特許第6776052号(P6776052)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6776052
(24)【登録日】2020年10月9日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】負圧波発生装置
(51)【国際特許分類】
   B61K 13/00 20060101AFI20201019BHJP
   E21D 9/14 20060101ALI20201019BHJP
   E21F 17/00 20060101ALI20201019BHJP
   E21F 1/00 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   B61K13/00 Z
   E21D9/14
   E21F17/00
   E21F1/00
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-155411(P2016-155411)
(22)【出願日】2016年8月8日
(65)【公開番号】特開2018-24273(P2018-24273A)
(43)【公開日】2018年2月15日
【審査請求日】2019年6月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】309036221
【氏名又は名称】三菱重工機械システム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】竹井 佳子
(72)【発明者】
【氏名】工藤 敏文
(72)【発明者】
【氏名】山本 健太
(72)【発明者】
【氏名】木村 宣幸
(72)【発明者】
【氏名】後藤 貴士
(72)【発明者】
【氏名】山本 達也
【審査官】 諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−240099(JP,A)
【文献】 特開平08−068475(JP,A)
【文献】 特開平05−209404(JP,A)
【文献】 特開2009−085201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61K 13/00
E21D 9/14
E21F 1/00−17/18
F16K 51/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの坑口から外部に向けてパルス状に放射されるトンネル微気圧波に対して、パルス状に発生させた負圧波を干渉させることにより、正のパルス波となるトンネル微気圧波を負のパルス波となる負圧波によって相殺する負圧波発生装置であって、
内部を真空状態に維持することが可能となる真空容器と、
前記真空容器に開口する開口部と、
前記開口部を開閉可能に支持され、前記真空容器の内外圧力差のみによって、当該真空容器の内側に向けて開く弁体とを備える
ことを特徴とする負圧波発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の負圧波発生装置において、
前記開口部の上流側端部は、所定の曲率半径を有するR形状となり、前記開口部における前記上流側端部よりも下流側の部位は、凹凸が無い平坦となると共に、
前記弁体の上流側端部は、所定の曲率半径を有するR形状となり、前記弁体における前記上流側端部よりも下流側の部位は、凹凸が無い平坦となる
ことを特徴とする負圧波発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの坑口から外部に向けて放射されるトンネル微気圧波を低減するための負圧波発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル微気圧波とは、列車のトンネルへの突入によって生じた空気の圧縮波が、トンネル内を音速で伝播し、パルス状の圧力波となって、反対側の坑口から外部に向けて放射される空気力学的現象である。
【0003】
具体的には、列車が高速でトンネルに突入すると、その列車前方の空気が圧縮されて、その圧力が上昇し、これが圧縮波となって、トンネル内を出口に向けてほぼ音速で伝播する。そして、その圧縮波がトンネルの出口に到達すると、その大部分は、反射してトンネルの入口側に向けて戻る一方、その一部分は、パルス状の圧力波となって、トンネルの出口から外部に向けて放射される。一般的に、このような、パルス状の圧力波は、トンネル微気圧波と呼ばれている。
【0004】
また、トンネル微気圧波が放射された場合には、その圧力が解放されて低下し、空気が急激に膨張するため、トンネルの出口周辺に、大きな空気圧音(破裂音、発破音)が発生することがある。このような、トンネル微気圧波に起因する空気圧音は、列車のトンネル突入速度が高くなる程、大きくなる傾向にあり、空気圧音の大きさによっては、近隣家屋に振動騒音を与えることになり、沿線の環境問題を引き起こすおそれがある。
【0005】
そこで、従来から、トンネル微気圧波を低減させるための装置が、種々提供されている。この装置においては、トンネル微気圧波がトンネルの出口から放射されると同時に、パルス状の負圧波を発生させて、トンネル微気圧波に干渉させるようにしている。つまり、正のパルス波となるトンネル微気圧波を、負のパルス波となる負圧波によって相殺するようにしている。
【0006】
