより増幅して得た。得られた核酸断片を標的核酸配列を有する核酸断片とした。PCRは、PrimeStar GLX DNA polymerase(TaKaRa BIO)を用いて行った。PCRに用いたプライマー配列を以下に示す。
【0143】
フォワードプライマー:5’-TGGGCTAGCCCAAGAAGCTGGTTCTGAGAGG-3’(配列番号15)
リバースプライマー:5’-GGACTCGAGGGCGAGGCGGAGCACGGACGGAG-3’(配列番号16)。
【0144】
上記で得た標的核酸配列を、非増幅型レポーターベクター:PGV−B2(TOYO B−Net)、或いは自己増幅型レポーターベクター:pM53−R550Kにそれぞれ組込んでpCK19−LとpCK19−AmpLを作製した。PGV−B2は、ルシフェラーゼ遺伝子(レポーター遺伝子)と転写終結シグナル配列とを上流から下流に向けてこの順番で備えるベクターであり、pM53−R550Kは、ルシフェラーゼ遺伝子(レポーター遺伝子)とIRESと複製開始蛋白質遺伝子と転写終結シグナル配列と複製開始配列とを上流から下流に向けてこの順番で備えるベクターである。PGV−B2およびpM53−R550Kのルシフェラーゼ遺伝子の上流に、PCRで得たCK19プロモーター領域を有する核酸断片を組込み、非増幅型レポーターベクター:pCK19−Lと自己増幅型レポーターベクター:pCK19−AmpLとを作製した(
図11)。
【0145】
(2)エレクトロポレーション(細胞へのレポーターDNA導入)
ヒト肝癌細胞株Huh−7を2x10
6細胞/mLの密度でOpti−MEM(Life Technologies)に縣濁した。この細胞縣濁液100μLに、10μgのレポーターベクター(pCK19−AmpL、或いはpCK19−L)を加えてよく混合した後、エレクトロポレーション用のキュベット電極に移した。エレクトロポレーションは、CUY21EDIT II(株式会社ベックス)を用いて、ポレーションパルス150V、パルス幅2.5ms、パルス回数1回、極性+、ドライビングパルス10V、パルス幅50ms、パルス間隔50ms、パルス回数10回、コンデンサ1416μF、極性+/−の条件で行った。これによりレポーターベクターをHuh−7に導入した。エレクトロポレーションの後、細胞縣濁液に培地を加えて35mm培養ディッシュに移し、37℃、5%CO
2雰囲気のインキュベータ内で細胞を培養した。
【0146】
(3)発光イメージング
レポーターベクター導入細胞株の発光イメージングは、LUMINOVIEW発光イメージングシステム(LV200、Olympus)で行った。例2(2)のエレクトロポレーション]から2時間後、pCK19−AmpL導入Huh−7およびpCK19−L導入Huh−7の培地に発光基質VivoGlo luciferin(Promega)を添加した(最終濃度200μM)。培養ディッシュをLUMINOVIEWの所定の位置にセットし、レポーターベクターの転写活性化により発光した細胞からのシグナルを発光イメージングにより取得した。発光細胞の撮像は、暗視野条件下で倍率20倍、発光検出時間10秒間で行った。また、撮影は30分間隔で64時間に亘り間欠的に行った。細胞の形態は、明視野条件下で撮像することで取得した。その後2つの画像を、画像処理ソフトウェアMetamorphにより重ね合せた。
図12−1および
図12−2に、それぞれのベクターにより転写が活性化された細胞を0、24、48、64時間で撮像して得た画像を示した。pCK19−AmpL導入Huh−7は、24時間以降強い発光を示し、その発光の強度は時間の経過とともに増加した(
図12−3(b−2)、
図12−4(b−3)および(b−4))。これに対して、pCK19−L導入Huh−7の発光は、pCK19−AmpL導入Huh−7に比べて非常に弱く、時間経過による発光強度の増加も見られなかった(
図12−1(a−1)および(a−2)、
図12−2(a−3)および(a−4))。
【0147】
例3 ハイパースペクトルイメージング法による形態学的特性の解析
照射する光の波長による撮像精度への影響を明らかにするために以下の実験を行った。具体的には、ハイパースペクトルイメージング法または倒立顕微鏡を用いた方法により乳癌細胞および肝癌細胞の形態学的特徴を観察した。撮像対象として用いた細胞は表13に示す6種類である。
【表13】
【0148】
ハイパースペクトルイメージング法による観察に使用した撮像装置は次の通りである。ハイパースペクトルカメラ(HSC1072、北海道衛星株式会社製)を、予めハロゲン光源のIRカットフィルターを外した正立顕微鏡(Axio Imager M2 :ZEISS社製)に接続した。これにより対象を撮像した。解析ソフトウェアは、HSDAnalysiser Ver4(北海道衛星株式会社製)を使用した。
【0149】
先ず、上記の6種類の細胞をそれぞれ樹脂製チャンバースライド(バーマノックス処理)上で培養した。撮像時には、培養液を除去し、少量のリン酸緩衝液(PBS)とともにカバーガラスにより封入した。
【0150】
各細胞をハイパースペクトルイメージング法により撮像した結果を
図13〜18に示した。
図13は、ヒト肝臓癌細胞であるHuh−7−P株を10倍で観察した図を示す。
図13(a)、
図13(b)および
図13(c)は、同じサンプルの同じ視野を異なる波長を含む光を照射して撮像した図である。
【0151】
図13(a)は、特定の波長に分光せずに350nm〜1050nmの間の全波長を含む光を照射して撮像した図である。
図13(b)は、分光し、可視領域の波長である400nm〜700nmのみを含む光を照射して撮像した図である。
図13(c)は、分光し、近赤外領域の波長である700nm〜750nmの間の波長のみを含む光を照射して撮像した図である。
図13(a)、
図13(b)および
図13(c)に示す結果から、近赤外領域画像(700nm〜750nm)>全波長画像(350nm〜1050nm)>可視領域画像(400nm〜700nm)の順番で細胞の辺縁部を明確に識別することが可能となることが分かる。即ち、細胞の形態学的情報を得るためには、近赤外領域画像(700nm〜750nm)または全波長画像(350nm〜1050nm)で撮像することが好ましく、更に近赤外領域画像(700nm〜750nm)で撮像することがより好ましい。
【0152】
図13(a)、
図13(b)および
図13(c)の結果を解析ソフトウェア(HSDAnalysiser Ver4)で処理し、得られた結果を
図14に示した。
図14は、細胞エッジと細胞質とをそれぞれ400nm〜1000nmの波長を用いて観察したときに得られるスペクトル強度を示す。
図14において、横軸は波長(nm)を示し、縦軸はスペクトル強度を示す。このような波長とスペクトル強度との関係を示したグラフから、細胞エッジと細胞質とをより精度よく見分けることが可能な波長領域を検討した。その結果、細胞エッジと細胞質とを最も精度よく判別できる波長は、700nm〜750nmであることが分かった。より高い判別精度が得られる波長領域は、700nm〜750nmであった。
【0153】
図15(a)および
図15(b)は、それぞれ異なるヒト肝臓癌細胞株、即ち、Huh−7−PおよびHuh−7−02について倒立顕微鏡を用いて撮像した図である。何れの細胞株の場合にも、個々の細胞についてその細胞周辺部と核とがいずれも明確に撮像されていた。Huh−7−PおよびHuh−7−02は、いずれも長い突起を有さないアスペクト比の小さい細胞であることが観察できた。以上のように、肝臓癌細胞の異なる細胞株についても細胞の形態学的特徴を良好に観察することが可能であった。
【0154】
図16(a)、
図16(b)および
図16(c)は、ハイパースペクトルイメージング法により、Huh−7−Pの同じ視野について、異なる波長の光で撮像した結果を示す図である。
図16(a)、
図16(b)および
図16(c)は、それぞれ350nm〜1050nm、400nm〜700nmおよび700nm〜750nmを含む光で撮像した結果である。
図16(d)、
図16(e)および
図16(f)は、Huh−7−02の同じ視野について、異なる波長の光で撮像した結果を示す図である。
図16(d)、
図16(e)および
