特許第6776029号(P6776029)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6776029
(24)【登録日】2020年10月9日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】医療用具
(51)【国際特許分類】
   A61L 29/08 20060101AFI20201019BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20201019BHJP
   A61L 27/34 20060101ALI20201019BHJP
   A61M 25/00 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   A61L29/08 100
   A61L31/10
   A61L27/34
   A61M25/00 612
【請求項の数】4
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2016-134461(P2016-134461)
(22)【出願日】2016年7月6日
(65)【公開番号】特開2018-746(P2018-746A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年5月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】牧 俊央
(72)【発明者】
【氏名】樺山 成実
(72)【発明者】
【氏名】小俣 力也
【審査官】 飯濱 翔太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−509052(JP,A)
【文献】 特開平08−024328(JP,A)
【文献】 特開平04−176469(JP,A)
【文献】 特表2002−501788(JP,A)
【文献】 特開平08−317970(JP,A)
【文献】 特開2001−079082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00−33/18
A61M 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の表面に配置されるアンダーコート層と、前記アンダーコート層の表面に配置される親水性ポリマーを含む表面潤滑層と、を備える医療用具であって、
前記アンダーコート層は、ベースポリマーおよび粘着付与剤を含む組成物から形成され、
前記粘着付与剤は、前記ベースポリマー100質量部に対して、90質量部未満の割合で含有され、
前記粘着付与剤は、テルペンフェノール樹脂、デヒドロアビエチン酸を有するロジン樹脂、またはデヒドロアビエチン酸を有するロジン樹脂とスチレン系モノマー/脂肪族系モノマー共重合樹脂との混合物である、医療用具。
【請求項2】
前記ベースポリマーが(メタ)アクリル樹脂およびスチレンブタジエンゴムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の医療用具。
【請求項3】
前記粘着付与剤は、前記ベースポリマー100質量部に対して、1〜70質量部の割合で含有される、請求項1または2に記載の医療用具。
【請求項4】
前記粘着付与剤は、前記ベースポリマー100質量部に対して、10〜50質量部の割合で含有される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医療用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面潤滑層で被覆されてなる医療用具(医療デバイス)に関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテル、ガイドワイヤ、留置針等生体内に挿入される医療用具は、血管などの組織損傷を低減させ、かつ術者の操作性を向上させるため、優れた潤滑性を示すことが要求される。このため、潤滑性を有する親水性高分子を基材表面に被覆する方法が開発され実用化されている。このような医療用具において、親水性高分子が基材表面から溶出・剥離してしまうことは、安全性や操作性の維持といった点で問題である。このため、親水性高分子によるコーティングには、優れた潤滑性のみならず磨耗や擦過等の負荷に対する耐久性もまた要求される。
【0003】
このような観点から、特許文献1には、水溶性または水膨潤性重合体を、医療用具の基材が膨潤する溶媒に溶解させて重合体溶液を作製し、この重合体溶液に医療用具の基材を浸漬して膨潤させ、さらに基材表面でこの重合体を架橋または高分子化させることによって、基材表面に表面潤滑層を形成した医療用具が開示されている。特許文献1に開示された技術によれば、比較的良好な潤滑性を示す表面潤滑層を基材に固定することができる。
【0004】
また、特許文献2には、親水性高分子被覆と支持体との間に、ポリイソシアネート化合物層を設けることが記載される。当該方法によると、イソシアネートと親水性高分子とが反応するため、耐摩耗性に優れることが記載される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−33704号公報
【特許文献2】特表平5−505125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、水溶性または水膨潤性重合体として、潤滑性を発現する親水性部位とエポキシ基を有する部位とからなるブロック共重合体を用いると好ましいことが開示されている。そして、このようなブロック共重合体を用いると、加熱操作によりエポキシ基を架橋させることができ、比較的剥離しにくい表面潤滑層を形成することができる。
【0007】
しかし、近年の医療用具の小型化・細径化は著しく、生体内において、より屈曲性が高く、狭い病変部位へと医療用具をアプローチする医療手技が広まりつつある。また、操作の複雑化に伴い、操作が長持間にわたる場合がある。したがって、複雑な病変部位であってもデバイスの操作性を良好に保つために、従来技術よりもさらにデバイス表面の潤滑維持性(表面潤滑層の耐久性)を高める技術が要求されている。
【0008】
ゆえに、耐久性を向上させ、複雑高度化する医療手技をサポートすることができる技術が求められている。
【0009】
また、特許文献2に記載の技術では、ポリイソシアネート化合物層を親水性高分子被覆と支持体との間に設けることを必須の要件としている。このため、親水性高分子被覆を構成する親水性高分子はポリイソシアネート化合物と反応する材料に限定されてしまうという課題があった。
【0010】
ゆえに、目的とする表層(親水性高分子被膜)に使用できる材料の選択幅が広くかつ潤滑維持性(表面潤滑層の耐久性)を向上できる技術が求められている。
【0011】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、優れた耐久性を発揮する表面潤滑層を有する医療用具を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明の他の目的は、種々の親水性ポリマーと基材とをより簡便な手法で強固に固定化できる表面潤滑層の耐久性に優れる医療用具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、基材と表面潤滑層との間にベースポリマーおよび特定量の粘着付与剤を含むアンダーコート層を設けることによって、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、上記諸目的は、基材と、前記基材の表面に配置されるアンダーコート層と、前記アンダーコート層の表面に配置される親水性ポリマーを含む表面潤滑層と、を備える医療用具であって、前記アンダーコート層は、ベースポリマーおよび粘着付与剤を含む組成物から形成され、前記粘着付与剤は、前記ベースポリマー100質量部に対して、90質量部未満の割合で含有される、医療用具によって、達成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、表面潤滑層の耐久性に優れる医療用具が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、表面潤滑層の耐久性を評価するための試験装置(摩擦測定機)の模式図である。
図2図2は、参考例1−1で得られた医療用具1の表面潤滑層の耐久性評価試験結果を示すグラフである。
図3図3は、実施例1−2で得られた医療用具2の表面潤滑層の耐久性評価試験結果を示すグラフである。
図4図4は、実施例1−3で得られた医療用具3の表面潤滑層の耐久性評価試験結果を示すグラフである。
図5図5は、実施例1−4で得られた医療用具4の表面潤滑層の耐久性評価試験結果を示すグラフである。
図6図6は、実施例1−5で得られた医療用具5の表面潤滑層の耐久性評価試験結果を示すグラフである。
図7図7は、実施例1−6で得られた医療用具6の表面潤滑層の耐久性評価試験結果を示すグラフである。
図8図8は、実施例1−7で得られた医療用具7の表面潤滑層の耐久性評価試験結果を示すグラフである。
図9図9は、実施例1−8で得られた医療用具8の表面潤滑層の耐久性評価試験結果を示すグラフである。
図10図10は、実施例1−9で得られた医療用具9の表面潤滑層の耐久性評価試験結果を示すグラフである。
図11図11は、実施例1−10で得られた医療用具10の表面潤滑層の耐久性評価試験結果を示すグラフである。
図12図12は、実施例1−11で得られた医療用具11の表面潤滑層の耐久性評価試験結果を示すグラフである。
図13図13は、実施例1−12で得られた医療用具12の表面潤滑層の耐久性評価試験結果を示すグラフである。
図14図14は、実施例1−13で得られた医療用具13の表面潤滑層の耐久性評価試験結果を示すグラフである。
図15図15は、実施例1−14で得られた医療用具14の表面潤滑層の耐久性評価試験結果を示すグラフである。
図16図16は、実施例1−15で得られた医療用具15の表面潤滑層の耐久性評価試験結果を示すグラフである。
図17図17は、比較例1−1で得られた比較医療用具1の表面潤滑層の耐久性評価試験結果を示すグラフである。
図18図18は、比較例1−2で得られた比較医療用具2の表面潤滑層の耐久性評価試験結果を示すグラフである。
図19図19は、比較例1−3で得られた比較医療用具3の表面潤滑層の耐久性評価試験結果を示すグラフである。
図20図20は、比較例1−4で得られた比較医療用具4の表面潤滑層の耐久性評価試験結果を示すグラフである。
図21図21は、比較例1−5で得られた比較医療用具5の表面潤滑層の耐久性評価試験結果を示すグラフである。
図22図22は、比較例1−6で得られた比較医療用具6の表面潤滑層の耐久性評価試験結果を示すグラフである。
図23図23は、比較例1−7で得られた比較医療用具7の表面潤滑層の耐久性評価試験結果を示すグラフである。
図24図24は、実施例2−1で得られた医療用具16の表面潤滑層の耐久性評価試験結果を示すグラフである。
図25図25は、実施例2−2で得られた医療用具17の表面潤滑層の耐久性評価試験結果を示すグラフである。
図26図26は、実施例2−3で得られた医療用具18の表面潤滑層の耐久性評価試験結果を示すグラフである。
図27図27は、比較例2−1で得られた比較医療用具8の表面潤滑層の耐久性評価試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、基材と、前記基材の表面に配置されるアンダーコート層と、前記アンダーコート層の表面に配置される親水性ポリマーを含む表面潤滑層と、を備える医療用具であって、前記アンダーコート層は、ベースポリマーおよび粘着付与剤を含む組成物から形成され、前記粘着付与剤は、前記ベースポリマー100質量部に対して、90質量部未満の割合で含有される、医療用具を提供する。
【0018】
