【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年6月6日から平成27年6月7日学術総合センター(国立情報学研究所)において開催された社団法人日本バイオレオロジー学会年会第38回大会で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2015年8月27日−2015年8月29日京都大学において開催された社団法人日本食品科学工学会第62回大会で発表
【文献】
李強、皆木祥伴、小野高裕他,屈曲センサを用いた喉頭運動記録法の開発,日本顎口腔機能学会雑誌,日本,2012年,2012年19巻1号,pp.56-57
【文献】
林豊彦、他,お粥の性状と嚥下動態の関係 −喉頭運動・筋電図・嚥下音の同時計測による評価 −,日本摂食・嚥下リハビリテーション学会雑誌,日本,2002年12月30日,Vol.6,No.2,pp.187-195
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらに筋電計、嚥下音センサ、及び口蓋圧力センサよりなる群から選択される少なくとも1つの計測器で、それぞれに対応する舌骨上筋電位、嚥下音、及び口蓋圧力から選択される少なくとも1つを計測する工程を有する請求項1〜5のいずれか一項に記載する方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、飲食物を嚥下する感覚を、簡便且つ迅速に、しかも被験者に過度な負荷を与えることなく測定し、客観的に評価する方法を提供することを目的とする。つまり、飲食物についてその嚥下感覚、好ましくは飲料の飲み応え感、飲食物の咽頭内でのまとまり感(まとまりにくさ/まとまりやすさ)を評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討をしていたところ、非特許文献2に記載されている屈曲センサを用いた嚥下時の喉頭運動解析結果と、飲食物の嚥下感覚、特に飲料の飲み応え感、及び飲食物の咽頭内でのまとまり感(まとまりにくさ/まとまりやすさ)との間に相関関係(正の相関または負の相関)があることを見出し、嚥下時の喉頭運動を屈曲センサを用いて解析することで、飲食物の嚥下感覚、特に飲料の飲み応え感、及び飲食物の咽頭内でのまとまり感(まとまりにくさ/まとまりやすさ)を客観的に評価できることを確認した。
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施態様を有する。
【0009】
飲食物の嚥下感覚を評価する方法
(1)下記(A)〜(C)工程を有する、飲食物の嚥下感覚を評価する方法:
(A)被験者の喉頭部に相当する皮膚表面に、屈曲率を電気信号(電圧値)に変換する屈曲センサを当接して固定する工程、
(B)当該被験者が飲食物を飲み込む際(嚥下時)に生じる上記屈曲センサの電気信号を測定し、上記屈曲センサの屈曲変化を表す電圧値と時間によって表される二次元シグナルとして記録する工程、
(C)(B)工程で得られた二次元シグナルの波形またはその波形から求められるパラメータを指標として、飲食物の嚥下感覚を評価する工程。
【0010】
(2)上記(C)工程において、飲食物の嚥下感覚を評価する指標とするパラメータが、1回の嚥下によって得られる、横軸を時間、縦軸を電圧値とする二次元シグナルの波形から、下記方法でそれぞれ算出される(i)嚥下時間、(ii)喉頭の挙上時間、(iii)喉頭の下降時間、及び(iv)喉頭運動量からなる群から選択される少なくとも1つである、(1)記載の方法:
(i)嚥下時間:
図1中、T2からT6までの時間(T2−6)
(ii)喉頭の挙上時間:
図1中、T2からT4までの時間(T2−4)
(iii)喉頭の下降時間:
図1中、T5からT6までの時間(T5−6)
(iv)喉頭運動量:
図1中、T2を起点としてT7までのいずれかの区間またはT2からそのX秒後までの時間の範囲(Xは正数)であるいずれかの時間の範囲においてベースラインとシグナル波形ラインとで挟まれた領域の積分値。
【0011】
(3)上記(iv)喉頭運動量で規定される「T2を起点としてT7までのいずれかの区間」が、T2からT5までの区間、またはT2からT6までの区間である、(2)に記載する方法。
(4)上記(iv)喉頭運動量で規定されるXの値が1.0以上、2.0以下である、(2)に記載する方法。
【0012】
(5)前記飲食物として、基準とする飲食物(基準飲食物)、及び評価対象とする1以上の飲食物(被験飲食物)を用い、
前記(B)工程において、被験者が基準飲食物及び被験飲食物をそれぞれ飲み込む際(嚥下時)に生じる屈曲センサの電気信号(電圧値)を測定し、この電圧と時間によって表される二次元シグナル(基準二次元シグナル、被験二次元シグナル)として記録し、
前記(C)工程において、上記(B)工程で基準飲食物及び被験飲食物をそれぞれ1回嚥下することによって得られる、横軸を時間、縦軸を電圧値とする二次元シグナル(基準二次元シグナル、被験二次元シグナル)の波形から、
前記(i)嚥下時間、(ii)喉頭の挙上時間、(iii)喉頭の下降時間、及び(iv)喉頭運動量からなる群から選択される少なくとも1つを算出し、
さらに、下記(D)工程を有する、(2)〜(4)のいずれかに記載する方法:
(D)前記(C)工程において得られた被験飲食物それぞれの(i)嚥下時間、(ii)喉頭の挙上時間、(iii)喉頭の下降時間、または(iv)喉頭運動量を基準飲食物の対応する各パラメータ((i)嚥下時間、(ii)喉頭の挙上時間、(iii)喉頭の下降時間、または(iv)喉頭運動量)で除した値、すなわち基準飲食物を1とした相対値を算出する工程。
【0013】
(6)前記飲食物として、基準とする飲食物(基準飲食物)、及び評価対象とする2以上の飲食物(被験飲食物)を用い、
前記(B)工程において、被験者が基準飲食物及び被験飲食物をそれぞれ飲み込む際(嚥下時)に生じる屈曲センサの電気信号を測定し、これらの電気信号を時間と電圧によって表される二次元シグナル(基準二次元シグナル、被験二次元シグナル)として記録し、前記(C)工程において、上記(B)工程で基準飲食物及び被験飲食物をそれぞれ1回嚥下することによって得られる、横軸を時間、縦軸を電圧値とする二次元シグナル(基準二次元シグナル、被験二次元シグナル)の波形から、
前記(i)嚥下時間、(ii)喉頭の挙上時間、(iii)喉頭の下降時間、及び(iv)喉頭運動量からなる群から選択される少なくとも1つを算出し、
前記(D)工程において、上記(C)工程において得られた被験飲食物それぞれの(i)
嚥下時間、(ii)喉頭の挙上時間、(iii)喉頭の下降時間、または(iv)喉頭運動量を基準飲食物の対応する各パラメータ((i)嚥下時間、(ii)喉頭の挙上時間、(iii)喉頭の下降時間、または(iv)喉頭運動量)で除した値、すなわち基準飲食物を1とした相対値を算出し、
さらに、下記(E)及び(F)工程を有する、(2)〜(5)のいずれかに記載する方法:
(E)2以上の被験飲食物それぞれの(i)嚥下時間、(ii)喉頭の挙上時間、(iii)喉頭の下降時間、または(iv)喉頭運動量
の相対値を比較する工程、
(F)2以上の被験飲食物同士の(i)嚥下時間、(ii)喉頭の挙上時間、(iii)喉頭の下降時間、または(iv)喉頭運動量
の相対値を比較していずれか少なくとも一つの値が大きい場合、値が大きい特定の被験飲食物を、他の被験飲食物よりも嚥下感覚が大きいと決定する工程。
【0014】
(7)上記(C)工程において、飲食物の嚥下感覚を評価する指標とするパラメータが、連続嚥下によって得られる、横軸を時間、縦軸を電圧値とする二次元シグナルの波形から、下記方法でそれぞれ算出される(i’)嚥下1回あたりの時間、及び(ii’)嚥下1回あたりの喉頭運動量からなる群から選択される少なくとも1つである、(1)記載の方法:
(i’)嚥下1回当たりの時間:
嚥下前の喉頭の位置から、嚥下により喉頭が挙上し、最大上昇位置に維持し、その後、喉頭が下降し、嚥下前の喉頭の位置へ戻るまでの一連の嚥下動作に要する時間
(ii’)喉頭運動量:
「嚥下1回当たりの時間」の区間においてベースラインとシグナル波形ラインとで挟まれた領域の積分値。
【0015】
(8)前記飲食物として、基準とする飲食物(基準飲食物)、及び評価対象とする1以上の飲食物(被験飲食物)を用い、
