特許第6776099号(P6776099)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6776099-液晶ポリマー組成物 図000016
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6776099
(24)【登録日】2020年10月9日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】液晶ポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/12 20060101AFI20201019BHJP
   C08K 7/00 20060101ALI20201019BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20201019BHJP
   C08K 7/18 20060101ALI20201019BHJP
   C08G 63/06 20060101ALI20201019BHJP
   C08G 63/60 20060101ALI20201019BHJP
   H01R 13/46 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   C08L101/12
   C08K7/00
   C08K7/14
   C08K7/18
   C08G63/06
   C08G63/60
   H01R13/46 301B
【請求項の数】13
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-222566(P2016-222566)
(22)【出願日】2016年11月15日
(65)【公開番号】特開2018-80242(P2018-80242A)
(43)【公開日】2018年5月24日
【審査請求日】2019年7月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(72)【発明者】
【氏名】寺田 浩昭
(72)【発明者】
【氏名】米澤 智
【審査官】 岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−127026(JP,A)
【文献】 特開2007−197716(JP,A)
【文献】 特開2007−138143(JP,A)
【文献】 特開2013−028678(JP,A)
【文献】 特開2008−255535(JP,A)
【文献】 特開2003−171538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/16
C08G 63/00− 64/42
H01R 13/46
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリマー100重量部に対して、粒子径が1〜8μmである板状フィラー(A)を60〜150重量部含有し、ここで、該板状フィラー(A)はタルクであり、比較トラッキング指数が250V以上である液晶ポリマー組成物であって、
(I)さらに、粒子径が10〜50μmであるフィラー(B)を含有し、ここで、該フィラー(B)はタルク、マイカまたはフッ化カルシウムであり、液晶ポリマー100重量部に対して板状フィラー(A)とフィラー(B)の合計が60〜150重量部、かつ、板状フィラー(A)とフィラー(B)との重量比(B/A)が0.05〜1.0となる、または
(II)さらに、繊維状フィラー(C)を、液晶ポリマー100重量部に対して5〜30重量部含有し、かつ、繊維状フィラー(C)と板状フィラー(A)との重量比[C/A]が0.05〜0.47である、
前記組成物
【請求項2】
前記(I)の場合において、さらに、繊維状フィラー(C)を、液晶ポリマー100重量部に対して5〜30重量部含有し、かつ、繊維状フィラー(C)と板状フィラー(A)およびフィラー(B)の合計との重量比[C/(A+B)]が0.05〜0.47である、請求項1に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項3】
成形収縮率比が1.0〜3.0である、請求項1または2に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項4】
成形時の溶融樹脂組成物の流れ方向における熱伝導率が1.8W/m・K以上である、請求項1〜のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項5】
繊維状フィラー(C)がガラス繊維である、請求項1〜のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項6】
キャピラリーレオメーターで測定した溶融粘度が45〜100Pa・sである、請求項1〜のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項7】
液晶ポリマーが、式(I)および(II)で表される繰返し単位の一方または両方を含む、請求項1〜のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
【化1】
【請求項8】
液晶ポリマーが、式(I)〜(IV)で表される繰返し単位を含む、請求項に記載の液晶ポリマー組成物。
【化2】
[式中、ArおよびArはそれぞれ2価の芳香族基を表す。]
【請求項9】
ArおよびArが、互いに独立して、式(1)〜(4)で表される芳香族基からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項に記載の液晶ポリマー組成物。
【化3】
【請求項10】
Arが式(4)で表される芳香族基であり、Arが式(1)で表される芳香族基である、請求項に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項11】
Arが式(1)で表される芳香族基であり、Arが式(1)および/または式(3)で表される芳香族基である、請求項に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物から構成される成形品。
【請求項13】
成形品が、スイッチ、リレー、コネクター、光ピックアップ、インバータトランス、コイルボビン、センサー、アンテナおよび基板からなる群から選択されるものである、請求項12に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐トラッキング破壊性能、成形収縮率の異方性および熱伝導率が改善された液晶ポリマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリマーは、分子が剛直で溶融状態でも絡み合いを起こしにくく、成形時の剪断により分子鎖が樹脂の流動方向に著しく配向する。
このため、液晶ポリマーは、流動性が良好であり、また、バリが出にくいという特徴を有し、耐熱性、剛性等の機械物性、耐薬品性、寸法精度等にも優れるため、複雑な形状を有する電気・電子部品において、その使用量が大幅に増大している。
しかしながら、情報・通信分野において使用される電気・電子部品は、近年さらに軽薄短小化、複雑化、高集積化しており、液晶ポリマー組成物に対して、一層、耐トラッキング破壊性能が高いこと、成形収縮率の異方性が低いことや放熱性が高いことが求められるようになっている。
