特許第6776061号(P6776061)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6776061
(24)【登録日】2020年10月9日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】パワープラント
(51)【国際特許分類】
   B60K 5/02 20060101AFI20201019BHJP
   B60K 17/04 20060101ALI20201019BHJP
   B60K 17/22 20060101ALI20201019BHJP
   B60K 17/344 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   B60K5/02 E
   B60K17/04 N
   B60K17/22 Z
   B60K17/344 B
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-167891(P2016-167891)
(22)【出願日】2016年8月30日
(65)【公開番号】特開2018-34580(P2018-34580A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】高本 大介
(72)【発明者】
【氏名】田中 正広
(72)【発明者】
【氏名】米本 真也
(72)【発明者】
【氏名】穴井 稔
【審査官】 鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−135250(JP,A)
【文献】 特開2015−209152(JP,A)
【文献】 特開昭62−247924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 5/02
B60K 17/04
B60K 17/22
B60K 17/344
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦置きで搭載される内燃機関と、
前記内燃機関が発生する動力を変速する変速機と、
前記変速機が出力する動力を前後方向の一方側と他方側とに分配するトランスファと、
前記トランスファにプロペラシャフトを介さずに連結され、前記トランスファから前記一方側に分配される動力を左右の駆動輪に分配する一方側差動装置と、
前記トランスファにプロペラシャフトを介して連結され、前記トランスファから前記他方側に分配される動力を左右の駆動輪に分配する他方側差動装置とを含み、
前記内燃機関のクランクシャフトおよび前記変速機のアウトプット軸が前後方向に延び、前記内燃機関、前記変速機、前記トランスファおよび前記一方側差動装置が一直線上に並べられている、パワープラント。
【請求項2】
縦置きで搭載される内燃機関と、
前記内燃機関から動力が入力されるロックアップ機能付きのトルクコンバータと、
前記トルクコンバータから出力される動力を変速する変速機と、
前記変速機が出力する動力を変速せずに前後方向の一方側に出力し、前記変速機が出力する動力を減速または増速して前後方向の他方側に出力するトランスファと、
前記トランスファにプロペラシャフトを介さずに連結され、前記トランスファから前記一方側に分配される動力を左右の駆動輪に分配する一方側差動装置と、
前記トランスファにプロペラシャフトを介して連結され、前記トランスファから前記他方側に分配される動力を左右の駆動輪に分配する他方側差動装置とを含み、
前記内燃機関のクランクシャフトおよび前記変速機のアウトプット軸が前後方向に延び、前記内燃機関、前記変速機、前記トランスファおよび前記一方側差動装置が一直線上に並べられている、パワープラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縦置きの内燃機関(エンジン)を含むパワープラントに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車におけるエンジンの搭載方式には、クランクシャフトが車体の前後方向(車両の進行方向)に対して縦向きになる縦置きと横向きになる横置きとがある。6気筒以上の多気筒エンジンが搭載される大型車では、縦置きが採用され、3気筒や4気筒の少気筒エンジンが搭載される小型車では、エンジンコンパートメントの前後方向のサイズの小型化による車室長の拡大のため、横置きが採用されるのが一般的である。
【0003】
少気筒エンジンが搭載される小型車においても、4WD(four-wheel drive:四輪駆動)車では、エンジンの縦置き(縦置きエンジン)が採用されることがある。
【0004】