前記(B)工程において、被験者が基準飲食物及び被験飲食物をそれぞれ飲み込む際(嚥下時)に生じる屈曲センサの電気信号(電圧値)を測定し、この電圧と時間によって表される二次元シグナル(基準二次元シグナル、被験二次元シグナル)として記録し、
前記(C)工程において、上記(B)工程で基準飲食物及び被験飲食物をそれぞれ連続嚥下することによって得られる、横軸を時間、縦軸を電圧値とする二次元シグナル(基準二次元シグナル、被験二次元シグナル)の波形から、
前記(i’)嚥下1回あたりの時間及び(ii’)嚥下1回あたりの喉頭運動量からなる群から選択される少なくとも1つを算出し、
さらに、下記(D)工程を有する、(I−5)に記載する方法:
(D)前記(C)工程において得られた被験飲食物それぞれの(i’)嚥下1回あたりの時間または(ii’)嚥下1回あたりの喉頭運動量を基準飲食物の対応する各パラメータ((i’)嚥下1回あたりの時間または(ii’)嚥下1回あたりの喉頭運動量)で除した値、すなわち基準飲食物を1とした相対値を算出する工程。
【0016】
(9)前記飲食物として、基準とする飲食物(基準飲食物)、及び評価対象とする2以上の飲食物(被験飲食物)を用い、
前記(B)工程において、被験者が基準飲食物及び被験飲食物をそれぞれ飲み込む際(嚥下時)に生じる屈曲センサの電気信号を測定し、これらの電気信号を時間と電圧によって表される二次元シグナル(基準二次元シグナル、被験二次元シグナル)として記録し、
前記(C)工程において、上記(B)工程で基準飲食物及び被験飲食物をそれぞれ連続嚥下することによって得られる、横軸を時間、縦軸を電圧値とする二次元シグナル(基準二次元シグナル、被験二次元シグナル)の波形から、
前記(i’)嚥下1回あたりの時間及び(ii’)嚥下1回あたりの喉頭運動量からなる群から選択される少なくとも1つを算出し、
前記(D)工程において、上記(C)工程において得られた被験飲食物それぞれの(i’)嚥下1回あたりの時間または(ii’)嚥下1回あたりの喉頭運動量を基準飲食物の対応する各パラメータ((i’)嚥下1回あたりの時間または(ii’)嚥下1回あたりの喉頭運動量)で除した値、すなわち基準飲食物を1とした相対値を算出し、
さらに、下記(E)及び(F)工程を有する、(7)及び(8)に記載する方法:
(E)2以上の被験飲食物それぞれの(i’)嚥下1回あたりの時間または(ii’)嚥下1回あたりの喉頭運動量
の相対値を比較する工程、
(F)2以上の被験飲食物の(i’)嚥下1回あたりの時間、及び(ii’)嚥下1回あたりの喉頭運動量
の相対値を比較して、いずれか少なくとも一つの値が大きい場合、値の大きい特定の被験飲食物を、他の被験飲食物よりも嚥下感覚が大きいと決定する工程。
【0017】
(10)上記嚥下感覚が、飲料の飲み応え若しくは飲みにくさ、または飲食物のまとまりにくさである、(1)〜(9)のいずれかに記載する方法。
【0018】
(11)さらに筋電計、嚥下音センサ、及び口蓋圧力センサよりなる群から選択される少なくとも1つの計測器で、それぞれに対応する舌骨上筋電位、嚥下音、及び口蓋圧力から選択される少なくとも1つを計測する工程を有する(1)〜(10)のいずれかに記載する方法。
(12)筋電計で舌骨上筋電位を測定する工程、及び舌骨上筋群活動量を算出する工程を有する(1)〜(11)のいずれかに記載する方法。
【0019】
(13)測定する対象の飲食品が、液状、半固形状、及び固形状の形状を有するものである、(1)〜(12)のいずれかに記載する方法。
【発明の効果】
【0020】
本方法によれば、飲食物を飲み込んだときに感じる嚥下感覚を、喉頭に当接固定した屈曲センサを用いて喉頭運動を測定して得られる解析データに基づいて、簡便且つ迅速に、しかも被験者に過度な負荷を与えることなく客観的に評価することが可能となる。特に本発明の方法によれば、飲料を飲んだ時に感じる飲み応え感、及び飲食物(例えば、嚥下患者用の飲食物)を飲み込んだ際に咽頭で感じる食物のまとまり感(まとまりやすさ/まとまりにくさ)など、飲食物の特定の嚥下感覚を客観的に評価することができる。このため、当該方法を利用することで、所望の嚥下感覚(特に飲料の飲み応え感、飲食物のまとまり感)を有する飲食物の選別や開発をより効率的に行うことができる。特に飲料の飲用感のうち、特に「飲み応え感」は、飲料の飲み心地、美味しさ、及び満足感を構成する重要なファクターの一つであるため、商品開発するうえで重要な評価項目となる。また飲食物の咽頭でのまとまり感は、飲食物の飲み込み易さを示す一つの指標として、嚥下困難患者用の飲食物を開発するうえで重要な評価項目となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(I)用語及び記号の定義
本発明は飲食物を飲み込むときの喉頭の動き(喉頭運動)をセンサ部の曲率を定量的に測定することができる屈曲センサを用いて測定し、得られる二次元(電圧(屈曲センサの屈曲変化を示す)と時間)のシグナル波形またはそれから得られるパラメータを利用して、飲食物を飲み込む(嚥下)時に感じる「嚥下感覚」を評価する方法に関する。嚥下感覚としては、飲料については飲用感(例えば飲み応え感)を、また食物については咽頭での「まとまり感」(まとまりにくさ/まとまりやすさ)を好適に挙げることができる。この方法を利用して評価することで、数多くの飲食物の中から、「飲み応え感」のある飲料、または咽頭で「まとまり感」のある食物を選別することができる。また、飲料や食物に添加して使用される可食性成分または可食性組成物についても、多くの候補物質を評価することで、飲料に「飲み応え感」を付与若しくは増強するか、または飲食物に咽頭での「まとまり感」を付与若しくは増強することのできるものを選別することができる。
【0023】
喉頭運動を屈曲センサで測定する方法及びその解析方法は、基本的には非特許文献2に記載する方法に基づく。本明細書で使用する用語及び符号も当該非特許文献2の記載に基づくものであり、その意味で当該文献の記載は、図面及び表も含めて、本件明細書の記載として援用することができる。
【0024】
嚥下時の喉頭運動は、下記の一連の動作によって行われる。
(a)嚥下前の喉頭の位置から、嚥下により喉頭が挙上し、最大上昇位置に維持する。このとき、飲食物が咽頭を通過する。
(b)その後、飲食物の通過後、喉頭は下降し、嚥下前の喉頭の位置へ戻る。
こうした嚥下1回あたりの喉頭運動を「嚥下1サイクル」といい、また当該嚥下1サイクルに要する時間を「嚥下1回あたりの時間」という。
【0025】
つまり、「嚥下1回あたりの時間」は、上記嚥下時に生じる喉頭の一連の動作(嚥下1サイクル)に要する時間である。具体的には「嚥下前の喉頭の位置から、嚥下により喉頭が挙上し、最大上昇位置に維持し(飲食物の通過)、その後、喉頭が下降し、嚥下前の喉頭の位置へ戻るまでの時間」である。なお、飲食物を1回だけ嚥下する場合(1回嚥下)、当該「嚥下1回あたりの時間」は、二次元シグナル波形から得られる「嚥下時間(T2−6)」(後述)として表される。
【0026】
一方、飲食物を連続して嚥下する場合(連続嚥下)は、こうした喉頭の一連の動作(嚥下1サイクル)が間隔を置かずに繰り返し行われることになる。この場合、「嚥下1回あたりの時間」の開始点及び終了点は、必ずしも「喉頭の挙上開始時」及び「喉頭の下降終了時」に拘泥されることなく、嚥下1サイクル中に、上記喉頭の一連の動きが過不足なく含まれていることを限度として、嚥下運動のどの時点にも設定することができる。限定されないものの、例えば、下記の区間を「嚥下1サイクル」として設定し、その区間の時間を「嚥下1回あたりの時間」とすることができる。
・喉頭の挙上開始から元の位置に戻るまでの1区間(=嚥下時間(T2−6))
・喉頭の運動方向が挙上から前方移動へ移動方向が変わる時点(T3)から次の喉頭運動の同じ時点(T3)までの1区間
・喉頭の前方移動区間の中点(T3とT4の中点)から次の喉頭運動の同じ時点(T3とT4の中点)までの1区間(後述する実施例3はこれを採用している。)
・喉頭が元の位置へと下降を開始する時点(T5)から次の喉頭運動の同じ時点(T5)までの1区間。
【0027】