そして、上述したような、従来の負圧波発生装置としては、例えば、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−209404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、上記従来の負圧波発生装置においては、真空容器に開口された開口部を、弁体によって開閉可能としている。そして、弁体に作用する内外圧力差と、駆動用ばねのばね力とによって、弁体を開けることにより、外気を開口部から真空容器内に吸い込んで、負圧波を発生させるようにしている。
【0009】
しかしながら、上記従来の負圧波発生装置においては、駆動用ばねを備えているため、その伸縮時における駆動用ばねと他部材との接触に伴って、摩擦音や衝突音等の可聴音が発生することになる。そして、沿線の環境問題という観点から考えれば、そのような可聴音に対しても、何らかの対策を講じる必要がある。
【0010】
従って、本発明は上記課題を解決するものであって、可聴音の発生を抑制しつつ、トンネル微気圧波を低減することができる負圧波発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する第1の発明に係る負圧波発生装置は、
トンネルの坑口から外部に向けてパルス状に放射されるトンネル微気圧波に対して、パルス状に発生させた負圧波を干渉させることにより、正のパルス波となるトンネル微気圧波を負のパルス波となる負圧波によって相殺する負圧波発生装置であって、
内部を真空状態に維持することが可能となる真空容器と、
前記真空容器に開口する開口部と、
前記開口部を開閉可能に支持され、前記真空容器の内外圧力差のみによって、当該真空容器の内側に向けて開く弁体とを備える
ことを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決する第2の発明に係る負圧波発生装置は、
前記開口部の上流側端部は、所定の曲率半径を有するR形状となり、前記開口部における前記上流側端部よりも下流側の部位は、凹凸が無い平坦となると共に、
前記弁体の上流側端部は、所定の曲率半径を有するR形状となり、前記弁体における前記上流側端部よりも下流側の部位は、凹凸が無い平坦となる
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
従って、本発明に係る負圧波発生装置によれば、弁体を、真空容器の内外圧力差のみを利用して、開けるようにすることにより、可聴音の発生を抑制しつつ、トンネル微気圧波を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施例に係る負圧波発生装置の縦断面図である。
図2図1の要部拡大図である。
図3】本発明に係る負圧波発生装置によって発生された負圧波がトンネル微気圧波と干渉する様子を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る負圧波発生装置について、図面を用いて詳細に説明する。なお、図1及び図2においては、実線の矢印を、部材の移動方向として示すと共に、白抜きの矢印を、外気の吸引流れ方向として示している。
【実施例】
【0016】
先ず始めに、図3に示すように、トンネル100には、列車200が、入口(坑口)101から高速で突入し、その反対側となる出口(坑口)102から退出する。このように、列車200が高速でトンネル100内に突入した際には、パルス状の圧力波となるトンネル微気圧波W2が、出口102から外部に向けて放射されるときがある。そこで、本発明に係る負圧波発生装置1は、例えば、トンネル100の出口102付近に設けられており、上記トンネル微気圧波W2に対して、負圧波W3を発生させることにより、そのトンネル微気圧波W2を低減可能となっている。
【0017】
図1に示すように、負圧波発生装置1は、円筒状をなす真空容器11を有している。この真空容器11の前端部11aには、円形をなす開口部11bが開口されている。また、真空容器11内には、円盤状をなす弁体12が、開口部11bに対して、進退可能に支持されている。この弁体12は、開口部11bと同軸状に配置されており、当該開口部11bを開閉可能となっている。
【0018】
弁体12の中心部には、弁軸13の前端が嵌入されており、この弁軸13の軸方向中間部には、保持板14が嵌入されている。一方、真空容器11の内周面には、複数の支持フレーム15,16が、その中心部に向けて延びるように支持されている。そして、支持フレーム15,16の先端は、弁軸13を軸方向に摺動可能に支持している。即ち、弁体12の開閉方向は、弁軸13の軸方向、及び、開口部11bの中心軸方向と一致している。
【0019】
また、支持フレーム15の後面には、環状をなす磁石収納部材17が、弁軸13を中心として支持されている。この磁石収納部材17内には、複数の電磁石18が、弁軸13の径方向外側で、且つ、弁軸13の周方向に所定の間隔で収納されている。これらの電磁石18は、保持板14と軸方向において対向しており、その内部に励磁電流が流されると、保持板14を吸着可能となっている。そして、磁石収納部材17には、保持板14が電磁石18を軸方向外側から覆うように当接可能となっている。
【0020】
これに対して、支持フレーム16の前面には、環状をなすストッパ部材19が、弁軸13を中心として支持されている。このストッパ部材19は、ゴムやウレタン等の弾性材料から形成されており、保持板14と軸方向において対向している。つまり、ストッパ部材19は、軸方向に伸縮可能となっており、その前端に当接した保持板14のそれ以上の後退を規制すると共に、その当接時における衝撃を吸収可能となっている。なお、ストッパ部材19として、ショックアブソーバ等の緩衝器や、油圧ダンパを採用しても構わない。
【0021】