図16(f)は、それぞれ350nm〜1050nm、400nm〜700nmおよび700nm〜750nmの波長をそれぞれ含む光で撮像した結果である。どちらの細胞株の場合にも、700nm〜750nmの波長を含む光で撮像した結果がもっともよく形態学的情報を明確に得ることができた。例えば、個々の細胞について、細胞エッジと細胞質とをより精度よく見分けることができた。これらの結果から、ハイパースペクトルイメージング法を用いた方が、一般的な倒立顕微鏡を用いて撮像した明視野画像に比べて細胞の形態学的情報をより明確に得ることが可能であることが明らかとなった。
【0155】
次にヒト乳癌細胞株、BT549、MDA−MD−231、T47DおよびMCF7について、形態学的特徴を観察した。
【0156】
図17(a)、
図17(b)、
図17(c)および
図17(d)は、それぞれMCF7、T47D、BT549およびMDA−MD−231を倒立顕微鏡を用いて撮像した図である。これらの図から、MCF7およびT47Dは、いずれもアスペクト比が小さく、一部の細胞は敷石状を示した。それに対して、BT549およびMDA−MD−231は、アスペクト比の大きな長細い形状をしていた。一方で、表13に示すように、BT549およびMDA−MD−231は、高浸潤タイプの癌細胞であり、MCF7およびT47Dは低浸潤タイプの細胞である。これらの結果は、高浸潤タイプの乳癌細胞は、アスペクト比が大きく、低浸潤タイプの乳癌細胞は、アスペクト比が小さいことを示している。このようなアスペクト比の大きさを細胞の形態学的特徴の指標とし、この指標と遺伝子発現および発現調節に関する情報とからより精度の高い細胞特性の判定、この場合、高浸潤タイプの乳癌細胞であるか、或いは低浸潤タイプの乳癌細胞であるかの判定を行うことが可能である。
【0157】
図18は、ハイパースペクトルイメージング法で700nm〜750nmを含むように分光した波長により観察した結果を示す図である。
図18(a)、
図18(b)、
図18(c)および
図18(d)は、それぞれ低浸潤タイプのMCF7およびT47D、並びに高浸潤タイプのBT549およびMDA−MD−231の結果を示す。この結果は、低浸潤タイプの細胞がアスペクト比の小さい丸い形態を示し、高浸潤タイプの細胞がアスペクト比の大きい紡錘形を示すことをより明確に示している。また、この図は、核の形状についても明確に示している。これらの結果から、ハイパースペクトルイメージング法を用いた方が、一般的な倒立顕微鏡を用いて撮像した明視野画像に比べて細胞の形態学的情報をより明確に得ることが可能であることが明らかである。
【0158】
例4 エピジェネティック解析
プラスミド型自己複製ベクターの作製
図19に概要を示すようにメチル化された標的核酸配列を含むプラスミド型自己複製ベクターを作製した。標的核酸配列として、GFAP遺伝子プロモーター配列を選択した。鋳型核酸の増幅と制限酵素による切断を行うことによって、標的核酸配列としてGFAP遺伝子プロモーター配列を調製した。得られたGFAP遺伝子プロモーター配列は、被修飾塩基を含み、且つプロモーター活性を有する核酸配列である。制限酵素による切断を行い、次にこの標的核酸配列を、メチル化酵素SssIによりメチル化した。得られたメチル化標的核酸配列をリガーゼによる連結を行うことによって、pM53−R550Kベクターに組み込んだ。pM53−R550Kベクターは、レポーター遺伝子とIRESと複製開始蛋白質遺伝子と転写終結シグナル配列と複製開始配列とを上流から下流に向けてこの順番で備えるベクターである。得られたベクターをメチル化された標的核酸配列を含むプラスミド型自己複製ベクターとした。各工程の詳細を以下に記す。
【0159】
(1)標的核酸配列であるGFAP遺伝子プロモーター配列の作製
マウスゲノムDNAを鋳型として用いてPCRを行った。マウスゲノムDNAにおいて増幅された配列は表8に示す配列番号8で示される配列である。
【0160】
また、PCRに使用したプライマーの塩基配列は次のような配列番号17と18である;
フォワードプライマー:5’-CGACGCGTGTCTGTAAGCTGAAGACCTGGC-3’(配列番号17)
リバースプライマー:5'-AAAAGTACTCCTGCCCTGCCTCTGCTGGCTC-3’(配列番号18)。
【0161】
これらのフォワードプライマーとリバースプライマーとを使用してマウスゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い、配列番号8で示されるGFAP遺伝子プロモーター配列を有する核酸断片が得られた。得られたGFAP遺伝子プロモーター配列は、被修飾塩基を含み、その修飾の程度に依存するプロモーター活性を有する標的核酸配列として使用した。このGFAP遺伝子プロモーター配列はマウスのGFAP遺伝子の5’上流領域(−1651bp〜+32bp)である。次に、GFAP遺伝子プロモーター配列のPGV−B2(TOYO B−Net)ベクターへのクローニングを行った。
【0162】
PGV−B2(TOYO B−Net)ベクターを制限酵素SmaIで切断した。これを脱リン酸化した。このベクターに対して、リン酸化された配列番号8で示される核酸断片をT4リガーゼで連結した。これにより、PGV−B2−GFAPpベクターを作製した。
【0163】
得られたPGV−B2−GFAPpベクターは、以下に続く工程においてGFAP遺伝子プロモーター配列を得るための材料として使用されると同時に、PGV−B2−GFAPpベクターとして、比較のために後述する検出試験においても使用される。また、後述する工程によりPGV−B2−GFAPpベクターに含まれるGFAP遺伝子プロモーター配列をメチル化することにより、メチル化PGV−B2−GFAPpベクターも作製される。これも比較のために後述の検出試験において使用する。メチル化または非メチル化のPGV−B2−GFAPpベクターは、何れも自己複製しないベクターである。
【0164】
GFAP遺伝子プロモーター配列を得るために、PGV−B2−GFAPpベクターを制限酵素MluIと制限酵素XhoIで切断した。それにより、制限酵素MluIと制限酵素XhoI認識配列が付加されたGFAP遺伝子プロモーター配列を作製した。この配列を、標的核酸配列として続く工程において用いた。
【0165】
(2)被修飾塩基のメチル化
GFAP遺伝子プロモーター配列をメチル化し、そこに含まれる被修飾塩基をメチル化した。
【0166】
上記(1)で作製したGFAP遺伝子プロモーター配列核酸の溶液40μLに対して、10xNE Buffer2を16μL、メチル化酵素SssI(ニュー・イングランド・バイオラボ・ジャパン株式会社)を8μL、S−adenosylmethionine(SAM)(ニュー・イングランド・バイオラボ・ジャパン株式会社)を8μL、およびddH
2Oを88μL添加した。これにより反応液を作製した。これを37℃で6時間酵素反応を行った。メチル化反応後、ヒートブロックを用いて65℃、20分間インキュベートした。それによりSss Iを失活させた。更に、これをQIA quick PCR purification kit(株式会社キアゲン)を用いて精製した。これにより、精製されたGFAP遺伝子プロモーター配列を得た。得られた配列中の被メチル化塩基はメチル化されている。
【0167】
他方、上記反応液について、SssIを添加しないこと以外は上記と同様の方法により、被メチル化塩基がメチル化されていない精製されたGFAP遺伝子プロモーター配列を、非メチル化のコントロール配列として作製した。
【0168】
また、上記(1)で得られたPGV−B2−GFAPpベクターに含まれるGFAP遺伝子プロモーター配列のメチル化についても上記と同様に行った。それによりメチル化PGV−B2−GFAPpベクターを得た。
【0169】
(3)プラスミド型自己複製ベクターpM53−R550Kと、精製された標的核酸配列であるGFAP遺伝子プロモーター配列との機能的連結
自己複製型ベクターpM53−R550Kベクターを制限酵素MluIと制限酵素XhoIで切断した。これに対して、上記(2)で得られた精製されたGFAP遺伝子プロモーター配列をT4リガーゼにより連結した。これにより、pM53−R550K−GFAPpベクターを得た。このpM53−R550K−GFAPpベクターは、標的核酸配列を含む。標的核酸配列はメチル化されている。