つまり、連続嚥下でいう「嚥下1回あたりの時間」は、嚥下で得られる屈曲点のいずれか、または屈曲点と屈曲点の中間を開始点とすることができ、この場合、次の喉頭運動における上記開始点と同じ時点を終了点として、その区間の時間を求めればよいことになる。
【0028】
屈曲センサのシグナルについて、その形状から屈曲点(T1〜T7)を定義することができる。上記嚥下時に生じる喉頭の一連の動作(1サイクルの嚥下運動)は、その変曲点から次のように隣接する2つの屈曲点で区切られる各区間によって6つの時間領域に分解することができる(
図1中、喉頭運動を示す「屈曲センサのシグナル波形」、または
図3C参照)。
T1−2:嚥下前の喉頭の小さな動き
T2−3:喉頭の挙上
T3−4:喉頭の前方移動
T4−5:喉頭の最前上方位の維持
T5−6:喉頭の下降
T6−7:喉頭部の皮膚が遅れて元の位置へ戻る動き
【0029】
参考として、ノンアルコールビール15gを1回全量嚥下した場合における喉頭運動を屈曲センサで測定して求めた二次元シグナル曲線を
図2(A)に示す(図の中の3つのシグナルラインのうち、一番下のライン)(縦軸は電圧(屈曲センサの屈曲変化を示す)、横軸は時間、双方向矢印の区間は2秒間を意味する)。なお、当該シグナル曲線は、センサ部の曲率を定量的に測定することができる屈曲センサ(例えば、MaP1783BS1−056、ニホンサンテク(株))を非特許文献2記載の装着方法に準じて粘着性の両面テープで被験者の喉頭部の皮膚上にセンサ先端部が喉頭の最大挙上位置に合うように縦方向に貼り付けて測定することで取得した解析データである。具体的には、嚥下時の喉頭の動きをセンサの曲率変化として読み取り、得られたデータを圧・屈曲アンプ(MaP1783PBAa、ニホンサンテク(株))で増幅した後、インターフェイスモジュール(UIM100C、BIOPAC Systems,Inc製)を通して接続したMP150システム(BIOPAC Systems,Inc.)を用いて1000HzでA/D変換し、パソコンに取り込み、AcqKnowledge_Ver.4.1(BIOPAC Systems,Inc.)ソフトウエアを用いて解析して取得したものである。なお、上記方法に準じる方法で測定解析すればよく、上記の具体的方法に拘泥するものではない。
【0030】
シグナル曲線において各屈曲点(T1〜T7)の設定方法は、非特許文献2に記載の通りであり、その記載に基づいて行うことができる。非特許文献2のFigure 2(
図3C参照)を利用しながら、簡単に説明すると下記の通りである。
【0031】
各屈曲点の決定には屈曲センサから得られる二次元シグナル(Original waveform)を加工した波形が必要である。具体的には、屈曲点T1、T3、T4、T5及びT7を決定するには、一次微分波形(Velocity of waveform change)を作成する。当該一次微分波形は、二次元シグナルを微分して得られる波形である(横軸:時間、縦軸:速度(方向と速さ))。この一次微分波形を用いて、屈曲点T1は「一次微分波形がベースラインから離れた時点」として定義され、また屈曲点T7は「一次微分波形がベースラインへ戻る時点」として定義される。また、屈曲点T3、T4、T5はいずれも「一次微分波形がベースラインと交差する時点(=速度が0になった時点)」として定義される。
【0032】
また、屈曲点T2及びT6を決定するには、まず二次微分波形(Smoothed acceleration of waveform change)を作成する。この二次微分波形は、二次元シグナルを微分し、それで得られた波形をさらに微分して求められる波形である(横軸:時間、縦軸:加速度)。この二次微分波形を用いて、屈曲点T2は「二次微分波形がベースライン(=縦軸が0のライン)から離れた時点」、屈曲点T6は「二次微分波形がベースラインへ戻る時点」として定義される。
【0033】
本発明では、
図1に示すように、1回の嚥下によって得られるこれら各区間の喉頭の動きに基づいて、喉頭の挙上開始(T2)から下降終了(T6)までの区間の時間(T2からT6までの時間:T2−6)を「嚥下時間」、喉頭の挙上開始(T2)から挙上終了(T4)までの区間の時間(T2からT4までの時間:T2−4)を「喉頭の挙上時間」、喉頭の下降開始(T5)から下降終了(T6)までの区間の時間(T5からT6までの時間:T5−6)を「喉頭の下降時間」という。これらの生体計測パラメータ(以下、単に「パラメータ」という)を、下記「喉頭運動量」(「喉頭運動量T2−6」、「喉頭運動量T2−5」、及び「喉頭運動量T2−Xsec」)とともに、1回の嚥下による嚥下感覚を評価する指標として使用する。また「舌骨上筋群活動量」は上記指標に加えて、1回の嚥下による嚥下感覚を評価するための補助的な指標として使用することができる。
【0034】
「喉頭運動量」は嚥下時における屈曲センサから得られる二次元シグナル波形とベースラインで挟まれた領域の積分値から求めることができる。すなわち、「喉頭運動量T2−6」は、嚥下時間(T2−6)における喉頭の運動量を意味し、屈曲点T2とT6の区間においてシグナル波形ラインとベースラインで挟まれた領域の積分値から求めることができる(
図1参照。以下も同様)。また「喉頭運動量T2−5」は、喉頭の挙上開始(T2)から下降開始(T5)までの喉頭の運動量を意味し、屈曲点T2とT5の区間においてシグナル波形ラインとベースラインで挟まれた領域の積分値から求めることができる。さらに「喉頭運動量T2−Xsec」は、喉頭の挙上開始(T2)からX秒間までの喉頭の運動量を意味し、屈曲点T2からX秒間の区間においてシグナル波形ラインとベースラインで挟まれた領域の積分値から求めることができる。なお、Xとしては、被験飲食物嚥下時における喉頭の挙上開始時点(T2)から下降開始時点(T5)までの時間より長い時間であり、挙上開始時点(T2)から喉頭が元の位置に戻る時点(T7)までの時間より短い時間を選択することが好ましく、被験飲食物嚥下時における挙上開始時点(T2)から喉頭の下降終了時点(T6)までの平均的な時間を選択することが更に好ましい。具体的にはXとしては0.4秒以上、4.0秒以下を選択することが望ましく、1.0秒以上、3.0秒以下を選択することが更に好ましい。
【0035】
なお、「喉頭運動量T2−Xsec」を算出する方法として、例えば各被験者ごとに求めた基準飲食物の解析区間の時間(Xsec)を基準とし、Xsecをこれに合わせて被験飲食物の「喉頭運動量T2−Xsec」を算出する方法を採用することもできる。ここで基準飲食物として水を、また解析区間としてT2−7、T2−6またはT2−5を好適に例示することができる。具体的には、例えば被験者Aの水のT2−6が1.2秒間であった場合、被験者Aについては被験飲食物のすべてについてT2から1.2秒間(=Xsec)の区間について「喉頭運動量T2−Xsec」を算出し、また被験者Bの水のT2−6が1.4秒間であった場合、被験者Bについては被験飲食物のすべてについてT2から1.4秒間(=Xsec)の区間について「喉頭運動量T2−Xsec」を算出するという方法である。
【0036】
「舌骨上筋群活動量」は、嚥下時(1回の嚥下区間)における舌骨上筋群の筋肉の動き(活動量)を意味し、顎下部(舌骨上筋群上の皮膚表面)に貼り付けた一対の双極電極により測定される電極間の電位差シグナルの嚥下区間における積分値(
図2(A)の舌骨上筋群シグナルの面積値)から求めることができる。当該「舌骨上筋群活動量」は嚥下による嚥下感覚を評価する補助的な指標として使用することができる。
【0037】
また本発明では、
図2(B)に示すように、連続嚥下によって得られる喉頭の動き(嚥下1サイクルの連続運動)に基づいて、前述するように「嚥下1回当たりの時間」(嚥下前の喉頭の位置から、嚥下により喉頭が挙上し、最大上昇位置に維持し、その後、喉頭が下降し、嚥下前の喉頭の位置へ戻るまでの一連の嚥下動作に要する時間)、及び「嚥下1回当たりの時間」の区間においてベースラインとシグナル波形ラインとで挟まれた領域の積分値から算出される「喉頭運動量」(以下、1回の嚥下による嚥下感覚を評価する指標としての「喉頭運動量」(「喉頭運動量T2−6」、「喉頭運動量T2−5」、「喉頭運動量T2−Xsec」)と区別するために、「喉頭運動量(連続)」とも称する)は、連続嚥下による嚥下感覚を評価する指標として使用することができる。また「嚥下1回当たりの時間」の区間における舌骨上筋群の電位差シグナルの積分値から算出される「舌骨上筋群活動量(連続)」は、連続嚥下による嚥下感覚を評価する補助的な指標として使用することができる。
