特許第6776076号(P6776076)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6776076
(24)【登録日】2020年10月9日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】OCT装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20201019BHJP
【FI】
   A61B3/10 100
【請求項の数】15
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-185220(P2016-185220)
(22)【出願日】2016年9月23日
(65)【公開番号】特開2018-47099(P2018-47099A)
(43)【公開日】2018年3月29日
【審査請求日】2019年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100124626
【弁理士】
【氏名又は名称】榎並 智和
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 雅博
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 僚一
(72)【発明者】
【氏名】三野 聡大
【審査官】 増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−501118(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2018/0353063(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0332898(US,A1)
【文献】 S. Witte, et al.,Single-shot two-dimentional full-range optical coherence tomography achieved by dispersion control,OPTICS EXPRESS,2009年,Vol.17, No.14,11335-11349
【文献】 Bermd Hofer, et al.,Fast dispersion encoded full range optical coherence tomography for retinal imaging at 800 nm and 1060 nm,OPTICS EXPRESS,2010年,Vol.18, No.5,4898-4919
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00−3/18
A61B 5/00−5/01
G01N 21/17
G06T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からの光を測定光と参照光とに分割し、前記測定光を被測定物体に照射し、前記被測定物体からの前記測定光の戻り光と前記参照光との干渉光を検出するOCT装置であって、
前記測定光の光路である測定光路の分散特性と前記参照光の光路である参照光路の分散特性とを深さレンジに対応した動作モードに応じて相対的に変更する分散部と、
前記干渉光の検出結果に基づいて、前記動作モードに応じた前記被測定物体の情報を生成する情報生成部と、
を含むOCT装置。
【請求項2】
前記分散部は、
前記測定光路の分散特性と前記参照光路の分散特性との差を大きくするように前記測定光路に対して第1分散量を付与する第1分散部材と、
前記測定光路に対して前記第1分散部材を挿脱する第1移動機構と、
前記第1分散部材が配置されていない前記測定光路の分散特性と前記参照光路の分散特性との差を補償する第2分散部材と、
前記参照光路に対して前記第2分散部材を挿脱する第2移動機構と、
を含む
ことを特徴とする請求項1に記載のOCT装置。
【請求項3】
第1動作モードのとき、前記第1移動機構を制御して前記測定光路から前記第1分散部材を退避させ、かつ、前記第2移動機構を制御して前記参照光路に前記第2分散部材を配置させ、第2動作モードのとき、前記第1移動機構を制御して前記測定光路に前記第1分散部材を配置させ、かつ、前記第2移動機構を制御して前記参照光路から前記第2分散部材を退避させる制御部を含む
ことを特徴とする請求項2に記載のOCT装置。
【請求項4】
前記分散部は、
前記測定光路の分散特性と前記参照光路の分散特性との差を大きくするように前記測定光路に対して第1分散量を付与する第1分散部材と、
前記測定光路に対して前記第1分散部材を挿脱する第1移動機構と、
を含む
ことを特徴とする請求項1に記載のOCT装置。
【請求項5】
第1動作モードのとき、前記第1移動機構を制御して前記測定光路から前記第1分散部材を退避させ、第2動作モードのとき、前記第1移動機構を制御して前記測定光路に前記第1分散部材を配置させる制御部を含む
ことを特徴とする請求項4に記載のOCT装置。
【請求項6】
前記分散部は、
前記測定光路の分散特性と前記参照光路の分散特性との差を大きくするように前記参照光路に対して第1分散量を付与する第1分散部材と、
前記参照光路に対して前記第1分散部材を挿脱する第1移動機構と、
を含む
ことを特徴とする請求項1に記載のOCT装置。
【請求項7】
第1動作モードのとき、前記第1移動機構を制御して前記参照光路から前記第1分散部材を退避させ、第2動作モードのとき、前記第1移動機構を制御して前記参照光路に前記第1分散部材を配置させる制御部を含む
ことを特徴とする請求項6に記載のOCT装置。
【請求項8】
前記被測定物体は、生体眼であり、
前記第1分散量は、前記参照光路と前記測定光路との間における波長分散に起因する光路長差を位相差に換算した場合に30πラジアン以上である
ことを特徴とする請求項2〜請求項7のいずれか一項に記載OCT装置。
【請求項9】
前記分散部は、
前記測定光路に対して第2分散量を付与する第1分散部材と、
前記測定光路に対して前記第1分散部材を挿脱する第1移動機構と、
前記参照光路に配置され、前記第1分散部材が配置されていない前記測定光路の分散特性と前記参照光路の分散特性との差を補償する第2分散部材と、
を含む
ことを特徴とする請求項1に記載のOCT装置。
【請求項10】
第1動作モードのとき、前記第1移動機構を制御して前記測定光路から前記第1分散部材を退避させ、第2動作モードのとき、前記第1移動機構を制御して前記測定光路に前記第1分散部材を配置させる制御部を含む
ことを特徴とする請求項9に記載のOCT装置。
【請求項11】
前記被測定物体は、生体眼であり、
前記第2分散量は、前記測定光路の分散特性と前記参照光路の分散特性との差を補償する分散量と、前記参照光路と前記測定光路との間における波長分散に起因する光路長差を位相差に換算した場合に30πラジアン以上である分散量との合成量である
ことを特徴とする請求項9又は請求項10に記載OCT装置。
【請求項12】
前記分散部は、
前記参照光路に対して第2分散量を付与する第1分散部材と、
前記参照光路に対して前記第1分散部材を挿脱する第1移動機構と、
前記参照光路に配置され、前記第1分散部材が配置されていない前記測定光路の分散特性と前記参照光路の分散特性との差を補償する第2分散部材と、
を含む
ことを特徴とする請求項1に記載のOCT装置。
【請求項13】
第1動作モードのとき、前記第1移動機構を制御して前記参照光路から前記第1分散部材を退避させ、第2動作モードのとき、前記第1移動機構を制御して前記参照光路に前記第1分散部材を配置させる制御部を含む
ことを特徴とする請求項12に記載のOCT装置。
【請求項14】
前記測定光を平行光束にするコリメートレンズと、
前記コリメートレンズにより平行光束とされた前記測定光を偏向する光スキャナと、
を含み、
前記第1分散部材は、前記コリメートレンズと前記光スキャナとの間に配置可能である
ことを特徴とする請求項2〜請求項13のいずれか一項に記載のOCT装置。
【請求項15】
深さレンジが異なる2以上の動作モードのいずれかを選択する選択部を含み、
前記情報生成部は、前記選択部により選択された動作モードに対応する深さレンジの断層像を形成する画像形成部を含む
ことを特徴とする請求項1〜請求項14のいずれか一項に記載のOCT装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、OCT(Optical Coherence Tomography)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザー光源等からの光ビームを用いて被測定物体の表面形態や内部形態を表す画像を形成するOCTが注目を集めている。OCTは、X線CT(Computed Tomography)のような人体に対する侵襲性を持たないことから、特に医療分野や生物学分野における応用の展開が期待されている。例えば眼科分野においては、眼底や角膜等の画像を形成したり、眼軸長等の眼内距離を計測したりするOCT装置が実用化されている。
【0003】