本発明は、ベースポリマー及び特定量(ベースポリマー100質量部に対して90質量部未満)の粘着付与剤を含む組成物から形成されるアンダーコート層を基材と表面潤滑層との間に設けることを特徴とする。当該構成によって、本発明の医療用具は、表面潤滑層の耐久性(潤滑維持性)を発揮できる。また、本発明の医療用具は、体液や生理食塩水などの水系液体中において表面が優れた潤滑性を発揮する。本発明に係る医療用具が上記効果を奏する詳細なメカニズムは依然として不明であるが、以下のように考えられる。なお、以下のメカニズムは推測であり、本発明の技術的範囲を制限するものではない。すなわち、アンダーコート層はベースポリマー及び粘着付与剤を含む組成物から形成され、この際、粘着付与剤の含有量はベースポリマー100質量部に対して90質量部未満である。ここで、アンダーコート層を構成するベースポリマーは、高分子量であるため、膜強度は高いものの、比較的硬いため、粘着性(密着性)に劣る。一方、アンダーコート層を構成する粘着付与剤は、低分子であるため分子の運動性には優れるが、膜としては非常に脆い。このため、本発明者らは、両者の特性をバランスよく両立できる組成について鋭意検討を行った。その結果、ベースポリマー100質量部に対して90質量部未満の割合でベースポリマー及び粘着付与剤を配合してアンダーコート層を形成すると、アンダーコート層は分子の動きが活発になり適度な可塑性を発揮して、その結果粘着性が増加する。その一方で、ベースポリマーの存在により、アンダーコート層は適度な膜強度を有する。ゆえに、表面潤滑層はアンダーコート層に対して強固に固定化される。また、アンダーコート層は基材に対しても高い粘着性(密着性)を発揮する。このため、基材、アンダーコート層及び表面潤滑層は強固に一体化され、最表に存在する表面潤滑層が基材から脱離することを有効に抑制・防止できる。ゆえに、本発明の医療用具は、体液や生理食塩水などの水系液体中において表面が優れた潤滑性を発揮しつつ、その潤滑性を長期間維持できる(耐久性(潤滑維持性)を向上できる)。
【0019】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。なお、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は、XおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度20〜80%RHの条件で行う。
【0020】
[基材]
本実施形態で用いられる基材としては、いずれの材料から構成されてもよく、その材料は特に制限されず、金属材料、高分子材料、およびセラミックスなどが使用できる。ここで、金属材料としては、特に制限されるものではなく、カテーテル、ガイドワイヤ、留置針等の医療用具に一般的に使用される金属材料が使用される。具体的には、SUS304、SUS316、SUS316L、SUS420J2、SUS630などの各種ステンレス鋼、金、白金、銀、銅、ニッケル、コバルト、チタン、鉄、アルミニウム、スズあるいはニッケル−チタン合金、ニッケル−コバルト合金、コバルト−クロム合金、亜鉛−タングステン合金等の各種合金などが挙げられる。高分子材料としては、特に制限されるものではなく、カテーテル、ガイドワイヤ、注射針、留置針等の医療用具に一般的に使用される高分子材料が使用される。具体的には、ポリアミド樹脂、ポリアミドエラストマー、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、変性ポリエチレン樹脂(変性高密度ポリエチレン、変性低密度ポリエチレンおよび変性直鎖状低密度ポリエチレン等)や変性ポリプロピレン樹脂などの変性ポリオレフィン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂(ポリウレタン)、ジアリルフタレート樹脂(アリル樹脂)、ポリカーボネート樹脂、フッ素樹脂、アミノ樹脂(ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂)、ポリエステル樹脂、スチロール樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂(ケイ素樹脂)、ポリエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリイミドエラストマーなどが挙げられる。これらの基材を構成する材料は、1種単独で使用しても、2種以上を混合物で使用しても、または上記いずれかの樹脂を構成する2種以上の単量体の共重合体として使用してもよい。上記材料の中から、使用用途であるカテーテル、ガイドワイヤ、留置針等の用途に応じて基材として最適な材料を適宜選択すればよい。
【0021】
基材の形状は、カテーテル、ガイドワイヤ、留置針等の実際の使用用途に応じた形状に対応する。このため、基材の形状は、特に制限されることはなく、シート状、コイル状、線(ワイヤ)状、管(チューブ)状など、使用態様により適宜選択される。また、基材は、基材全体が上記いずれかの材料で構成されても、異なる材料を適宜組み合わせて構成されてもよい。後者の場合の例としては、上記いずれかの材料で構成された基材コア部の表面に他の上記いずれかの材料を適当な方法で被覆して、基材表面層を構成した構造、基材コア部の表面に他の上記いずれかの材料を適当な方法で被覆して基材表面層を構成したコア−シェル構造、異なる材料を多層に積層してなる多層構造体、あるいは医療用具の部分ごとに異なる材料で形成された部材を繋ぎ合わせた構造などがある。
【0022】
[アンダーコート層]
アンダーコート層は、基材と表面潤滑層との間に配置され、ベースポリマーおよび粘着付与剤を必須に含む組成物から形成される。
【0023】
ここで、ベースポリマーは、特に制限されないが、耐キンク性の向上効果、基材への影響などを考慮すると、柔軟性を有するものが好ましく、ガラス転移点(Tg)が20℃以下のポリマーであることがより好ましい。具体的には、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム、イソプレンゴム、ラテックスゴム、シリコーンゴムなどの合成ゴム、(メタ)アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエーテル樹脂、SBSエラストマー、SEBSエラストマー等のスチレン系エラストマー、エチレン−α−オレフィン共重合体エラストマー等のオレフィン系エラストマーなどが挙げられる。上記ベースポリマーは、1種を単独で使用されてもまたは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。これらのうち、(メタ)アクリル樹脂、スチレンブタジエンゴム(SBR)が好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態では、ベースポリマーが(メタ)アクリル樹脂およびスチレンブタジエンゴムからなる群より選択される少なくとも1種である。また、(メタ)アクリル樹脂は、基材にダメージを与えないような溶剤(例えば、アルコール溶媒等)に対する溶解性が高く、コート液の調製に特に適する。このため、本発明のより好ましい形態では、ベースポリマーが(メタ)アクリル樹脂である。本発明の特に好ましい形態では、ベースポリマーがアクリル樹脂である。ここで、(メタ)アクリル樹脂とは、アクリル系、メタクリル系のモノマーに代表されるような、炭素−炭素二重結合を持つ重合性モノマーからなる重合体である。これらは、単独重合体または共重合体いずれでもよい。好ましくは、(メタ)アクリル樹脂は、構成する主モノマー成分が(メタ)アクリル酸および/または(メタ)アクリル酸エステルである。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の炭素数が1〜20の、アルキルアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物などがあるが、これらに限定されない。上記(メタ)アクリル酸エステルは、1種が単独で使用されてもまたは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸またはメタクリル酸を意味する。同様にして、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタリレートを意味する。
【0024】
ベースポリマーは、合成により得られてもまたは市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、クイックマスター、ファインタックシリーズ(例えば、ファインタックCT−6020)(いずれもDIC株式会社製)、SKダイン(綜研化学株式会社製)、アロンタックシリーズ(東亜合成株式会社製)等のアクリル樹脂、スチレンブタジエンゴム(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製、例えば、#182907)などが挙げられる。
【0025】
アンダーコート層は、ベースポリマーに加えて、粘着付与剤を含む。本明細書において、「粘着付与剤」とは、ベースポリマーに粘着力を付与するまたはベースポリマーの粘着力を向上させる化合物であり、タッキファイヤーとも呼ばれる。粘着付与剤としては、特に限定されるものではなく、ロジン樹脂、テルペン樹脂、石油樹脂、アルキルフェノール樹脂、キシレン樹脂等の公知の化合物が使用できる。ロジン樹脂としては、天然ロジン、ロジンエステル、水添ロジン、水添ロジンエステル、重合ロジン、重合ロジンエステル、不均化ロジン、不均化ロジンエステルなどが挙げられる。テルペン樹脂としては、α−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂、テルペンフェノール樹脂等が挙げられる。石油樹脂としては、脂肪族もしくは脂環族もしくは芳香族の炭化水素構造を有する不飽和炭化水素の(共)重合体からなり、例えば、スチレン樹脂、α−トルエン樹脂、クマロン−インデン樹脂、α−メチルスチレン樹脂、α−メチルスチレン/スチレン共重合樹脂、スチレン系モノマー/脂肪族系モノマー共重合樹脂、ペンタジエン樹脂、シクロペンタジエン樹脂、水素添加炭化水素樹脂等が挙げられる。
【0026】
また、粘着付与剤は、ベースポリマーの粘着力を向上させる効果がより高い(耐久性をより向上できる)ため、芳香族系粘着付与剤であることが好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態によると、粘着付与剤は芳香族系粘着付与剤である。芳香族系粘着付与剤は、芳香族構造を有している化合物であれば特に限定されるものではない。例えば、デヒドロアビエチン酸を有するロジン樹脂、ロジンフェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂、芳香族の炭化水素構造を有する不飽和炭化水素の単独重合体もしくは共重合体からなる石油樹脂等が挙げられる。デヒドロアビエチン酸を有するロジン樹脂としては、例えば、天然樹脂のロジンから誘導されるロジンエステル、ロジンを不均斉化した不均化ロジンをエステル化させた不均化ロジンエステルなどがある。芳香族の炭化水素構造を有する不飽和炭化水素の単一重合体もしくは共重合体からなる石油樹脂としては、スチレン樹脂、α−トルエン樹脂、クマロン−インデン樹脂、α−メチルスチレン樹脂、α−メチルスチレン/スチレン共重合樹脂、スチレン系モノマー/脂肪族系モノマー共重合樹脂(スチレン系モノマーと脂肪族系モノマーとの共重合体)、フェノール樹脂、キシレン樹脂等が挙げられる。これらのうち、ベースポリマーに粘着力を付与するまたはベースポリマーの粘着力を向上させるという観点から、テルペンフェノール樹脂、デヒドロアビエチン酸を有するロジン樹脂、スチレン系モノマー/脂肪族系モノマー共重合樹脂が好ましい。また、ベースポリマーからの粘着付与剤の溶出を抑えるとの観点から、デヒドロアビエチン酸を有するロジン樹脂およびスチレン系モノマー/脂肪族系モノマー共重合樹脂がより好ましく、デヒドロアビエチン酸を有するロジン樹脂、またはデヒドロアビエチン酸を有するロジン樹脂とスチレン系モノマー/脂肪族系モノマー共重合樹脂との混合物が特に好ましい。本発明の好ましい形態によると、粘着付与剤は、テルペンフェノール樹脂、デヒドロアビエチン酸を有するロジン樹脂およびスチレン系モノマー/脂肪族系モノマー共重合樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である。また、本発明のより好ましい形態によると、粘着付与剤は、デヒドロアビエチン酸を有するロジン樹脂およびスチレン系モノマー/脂肪族系モノマー共重合樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である。また、本発明の特に好ましい形態によると、粘着付与剤は、デヒドロアビエチン酸を有するロジン樹脂、またはデヒドロアビエチン酸を有するロジン樹脂とスチレン系モノマー/脂肪族系モノマー共重合樹脂との混合物である。