なお、特に言及がない限り、本発明において「喉頭運動量」という用語には、上記の「喉頭運動量T2−6」、「喉頭運動量T2−5」、「喉頭運動量T2−Xsec」、及び「喉頭運動量(連続)」が含まれる。
【0038】
(II)飲食物の嚥下感覚を評価する方法
本発明の方法は、下記(A)〜(C)工程を有することを特徴とする:
(A)被験者の喉頭部に相当する皮膚表面に、屈曲率を電気信号(電圧値)に変換する屈曲センサを当接して固定する工程、
(B)当該被験者が飲食物を飲み込む際(嚥下時)に生じる上記屈曲センサの電気信号を測定し、上記屈曲センサの屈曲変化を表す電圧値と時間によって表される二次元シグナルとして記録する工程、
(C)(B)工程で得られた二次元シグナルの波形またはその波形から求められるパラメータを指標として、飲食物の嚥下感覚を評価する工程。
【0039】
本発明の方法で被験試料となる飲食物としては、嚥下感覚を評価する対象となる飲食物であれば特に制限されず、評価する嚥下感覚に対応して液状(乳液状、及び懸濁状を含む)、半固形状、及び固形状の形状を有する飲食物のなかから任意に選択することができる。例えば、嚥下感覚として「飲み応え感」を評価する場合、対象とする飲食物は好ましくは飲料である。この場合、飲料は飲用して摂取するものであればよく、溶液状、乳液状、及び懸濁状のいずれもが含まれる。また内容物に固形分(例えば、果実などの植物成分やゲル状物)が含まれていてもよい。
【0040】
飲料としては、水;清涼飲料水;乳酸菌飲料や牛乳などの乳製品飲料;アルコール分を1%以上含むアルコール飲料などの飲料組成物を挙げることができる。
【0041】
ここで水は水道水、天然水、イオン交換水、アルカリイオン水(イオン分解水)、水素水及び蒸留水等の別を問わない。
また清涼飲料水としては、炭酸飲料(炭酸水、ソーダー水、コーラ、ラムネ、果汁入り炭酸飲料、果実着色炭酸飲料、乳類入り炭酸飲料、栄養ドリンク炭酸飲料など)、果実飲料(天然果汁、果汁飲料、果肉飲料、果汁入り混合飲料、果汁入り炭酸飲料、果汁系ニアウォーター、エード等)、コーヒー飲料、茶系飲料(ウーロン茶飲料、紅茶飲料、緑茶飲料、麦茶飲料、ブレンド茶飲料)、ミネラルウォーター、スポーツ飲料(スポーツドリンク)、ノンアルコール飲料(ノンアルコールビール、ノンアルコールワイン[スパークリングワインを含む]、ノンアルコールカクテル、ノンアルコール酎ハイ、ノンアルコール梅酒など)、豆乳類、野菜飲料、乳性飲料などを挙げることができる。
アルコール飲料としては、ビール、発泡酒、第三のビール、ワイン(スパークリングワインを含む)、梅酒、カクテル、酎ハイ、日本酒、マッコリ、リキュールなどを制限なく挙げることができる。
【0042】
また、嚥下感覚として咽頭での「まとまり感」を評価する場合、対象とする飲食物は好ましくは半固形状、及び固形状の形状を有する飲食物である。咽頭での「まとまり感」は、飲食物の飲み込み易さの一つの指標として、例えば嚥下困難者用の飲食物を評価、選別するうえで重要な指標とすることができる。従って当該対象となる飲食物としては、好ましくは嚥下困難者用の飲食物及びその候補飲食物である。
【0043】
嚥下の方法としては、制限されないが、通常5〜20ml容量、好ましくは10〜17ml、より好ましくは13〜16ml容量の飲食物(被験試料)を一回で嚥下するか(1回嚥下)、または通常20〜200ml容量、好ましくは30〜150ml容量の飲食物を連続して摂取して嚥下する方法(連続嚥下)する方法を挙げることができる。
【0044】
対象とする被験者としては、健常有歯顎者を挙げることができる。ここで健常有歯顎者とは、歯の治療歴はあるものの“親知らず”と呼ばれる第三大臼歯以外に欠損がなく、顎口腔機能に異常が認められない者であり、しかも嚥下機能に異常(嚥下障害)が認められない者である。なお、嚥下障害とは、疾病や老化などの原因により飲食物の咀嚼や飲み込みが困難になる障害をいう。通常、飲食物の咀嚼や飲み込みが困難であると客観的に判断される場合、及びそういった自覚症状がある場合を除いて、通常、嚥下障害がないと判断される。
【0045】
以下に上記(A)〜(C)の工程について説明する。
【0046】
(A)工程:被験者の喉頭部に相当する皮膚表面に、屈曲率を電気信号(電圧値)に変換する屈曲センサを当接して固定する工程
屈曲センサの外観を
図3Aに示す。通常、長さ40〜70mm程度、横幅7mm程度のセンサ部分を有する。屈曲センサは、当該センサ部分が喉の輪状軟骨部位に相当する喉頭隆起部に当接するように、被験者の喉の縦中央部(喉頭部の皮膚上)に縦方向に固定する。固定部位は、
図4のA及びD(Position A)あるいはB及びE(Position B)であることが望ましい。中でも、
図4のA及びD(Position A)、及び
図5(A)に示すように、センサ部分が喉の輪状軟骨部位に相当する喉頭隆起部に当接し、且つ屈曲センサの先端部が喉頭の最大挙上位置に合う(付く)ように設定されることが更に望ましい。この固定部位が最適であることは、非特許文献2にも示されており、かかる位置に固定することで、飲食物を嚥下する際の喉頭の動き(大きさ及び速度)に対応して屈曲センサが屈曲し、喉頭の動きを後述する二次元シグナル波形として、シンプルに、再現性よく、且つ明確に表現することができる。
【0047】
被験者の皮膚に対する屈曲センサの固定方法は、測定時間中、屈曲センサが動いたり、脱落することがない方法であれば、特に制限されず、例えば粘着性の両面テープなどを利用して脱着可能なように固定する方法を挙げることができる。
【0048】
(B)工程:被験者が飲食物を飲み込む際(嚥下時)に生じる屈曲センサの電気信号を測定し、上記屈曲センサの屈曲変化を表す電圧値と時間によって表される二次元シグナルとして記録する工程
当該(B)工程において、
図5(B)に示すように、被験者の姿勢は座位とし、頭が動かないように頭部を固定し、フランクフルト平面を水平に維持させることが好ましい。
【0049】
(B)工程は、(A)工程により屈曲センサを装着させた被験者に、評価対象とする飲食物を嚥下させ、それに伴う喉頭の動き(喉頭運動)を屈曲センサの電気信号として検出し、屈曲センサの屈曲変化を表す電圧値と時間によって表される二次元シグナル波形として記録する工程である。当該工程は、制限はされないものの、具体的には、前述するように、嚥下時の喉頭の動きをセンサの曲率変化として読み取り、得られたデータは圧・屈曲アンプで増幅した後、インターフェイスモジュールを通して接続したシステムを用いて1000HzでA/D変換し、PCに取り込み、波形解析ソフトウエアまたは数値解析ソフトウエアを用いて解析することにより実施することができる。
【0050】
(C)工程:(B)工程で得られた二次元シグナルの波形またはその波形から求められるパラメータを指標として、飲食物の嚥下感覚を評価する工程
当該(C)工程は、(B)工程で得られた二次元シグナル波形をもとに、飲食物の嚥下感覚を評価する工程である。
【0051】
当該評価には、二次元シグナル波形をそのまま利用することもできるが、好ましくは当該二次元シグナル波形をもとにして求められる各種のパラメータを使用することが好ましい。かかるパラメータ及びその取得方法は、上記「(I)用語及び記号の定義」の欄で説明した通りである。
【0052】
例えば、嚥下感覚を「1回の嚥下」によって評価する場合(または1回嚥下の嚥下感覚を評価する場合)は、(i)嚥下時間、(ii)喉頭の挙上時間、(iii)喉頭の下降時間、及び(iv)喉頭運動量(「喉頭運動量T2−6」、「喉頭運動量T2−5」、及び「喉頭運動量T2−Xsec」が含まれる)を挙げることができる。これらのパラメータはいずれか少なくとも1つを選択して使用することができる。好ましくは(i)嚥下時間、及び(iv)喉頭運動量である。喉頭運動量としては「喉頭運動量T2−6」、「喉頭運動量T2−5」、及び「喉頭運動量T2−Xsec」のいずれもが選択できるが、「喉頭運動量T2−6」がより好ましい。
【0053】
二次元シグナル波形とこれらのパラメータとの関係を
図1に示す。具体的には「(I)用語及び記号の定義」で説明するように、