【0170】
同様の方法により、上記(2)で得られた非メチル化のコントロール配列についても当該ベクターに組み込んだ。これにより非メチル化のpM53−R550K−GFAPpベクターをコントロールベクターとして得た。
【0171】
例5 標的核酸配列のメチル化および脱メチル化の検出
pM53−R550K−GFAPpベクターに含まれる標的核酸配列の塩基の修飾の状態に依存して、プロモーター活性化の程度が変化することを確認するための試験を行った。
【0172】
(1)試験に用いられたベクター
上記例4の方法により得られたメチル化されたプラスミド型自己複製ベクターpM53−R550K−GFAPpベクターと、非メチル化のプラスミド型自己複製ベクターpM53−R550K−GFAPpベクターとを用いた。これらは自己複製可能なプラスミドベクターである。
【0173】
比較のために、上述の方法により得られたメチル化されたPGV−B2−GFAPpベクターと、非メチル化のPGV−B2−GFAPpベクターとを用いた。これらは自己複製ができないプラスミドベクターである。
【0174】
内部標準用のベクターとして、β−ガラクトシダーゼ発現ベクターpcDNA4/V5−His/lacZベクター(Life Technologies社)を使用した。
【0175】
(2)ベクターのグリオーマC6細胞への導入
(a)細胞へのベクターの導入
pcDNA4/V5−His/lacZベクター、メチル化または非メチル化のPGV−B2−GFAPpベクターおよびメチル化または非メチル化のpM53−R550K−GFAPpベクターをそれぞれグリオーマC6細胞に導入した。この導入は、リポフェクション法で行った。これらのベクターの各導入には、導入試薬としてリポフェクタミン2000(Life Technologies社)を使用した。リポフェクションの操作は、試薬の製造元によるマニュアルに従った。その概略は次の通りである。マイクロチューブ中で、25μLのOpti−MEMに懸濁した0.45μLのカチオン脂質(リポフェクタミン2000)と、何れかのベクターを含む25μLのOpti−MEMとを混合した。これによりリポフェクタミン/ベクターの複合体を形成した。ここで、25μLのOpti−MEMに含まれる各ベクターの量は次の通りである。pM53−R550K−GFAPpまたはPGV−B2−GFAPpについては、25μLのOpti−MEMにDNAとして0.066μgが含まれた。pcDNA4/V5−His/lacZについては、25μLのOpti−MEMにDNAとして0.033μgが含まれた。
【0176】
(b)播種
各ベクターについてリポフェクタミン/ベクター複合体を形成した後に、それぞれの複合体を培養プレート(96ウェルプレート)に対して1ウェル当たり50μLずつ添加した。そこに対して更に、RPMI1640培地(10%非動化FCS含有)に懸濁したグリオーマC6細胞溶液(5x10
5cell/mL)を1ウェルあたり100μLずつ播種した。
【0177】
(c)培養
その後、1分間穏やかにプレートを攪拌して、反応液と細胞溶液を混ぜ合わせた。その後、37℃、5%CO
2雰囲気下で24時間、37℃、5%CO
2雰囲気下で付着培養を行った。
【0178】
(2)5−aza−2−deoxycytidineによる被修飾塩基の脱メチル化
グリオーマC6細胞に各ベクターをそれぞれ導入した後で、それぞれのベクターに含まれる標的核酸配列について脱メチル化反応を行った。脱メチル化反応は、メチル基転移酵素の阻害剤である5−aza−2−deoxycytidine(5−aza−dC)(フナコシ株式会社)を用いて行った。
【0179】
5−aza−dC試薬を次のように調製した。500μMの濃度になるようにPBS中に5−aza−dCを添加して5−aza−dC希釈液を作製した。この5−aza−dC希釈液を、新鮮なRPMI1640培地に添加して5μMの5−aza−dCを含む溶液を作製した。得られた溶液を5−aza−dC試薬として使用した。
【0180】
脱メチル化を次の様に行った。まず、(c)の培養後、各ウェルの培地を取り除いた。その後、5−aza−dC試薬を200μLずつ添加した。脱メチル化反応を行わないコントロールとして、5−aza−dC試薬の代わりにPBSを添加したRPMI1640培地200μLを添加した。これを、さらに、48時間、37℃、5%CO
2雰囲気下で付着培養を行った。
【0181】
(3)レポータージーンアッセイ(ルシフェラーゼアッセイ)
5−aza−dCの添加から48時間後に培養プレートから培地を取り除いた。各細胞をPBSで2回洗浄してから、それらの細胞からルシフェラーゼ(レポーター蛋白質)をそれぞれ抽出した。具体的には、次の通りに抽出を行った。抽出試薬である細胞溶解液(PicaGene Cell lysis buffer LCβ, TOYO B−Net社)を添加し、室温で15分間に亘って細胞と細胞溶解液との懸濁液をインキュベートした。その後、この懸濁液を、15,000rpmで5分間、遠心分離機器で遠心分離した。それにより、懸濁液から細胞残渣を取り除いた。それにより上清を得た。この上清にルシフェラーゼ基質溶液(PicaGene LT2.0, TOYO B−Net社)を加えた。次に、検出試薬であるルシフェラーゼ基質溶液(ルシフェリン溶液)を添加した。生じた発光強度をルミノメーター(Mithras LB940, Berthold社)で測定した。
【0182】
(4)結果
結果を
図20(a)および(b)に示す。これらのグラフは、ベクター導入細胞からのレポーター蛋白質シグナル強度の脱メチル化反応による変化を表す。
【0183】
図20(a)は、PGV−B2−GFAPpベクターを導入された細胞について測定されたデータを示す。
図20(a)の左端に、非メチル化標的核酸配列を含むPGV−B2−GFAPpベクターを導入され、脱メチル化処理を受けていない細胞から得られたシグナル強度を100%として記載した。中央には、メチル化標的核酸配列を含むPGV−B2−GFAPpベクターを導入され、脱メチル化処理を受けていない細胞から得られた相対シグナル強度を示す。この相対シグナル強度は、3.4%であった。右端には、メチル化された被修飾塩基を含むPGV−B2−GFAPpベクターを導入され、脱メチル化処理を受けた細胞から得られた相対シグナル強度を示す。この相対シグナル強度は、2.4%であった。
【0184】
図20(b)は、pM53−R550K−GFAPpベクターを導入された細胞について測定されたデータを示す。
図20(b)の左端に、非メチル化の被修飾塩基を含むpM53−R550K−GFAPpベクターを導入され、脱メチル化処理を受けていない細胞から得られたシグナル強度を100%として記載した。中央には、メチル化された被修飾塩基を含むpM53−R550K−GFAPpベクターを導入され、脱メチル化処理を受けていない細胞から得られた相対シグナル強度を示す。この相対シグナル強度は、34.1%であった。右端には、メチル化された被修飾塩基を含むpM53−R550K−GFAPpベクターを導入され、脱メチル化処理を受けた細胞から得られた相対シグナル強度を示す。この相対シグナル強度は、74.6%であった。
【0185】
このように、非複製型のプラスミドベクターであるPGV−B2−GFAPpベクターでは、標的核酸配列について細胞内で生じた脱メチル化反応を検出することはできなかった。一方、自己複製型のプラスミドベクターであるpM53−R550K−GFAPpベクターを用いることにより、標的核酸配列について細胞内で生じた脱メチル化反応を検出することができた。なお、標的核酸配列であるGFAP遺伝子プロモーター配列と、被検細胞であるグリオーマC6細胞における対応する配列との相同性は、90.26%であった。
【0186】