【0027】
なお、上記粘着付与剤は、1種を単独で使用されてもまたは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0028】
すなわち、アンダーコート層を構成するベースポリマー及び粘着付与剤の好ましい組み合わせは、(メタ)アクリル樹脂およびスチレンブタジエンゴムからなる群より選択される少なくとも1種のベースポリマーと、芳香族系粘着付与剤と、の組み合わせである。より好ましい組み合わせは、(メタ)アクリル樹脂(ベースポリマー)と、テルペンフェノール樹脂、デヒドロアビエチン酸を有するロジン樹脂、スチレン系モノマー/脂肪族系モノマー共重合樹脂(粘着付与剤)の少なくとも1種との組み合わせである。さらにより好ましい組み合わせは、(メタ)アクリル樹脂(ベースポリマー)と、デヒドロアビエチン酸を有するロジン樹脂および/またはスチレン系モノマー/脂肪族系モノマー共重合樹脂(粘着付与剤)との組み合わせである。特に好ましい組み合わせは、(メタ)アクリル樹脂(ベースポリマー)と、デヒドロアビエチン酸を有するロジン樹脂またはデヒドロアビエチン酸を有するロジン樹脂とスチレン系モノマー/脂肪族系モノマー共重合樹脂との混合物(粘着付与剤)との組み合わせである。
【0029】
粘着付与剤は、合成により得られてもまたは市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、YSポリスターシリーズ、YSレジンシリーズ、クロアロンシリーズ(いずれも(ヤスハラケミカル株式会社製)、スーパーエステルシリーズ、パインクリスタルシリーズ、ペンセルシリーズ(荒川化学株式会社製)、FTRシリーズ(三井化学株式会社製)などがある。
【0030】
粘着付与剤の含有量は、ベースポリマー100質量部に対して、(0質量部を超えて)90質量部未満である。ここで、粘着付与剤の含有量が90質量部以上であると、ベースポリマーの含有量が少なすぎて、ベースポリマーによる効果(特に膜強度)が過度に低下するため、得られる医療用具の表面潤滑層は耐久性に劣る(下記比較例2参照)。逆に、アンダーコート層がベースポリマーのみからなる(粘着付与剤の含有量が0質量%である)場合には、アンダーコート層は粘着性に劣り、表面潤滑層はアンダーコート層を介して基材と十分密着できず、得られる医療用具の表面潤滑層はやはり耐久性に劣る(下記比較例1参照)。粘着付与剤の含有量は、ベースポリマー100質量部に対して、好ましくは1〜70質量部であり、より好ましくは3質量部以上60質量部未満、更に好ましくは10〜50質量部である。このような含有量であれば、アンダーコート層に所望の粘着力を付与して、表面潤滑層はアンダーコート層を介して基材と強固に一体化できる。このため、得られる医療用具の表面潤滑層は、耐久性をより向上できる。
【0031】
なお、医療用具のアンダーコート層中の粘着付与剤の含有量は、アンダーコート層形成時の塗布液(固形分全量)における粘着付与剤の含有量と実質的に同等である。また、最終製品である医療用具の形態でも、アンダーコート層中の粘着付与剤の含有量は、公知の方法によって測定できる。例えば、アンダーコート層中のベースポリマーや粘着付与剤の含有量は、アンダーコート層中のベースポリマーと粘着付与剤とを分液操作等の公知の方法によって分離した後、ベースポリマー及び粘着付与剤の抽出量を求め、当該抽出量に基づいて各成分の含有量を定量できる。本明細書では、下記方法によって測定される値を採用する。なお、下記方法は一例であり、抽出条件(抽出温度、抽出時間、抽出溶媒、抽出回数)は特に限定されるものではなく、アンダーコート層を構成するベースポリマーや粘着付与剤の種類などによって適切に選択できる。
【0032】
(粘着付与剤の含有量の測定方法)
アンダーコート層を、ベースポリマーには可溶性であるが粘着付与剤には不溶性である溶媒(溶媒A)で抽出した後、粘着付与剤には可溶性であるがベースポリマーには不溶性でかつ溶媒Aと混和しない溶媒(溶媒B)を添加して、分液処理を行う。または、上記分液処理は、抽出順序が逆であってもよく、すなわち、粘着付与剤には可溶性であるがベースポリマーには不溶性である溶媒(溶媒A’)でアンダーコート層を抽出した後、ベースポリマーには可溶性であるが粘着付与剤には不溶性でかつ溶媒A’と混和しない溶媒(溶媒B’)を添加して、分液処理を行ってもよい。また、当該分液処理操作は、必要に応じて繰り返し行う。このような操作により、ベースポリマーが選択的に溶解している画分(画分A)および粘着付与剤が選択的に溶解している画分(画分B)が得られる。これらの画分を、それぞれ、乾固して、各乾燥残留物の質量を測定する。画分A及びBの乾燥残留物は、それぞれ、アンダーコート層中に含まれるベースポリマー及び粘着付与剤の量に相当する。これらの量に基づいて、ベースポリマーに対する粘着付与剤の含有量(質量%)を算出できる。
【0033】
また、ベースポリマーおよび粘着付与剤を含む市販品を使用してもよい。このような市販品としては、オリバインシリーズ(例えば、BPS6074HTF、BPS6574HTF(トーヨーケム株式会社製)、ファインタックシリーズ(例えば、ファインタックCT−5020)(DIC株式会社製)、SKダインシリーズ(例えば、SKダイン1502)などが挙げられる。なお、ベースポリマーおよび粘着付与剤を含む市販品を使用した場合に、粘着付与剤の含有量が不明である場合がある。このような場合であっても、上記(粘着付与剤の含有量の測定方法)と同様の方法によって、粘着付与剤の含有量(ベースポリマーに対する組成)を測定できる。
【0034】
アンダーコート層は、有効成分(固形成分)としてベースポリマーおよび粘着付与剤のみを含む組成物から形成されても、または有効成分(固形成分)としてベースポリマーおよび粘着付与剤に加えて他の添加剤を含む組成物から形成されてもよい。前者の場合には、アンダーコート層は、実質的にベースポリマーおよび粘着付与剤のみから構成される。この際、アンダーコート層は、粘着付与剤を、ベースポリマー100質量部に対して、90質量部未満の割合で含有する。後者の場合、他の添加剤としては、ベースポリマーを架橋するための架橋剤などが挙げられる。これらの他の添加剤は、1種を単独で使用しても、または2種以上を併用してもよい。例えば、アンダーコート層がベースポリマー、粘着付与剤および架橋剤を含む組成物から形成される場合には、アンダーコート層は、ベースポリマーの架橋物、(未架橋部分があれば)ベースポリマー、および粘着付与剤を含む。この際、アンダーコート層は、粘着付与剤を、ベースポリマーおよびその架橋物の合計量100質量部に対して、90質量部未満の割合で含有する。
【0035】
アンダーコート層が有効成分(固形成分)としてベースポリマーおよび粘着付与剤のみを含む組成物から形成される場合には、アンダーコート層上にさらに表面潤滑層を形成する場合に、ベースポリマーが表面潤滑層形成用のコート液(塗布液)に溶解してしまう場合がある。このため、ベースポリマーをさらに架橋剤で架橋することによって、膜強度が増加して、アンダーコート層の耐久性(特に高負荷状態での耐久性)をより向上できる。また、表面潤滑層形成時のベースポリマーの溶解を有効に抑制・防止できる。架橋剤としては、特に限定されないが、公知のポリイソシアネート化合物、エポキシ樹脂、アジリジン化合物、多価金属塩、金属キレート、有機過酸化物等が使用できる。アンダーコート層が架橋剤を用いて形成される場合の架橋剤の添加量は、特に制限されないが、ベースポリマー100質量部に対して、好ましくは0.1〜30質量部、より好ましくは0.5〜20質量部である。このような量であれば、ベースポリマーを十分架橋剤で架橋できるため、アンダーコート層の耐久性、特に高負荷状態での耐久性をより向上できる。表面潤滑層形成時のベースポリマーの溶解をより有効に抑制・防止できる。
【0036】
[表面潤滑層]
表面潤滑層は、アンダーコート層の表面に隣接して配置され、親水性ポリマーを含む。
【0037】
ここで、親水性ポリマーは、特に限定されるものではなく、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド系ポリマー物質、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸等の多糖類系ポリマー物質、ポリアクリルアミドおよびポリジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド系ポリマー物質、ポリアクリル酸、無水マレイン酸−メチルビニルエーテル共重合体等の無水マレイン酸系ポリマー物質、水溶性ナイロン樹脂、およびそれらの誘導体などが挙げられる。これらの親水性ポリマーであれば、湿潤時に吸水して潤滑性を発現することができる。また、上記したような親水性ポリマーを使用する場合には、架橋剤を併用しても、または親水性ポリマーに反応性官能基を導入してもよい。これによって、親水性ポリマーが架橋して表面潤滑層の膜強度を増加して、表面潤滑層の耐久性(特に、高負荷状態での耐久性)をより向上できる。架橋剤を併用する場合の架橋剤としては、特に限定されないが、公知のポリイソシアネート化合物、エポキシ樹脂、アジリジン化合物、多価金属塩、金属キレート、有機過酸化物、自己架橋性ポリマー(例えば、自己架橋性ウレタン樹脂)などが挙げられる。表面潤滑層が架橋剤を用いて形成する場合の架橋剤の添加量は、特に制限されないが、親水性ポリマー100質量部に対して、好ましくは0.1〜200質量部、より好ましくは0.5〜150質量部である。このような量であれば、親水性ポリマーを十分架橋剤で架橋できるため、耐久性、特に高負荷状態での耐久性をより向上できる。
【0038】
または、親水性ポリマーは、反応性官能基を有する単量体と親水性単量体との共重合体であってもよい。このような親水性ポリマーは、親水性単量体の存在により潤滑性に優れる。ここで、反応性官能基は、特に制限されないが、アンダーコート層のベースポリマーとの反応性(結合性)などを考慮すると、エポキシ基、酸ハライド基、アルデヒド基、イソシアネート基、酸無水物基などが挙げられる。上記したような反応性官能基を有する単量体としては、特に制限されないが、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート(GMA)、グリシジルエーテル、メチルグリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテルなどのエポキシ基を分子内に有する単量体;(メタ)アクリル酸クロリド、(メタ)アクリル酸ブロミド、(メタ)アクリル酸アイオダイドなどの酸ハライド基を分子内に有する単量体;(メタ)アクリルアルデヒド、グリオキザール、テレフタルアルデヒドなどのアルデヒド基を分子内に有する単量体;(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシプロピルイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートまたは1,3,5−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどのイソシアネート基を分子内に有する単量体;無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等の酸無水物基を分子内に有する単量体などを例示できる。上記反応性官能基を有する単量体は、1種を単独で使用されてもまたは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。これらのうち、反応性官能基を有する単量体としては、エポキシ基を有する単量体が好ましく、反応が熱等により促進され、取り扱いも比較的容易である点などから、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートがより好ましく、グリシジルメタクリレートが特に好ましい。また、エポキシ基を有する反応性官能基を有する単量体と親水性単量体との共重合体はアンダーコート層のベースポリマー(特にアクリル樹脂のカルボキシル基)と良好な結合性を有するため、アンダーコート層と表面潤滑層との密着性(一体化)がより向上する。ゆえに、このような共重合体を親水性ポリマーとして使用すると、医療用具の耐久性をより向上できるため特に好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態によると、反応性官能基を有する単量体は、エポキシ基を有する単量体である。本発明のより好ましい形態によると、反応性官能基を有する単量体は、グリシジルアクリレートおよび/またはグリシジルメタクリレートである。本発明の特に好ましい形態によると、反応性官能基を有する単量体は、グリシジルメタクリレートである。