【0003】
液晶ポリマーの成形収縮率の異方性を改良する方法としては、液晶ポリマーに特定の繊維状無機充填材と板状無機充填材を配合する方法が提案されている(特許文献1)。しかし、この方法では成形収縮率の異方性はある程度改善されるものの、十分ではない。
【0004】
液晶ポリエステルに放熱性を付与する方法として、例えば、熱可塑性樹脂に特定粒子径のアルミナと板状フィラーを添加して熱伝導率を向上させる方法が提案されている(特許文献2)。しかしながら、この方法では、アルミナ微粒子を添加することから、混練時における押出機のスクリューやシリンダー、成形時における成形機のスクリュー、シリンダーや金型が摩耗するおそれがあり、また、成形収縮率の異方性の改良効果も十分ではなかった。
【0005】
液晶ポリマーに特定粒子径の板状フィラーと粉粒状フィラーを添加して熱伝導率を向上させる方法が提案されているが(特許文献3)、この方法では、粉粒状酸化チタンを添加しているため、スクリュー等の摩耗のおそれがあるうえに樹脂組成物が劣化して機械的物性等が損なわれ易くなるという問題があった。
【0006】
したがって、アルミナフィラーや酸化チタンフィラーを配合せずに、流動性を維持しつつ、耐トラッキング破壊性能、成形収縮率の異方性および熱伝導率をバランスよく改善する方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−190461号公報
【特許文献2】特開2009−263640号公報
【特許文献3】特開2009−127026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、溶融粘度が低く、良好な機械強度を示し、かつ、耐トラッキング破壊性能、成形収縮率の異方性および熱伝導率がバランスよく改善された液晶ポリマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の液晶ポリマー組成物は、特定の粒子径の板状フィラーを含有することによって、流動性および機械強度を維持しつつ、耐トラッキング破壊性能、成形収縮率の異方性および熱伝導率が改善されたものである。
【0010】
すなわち、本発明は、液晶ポリマー100重量部に対して、粒子径が1〜8μmである板状フィラー(A)を60〜150重量部含有し、比較トラッキング指数が250V以上である液晶ポリマー組成物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の液晶ポリマー組成物は、溶融粘度が低く、成形収縮率の異方性、耐トラッキング破壊性能および熱伝導率のバランスに優れた成形品を得ることができるため、スイッチ、リレー、コネクター、チップ、光ピックアップ、インバータトランス、コイルボビン、アンテナ、センサー、基板などの電気・電子部品の成形材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例において熱伝導率の測定のために作成したバーフロー試験片の積層体およびそれから切り出した評価用サンプルの模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の液晶ポリマー組成物に使用する液晶ポリマーとは、当業者にサーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれる異方性溶融相を形成する液晶ポリエステル樹脂または液晶ポリエステルアミド樹脂である。
【0014】
液晶ポリマーの異方性溶融相の性質は直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわち、ホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0015】
本発明に使用する液晶ポリマーは、分子鎖中に脂肪族基を有する半芳香族液晶ポリマー、または分子鎖が全て芳香族基より構成される全芳香族液晶ポリマーの何れを用いてもよい。これらの液晶ポリマーの中では、難燃性や機械的物性が良好であることから全芳香族液晶ポリマー、特に全芳香族液晶ポリエステル樹脂を使用するのが好ましい。
【0016】
本発明に使用する液晶ポリマーを構成する繰返し単位としては、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、脂肪族ジオキシ繰返し単位、脂肪族ジカルボニル繰返し単位およびこれらの組合わせなどが挙げられる。
【0017】
芳香族オキシカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、3’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、4’−ヒドロキシフェニル−3−安息香酸およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中では4−ヒドロキシ安息香酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸が、得られる液晶ポリマーの特性や融点を調整しやすいという点から好ましい。
【0018】
芳香族ジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシビフェニルなどの芳香族ジカルボン酸およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではテレフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸が、得られる液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、融点温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0019】
芳香族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニルエーテルなどの芳香族ジオールおよびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではハイドロキノンおよび4,4’−ジヒドロキシビフェニルが、重合時の反応性、得られる液晶ポリマーの特性などの点から好ましい。
【0020】
芳香族アミノオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、4−アミノフェノール、3−アミノフェノール、4−アミノ−1−ナフトール、5−アミノ−1−ナフトール、8−アミノ−2−ナフトール、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニルなどの芳香族ヒドロキシアミンおよびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0021】
芳香族ジアミノ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレンなどの芳香族ジアミンおよびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物などのアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0022】