これらの結果から、実施形態の1例であるプラスミド型の自己複製ベクターであるpM53−R550K−GFAPpベクターを使用することにより、次のことを可能にしたことが明らかとなった。即ち、その使用により、レポーター蛋白質のシグナル強度を指標として被修飾塩基における脱メチル化を検出することが可能になることが明らかになった。即ち、これらの結果により、pM53−R550K−GFAPpベクターに含まれる被修飾塩基の修飾の状態に依存して、プロモーター活性化の程度に違いが生じることが示された。この活性化の程度の違いは、レポーター蛋白質のシグナル強度を指標にして検出することができた。このように実施形態によれば、細胞が有する特定の配列に相同な標的核酸配列を有する自己複製ベクターを利用して、当該特定の配列についてのエピジェネティックな情報を得ることが可能である。また、被検細胞の特定の配列に相同な配列を含み、且つプラスミド型の自己複製ベクターであるpM53−R550K−GFAPpベクターが、被検細胞において自己複製した場合には次のことが生じる。即ち、被検細胞の特定の配列内の被修飾塩基における修飾の状態が、pM53−R550K−GFAPpベクター上の標的核酸配列中の被修飾塩基における修飾の状態に反映される。
【0187】
これらの結果から、自己複製ベクターを使用することによって、レポーター蛋白質のシグナル強度を指標として、被検細胞の特定の配列におけるエピジェネティックな情報を得ることが可能であることが明らかになった。
【0188】
従来では、ゲノム上のエピジェネティックな情報を、外来核酸によって得るためには、外来核酸がゲノムの複製と同時に複製され、エピジェネティックな修飾反応を受けることが必須である。そのため、ゲノムに組み込まれていないレポーターベクターを利用して細胞の特性を判定することは困難である。しかしながら、実施形態によれば、ゲノム上に外来核酸を組み込まずに、目的とする核酸の修飾の状態などのエピジェネティックな情報を得ることが可能である。
【0189】
例6 ゲノムDNAとレポーターベクターにおけるCK19遺伝子プロモーター領域(標的核酸配列)のメチル化率の比較
自己複製ベクターと複製開始蛋白質遺伝子発現ベクター(複製開始蛋白質ユニットを有するベクター)とを構築した。レポーターベクターに標的核酸配列としてCK19遺伝子のプロモーター領域(−617〜+61bp、配列番号9)を組み込み、当該ベクターを導入した被検細胞のゲノムDNAとレポーターベクターの標的核酸配列のメチル化率を比較した。
【0190】
(1)レポーターベクターの構築
標的核酸配列であるCK19遺伝子のプロモーター領域(−617〜+61、配列番号9)を、ヒトのゲノムDNAを鋳型としてPCRで増幅した。PCRには、PrimeSTAR GLX DNA polymerase(TaKaRa BIO)を用いておこなった。PCRに用いたプライマーの塩基配列を以下に示す。
【0191】
フォワードプライマー:5’-GCCTGGTCAACATGGTGAAAC-3’(配列番号19)
リバースプライマー:5’-TGGGCTAGCCCAAGAAGCTGGTTCTGAGAGG-3’(配列番号20)。
【0192】
PCRで得た標的核酸配列を、シミアン・ウイルス40の複製開始配列を有するレポーターベクターのルシフェラーゼ遺伝子の上流に組み込み、
図21に示すレポーターベクターp19sLoを作製した。
【0193】
(2) 複製開始蛋白質遺伝子発現ベクターの構築
複製開始蛋白質遺伝子は、シミアン・ウイルス40のラージT抗原遺伝子(SV40LT)とした。同遺伝子をPrimeSTAR GLX DNA polymerase(TaKaRa BIO)を用いたPCRで増幅した後、遺伝子発現ベクターのサイトメガロ・ウイルス初期プロモーターの下流に組み込んだ。これにより
図22に示す複製開始蛋白質(SV40LT)遺伝子発現用ベクターpCMV−LTを作製した。以下に、PCRに用いたプライマーの塩基配列を示す。
【0194】
フォワードプライマー:5’-GGGGTACCAGATGGATAAAGTTTTAAACAGAGAGGAA-3’(配列番号21)
リバースプライマー:5’-GGGAATTCTTATGTTTCAGGTTCAGGTTCAGGGGGAG-3’(配列番号22)。
【0195】
(3)トランスフェクション
100μLのOpti−MEM(Life Technologies)に0.5μgのレポーターベクターを単独で、或いは0.4μgのレポーターベクターと0.1μgの複製開始蛋白質発現ベクターpCMV−LTと共に加えた。その後、0.5μLのエンハンサー試薬(Plus reagent,Life Technologies)を加えた。これを室温に5分間インキュベートした。この溶液に、1.25μLのLipofectamine LTXを加えてよく縣濁した。その後、室温に25分間インキュベートした。溶液を24ウェルプレートに移し、Huh−7細胞の縣濁液200μLを加えて穏やかに混合した。その後、37℃、5%CO
2雰囲気のインキュベータ内で細胞を培養した。
【0196】
(4)細胞からのゲノムDNAおよびレポーターベクターの調整
トランスフェクションから96時間後、24ウェルプレートから培養液を取り除き、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で細胞を洗浄した。その後、200μLのTrypsin−EDTAを加えて室温に5分間静置した。300μLのPBSを加え、細胞を1.5mLチューブに回収した。その後、遠心により細胞を沈殿させた。細胞を200μLのPBSに懸濁し、DNeasy Blood & Tissue Kit(Qiagen)を用いて、ゲノムDNAとレポーターベクターを含む溶液を得た。
【0197】
(5)ゲノムDNAのメチル化率の検出
ゲノムDNAのCK19遺伝子のプロモーター領域(−617〜+61bp、配列番号9)に含まれるCCGG配列メチル化率(2番目のシトシンの5−メチル化の有無)を次の様に調べた。即ち、それについて、メチル化感受性制限酵素HpaIIとメチル化非感受性制限酵素MspIによるメチル化検出法で調べた。HpaIIとMspIは共通のCCGG配列を認識する制限酵素である。HpaIIは、メチル化シトシンを含むCCGG配列(C
mCGG)を切断できず、MspIはメチル化シトシンに係らずCCGG配列を切断する。上記(4)で調整したゲノムDNAとレポーターベクターを含む溶液を、制限酵素HpaII、或いはMspIで切断した。その後、QIAquick PCR purification kit(Qiagen)で精製した。これを制限酵素処理DNAとした。このDNAと制限酵素未処理DNAを鋳型として、下記プライマーを用いてPCRを行った。それにより、ゲノムDNAのCOX2遺伝子プロモーター領域のCCGG配列を含む領域を増幅した(
図24)。
【0198】
フォワードプライマー1’(G1) 5’-TCAGAGGGGACAAAAGGGGAGTTGG-3’(配列番号23)
リバースプライマー1(C1);5’-AGAGGCCCCTGCCCTCCAGAGGT-3’(配列番号24)
フォワードプライマー2(C2);5’-GCAAATTCCTCAGGGCTCAGATA-3’(配列番号25)
リバースプライマー2’(G2);5’-CCAGGCCTCCGAAGGACGACGTGGC-3’(配列番号26)
PCR反応液をアガロースゲル(含エチジウムプロマイド)で電気泳動した。その後、UV照射によりゲル中のPCR増幅産物を可視化して写真を撮影した。そして、得られた写真におけるそれぞれのバンド強度を画像解析ソフトウェアImage Jで数値化した。更に、得られた数値と以下の式から、AおよびBの全DNAに対するCCGG配列メチル化の割合を算出した。ここで結果を示す図中に示す「A」および「B」は、
図24に示すように「A」は、フォワードプライマー1’(G1)と、リバースプライマー1(C1)とにより増幅される領域Aを指す。同様に「B」は、フォワードプライマー2(C2)と、リバースプライマー2’(G2)とにより増幅される領域Bを指す。
【数1】
【0199】
これらの結果を
図23(a)および
図23(b)に示す。ここで、上記撮影により得られた写真は、何れもバックが黒であり、バンドが白く抜けたものである。この写真をそのまま画像解析ソフトウェアによってバンド強度を数値化した。しかしながら、その画像をそのまま図面に示すとバンドが見えにくい。従って、バンドをより見やすくするために、上記撮影により得られた写真をコンピュータに取り込み、画像加工ソフトを用いて、バンド強度および他のデータとの相対性を損なわないように白黒色を反転したイメージを示した(