【0039】
親水性単量体としては、特に制限されないが、例えば、アクリルアミドやその誘導体、ビニルピロリドン、アクリル酸やメタクリル酸およびそれらの誘導体、ポリエチレングリコールアクリレートおよびその誘導体、糖やリン脂質を側鎖に有する単量体、無水マレイン酸などの水溶性の単量体などを例示できる。より具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、N−メチルアクリルアミド、N,N’−ジメチルアクリルアミド(DMAA)、アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−ビニルピロリドン、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシエチル−D−グリコシド、2−メタクリロイルオキシエチル−D−マンノシド、ビニルメチルエーテル、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、1−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェニルオキシ(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルアクリレート、およびポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレートなどが挙げられる。上記親水性単量体は、1種を単独で使用されてもまたは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。合成の容易性や操作性の観点から、好ましくは、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド、アクリル酸、メタアクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドンである。上記に加えて、潤滑性のさらなる向上効果の観点から、より好ましくはN,N’−ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド、N−ビニルピロリドンであり、特に好ましくはN,N’−ジメチルアクリルアミドである。これらの親水性単量体は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。すなわち、本発明の好ましい形態によると、親水性単量体は、N,N’−ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド、N−ビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種である。本発明のより好ましい形態によると、親水性単量体は、N,N’−ジメチルアクリルアミドおよび/またはN−ビニルピロリドンである。本発明の特に好ましい形態によると、親水性単量体は、N,N’−ジメチルアクリルアミドである。
【0040】
具体的には、親水性ポリマーは、ポリビニルピロリドン(PVP)、反応性官能基を有する単量体と親水性単量体との共重合体であることが好ましく、グリシジルアクリレートおよびグリシジルメタクリレートから選択される反応性官能基を有する単量体とN,N−ジメチルアクリルアミドおよびN−ビニルピロリドンから選択される親水性単量体との共重合体であることがより好ましく、グリシジルアクリレートおよびグリシジルメタクリレートから選択される反応性官能基を有する単量体とN,N−ジメチルアクリルアミドおよびN−ビニルピロリドンから選択される親水性単量体とのブロック共重合体であることがさらに好ましく、グリシジルメタクリレートとN,N−ジメチルアクリルアミドとのブロック共重合体であることが特に好ましい。
【0041】
親水性ポリマーが反応性官能基を有する単量体と親水性単量体との共重合体である場合の親水性ポリマーの形態は、特に制限されず、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的
共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。これらのうち、反応性官能基を有する単量体から形成されるブロックと、親水性単量体から形成されるブロックと、を有するブロック共重合体(反応性単量体と親水性単量体とのブロック共重合体)であることがより好ましい。こうしたブロック共重合体であると、表面潤滑性層の強度や潤滑性においてより良好な結果が得られる。
【0042】
親水性ポリマーが反応性官能基を有する単量体と親水性単量体との共重合体である場合の、親水性ポリマーの組成(反応性官能基を有する単量体:親水性単量体(モル比))は、特に制限されない。体液や生理食塩水と接触する際のハイドロゲル層の形成、さらには適度な潤滑性の発揮などを考慮すると、反応性官能基を有する単量体と親水性単量体とのモル比は、1:1〜1:100であることが好ましく、1:3〜1:80であることが好ましく、1:5〜1:50であることがより好ましい。
【0043】
親水性ポリマーの製造方法は、特に制限されず、例えば、リビングラジカル重合法、マクロ開始剤を用いた重合法、重縮合法など、従来公知の重合法を適用して作製可能である。これらのうち、親水性単量体に由来する構成単位(部位)、反応性官能基を有する単量体に由来する構成単位(部位)の分子量および分子量分布のコントロールがしやすいという点で、リビングラジカル重合法またはマクロ開始剤を用いた重合法が好ましく使用される。リビングラジカル重合法としては、特に制限されないが、例えば特開平11−263819号公報、特開2002−145971号公報、特開2006−316169号公報等に記載される方法、ならびに原子移動ラジカル重合(ATRP)法などが、同様にしてあるいは適宜修飾して適用できる。また、マクロ開始剤を用いた重合法では、例えば、反応性官能基を有する疎水性部位と、パーオキサイド基等のラジカル重合性基とを有するマクロ開始剤を作製した後、そのマクロ開始剤と親水性部位を形成するための単量体を重合させることで親水性部位と疎水性部位とを有するブロック共重合体を作製することができる。
【0044】
または、親水性ポリマーの製造方法として、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等の公知の方法を用いてもよい。具体的には、親水性ポリマーの製造では、反応性官能基を有する単量体および親水性単量体を重合溶媒中で重合開始剤と共に撹拌・加熱することにより共重合させる方法が使用できる。ここで、重合開始剤は特に制限されず、公知のものを使用すればよい。好ましくは、重合安定性に優れる点で、ラジカル重合開始剤であり、具体的には、過硫酸カリウム(KPS)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;過酸化水素、t−ブチルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、アゾビスシアノ吉草酸等のアゾ化合物が挙げられる。また、例えば、上記ラジカル重合開始剤に、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸等の還元剤を組み合わせてレドックス系開始剤として用いてもよい。重合開始剤の配合量は、単量体合計量に対して、0.0001〜1モル%が好ましい。また、重合溶媒としては、特に制限されないが、例えば、n−ヘキサン、n−へプタン、n−オクタン、n−デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、流動パラフィン等の脂肪族系有機溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系有機溶媒、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン系有機溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性非プロトン性有機溶媒が使用できる。なお、前記溶媒は、単独でもまたは2種以上を混合して用いることもできる。重合溶媒中の単量体の濃度(親水性単量体および反応性官能基を有する単量体の合計濃度)は、5〜90質量%であると好ましく、8〜80質量%であるとより好ましく、10〜50質量%であると特に好ましい。上記重合において、重合条件もまた、上記共重合が進行すれば特に制限されない。例えば、重合温度は、好ましくは30〜150℃、より好ましくは40〜100℃とするのが好ましい。また、重合時間は、好ましくは30分〜30時間、より好ましくは3〜24時間である。さらに、共重合の際に、必要に応じて、連鎖移動剤、重合速度調整剤、界面活性剤、水溶性高分子、水溶性無機化合物(アルカリ金属塩、アルカリ金属水酸化物、多価金属塩、および非還元性アルカリ金属塩pH緩衝剤など)、無機酸、無機酸塩、有機酸及び有機酸塩およびその他の添加剤を適宜使用してもよい。共重合後の親水性ポリマーは、再沈澱法、透析法、限外濾過法、抽出法など一般的な精製法により精製してもよい。
【0045】
表面潤滑層は、親水性ポリマーのみから構成されても、または親水性ポリマーに加えて、他の添加剤を含んでもよい。後者の場合、添加剤としては、架橋剤、薬剤(生理活性物質)などが挙げられる。表面潤滑層が架橋剤を含む形態は上記にて説明したので、ここでは説明を省略する。表面潤滑層が薬剤を含む場合の、薬剤としては特に制限されないが、例えば、医療用具がカテーテルなどの体腔や管腔内への挿入を目的とする場合には、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ薬、抗血栓薬、HMG−CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIbIIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、血管平滑筋増殖抑制薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロン、およびNO産生促進物質等の薬剤(生理活性物質)などが挙げられる。ここで、薬剤の添加量は、特に制限されず、通常使用される量が同様にして適用される。最終的には、薬剤の添加量は、適用される疾患の重篤度、患者の体重等を考慮して適切に選択される。
【0046】
上記したように、本発明の医療用具は、基材、ベースポリマー及び粘着付与剤を含むアンダーコート層、ならびに親水性ポリマーを含む表面潤滑層を有する。ここで、アンダーコート層を構成するベースポリマー及び粘着付与剤ならびに表面潤滑層を構成する親水性ポリマーの組み合わせは、特に制限されず、上記した好ましい例示から適切に選択できる。アンダーコート層及び表面潤滑層の密着性(一体化)のさらなる向上効果を考慮すると、
ベースポリマーが(メタ)アクリル樹脂およびスチレンブタジエンゴムの少なくとも一方でありかつ粘着付与剤が芳香族系粘着付与剤であるアンダーコート層と、親水性ポリマーが、ポリビニルピロリドン(PVP)と自己架橋性ポリマー(例えば、自己架橋性ウレタン樹脂)との混合物ならびにグリシジルアクリレートおよびグリシジルメタクリレートから選択される反応性官能基を有する単量体とN,N−ジメチルアクリルアミドおよびN,N’−ジメチルアミノエチルアクリレートから選択される親水性単量体とのブロック共重合体の少なくとも一方である表面潤滑層との組み合わせであることが好ましく;