このようなOCTにより取得された被測定物体の画像には、様々なアーチファクトが描出されることが知られている。特に、フーリエドメインOCTで取得された画像には、複素共役アーチファクトが描出される。複素共役アーチファクトは、被測定物体に照射された測定光の光路長が参照光の光路長と等しいゼロディレイ位置に対して実像の反対側に現れる虚像である。例えば、ゼロディレイ位置に対して一方のレンジ(例えばプラスレンジ)側に現れる実像から断層像を形成することにより、狭い深さレンジで被測定物体の高画質の断層像を取得することができる。また、例えば、複素共役アーチファクトを除去して断層像を形成することにより、フルレンジで被測定物体の断層像を取得することができる。複素共役アーチファクトを除去してフルレンジで被測定物体の断層像を取得する手法については、例えば非特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】S.Witte, M.Baclayon, E.J.G.Peterman, R.F.G.Toonen, H.D.Mansvelder, and M.L.Groot, “Single−shot two−dimensinal full−range optical coherence tomography achieved by dispersion control”, OPTICS EXPRESS, 2009年7月6日, Vol.17(No.14), pp.11335−11349
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に開示された手法では、フルレンジの被測定物体の断層像とフルレンジより狭い深さレンジの被測定物体の高画質の断層像とを単一の装置で取得することができない。このような状況は、OCTによる被測定物体の断層像の取得だけではなく、OCTによる被測定物体に関する情報の取得についても同様である。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡素な構成で、異なる深さレンジで被測定物体に関する高精度な情報の取得が可能なOCT装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係るOCT装置は、光源からの光を測定光と参照光とに分割し、測定光を被測定物体に照射し、被測定物体からの測定光の戻り光と参照光との干渉光を検出する。OCT装置は、分散部と、情報生成部とを含む。分散部は、測定光の光路である測定光路の分散特性と参照光の光路である参照光路の分散特性とを深さレンジに対応した動作モードに応じて相対的に変更する。情報生成部は、干渉光の検出結果に基づいて、動作モードに応じた被測定物体の情報を生成する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡素な構成で、異なる深さレンジで被測定物体に関する高精度な情報の取得が可能なOCT装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係るOCT装置の光学系の構成の一例を示す概略図である。
図2】実施形態に係るOCT装置の光学系の構成の一例を示す概略図である。
図3】実施形態に係るOCT装置の処理系の構成の一例を示す概略図である。
図4】実施形態に係るOCT装置の動作説明図である。
図5A】実施形態に係るOCT装置の動作説明図である。
図5B】実施形態に係るOCT装置の動作説明図である。
図5C】実施形態に係るOCT装置の動作説明図である。
図6】実施形態に係るOCT装置の動作説明図である。
図7】実施形態に係るOCT装置の動作説明図である。
図8】実施形態に係るOCT装置の動作例のフロー図である。
図9】実施形態に係るOCT装置の動作例のフロー図である。
図10】実施形態に係るOCT装置の動作説明図である。
図11】実施形態の変形例に係るOCT装置の説明図である。
図12】実施形態の変形例に係るOCT装置の説明図である。
図13】実施形態の変形例に係るOCT装置の説明図である。
図14】実施形態の変形例に係るOCT装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明に係るOCT装置の実施形態の例について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、この明細書において引用された文献の記載内容や任意の公知技術を、以下の実施形態に援用することが可能である。
【0011】
実施形態に係るOCT装置は、少なくともOCTを実行する機能を備え、被測定物体に対してOCTを実行することにより被測定物体に関する情報を取得することが可能な計測装置である。以下、実施形態に係るOCT装置が、被測定物体としての生体眼に対してOCTを実行することにより生体眼の断層像を取得する眼科装置である場合について説明するが、実施形態はこれに限定されない。例えば、実施形態に係るOCT装置は、生体眼に対してOCTを実行することにより眼軸長など生体眼の眼内距離を計測可能な眼科装置であってよい。
【0012】
実施形態に係るOCT装置は、フーリエドメインOCTと眼底カメラとを組み合わせた眼科装置である。このOCT装置は、スウェプトソースOCTを実行する機能を備えているが、実施形態はこれに限定されない。例えば、OCTの種別はスウェプトソースOCTには限定されず、スペクトラルドメインOCT等であってもよい。スウェプトソースOCTは、波長掃引型(波長走査型)光源からの光を測定光と参照光とに分割し、被測定物体を経由した測定光の戻り光を参照光と干渉させて干渉光を生成し、この干渉光をバランスドフォトダイオード等で検出し、波長の掃引及び測定光のスキャンに応じて収集された検出データにフーリエ変換等を施して画像を形成する手法である。スペクトラルドメインOCTは、低コヒーレンス光源からの光を測定光と参照光とに分割し、被測定物体を経由した測定光の戻り光を参照光と干渉させて干渉光を生成し、この干渉光のスペクトル分布を分光器で検出し、検出されたスペクトル分布にフーリエ変換等を施して画像を形成する手法である。
【0013】
実施形態に係るOCT装置には、眼底カメラの代わりに、走査型レーザ検眼鏡(SLO)や、スリットランプ顕微鏡や、前眼部撮影カメラや、手術用顕微鏡や、光凝固装置などが設けられてもよい。この明細書では、OCTによって取得される画像をOCT画像と総称し、測定光の光路を「測定光路」と表記し、参照光の光路を「参照光路」と表記することがある。
【0014】
[構成]
図1に示すように、実施形態に係るOCT装置が適用された眼科装置1は、眼底カメラユニット2、OCTユニット100及び演算制御ユニット200を含む。眼底カメラユニット2は、従来の眼底カメラとほぼ同様の光学系を有する。OCTユニット100には、OCTを実行するための光学系が設けられている。演算制御ユニット200は、各種の演算処理や制御処理等を実行するプロセッサを具備している。
【0015】
本明細書において「プロセッサ」は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、プログラマブル論理デバイス(例えば、SPLD(Simple Programmable Logic Device)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array))等を含む処理回路を意味する。プロセッサは、例えば、記憶回路や記憶装置に格納されているプログラムを読み出し実行することで、実施形態に係る機能を実現する。
【0016】
〔眼底カメラユニット〕
眼底カメラユニット2には、被検眼Eの眼底Efの表面形態を表す2次元画像(眼底像)を取得するための光学系が設けられている。眼底像には、観察画像や撮影画像などが含まれる。観察画像は、例えば、近赤外光を用いて所定のフレームレートで形成されるモノクロの動画像である。撮影画像は、例えば、可視光をフラッシュ発光して得られるカラー画像、又は近赤外光若しくは可視光を照明光として用いたモノクロの静止画像であってもよい。眼底カメラユニット2は、これら以外の画像、例えばフルオレセイン蛍光画像やインドシアニングリーン蛍光画像や自発蛍光画像などを取得可能に構成されていてもよい。
【0017】
眼底カメラユニット2には、被検者の顔を支持するための顎受けや額当てが設けられている。更に、眼底カメラユニット2には、照明光学系10と撮影光学系30とが設けられている。照明光学系10は眼底Efに照明光を照射する。撮影光学系30は、この照明光の眼底反射光を撮像装置(CCDイメージセンサ(単にCCDと呼ぶことがある)35、38)に導く。また、撮影光学系30は、OCTユニット100からの測定光を被検眼Eに導くとともに、被検眼Eを経由した測定光をOCTユニット100に導く。
【0018】
照明光学系10の観察光源11は、例えばハロゲンランプ又はLED(Light Emitting Diode)により構成される。観察光源11から出力された光(観察照明光)は、曲面状の反射面を有する反射ミラー12により反射され、集光レンズ13を経由し、可視カットフィルタ14を透過して近赤外光となる。更に、観察照明光は、撮影光源15の近傍にて一旦集束し、ミラー16により反射され、リレーレンズ17、18、絞り19及びリレーレンズ20を経由する。そして、観察照明光は、孔開きミラー21の周辺部(孔部の周囲の領域)にて反射され、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により屈折されて眼底Efを照明する。
【0019】