図23(a))。以下、同様に撮影された写真は、何れも同様に白黒色を反転した。
【0200】
図23aにおいて、レーンNは、制限酵素未処理DNAのPCR増幅産物のバンドであり、PCRに供した全DNA量を表す。レーンHはHpaII処理DNAのPCR増幅産物のバンドである。これはPCRに供したDNAのうち、CCGGの2番目のシトシンがメチル化されたDNA量を表す。レーンMはMspI処理DNAのPCR増幅産物であり、検出バックグラウンドを表す。
図23aの結果に示すように、CCGG配列AおよびBのレーンHでPCR増幅産物のバンドが検出され、そのバンド強度はAよりもBの方が高かった。
【0201】
上述の計算により得られたCCGG配列メチル化の割合に関する結果を
図23bに示す。
図23bの結果に示すように、AとBのCCGG配列メチル化の割合は、それぞれ、Aが2%であり、Bが87%であった。
【0202】
ここで、上記式においては、PCR増幅産物のバンドについてのシグナル強度からメチル化率を算出しているが、他の増幅方法により得られた増幅産物についても同様にシグナル強度からメチル化率が算出されてもよい。また、メチル化率の算出方法は、上記式のみによって得ることに限定されるものではない。
【0203】
(6)非複製レポーターベクターのメチル化率の検出
非複製レポーターベクターのメチル化率は、上記(3)に示す方法で行った。レポーターベクターpC2sLoと共に、或いはp19sLo単独でヒト肝がん細胞株Huh−7にトランスフェクションした。96時間後に抽出したDNA溶液を用いて、メチル化率を検出した。レポーターベクターの複製には、複製開始配列と複製開始蛋白質とが同一細胞内に共存する必要がある。従って、p19sLoを単独で細胞に導入した場合、p19sLoは細胞内で複製しない。上記(5)と同様の方法で、レポーターベクターp19sLoのCK19遺伝子のプロモーター領域(−617〜+61bp、配列番号9)に含まれるCCGG配列メチル化率(2番目のシトシンの5−メチル化の有無)を調べた。上記(4)で調整したDNAを、制限酵素HpaII、或いはMspIで切断した。その後、QIAquick PCR purification kit(Qiagen)で精製した。これを制限酵素処理DNAとした。これらのDNAと制限酵素未処理のDNAを鋳型として、下記プライマーを用いたPCRをおこなった。それによりp19sLoのCK19遺伝子プロモーター領域のCCGG配列を含む領域を増幅した(
図24)。ここで、「A」は、
図24に示すようにフォワードプライマー1’(P1)と、リバースプライマー1 (C1)とにより増幅される領域Aを指す。ここで、「B」は
図24に示すように、フォワードプライマー2 (C2)とリバースプライマー2’ (P2)とにより増幅される領域Bを指す。
【0204】
フォワードプライマー1’(P1) 5’-TAGGCTGTCCCCAGTGCAAGT-3’(配列番号27)
リバースプライマー1 (C1) 5’-AGAGGCCCCTGCCCTCCAGAGGT-3’(配列番号24)
フォワードプライマー2 (C2) 5’-GCAAATTCCTCAGGGCTCAGATA-3’(配列番号25)
リバースプライマー2’ (P2) 5’-AATGCCAAGCTTACTTAGATCG-3’(配列番号28)。
【0205】
PCR反応液のアガロースゲル(含エチジウムプロマイド)電気泳動の結果を
図25(a)に示す。
図26aの結果から、AとBのレーンHではPCR増幅産物が検出されなかった。従って、CCGG配列のメチル化の割合は、AおよびBともに0%であった(
図25(b))。また、非複製レポーターベクターではAとBのメチル化は起こっていなかった。
【0206】
(7)複製レポーターベクターのメチル化率の検出
複製レポーターベクターのメチル化率は、レポーターベクターp19sLoとpCMV−LTをHuh−7に共導入し、96時間後に抽出したDNAを用いて検出した。P19sLoとpCMV−LTとを細胞に共導入すると、複製開始配列と複製開始蛋白質が細胞内に共存するため、p19sLoが細胞内で複製する。DNAをHpaII、或いはMspIで処理した制限酵素処理DNAと制限酵素未処理DNAを鋳型として、上記(6)と同じプライマーでPCRをおこなった。それによりp19sLoのCK19遺伝子プロモーター領域のCCGG配列を含む領域を増幅した。PCR反応液のアガロースゲル(含エチジウムプロマイド)電気泳動の結果を
図26(a)に示す。その結果、AとBのレーンHではPCR増幅産物が検出された。CCGG配列のメチル化の割合は、Aが0%であり、Bが16%であった(
図26(b))。さらに、DpnI法(細胞内で複製したベクターの検出法)と、HpaIIとMspIによるメチル化検出法を組み合わせて、細胞内で複製したレポーターベクターのみのCK19遺伝子プロモーター領域CCGG配列のメチル化率を調べた(
図27(a))。その結果、AとBのレーンHにおいてPCR増幅産物が検出された。各CCGG配列のメチル化の割合は、Aが0%、Bが25%であった(
図27(b))。レポーターベクターのCK19遺伝子プロモーター領域は、ゲノムDNAのCK19遺伝子プロモーター領域(標的核酸配列)とほぼ同じ比率でメチル化された。
【0207】
例7 ゲノムDNAとレポーターベクターにおけるCOX2遺伝子プロモーター領域(標的核酸配列)のメチル化率の比較
自己複製ベクターと複製開始蛋白質遺伝子発現ベクター(複製開始蛋白質ユニットを有するベクター)とを構築した。レポーターベクターに標的核酸配列としてCOX2遺伝子のプロモーター領域(−540〜+115bp、配列番号10)を組み込んだ。このベクターを導入した被検細胞のゲノムDNAとレポーターベクターの標的核酸配列のメチル化率を比較した。
【0208】
(1)レポーターベクターの構築
標的核酸配列であるCOX2遺伝子のプロモーター領域(−540〜+115bp、配列番号10)を、ヒトのゲノムDNAを鋳型としてPCRで増幅した。PCRには、PrimeSTAR GLX DNA polymerase(TaKaRa BIO)を用いておこなった。PCRに用いたプライマーの塩基配列を以下に示す。また、
フォワードプライマー;5’-CTTAACCTTACTCGCCCCAGTCT-3’(配列番号29)
リバースプライマー;5’-AGGCTCGAGCGCGGGGGTAGGCTTTGCTGTCTGAG-3’(配列番号30)。
【0209】
PCRで得た標的核酸配列を、シミアン・ウイルス40の複製開始配列を有するレポーターベクターのルシフェラーゼ遺伝子の上流に組み込んだ。それにより
図28に示すレポーターベクター pC2sLoを作製した。
【0210】
(2)複製開始蛋白質遺伝子発現ベクター
上記の例6の(2)と同じ複製開始蛋白質(SV40LT)遺伝子発現用ベクターpCMV−LTを用いた。
【0211】
(3)レポーターベクターのメチル化
レポーターベクターと反応バッファーからなる反応溶液(50mM NaCl、10mM Tris−HCl、10mM MgCl
2、1mM DTT、160μM S−アデノシルメチオニン)を調整した。これに対して、DNAメチル化酵素:SssI CpG Methyltransferase(New England Biolabs)を加えて37℃で一晩反応させ、レポーターベクターのCG配列のシトシンをメチル化した。
【0212】
(4) トランスフェクション
例6の(3)と同様の方法でトランスフェクションを行った。
【0213】
(5)細胞からのゲノムDNAおよびレポーターベクターの調整
細胞からのゲノムDNAおよびレポーターベクターの調整は、上記例6の(4)と同様の方法でおこなった。
【0214】
(6)ゲノムDNAのメチル化率の検出
ゲノムDNAのCOX2遺伝子プロモーター(−540〜+115bp、配列番号10)に含まれるCCGG配列メチル化率(2番目のシトシンの5−メチル化の有無)を次のように調べた。即ち、それについて、メチル化感受性制限酵素HpaIIとメチル化非感受性制限酵素MspIによるメチル化検出法で調べた。(5)で調整したゲノムDNAとレポーターベクターを含む溶液を、制限酵素HpaII、或いはMspIで切断した後、QIAquick PCR purification kit(Qiagen)で精製し、これを制限酵素処理DNAとした。このDNAと制限酵素未処理DNAとを鋳型として使用し、更に下記プライマーを用いたPCRを行った。それによりゲノムDNAのCOX2遺伝子プロモーター領域のCCGG配列を含む領域Aおよび領域Bを増幅した(