図1において、T2からT6までの時間(T2−6)が「(i)嚥下時間」、T2からT4までの時間(T2−4)が「(ii)喉頭の挙上時間」、T5からT6までの時間(T5−6)が「(iii)喉頭の下降時間」、T2とT6の区間においてベースラインとシグナル波形ラインとで挟まれた領域の積分値が「(iv)喉頭運動量」のうち「喉頭運動量T2−6」、T2とT5の区間においてベースラインとシグナル波形ラインとで挟まれた領域の積分値が「(iv)喉頭運動量」のうち「喉頭運動量T2−5」、T2とそれからX秒後の区間においてベースラインとシグナル波形ラインとで挟まれた領域の積分値が「(iv)喉頭運動量」のうち「喉頭運動量T2−Xsec」に該当する。
【0054】
また嚥下感覚を「連続嚥下」によって評価する場合(または連続嚥下の嚥下感覚を評価する場合)は、パラメータとして(i’)嚥下1回あたりの時間、及び(ii’)嚥下1回あたりの喉頭運動量(喉頭運動量(連続))を挙げることができる。これらのパラメータはいずれか少なくとも1つを選択して使用することができる。具体的には「(I)用語及び記号の定義」で説明するように、「嚥下前の喉頭の位置から、嚥下により喉頭が挙上し、最大上昇位置に維持し、その後、喉頭が下降し、嚥下前の喉頭の位置へ戻るまでの一連の嚥下動作に要する時間」が「(i’)嚥下1回あたりの時間」に該当する。
図2(B)は、二次元シグナル波形とこれらのパラメータとの関係を示す一例であるが、ここでは「(i’)嚥下1回あたりの時間」を、喉頭の前方移動区間の中点(
図1に示すT3とT4の中点)から次の喉頭運動の同じ時点(T3とT4の中点)までの1区間の時間として規定している。また
図2(B)で示すように、当該「嚥下1回当たりの時間」の区間においてベースラインとシグナル波形ラインとで挟まれた領域の積分値が「(ii’)喉頭運動量(連続)」に該当する。
【0055】
(D)工程:基準飲食物による標準化工程
本発明を用いて得られる各パラメータについて、被験者間の差異を最小化するためには、飲食物として当該目的の飲食物(被験飲食物)と基準とする飲食物(基準飲食物)を用いて、それぞれの飲食物(被験飲食物と基準飲食物)について、上記(A)工程及び(B)工程を実施し、基準飲食物及び被験飲食物についてそれぞれ二次元シグナル波形または各種のパラメータを求め、次いで被験飲食物について得られた二次元シグナル波形または各種のパラメータを、基準飲食物について得られた二次元シグナル波形または上記に対応するパラメータで除した値を算出することが好ましい。なお、基準飲食物は被験飲食物と兼ねることができる。
【0056】
ここで用いられる基準飲食物は、被験飲食物と同様に特に制限されず、任意に設定することができるが、被験者間で個人差や個体差が発生しにくいものが好ましい。例えば、水が好ましい。
【0057】
(E)及び(F)工程:比較及び決定工程
本発明を用いて、目的とする飲食物(被験試料)について、その嚥下感覚をより客観的且つ正確に評価するためには、飲食物として当該目的の飲食物(被験飲食物)と基準とする飲食物(基準飲食物)を用いて、それぞれの飲食物(被験飲食物と基準飲食物)について、上記(A)工程、(B)工程および(C)工程を実施し、基準飲食物及び被験飲食物についてそれぞれ二次元シグナル波形または各種のパラメータを求め、次いで被験飲食物について得られた二次元シグナル波形または各種のパラメータを、基準飲食物について得られた二次元シグナル波形または上記に対応するパラメータで除して得られた被験飲食物の評価値同士を比較することが好ましい。なお、被験飲食物は2以上の被験飲食物を対象とすることができる。
【0058】
ここで比較される被験飲食物は特に制限されず、任意に設定することができるが、比較する被験飲食物同士の間で個人差や個体差が発生しにくいものが好ましい。例えば、個人差や個体差が発生しないように、被験飲食物は同種の飲料を用いることが好ましい。例えば、被験飲食物がアルコール飲料の場合は、評価対象とする被験飲食物はすべて同種のアルコール飲料とすることが好ましく、同様に被験飲食物が清涼飲料水である場合は、評価対象とする被験飲食物はすべて同種の清涼飲料水とすることが好ましい。
【0059】
飲食物として基準飲食物及び2以上の被験飲食物を用いる場合、(A)工程で屈曲センサを装着させた同一被験者に対して基準飲食物及び被験飲食物のそれぞれを嚥下させ、(B)工程において、被験者が基準飲食物及び被験飲食物をそれぞれ飲み込む際(嚥下時)に生じる屈曲センサの電気信号を測定し、これらの電気信号を時間と電圧によって表される二次元シグナル(基準二次元シグナル、被験二次元シグナル)として記録する。次いで、(C)工程において、上記(B)工程で基準飲食物及び被験飲食物をそれぞれ1回嚥下することによって得られる、横軸を時間、縦軸を電圧値とする二次元シグナル(基準二次元シグナル、被験二次元シグナル)の波形から、(i)嚥下時間、(ii)喉頭の挙上時間、(iii)喉頭の下降時間、及び(iv)喉頭運動量からなる群から選択される少なくとも1つを算出し、次いで(D)工程において、被験飲食物について得られた各種のパラメータを、基準飲食物について得られた上記に対応するパラメータで除した値、すなわち基準飲食物を1とした相対値を算出する。
【0060】
次いで、下記(E)の比較工程、及び(F)の決定工程を実施する。
(E)工程:2以上の被験飲食物それぞれの(i)嚥下時間、(ii)喉頭の挙上時間、(iii)喉頭の下降時間、または(iv)喉頭運動量
の相対値を比較する。
(F)工程:2以上の被験飲食物同士の(i)嚥下時間、(ii)喉頭の挙上時間、(iii)喉頭の下降時間、または(iv)喉頭運動量
の相対値を比較していずれかの少なくとも一つの値が大きい場合、値が大きい特定の被験飲食物を、他の被験飲食物よりも嚥下感覚が大きいと決定する。
【0061】
当該方法を用いて、1回の嚥下によって嚥下感覚として例えば「飲み応え感」を評価する場合、実施例1に示すように、当該飲み応え感は各種パラメータと正の相関関係があるため、(F)工程で2以上の被験飲食物同士の(i)嚥下時間、(ii)喉頭の挙上時間、(iii)喉頭の下降時間、または(iv)喉頭運動量を比較して、いずれかの少なくとも一つの値が大きい場合、値の大きい特定の被験飲食物は、他の被験飲食物よりも「飲み応え感」が大きいと決定することができる。
【0062】
一方、当該方法を用いて、1回の嚥下によって嚥下感覚として例えば咽頭での「まとまり感」を評価する場合、実施例2に示すように、当該まとまり感のうち、「まとまりやすさ」は各種パラメータ、特に嚥下時間及び喉頭運動量と負の相関関係があり、逆に「まとまりにくさ」は各種パラメータ、特に嚥下時間及び喉頭運動量と正の相関関係があるため、(F)工程で2以上の被験飲食物同士の(i)嚥下時間、(ii)喉頭の挙上時間、(iii)喉頭下降時間、または(iv)喉頭運動量を比較して、いずれかの少なくとも一つの値が大きい場合、値の大きい特定の被験飲食物は、他の被験飲食物よりも「まとまりにくさ」が大きい(逆にいえば「まとまりやすさ」が小さい)と決定することができる。
【0063】
上記方法は、1回嚥下による嚥下感覚の評価方法であるが、連続嚥下による嚥下感覚の評価方法は、上記(C)〜(F)工程に替えて、下記の(C)〜(F)工程を実施することで行うことができる。
【0064】
(C)工程において、(B)工程で基準飲食物及び被験飲食物をそれぞれ連続嚥下することによって得られる、横軸を時間、縦軸を電圧値とする二次元シグナル(基準二次元シグナル、被験二次元シグナル)の波形から、下記方法で(i’)嚥下1回あたりの時間、及び(ii’)嚥下1回あたりの喉頭運動量からなる群から選択される少なくとも1つを算出し、次いで(D)工程において、被験飲食物について得られた各種のパラメータを、基準飲食物について得られた上記に対応するパラメータで除した値、すなわち基準飲食物を1とした相対値を算出する。
【0065】
次いで、下記(E)の比較工程、及び(F)の決定工程を実施する。
(E)工程:2以上の被験飲食物それぞれの(i’)嚥下1回あたりの時間、または(ii’) 嚥下1回あたりの喉頭運動量
の相対値を比較する、
(F)工程:2以上の被験飲食物同士の、(i’)嚥下1回あたりの時間、または(ii’) 嚥下1回あたりの喉頭運動量
の相対値を比較して、いずれかの少なくとも一つの値が大きい場合、値の大きい特定の被験飲食物を、他の被験飲食物よりも嚥下感覚が大きいと決定する。