観察照明光の眼底反射光は、対物レンズ22により屈折され、ダイクロイックミラー46を透過し、孔開きミラー21の中心領域に形成された孔部を通過し、ダイクロイックミラー55を透過し、撮影合焦レンズ31を経由し、ミラー32により反射される。更に、この眼底反射光は、ハーフミラー33Aを透過し、ダイクロイックミラー33により反射され、集光レンズ34によりCCDイメージセンサ35の受光面に結像される。CCDイメージセンサ35は、例えば所定のフレームレートで眼底反射光を検出する。表示装置3には、CCDイメージセンサ35により検出された眼底反射光に基づく画像(観察画像)が表示される。なお、撮影光学系30のピントが前眼部に合わせられている場合、被検眼Eの前眼部の観察画像が表示される。
【0020】
撮影光源15は、例えばキセノンランプ又はLEDにより構成される。撮影光源15から出力された光(撮影照明光)は、観察照明光と同様の経路を通って眼底Efに照射される。撮影照明光の眼底反射光は、観察照明光のそれと同様の経路を通ってダイクロイックミラー33まで導かれ、ダイクロイックミラー33を透過し、ミラー36により反射され、集光レンズ37によりCCDイメージセンサ38の受光面に結像される。表示装置3には、CCDイメージセンサ38により検出された眼底反射光に基づく画像(撮影画像)が表示される。なお、観察画像を表示する表示装置3と撮影画像を表示する表示装置3は、同一のものであってもよいし、異なるものであってもよい。また、被検眼Eを赤外光で照明して同様の撮影を行う場合には、赤外の撮影画像が表示される。また、撮影光源としてLEDを用いることも可能である。
【0021】
LCD(Liquid Crystal Display)39は、固視標や視力測定用視標を表示する。固視標は被検眼Eを固視させるための視標であり、眼底撮影時やOCT計測時などに使用される。
【0022】
LCD39から出力された光は、その一部がハーフミラー33Aにて反射され、ミラー32に反射され、撮影合焦レンズ31及びダイクロイックミラー55を経由し、孔開きミラー21の孔部を通過する。孔開きミラー21の孔部を通過した光は、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により屈折されて眼底Efに照射される。LCD39の画面上における固視標の表示位置を変更することにより、被検眼Eの固視位置を変更できる。
【0023】
更に、眼底カメラユニット2には、従来の眼底カメラと同様にアライメント光学系50とフォーカス光学系60が設けられている。アライメント光学系50は、被検眼Eに対する装置光学系の位置合わせ(アライメント)を行うための視標(アライメント視標)を生成する。フォーカス光学系60は、被検眼Eに対してフォーカス(ピント)を合わせるための視標(スプリット視標)を生成する。
【0024】
アライメント光学系50のLED51から出力された光(アライメント光)は、絞り52、53及びリレーレンズ54を経由してダイクロイックミラー55により反射され、孔開きミラー21の孔部を通過する。孔開きミラー21の孔部を通過した光は、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により被検眼Eの角膜に照射される。
【0025】
アライメント光の角膜反射光は、対物レンズ22、ダイクロイックミラー46及び上記孔部を経由し、その一部がダイクロイックミラー55を透過し、撮影合焦レンズ31を通過する。撮影合焦レンズ31を通過した角膜反射光は、ミラー32により反射され、ハーフミラー33Aを透過し、ダイクロイックミラー33に反射され、集光レンズ34によりCCDイメージセンサ35の受光面に投影される。CCDイメージセンサ35による受光像(アライメント視標)は、観察画像とともに表示装置3に表示される。ユーザは、従来の眼底カメラと同様の操作を行ってアライメントを実施する。また、演算制御ユニット200がアライメント視標の位置を解析して光学系を移動させることによりアライメントを行ってもよい(オートアライメント機能)。
【0026】
フォーカス光学系60は、撮影光学系30の光路に沿った撮影合焦レンズ31の移動に連動して、照明光学系10の光路に沿って移動可能である。フォーカス光学系60の反射棒67は、照明光路に対して挿脱可能である。
【0027】
フォーカス調整を行う際には、照明光路上に反射棒67の反射面が斜設される。フォーカス光学系60のLED61から出力された光(フォーカス光)は、リレーレンズ62を通過し、スプリット視標板63により2つの光束に分離され、二孔絞り64を通過する。二孔絞り64を通過した光は、ミラー65により反射され、集光レンズ66により反射棒67の反射面に一旦結像されて反射される。更に、フォーカス光は、リレーレンズ20を経由し、孔開きミラー21により反射され、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により屈折されて眼底Efに照射される。
【0028】
フォーカス光の眼底反射光は、アライメント光の角膜反射光と同様の経路を通ってCCDイメージセンサ35により検出される。CCDイメージセンサ35による受光像(スプリット視標像)は、観察画像とともに表示装置3に表示される。演算制御ユニット200は、従来と同様に、スプリット視標像の位置を解析して撮影合焦レンズ31及びフォーカス光学系60を移動させてピント合わせを行う(オートフォーカス機能)。また、スプリット視標像を視認しつつ手動でピント合わせを行ってもよい。
【0029】
反射棒67は、被検眼Eの眼底Efと光学的に略共役な照明光路上の位置に挿入される。照明光学系10の光路に挿入されている反射棒67の反射面の位置は、スプリット視標板63と光学的に略共役な位置である。スプリット視標光束は、前述のように、二孔絞り64などの作用により2つに分離される。被検眼Eの眼底Efと反射棒67の反射面とが共役ではない場合、CCDイメージセンサ35により取得されたスプリット視標像は、例えば、左右方向に2つに分離して表示装置3に表示される。被検眼Eの眼底Efと反射棒67の反射面とが略共役である場合、CCDイメージセンサ35により取得されたスプリット視標像は、例えば、上下方向に一致して表示装置3に表示される。眼底Efとスプリット視標板63とが常に光学的に共役になるように撮影合焦レンズ31と連動してフォーカス光学系60が照明光学系10の光路に沿って移動される。眼底Efとスプリット視標板63とが共役になっていない場合にはスプリット視標像が2つに分離するため、2つのスプリット視標像が上下方向に一致するようにフォーカス光学系60を移動することにより、撮影合焦レンズ31の位置が求められる。なお、この実施形態では、2つのスプリット視標像が取得される場合について説明したが、3以上のスプリット視標像であってよい。
【0030】
ダイクロイックミラー46は、眼底撮影用の光路からOCT用の光路を分岐させている。ダイクロイックミラー46は、OCTに用いられる波長帯の光を反射し、眼底撮影用の光を透過させる。このOCT用の光路には、OCTユニット100側から順に、コリメータレンズユニット40と、光路長変更部41と、光スキャナ42と、OCT合焦レンズ43と、ミラー44と、リレーレンズ45とが設けられている。
【0031】
コリメータレンズユニット40は、コリメータレンズを含む。コリメータレンズユニット40は、光ファイバによりOCTユニット100と光学的に接続されている。この光ファイバの出射端を臨む位置に、コリメータレンズユニット40のコリメータレンズが配置されている。コリメータレンズユニット40は、光ファイバの出射端から出射された測定光LS(後述)を平行光束にするとともに、被検眼Eからの測定光の戻り光を当該出射端に集光する。
【0032】
光路長変更部41は、図1に示す矢印の方向に移動可能とされ、OCT用の光路の光路長を変更する。この光路長の変更は、被検眼Eの眼軸長に応じた光路長の補正や、干渉状態の調整などに利用される。光路長変更部41は、例えばコーナーキューブと、これを移動する機構とを含んで構成される。
【0033】
光スキャナ42は、被検眼Eの瞳孔と光学的に共役な位置に配置されている。光スキャナ42は、OCT用の光路を通過する光(測定光LS)の進行方向を変更する。それにより、被検眼Eを測定光LSでスキャンすることができる。光スキャナ42は、例えば、測定光LSをx方向にスキャンするガルバノミラーと、y方向にスキャンするガルバノミラーと、これらを独立に駆動する機構とを含んで構成される。それにより、測定光LSをxy平面上の任意の方向にスキャンすることができる。
【0034】
コリメータレンズユニット40と光スキャナ42との間の測定光路に対して分散部材80が挿脱される。分散部材80は、測定光路に対して所定の分散量を付与する。この分散量は、測定光路の分散特性と後述の参照光路の分散特性との差を大きくする分散量である。具体的には、この分散量は、参照光路と測定光路との間における波長分散に起因する光路長差を位相差に換算した場合に30πラジアン以上であってよい。このような分散部材80には、分散量に対応した種類及び厚さの硝材などが用いられる。この実施形態では、眼科装置1の深さレンジに対応した動作モードに応じて上記の測定光路に対して分散部材80が挿脱される。
【0035】
〔OCTユニット〕
OCTユニット100の構成の一例を図2に示す。OCTユニット100には、被検眼EのOCT画像を取得するための光学系が設けられている。この光学系は、波長掃引型(波長走査型)光源からの光を測定光と参照光とに分割し、被検眼Eからの測定光の戻り光と参照光路を経由した参照光とを干渉させて干渉光を生成し、この干渉光を検出する干渉光学系である。干渉光学系による干渉光の検出結果(検出信号)は、干渉光のスペクトルを示す干渉信号であり、演算制御ユニット200に送られる。