図29)。
【0215】
フォワードプライマー1 (C1) 5’-GGAAGCCAAGTGTCCTTCTGC-3’(配列番号31)
リバースプライマー1 (C2) 5’-GGGCAGGGTTTTTTACCCAC-3’(配列番号32)
フォワードプライマー2 (C3) 5’-AGCTTCCTGGGTTTCCGATTT-3’(配列番号33)
リバースプライマー2’ (G2) 5’-GCCAGGTACTCACCTGTATGGCTG-3’(配列番号34)。
【0216】
ここで、
図29に示すように、Aは、フォワードプライマー1 (C1)とリバースプライマー1 (C2)とにより増幅される領域を指し、Bはフォワードプライマー2 (C3)と、リバースプライマー2’ (G2)とにより増幅される領域を示す。
【0217】
PCR反応液をアガロースゲル(含エチジウムプロマイド)で電気泳動した。その後、UV照射によりゲル中のPCR増幅産物を可視化して写真を撮影した。結果を
図30(a)に示す。
図30(a)の結果から、CCGG配列AとBのレーンHにおいてPCR増幅産物のバンドが検出された。そのバンド強度はBよりもAが高かった。例6の(5)と同様の方法で算出したAとBのCCGG配列メチル化の割合は、それぞれ29%と7%であった(
図30(b))。
【0218】
(7)非複製非メチル化レポーターベクターのメチル化率の検出
非複製レポーターベクターのメチル化率は、上記(3)に示す方法で、レポーターベクターpC2sLoと共に、または単独で、ヒト肝がん細胞株Huh−7にトランスフェクションした。その96時間後に抽出したDNA溶液を用いて検出した。上記(5)と同様の方法で、レポーターベクターpC2sLoのCOX2遺伝子のプロモーター領域(−540〜+115bp、配列番号10)に含まれるCCGG配列メチル化率を調べた。上記(5)で調整したDNAを、制限酵素HpaII、或いはMspIで切断した。その後、QIAquick PCR purification kit(Qiagen)で精製した。これを制限酵素処理DNAとした。これらのDNAと制限酵素未処理のDNAを鋳型として、下記プライマーを用いたPCRを行った。pC2sLoのCOX2遺伝子プロモーター領域のCCGG配列を含む領域を増幅した(
図29)。ここで結果を示す図中に示す「A」および「B」は、
図29に示すように「A」は、フォワードプライマー1 (C1)とリバースプライマー1 (C2)とにより増幅される領域Aを指す。同様に「B」は、フォワードプライマー2 (C3)と、リバースプライマー2’ (P2)とにより増幅される領域Bを指す。
【0219】
フォワードプライマー1 (C1) 5’-GGAAGCCAAGTGTCCTTCTGC-3’(配列番号31)
リバースプライマー1 (C2) 5’-GGGCAGGGTTTTTTACCCAC-3’(配列番号32)
フォワードプライマー2 (C3) 5’-AGCTTCCTGGGTTTCCGATTT-3’(配列番号33)
リバースプライマー2’ (P2), 5’-AATGCCAAGCTTACTTAGATCG-3’(配列番号35)。
【0220】
PCR反応液のアガロースゲル(含エチジウムプロマイド)電気泳動の結果を
図31(a)に示す。
図31(a)の結果から、AおよびBのレーンHにおいてはPCR増幅産物が検出されなかった。CCGG配列のメチル化の割合は、AおよびBともに0%であり、非複製レポーターベクターではAおよびBのメチル化は起こっていなかった(
図31(b))。
【0221】
(8)複製非メチル化レポーターベクターのメチル化率の検出
複製レポーターベクターのメチル化率は、レポーターベクターpC2sLoと複製開始蛋白質遺伝子発現ベクターpCMV−LTをHuh−7に共導入した。その96時間後に抽出したDNA溶液を用いて検出した。DNAをHpaII、或いはMspIで処理した制限酵素処理DNAと制限酵素未処理DNAを鋳型として、上記(7)と同じプライマーでPCRを行った。それによりpC2sLoのCOX2遺伝子プロモーター領域のCCGG配列を含む領域を増幅した。PCR反応液のアガロースゲル(含エチジウムプロマイド)電気泳動の結果を
図32(a)に示す。その結果、AおよびBのレーンHにおいてPCR増幅産物が検出された。CCGG配列メチル化の割合は、Aが14%であり、Bが24%であった(
図32(b))。さらに、DpnI法(細胞内で複製したベクターの検出法)と、HpaIIとMspIによるメチル化検出法を組み合わせることにより、細胞内で複製したレポーターベクターのみのCOX2遺伝子プロモーター領域CCGG配列のメチル化率を調べた(
図33(a))。その結果、AおよびBのレーンHにおいてPCR増幅産物が検出された。各CCGG配列のメチル化の割合は、Aが57%であり、Bが23%であった(
図33(b))。複製したレポーターベクターのCOX2遺伝子プロモーター領域は、ゲノムDNAのCOX2遺伝子プロモーター領域(標的核酸配列)とほぼ同じ比率でメチル化された。
【0222】
(9)非複製メチル化レポーターベクターのメチル化率の検出
非複製メチル化レポーターベクターのメチル化率の検出には、メチル化レポーターベクターpC2sLoを単独でヒト肝がん細胞株Huh−7にトランスフェクションした。その96時間後に上記(5)の方法で抽出したDNA溶液を用いた。DNAを制限酵素HpaII、或いはMspIで切断した。その後、それをQIAquick PCR purification kit(Qiagen)で精製し、制限酵素処理DNAとした。これらのDNAと制限酵素未処理のDNAを鋳型として、下記プライマーを用いたPCRを行った。それによりpC2sLoのCOX2遺伝子プロモーター領域のCCGG配列を含む領域を増幅した。PCR反応液のアガロースゲル(含エチジウムプロマイド)電気泳動の結果を
図34(a)に示す。
図34(a)の結果から、AおよびBのレーンHにおいてPCR増幅産物が検出された。CCGG配列のメチル化の割合は、Aが100%であり、Bが86%であった(
図34(b))。非複製メチル化レポーターベクターのメチル化率は、宿主細胞のゲノムDNAのメチル化率と一致しなかった。
【0223】
(10)複製メチル化レポーターベクターのメチル化率の検出
複製メチル化レポーターベクターのメチル化率の検出には、レポーターベクターpC2sLoと複製開始蛋白質遺伝子発現ベクターpCMV−LTとをHuh−7に共導入し、96時間後に抽出したDNA溶液を用いた。HpaII、或いはMspIで処理した制限酵素処理DNAと制限酵素未処理DNAとを鋳型として用いた。上記(6)と同じプライマーでPCRを行った。それによりpC2sLoのCOX2遺伝子プロモーター領域のCCGG配列を含む領域を増幅した。PCR反応液のアガロースゲル(含エチジウムプロマイド)電気泳動の結果を
図35(a)に示す。その結果、AおよびBのレーンHにおいてPCR増幅産物が検出された。CCGG配列メチル化の割合は、Aが45%であり、Bが79%であった(
図35(b))。さらに、DpnI法(細胞内で複製したベクターの検出法)と、HpaIIとMspIによるメチル化検出法とを組み合わせて、細胞内で複製したレポーターベクターのみのCOX2遺伝子プロモーター領域CCGG配列のメチル化率を調べた(
図36(a))。その結果、AおよびBのレーンHにおいてPCR増幅産物が検出された。各CCGG配列のメチル化の割合は、Aが95%であり、Bが35%であった(
図36(b))。細胞内で複製したレポーターベクターと、ゲノムDNAのCOX2遺伝子プロモーター領域内CCGG配列のメチル化率とを比較すると、Bが強く脱メチル化されており、メチル化の割合はAが高かった。
【0224】
例8 ルシフェラーゼアッセイによる標的核酸配列(COX2遺伝子プロモーター領域)の脱メチル化の検出