縦置きエンジンを搭載したFR(フロントエンジン・リヤドライブ)ベースの4WD車では、図3に示されるように、エンジン101、トランスミッション102およびトランスファ103が前側からこの順に結合され、これらが車体の前部に配置される。トランスファ103から前側に向かってフロントプロペラシャフト104が延び、トランスファ103から後側に向かってリヤプロペラシャフト105が延びている。フロントプロペラシャフト104およびリヤプロペラシャフト105は、それぞれフロントデファレンシャルギヤ(前側差動装置)106およびリヤデファレンシャルギヤ(後側作動装置)107に接続されている。
【0005】
これにより、エンジン101からトランスミッション102を介してトランスファ103に伝達される動力は、フロントプロペラシャフト104からフロントデファレンシャルギヤ106に伝達され、フロントデファレンシャルギヤ106からフロントドライブシャフト108を介して左右の前輪109L,109Rに伝達される。また、その動力は、リヤプロペラシャフト105からリヤデファレンシャルギヤ107に伝達され、リヤデファレンシャルギヤ107からリヤドライブシャフト110を介して左右の後輪111L,111Rに伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−58171号公報
【特許文献2】特開2014−126157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
4WDを構成するパワープラントでは、縦置きエンジンにより車室長が制限される懸念があるため、コンパクト化が望まれている。
【0008】
本発明の目的は、コンパクト化を図ることができる、パワープラントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、本発明の一の局面に係るパワープラントは、縦置きで搭載される内燃機関と、内燃機関が発生する動力を変速する変速機と、変速機が出力する動力を前後方向の一方側と他方側とに分配するトランスファと、トランスファにプロペラシャフトを介さずに連結され、トランスファから一方側に分配される動力を左右の駆動輪に分配する一方側差動装置と、トランスファにプロペラシャフトを介して連結され、トランスファから他方側に分配される動力を左右の駆動輪に分配する他方側差動装置とを含む。
【0010】
また、本発明の他の局面に係るパワープラントは、縦置きで搭載される内燃機関と、内燃機関から動力が入力されるロックアップ機能付きのトルクコンバータと、トルクコンバータから出力される動力を変速する変速機と、変速機が出力する動力を変速せずに前後方向の一方側に出力し、変速機が出力する動力を減速または増速して前後方向の他方側に出力するトランスファと、トランスファにプロペラシャフトを介さずに連結され、トランスファから一方側に分配される動力を左右の駆動輪に分配する一方側差動装置と、トランスファにプロペラシャフトを介して連結され、トランスファから他方側に分配される動力を左右の駆動輪に分配する他方側差動装置とを含む。
【0011】
各局面に係る構成によれば、縦置きの内燃機関が発生する動力は、変速機で変速され、トランスファにより前後方向の一方側と他方側とに分配される。トランスファから一方側に出力される動力は、プロペラシャフトを介さずに一方側差動装置に伝達され、一方側差動装置から左右の駆動輪に分配される。トランスファから他方側に出力される動力は、プロペラシャフトを介して他方側差動装置に伝達され、他方側差動装置から左右の駆動輪に分配される。よって、4WDを構成することができる。
【0012】
そして、トランスファと一方側差動装置との間にプロペラシャフトが存在しないことにより、パワープラントのコンパクト化を図ることができる。
【0013】
また、後者の局面に係る構成では、変速機からトランスファに入力される回転(動力)に対して、プロペラシャフトの回転(動力)が減速または増速される。そのため、トルクコンバータのロックアップ時において、プロペラシャフトの回転の一次周波数を内燃機関の爆発1次周波数から離すことができ、それらの周波数差によるビート音の発生を抑制することができる。その結果、トルクコンバータのロックアップ可能な期間が増え、車両の走行燃費を向上させることができる。
【0014】
さらに、プロペラシャフトの回転が減速される構成では、プロペラシャフトの径を小さくすることができ、プロペラシャフトを構成する各シャフトのジョイント数を低減することができる。そのため、パワープラントのさらなるコンパクト化を図ることができ、また、車両の走行燃費のさらなる向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、4WDを構成するパワープラントのコンパクト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係るパワープラントが搭載された車両の平面図である。