【0036】
光源ユニット101は、一般的なスウェプトソースタイプのOCT装置と同様に、出射光の波長を掃引(走査)可能な波長掃引型(波長走査型)光源を含んで構成される。波長掃引型光源は、共振器を含むレーザー光源を含んで構成される。光源ユニット101は、人眼では視認できない近赤外の波長帯において、出力波長を時間的に変化させる。
【0037】
光源ユニット101から出力された光L0は、光ファイバ102により偏波コントローラ103に導かれてその偏光状態が調整される。偏波コントローラ103は、例えばループ状にされた光ファイバ102に対して外部から応力を与えることで、光ファイバ102内を導かれる光L0の偏光状態を調整する。
【0038】
偏波コントローラ103により偏光状態が調整された光L0は、光ファイバ104によりファイバカプラ105に導かれて測定光LSと参照光LRとに分割される。
【0039】
参照光LRは、光ファイバ110によりコリメータ111に導かれて平行光束となる。平行光束となった参照光LRは、コーナーキューブ114に導かれる。コーナーキューブ114は、コリメータ111により平行光束とされた参照光LRの進行方向を逆方向に折り返す。コーナーキューブ114に入射する参照光LRの光路と、コーナーキューブ114から出射する参照光LRの光路とは平行である。また、コーナーキューブ114は、参照光LRの入射光路及び出射光路に沿う方向に移動可能とされている。この移動により参照光LRの光路の長さが変更される。
【0040】
なお、図1及び図2に示す構成においては、測定光LSの光路(測定光路、測定アーム)の長さを変更するための光路長変更部41と、参照光LRの光路(参照光路、参照アーム)の長さを変更するためのコーナーキューブ114の双方が設けられている。しかしながら、コーナーキューブ114だけが設けられていてもよい。また、これら以外の光学部材を用いて、測定光路長と参照光路長との差を変更することも可能である。
【0041】
コーナーキューブ114を経由した参照光LRは、コリメータ116によって平行光束から集束光束に変換されて光ファイバ117に入射する。コリメータ111とコーナーキューブ114との間の参照光路、及びコリメータ116とコーナーキューブ114との間の参照光の少なくとも一方には、分散部材150が挿脱される。分散部材150は、参照光路に対して所定の分散量を付与する。この分散量は、例えば分散部材80が配置されていない測定光路の分散特性と参照光路の分散特性との差を補償する分散量である。このような分散部材150には、分散量に対応した種類及び厚さの硝材などが用いられる。この実施形態では、眼科装置1の動作モードに応じて参照光路に対して分散部材150が挿脱される。
【0042】
コリメータ111とコーナーキューブ114との間の参照光路、及びコリメータ116とコーナーキューブ114との間の参照光の少なくとも一方には、光路長補正部材が配置されていてもよい。光路長補正部材は、参照光LRの光路長(光学距離)と測定光LSの光路長とを合わせるための遅延手段として作用する。
【0043】
光ファイバ117に入射した参照光LRは、偏波コントローラ118に導かれてその偏光状態が調整される。偏波コントローラ118は、例えば、偏波コントローラ103と同様の構成を有する。偏波コントローラ118により偏光状態が調整された参照光LRは、光ファイバ119によりアッテネータ120に導かれて、演算制御ユニット200の制御の下で光量が調整される。アッテネータ120により光量が調整された参照光LRは、光ファイバ121によりファイバカプラ122に導かれる。
【0044】
一方、ファイバカプラ105により生成された測定光LSは、光ファイバ127により導かれ、コリメータレンズユニット40により平行光束とされる。測定光路に分散部材80が配置されていない場合、平行光束にされた測定光LSは、光路長変更部41、光スキャナ42、OCT合焦レンズ43、ミラー44及びリレーレンズ45を経由してダイクロイックミラー46に導かれる。測定光路に分散部材80が配置されている場合、平行光束にされた測定光LSは、分散部材80、光路長変更部41、光スキャナ42、OCT合焦レンズ43、ミラー44及びリレーレンズ45を経由してダイクロイックミラー46に導かれる。ダイクロイックミラー46に導かれてきた測定光LSは、ダイクロイックミラー46により反射され、対物レンズ22により屈折されて被検眼Eに照射される。測定光LSは、被検眼Eの様々な深さ位置において散乱(反射を含む)される。このような後方散乱光を含む測定光LSの戻り光は、往路と同じ経路を逆向きに進行してファイバカプラ105に導かれ、光ファイバ128を経由してファイバカプラ122に到達する。
【0045】
ファイバカプラ122は、光ファイバ128を介して入射された測定光LSと、光ファイバ121を介して入射された参照光LRとを合成して(干渉させて)干渉光を生成する。ファイバカプラ122は、所定の分岐比(例えば1:1)で、測定光LSと参照光LRとの干渉光を分岐することにより、一対の干渉光LCを生成する。ファイバカプラ122から出射した一対の干渉光LCは、それぞれ光ファイバ123、124により検出器125に導かれる。
【0046】
検出器125は、例えば一対の干渉光LCをそれぞれ検出する一対のフォトディテクタを有し、これらによる検出結果の差分を出力するバランスドフォトダイオード(Balanced Photo Diode)である。検出器125は、その検出結果(干渉信号)をDAQ(Data Acquisition System)130に送る。DAQ130には、光源ユニット101からクロックKCが供給される。クロックKCは、光源ユニット101において、波長掃引型光源により所定の波長範囲内で掃引(走査)される各波長の出力タイミングに同期して生成される。光源ユニット101は、例えば、各出力波長の光L0を分岐することにより得られた2つの分岐光の一方を光学的に遅延させた後、これらの合成光を検出した結果に基づいてクロックKCを生成する。DAQ130は、クロックKCに基づき、検出器125の検出結果をサンプリングする。DAQ130は、サンプリングされた検出器125の検出結果を演算制御ユニット200に送る。演算制御ユニット200は、例えば一連の波長走査毎に(Aライン毎に)、検出器125により得られた検出結果に基づくスペクトル分布にフーリエ変換等を施すことにより、各Aラインにおける反射強度プロファイルを形成する。更に、演算制御ユニット200は、各Aラインの反射強度プロファイルを画像化することにより画像データを形成する。
【0047】
〔演算制御ユニット〕
演算制御ユニット200の構成について説明する。演算制御ユニット200は、検出器125から入力される干渉信号を解析して被検眼EのOCT画像を形成する。フルレンジより狭い深さレンジのOCT画像を形成するための演算処理は、従来のスウェプトソースタイプのOCT装置と同様である。
【0048】
また、演算制御ユニット200は、眼底カメラユニット2、表示装置3及びOCTユニット100の各部を制御する。例えば演算制御ユニット200は、被検眼EのOCT画像を表示装置3に表示させる。
【0049】
演算制御ユニット200は、例えば、従来のコンピュータと同様に、マイクロプロセッサ、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、ハードディスクドライブ、通信インターフェイスなどを含む。ハードディスクドライブ等の記憶装置には、眼科装置1を制御するためのコンピュータプログラムが記憶されている。演算制御ユニット200は、各種の回路基板、例えばOCT画像を形成するための回路基板を備えていてもよい。また、演算制御ユニット200は、キーボードやマウス等の操作デバイス(入力デバイス)や、LCD等の表示デバイスを備えていてもよい。
【0050】
〔制御系〕
眼科装置1の制御系の構成について図3を参照しつつ説明する。なお、図3においては、眼科装置1のいくつかの構成要素が省略されており、この実施形態を説明するために特に必要な構成要素が選択的に示されている。
【0051】
(制御部)
演算制御ユニット200は、制御部210と、画像形成部220と、データ処理部230とを含む。制御部210は、例えば、マイクロプロセッサ、RAM、ROM、ハードディスクドライブ、通信インターフェイス等を含んで構成される。制御部210には、主制御部211と記憶部212とが設けられている。
【0052】
(主制御部)
主制御部211は前述の各種制御を行う。特に、図3に示すように、主制御部211は、眼底カメラユニット2の移動機構31A、80A、CCDイメージセンサ35及び38、LCD39、光路長変更部41、及び光スキャナ42を制御する。また、主制御部211は、OCTユニット100の光源ユニット101、移動機構114A、150A、検出器125及びDAQ130などを制御する。
【0053】
実施形態に係る眼科装置1は、深さレンジが異なる2以上の動作モードのいずれかの動作モードに対応したOCT画像を形成する。動作モードの選択(指定)は、主制御部211により行われてもよいし、ユーザが後述の操作部242を操作することにより行われてもよい。主制御部211により動作モードが選択される場合、前回と同じ動作モードが選択されたり、被測定物体や診断目的に応じて選択されたりしてよい。
【0054】