ベースポリマーが(メタ)アクリル樹脂およびスチレンブタジエンゴムの少なくとも一方でありかつ粘着付与剤がテルペンフェノール樹脂、デヒドロアビエチン酸を有するロジン樹脂、スチレン系モノマー/脂肪族系モノマー共重合樹脂からなる群より選択される少なくとも一種であるアンダーコート層と、親水性ポリマーが、ポリビニルピロリドン(PVP)と自己架橋性ポリマー(例えば、自己架橋性ウレタン樹脂)との混合物ならびにグリシジルアクリレートおよびグリシジルメタクリレートから選択される反応性官能基を有する単量体とN,N−ジメチルアクリルアミド(親水性単量体)とのブロック共重合体の少なくとも一方である表面潤滑層との組み合わせであることがより好ましく;
ベースポリマーが(メタ)アクリル樹脂でありかつ粘着付与剤がデヒドロアビエチン酸を有するロジン樹脂、またはデヒドロアビエチン酸を有するロジン樹脂とスチレン系モノマー/脂肪族系モノマー共重合樹脂との混合物であるアンダーコート層と、親水性ポリマーがグリシジルメタクリレートとN,N−ジメチルアクリルアミドとのブロック共重合体である表面潤滑層との組み合わせであることがより好ましい。このような組み合わせではアンダーコート層と表面潤滑層との密着性の点でより顕著な効果を奏する。ここで、上記効果を奏する理由は、以下のように推測される。なお、以下は推測であり、本発明の技術的範囲を制限するものではない。詳細には、アンダーコート層を構成する(メタ)アクリル樹脂やスチレンブタジエンゴム等の疎水性のベースポリマーが、表面潤滑層を構成するブロック共重合体の疎水部や疎水性な自己架橋性ポリマー(例えば、自己架橋性ウレタン樹脂)と、強固に密着する。ゆえに、上記したような組み合わせであると、アンダーコート層と表面潤滑層との密着性(一体性)をより向上できるため、表面潤滑層の耐久性(特に高負荷状態での耐久性)をより向上でき、医療用具は長期間にわたって良好な潤滑性を維持できる。
【0047】
[医療用具の製造方法]
本発明の医療用具の製造方法は、特に制限されず、公知の方法と同様にしてあるいはこれを適宜修飾して適用できる。例えば、基材上に、まず、ベースポリマー及び粘着付与剤を特定の混合比で含むアンダーコート層を形成した(工程(1))後、上記アンダーコート層上に親水性ポリマーを含む表面潤滑層を形成する(工程(2))ことが好ましい。
【0048】
以下、上記本発明の医療用具の好ましい製造方法について説明する。なお、本発明は、下記方法によって限定されるものではない。
【0049】
(工程(1))
本工程では、基材上に、ベースポリマー及び粘着付与剤を特定の混合比で含むアンダーコート層を形成する。好ましくは、ベースポリマー及び粘着付与剤を特定の混合比で溶媒に溶解させて混合液を調製し、前記混合液を基材にコーティングすることによって、アンダーコート層を基材上に形成する。なお、基材、ベースポリマー及び粘着付与剤は、上記したとおりであるため、ここでは説明を省略する。
【0050】
上記方法において、ベースポリマー及び粘着付与剤を溶解するのに使用される溶媒としては、ベースポリマー及び粘着付与剤を溶解できるものであれば特に制限されない。具体的には、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、クロロホルム等のハロゲン化物、ヘキサン等のオレフィン類、テトラヒドロフラン(THF)、ブチルエーテル等のエーテル類、ベンゼン、トルエン等の芳香族類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類などを例示することができるが、これらに何ら制限されるものではない。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0051】
混合液の調製方法は、特に制限されず、ベースポリマー及び粘着付与剤を同じ溶媒に溶解する;ベースポリマーを溶媒に溶解した後、粘着付与剤を添加する;粘着付与剤を溶媒に溶解した後、ベースポリマーを添加する;ベースポリマー及び粘着付与剤を、別々に、同じまたは異なる溶媒に溶解した後、これらを混合する、などいずれの方法でもよい。
【0052】
混合液におけるベースポリマー及び粘着付与剤の混合比は、粘着付与剤がベースポリマー100質量部に対して90質量部未満となるようであればよく、好ましい混合比は上記のとおりである。また、混合液におけるベースポリマー及び粘着付与剤の濃度は、特に制限されないが、コーティングしやすさなどの点から、混合液におけるベースポリマーの濃度(樹脂分)が、好ましくは0.1〜80質量%、より好ましくは1〜30質量%である。
【0053】
なお、上述したように、上記混合液は、さらに架橋剤などを含んでもよい。混合液がさらに架橋剤を含む場合の架橋剤の添加量は、特に制限されないが、上記したような量であることが好ましい。なお、架橋剤の添加時期は、特に制限されず、ベースポリマー及び粘着付与剤添加と同時もしくは後であっても、またはベースポリマー及び粘着付与剤の添加の間であっても、いずれでもよいが、ベースポリマー及び粘着付与剤添加後であることが好ましい。
【0054】
このようにして調製した混合液を基材にコーティングする。なお、基材へのコーティング前に、基材をアセトン、エタノールやイソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤などで予め払拭してもよい。基材表面に混合液をコーティング(塗布)する方法としては、特に制限されるものではなく、塗布・印刷法、浸漬法(ディッピング法、ディップコート法)、噴霧法(スプレー法)、スピンコート法、混合溶液含浸スポンジコート法など、従来公知の方法を適用することができる。これらのうち、浸漬法(ディッピング法、ディップコート法)を用いるのが好ましい。混合液を浸漬法により基材にコーティングする際の、浸漬条件は特に制限されない。例えば、浸漬温度は、0〜40℃でありうる。また、浸漬時間は、0.1秒〜5分でありうる。
【0055】
なお、カテーテル、ガイドワイヤ、注射針等の細く狭い内面にアンダーコート層を形成させる場合、混合液中に基材を浸漬して、系内を減圧にして脱泡させてもよい。減圧にして脱泡させることにより、細く狭い内面に素早く溶液を浸透させ、アンダーコート層の形成を促進できる。
【0056】
また、基材の一部にのみアンダーコート層を形成させる場合には、基材の一部のみを混合液中に浸漬して、混合液を基材の一部にコーティングすることで、基材の所望の表面部位に、アンダーコート層を形成することができる。
【0057】
基材の一部のみを混合液中に浸漬するのが困難な場合には、予めアンダーコート層を形成する必要のない基材の表面部分を着脱(装脱着)可能な適当な部材や材料で保護(被覆等)した上で、基材を混合液中に浸漬して、混合液を基材にコーティングした後、アンダーコート層を形成する必要のない基材の表面部分の保護部材(材料)を取り外し、その後、加熱処理等により反応させることで、基材の所望の表面部位にアンダーコート層を形成することができる。ただし、本発明では、これらの形成法に何ら制限されるものではなく、従来公知の方法を適宜利用して、アンダーコート層を形成することができる。例えば、基材の一部のみを混合溶液中に浸漬するのが困難な場合には、浸漬法に代えて、他のコーティング手法(例えば、医療用具の所定の表面部分に、混合液を、スプレー装置、バーコーター、ダイコーター、リバースコーター、コンマコーター、グラビアコーター、スプレーコーター、ドクターナイフなどの塗布装置を用いて、塗布する方法など)を適用してもよい。なお、医療用具の構造上、円筒状の用具の外表面と内表面の双方が、アンダーコート層を有する必要があるような場合には、一度に外表面と内表面の双方をコーティングすることができる点で、浸漬法(ディッピング法)が好ましく使用される。
【0058】
このように混合液中に基材を浸漬した後は、混合液から基材を取り出して、乾燥処理を行う。ここで、混合液の乾燥条件(温度、時間等)は、基材上にベースポリマー及び粘着付与剤を含むアンダーコート層が形成できる条件であれば、特に制限されない。具体的には、乾燥温度は、好ましくは10〜200℃、より好ましくは40〜160℃である。また、乾燥時間は、好ましくは10分〜20時間、より好ましくは0.5〜10時間である。乾燥時の圧力条件も何ら制限されるものではなく、常圧(大気圧)下で行うことができるほか、加圧ないし減圧下で行ってもよい。加熱する場合の加熱手段(装置)としては、例えば、オーブン、ドライヤー、マイクロ波加熱装置などを利用することができるが、自然乾燥(風乾)の場合には、特に乾燥手段(装置)は不要である。このような条件であれば、アンダーコート層が基材表面に強固に結合(固定化)し、基材からの剥離を有効に抑制・防止できる。
【0059】
(工程(2))
本工程では、上記工程(1)にてアンダーコート層が表面に形成された基材(基材A)のアンダーコート層上に、親水性ポリマーを含む表面潤滑層を形成する。好ましくは、親水性ポリマーを溶媒に溶解させてコート液を調製し、前記コート液を基材A(少なくともアンダーコート層側)にコーティングすることによって、表面潤滑層をアンダーコート層上に形成する。なお、親水性ポリマーは、上記したとおりであるため、ここでは説明を省略する。
【0060】
上記方法において、親水性ポリマーを溶解するのに使用される溶媒としては、親水性ポリマーを溶解できるものであれば特に制限されない。具体的には、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、クロロホルム等のハロゲン化物、ヘキサン等のオレフィン類、テトラヒドロフラン(THF)、ブチルエーテル等のエーテル類、ベンゼン、トルエン等の芳香族類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類などを例示することができるが、これらに何ら制限されるものではない。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。コート液における親水性ポリマーの濃度は、特に制限されないが、コーティングしやすさなどの点から、コート液における親水性ポリマーの濃度が、好ましくは0.01〜30質量%、より好ましくは1〜10質量%である。
【0061】
なお、上述したように、上記コート液は、さらに架橋剤や薬剤などを含んでもよい。コート液がさらに架橋剤や薬剤を含む場合の架橋剤や薬剤の規定は、上記と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0062】
このようにして調製したコート液を基材Aにコーティングする。基材A表面にコート液をコーティング(塗布)する方法としては、特に制限されるものではなく、塗布・印刷法、浸漬法(ディッピング法、ディップコート法)、噴霧法(スプレー法)、スピンコート法、混合溶液含浸スポンジコート法など、従来公知の方法を適用することができる。これらのうち、浸漬法(ディッピング法、ディップコート法)を用いることが好ましい。コート液を浸漬法により基材Aにコーティングする際の、浸漬条件は特に制限されない。例えば、浸漬温度は、0〜40℃でありうる。また、浸漬時間は、0.1秒〜5分でありうる。
【0063】
なお、カテーテル、ガイドワイヤ、注射針等の細く狭い基材A内面に表面潤滑層を形成させる場合には、上記アンダーコート層の場合と同様、コート液中に基材Aを浸漬して、系内を減圧にして脱泡させてもよい。減圧にして脱泡させることにより、細く狭い内面に素早く溶液を浸透させ、表面潤滑層の形成を促進できる。また、基材Aの一部にのみ表面潤滑層を形成させる場合の表面潤滑層の形成方法もまた、特に制限されないが、例えば、上記アンダーコート層の場合と同様の方法が採用できる。
【0064】
このようにコート液中に基材Aを浸漬した後は、コート液から基材Aを取り出して、乾燥処理を行う。ここで、コート液の乾燥条件(温度、時間等)は、基材A上にベースポリマー及び粘着付与剤を含むアンダーコート層が形成できる条件であれば、特に制限されない。具体的には、乾燥温度は、好ましくは10〜200℃、より好ましくは20〜150℃である。また、乾燥時間は、好ましくは10分〜20時間、より好ましくは0.5〜10時間である。乾燥時の圧力条件も何ら制限されるものではなく、常圧(大気圧)下で行うことができるほか、加圧ないし減圧下で行ってもよい。加熱する場合の加熱手段(装置)としては、例えば、オーブン、ドライヤー、マイクロ波加熱装置などを利用することができるが、自然乾燥(風乾)の場合には、特に乾燥手段(装置)は不要である。このような条件であれば、表面潤滑層がアンダーコート層表面に強固に結合(固定化)し、基材A(アンダーコート層)からの剥離を有効に抑制・防止できる。