芳香族アミノカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、4−アミノ安息香酸、3−アミノ安息香酸、6−アミノ−2−ナフトエ酸などの芳香族アミノカルボン酸およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0023】
芳香族オキシジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、3−ヒドロキシ−2,7−ナフタレンジカルボン酸、4−ヒドロキシイソフタル酸、および5−ヒドロキシイソフタル酸などのヒドロキシ芳香族ジカルボン酸およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0024】
脂肪族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの脂肪族ジオール、ならびにこれらのアシル化物が挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレートや、ポリブチレンテレフタレートなどの脂肪族ジオキシ繰返し単位を含有するポリマーを、前記の芳香族オキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオールおよびこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などと反応させることによっても、脂肪族ジオキシ繰返し単位を含む液晶ポリマーを得ることができる。
【0025】
脂肪族ジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、フマル酸、マレイン酸およびヘキサヒドロテレフタル酸などが挙げられる。
【0026】
本発明に使用する液晶ポリマーは本発明の目的を損なわない範囲で、チオエステル結合を含むものであってもよい。このような結合を与える単量体としては、メルカプト芳香族カルボン酸、および芳香族ジチオールおよびヒドロキシ芳香族チオールなどが挙げられる。これらの単量体の使用量は、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰り返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、脂肪族ジオキシ繰返し単位、および脂肪族ジカルボニル繰返し単位を与える単量体の合計量を含む全体に対して10モル%以下であるのが好ましい。
【0027】
これらの繰り返し単位を組み合わせたポリマーは、モノマーの構成や組成比、ポリマー中での各繰り返し単位のシークエンス分布によっては、異方性溶融相を形成するものとしないものが存在するが、本発明に使用する液晶ポリマーは異方性溶融相を形成するものに限られる。
【0028】
また、本発明に使用することができる液晶ポリマーの具体的な例として、下記の単量体の組合せから与えられる繰返し単位で構成される共重合体を挙げることができる。
1)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸共重合体
2)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
3)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
4)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン共重合体
5)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
6)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
7)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
8)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
9)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
10)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
11)4−ヒドロキシ安息香酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
12)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
13)4−ヒドロキシ安息香酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
14)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
15)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
16)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4−アミノフェノール共重合体
17)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/4−アミノフェノール共重合体
18)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/4−アミノフェノール共重合体
19)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/4−アミノフェノール共重合体
20)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/エチレングリコール共重合体
21)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール共重合体
22)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/エチレングリコール共重合体
23)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール共重合体
24)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体。
【0029】
本発明に使用する液晶ポリマーは、二種以上の液晶ポリマーをブレンドしたブレンド樹脂であってもよく、例えば、上記1)の共重合体と、上記7)、9)および14)の共重合体からなる群から選択される1種以上を含む共重合体とをブレンドしたものなどが挙げられる。
【0030】
本発明の液晶ポリマー組成物に使用される液晶ポリマーとしては、式(I)および(II)で表される繰返し単位の一方または両方を含むものが好適に使用される。
【化1】
【0031】
本発明の液晶ポリマー組成物に使用される液晶ポリマーとしては、式(I)〜(IV)で表される繰返し単位を含むものが好適に使用される。
【化2】
[式中、ArおよびArはそれぞれ2価の芳香族基を表す。]