この実施形態では、動作モードは、通常OCTモードと、フルレンジOCTモードとを含む。通常OCTモードは、ゼロディレイ位置に対して一方のレンジ(プラスレンジ又はマイナスレンジ)側に現れる干渉信号を用いて、狭い深さレンジでS/N比が高いOCT画像を形成する動作モードである。フルレンジOCTモードは、プラスレンジ側の干渉信号とマイナスレンジ側の干渉信号とを用いて、フルレンジのOCT画像を形成する動作モードである。フルレンジOCTモードでは、被検眼Eの広角の断層像を取得する場合や被検眼Eが強度近視の場合など、折り返しの生じない(すなわち、ミラーイメージのない)OCT像の取得が可能である。通常OCTモードでは、例えば、フルレンジより狭い深さレンジであるが高画質のOCT像の取得が可能である。フルレンジでノイズが重畳するゼロディレイ位置近傍のOCT像を取得する場合も通常OCTモードが選択されてよい。
【0055】
移動機構31Aは、撮影光学系30の光軸に沿って撮影合焦レンズ31を移動する。移動機構31Aには、撮影合焦レンズ31を保持する保持部材と、この保持部材を移動するための駆動力を発生するアクチュエータと、この駆動力を伝達する伝達機構とが設けられる。アクチュエータは、例えばパルスモータにより構成される。伝達機構は、例えば歯車の組み合わせやラック・アンド・ピニオンなどによって構成される。それにより、制御部210からの制御を受けた移動機構31Aが撮影合焦レンズ31を移動することにより、撮影光学系30の合焦位置が変更される。なお、手動又はユーザの操作部242に対する操作により移動機構31Aが撮影光学系30の光軸に粗って撮影合焦レンズ31を移動するようにしてもよい。
【0056】
なお、主制御部211は、図示しない光学系駆動部を制御して、眼科装置1に設けられた光学系を3次元的に移動させることができる。この制御は、アライメントやトラッキングにおいて用いられる。トラッキングとは、被検眼Eの運動に合わせて装置光学系を移動させるものである。トラッキングを行う場合には、事前にアライメントとピント合わせが実行される。トラッキングは、被検眼Eを動画撮影して得られる画像に基づき被検眼Eの位置や向きに合わせて装置光学系をリアルタイムで移動させることにより、アライメントとピントが合った好適な位置関係を維持する機能である。
【0057】
移動機構80Aは、測定光路に対して分散部材80を挿脱する。移動機構80Aには、分散部材80を保持する保持部材と、この保持部材を移動するための駆動力を発生するアクチュエータと、この駆動力を伝達する伝達機構とが設けられる。それにより、制御部210からの制御を受けた移動機構80Aが測定光路に対して分散部材80を挿脱することにより、測定光路の分散特性と参照光路の分散特性との差が変更される。なお、手動又はユーザの操作部242に対する操作により移動機構80Aが測定光路に対して分散部材80を挿脱するようにしてもよい。
【0058】
移動機構114Aは、参照光路に設けられたコーナーキューブ114を移動する。移動機構114Aには、コーナーキューブ114を保持する保持部材と、この保持部材を移動するための駆動力を発生するアクチュエータと、この駆動力を伝達する伝達機構とが設けられる。それにより、参照光路の長さが変更される。なお、手動又はユーザの操作部242に対する操作により移動機構114Aが参照光路に沿ってコーナーキューブ114を移動するようにしてもよい。
【0059】
移動機構150Aは、参照光路に対して分散部材150を挿脱する。移動機構150Aには、分散部材150を保持する保持部材と、この保持部材を移動するための駆動力を発生するアクチュエータと、この駆動力を伝達する伝達機構とが設けられる。それにより、制御部210からの制御を受けた移動機構150Aが参照光路に対して分散部材150を挿脱することにより、測定光路の分散特性と参照光路の分散特性との差が変更される。なお、手動又はユーザの操作部242に対する操作により移動機構150Aが参照光路に対して分散部材150を挿脱するようにしてもよい。
【0060】
(記憶部)
記憶部212は、各種のデータを記憶する。記憶部212に記憶されるデータとしては、例えば、眼科装置1の動作モード、OCT画像の画像データ、眼底像の画像データ、被検眼情報などがある。被検眼情報は、患者IDや氏名などの被検者に関する情報や、左眼/右眼の識別情報などの被検眼に関する情報を含む。また、記憶部212には、眼科装置1を動作させるための各種プログラムやデータが記憶されている。
【0061】
(画像形成部)
画像形成部220は、上記の動作モードに応じて、検出器125(DAQ130)からの干渉信号に基づいて眼底Efの断層像の画像データを形成する。すなわち、画像形成部220は、動作モードに応じて干渉光学系による干渉光LCの検出結果に基づいて被検眼Eの画像データを形成する。この処理には、ノイズ除去(ノイズ低減)、フィルタ処理、FFT(Fast Fourier Transform)などの処理が含まれている。このようにして取得される画像データは、複数のAライン(被検眼E内における各測定光LSの経路)における反射強度プロファイルを画像化することにより形成された一群の画像データを含むデータセットである。
【0062】
画質を向上させるために、同じパターンでのスキャンを複数回繰り返して収集された複数のデータセットを重ね合わせる(加算平均する)ことができる。
【0063】
また、画像形成部220は、撮影合焦レンズ31を通過した被検眼Eからの2以上のスプリット視標の戻り光に基づいてCCD35により検出された画像信号から、2以上のスプリット視標像が描出された画像を形成する。なお、当該2以上のスプリット視標像が描出された画像の形成は、主制御部211により行われてもよい。
【0064】
画像形成部220は、例えば、前述の回路基板を含んで構成される。なお、この明細書では、「画像データ」と、それに基づく「画像」とを同一視することがある。また、被検眼Eの部位とその画像とを同一視することもある。
【0065】
(データ処理部)
データ処理部230は、画像形成部220により形成された画像に対して各種のデータ処理(画像処理)や解析処理を施す。例えば、データ処理部230は、画像の輝度補正や分散補正等の補正処理を実行する。また、データ処理部230は、眼底カメラユニット2により得られた画像(眼底像、前眼部像等)に対して各種の画像処理や解析処理を施す。
【0066】
データ処理部230は、断層像の間の画素を補間する補間処理などの公知の画像処理を実行することにより、被検眼Eのボリュームデータ(ボクセルデータ)を形成することができる。ボリュームデータに基づく画像を表示させる場合、データ処理部230は、このボリュームデータに対してレンダリング処理を施して、特定の視線方向から見たときの擬似的な3次元画像を形成する。
【0067】
データ処理部230は、眼底像とOCT画像との位置合わせを行うことができる。眼底像とOCT画像とが並行して取得される場合には、双方の光学系が同軸であることから、(ほぼ)同時に取得された眼底像とOCT画像とを、撮影光学系30の光軸を基準として位置合わせすることができる。また、眼底像とOCT画像との取得タイミングに関わらず、OCT画像のうち眼底Efの相当する画像領域の少なくとも一部をxy平面に投影して得られる正面画像と、眼底像との位置合わせをすることにより、そのOCT画像とその眼底像とを位置合わせすることも可能である。この位置合わせ手法は、眼底像取得用の光学系とOCT用の光学系とが同軸でない場合においても適用可能である。また、双方の光学系が同軸でない場合であっても、双方の光学系の相対的な位置関係が既知であれば、この相対位置関係を参照して同軸の場合と同様の位置合わせを実行することが可能である。
【0068】
以上のように機能するデータ処理部230は、例えば、マイクロプロセッサ、RAM、ROM、ハードディスクドライブ、回路基板等を含んで構成される。ハードディスクドライブ等の記憶装置には、上記機能をマイクロプロセッサに実行させるコンピュータプログラムがあらかじめ格納されている。
【0069】
(ユーザインターフェイス)
ユーザインターフェイス240には、表示部241と操作部242とが含まれる。表示部241は、前述した演算制御ユニット200の表示デバイスや表示装置3を含んで構成される。操作部242は、前述した演算制御ユニット200の操作デバイスを含んで構成される。操作部242には、眼科装置1の筐体や外部に設けられた各種のボタンやキーが含まれていてもよい。また、表示部241は、眼底カメラユニット2の筺体に設けられたタッチパネルなどの各種表示デバイスを含んでいてもよい。
【0070】
なお、表示部241と操作部242は、それぞれ個別のデバイスとして構成される必要はない。例えばタッチパネルのように、表示機能と操作機能とが一体化されたデバイスを用いることも可能である。その場合、操作部242は、このタッチパネルとコンピュータプログラムとを含んで構成される。操作部242に対する操作内容は、電気信号として制御部210に入力される。また、表示部241に表示されたグラフィカルユーザインターフェイス(GUI)と、操作部242とを用いて、操作や情報入力を行うようにしてもよい。
【0071】
図4に、実施形態に係る眼科装置1の動作説明図を示す。図4は、動作モードがフルレンジOCTモードに設定されているときの分散部材80、150の配置状態を模式的に表したものである。図4において、図1図3と同様の部分には同一符号を付し、適宜説明を省略する。
【0072】