更に、真空容器11の後端中心部には、油圧シリンダ20が、弁軸13と同軸状に設けられている。この油圧シリンダ20は、ピストンロッド20aを軸方向に伸縮可能としている。つまり、油圧シリンダ20のピストンロッド20aは、弁軸13の後端面を押圧可能となっている。
【0022】
そして、真空容器11には、ポンプ接続口11cが形成されており、このポンプ接続口11cには、真空ポンプ21が接続されている。これにより、真空ポンプ21を駆動させることにより、真空容器11内を所定の圧力(真空状態)に維持することができる。このように、真空容器11の内圧を、外気の圧力(大気圧)よりも低圧とすることによって、弁体12に対して内外圧力差が作用することになり、その内外圧力差を利用して、弁体12の開動作を行うようにしている。
【0023】
ここで、図2に示すように、開口部11bの内周縁における上流側端部(上流側角部)は、所定の曲率半径を有するR形状をなしており、その内周縁における上流側端部よりも下流側の部位は、凹凸(段差)が無い平坦をなしている。これに対して、弁体12の外周縁における上流側端部(上流側角部)は、所定の曲率半径を有するR形状をなしており、その外周縁における上流側端部よりも下流側の部位は、凹凸(段差)が無い平坦をなしている。このような、弁形状(バルブ形状)及び通気口形状(ポート形状)を採用することにより、外気が開口部11bと弁体12との間の開口を通過する際の流動音を抑えることができる。
【0024】
よって、弁体12を開ける場合には、先ず、真空ポンプ21を駆動させて、真空容器11内を真空状態に維持する。これにより、弁体12には、内外圧力差が作用することになる。
【0025】
次いで、電磁石18への通電を停止することにより、当該電磁石18による保持板14への吸着力を解放する。これにより、弁体12は、作用する内外圧力差によって、自然と開くことになり、この弁体12が開くと同時に、開口部11bから負圧波W3が発生する。
【0026】
即ち、電磁石18による保持板14への吸着力が解放されると、弁体12は、真空容器11の内外圧力差のみによって開くことになり、負圧波W3が発生する。
【0027】
そして、弁体12の開動作に伴って、弁軸13と共に後退した保持板14は、ストッパ部材19に当接した後、そのストッパ部材19を押し込むことにより停止する。これにより、弁体12が全開状態となる。このとき、弁体12の開動作に伴って発生した衝撃は、ストッパ部材19によって吸収される。
【0028】
また、弁体12を閉める場合には、先ず、油圧シリンダ20のピストンロッド20aを伸長させて、弁軸13の後端面をそのピストンロッド20aによって押圧する。これにより、弁軸13が軸方向に前進するため、弁体12は、開口部11bに着座して、全閉状態となる。
【0029】
これと同時に、弁体12の閉動作に伴って、弁軸13と共に前進した保持板14は、ストッパ部材19から離脱して、磁石収納部材17に当接した後、電磁石18に吸着される。これにより、弁軸13の軸方向への移動が規制されることになり、弁体12の全閉状態が保持される。
【0030】
以上より、図3に示すように、列車200が高速でトンネル100の入口101に突入すると、当該トンネル100内における入口101側において、列車200の前方に圧縮波W1が発生する。この圧縮波W1は、発生後直ちに、トンネル100内を出口102に向けて音速で伝播した後、その圧縮波W1の一部が、パルス状の圧力波となるトンネル微気圧波W2として、出口102から外部に向けて放射される。
【0031】
これと同時に、負圧波発生装置1を駆動させて、パルス状の負圧波W3を発生させる。これにより、正のパルス波となるトンネル微気圧波W2に対して、負のパルス波となる負圧波W3を干渉させることができるため、当該トンネル微気圧波W2が低減される。
【0032】
具体的には、トンネル微気圧波W2が放射されると、電磁石18による保持板14への吸着力を解放する。これにより、真空容器11内は、真空ポンプ21の駆動によって予め真空状態に維持されているため、全閉状態の弁体12は、真空容器11の内外圧力差によって開き始める。このように、弁体12が開くと、負圧波W3が開口部11bから発生して、トンネル微気圧波W2が低減される。
【0033】
このとき、弁体12の開動作は、ばね等の付勢部材による付勢力を使用することなく、真空容器11の内外圧力差のみによって行われるため、弁体12は静かに開く。また、外気が開口部11bと弁体12との間の開口を通過する際には、当該外気が滑らかに流れるため、流動音の発生が抑制されている。
【0034】
次いで、真空容器11内が外気によって満たされると、油圧シリンダ20を駆動させて、弁体12を閉め始める。そして、弁体12が開口部11bに着座して、当該弁体12が全閉状態になると、真空ポンプ21を駆動させて、真空容器11内を真空状態に維持する。これにより、負圧波発生装置1は、次回放射されるトンネル微気圧波W2に対して、待機状態となる。
【0035】
従って、本発明に係る負圧波発生装置1によれば、弁体12を、真空容器11の内外圧力差のみを利用して、開けるようにすることにより、摩擦音や衝突音等の可聴音の発生を抑制しつつ、トンネル微気圧波W2を低減させることができる。また、上述した弁形状及び通気口形状を採用することにより、外気が開口部11bと弁体12との間の開口を通過する際の流動音を抑えることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 負圧波発生装置
11 真空容器
11b 開口部
12 弁体
13 弁軸
14 保持板
15,16 支持フレーム
17 磁石収納部材
18 電磁石
19 ストッパ部材
20 油圧シリンダ
21 真空ポンプ
100 トンネル
200 列車
W1 圧縮波
W2 トンネル微気圧波
W3 負圧波
図1
図2
図3