上記例7と同様の方法で、メチル化/非メチル化レポーターベクターpC2sLoを単独、或いは複製開始蛋白質発現ベクターpCMV−LTと共にヒト肝がん細胞株Huh−7にトランスフェクションした。その72時間培養後、pC2sLoに由来するレポーター活性を測定した。24ウェルプレートから培養液を取り除き、PBSで洗浄した。その後、150μLの細胞溶解液(Promega)を加えて−80℃に30分以上静置して凍結した。細胞溶解液を室温で解凍した後、溶解液を遠心チューブに回収した。この遠心により細胞残渣を沈殿させた。上清10μLを96ウェルプレート(Nunc)に分注した。これに50μLのLuciferase基質溶液(One-Glo Luciferase Assay System, Promega)を加えて細胞溶解液の発光強度を測定した。結果を
図37に示す。
図37のグラフの縦軸は、発光強度の回復率を示した。この発光強度の回復率は、脱メチル化の指標である。発光強度の回復率は、非メチル化レポーターベクターを導入した細胞から得られた発光強度を100%とした時のメチル化レポーターDNAを導入した細胞から得られた発光強度の割合である。グラフの左側には、非複製レポーターベクターの発光強度の回復率を、右側には、複製レポーターベクターの回復率を示した。このグラフから、発光強度の回復率は、非複製レポーターベクターよりも複製レポーターベクターの方が高いことが分かった。それにより、複製レポーターベクターにおいて、標的核酸配列に生じた脱メチル化を高感度に検出することが可能になった。この結果から、細胞内で複製するレポーターベクターを使用することによって、レポーター活性を指標として、被検細胞の特定の配列におけるエピジェネティックな情報を得ることが可能であることが明らかになった。
【0225】
例9 2種類のレポーター遺伝子発現ユニット(官能基が置換された標的核酸配列を含むユニットと、官能基が置換されていない標的核酸配列を含むユニット)、及び複製開始配列を有する自己複製ベクター
(1)ベクターの作製
自己複製ベクターを構築した。エビ由来のルシフェラーゼが組込まれたレポーターベクターpNL1.1(プロメガ社)を制限酵素KpnIとBamHIで切断した。そのDNA末端をT4 DNAポリメラーゼで平滑化した。その後、エビルシフェラーゼとSV40転写終結配列からなるDNA断片を精製した。この断片を制限酵素SspIで切断したp19sLoと、T4 DNAリガーゼにより連結して自己複製ベクターp19sLo−NLを構築した。このp19sLo−NLに、CpGのシトシンをメチル化したCOX2遺伝子プロモーター(配列番号10、表10)を組み込んだ。
【0226】
ヒトのゲノムを鋳型に、PCRによってCOX2遺伝子プロモーターを増幅した。PCRに用いたプライマー配列を以下に示した。
【0227】
フォワードプライマー;5’-GGGGCTAGCCTTAACCTTACTCGCCCCAGTCT-3’(配列番号36)
リバースプライマー;5’-AGGCTCGAGCGCGGGGGTAGGCTTTGCTGTCTGAG-3’(配列番号30)。
【0228】
PCR増幅産物(COX2遺伝子プロモーター)を精製した。その後、増幅産物と反応バッファーからなる反応溶液(50mM NaCl,10mM Tris−HCl、10mM MgCl
2、1mM DTT、160μM S−アデノシルメチオニン)を調整した。そこに、DNAメチル化酵素:SssI CpG Methyltransferase(New England Biolabs)を加えて37℃で一晩反応させた。それによりCOX2遺伝子プロモーターのCG配列のシトシンをメチル化した。このメチル化したDNA断片(メチル化COX2遺伝子プロモーター)を、制限酵素KpnIとXhoIで処理した自己複製ベクターp19sLo−NLにT4 DNAリガーゼによって連結した。これによって、2種類のレポーター遺伝子発現ユニット(メチル化COX2遺伝子プロモーターを含むレポーター遺伝子発現ユニットと、非メチル化CK19遺伝子プロモーターを含むレポーター遺伝子発現ユニットとを含む)と、複製開始配列とを含む自己複製ベクターp19sLo−mC2sNLを構築した(
図38)。
【0229】
(2)トランスフェクション
100μLのOpti−MEM(Life Technologies)に0.5μgのレポーターベクターを単独、或いは0.4μgのp19sLo−mC2sNLと0.1μgの複製開始蛋白質発現ベクターpCMV−LTとを共に加えた。その後、0.5μLのエンハンサー試薬(Plus reagent, Life Technologies)を加えて室温で5分間インキュベートした。この溶液に、1.25μLのLipofectamine LTXを加えてよく縣濁した。その後、室温で25分間インキュベートした。溶液を24ウェルプレートに移した。そこにHuh−7細胞の縣濁液200μLを加えて穏やかに混合した。これによりベクターを細胞に導入した(
図39)。
【0230】
例10 レポーター遺伝子発現ユニット、及び複製開始遺伝子発現ユニット、及び複製開始配列を有する自己複製ベクター
(1)ベクターの作製
自己複製ベクターを構築した。このレポーターベクターの構成を
図40に示す。レポーターベクター91は、レポーター遺伝子発現ユニット2と、複製開始蛋白質ユニット92と、複製開始配列3とを1つの核酸鎖に含む。レポーター遺伝子発現ユニット2は、転写制御配列4と、その下流に機能的に連結されたレポーター蛋白質をコードするレポーター遺伝子5と、その下流に機能的に連結された転写終結シグナル配列6とを含む。複製開始蛋白質ユニット92は、構成的に発現するプロモーター94と、その下流に機能的に連結された複製開始蛋白質遺伝子95と、その下流に機能的に連結された転写終結シグナル配列96とを含む。複製開始配列3は、複製開始蛋白質ユニット92の転写終結シグナル配列96の下流に連結されている。このレポーターベクターは、次のように製造した。pCMV−LT(例6(2))から複製開始蛋白質遺伝子発現ユニットを制限酵素BglIとBamHIとで切断した。そのDNA末端をT4 DNAポリメラーゼで平滑化した。その後、複製開始蛋白質遺伝子発現ユニットのDNA断片を精製した。このDNA断片を、制限酵素SspIで切断したpC2sLo(例7(1))に連結して自己複製ベクターpC2sLo−CMVLTを構築した。
【0231】
(2)トランスフェクション
100μLのOpti−MEM(Life Technologies)に0.5μgのpC2sLo−CMVLTを加えた。その後、0.5μLのエンハンサー試薬(Plus reagent, Life Technologies)を加えて、室温で5分間インキュベートした。この溶液に、1.25μLのLipofectamine LTXを加えてよく縣濁した。その後、室温で25分間インキュベートした。溶液を24ウェルプレートに移した。そこにHuh−7細胞の縣濁液200μLを加えて穏やかに混合した。その後、37℃、5%CO
2雰囲気のインキュベータ内で細胞を培養した。
【0232】
(3)細胞からのゲノムDNAおよびレポーターベクターの調整
ゲノムDNAおよびレポーターベクターの調整は、上記例10の(1)と同様の方法でおこなった。
【0233】
(4)レポーターベクターのメチル化率の検出
レポーターベクターのメチル化率は、自己複製ベクターpC2sLo−CMVLTをHuh−7に導入し、その72時間後に抽出したDNA溶液を用いて、上記例7(7)と同様の方法で調べた。上記(3)で調整した溶液を、制限酵素HpaII、或いはMspIで切断した。その後、それをQIAquick PCR purification kit (Qiagen)で精製した。これらのDNAと制限酵素未処理DNAを鋳型として、上記6(7)と同じプライマーでPCRを行った。pC2sL−CMVLTのCOX2遺伝子プロモーター領域(−540〜+115bp、配列番号10)のCCGG配列を含む領域を増幅した(
図29)。PCR反応液のアガロースゲル(含エチジウムプロマイド)電気泳動の結果を
図41(a)に示す。
図41(a)の結果から、AおよびBのレーンHにおいてPCR増幅産物が検出された。CCGG配列のメチル化の割合は、Aが9%であり、Bが0.5%であった(
図41(b))。自己複製ベクターpC2sLo−CMVLTのCOX2遺伝子プロモーター領域では、ゲノムDNAのCOX2遺伝子プロモーター領域(例7(6)、
図30)と同様に、Aのメチル化率が高かった。
【0234】