動作モードが通常OCTモードに設定されているとき、制御部210(主制御部211)は、移動機構80Aを制御して測定光路から分散部材80を退避させ、かつ、移動機構150Aを制御して参照光路に分散部材150を配置させる。それにより、測定光路の分散特性と参照光路の分散特性との差が補償される。光源ユニット101からの光L0に基づいて生成された測定光LSは、上記のように被検眼Eに照射される。検出器125は干渉光LCを受光し、検出器125により得られた干渉信号がDAQ130でサンプリングされる。画像形成部220は、サンプリングされた干渉信号(スペクトル)に対して公知の数値的な分散補償処理を施す。続いて、画像形成部220は、分散補償処理後の信号に対して公知のFFT処理を施し、ゼロディレイ位置に対してプラスレンジ側(又はマイナスレンジ側)の信号に基づいて生成された振幅成分に対して輝度値を割り当てることでOCT画像を形成する。画像形成部220は、検出器125により得られた干渉信号に対して公知のハニング窓やガウス窓などの窓関数を用いてアポダイゼーション処理を施し、アポダイゼーション処理後の信号に対して上記の分散補償処理を施してもよい。このような処理については、例えば特開2015−70919号公報に開示されている。
【0073】
一般的に、測定光路の分散特性と参照光路の分散特性と差があると、干渉信号から求められる点像分布関数(Point Spread Function:以下、PSF)が鈍り、S/N比が低下し、OCT画像の画質の劣化を招く。この実施形態では、測定光路の分散特性と参照光路の分散特性との差を補償するように分散部材150が参照光路に配置される。それにより、フルレンジより狭い深さレンジでOCT画像を生成する場合、S/N比が高い干渉信号の検出が可能となり、高画質のOCT画像を取得することができる。
【0074】
図5A図5Cに、実施形態に係る眼科装置1の動作説明図を示す。図5A図5Cは、フルレンジOCTモードにおける検出器125の干渉信号のPSFの一例を表す。
【0075】
動作モードがフルレンジOCTモードに設定されているとき、主制御部211は、移動機構80Aを制御して測定光路に分散部材80を配置させ、かつ、移動機構150Aを制御して参照光路から分散部材150を退避させる。それにより、測定光路の分散特性と参照光路の分散特性との差が大きくなる。このとき、検出器125により得られた干渉信号のPSFの波形(図5Aの波形H1)は、通常OCTモードで検出された干渉信号のPSFの波形(図5Aの波形H0)より鈍る。画像形成部220は、例えばマイナスレンジ側の干渉信号のPSFの波形が急峻になるように検出器125により得られた干渉信号に対して公知の分散補償処理を施す(図5Bの波形H2)。続いて、画像形成部220は、波形が急峻になったマイナスレンジ側の干渉信号を検出して除去し、残されたプラスレンジ側の干渉信号に対し、符号を反転させた上記の分散補償処理を施す(図5Bの波形H3)。次に、画像形成部220は、分散補償処理の信号に対して公知のFFT処理を施し、生成された振幅成分に対して輝度値を割り当てることでフルレンジのOCT画像を形成する。
【0076】
OCT画像の画質を向上させるためには、干渉信号のS/N比を向上させる必要がある。S/N比の向上のためには、被検眼Eに入射する測定光LSの光量増加、検出器125における干渉光LCの受光効率の向上、OCT光学系の光量損失の抑制のいずれかが必要である。しかしながら、被検者の安全性を考慮すると被検眼Eへの入射光量は制限され、検出器125における干渉光LCの受光効率の向上にも限界がある。従って、OCT画像の画質の向上には、OCT光学系の光量損失の抑制が最も効果的である。この実施形態では、フルレンジでOCT画像を形成する場合に、上記のように測定光路に配置される分散部材80の分散量を参照光路と測定光路との間における波長分散に起因する光路長差を位相差に換算した場合に30πラジアン以上としている。分散部材80の分散量が小さい場合、例えば図6に示すように、形成されたOCT画像にはミラー像が描出される。これに対して、この実施形態によれば、測定光の光量損失を抑えつつ、ゼロディレイ位置に対して一方のレンジ側に現れる干渉信号を検出しやすくなり、図7に示すようにフルレンジで高画質のOCT画像を取得することができる。
【0077】
分散部材80、移動機構80A、分散部材150、及び移動機構150Aは、実施形態において測定光路の分散特性と参照光路の分散特性とを動作モードに応じて相対的に変更する「分散部」の一例である。分散部材80は、実施形態に係る「第1分散部材」の一例である。移動機構80Aは、実施形態に係る「第1移動機構」の一例である。分散部材150は、実施形態に係る「第2分散部材」の一例である。移動機構150Aは、実施形態に係る「第2移動機構」の一例である。通常OCTモードは、実施形態に係る「第1動作モード」の一例である。フルレンジOCTモードは、実施形態に係る「第2動作モード」の一例である。演算制御ユニット200は、実施形態において干渉光の検出結果に基づき動作モードに応じた被測定物体の情報を生成する「情報生成部」の一例である。操作部242は、実施形態に係る「選択部」の一例である。
【0078】
[動作例]
実施形態に係る眼科装置1の動作について説明する。
【0079】
図8及び図9に、実施形態に係る眼科装置1の動作の一例を示す。図8及び図9は、被検眼EのOCT画像を取得する場合の動作例のフロー図を表す。
【0080】
(S1)
まず、主制御部211は、眼科装置1の動作モードが通常OCTモードであるか否かを判定する。例えば、記憶部212には眼科装置1の動作モードの設定内容を表す動作モード情報が記憶されている。主制御部211は、記憶部212に記憶された動作モード情報を参照することにより眼科装置1の動作モードが通常OCTモードであるか否かを判定することができる。
【0081】
動作モードが通常OCTモードであると判定されたとき(S1:Y)、眼科装置1の動作はS2に移行する。動作モードが通常OCTモードではないと判定されたとき(S1:N)、眼科装置1の動作はS4に移行する。
【0082】
(S2)
S1において動作モードが通常OCTモードであると判定されたとき(S1:Y)、主制御部211は、通常OCT撮影用に分散部材80、150が配置されているか否かを判定する。主制御部211は、移動機構80A、150Aに対する制御内容を参照することにより通常OCT撮影用に分散部材80、150が配置されているか否かを判定することができる。また、光路に対する分散部材80、150の挿脱状態を検出するセンサーを設け、主制御部211は、センサーからの検出信号に基づいて通常OCT撮影用に分散部材80、150が配置されているか否かを判定してもよい。
【0083】
通常OCT撮影用に分散部材80、150が配置されていると判定されたとき(S2:Y)、眼科装置1の動作はS6に移行する。通常OCT撮影用に分散部材80、150が配置されていないと判定されたとき(S2:N)、眼科装置1の動作はS3に移行する。
【0084】
(S3)
S2において通常OCT撮影用に分散部材80、150が配置されていないと判定されたとき(S2:N)、主制御部211は、移動機構80Aを制御して測定光路から分散部材80を退避させ、かつ、移動機構150Aを制御して参照光路に分散部材150を配置させる。眼科装置1の動作はS6に移行する。
【0085】
(S4)
S1において動作モードが通常OCTモードではないと判定されたとき(S1:N)、主制御部211は、動作モードがフルレンジOCTモードであると判断し、フルレンジOCT撮影用に分散部材80、150が配置されているか否かを判定する。主制御部211は、移動機構80A、150Aに対する制御内容を参照することによりフルレンジOCT撮影用に分散部材80、150が配置されているか否かを判定することができる。また、上記のように、光路に対する分散部材80、150の挿脱状態を検出するセンサーを設け、主制御部211は、センサーからの検出信号に基づいてフルレンジOCT撮影用に分散部材80、150が配置されているか否かを判定してもよい。
【0086】
フルレンジOCT撮影用に分散部材80、150が配置されていると判定されたとき(S4:Y)、眼科装置1の動作はS6に移行する。フルレンジOCT撮影用に分散部材80、150が配置されていないと判定されたとき(S4:N)、眼科装置1の動作はS5に移行する。
【0087】
(S5)
S4においてフルレンジOCT撮影用に分散部材80、150が配置されていないと判定されたとき(S4:N)、主制御部211は、移動機構80Aを制御して測定光路に分散部材80を配置させ、かつ、移動機構150Aを制御して参照光路から分散部材150を退避させる。眼科装置1の動作はS6に移行する。
【0088】
(S6)
主制御部211は、撮影光学系30により被検眼Eの前眼部を撮影することにより前眼部像を取得する。
【0089】
(S7)
主制御部211は、S6において取得された前眼部像に基づいて、上記の光学系駆動部を制御することにより光学系を3次元的に移動して、被検眼Eに対する光学系の位置合わせを行う(x方向、y方向、及びx方向とy方向の双方に直交するz方向)。
【0090】
(S8)
主制御部211は、光スキャナ42をあらかじめ決められた初期位置に移動させる。
【0091】
(S9)
主制御部211は、光源ユニット101をオンにして、光スキャナ42を制御することにより光源ユニット101からの光L0に基づく測定光LSで被検眼Eの眼底Efのスキャンを開始させる。画像形成部220は、上記のように、動作モードに応じて検出器155による干渉光の検出結果に基づいて眼底EfのOCT画像を形成する。
【0092】
(S10)
主制御部211は、撮影光学系30により得られた前眼部像から網膜のフォーカス方向のアライメントを行う。それにより、OCTユニット100が備える光学系の光軸方向の位置の微調整が可能になる。