ここで、「芳香族基」は、6員の単環または環数2の縮合環である芳香族基を示す。
【0032】
ArおよびArは、互いに独立して、下記の式(1)〜(4)で表される芳香族基からなる群から選択される少なくとも1種を含むのがより好ましく、Arが式(1)および/または(4)で表される芳香族基であり、Arが式(1)および/または(3)で表される芳香族基であるのが特に好ましい。
【化3】
【0033】
本発明の液晶ポリマー組成物に使用される液晶ポリマーの好ましい一つの態様として、下記の繰返し単位の組成比で構成される液晶ポリマーが挙げられる。
【化4】
[pおよびqは、各繰返し単位の液晶ポリマー中での組成比(モル%)であり、以下の式を満たす;
90≦p+q≦100、
20≦p≦80および
20≦q≦80]
p+q=100モル%であることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、他の繰返し単位をさらに含有してもよい。
【0034】
本発明の液晶ポリマー組成物に使用される液晶ポリマーの好ましい一つの態様として、下記の繰返し単位の組成比で構成される液晶ポリマーが挙げられる。
【化5】
[p、q、r、およびsは、各繰返し単位の液晶ポリマー中での組成比(モル%)であり、以下の式を満たす;
60≦p+q≦78、
0.05≦q≦3、
11≦r≦20および
11≦s≦20]
p+q+r+s=100モル%であることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、他の繰返し単位をさらに含有してもよい。
【0035】
本発明の液晶ポリマー組成物に使用される液晶ポリマーの好ましい一つの態様として、下記の繰返し単位の組成比で構成される液晶ポリマーが挙げられる。
【化6】
[式中、p、q、r、tおよびuは、各繰返し単位の液晶ポリマー中での組成比(モル%)を示し、以下の条件を満たす:
25≦p≦45、
2≦q≦10、
10≦r≦20、
10≦t≦20、
20≦u≦40および
r>t]
p+q+r+t+u=100モル%であることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、他の繰返し単位をさらに含有してもよい。
【0036】
他の繰返し単位を与える単量体成分としては、上述した、他の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、あるいは芳香族ヒドロキシジカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸、芳香族メルカプトカルボン酸、芳香族ジチオール、芳香族メルカプトフェノールなどが挙げられる。
【0037】
これらの他の単量体成分から与えられる繰返し単位の割合は、繰返し単位全体において、10モル%以下であるのが好ましい。
【0038】
本発明に使用される液晶ポリマーの結晶融解温度は、特に限定はされないが、270〜360℃であるものが好ましい。
【0039】
以下、本発明に使用する液晶ポリマーの製造方法について説明する。
【0040】
本発明に使用する液晶ポリマーの製造方法に特に制限はなく、前記の単量体の組み合わせからなるエステル結合またはアミド結合を形成させる公知の重縮合方法、例えば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などを使用することができる。
【0041】
溶融アシドリシス法とは、本発明で使用する液晶ポリマーの製造方法に使用するのに好ましい方法であり、この方法は、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融液を形成し、続いて反応を続けて溶融ポリマーを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(例えば、酢酸、水等)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0042】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0043】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法の何れの場合においても、液晶ポリマーを製造する際に使用する重合性単量体成分は、常温において、ヒドロキシル基および/またはアミノ基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2〜5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体のアセチル化物を反応に使用する方法が挙げられる。
【0044】
単量体のアシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶ポリマーの製造時に単量体に無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0045】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法の何れの場合においても反応時、必要に応じて触媒を用いてもよい。
【0046】
触媒の具体例としては、ジアルキルスズオキシド(例えばジブチルスズオキシド)、ジアリールスズオキシドなどの有機スズ化合物、二酸化チタン、三酸化アンチモン、アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物、カルボン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩(例えば酢酸カリウム)、無機酸塩類(例えば硫酸カリウム)、ルイス酸(例えば三フッ化硼素)、ハロゲン化水素(例えば塩化水素)などの気体状酸触媒などが挙げられる。
【0047】
触媒の使用割合は、通常モノマー全量に対して1〜1000ppm、好ましくは2〜100ppmである。
【0048】
このようにして重縮合反応されて得られた液晶ポリマーは、溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工される。
【0049】
ペレット状、フレーク状、または粉末状の液晶ポリマーは、分子量を高め耐熱性を向上させる目的などで、減圧下または不活性ガス雰囲気下において、実質的に固相状態において熱処理を行ってもよい。
【0050】
固相状態で行う熱処理の温度は、液晶ポリマーが溶融しない限り特に限定されないが、260〜350℃、好ましくは280〜320℃で行うのがよい。
【0051】
本発明における一つの態様の液晶ポリマー組成物は、上記液晶ポリマー、および、粒子径が1〜8μmである板状フィラー(A)を含有するものである。本発明の液晶ポリマー組成物は、板状フィラー(A)を単独で、すなわちフィラー成分として板状フィラー(A)のみを含むものであってよく、板状フィラー(A)と後述するフィラー(B)、繊維状フィラー(C)および/または他の充填材とを含むものであってもよい。
【0052】
本発明において、粒子径とは、レーザー回折法により測定されるメディアン径D50である。
【0053】
本発明に使用する、板状フィラー(A)の粒子径は1〜8μmであり、好ましくは2〜6μm、より好ましくは3μm以上5μm未満である。板状フィラー(A)の粒子径が1μm未満であると機械強度が不十分となる傾向があり、8μmを超えると耐トラッキング破壊性能が低下する傾向がある。