【0066】
当該方法を用いて、連続嚥下によって嚥下感覚として例えば「飲み応え感」を評価する場合、実施例3に示すように、当該飲み応え感は各種パラメータ、特に嚥下1回あたりの喉頭運動量、嚥下1回あたりの時間と正の相関関係があるため、(F)工程で2以上の被験飲食物同士の(i’)嚥下1回あたりの時間、または(ii’) 嚥下1回あたりの喉頭運動量を比較して、いずれか少なくとも一つの値が大きい場合、値の大きい特定の被験飲食物は、他の被験飲食物よりも「飲み応え感」が大きいと決定することができる。
【0067】
一方、当該方法を用いて、連続嚥下によって嚥下感覚として例えば咽頭での「まとまり感」を評価する場合、実施例2に示すように、当該まとまり感のうち、「まとまりやすさ」は各種パラメータ、特に嚥下1回あたりの喉頭運動量、嚥下1回あたりの時間と負の相関関係があり、逆に「まとまりにくさ」は各種パラメータ、特に嚥下1回あたりの喉頭運動量、嚥下1回あたりの時間と正の相関関係があるため、(F)工程で2以上の被験飲食物同士の(i’)嚥下1回あたりの時間、または(ii’)嚥下1回あたりの喉頭運動量を比較して、いずれか少なくとも一つの値が大きい場合、値の大きい特定の被験飲食物は、他の被験飲食物よりも「まとまりにくさ」が大きい(逆にいえば「まとまりやすさ」が小さい)と決定することができる。
【0068】
本発明の実施に際して、予め基準飲食物を飲用して、実際の「飲み応え感」や咽頭での「まとまり感」といった嚥下感覚(感覚特性)を官能評価しておくことが好ましい。こうしておくことで、上記(A)〜(F)工程を実施することで、被験飲食物の嚥下感覚を官能評価することなく、基準飲食物との対比から、客観的に把握し、正確に評価することができる。なお、飲食物を実際に嚥下して得られる「嚥下感覚」は、当業界において確立された方法で評価することができ、かかる方法として、制限されないものの、一例としてVAS(Visual Analogue Scale)法を挙げることができる。当該方法は、実施例において詳細に説明する。
【実施例】
【0069】
以下に実験例をあげて本発明につき更に詳しく説明する。但し、本発明はこれらの試験例に何ら制約されるものではない。なお、特に言及しないかぎり、下記に記載する「%」は「重量%」を意味するものとする。
下記の実験例で採用した健常有歯顎者とは、歯の治療歴はあるものの“親知らず”と呼ばれる第三大臼歯以外に欠損がなく、顎口腔機能に異常が認められない者であり、しかも嚥下機能に異常(嚥下障害)が認められない者である。本報においては自覚症状による自己申告をもって「顎口腔機能及び嚥下機能に異常なし」と判断した。
【0070】
実施例1 ビールの一口嚥下による飲み応え評価
ビール飲料15gを一口で飲んだ時の飲み応えを本発明の評価方法および官能評価により評価した。
【0071】
(1)実験方法
(1−1)被験試料の調製
被験試料としてアルコール分0%のノンアルコールビール(被験試料1)、アルコール分5%のビール(被験試料2)、及びノンアルコールビール150gに飲み応えを増強するフレーバー(ビールフレーバーNo.116105:三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)を75μl(終濃度0.05%)添加したもの(被験試料3)を用いた。
【0072】
被験試料1及び2は、それぞれ150gを200ml容量のペットボトルに入れ、また被験試料3については150gの被験試料1を200ml容量のペットボトルに入れ、これに上記フレーバーを添加し、密栓し、15回転倒混和して調製した。各被験試料を5℃の冷蔵庫で保存し、試験直前にプラスチックカップに移して被験者に提供した。また、基準試料として水(5℃)を用いた。
【0073】
(1−2)飲み応え感の官能評価
飲み応え感の官能評価はVisual Analog Scale法(VAS法)を用いた。具体的には、嚥下障害のない健常有歯者の成人男性10名(平均年齢30.1±5.2歳)に、各被験試料(被験試料1〜3)(品温5℃)15gを1回で全量嚥下させた際の飲み応えを評価させた。飲料を喉に送り込む時にかかる力および飲料が喉を通る時に喉にかかる力の強さを飲み応えと定義した。
【0074】
ここでVAS法とは、視覚的アナログ尺度と訳され、飲み応え感を客観的に評価するために「飲み応え感なし(水の飲み応え感)」から各人が想像する「飲料において考えうる最大の飲み応え感」までの感覚強度を0mmから100mmのライン上に回答する方法である。今回は、被験者に「飲み応え感」を評価させ、ライン上の該当ポイントに被験者にチェックさせることによって評価を実施した。ラインの左端(感覚強度0)から被験者がチェックしたポイントまでの長さを1mmの単位まで測定し、その値を各試料の絶対評価値(以降、VAS値とする)とし、10名の被験者の平均値を各試料の「飲み応え」の評価値とした。
【0075】
(1−3)屈曲センサを用いた飲み応え感の評価
上記飲み応え感の官能評価をした10名の被験者に、屈曲センサ(MaP1783BS1−056、ニホンサンテク(株))を装着させ、各被験試料(被験試料1〜3)(品温5℃)15gを一1回嚥下させた。
【0076】
屈曲センサは、非特許文献2で示されているように、粘着性の両面テープで被験者の喉頭部の皮膚上にセンサ先端部が喉頭の最大挙上位置に合うように縦方向に貼り付けた(
図5(A)符号2参照)。嚥下時の喉頭の動きをセンサの曲率変化として読み取り、得られたデータは圧・屈曲アンプ(MaP1783PBAa、ニホンサンテク(株))で増幅した後、インターフェイスモジュール(UIM100C、BIOPAC Systems,Inc製)を通して接続したMP150システム(BIOPAC Systems,Inc.)を用いて1000HzでA/D変換し、PCに取り込み、AcqKnowledge_Ver.4.1(BIOPAC Systems,Inc.)ソフトウエアを用いて解析した。喉頭運動測定と同時に、筋電位測定装置を用いて舌骨上筋群の筋電位を測定した。導電ジェルを塗った一対の双極電極(
図5(A)符号3参照)を顎下部(舌骨上筋群上の皮膚表面)に貼り付け、電極間の電位差シグナルを収録した。さらに、喉マイク(
図5(A)符号1参照)を用いて嚥下音を測定し、嚥下のタイミングを確認した。喉マイクを屈曲センサおよび頚動脈を避けて喉頭隆起部下部(輪状軟骨部位)と同じ高さで嚥下の際に発生する音が最も大きい位置に装着し、嚥下音シグナルを収録した。得られた筋電位シグナルは、筋電位用アンプ(EMG100C、BIOPAC Systems,Inc.)で1000倍に増幅し、嚥下音シグナルはマイクロホンアンプ(AT−MA2、(株)オーディオテクニカ製)で増幅した後、インターフェイスモジュールを通して喉頭運動測定と同様に解析した。測定時の被験者の姿勢は座位とし、頭が動かないように頭部を固定し、フランクフルト平面を水平に維持させた(
図5(B)参照)。
【0077】
一例として、被験者に15gの被験試料2を1回嚥下させて測定した屈曲センサのシグナル波形、嚥下音、および舌骨上筋群の筋電位の測定結果を、
図2(A)に示す(
図2(A)に示す3つのラインの下からの順番)。非特許文献2によれば、屈曲センサのシグナル波形はその形状から変曲点を定義することができ、1サイクルの喉頭運動は6つの時間領域に分解することができる。
【0078】
図6に、被験者に各被験試料(被験試料1〜3)15gを全量飲用(嚥下)させて測定した屈曲センサのシグナル波形を示す。この波形から、被験試料2及び被験試料3のシグナル波形は、被験試料1のシグナル波形と比べて、下向きピークが大きく(深く)なっている傾向が認められた。
【0079】
このシグナル波形をもとに、
図1に示す1回嚥下の解析例の通りに、喉頭運動測定について、喉頭運動量(T2からT6までの区間の波形面積)、嚥下時間(T2からT6までの区間時間)、喉頭の挙上時間(T2からT4までの区間時間)、喉頭の下降時間(T5からT6までの区間時間)を求めた。また、被験者間の差異を最小化するため、得られた各パラメータを基準試料である水嚥下時の同パラメータで除した値、すなわち水を基準(1)とした相対値を算出した。
【0080】
(2)実験結果
官能評価により得られた結果を
図7に、本評価法により得られた結果を