【0093】
(S11)
主制御部211は、OCT光学系140により得られた干渉光の検出信号に基づいて、OCTユニット100が備える光学系の焦点位置を変更する。主制御部211は、例えば、所定の干渉光の検出信号の振幅が最大となるようにOCT合焦レンズ43を光軸方向に移動することにより光学系の焦点位置を変更する。
【0094】
(S12)
主制御部211は、再び、光スキャナ42を制御することにより光源ユニット101からの光L0に基づく測定光LSで被検眼Eの眼底Efのスキャンを開始させる。画像形成部220は、検出器125による干渉光の検出結果に基づいて眼底EfのOCT画像を形成する。動作モードがフルレンジOCTモードに設定されているとき、図7に示すようなOCT画像が形成される。動作モードが通常OCTモードに設定されているとき、図10に示すようなOCT画像が形成される。
【0095】
(S13)
主制御部211は、次の撮影を通常OCTモードで行うか否かを判定する。例えば、主制御部211は、操作部242に対するユーザの操作内容に基づいて、次の撮影を通常OCTモードで行うか否かを判定することができる。
【0096】
次の撮影を通常OCTモードで行うと判定されたとき(S13:Y)、眼科装置1の動作はS2に移行する。次の撮影を通常OCTモードで行わないと判定されたとき(S13:N)、眼科装置1の動作はS14に移行する。
【0097】
(S14)
S13において次の撮影を通常OCTモードで行わないと判定されたとき(S13:N)、主制御部211は、次の撮影をフルレンジOCTモードで行うか否かを判定する。例えば、主制御部211は、操作部242に対するユーザの操作内容に基づいて、次の撮影をフルレンジOCTモードで行うか否かを判定することができる。
【0098】
次の撮影をフルレンジOCTモードで行うと判定されたとき(S14:Y)、眼科装置1の動作はS4に移行する。次の撮影をフルレンジOCTモードで行わないと判定されたとき(S14:N)、眼科装置1の動作は終了する(エンド)。
【0099】
[変形例]
実施形態では、動作モードに応じて図4に示すように分散部材80、150の挿脱制御を行う場合について説明したが、実施形態に係る分散部材80、150の挿脱制御はこれに限定されない。例えば、光学系の設計や制御を簡素化するために、以下のように実施形態に係る分散部材80、150を配置したり挿脱したりすることが可能である。以下では、実施形態の変形例に係る分散部材80、150の挿脱制御について、実施形態との相違点を中心に説明する。
【0100】
図11に、実施形態の第1変形例に係る挿脱制御の説明図を示す。図11において、図4と同様の部分には同一符号を付し、適宜説明を省略する。
【0101】
分散部材80が配置されていない測定光路の分散特性と参照光路の分散特性との差が補償されている場合、参照光路に分散部材150を挿脱させなくてもよい。例えば、画像形成部220等により数値的に分散補償処理が行われる場合や、分散特性の差が補償されるようにあらかじめ光学系が設計されている場合、図11に示すように、測定光路に対して分散部材80を挿脱させるだけでよい。例えば、制御部210(主制御部211)は、動作モードが通常OCTモードに設定されているとき、移動機構80Aを制御して測定光路から分散部材80を退避させ、動作モードがフルレンジOCTモードに設定されているとき、移動機構80Aを制御して測定光路に分散部材80を配置させる。
【0102】
通常OCTモードは、この変形例に係る「第1動作モード」の一例である。フルレンジOCTモードは、この変形例に係る「第2動作モード」の一例である。
【0103】
図12に、実施形態の第2変形例に係る挿脱制御の説明図を示す。図12において、図4と同様の部分には同一符号を付し、適宜説明を省略する。
【0104】
例えば分散部材80が配置されていない測定光路に対して所定の分散量があらかじめ付与されるように光学系が設計されている場合、測定光路に分散部材80を挿脱させなくてもよい。この場合、図12に示すように、参照光路に対して分散部材150を挿脱させるだけでよい。分散部材150の分散量は、実施形態に係る分散部材80の分散量であってよい。例えば、制御部210(主制御部211)は、動作モードがフルレンジOCTモードに設定されているとき、移動機構150Aを制御して参照光路から分散部材150を退避させ、動作モードが通常OCTモードに設定されているとき、移動機構150Aを制御して参照光路に分散部材150を配置させる。
【0105】
フルレンジOCTモードは、この変形例に係る「第1動作モード」の一例である。通常OCTモードは、この変形例に係る「第2動作モード」の一例である。
【0106】
図13に、実施形態の第3変形例に係る挿脱制御の説明図を示す。図13において、図4と同様の部分には同一符号を付し、適宜説明を省略する。
【0107】
例えば、参照光路に分散部材150を配置しつつ、測定光路に対して分散部材80を挿脱させてもよい。分散部材80は、測定光路に対して所定の分散量を付与する。移動機構80Aは、測定光路に対して分散部材80を挿脱する。分散部材150は、参照光路に配置され、分散部材80が配置されていない測定光路の分散特性と参照光路の分散特性との差を補償する。この変形例において、分散部材80の分散量は、測定光路の分散特性と参照光路の分散特性との差を補償する分散量と、参照光路と測定光路との間における波長分散に起因する光路長差を位相差に換算した場合に30πラジアン以上である分散量との合成量であってよい。例えば、制御部210(主制御部211)は、動作モードが通常OCTモードに設定されているとき、移動機構80Aを制御して測定光路から分散部材80を退避させ、動作モードがフルレンジOCTモードに設定されているとき、移動機構80Aを制御して測定光路に分散部材80を配置させる。
【0108】
通常OCTモードは、この変形例に係る「第1動作モード」の一例である。フルレンジOCTモードは、この変形例に係る「第2動作モード」の一例である。
【0109】
図14に、実施形態の第4変形例に係る挿脱制御の説明図を示す。図14において、図4と同様の部分には同一符号を付し、適宜説明を省略する。
【0110】
例えば、参照光路に分散部材150を配置しつつ、当該参照光路に対して分散部材80を挿脱させてもよい。分散部材80は、参照光路に対して所定の分散量を付与する。移動機構80Aは、参照光路に対して分散部材80を挿脱する。分散部材150は、参照光路に配置され、分散部材80が配置されていない測定光路の分散特性と参照光路の分散特性との差を補償する。例えば、制御部210(主制御部211)は、動作モードが通常OCTモードに設定されているとき、移動機構80Aを制御して参照光路から分散部材80を退避させ、動作モードがフルレンジOCTモードに設定されているとき、移動機構80Aを制御して参照光路に分散部材80を配置させる。
【0111】
通常OCTモードは、この変形例に係る「第1動作モード」の一例である。フルレンジOCTモードは、この変形例に係る「第2動作モード」の一例である。
【0112】
[効果]
実施形態に係る眼科装置1に適用されるOCT装置の効果について説明する。
【0113】
実施形態に係るOCT装置は、光源(光源ユニット101)からの光(L0)を測定光(LS)と参照光(LR)とに分割し、測定光を被測定物体(被検眼E)に照射し、被測定物体からの測定光の戻り光と参照光との干渉光(LC)を検出する。OCT装置は、分散部(80、80A、150、150A)と、情報生成部(演算制御ユニット200)とを含む。分散部は、測定光の光路である測定光路の分散特性と参照光の光路である参照光路の分散特性とを深さレンジに対応した動作モードに応じて相対的に変更する。情報生成部は、干渉光の検出結果に基づいて、動作モードに応じた被測定物体の情報(断層像)を生成する。
【0114】
このような構成によれば、深さレンジに対応した動作モードに応じて測定光路の分散特性と参照光路の分散特性とを相対的に変更し、当該動作モードに対応した被測定物体の情報を生成するようにしたので、動作モードに対応した深さレンジで被測定物体の情報を取得することができる。それにより、簡素な構成で、狭い深さレンジでS/N比が高い被測定物体に関する情報とフルレンジの被測定物体に関する情報の取得が可能になる。
【0115】
また、実施形態に係るOCT装置では、分散部は、第1分散部材(80)と、第1移動機構(80A)と、第2分散部材(150)と、第2移動機構(150A)とを含んでもよい。第1分散部材は、測定光路の分散特性と参照光路の分散特性との差を大きくするように測定光路に対して第1分散量を付与する。第1移動機構は、測定光路に対して第1分散部材を挿脱する。第2分散部材は、第1分散部材が配置されていない測定光路の分散特性と参照光路の分散特性との差を補償する。第2移動機構は、参照光路に対して第2分散部材を挿脱する。
【0116】
このような構成によれば、図4に示すように、第1分散部材及び第2分散部材を挿脱することにより測定光路の分散特性と参照光路の分散特性とを相対的に変更するようにしたので、光学系の設計を簡素化しつつ、被測定物体の高精度な情報の取得が可能になる。
【0117】
また、実施形態に係るOCT装置は、第1動作モードのとき、第1移動機構を制御して測定光路から第1分散部材を退避させ、かつ、第2移動機構を制御して参照光路に第2分散部材を配置させ、第2動作モードのとき、第1移動機構を制御して測定光路に第1分散部材を配置させ、かつ、第2移動機構を制御して参照光路から第2分散部材を退避させる制御部(210)を含んでもよい。