【0054】
板状フィラー(A)の含有量は、液晶ポリマー100重量部に対して、60〜150重量部であり、65〜140重量部が好ましく、70〜130重量部であることがより好ましい。
【0055】
板状フィラー(A)の含有量が、60重量部未満であると成形収縮率の異方性改善効果が不十分であり、150重量部を超えると溶融粘度が上昇するため溶融混練による樹脂組成物の作製が困難となる。
【0056】
本発明における別の態様の液晶ポリマー組成物は、液晶ポリマー、板状フィラー(A)、および、粒子径が10〜50μmであるフィラー(B)を含有するものである。
【0057】
フィラー(B)の含有量が、板状フィラー(A)との重量比において一定の範囲内とすることによって、耐トラッキング破壊性能および熱伝導率を維持しつつ機械強度を向上させることができる。
【0058】
本発明に使用する、フィラー(B)の粒子径は10〜50μmであり、15〜30μmが好ましい。10μm未満であると機械強度が向上せず、50μmを超えると耐トラッキング破壊性能が低下する。
【0059】
フィラー(B)を含有させる場合、好ましくは、板状フィラー(A)とフィラー(B)の合計の含有量は60〜150重量部であり、かつ、板状フィラー(A)とフィラー(B)との重量比(B/A)は0.05〜1.0である。
【0060】
板状フィラー(A)とフィラー(B)の合計の含有量が、60重量部未満であると異方性改善効果が十分でなく、150重量部を超えると溶融粘度が上昇し、また、溶融混練による樹脂組成物の作製が困難となる傾向がある。フィラー(B)を含有させる場合、板状フィラー(A)とフィラー(B)の合計の含有量は、より好ましくは65〜140重量部、さらに好ましくは70〜130重量部である。
【0061】
重量比(B/A)が1.0を超えると、耐トラッキング破壊性能および熱伝導率が低下する。板状フィラー(A)とフィラー(B)との重量比(B/A)は、より好ましくは0.05〜0.67、さらに好ましくは0.05〜0.54である。
【0062】
フィラー(B)を含有させる場合、フィラー(B)の含有量は、上述の板状フィラー(A)とフィラー(B)の合計の含有量および板状フィラー(A)とフィラー(B)との重量比(B/A)を満たす量であれば特に限定されないが、液晶ポリマー100重量部に対して、例えば0重量部超75重量部以下、5〜60重量部、10〜50重量部などであってよい。
【0063】
板状フィラー(A)としては、電気絶縁性フィラー、例えば、タルク、マイカ、カオリン、クレー、バーミキュライト、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、長石粉、酸性白土、ロウ石クレー、セリサイト、シリマナイト、ベントナイト、ガラスフレーク、スレート粉、シラン等の珪酸塩、炭酸カルシウム、胡粉、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト等の炭酸塩、バライト粉、沈降性硫酸カルシウム、焼石膏、硫酸バリウム等の硫酸塩、水和アルミナ等の水酸化物、アルミナ、酸化アンチモン、マグネシア、酸化チタン、亜鉛華、シリカ、珪砂、石英、ホワイトカーボン、珪藻土等の酸化物、二硫化モリブデン等の硫化物、板状のウォラストナイトなどが挙げられる。
【0064】
この中でも、液晶ポリマー組成物の熱伝導性に優れる点から、タルクが好ましい。
【0065】
フィラー(B)は、繊維状フィラーではないフィラーであればよく、例えば板状フィラーおよび粒状フィラーを用いることができる。
板状フィラーとしては、上述の板状フィラー(A)の例として記載したものを用いることができる。
粒状フィラーとしては、粒状の無機充填材、例えば炭酸カルシウム、ガラスビーズ、硫酸バリウム、酸化チタン、フッ化カルシウム、酸化マグネシウムなどが挙げられる。
フィラー(B)としては、板状フィラーが好ましく、液晶ポリマー組成物の熱伝導性に優れる点からタルクがより好ましい。
【0066】
本発明におけるさらに別の態様の液晶ポリマー組成物は、液晶ポリマー、板状フィラー(A)、上記のように一定範囲内の含有量で含有されてもよいフィラー(B)、および、繊維状フィラー(C)を含有するものである。
【0067】
本発明に使用される繊維状フィラー(C)は、数平均繊維径が5〜20μmであって、平均アスペクト比が5〜30であることが、機械強度を向上させる点で好ましい。
【0068】
平均アスペクト比とは、繊維状フィラーの形状を表す指標であり、数平均繊維長と数平均繊維径の比(数平均繊維長/数平均繊維径)である。
【0069】
繊維状フィラー(C)を含有させる場合、繊維状フィラー(C)の含有量を一定範囲内とすることによって、成形収縮率の異方性の低下を抑制しつつ、機械強度を向上させることができる。
【0070】
本発明の液晶ポリマー組成物における繊維状フィラー(C)の含有量は、液晶ポリマー100重量部に対して、5〜30重量部であることが好ましく、10〜30重量部であることがより好ましく、15〜25重量部であることがさらに好ましい。
【0071】
繊維状フィラー(C)の含有量が、5重量部未満であると機械強度は向上せず、30重量部を超えると収縮率の異方性の低下が大きくなる。
【0072】
繊維状フィラー(C)と、板状フィラー(A)および必要な場合にはフィラー(B)の合計との重量比[C/AまたはC/(A+B)]は、0.05〜0.47の範囲内であることが好ましく、0.10〜0.33の範囲内であることがより好ましい。
【0073】
重量比[C/AまたはC/(A+B)]が0.47を超えると、成形収縮率の異方性が低下する。
【0074】
繊維状フィラー(C)を含ませる場合、好ましくは、液晶ポリマー100重量部に対して5〜30重量部含有し、かつ、繊維状フィラー(C)と板状フィラー(A)および必要な場合にはフィラー(B)の合計との重量比[C/AまたはC/(A+B)]が0.05〜0.47である。
【0075】
繊維状フィラー(C)としては、例えば、ガラス繊維、ミルドガラス、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウムウイスカ、ホウ酸アルミニウムウイスカ、ウォラストナイトなどが挙げられるが、この中でも、強度に優れ入手容易である点からガラス繊維が好ましい。
【0076】
また、本発明の液晶ポリマー組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、上述の板状フィラー(A)、フィラー(B)および繊維状フィラー(C)以外のフィラー(以下、他の充填材ともいう)、例えば、粒子径が10μm未満または50μm以上である粒状の無機充填材をさらに含有してもよい。
【0077】
粒状の無機充填材としては、例えば、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、硫酸バリウム、酸化チタン、フッ化カルシウム、酸化マグネシウムなどが挙げられる。
【0078】
本発明の液晶ポリマー組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の添加剤を含有することができる。