【0065】
このようにして本発明の医療用具が得られる。本発明の医療用具は、基材と表面潤滑層との間に、ベースポリマー及び粘着付与剤を特定の混合比で含むアンダーコート層が配置される。このような構造の医療用具は、アンダーコート層を介して基材と表面潤滑層とが強固に密着(一体化)できるため、屈曲性が高いおよび/または狭い病変部位に適用される場合であっても、良好な潤滑性を発揮・維持できる。このため、本発明の医療用具を用いることにより、より複雑高度化する医療手技を適切にサポートすることができる。
【0066】
また、本発明の医療用具は、アンダーコート層自体が粘着性を有しているため、基材や表面潤滑層を構成する材料が限定されず、広範な材料に適用できる。ゆえに、従来、固定化が困難であった変性オレフィン(例えば、変性ポリエチレン)や金属材料(例えば、SUS)からなる基材に対しても、表面潤滑層を強固に固定化できる(医療用具の表面潤滑層は耐久性に優れる)。
【0067】
(本発明の医療用具の用途)
本発明の医療用具は、体液や生理食塩水などの水系液体中において表面が潤滑性を有し、操作性の向上や組織粘膜の損傷の低減が可能なものである。このため、本発明の医療用具は、体液や血液などと接触して用いるデバイスとして好適に使用できる。具体的には、血管内で使用されるカテーテル、ガイドワイヤ、留置針等が挙げられるが、その他にも以下の医療用具が示される。
【0068】
(a)胃管カテーテル、栄養カテーテル、経管栄養用チューブなどの経口もしくは経鼻的に消化器官内に挿入ないし留置されるカテーテル類。
【0069】
(b)酸素カテーテル、酸素カヌラ、気管内チューブのチューブやカフ、気管切開チューブのチューブやカフ、気管内吸引カテーテルなどの経口または経鼻的に気道ないし気管内に挿入ないし留置されるカテーテル類。
【0070】
(c)尿道カテーテル、導尿カテーテル、尿道バルーンカテーテルのカテーテルやバルーンなどの尿道ないし尿管内に挿入ないし留置されるカテーテル類。
【0071】
(d)吸引カテーテル、排液カテーテル、直腸カテーテルなどの各種体腔、臓器、組織内に挿入ないし留置されるカテーテル類。
【0072】
(e)留置針、IVHカテーテル、サーモダイリューションカテーテル、血管造影用カテーテル、血管拡張用カテーテルおよびダイレーターあるいはイントロデューサーなどの血管内に挿入ないし留置されるカテーテル類、あるいは、これらのカテーテル用のガイドワイヤ、スタイレットなど。
【0073】
(f)人工気管、人工気管支など。
【0074】
(g)体外循環治療用の医療用具(人工肺、人工心臓、人工腎臓など)やその回路類。
【実施例】
【0075】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0076】
合成例1:ブロックコポリマー1の調製
以下のようにして、ジメチルアクリルアミド(DMAA)とグリシジルメタクリレート(GMA)とのブロックコポリマー(DMAA:GMA=11:1(モル比))を調製した。なお、以下では、上記にて調製したブロックコポリマーを、「p(DMAA−b−GMA)」または「ブロックコポリマー1」と称する。
【0077】
アジピン酸2塩化物72.3g中に50℃でトリエチレングリコール29.7gを滴下した後、50℃で3時間、塩酸を減圧除去して、オリゴエステルを得た。次に、得られたオリゴエステル22.5gにメチルエチルケトン4.5gを加え、これを、水酸化ナトリウム5g、31質量%過酸化水素6.93g、界面活性剤としてのジオクチルホスフェート0.44g及び水120gよりなる溶液中に滴下し、−5℃で20分間反応させた。得られた生成物は、水洗、メタノール洗浄を繰り返した後、乾燥させて、分子内に複数のパーオキサイド基を有するポリ過酸化物を(PPO)を得た。
【0078】
続いて、このPPOを0.5g、グリシジルメタクリレート(GMA)を9.5g、さらにベンゼン(溶媒)を30g混合して、65℃で2時間、減圧下で撹拌しながら重合した。重合後に得られた反応物をジエチルエーテルで再沈殿して、分子内にパーオキサイド基を有するポリGMA(PPO−GMA)を得た。
【0079】
続いて、得られたPPO−GMA0.48g(GMA 3.38mmol相当)を重合開始剤として、ジメチルアクリルアミド3.34g(37.1mmol)をジメチルスルホキシド90gに溶解し、80℃で5時間、窒素雰囲気下で重合させた。重合後に得られた反応物をヘキサンで再沈殿して回収し、DMAAを構成単位とした親水性ドメインと、グリシジルメタクリレートを構成単位とした反応性ドメインとを有するブロックコポリマー(DMAA:GMA=11:1(モル比))(ブロックコポリマー(1))を得た。
【0080】
参考例1:密着力の評価
変性ポリエチレン(三菱化学株式会社製 モディック(登録商標)M512)シート(18mm×40mm×1mm)(変性PEシート)をアセトンで払拭して、基材とした。
【0081】
別途、アクリル樹脂(DIC株式会社製、ファインタック CT−6020)を、樹脂分15質量%の濃度になるようにアセトンに添加して、アンダーコート液(1)を調製した。また、芳香族系粘着付与剤及びアクリル樹脂を含有したアンダーコートファインタック CT−5020(DIC株式会社製)を、樹脂分9質量%の濃度になるようにアセトンに添加し、アセトン溶液を調製した。このアセトン溶液に、架橋剤(DIC株式会社製、FINETACK HARDENER D40)を、アクリル樹脂に対して15質量%になるように添加して、アンダーコート液(2)を調製した。なお、アンダーコートファインタック CT−5020について、下記方法に従って、芳香族系粘着付与剤の含有量を測定したところ、粘着付与剤が、アクリル樹脂に対して、約42質量%の割合で含まれていることを確認した。また、上記アンダーコートファインタック CT−5020に含まれる芳香族系粘着付与剤は、デヒドロアビエチン酸を有するロジン樹脂およびスチレン系モノマーと脂肪族系モノマーとの共重合樹脂の混合物である。
【0082】
(粘着付与剤の定量試験)
変性ポリエチレン(三菱化学株式会社製 モディック(登録商標)M512)シート(18mm×40mm×1mm)をアセトンで払拭して、基材(基材A)を準備した。次に、芳香族系粘着付与剤及びアクリル樹脂を含有したアンダーコートファインタック CT−5020(DIC株式会社製)を、樹脂分20質量%の濃度になるようにアセトンを添加し、アセトン溶液を調製した。このアセトン溶液に上記基材Aを浸漬し、15mm/secの速さにて引上げてコーティングを行い、30分間風乾した(基材B)。風乾後、基材Bを80℃のオーブンで5時間加熱することによって、基材A(変性ポリエチレンシート)表面にアンダーコート層を形成(固定化)した(基材C)。さらに、この基材Cのアンダーコート層を10gのN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)中で40℃で24時間抽出した。所定時間抽出した後、DMF抽出液にヘキサン10g添加し、分液操作を行った。上記分液操作を5回繰り返し、分液操作を終了した。これにより、DMF溶液にはアクリル樹脂が、およびヘキサン溶液には粘着付与剤が、それぞれ、含まれる。
【0083】
上記分液操作終了後、アクリル樹脂を含むDMF溶液および粘着付与剤を含むヘキサン溶液をそれぞれ乾固し、乾燥残留物の質量を測定した。その結果、アクリル樹脂を含むDMF溶液の乾燥残留物は36.5mgであり、粘着付与剤を含むヘキサン溶液の乾燥残留物は15.0mgであった。よって、アンダーコート層における粘着付与剤の含有量はアクリル樹脂100質量部に対して42質量部となる。上述したように、アンダーコート層中の粘着付与剤の含有量は、アセトン溶液における粘着付与剤の含有量と実質的に同等である。このため、アンダーコートファインタック CT−5020(DIC株式会社製)は、アクリル樹脂100質量部に対して約42質量部の割合で粘着付与剤を含む。
【0084】
合成例1にて製造したブロックコポリマー(DMAA:GMA=11:1(モル比))(ブロックコポリマー1)を、3.5質量%の濃度になるようにテトラヒドロフラン(THF)に添加し、塗布液を調製した。
【0085】
上記にて調製したアンダーコート液(1)および(2)に、それぞれ、上記基材を浸漬して間もなく、15mm/secの速さにて引上げてコーティングを行い、30分間風乾した(基材(1−1)、基材(2−1))。風乾後、この基材(1−1)及び基材(2−1)を、それぞれ、60℃のオーブンで1時間加熱することによって、基材(変性ポリエチレンシート)の表面にアンダーコート層を形成(固定化)した(基材(1−2)、基材(2−2))。その後、この基材(1−2)及び基材(2−2)を、それぞれ、上記にて調製した塗布液にコート液へ浸漬して間もなく、15mm/secの速さにて引上げてコーティングを行い、30分間風乾した(基材(1−3)、基材(2−3))。風乾後、この基材(1−3)及び基材(2−3)を、それぞれ、80℃のオーブン中で5時間反応させることによって、表面潤滑層をアンダーコート層上に形成した(医療用具(1)、医療用具(2))。なお、上述したように、医療用具(2)では、アンダーコート層中の芳香族系粘着付与剤の含有量は、アクリル樹脂に対して、約42質量%である。
【0086】
上記のようにして得られた医療用具(1)及び(2)について、クロスカット試験(JIS K5600−5−6:1999(ISO2409:1992))をもとに、アンダーコート層と親水性ポリマーを含む表面潤滑層との密着力の評価を行った。
【0087】
結果を下記表1に示す。なお、下記表1において、クロスカット試験スコアは6段階で分類され、数値が小さいほど、はがれが少ない(密着力が高い)ことを意味する。
【0088】
下記表1に示されるように、粘着付与剤及びアクリル樹脂を含有するアンダーコート層を有する医療用具(2)は、粘着付与剤を含まずアクリル樹脂のみを含有するアンダーコート層を有する医療用具(1)に比して、アンダーコート層と表面潤滑層との密着性が高いことが示される。
【0089】
【表1】
【0090】
参考例1−1:医療用具1の製造
変性ポリエチレン(三菱化学株式会社製 モディック(登録商標)M512)シート(18mm×40mm×1mm)(変性PEシート)をアセトンで払拭して、基材とした(基材1)。
【0091】
非芳香族系粘着付与剤及びアクリル樹脂を含有したアンダーコートBPS6074HTF(トーヨーケム株式会社製、非芳香族系粘着付与剤の含有量:アクリル樹脂に対して5〜15質量%(カタログ値))を、樹脂分10質量%の濃度になるようにテトラヒドロフラン(THF)に添加し、アンダーコート液1を調製した。
【0092】
合成例1にて製造したブロックコポリマー(DMAA:GMA=11:1(モル比))(ブロックコポリマー1)を、3.5質量%の濃度になるようにテトラヒドロフラン(THF)に添加し、塗布液Aを調製した。
【0093】
上記基材1を上記にて調製したアンダーコート液1に浸漬して間もなく、15mm/secの速さにて引上げてコーティングを行い、30分間風乾した(基材1−1)。風乾後、この基材1−1を60℃のオーブンで1時間加熱することによって、基材1(変性ポリエチレンシート)の表面にアンダーコート層を形成(固定化)した(基材1−2)。その後、この基材1−2を、上記にて調製した塗布液Aに浸漬して間もなく、15mm/secの速さにて引上げてコーティングを行い、30分間風乾した(基材1−3)。風乾後、この基材1−3を80℃のオーブン中で5時間反応させることによって、表面潤滑層をアンダーコート層上に形成した(医療用具1)。
【0094】
実施例1−2:医療用具2の製造
デヒドロアビエチン酸を有するロジン樹脂(芳香族系粘着付与剤)及びアクリル樹脂を含有したアンダーコートBPS6574HTF(トーヨーケム株式会社製、芳香族系粘着付与剤の含有量:アクリル樹脂に対して10〜20質量%(カタログ値))を、樹脂分10質量%の濃度になるようにテトラヒドロフラン(THF)に添加し、アンダーコート液2を調製した。参考例1−1において、アンダーコート液1の代わりに、上記にて調製したアンダーコート液2を使用した以外は、参考例1−1と同様にして、アンダーコート層及び表面潤滑層を順次基材1上に形成した(医療用具2)。