図8(A:喉頭運動量T2−6、B:嚥下時間(T2−6)、C:喉頭の挙上時間(T2−4)、D:喉頭の下降時間(T5−6))に示す。
【0081】
官能評価結果から、被験試料2>3>1の順にVAS値が高く、飲み応えが強いと評価された。また、本評価法により得られた喉頭運動量T2−6、嚥下時間(T2−6)、喉頭の挙上時間(T2−4)、喉頭の下降時間(T5−6)は、いずれも被験試料2>3>1の順に評価値が高なった。したがって、本評価法で得られた、喉頭運動量T2−6、嚥下時間(T2−6)、喉頭の挙上時間(T2−4)、及び喉頭の下降時間(T5−6)は、従来の官能評価(VAS法)によって評価される飲み応えと相関し(正の相関)、本評価法によってヒトが感じる感覚的な飲み応えの強さ(飲み応え感)が評価できることが確認された。
【0082】
実施例2 とろみ水の一口嚥下によるまとまりやすさの評価
とろみ水10gを1回嚥下した時の咽頭でのまとまりやすさを、実施例1に記載する方法に準じて本評価法および官能評価(VAS法)により評価した。
【0083】
(1)実験方法
とろみ水試料(被験試料)として0.5%、1.0%、1.5%、及び2.0%のキサンタンガム水溶液(被験試料4〜7)を用いた。20℃に調整した10gの各被験試料4〜7を試験直前にレンゲに移して被験者に提供した。被験者は嚥下障害のない健常有歯顎者4名(男性3名、女性1名;平均年齢32.0±7.2歳)とした。
【0084】
被験試料の官能評価は実施例1と同様にVAS法を用い、被験者4名に各被験試料10gをそれぞれ一口で全量嚥下させた際のまとまりやすさを評価させた。ここではとろみ水が喉を通過する時に部分的に速く通過したり分かれたりせず(すなわち、とろみ水全体の流動速度のばらつきがなく)、ひと塊で短時間に通過しやすいことを「まとまり感がある」または「まとまりやすい」と定義した。当該咽頭内でのまとまりやすさは、飲食物の飲み込みやすさの一つの指標となりえる。VAS法では、まとまり感を客観的に評価するためのスケールとして、「まとまり感なし(水のまとまり感)」を0mm、各人が想像する「とろみ水において考えうる最大のまとまり感」を100mmとした。また、実施例1と同様に、各被験試料10gをそれぞれ1回嚥下させた際の咽頭でのまとまりやすさを本評価法により評価した。なお、評価値には、実施例1と同様に、喉頭運動測定について、喉頭運動量T2−6、嚥下時間(T2−6)を求めた。また、被験者間の差異を最小化するため、得られた各パラメータを基準試料である水の嚥下時の同パラメータで除した値、すなわち水を基準(1)とした相対値を算出した。
【0085】
(2)実験結果
官能評価により得られた結果を
図9に、本評価法により得られた結果を
図10((A):喉頭運動量T2−6、(B):嚥下時間(T2−6))に示す。
【0086】
官能評価結果のVAS値は、被験試料7>6>5>4の順に高く、まとまりやすいと評価された。また、本評価法により得られた喉頭運動量T2−6は、被験試料7<6<4または5の順に評価値が低かった。嚥下時間(T2−6)は、被験試料7または6<5<4の順に評価値が低かったが、被験試料6、7の評価値はほぼ同等であった。
【0087】
したがって、本評価法で得られた、喉頭運動量T2−6、及び嚥下時間(T2−6)は、従来の官能評価(VAS法)によって評価される「まとまり感」(まとまりやすさ)と相関し(負の相関)、本評価法によってとろみ水のまとまり感(まとまりやすさ)を評価できることが確認された。
【0088】
実施例3 ビールの連続嚥下による飲み応え評価
各ビール飲料100gを連続して飲んだ時の飲み応えを本評価法および従来の官能評価により評価した。
【0089】
(1)実験方法
試料としてアルコール度0%のノンアルコールビール(被験試料1)、アルコール度5%のビール(被験試料2)、及びノンアルコールビール150gに飲み応えを増強するフレーバー(ビールフレーバーNo.116105:三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)を75μl(終濃度0.05%)添加したもの(被験試料3)を用いた。
被験試料1及び2は、それぞれ150gを200ml容量のペットボトルに入れ、また被験試料3については150gの被験試料1を200ml容量のペットボトルに入れ、これに上記フレーバーを添加し、密栓し、15回転倒混和して調製した。各被験試料を5℃の冷蔵庫で保存し、試験直前にプラスチックカップに移して実施例1と同じ被験者10名(嚥下障害のない健常有歯顎者の男性10名(平均年齢30.1±5.2歳))に提供した。
【0090】
被験試料の官能評価は実施例1と同様にVAS法を用い、被験者10名に被験試料100gを連続的に全量嚥下させた際の飲み応えを評価させた。飲料を喉に送り込む時にかかる力および飲料が喉を通る時に喉にかかる力の強さを飲み応えと定義した。
また、実施例1と同様に、同じ被験者10名に各被験試料100gを連続的に全量嚥下させた際の飲み応えを本評価法によって測定した。本評価法の評価値には、
図2(B)に示す連続嚥下の解析例の通りに、喉頭運動測定について、嚥下1回あたりの屈曲センサのシグナルから求めた喉頭運動量(嚥下1回に相当する区間の波形面積の平均値)および嚥下1回あたりの屈曲シグナルの嚥下時間(嚥下1回に相当する区間時間の平均値)を求めた。ここで言う嚥下1回とは、ある嚥下1サイクルの喉頭運動の中で、非特許文献2に示されている6つの時間領域の1つであるT3−4区間の中点を始点とし、その次の嚥下1サイクルのT3−4区間の中点を終点とする区間を示す。また、被験者間の差異を最小化するため、得られた各パラメータを基準試料である水(5℃)嚥下時の同パラメータで除した値、すなわち水を基準(1)とした相対値を算出した。
【0091】
(2)実験結果
官能評価により得られた結果を
図11に、本評価法により得られた結果を
図12(A)嚥下1回あたりの喉頭運動量、(B)嚥下1回あたりの時間)に示す。
官能評価結果から、被験試料2>3>1の順にVAS値が高く、飲み応えが強いと評価された。また、本評価法により得られた嚥下1回当たりの喉頭運動量は、被験試料2>3>1の順に評価値が高かった。嚥下1回当たりの時間は被験試料2または3>1の順に評価値が高かったが、被験試料2と3の評価値はほぼ同等であった。
【0092】
したがって、本評価法で得られた、嚥下1回あたりの喉頭運動量、及び嚥下1回当たりの嚥下時間は、従来の官能評価(VAS法)によって評価される「飲み応え感」と相関し(正の相関)、100gの連続嚥下においても、本評価法によって得られる評価値によって飲み応えを評価できることが確認された。
【0093】
実施例4 とろみ水の一口嚥下によるまとまりやすさの評価(その2)
キサンタンガム(XG)またはローカストビーンガム(LBG)で調製したとろみ水(表1参照)10gを一口で飲んだ時のまとまりやすさを、実施例1に記載する方法に準じて本評価法および官能評価(VAS法)により評価した。
【0094】
(1)実験方法
とろみ水試料(被験試料)として0.2%、0.4%、0.6%、0.8%及び1.0%のキサンタンガム水溶液(被験試料8〜12)、並びに0.4%、0.5%、0.55%、0.65%及び0.7%のローカストビーンガム水溶液(被験試料13〜17)を用いた(いずれもスクラロース0.01%含有)。20℃に調整した10gの各被験試料8〜17を試験直前にレンゲに移して被験者に提供した。被験者は嚥下障害のない健常有歯顎者4名(男性4名;平均年齢30.8歳)とした。
【表1】
【0095】
被験試料の官能評価は実施例1及び2と同様にVAS法を用い、被験者4名に各被験試料10gをそれぞれ一口で全量嚥下させた際のまとまりやすさを評価させた。また、実施例1と同様に、各被験試料10gをそれぞれ一口で全量嚥下させた際のまとまりやすさを本評価法により評価した。なお、評価値には、実施例1と同様に、喉頭運動測定について、喉頭運動量T2−6、及び嚥下時間(T2−6)を求めた。また舌骨上筋群の筋電位を測定して、嚥下区間の舌骨上筋群活動量を求めた。なお、被験者間の差異を最小化するため、得られた各パラメータを基準試料である水の嚥下時の同パラメータで除した値、すなわち水を基準(1)とした相対値を算出した。
【0096】
(2)実験結果