他の添加剤としては、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩(ここで高級脂肪酸とは炭素原子数10〜25のものをいう)、ポリシロキサン、フッ素樹脂などの離型改良剤、カーボンブラック、染料、顔料などの着色剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤などが挙げられる。
【0079】
これらの他の添加剤の含有量は、液晶ポリマー100重量部に対して、0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部であるのがよい。これら他の添加剤の含有量が10重量部を超える場合には、成形加工性が低下したり、熱安定性や耐トラッキング破壊性能が悪くなる傾向がある。
【0080】
高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤などの外部滑剤効果を有するものについては、液晶ポリマー組成物を成形するに際して、予め、液晶ポリマー組成物のペレットの表面に付着せしめてもよい。
【0081】
また、本発明の液晶ポリマー組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに、他の樹脂成分を含有させてもよい。
【0082】
他の樹脂成分としては、例えばポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、およびその変性物、ならびにポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0083】
他の樹脂成分は、単独で、あるいは2種以上を組み合わせて含有することができる。他の樹脂成分の含有量は特に限定的ではなく、液晶ポリマー組成物の用途や目的に応じて適宜定めればよい。典型的には液晶ポリマー100重量部に対する他の樹脂の合計含有量が0.1〜100重量部、特に0.1〜80重量部となる範囲で添加される。
【0084】
板状フィラー(A)、フィラー(B)および繊維状フィラー(C)、ならびに他の充填材、他の添加剤、他の樹脂成分などは、液晶ポリマー中に添加され、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出機などを用いて、液晶ポリマーの結晶融解温度近傍から結晶融解温度+30℃の温度条件で溶融混練して液晶ポリマー組成物とすることができる。
【0085】
前記溶融混練において、板状フィラー(A)は、そのまま供されてもよいが、見掛け比重を大きくして操作性を高めるために、圧縮した充填材として供されてもよい。
【0086】
板状フィラー(A)を圧縮した充填材の見掛け比重(JIS−K5101)は、0.3〜0.45g/mlであることが好ましく、0.35〜0.40g/mlであることがより好ましい。
【0087】
板状フィラー(A)の圧縮は、例えば、スプレードライ法、圧縮押し出し法またはロールプレス加工などにより行うことができる。
上記の板状フィラー(A)を圧縮して得られる充填材の二次粒子の形状としては、顆粒状、球状またはフレーク状などが挙げられる。
【0088】
このようにして得られた本発明の液晶ポリマー組成物は、目的とする部品の形状により、射出成形、押出成形などの公知の成形方法により成形品とすることができる。
【0089】
本発明の液晶ポリマー組成物は、スイッチ、リレー、コネクター、チップ、光ピックアップ、インバータトランス、コイルボビン、センサー、アンテナおよび基板等の成形品の成形用材料として好ましく用いることができる。
【0090】
本発明の液晶ポリマー組成物は、これから構成される成形品についてASTM D3638−12に準拠した比較トラッキング指数(CTI)が250V以上、好ましくは275V以上となり、耐トラッキング破壊性能に優れるという利点を有する。
【0091】
本発明の液晶ポリマー組成物は、これから構成される成形品の成形時の溶融樹脂組成物が金型に充填される際の流れ方向、および、これに直交する方向について固化時の収縮率の比率が小さいという利点を有する。
具体的には、直角方向の成形収縮率(TD)を流動方向の成形収縮率(MD)で除することによる収縮率比(TD/MD)が、好ましくは1.0〜3.0、より好ましくは1.0〜2.5であり、成形収縮率の異方性が緩和された比較的等方的な成形品とすることができる。なお、収縮率比が1.0に近いほど、より等方的ということになる。
【0092】
本発明の液晶ポリマー組成物は、これから構成される成形品について、レーザーフラッシュ法で測定した成形時の溶融樹脂組成物が金型に充填される際の流れ方向の熱伝導率が、好ましくは1.8W/m・K以上、より好ましくは2.0W/m・K以上となり、優れた熱伝導率を有する。
【0093】
本発明の液晶ポリマー組成物は、液晶ポリマーの結晶融解温度+20℃(結晶融解温度が300℃超の場合)または結晶融解温度+40℃(結晶融解温度が300℃以下の場合)におけるキャピログラフによる溶融粘度(剪断速度1000sec−1)が、好ましくは40〜100Pa・s、より好ましくは45〜95Pa・sである。
【0094】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0095】
実施例中の溶融粘度、荷重たわみ温度、引張強度、曲げ強度及び曲げ弾性率、Izod衝撃強度、比較トラッキング指数、成形収縮率の異方性、熱伝導率および結晶融解温度の測定・評価は以下に記載の方法で行った。
【0096】
(1)溶融粘度
溶融粘度測定装置(東洋精機(株)製キャピログラフ1D)により、合成例の液晶ポリマーについては0.7mmφ×10mm、実施例1〜13および比較例1〜8の液晶ポリマー組成物については1.0mmφ×10mmのキャピラリーを用いて、剪断速度1000sec−1、350℃(LCP−3および実施例15については320℃)の条件下での溶融粘度をそれぞれ測定した。
【0097】
(2)荷重たわみ温度(DTUL)
射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000−110)を用いて、シリンダー設定温度350℃(実施例15については320℃)、金型温度70℃で、長さ127mm、幅12.7mm、厚さ3.2mmの短冊状試験片に成形し、これを用いてASTM D648に準拠し、荷重1.82MPa、昇温速度2℃/分で測定した。
【0098】
(3)引張強度
射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000−110)を用いて、シリンダー設定温度350℃(実施例15については320℃)、金型温度70℃で、ASTM4号ダンベル試験片を成形し、これを用いてASTM D638に準拠して測定した。
【0099】
(4)曲げ強度および曲げ弾性率
荷重たわみ温度の測定に用いた試験片と同じ試験片を用いて、ASTM D790に準拠して測定した。
【0100】
(5)Izod衝撃強度
荷重たわみ温度測定に用いた試験片と同じ試験片を用いて、試験片の中央を長さ方向と垂直に切断し、長さ63.5mm、幅12.7mm、厚さ3.2mmの短冊状試験片を得、ASTM D256に準拠して測定した。
【0101】
(6)比較トラッキング指数(CTI)