【0095】
実施例1−3:医療用具3の製造
変性ポリエチレン(三菱化学株式会社製 モディック(登録商標)M512)シート(18mm×40mm×1mm)(変性PEシート)をアセトンで払拭して、基材とした(基材1)。
【0096】
アクリル樹脂(DIC株式会社製、ファインタック CT−6020)を、樹脂分15質量%の濃度になるようにアセトンに添加した後、芳香族系粘着付与剤であるテルペンフェノール樹脂(ヤスハラケミカル株式会社製、YSポリスターK125)をアクリル樹脂100質量部に対して1質量部になるように添加して、アンダーコート液3を調製した。
【0097】
合成例1にて製造したブロックコポリマー(DMAA:GMA=11:1(モル比))(ブロックコポリマー1)を、3.5質量%の濃度になるようにテトラヒドロフラン(THF)に添加し、塗布液Aを調製した。
【0098】
上記基材1を上記にて調製したアンダーコート液3に浸漬して間もなく、15mm/secの速さにて引上げてコーティングを行い、30分間風乾した(基材3−1)。風乾後、この基材3−1を60℃のオーブンで1時間加熱することによって、基材1(変性ポリエチレンシート)の表面にアンダーコート層を形成(固定化)した(基材3−2)。その後、この基材3−2を、上記にて調製した塗布液A浸漬して間もなく、15mm/secの速さにて引上げてコーティングを行い、30分間風乾した(基材3−3)。風乾後、この基材3−3を80℃のオーブン中で5時間反応させることによって、表面潤滑層をアンダーコート層上に形成した(医療用具3)。
【0099】
実施例1−4:医療用具4の製造
アクリル樹脂(DIC株式会社製、ファインタック CT−6020)を、樹脂分15質量%の濃度になるようにアセトンに添加した後、芳香族系粘着付与剤であるテルペンフェノール樹脂(ヤスハラケミカル株式会社製、YSポリスターU115)をアクリル樹脂100質量部に対して3質量部になるように添加して、アンダーコート液4を調製した。実施例1−3において、アンダーコート液3の代わりに、上記にて調製したアンダーコート液4を使用した以外は、実施例1−3と同様にして、アンダーコート層及び表面潤滑層を順次基材1上に形成した(医療用具4)。
【0100】
実施例1−5:医療用具5の製造
アクリル樹脂(DIC株式会社製、ファインタック CT−6020)を、樹脂分15質量%の濃度になるようにアセトンに添加した後、芳香族系粘着付与剤であるテルペンフェノール樹脂(ヤスハラケミカル株式会社製、YSポリスターT100)をアクリル樹脂100質量部に対して10質量部になるように添加して、アンダーコート液5を調製した。実施例1−3において、アンダーコート液3の代わりに、上記にて調製したアンダーコート液5を使用した以外は、実施例1−3と同様にして、アンダーコート層及び表面潤滑層を順次基材1上に形成した(医療用具5)。
【0101】
実施例1−6:医療用具6の製造
アクリル樹脂(DIC株式会社製、ファインタック CT−6020)を、樹脂分15質量%の濃度になるようにアセトンに添加した後、芳香族系粘着付与剤であるテルペンフェノール樹脂(ヤスハラケミカル株式会社製、YSポリスターT100)をアクリル樹脂100質量部に対して20質量部になるように添加して、アンダーコート液6を調製した。実施例1−3において、アンダーコート液3の代わりに、上記にて調製したアンダーコート液6を使用した以外は、実施例1−3と同様にして、アンダーコート層及び表面潤滑層を順次基材1上に形成した(医療用具6)。
【0102】
実施例1−7:医療用具7の製造
アクリル樹脂(DIC株式会社製、ファインタック CT−6020)を、樹脂分15質量%の濃度になるようにアセトンに添加した後、芳香族系粘着付与剤であるテルペンフェノール樹脂(ヤスハラケミカル株式会社製、YSポリスターT100)をアクリル樹脂100質量部に対して50質量部になるように添加して、アンダーコート液7を調製した。実施例1−3において、アンダーコート液3の代わりに、上記にて調製したアンダーコート液7を使用した以外は、実施例1−3と同様にして、アンダーコート層及び表面潤滑層を順次基材1上に形成した(医療用具7)。
【0103】
実施例1−8:医療用具8の製造
アクリル樹脂(DIC株式会社製、ファインタック CT−6020)を、樹脂分15質量%の濃度になるようにアセトンに添加した後、芳香族系粘着付与剤であるテルペンフェノール樹脂(ヤスハラケミカル株式会社製、YSポリスターT100)をアクリル樹脂100質量部に対して60質量部になるように添加して、アンダーコート液8を調製した。実施例1−3において、アンダーコート液3の代わりに、上記にて調製したアンダーコート液8を使用した以外は、実施例1−3と同様にして、アンダーコート層及び表面潤滑層を順次基材1上に形成した(医療用具8)。
【0104】
実施例1−9:医療用具9の製造
アクリル樹脂(DIC株式会社製、ファインタック CT−6020)を、樹脂分15質量%の濃度になるようにアセトンに添加した後、芳香族系粘着付与剤であるテルペンフェノール樹脂(ヤスハラケミカル株式会社製、YSポリスターT100)をアクリル樹脂100質量部に対して70質量部になるように添加して、アンダーコート液9を調製した。実施例1−3において、アンダーコート液3の代わりに、上記にて調製したアンダーコート液9を使用した以外は、実施例1−3と同様にして、アンダーコート層及び表面潤滑層を順次基材1上に形成した(医療用具9)。
【0105】
実施例1−10:医療用具10の製造
変性ポリエチレン(三菱化学株式会社製 モディック(登録商標)M512)シート(18mm×40mm×1mm)(変性PEシート)をアセトンで払拭して、基材とした(基材1)。
【0106】
芳香族系粘着付与剤及びアクリル樹脂を含有したアンダーコートファインタック CT−5020(DIC株式会社製、芳香族系粘着付与剤の含有量:アクリル樹脂に対して、約42質量%;以下同様)を、樹脂分9質量%の濃度になるようにアセトンに添加し、アンダーコート液10を調製した。なお、上述したように、アンダーコートファインタック CT−5020は、芳香族系粘着付与剤を、アクリル樹脂に対して約42質量%の割合で含む(上記参考例1参照)。また、上記アンダーコートファインタック CT−5020に含まれる芳香族系粘着付与剤は、デヒドロアビエチン酸を有するロジン樹脂およびスチレン系モノマーと脂肪族系モノマーとの共重合樹脂の混合物である(以下同様)。
【0107】
合成例1にて製造したブロックコポリマー(DMAA:GMA=11:1(モル比))(ブロックコポリマー1)を、3.5質量%の濃度になるようにテトラヒドロフラン(THF)に添加し、塗布液Aを調製した。
【0108】
上記基材1を上記にて調製したアンダーコート液10に浸漬して間もなく、15mm/secの速さにて引上げてコーティングを行い、30分間風乾した(基材10−1)。風乾後、この基材10−1を60℃のオーブンで1時間加熱することによって、基材1(変性ポリエチレンシート)の表面にアンダーコート層を形成(固定化)した(基材10−2)。その後、この基材10−2を、上記にて調製した塗布液Aに浸漬して間もなく、15mm/secの速さにて引上げてコーティングを行い、30分間風乾した(基材10−3)。風乾後、この基材10−3を80℃のオーブン中で5時間反応させることによって、表面潤滑層をアンダーコート層上に形成した(医療用具10)。
【0109】
実施例1−11:医療用具11の製造
芳香族系粘着付与剤及びアクリル樹脂を含有したアンダーコートファインタック CT−5020(DIC株式会社製)を、樹脂分9質量%の濃度になるようにアセトンに添加し、アセトン溶液を調製した。このアセトン溶液に、架橋剤としてポリイソシアネート化合物(DIC株式会社製、FINETACK HARDENER D40)を、アクリル樹脂に対して15質量%になるように添加して、アンダーコート液11を調製した。実施例1−10において、アンダーコート液10の代わりに、上記にて調製したアンダーコート液11を使用した以外は、実施例1−10と同様にして、アンダーコート層及び表面潤滑層を順次基材1上に形成した(医療用具11)。
【0110】
実施例1−12:医療用具12の製造
ポリアミドエラストマー(エムスケミー・ジャパン株式会社製 グリルフレックス(登録商標)ELG5660)シート(18mm×40mm×1mm)をアセトンで払拭して、基材とした(基材2)。
【0111】
実施例1−11において、基材1の代わりに、上記基材2を使用した以外は、実施例1−11と同様にして、アンダーコート層及び表面潤滑層を順次基材2上に形成した(医療用具12)。
【0112】
実施例1−13:医療用具13の製造
SUS304シート(18mm×40mm×1mm)をアセトンで払拭して、基材とした(基材3)。
【0113】
実施例1−11において、基材1の代わりに、上記基材3を使用した以外は、実施例11と同様にして、アンダーコート層及び表面潤滑層を順次基材3上に形成した(医療用具13)。
【0114】
実施例1−14:医療用具14の製造
ポリビニルピロリドン(PVP)(東京化成工業株式会社製、K−90製)及び自己架橋性水系ウレタン樹脂(三井化学株式会社製、タケラック(登録商標)WS−5000)を、それぞれ、3.5質量%の濃度になるようにエタノールに添加し、塗布液B(PVP:ウレタン樹脂=1:1(質量比))を調製した。
【0115】
実施例1−11において、塗布液Aの代わりに、上記にて調製した塗布液Bを使用した以外は、実施例1−11と同様にして、アンダーコート層及び表面潤滑層を順次基材1上に形成した(医療用具14)。
【0116】
実施例1−15:医療用具15の製造
変性ポリエチレン(三菱化学株式会社製 モディック(登録商標)M512)シート(18mm×40mm×1mm)(変性PEシート)をアセトンで払拭して、基材とした(基材1)。
【0117】
スチレンブタジエンゴム(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製、製品番号:182907)を、樹脂分4質量%の濃度になるようにテトラヒドロフラン(THF)に添加した後、芳香族系粘着付与剤であるテルペンフェノール樹脂(ヤスハラケミカル株式会社製、YSポリスターT100)をスチレンブタジエンゴム100質量部に対して20質量部になるように添加して、アンダーコート液15を調製した。
【0118】
合成例1にて製造したブロックコポリマー(DMAA:GMA=11:1(モル比))(ブロックコポリマー1)を、3.5質量%の濃度になるようにテトラヒドロフラン(THF)に添加し、塗布液Aを調製した。
【0119】
上記基材1を上記にて調製したアンダーコート液15に浸漬して間もなく、15mm/secの速さにて引上げてコーティングを行い、30分間風乾した(基材15−1)。風乾後、この基材15−1を60℃のオーブンで1時間加熱することによって、基材1(変性ポリエチレンシート)の表面にアンダーコート層を形成(固定化)した(基材15−2)。その後、この基材15−2を、上記にて調製した塗布液Aに浸漬して間もなく、15mm/secの速さにて引上げてコーティングを行い、30分間風乾した(基材15−3)。風乾後、この基材15−3を80℃のオーブン中で5時間反応させることによって、表面潤滑層をアンダーコート層上に形成した(医療用具15)。
【0120】
比較例1−1:比較医療用具1の製造
アクリル樹脂(DIC株式会社製、ファインタック CT−6020)を、樹脂分15質量%の濃度になるようにアセトンに添加して、比較アンダーコート液1を調製した。実施例1−3において、アンダーコート液3の代わりに、上記にて調製した比較アンダーコート液1を使用した以外は、実施例1−3と同様にして、アンダーコート層及び表面潤滑層を順次基材1上に形成した(比較医療用具1)。
【0121】
比較例1−2:比較医療用具2の製造
アクリル樹脂(DIC株式会社製、ファインタック CT−6020)を、樹脂分15質量%の濃度になるようにアセトンに添加した後、芳香族系粘着付与剤であるテルペンフェノール樹脂(ヤスハラケミカル株式会社製、YSポリスターT100)をアクリル樹脂100質量部に対して90質量部になるように添加して、比較アンダーコート液2を調製した。実施例1−3において、アンダーコート液3の代わりに、上記にて調製した比較アンダーコート液2を使用した以外は、実施例1−3と同様にして、アンダーコート層及び表面潤滑層を順次基材1上に形成した(比較医療用具2)。