本評価法により得られた「喉頭運動量T2−6」、「嚥下時間(T2−6)」、及び「舌骨上筋群活動量」のそれぞれと官能評価(VAS法)により得られた「まとまりやすさ」との関係を、それぞれ
図13(A)、(B)及び(C)に示す。
図13(A)、(B)及び(C)からわかるように、とろみ水(飲食物)のまとまりやすさは、「喉頭運動量T2−6」、「嚥下時間(T2−6)」及び「舌骨上筋群活動量」のそれぞれといずれも負の相関を示したが、特に「喉頭運動量T2−6」と高い負の相関を示した。このことから、感覚的にまとまりやすい試料では喉頭運動量は小さく、喉への負荷が軽減されていると考えられる。
【0097】
参考までに、キサンタンガム水溶液(XG)及びローカストビーンガム水溶液(LBG)のそれぞれについて、「まとまりやすさ」と「ずり速度10s
-1における粘度(Pa・s)」との関係を
図14に、「喉頭運動量T2−6」および「嚥下時間(T2−6)」と「ずり速度10s
-1における粘度(Pa・s)」との関係を
図15(A)及び(B)に示す。
図14に示すように、キサンタンガム水溶液(XG)は粘度依存的にまとまりやすさが増大したものの、ローカストビーンガム水溶液(LBG)についてはまとまりやすさの粘度依存的な増減は認められなかった。また
図15(A)及び(B)に示すように、キサンタンガム水溶液(XG)に関しては、喉頭運動量は粘度依存的に小さくなり、嚥下時間は粘度が高いと短くなる傾向が認められた。またローカストビーンガム水溶液(LBG)に関しては、喉頭運動量及び嚥下時間ともに粘度依存的な増減はみられなかった。これらのことから、飲食物の嚥下時のまとまりやすさは、ずり速度10s
-1における粘度(Pa・s)等の粘度では評価することはできず、喉頭運動解析、特に喉頭運動量により精度高く評価することができることがわかる。
【0098】
実施例5 ゲル状食品の1回嚥下による「まとまりやすさ」、及び「かたさ」の評価
ゲル状食品5g(3mm角に裁断)を咀嚼せず、1回で全量を嚥下したときの「まとまりやすさ」、及び「かたさ」を、実施例1に記載する方法に準じて本評価法及び官能評価(VAS法)により評価した。
【0099】
(1)実験方法
表2に記載する処方に従って、ゲル状食品(品温20℃)(被験試料18〜23)を調製した。サンサポートG−1016およびサンサポートK−S(F)は、いずれも三栄源エフ・エフ・アイ(株)製の多糖類製剤である。また、サングリーンGC−EMは食用色素(三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)である。
【表2】
【0100】
これらの被験試料18〜23について、
テクスチャーアナライザー(テクスチャーアナライザーTA−XT−2i[Sta
ble Micro Systems社製])を用いて下記条件で圧縮破断(破断荷重N、破断歪%)を求めた。
[圧縮破断測定]
・プランジャー:直径50mm
・試料サイズ:直径20mm、高さ10mmの円筒形
・試料温度:20℃
・圧縮速度:10mm/s。
【0101】
結果を表3に示す。
【表3】
【0102】
20℃に調整した5gの各被験試料18〜23を被験者に提供した。被験者は嚥下障害のない健常者4名(男性4名:平均年齢30.8歳)とした。
被験試料の官能評価は実施例1及び2と同様にVAS法を用い、被験者4名に各被験試料5gをそれぞれ1回嚥下させた際の咽頭での「まとまりやすさ」、及び「かたさ」を評価させた。また、実施例1と同様に、各被験試料5gをそれぞれ1回嚥下させた際の咽頭での「まとまりやすさ」、及び「かたさ」を本評価法により評価した。なお、評価値として、実施例1と同様に、「喉頭運動量T2−6」、「嚥下時間(T2−6)」及び嚥下区間の「舌骨上筋群活動量」を求めた。なお、被験者間の差異を最小化するため、得られた各パラメータを基準試料である水の嚥下時の同パラメータで除した値、すなわち水を基準(1)とした相対値を算出した。
【0103】
(2)実験結果
本評価法により得られた「喉頭運動量T2−6」、「嚥下時間(T2−6)」及び「舌骨上筋群活動量」のそれぞれと官能評価(VAS法)により得られた「まとまりやすさ」、及び「かたさ」との関係から求めた相関係数(R
2)を、表4に示す。また代表例として、「喉頭運動量T2−6」と「まとまりやすさ」(官能評価)との相関、「舌骨上筋群活動量」と「かたさ」(官能評価)との相関を示す図を
図16に示す。
【表4】
【0104】
表4及び
図16からわかるように、「喉頭運動量T2−6」と「まとまりやすさ」との間には高い負の相関が認められた。このことから、実施例4で示したのと同様に、感覚的にまとまりやすい試料では喉頭運動量は小さく、喉への負荷が軽減されていると考えられる。また「舌骨上筋群活動量」と「かたさ」との間には高い正の相関が認められた。
【0105】
参考までに、被験試料18〜23のそれぞれについて、破断荷重(N)と「まとまりやすさ」及び「かたさ」との関係を
図17(A)及び(B)に示す。
図17に示すように、いずれの被験試料ともに、破断荷重依存的に「かたさ」が増加し、「まとまりやすさ」が減少した。またゲル化剤(サンサポートG−1016)を含有する被験試料18〜20のほうが、それを含有しない被験試料21〜23よりも、常にまとまりやすかった。これらのことから、ゲル状食品の食感は破断荷重単独では評価できないことがわかる。
【0106】
実施例6 解析区間の違いによる喉頭喉頭運動量の差異の検討
キサンタンガム(XG)またはローカストビーンガム(LBG)で調製したとろみ水(表1参照)10gを1回嚥下した時の喉頭運動量を、実施例1に記載する方法に準じて本評価法により評価した。
【0107】
(1)実験方法
とろみ水試料(被験試料)として0.2%、0.4%、0.6%、0.8%及び1.0%のキサンタンガム水溶液(被験試料8〜12)、並びに0.40%、0.50%、0.55%、0.65%及び0.70%のローカストビーンガム水溶液(被験試料13〜17)を用いた(いずれもスクラロース0.01%含有)。20℃に調整した10gの各被験試料8〜17を試験直前にレンゲに移して被験者に提供した。被験者は嚥下障害のない健常有歯顎者4名(男性4名;平均年齢30.8歳)とした。
【0108】
実施例1と同様に、各被験試料10gをそれぞれ1回で全量嚥下させて、本評価法により、T2−T6区間の喉頭運動量(喉頭運動量T2−6:喉頭の挙上開始[T2]から下降終了[T6]までの区間の波形面積)、T2から2秒後までの区間の喉頭運動量(喉頭運動量T2−2sec:喉頭の挙上開始[T2]からその2秒後までの区間の波形面積)、及びT2−T5区間の喉頭運動量(喉頭運動量T2−5:喉頭の挙上開始[T2]から下降開始[T5]までの区間の波形面積)を求めた。また被験試料に代えて水を飲用した場合に得られる喉頭運動波形に基づいて、「水のT2−T6区間」を決定し、各被験試料について一律「水のT2−T6区間」における喉頭運動量を求めた。なお「水のT2−T6区間」は、同日に水にて複数回測定している場合は、それらの平均値を使用する。
被験者間の差異を最小化するため、得られた各喉頭運動量を基準試料である水の嚥下時の同喉頭運動量で除した値、すなわち水を基準(1)とした相対値を算出した。
【0109】
(2)実験結果
各被験試料について、本評価法により得られた「喉頭運動量T2−6」、「喉頭運動量T2−2sec」、「喉頭運動量T2−5」、及び「水のT2−T6区間における喉頭運動量」のそれぞれと、10s
-1における粘度(Pa・s)との関係を、それぞれ
図18(A)〜(D)に示す。
【0110】
図18からわかるように、「喉頭運動量T2−2sec」、「喉頭運動量T2−5」、及び「水のT2−T6区間における喉頭運動量」はいずれも「喉頭運動量T2−6」と同様の相関関係を示した。このことから、飲食物の嚥下感覚を喉頭運動量に基づいて評価する場合、T6の解析が必要な「喉頭運動量T2−6」に代えて、喉頭運動波形においてT2から一定の時間(X)(上記実施例では2秒間を設定)までの区間の波形面積(喉頭運動量T2−2sec)、またはT2からT5までの区間の波形面積(喉頭運動量T2−5)を利用することができる。なお、「喉頭運動量T2−5」に関して、T5は谷の頂点であるため、T6よりは判別しやすという利点がある。また水について設定したT2−T6の区間における喉頭運動量を利用することもできる。