射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000−110)を用いて、シリンダー設定温度350℃(実施例15については320℃)、金型温度70℃で、50mmφ×3.2mm厚の円板型試験片を作製した。ASTM D3638−12に準拠して、0.1重量%塩化アンモニウム水溶液、白金電極を用い、試験片にトラッキングが生じる印加電圧(V:ボルト)を求め、この数値を比較トラッキング指数(V)とした。なお、比較トラッキング指数が高いほど、耐トラッキング破壊性能に優れることを示す。
【0102】
(7)成形収縮率の異方性
射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000−110)を用いて、シリンダー設定温度350℃(実施例15については320℃)、金型温度70℃にて、1辺がフィルムゲートの80mm×80mm×1mm厚みの平板試験片金型を用いて試験片を作製し、成形品の各辺の長さを工具顕微鏡で測定した。
この測定値と常温時の金型寸法との差を金型寸法で除することにより各辺の成形収縮率を求め、樹脂の流動方向の2辺についての平均値を流動方向の成形収縮率(MD)、樹脂の流動方向と直行する2辺についての平均値を直角方向の成形収縮率(TD)とした。
また、直角方向の成形収縮率(TD)を流動方向の成形収縮率(MD)で除することにより収縮率比(TD/MD)を求めた。
【0103】
(8)熱伝導率
射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000−110)を用いて、シリンダー設定温度350℃(実施例15については320℃)、金型温度70℃で、12.7mm×127mm×1mm厚みのバーフロー試験片(サイドゲート、ゲート口125mm×0.5mm)を作製し、これらを積層して10mm厚みとした。図1に示すように、この積層品から長軸方向に垂直の線[溶融樹脂組成物が金型に充填される際の流れ方向(MD)]をもってゲート側から切り出し、10mm×10mm×1mm厚みの平板を得た。
この平板の10mm×10mm面の表面にレーザー光吸収用スプレ(ファインケミカルジャパン(株)製、ブラックガードスプレーFC−153)を塗布したものを熱伝導率評価用サンプルとして、レーザーフラッシュ法により熱拡散率を測定した(Netzsch社製、XeフラッシュアナライザーLFA467HyperFlash)。
比熱は示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ株式会社製Exstar6000)、比重は電子比重計(ミラージュ貿易株式会社 SD−200L)により測定した。
熱伝導率は、熱拡散率と比熱と比重の積から求めた。
【0104】
(9)結晶融解温度
示差走査熱量計としてセイコーインスツルメンツ株式会社製Exstar6000を用い、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1より20〜50℃高い温度で10分間保持する。ついで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却し、その際に観測される発熱ピークのピークトップの温度を液晶ポリマーの結晶化温度(Tc)とし、さらに、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリマーの結晶融解温度(Tm)とした。
【0105】
以下、実施例および比較例において使用する液晶ポリマーの合成例を記した。合成例における化合物の略号は以下の通りである。
【0106】
[液晶ポリマー合成に用いた単量体]
POB:4−ヒドロキシ安息香酸
BON6:6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸
HQ:ハイドロキノン
BP:4,4’−ジヒドロキシビフェニル
TPA:テレフタル酸
NDA:2,6−ナフタレンジカルボン酸
【0107】
[合成例1(LCP−1)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB:323.2g(36モル%)、BON6:48.9g(4モル%)、BP:169.4g(14モル%)、HQ:114.5g(16モル%)およびTPA:323.9g(30モル%)を仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0108】
窒素ガス雰囲気下に室温〜145℃まで1時間かけて昇温し、145℃で30分保持した。次いで、副生する酢酸を留出させつつ350℃まで7時間かけて昇温した後、80分かけて5mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器から内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリエステル樹脂のペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られたペレットの結晶融解温度(Tm)は335℃であり、溶融粘度は20Pa・sであった。
【0109】
[合成例2(LCP−2)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB:641.9g(71.5モル%)、BON6:30.6g(2.5モル%)、HQ:93.0g(13モル%)およびNDA182.7g(13モル%)を仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0110】
窒素ガス雰囲気下に室温〜145℃まで1時間かけて昇温し、145℃で30分保持した。次いで、副生する酢酸を留出させつつ345℃まで7時間かけて昇温した後、80分かけて10mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器から内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリエステル樹脂のペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られたペレットの結晶融解温度(Tm)は321℃であり、溶融粘度は23Pa・sであった。
【0111】
[合成例3(LCP−3)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB:655.4g(73モル%)およびBON6:330.2g(27モル%)を仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.02倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0112】
窒素ガス雰囲気下に室温から145℃まで1時間で昇温し、145℃にて30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ320℃まで 時間かけて昇温した後、80分かけて10mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器から内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリエステル樹脂のペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られたペレットの結晶融解温度(Tm)は279℃であり、溶融粘度は21Pa・sであった。