【0118】
このような構成によれば、第1移動機構及び第2移動機構を制御する制御部を設けるようにしたので、動作モードに応じた被測定物体の高精度な情報の取得が容易になる。
【0119】
また、実施形態に係るOCT装置では、分散部は、第1分散部材(80)と、第1移動機構(80A)とを含んでもよい。第1分散部材は、測定光路の分散特性と参照光路の分散特性との差を大きくするように測定光路に対して第1分散量を付与する。第1移動機構は、測定光路に対して第1分散部材を挿脱する。
【0120】
このような構成によれば、図11に示すように、測定光路に対する第1分散部材の挿脱だけで測定光路の分散特性と参照光路の分散特性とを相対的に変更するようにしたので、光学系の設計や制御を簡素化しつつ、被測定物体の高精度な情報の取得が可能になる。例えば、第1分散部材が配置されていない測定光路の分散特性と参照光路の分散特性との差が補償されている場合(ソフトウェア処理により分散補償が行われたり光学設計によりあらかじめ分散補償がされていたりする場合)、光学系の設計や制御を簡素化できる。
【0121】
また、実施形態に係るOCT装置は、第1動作モードのとき、第1移動機構を制御して測定光路から第1分散部材を退避させ、第2動作モードのとき、第1移動機構を制御して測定光路に第1分散部材を配置させる制御部(210)を含んでもよい。
【0122】
このような構成によれば、第1移動機構を制御する制御部を設けるようにしたので、制御を簡素化しつつ動作モードに応じた被測定物体の高精度な情報の取得が容易になる。
【0123】
また、実施形態に係るOCT装置では、分散部は、第1分散部材(150)と、第1移動機構(150A)とを含んでもよい。第1分散部材は、測定光路の分散特性と参照光路の分散特性との差を大きくするように参照光路に対して第1分散量を付与する。第1移動機構は、参照光路に対して第1分散部材を挿脱する。
【0124】
このような構成によれば、図12に示すように、参照光路に対する第1分散部材の挿脱だけで測定光路の分散特性と参照光路の分散特性とを相対的に変更するようにしたので、光学系の設計や制御を簡素化しつつ、被測定物体の高精度な情報の取得が可能になる。例えば、分散部材が配置されていない測定光路に既に所定の分散量が付与されている場合、参照光路に対して第1分散部材を挿入するだけで測定光路の分散特性と参照光路の分散特性とを相対的に変更することができ、光学系の設計や制御を簡素化できる。
【0125】
また、実施形態に係るOCT装置は、第1動作モードのとき、第1移動機構を制御して参照光路から第1分散部材を退避させ、第2動作モードのとき、第1移動機構を制御して参照光路に第1分散部材を配置させる制御部(210)を含んでもよい。
【0126】
このような構成によれば、第1移動機構を制御する制御部を設けるようにしたので、制御を簡素化しつつ動作モードに応じた被測定物体の高精度な情報の取得が容易になる。
【0127】
また、実施形態に係るOCT装置では、被測定物体は、生体眼であり、第1分散量は、参照光路と測定光路との間における波長分散に起因する光路長差を位相差に換算した場合に30πラジアン以上であってよい。
【0128】
このような構成によれば、30πラジアン以上の位相差に対応する光路長差に相当する分散量を付与する第1分散部材を光路に対して挿脱可能にしたので、プラスレンジ及びマイナスレンジのいずれかの干渉信号の検出がより容易になり、フルレンジで生体眼の高精度な情報を取得することが可能になる。
【0129】
また、実施形態に係るOCT装置では、分散部は、第1分散部材(80)と、第1移動機構(80A)と、第2分散部材(150)とを含んでもよい。第1分散部材は、測定光路に対して第2分散量を付与する。第1移動機構は、測定光路に対して第1分散部材を挿脱する。第2分散部材は、参照光路に配置され、第1分散部材が配置されていない測定光路の分散特性と参照光路の分散特性との差を補償する。
【0130】
このような構成によれば、図13に示すように、参照光路に2つの光路の分散特性の差を補償する第2分散部材を配置しつつ測定光路に対して第1分散部材を挿脱するようにしたので、光学系の設計や制御を簡素化しつつ、被測定物体の高精度な情報の生成が可能になる。
【0131】
また、実施形態に係るOCT装置は、第1動作モードのとき、第1移動機構を制御して測定光路から第1分散部材を退避させ、第2動作モードのとき、第1移動機構を制御して測定光路に第1分散部材を配置させる制御部(210)を含んでもよい。
【0132】
このような構成によれば、第1移動機構を制御する制御部を設けるようにしたので、制御を簡素化しつつ動作モードに応じた被測定物体の高精度な情報の取得が容易になる。
【0133】
また、実施形態に係るOCT装置では、被測定物体は、生体眼であり、第2分散量は、測定光路の分散特性と参照光路の分散特性との差を補償する分散量と、参照光路と測定光路との間における波長分散に起因する光路長差を位相差に換算した場合に30πラジアン以上である分散量との合成量であってよい。
【0134】
このような構成によれば、測定光路の分散特性と参照光路の分散特性との差を補償する分散量と、30πラジアン以上の位相差に対応する光路長差に相当する分散量との合成量を付与する第1分散部材を光路に対して挿脱可能にしたので、プラスレンジ及びマイナスレンジのいずれかの干渉信号の検出がより容易になり、フルレンジで生体眼の高精度な情報を取得することが可能になる。
【0135】
また、実施形態に係るOCT装置では、分散部は、第1分散部材(80)と、第1移動機構(80A)と、第2分散部材(150)とを含んでもよい。第1分散部材は、参照光路に対して第2分散量を付与する。第1移動機構は、参照光路に対して第1分散部材を挿脱する。第2分散部材は、参照光路に配置され、第1分散部材が配置されていない測定光路の分散特性と参照光路の分散特性との差を補償する。
【0136】
このような構成によれば、図14に示すように、参照光路に2つの光路の分散特性の差を補償する第2分散部材を配置しつつ当該参照光路に対して第1分散部材を挿脱するようにしたので、光学系の設計を簡素化しつつ、被測定物体の高精度な情報の取得が可能になる。
【0137】
また、実施形態に係るOCT装置は、第1動作モードのとき、第1移動機構を制御して参照光路から第1分散部材を退避させ、第2動作モードのとき、第1移動機構を制御して参照光路に第1分散部材を配置させる制御部(210)を含んでもよい。
【0138】
このような構成によれば、第1移動機構を制御する制御部を設けるようにしたので、制御を簡素化しつつ動作モードに応じた被測定物体の高精度な情報の取得が容易になる。
【0139】
また、実施形態に係るOCT装置は、測定光を平行光束にするコリメートレンズ(コリメータレンズユニット40内のコリメートレンズ)と、コリメートレンズにより平行光束とされた測定光を偏向する光スキャナ(42)と、を含み、第1分散部材は、コリメートレンズと光スキャナとの間に配置可能であってよい。
【0140】
このような構成によれば、測定光路におけるコリメートレンズと光スキャナとの間に第1分散部材を配置可能にしたので、光スキャナによる測定光の偏向の影響を受けることなく動作モードに対応した被測定物体の高精度な情報を取得することが可能になる。
【0141】
また、実施形態に係るOCT装置は、深さレンジが異なる2以上の動作モードのいずれかを選択する選択部(操作部242)を含み、情報生成部は、選択部により選択された動作モードに対応する深さレンジの断層像を形成する画像形成部(220)を含んでもよい。
【0142】
このような構成によれば、選択部により選択された動作モードに対応した深さレンジで被測定物体の断層像を形成するようにしたので、所望の深さレンジで被測定物体の高精細な断層像を容易に取得することができる。
【0143】
<変形例>
以上に示された実施形態は、この発明を実施するための一例に過ぎない。この発明を実施しようとする者は、この発明の要旨の範囲内において任意の変形、省略、追加等を施すことが可能である。
【0144】
前述の実施形態又はその変形例において、演算制御ユニット200が被検眼の情報として被検眼Eの断層像を形成する場合について説明したが、これに限定されない。例えば、演算制御ユニット200が被検眼の情報として被検眼Eの眼軸長などの眼内距離を測定してもよい。具体的には、フルレンジOCTモードにおいてフルレンジで被検眼Eの眼軸長などの眼内距離を計測し、通常OCTモードにおいてフルレンジより狭いレンジで被検眼Eの断層像を形成してもよい。
【0145】
前述の実施形態又はその変形例において、実施形態に係るOCT装置が適用された眼科装置における光学系の構成が図1及び図2に示す構成である場合について説明したが、光学系の構成はこれに限定されない。実施形態に係る光学系は、レーザー光を眼底における治療部位に照射するための光学系や、被検眼に固視させた状態で視標を移動させるための光学系などを備えていてもよい。
【符号の説明】
【0146】
1 眼科装置
40 コリメータレンズユニット
42 光スキャナ
80、150 分散部材
80A、150A 移動機構
200 演算制御ユニット
210 制御部
211 主制御部
220 画像形成部
242 操作部
E 被検眼
LC 干渉光
LR 参照光
LS 測定光
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14