図2】トルクコンバータのロックアップ時の爆発一次周波数、車速、ペラ一次周波数およびビート周波数の算出結果の一例を示す図である。
図3】従来のパワープラントが搭載された車両の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0018】
<パワープラント>
図1は、本発明の一実施形態に係るパワープラント2が搭載された車両1の平面図である。
【0019】
車両1は、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)ベースの4WD車である。車両1のパワープラント2には、エンジン(内燃機関)3、自動変速機4、トランスファ5、プロペラシャフト6、フロントデファレンシャルギヤ(前側差動装置)7およびリヤデファレンシャルギヤ(後側差動装置)8が含まれる。
【0020】
エンジン3は、たとえば、3気筒4ストロークエンジンである。エンジン3は、車両1の前後方向に対してクランクシャフトが縦向きになるように、車両1の前部に縦置きで搭載(マウント)されている。
【0021】
自動変速機4は、ラビニヨ型の遊星歯車機構を備える4速AT(Automatic Transmission)である。自動変速機4には、ロックアップ機能付きのトルクコンバータが付帯している。
【0022】
エンジン3、自動変速機4およびトランスファ5は、車両1の後側から前側にこの順に並んで結合されている。トランスファ5には、エンジン3から発生する動力が自動変速機4を介して伝達される。トランスファ5は、チェーン駆動式のトランスファであり、駆動軸11に固定された駆動スプロケット12と被駆動軸13に固定された被駆動スプロケット14との間にチェーン15が巻き掛けられた構成を有している。駆動軸11には、自動変速機4のアウトプット軸が連結されている。被駆動スプロケット14は、駆動スプロケット12よりも大きい径を有しており、駆動軸11の回転は、駆動スプロケット12の径と被駆動スプロケット14の径との比率で減速されて、被駆動軸13に伝達される。
【0023】
プロペラシャフト6は、その一端がユニバーサルジョイントを介して被駆動軸13に連結され、車両1の後側に延びている。プロペラシャフト6の他端は、ユニバーサルジョイントを介して、リヤデファレンシャルギヤ8のドライブピニオンシャフトに連結されている。リヤデファレンシャルギヤ8の減速比(最終変速比)は、フロントデファレンシャルギヤ7の減速比をトランスファ5の減速比(=被駆動スプロケット14の径/駆動スプロケット12の径)で除算した値に設定されている。
【0024】
トランスファ5の駆動軸11は、フロントデファレンシャルギヤ7のドライブピニオンシャフトに連結されている。
【0025】
パワープラント2では、エンジン3から自動変速機4を介してトランスファ5に伝達される動力は、フロントデファレンシャルギヤ7に伝達されるとともに、トランスファ5で減速されて、プロペラシャフト6を介してリヤデファレンシャルギヤ8に伝達される。フロントデファレンシャルギヤ7に伝達される動力は、フロントドライブシャフト21L,21Rを介して、左右の前輪22L,22Rに伝達される。リヤデファレンシャルギヤ8に伝達される動力は、リヤドライブシャフト23L,23Rを介して、左右の後輪24L,24Rに伝達される。
【0026】
<ビート音について>
図2は、エンジン回転数に対する爆発一次周波数、車速、ペラ一次周波数およびビート周波数の算出結果の一例を示す図である。
【0027】
図2には、自動変速機4の3速段の変速比が1.000であり、4速段の変速比が0.696であり、タイヤ外径が260mmであるとして、トランスファ5の減速比が1である場合と1.2である場合とについて、トルクコンバータのロックアップ時における爆発一次周波数、車速、ペラ一次周波数およびビート周波数を算出した結果が示されている。
【0028】
3気筒4ストロークエンジンであるエンジン3の爆発一次周波数は、エンジン回転数(rpm)を60(sec)で除算し、その除算値に1.5(パルス/回転)を乗算することにより算出される。
【0029】
車速は、エンジン回転数(rpm)を自動変速機4の変速段の変速比とリヤデファレンシャルギヤ8の最終変速比との乗算値で除算し、その除算値に後輪24L,24Rのタイヤ外径(mm)および円周率を乗算して、単位を調整することにより算出される。
【0030】