これらの実施形態または実施例によれば、より高い精度で細胞の特性を判定する方法および装置を提供することができる。
【0235】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
(1)特定の条件下で活性化されて検出可能な信号を生ずる自己複製可能なレポーターベクターを被検細胞に導入することと、
(2)前記被検細胞を培養し、前記レポーターベクターを自己複製させることと、
(3)細胞毎に前記被検細胞から生じた当該検出可能な信号を検出することと、
(4)当該信号が得られた前記被検細胞の形態を観察することと、
(5)前記(3)において得られた結果と、前記(4)において得られた結果とに基づいて当該被検細胞の特性を判定することと、
を含む細胞特性を判定する方法。
[2]
(1)レポーターベクターを被検細胞に導入することと:
ここで、前記レポーターベクターは、
(A)(A−a)特定の条件下でプロモーター活性を示す転写制御配列と、
(A−b)前記転写制御配列の下流に機能的に連結され、前記転写制御配列の活性化により発現し、検出可能な信号を生ずるレポーター蛋白質をコードするレポーター遺伝子と、
(A−c)前記レポーター遺伝子の下流に機能的に連結された転写終結シグナル配列と、
を含むレポーター遺伝子発現ユニット、および
(B)前記レポーター遺伝子発現ユニットと同一核酸上に配置され、複製開始蛋白質の結合によって当該レポーターベクターの自己複製を開始する複製開始配列を含む複製開始ユニット、
を含み:
(2)当該複製開始蛋白質が発現されている条件下で、前記被検細胞を培養することと:
(3)前記被検細胞において発現された前記レポーター蛋白質を細胞毎に検出することと:
(4)前記(3)において当該レポーター蛋白質が検出された当該細胞の形態を観察することと:
(5)前記(3)において得られた結果と、前記(4)において観察された結果とに基づいて前記被検細胞の特性を判定することと:
を含む細胞特性を判定する方法。
[3]
前記レポーターベクターは、更に、
(C)当該複製開始蛋白質ユニット
を含み、当該複製開始蛋白質ユニットは、
(C−a)前記レポーター遺伝子の下流に機能的に連結されたIRES配列と、
(C−b)前記IRES配列の下流に機能的に連結された複製開始蛋白質をコードする複製開始蛋白質遺伝子と
を含み、
前記転写終結シグナル配列が、前記複製開始蛋白質遺伝子の下流に機能的に連結されていることを特徴とする[2]に記載の方法。
[4]
前記レポーターベクターが、更に、
(D)前記レポーター遺伝子発現ユニットが配置された核酸鎖と同じ核酸鎖上に複製開始蛋白質ユニット
を含み、前記複製開始蛋白質ユニットは、
(D−a)構成的に発現する構成的プロモーターと:
(D−b)前記構成的プロモーターの下流に機能的に連結された前記複製開始蛋白質をコードする複製開始蛋白質遺伝子と:
を含むことを特徴とする[2]に記載の方法。
[5]
前記レポーターベクターは、前記被検細胞のゲノム上の特定の配列における修飾の状態を、前記被検細胞の核内での自己複製中に官能基の置換によって対応するその配列上に写し取り、当該写し取られた官能基の存在状況に依存して、特定の条件下で活性化されるプロモーター活性によって検出可能な信号を生ずることを特徴とする[1]〜[4]の何れか1つに記載の方法。
[6]
前記レポーターベクターの当該転写制御配列は、官能基が置換され得る塩基を含む、前記被検細胞のゲノム上の特定の配列に対して同一性を有する標的核酸配列を含み、当該官能基の置換の程度に依存して活性化されるプロモーター活性を有することを特徴とする[2]〜[4]の何れか1つに記載の方法。
[7]
前記官能基がメチル基またはアセチル基であることを特徴とする[5]または[6]に記載の方法。
[8]
前記細胞の形態を観察することが、前記被検細胞の面積、前記被検細胞の面積に対する核の面積の比率、前記被検細胞の長径に対する短径の比率、前記被検細胞における核の数または前記被検細胞の辺縁部のコントラスト比を得ることを含むことを特徴とする[1]〜[7]の何れか1つに記載の方法。
[9]
1)前記複製開始蛋白質遺伝子が、シミアン・ウイルス40のラージT抗原遺伝子であり、前記複製開始配列が、シミアン・ウイルス40からの複製開始配列である:
2)前記複製開始蛋白質遺伝子が、エプスタイン・バー・ウイルスのEBNA−1遺伝子であり、前記複製開始配列が、エプスタイン・バー・ウイルスからの複製開始配列である:または
3)前記複製開始蛋白質遺伝子が、マウス・ポリオーマ・ウイルスのラージT抗原遺伝子であり、前記複製開始配列が、マウス・ポリオーマ・ウイルスからの複製開始配列である:
ことを特徴とする[2]〜[7]の何れか1つに記載の方法。
[10]
前記ラージT抗原遺伝子が、配列番号4、配列番号5若しくは配列番号6で示される核酸、または配列番号4、配列番号5若しくは配列番号6の配列中の1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された配列により示され、且つDNA複製開始機能を有する核酸であることを特徴とする[9]に記載の方法。
[11]
前記構成的プロモーターが、サイトメガロ・ウイルスプロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、シミアン・ウイルス初期プロモーターおよびシミアン・ウイルス後期プロモーターからなる群より選択されることを特徴とする[4]〜[10]の何れか1つに記載の方法。
[12]
前記検出可能な信号の検出および前記細胞の形態を観察することが非侵襲性光学的撮像方法により行われることを特徴とする[1]〜[11]の何れか1つに記載の方法。
[13]
前記細胞の形態を観察することが、位相差顕微鏡法、微分緩衝顕微鏡法またはハイパースペクトルイメージング法により行われることを特徴とする[12]に記載の方法。
[14]
前記検出可能な信号の検出が発光強度を指標に行われ、前記細胞の形態を観察することが明視野での撮像により行われることを特徴とする[12]に記載の方法。
[15]
更に、前記被検細胞の核を染色することと、前記染色された核を観察することとを含み、前記被検細胞の特性を判定することが、更に核の観察により得られた結果に基づいて行われることを特徴とする[1]〜[14]の何れか1つに記載の方法。
[16]
前記検出可能な信号の検出が発光視野の撮像により行われ、前記細胞の形態を観察することが明視野での撮像により行われ、前記核の観察が蛍光視野の撮像により行われることを特徴とする[15]に記載の方法。
[17]
前記細胞の形態を観察することが、被検細胞に近赤外領域の波長の光を照射し、当該光の反射または吸収を指標に当該被検細胞の辺縁部の特徴に関する情報を得ることであることを特徴とする[1]〜[16]の何れか1つに記載の方法。
[18]
前記近赤外領域の波長が700nm〜750nmの波長であることを特徴とする[17]に記載の方法。
[19]
前記プロモーターが活性化される特定の条件が、前記被検細胞が癌細胞または前癌細胞であることを示唆する条件であることを特徴とする[2]〜[18]の何れか1つに記載の方法。
[20]
[1]〜[19]の何れか1つに記載の方法を含み、前記特定の条件が疾患に関連した条件であることを特徴とする疾患の検査方法。
[21]
前記疾患が、癌または前癌であることを特徴とする[20]に記載の検査方法。
[22]
(1)被検細胞のゲノム上の特定の配列における修飾の状態を、前記被検細胞の核内での自己複製中に官能基の置換によって対応するその配列上に写し取り、当該写し取られた官能基の存在状況に依存して、特定の条件下で活性化されるプロモーター活性によって発光を生ずるレポーターベクターを、被検細胞の核内に導入する遺伝子導入部と、
(2)前記遺伝子導入部で処理された前記被検細胞を培養し、前記被検細胞を分裂させることにより、前記レポーターベクターを自己複製させる培養部と、
(3)前記培養部で培養された被検細胞について明視野画像を撮像し、更に、その同じ視野について当該レポーター遺伝子の発現に由来して細胞毎に生じた発光信号を含む発光画像を撮像する撮像部と、
(4)前記明視野画像と前記発光画像とに基づいて当該被検細胞の細胞毎の細胞特性を判定する判定部と
を具備する細胞特性判定装置。