【0122】
比較例1−3:比較医療用具3の製造
変性ポリエチレン(三菱化学株式会社製 モディック(登録商標)M512)シート(18mm×40mm×1mm)(変性PEシート)をアセトンで払拭して、基材とした(基材1)。
【0123】
合成例1にて製造したブロックコポリマー(DMAA:GMA=11:1(モル比))(ブロックコポリマー1)を、3.5質量%の濃度になるようにテトラヒドロフラン(THF)に添加し、塗布液Aを調製した。
【0124】
上記基材1を上記にて調製した塗布液Aに浸漬して間もなく、15mm/secの速さにて引上げてコーティングを行い、30分間風乾した(比較基材3)。風乾後、この比較基材3を80℃のオーブン中で5時間反応させることによって、表面潤滑層を基材1上に形成した(比較医療用具3)。
【0125】
比較例1−4:比較医療用具4の製造
ポリアミドエラストマー(EMS製 グリルフレックス(登録商標)ELG5660)シート(18mm×40mm×1mm)をアセトンで払拭して、基材とした(基材2)。
【0126】
比較例1−3において、基材1の代わりに、上記基材2を使用した以外は、比較例1−3と同様にして、表面潤滑層を基材2上に形成した(比較医療用具4)。
【0127】
比較例1−5:比較医療用具5の製造
SUS304シート(18mm×40mm×1mm)をアセトンで払拭して、基材とした(基材3)。
【0128】
比較例1−3において、基材1の代わりに、上記基材3を使用した以外は、比較例1−3と同様にして、表面潤滑層を基材3上に形成した(比較医療用具5)。
【0129】
比較例1−6:比較医療用具6の製造
ポリビニルピロリドン(PVP)(東京化成工業株式会社製、K−90)及び自己架橋性水系ウレタン樹脂(三井化学株式会社製、タケラック(登録商標)WS−5000)を、それぞれ、3.5質量%の濃度になるようにエタノールに添加し、塗布液B(PVP:ウレタン樹脂=1:1(質量比))を調製した。
【0130】
比較例1−3において、塗布液Aの代わりに、上記にて調製した塗布液Bを使用した以外は、比較例1−3と同様にして、表面潤滑層を基材1上に形成した(比較医療用具6)。
【0131】
比較例1−7:比較医療用具7の製造
スチレンブタジエンゴム(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製、製品番号:182907)を、樹脂分4質量%の濃度になるようにテトラヒドロフラン(THF)に添加して、比較アンダーコート液7を調製した。
【0132】
実施例1−14において、アンダーコート液14の代わりに、上記にて調製した比較アンダーコート液7を使用した以外は、実施例14と同様にして、アンダーコート層及び表面潤滑層を順次基材1上に形成した(比較医療用具7)。すなわち、本比較例では、実施例1−14において、芳香族系粘着付与剤(YSポリスターT100)を添加しなかった以外は実施例1−14と同様である。
【0133】
実施例2−1:医療用具16の製造
変性ポリエチレン(東ソー製、ニチポロン ZF260)チューブ(直径(φ)1.0mm,長さ5cm)(変性ポリエチレンチューブ)をアセトンで払拭して、基材とした(基材4)。
【0134】
実施例1−11において、基材1の代わりに、上記基材4を使用した以外は、実施例1−11と同様にして、アンダーコート層及び表面潤滑層を順次基材4上に形成した(医療用具16)。
【0135】
実施例2−2:医療用具17の製造
変性ポリエチレン(東ソー製 ニチポロン ZF260)チューブ(直径(φ)1.0mm,長さ5cm)(変性ポリエチレンチューブ)をアセトンで払拭して、基材とした(基材4)。
【0136】
実施例1−10において、基材1の代わりに、上記基材4を使用した以外は、実施例1−10と同様にして、アンダーコート層及び表面潤滑層を順次基材4上に形成した(医療用具17)。
【0137】
実施例2−3:医療用具18の製造
変性ポリエチレン(東ソー製 ニチポロン ZF260)チューブ(直径(φ)1.0mm,長さ5cm)(変性ポリエチレンチューブ)をアセトンで払拭して、基材とした(基材4)。
【0138】
実施例1−14において、基材1の代わりに、上記基材4を使用した以外は、実施例1−14と同様にして、アンダーコート層及び表面潤滑層を順次基材4上に形成した(医療用具18)。
【0139】

比較例2−1:比較医療用具8の製造
変性ポリエチレン(東ソー製 ニチポロン ZF260)チューブ(直径(φ)1.0mm,長さ5cm)(変性ポリエチレンチューブ)をアセトンで払拭して、基材とした(基材4)。
【0140】
比較例1−3において、基材1の代わりに、上記基材4を使用した以外は、比較例1−3と同様にして、アンダーコート層及び表面潤滑層を順次基材4上に形成した(比較医療用具8)
上記参考例1−1ならびに実施例1−2〜1−15及び2−1〜2−3で製造した医療用具1〜18および上記比較例1−1〜1−7及び2−1で製造した比較医療用具1〜8について、下記方法に従って、耐久性(表面潤滑層の耐久性)を評価した。
【0141】
[耐久性評価]
各医療用具(以下、単に「サンプル」とも略記する)について、下記方法にしたがって、図1に示される摩擦測定機20を用いて、表面潤滑層の摺動抵抗値(gf)を測定し、耐久性を評価した。
【0142】
すなわち、各サンプル16をシャーレ12中に固定し、サンプル16全体が浸る高さの水17中に浸漬した。このシャーレ12を、図1に示される摩擦測定機(トリニティーラボ社製、ハンディートライボマスターTL201)20の移動テーブル15に載置した。円柱状ポリエチレン(PE)端子(φ10mm、R1mm)13をサンプル16に接触させ、端子13上に、サンプル16がシート形状の場合は450g、サンプル16がチューブ形状の場合は50gの荷重14をかけた。速度16.7mm/sec、移動距離2cmの設定で、移動テーブル15を水平に50回往復移動させた際の摺動抵抗値(gf)を測定した。1往復目から50往復目までの摺動抵抗値を往復回数毎に平均し、摺動抵抗値(gf)としてグラフにプロットすることにより、50回の繰り返し摺動に対する潤滑耐久性を評価した。なお、各試験において、1個のサンプルについて試験を行った。また、摺動抵抗値(gf)は低いほど表面潤滑性に優れることを意味する。
【0143】
上記医療用具1〜18および比較医療用具1〜8の結果を、それぞれ、図2〜22に示す。また、図2〜27の結果を下記基準に従って評価し、その結果を下記表2に要約する。なお、下記表2中、「変性PE」は、変性ポリエチレンを示す。また、下記表2中、「p(DMAA−b−GMA)」は、上記合成例1と同様にして製造したブロックコポリマー1(DMAA:GMA=11:1(モル比))を示す。
【0144】
(サンプル16がシート形状の場合の判定基準)
×:摺動回数が5〜29回で、摺動抵抗値が30gf以上である;
△:摺動回数が30〜49回で、摺動抵抗値が30gf以上である;
○:摺動回数が50回で、摺動抵抗値が30gfに達しない。
【0145】
(サンプル16がチューブ形状の場合の判定基準)
× 摺動回数が1回〜5回で、摺動抵抗値が10gf以上に達する
△ 摺動回数が6〜49回で、摺動抵抗値が10gf以上に達する
○ 摺動回数が50回で、摺動抵抗値が10gfに達しない
【0146】
【表2-1】
【0147】
【表2-2】
【0148】
【表2-3】
【0149】
上記表2及び図2〜7から、本発明の医療用具1〜15は、粘着付与剤を含まないアンダーコート層を有する比較医療用具1及び7、粘着付与剤を過剰に含むアンダーコート層を有する比較医療用具2、ならびにアンダーコート層を持たない比較医療用具3〜6及び8に比して、潤滑性及び耐久性(潤滑維持性)が有意に向上することが分かる。
【0150】
図2では、非芳香族系粘着付与剤及びアクリル樹脂を含有するアンダーコート層を有する医療用具1(参考1−1)では、50回往復移動において徐々に摺動抵抗値が増大し、摺動回数35回付近で摺動抵抗値が30gfを超えている。一方、図3では、芳香族系粘着付与剤及びアクリル樹脂を含有するアンダーコート層を有する医療用具2(実施例1−2)では、50回往復後においても良好な潤滑性を維持している。これから、粘着付与剤として芳香族系粘着付与剤を用いることによって、表面潤滑層の耐久性(潤滑性を維持する効果)をより向上できることが考察される。
【0151】
図4〜10から、粘着付与剤含有量がアクリル樹脂100質量部に対して1〜70質量部であると、医療用具は、50回往復後においても良好な潤滑性を維持している(医療器具の表面潤滑層は耐久性に優れる)ことが分かる。一方、図17及び図18に示されるように、粘着付与剤含有量がアクリル樹脂100質量部に対して0質量部または90質量部であると、初期の段階で摺動抵抗値が30gfを超え、潤滑性を維持する効果が低い。このことから、粘着付与剤含有量がアクリル樹脂100質量部に対して90質量部未満である必要があり、特に1〜70質量部であれば、医療用具の表面潤滑層は十分良好な潤滑性及び耐久性を発揮できると考察される。
【0152】
図12〜14より、基材が変性ポリエチレンシート、ポリアミドエラストマーシート及びSUS304シートである医療用具すべてにおいて、50回往復後においても良好な潤滑性を維持していることが分かる。また、図12〜14と図19〜21とのそれぞれの比較により、アンダーコート層を設けることによって、表面潤滑層の耐久性を有意に向上できることが分かる。以上の結果から、本発明の医療用具の表面潤滑層は、基材の種類にかかわらず、アンダーコート層を設けることで、優れた潤滑性及び耐久性を発揮できることが考察される。
【0153】
図11及び図12では、アンダーコート層に架橋剤を添加する如何にかかわらず、耐久性に大きな差異は認められない。一方、図24と25との比較では、架橋剤をアンダーコート層に添加する(図24)の方が耐久性に優れることが分かる。このことから、より高負荷をかけた場合には、親水性ポリマーとしてDMAAとGMAとのブロック共重合体を使用した方が、架橋剤をアンダーコート層に添加することにより、耐久性をより顕著に向上できることが考察される。
【0154】
図15より、親水性ポリマーとしてポリビニルピロリドンを使用した場合であっても、50回往復後においても良好な潤滑性を維持できることが分かる。一方、図22に示されるように、アンダーコート層を設けない場合には、初回から摺動抵抗値が増大することが示される。以上の結果から、本発明の医療用具の表面潤滑層は、親水性ポリマーの種類にかかわらず、アンダーコート層を設けることで、優れた潤滑性及び耐久性を発揮できることが考察される。なお、図12及び図15との比較では、親水性ポリマーでの耐久性の差はあまり認められない。一方、図24及び図26との比較から、より高負荷をかけた場合には(接触している面積に対しての負荷がより高い条件では)、親水性ポリマーとしてDMAAとGMAとのブロック共重合体を使用した方が、ポリビニルピロリドンを使用した場合に比して、優れた耐久性を発揮できることが考察される。
【0155】
図16より、ベースポリマーとしてスチレンブタジエンゴムを使用した場合であっても、50回往復後においても良好な潤滑性を維持できることが分かる。一方、図23に示されるように、アンダーコート層に粘着付与剤を添加しない場合には、初期の段階(摺動回数が15回程度)で摺動抵抗値が30gfを超えることが示される。以上の結果から、本発明の医療用具の表面潤滑層は、ベースポリマーの種類にかかわらず、アンダーコート層を設けることで、優れた潤滑性及び耐久性を発揮できることが考察される。
【符号の説明】
【0156】
12 シャーレ、
13 円柱状ポリエチレン端子、
14 荷重、
15 移動テーブル、
16 医療用具(サンプル)、
17 水、
20 摩擦測定機。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
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図24
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図26
図27