【0113】
以下の実施例および比較例で使用した充填材を示す。
〈板状フィラー〉
タルク1:住友大阪セメント株式会社製、ファインタルク(粒子径4μm)
タルク2:富士タルク株式会社製、NK−64(粒子径19μm)
タルク3:日本タルク株式会社製、D−800(粒子径0.8μm)
マイカ:株式会社ヤマグチマイカ製、AB−25S(粒子径22μm)
〈繊維状フィラー〉
ガラス繊維:CPIC社製、ECS3010A(数平均繊維径10.5μm、数平均繊維長3mm)
〈粒状フィラー〉
CaF:住友大阪セメント株式会社製、フッ化カルシウム粒子(粒子径26μm)
【0114】
[実施例1〜9、比較例1〜5]
液晶ポリマーとしてLCP−1を用い、液晶ポリマー100重量部に対して、表1に記載の量となるようタルク、マイカとCaFを配合し、二軸押出機(株式会社日本製鋼所製、TEX−30α)にて350℃で溶融混練したものをペレット化し、液晶ポリマー組成物を調製した。
実施例および比較例の液晶ポリマー組成物について、溶融粘度、荷重撓み温度(DTUL)、引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、Izod衝撃強度、比較トラッキング指数、成形収縮率の異方性および熱伝導率を測定し、その結果を表1に示した。
【0115】
【表1】
【0116】
[実施例10〜18、比較例6〜9]
液晶ポリマーとしてLCP−1、LCP−2およびLCP−3を用い、液晶ポリマー100重量部に対して、表2に記載の量となるようタルク、マイカ、CaFおよびガラス繊維を配合し、二軸押出機(株式会社日本製鋼所製、TEX−30α)にて350℃(実施例15については320℃)で溶融混練したものをペレット化し、液晶ポリマー組成物を調製した。
同様に、実施例および比較例の液晶ポリマー組成物について、溶融粘度、荷重撓み温度(DTUL)、引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、Izod衝撃強度、比較トラッキング指数、成形収縮率の異方性および熱伝導率を測定し、その結果を表2に示した。
【0117】
【表2】
【0118】
表1に示されるように、本発明の液晶ポリマー組成物(実施例1〜9)はいずれにおいても、比較トラッキング指数が250V以上であり、良好な成形収縮率比および熱伝導率が得られ、ならびに適度な溶融粘度となり、耐トラッキング破壊性能、成形収縮率の異方性、熱伝導性および溶融粘度について優れたバランスを示すものであった。
【0119】
これに対し、比較例1、4、5のように、本発明の範囲から外れる場合は、比較トラッキング指数、成形収縮率の異方性もしくは熱伝導率の少なくとも一つが好ましくない結果となった。
比較例2は、比較トラッキング指数が350V、成形収縮率比が1.5であり、熱伝導率が2.8W/m・Kであるものの、溶融粘度が167Pa・sと著しく高く、Izod衝撃強度も6J/mと著しく低く、成形品として使用に適さないものであった。
比較例3は、比較トラッキング指数が300V、成形収縮率比が1.6、熱伝導率が2.4W/m・Kであるものの、引張強度が40Mpaおよび曲げ強度が48MPaと低く、Izod衝撃強度も8J/mと低いことから、成形品として使用に適さないものであった。
【0120】
また、表2に示されるように、本発明の液晶ポリマー組成物(実施例10〜18)ではいずれにおいても、耐トラッキング破壊性能、成形収縮率の異方性、熱伝導性および溶融粘度について優れたバランスを示すことに加えて、ガラス繊維を含むことにより良好な機械特性をも示すものであった。
【0121】
これに対し、比較例6〜8のように、本発明の範囲から外れる場合は、比較トラッキング指数、成形収縮率の異方性もしくは熱伝導率の少なくとも一つが好ましくない結果となった。
比較例9は、比較トラッキング指数が330V、成形収縮率比が2.5であり、熱伝導率が2.2W/m・Kであるものの、引張強度が45MPaおよび曲げ強度が71MPaであり、ガラス繊維を含有させた場合であっても成形品として使用に適さないものであった。
本発明の好ましい態様は以下を包含する。
〔1〕液晶ポリマー100重量部に対して、粒子径が1〜8μmである板状フィラー(A)を60〜150重量部含有し、比較トラッキング指数が250V以上である液晶ポリマー組成物。
〔2〕さらに、粒子径が10〜50μmであるフィラー(B)を含有し、液晶ポリマー100重量部に対して板状フィラー(A)とフィラー(B)の合計が60〜150重量部、かつ、板状フィラー(A)とフィラー(B)との重量比(B/A)が0.05〜1.0となる、〔1〕に記載の液晶ポリマー組成物。
〔3〕さらに、繊維状フィラー(C)を、液晶ポリマー100重量部に対して5〜30重量部含有し、かつ、繊維状フィラー(C)と板状フィラー(A)および必要な場合にはフィラー(B)の合計との重量比[C/AまたはC/(A+B)]が0.05〜0.47である、〔1〕または〔2〕に記載の液晶ポリマー組成物。
〔4〕成形収縮率比が1.0〜3.0である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
〔5〕成形時の溶融樹脂組成物の流れ方向における熱伝導率が1.8W/m・K以上である、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
〔6〕少なくとも板状フィラー(A)がタルクである、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
〔7〕繊維状フィラー(C)がガラス繊維である、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
〔8〕キャピラリーレオメーターで測定した溶融粘度が45〜100Pa・sである、〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
〔9〕液晶ポリマーが、式(I)および(II)で表される繰返し単位の一方または両方を含む、〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
【化1】
〔10〕液晶ポリマーが、式(I)〜(IV)で表される繰返し単位を含む、〔9〕に記載の液晶ポリマー組成物。
【化2】
[式中、ArおよびArはそれぞれ2価の芳香族基を表す。]
〔11〕ArおよびArが、互いに独立して、式(1)〜(4)で表される芳香族基からなる群から選択される少なくとも1種を含む、〔10〕に記載の液晶ポリマー組成物。
【化3】
〔12〕Arが式(4)で表される芳香族基であり、Arが式(1)で表される芳香族基である、〔11〕に記載の液晶ポリマー組成物。
〔13〕Arが式(1)で表される芳香族基であり、Arが式(1)および/または式(3)で表される芳香族基である、〔11〕に記載の液晶ポリマー組成物。
〔14〕〔1〕〜〔13〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物から構成される成形品。
〔15〕成形品が、スイッチ、リレー、コネクター、光ピックアップ、インバータトランス、コイルボビン、センサー、アンテナおよび基板からなる群から選択されるものである、〔14〕に記載の成形品。

図1