ペラ一次周波数は、プロペラシャフト6の回転の一次周波数であり、エンジン回転数(rpm)を60(sec)で除算し、その除算値をトランスファ5の減速比でさらに除算することにより算出される。
【0031】
ビート周波数は、同一のエンジン回転数における爆発一次周波数とペラ一次周波数との差分である。
【0032】
図2に示される算出結果から、自動変速機4の変速段が3速段(D3)である場合および4速段(D4)である場合のいずれにおいても、トランスファ5の減速比が1.2である場合には、トランスファ5の減速比が1である場合と比較して、各エンジン回転数に対するビート周波数が大きくなることが理解される。
【0033】
そして、ビート周波数が15Hz以下でビート音が顕著に発生することからトルクコンバータのロックアップが禁止されるとして、トランスファ5の減速比が1である場合には、自動変速機4の変速段が4速段である時に、全速度域でトルクコンバータのロックアップが禁止されるのに対し、トランスファ5の減速比が1.2である場合には、自動変速機4の変速段が4速段である時に、約63km/h以上の車速域でトルクコンバータのロックアップが許容されることが理解される。
【0034】
<作用効果>
以上のように、縦置きのエンジン3が発生する動力は、自動変速機4で変速され、トランスファ5により前輪22L,22R側と後輪24L,24R側とに分配される。トランスファ5から前輪22L,22R側に出力される動力は、つまりトランスファ5の駆動軸11の動力は、プロペラシャフトを介さずにフロントデファレンシャルギヤ7に伝達され、フロントデファレンシャルギヤ7から左右の前輪22L,22Rに分配される。トランスファ5から後輪24L,24R側に出力される動力、つまりトランスファ5の被駆動軸13の動力は、プロペラシャフト6を介してリヤデファレンシャルギヤ8に伝達され、リヤデファレンシャルギヤ8から左右の後輪24L,24Rに分配される。よって、4WDを構成することができる。
【0035】
そして、トランスファ5とフロントデファレンシャルギヤ7との間にプロペラシャフトが存在しないことにより、パワープラント2のコンパクト化を図ることができる。
【0036】
また、自動変速機4からトランスファ5に入力される回転(動力)に対して、プロペラシャフト6の回転(動力)が減速される。そのため、トルクコンバータのロックアップ時において、プロペラシャフト6の回転の一次周波数であるペラ一次周波数をエンジン3の爆発1次周波数から離すことができ、それらの周波数差によるビート音の発生を抑制することができる。その結果、トルクコンバータのロックアップ可能な期間が増え、車両1の走行燃費を向上させることができる。
【0037】
さらに、プロペラシャフト6の回転が減速される構成では、プロペラシャフト6の径を小さくすることができ、プロペラシャフト6を構成する各シャフトのジョイント数を低減することができる。そのため、パワープラント2のさらなるコンパクト化を図ることができ、また、車両1の走行燃費のさらなる向上を図ることができる。
【0038】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0039】
たとえば、トランスファ5の減速比は、1.2に限らず、1よりも大きければ、1.2未満であってもよいし、1.2以上であってもよい。トランスファ5の減速比は、ペラ一次周波数だけでなく、プロペラシャフト6の回転の二次周波数など、一次周波数以外の他の振動周波数も考慮して設定されるとよい。
【0040】
また、エンジン3は、たとえば、3気筒4ストロークエンジンであるとしたが、エンジン3の気筒数は、3気筒に限らず、4気筒以上であってもよいし、2気筒以下であってもよい。また、エンジン3のストローク数は、4ストロークに限らず、2ストロークであってもよい。
【0041】
自動変速機4は、ラビニヨ型の遊星歯車機構を備える4速ATに限らず、3速ATであってもよいし、5速段以上を有するATであってもよい。
【0042】
また、前述の実施形態では、FRベースの4WD車である車両1を取り上げたが、本発明は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)ベースの4WD車に適用することもできる。
【0043】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0044】
2:パワープラント
3:エンジン(内燃機関)
4:自動変速機(変速機)
5:トランスファ
6:プロペラシャフト
7:フロントデファレンシャルギヤ(一方側差動装置)
8:リヤデファレンシャルギヤ(他方側差動装置)
22L:前輪(駆動輪)
22R:前輪(駆動輪)
24L:後輪(駆動輪)
24R:後輪(駆動輪)
図1
図2
図3